説明

物体の洗浄用の超音波アクチュエータ

本発明は、物体の洗浄用の超音波アクチュエータに関し、当該超音波アクチュエータは超音波用の伝播容積3、4、13を有し、当該伝播容積に1つ又は複数の超音波振動子5が配置されている。伝播容積3、4、13は、洗浄される物体1、12に音響結合する結合面を有する音響放出窓8と、放射された超音波のための1つ又は複数の反射面6、7とによって画定されている。超音波振動子5は、放射された超音波が、反射面6、7における1回又は複数回の反射の後に初めて、放出窓8を介して伝播容積3、4、13から出るように、伝播容積3、4、13に配置されている。反射面は、放出窓8において、強度ピークを伴わずに超音波エネルギーの事前設定可能な分散が生じるように設計されている。本発明の超音波アクチュエータによって、洗浄液をわずかに利用して物体を傷めない洗浄が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波用の伝播容積と、伝播容積内に超音波を放射する1つ又は複数の超音波振動子とを備える、物体の洗浄用の超音波アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
部品の洗浄は、多くの技術分野において重要な役割を担う。微細構造部品、例えばマイクロシステム技術の分野におけるエッチングされたウェハの洗浄は特に問題である。構造がさらに小さくなると、特に小さい粒子は部品の機能に対して非常に危険である。表面の近くに存在する粒子に対する当該表面の粘着力は、粒子の大きさが大きくなるにつれて高くなり、その結果、これらの粒子を表面から分離させることも非常に難しくなる。
【0003】
超音波洗浄は、産業用洗浄技術において、長い間一般的に使用されている方法である。粒子が大きい場合、表面の洗浄には100kHzまでの範囲の超音波周波数が利用されるが、粒子が非常に小さい場合、1MHz辺りの範囲の超音波周波数が必要である。この高い超音波周波数を用いる洗浄はまた、メガソニック洗浄という概念の下で既知である。
【0004】
部品を洗浄するための多くの技術的解決策は、いわゆる浸漬技術を利用し、この浸漬技術では、洗浄される部品は、超音波がその中に放射される液体媒体内に浸される。しかし、この技術は、一方では洗浄効果が不均一であり、他方では多量の洗浄液を必要とし、それに関連して、コストと、環境に適した廃物処理に関する問題とを伴う。浸漬技術に基づく洗浄システムの一例は、欧州公開特許第0546685号に記載されている。当該特許文献では、洗浄される部品は、洗浄液で満たされたタンク内に導入され、当該タンク内では、部品の下方に、管状に形成された超音波アクチュエータが配置されている。ここで、超音波アクチュエータは管状のハウジングを備え、当該ハウジングの内壁の上方領域には超音波振動子が配置されている。超音波は、1MHz辺りの周波数範囲内で、管状ハウジングを貫通してタンク内に存在する物体の方向に放射される。
【0005】
この浸漬技術の他に、超音波アクチュエータが洗浄される部品の非常に近くに配置される他の解決策も既知である。これらの実施態様はわずかな量の洗浄液しか必要としない。しかし、これらの実施態様において、所望の洗浄効果の他に、損傷を受けやすい構造体の破壊ももたらすおそれがある非常に高い強度が局所的に生じる場合がある。そのような技術の一例はPCT公開WO00/21692号に見てとることができ、当該特許文献では、面積が大きい超音波振動子がウェハに対して平行に且つウェハの非常に近くで利用され、当該ウェハはこの状態で洗浄される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
当該技術水準に基づいて、本発明の課題は、物体を洗浄するための、特に小さな構造を有する部品を洗浄するための超音波アクチュエータであって、わずかな洗浄液を利用して物体を傷めないように洗浄することを可能にする、超音波アクチュエータを提示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、特許請求項1による超音波アクチュエータによって解決される。この超音波アクチュエータの有利な実施の形態は、従属請求項の主題であるか、又は以下の記載及び実施例から見てとることができる。
【0008】
本発明の超音波アクチュエータは、超音波用の伝播容積と、動作時に超音波を伝播容積内に放射するために当該伝播容積に配置されている1つ又は複数の超音波振動子とを含む。伝播容積は、洗浄される物体に音響結合する結合面を有する音響放出窓と、放射された超音波のための1つ又は複数の反射面とによって画定されている。1つ又は複数の超音波振動子は、本発明の超音波アクチュエータにおいて、放射された超音波が、反射面における1回又は複数回の反射の後に初めて放出窓を介して伝播容積から出るように、伝播容積に配置されている。したがって、超音波振動子は、超音波を放出窓の方に真っ直ぐには方向付けず、1つ又は複数の反射面の方に方向付ける。1つ又は複数の反射面は、放出窓において、強度ピークを伴わずに超音波エネルギーの事前設定可能な分散が生じるように設計されている。この分散は、均一な分散、又は、例えば放出窓の中央領域において物体を集中的に洗浄するためにこの中央領域において最大値を有する別の事前設定可能な分散とすることができる。
【0009】
均一な分散は、状況によっては、平らな反射面における複数回の反射によって既に達成することができる。放出窓における音響エネルギーの所定の空間的又は平面的な分散のために、反射面はまた、曲げる、例えば凹形に形成することができる。好ましくは、反射面は、超音波アクチュエータの動作時に超音波を拡散反射するように設計されている。
【0010】
特に超音波を拡散反射するための反射面を有する超音波アクチュエータのこの実施の形態によって、利用される音響エネルギーの、放出窓における強度ピークを伴わない分散、例えば均一な分散が達成される。洗浄される物体は、結合面の領域に配置され、必要であれば或る媒体と結合される。この媒体は、処理液又は洗浄液とすることができる。そして、物体用の洗浄装置の構成要素とすることができる本発明の超音波アクチュエータは、物体の洗浄のために利用されるときに、洗浄液又は結合液を全く又はわずかしか必要としない。
【0011】
本発明の超音波アクチュエータを有する洗浄装置は、例えば、当該洗浄装置の実施の形態に関するその開示内容が本特許出願内に援用されるPCT公開WO2004/114372号に記載されているように形成することができる。そのような一実施の形態では、本発明の超音波アクチュエータは、例えばPCT公開WO2004/114372号の図1及び図2に見てとれるような、超音波素子を有する第2のプレートの代わりとなる。
【0012】
境界面を有する伝播容積は、異なる方法で形成することができる。本発明の超音波アクチュエータの一実施の形態では、伝播容積は、固体、例えば金属又はセラミックから形成される。ここで、反射面は、その固体の表面領域の表面構造化によって得ることができる。
【0013】
本発明の超音波アクチュエータの別の実施の形態では、伝播容積は気体又は液体に含まれる。ここで、反射面は、固体材料から成る適切に構造化又は形成された壁によって形成することができる。好ましくは、反射面のうちの少なくとも1つは、超音波アクチュエータの動作時に、超音波の対応する拡散反射をもたらす常に変化する反射条件を生じるように柔軟に設計されている。これは、例えば、放射される超音波によって自動的に動かされる振動板を利用することによって達成することができる。しかし、自明であるように、他の可変の又は液体の境界面も可能であり、当該境界面は、対応して変化する反射条件、及びひいては自ずと変化するエネルギー分散をもたらす。
【0014】
基本的に、本発明の超音波アクチュエータにおける反射面は、伝播容積の周囲に規則的にも、ランダムにも分散させて配置することができる。放出窓又はその結合面は、本発明の超音波アクチュエータにおいて、好ましくは、試験される物体の表面の形状に適合している。さらに、1つ又は複数の溝を超音波アクチュエータ内に形成することができ、当該溝は結合面に通じており、その結果、溝を介して、液体の結合媒体又は洗浄媒体を、結合面と物体表面との間に提供することができる。
【0015】
本発明の超音波アクチュエータは、有利には、1μm以下の寸法範囲内の小さな粒子を洗浄しなければならない小さな構造を有する部品の洗浄に使用することができる。この場合、500kHz以上の波長領域における超音波を放出する超音波振動子が利用される。しかし、自明であるように、本発明の超音波アクチュエータは、より大きい粒子で汚染されている物体を洗浄するためにも利用することができる。この場合、好ましくは、洗浄のために500kHz未満の超音波周波数が利用される。
【0016】
本発明の超音波アクチュエータは、以下において、特許請求の範囲によって規定される保護範囲を限定することなく、図面に関連する実施例に基づいて、再び簡潔に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1では、本発明の超音波アクチュエータの実施形態の第1の例が概略的に示されている。この例では、超音波アクチュエータは、超音波用の伝播容積を形成する金属体3から成る。
【0018】
この金属体は、例えばアルミニウムから成ることができる。洗浄される物体1が配置される前方領域において、金属体3は音響放出窓8を備え、当該窓の外側表面(本特許出願では結合面と呼ばれる)は、洗浄される物体の形状に適合している。図1の例では、洗浄される物体1は球であり、その結果、音響放出窓8の結合面は半球形状に形成されている。球と、音響放出窓8の結合面との間に、結合液2が提供される。音響結合のためのこの結合液は、外部から、又は、図1に大まかに示されているような、任意選択的に金属体3内に設けられる溝10を介して供給することができる。
【0019】
金属体3にはさらに、複数の超音波振動子5が、当該超音波振動子が超音波を放出窓8ではなく、裏面に形成されている、金属体3の反射面6に方向付けるように取り付けられている。この反射面6は、入射する超音波がこの反射面によって拡散して反射されるように、金属体3の裏側表面を構造化することによって形成されている。
【0020】
超音波振動子5は、この例では、高い周波数範囲(メガソニック)用の圧電アクチュエータとして形成されており、当該圧電アクチュエータは、必要な音響エネルギーを金属体3内に提供する。提供されたエネルギーは、金属体3内の反射面6及び他の境界面における反射によって分散し、音響伝導接触の生成又は洗浄液若しくは結合液2によって放出窓8の領域においてのみ出ることができ、洗浄される物体1に衝突することができる。拡散反射によって、放出窓の領域におけるエネルギーの均一な分散、及びひいては物体1の表面を傷めず且つ均一な洗浄が達成される。金属体3は、この例ではさらに、平らな外面を有する発泡プラスチック材料11内に埋め込まれており、それによって、金属体3の取り扱いが容易になる。
【0021】
図2は、本発明による超音波アクチュエータのさらなる一例を示し、この例では、立方物体1が洗浄されるように意図されている。ここでもまた、音響放出窓8の結合面は、物体1の表面の形状に適合している。この例では、伝播容積は、気体4によって満たされており、前方領域においては放出窓8によって、後方領域においては柔軟な振動板7によって画定されている。残りの境界壁9はプラスチック材料から成り、当該プラスチック材料には超音波振動子5も取り付けられている。この例では、反射面は振動板7によって形成され、当該振動板は、超音波の放射によって動かされ、ひいては絶えず動くことによって入射する超音波の拡散反射を生じる。したがって、そのような一実施形態においても、放射された音響エネルギーは、拡散反射によってほぼ均一に分散され、その結果、放出窓8において強度ピークはもはや生じない。
【0022】
図3に大まかに示されているように、超音波アクチュエータはまた、有利には、円板状の対象物を洗浄するのに利用することができる。この場合、音響放出窓8の結合面は、円板状の対象物12に適合するために平らに実施されている。この例においてもまた、洗浄される対象物12と、放出窓8の結合面との間に結合液2が導入され、当該結合液は、例えば洗浄液として追加の洗浄機能も引き受けることができる。結合液2は、反射面を有する伝播容積13内に形成されている溝10を介して供給される。この図では、伝播容積13に配置されている超音波振動子5も大まかに示されている。
【0023】
図4は、超音波アクチュエータ16を有する洗浄装置の一例を非常に概略的に示している。この装置は、洗浄される円板状の対象物12、たとえばウェハ用の保持器14と、この保持器14用の回転駆動器15とを備える。ここで、保持器14は、対応する把持要素(図示せず)を有するように形成されている。この例では、保持器14に対向する超音波アクチュエータ16が図3に従って形成されている。この装置は、洗浄中に、洗浄される対象物12に対して回転することができる。
【0024】
最後に、図5は、例えば図4による装置においても利用できるような超音波アクチュエータ16又は伝播容積を形成する本体の外側形状の一例を透視図によって概略的に示す。この多面体の本体は第1の面17と第2の面18とを有し、これらの面は互いに対して平行である。また、この本体は多数の側面19を有し、当該側面はそれぞれ、第1の面17に対して鋭角を形成する。超音波発振器は、例えば角柱状の基底部(Prismenstumpf: prism stump)とすることができる多面体の本体の側面19に音響的に結合されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の超音波アクチュエータの一実施形態の第1の例を概略的に示す図である。
【図2】本発明の超音波アクチュエータの一実施形態の第2の例を概略的に示す図である。
【図3】本発明の超音波アクチュエータの一実施形態のさらなる一例を概略的に示す図である。
【図4】超音波アクチュエータを有する洗浄装置の一例を非常に概略的に示す図である。
【図5】超音波アクチュエータの外側形状の一例を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 物体
2 結合液
3 金属体
4 気体
5 超音波振動子
6 反射面
7 振動板
8 放出窓
9 壁
10 溝
11 発泡プラスチック
12 円板状の対象物
13 伝播容積
14 保持器
15 回転駆動器
16 超音波アクチュエータ
17 第1の面
18 第2の面
19 側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の洗浄用の超音波アクチュエータであって、
洗浄される物体(1、12)に音響結合する結合面を有する音響放出窓(8)と、放射された超音波用の1つ又は複数の反射面(6、7)とによって画定されている、超音波用の伝播容積(3、4、13)と、
1つ又は複数の超音波振動子(5)であって、前記放射された超音波が、前記反射面(6、7)における1回又は複数回の反射の後に初めて前記放出窓(8)を介して前記伝播容積(3、4、13)から出るように、超音波の放射用に前記伝播容積(3、4、13)に配置されている、超音波振動子と、
を備え、
1つ又は複数の前記反射面(6、7)は、前記放出窓(8)において、強度ピークを伴わずに超音波エネルギーの事前設定可能な分散が生じるように設計されている、超音波アクチュエータ。
【請求項2】
1つ又は複数の前記反射面(6、7)は、前記超音波の拡散反射用に設計されていることを特徴とする、請求項1に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項3】
前記伝播容積(3、4、13)は固体によって形成されており、該固体によって、拡散反射を有する反射面を生成するように1つ又は複数の表面領域が構造化されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項4】
前記伝播容積(3、4、13)は液体又は気体(4)に含まれることを特徴とする、請求項1又は2に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項5】
前記反射面(6、7)のうちの少なくとも1つは、前記超音波アクチュエータの動作時に、動くことによって常に変化する反射条件を生じるように、柔軟に設計されていることを特徴とする、請求項4に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項6】
前記少なくとも1つの反射面(6、7)は振動板であることを特徴とする、請求項5に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項7】
前記放出窓(8)の前記結合面には、液体の結合媒体(2)の供給用の少なくとも1つの溝(10)が通じていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項8】
前記超音波振動子(5)は、500kHz以上の範囲内の超音波を生成するように設計されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の超音波アクチュエータ。
【請求項9】
請求項1〜8のうちの1つ又は複数に記載の、物体(1、12)の洗浄用の超音波アクチュエータの使用であって、前記結合面は前記物体(1、12)の形状に適合しており、該物体(1、12)と該結合面との間に、液体の洗浄媒体及び/又は結合媒体(2)の薄い膜が提供される、方法。
【請求項10】
円板状の対象物(12)を洗浄する装置であって、請求項1〜8のいずれか一項に記載の超音波アクチュエータ(16)を含む、装置。
【請求項11】
前記円板状の対象物(12)用の保持器(14)と、該保持器(14)又は前記超音波アクチュエータ(16)に接続されている回転駆動器(15)とを備え、それによって、洗浄中に、前記円板状の対象物(12)と、前記超音波アクチュエータ(16)との間の回転相対移動をもたらす、請求項10に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−526637(P2009−526637A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554589(P2008−554589)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【国際出願番号】PCT/DE2007/000243
【国際公開番号】WO2007/093153
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(591037214)フラウンホッファー−ゲゼルシャフト ツァ フェルダールング デァ アンゲヴァンテン フォアシュンク エー.ファオ (259)
【Fターム(参考)】