説明

現在地測位装置及び方法

【課題】ナビセンサ14(GPSセンサ)による現在地測位不調期間では、Gセンサ15の出力に基づき現在地を測位するポータブルナビゲーション装置10において、現在地の精度を改善する。
【解決手段】ナビセンサ14の検出信号をカルマンフィルタにより処理して、該検出信号中の白色性ノイズを除去して、最適推定加速度を抽出する。最適推定加速度に基づき、移動量を算出する。ナビセンサ14による測位正常期間の所定の現在地を始点に設定し、該始点からの移動量に基づき現在地を測位する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS電波に基づく現在地測位を補間する現在地測位装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、GPS信号受信部の他に、加速度センサ、方位センサ及び角速度センサを装備する携帯電話を開示する(特許文献1の図1)。該携帯電話では、GPSによる現在地測位が不能状態になっている期間では、加速度センサ等の出力に基づき現在地を測位するようになっている(特許文献1の図6のフローチャートの45→46→47)。
【特許文献1】特開2004−233058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
後述の図2において説明するように、加速度センサの測定値には、車両振動路面走行振動に起因する多大の白色性ノイズが含まれている。白色性ノイズは、ほぼ全周波数範囲にわたって分布しているので、ローパスフィルタやハイパスフィルタを使っても、除去することは困難である。特許文献1の現在地測位装置では、加速度センサの出力を時間で2回、積分して、移動距離を得ることになっているが、加速度センサの測定値に含まれる白色性ノイズのために、精確な移動距離の算出、したがって、精確な現在地の測位は困難である。
【0004】
本発明の目的は、加速度センサの出力に基づき現在地を測位する場合に、測位した現在地の精度を改善する現在地測位装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、加速度センサの出力をカルマンフィルタにより処理して、加速度センサの測定信号中の白色性ノイズを除去する。そして、GPS電波による現在地測位が不良である期間では、カルマンフィルタが出力する最適推定加速度に基づき移動量を算出し、それに基づき現在地を測位する。
【0006】
本発明の現在地測位装置は次の構成要素を備えている。
GPS電波に基づき現在地を測位する第1の現在地測位手段、
加速度を測定する加速度センサ、
加速度センサの測定信号から白色性ノイズを除去した最適推定加速度を算出するカルマンフィルタ、
最適推定加速度に基づき移動量を算出する移動量算出手段、
第1の現在地測位手段が測位した現在地が適正か否かを判定する判定手段、
判定手段の判定が否である期間では、判定手段の判定が正であった期間に第1の現在地測位手段の測位した所定の現在地を始点として該始点からの移動量に基づき現在地を測位する第2の現在地測位手段。
【0007】
本発明の現在地測位方法は次のステップを備えている。
GPS電波に基づき現在地を測位するステップ、
加速度センサの測定信号から白色性ノイズを除去した最適推定加速度をカルマンフィルタにより算出するステップ、
最適推定加速度に基づき移動量を算出するステップ、
GPS電波に基づき測位した現在地が適正か否かの判定を実施するステップ、
判定が否である期間では、判定が正であった期間にGPS電波に基づき測位した所定の現在地を始点として該始点からの移動量に基づき現在地を測位するステップ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加速度センサの出力をカルマンフィルタにより処理して抽出した最適推定加速度に基づき移動量を算出し、該移動量に基づき現在地を測位するので、GPS電波による現在地測位が困難な期間における現在地の測位精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1はポータブルナビゲーション装置10のブロック図である。ポータブルナビゲーション装置10は、その基本機能としての地図表示、現在地表示及び経路案内等のナビ機能を有し、該ナビ機能を実現するための要素として、演算装置11、表示・入力部12、記憶装置13、ナビセンサ14、Gセンサ15、地図データ保持部16及び電源部17を具備しており、ユーザにより携帯される。
【0010】
演算装置11は、表示・入力部12からユーザ指示の情報を受けるとともに、画像データを表示・入力部12へ送る。演算装置11は、また、ナビセンサ14及びGセンサ15からの入力信号に基づき現在地の測位を実施する。表示・入力部12は、ポータブルナビゲーション装置10のケースの前面に配備され、ユーザが押下する入力部としての複数のキーと、ユーザへの各種情報を表示する表示部としてのLCDとを備える。
【0011】
記憶装置13は、演算装置11において処理するプログラムを記憶するとともに、プログラム実行時には算出データを一時保存する。ナビセンサ14は、GPS電波を受信するものであり、GPSセンサとも呼ばれる。Gセンサ15はポータブルナビゲーション装置10の加速度を検出する。
【0012】
地図データ保持部16は、地図データと地点の検索時に必要な位置データとを保持する。演算装置11は、地図データ保持部16のデータを、地図描画や経路探索等の算出に利用する。電源部17は、適宜充電可能なバッテリ又は交換可能な乾電池から成り、ポータブルナビゲーション装置10の各素子へ給電する。
【0013】
演算装置11においてプログラムで実行するカルマンフィルタ処理及び学習について、図2〜図9を参照して説明する。なお、図2〜図7において、加速度Accはポータブルナビゲーション装置10を実験車両に持ち込んだときのGセンサ15の出力であり、該実験車両の実験走行は、時刻=0では停止状態にあり、その後、所定の車速まで加速し、該車速を維持し、最後に減速して、停止するものになっている。
【0014】
図2はGセンサ15の出力の時間変化例を示すグラフである。Gセンサ15の測定値には、車速の変化に係る加速度以外に、自車振動や路面走行振動等に起因する加速度が多量に含まれている。Gセンサ15の出力から精確な移動距離を得るためには、それら振動等を除去する必要がある。これらの振動は、周波数全般にわたって分布する白色性ノイズとなっているので、特定の周波数伝達関数フィルタを使って、所定の信号成分を抽出することによる除去は困難である。
【0015】
そこで、近似的な線形代数を逐次処理として使用することにより、白色性ノイズの除去を試みる。この算出としては、環境変数に対して統計処理的に解析できるカルマンフィルタが優れている。周知のように、カルマンフィルタは次の特徴を有している。
【0016】
(a)信号を生成するシステムの動特性
(b)雑音の統計的性質
(c)初期値に関する先験情報及び時々刻々与えられる観測データ を用いて確率論的に最適なシステムの状態推定値の算出
【0017】
図3はGセンサ15の出力と該出力をカルマンフィルタにより処理して得た加速度の推定値とを重ね合わせたグラフである。図3はモノクロの図示のために、見え難いが、Gセンサ15の出力波形のほぼ中心をカルマンフィルタの出力(=最適推定加速度)のグラフ線が通っている。最適推定加速度は、Gセンサ15の出力から白色性ノイズを十分に除去したものとなる。カルマンフィルタの処理については、図8及び図9を参照して、後述する。
【0018】
図4はGセンサ15の出力と車速パルスから算出した車速Velとを重ね合わせたグラフ、図5は図4のグラフにさらに加速度センサの出力(=最適推定加速度)を重ね合わせたグラフである。ポータブルナビゲーション装置10は、車速センサを装備しておらず、また、車速センサを利用することもない。図4及び図5の車速Velの基にしている車速パルスは、ポータブルナビゲーション装置10が持ち込まれた実験車両に常備されている車速センサの出力を利用している。
【0019】
車速Velの時間微分は加速度、すなわち最適推定加速度の出力と一致するはずであるが、図4及び図5では、実験車両の実験走行における初期(停止状態からの加速期間)と終期(停止状態への減速期間)とにおいて、車速Velの時間微分と最適推定加速度との不一致が目立つ。
【0020】
これに対処するため、停止状態からの加速期間及び停止状態への減速期間は、現在地に対して学習を行うことにする。ポータブルナビゲーション装置10には、車速センサは装備されていないので、ポータブルナビゲーション装置10における実際の学習では、車速センサの出力の代わりに、ナビセンサ14から検出した現在地の時間変化から車速を検出することになる。これにより、停止状態からの加速期間と停止状態への減速期間における現実の車速と最適推定加速度との対応関係が判明する。判明した対応関係は、環境変数として適宜読み出し可能に記憶装置13に保管する。
【0021】
図6は停止状態からの加速期間及び停止状態への減速期間における車速を学習による対応関係に基づき最適推定加速度から算出したグラフ(黒丸の系列)を図5に重ね合わせたグラフである。学習結果に基づき最適推定加速度から算出した車速(黒丸の系列)は、車速パルスに基づき算出した車速と一致性が高まる。
【0022】
図7は学習を加味してカルマンフィルタの出力に基づき算出した走行距離のグラフを図6に重ね合わせたグラフである。図7のグラフにおける走行距離は、停止状態からの加速期間及び停止状態への減速期間では、カルマンフィルタの出力(=最適推定加速度)をそのまま積分した車速ではなく、学習した最適推定加速度−車速の対応関係に基づき最適推定加速度から算出した車速を採用して、該採用した車速に基づき算出されている。また、図7のグラフにおけるその他の期間の走行距離は、カルマンフィルタの出力(=最適推定加速度)をそのまま積分して算出した車速を採用し、該採用した車速に基づき算出されている。こうして、各期間の車速に基づき走行距離を算出すると、図7の走行距離のグラフのように、現実の走行距離に近い走行距離を最適推定加速度から算出することができる。
【0023】
ポータブルナビゲーション装置10は、ナビセンサ14がGPS電波を正常に受信して、該GPS電波に基づく現在地測位が適正である期間では、該GPS電波に基づいて測位した現在地をユーザに現在地として提示する。
【0024】
これに対して、GPS電波が弱かったり、3個以上のGPS衛星からのGPS電波を確保することができなかったりして、GPS電波による現在地測位が困難な期間があり、該期間では、GPS電波に基づく現在地測位が不適正になる。ポータブルナビゲーション装置10は、該不適正期間では、最後に適正と判断した現在地を始点とし、該始点からの、カルマンフィルタの出力した最適推定加速度から求めた移動量に基づき現在地を算出する。
【0025】
さらに、ポータブルナビゲーション装置10がユーザにより車両に持ち込まれて、不適正期間中の、停止状態からの加速期間と停止状態への減速期間とでは、ポータブルナビゲーション装置10は、環境変数として保管している学習データに基づき、カルマンフィルタの出力としての最適推定加速度からそれに対応する車速を求め、さらに、該車速に基づき移動距離を算出し、最後に現在地を算出する。
【0026】
図8はカルマンフィルタで使用する各種方程式を示している。図9は図8の各種方程式において示したカルマンフィルタの数式に現れる行列の意味と値を示している。カルマンフィルタにおけるシステム雑音・観測雑音について説明する。観測誤差とはセンサに含まれる誤差である。システム雑音とは、計算丸め誤差やモデル誤差などシステム全体の中で観測誤差に含まれないものを指す。これらは厳密にすべて実在する誤差であるはずなので、事前に調べ、適用すればよい。しかしながら、現実的に満足のいくかたちで誤差を得ることは困難な場合が多く、例えば、適応フィルタを用いてシステム同定という手法から算出させてもよい。
【0027】
カルマンフィルタの処理の具体化例を説明する。例えば次の(1)式を想定する。
【0028】
k=Σi=1ni(k)exp(jωik)+vk・・・(1)。ただし、k=0,1,2,・・・である。
【0029】
k、vk及びai(k)は、それぞれ時刻tk=kΔT(ΔTはサンプリング間隔)における観測信号、観測雑音及び時変成分であり、それぞれ複素数で定義される。ωiは時変成分ai(k)の角周波数であり、j(j2=−1)は虚数単位とする。また、vkを平均値ゼロ、分散σv2の定常な複素ガウス白色雑音とする。
【0030】
Gセンサ15の出力は、A/D変換器(図示せず)によりデジタル信号へ変換され、検出信号として演算装置11へ供給される。演算装置11はカルマンフィルタの処理を実行できるようになっている。演算装置11でプログラムにより実行されるカルマンフィルタでは、検出信号を観測値ykとして設定するとともに、観測値ykが、(1)式で表されるように、任意に変化する指定数n個(nは任意の整数)の時変成分である複素振幅ai(k)と観測雑音vkとの和で表される場合を考え、観測値ykから各周波数成分ωiの複素振幅ai(k)を推定するカルマンフィルタ処理を実行する。そして、各周波数成分ωiの複素振幅ai(k)に基づいて(1)式の演算を行って、最適推定加速度を算出し、該最適推定加速度を時間で2回、積分して走行距離を求める。
【0031】
カルマンフィルタ処理では、観測値ykから各周波数成分ωiの複素振幅ai(k)を推定することにより、移動量算出手段34へ供給する信号中の白色性ノイズを除去することができる。
【0032】
カルマンフィルタを用いて、各周波数成分ωiの複素振幅ai(k)を推定する方法について説明する。Gセンサ15の出力信号が前述したように(1)で表される場合に、周波数ωiは検出周波数を表している。カルマンフィルタにより上記の時変スペクトルを推定するに当たり、時変成分ai(k)の時間変化を次の(2)式のように線形近似する。
【0033】
{ai(k+1)−ai(k)}/ΔT={ai(k)−ai(k−1)}/ΔT+wi(k)’・・・(2)
【0034】
ただし、wi(k)’はwi(k)の時間微分を表している。時刻tk-1のときの時変成分ai(k)の変化の傾きと、時刻tkのときの傾きはほぼ等しいものとし、wi(k)′をその時の近似誤差とする。このとき、{ai(k)}は次の(3)式の2次のARモデルで表される。
【0035】
i(k+1)=2ai(k)−ai(k−1)+wi(k)・・・(3)。ただし、 wi(k)=ΔTwi(k)′である。
【0036】
(3)式を利用することにより、(1)式は次の(4)式により表すことができる。
【0037】
i(k)=2ai(k−1)−ai(k−2)+wi(k)・・・(4)
【0038】
ここで、{wi(k)}を平均0、分散平均値0、分散σw2の定常な複素ガウス白色雑音とし、{vk}と独立であると仮定する。次に、{wi(k)}をシステム雑音として取扱い、(4)式を変形することにより観測信号{yk}は次のような状態方程式(5)と観測方程式(6)からなる基本システムで表すことができる。
【0039】
k+1=Fxk+Awk ・・・(5)
【0040】
k+1=Hkk+vk・・・(6)。ただし、 k=0,1,2,・・・である。
【0041】
(5)及び(6)式は図8の状態方程式及び観測方程式に対応している。以降は周知の解法により、Gセンサ15の検出信号(観測値)ykから、各周波数成分ωiの複素振幅ai(k)を推定することができる。そして、推定した複素振幅ai(k)を(1)式に代入することにより、最適推定加速度を算出することができ、この最適推定加速度を時間で2回積分して、走行距離を求める。
【0042】
図10は現在地測位装置30のブロック図である。現在地測位装置30の一例は図1のポータブルナビゲーション装置10である。現在地測位装置30は、ポータブル式に限定されず、カーナビゲーション装置として、車両のコンソールに取り付けられるものであってもよい。現在地測位装置30が、ポータブルナビゲーション装置10のようなポータブル式の場合には、ユーザにより適宜、車両に持ち込まれて、使用される。現在地測位装置30は、さらに、ナビゲーション装置単体としてではなく、携帯電話、PDA及びノート型PCに内蔵されるものであってもよい。
【0043】
現在地測位装置30は、第1の現在地測位手段31、加速度センサ32、カルマンフィルタ33、移動量算出手段34、判定手段35及び第2の現在地測位手段36を備えている。現在地測位装置30は、好ましくは、学習手段40を備える。カルマンフィルタ33、移動量算出手段34、判定手段35、第2の現在地測位手段36及び学習手段40の各機能は、ポータブルナビゲーション装置10では、演算装置11においてプログラムにより実行される。
【0044】
第1の現在地測位手段31は、GPS電波に基づき現在地を測位する。加速度センサ32は、加速度を測定する。カルマンフィルタ33は、加速度センサ32の測定信号から白色性ノイズを除去した最適推定加速度を算出する。移動量算出手段34は、最適推定加速度に基づき移動量を算出する。
【0045】
判定手段35は、第1の現在地測位手段31が測位した現在地が適正か否かを判定する。第2の現在地測位手段36は、判定手段35の判定が否である期間では、判定手段35の判定が正であった期間に第1の現在地測位手段31の測位した所定の現在地を始点として該始点からの移動量に基づき現在地を測位する。
【0046】
第1の現在地測位手段31の具体例はGセンサ15(図1)である。現在地測位装置30が装備する加速度センサ32の個数は1個に限定されない。現在地測位装置30が、ユーザに携帯されるポータブル型の場合には、現在地測位装置30は、典型的には、3軸方向へ1個ずつの計3個の加速度センサ32を装備する。現在地測位装置30がカーナビゲーション装置である場合には、現在地測位装置30は、典型的には、水平面内の2軸方向へ1個ずつの計2個の加速度センサ32を装備する。
【0047】
加速度センサ32が3軸方向へ各1個ずつある場合には、各時点での移動方向を検出することができるとともに、鉛直方向の移動量も検出することができる。現在地測位装置30は、方位センサ(地磁気センサ)を装備すれば、絶対的な移動方向(例えば北方向に対する移動方向の角度)を検知することができる。移動量算出手段34が算出する移動量は、好ましくは、直交3軸の各軸方向の各移動量又は平面内の直交2軸の各軸方向の各移動量を算出し、第2の現在地測位手段36は、各軸方向の各移動量に基づき現在地を算出する。
【0048】
カルマンフィルタ33は、ハードウェアにより実現されても、プログラムにより実現されてもよい。カルマンフィルタ33が、加速度センサ32から供給される加速度信号から最適推定加速度を算出する具体的処理の一例は(1)〜(6)式に基づき説明したとおりである。
【0049】
判定手段35は、第1の現在地測位手段31が測位した現在地が適正か否かについて、具体的には、(a)最低3個(3個は水平方向の現在地測位の場合である。)のGPS衛星からGPS電波を受信できるているか否か、(b)GPS電波に基づき算出した現在地を地図データと照合すると、現在地が海上や湖上になっている(ただし、ユーザが船上にいる場合を除く。)か否か、又は(c)一定時間間隔でGPS電波に基づき現在地を算出しているものとして、今回算出した現在地が前回算出した現在地に対して常識内の距離に留まっているか否か等により判定する。
【0050】
GPS衛星からのGPS電波を受信できない場合とは、例えば、現在地測位装置30が、トンネルの中、地下街、建物内に存在する時である。第1の現在地測位手段31が測位した現在地が適正である期間では、典型的には、該適正な現在地を正式の現在地として採用するが、該期間においても、移動量に基づき算出した現在地を正式の現在地として採用してもよいとする。
【0051】
第2の現在地測位手段36において始点として採用する所定の現在地とは、典型的には、判定手段35の最後の正判定期間における最後の正判定の基になった現在地である。
【0052】
好ましくは、現在地測位装置30は学習手段40を備えている。学習手段40は、判定手段35の判定が正である期間でかつ停止状態からの車両加速期間に、最適推定加速度に基づく車速と第1の現在地測位手段31の測位した現在地の変化に基づく車速との対応関係を学習する。これに対して、移動量算出手段34は、判定手段35の判定が否である期間でかつ停止状態からの車両加速期間には、学習に基づく対応関係に基づき最適推定加速度から移動量を算出する。
【0053】
学習手段40は、また、判定手段35の判定が正である期間でかつ停止状態への車両減速期間に、最適推定加速度に基づく車速と第1の現在地測位手段31の測位した現在地の変化に基づく車速との対応関係を学習する。これに対して、移動量算出手段34は、判定手段35の判定が否である期間でかつ停止状態への車両減速期間には、学習に基づく対応関係に基づき最適推定加速度から移動量を算出する。
【0054】
学習手段40による車両加速期間及び車両停止期間の学習形態の具体例は、ポータブルナビゲーション装置10に関して、図4〜図7を参照して説明したとおりである。
【0055】
こうして、現在地測位装置30では、加速度センサ32の出力に含まれる白色性ノイズをカルマンフィルタ33により除去して、精確な移動量を算出し、GPS電波に基づく現在地測位不能期間における現在地測位の精度を高めることができる。
【0056】
図11は現在地測位方法50のフローチャートである。現在地測位方法50は例えば一定時間間隔ごとに実行される。なお、S51は、S54より前であれば、どこでもよく、例えばS53とS54との間に配置することができる。また、S54は、S51の後であれば、どこでもよく、例えば、S52の前に配置されてもよい。
【0057】
S51では、GPS電波に基づき現在地を測位する。S52では、加速度センサ32の測定信号から白色性ノイズを除去した最適推定加速度をカルマンフィルタにより算出する。S53では、最適推定加速度に基づき移動量を算出する。
【0058】
S54では、GPS電波に基づき測位した現在地が適正か否かを判定し、判定が正であれば、S55へ進み、否であれば、S56へ進む。S55では、S51で測位した所定の現在地を始点に設定して、現在地測位方法50を終了する。S56では、始点からのS53の移動量に基づき現在地を測位して、現在地測位方法50を終了する。
【0059】
S51,S52,S53,S54の処理はそれぞれ現在地測位装置30(図10)の第1の現在地測位手段31、カルマンフィルタ33、移動量算出手段34及び判定手段35の機能にそれぞれ対応している。したがって、第1の現在地測位手段31〜判定手段35の機能について述べた具体的態様はそれぞれS51〜S54の処理についての具体的態様としても適用可能である。また、S55,S56の処理は現在地測位装置30の第2の現在地測位手段36の機能に対応している。したがって、第2の現在地測位手段36の機能について述べた具体的態様はS55,S56の処理についての具体的態様としても適用可能である。
【0060】
現在地測位方法50には、現在地測位装置30の学習手段40に対応するステップ又はルーチンを追加することができる。該ステップ又は該ルーチンを追加した場合には、S56では、停止状態からの加速期間及び/又は停止状態への車両減速期間には、学習に基づく対応関係に基づき最適推定加速度から移動量を算出することになる。
【0061】
本発明を最良の形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で最良の形態における各構成要素を変形して具体化できる。また、最良の形態に開示されている複数の構成要素の便宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。本明細書が開示する発明には、最良の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除したり、異なる最良の形態に係る構成要素同士を組み合わせたりしたものも含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】ポータブルナビゲーション装置のブロック図である。
【図2】Gセンサの出力の時間変化例を示すグラフである。
【図3】Gセンサの出力と該出力をカルマンフィルタにより処理して得た加速度の推定値とを重ね合わせたグラフである。
【図4】Gセンサの出力と車速パルスから算出した車速とを重ね合わせたグラフである。
【図5】図4のグラフにさらに加速度センサの出力を重ね合わせたグラフである。
【0063】
【図6】停止状態からの加速期間及び停止状態への減速期間における車速を学習による対応関係に基づき最適推定加速度から算出したグラフを図5に重ね合わせたグラフである。
【図7】学習を加味してカルマンフィルタの出力に基づき算出した走行距離のグラフを図6に重ね合わせたグラフである。
【図8】カルマンフィルタで使用する各種方程式を示す図である。
【図9】図8の各種方程式において示したカルマンフィルタの数式に現れる行列の意味と値を示す図である。
【図10】現在地測位装置のブロック図である。
【図11】現在地測位方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
30:現在地測位装置、31:第1の現在地測位手段、32:加速度センサ、33:カルマンフィルタ、34:移動量算出手段、35:判定手段、36:第2の現在地測位手段、40:学習手段、50:現在地測位方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS電波に基づき現在地を測位する第1の現在地測位手段、
加速度を測定する加速度センサ、
加速度センサの測定信号から白色性ノイズを除去した最適推定加速度を算出するカルマンフィルタ、
最適推定加速度に基づき移動量を算出する移動量算出手段、
前記第1の現在地測位手段が測位した現在地が適正か否かを判定する判定手段、
前記判定手段の判定が否である期間では、前記判定手段の判定が正であった期間に前記第1の現在地測位手段の測位した所定の現在地を始点として該始点からの前記移動量に基づき現在地を測位する第2の現在地測位手段、
を備えることを特徴とする現在地測位装置。
【請求項2】
前記判定手段の判定が正である期間でかつ停止状態からの車両加速期間に、前記最適推定加速度に基づく車速と前記第1の現在地測位手段の測位した現在地の変化に基づく車速との対応関係を学習する学習手段、
前記判定手段の判定が否である期間でかつ停止状態からの車両加速期間には、学習に基づく対応関係に基づき最適推定加速度から移動量を算出する前記移動量算出手段、
を備えることを特徴とする請求項1記載の現在地測位装置。
【請求項3】
前記判定手段の判定が正である期間でかつ停止状態への車両減速期間に、前記最適推定加速度に基づく車速と前記第1の現在地測位手段の測位した現在地の変化に基づく車速との対応関係を学習する学習手段、
前記判定手段の判定が否である期間でかつ停止状態への車両減速期間には、学習に基づく対応関係に基づき最適推定加速度から移動量を算出する前記移動量算出手段、
を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の現在地測位装置。
【請求項4】
GPS電波に基づき現在地を測位するステップ、
加速度センサの測定信号から白色性ノイズを除去した最適推定加速度をカルマンフィルタにより算出するステップ、
最適推定加速度に基づき移動量を算出するステップ、
GPS電波に基づき測位した現在地が適正か否かの判定を実施するステップ、
前記判定が否である期間では、前記判定が正であった期間にGPS電波に基づき測位した所定の現在地を始点として該始点からの前記移動量に基づき現在地を測位するステップ、
を備えることを特徴とする現在地測位方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−224249(P2008−224249A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59149(P2007−59149)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】