説明

生分解性成形体及びその成形体を用いた容器

【課題】耐熱性の改善された生分解性成形体及びその成形体を用いた容器を提案する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂を射出成形することによって得られた成形体において、該成形体を、4モル%未満のD-乳酸を含むポリ-L-乳酸からなるもので構成する。そして、成形体の少なくとも一部分に、示差走査熱量計(DSC)による昇温チャートにおいて、結晶化熱量/融解熱量(│ΔHc│/ΔHm)が0.7以下となる結晶化領域を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然環境に存在するバクテリア等によって崩壊、消滅させることができる生分解性成形体及びその成形体を用いて製造された容器に関するものであり、とくに、該生分解性成形体、該成形体を用いて製造された容器の未延伸部における耐熱性を実用に耐え得る程度に改善しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製の容器は、燃えないゴミとして処理されており、廃棄時における労力の軽減を図る観点から近年ではバクテリア等の力を借りてそれそのものを自然に崩壊、消滅させることができる生分解性容器の開発が試みられており、その具体的な樹脂としては比較的容易に入手が可能なポリ乳酸(でんぷんの乳酸発酵物)樹脂が知られている。
【0003】
ところで、ポリ乳酸(PLA)樹脂は、ガラス転移点(Tg)が58℃程度と低く、結晶化速度が遅いことからポリエチレンテレフタレート等の樹脂を用いた容器に比較して耐熱性の面で劣る不具合があり、容器の胴部については延伸加工時(ブロー成形時)にヒートセットを行うことにより耐熱性の改善が図られているものの、容器の口部等の未延伸加工部については結晶化が困難である点でポリ乳酸樹脂を用いた耐熱性容器の実用化に問題を残していた。
【0004】
この点に関する先行技術としては、ポリ-L-乳酸及びポリ-D-乳酸を60〜95:40〜5の範囲のモル比で含有させた樹脂組成物を用いて延伸加工を施したステレオコンプレックス結晶構造を有する容器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008-7736号公報
【0005】
上記従来の容器は、未延伸加工部の結晶化速度を高めることができポリ乳酸樹脂を用いた場合においても耐熱性の改善が可能であるとされているところ、かかる樹脂は成形性(延伸性)の低下を伴うことが懸念されることから効率的な生産が行えない問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、耐熱性が改善され、成形性を損なうおそれのない生分解性成形体及びその成形体を用いた容器を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリ乳酸樹脂を射出成形することによって得られた延伸加工用の成形体であって、
該成形体は、4モル%未満のD-乳酸を含むポリ-L-乳酸からなり、
少なくとも一部分に、示差走査熱量計(DSC)による昇温チャートにおいて、結晶化熱量/融解熱量(│ΔHc│/ΔHm)が0.7以下である結晶化領域を有することを特徴とする生分解性成形体である。
【0008】
上記の構成になる成形体において、射出成形は、射出速度:6〜12mm/sec、射出圧力 50MPa、樹脂温度:213〜220℃の条件で行うことができ、結晶化は、プリフォーム表面温度が100〜120℃、5〜10minの条件で行う。
【0009】
また、本発明は、ポリ乳酸樹脂からなる成形体を延伸加工することによって最終形状となした生分解性容器であって、
前記ポリ乳酸樹脂は、4モル%未満のD-乳酸を含むポリ-L-乳酸からなり、示差走査熱量計(DSC)による昇温チャートにおいて、結晶化熱量/融解熱量(│ΔHc│/ΔHm)が0.7以下である結晶化領域を備えた未延伸加工部を有することを特徴とする生分解性容器である。
【0010】
ここに、結晶化熱量/融解熱量(│ΔHc│/ΔHm)における結晶化熱量│ΔHc│とは、示差熱量計(DSC)による昇温チャートにおいて結晶化ピーク(110℃前後)が発現する際の熱量であり、融解熱量ΔHmとは結晶の融解ピーク(170℃前後)が発現する際の熱量であり、この値が0.7以下となることでポリ乳酸樹脂を用いた場合においても未延伸加工部における結晶化がポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた場合と同様、比較的速い速度のもとで可能となる。
【0011】
通常の延伸加工において未延伸加工部となる部位は容器の口部あるいは容器の底部であり、延伸加工は、2軸延伸ブロー成形が適用される。
【発明の効果】
【0012】
4モル%未満のD-乳酸を含むポリ-L-乳酸からなる樹脂を素材としてプリフォームの如き成形体を射出成形し、この成形体を用いて伸延加工を行う場合、延伸性を損なうおそれなしに未延伸加工部の結晶化(白化)が可能となり、このとき、結晶化領域は、示差走査熱量計(DSC)による昇温チャートにおいて、結晶化熱量/融解熱量(│ΔHc│/ΔHm)が0.7以下であって、ポリ乳酸樹脂を用いた場合においても耐熱性の改善が可能となる。未延伸加工部の結晶化とは、とくに容器の口部に相当する部分の結晶化を意味するものであり、延伸加工を施したのち残存する未延伸加工部について熱処理を施して結晶化を行う場合の他に、射出成形により成形された成形体(プリフォーム)の段階で予め熱処理を行い、結晶化を行う場合を含むものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、ポリ乳酸樹脂として、4モル%未満のD-乳酸を含むポリ-L-乳酸からなる樹脂を用いるが、その理由はD-乳酸が4モル%を超えると結晶化速度が遅くなり熱処理による結晶化が難しくなるためであり、D-乳酸の含有量が4モル%未満、可能ならば0とすることで結晶化速度を高めて熱処理による未延伸加工部の結晶化が可能となる。
【0014】
かかる樹脂を素材として射出成形により成形体(プリフォーム)を成形するには、射出速度:6〜12mm/sec、射出圧力:50MPa、樹脂温度:213〜220℃の条件で射出成形を行う。上記の条件を満足することで結晶化された未延伸加工部は、示差熱量計(DSC)による昇温チャートにおいて、結晶化熱量/融解熱量(│ΔHc│/ΔHm)が0.7以下になるとともに、延伸加工に際しては延伸性が損なわれるおそれはなくなる。
【0015】
未延伸加工部の結晶化は、ポリ乳酸の熱的性質(ガラス転移点温度Tg、結晶化温度Tc等)の観点から、樹脂表面温度100〜120℃、時間5〜10min程度で行う。加熱方式は、赤外線ランプによる加熱、ヒータによる加熱、熱風による加熱あるいは高周波加熱等を適用することができる。
【0016】
延伸加工(ブロー成形)は、射出成形によって得られた成形体(プリフォーム)を70〜90℃まで加熱し、金型温度70〜90℃にしてブロー成形を行う。
【0017】
本発明にしたがう生分解性容器のとくに口部は、熱水シャワーによる殺菌が可能であるだけでなく、内容物の温度が90℃程度になる高温充填に十分耐え得る。
【実施例】
【0018】
D-乳酸の含有率が1.6%の樹脂(残部ポリ-L-乳酸)(Nature Works 製7032D)を用いて射出成形機により、表1に示す条件でサイズ:口外径32mm、長さ80mmのプリフォーム(試験管形状を有する)を作成した。得られたプリフォームにつき、その口部に温度110℃、表1の条件で加熱(加熱炉)し結晶化処理(白化処理)を施し、さらに下記の条件にしたがって2軸延伸ブロー成形を施して容量が400mlになるボトルに仕上げ(ブロー成形の条件は全て同じ)、得られたボトルについてその口部における耐熱性の良否を調査した(95℃の湯に5分間浸漬した後の口部外径、口部内径の収縮率(%)を表示し±0.5%以内を良品と判断して○で示した)。
【0019】
2軸延伸ブロー成形
ブロー成形条件:プリフォーム加熱温度95℃、金型温度75℃、延伸倍率8.1倍、
【表1】

【0020】
その結果を図1に示す。なお、昇温チャートは図示はしないが、示差走査熱量計(DSC)(SII-NT社製DSC6220)を用い、結晶化前、結晶化後のボトル口部から切り出した試料を昇温速度10℃/minで測定し、30〜210℃の温度域での結晶化熱量と融解熱量を求めた。
【0021】
図1より明らかなように、本発明にしたがって製造された容器(適合例1〜4)は口部が結晶化されており、95℃の湯に浸漬しても口内径及び口外径の変化率は極めて小さく、耐熱性が著しく改善されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0022】
未延伸加工部の結晶化により耐熱性が改善された生分解性成形体、生分解性容器が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】容器の口部内径、外径の変化率を調査した結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂を射出成形することによって得られた延伸加工用の成形体であって、
該成形体は、4モル%未満のD-乳酸を含むポリ-L-乳酸からなり、少なくとも一部分に、示差走査熱量計(DSC)による昇温チャートにおいて、結晶化熱量/融解熱量(│ΔHc│/ΔHm)が0.7以下となる結晶化領域を有することを特徴とする生分解性成形体。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂からなる成形体を延伸加工することによって最終形状となした生分解性容器であって、
前記ポリ乳酸樹脂は、4モル%未満のD-乳酸を含むポリ-L-乳酸からなり、示差走査熱量計(DSC)による昇温チャートにおいて、結晶化熱量/融解熱量(│ΔHc│/ΔHm)が0.7以下である結晶化領域を備えた未延伸加工部を有することを特徴とする生分解性容器。
【請求項3】
前記未延伸加工部が容器の口部である、請求項2記載の生分解性容器。
【請求項4】
前記延伸加工が、2軸延伸ブロー成形である、請求項2又は3記載の生分解性容器。

【図1】
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【公開番号】特開2009−208264(P2009−208264A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51273(P2008−51273)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】