説明

画像処理装置

【課題】本発明は撮像手段により撮像して得られた撮像対象の動画像におけるフレーム画像を取得し、取得されたフレーム画像間での前記撮像対象の濃度の動きをベクトルで表現するオプティカルフローを算出する画像処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の画像処理装置は、前記フレーム画像における前記撮像対象のエッジを抽出し、該エッジを構成する所定点でのオプティカルフローを算出し、算出された所定点でのオプティカルフローから該所定点の奥行きを算出し、前記所定点での奥行きにFOEのY座標からの距離に応じて変化する変数を乗算して補正奥行きを算出し、前記補正奥行きから所定点における三次元情報を復元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時系列画像のエッジ表現をもとに仮想濃度勾配に基づいて撮像画像間のマッチングを求めてオプティカルフローを算出し、このオプティカルフローに基づいて撮像画像を正確な奥行きの3次元情報に復元することが可能な画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の安全な走行を促進するため、車載カメラを用いて走行中に映し出される画像を分析・処理することにより自動車の走行を妨げる要因となる障害物の検出を行い、その検出結果に基づいて、ドライバーに対して警告を行なったり、車速やステアリングなどを制御する技術が知られている。このような障害物の検出を行なうための画像処理技術として、撮像対象の濃度の動きをベクトルで表現するオプティカルフローを用いるものがあり、撮像画像を処理して得られたオプティカルフローから3次元情報を推定することにより、障害物の検出を行なうことができる。
【0003】
このオプティカルフローを推定するための代表的な方法として、ブロックマッチング法と勾配法とが存在する。ブロックマッチング法とは、撮像画像中のある大きさの領域をフレームのブロックとし、次フレームの画像中を全探索し、前フレームの評価するブロックと次フレームの注目ブロック との差分評価関数の値を最小とする点を対応点とする手法である。
しかしながら、ブロックマッチング法を用いた手法では、輝度値の急激に変化する所でもフローの誤差が少なく雑音にも強いという利点はあるが、全探索を行うので計算時間が膨大となるという問題がある。また、拡大・縮小、回転運動に弱いという問題もある。
【0004】
一方、勾配法とは、パターンの特徴を表す濃淡分布が運動に際して不変に保たれるとの仮定のもとに、オプティカルフローの拘束式を導出し、この拘束式に基づいてオプティカルフローを決定する方法である。この勾配法を用いた手法は、対応点検索をおこなう必要がないという利点がある。
【0005】
ここで車載カメラから得られた撮像画像の画像処理では、撮像画像の特徴がそのエッジに表れていると考え、このエッジにおけるオプティカルフローを決定する方法があるが、上記の勾配法では濃淡の変化が不連続な(輝度が急変する)エッジに対してはオプティカルフローの推定精度が悪いという問題があった。
この問題を解決するために、エッジの近傍に線形の仮想濃度値を設定することによりオプティカルフローの拘束式を導出し、この拘束式を用いてオプティカルフローを決定する仮想濃度勾配法という技術も考え出されている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1)。
【0006】
しかしながら、このエッジを用いた仮想濃度勾配法においても車載カメラからの撮像画像から推定されたオプティカルフローでは車両の進行方向(奥行き)を正確に復元できないという問題が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−307830号公報
【特許文献2】特開2003−296739号公報
【特許文献3】特開2008−71143号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】田中志歩、伊東敏夫、大川剛直、「時系列画像のエッジを利用した剛体仮定によるマッチング法の提案」、電気学会論文誌C, Vol.127-C, No.4, pp577-582,2007,4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の事情に鑑みて創作されたものであり、エッジ表現を用いた仮想濃度勾配法において車載カメラからの撮像画像から推定されたオプティカルフローから奥行き方向の三次元情報を正確に推定できる画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明の画像処理装置では、撮像手段により撮像して得られた撮像対象の動画像におけるフレーム画像を取得し、取得されたフレーム画像間での前記撮像対象の濃度の動きをベクトルで表現するオプティカルフローを算出する画像処理装置において、前記フレーム画像における前記撮像対象のエッジを抽出し、該エッジを構成する所定点でのオプティカルフローを算出するオプティカルフロー算出手段と、算出された所定点でのオプティカルフローから該所定点の奥行きを算出する奥行き算出手段と、前記所定点での奥行きにFOEのY座標からの距離に応じて変化する変数を係数して補正奥行きを算出する補正奥行き算出手段と、前記補正奥行きから所定点における三次元情報を復元する復元手段と、を有する画像処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エッジ表現を用いた仮想濃度勾配法において車載カメラからの撮像画像から推定されたオプティカルフローを算出し、これから算出される一般的な奥行きにY座標に依存して変化する上記係数を乗算し、この乗算結果を3次元情報に復元すると、エッジ部の正確な奥行きを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る画像処理ECUの機能ブロック図である。
【図2】本実施形態にかかる画像処理装置の処理対象となる車載カメラの撮像画像のイメージ図である。
【図3】奥行きZを算出するための位置関係を表すグラフ図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る画像処理装置を自動車に搭載される画像処理ECU用として使用した場合の実施形態について図1〜図3に基づいて説明する。
【0014】
本実施形態における画像処理ECU1について、図1のブロック図に基づき簡単に説明する。この画像処理ECU1は、CCDカメラ(撮像手段の一例)2とともに自動車に搭載され、CCDカメラ2によって撮像して得られた自動車周辺の障害物(撮像対象の一例)などの動画像のフレーム画像を取得し、取得されたフレーム画像間での撮像対象の濃度の動きをベクトルで表現するオプティカルフローを算出する。そして、算出されたオプティカルフローは、車内に設けられたディスプレイ3に表示されるとともに、自動車に搭載された車速制御ECUなどの各種ECUに転送され、各種ECUでは転送されたオプティカルフロー情報に基づいて車速制御などの車両制御を行なう。
【0015】
画像処理ECU1は、CCDカメラ2によって撮像して得られた動画像のフレーム画像を取得する画像入力部11と、画像入力部11を通じて取得したフレーム画像を保持するメモリ12と、フレーム画像における撮像対象のエッジを抽出するエッジ抽出部13と、エッジを構成するエッジ画素を含むエッジ周辺画素に仮想濃度値を設定する仮想濃度値設定部14と、設定する仮想濃度値が登録された複数種類の仮想濃度値テーブル15と、設定された仮想濃度値に基づいてオプティカルフローを算出するオプティカルフロー算出部16と、算出されたオプティカルフローをディスプレイ3に表示するための処理を行うオプティカルフロー画像生成部17とを備えている。なお、これらの機能は、CPUを中核部材として、ハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で実現されている。
【0016】
エッジ抽出部13は、フレーム画像の濃度値について一次微分値を算出し、この値が閾値以下の場合は濃度値を0とし、閾値を超える場合には所定の濃度値を与える2値化処理を施すことによりエッジ抽出を行う。また、オプティカルフロー算出部16は、オプティカルフローを算出するフロー算出部16aを備えており、非特許文献1に示す手法と同様に既知の仮想濃度勾配法に基づいてオプティカルフローが算出される。
【0017】
ここで図1に示す画像処理ECU1では、仮想濃度値テーブル15を複数有しており、仮想濃度値テーブル毎に仮想濃度値の設定パターンがそれぞれ相違しており、この設定パターンに対応して仮想濃度値モデルが構成される。そして、仮想濃度値テーブル15を複数用いて仮想濃度値が設定され、仮想濃度値に対応して種々のオプティカルフローが算出される。
【0018】
このように仮想濃度値テーブル15を参照して仮想濃度値設定部14が仮想濃度値を設定することで、エッジ周辺画素について、隣接する画素間における仮想濃度値が非均一となるように設定することができる。
【0019】
再びオプティカルフロー算出部16について説明すれば、オプティカルフロー算出部16はフロー算出部16a以外に、奥行き(Z)算出部16bと、補正奥行き(Z´)算出部16cと、三次元情報復元部16dとを有している(詳細には後述する)。
【0020】
ここでフロー算出部16aで算出されたオプティカルフローから三次元情報を復元する方法について説明する。
まず、図2を参照すれば車載カメラからの撮像画像の模式図が示されており、中心にFOE(camera’s focus of expansion )が示されており、前方の車体等の物体20の任意のエッジ21(垂直エッジ以外)上の点pが示されている。
【0021】
この図2において、
FOEの座標:(xFOE,yFOE
点pの座標:(xp,yp
点pのオプティカルフロー:u
点pのFOEからの距離:rp
自車移動距離:D
としたときに、
【0022】
この点pの奥行きZを算出する。

Z=(rp/u)*D …式(1)

これは奥行き(Z)算出部16bで実行される。
オプティカルフローuはフロー算出部16aで既に導出されており、また自車の移動距離は自車速度より解るものであるため奥行き(Z)は容易に算出できる。
【0023】
ここでオプティカルフローuは同じエッジ21上にある点であっても、FOEのy座標から距離に応じてオプティカルフローuが変わるということが理解される。図2のエッジ21とこのエッジ21上にある点pと点p前後の点p’、p”について検証すると、本来同じオプティカルフローであるはずが点p’、点p、点p”の順にオプティカルフローが小さくなっていくこととなる。これはオプティカルフローは点p’、p、p”についての画面上でのFOEからのy座標距離(=yp−yFOE)に依存して変化するからである。なお、垂直エッジ22上にある点についてはこの関係は当てはまらない。
【0024】
このことからFOEからのy座標距離と逆になるように式(1)の奥行き(Z)を補正するとエッジ上の点に関して正確な奥行きを推定することができると考えられる。例えば、図2の点p'、p、p”、について順に小さくなる係数を奥行きZに乗算することで奥行きの補正がなされる。具体的には、

Z’=(rp/u)*D*f(yp−yFOE) … 式(2)
f(yp−yFOE):点pのFOEからのy座標距離に依存する係数(関数)

により、補正奥行きZ’として正確な奥行きが推定される。
なお、この補正奥行きZ’の算出は、補正奥行きZ’算出部16cで実行される。
【0025】
この補正奥行きZ’を求める式(2)から以下の式(3)が算出され、三次元情報(X,Y)が復元される。

X=Z’(xp−xFOE
Y=Z’(yp−yFOE) … 式(3)
【0026】
ここで奥行きZを算出する式(1)について説明する。
図3を参照すれば、自車の車載カメラを焦点Oから距離fの位置で画像中心から距離rの位置にある点と、自車の車載カメラが距離Dだけ移動した焦点O'から距離fの位置で画像中心から距離r'の位置にある点と、の関係から奥行きzを検討する。図3はX軸方向視であり、YZ座標で示されている。
【0027】
この図3からも理解されるようにr、r、f、D、z、αは、

r'/f=α/z … 式(4)

r/f=α/(D+z) … 式(5)

との関係を有する。
【0028】
また、式(4),式(5)からα、fとを消去することができ、

z=rD/(r'−r) … 式(6)

か得られる。
この式(6)のr'−r、rは、それぞれ式(1)のオプティカルフローu、rpに相当する。
したがって、式(1)は妥当であることが検証される。
【0029】
このように非特許文献1に示す手法で推定されるオプティカルフローから求めた奥行きに対して補正することで撮像画像を正確な奥行きの3次元情報に復元することができる。
【0030】
以上、本発明の画像処理装置についての実施形態およびその概念について説明してきたが本発明はこれに限定されるものではなく特許請求の範囲および明細書等に記載の精神や教示を逸脱しない範囲で他の変形例、改良例が得られることは当業者は理解できるであろう。
【符号の説明】
【0031】
1 画像処理ECU(画像処理装置)
2 CCDカメラ
3 ディスプレイ
11 画像入力部
12 メモリ
13 エッジ抽出部
14 仮想濃度値設定部
15 仮想濃度値テーブル
16 オプティカルフロー算出部
16a フロー算出部
16b 奥行き(Z)算出部
16c 補正奥行き(Z’)算出部
16d 三次元情報復元部
17 オプティカルフロー画像生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像手段により撮像して得られた撮像対象の動画像におけるフレーム画像を取得し、取得されたフレーム画像間での前記撮像対象の濃度の動きをベクトルで表現するオプティカルフローを算出する画像処理装置において、
前記フレーム画像における前記撮像対象のエッジを抽出し、該エッジを構成する所定点でのオプティカルフローを算出するオプティカルフロー算出手段と、
算出された所定点でのオプティカルフローから該所定点の奥行きを算出する奥行き算出手段と、
前記所定点での奥行きにFOEのY座標からの距離に応じて変化する変数を係数して補正奥行きを算出する補正奥行き算出手段と、
前記補正奥行きから所定点における三次元情報を復元する復元手段と、を有する画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−209070(P2011−209070A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76289(P2010−76289)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】