説明

画像形成装置用エンドレスベルト及び画像形成装置

【課題】耐屈曲性などの機械的特性及び表面特性が良好で、トナー転写性及びトナークリーニング性に優れた高画質対応の画像形成装置用エンドレスベルトと、この画像形成装置用エンドレスベルトを含む画像形成装置を提供する。
【解決手段】画像形成装置に用いられるエンドレスベルトであって、熱可塑性エラストマー及び/又は熱可塑性樹脂よりなる熱可塑性ポリマー成分を主成分とするエンドレスベルトにおいて、酸化防止剤と、加熱処理が施されたフッ素樹脂の微粒子とを含み、該フッ素樹脂微粒子の含有量が、前記熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.1〜20重量部であることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐屈曲性などの機械的特性及び表面特性が良好で、トナー転写性及びトナークリーニング性に優れた高画質対応の画像形成装置用エンドレスベルト(無端ベルト)と、この画像形成装置用エンドレスベルトを含む画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、OA機器等などの画像形成装置として、感光体、トナーを用いた電子写真方式やトナーではなくゲル状のインクを用いた画像形成装置が考案され上市されている。これらの装置には継ぎ目の有無に関わらず感光体ベルト、中間転写ベルト、紙搬送転写ベルト、転写分離ベルト、帯電チューブ、現像スリーブ、定着用ベルト、トナー転写ベルト等の導電性、半導電性、絶縁性の各種電気抵抗に制御したエンドレスベルトが用いられている。
【0003】
例えば、電子写真方式に用いられる中間転写装置は、中間転写体上にトナー像を一旦形成し、次に紙等へトナーを転写させるように構成されている。この中間転写体の表層におけるトナーへの帯電、除電のためにシームレスベルトよりなるエンドレスベルトが用いられている。このシームレスベルトは、マシーンの機種毎に異なった表面電気抵抗や厚み方向電気抵抗(以下「体積電気抵抗」という)に設定され、導電、半導電、又は絶縁性に調整されている。
【0004】
また、紙搬送転写装置は、紙を一旦搬送転写体上に保持した上で感光体からのトナーを搬送転写体上に保持した紙上へ転写させ、更に除電により紙を搬送転写体より離すように構成されている。この搬送転写体表層においては紙への帯電、除電のためにシーム有り、無しのエンドレスベルトが用いられている。このエンドレスベルトは、上記中間転写ベルトと同様にマシーン機種毎に異なった表面電気抵抗や体積電気抵抗に設定されている。
【0005】
図1は一般的な中間転写装置の側面図である。図中、1は感光ドラム、6は導電性エンドレスベルトである。1の感光ドラムの周囲には、帯電器2、半導体レーザー等を光源とする露光光学系3、トナーが収納されている現像器4及び残留トナーを除去するためのクリーナー5よりなる電子写真プロセスユニットが配置されている。導電性エンドレスベルト6は、搬送ローラ7,8,9に掛け渡されて、矢印方向に回転する感光ドラムと同調して矢印方向に移動するようになっている。
【0006】
次に、動作について説明する。まず矢印A方向に回転する感光ドラム1の表面を帯電器2により一様に帯電する。次に、光学系3により図示しない画像読み取り装置等で得られた画像に対応する静電潜像を感光ドラム1上に形成する。静電潜像は現像器4でトナー像に現像される。このトナー像を、静電転写機10により導電性エンドレスベルト6へ静電転写し、搬送ローラ9と押圧ローラ12の間で記録紙11に転写する。
【0007】
ところで、電子写真式複写機、プリンタ等の画像形成装置に用いられる導電性エンドレスベルトの場合には、機能上2本以上のロールにより高張力で高電圧にて長時間駆動されるため、十分な機械的、電気的耐久性が要求される。
【0008】
特に、中間転写装置等に使用される中間転写ベルトの場合は、ベルト上でトナーによる画像を形成して紙へ転写するため、駆動中にベルトが弛んだり、伸びたり、蛇行したりすると、画像ズレの原因となるため、高寸法精度(ベルト幅方向の周長差が少ないことと厚みが均一であること)、高弾性率(ベルト周方向の引張弾性率が高いこと)、高耐屈曲性(割れにくいこと)に優れたものが望まれている。
【0009】
また、近年カラーレーザプリンタやカラーLEDプリンタ等の電子写真式画像形成装置は、低価格なインクジェット方式の画像形成装置との競争が一層激しくなっている。そのため、電子写真式画像形成装置は、高速での印刷技術でインクジェット方式との差異化を狙い、感光体を4つ並べたタンデム型の紙搬送転写、中間転写方式により高速で印刷する画像形成装置が商品化されてきた。このため、画像形成装置用エンドレスベルトには、より一層の耐久性の向上と画像ズレ防止が益々重要となってきている。
【0010】
従来、エンドレスベルトについては、その素材の改良により一定の成果を上げてきている。しかしながら、最近では、高速印刷のみならず、画質の向上への要求も高まってきており、特に、広範囲な温度湿度の環境において、高画質な画像が得られること、カラープリンタ用の特殊な紙だけではなく、上質紙、再生紙、裏紙、OHPフィルムといった様々な用紙においても高画質が得られることが、インクジェットプリンタに対する特長を明確にするために特に重要になってきている。
【0011】
そのため、トナーにおいては重合トナーの開発も進み、粒径4〜6μmの小粒径で粒度ばらつきの少ないトナーが商品化されており、転写ベルトへの表面特性、化学特性、電気的特性への改良要求も益々高まってきている。
【0012】
特に、中間転写装置等に使用される転写ベルトの場合は、感光体上のトナーを静電気力にて直接転写ベルト上に転写(一次転写)し、転写ベルト上でカラー画像を合成した後トナーを紙へ静電力で転写(二次転写)させるため、転写ベルトの表面電気抵抗や体積電気抵抗特性といった電気抵抗特性が重要であるだけでなく、表面物理特性、表面化学特性等においても改良する必要がある。例えば、近年益々小粒径化しているトナーに対するクリーニング性向上させるために、エンドレスベルトの表面は益々平滑性が求められているが、エンドレスベルトの表面が平滑すぎると、残留トナーをかきとるブレードとの摩擦が大きくなり、トナークリーニング性に関係するトラブルが発生しやすくなる。
【0013】
以上のことより、近年の転写ベルト等の画像形成装置用エンドレスベルトには、次の<1>〜<8>の条件が要求されている。
<1> 半導体領域にて所定の表面電気抵抗率と体積電気抵抗率を有し、抵抗ばらつきが
少なく、トナー離型性に優れること
<2> 適度に表面平滑で、トナークリーニング性に優れること
<3> 厚みが薄く均一であること
<4> 機械的強度が強い(伸びにくく、割れにくい)こと
<5> 環境(温度湿度)による抵抗値、寸法、機械強度の変動が少ないこと
<6> 低コストであること
<7> シームレスで真円(ベルト幅方向の周長差が少ない)ベルトであること
<8> 様々な紙の種類において高画質なプリントができること
【0014】
従来、転写ベルト上に転写されたトナーの離型性を向上させる目的で、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等のベースポリマーに対して、フッ素樹脂を添加し、転写ベルトの表面エネルギーを小さくすることが提案されている。
【0015】
例えば、特許文献1には、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂に、融点250℃以下のフッ素樹脂を配合することが提案されている。特許文献2には、ポリイミド樹脂にフッ素樹脂を配合することが提案されている。また、特許文献3には、フッ素樹脂等の濡れ性を小さくする物質をポリカーボネート等の樹脂に配合することが提案されている。また、特許文献4には、比較例として、PPS(ポリフェニレンサルファイド)にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)微粒子を配合したものが挙げられている。
しかしながら、従来において加熱処理したフッ素樹脂微粒子を配合するとの提案はなされていない。
【0016】
なお、転写ベルト等の画像形成装置用ベルトは、その製造工程(材料の加熱混練時、押出成形時)及び使用環境において高温に晒されることから、通常酸化防止剤を含むことが必須である。即ち、酸化防止剤を含まないベルトでは、加熱混練時及び押出成形時の酸化劣化で耐屈曲性等の機械的特性が損なわれたりクラックが発生し易くなるといった問題があり、また、使用時においても経時劣化が著しく、耐久性において、実用上満足し得る性能が得られない。
【0017】
一方で、安価なベルト製造方法として、押出機の先端に環状ダイを取り付けた押出成形法による転写ベルトの製造法が提案されている。
【特許文献1】特開2005−164900号公報
【特許文献2】特開2004−157221号公報
【特許文献3】特開平2−198476号公報
【特許文献4】特開2005−316040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーにフッ素樹脂のような表面エネルギーの小さいトナー離型性付与成分を添加した成形材料を押出成形すると、材料の相溶性が悪いため混じりあわず、得られるベルトの耐屈曲性等の機械的特性に悪影響を及ぼすという問題があった。特に、PTFEは一般的に分子量が大きく、融点も高いため、熱可塑性ポリマー成分と十分に混じりあわず、加熱混練時の剪断力により、PTFEが引き伸ばされてフィブリル化し、このために成形材料の溶融粘度が増加して溶融押出がしにくくなり、得られるベルトの外観が悪化する問題があった。
しかも、フッ素樹脂を配合した従来のエンドレスベルトでは、トナークリーニング性の改善効果が十分でないという問題もあった。
【0019】
本発明は上記従来の問題点を解決し、耐屈曲性などの機械的特性及び表面特性が良好で、トナー転写性及びトナークリーニング性に優れた高画質対応の画像形成装置用エンドレスベルトと、この画像形成装置用エンドレスベルトを含む画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、酸化防止剤を含む熱可塑性ポリマー成分に対して、加熱処理が施されたフッ素樹脂の微粒子を所定の割合で混合することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0021】
エンドレスベルトにおいては、材料の調合の際に加熱混練する方法や、成形材料の滞留時間が比較的長い押出成形法によりエンドレスベルトを得る場合には、特に耐熱性に優れた熱可塑性ポリマー成分や付加的成分を選定し、更に混練機中での酸化劣化反応や加熱押出成形時の酸化劣化反応を阻止するための酸化防止剤等の添加剤の配合等に細心の注意を払う必要がある。
【0022】
本発明者らが従来のエンドレスベルトのトナークリーニング性不良の発生メカニズムについて調べた結果、この酸化防止剤がエンドレスベルト表面にブリードし、これがクリーニング不良を引き起こす原因となることを知見した。
即ち、ベルト表面にブリードアウトした酸化防止剤が、トナークリーニングの際にクリーニングブレードと摩擦されることによりクリーニングブレードに固着してしまい、ブレードの端部に酸化防止剤が堆積し、その結果、酸化防止剤が堆積した箇所のブレード部においてトナーの掻き取り効果が低減し、クリーニング不良(トナーのクリーニングブレードすり抜け現象)が発生するようになる。
従来用いられているフッ素樹脂では、この酸化防止剤のブリードアウトによるクリーニング不良を防止し得なかった。
【0023】
この問題を解決するために、クリーニング不良の要因となる酸化防止剤の配合量を低減することが考えられるが、この場合には、混練時又は押出成形時に材料に加えられる熱による熱可塑性ポリマー成分の酸化劣化(熱劣化)で、エンドレスベルトの機械的特性が低下する問題が発生する。また、酸化防止剤の量が少ない場合においても、ベルト表面とブレードとの摩擦が大きい場合には、ベルト表面に僅かに付着した酸化防止剤がブレードによりかきとられてブレードに固着することになり、何れはクリーニング不良が発生する。従って、酸化防止剤を配合しつつクリーニング不良を解決する必要がある。
【0024】
そこで、ブレードとの摩擦係数を低下させやすく、かつ、酸化防止剤がブレードに固着しにくくなるようなフッ素樹脂の種類、粒子形状、粒子径等を検討した結果、加熱処理を施したフッ素樹脂微粒子を配合することにより、酸化防止剤によるクリーニング不良が発生しにくくなることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とするものである。
【0025】
[1] 画像形成装置に用いられるエンドレスベルトであって、熱可塑性エラストマー及び/又は熱可塑性樹脂よりなる熱可塑性ポリマー成分を主成分とするエンドレスベルトにおいて、酸化防止剤と、加熱処理が施されたフッ素樹脂の微粒子とを含み、該フッ素樹脂微粒子の含有量が、前記熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.1〜20重量部であることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0026】
[2] [1]において、前記フッ素樹脂微粒子の加熱処理温度が該フッ素樹脂の融点よりも5℃以上高い温度であることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0027】
[3] [1]又は[2]において、前記フッ素樹脂の融点が前記熱可塑性ポリマー成分の融点よりも10℃以上高いことを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0028】
[4] [1]〜[3]において、前記フッ素樹脂微粒子の平均粒径が0.1〜10μmであることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0029】
[5] [1]〜[4]において、前記フッ素樹脂の熱重量測定における5%減量温度が550℃以下であることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0030】
[6] [1]〜[5]において、前記酸化防止剤の含有量が熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.01〜5重量部であることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0031】
[7] [1]〜[6]において、前記フッ素樹脂微粒子の含有量が前記酸化防止剤の1〜100重量倍であることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0032】
[8] [1]〜[7]において、前記フッ素樹脂微粒子と酸化防止剤とを予め混合し、該混合物を前記熱可塑性ポリマー成分と加熱混練して成形材料を得、該成形材料を成形してなることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0033】
[9] [8]において、前記成形材料を環状ダイから加熱押し出しした溶融チューブを冷却又は冷却固化しつつ引き取ることにより成形されてなることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0034】
[10] [1]〜[9]において、導電性成分を前記熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.1〜30重量部含むことを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0035】
[11] [10]において、前記導電性物質がカーボンブラックであることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0036】
[12] [1]〜[11]において、前記熱可塑性ポリマー成分が、熱可塑性エラストマーと熱可塑性樹脂とを重量比で、熱可塑性エラストマー/熱可塑性樹脂=5/95〜95/5の割合で含むことを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0037】
[13] [1]〜[12]において、熱可塑性エラストマーがポリエステル系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0038】
[14] [1]〜[13]において、熱可塑性樹脂がポリアルキレンテレフタレートを主成分とすることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0039】
[15] [14]において、ポリアルキレンテレフタレートがポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0040】
[16] [1]ないし[15]において、シームレス状の中間転写ベルト、搬送転写ベルト、転写定着ベルト、定着ベルト、感光体ベルト、又は現像スリープであることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【0041】
[17] [1]〜[16]に記載の画像形成装置用エンドレスベルトを含むことを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0042】
熱可塑性ポリマー成分に対して、酸化防止剤と共に加熱処理されたフッ素樹脂微粒子を所定の割合で配合することにより、
(1)ブレードとエンドレスベルトとの摩擦係数を下げ、ブレードに酸化防止剤が押さえつけられる力が弱まり、ブレードエッジ部への酸化防止剤の付着を防止する。
(2)フッ素樹脂微粒子が酸化防止剤とともにブリードすることにより、酸化防止剤自体に離型性を付与して、ブレードへの酸化防止剤の堆積を防止する。
ことにより、酸化防止剤とブレードとの付着力を低減し、その結果、機械的強度を低下させることなく、また、表面粗さを悪化させることなくトナー転写性、クリーニング性に優れた化学的、物理的物性を得ることができ、耐屈曲性などの機械的特性及び表面特性が良好で、トナー転写性及びトナークリーニング性に優れた高画質対応の画像形成装置用エンドレスベルトを提供することが可能となる。
【0043】
加熱処理されたフッ素樹脂微粒子の所定量を配合することによる、上記効果の作用機構の詳細は明らかではないが、次のように推定される。
フッ素樹脂、例えばPTFEは、融点が300℃以上と高く、また一般的に分子量が約100万以上と大きいため、材料の溶融粘度が非常に高く、通常、溶融押出することはできない。
このようなフッ素樹脂を単に微粒子化して添加剤として熱可塑性ポリマー成分に配合した場合、前述の如く、混練時に受ける剪断力でフッ素樹脂が引き伸ばされ、フィブリル化を引き起こしやすく、エンドレスベルトのようなフィルム状に成膜する際に表面が平滑になりにくいといった問題があった。
【0044】
しかし、加熱処理した後粉砕して微粒子化したフッ素樹脂微粒子を用いると、フッ素樹脂の表面が硬くなるためか、粉砕時においてフッ素樹脂微粒子の粒径が均一になりやすい効果と混練時や押出成形時において剪断を受けた際にフッ素樹脂微粒子がフィブリル化せずに粒子状を維持したままにマトリックスポリマー中に分散されやすくなる効果とによりフッ素樹脂微粒子の不均一性、分散不良由来のベルト外観不良が発生しにくくなると共に、酸化防止剤の離型性向上に有効に作用して、酸化防止剤がブレードに付着することによるクリーニング不良を効果的に防止することができるようになる。しかも、加熱処理したフッ素樹脂微粒子は、適度に成形材料の溶融粘度を増加させるため、ベースポリマーに対するカーボンブラック等の導電性成分の分散性を良くし、エンドレスベルトの電気抵抗値が均一化されやすい効果も奏され、高画質対応のエンドレスベルトが提供されることになる。
【0045】
本発明において、フッ素樹脂微粒子の加熱処理温度は、このフッ素樹脂の融点よりも5℃以上高い温度であることが好ましく(請求項2)、このフッ素樹脂の融点は、熱可塑性ポリマー成分の融点よりも10℃以上高いことが好ましい(請求項3)。
また、フッ素樹脂微粒子の平均粒径は0.1〜10μm、熱重量測定における5%減量温度は550℃以下であることが好ましい(請求項4,5)。
【0046】
また、酸化防止剤の含有量は、この熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.01〜5重量部であることが好ましく、フッ素樹脂微粒子の含有量は、この酸化防止剤の1〜100重量倍であることが好ましい(請求項6,7)。
【0047】
本発明の画像形成装置用エンドレスベルトは、フッ素樹脂微粒子と酸化防止剤とを予め混合し、この混合物を前記熱可塑性ポリマー成分と加熱混練して成形材料を得、この成形材料を成形してなることが好ましく(請求項8)、特に、該成形材料を環状ダイから加熱押し出しした溶融チューブを冷却又は冷却固化しつつ引き取ることにより成形されてなることが好ましい(請求項9)。
【0048】
このように、環状ダイから連続押出成形にて押し出されてなるチューブを環状の状態で押し出し、筒状体のまま引き取り、これを輪切りにして得られるエンドレスベルトにより、低コスト化と寸法安定性を同時に達成できる。また、環状ダイの円周方向に複数の温度調節機構を設けることにより、電気抵抗率のばらつきの少ないエンドレスベルトを低コストに製造することができる。
【0049】
また、本発明のエンドレスベルトは、更に導電性成分、好ましくはカーボンブラックを熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.1〜30重量部含むことが好ましい(請求項10,11)。
【0050】
本発明の画像形成装置用エンドレスベルトは、熱可塑性ポリマー成分として、熱可塑性エラストマーと熱可塑性樹脂とを重量比で、熱可塑性エラストマー/熱可塑性樹脂=5/95〜95/5の割合で含むものが好ましく、熱可塑性エラストマーとしてはポリエステル系熱可塑性エラストマーが、熱可塑性樹脂としてはポリアルキレンテレフタレート、とりわけポリブチレンテレフタレートが好適である(請求項12〜15)。
このような熱可塑性エラストマーと熱可塑性樹脂とのアロイ材料であれば、良好な耐久性と適度な弾性率を得ることができ、本発明の好適な電気的特性を満たすと共に、良好な押出成形性を得ることができる。
【0051】
本発明の画像形成装置用エンドレスベルトは、特に、シームレス状の中間転写ベルト、搬送転写ベルト、転写定着ベルト、定着ベルト、感光体ベルト、又は現像スリープに好適である(請求項16)。
【0052】
このような本発明の画像形成装置用エンドレスベルトを含む本発明の画像形成装置であれば、長期に亘り、高画質画像を形成することができる(請求項17)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に本発明の画像形成装置用エンドレスベルト及び画像形成装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0054】
(1) エンドレスベルト材料
本発明のエンドレスベルトは、熱可塑性エラストマー及び/又は熱可塑性樹脂よりなる熱可塑性ポリマー成分と酸化防止剤及び加熱処理されたフッ素樹脂微粒子と、更に好ましくは導電性物質と、必要に応じて配合されるその他の添加成分で構成される。本発明に係るエンドレスベルト材料は、基本的に熱可塑性ポリマー成分に対して、酸化防止剤と加熱処理されたフッ素樹脂微粒子の所定量を含むものであれば良く、その他の材料の種類において制限はない。
【0055】
〈熱可塑性ポリマー成分〉
(熱可塑性樹脂)
本発明のエンドレスベルトに用いる熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、プロピレンエチレンブロック又はランダム共重合体、ゴム又はラテックス成分、例えばエチレン・プロピレン共重合体ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加誘導体、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリカーボネート、液晶性ポリエステル、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリビスアミドトリアゾール、アクリル、ポリフッ素化ビニリデン、ポリフッ素化ビニル、クロロトリフルオロエチレン、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリエステルエステル共重合体、ポリエーテルエステル共重合体、ポリエーテルアミド共重合体、ポリウレタン共重合体等の1種又はこれらの2種以上の混合物からなるものが使用できる。なお、ポリエチレン(高密度,中密度,低密度,直鎖状低密度)は融点が130℃より低いため、本発明には不適当である。ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体は融点が260℃より高いため、本発明には不適当である。
【0056】
本発明のエンドレスベルトに用いる熱可塑性樹脂の中でも、結晶性樹脂として好ましいのは、水酸基、カルボン酸基及びエステル結合の少なくとも1つを有するものであり、結晶化度が20%以上、90%未満であれば特に制限はなく汎用の樹脂を用いることができる。
【0057】
具体的には熱可塑性結晶性樹脂の中でも、PAT(ポリアルキレンテレフタレート)が好ましく、なかでもPBT(ポリブチレンテレフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)はより好ましく、PBTは結晶化速度が速いので成形条件による結晶化度の変化が少なく、一般に30%前後と結晶化度で安定しているので特に好ましい。
【0058】
また、本発明に用いる結晶性樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で共重合成分を導入することもできる。具体的な例としてエステル結合を主鎖とし、ポリメチレングリコールなどエステル結合を導入したものなどを挙げることができる。
【0059】
本発明のエンドレスベルトに用いる熱可塑性結晶性樹脂の分子量としては、重量平均分子量10,000〜100,000など一般的な分子量の樹脂を用いることができるが、引張破断伸びなどの機械物性の高い要求がある場合には、高分子量のものが好ましい。具体的には20,000以上が好ましく、25,000以上であれば更に好ましく、30,000以上であれば特に好ましい。
【0060】
本発明のエンドレスベルトに用いる熱可塑性樹脂の中でも、非晶性樹脂として好ましいのは、水酸基、カルボン酸基及びエステル結合の少なくとも1つを有するものであり、結晶化度が0%以上、10%未満であれば特に制限はなく汎用の樹脂を用いることができる。
【0061】
具体的にはPC(ポリカーボネート)やPAr(ポリアリレート)などのポリエステルやPMMA(ポリメチルメタクリレート)などの側鎖にエステル結合を有する樹脂が好適な例として挙げることができる。なかでもポリエステルが好ましく、PCは特に好適に用いることができる。
【0062】
また、本発明のエンドレスベルトに用いる非晶性樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で共重合成分を導入することができる。具体的な例としてエステル結合を主鎖とし、ポリメチレングリコールなどエステル結合を導入したものなどを挙げることができる。
【0063】
本発明のエンドレスベルトに用いる非晶性樹脂の分子量に特に制限はなく、例えば、重量平均分子量10,000〜100,000など一般的な分子量の樹脂を用いることができるが、引張破断伸びなど機械物性の高い要求がある場合には高分子量のものが好ましい。具体的には20,000以上が好ましく、25,000以上であれば更に好ましく、30,000以上であれば特に好ましい。
【0064】
(熱可塑性エラストマー)
本発明で用いられる熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリエーテル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、塩ビ系等の熱可塑性エラストマー等が使用できる。
【0065】
熱可塑性エラストマーの特徴は、エンドレスベルトの耐クラック性を大幅に高めることと、柔軟性を付与できる点である。
【0066】
(熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとのアロイ材料)
熱可塑性ポリマー成分として、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとのアロイ材料を用いる場合、熱可塑性エラストマーとしては、熱可塑性樹脂と共通の官能基を持つなど、熱可塑性樹脂との親和性の高い熱可塑性エラストマーを用いることにより、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーのアロイ分散性が良くなり、耐クラック性の飛躍的な向上や引張弾性率の調整が可能となり、優れた表面平滑性や、カーボンブラック等の導電性物質分散性が得られるため、好ましい。
【0067】
従って、熱可塑性樹脂としてポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル及び/又はポリカーボネートを用いる場合には、ポリエステル系、又はポリエーテル系の熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。また、ナイロン等のアミド系熱可塑性樹脂には、ポリアミド系の熱可塑性エラストマーを組み合わせることが好ましい。
【0068】
ポリエステル系エラストマーとしては、ハード成分に芳香族ポリエステル、ソフト成分に脂肪族ポリエーテルを用いたポリエステルポリエーテルブロック共重合体、ハード成分に芳香族ポリエステル、ソフト成分に脂肪族ポリエステルを用いたポリエステルポリエステルブロック共重合体を用いることができる。
【0069】
ポリエステルポリエーテルブロック共重合体、ポリエステルポリエステルブロック共重合体としては、より具体的には、次の(A),(B)を用いることができる。
【0070】
(A)ポリエステルポリエーテルブロック共重合体
ポリエステルポリエーテルブロック共重合体は、(a)炭素数2〜12の脂肪族及び/又は脂環式ジオールと、(b)芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステル、及び(c)重量平均分子量が400〜6,000のポリアルキレンエーテルグリコールとを原料とし、エステル化反応、又は、エステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合させたものである。炭素数2〜12の脂肪族及び/又は脂環式ジオールとしては例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、好ましくは、1,4−ブタンジオール、エチレングリコールを主成分とするものであり、これらの1種又は2種以上を併用したものを使用することができる。
【0071】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等があり、好ましくは、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸を主成分とするものであり、これらの2種以上を併用したものでも良い。また、芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルとしては、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルフタレート、2,6−ジメチルナフタレート等のジメチルエステルが挙げられ、好ましくはジメチルテレフタレート、2,6−ジメチルナフタレートであり、これらを2種以上併用したものでも良い。また、上記以外に3官能のジオール、その他のジオールや他のジカルボン酸及びそのエステルを少量共重合したものも良く、更に、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸又は脂環式ジカルボン酸、又は、そのアルキルエステル等を共重合成分として使用したものも良い。
【0072】
ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、重量平均分子量が400〜6,000のものが使用されるが、好ましくは500〜4,000のものである。ここで、ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2及び1,3−プロピレンエーテル)グリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック又はランダム共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランのブロック又はランダム共重合体等が挙げられる。特に好ましくはポリテトラメチレンエーテルグリコールである。ポリアルキレンエーテルグリコールの含有量は、生成するブロック共重合体に対し、5〜95重量%であることが望ましく、好ましくは10〜85重量%であることが望ましい。
【0073】
(B)ポリエステルポリエステルブロック共重合体
ポリエステルポリエステルブロック共重合体は、上記(c)重量平均分子量が400〜6,000のポリアルキレンエーテルグリコールのかわりに、(d)脂肪族又は脂環式ジカルボン酸と脂肪族ジオールとが縮合したポリエステルオリゴマー、(e)脂肪族ラクトン又は脂肪族モノオールカルボン酸から合成されたポリエステルオリゴマーと、前記(a)炭素数2〜12の脂肪族及び/又は脂環式ジオールと、(b)芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルとを原料とし、エテル化反応又はエステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合させたものである。
【0074】
上記(d)の例としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル−4,4’−ジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸又はコハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸のうちの一種以上とエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール等のジオールのうちの一種以上とを縮合した構造のポリエステルオリゴマーが挙げられ、上記(e)の例としてε−カプロラクトン、ω−オキシカプロン酸等から合成されたポリカプロラクトン系ポリエステルオリゴマーが挙げられる。
【0075】
本発明に用いられるポリエステル系以外の熱可塑性エラストマーとしては、具体的にはポリスチレン系では、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、スチレン−イソプレン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンコポリマー等があり、ポリ塩化ビニル系では、架橋(三次元)塩化ビニル−直鎖塩化ビニルポリマー等があり、オレフィン系としては、ポリエチレン−EPDMコポリマー、ポリプロピレン−EPDMコポリマー、ポリエチレン−EPMコポリマーポリプロピレン−EPMコポリマー、等があり、ポリエステル系としては、PBT(1,4−ブタジエンジオール−テレフタル酸縮合物)−PTMEGT(ポリテトラメチレングリコール−テレフタル酸縮合物)コポリマー等が挙げられ、ポリアミド系としては、例えばナイロンオリゴマー−ジカルボン酸−ポリエーテルオリゴマーを基本骨格としたコポリマーを挙げることができ、前記ナイロンオリゴマーとしては例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、等があり、ポリエーテルオリゴマーとしては、例えばポリエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を用いることができる。ウレタン系としては例えばポリウレタン−ポリカーボネートポリオールコポリマー、ポリウレタン−ポリエーテルポリオールコポリマー、ポリウレタン−ポリカプロラクトンポリエステルコポリマー、ポリウレタン−アジベートポリエステルコポリマーが挙げられる。
【0076】
熱可塑性ポリマー成分として、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとのアロイ材料を用いる場合、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーの重量比に特に制限はない。ただし、一般に熱可塑性樹脂の中で結晶性樹脂は耐薬品性、耐屈曲性に優れ、非晶性樹脂は成形寸法安定性に優れるので、使用目的に応じ、熱可塑性エラストマーとの比率を設定することができるが、なかでも、熱可塑性樹脂/熱可塑性エラストマーの重量比が1/99〜99/1が好ましく、5/95〜95/5がより好ましく、10/90〜90/10が更に好ましく、70/30〜30/70が特に好ましく、60/40〜40/60がとりわけ好ましい。
【0077】
また、この場合、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーの粘度差が大きすぎると、製造条件を調整しても良好な分散が得られず、均一分散に至ることができなくなることがあるので、粘度差は小さい方が好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーを同一条件でMFR測定したときの比が1/20〜20/1程度の範囲に収まることが好ましく、1/10〜10/1の範囲となれば更に好ましい。
【0078】
なお、MFRの測定方法としてはJIS K−7210に準拠し、測定温度条件は熱可塑性樹脂組成物の加工温度に近い条件を選択することが好ましい。例えば、PBTとポリエステルエラストマーを選択した場合、加工温度となる240℃を測定温度として設定し、両材料の粘度差を比較することが好ましい。また、荷重としては例えば2.16kgを選択することで好適に測定できる。
【0079】
(熱可塑性ポリマー成分の融点)
本発明においては、熱可塑性ポリマー成分として以下のDSC測定による融点が130℃以上、260℃以下のものを用いることが好ましい。
DSC(示差走査熱量)測定
セイコー電子工業(株)製SSC−5200(商品名)を使用し、試料を昇温速度20℃/minにて400℃まで昇温させ、融解ピーク温度をDSC測定による融点とする。
【0080】
熱可塑性ポリマー成分の融点が低すぎると、得られるエンドレスベルトの耐熱性が悪くなり、ローラの癖跡がつきやすくなるばかりか、クリープ性が悪くなるため好ましくない。逆に熱可塑性ポリマー成分の融点が高すぎると、加熱混練時、加熱押出時の成形温度が高すぎ、添加成分の揮発で、ベルト表面の外観が荒れる場合がある。
熱可塑性ポリマー成分のより好ましい融点は180℃以上250℃以下、更に好ましくは200℃以上240℃以下である。
【0081】
なお、熱可塑性ポリマー成分としては、熱可塑性樹脂の1種又は2種以上を用いても良く、熱可塑性エラストマーの1種又は2種以上を用いても良く、これらを混合して用いても良い
【0082】
〈酸化防止剤〉
本発明においては、加熱混練ないし加熱成形工程での成形材料の熱分解による酸化劣化や、使用時の経時劣化を防止するために、成形材料に酸化防止剤を配合する。また、後述の重合触媒を配合する場合、重合触媒の活性が高すぎると、熱可塑性ポリマー成分の解重合を促進して分子量低下による機械的物性低下、低分子量体発生に伴う発泡などが問題になることがあるが、酸化防止剤として、重合触媒中の金属にキレートする能力を有するキレーターが存在すると、解重合を抑制することができるため、この点においても酸化防止剤の配合は好ましい。
【0083】
酸化防止剤の種類としては特に制限はなく、公知の酸化防止剤(キレーター)を用いることができる。
【0084】
例としては、亜リン酸エステル、リン酸エステル、リン酸塩、ヒドラジン類や、フェノール系、イオウ系の酸化防止剤を挙げることができ、これらは例えば、イルガホス168(日本チバガイギー(株)製)、PEP36(旭電化工業(株)製)、サンドスタブP−EPQ(クラリアントジャパン(株)製)の亜リン酸エステル、IRGANOX MD1024(日本チバガイギー(株)製)、CDA−6(旭電化工業(株)製)のヒドラジン類、スミライザーBP101(住友化学(株)製)、イルガノックス1010(日本チバガイギー(株)製)、アデカスタブAO−80のフェノール系、スミライザーTPS(住友化学(株)製)、ヨシノックスDMTP(API社製)、アンチオックスS(日本油脂(株)製)のイオウ系などとして容易に市場から入手することができる。
【0085】
本発明において、酸化防止剤の含有量は、全熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.01重量部以上であることが好ましく、より良好な添加効果を得るには0.1重量部以上であることが好ましい。
【0086】
酸化防止剤の含有量が少な過ぎると、上述したような酸化防止剤の添加効果を十分に得ることができないが、多すぎると過剰な酸化防止剤がベルト表面にブリードし、ブレードへの酸化防止剤の固着でクリーニング不良を引き起こす。また、重合触媒が活性を失い良好な物性のエンドレスベルトを得られないことがあるので、添加過多にはならない方が好ましく、全熱可塑性ポリマー成分100重量部に対し、5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、0.5重量部以下であると更に好ましい。
【0087】
一般的にはキレーターの使い方としては全熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.1重量部以下の少量添加で使うことが好ましいとされるが、本発明でキレーターを使う場合には、特に好ましい使い方の例としては、重合触媒の添加量を50〜500ppmと多く添加し、キレーターも熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜3重量部の範囲と常識より高い量を用いて、更にエンドレスベルトを得るための成形条件(温度,滞留時間など)を適正化すると、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとの化学結合生成及び分子量増加を促進しつつ、解重合を抑制すると共に、付加的成分の分解を防止することができ、従来に無い物性の優れたエンドレスベルトを得ることができる。
【0088】
〈加熱処理が施されたフッ素樹脂の微粒子〉
本発明で用いるフッ素樹脂微粒子は、常法に従って合成されたフッ素樹脂微粒子を加熱処理した後粉砕して得られるものである。
【0089】
(フッ素樹脂の種類)
フッ素樹脂微粒子を構成するフッ素樹脂の種類としては、好ましくは、後述の物性を満足するものであれば特に制限はなく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド3元共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等を用いることができる。
これらのフッ素樹脂の2種類以上を微粒子化したものであっても良い。
これらのフッ素樹脂のうち、特に表面エネルギーが小さく、トナー転写性及びトナークリーニング性の改善に有効であることから、PTFEを用いることが好ましい。
【0090】
(加熱処理条件)
フッ素樹脂の加熱処理温度は、フッ素樹脂の融点よりも5℃以上高い温度であることが好ましい。
即ち、前述の如く、フッ素樹脂は、加熱処理により、その後の粉砕で粒径が均一な微粒子が得られるようになり、また、混練時や押出成形時において剪断を受けた際にフィブリル化せずに粒子状を維持したままにマトリックスポリマー中に分散されやすくなるが、加熱処理温度が低過ぎるとこのような効果を十分に得ることができないため、加熱処理温度はある程度高い温度であることが好ましい。ただし、加熱処理温度が高過ぎるとフッ素樹脂が分解することもあることから、加熱処理温度はフッ素樹脂の融点よりも5〜200℃高い温度、特にフッ素樹脂の融点よりも10〜100℃高い温度であることが好ましい。
【0091】
加熱処理時間については特に制限はないが、短か過ぎると加熱処理を行うことによる前記効果を十分に得ることができず、長過ぎても処理時間に見合う効果は得られず、工業的な生産性の面で不利であることから30分〜24時間程度であることが好ましい。
加熱処理の雰囲気は、通常大気雰囲気とされる。
なお、上記加熱処理後、フッ素樹脂の融点、5%減量温度(分子量)の調整のために、フッ素樹脂に放射線を照射してもよい。
【0092】
また、フッ素樹脂微粒子を上述のような条件で処理すると、フッ素樹脂微粒子は互いに融着するため、これを粉砕する必要がある。粉砕はジェットミル、ボールミル、ローラーミル、ロッドミル、ハンマーミル等の各種粉砕機等に行うことができ、粉砕後、更に必要に応じて整粒することにより、後述のような粒径ないし粒度分布の加熱処理済フッ素樹脂微粒子とすることが好ましい。
【0093】
このような加熱処理及び粉砕により得られるフッ素樹脂微粒子は、角のとれた球形に近い微粒子状であり、高硬度であることから、成形工程におけるフィブリル化の問題が少ない。また、加熱処理により微粒子同士の凝集が起こり難くなり、微粒子の凝集によるベルト表面の凸状の欠陥の発生を防止して、ベルトの表面平滑性、トナークリーニング性を高めることができる。
【0094】
(融点)
フッ素樹脂微粒子を構成するフッ素樹脂の融点は、熱可塑性ポリマー成分の融点よりも10℃以上高いものであることが好ましい。フッ素樹脂の融点が低いと成形工程でフッ素樹脂微粒子がフィブリル化したり、ブリードアウトしすぎたりするため、所期の目的を達成し得ない。フッ素樹脂の融点は高い程好適であるが、通常のフッ素樹脂は熱可塑性ポリマー成分の融点より10〜150℃程度高い融点を有する。
なお、フッ素樹脂の融点は前述のDSC(示差走査熱量)により測定することができる。
【0095】
(熱重量測定における5%減量温度)
熱重量測定における5%減量温度は、高分子物質の分子量の指標となるものであり、5%減量温度が高いものは分子量が大きく、5%減量温度が低いものは分子量が小さい。
【0096】
本発明で用いるフッ素樹脂微粒子を構成するフッ素樹脂は、熱重量測定における5%減量温度が550℃以下、特に350〜500℃であることが好ましい。なお、5%減量温度が500℃以下、特に350〜500℃であるフッ素樹脂の分子量は、通常、100万以下、特に1〜10万程度のものとなる。
【0097】
このように、低分子量のフッ素樹脂の微粒子を用いることにより、これを配合した成形材料の粘度の上昇を抑え、押出成形性を維持することが可能となる。即ち、従来、フッ素樹脂としては通常、分子量が100万を超えるもの、例えば分子量400万程度の高分子量のものが用いられているが、このような高分子量のフッ素樹脂では、これを配合した成形材料の粘度が高くなりすぎ、著しい場合には押出成形が不可能となる。
なお、フッ素樹脂の熱重量測定における5%減量温度は、通常の熱重量測定装置(TG)を用いて、大気雰囲気中、10℃/min程度の昇温速度でフッ素樹脂を加熱して測定することができる。
【0098】
(粒径・粒度分布)
フッ素樹脂微粒子の平均粒径は0.1〜10μm、特に0.3〜8μm、とりわけ1〜6μmであることが好ましい。フッ素樹脂微粒子の平均粒径が大き過ぎると、ベースポリマーとの界面が大きくなり耐クラック性が悪化しやすくなる。また、フッ素樹脂微粒子のブリード効果が少なくなりトナークリーニング性の改善効果が低減する。更には、フッ素樹脂微粒子に起因してベルト表面に凸状の欠陥が発生し、表面平滑性を損ない、トナークリーニング不良の原因となる。平均粒径が小さすぎると、微粒子同士がファンデルワールスカで凝集し、成形材料の混練時にフッ素樹脂微粒子が分散不良を引き起こし、同様にベルト表面に凸状の欠陥が発生し、トナークリーニング不良の原因となる。
【0099】
また、平均粒径の上限と同様な理由から、フッ素樹脂微粒子の最大粒径は小さい方が好ましく、最大粒径は20μm以下、特に12μm以下で、粒径5μmを超えるような比較的粒径の大きい粒子の割合が30重量%以下、特に10重量%以下であることが好ましい。また平均粒径の下限と同様な理由から、粒径1μm以下の超微粒子の割合は30重量%以下、特に10重量%以下であることが好ましい。
なお、フッ素樹脂微粒子の粒径はレーザー回折散乱法、例えば、日機装(株)社製マイクロトラック粒度分析計により測定することができる。
本発明において、フッ素樹脂微粒子の平均粒径とは、50%平均粒径(d50)、即ち最小粒径からの積算値50%の粒度をさす。
【0100】
(配合割合)
本発明において、加熱処理が施されたフッ素樹脂の微粒子の配合割合は、熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部、より好ましくは1〜7重量部である。フッ素樹脂微粒子の配合割合が多過ぎると成形材料の粘度が大きくなり、押出成形性が悪化する。また、表面エネルギーが小さく、熱可塑性ポリマー成分との混合性が劣るフッ素樹脂を多量配合することで、熱可塑性ポリマー成分との界面で剥離を起こし、得られるエンドレスベルトの機械的強度が低下する。逆に、フッ素樹脂微粒子の配合割合が少なすぎると、クリーニング部材とベルトとの摩擦が大きくなるため、クリーニングブレードによるトナー掻き取り効果が低減し、クリーニング不良が発生しやすくなる。また、ベルト表面にブリードした酸化防止剤の滑材効果も少なくなり、酸化防止剤がブレードと固着しやすくなってクリーニング不良が発生しやすくなる。
【0101】
より好ましいフッ素樹脂微粒子の配合割合は、上記範囲において、前述の酸化防止剤に対して1〜100重量倍、特に5〜50重量倍である。酸化防止剤に対するフッ素樹脂微粒子の配合割合が少な過ぎるとベルト表面にブリードした酸化防止剤の滑材効果が十分に得られず、多過ぎてもそれ以上の効果の向上はのぞめず、上述の如く、機械的強度の低下につながり好ましくない。
【0102】
<導電性物質>
エンドレスベルトに導電性物質を配合することにより、エンドレスベルトに導電性を付与し、また、導電性の程度を調節することができる。
【0103】
導電性物質としては、用途に要求される性能を満たすものであれば特に制限はなく、各種のものを用いることができ、具体的には、導電性フィラーとして、カーボンブラックやカーボンファイバー、グラファイトなどのカーボン系フィラー、金属系導電性フィラー、金属酸化物系導電性フィラーなどが用いられ、導電性フィラーの他には、イオン導電性物質、例えば四級アンモニウム塩等が例示されるが、これらの導電性物質の中でも、カーボンブラックを用いることが電気抵抗率の湿度依存性が小さくなる傾向にあるため好ましい。カーボンブラックはイオン導電性物質等のその他の導電性物質と併用して用いても良い。
【0104】
導電性成分の配合量は、用いる導電性成分の種類によっても異なるが、熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.1〜30重量部とすることが好ましい。この範囲よりも導電性成分配合量が少ないと十分な配合効果を得ることができず、多いと成形性等を損なう原因となる。
【0105】
本発明では、次の理由からカーボンブラックとしてDBP吸油量50〜300cm/100g、比表面積35〜500m/g、揮発分0〜20%、平均一次粒径20〜50nmを満たすカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0106】
1)カーボンブラックのDBP吸油量について
カーボンブラックのDBP吸油量が大きいほど、カーボンは数珠状に連なった連鎖(カーボンストラクチャクチャー)を形成しやすく、カーボン凝集体が発生しにくい利点と、少ない添加量で導電性を発現しやすいため低コストな利点があったが、その反面、材料配合から成形加工の過程においてカーボンブラックを配合した樹脂に加えられる様々な剪断力によりカーボン連鎖が壊れて電気抵抗率がばらつきやすく、安定しないといった問題点がある。
反対にカーボンブラックのDBP吸油量が少なすぎると、カーボン連鎖を形成しにくいため導電性を発現させるためのカーボン添加量が多くなりすぎ、材料の耐屈曲性を損なう問題点がある。
従って好ましいカーボンブラックのDBP吸油量は、50〜300cm/100gである。
【0107】
2)カーボンブラックの粒子径及び比表面積について
カーボンブラックの比表面積が大きいほど、少ない添加重量で導電性が発現するため、機械的強度を割れにくさの点で有利となる反面、カーボン添加量により導電性が急激に変化する傾向にあるため半導電領域にコントロールするためには±0.05%以内の配合精度が必要であり、エンドレスベルトの抵抗ばらつきを±1オーダー以内で均一にすることが難しい。また、比表面積が大きいカーボンブラックは一般に粒径が小さいため、樹脂中に分散させる場合にカーボンブラック粒子がだまになりやすく、その結果、カーボン凝集体が成型品に混在し、カーボン凝集体の箇所に電気が集中し部分的な絶縁破壊を発生させやすい。また、カーボンブラックの比表面積が小さすぎる(カーボン粒子が大きすぎる)と、カーボン凝集体を形成しにくいため成型品の外観は平滑な反面、カーボン粒子間の接触により導電性発現が左右されやすく電気抵抗率がばらつきやすいので最適化したカーボン粒子径を選択した方が好ましい。
従って、好ましいカーボンブラックの平均一次粒径は20〜50nmであり、比表面積は35〜500m/gである。
【0108】
3)カーボンブラックの揮発分について
カーボンブラックの揮発分が多いほど、その表面特性によりカーボン分散は良好になる反面、加熱混練中にガスを発生させるため、成形上不利である。逆に、カーボンブラックの揮発分が少ないほど、加熱混練中のガスが発生しにくいため成形性は良好である反面、カーボン分散は悪化する傾向にある。
従って、好ましいカーボンブラックの揮発分量は、0〜20%である。
【0109】
カーボンブラックは、上記DBP吸油量、比表面積、揮発分、平均一次粒径を満たすものであれば、その種類には特に制限はなく、また、使用するカーボンブラックは1種類であっても2種類以上であっても良い。
【0110】
例えば、カーボンブラックの種類としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが好適に使用でき、この中でも不純物としての官能基が少なくカーボン凝集による外観不良を発生しにくいアセチレンブラックが特に好適に使用できる。また、樹脂を被覆したカーボンブラックや、加熱処理したカーボンブラックや黒鉛化処理したカーボンブラックや、酸性処理したカーボンブラック等の公知の後処理工程を施したカーボンブラックを用いても何ら問題はない。
【0111】
更に、分散性を向上させる目的、ガス発生を抑制させる目的でシラン系、アルミネート系、チタネート系、及びジルコネート系等のカップリング剤で処理したカーボンブラックを用いても良い。
【0112】
本発明において、エンドレスベルト中のカーボンブラックの含有量(以下「カーボンブラック濃度」と称す場合がある。)が、下記式(i),(ii)を充たすことが、抵抗値の温度湿度依存性への影響が少なくなるため好ましい。
式(i):LogY≧−X+20
式(ii):LogY≦−X+30
ただし、X,Yは次の通り。
X:エンドレスベルト中のカーボンブラックの含有量(重量%)
Y:エンドレスベルトの100V印加電圧,10秒での表面電気抵抗率(Ω)
【0113】
即ち、例えば、表面電気抵抗率が1×10(Ω)のベルトの場合は、カーボンブラック濃度は14〜24重量%であり、表面電気抵抗率が1×1010(Ω)のベルトの場合は、カーボンブラック濃度は10〜20重量%であり、表面電気抵抗率が1×1014(Ω)のベルトの場合は、カーボンブラック濃度6〜16重量%であることが、高温高湿から低温低湿での環境変動に対する、電気抵抗率の変動が少ないエンドレスベルトとすることができる点において好ましい。
【0114】
X,Yは、特に
logY≧−X+21
logY≦−X+29
であることが好ましい。
【0115】
上記範囲を超えてカーボンブラック濃度が高いと、カーボンブラック自身の分解ガス等の発生により製品の外観を悪化させると共に、カーボンブラックと熱可塑性ポリマー成分との反応によりポリマー成分が分解して発泡に由来する傷が発生するため、外観上好ましくない。また、耐折れ性も悪化する。
【0116】
上記範囲を超えてカーボンブラック濃度が低いと、導電性を発現できなくなる上に、カーボンブラック分散状態が粗くなり電気抵抗率がばらつきやすくなり、また、接触抵抗が大きく環境に左右されるようになり、画像形成装置にエンドレスベルトとして搭載した場合、環境によっては画像異常を発生させる場合がある。
【0117】
<重合触媒>
本発明において、熱可塑性ポリマー成分として熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとを併用する場合、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとを単に混合したもの、重合段階からこれらを混合したもの、これらを触媒を反応させながら混合したもの等公知のアロイ化技術を用いることができるが、重合触媒を用いて加熱混合したものがコストの観点から最も好ましい。
重合触媒は、熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーを重合する能力を有していれば特に制限はない。
【0118】
重合触媒のなかでもTi系重合触媒は好ましく、アルキルチタネートなどが好適に用いることができる。
【0119】
アルキルチタネートの中でもテトラブチルチタネート又はテトラキス(2−エチルヘキシル)オルソチタネートが好ましく、これらはTYZOR TOT(DuPont製)やTYZOR TBT(DuPont製)として市販品を容易に入手することができる。
【0120】
また、Ti系重合触媒は、アルカリ金属、アルカリ土類金属含有化合物又は亜鉛含有化合物と組み合わせることで、より有効に作用するので好ましく、なかでもマグネシウム含有化合物を重合触媒として有することは特に好ましい。
【0121】
マグネシウムを含む化合物として特に制限はないが有機酸マグネシウム塩が好ましく、酢酸マグネシウムが特に好ましい。
【0122】
重合触媒の使用量としては、少なすぎると有効に作用しないことがあるので、ある程度高い方が好ましく、具体的には重合触媒中の金属分の質量が全熱可塑性ポリマー成分(熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとの合計)に対し1ppm以上が好ましく、10ppm以上であれば更に好ましく、20ppm以上であれば特に好ましい。一方、エステル系樹脂は重金属の多量存在下により、解重合を起こすことがあると知られているので、ある程度は小さい方が好ましく、具体的には10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下であれば更に好ましく、500ppm以下であれば特に好ましい。なお、以下において、全熱可塑性ポリマー成分に対する重合触媒のTi,Mgの重量割合を「Ti濃度」,「Mg濃度」と称す場合がある
【0123】
〈その他の任意成分〉
本発明のエンドレスベルトには、各種目的に応じて上記以外の任意の配合成分を配合することができる。
【0124】
具体的には、ワックス、熱安定剤、各種可塑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、着色剤、難燃剤、分散剤、相溶化剤、増粘剤、アンチドリップ剤、触媒失活剤、流動性改良剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0125】
更に、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、第2,第3成分として各種熱可塑性樹脂、各種エラストマー、熱硬化性樹脂、フィラー等の配合材を配合することができる。
【0126】
熱可塑性樹脂としてはポリプロピレン、ポリエチレン(高密度,中密度,低密度,直鎖状低密度)、プロピレンエチレンブロック又はランダム共重合体、ゴム又はラテックス成分、例えばエチレン・プロピレン共重合体ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン・スチレンスチレンブロック共重合体又は、その水素添加誘導体、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリイミド、液晶性ポリエステル、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリビスアミドトリアゾール、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、アクリル、ポリフッ素化ビニリデン、ポリフッ素化ビニル、クロロトリフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリエステルエステル共重合体、ポリエーテルエステル共重合体、ポリエーテルアミド共重合体、ポリウレタン共重合体等の1種又はこれらの混合物からなるものが使用できる。
【0127】
熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の1種又はこれらの混合物からなるものが使用できる。また、各種フィラーとしては、例えば炭酸カルシウム(重質、軽質)、タルク、マイカ、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、ゼオライト、ウオラストナイト、けいそう土、ガラス繊維、ガラスビーズ、ベントナイト、アスベスト、中空ガラス玉、黒鉛、二硫化モリブデン、酸化チタン、炭酸繊維、アルミニウム繊維、スチレンスチール繊維、黄銅繊維、アルミニウム粉末、木粉、もみ殻、グラファイト、金属粉、導電性金属酸化物、有機金属化合物、有機金属塩等のフィラーの他、添加剤として酸化防止剤(フェノール系、硫黄系、リン酸エステル系など)、滑剤、有機・無機の各種顔料、紫外線防止剤、帯電防止剤、分散剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、銅害防止剤、難燃剤、架橋剤、流れ性改良剤等を挙げることができる。
【0128】
(2) エンドレスベルトの製造方法
〈加熱混練及び成形〉
本発明においては、前記熱可塑性ポリマー成分と酸化防止剤及び加熱処理が施されたフッ素樹脂の微粒子、更に好ましくは導電性物質と、必要に応じて他の任意成分を加熱混練して熱可塑性樹脂組成物とした後にエンドレスベルトを成形する、或いは、これらを加熱混練してそのままエンドレスベルトを成形しても良い。ただし、成形材料の加熱混練に際しては、酸化防止剤とフッ素樹脂微粒子とを予め十分均一に混合し、フッ素樹脂微粒子の表面に酸化防止剤がまぶし粉のように付着したような状態の混合物として、熱可塑性ポリマー成分等と混練することが好ましい。このように、予め酸化防止剤とフッ素樹脂微粒子とを混合することにより、フッ素樹脂微粒子による酸化防止剤の滑材効果を高めることができる。
【0129】
また、熱可塑性樹脂組成物を得る段階での加熱混練か、樹脂組成物をエンドレスベルトに成形する段階での加熱混練のいずれかで、所望の表面電気抵抗率が得られるような混練条件を調節する。いずれの場合でも、溶融状態でないと十分な分散ができないので、加熱温度はある程度は高い方が好ましく、具体的には結晶性樹脂の融点を目安に用いて、結晶性樹脂の融点以上とすることが好ましく、融点+10℃以上であると更に好ましい。また、加熱温度が高すぎると熱分解を引き起こして物性劣化を招くことがあるので高すぎるのも良くはない。具体的には結晶性樹脂の融点を目安に用いて、結晶性樹脂の融点+80℃以下が好ましく、融点+60℃以下であることが更に好ましい。
【0130】
また、加熱混練前には原料の乾燥をすることにより、より良い物性のエンドレスベルトを得られることがあるので乾燥は施しておいた方が好ましい。また、場合によっては、加熱混練して熱可塑性樹脂組成物とした後に、融点以下で熱処理を施してエステル結合を生成させた後、エンドレスベルトに成形することもできる。
【0131】
本発明において、熱可塑性ポリマー成分として熱可塑性エラストマーと熱可塑性樹脂とを併用する場合、熱可塑性エラストマーと熱可塑性樹脂とのある特定の分散状態が、エンドレスベルトの良好な導電性物質の分散と表面の適度な粗さを作りだし、トナー転写性と離形性の両方に優れたエンドレスベルトが得られると考えられる。従って、加熱混練時の温度、及び熱を受ける時間が重要となるので、得られるエンドレスベルトの分散形態を把握しつつ、加熱混練条件を設定することが望ましい。そのときにアロイ状態の指標となるのが、後述の電気抵抗率の電圧依存性特性と電気抵抗率のばらつきと表面電気抵抗率と体積電気抵抗率の比率である。
【0132】
加熱混練手段にも特に制限はなく公知の技術を用いることができる。例えば、まず熱可塑性ポリマー成分、酸化防止剤とフッ素樹脂微粒子の混合物、及び必要に応じて配合される導電性成分、その他の添加成分を加熱混練して樹脂組成物とするのであれば、一軸押出機、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、プラストグラフ、ニーダーなどを用いることができる。特に、これらを例えば二軸混練押出機により混合し、ペレット化した後にエンドレスベルトとなるように成形する手法が特に好ましく用いられる。
【0133】
成形方法については、特に限定されるものではなく、連続溶融押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、或いはインフレーション成形法、遠心成形法、ゴム押出成形法等の公知の方法を採用してベルトを得ることができるが、特に望ましいのは、連続溶融押出成形法である。特に、環状ダイより押し出した溶融チューブを、冷却又は冷却固化しつつ引き取る押出成形法が好ましく、特にチューブの内径を高精度で制御可能な下方押出方式の内部冷却マンドレル方式或いはバキュームサイジング方式が好ましい。特に、内部冷却マンドレル方式がシームレスなエンドレスベルトを簡単に得ることができるため画像形成装置用エンドレスベルトの成形法としては最も好ましい。この場合、環状ダイとしては、その円周方向に複数の温度調節機構が設けられているものが好ましい。また、溶融チューブの冷却は、30〜150℃の範囲に温度調節した金型を、その内側又は外側に接触させて行うことが好ましく、このようにして、溶融チューブを円筒形状を保持したまま引き取ることが好ましい。
【0134】
なお、この場合、成形材料は、溶融粘度がMFR値(240℃,2.16kgf荷重)で0.1g/10分以上であることが好ましい。成形材料の溶融粘度がMFR0.1g/分未満であると押出成形時の流動性が乏しく、押出成形しにくいことに加え、溶融樹脂に加えられる剪断応力が大きくなるため、抵抗調整しにくくなる。ただし、成形材料の溶融粘度が過度に高いと溶融張力が低く、溶融状態から冷却固化するまでの間にチューブ状態を維持することが難しいため25g/10分以下であることが好ましく、特に0.5〜20g/10分であることが好ましい。従って、このような溶融粘度が得られるように、必要に応じて粘性ポリマーにより粘度調整することが好ましい。
【0135】
また、インフレーション成形法により一旦折り目有りのフィルムを作製したのち、後加工にて折り目を見かけ状無くした状態でエンドレスベルトとして用いても何ら問題はなく、帯状のシートを一旦加工した後、つないでシーム有りのエンドレスベルトとしても良い。
しかしながら引き取り手段としては、エンドレスチューブを扁平させることなく円筒状を維持したまま引き取る成形方法が好ましい。
【0136】
このような成形時の温度、滞留時間等の適正化により、より良好な物性のエンドレスベルトを得ることができるので、各配合にあわせて条件を調整することが好ましい。
【0137】
〈熱処理〉
このようにして得られたエンドレスベルトを熱処理することにより、より物性の向上したエンドレスベルトとすることが可能となる。特に、耐折回数や引張弾性率の向上が見られる。
【0138】
熱処理条件は用いる熱可塑性ポリマー成分にもよるが、通常60〜200℃の温度、好ましくは70〜120℃の温度で5〜60分、好ましくは10〜30分程度である。
エンドレスベルトの熱処理は、ベルトを2本以上のローラに張架させて駆動させながら熱をかけて行っても良いし、円筒状の型にエンドレスベルトを装着して熱処理しても良い。更には、円筒状のまま熱処理をしても良い。
【0139】
(3) エンドレスベルトの物性
〈表面電気抵抗率と体積電気抵抗率〉
本発明の画像形成装置用エンドレスベルトは、
印加電圧100V,10秒にて測定した表面電気抵抗率をSR(100V)、
印加電圧500V,10秒にて測定した表面電気抵抗率をSR(500V)、
印加電圧100V,10秒にて測定した時の体積電気抵抗率をVR(100V)、
印加電圧250V,10秒にて測定した時の体積電気抵抗率をVR(250V)、
としたときに、以下の式(a)、(b)及び(c)を満たすことが好ましい。
式(a):SR(100V)/SR(500V)<VR(100V)/VR(250V)
式(b):SR(100V)/SR(500V)≦100
式(c):5≦VR(100V)/VR(250V)≦300
【0140】
即ち、印加電圧100〜500Vで測定された表面電気抵抗率の最大値/最小値(MAX/MIN)で表される変化率(以下「表面電気抵抗変化率」と称す場合がある。)SR(100V)/SR(500V)が100倍以下で、かつ印加電圧100〜250Vで測定された体積電気抵抗率のMAX/MINで表される変化率(以下「体積電気抵抗変化率」と称す場合がある。)VR(100V)/VR(250V)が5〜300で、表面電気抵抗変化率SR(100V)/SR(500V)と体積電気抵抗変化率VR(100V)/VR(250V)との関係が表面電気抵抗率<体積電気抵抗率、即ちSR(100V)/SR(500V)<VR(100V)/VR(250V)であることが好ましい。
【0141】
表面電気抵抗変化率が小さい特性とは、ローラ等により印加される電圧変動に対しても均一にトナーの転写が行われる点で重要であるが、体積電気抵抗変化率が表面電気抵抗変化率よりも大きいことは、二次転写されずに残ったベルト上の帯電トナーが、自己除電されるクリーニング部材によりクリーニングしやすいといった効果と共に、二次転写時のベルト上のトナー転写効率を向上させる効果がある。
【0142】
好ましい表面電気抵抗変化率SR(100V)/SR(500V)は10倍以内で、かつ体積電気抵抗変化率VR(100V)/VR(250V)との関係が、表面電気抵抗変化率の2倍が体積電気抵抗変化率以下であることが好ましい。なお、表面電気抵抗変化率の下限は特に制限はないが通常1.5程度である。
【0143】
また、体積電気抵抗変化率VR(100V)/VR(250V)が大きすぎると、電圧変動により電流がリークしてしまう問題があるため、体積電気抵抗変化率VR(100V)/VR(250V)は300倍以内、好ましくは100倍以内であることが好ましい。なお、体積電気抵抗変化率VR(100V)/VR(250V)の下限はベルトに自己除電機能を付与させる効果を発現させる点で5以上であり、特に10以上である。
【0144】
従って、本発明の画像形成装置用エンドレスベルトは、特に下記式(a'),(b'),(c')を満たすことが好ましい。
式(a'):SR(100V)/SR(500V)×2≦VR(100V)/VR(250V)
式(b'):5≦SR(100V)/SR(500V)≦10
式(c'):10≦VR(100V)/VR(250V)≦100
【0145】
なお、本発明の画像形成装置用エンドレスベルトの抵抗領域はその使用目的により異なるが、表面電気抵抗率1×10×1014Ω又は体積電気抵抗率1×10〜1×1014Ω・cmの範囲から選定される。
【0146】
抵抗領域の更に好ましい範囲は用途により異なるが、例えば感光体ベルトとして用いる場合には必要に応じて外表面の電荷を内表面に逃がせるように表面電気抵抗率1×10〜1×10Ω又は体積電気抵抗率1×10〜1×10Ω・cmと低い抵抗率が好ましく、中間転写ベルトとして用いる場合には帯電−転写の容易にできる表面電気抵抗率1×10〜1×1013Ω又は体積電気抵抗率1×10〜1×1013Ω・cmが好ましく、搬送転写ベルトとして用いる場合には帯電しやすく高電圧でも破損しにくい1×1010〜1×1016Ω又は体積電気抵抗率1×1010〜1×1016Ω・cmと高い領域が好ましい。
【0147】
また、エンドレスベルト1本中の表面電気抵抗率の分布は狭い方が好ましく、それぞれの好ましい表面電気抵抗率領域において、1本中の最大値と最小値の差が2桁以内であること(最大値が最小値の100倍以下であること)が好ましい。
【0148】
なお、エンドレスベルトの表面電気抵抗率や体積電気抵抗率は例えばダイヤインスツルメンツ(株)製商品名「ハイレスタ」や、「ロレスタ」又はアドバンテスト(株)製商品名「R8340A」などにより容易に測定することができる。
【0149】
〈引張弾性率〉
本発明のエンドレスベルトの引張弾性率は、300MPa以上2300MPa以下であることが好ましい。エンドレスベルトの引張弾性率が低いと、例えば中間転写ベルトとして画像形成装置に用いる場合に張力により少し伸びが発生してしまい、色ズレなどの不具合を発生することがあり、また、引張弾性率が高すぎる場合は、ベルトを駆動する際にモータ負荷がかかるため、厚み設定を薄くする必要が生じ、一旦ローラとベルト間にゴミが入り込んだり、感光体との摩擦による傷等が入るとクラックが入り易く、信頼性に問題があるため好ましくない。また、一次転写におけるトナーの転写効率を向上させるためには、ベルトが伸びない程度の引張弾性率が必要であり、かつエンドレスベルトが硬くならない程度の引張弾性率が必要である。従って、好ましい引張弾性率の範囲は300MPa以上2300MPa以下、特に500MPa以上2000MPa以下であり、とりわけ好ましいのは600MPa以上1800MPa以下である。
【0150】
エンドレスベルトの引張弾性率は、トナーの転写効率向上の観点から調整されるが、前述のようにベルト表面の化学特性(水との接触角)のトナーの転写効率向上効果、電気的特性によるトナー転写効率向上効果との関係にて最も適正な範囲を決定すれば良い。
【0151】
〈水との接触角〉
本発明のエンドレスベルトの外表面の水との接触角は70°以上90°以下であることが好ましい。外表面の水との接触角が70°未満であるとトナーがベルト表面上にくっついて、フィルミング化してしまい、トナー二次転写効率が悪化する。また、90°を超えると一次転写においてトナーの転写効率が悪化する。従って、本発明のエンドレスベルトの外表面の水との接触角は70°以上90°以下、特に65°以上85°以下であることが好ましい。
【0152】
〈表面粗さRa〉
本発明のエンドレスベルトの表面粗さRaは0.03μm以上0.17μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが0.03μm未満であると、トナー一次転写効率が悪化してしまう。また、0.17μmを超えるとトナーの二次転写効率が悪化する。従って、本発明のエンドレスベルトの表面粗さRaは0.03μm以上0.17μm以下、特に0.05μm以上0.15μm以下であることが好ましい。
【0153】
〈耐折回数〉
本発明のエンドレスベルトを例えば中間転写ベルトとして画像形成装置に用いる場合には、耐屈曲性が悪いとクラックが発生して画像が得られなくなるので耐屈曲性の良好なエンドレスベルトが好ましい。
【0154】
耐屈曲性の程度は、JIS P−8115の耐折回数の測定方法に従うことで定量的に評価でき、耐折回数の大きいエンドレスベルトほどクラックが入りにくく、耐屈曲性に優れていると判断することができる。
【0155】
具体的な数値としては、5000回を超えていれば装置寿命の間、エンドレスベルトとして優れた機能を発揮して使用することができるが、実用的には8000回以上が好ましく、10000回以上であれば更に好ましい。
【0156】
本発明によれば、熱可塑性エラストマーの添加量やアロイ化によっては、5万回以上、更には10万以上の耐折回数が得られるので、エンドレスベルトの端部からのクラックを防止するために通常用いられるクラック防止用補強テープ等の二次加工を施さなくても、十分な耐クラック性を得られることができ、好ましい。
【0157】
〈耐ローラ癖〉
本発明のエンドレスベルトの耐ローラ癖としては、後述する耐ローラ癖付き性の評価方法に従って求めたローラ癖復元率が25%以上であることが好ましい。これらの条件範囲より耐ローラ癖が小さいと、エンドレスベルトに残ったローラ癖跡が、画像ムラを発生させることがある。より好ましい耐ローラ癖は、ローラ癖復元率にて30%以上であり、特に好ましいのは35%以上である。
【0158】
(エンドレスベルトの厚み)
エンドレスベルトの厚みが過度に大きいと、ローラとの曲率が大きい場合、ベルト外側と内側の変形差が大きく、割れ易くなる。また、外側部に転写されたトナーが変形、飛散して画像が変形するようになる。一方、エンドレスベルトの厚みが過度に小さいと、わずかなローラとベルト間に入り込んだゴミ、或いは感光体等との接触による傷によりクラックが入り易く、ベルトが破損し易くなる。従って、本発明のエンドレスベルトの厚みは70〜300μmであることが好ましく、100〜200μmであれば特に好ましい。
【0159】
(5) 画像形成装置用エンドレスベルトの用途
本発明の画像形成装置用エンドレスベルトの用途に特に制限はないが、寸法精度,耐屈曲性,引張弾性率など要求物性の厳しいOA機器分野、特に機能部材には好適に用いることができる。このエンドレスベルトをシームレスベルト形状とした場合、割れ,伸びなど不具合が少ないので好適である。
【0160】
本発明の画像形成装置用エンドレスベルトは、電子写真式複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ機等の画像形成装置の、特に中間転写ベルト、搬送転写ベルト、感光体ベルトなどとして好適に用いることができる。
【0161】
本発明のエンドレスベルトはそのままベルトとして使用しても良いし、ドラム或いはロール等に巻き付けて使用しても良い。
【0162】
また、端面補強等の目的のために、このエンドレスベルトの外側及び/又は内側に、必要に応じて側縁に沿って耐熱テープ等の補強テープを貼り合わせても良い。補強テープとしては、2軸延伸ポリエステルテープがコスト、強度の点で好ましく、そのテープ幅は4mm以上20mm以下が装置レイアウト上コンパクトになり好ましい。補強テープの厚みは、20μm以上200μm以下がフレキシブルを維持するため低テンションでエンドレスベルトが駆動できる点と耐クラック発生防止の点で好ましい。
【0163】
また、エンドレスベルトの蛇行防止目的で、エンドレスベルトの側縁に、ウレタンゴムやシリコンゴム等のゴム製のシート(蛇行防止ガイド)を接着剤にて張り合わせても良い。この場合、用いるゴム製シートの好ましいシート幅は2〜10mmで装置のレイアウト上及び接着強度の点より3〜8mmが特に好ましい。また、蛇行防止の観点より蛇行防止ゴムの厚みは0.5〜3mmが好ましく、特に0.7〜2mmが蛇行防止の貼り合わせの簡易さと蛇行防止効果の点より好ましい。
【0164】
更には、上記補強テープと組み合わせて、補強テープをエンドレスベルトに貼り合わせた上で蛇行防止ガイドを貼り合わせた方がベルト耐クラック発生防止効果とベルト蛇行防止効果があるため好ましい。
【実施例】
【0165】
以下に実施例1〜8と比較例1〜3と参考例1を挙げて、本発明の効果を示す。
【0166】
〈原料〉
原料は下記のものを用い、配合割合は表2、3の通りとした。
【0167】
(熱可塑性樹脂)
・PBT:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ノバデュラン5040ZS 」
重量平均分子量=40,000
PS換算重量平均分子量=122,000
MFR(240℃、2.16kgf荷重)=4g/10分
・PC:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「E2000」
重量平均分子量=28,000
PS換算重量平均分子量=64,000
MFR(280℃、2.16kgf荷重):4.8g/10分
【0168】
(熱可塑性エラストマー)
・PEER:東洋紡積(株)製 ポリエステル−ポリエステルエラストマー「ペルプ
レンS3001」
MFR(240℃、2.16kgf荷重)=21g/10分
結晶融点=216℃
【0169】
(カーボンブラック)
電気化学(株)製「デンカブラック」
DBP吸油量=180ml/100g
比表面積=65m/g
揮発分=0%
平均一次粒径=39nm
【0170】
(重合触媒)
チタニウム(IV)ブトキシド/酢酸マグネシウム
【0171】
(酸化防止剤)
クラリアントジャパン(株)製 リン酸化防止剤「PEPQ」
【0172】
(フッ素樹脂微粒子)
【表1】

【0173】
なお、フッ素樹脂微粒子の物性の測定方法は以下の通りである。
粒径:日機装(株)社製 レーザー回折散乱式粒度分析計マイクロトラック“MT3300”を用い測定時間30秒にて、50%粒度を平均粒径(d50)とした。
融点:セイコー電子工業(株)社製 “SSC−5200”を用い、昇温速度20℃/minにて測定し、融解ピーク点を融点とした。
5%減量温度:熱重量分析法(TG)により、昇温速度10℃/minで、空気中にて30〜540℃まで昇温し、5%減量時の温度を求めた。
【0174】
なお、熱可塑性ポリマー成分についてDSC測定により求めた融点は、表2、3に示す通りであった。
【0175】
<加熱混練>
各原料を、二軸混練押出機(IKG(株)製「PMT32」)を用いて材料ペレット化した。混練条件は、シリンダー温度260℃を基本としたが、途中溶融樹脂の温度が上昇するニーディング部のシリンダー温度を130℃から150℃に設定すること以外は220℃から260℃の範囲で調整した。なお、フッ素樹脂微粒子と酸化防止剤とは予めドライブレンドし、混合物として用いた。
【0176】
<エンドレスベルトの成形方法>
この材料ペレットを乾燥し、直径φ190mm、ダイスリップ幅1.0mmの6条スパイラル型環状ダイ付き40mmφの押出機(環状ダイの円周方向に16個の温度調節機構を有する。)により、環状ダイ下方に溶融チューブ状態で押し出し、押し出した溶融チューブを、環状ダイと同一軸線上に支持棒を介して装着した外径184mmの冷却マンドレルの外表面(温度90℃)に接しめて冷却固化させつつ、次に、シームレスベルトの中に設置されている円筒形の中子と外側に設置されている4点式ベルト式引取機により、シームレスベルトを円筒形を保持した状態で引き取りつつ300mm長の長さで輪切りにして、厚み140μm、表面電気抵抗率1×1010〜1×1011Ωとなるようとなるよう押出量と引取速度、押出温度を調整しつつ、内径183mmのシームレスベルトとした。押出条件は、シリンダー、ダイス温度をいずれも260℃を基本条件とした。
【0177】
<評価>
評価は必要に応じ、エンドレスベルトを必要な大きさに切り開いて実施し、結果を表2、3に示した。
【0178】
・表面電気抵抗率
ダイヤインスツルメント(株)製 商品名「ハイレスタ(UR端子)」を使用し、500V、10秒の条件にて20mmピッチにてベルト円周方向を測定した。
【0179】
・体積電気抵抗率
ダイヤインスツルメント(株)製 商品名「ハイレスタ(UR端子)」を使用し、500V、10秒の条件にて20mmピッチにてベルト円周方向を測定した。
【0180】
・引張弾性率
ISO R1184−1970に準拠し、試験片を幅15mm、長さ150mmに切断し、引張速度1mm/min、つかみ具間距離100mmとして測定した。
【0181】
・耐屈曲性(耐折れ性)
JIS P−8115に準拠し、試験片を幅15mm、長さ100mmの大きさに切断し、MIT試験機にて折り曲げ速度175回/分、回転角度135°左右、引張荷重1.0kgfの条件にて、折り曲げ治具の先端部の曲率半径をR=0.38mmとして破壊に至る折り曲げ回数を測定した。
耐折れ性の合否判定基準としては、2万回以上を◎、1万回以上2万回未満を○、1000回以上1万回未満を△、1000回未満を×とした。
【0182】
・ぬれ張力
ホルムアミドとエチレングリコールモノエチルエーテルとの混合液からなる和光純薬社製のぬれ試験用試薬を用い、JIS K6768−1995に基づき、エンドレスベルトの外表面のぬれ張力を測定した。
この値は、数値が低いほどベルトの表面エネルギーが小さいことを示す。
【0183】
・表面粗さ(Ra)
エンドレスベルト外側表面を約50mm×50mmのサンプルにカットし、(株)キーエンス製超深度形状測定顕微鏡商品名「VK8500」を用い、レンズ100倍、ピッチ0.01μm、シャッタースピードAUTO、ゲイン835の測定条件にて40μm×40μmのエリアの表面粗さを4点測定し、その平均値を表面粗さの測定値とした。
【0184】
・クリーニング性評価
リコー社製中間転写タンデム機「CX3000」の転写ベルトユニットに、転写ベルトを装着し、クリーニングブレードをつけ、廃トナーをベルト表面に接触するような状態にして、から回し試験を実施し、ベルト10回転後にトナーがブレードにクリーニングされずにスジ状に残る本数を数え、これが3箇所以下であれば◎、4箇所以上5箇所以下であれば○、6箇所以上10箇所以下であれば△とし、11箇所以上の場合は×とした。
【0185】
【表2】

【0186】
【表3】

【0187】
<考察>
実施例1〜8は、PTFE粒子として加熱処理したものを用い、その配合量を熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して1〜10重量部の間で変更し、また酸化防止剤の配合量を熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.3〜1重量部の間で変更したものであるが、何れのエンドレスベルトも耐クラック性、クリーニング性は問題なく、実用レベルであった。
これに対して、酸化防止剤を用いていない比較例1では、酸化防止剤がないことにより、耐折れ性が悪い。
酸化防止剤を配合しても、PTFE微粒子を配合していない比較例2では酸化防止剤がベルト表面にブリードすることによりクリーニング性が悪化している。
PTFE微粒子として加熱処理していないものを用いた比較例3では、PTFE微粒子が凝集しやすいためにベルトの表面粗さが大きく、クリーニング性が悪い。
なお、酸化防止剤と共に加熱処理したPTFE微粒子を配合しても、参考例1ではPTFE微粒子の粒径が大きいことにより、ベルトの表面粗さが大きくなり、クリーニング性が悪い。
【0188】
以上の結果から、熱可塑性ポリマー成分に、酸化防止剤と共に加熱処理が施されたフッ素樹脂の微粒子の所定量を配合することにより、高画質対応で高耐久性の画像形成装置用エンドレスベルトを提供することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】一般的な中間転写装置の側面図である。
【符号の説明】
【0190】
1 感光ドラム
2 帯電器
3 露光光学系
4 現像器
5 クリーナー
6 導電性エンドレスベルト
7,8,9 搬送ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置に用いられるエンドレスベルトであって、熱可塑性エラストマー及び/又は熱可塑性樹脂よりなる熱可塑性ポリマー成分を主成分とするエンドレスベルトにおいて、
酸化防止剤と、加熱処理が施されたフッ素樹脂の微粒子とを含み、該フッ素樹脂微粒子の含有量が、前記熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.1〜20重量部であることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項2】
請求項1において、前記フッ素樹脂微粒子の加熱処理温度が該フッ素樹脂の融点よりも5℃以上高い温度であることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記フッ素樹脂の融点が前記熱可塑性ポリマー成分の融点よりも10℃以上高いことを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記フッ素樹脂微粒子の平均粒径が0.1〜10μmであることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記フッ素樹脂の熱重量測定における5%減量温度が550℃以下であることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記酸化防止剤の含有量が熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.01〜5重量部であることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記フッ素樹脂微粒子の含有量が前記酸化防止剤の1〜100重量倍であることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記フッ素樹脂微粒子と酸化防止剤とを予め混合し、該混合物を前記熱可塑性ポリマー成分と加熱混練して成形材料を得、該成形材料を成形してなることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項9】
請求項8において、前記成形材料を環状ダイから加熱押し出しした溶融チューブを冷却又は冷却固化しつつ引き取ることにより成形されてなることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、導電性成分を前記熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.1〜30重量部含むことを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項11】
請求項10において、前記導電性物質がカーボンブラックであることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項において、前記熱可塑性ポリマー成分が、熱可塑性エラストマーと熱可塑性樹脂とを重量比で、熱可塑性エラストマー/熱可塑性樹脂=5/95〜95/5の割合で含むことを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項において、熱可塑性エラストマーがポリエステル系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1項において、熱可塑性樹脂がポリアルキレンテレフタレートを主成分とすることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項15】
請求項14において、ポリアルキレンテレフタレートがポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれか1項において、シームレス状の中間転写ベルト、搬送転写ベルト、転写定着ベルト、定着ベルト、感光体ベルト、又は現像スリープであることを特徴とする画像形成装置用エンドレスベルト。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれか1項に記載の画像形成装置用エンドレスベルトを含むことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−328279(P2007−328279A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161185(P2006−161185)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(393032125)油化電子株式会社 (36)
【Fターム(参考)】