説明

画像形成装置

【課題】キャップ内に予備吐出されたインクの廃液を廃液タンクに排出する吸引ポンプの駆動負荷を軽減し、廃液タンクに送り込まれる空気量を低減できる画像形成装置の提供。
【解決手段】インクの液滴を吐出するノズルを有する記録ヘッド34a、34bと、記録ヘッドのノズル面をキャッピングするキャップ82aと、キャップに接続されて排出されるインクの廃液を排出方向に案内する吸引チューブと、チューブ内に排出される廃液を吸引する吸引力を発生する吸引ポンプと、チューブが直接接続され、廃液を保持する略密閉された廃液タンク101と、を備え、記録動作を行う前に記録ヘッドからキャップに対して記録に寄与しない液滴の吐出を行ない、記録動作の終了後にキャップ内の廃液をチューブ内で一時的に貯留した後、廃液タンクに排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像形成装置に関し、特に液滴を吐出する記録ヘッドの維持回復動作で生じる廃液を収容する廃液タンクを備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ、これらの複合機等の画像形成装置として、例えばインク液滴を吐出する記録ヘッドを用いた液体吐出記録方式の画像形成装置としてインクジェット記録装置などが知られている。この液体吐出記録方式の画像形成装置は、記録ヘッドからインク滴を、搬送される用紙に対して吐出して、画像形成(記録、印字、印写、印刷も同義語で使用する。)を行なうものであり、記録ヘッドが主走査方向に移動しながら液滴を吐出して画像を形成するシリアル型画像形成装置と、記録ヘッドが移動しない状態で液滴を吐出して画像を形成するライン型ヘッドを用いるライン型画像形成装置がある。
【0003】
なお、本願において、「画像形成装置」は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体にインクを着弾させて画像形成を行う装置を意味し、また、「画像形成」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与すること(単に液滴を媒体に着弾させること)をも意味する。また、「インク」とは、インクと称されるものに限らず、記録液、定着処理液、液体などと称されるものなど、画像形成を行うことができるすべての液体の総称として用いる。また、「用紙」とは、材質を紙に限定するものではなく、上述したOHPシート、布なども含み、インク滴が付着されるものの意味であり、被記録媒体、記録媒体、記録紙、記録用紙などと称されるものを含むものの総称として用いる。
【0004】
このような画像形成装置(以下、単に「インクジェット記録装置」ともいう。)においては、記録ヘッドは、インクをノズルから用紙に吐出させて記録を行なう関係上、ノズルからの溶媒の蒸発に起因するインク粘度の上昇や、インクの固化、塵埃の付着、さらには気泡の混入などにより吐出不良の状態となり、記録不良を起こすという問題を抱えていることから、記録ヘッドの性能を維持回復する維持回復機構を備えている。
【0005】
例えば、記録ヘッドのノズルを密封するキャップ(キャッピング手段、キャップ部材などとも称する。)を備え、装置の非稼動時には記録ヘッドのキャッピングを行うことで、ノズル内のインクの乾燥、増粘を抑えることができるようにしている。また、記録動作の前後やその最中において、記録動作に寄与しないインク滴の吐出を行い、ノズル内で乾燥、増粘したインクを排出して、吐出性能の回復や維持を図るようにしている。
【0006】
このようなノズルの吐出性維持のための画像形成に寄与しないインク滴の吐出は予備吐出或いは空吐出と称され、専用の空吐出受けに吐出されたり、キャップに対して吐出することが行われる。
【0007】
そして、例えば、特許文献1に記載されているように、キャップに対して予備吐出されたインクの履歴や累積吐出量に係る情報を管理する手段を備え、前記の情報に基づいて予備吐出としてキャップ内にフレッシュなインクを補充してキャップ内のインクの増粘による障害を防止することが行われる。
【0008】
このような構成では、キャップに予備吐出されたインクは空気と触れて増粘しやすいため、キャップ内に長く保持しておくことでキャップがインクにより詰まり、ポンプによる吸引動作に支障をきたして故障の原因になる。
【0009】
そこで、特許文献2に記載されているように、予備吐出の履歴のパラメータを持ち、パラメータが所定値に達すると、予備吐出とそれに続くキャップ内吸引によって、キャップ内に保持していたインクを排出させる構成が知られている。
【0010】
また、特許文献3に記載されているように、予備吐出などで排出されたインクを廃液タンクに排出するときに、インクを一時貯蔵する貯蔵手段を設け、インクの一時貯蔵量が一定の量を超えた時点で貯蔵手段から廃液タンクに排出することも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−216499号公報
【特許文献2】特開2007−230204号公報
【特許文献3】特開2004−009436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載の構成にあっては、キャップ内に予備吐出されたインクは吸引可能なキャップに接続されたポンプを駆動し、排出経路の終端に位置する廃液タンクに送液する必要がある。この場合、予備吐出は記録動作の前にノズル内のインクをフラッシングして吐出性を確保する目的として、毎回の記録動作毎に実施されるため、廃液タンクへの送液動作を毎回実施すると、キャップから排出経路終端に位置する廃液タンクまでの長大な経路内を送液する頻度が高くなり、ポンプにかかる耐久負荷が大きくなる。
【0013】
また、予備吐出されたインクはポンプの容積に対してごく少ないため、ポンプを駆動する際にインクとともに、大量の空気を廃液タンクに送り込むことになるが、廃液タンクにはインクを安定して保持するために、多孔質又は繊維状の廃液吸収部材が用いられることが多く、インクとともに大量の空気が送り込まれることにより、廃液吸収部材表面が乾燥し、吸収効率が低下して廃液タンクから溢れ出すおそれがあるという課題がある。
【0014】
また、特許文献3に記載のように、インクを排出するときに一時貯蔵手段を設け、インクの一時貯蔵量が一定の量を超えた時点で廃液タンクに排出する構成にあっては、排出されたインクを一時貯蔵する貯蔵手段を設けるスペースと、一時貯蔵しているインクを更に廃液タンクへ送液する第2送液手段が必要となり、装置が大型化する。また、一時貯蔵手段の内部はポンプの駆動によってキャップからインクが送液されてくると共に多量の空気も送り込まれるため、一時貯蔵手段内部でインクの乾燥が進み、廃液タンクでのインクの吸収、保持効率を低下させるおそれがある。
【0015】
また、顔料を用いたインクでは、空気と触れると粘度が上昇しやすい傾向にあるため、常に吐出安定性を良好な状態に保つために相当量の予備吐出やヘッドメンテナンスによる廃インクが発生する。これに対応するためには、貯蔵手段と廃液タンクの双方に相応の容積が必要となり、装置が大型化、複雑化する傾向になるという課題がある。
【0016】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、ポンプの耐久性に対する負荷を軽減し、廃液タンクに送り込まれる空気量を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、本発明に係る画像形成装置は、
インクの液滴を吐出するノズルを有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドのノズル面をキャッピングするキャップと、
前記キャップに接続され、前記キャップ内のインクの廃液を排出方向に案内するチューブ部材と、
前記チューブ部材内に前記廃液を吸引する吸引力を発生する吸引ポンプと、
前記チューブ部材が直接接続され、前記廃液を保持する略密閉された廃液タンクと、を備え、
記録動作を行う前に前記記録ヘッドから前記キャップに対して記録に寄与しない液滴の吐出を行ない、記録動作の終了後に前記キャップ内の廃液を前記チューブ部材内で一時的に貯留した後、前記廃液タンクに排出する
構成とした。
【0018】
また、前記空吐出されるインク量に応じた前記吸引ポンプの駆動量で前記キャップ内から前記チューブ内に吸引させる構成とできる。
【0019】
また、前記記録ヘッドの維持回復動作を行うときには、予め前記チューブ部材内に保持されている廃液をすべて前記廃液タンクに排出する排出動作を行う構成とできる。
【0020】
また、電源オフが指示されたときには、電源オフの前に前記チューブ部材内に保持されている廃液をすべて前記廃液タンクに排出する排出動作を行う構成とできる。
【0021】
また、所定時間が経過する毎に前記チューブ部材内に保持されている廃液をすべて前記廃液タンクに排出する排出動作を行う構成とできる。
【0022】
また、環境温湿度に応じて設定した時間が経過したときに前記チューブ部材内に保持されている廃液をすべて前記廃液タンクに排出する排出動作を行う構成とできる。
【0023】
また、前記チューブ部材内に保持されている廃液をすべて前記廃液タンクに排出する排出動作の履歴に係る情報を管理し、排出動作を行わないまま電源がオフされたときには、次の電源オン時に前記排出動作を行う構成とできる。
【0024】
また、前記廃液タンクが前記チューブ部材に対して着脱可能であって、前記チューブ部材内に保持されている廃液を前記廃液タンクに排出しているときに、前記廃液タンクが前記チューブ部材から離脱された時には前記廃液を排出する動作を停止する構成とできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る画像形成装置によれば、記録動作を行う前に記録ヘッドからキャップに対して記録に寄与しない液滴の吐出を行ない、記録動作の終了後にキャップ内に吐出されたインクの廃液をチューブ部材内で一時的に貯留した後、廃液タンクに排出するので、ポンプの耐久性に対する負荷を軽減し、廃液タンクに送り込まれる空気量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る画像形成装置の機構部の概略を示す構成図である。
【図2】同機構部の要部平面説明図である。
【図3】維持回復機構の概略模式的側面説明図である。
【図4】同じく要部平面説明図である。
【図5】同じく斜視説明図である。
【図6】同じく図5の側面説明図である。
【図7】同じく廃液タンクの断面斜視説明図である。
【図8】同装置の制御部の概要を示すブロック説明図である。
【図9】廃液一時貯留処理の説明に供するフロー図である。
【図10】全排出処理の第1例の説明に供するフロー図である。
【図11】全排出処理の第2例の説明に供するフロー図である。
【図12】全排出処理の第3例の説明に供するフロー図である。
【図13】全排出処理の第4例の説明に供するフロー図である。
【図14】全排出処理の第5例の説明に供するフロー図である。
【図15】同じく第5例の説明に供するフロー図である。
【図16】全排出動作の説明に供するフロー図である。
【図17】吸引ポンプを構成するチューブポンプの一例を説明する分解斜視説明図である。
【図18】同ポンプの断面説明図である。
【図19】同ポンプの吸引動作時の平面説明図である。
【図20】同ポンプの吸引動作解除時の平面説明図である。
【図21】同ポンプの回転押圧部軸支部材の平面説明図である。
【図22】同ポンプの押圧部材規制プレートの平面説明図である。
【図23】同ポンプのチューブ位置規制プレートの平面説明図である。
【図24】同ポンプを用いたヘッドメンテナンス動作の説明に供するフロー図である。
【図25】比較例のチューブポンプの一例を説明する平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず、本発明に係る画像形成装置の一例について図1及び図2を参照して説明する。なお、図1は同画像形成装置の全体構成を説明する側面説明図、図2は同装置の要部平面説明図である。
この画像形成装置はシリアル型インクジェット記録装置であり、装置本体1の左右の側板21A、21Bに横架したガイド部材である主従のガイドロッド31、32でキャリッジ33を主走査方向に摺動自在に保持し、図示しない主走査モータによってタイミングベルトを介して図2で矢示方向(キャリッジ主走査方向)に移動走査する。
【0028】
このキャリッジ33には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出するための液体吐出ヘッドからなる記録ヘッド34a、34b(区別しないときは「記録ヘッド34」という。)を複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0029】
記録ヘッド34は、それぞれ2つのノズル列を有し、記録ヘッド34aの一方のノズル列はブラック(K)の液滴を、他方のノズル列はシアン(C)の液滴を、記録ヘッド34bの一方のノズル列はマゼンタ(M)の液滴を、他方のノズル列はイエロー(Y)の液滴を、それぞれ吐出する。
【0030】
また、キャリッジ33には、記録ヘッド34のノズル列に対応して各色のインクを供給するためのサブタンク35a、35b(区別しないときは「サブタンク35」という。)を搭載している。このサブタンク35には、カートリッジ装填部4に着脱自在に装着される各色のインクカートリッジ10y、10m、10c、10kから、供給ポンプユニット5によって各色の供給チューブ36を介して、各色のインクが補充供給される。
【0031】
一方、給紙トレイ2の用紙積載部(圧板)41上に積載した用紙42を給紙するための給紙部として、用紙積載部41から用紙42を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)43及び給紙コロ43に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド44を備え、この分離パッド44は給紙コロ43側に付勢されている。
【0032】
そして、この給紙部から給紙された用紙42を記録ヘッド34の下方側に送り込むために、用紙42を案内するガイド部材45と、カウンタローラ46と、搬送ガイド部材47と、先端加圧コロ49を有する押さえ部材48とを備えるとともに、給送された用紙42を静電吸着して記録ヘッド34に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト51を備えている。
【0033】
この搬送ベルト51は、無端状ベルトであり、搬送ローラ52とテンションローラ53との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。また、この搬送ベルト51の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ56を備えている。この帯電ローラ56は、搬送ベルト51の表層に接触し、搬送ベルト51の回動に従動して回転するように配置されている。この搬送ベルト51は、図示しない副走査モータによってタイミングを介して搬送ローラ52が回転駆動されることによって図2のベルト搬送方向に周回移動する。
【0034】
さらに、記録ヘッド34で記録された用紙42を排紙するための排紙部として、搬送ベルト51から用紙42を分離するための分離爪61と、排紙ローラ62及び排紙コロである拍車63とを備え、排紙ローラ62の下方に排紙トレイ3を備えている。
【0035】
また、装置本体1の背面部には両面ユニット71が着脱自在に装着されている。この両面ユニット71は搬送ベルト51の逆方向回転で戻される用紙42を取り込んで反転させて再度カウンタローラ46と搬送ベルト51との間に給紙する。また、この両面ユニット71の上面は手差しトレイ72としている。
【0036】
さらに、図2に示すように、キャリッジ33の走査方向一方側の非印字領域には、記録ヘッド34のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構81を配置している。この維持回復機構81には、記録ヘッド34の各ノズル面をキャピングするための各キャップ部材(以下「キャップ」という。)82a、82b(区別しないときは「キャップ82」という。)と、ノズル面をワイピングするためのワイパ部材(ワイパブレード)83と、増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け84と、キャリッジ33をロックするキャリッジロック87などとを備えている。また、このヘッドの維持回復機構81の下方側には維持回復動作によって生じる廃液を収容するための交換されない廃液タンク100を、維持回復機構81の側方側には装置本体の前面側から交換可能な廃液タンク101を、それぞれ備えている。
【0037】
また、図2に示すように、キャリッジ33の走査方向他方側の非印字領域には、記録中などに増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け88を配置し、この空吐出受け88には記録ヘッド34のノズル列方向に沿った開口部89などを備えている。
【0038】
このように構成したこの画像形成装置においては、給紙トレイ2から用紙42が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙42はガイド45で案内され、搬送ベルト51とカウンタローラ46との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド37で案内されて先端加圧コロ49で搬送ベルト51に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
【0039】
このとき、帯電ローラ56に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト51が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト51上に用紙42が給送されると、用紙42が搬送ベルト51に吸着され、搬送ベルト51の周回移動によって用紙42が副走査方向に搬送される。
【0040】
そこで、キャリッジ33を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド34を駆動することにより、停止している用紙42にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙42を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙42の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙42を排紙トレイ3に排紙する。
【0041】
そして、記録ヘッド34のノズルの維持回復を行うときには、キャリッジ33をホーム位置である維持回復機構81に対向する位置に移動して、キャップ部材82によるキャッピングを行ってノズルからの吸引を行うノズル吸引、画像形成に寄与しない液滴を吐出する空吐出などの維持回復動作を行うことにより、安定した液滴吐出による画像形成を行うことができる。
【0042】
次に、この画像形成装置における維持回復機構81について図3及び図4を参照して説明する。なお、図3は同維持回復機構の模式的概略構成図、図4は同じく要部平面説明図である。
この維持回復機構81は、維持装置フレーム211に、キャップホルダ212に保持されたキャップ82a、82bと、弾性体を含むワイパ部材83と、第1ワイパ清掃手段であるワイパクリーナ86とがそれぞれ昇降可能(上下動可能)に保持されている。
【0043】
キャップ82は、記録ヘッド34のノズル面と対向する側に開口を有する箱型の部材である。このキャップ82はその開口上面部に弾性部分を有しており、前記弾性部分をノズル面に当接し、密着させることでノズルの開口を封止(キャッピング)することができる。また、キャップ82内には多孔質のスポンジ状部材である図示しない吸収部材が配設されている。これにより、吸収部材の持つ毛管力により、キャップ82内でインクを均一な状態で保持すると同時に、後述する吸引ポンプ220によりキャップ82a内のインクを排出する際に排出する負圧をキャップ全体に伝播させることができる。
【0044】
そして、ワイパ部材83と吸引用となるキャップ82aとの間には筒状の空吐出受け84が配置され、この空吐出受け84のワイパ部材83側上端部はワイパ部材83に付着したインクを掻き落して除去する第2ワイパ清掃手段としてワイパクリーナ部85が形成されている。ワイパ部材83のクリーニングを行うときにはワイパクリーナ86でワイパ部材83をワイパクリーナ部85に押し付けた状態でワイパ部材83を下降させることにより、ワイパ部材83に付着したインクを空吐出受け84側に掻き落す。
【0045】
また、印字領域に最も近い側のキャップ82aにはチューブ部材である弾性部材からなる可撓性吸引チューブ219を介して吸引手段であるチュービングポンプ(吸引ポンプ)220を接続し、キャップ82aのみを吸引(回復)及び保湿用キャップ(以下単に「吸引用キャップ」という。)とし、キャップ82bは単なる保湿用キャップとしている。したがって、記録ヘッド34の回復動作を行うときには、回復動作を行う記録ヘッド34を吸引用キャップ82aによってキャッピング可能な位置に選択的に移動させる。
【0046】
吸引ポンプ220は、吸引チューブ219に対して複数の加圧部材による加圧と移動を繰り返すことによってチューブ210に吸引力を発生させる。
【0047】
吸引チューブ219は、シリコンチューブでも良いが、本発明では吸引チューブ219内にインクを一時貯留することから、チューブ壁面からの水蒸気透過が起こりにくい材質で形成することが好ましい。そこで、ここでは、熱可塑性エラストマーからなるチューブを使用している。使用する熱塑性エラストマーとしては、例えばポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、フッ素樹脂系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0048】
また、吸引チューブ219に用いる熱可塑性エラストマーの硬度は、JIS−A規格でおよそ50度のものを使用することで、ポンピングでの送液を可能にする弾性力を得ることができて、モータへの与えるポンプ駆動負荷を小さくすることができる。
【0049】
また、吸引チューブ219に用いる熱可塑性エラストマーの水蒸気透過性は、15g/m・day以下にすることで、保持するインクがチューブ219内で水分蒸発する速度を遅くして、チュー219内にインクを一時貯留させることができる。
【0050】
一方、キャップ82a、82b、ワイパ部材83などの下方にはフレーム211に回転自在に支持したカム軸221を配置し、このカム軸221には、キャップホルダ212を昇降させるためのキャップカム222と、ワイパ部材83を昇降させるためのワイパカム224、空吐出受け84内で空吐出される液滴がかかる回転体としてのコロ226と、ワイパクリーナ86を揺動させるためのクリーナカム228と、キャリッジロック87を昇降させるためのキャリッジロックカム229をそれぞれ設けている。
【0051】
そして、吸引ポンプ220及びカム軸221を回転駆動するために、維持回復用モータ231の回転をモータ軸231aに設けたモータギヤ232に、吸引ポンプ220のポンプ軸220aに設けたポンプギヤ233を噛み合わせ、更にこのポンプギヤ233と一体の中間ギヤ234に中間ギヤ235を介して一方向クラッチ237付きの中間ギヤ236を噛み合わせ、この中間ギヤ236と同軸の中間ギヤ238に中間ギヤ239を介してカム軸221に固定したカムギヤ240を噛み合わせている。なお、クラッチ237付きの中間ギヤ236、238の回転軸である中間軸241はフレーム211にて回転可能に保持している。
【0052】
この維持回復機構81においては、記録ヘッド34のノズルを形成した面(ノズル面)に付着したインクや不純物を取り除くときには、モータ231を駆動して、ワイパカム224を介してワイパ部材83を上昇させる。この状態で、キャリッジ33を主走査方向に移動させることにより、ワイパ部材83によって記録ヘッド34のノズル面をワイピングして、不純物などを払拭する。
【0053】
また、記録ヘッド34のノズルを外気に露呈した状態のまま放置すると、内部のインクが乾燥して増粘、固着し、インク吐出性能が低下してしまうことから、これを防ぐために、記録ヘッド34のノズル面をキャップ82で覆うときには、モータ231を回転させ、キャップカム213を介してキャップ82を上昇させ、記録ヘッド34のノズル面をキャッピングする。
【0054】
また、記録動作の前後やその最中において、キャップ82aに対して記録動作に寄与しないインク滴の吐出(予備吐出)を行ってノズル吐出性能維持を図る。
【0055】
次に、廃液タンクについて図5ないし図7を参照して説明する。なお、図5は維持回復機構と廃液タンクの斜視説明図、図6は同じく側面説明図、図7は廃液タンクの断面斜視説明図である。
この画像形成装置では、前述したように維持回復機構81の空吐出受け84からの廃液(廃インク)を貯留保持する固定の廃液タンク100と、キャップ82aから排出される廃液を貯留保持する維持回復機構81に対して着脱自在な廃液タンク101とを備えている。
【0056】
廃液タンク101は、容器本体111と蓋部材112とで形成される略密閉状態の容器であり、内部にインク(廃液)を吸収して保持する繊維状の不織布やスポンジ状の吸収体からなる複層構造(ここでは3層構造)の吸収部材113が設けられている。吸収部材113の一部は切り欠いて廃液を投入する投入空間114が形成されている。また、吸収部材113には投入空間114に対して奥側にも3層を貫いて空間115が形成され、この空間115に対応して蓋部材112に空気抜き穴116が形成されている。
【0057】
そして、維持回復機構81の吸引チューブ219を、ジョイント部120を廃液タンク101の導入口部117に内装した弾性部材118に差し込んで、廃液タンク101に接続している。このジョイント部120は、中空針形状であり、先端部に形成された開口121を通じて吸引チューブ219から送液された廃液を投入空間114に排出する。
【0058】
この廃液タンク101は、前述したように画像形成装置本体の前面から着脱可能な状態で装着され、ユーザーによる交換が可能な構成としている。そして、廃液タンク101の交換の際に、廃液タンク101からの廃液の溢れや染み出しを防止するために、廃液タンク101は開口部を少なくして、極力密閉に近い状態(略密閉状態)で廃液を保持する構成としている。また、略密閉状態で廃液を保持することで廃液の水分蒸発を防止することができる。
【0059】
次に、この画像形成装置の制御部の概要について図8を参照して説明する。なお、図8は同制御部の全体ブロック説明図である。
この制御部500は、この装置全体の制御を司る本発明に係る排出動作に関する制御を行う手段を兼ねるCPU511と、CPU511が実行するプログラム、その他の固定データを格納するROM502と、画像データ等を一時格納するRAM503と、装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための書き換え可能な不揮発性メモリ504と、画像データに対する各種信号処理、並び替え等を行う画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC505とを備えている。
【0060】
また、記録ヘッド34を駆動制御するためのデータ転送手段、駆動信号発生手段を含む印刷制御部508と、キャリッジ33側に設けた記録ヘッド34を駆動するためのヘッドドライバ(ドライバIC)509と、キャリッジ33を移動走査する主走査モータ551、搬送ベルト51を周回移動させる副走査モータ552、維持回復機構81の維持回復モータ231を駆動するためのモータ駆動部512と、帯電ローラ56にACバイアスを供給するACバイアス供給部511などを備えている。
【0061】
また、この制御部500には、この装置に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル514が接続されている。
【0062】
この制御部500は、ホスト側とのデータ、信号の送受を行うためのI/F506を持っていて、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置、イメージスキャナなどの画像読み取り装置、デジタルカメラなどの撮像装置などのホスト600側から、ケーブル或いはネットワークを介してI/F506で受信する。
【0063】
そして、制御部500のCPU501は、I/F506に含まれる受信バッファ内の印刷データを読み出して解析し、ASIC505にて必要な画像処理、データの並び替え処理等を行い、この画像データを印刷制御部508からヘッドドライバ509に転送する。なお、画像出力するためのドットパターンデータの生成はホスト600側のプリンタドライバ601で行っている。
【0064】
印刷制御部508は、上述した画像データをシリアルデータで転送するとともに、この画像データの転送及び転送の確定などに必要な転送クロックやラッチ信号、制御信号などをヘッドドライバ509に出力する以外にも、ROMに格納されている駆動パルスのパターンデータをD/A変換するD/A変換器及び電圧増幅器、電流増幅器等で構成される駆動信号生成部を含み、1の駆動パルス或いは複数の駆動パルスで構成される駆動信号をヘッドドライバ509に対して出力する。
【0065】
ヘッドドライバ509は、シリアルに入力される記録ヘッド34の1行分に相当する画像データに基づいて印刷制御部508から与えられる駆動信号を構成する駆動パルスを選択的に記録ヘッド7の液滴を吐出させるエネルギーを発生する駆動素子(例えば圧電素子)に対して印加することで記録ヘッド7を駆動する。このとき、駆動信号を構成する駆動パルスを選択することによって、例えば、大滴、中滴、小滴など、大きさの異なるドットを打ち分けることができる。
【0066】
I/O部513は、装置に装着されている各種のセンサ群515からの情報を取得し、プリンタの制御に必要な情報を抽出し、印刷制御部508やモータ駆動部510、ACバイアス供給部511の制御に使用する。センサ群515は、用紙の位置を検出するための光学センサや、機内の温度を監視するためのサーミスタ、帯電ベルトの電圧を監視するセンサ、カバーの開閉を検出するためのインターロックスイッチなどがあり、I/O部513は様々のセンサ情報を処理することができる。また、環境条件(温度及び湿度)を検知する温湿度センサ516からの検知信号、廃液タンク101の満タンを検知する満タン検知センサの検知信号も入力される。
【0067】
この制御部500のCPU501は、満タン検知センサ110の満タン検知を行う閾値を決定する手段を兼ねている。なお、装置電源遮断時でも、決定された閾値はバッテリバックアップあるいはVRAMなどの書換え可能な記憶手段(メモリ)に更新されながら格納される。
【0068】
次に、この制御部が行う廃液の一時貯留処理について図9のフロー図をも参照して説明する。
先ず、記録動作開始であれば、記録動作開始前に記録ヘッド34からキャップ82aに対してインクを吐出する予備吐出を行う。そして、記録動作が終了したときに、吸引ポンプ220を所定量駆動してキャップ82a内に予備吐出されて生じた廃液(廃インク)を吸引チューブ219内に吸引して一時貯留する。
【0069】
ここで、記録動作1回当たりの吸引ポンプ220の駆動量は、予備吐出するインク滴量に応じて設定する。この場合、予備吐出するインク滴量を固定量とするときには吸引ポンプ220の駆動量も一定量とすることができる。また、予備吐出する滴量を、使用される温湿度環境や前回の記録動作からの経過時間など、記録品質を保持するために必要な最小限の滴量から算出して決定する変動量であるときには、吸引ポンプ220の駆動量もそれに応じた量とする。
【0070】
つまり、予備吐出は記録動作毎に行うために、複数回以上の記録動作を行なった場合には、キャップ内容積に対して予備吐出されて保持される廃液の量が飽和し、キャップ82aによるキャッピング時に飽和した廃液が記録ヘッド34のノズル面に付着してしまうことになる。そこで、キャップ82a内に予備吐出した廃液は、吸引ポンプ220を駆動して、キャップ82aから吸引チューブ219内に吸引して一時貯留する。
【0071】
この場合、廃液タンク101は、前述したように、略密閉構造として廃液を乾燥させないように保持するが、記録動作毎にキャップ82aから廃液タンク101に対する廃液の排出動作を行って吸引チューブ219の内容積全てを排出しようとすると、吸引ポンプ220の駆動量と比例して大量の空気が廃液タンク101内に送り込まれ、廃液タンク101内の吸収部材113の廃液の吸収性が低下するおそれがある。
【0072】
そこで、上述したように、キャップ82a内に予備吐出されて生じた廃液を吸引チューブ219内に一時貯留し、その後所要のタイミングで廃液タンク101に排出することで、廃液タンク101に対して送り込まれる空気量が減少して吸収部材113の吸収性の低下が抑制され、また吸引ポンプ220の駆動量も少なくて済み、吸引ポンプ220の駆動負荷に軽減できて耐久性を向上できる。
【0073】
なお、前述したように廃液を一時貯留するチューブ部材(吸引チューブ219)には水蒸気の透過が起こりにくい材質のものを使用することにより、チューブ部材内に一時貯留されている廃液の増粘が抑制され、排出性の低下や廃液タンクへの浸透力低下を防止することができる。
【0074】
次に、吸引チューブ内に一時貯留する全ての廃液を廃液タンクに排出する処理(全排出処理という。)の第1例について図10のフロー図を参照して説明する。
ここでは、維持回復機構81によって記録ヘッド34のノズル面をキャップ82aでキャッピングして、キャップ82a内を負圧にすることでノズルからインクを吸引するノズル吸引を含むメンテナンス動作を開始するときには、メンテナンス動作の開始に先立って、吸引ポンプ220を吸引チューブ219の内容積全てを排出できるポンプ駆動量で駆動して、吸引チューブ219内に一時貯留(保持)している全ての廃液を廃液タンク101に排出し、その後メンテナンス動作を行う。
【0075】
つまり、メンテナンス動作を行うとき、吸引チューブ219内に廃液が保持された状態で吸引動作を実施すると、吸引チューブ219内に存在する廃液によって容積が低下するため、圧力損失が起こってキャップ82a内に負圧を形成するときの特性が不安定になるおそれがある。そこで、記録ヘッド34に対して吸引動作を行なうメンテナンス動作を実施する前には、予め吸引チューブ219内部の廃液を全て廃液タンク101に排出する全排出動作を実施する。
【0076】
次に、全排出処理の第2例について図11のフロー図を参照して説明する。
ここでは、吸引チューブ219内に予備吐出で生じた廃液を一時貯留している時間(前回の全排出動作実施時からの経過時間)を算出し、一時貯留時間が予め設定した所定時間(閾値)を経過したときには、吸引ポンプ220を吸引チューブ219の内容積全てを排出できるポンプ駆動量で駆動して、吸引チューブ219内に一時貯留(保持)している全ての廃液を廃液タンク101に排出する。
【0077】
つまり、画像形成装置の電源がオンの状態において、吸引チューブ219内に予備吐出されて生じた廃液を保持している時間がある一定時間を超えた場合には、吸引チューブ219内で廃液が増粘して排出するためのポンプ駆動負荷が増大するおそれがあることから、一旦保持している全ての廃液を廃液タンク101に排出するようにしている。
【0078】
次に、全排出処理の第3例について図12のフロー図をも参照して説明する。
ここでは、上記第2例において、温湿度センサ516によって画像形成装置の環境温湿度情報を取得して、環境温度及び環境湿度に基づいて一時貯留時間の閾値を設定している。この設定した閾値を所定時間として計測した一時貯留時間と比較して、一時貯留時間が所定時間(閾値)を経過したときには、同様に、吸引ポンプ220を吸引チューブ219の内容積全てを排出できるポンプ駆動量で駆動して、吸引チューブ219内に一時貯留(保持)している全ての廃液を廃液タンク101に排出する。
【0079】
つまり、水蒸気の蒸発速度は使用される環境の温度及び湿度により変化するため、上記第2例における所定時間(閾値)を固定にすると適切なタイミングで全排出処理を行えないことがあるので、装置に内蔵された温湿度センサの出力を随時参照し、温湿度に応じて吸引チューブ219内で廃液を保持する時間の上限値(閾値)を設定するようにしている。
【0080】
次に、全排出処理の第4例について図13のフロー図をも参照して説明する。
ここでは、画像形成装置の電源オフが指示されたときには、電源オフに先立って、吸引ポンプ220を吸引チューブ219の内容積全てを排出できるポンプ駆動量で駆動して、吸引チューブ219内に一時貯留(保持)している全ての廃液を廃液タンク101に排出し、その後装置の電源をオフする処理を行う。
【0081】
つまり、画像形成装置の電源がオフにされた場合、その後に長時間放置される可能性があり、且つ電源がオフの状態では吸引チューブ219内の廃液の排出動作ができないため、ユーザーにより電源オフの指示が実行された場合には、電源オフ時の動作として吸引チューブ219内部の廃液を全て排出する。
【0082】
次に、全排出処理の第5例について図14及び図15のフロー図をも参照して説明する。
ここでは、図14に示すように、上記第4例において、電源オフ時の全排出処理を行ったときには全排出処理を行った旨の履歴(全排出の履歴)を保存する。そして、図15に示すように、電源オンが指示されたとき、全排出の履歴を参照して、電源オフ時の履歴がなければ、吸引ポンプ220を吸引チューブ219の内容積全てを排出できるポンプ駆動量で駆動して、吸引チューブ219内に一時貯留(保持)している全ての廃液を廃液タンク101に排出する。
【0083】
つまり、電源オフ動作が実施されずに、突発的に電源供給が遮断された場合、例えば電源コンセントを抜かれたり、停電になったりした場合、第4例の処理では廃液の全排出処理を行うことができない。この状態で長時間経過した場合、吸引チューブ内部に保持された廃液の水分が蒸発、増粘して、再度電源が投入された時には吸引チューブ内の廃液の排出性が低下しているおそれがあるため、電源オフ動作時に正常に吸引チューブ内の全排出動作が実行された場合には、正常終了として履歴を記憶することで、前回の電源オフの際の吸引チューブ内の全排出動作の有無を判別し、正常な全排出動作が実施された履歴がない場合には、電源オン動作の際に吸引チューブ内の廃液の全排出動作を実施し、廃液の排出を試みるようにしている。
【0084】
この電源オン時の廃液の全排出動作は、通常の吸引チューブ内の廃液の全排出動作とは異なり、モータ231の速度を遅くし(例えば定常時の300ppsから200ppsに下げ)、保持されている廃液の増粘による負荷増大にも対応できるようにする。また、通常の吸引チューブ内の廃液の全排出動作よりもポンプ220の駆動量を多くすることで、増粘により排出性が低下している可能性のある廃液を確実に排出できるようにする。
【0085】
次に、上記各例における全排出動作について図16のフロー図を参照して説明する。
全排出動作を実施するときには、前述したように吸引ポンプ220の駆動を開始して吸引チューブ219内の廃液を廃液タンク101に送液し、このとき、廃液タンク101の有無を検知する手段を検知結果を参照して廃液タンク101無しが検知されたか否かを判別する。
【0086】
そして、廃液タンク101無しが検知されなければ、全ての廃液を排出する駆動量分吸引ポンプ220を駆動した(排出終了)か否かを判別して、排出終了であれば吸引ポンプ220の駆動を終了する。
【0087】
これに対して、排出終了になるまでの間に、廃液タンク101無しが検知された時には直ちに吸引ポンプ220の駆動を停止する。
【0088】
つまり、吸引チューブ219内に保持された廃液の排出動作を実施している途中に、ユーザーが廃液タンク101の脱着操作を行なった場合、廃液タンク101がない状態で廃液が排出されて、装置内部を汚すおそれがあるため、廃液の排出動作中に廃液タンク101の離脱を検出した場合には直ちに排出動作を停止するようにしている。なお、ここでは、全排出動作中で説明しているが、キャップ82a内に予備吐出された廃液を吸引チューブ219内に吸引するときにも、吸引チューブ219内で一時貯留できる廃液量を超えたときには、吸引チューブ219から廃液タンク101への廃液の排出が発生するので、この場合にも廃液タンク101無しが検知された時には直ちに吸引ポンプ220の駆動を停止するようにする。
【0089】
次に、吸引ポンプ220を構成するチューブポンプの一例について図17ないし図20を参照して説明する。
このチューブポンプ600は、チューブ644を円弧状の内壁面に沿って収容する収容ハウジング(ポンプハウジング)645と、チューブ644をポンプハウジング645の内壁面側に向かって押し潰すように押圧し、かつ当該押圧箇所をチューブ644の一端側から他端側に繰り返し巡廻移動する回転押圧部材(加圧コロ)643と、回転押圧部材643の軸部643aが移動可能に嵌り込み、押圧部材643を押圧箇所となる吸引位置からチューブ644を押し潰さない吸引解除位置までガイドするガイド溝635を有する回転体である回転押圧部軸支部材631とを備えている。なお、回転押圧部軸支部材631は摺動軸受部652を介してポンプハウジング645に回転可能に装着されている。
【0090】
そして、回転押圧部軸支部材631を回転させて回転押圧部材643をガイド溝635に沿って移動させることにより、回転押圧部材643によるチューブ644の押圧箇所が移動し、回転押圧部材643の上流側内圧を減圧させてチューブ644の流路内に負圧を発生させ、チューブ644の流路内の液体を一端側から吸引して他端側から送り出すことができる。
【0091】
なお、チューブ644の材質は、弾性体で形成され、熱可塑性エラストマーを使用する。特に使用する熱塑性エラストマーとしては、例えば、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、フッ素樹脂系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらは、シリコーンチューブ等に比べて水蒸気透過が少なく、チューブ内部に残留するインクが乾燥により固化しにくくなり、画像形成装置における吸引ポンプの信頼性の向上を図れる。
【0092】
そして、このチューブポンプ600は、回転押圧部材643の円周方向の移動を規制し、回転押圧部軸支部材631と同軸に回転する回転範囲規制部材である押圧部材規制プレート636を備えている。なお、「円周方向の規制」とは、円周方向の移動を回転押圧部材643の軸643aと回転押圧部軸支部材631の軸部632の連れ回りを防止する範囲で規制するという意味である。これにより、回転押圧部材643が円周方向の所定の範囲内で回動することになり、所定位置以外に移動してしまうことを防止でき、ポンプの動作時及び解除時における信頼性の向上が図れるようになる。また、チューブ644の非回転方向への移動を規制するチューブ位置規制プレート639を備えている。
【0093】
ここで、回転押圧部軸支部材631は、図21に示すように、軸部632の中心から長さc(c>d)となる吸引動作位置に設けられた係止端部633と、軸部632の中心から長さdとなる吸引解除位置に設けられた係止端部634とを有するガイド溝635が設けられている。このガイド溝635内には回転押圧部材643の軸部643aが嵌め込まれる。
【0094】
押圧部材規制プレート636は、図22に示すように、回転押圧部材643の回転範囲を限定する(規制する)ため、ガイド端637、639、回転押圧部材643の可動領域650が設けられ、中央部には回転押圧部軸支部材631の軸部632が嵌り込む開口部638が形成されている。
【0095】
チューブ位置規制プレート639は、図23に示すように、プレート639の回転を規制する係止形状640及び641が設けられている。また、組み付け時にプレート639の表裏を規定するために一方向の面でしか組み付けできないよう、非対称形状42が設けられている。
【0096】
そして、このチューブポンプ600においては、図19に示すように、回転押圧部材643の回転範囲を規制する押圧部材規制プレート636が矢印Cの方向に回転したとき、つまり吸引動作時には、回転押圧部材643はチューブ644の押圧と解除を繰り返すとき押圧部材規制プレート636による可動領域650の中で可動領域端部637,639の範囲内で動作範囲が規制されながら回転することになる。
【0097】
また、図20に示すように、吸引動作の解除を行うために、回転押圧部軸支部材631が矢印Dの方向(矢印C方向と逆方向)に回転すると、回転押圧部材643は回転押圧部軸支部材631のガイド溝635に沿って係止端部634に移動して回転押圧部材643を保持する。
【0098】
したがって、このチューブポンプ600によれば、吸引動作時及び吸引動作の解除時、規制プレート(押圧部材規制プレート)によって回転押圧部材が円周方向の所定範囲内に保持され、所定範囲以外に移動してしまうことを防止できるので、チューブポンプの動作時における信頼性の向上が図れる。
【0099】
また、チューブ位置規制プレート639は、図18に示すように、押圧部材643の可動範囲を限定する押圧部材規制プレート636及びチューブ644の非回転方向への可動領域651において、チューブ644の非回転方向への移動を規制するする。
【0100】
この規制プレート639によってチューブ644の動きが規制され、回転押圧部軸支部材631のフランジ部653(ガイド溝635が形成された部位)に接触しないため、チューブ644の摩耗や負荷上昇が防止されるので、ポンプの信頼性を向上することができる。
【0101】
また、規制プレート639を安価で量産性の良い樹脂成型品で形成するとき、成型時にイジェクタピン跡やパーティングライン等の凹凸が発生し、この成型に伴う凹凸部とチューブ644が接触すると、チューブ644の摩耗や亀裂の原因になるため、規制プレート639を非対称形状642として表裏面の向きを規制することで、凹凸部がチューブ644に接触しない面になるように管理することができる。
【0102】
この点について、図25に示す比較例との関係において説明する。この比較例のチューブポンプにあっては、吸引動作を行うときには、同図(a)に示すように、中心軸711を中心に回転可能に保持される後部プレート712と前部プレート713の間に加圧コロ軸714と図示されない後部側の加圧コロ軸により回転可能に保持される一対の加圧コロ715が、前部プレート713及び後部プレート712が図示していないモータにより図中の矢印Eの方向に回転することによって、後部プレート712に設けられた後部プレート溝716と前部プレート713のガイド端717に沿って移動する。すると、加圧コロ715は前部プレートのガイド端717における中心軸711の中心から長さa(a>b)となる位置に設けられた係止端部718に係止された状態となって、その状態で更に回転されると、加圧コロ715の加圧面がハウジング721側の円形凹部(図示せず)に嵌め込まれたチューブ720を押し潰すようになる。よって、加圧コロ715によって潰されてチューブ720が圧縮された時に正圧が発生し、更に加圧コロ715が回転してチューブ720から離脱してチューブ720が潰された状態から開放されて元の状態に復元した時に生じる負圧により、インクの吸引動作(ポンピング動作)が行われる。
【0103】
そして、吸引動作を解除する際は、同図の(b)に示すように、前部プレート713及び後部プレート712を図中の矢印Fの方向(矢印Eと逆方向)に回転させて、加圧コロ715を後部プレート溝716とガイド端717に沿って移動させて、前部プレート713のガイド端717における中心軸711の中心から長さbとなる位置に設けられた係止端部719に係止される。この状態の加圧コロ715の加圧面はチューブ720に接しない、つまり加圧コロ715が退避したレリーズ状態になる。よって、吸引動作が解除されることになる。
【0104】
ところが、この比較例のチューブポンプにあっては、加圧コロ715とハウジング721との寸法公差が±0.1以下にしなければ加圧コロ715が自由に動いてしまうため、例えば吸引方向である矢印Eの方向に回転した時に加圧コロ715がチューブ720を押し潰さない位置、つまり係止端部719にまで逃げてしまって吸引不能になったり、加圧コロ715によりチューブ720が押圧されると、ポンプハウジング721内でチューブ720の位置が変わり、軸支部材側面に干渉すると、チューブの摩耗や軸支部材との干渉で回転負荷が大幅に増大することになる。
【0105】
これに対して、上記実施形態で説明したチューブポンプによれば、押圧部材規制部材によって回転押圧部材が円周方向の所定の位置に保持され、所定位置以外に移動してしまうことが防止されて、ポンプの動作時及び解除時における信頼性の向上が図れると共に、回転押圧部軸支部材とチューブの間にチューブ位置規制部材(スペーサ)を入れることにより軸支部材とチューブの接触が防止されて、負荷トルク低減とチューブ摩耗が防止されることで耐久性を向上することができる。
【0106】
次に、上述したチューブポンプを吸引ポンプ220に用いた維持回復機構によるヘッドメンテナンス動作の一例について図24を参照して説明する。
このヘッドメンテナンス動作では、対象ヘッド34を吸引位置に移動し、吸引キャップ82aを上昇させ、廃液タンク101の有無をチェックし、廃液タンク101が有れば、ヘッド吸引(ポンプ220駆動)を行う。このヘッド吸引中に廃液タンク101の離脱検出動作を行って、廃液タンク101の離脱が検出されたときには、ヘッド吸引を中止して、廃液タンク離脱検知シーケンスに移行する。そして、ヘッド吸引完了まで廃液タンク101の離脱が検出されなければ、吸引キャップ82aを下降し、ヘッド34のノズル面をワイパ部材83でワイピングする。
【0107】
その後、廃液タンク101の有無をチェックし、廃液タンク101が有れば、吸引ポンプ220を駆動して吸引キャップ82a内の廃液を排出する。この廃液排出中に、廃液タンク101の離脱検出動作を行って、廃液タンク101の離脱が検出されたときには、吸引ポンプ220の駆動を停止する。
【0108】
そして、廃液排出完了まで廃液タンク101の離脱が検出されなければ、吸引キャップ82a内へ空吐出を行う。
【0109】
その後、廃液タンク101の有無をチェックし、廃液タンク101が有れば、吸引ポンプ220を駆動して吸引キャップ82a内の廃液を排出する。この廃液排出中に、廃液タンク101の離脱検出動作を行って、廃液タンク101の離脱が検出されたときには、吸引ポンプ220の駆動を停止する。
【0110】
このようにして、廃液タンク101が離脱した状態での記録ヘッド34からのヘッド吸引を停止させることで、廃液タンク101が装着されずに廃液が装置内に流出するおそれを低減している。
【0111】
また、廃液タンク離脱検出シーケンスに遷移したときには、記録ヘッドのノズル面をワイピングする動作を行い、これにより記録ヘッドに付着した廃液を確実に除去し、記録ヘッドの信頼性を維持する。
【0112】
なお、本発明に係る画像形成装置は、インクジェットプリンタ以外にも、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機などにも適用することができる。さらに、インク以外の液体(記録液)、例えばレジスト、医療分野におけるDNA試料などを吐出させる画像形成装置などにも適用することができる。
【符号の説明】
【0113】
33…キャリッジ
34、34a、34b…記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
35…サブタンク
81…維持回復機構
82a…吸引及び保湿用キャップ
82b…保湿用キャップ
83…ワイパ部材
84…空吐出受け
101…廃液タンク
219…吸引チューブ
220…吸引ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクの液滴を吐出するノズルを有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドのノズル面をキャッピングするキャップと、
前記キャップに接続され、前記キャップ内のインクの廃液を排出方向に案内するチューブ部材と、
前記チューブ部材内に前記廃液を吸引する吸引力を発生する吸引ポンプと、
前記チューブ部材が直接接続され、前記廃液を保持する略密閉された廃液タンクと、を備え、
記録動作を行う前に前記記録ヘッドから前記キャップに対して記録に寄与しない液滴の吐出を行ない、記録動作の終了後に前記キャップ内の廃液を前記チューブ部材内で一時的に貯留した後、前記廃液タンクに排出する
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置において、前記キャップ内に吐出されるインク量に応じた前記吸引ポンプの駆動量で前記キャップ内から前記チューブ内に吸引させることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の画像形成装置において、前記記録ヘッドの維持回復動作を行うときには、予め前記チューブ部材内に保持されている廃液をすべて前記廃液タンクに排出する排出動作を行うことを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の画像形成装置において、電源オフが指示されたときには、電源オフの前に前記チューブ部材内に保持されている廃液をすべて前記廃液タンクに排出する排出動作を行うことを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の画像形成装置において、所定時間が経過する毎に前記チューブ部材内に保持されている廃液をすべて前記廃液タンクに排出する排出動作を行うことを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の画像形成装置において、環境温湿度に応じて設定した時間が経過したときに前記チューブ部材内に保持されている廃液をすべて前記廃液タンクに排出する排出動作を行うことを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項6ないし7のいずれかに記載の画像形成装置において、前記チューブ部材内に保持されている廃液をすべて前記廃液タンクに排出する排出動作の履歴に係る情報を管理し、排出動作を行わないまま電源がオフされたときには、次の電源オン時に前記排出動作を行うことを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項1ないし8のいずれかに記載の画像形成装置において、前記廃液タンクが前記チューブ部材に対して着脱可能であって、前記チューブ部材内に保持されている廃液を前記廃液タンクに排出しているときに、前記廃液タンクが前記チューブ部材から離脱された時には前記廃液を排出する動作を停止することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−780(P2010−780A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80738(P2009−80738)
【出願日】平成21年3月29日(2009.3.29)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】