説明

発光素子の製造方法

【課題】 スクライブ溝の形成にレーザを用いながらも、汚染物除去時に出射面が損傷されにくい発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 個々の発光素子1を分離するためのスクライブ溝STをレーザを用いて形成する工程の前に、結晶成長用基板2において発光層3の光が出射する出射面を覆う保護膜7を設ける。スクライブ溝STの形成時に形成された汚染物CMを除去する工程では、出射面の凹凸構造は保護膜7により保護されるから損傷されにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3族窒化物半導体からなる発光層を有する発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばサファイアからなる結晶成長用基板に、3族窒化物半導体からなる発光層を設けた発光素子が提供されている。
【0003】
ところで、通常、半導体プロセスでは、一枚のウェーハに複数個の素子の構造を形成し、最終的にダイシングによって個々の素子を分離する。しかし、上記の発光素子では、結晶成長用基板の材料の硬度が高く、例えばサファイアの場合にはモース硬度が略9に及ぶ。このため、一般に用いられるダイシングソーやスクライバによって切断しようとすると、分離時のチッピングやクラックにより歩留まりが悪くなる可能性がある。このようなチッピングやクラックの発生を抑えて歩留まりの悪化を防ぐためには、予め結晶成長用基板の厚さ寸法が100μm程度になるまで研磨する必要があり、製造コストが比較的に高くなってしまう。
【0004】
そこで、レーザを用いて結晶成長用基板にスクライブ溝を設け、このスクライブ溝に沿ってウェーハを割る(ブレイクする)ことにより個々の発光素子を分離することが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。この方法であれば、研磨を行わずともチッピングやクラックが発生しにくいから、製造コストを低減することができる。
【特許文献1】特開平10−321908号公報
【特許文献2】特開2004−165226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、レーザを用いる上記方法では、結晶成長用基板の溶融・再固化により生じたアルミナなどの非透明な汚染物が結晶成長用基板上に付着するため、特に発光層の光を結晶成長用基板を通じて出射させる発光素子では光取り出し効率が低下してしまう。
【0006】
特許文献2に記載されているようなブラスト加工やエッチングによって上記汚染物を除去することも可能ではある。しかし、近年では、光の出射面に微細な凹凸を設けて透過率を向上させることにより光取り出し効率を向上することが行われており、上記汚染物を除去する工程において上記微細な凹凸が損なわれたり不均一となることは、光取り出し効率の低下につながる上に、同じウェーハに形成された発光素子間で発光効率にばらつきが生じることになるから好ましくない。
【0007】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、スクライブ溝の形成にレーザを用いながらも、汚染物除去時に出射面が損傷されにくい発光素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、透光性を有する結晶成長用基板の一面に3族窒化物半導体からなる発光層が設けられてなり、結晶成長用基板において発光層が設けられた面の反対面を、発光層の光が出射する出射面とした発光素子の製造方法であって、発光層が設けられた結晶成長用基板の少なくとも出射面に凹凸を設ける凹凸形成工程と、発光層が設けられた結晶成長用基板の少なくとも出射面上に保護膜を形成する保護膜形成工程と、出射面に保護膜が形成された結晶成長用基板に、ダイシング用のスクライブ溝をレーザにより形成するスクライブ溝形成工程と、スクライブ溝形成工程においてスクライブ溝の内面に付着した汚染物を除去する汚染物除去工程と、汚染物除去工程後に保護膜を除去する保護膜除去工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、保護膜を設けたことにより、スクライブ溝形成工程における汚染物が出射面に付着しにくくなり、且つ汚染物除去工程において出射面が損傷されにくい。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、スクライブ溝形成工程において、波長が紫外領域に属する第1のレーザと、第1のレーザよりも単位時間当たりのエネルギーが低く且つ第1のレーザよりも結晶成長用基板に吸収されやすい第2のレーザとを用いることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、第2のレーザによって結晶成長用基板に形成される多孔質や非晶質等の不透明な構造により第1のレーザが吸収されやすくなるから、第1のレーザのエネルギーを有効に利用し、発光層への熱の影響を低減することができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、スクライブ溝の深さ寸法を、結晶成長用基板の厚さ寸法の30%〜90%とすることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において、スクライブ溝形成工程において、形成されるスクライブ溝の内面の出射面に対してなす角が15°〜75°となるように、レーザを出射面に対して斜め向きに入射させることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、結晶成長用基板の切断面が発光層に対して斜め向きとなるから、発光層の光が切断面から出射しやすくなるので、光の利用効率が向上する。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかの発明において、凹凸形成工程として、結晶成長用基板よりも凹凸を設けやすい加工膜を結晶成長用基板の少なくとも出射面上に設ける加工膜形成工程と、加工膜に凹凸を設ける加工膜成形工程と、加工膜成形工程後に、エッチングにより加工膜の凹凸に応じた凹凸を結晶成長用基板の出射面に設ける転写工程とを、それぞれ保護膜形成工程の前に備えることを特徴とする。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1〜4のいずれかの発明において、汚染物除去工程の前に保護膜に凹凸を形成する保護膜成形工程を備え、汚染物除去工程は、汚染物を除去する手段によって保護膜の凹凸に応じた凹凸が結晶成長用基板に形成される凹凸形成工程でもあることを特徴とする。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれかの発明において、保護膜はシリコーン樹脂からなり、保護膜の形成は塗布によってなされることを特徴とする。
【0018】
請求項8の発明は、請求項1〜4のいずれかの発明において、保護膜は金属からなることを特徴とする。
【0019】
請求項9の発明は、請求項1〜8のいずれかの発明において、汚染物除去工程は、出射面にブラスト加工用の粒子を吹き付けるブラスト加工工程と、ブラスト加工工程後に残存したブラスト加工用の粒子を気流によって吹き飛ばす吹き飛ばし工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、吹き飛ばし工程を備えることにより、ブラスト加工用の粒子が結晶成長用基板上に残存しにくい。
【0021】
請求項10の発明は、請求項1〜6のいずれかの発明において、保護膜は結晶成長用基板及び発光層を覆うように設けられ、汚染物除去工程はエッチング液への浸漬により行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、出射面を覆う保護膜を形成する保護膜形成工程をスクライブ溝形成工程の前に備えることにより、スクライブ溝形成工程における汚染物が出射面に付着しにくくなり、且つ汚染物除去工程において出射面が損傷されにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
本実施形態において製造される発光素子1は、図2に示すように、透光性を有する材料からなる結晶成長用基板2上に、3族窒化物半導体からなる発光層3と電極41,42とが、緩衝層5を介して形成されてなる。
【0025】
結晶成長用基板2の材料としては、サファイア(Al)、シリコン(Si)、炭化珪素(SiC)、スピネル(MgAl)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)の他、窒化ガリウム(GaN)を始めとする3族窒化物半導体を用いることができる。緩衝層5は、結晶成長用基板2と発光層3との中間の格子定数を有する材料からなる。
【0026】
発光層3を構成する3族窒化物半導体の組成は、一般に、x+y+z+u=1となるx、y、z、uを用いて、AlInGaNと表される。また、発光層3は、緩衝層5上に形成されn型の電極41が設けられたn型クラッド層31と、p型の電極42が設けられたp型クラッド層32と、n型クラッド層31とp型クラッド層32との間に介在する活性層33とを有する。さらに、活性層33における電子−正孔再結合を促進して内部量子効率を向上するためのクラッド層を、活性層33とクラッド層31,32との間に追加することもある。発光層3は、有機金属気層成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)、分子線エピタキシャル成長法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)、ハライド気層成長法(Hydride Vapor. Phase Epitaxy:HVPE)、液層成長法(Liquid Phase Epitaxy:LPE)などの方法を用いたエピタキシャル成長により形成される。p型クラッド層は例えばSiをドーピングすることにより形成され、n型クラッド層は例えばMgをドーピングすることにより形成されている。活性層33は、例えば波長440〜490nmの青色光を生じるものの場合、GaN障壁層とInGaN井戸層とが交互に積層された単一又は多重量子井戸構造を有する。
【0027】
また、発光素子1は発光層3及び電極41,42を実装面(図示せず)に向けてフェースダウン実装され、発光層3の光を結晶成長用基板2を通じて実装面の反対側へ出射させるものであって、結晶成長用基板2において発光層3が設けられた面の反対面、すなわち発光層3の光が主に出射する面(以下、「出射面」と呼ぶ。)には、微細な凹凸を設けている。このように出射面に凹凸を設ければ、出射面の透過率が向上して光取出し効率が向上する。図2の発光素子1においてd=p/2とし結晶成長用基板2の材料としてサファイア(屈折率1.77)を用いた場合における回折光に関し、凹凸のピッチpと、結晶成長用基板2から空気への光取り出し効率との関係を図3に示す。ピッチp及び高低差dは、それぞれ0.1μm〜10μmの範囲であることが望ましい。本発明者は、高低差dすなわち深さが1.5μmの逆角錐形状の凹部を3μmのピッチpで設けることにより、凹凸を設けない場合に比べて光取出し効率を約1.2倍とした発光素子1を得ることに成功している。凹凸のピッチpは、発光層3が発する光の波長をλとするとλ/4〜10λとする。ピッチpが5λ〜10λであれば入射角が臨界角以下となる出射面の面積の増大により、ピッチpがλ〜5λであれば入射角が臨界角以上である光が回折光として出射する効果により、ピッチpがλ/4〜λであれば発光素子1を封止する封止材又は外気と結晶成長用基板2との中間の屈折率を有する層を出射面上に設けるのと同様の効果が得られることにより、それぞれフレネル反射が低減されて光取り出し効率が向上する。
【0028】
第1の媒質M1(屈折率n)と第2の媒質M2(屈折率n)とが接する界面であって通過する光の波長に対して適度なピッチで粗面化された界面について、凹凸を平均した面に平行なある断面において第2の媒質M2が占める比率をrとおくと、該断面近傍での有効屈折率は、TE波に対して次の<n>となり、TM波に対して次の<n>となる。
【0029】
【数1】

【0030】
【数2】

【0031】
すなわち、粗面化された界面の凹凸を平均した面に平行な断面において一方の媒質M1が占める比率が、他方の媒質M2側に向かって徐々に小さくなるように、例えば界面の凹凸を三角波形状や円錐形状とすれば、有効屈折率が徐々に変化することになるから、例えば凹凸が矩形波形状や円柱形状であって上記比率が急激に変化する場合に比べ、上記界面での反射率がより低減される。
【0032】
(実施形態1)
本実施形態での発光素子1の製造方法について図1(a)〜(e)を参照しながら説明する。なお、以下では、活性層33や緩衝層5の図示は省略している。
【0033】
本実施形態は、発光素子1の複数個分の面積を有する結晶成長用基板2のウェーハに、複数個の発光素子1に相当する構造を形成した後に、個々の発光素子1を分離させるものである。
【0034】
まず、図1(a)に示すように、複数個の発光素子1に相当する面積を有する結晶成長用基板2に、発光層3と電極41,42とを複数個分形成し、さらに出射面に凹凸を形成する。出射面に凹凸を形成する方法としては、例えばナノインプラントリソグラフィー(NIL)を用いることができる。すなわち、図4(a)に示すように平坦な出射面上に、図4(b)に示すように加工膜6を設け、所望の凹凸が設けられたモールドMOを押し付けることによって図4(c)に示すように加工膜6に凹凸を転写し、次に例えば塩素系ガスによるエッチングを行うことで図4(d)に示すように加工膜6の凹凸を出射面に転写する。加工膜6の厚さは例えば1μmとする。また、加工膜6の材料としては、例えば熱可塑性樹脂や紫外線硬化樹脂のように熱や光によって硬度が変化する物質を用い、具体的には、フォトレジストとして用いられているようなポリマー系の皮膜材料を用いることができる。加工膜6を形成する方法としては、例えば遠心塗布(スピンコート)を用いることができる。熱可塑性樹脂を用いる場合は、凹凸の転写前に加熱して軟化させ、モールドMOを押し付けながら温度を下げて硬化させることによりモールドMOの凹凸を加工膜6に転写する。また、紫外線硬化樹脂を用いる場合、凹凸の転写後に紫外線を照射して硬化させる。
【0035】
次に、図1(b)に示すように出射面上に保護膜7を形成する。保護膜7の材料としては、例えば次表に示す合成樹脂を用いることができる。ここで、保護膜7の不要な蒸発を抑えるため、保護膜7の材料はレーザによる蒸発が可能な範囲内でなるべく熱的に安定であることが望ましい。また、保護膜7は、後述する汚染物除去工程で出射面の凹凸構造を保護するため、汚染物除去工程で汚染物CMを除去する手段に対して十分な耐久性を有している必要があり、例えば汚染物除去工程でブラスト加工を用いる場合には保護膜7は高い弾性を有することが望ましい。以上の条件を満たす材料としては、成形可能な硬度となる温度(加工変形温度)が180℃以上と熱的に安定であって、10kg/cm以上の高い弾性係数を有するシリコーン樹脂がある。
【0036】
【表1】

【0037】
保護膜7を形成する方法としては、図5(a)に示すようにシリコーン樹脂SRの塊を出射面の中央部に配置し、結晶成長用基板2を図5(a)の上方から見た面内で例えば3000rpmで20秒程度回転させ、遠心力により図5(b)(c)のように出射面上にシリコーン樹脂SRを均一に広げる遠心塗布を用いることができる。
【0038】
次に、図1(c)に矢印で示すように出射面にレーザを照射することによりスクライブ溝STを形成する。スクライブ溝STの深さ寸法は、後のブレーキングでの発光素子1の分離を容易とするために結晶成長用基板2の厚さ寸法の30%以上とすることが望ましく、且つ発光層3に与える影響を抑えるように結晶成長用基板2の厚さ寸法の90%以下とすることが望ましい。例えば、結晶成長用基板2の材料がサファイアであって厚さ寸法が350μmの場合、波長355nmのTHG−YAGレーザを、出力2.5W、周波数10kHz、パルス幅30ns、走査速度1mm/secで照射すれば、深さ寸法が約300μmのスクライブ溝STを形成することができる。スクライブ溝STの幅寸法は、例えば50μm程度とする。
【0039】
次に、スクライブ溝STの形成時に生じたアルミナ等の汚染物CMを除去する。汚染物CMを除去する方法としては、例えばブラスト加工を用いることができる。具体的には例えば、吹き付けられるブラスト加工用の粒子(以下、「ブラスト粒子」と呼ぶ。)としてアルミナ粒子を用い、ブラスト粒子を吹き付ける圧力を0.5Mpaとする。ブラスト粒子の粒径はスクライブ溝STの幅寸法に応じて適宜選択すればよく、例えばスクライブ溝STの幅寸法が50μmである場合には平均粒径を20μmとする。ブラスト粒子が均一に照射されるように、ブラスト加工中は結晶成長用基板2を出射面に平行な面内で回転させることが望ましい。このときの結晶成長用基板2の回転速度は、例えば12rpmとする。ブラスト粒子の材料としては、結晶成長用基板2を加工するのに十分なモース硬度(結晶成長用基板2の材料としてサファイアを用いる場合はモース硬度9以上)を持った物質であれば何でもよく、例えばSiCを用いてもよい。また、ブラスト粒子は、出射面に直交する方向から吹き付けてもよいし、出射面に対して斜め方向から吹き付けてもよい。さらに、上記ブラスト加工工程の後には、結晶成長用基板2上に残存するブラスト粒子を空気などの気体の吹き付けにより吹き飛ばす吹き飛ばし工程を設けることが望ましい。本発明者の実験によれば、5秒間のブラスト加工工程と5秒間の吹き飛ばし工程とを交互に数回繰り返した結果、汚染物CMとブラスト粒子とを共に略完全に除去することに成功した。
【0040】
次に、図1(d)に示すようにスクライブ溝STに沿って結晶成長用基板2を割ることによって個々の発光素子1を分離させる。
【0041】
最後に、保護膜7を除去し、ここにおいて図1(e)に示すように発光素子1が完成する。保護膜7の材料としてシリコーン樹脂を用いた場合、例えばピンセット(図示せず)を用いて剥離させることにより容易に保護膜7を除去することができる。
【0042】
上記構成によれば、出射面の凹凸を覆う保護膜7を形成する保護膜形成工程を、スクライブ溝形成工程の前に備えることにより、出射面が保護膜7によって保護されるから、スクライブ溝形成工程において生じた汚染物CMが出射面に付着しにくく、且つ汚染物除去工程において出射面の凹凸構造が損傷されにくい。従って、保護膜7を設けない場合に比べ、光の利用効率を向上することができる。また、出射面の凹凸の均一性を汚染物除去工程の前後で維持することができるから、発光素子1間での発光効率のばらつきを抑えることができる。
【0043】
また、スクライブ溝STの形成にパルスレーザを用いたことにより、スクライブ溝STの内面には凹凸が形成されており、この凹凸が汚染物除去工程後にもある程度残存することにより、結晶成長用基板2において出射面だけでなく切断面(図1(e)の左右両面)にも凹凸が生じて透過率が向上しているから、光の利用効率が向上している。スクライブ溝形成工程におけるレーザの走査速度を一定とすることにより、上記の凹凸のピッチは均一とすることができる。
【0044】
なお、保護膜7としては、モリブデンやステンレスなどの金属の厚膜を用いてもよい。この場合、スクライブ溝STを設ける位置において結晶成長用基板2を露出させる溝(図示せず)を、予めリソグラフィにより保護膜7に設けておく。
【0045】
又は、保護膜7として、結晶成長用基板2に対して着脱可能な金属板を用いてもよい。例えば、保護膜7として厚さ300μmのモリブデンの板を用い、図6のように保護膜7を結晶成長用基板2の出射面(図6の上面)に金具MFで押え付けることによって固定する。また、保護膜7においてスクライブ溝STに対応する位置にはスクライブ溝STの幅寸法に応じてスリット71を設けておき、スクライブ溝形成工程ではこのスリット71にレーザを通す。例えば、幅寸法が100μmのスリット71を、1000μmのピッチで設けておく。汚染物除去工程をブラスト加工によって行う場合、保護膜7の材料としては例えばモリブデンやステンレスのようなモース硬度が5以上の材料を用い、保護膜7の厚さを100μm以上とすれば十分な機械的強度を得ることができる。上記の保護膜7を用いて、格子状のスクライブ溝STを設けるに当たっては、スクライブ溝形成工程と汚染物除去工程とを、保護膜7の向きを変えて2回ずつ行う。この構成を採用すれば、保護膜7を複数回使用することができ、保護膜7の除去も容易となる。
【0046】
また、スクライブ溝形成工程において、2種類のレーザを組み合わせて用いてもよい。例えば、高い出力を得やすい第1のレーザと、第1のレーザよりも結晶成長用基板2に吸収されやすい第2のレーザとを組み合わせて用いる。第1のレーザとしては、既に述べたTHG−YAGレーザを用いることができる。第2のレーザとしては、結晶成長用基板2に対し第1のレーザよりも吸収されやすい波長を有するレーザ、もしくはパルス幅が1fs〜100psの短パルスレーザを用いることができる。前者の具体例としては、一般に透光材料は波長が短いほど吸収しやすいので、例えばArFレーザ(波長213nm)、F2レーザ(波長157nm)、FHG−YAGレーザ(波長266nm)、5倍波YAGレーザ(波長213nm)、固体レーザの高調波レーザなどが挙げられる。また、後者の具体例としては、Tiサファイアレーザなどの固体レーザやこれらの高調波レーザなどの波長変換レーザが挙げられる。この構成を採用すれば、第2のレーザによるアブレーションによって多孔質や非晶質などの被透明な構造を形成し、第1のレーザが吸収されやすくすることにより、第1のレーザの利用効率を向上させることができる。従って、第1のレーザの出力を維持しながらも結晶成長用基板2を透過する第1のレーザを低減して発光層3の劣化を抑えることや、第1のレーザによる発光層3への影響の程度を維持しながらも第1のレーザの出力を向上してスクライブ溝STの形成速度を向上し生産性を向上することができる。また、第1のレーザとしてTHG−YAGレーザを用い、第2のレーザとしてTi−サファイアレーザを用いた場合、図7の構成を採用することができる。図7の構成では、第1のレーザを発振する第1のレーザ発振器LO1と、第2のレーザを発振する第2のレーザ発振器LO2と、第2のレーザを反射する第2の反射鏡MR2と、第2のレーザを透過させて第1のレーザを反射するダイクロイックミラーからなる第1の反射鏡MR1と、第1のレーザ及び第2のレーザを結晶成長用基板2の出射面上に集光する集光レンズLEとを、第1の反射鏡MR1で反射され第2の反射鏡MR2を通過した第1のレーザの光軸と、第2の反射鏡MR2によって曲がった第2のレーザの光軸と、集光レンズLEの光軸とが一致するように配置し、スクライブ溝STの形成には集光レンズLEを通過したレーザ光を用いている。図7の構成を採用すれば、2個のレーザ発振器LO1,LO2を用いながらも、1個のレーザ発振器のみを用いる場合と同様の精度でスクライブ溝STを形成することができる。この場合、例えば第1のレーザの出力を2Wとし、第2のレーザの出力を0.2Wとする。もちろん、結晶成長用基板2の出射面に対して第1のレーザと第2のレーザとを互いに異なる方向から入射させてもよい。
【0047】
さらに、図8(a)に一点鎖線で示すように出射面に対して斜め2方向からレーザを照射することにより、スクライブ溝STを断面V字形状としてもよい。このようにすれば、図8(b)に示すように出射面に平行な断面を出射面に近い位置ほど小さくする方向に切断面が傾斜する。すると、図9(a)に示すように切断面が出射面に対して直交する場合に比べ、図9(a)(b)にそれぞれ矢印で示す発光層3の光が臨界角以下の角度で切断面に入射しやすくなるから、図9(b)に示すように発光層3の光が切断面から出射しやすくなる。これにより、図9(a)(b)に破線で示す配光が出射面の向けられた方向へ対してより多くなる。この場合、レーザの向きと出射面とがなす角度θは、大きすぎると角度θを90°とする場合との差が小さく、小さすぎるとスクライブ溝STの深さを得にくい上にスクライブ溝STから離れた位置の発光層3にまでレーザの影響が及びやすくなるため、15°〜75°とすることが望ましく、45°〜60°とすることがさらに望ましい。本発明者は、上記の角度θを45°とすることにより、上記の角度θを90°としたものに比べて光取り出し効率を1.7倍とした発光素子1を得ることに成功している。
【0048】
また、汚染物除去工程において汚染物CMを除去する手段としては、ブラスト加工に代えてウェットエッチングを用いてもよい。この場合は、保護膜7は結晶成長用基板2の出射面だけでなく発光層3や電極41,42を含めた全体を覆うように設け、エッチング液に浸漬することにより汚染物CMを除去する。保護膜7の材料としてはフッ素樹脂のような耐食性の高い合成樹脂を用いることができ、エッチング液としては例えばフッ酸のような酸性溶液を用いることができる。条件としては、例えば5%のフッ酸水溶液に5分程度浸漬する。
【0049】
(実施形態2)
本実施形態によって製造される発光素子1は実施形態1と同様のものであるので詳細な説明は省略する。
【0050】
本実施形態では、図10(a),(b)に示すように、出射面に凹凸を設ける前に保護膜7を設けており、汚染物CMを除去する工程の前に、図10(c)に示すように保護膜7に凹凸を設ける工程を有する。そして、ブラスト加工によって汚染物CMを除去するとともに保護膜7の凹凸に応じた凹凸を出射面に設け、図10(d)に示すように個々の発光素子1を分離した後、図10(e)に示すように保護膜7を除去している。具体的には、保護膜7の凹凸の形成は、図10(c)に下向きの細い矢印で示すようにレーザを照射して複数個の凹部乃至貫通穴を保護膜7に形成することにより、スクライブ溝STの形成とともに行うことができる。このレーザは、出射面への影響を抑えるように、下向きの太い矢印で示すスクライブ溝STを形成するレーザよりも、出力を低くしたり走査速度を高くしたりする。例えば、保護膜7の凹部や貫通穴を形成するレーザは、出力を0.5W、走査速度を10mm/sとする。また、保護膜7の凹凸のピッチは例えば5μmとする。
【0051】
上記構成によれば、汚染物CMを除去する工程と同時に、出射面には保護膜7の凹凸に応じた凹凸が形成されるから、汚染物CMを除去する工程後の出射面の凹凸の均一性は損なわれにくい。
【0052】
なお、実施形態1において示した保護膜7の形成方法や、レーザの照射方法や、ブラスト加工の方法は、本実施形態でも採用することができる。
【0053】
また、実施形態1及び本実施形態において、スクライブ溝STを用いた個々の発光素子1の分離は、汚染物除去工程の後、保護膜除去工程の前に行っているが、汚染物除去工程の前や保護膜除去工程の後に行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態を示す説明図であり、(a)〜(e)はそれぞれ異なる段階を示す。
【図2】本発明により製造される発光素子を示す断面図である。
【図3】縦軸に光取り出し効率をとり、横軸に出射面の凹凸のピッチをとったグラフである。
【図4】出射面に凹凸を設ける方法の一例を示す図であり、(a)〜(d)はそれぞれ異なる工程を示す。
【図5】同上において保護膜を設ける方法の一例を示す図であり、(a)〜(c)はそれぞれ異なる工程を示す。
【図6】同上において保護膜を設ける方法の別の例を示す説明図である。
【図7】同上のスクライブ溝形成工程におけるレーザの照射方法の一例を示す説明図である。
【図8】(a)は同上のスクライブ溝形成工程におけるレーザの照射方法の別の例を示す説明図であり、(b)は(a)の方法によって形成される発光素子の形状を示す断面図である。
【図9】図8(a)の照射方法による効果を示す図であり、(a)はスクライブ溝形成工程におけるレーザを出射面に直交する方向から照射した例を示し、(b)はスクライブ溝形成工程におけるレーザを出射面に対して斜め方向から照射した例を示す。
【図10】本発明の実施形態2を示す図であり、(a)〜(e)はそれぞれ異なる工程を示す。
【符号の説明】
【0055】
1 発光素子
2 結晶成長用基板
3 発光層
6 加工膜
7 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する結晶成長用基板の一面に3族窒化物半導体からなる発光層が設けられてなり、結晶成長用基板において発光層が設けられた面の反対面を、発光層の光が出射する出射面とした発光素子の製造方法であって、
発光層が設けられた結晶成長用基板の少なくとも出射面に凹凸を設ける凹凸形成工程と、
発光層が設けられた結晶成長用基板の少なくとも出射面上に保護膜を形成する保護膜形成工程と、
出射面に保護膜が形成された結晶成長用基板に、ダイシング用のスクライブ溝をレーザにより形成するスクライブ溝形成工程と、
スクライブ溝形成工程においてスクライブ溝の内面に付着した汚染物を除去する汚染物除去工程と、
汚染物除去工程後に保護膜を除去する保護膜除去工程とを備えることを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項2】
スクライブ溝形成工程において、波長が紫外領域に属する第1のレーザと、第1のレーザよりも単位時間当たりのエネルギーが低く且つ第1のレーザよりも結晶成長用基板に吸収されやすい第2のレーザとを用いることを特徴とする請求項1記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
スクライブ溝の深さ寸法を、結晶成長用基板の厚さ寸法の30%〜90%とすることを特徴とする請求項1又は2記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
スクライブ溝形成工程において、形成されるスクライブ溝の内面の出射面に対してなす角が15°〜75°となるように、レーザを出射面に対して斜め向きに入射させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の発光素子の製造方法。
【請求項5】
凹凸形成工程として、
結晶成長用基板よりも凹凸を設けやすい加工膜を結晶成長用基板の少なくとも出射面上に設ける加工膜形成工程と、
加工膜に凹凸を設ける加工膜成形工程と、
加工膜成形工程後に、エッチングにより加工膜の凹凸に応じた凹凸を結晶成長用基板の出射面に設ける転写工程とを、
それぞれ保護膜形成工程の前に備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の発光素子の製造方法。
【請求項6】
汚染物除去工程の前に保護膜に凹凸を形成する保護膜成形工程を備え、
汚染物除去工程は、汚染物を除去する手段によって保護膜の凹凸に応じた凹凸が結晶成長用基板に形成される凹凸形成工程でもあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の発光素子の製造方法。
【請求項7】
保護膜はシリコーン樹脂からなり、保護膜の形成は塗布によってなされることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の発光素子の製造方法。
【請求項8】
保護膜は金属からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の発光素子の製造方法。
【請求項9】
汚染物除去工程は、出射面にブラスト加工用の粒子を吹き付けるブラスト加工工程と、ブラスト加工工程後に残存したブラスト加工用の粒子を気流によって吹き飛ばす吹き飛ばし工程とを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の発光素子の製造方法。
【請求項10】
保護膜は結晶成長用基板及び発光層を覆うように設けられ、汚染物除去工程はエッチング液への浸漬により行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−142277(P2007−142277A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336186(P2005−336186)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】