説明

発光素子用基板および発光素子

【課題】非極性基板または半極性基板を用いた発光素子において、発光端面の平坦性を向上させ、発光波長を緑色領域まで長波長化させる。
【解決手段】発光素子の基板となる、非極性AlInGaN基板において、AlInGaN混晶組成をAl(x)In(y)Ga(1−x−y)N、0≦x≦1、0≦y≦1と表すとき、点(x,y)をA点(0.68,0.32)、B点(0.19,0.17)、C点(0.16,0.55)およびD点(0.38,0.62)を頂点とする四角形の領域内にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光増幅器、発光ダイオード、半導体レーザなどの発光素子に用いられる基板、および当該基板を用いた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
高輝度青色発光ダイオード(LED)の実現以来、紫外〜可視光領域の発光デバイスの材料として、窒化物半導体が非常に注目されている。これまでに発光ダイオードとしては、青色、緑色、白色が実用化されており、たとえば、交通信号、各種インディケーター、イルミネーション、液晶バックライトなどに使用されている。さらに、この材料を用いた半導体レーザについても開発が進み、これまでに、青紫色と純青色のレーザが開発されており、それぞれ次世代DVD(Blu−ray)用光源、およびフルカラーディスプレイに実用化されつつある。ところが、このように技術が進展している中で、光の三原色の1つである緑色の半導体レーザが未だに実現されておらず、これが「Green Gap Problem」という言葉の由来となっている。
【0003】
緑色の半導体レーザを実現するためには、青色半導体レーザの発光層に用いられているIn(x)Ga(1−x)NのIn組成(x)を大きくしていくことが最も簡単なアプローチである。しかし、InGaN発光層のIn組成を大きくしていくと、ピエゾ電界と呼ばれる発光層内部の電界が発生し、これが発光層での発光効率を著しく低下させてしまい、緑色レーザの実現を阻む要因となっている。この「電界」の問題を解決する方法として、従来とは異なる結晶面方位の基板上に素子を作製することが提案されている。具体的には、従来用いられていたGaN(0001)面(C面)の基板に代えて、ピエゾ電界の抑制のために、非極性面あるいは半極性面と呼ばれるカテゴリーの基板面方位を用いるという提案がなされている。ここで、非極性面とはC面に垂直な面であり、半極性面とはC面から40〜65度傾いた面をいう。
【0004】
これらの面方位を用いると、理論上、ピエゾ電界は大幅に低減することが予測されている。最近、実際に非極性面(m面)上に形成された青色レーザにおいても、ピエゾ電界が大幅に抑制されていることを示唆する結果が得られている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Applied Physics Express 1 (2008) 011102
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載の半導体レーザの構成を用いても緑色のレーザは実現されていない。この原因の1つに、レーザの共振器ミラー端面の平坦性が挙げられる。非極性面GaN基板上にレーザ素子を作製した場合に、レーザの光学利得を大きく得るためには、c軸に平行に共振器ストライプを形成する必要がある。これは、共振器ミラー端面をC面にすることを意味するが、C面は電荷中性面ではないために、容易に劈開することはできず、たとえ劈開できたとしても理想的に平坦なミラー面を形成することが難しいためである。
【0006】
これまでに報告された非極性面上レーザでは、通常、共振器ミラーはC面となっているが、このレーザを緑色領域まで長波長化できないのは、C面共振器ミラーの平坦性を確保できないのが原因であると考えられる。上述の議論は、半極性基板上のレーザ素子においても、ほぼ同様に当てはまり、平坦な共振器ミラー面を形成することが難しいという状況になっている。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、非極性基板または半極性基板を用いた発光素子において、発光端面の平坦性を向上させ、発光波長を緑色領域まで長波長化する技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、発光素子用基板である。当該発光素子用基板は、混晶組成をAl(x)In(y)Ga(1−x−y)N、0≦x≦1、0≦y≦1と表すとき、点(x,y)がA点(0.68,0.32)、B点(0.19,0.17)、C点(0.16,0.55)およびD点(0.38,0.62)を頂点とする四角形の領域内に位置する非極性AlInGaN混晶基板を備えることを特徴とする。
【0009】
この態様によれば、発光素子を形成する場合に、発光端面を電荷中性面とすることができる。電荷中性面は、容易に劈開することができ、C面に比べて平坦性を向上させることができる。この結果、発光素子の発光波長を緑域領域にまで長波長化することが可能となる。また、発光層における歪みが抑制されるため、発光層の結晶構造を良好に維持した状態で結晶成長させることができる。
【0010】
上記態様の発光素子用基板において、点(x,y)がA’点(0.3,0.2)、B点(0.19,0.17)、C点(0.16,0.55)およびD’点(0.3,0.59)を頂点とする四角形の領域内に位置していてもよい。
【0011】
本発明の他の態様は、発光素子用基板である。当該発光素子用基板は、混晶組成をAl(x)In(y)Ga(1−x−y)N、0≦x≦1、0≦y≦1と表すとき、点(x,y)がE点(0.69,0.31)、F点(0.16,0.15)、G点(0,0.27)、H点(0,0.5)およびI点(0.39,0.61)を頂点とする五角形の領域内に位置する半極性AlInGaN混晶基板を備えることを特徴とする。
【0012】
上記態様の発光素子用基板において、点(x,y)がE’点(0.3,0.19)、F点(0.16,0.15)、G点(0,0.27)、H点(0,0.5)およびI’点(0.3,0.58)を頂点とする五角形の領域内に位置していてもよい。
【0013】
本発明のさらに他の態様は、発光素子である。当該発光素子は、上述したいずれかの態様の発光素子用基板と、発光素子用基板の上に形成され、n型クラッド層とp型クラッド層との間に設けられた量子井戸構造で構成される発光層と、を備える。
【0014】
上記態様の発光素子において、発光層からの発光の偏光の光学利得が、基板面内でc軸に垂直な方向より、c軸を基板面に投影した方向の方が強く、発光層からの発光が出射される発光端面がc軸を基板面に投影した方向と平行であってもよい。
【0015】
本発明のさらに他の態様は、発光素子である。当該発光素子は、主表面が非極性面または半極性面であり、混晶組成がAl(x)In(y)Ga(1−x−y)N、0≦x<1、0<y<1、x+y<1と表されるAlInGaN混晶基板と、AlInGaN混晶基板の上に形成され、n型クラッド層とp型クラッド層との間に設けられた量子井戸構造で構成される発光層と、を備え、発光層の歪みが−2%〜+2%であり、発光層の発光端面が電荷中性面である。
【0016】
この態様によれば、発光素子の発光端面を電荷中性面とすることにより、C面に比べて平坦性を向上させることができる。この結果、発光素子の発光波長を緑域領域にまで長波長化することが可能となる。また、発光層に係る歪みが抑制され、を結晶成長させる場合に発光層の結晶構造を良好に維持することができる。
【0017】
上述した態様の発光素子において、発光層からの発光の偏光の光学利得が、基板面内でc軸に垂直な方向より、c軸を基板面に投影した方向の方が強くなる範囲から点(x,y)が選択されてもよい。また、前記発光層から発せられる光の発光波長が500〜550nmであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、非極性基板または半極性基板を用いた発光素子において、発光端面の平坦性を向上させ、発光波長を緑色領域まで長波長化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態および実施例を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0020】
(実施の形態)
実施の形態に係る発光素子用基板は、基板の主表面が非極性面または半極性面であるAlInGaN混晶基板である。非極性面はC面に垂直な面であり、たとえば、m面およびa面が挙げられる。また、半極性面はC面との角度が40〜65度の面であり、たとえば、(11−22)面および(10−12)面が挙げられる。電界中性面としては、非極性面(m面、a面)および半極性面が挙げられる。当該AlInGaN混晶基板は、少なくとも1つのPn接合を有する発光ダイオード、半導体レーザ、半導体光増幅器などの化合物半導体発光素子用の基板として好適に用いられる。
【0021】
AlInGaN混晶基板は、Al(x)In(y)Ga(1−x−y)N、0≦x<1、0<y<1、x+y<1と表される混晶組成を有する。すなわち、InおよびGaが必須であり、Alは任意の成分である。
【0022】
AlInGaNの組成に対する条件として下記の項目が挙げられる。
【0023】
・条件(1)「発光層から放射された光の偏光に関し、X1偏光、X2偏光およびX3偏光のうち、X2偏光の光学利得が最大であること」
X1偏光、X2偏光およびX3偏光は、次のように定義される。すなわち、図1に示すように、X1偏光は、基板面内でc軸に垂直な偏光である。X2偏光は、c軸を基板面に射影した方向の偏光である。また、X3偏光は、基板に垂直な方向の偏光である。なお、「偏光の方向」は、「光の電場ベクトルの方向」を指す。
【0024】
・条件(2)「発光層の歪みが−2%から+2%の範囲であること」
条件(1)に合致するようにAlInGaNの組成を調整することにより、従来の発光素子で利用されていたX1偏光に代えて、X2偏光を利用することができる。このため、発光素子の発光端面を従来のC面から、電荷中性面とすることができる。より詳しくは、AlInGaN混晶基板の主表面を非極性面(m面)とした場合には、発光端面を非極性面(a面)とすることができる。また、AlInGaN混晶基板の主表面を非極性面(a面)とした場合には、発光端面を非極性面(m面)とすることができる。この場合、図1に示したc軸はX3方向と垂直となり、c軸とX3軸とのなす角θは90度となる。また、AlInGaN混晶基板の主表面を半極性面とした場合には、発光端面を非極性面(m面)、非極性面(a面)などの電荷中性面とすることができる。この場合、図1に示したc軸とX3軸とのなす角θは40〜65度となる。具体的には、AlInGaN混晶基板の主表面を(11−22)面(θ=58度)にしたときは、発光端面を非極性面(m面)とすることができる。また、AlInGaN混晶基板の主表面を(10−12)面(θ=43度)にしたときには、発光端面を非極性面(a面)とすることができる。
【0025】
また、条件(2)に合致するようにAlInGaNの組成を調整することにより、発光層に係る歪みが抑制され、を結晶成長させる場合に発光層の結晶構造を良好に維持することができる。
【0026】
これにより、たとえば、実施の形態に係る発光素子用基板を用いて半導体レーザを形成する場合に、共振器ミラー端面を電荷中性面とすることができる。電荷中性面は、クーロン力によりで互いに引き合うプラスの電荷とマイナスの電荷を引き離すことを要しないため、容易に劈開することができ、C面に比べて平坦性を向上させることができる。この結果、半導体レーザの発光波長を緑域領域(500〜550nm)にまで長波長化することが可能となる。
【0027】
(実施例1)
図2は、実施例1に係る半導体レーザダイオード10の構造を示す概略図である。半導体レーザダイオード10は、基板20と、基板20の上に結晶成長によって順に形成されたn型半導体層30、発光層40、p型半導体層50、基板20の裏面に設けられたn側電極60およびp型半導体層50の上に形成されたp側電極70を備える。
【0028】
実施例1の基板20は、非極性面(m面)を主表面とする非極性AlInGaN混晶基板である。非極性AlInGaN混晶基板は、たとえば、MOCVD法を用いて形成することができる。基板20の厚さは、たとえば、100μmである。AlInGaNの組成については後述する。
【0029】
n型半導体層30は、基板20側から順に、n−GaN層32、n−AlGaNクラッド層34、およびn−InGaNガイド層36を含む。
【0030】
n−GaN層32は、n側電極60とのオーミックコンタクトを取るための低抵抗層である。n−GaN層32は、GaNにn型不純物として、たとえば、Siをドープすることにより形成される。
【0031】
n−AlGaNクラッド層34は、n−InGaNガイド層36より屈折率が小さく、n−InGaNガイド層36との間にヘテロ接合を有する。これにより、n−AlGaNクラッド層34は、発光層40から放射された光を発光層40に閉じ込める役割を有する。具体的には、n−AlGaNクラッド層34は、AlGaNにn型不純物として、たとえば、Siをドープすることにより形成される。n−AlGaNクラッド層34の厚さは、たとえば、1μmである。
【0032】
n−InGaNガイド層36は、発光層40からの光を閉じ込める役割を有する。具体的には、n−InGaNガイド層36は、InGaNにn型不純物として、たとえば、Siをドープすることにより形成される。n−InGaNガイド層36の厚さは、たとえば、0.1μmである。なお、n−InGaNガイド層36は、発光層40からの光を閉じ込めることができればよく、n型不純物を含んでいなくてもよい。
【0033】
一方、p型半導体層50は、発光層40の上に設けられ、p側電極70側から順に、p−GaN層52、p−AlGaNクラッド層54、p−InGaNガイド層56、およびp−AlGaNブロック層58を含む。
【0034】
p−GaN層52は、p側電極70とのオーミックコンタクトを取るための低抵抗層である。p−GaN層52は、GaNにp型不純物として、たとえば、Mgをドープすることにより形成される。
【0035】
p−AlGaNクラッド層54は、p−InGaNガイド層56より屈折率が小さく、p−InGaNガイド層56との間にヘテロ接合を有する。これにより、p−AlGaNクラッド層54は、発光層40から放射された光を発光層40に閉じ込める役割を有する。具体的には、p−AlGaNクラッド層54は、AlGaNにp型不純物として、たとえば、Mgをドープすることにより形成される。p−AlGaNクラッド層54の厚さは、たとえば、0.5μmである。
【0036】
p−InGaNガイド層56は、発光層40からの光を閉じ込める役割を有する。具体的には、p−InGaNガイド層56は、InGaNにp型不純物として、たとえば、Mgをドープすることにより形成される。p−InGaNガイド層56の厚さは、たとえば、0.1μmである。p−InGaNガイド層56は、発光層40からの光を閉じ込めることができればよく、p型不純物を含んでいなくてもよい。
【0037】
p−AlGaNブロック層58は、発光層40からの電子の流出を抑制し、電子と正孔の再結合の効率を高める役割を有する。具体的には、p−AlGaNブロック層58は、AlGaNにp型不純物として、たとえば、Mgをドープすることにより形成される。
【0038】
発光層40は、SiがドープされたInGaN層(量子井戸層)とGaN層(バリア層)とが交互に3層ずつ積層された多重量子井戸構造(MQW)を有し、電子と正孔とが再結合することにより光を放射し、放射された光を増幅する。本実施例の発光層40に用いられるInGaN層の組成は、In0.3Ga0.7Nである。InGaN層、GaN層の厚さは、それぞれ3nm、5nmである。発光層40から放射される光は緑色であり、発光波長は、たとえば、530nmである。
【0039】
n側電極60は、基板20の裏面に電気的に接続されている。n側電極60は、たとえば、Alで形成される。
【0040】
p側電極70は、p型半導体層50の上にc軸と垂直な方向にストライプ状に設けられている。p側電極70は、たとえば、Pd/Auで形成される。
【0041】
以上説明した層構造を有する半導体レーザダイオード10では、発光層40の量子井戸面が非極性面(m面)であるため、ピエゾ電界が大幅に低減される。また、共振器ミラー端面が電荷中性面である非極性面(a面)である。このため、共振器ミラー端面における劈開を容易に行うことができ、共振器ミラー端面の平坦性を向上させることができる。
【0042】
(偏光特性の計算)
上述した半導体レーザダイオード10に関して、偏光特性と非極性AlInGaN混晶基板におけるAlInGaN組成との関係を下記計算方法に従って調べ、上述した条件(1)を満たす組成領域を算出した。
【0043】
一般に、化合物半導体発光素子の偏光特性は、量子井戸の価電子帯の電子状態によって主に決まる。このため、半導体レーザダイオード10の偏光特性を計算するにあたり、発光層40の歪み量子井戸の価電子帯の電子状態を下記のようにモデル化した。
【0044】
バルクInGaNにおいては、価電子帯頂上付近にA、B、Cと呼ばれる3つのバンドがあり、これらのガンマ点の電子状態は、ほぼ|X+iY>、|X−iY>、|Z>となっている。図3に示すように、伝導帯から価電子帯への光学遷移において、A、Bへの遷移はC面内の偏光のみに対して許容となり、Cへの遷移はc軸方向の偏光に対してのみ許容となる。
【0045】
InGaN歪み量子井戸では、歪みや量子井戸の効果により、上述した3つの価電子帯バンドがミキシングを起こすため、その偏光特性はバルクとは全く異なる。このため、6×6 k・pハミルトニアン(S.L.Chuang and C.S.Chang:Phys.Rev.B54,2491(1996)参照)を用いることによって、上述の効果を取り入れ、非極性AlInGaN混晶基板上のInGaN歪み量子井戸の価電子帯の電子状態を計算した。なお、計算にあたり、無限障壁の量子井戸を仮定し、量子井戸内の電界をゼロとした。また、価電子帯の電子状態に関しては、ガンマ点のみについて計算した。伝導帯、価電子帯それぞれの基底状態間のバンド端発光について、図1に示した3つの異なる偏光(X1、X2、X3)に対して、光学行列要素を計算した。
【0046】
このような計算を、基板20の組成をAl(x)In(y)Ga(1−x−y)N、0≦x≦1、0≦y≦1と表すとき、(x、y)をそれぞれ独立に0≦x≦1、0≦y≦1の範囲で変化させて行った。各点(x、y)において、X1偏光、X2偏光、X3偏光の光学利得を計算し、これら3つの偏光のうち最大となる偏光を特定した。
【0047】
図4は、非極性AlInGaN組成の相図において、発光層からの各偏光のうち最大となる偏光を示す図である。図4に示した領域R1、R2、R3は、それぞれ、X1偏光、X2偏光、X3偏光の光学利得が最大となる領域を示す。領域R2は、上述した条件(1)を満たす領域であり、AlInGaN組成を領域R2内とすることにより、非極性面(a面)を共振器ミラー端面(発光端面)とすることができる。この条件(1)と、条件(2)の発光層の歪みが−2%から+2%になる範囲であることという条件を満たす点(x,y)は、A点(0.68,0.32)、B点(0.19,0.17)、C点(0.16,0.55)およびD点(0.38,0.62)を頂点とする四角形の領域内に位置することが見出された。
【0048】
AlInGaN組成において、AlNの割合は30%以下であることが望ましい。In原子の原子半径(1.63Å)とAl原子の原子半径(1.43Å)が大きく違うために、AlNの割合が30%より高くなると、InNとAlNとを混合することが困難になり、AlInGaN混晶基板を結晶成長させることが難しくなる。また、AlNの割合が30%より高くなると、電気抵抗が増加し、半導体レーザダイオード10の発光強度の低下を招く。
【0049】
このため、上述した条件(1)および(2)に、条件(3)として、「AlNの割合が30%以下であること」を加味することが望ましい。条件(3)を加味した場合には、点(x,y)は、A’点(0.3,0.2)、B点(0.19,0.17)、C点(0.16,0.55)およびD’点(0.3,0.59)を頂点とする四角形の領域内に位置することが見出された。
【0050】
(実施例2)
図5は、実施例2に係る半導体レーザダイオード10の構造を示す概略図である。実施例2に係る半導体レーザダイオード10は、基板20として半極性面を主表面とする半極性AlInGaN混晶基板が用いられ、n型半導体層30、発光層40、およびp型半導体層50の表面がいずれも半極性面(図1に示したθは58度)である点が、実施例1と相違する。実施例2に係る半導体レーザダイオード10の他の構成は、実施例1と同様であるため、説明を適宜省略する。
【0051】
実施例2に係る半導体レーザダイオード10では、発光層40の量子井戸面が半極性面であるため、ピエゾ電界が大幅に低減される。また、共振器ミラー端面が電荷中性面である非極性面(m面)または非極性面(a面)である。このため、共振器ミラー端面における劈開を容易に行うことができ、共振器ミラー端面の平坦性を向上させることができる。
【0052】
実施例2に係る半導体レーザダイオード10について、実施例1と同様に発光層40の偏光特性について解析した。
【0053】
図6は、半極性AlInGaN組成の相図において、発光層からの各偏光のうち最大となる偏光を示す図である。図6に示した領域R1、R2、R3は、それぞれ、X1偏光、X2偏光、X3偏光の光学利得が最大となる領域を示す。領域R2は、上述した条件(1)を満たす領域であり、AlInGaN組成を領域R2内とすることにより、非極性面(m面)を共振器ミラー端面(発光端面)とすることができる。この条件(1)と、条件(2)の発光層の歪みが−2%から+2%になる範囲であること、という条件を満たす点(x,y)は、E点(0.69,0.31)、F点(0.16,0.15)、G点(0,0.27)、H点(0,0.5)およびI点(0.39,0.61)を頂点とする五角形の領域内に位置することが見出された。
【0054】
また、上述した条件(3)を加味した場合には、点(x,y)は、E’点(0.3,0.19)、F点(0.16,0.15)、G点(0,0.27)、H点(0,0.5)およびI’点(0.3,0.58)を頂点とする五角形の領域内に位置することが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】任意面方位基板上の(発光層)量子井戸における座標軸の取り方を表す模式図である。
【図2】実施例1に係る半導体レーザダイオードの構造を示す概略図である。
【図3】InGaNにおける光学遷移の選択則を示す模式図である。
【図4】非極性AlInGaN組成の相図において、発光層からの各偏光のうち最大となる偏光を示す図である。
【図5】実施例2に係る半導体レーザダイオードの構造を示す概略図である。
【図6】半極性AlInGaN組成の相図において、発光層からの各偏光のうち最大となる偏光を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10 半導体レーザダイオード、20 基板、30 n型半導体層、40 発光層、50 p型半導体層、60 n側電極、70 p側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混晶組成をAl(x)In(y)Ga(1−x−y)N、0≦x≦1、0≦y≦1と表すとき、
点(x,y)がA点(0.68,0.32)、B点(0.19,0.17)、C点(0.16,0.55)およびD点(0.38,0.62)を頂点とする四角形の領域内に位置する非極性AlInGaN混晶基板を備えることを特徴とする発光素子用基板。
【請求項2】
点(x,y)がA’点(0.3,0.2)、B点(0.19,0.17)、C点(0.16,0.55)およびD’点(0.3,0.59)を頂点とする四角形の領域内に位置する非極性AlInGaN混晶基板を備える請求項1に記載の発光素子用基板。
【請求項3】
混晶組成をAl(x)In(y)Ga(1−x−y)N、0≦x≦1、0≦y≦1と表すとき、
点(x,y)がE点(0.69,0.31)、F点(0.16,0.15)、G点(0,0.27)、H点(0,0.5)およびI点(0.39,0.61)を頂点とする五角形の領域内に位置する半極性AlInGaN混晶基板を備えることを特徴とする発光素子用基板。
【請求項4】
点(x,y)がE’点(0.3,0.19)、F点(0.16,0.15)、G点(0,0.27)、H点(0,0.5)およびI’点(0.3,0.58)を頂点とする五角形の領域内に位置する半極性AlInGaN混晶基板を備えることを特徴とする請求項3に記載の発光素子用基板。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発光素子用基板と、
前記発光素子用基板の上に形成され、n型クラッド層とp型クラッド層との間に設けられた量子井戸構造で構成される発光層と、
を備えることを特徴とする発光素子。
【請求項6】
前記発光層からの発光の偏光の光学利得が、基板面内でc軸に垂直な方向より、c軸を基板面に投影した方向の方が強く、
前記発光層からの発光が出射される発光端面がc軸を基板面に投影した方向と平行であることを特徴とする請求項5に記載の発光素子。
【請求項7】
主表面が非極性面または半極性面であり、混晶組成がAl(x)In(y)Ga(1−x−y)N、0≦x<1、0<y<1、x+y<1と表されるAlInGaN混晶基板と、
前記AlInGaN混晶基板の上に形成された発光層と、
を備え、
前記発光層の歪みが−2%〜+2%であり、
前記発光層の発光端面が電荷中性面であることを特徴とする発光素子。
【請求項8】
前記発光層からの発光の偏光の光学利得が、基板面内でc軸に垂直な方向より、c軸を基板面に投影した方向の方が強くなる範囲から点(x,y)が選択されることを特徴とする請求項7に記載の発光素子。
【請求項9】
前記発光層から発せられる光の発光波長が500〜550nmであることを特徴とする請求項7または8に記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−56434(P2010−56434A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222095(P2008−222095)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】