説明

真空チャック装置及び吸着圧力制御方法

【課題】 試料を保持するための吸着圧力を小さくすることにより、試料に与えられる損傷を防止することが可能な真空チャック装置及び吸着圧力制御方法を提供する。
【解決手段】 真空チャック装置1を、吸着用パッド11と、吸着用パッド11内の吸着圧力を検出するための真空センサ14と、吸着用パッド11と真空源13とを連通する通路12を流れる気体流量を検出する流量センサ15と、を備えて構成し、検出される吸着圧力が所定の閾値圧力を超え、かつ検出される気体流量が所定の閾値流量を下回るとき吸着用パッド11に印加する吸着圧力を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負圧により試料を保持する真空チャック装置に関する。より詳しくは、このような真空チャック装置に設けられる吸着パッド内部の吸着圧力の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中で動作する半導体ウエハ製造装置や、半導体ウエハ検査装置におけるウエハ搬送などにおいて、各種試料の保持に真空チャック装置が用いられている。図1は従来の真空チャック装置の概略構成図である。図示するとおり、真空チャック装置1は、試料2を保持する吸着用パッド11と、吸着用パッド11の内部空間11aを真空状態にするための真空源13と、内部空間11aと真空源13を連通する配管である通路12と、を備えて構成される。
【0003】
また、このような真空チャック装置1では、吸着用パッド11と試料2との間に異物が挟まる等により、真空源13が駆動されていても吸着用パッド11と試料2との間の隙間から内部空間11aに気体が流入して吸着圧力が低下し、試料2が吸着されない状態が生じうる。
このため、従来の真空チャック装置1では、内部空間11aと真空源13を連通する配管である通路12に真空センサ14を設けて、試料2の吸着状態を判定していた。
【0004】
すなわち、図2に示すように、時刻t0で真空源13を駆動した後の吸着動作時において、真空センサ14により検出される吸着圧力がある所定の閾値圧力PHより高い場合には、正常の吸着状態にあると判定し、真空センサ14により検出される吸着圧力がある所定の閾値圧力PHより低い場合には、試料非保持状態であると検出していた。ここに図2の実線60は吸着動作時における真空センサ14の検出圧力を示す。
【0005】
なお、下記特許文献1には、真空チャック装置に真空センサ及び流量センサを設け、掲示変化による真空圧機器の性能変化に対応して設定圧力を変更するための、圧力値設定方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−72067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のような真空センサによる試料保持状態検出方法は、試料2に損傷を与えるという問題があった。というのは、吸着用パッド11の吸着面とセンサ間の配管や継ぎ手等において圧力損失が生じるため、上記異物の介入により内部空間11aに気体が流入しても、真空センサ14による検出圧力は内部空間11aの吸着圧力ほど低下せず、図2の点線61に示すように、一定の吸着圧力を示すことになる。
したがって、従来の真空チャック装置では、試料の保持/不保持の検出確度を高めるために、真空源13から供給される吸着圧力を高く設定し、かつ真空センサ14による検出閾値を異物の介入時の検出圧力よりかなり高く設定していた。このため、試料吸着時に大きな吸着圧力が印加されることになり、試料2を変形させ吸着用パッド11との接触面に大きな擦過傷を生じさせていた。
【0008】
また、上記センサ間の配管や継ぎ手等による圧力損失のため、検出閾値をPLに示すように低く設定すると、ウエハの保持/非保持が特定できないという問題があった。
【0009】
上記問題点を鑑み、本発明は、試料を保持するための吸着圧力を小さくすることにより、試料に与えられる損傷を防止することが可能な真空チャック装置及び吸着圧力制御方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は小さな吸着圧力でも、試料の保持状態の良否判定が可能な真空チャック装置及び吸着圧力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る真空チャック装置及びその吸着パッド内部の吸着圧力の制御方法は、試料を負圧により保持する吸着用パッド内の吸着圧力を真空センサにより検出し、吸着用パッドと真空源とを連通する通路を流れる気体流量を流量センサにより検出し、検出される吸着圧力が所定の閾値圧力を超え、かつ検出される気体流量が前記所定の閾値流量を下回るとき、吸着用パッドに印加する吸着圧力を低減する。
【0012】
また、検出される吸着圧力が所定の閾値圧力を超え、かつ検出される気体流量が所定の閾値流量を下回るとき、吸着状態が正常であると判定する。
【発明の効果】
【0013】
吸着用パッドと真空源とを連通する通路を流れる気体流量を検出し、吸着用パッドと試料の間から流入する気体の有無を判定することにより、試料に高い吸着圧力がかかる前に保持状態の良否を判定することが可能となる。これにより、保持状態が良好でありその後吸着圧力が上昇する前に吸着用パッドに印加する吸着圧力を低減して、試料の変形を防止し吸着用パッドとの接触面に擦過傷がつくのを防止することが可能となる。
【0014】
また、試料に高い吸着圧力がかかる前に保持状態の良否を判定することにより、小さな吸着圧力で試料の保持状態の良否を判定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付する図面を参照して本発明の実施例を説明する。図3は、本発明の実施例の半導体ウエハ搬送装置に設けられるウエハ吸着用真空チャック装置の概略構成図である。以下、簡単のためウエハ吸着用真空チャック装置を例示して本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく他の用途の真空チャック装置にも広く適用することが可能である。
【0016】
真空チャック装置1は、試料(ウエハ)2を保持する吸着用パッド11と、吸着用パッド11の内部空間11aを真空状態にするための真空源13と、内部空間11aと真空源13を連通する配管である通路12と、内部空間11aと真空源13との間の通路12に設けられる真空センサ14と、通路12を流れる気体流量を検出する流量センサ15と、を備えて構成される。
【0017】
また、真空源13と通路12との間には、吸着用パッドに印加する吸着圧力を変更するための、並列する低圧用分流路16及び高圧用分流路17と、分流路16及び17を伝達する吸着圧力をそれぞれ制限する圧力ゲージ18及び19と、真空源13からの吸着圧力を分流路16及び17のいずれかに切り替えて供給する電磁弁20を、とを備えている。
低圧用分流路16に設けられた圧力ゲージ18は、低圧用分流路16を伝達する吸着圧力を、この吸着圧力が吸着用パッド11に印加されたときに、その上に保持されるウエハ2が変形しない程度に制限するように設定されている。そして、低圧用分流路16を伝達する吸着圧力は、高圧用分流路17に設けられた圧力ゲージ19により制限される吸着圧力よりも低く制限されている。高圧用分流路17を伝達する吸着圧力は、従来の真空チャック装置の吸着圧力と同様としてよい。
【0018】
さらに、真空チャック装置1は、真空センサ14により検出される吸着圧力及び流量センサ15により検出される気体流量とに基づき電磁弁20を制御して、吸着用パッドに印加する吸着圧力を変更するため制御部21とを備える。なお、制御部21は本発明に係る吸着圧力低減手段と、吸着状態判定手段とをなす。
以下、図4及び図5を参照して本発明の実施例に係る吸着圧力制御方法及び制御部21の動作を説明する。
【0019】
図4は、本発明の実施例に係る吸着圧力制御方法のフローチャートであり、図5は、本発明の実施例に係る吸着圧力の制御方法の説明図である。
まず、あらかじめ真空源13を駆動した状態で、ステップS41において、制御部21は電磁弁20を駆動して低圧用分流路18を閉状態に、また高圧用分流路19を開状態にすることにより、真空チャック装置1による吸着動作を図5の時刻t0で開始する。これにより、吸着用パッド11には従来の真空チャック装置1と同程度の高い吸着圧力が印加される。
【0020】
ステップS42において、制御部21は、真空センサ14の検出圧力信号を読み込むことにより、通路12の途中部分12aにおける吸着圧力を検出し、ステップS43において、流量センサ15の検出流量信号を読み込むことにより通路12を流れる気体流量を検出する。検出された吸着圧力の時間変化を図5の実線30に示し、検出された気体流量の時間変化を一点鎖線32に示す。
吸着動作が開始されると、吸着用パッド11によるウエハ2の保持状態が良好であれば、内部空間11a内の気体が吸引されるに従って、真空センサ14に検出される吸着圧力は上昇し時刻t1において第1閾値吸着圧力PLを超えるに至り、一方で流量センサ15に検出される気体流量は低下し時刻t2において閾値流量Fを下回るに至る。
【0021】
ステップS44において、制御部21は、真空センサ14に検出される吸着圧力が第1閾値吸着圧力PLを超え、かつ流量センサ15に検出される気体流量が閾値流量Fを下回るか否かを判定する。そして、この判定結果が肯定の場合にはウエハ2の保持状態が良好であると判定し(ステップS45)、吸着用パッド11に印加する吸着圧力を低減するために、電磁弁20を駆動して低圧用分流路18を開状態に、また高圧用分流路19を閉状態にする(ステップS46)。
これにより、伝達する吸着圧力が圧力ゲージ18によってより小さく制限された低圧用分流路16を介して吸着圧力が供給され吸着用パッド11に印加される吸着圧力が低減される。そして、真空チャック装置1による吸着動作が終了するまで(S47)、上記ステップS42〜S46を繰り返すことによって、吸着状態を維持する。
【0022】
第1閾値吸着圧力PLを設定するにあたっては、ウエハ2の保持状態が良好である場合に、ウエハ2に許容量以上の変形をもたらすウエハ印加吸着圧力に対応する、通路部分12aにおける吸着圧力を計算により又は実験により導出し、この導出値よりも第1閾値吸着圧力PLを小さく設定する。
また、閾値流量Fを設定するにあたっては、ウエハ2の保持状態が良好である場合に、ウエハ2に許容量以上の変形をもたらすウエハ印加吸着圧力に対応する、通路12の気体流量を、計算により又は実験により導出し、この導出値よりも閾値流量Fを小さく設定する。
このように、第1閾値吸着圧力PL及び閾値流量Fを設定することにより、吸着圧力がウエハ2に許容量以上の変形をもたらす以前に、吸着用パッド11に印加する吸着圧力を低減することが可能となる。
【0023】
吸着用パッド11とウエハ2との間に異物が挟まる等の理由によりウエハ2の非保持状態が生じている場合に、真空センサ14により検出される吸着圧力の時間変化を図5の点線31に示し、流量センサ15により検出される気体流量の時間変化を二点鎖線33に示す。
図示するとおり、真空センサ14に検出される吸着圧力は第1閾値吸着圧力PLを超えるが、吸着用パッド11の内部空間11aに気体が流入するため、流量センサ15に検出される気体流量は閾値流量Fよりも低下しない。
【0024】
したがって、ステップS44における判定結果は否定となり、制御部21は、低圧用分流路18を閉状態に、また高圧用分流路19を開状態に維持するよう電磁弁20を駆動する(S48)。これにより、吸着用パッド11に印加される吸着圧力は、圧力ゲージ19によってより制限される低圧用分流路17を介して供給される吸着圧力に維持される。
【0025】
そしてステップS49において、制御部21は、さらに真空センサ14に検出される吸着圧力が第1閾値吸着圧力PLよりも高い第2閾値吸着圧力PHを超えるか否かを判定し、第2閾値吸着圧力PHを超える場合には、ステップS50において吸着状態が不良であると判定する。
ここで、上述のように、吸着圧力がウエハ2に許容量以上の変形をもたらす以前に、流量センサ15の検出値が閾値流量Fを下回るように適切に設定することにより、上記変形前に、ウエハ2が非保持状態である可能性が高いことが既に判定されている。したがって、この第2閾値閾値圧力PHも、上述の従来の真空チャック装置における保持/不保持判定に使用される閾値圧力と比べて小さく設定することが可能であり、これにより、ウエハ不保持状態においても、ウエハ2の損傷の発生を防止される。
【0026】
そして、真空チャック装置1による吸着動作が終了するか(S47)、又はステップS50において吸着状態が不良であると判定されると、制御部21は、処理を終了する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、負圧により試料を保持する真空チャック装置及びこのような真空チャック装置に設けられる吸着パッド内部の吸着圧力の制御に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来の真空チャック装置の概略構成図である。
【図2】従来の吸着圧力の制御方法の説明図である。
【図3】本発明の実施例に係る真空チャック装置の概略構成図である。
【図4】本発明の実施例に係る吸着圧力制御方法のフローチャートである。
【図5】本発明の実施例に係る吸着圧力の制御方法の説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 チャック装置
2 試料
11 吸着用パッド
14 真空センサ
15 流量センサ
16 低圧用分流路
17 高圧用分流路
18、19 圧力ゲージ
20 電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を負圧により保持する吸着用パッドと、
前記吸着用パッド内の吸着圧力を検出するための真空センサと、
前記吸着用パッドと真空源とを連通する通路を流れる気体流量を検出する流量センサと、
検出される前記吸着圧力が所定の閾値圧力を超え、かつ検出される前記気体流量が所定の閾値流量を下回るとき、前記吸着用パッドに印加する吸着圧力を低減する、吸着圧力低減手段と、
を備えることを特徴とする真空チャック装置。
【請求項2】
さらに、検出される前記吸着圧力が所定の閾値圧力を超え、かつ検出される前記気体流量が所定の閾値流量を下回るとき、吸着状態が正常であると判定する、吸着状態判定手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の真空チャック装置。
【請求項3】
負圧により試料を保持する真空チャック装置に備えられた吸着パッド内部の吸着圧力制御方法において、
前記吸着用パッド内の吸着圧力と、前記吸着用パッド及び真空源を連通する通路を流れる気体流量と、を検出するステップと、
検出される前記吸着圧力が所定の閾値圧力を超え、かつ検出される前記気体流量が所定の閾値流量を下回るとき、前記吸着用パッドに印加する吸着圧力を低減するステップと、
を有することを特徴とする吸着圧力制御方法。
【請求項4】
さらに、検出される前記吸着圧力が所定の閾値圧力を超え、かつ検出される前記気体流量が所定の閾値流量を下回るとき、吸着状態が正常であると判定するステップを有することを特徴とする請求項3に記載の吸着圧力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−130625(P2006−130625A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323464(P2004−323464)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】