説明

石英製品のベーク方法及び記憶媒体

【課題】半導体基板を熱処理するバッチ式の熱処理装置に用いられる石英製品に含まれる例えばアルミニウム等の金属を除去することの可能な石英製品のベーク方法等を提供する。
【解決手段】
構成部品に石英製品(処理容器2、基板保持部3)を含む熱処理装置にて、当該石英製品2、3が未だ半導体基板の熱処理に使用されていない段階等において、基板保持部3に多数枚のダミー基板DWを保持させて処理容器2内に搬入し、次いで、塩素を含むガスと水素とを供給し、当該反応容器2内を加熱雰囲気にして石英製品2、3をベークすることにより当該石英製品2、3中の金属を飛散させてダミー基板DWに付着させ、その後、ダミー基板DWを搬出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板を熱処理する熱処理装置の構成部品である石英製品に含まれるアルミニウム等の金属を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置(半導体デバイス)の製造プロセスに使用される熱処理装置の一つとして、バッチ式熱処理装置である縦型熱処理装置がある。この縦型熱処理装置は、下方が開口している縦型の反応容器の外側を囲むようにヒータを設けて加熱炉を構成し、ウエハボートと呼ばれるウエハ保持具に多数枚の半導体ウエハ(以下ウエハという)を棚状に保持させて反応容器の下方側から搬入し、酸化処理や拡散処理あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition)による成膜処理等を行うものである。
【0003】
この縦型熱処理装置の構成部品である前記反応容器、ウエハボート及び断熱ユニット(保温ユニット)等は通常石英により構成されおり、これらの石英製品中にはもともとアルミニウム等の金属が含まれている。こうした金属は、縦型熱処理装置を立ち上げるとき等に当該石英製品が加熱されると反応容器内の加熱雰囲気中に飛散し、処理中のウエハに付着することが分かってきた。
【0004】
ところが近年の半導体デバイスの薄膜化や微細化の進展により、従来は問題にならなかった程度の汚染量であったとしても、アルミニウムの付着が半導体デバイス特性に悪影響を与えてしまう懸念があり、例えばアルミニウムによるウエハの汚染を防止する技術が必要とされている。
【0005】
ここで特許文献1には、熱処理装置が未だ製品ウエハの熱処理に使用されていない段階で、加熱雰囲気とされた反応容器内に塩化水素ガス及び酸素ガスを供給し、反応容器等の石英製品の表面から銅を除去する技術が記載されている。しかしながら、後述する実験結果にも示したように、特許文献1に記載の技術ではアルミニウムを十分に除去することができない点を本発明者らは確認している。
【特許文献1】特開2002−313787号公報:第0017段落〜第0018段落
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に基づいて行われたものであり、半導体基板を熱処理するバッチ式の熱処理装置に用いられる石英製品に含まれる例えばアルミニウム等の金属を除去することの可能な石英製品のベーク方法及びこの方法を記憶した記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係わる石英製品のベーク方法は、多数枚の半導体基板を基板保持部に保持し、反応容器内に搬入して熱処理する熱処理装置に対して行われ、前記反応容器内の熱処理雰囲気に少なくとも一部が置かれる石英製品に含まれる金属を除去するためのベーク方法において、
前記石英製品が未だ半導体基板の熱処理に使用されていない段階、または半導体基板について金属汚染の発覚した段階で、前記基板保持部に多数枚のダミー基板を保持させて搬入する工程と、
次いで、塩素を含むガスと水蒸気とを前記反応容器内に導入すると共に、当該反応容器内を加熱雰囲気にして前記石英製品をベークし、これにより当該石英製品中の金属を反応容器内の雰囲気中に飛散させてダミー基板に付着させる工程と、
その後、ダミー基板を前記反応容器から搬出する工程と、を含むことを特徴とする。ここで「石英製品が未だ半導体基板の熱処理に使用されていない段階」には、装置のメンテナンスを行い再び熱処理を開始する前の段階も含まれている。
【0008】
上記ベーク方法においては、搬出されたダミー基板に替えて、新たなダミー基板を基板保持部に保持して前記反応容器内に搬入し、同様に前記石英製品をベークすることにより、前記石英製品中の金属をダミー基板に付着させる工程を繰り返すように構成することが好ましく、更に、搬出されたダミー基板に付着している目的とする金属の濃度を測定する工程を含み、当該金属の濃度が予め決められた目標値以下になるまで、前記石英製品中の金属をダミー基板に付着させる工程を繰り返すとよい。
【0009】
また、上述の各ベーク方法においては、最後に前記ダミー基板が搬出された後に、前記反応容器内に酸素ガスを通流させる工程を含むようにすることが好ましく、加熱雰囲気の温度は550℃以上であり、前記塩素を含むガスは、塩化水素ガスであることが好適である。
【0010】
また、本発明に係る記憶媒体は、上述した石英製品のベーク方法を実施するようにステップ群が組まれているコンピュータプログラムを格納したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多数のダミー基板が搬入された加熱雰囲気内にて塩素を含むガスと水蒸気とを用いて石英製品のベークを行い、ベークによって飛散した金属をダミー基板に付着させ、反応容器の外に排出しているので、飛散した金属の石英製品への再付着を抑制できる。この結果、石英製品に付着していた金属を低減した状態で半導体基板の熱処理を行うことが可能となり、半導体基板の金属汚染を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のベーク方法を縦型熱処理装置1に適用した実施の形態について図1を参照しながら説明する。当該ベーク方法は、半導体デバイスの製造プロセスとして縦型熱処理装置1が備えている機能(ガスを供給する機能や、加熱を行う機能等)を利用して石英製品のベークを行うように構成されているが、先ず縦型熱処理装置1として本来備わっている装置構成から説明する。
【0013】
図1中、2は下端側が開口すると共に上端側に排気口21が設けられた筒状体をなす反応容器であり、石英により構成されている。この反応容器2の周囲には筒状の缶体22が設けられ、更に缶体22の内側には加熱手段であるヒータ23例えば高純度のカ−ボンファイバの束を複数用いて編み込むことにより形成されたカーボンワイヤヒータが縦方向に伸びるように設けられている。
【0014】
反応容器2の下方側には、上面が石英プレートで覆われた蓋体24が設けられており、この蓋体24は昇降機構の一部をなすボートエレベータ25により昇降し、これにより反応容器2の開口部を開閉するようになっている。蓋体24の上には複数枚例えば100枚のウエハを棚状に保持する保持具であるウエハボート3が設けられており、蓋体24の昇降によってウエハボート3を反応容器2に対して搬入出できるようになっている。ウエハボート3の下部には断熱ユニット31を貫通する回転軸32が設けられ、この回転軸32は回転駆動部33によって回転する機構となっており、回転駆動部33によってウエハボート3全体を回転させることができる。
【0015】
反応容器2の例えば底部側には、ウエハの熱処理を行う際に反応容器2内に処理ガスを供給するためのインジェクタ4が上に向かって伸び出すように設けられている。インジェクタ4の上流側は反応容器2の外側に延伸されてガス流路41を形成しており、当該ガス流路41は複数に分岐してその一部は処理ガス供給源45に接続されている。処理ガス供給源45は、反応容器2内で実施される熱処理の種類に応じて、例えば複数種類の処理ガスを供給するための処理ガス源や各処理ガスの流量を制御するマスフローコントローラやバルブ等を複数セット備えているが、図示の便宜上まとめて示してある。なお、処理ガス供給源45からは後述のベークを開始する前に反応容器2内にパージ用の窒素ガスを供給することもできる。
【0016】
更に縦型熱処理装置1は、既述のヒータ23や処理ガス供給源45等の動作を制御する制御部5を備えている。制御部5は例えば図示しないCPUとプログラムとを備えたコンピュータからなり、プログラムには当該縦型熱処理装置1によってウエハへの熱処理を行ったり、後述するベークを行ったりするのに必要な動作、例えばヒータ23の温度コントロールや反応容器2内の圧力調整及び反応容器2への処理ガスやベーク用のガスの供給量調整に係る制御、等についてのステップ(命令)群が組まれている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0017】
以上の構成により縦型熱処理装置1は、例えばウエハボート3に保持された多数のウエハを反応容器2内に搬入して当該反応容器2内を減圧加熱雰囲気とし、そこへ処理ガス供給源45より処理ガスを供給することによりウエハ表面に所望の膜を成膜する等の熱処理を行うことができる。
【0018】
以上に説明した縦型熱処理装置1において、当該縦型熱処理装置1の構成部品である反応容器2やウエハボート3は石英材料により構成された石英製品である。背景技術にて説明したように、これらの石英製品の表面にはアルミニウムやチタン、銅等の金属が付着しており、熱処理の際にウエハに付着して半導体デバイスの特性に悪影響を及ぼす場合がある。そこで本実施の形態に係る縦型熱処理装置1は、これらの石英製品が未だウエハの熱処理に使用されていない段階、または上述の金属による金属汚染の発覚した段階でウエハボート3や反応容器2の表面からこれらの金属を除去するためのベークを行う機能を備えている。以下、当該ベーク機能にかかわる装置構成について説明する。
【0019】
ベーク機能に関し縦型熱処理装置1は、塩素を含むガスである例えば塩化水素ガス及び水蒸気を既述のインジェクタ4を介して反応容器2内に供給するための塩化水素ガス供給源42及び水蒸気供給源43を備えている。塩化水素ガス供給源42、水蒸気供給源43は既述の処理ガス供給源45と同様に塩化水素ガス源や水蒸気源、マスフローコントローラやバルブ等を夫々備えており、既述の分岐したガス流路41の上流側に設けられている。塩化水素ガスは、例えば高濃度の塩化水素ガスを充填したガスボンベ等を塩化水素ガス源とする一方で、水蒸気は例えば水素ガスと酸素ガスとを触媒の存在下で加熱、接触させて水蒸気を発生させる触媒方式や、酸素ガスと水素ガスとを燃焼させて水蒸気を発生させる燃焼方式、また水を気化させることにより水蒸気を発生させる気化方式等により水蒸気源が構成されている。なお触媒方式や燃焼方式は化学量論比に対して酸素ガスリッチな条件のもとで水蒸気を発生させるので、これらの方式で発生させた水蒸気中には酸素が含まれている。更にガス流路41には、石英製品(反応容器2、ウエハボート3)のベークを終えた後の反応容器2内にパージ用の酸素ガスを供給するための酸素ボンベやマスフローコントローラ等により構成された酸素ガス供給源44が接続されている。
【0020】
以上に説明した縦型熱処理装置1を用いて当該縦型熱処理装置1の構成部品である石英製品(反応容器2、ウエハボート3)をベークする工程について図2に示したフロー図に基づいて説明する。図2に示したフロー図は、例えばメーカにて製造された縦型熱処理装置1の各構成部品を半導体デバイス工場に納入し、この半導体デバイス工場にて縦型熱処理装置1を組み立てた後における、未だ製品ウエハの熱処理に使用されていない段階にて行われるベークの工程を示している。
【0021】
今、半導体製造工場に縦型熱処理装置1が据え付けられ(ステップS1)、これから運転が開始されるものとする。縦型熱処理装置1に組み込まれている反応容器2やウエハボート3等の石英製品中には、アルミニウムが含まれており、製品ウエハに対して運用を行う前に以下のようにしてベーク処理が行われる。先ず、ウエハボート3上に例えば通常の熱処理と同じ100枚のシリコン製のダミーウエハDWを保持させた後、蓋体24を上昇させて反応容器2内にこれらのダミーウエハDWを搬入すると共に、この蓋体24で反応容器2の下方側開口部を閉じて反応容器2を気密にする(ステップS2)。
【0022】
次いで処理ガス供給源45より所定の流量で反応容器2内に窒素を供給し、反応容器2内の窒素パージを行いながら、ヒータ23の出力を制御して反応容器2内を昇温する。そして図示しない熱電対等の温度検出部の検出値に基づいて、反応容器2内の温度がベークを行う温度、例えば550℃以上の温度の例えば750℃の温度に到達したら、当該反応容器2を常圧の状態としたまま反応容器2内に例えば0.1〜3.0リットル/分の塩化水素ガスと例えば5.0〜10リットル/分の水蒸気とを供給して各石英製品2、3のベークを行う(ステップS3)。反応容器2に供給されるガス全体(塩化水素ガス+水蒸気)に対する塩化水素ガスの割合は、例えば0.5〜30体積%の、例えば10体積%に設定されている。なお、塩化水素ガス濃度が30体積%を超えると装置の腐食の問題が発生し好ましくない。
【0023】
反応容器2にこれらのガスを供給することにより、反応容器2の内表面やウエハボート3の表面に付着しているアルミニウム等の金属は、塩化水素との反応により塩化アルミニウム等の塩化物となり、また水蒸気との反応により水酸化アルミニウム等の水酸化物(以下、これらの塩化物、水酸化物をまとめて金属化合物という)となって石英表面から反応容器2内の雰囲気中に飛散し、その一部はベーク用のガス(塩化水素ガスや水蒸気)に同伴して排気口21から図示しない排気路を介して外部へ排出される。
【0024】
ここで既述の特許文献1にて問題とされている銅については、一旦石英製品から反応容器2内の雰囲気中に飛散すると、石英製品等へ再付着することなく(微量には再付着するかもしれないが)排出されるが、アルミニウムについては石英製品に再付着してしまうことが分かっている。ここで本実施の形態では、反応容器2内に多数枚のダミーウエハDWを配置しているので、雰囲気中に飛散したアルミニウムは、これらダミーウエハDWに付着する。そしてアルミニウムはダミーウエハDWの材料であるシリコンと結合して再び雰囲気中に飛散しにくい状態となる。このようにして石英製品の石英から雰囲気中に飛散したアルミニウムはダミーウエハDWに順次捕捉されていくこととなる。
【0025】
以上に説明したように石英製品2、3のベークを所定時間、例えば30分〜1時間行ったら、塩化水素ガスの及び水蒸気の供給を停止して、代わりに酸素ガス供給源44より酸素ガスを反応容器2内に供給しながら排気して例えば30分〜1時間の酸素パージを行う(ステップS4)。このパージにより塩化水素ガスと水蒸気とが排気されて、反応容器2内が腐食雰囲気となるのを防止することができる。なお、当該縦型熱処理装置1が減圧雰囲気下で熱処理を行うタイプのものである場合には、反応容器2内を減圧雰囲気としてから上述の酸素ガスによるパージを行って、腐食原因となる塩化水素ガスをより確実に排気するようにしてもよい。
【0026】
その後酸素ガスの供給を止め、窒素ガスを反応容器2内に供給して窒素パージを行いながら所定の温度例えば常温〜100℃になるまで例えば自然冷却を行った後、蓋体24を下降させて反応容器2からウエハボート3を搬出し(ステップS5)、サンプルのダミーウエハDWを取り出して当該ダミーウエハDW上の目標となる金属の濃度、例えばアルミニウムの濃度を、例えばICP−MS(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry)により測定する(ステップS6)。そして、測定されたアルミニウム濃度が目標値を上回っていた場合は(ステップS7;N)ウエハボート3上のダミーウエハDWを新たなダミーウエハDWに交換した後(ステップS9)、再び反応容器2への搬入、ベーク、ダミーウエハDW上のアルミニウム濃度の測定を繰り返す(ステップS2〜S7)。
【0027】
一方、ダミーウエハDW上のアルミニウム濃度が目標値以下となったら(ステップS7;Y)、ダミーウエハDWに替えて半導体デバイス製造用の通常のウエハをウエハボート3に保持させて通常の熱処理を開始し(ステップS8)、石英製品2、3のベークを終える。
【0028】
以上に説明した本実施の形態に係るベーク方法によれば以下の効果がある。石英製品である反応容器2やウエハボート3から飛散したアルミニウムは石英製品に再付着しやすいが、雰囲気中に多数のダミーウエハDWを置いた状態でベークを行っているため、飛散したアルミニウムがダミーウエハDWにいわばトラップされ、この結果、石英製品中のアルミニウムの量が低減する。このため、その後の製品ウエハに対して熱処理を行ったときにウエハへのアルミニウム汚染を低減することができる。
【0029】
また反応容器2内のダミーウエハDWを交換して繰り返しベークを行うことにより、ダミーウエハDWに付着したアルミニウムの飛散による石英製品2、3の再汚染が防止され、縦型熱処理装置1外にアルミニウムを確実に排出することができる。更にまたベークを実施して反応容器2から搬出されたダミーウエハDWに付着したアルミニウムの濃度を測定した結果に基づいて、ダミーウエハDWを交換して再度のベークを行う必要があるか否かを判断しているので、石英製品中のアルミニウムの濃度を確実に低減することができ、また必要以上にダミーウエハDWを消費することを防止できる。
【0030】
ここで水蒸気と共に反応容器2内に供給する塩素を含むガスは、実施の形態中に例示した塩化水素ガスに限定されるものではなく、例えば塩素ガスやトランス-ジクロロエチレン等の有機塩素化合物等であってもよい。
【0031】
また、既に述べたように石英製品2、3のベークを行うタイミングは縦型熱処理装置1の組み立て後のタイミングに限られるものではない。例えば熱処理されたウエハ上に付着しているアルミニウムの濃度を定期的に測定し、測定結果が目標値を超えたことが発覚した場合には、通常のウエハの熱処理を一時的に停止して、図2に示したステップS2〜ステップS9までの工程を再び実行するようにしてもよい。本実施の形態ではウエハの汚染原因となる目標金属としてはアルミニウムに限られず、例えば元々の石英製品中にアルミニウムの次に多く含まれているチタンであってもよい。
【0032】
更にまた、アルミニウム等の金属を除去する石英製品は図2のフローの説明において例示した反応容器2やウエハボート3に限られるものではなく、蓋体24の上面を覆う石英プレート、断熱ユニット31等も、縦型熱処理装置1の構成部品である石英製品に相当する。
【0033】
なお石英製品が組み立てられて構成される縦型熱処理装置1の具体例としては、シリコン膜を酸化する酸化炉、不純物を半導体層に拡散するための拡散炉、あるいはCVD炉等を挙げることができる。
【0034】
また、石英製品のベークは、縦型熱処理装置1を組み立てた後行う場合に限定されるものではなく、例えば石英製品が縦型熱処理装置1として組み立てられる前に行ってもよい。図3は石英製品であるウエハボート3が縦型熱処理装置1として組み立てられる前に、ウエハボート3に付着している金属を除去するためのベーク装置10である。
【0035】
ベーク装置10は既述の縦型熱処理装置1に似た構造を備えており、51は石英からなり、上部に排気口511の設けられた反応容器、52は上面が石英プレート521で覆われた蓋体、53はベーク対象のウエハボート3を保持する治具である。また61は缶体、62はヒータ、63は蓋体52を昇降させるエレベータである。ガス供給管7の基端側には、塩化水素ガス供給源71、水蒸気供給源72、酸素ガス供給源73が接続されている。
【0036】
ウエハボート3はメーカにて製造された後、縦型熱処理装置1に組み込まれる前に、例えば図2に示したステップS2〜S7、S9の工程を実行することによりベークが行われる。即ち、ダミーウエハDWを搭載したウエハボート3を反応容器51内に搬入し、加熱、排気、ガスの供給を行ってベークを行い、ダミーウエハDWに付着した金属濃度を測定した結果に基づいてダミーウエハDWの交換及び再度のベークの要否を判断し、必要に応じてベークを繰り返すことにより、アルミニウムをはじめとする金属が除去されたウエハボート3を得ることができる。
【実施例】
【0037】
(実験1)
石英製品のベークに使用するガスの種類と石英製品からのアルミニウムの除去効果との関係について調べた。
【0038】
A.実験条件
図1に記載の縦型熱処理装置1において、ウエハボート3のトップ、センター、ボトムの各位置に1枚ずつ、合計3枚のダミーウエハDWを搭載し、供給するガスの種類を変え、反応容器2内を750℃に加熱して石英製品(反応容器2、ウエハボート3等)のベークを行い、所定時間経過した後ダミーウエハDWに付着しているアルミニウムの濃度をICP−MSにより測定した。
【0039】
上記の実験条件のもと、反応容器2内に以下の種類のガスを供給した。
(実施例1)
塩化水素ガス:0.6リットル/分
水蒸気 :10リットル/分
(比較例1)
酸素ガス :10リットル/分
(比較例2)
水蒸気 :10リットル/分
(比較例3)
塩化水素ガス:0.6リットル/分
酸素ガス :10リットル/分
【0040】
B.実験結果
図4は上述の各実施例、比較例において、所定時間の経過後におけるウエハボート3のボトム位置に搭載されていたダミーウエハDW表面のアルミニウムの原子濃度をプロットした結果である。横軸は加熱時間[min]、縦軸はアルミニウム濃度[atoms/cm2]を夫々対数表示で表している。図中、「●」は実施例1、「■」は比較例1、「▲」は比較例2、「×」は比較例3を示している。ダミーウエハDWに付着したアルミニウムは、元来、反応容器2内の石英製品に付着していたものであるので、ダミーウエハDWに付着していたアルミニウムの数が多い程(アルミニウム原子の濃度が高い程)、石英製品からのアルミニウムの除去効果が高いことを示している。
【0041】
図4に示した結果によれば、水蒸気と塩化水素ガスとを同時供給した(実施例1)において、十数分程度の短い処理時間で最も高いアルミニウム除去効果が得られた。これに対して、酸素ガスのみを供給した(比較例1)では例えば処理時間5分の時点で(実施例1)の100分の1程度の効果しか得られなかった。また、水蒸気のみを供給した(比較例2)においては、(実施例1)と同程度の除去効果を得るために約400分の処理時間が必要であり、酸素ガスと塩化水素ガスとを供給した(比較例3)においては処理時間を長くしても(実施例1)に匹敵するアルミニウム除去効果を得ることはできなかった。以上のことから、塩素を含むガスと水蒸気とを同時に供給してベークを行う手法が石英製品からのアルミニウムを除去する方法として最も効果的であるといえる。
【0042】
(実験2)
石英製品のベークに使用するガスの種類と製品ウエハに付着するアルミニウム量との関係について調べた。
【0043】
A.実験条件
図1に記載の縦型熱処理装置1において、反応容器2内にガスを供給しながら当該容器2内を加熱してベークを行い、その後反応容器2内にウエハを搬入して熱処理を行う処理を繰り返し行った。そして、当該熱処理の期間中にウエハに付着したアルミニウム濃度を測定した。なおベーク期間中の反応容器2内へのダミーウエハDWの搬入は行わなかった。
【0044】
(比較例4)
水蒸気のみを10リットル/分供給しながら反応容器2内を1000℃に6時間加熱するベークを1サイクルとし、第1サイクル〜第10サイクルのベークを繰り返し行った。第1サイクルのベーク開始前及び各サイクルのベーク実行後に、反応容器2内にウエハを搬入して熱処理を行い、当該熱処理期間中にウエハに付着したアルミニウム濃度を測定した。なお、第7サイクル、第8サイクルのベークは連続して12時間行い、これらのサイクルの間ではウエハの熱処理は行わなかった。
(実施例2)
反応容器2内に水蒸気のみを10リットル/分、塩化水素ガスを0.6リットル/分供給しながら1000℃に加熱するベークを1サイクルとし、第1サイクル〜第2サイクルのベークを、(比較例4)の第10サイクル後の熱処理に引き続いて行った。(比較例4)と同様に、各サイクルのベーク実行後にはウエハの熱処理を行って、当該熱処理期間中にウエハに付着したアルミニウム濃度を測定した。
【0045】
B.実験結果
図5は(比較例4)、(実施例2)においてベーク開始前及び各サイクルのベーク実行後に熱処理されたウエハ上に付着していたアルミニウム濃度を示している。(比較例4)の結果によれば、10サイクル、合計60時間のベークを行っても、ウエハ上に付着するアルミニウム濃度をベーク開始前(約1.0×1011)の半分程度(約5.0×1010)までしか低減することができなかった。また、第4サイクル〜第10サイクル後の熱処理期間中に付着したアルミニウム濃度を見ると、この期間中にはベーク回数を増やしても殆どアルミニウム濃度は変化せず、ベークを行う効果が見られなくなってしまっている。
【0046】
これに対して、(実施例2)の2回のベークにおいては、(比較例4)の第10サイクルまでに下げ止まっていたアルミニウム濃度が更に半分程度にまで減少し、ウエハに付着するアルミニウムをベーク開始前(約1.0×1011)の5分の1程度(約2.0×1010)にまで低減できた。これらの結果からも塩素を含むガスと水蒸気とを同時に供給してベークを行う手法が石英製品からのアルミニウムを除去する方法として効果的であることが分かる。
【0047】
(実験3)
反応容器2内にダミーウエハDWを搬入した状態でベークを行うことによるアルミニウムの除去効果について調べた。
【0048】
A.実験条件
図1に記載の縦型熱処理装置1において、ウエハボート3上に搭載するダミーウエハDWの数を変化させてベークを行い、その後反応容器2内にウエハを搬入して熱処理を行って、当該熱処理の期間中にウエハに付着したアルミニウム濃度を測定した。ベーク時の反応容器2内の温度は1000℃、ベーク時間は60分とした。反応容器2には、塩素を含むガスとしてトランス-ジクロロエチレンを0.6リットル/分で供給し、水蒸気を10リットル/分で供給した。なお再現性確認のため、同じ実験を2回行った。
【0049】
(実施例3-1、3−2)
ダミーウエハ枚数:100枚
(実施例4−1、4−2)
ダミーウエハ枚数: 50枚
(比較例5−1、5−2)
ダミーウエハ枚数: 0枚
【0050】
B.実験結果
図6は上述の各実施例、比較例の条件にてベークを行った後、ウエハの熱処理を行い、当該熱処理期間中にウエハに付着したアルミニウム濃度の測定結果を表している。実験の結果によれば、ダミーウエハDWを使用してベークを行った(実施例3−1、3−2)及び(実施例4−1、4−2)は、ダミーウエハDWを使用しなかった(比較例5−1、5−2)と比較して、ベーク後の熱処理期間中にウエハに付着したアルミニウム量が少ないことが分かる。また、実施例同士を比較するとダミーウエハの使用枚数の多い(実施例3−1、3−2)の方が、使用枚数の少ない(実施例4−1、4−2)に比べてアルミニウムの付着量が少なく、ベーク時に反応容器2内にあるダミーウエハDWの枚数が多い程、アルミニウムの除去効果が高いことが分かる。また、本実験においては塩素を含むガスとしてトランス-ジクロロエチレンを使用したが、当該ガスを使用してもアルミニウムの除去効果が発揮されることも確認された。
【0051】
(実験4)
反応容器2内の温度を変化させてアルミニウムの除去効果与える影響を調べた。
【0052】
A.実験条件
図1に記載の縦型熱処理装置1において、反応容器2内にガス(塩化水素ガス0.6リットル/分、水蒸気10リットル/分)を供給しながら当該容器内を加熱してベークを10時間行い、その後トップ、センター、ボトムの各位置に1枚ずつ、合計3枚のウエハを搭載したウエハボート3搬入して熱処理を行って当該熱処理期間中にウエハに付着したアルミニウム濃度を測定した。なおベーク期間中の反応容器2内へのダミーウエハDWの搬入は行わなかった。
(実施例5)
反応容器内温度:550℃
(実施例6)
反応容器内温度:700℃
(比較例6)
ベークを行っていない反応容器を用いてウエハの熱処理を行った。
【0053】
B.実験結果
ベークを行っていない反応容器2を用いた(比較例6)に比べ、ベークを行った(実施例5)、(実施例6)のいずれにおいても熱処理後のウエハのアルミニウム濃度は低くなっており、石英製品からのアルミニウム除去効果が発揮されている。一方、(実施例5)と(実施例6)とを比較すると、反応容器2内の温度が低い(実施例5)の方が、温度の高い(実施例6)よりもアルミニウムの除去効果が高くなっていることが分かる。但し、例えば500℃よりも大幅に低い温度まで反応容器2の温度を低下させると、塩酸の結露等による装置腐食の問題が発生し好ましくない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施の形態に係る縦型熱処理装置の縦断面図である。
【図2】実施の形態に係る石英製品のベーク方法についての処理の流れを示すフロー図である。
【図3】他の実施の形態に係るベーク装置の縦断面図である。
【図4】実施の形態に係るベーク方法による金属の除去効果を示す特性図である。
【図5】前記ベーク方法による金属の除去効果を示す第2の特性図である。
【図6】前記ベーク方法による金属の除去効果を示す第3の特性図である。
【図7】前記ベーク方法における反応容器内の温度変化の影響を示す特性図である。
【符号の説明】
【0055】
DW ダミーウエハ
1 縦型熱処理装置
2 反応容器
3 ウエハボート
4 インジェクタ
5 制御部
7 ガス供給管
10 ベーク装置
21 排気口
22 缶体
23 ヒータ
24 蓋体
25 ボートエレベータ
31 断熱ユニット
32 回転軸
33 回転駆動部
41 ガス流路
42 塩化水素ガス供給源
43 水蒸気供給源
44 酸素ガス供給源
45 処理ガス供給源
51 反応容器
52 蓋体
53 治具
61 缶体
62 ヒータ
71 塩化水素ガス供給源
72 水蒸気供給源
73 酸素ガス供給源
511 排気口
521 石英プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数枚の半導体基板を基板保持部に保持し、反応容器内に搬入して熱処理する熱処理装置に対して行われ、前記反応容器内の熱処理雰囲気に少なくとも一部が置かれる石英製品に含まれる金属を除去するためのベーク方法において、
前記石英製品が未だ半導体基板の熱処理に使用されていない段階、または半導体基板について金属汚染の発覚した段階で、前記基板保持部に多数枚のダミー基板を保持させて搬入する工程と、
次いで、塩素を含むガスと水蒸気とを前記反応容器内に導入すると共に、当該反応容器内を加熱雰囲気にして前記石英製品をベークし、これにより当該石英製品中の金属を反応容器内の雰囲気中に飛散させてダミー基板に付着させる工程と、
その後、ダミー基板を前記反応容器から搬出する工程と、を含むことを特徴とする石英製品のベーク方法。
【請求項2】
更に、搬出されたダミー基板に替えて、新たなダミー基板を基板保持部に保持して前記反応容器内に搬入し、同様に前記石英製品をベークすることにより、前記石英製品中の金属をダミー基板に付着させる工程を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の石英製品のベーク方法。
【請求項3】
更に、搬出されたダミー基板に付着している目的とする金属の濃度を測定する工程を含み、当該金属の濃度が予め決められた目標値以下になるまで、前記石英製品中の金属をダミー基板に付着させる工程を繰り返すことを特徴とする請求項2に記載の石英製品のベーク方法。
【請求項4】
更に、最後に前記ダミー基板が搬出された後に、前記反応容器内に酸素ガスを通流させる工程を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の石英製品のベーク方法。
【請求項5】
前記加熱雰囲気の温度は550℃以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の石英製品のベーク方法。
【請求項6】
前記塩素を含むガスは、塩化水素ガスであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の石英製品のベーク方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一つに記載の石英製品のベーク方法を実施するようにステップ群が組まれているコンピュータプログラムを格納したことを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−44091(P2009−44091A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210241(P2007−210241)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】