説明

磁気抵抗効果素子の製造方法

【課題】 MR変化率の高い磁気抵抗効果素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 キャップ層と、磁化固着層と、前記キャップ層と前記磁化固着層との間に設けられた磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられたスペーサ層と、Zn、In、SnおよびCdから選択される少なくとも1つの元素並びにFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物を有する機能層とを備えた積層体と、前記積層体の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極とを備えた磁気抵抗効果素子の製造方法であって、前記機能層の母材料から成る膜を成膜し、前記膜に、酸素の分子、イオン、プラズマおよびラジカルから成る群から選択される少なくとも1つを含むガスを用いた酸化処理を施し、前記酸化処理が施された膜に対して還元性ガスを用いた還元処理を施すことを含む磁気抵抗効果素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗効果素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果素子の品質を向上させる上で、MR変化率を増大させることが重要である。MR変化率を増大させる目的で、磁気抵抗効果素子の構成の改変やスペーサ層の材料の選択等が行われている。例えば、強磁性層の層中あるいは、これらと非磁性スペーサ層との界面に、酸化物あるいは窒化物からなる薄膜のスピンフィルター層(Spin Filter:SF)を挿入した磁気抵抗効果素子が提案されている。このSF層は、アップスピン電子又はダウンスピン電子の何れか一方の通電を阻害するスピンフィルター効果を有するために、MR(Magnetro Resistance)変化率を増大させることができる。このように、磁気抵抗効果素子に対して様々な改良がなされているものの、更なるMR変化率の増大が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−6589号公報
【特許文献2】特開2007−214333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、MR変化率の高い磁気抵抗効果素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、キャップ層と、磁化固着層と、前記キャップ層と前記磁化固着層との間に設けられた磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられたスペーサ層と、前記磁化固着層中、前記磁化固着層と前記スペーサ層との間、前記スペーサ層と前記磁化自由層との間、前記磁化自由層中、および前記磁化自由層と前記キャップ層との間の何れかに設けられ、Zn、In、SnおよびCdから選択される少なくとも1つの元素並びにFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物を有する機能層と、を備えた積層体と、前記積層体の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極とを備えた磁気抵抗効果素子の製造方法であって、前記機能層の母材料から成る膜を成膜し、前記膜に、酸素の分子、イオン、プラズマおよびラジカルから成る群から選択される少なくとも1つを含むガスを用いた酸化処理を施し、前記酸化処理が施された膜に対して還元性ガスを用いた還元処理を施すことを含む磁気抵抗効果素子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の一部を示すフローチャート。
【図2】実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図3】実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図4】第1の変形例に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図5】第2の変形例に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図6】第3の変形例に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図7】第4の変形例に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図8】第5の変形例に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図9】第6の変形例に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図10】実施形態に係る磁気ヘッドを示す図。
【図11】実施形態に係る磁気ヘッドを示す図。
【図12】実施形態に係る磁気記録再生装置を示す図。
【図13】実施形態に係るヘッドスライダを示す図。
【図14】実施形態に係るヘッドスタックアッセンブリを示す図。
【図15】磁気抵抗効果素子の断面を示す図。
【図16】磁気抵抗効果素子の各層に含まれる元素を示す図。
【図17】機能層のX線回析測定の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しつつ実施形態について説明する。また、以下説明する図面において、符号が一致するものは、同様のものを示しており、重複した説明は省略する。
【0008】
実施形態に係る磁気抵抗効果素子は、スピンバルブ膜を含むCPP−GMR(Current−perpendicular−to−plane Giant magnetoresistance)素子またはTMR(tunnelig magnetoresitance)素子を想定している。スピンバルブ膜とは、2層の強磁性層の間に非磁性スペーサ層を挟んだサンドイッチ構造を有する積層膜であり、抵抗変化を生ずる積層膜構造部位はスピン依存散乱ユニットとも呼ばれる。2層の強磁性層の一方の強磁性層(「ピン層」あるいは「磁化固定層」という)の磁化方向は反強磁性層などで固着される。他方の強磁性層(「フリー層」あるいは「磁化自由層」という)の磁化方向は外部磁界により変化可能である。スピンバルブ膜では、2層の強磁性層の磁化方向の相対角度の変化によって、大きな磁気抵抗効果が得られる。CPP−GMR素子およびTMR素子では、スピンバルブ膜面に対して垂直方向から電流を流す。
【0009】
[製造方法]
実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の製造方法について説明する。
【0010】
図1は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の一部を示すフローチャートである。図1のフローチャートでは、特に機能層21を形成する工程の詳細が示されている。実施形態に係る磁気抵抗効果素子は、各層を順次成膜することで製造することができる。特に機能層21の形成は、第1工程S110、第2工程S120および第3工程S130を含む。第1工程S110では機能層の母材料から成る膜を成膜し、第2工程S120では当該膜に、酸素の分子、イオン、プラズマおよびラジカルから成る群から選択される少なくとも1つを含むガスを用いた酸化処理を施し、および第3工程では酸化処理が施された膜に対して還元性ガスを用いた還元処理を施す。これに対し、従来の製造方法では、膜の形成および酸化処理が行われるのみであり、還元処理は行われない。
【0011】
なお、実施形態に係る製造方法では、各層の形成方法として、DCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタ等のスパッタ法、イオンビームスパッタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、およびMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いることができる。
【0012】
以下に、製造方法全体の詳細を説明する。例として、図2に示される実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法について説明する。
【0013】
最初に、基板上に下電極11を微細加工プロセスによって形成する。次に、下電極11上に、下地層12として例えばTa[1nm]/Ru[2nm]を形成する。Taは下電極11の荒れを緩和等するためのバッファ層に相当する。Ruはその上に形成されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するシード層に相当する。
【0014】
その後、下地層12上にピニング層13を形成する。ピニング層13の材料としては、PtMn、PdPtMn、IrMn、又はRuRhMn等の反強磁性材料を用いることができる。
【0015】
その後、ピニング層13上にピン層14を形成する。ピン層14は、例えば、下部ピン層141(Co75Fe25[3.2nm])、磁気結合層142(Ru)、および上部ピン層143(Co50Fe50[3nm])からなるシンセティックピン層とすることができる。
【0016】
その後、ピン層14上にスペーサ層16を形成する。スペーサ層16として、Cu、Ag、Auから選択される少なくとも1つの元素を含む非磁性金属層やCCPスペーサ層、トンネル絶縁スペーサ層が形成される。
【0017】
その後、スペーサ層16上に機能層21を形成する。
具体的には、まず、第1工程S110として、上部ピン層143上にFe50Co50とZnの金属層を成膜する。ここで、Fe50Co50とZnの金属層は、Fe50Co50/ZnやZn/Fe50Co50や(Fe50Co50/Zn)×2のようなFe50Co50層とZn層の積層体としても良いし、Zn50(Fe50Co5050のような合金の単層としてもよい。第1工程S110として、Zn、In、SnおよびCdから選択される少なくとも1つの元素並びにFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1つの元素を含む金属層を成膜することができる。
【0018】
次に、第2工程S120として、ZnとFe50Co50を含む金属材料に酸化処理を施す。この酸化処理は、希ガスなどのイオンビームまたはプラズマを金属材料層に照射しながら、酸素を供給して行う、イオンアシスト酸化(IAO:Ion assisted Oxidation)を用いることができる。また、上記のイオンアシスト酸化処理において、酸素ガスをイオン化またはプラズマ化してもよい。イオンビームの照射による金属材料層へのエネルギーアシストにより、安定で均一な酸化物層を機能層21として形成することができる。また、一層の機能層21を形成するに当たり、上述した金属材料層の形成と酸化処理を数回繰り返して行ってもよい。この場合、所定の膜厚の機能層21を一度の成膜および酸化処理で作製するのではなく、膜厚を分割して薄い膜厚の金属材料層に酸化処理を行うほうが好ましい。また、ZnとFe50Co50を含む金属材料層を酸素雰囲気に晒す自然酸化を用いてもよい。ただし、安定な酸化物を形成するためには、エネルギーアシストを用いた酸化方法のほうが好ましい。また、ZnとFe50Co50の金属材料を積層体とした場合は、均一に混合されたZnとFe50Co50の機能層21を形成する上で、イオンビームの照射を行いながら酸化したほうが好ましい。
【0019】
希ガスなどのイオンビームまたはプラズマを用いる場合、当該希ガスは、例えば、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオンおよびクリプトンから成る群から選択される少なくとも1つを含むガスを使用することができる。
【0020】
なお、エネルギーアシストの方法として、イオンビームの照射以外に加熱処理などを行ってもよい。この場合、たとえば、金属材料層を成膜後に100℃〜300℃の温度で加熱しながら、酸素を供給してもよい。
【0021】
以下、機能層21を形成する酸化処理において、イオンビームアシスト酸化処理を行った場合のビーム条件について説明する。酸化処理により、機能層21を形成する際に前述した希ガスをイオン化またはプラズマ化して照射する場合、その加速電圧Vを30V〜130V、ビーム電流Ibを20mA〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いても同様に機能層21を形成することができる。イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0°、膜面に平行に入射する場合を90°と定義して、0°〜80°の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜1200秒が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒から600秒が好ましい。
【0022】
イオン又はプラズマを用いた酸化処理の場合、酸素暴露量はIAOの場合には1×10〜1×10L(Langmiur、1L=1×10−6Torr×sec)が好ましい。自然酸化の場合には3×10L〜3×10Lが好ましい。
【0023】
次に、第3工程として、還元性ガスを用いた還元処理を行う。還元性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンまたはキセノンのイオン、プラズマまたはラジカル、または水素または窒素の分子、イオン、プラズマまたはラジカルの少なくとも何れかを含むガスを使用することができる。特に還元性ガスとして、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンまたはキセノンのイオンまたはプラズマ、または水素または窒素のイオンまたはプラズマの少なくとも何れかを含むガスを使用することが好ましい。さらに、還元性ガスとしては、アルゴンのイオンまたはプラズマの少なくとも何れかを含むガスを使用することが好ましい。
【0024】
この還元処理によって、酸化処理後の母材料から成る膜の酸化価数を調整することができる。例えば、機能層としてZnおよびFe50Co50を含む酸化物を使用する場合、酸化処理を終えた後のZn−Fe酸化物機能層は、(Fe−Co−Zn)、α−(Fe−Co−Zn)、γ−(Fe−Co−Zn)等の様々な結晶構造のZn−Fe酸化物の混合酸化物となっている。ここで、(Fe−Co−Zn)は導電体であり、低い抵抗率を得る観点で望ましい酸化物であるものの、α−(Fe−Co−Zn)およびγ−(Fe−Co−Zn)は絶縁性の酸化物であるため、これらの存在は機能層の抵抗率の増大を招く。実施形態に係る製造方法では、第3工程として機能層に対して還元性ガスを用いた還元処理を行い、α−(Fe−Co−Zn)、γ−(Fe−Co−Zn)等の価数を還元して(Fe−Co−Zn)に変換することにより、低い抵抗率のスピンフィルタリング層を提供し、スピンフリップの発生を抑えてスピンフィルタリング効果による高いMR変化率を実現することができる。
【0025】
第3工程において、還元処理は、酸化処理後の母材料から成る膜を加熱しながら行うことができる。例えば、100℃から300℃に加熱した母材料に対して還元処理を行うことができる。加熱することで、より効率的に還元処理を行うことができる。
【0026】
第3工程後において、さらに第4工程として、還元処理後の膜に対して、アルゴンイオンの照射、アルゴンプラズマの照射および加熱から成る群から選択される少なくとも1つの水分除去処理を施すことができる。これによって、還元処理の際に生成する水分を除去することができる。
【0027】
また、機能層21の作製において、第1工程から第4工程までを終えた後、第3工程と第4工程とを再度繰り返すことができる。生成した水の除去と還元処理とを交互に繰り返すことで、より効率的に膜を還元することができる。
【0028】
さらに、十分に還元したい場合または膜厚が大きい場合等において、良好な還元を実現する目的で、特定の工程を複数回繰り返すこともできる。例えば、第1工程、第2工程、第3工程および第4工程を複数回繰り返すことができる。この場合、膜の形成、酸化処理、還元処理および水の除去から成る一連の処理が複数回繰り返される。または、第1工程、第2工程および第3工程を複数回繰り返すことができる。この場合、膜の形成、酸化処理および還元処理から成る一連の処理が複数回繰り返され、第4の工程を行う場合には、最後に水の除去工程が行われる。あるいは、第1工程および第2工程を複数回繰り返すことができる。この場合、成膜および酸化処理が交互に行われた後、還元処理(および、任意に水の除去)が行われる。このように、所定の膜厚の機能層21を一度の成膜および酸化還元処理によって作製するのではなく、膜厚を分割して、その膜厚ずつ成膜および酸化還元処理を行うことが好ましい。
【0029】
このような還元処理について、特にArイオンビーム照射を行った場合のビーム条件を以下に説明する。還元処理により、機能層21を形成する際に前述した希ガスをイオン化またはプラズマ化して照射する場合、その加速電圧Vを30V〜130V、ビーム電流Ibを20mA〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いても同様に機能層21を形成することができる。イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0°、膜面に平行に入射する場合を90°と定義して、0°〜80°の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜1200秒が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒から600秒が好ましい。
【0030】
その後、機能層21上にフリー層18を形成する。フリー層18としては、例えば、Fe50Co50[1nm]/Ni85Fe15[3.5nm]を形成する。
【0031】
その後、フリー層18上にキャップ層19を形成する。キャップ層19としては、例えば、Cu[1nm]/Ru[10nm]を形成する。
【0032】
その後、アニール処理を行う。
【0033】
最後に、キャップ層19上に磁気抵抗効果素子10へ垂直通電するための上電極20を形成する。
【0034】
[磁気抵抗効果素子]
(実施形態)
図2は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の構成を示す図である。
【0035】
実施形態に係る磁気抵抗効果素子10は、磁気抵抗効果素子10を酸化等の劣化から防止するキャップ層19と、磁化が固着された磁化固着層(以下、ピン層と呼ぶ)14と、キャップ層19とピン層14との間に設けられた磁化が自由に回転する磁化自由層(以下、フリー層と呼ぶ)18と、ピン層14とフリー層18との間に設けられた非磁性体からなるスペーサ層16と、スペーサ層16とフリー層18との間に設けられ、少なくともZn、In、Sn、及びCdの何れか1つの元素、並びに少なくともFe、Co、Niの何れか1つの元素を混合した酸化物を含む機能層21と、を備える。ここで、キャップ層19、フリー層18、機能層21、スペーサ層16、及びピン層14を含む構成要素が積層されたものを積層体と定義する。
【0036】
また、磁気抵抗効果素子10は、積層体の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極(下電極11および上電極20)を備える。これらの電極は、それぞれ積層体の最も外側の層に接触しており、スペーサ層16を基準として、ピン層14側に位置する電極を下電極11と称し、フリー層18側に位置する電極を上電極20と称する。さらに、磁気抵抗効果素子10は、下電極11とピン層14との間に設けられ、ピン層14の磁化方向を固着するための反強磁性体からなるピニング層13、およびピニング層13と下電極11との間に設けられた下地層12を備える。
【0037】
下電極11および上電極20は、磁気抵抗効果素子10の膜面に対して垂直方向に電流を流す。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、磁気抵抗効果素子10の内部を膜面垂直方向に沿って電流が流れる。
【0038】
この電流が流れることで、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することができ、磁気の検知が可能となる。下電極11および上電極20としては、電流を磁気抵抗効果素子10に流すために、電気抵抗が比較的小さいCu、Au等が用いられる。
【0039】
下地層12は、例えば、バッファ層およびシード層が積層した構成をとる。ここで、バッファ層は下電極11側に位置し、シード層はピニング層13側に位置する。
【0040】
バッファ層は下電極11の表面の荒れを緩和し、バッファ層上に積層される層の結晶性を改善する。バッファ層としては、例えばTa、Ti、V、W、Zr、Hf、Cr又はこれらの合金を用いることができる。バッファ層の膜厚は1nm以上10nm以下が好ましく、2nm以上5nm以下がより好ましい。バッファ層の厚さが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方、バッファ層の厚さが厚すぎるとMR変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお、バッファ層上に形成されるシード層がバッファ効果を有する場合には、バッファ層を必ずしも設ける必要はない。好ましい一例として、Taを3nm形成することができる。
【0041】
シード層は、シード層上に積層される層の結晶配位向及び結晶粒径を制御する。シード層としては、fcc構造(face−centered cubic structure:面心立方格子構造)、hcp構造(hexagonal close−packed structure:六方最密格子構造)またはbcc構造(body−centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属等が好ましい。
【0042】
例えば、シード層として、hcp構造を有するRuまたはfcc構造を有するNiFeを用いることにより、その上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また、ピニング層13がIrMnの場合には良好なfcc(111)配向が実現され、ピニング層13がPtMnの場合には規則化したfct(111)構造(face−centered tetragonal structure:面心正方構造)が得られる。また、フリー層18及びピン層14としてfcc金属を用いたときには良好なfcc(111)配向を実現でき、フリー層18及びピン層14としてbcc金属を用いたときには、良好なbcc(110)配向とすることができる。結晶配向を向上させるシード層としての機能を十分発揮するために、シード層の膜厚としては、1nm以上5nm以下が好ましく、1.5nm以上3nm以下がより好ましい。好ましい一例として、Ruを2nm形成することができる。
【0043】
他にも、シード層として、Ruの代わりに、NiFeベースの合金(例えば、NiFe100−x(x=90%〜50%、好ましくは75%〜85%)や、NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(NiFe100−x100−y(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))を用いることもできる。NiFeベースのシード層では、良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり、ロッキングカーブの半値幅を3°〜5°とすることができる。
【0044】
シード層には、結晶配向を向上させる機能だけでなく、スピンバルブ膜の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には、スピンバルブ膜の結晶粒径を5nm以上20nm以下に制御することができ、磁気抵抗効果素子のサイズが小さくなっても、特性のばらつきを招くことなく高いMR変化率を実現できる。
【0045】
なお、シード層の結晶粒径を5nm以上20nm以下にすることで、結晶粒界による電子乱反射及び非弾性散乱サイトが少なくなる。このサイズの結晶粒径を得るには、Ruを2nm形成する。また、(NiFe100−x100−y(Z=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))の場合には、第3元素Xの組成yを0%〜30%程度として(yが0の場合も含む)、2nm形成することが好ましい。
【0046】
スピンバルブ膜の結晶粒径は、シード層とスペーサ層16との間に配置された層の結晶粒の粒径によって判別できる(例えば、断面TEMなどによって決定できる)。例えば、ピン層14がスペーサ層16よりも下層に位置するボトム型スピンバルブ膜の場合には、シード層の上に形成されるピニング層13(反強磁性層)や、ピン層14(磁化固着層)の結晶粒径によって判別することができる。
【0047】
ピニング層13は、その上に形成されるピン層14となる強磁性層に一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固着する機能を有する。ピニング層13の材料としては、PtMn、PdPtMn、IrMn、又はRuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。この内、高記録密度対応のヘッドの材料として、IrMnが有利である。IrMnは、PtMnよりも薄い膜厚で一方向異方性を印加することができ、高密度記録の為に必要な狭ギャップ化に適している。
【0048】
十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層13の膜厚を適切に設定する。ピニング層13の材料がPtMnやPdPtMnの場合には、膜厚として、8nm以上20nm以下が好ましく、10nm以上15nm以下がより好ましい。ピニング層13の材料がIrMnの場合には、PtMnなどより薄い膜厚でも一方向異方性を付与可能であり、4nm以上18nm以下が好ましく、5nm以上15nm以下がより好ましい。好ましい一例として、Ir22Mn78を7nm形成することができる。
【0049】
ピニング層13として、反強磁性層の代わりに、ハード磁性層も用いることができる。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Co=50%〜85%)、(CoPt100−x100−yCr(x=50%〜85%、y=0%〜40%)、FePt(Pt=40%〜60%)を用いることができる。ハード磁性層(特に、CoPt)は比抵抗が比較的小さいため、直列抵抗および面積抵抗RA(Resistance Area)の増大を抑制できる。
【0050】
ここで、面積抵抗RAとは、磁気抵抗効果素子10の積層膜の積層方向に対して垂直な断面積と磁気抵抗効果素子10の積層膜の膜面に垂直に電流を流したときに一対の電極から得られる抵抗との積を示す。
【0051】
スピンバルブ膜やピニング層13の結晶配向性は、X線回折により測定できる。スピンバルブ膜のfcc(111)ピーク、ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5°〜6°として、良好な配向性を得ることができる。なお、この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
【0052】
ピン層14は、ピニング層13側から下部ピン層141、磁気結合層142、及び上部ピン層143をこの順に積層した構成をとる。
【0053】
ピニング層13と下部ピン層141は一方向異方性(Unidirectional Anisotropy)を持つように交換磁気結合している。磁気結合層142を挟む下部ピン層141及び上部ピン層143は、磁化の向きが互いに反平行になるように強く結合している。
【0054】
下部ピン層141の材料としては、例えば、CoFe100−x合金(x=0%〜100%)、NiFe100−x合金(x=0%〜100%)、またはこれらに非磁性元素を添加したものを用いることができる。また、下部ピン層141の材料として、Co、Fe、Niの単元素やこれらの合金を用いることもできる。または、(CoFe100−x100−Y合金(x=0%〜100%、x=0%〜30%)を用いることもできる。(CoFe100−x100−Yのようなアモルファス合金を用いた場合、磁気抵抗効果素子の素子サイズが小さくなった場合に素子間のバラツキを抑える観点で好ましい。
【0055】
下部ピン層141の膜厚は1.5nm以上5nm以下が好ましい。ピニング層13による一方向異方性磁界強度および磁気結合層142を介した下部ピン層141と上部ピン層143との反強磁性結合磁界を強く保つためである。
【0056】
また、下部ピン層141が薄すぎると、MR変化率に影響を与える上部ピン層143も薄くしなければならなくなるため、MR変化率が小さくなる。一方、下部ピン層141が厚すぎるとデバイス動作に必要な十分な一方向性異方性磁界を得ることが困難になる。
【0057】
また、下部ピン層141の磁気膜厚(飽和磁化Bs×膜厚t(Bs・t積))を考慮する場合、上部ピン層143の磁気膜厚とほぼ等しいことが好ましい。つまり、上部ピン層143の磁気膜厚と下部ピン層141の磁気膜厚とが対応することが好ましい。
【0058】
例えば、上部ピン層143がFe50Co50[3nm]の場合、薄膜でのFe50Co50の飽和磁化が約2.2Tであるため、磁気膜厚は2.2T×3nm=6.6Tnmとなる。Co75Fe25の飽和磁化が約2.1Tなので、上記と等しい磁気膜厚を与える下部ピン層141の膜厚tは6.6Tnm/2.1T=3.15nmとなる。したがって、この場合、下部ピン層141の膜厚は約3.2nmのCo75Fe25を用いることが好ましい。
【0059】
ここで、‘/’は‘/’の左側に記載されたものから順に積層していることを示し、Au/Cu/Ruと記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にRu層を積層していることを示す。また、‘×2’とは、2層であることを示し、(Au/Cu)×2と記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にさらにAu層、Cu層と順次積層していることを示す。また、‘[ ]’はその材料の膜厚を示す。
【0060】
磁気結合層142は、磁気結合層142を挟む下部ピン層141及び上部ピン層143に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合層142として、Ruを用いることができ、磁気結合層142の膜厚は0.8nm以上1nm以下であることが好ましい。なお、磁気結合層142を挟む下部ピン層141及び上部ピン層143に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、Ru以外の材料を用いてもよい。磁気結合層142の膜厚は、RKKY(Ruderman−Kittel−Kasuya−Yosida)結合の2ndピークに対応する膜厚0.8nm以上1nm以下の代わりに、RKKY結合の1stピークに対応する膜厚0.3nm以上0.6nm以下を用いることもできる。ここでは、より高信頼性の結合を安定して特性が得られる、膜厚が0.9nmのRuが一例として挙げられる。
【0061】
上部ピン層143は、MR効果に直接的に寄与する磁性層であり、大きなMR変化率を得るために、この構成材料、膜厚の双方が重要である。
【0062】
上部ピン層143としては、Fe50Co50を用いることができる。Fe50Co50は、bcc構造を有する磁性材料である。この材料は、スピン依存界面散乱効果が大きいため、大きなMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金として、FeCo100−x(x=30%〜100%)や、FeCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。そのなかでも、諸特性をすべて満たしたFe40Co60〜Fe80Co20が使いやすい材料の一例である。
【0063】
上部ピン層143が、高MR変化率を実現しやすいbcc構造をもつ磁性層から形成されている場合には、この磁性層の全膜厚が1.5nm以上であることが好ましい。bcc構造を安定に保つためである。スピンバルブ膜に用いられる金属材料は、fcc構造またはfct構造であることが多いため、上部ピン層143のみがbcc構造を有することがあり得る。このため、上部ピン層143の膜厚が薄すぎると、bcc構造を安定に保つことが困難になり、高いMR変化率が得られなくなる。
【0064】
また、上部ピン層143の材料として、(CoFe100−x100−Y合金(x=0%〜100%、x=0%〜30%)を用いることもできる。(CoFe100−x100−Yのようなアモルファス合金を用いた場合、磁気抵抗効果素子の素子サイズが小さくなった場合に懸念される結晶粒に起因した素子間のバラツキを抑える観点で好ましい。また、このようなアモルファス合金を用いた場合、上部ピン層143を平坦な膜にすることができるため、上部ピン層143の上に形成されるトンネル絶縁層を平坦化する効果がある。トンネル絶縁層の平坦化は、トンネル絶縁層の欠陥の頻度を減らすことができるため、低い面積抵抗で高いMR変化率を得るために重要である。特に、トンネル絶縁層材料としてMgOを用いる場合、(CoFe100−x100−Yのようなアモルファス合金を用いることでその上に形成されるMgO層の(100)配向性を強めることができる。MgO層の(100)配向性は高いMR変化率を得るために重要である。また、(CoFe100−x100−Y合金はアニール時にMgO(100)面をテンプレートとして結晶化するため、MgOと(CoFe100−x100−Y合金の良好な結晶整合を得ることが出来る。このような良好な結晶整合は高いMR変化率を得る観点で重要である。
【0065】
上部ピン層143の膜厚は、厚いほうが大きなMR変化率を得やすいが、大きなピン固着磁界を得るためには薄いほうが好ましく、トレードオフの関係が存在する。例えば、bcc構造をもつFeCo合金層を用いたときには、bcc構造を安定にする必要があるため、1.5nm以上の膜厚が好ましい。また、fcc構造のCoFe合金層を用いるときにも、大きなMR変化率を得るため、やはり1.5nm以上の膜厚が好ましい。一方、大きなピン固着磁界を得るためには、上部ピン層143の膜厚が最大でも、5nm以下であることが好ましく、4nm以下であることがより好ましい。以上のように、上部ピン層143の膜厚は、1.5nm以上5nm以下が好ましく、2.0nm以上4nm以下がより好ましい。
【0066】
上部ピン層143には、bcc構造をもつ磁性材料の代わりに、従来の磁気抵抗効果素子で広く用いられているfcc構造を有するCo90Fe10合金や、hcp構造をもつCoや、Co合金を用いることができる。上部ピン層143として、Co、Fe、又はNiなどの単体金属、若しくはこれらのいずれか一つの元素を含む合金材料を用いることができる。上部ピン層143の磁性材料として、大きなMR変化率を得るのに有利なものは、bcc構造をもつFeCo合金材料、50%以上のコバルト組成をもつコバルト合金、50%以上のNi組成である。
【0067】
また、上部ピン層143として、CoMnGe、CoMnSi、CoMnAlなどのホイスラー磁性合金層を用いることも可能である。
【0068】
スペーサ層16は、ピン層14とフリー層18との磁気的な結合を分断する。スペーサ層16は、非磁性金属層やCCP(Current−Confined−to−path)スペーサ層やトンネル絶縁スペーサ層を用いることができる。
【0069】
スペーサ層16として、非磁性金属層を用いる場合は、Au、Ag、及びCuのいずれかの元素を用いることができる。また、スペーサ層16の膜厚は0.5nm以上5nm以下が好ましい。
【0070】
スペーサ層16にCCPスペーサ層を用いる場合を、図3を用いて説明する。図3(a)に示されるようにCCPスペーサ層は、下部金属層15、電流狭窄層23および上部金属層17から成る。さらに、図3(b)に示されるように、電流狭窄層23は、絶縁層25および電流パス24から成る。電流パス24は電流を通過させることができる。
【0071】
下部金属層15は、電流パス24の形成に用いられ、電流パス24の供給源である。下部金属層15は、その上部の絶縁層25を形成するときに、下部に位置する上部ピン層143の酸化を抑制するストッパ層としての機能も有する。
【0072】
電流パス24の構成材料がCuの場合には、下部金属層15の構成材料も同一(Cu)であることが好ましい。電流パス24の構成材料を磁性材料とする場合には、この磁性材料はピン層14の磁性材料と同一、別種のいずれでも構わない。電流パス24の構成材料として、Cu以外に、Au、Agなどを用いても良い。
【0073】
絶縁層25は、酸化物、窒化物、酸窒化物等から構成される。スペーサ層としての機能を発揮するために、絶縁層25の厚さは、1nm〜3nmが好ましく、1.5nm〜2.5nmの範囲がより好ましい。
【0074】
絶縁層25に用いられる典型的な材料としては、Alおよびこれに添加元素を加えたものが挙げられる。例として、膜厚約2nmのAlを用いることができる。添加元素としては、Ti、Hf、Mg、Zr、V、Mo、Si、Cr、Nb、Ta、W、B、Cなどがある。これらの添加元素の添加量は0〜50%程度の範囲で適宜帰ることができる。
【0075】
絶縁層25には、AlのようなAl酸化物の変わりに、Mg酸化物、Zn酸化物、Ti酸化物、Hf酸化物、Mn酸化物、Zr酸化物、Cr酸化物、Ta酸化物、Nb酸化物、Mo酸化物、Si酸化物、V酸化物なども用いることができる。これらの酸化物に対しても上述した添加元素を用いることができる。添加元素の添加量は0〜50%程度の範囲で適宜変えることができる。
【0076】
絶縁層25として、酸化物の変わりに、Al、Si、Hf、Ti、Mg、Zr、V、Mo、Nb、Ta、W、B、Cをベースとする窒化物または酸窒化物を用いても良い。
【0077】
電流パス24は、電流狭窄層23の膜面垂直に電流を流すパス(経路)であり、電流を狭窄するためのものである。絶縁層25の膜面垂直方向に電流を通過させる導電体として機能し、例えば、Cu等の金属層から構成できる。即ち、電流狭窄層23では、電流狭窄構造(CCP構造)を有し、電流狭窄効果によりMR変化率を増大可能である。電流パス24(CCP)を形成する材料は、Cu、Au、Ag、Ni、Co、Feまたはこれらの元素を少なくとも1つ含む合金層を用いることができる。一例として、電流パス24を、Cuを含む合金層で形成することができる。CuNi、CuCo、CuFeなどの合金層も用いることができる。ここで、50%以上のCuを有する組成とすることが、高MR変化率と、ピン層14とフリー層18の層間結合磁界(interlayer coupling field、 Hin)を小さくするためには好ましい。
【0078】
電流パス24は絶縁層25と比べて著しく酸素および窒素の含有量が少ない領域であり(少なくとも2倍以上の酸素または窒素の含有量の差がある)、結晶相である。結晶相は非結晶相よりも抵抗が小さいため、電流パス24として機能しやすい。
【0079】
上部金属層17は、電流狭窄層23を構成する酸素および窒素がフリー層18中に拡散することを抑制するためのバリア層、およびフリー層18の良好な結晶成長を促進するためのシード層として機能する。具体的には、上部金属層17は、その上に成膜されるフリー層18が、電流狭窄層23の酸化物、窒化物および酸窒化物に接して酸化および窒化されないように保護する。即ち、上部金属層17は、電流パス24の酸化物層中の酸素とフリー層18との直接的な接触を制限する。また、上部金属層17は、フリー層18の結晶性を良好にし、例えば、絶縁層25の材料がアモルファス(例えば、Al)の場合には、その上に成膜される金属層の結晶性が悪くなるが、結晶性を良好にする極薄のシード層(例えば、Cu層)を配置することで、フリー層18の結晶性を著しく改善することが可能となる。
【0080】
上部金属層17の材料は、電流狭窄層23の電流パス24の材料(例えば、Cu)と同一であることが好ましい。上部金属層17の材料が電流パス24の材料と異なる場合には界面抵抗の増大を招くが、両者が同一の材料であれば界面抵抗の増大は生じないためである。なお、電流パス24の構成材料を磁性材料とする場合には、この磁性材料はフリー層18の磁性材料と同一、別種のいずれでも構わない。上部金属層17の構成材料として、Cu、Au、Ag等を用いることができる。
【0081】
スペーサ層にトンネル絶縁スペーサ層を用いる場合、Mg、Al、Ti、Zr、Hf及びZnから選択される少なくとも1つの元素を含む非磁性酸化物とすることができる。特に、MgOはコヒーレントなスピン依存トンネリング現象を示すため、高いMR変化率を得る観点で好ましい。また、トンネル絶縁スペーサ層16の膜厚は1nm以上4nm以下であることが好ましい。
【0082】
フリー層18は、磁化方向が外部磁界によって変化する強磁性体を有する層である。例えば、界面にCoFeを形成してNiFeを用いたCo90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]という二層構成を用いることができる。なお、NiFe層を用いない場合には、Co90Fe10[4nm]単層を用いることができる。また、CoFe/NiFe/CoFeなどの三層構成からなるフリー層18を用いても構わない。
【0083】
フリー層18には、CoFe合金のなかでも、軟磁気特性が安定であることから、Co90Fe10が好ましい。Co90Fe10近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5nm以上4nm以下とすることが好ましい。その他、CoFe100−x(x=70%〜90%)も用いることができる。
【0084】
また、フリー層18として、1nm以上2nm以下のCoFe層またはFe層と、0.1nm以上0.8nm以下の極薄Cu層とを複数層交互に積層したものを用いてもよい。
【0085】
また、フリー層18の一部として、CoZrNbなどのアモルファス磁性層を用いても構わない。ただし、アモルファス磁性層を用いる場合でも、MR変化率に大きな影響を与えるスペーサ層16と接する界面は結晶構造を有する磁性層を用いることが必要である。フリー層18の構造としては、スペーサ層16側からみて、次のような構成が可能である。即ち、フリー層18の構造として、(1)結晶層のみ、(2)結晶層/アモルファス層の積層、(3)結晶層/アモルファス層/結晶層の積層、などが考えられる。ここで重要なことは、(1)から(3)のいずれでもスペーサ層16との界面は必ず結晶層が接することである。
【0086】
キャップ層19は、スピンバルブ膜を保護する機能を有する。キャップ層19は、例えば、複数の金属層、例えば、Cu層とRu層の2層構造(Cu[1nm]/Ru[10nm])とすることができる。また、キャップ層19として、Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合、Ruの膜厚は0.5nm以上2nm以下が好ましい。この構成のキャップ層19は、特に、フリー層18がNiFeからなる場合に好ましい。RuはNiと非固溶な関係にあるので、フリー層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。
【0087】
キャップ層19が、Cu/RuやRu/Cuのいずれの場合も、Cu層の膜厚は0.5nm以上10nm以下が好ましく、Ru層の膜厚は0.5nm以上5nm以下とすることができる。Ruは比抵抗値が高いため、あまり厚いRu層を用いることは好ましくないため、このような膜厚範囲にしておくことが好ましい。
【0088】
キャップ層19として、Cu層やRu層の代わりに他の金属層を設けてもよい。キャップ層19の構成は特に限定されず、キャップとしてスピンバルブ膜を保護可能なものであれば、他の材料を用いてもよい。但し、キャップ層の選択によってMR変化率や長期信頼性が変わる場合があるので、注意が必要である。CuやRuはこれらの観点からも好ましいキャップ層の材料の例である。
【0089】
機能層21は、アップスピン電子又はダウンスピン電子の透過を制御することができるスピンフィルター効果を有する。機能層21としては、Zn、In、Sn、及びCdの何れか少なくとも1つの元素、並びにFe、Co、Niの何れか少なくとも1つの元素を混合した酸化物を含むことを特徴とする。具体的には、Fe50Co50とZnの混合酸化物を用いることができる。なお、Znは、In、Sn、及びCdの中でもFe、Co、及びNiと同周期であるために、Fe、Co、及びNiとの混合酸化物となった場合に磁性を帯びやすいので、機能層21の磁化を安定化させることができるので、より好ましい。
【0090】
これらの材料を用いることで、高いスピンフィルター効果と低い抵抗率の実現によるスピンフリップの低減を両立することができているため、磁気抵抗効果素子10のMR変化率を向上させることができる。
【0091】
ここで、低い抵抗率のスピンフィルタリング層を実現するためには、スピンフィルタリング層がZnO、In、SnO、ZnO、CdO、CdIn、CdSnO、ZnSnOなどの上記したZn、In、Sn、及びCdを含む酸化物材料を含有することが有効である。これらの酸化物材料が低い抵抗率を示す理由の1つとして、次のことが考えられる。これらの酸化物半導体は、3eV以上のバンドギャップを持つ半導体であるが、化学量論組成から少し還元気味にずれることにより酸素空孔などの真性欠陥がドナー準位を形成するため、伝導電子密度が1018cm−3〜1019cm−3程度まで到達する。これらの導電性酸化物のバンド構造において、価電子帯は主として酸素原子の2p軌道で、伝導帯は金属原子のs軌道で構成されている。キャリア密度フェルミ準位が1018cm−3よりも増えると伝導帯に達し、縮退と呼ばれる状態になる。このような酸化物半導体はn型の縮退半導体と呼ばれ、伝導電子の十分な濃度と移動度を併せ持ち、低い抵抗率を実現する。なお、このような理論に当てはまらないものであっても、低い抵抗率を示すものであれば、そのような酸化物材料を使用することができる。
【0092】
一方、高いスピンフィルター効果を有するスピンフィルタリング層を実現するためには、スピンフィルタリング層が室温で磁性を有するCo、Fe、及びNiの酸化物を含有することが有効である。低い抵抗率を実現するのに有効なZn、In、Sn、及びCdを含む酸化物材料はバルクの特性として磁性を有していない。フリー層やピン層に極薄の酸化物層を挿入した場合、磁性を有していない酸化物材料も磁性を発現してスピンフィルター効果が得られることが特開2004−6589号に開示されているが、Co、Fe、及びNiの酸化物を含有したほうが酸化物層の膜厚の制限に縛られずに容易に磁性を発現して高いスピンフィルター効果が得られる。
【0093】
また、機能層21にさらに添加元素を加えても良い。Zn酸化物に添加元素としてAlを加えた場合、熱耐性があがることが報告されている。Alのほかにも、添加元素としては、B、Ga、In、C、Si、Ge、及びSn等があげられる。耐熱性が向上するメカニズムは完全に明らかとはなっていないが、化学量論組成から還元気味にずれたことにより形成されるZn酸化物中の酸素空孔の密度が、熱による再酸化の促進により減少して、キャリア密度が変わることが起因していると考えられる。他にも耐熱性が向上する理由として、上記したこれらの元素はIII族、またはIV族のドーパントにあたり、これらのドーパントは熱によるZn原子の再酸化の促進を防ぐために、機能層21中のキャリア密度の変化を抑えることができ、さらには熱に対する抵抗率の変化が抑えられるということが挙げられる。
【0094】
機能層21の膜厚は、十分なスピンフィルタリング効果を得るためには0.5nm以上とすることが好ましい。また、より均一な機能層21を得るためには、製造上の装置の依存性を考慮して、1nm以上にすることがさらに好ましい。一方、膜厚の上限は再生ヘッドのリードギャップを広げない観点で10nm以下とすることが好ましい。
【0095】
(変形例)
機能層21を設ける位置は、図2に示される実施形態(すなわちフリー層18とスペーサ層16との間)に限定されない。例えば、図4から9に示されるように様々な位置に挿入することができる。各変形例について以下に説明する。
【0096】
(第1の変形例)
図4は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第1の変形例を示す図である。
【0097】
第1の変形例は、機能層21がフリー層18内に設けられている点で実施形態と異なる。また、フリー層18は第1のフリー層18aと第2のフリー層18bからなる。なお、第1のフリー層18aは、スペーサ層16と機能層21との間に設けられ、第2のフリー層18bはキャップ層19と機能層21との間に設けられている。
【0098】
フリー層18内に機能層21を形成する場合、第1のフリー層18a上に、スペーサ層16、機能層21、第2のフリー層18bの順に形成する。
【0099】
このように、機能層21をフリー層18内に機能層21を設けた場合においても、前述したように機能層21はスピンフィルタリング効果を発現する。また、機能層21は、フリー層18と磁気結合をし、フリー層18と同様に磁化の方向が自由になるので、フリー層18の機能を阻害することなく、磁気抵抗効果素子10のMR変化率の向上に寄与する。さらに、機能層21に含まれる酸素がスペーサ層16に拡散することを少なくすることができるため、スペーサ層16中に酸素元素が存在した場合に引き起こされるスペーサ層16中でのスピンフリップの発生を抑制して高いMR変化率を得ることができる。
【0100】
(第2の変形例)
図5は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第2の変形例を示す図である。
【0101】
第2の変形例は、機能層21がフリー層18とキャップ層19との間に設けられている点で実施形態と異なる。
【0102】
このように、機能層21をフリー層18とキャップ層19との間に設けた場合においても、前述したように機能層21はスピンフィルタリング効果を発現する。また、機能層21は、酸化物であるので、磁気抵抗効果素子10を酸化等の劣化から保護することができる。さらに、機能層21に含まれる酸素がスペーサ層16に拡散することを少なくすることができるため、スペーサ層16中に酸素元素が存在した場合に引き起こされるスペーサ層16中でのスピンフリップの発生を抑制して高いMR変化率を得ることができる。
【0103】
(第3の変形例)
図6は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第3の変形例を示す図である。
【0104】
第3の変形例は、機能層21がピン層14とスペーサ層16との間に設けられている点で実施形態と異なる。
【0105】
このように、機能層21をピン層14とスペーサ層16との間に設けた場合、前述したように機能層21はスピンフィルタリング効果を発現する。また、機能層21は、酸化物であるので、スペーサ層16を構成する材料とピン14層を構成する材料が混ざることを防ぐことができるので、スペーサ層16はスピンフリップを抑制させた状態で伝導電子を通過させ、ピン層14の磁化を安定して固着させることができる。
【0106】
(第4の変形例)
図7は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第4の変形例を示す図である。
【0107】
第4の変形例は、機能層21が上部ピン層143内に設けられている点で実施形態と異なる。
【0108】
このように、機能層21を上部ピン層143内に設けた場合においても、前述したように機能層21はスピンフィルタリング効果を発現する。また、機能層21をスペーサ層と接しない位置に配置した場合、機能層21に含まれる酸素のスペーサ層への拡散が少なくなるため、スペーサ層中に酸素元素が存在した場合に引き起こされるスペーサ層中のスピンフリップを回避して高いMR変化率を得ることができる。
【0109】
(第5の変形例)
図8は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第5の変形例を示す図である。
【0110】
第5の変形例は、機能層21が上部ピン層143と磁気結合層142との間に設けられている点で実施形態と異なる。
【0111】
このように、機能層21を上部ピン層143と磁気結合層142との間に設けた場合においても、前述したように機能層21はスピンフィルタリング効果を発現する。また、機能層21をスペーサ層と接しない位置に配置した場合、機能層21に含まれる酸素のスペーサ層への拡散が少なくなるため、スペーサ層中に酸素元素が存在した場合に引き起こされるスペーサ層中のスピンフリップを回避して高いMR変化率を得ることができる。
【0112】
(第6の変形例)
図9は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の第6の変形例を示す図である。
【0113】
第6の変形例は、機能層21が上部ピン層143とスペーサ層16との間に設けられていることに加えて、更に2つ目の機能層22がスペーサ層16とフリー層18との間に設けられている点で第1の実施形態と異なる。
【0114】
なお、機能層21の構成は機能層22と同様であるので説明は省略する。
【0115】
このように、機能層21を上部ピン層143とスペーサ層16との間に設けることに加えて、更に2つ目の機能層22をスペーサ層16とフリー層18との間に設けることで、2つの機能層のスピンフィルタリング効果の足し合わせた効果を得ることができるので1層の機能層を用いた場合に比べて高いMR変化率を得ることができる。
【0116】
なお、第1から6の変形例に係る磁気抵抗効果素子10は、実施形態で説明した磁気抵抗効果素子10と同様の製造方法にて製造することができるため、第1から6の変形例の製造方法についての説明は省略する。
【0117】
[磁気ヘッド]
次に、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10を用いた磁気ヘッドについて説明する。
【0118】
図10および11は、実施形態に係る磁気抵抗効果素子10を組み込んだ磁気ヘッドを示す断面図である。図10は、磁気記録媒体(図示せず)に対向する媒体対向面(ABS面)に対してほぼ平行な方向に磁気抵抗効果素子10を切断した断面図である。図11は、磁気抵抗効果素子10をABS面に対して垂直な方向に切断した断面図である。
【0119】
図10および11に例示した磁気ヘッドは、いわゆるハード・アバッテッド(hard abutted)構造を有する。磁気抵抗効果素子10の上下には、下電極11と上電極20とがそれぞれ設けられている。図10において、磁気抵抗効果素子10の両側面には、バイアス磁界印加膜41と絶縁膜42とが積層して設けられている。図11に示すように、磁気抵抗効果素子10のABS面には保護層43が設けられている。
【0120】
磁気抵抗効果素子10に対するセンス電流は、その上下に配置された下電極11および上電極20によって矢印Aで示したように、膜面に対してほぼ垂直方向に通電される。また、左右に設けられた一対のバイアス磁界印加膜41により、磁気抵抗効果素子10にはバイアス磁界が印加される。このバイアス磁界により、磁気抵抗効果素子10のフリー層18の磁気異方性を制御して単磁区化することによりその磁区構造が安定化し、磁壁の移動に伴うバルクハウゼンノイズ(Barkhausen noise)を抑制することができる。
【0121】
磁気抵抗効果膜10のS/N比が向上しているので、磁気ヘッドに応用した場合に高感度の磁気再生が可能となる。
【0122】
[磁気記録再生装置および磁気ヘッドアセンブリ]
次に、実施形態に係る磁気抵抗効素子10を用いた磁気記録再生装置および磁気ヘッドアセンブリについて説明する。
【0123】
図12は実施形態に係る磁気記録再生装置を示す斜視図である。
【0124】
図12に示すように、実施形態に係る磁気記録再生装置310は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。磁気記録媒体230は、スピンドルモータ330に設けられ、駆動制御部(図示せず)からの制御信号に応答するモータ(図示せず)により媒体移動方向270の方向に回転する。磁気記録再生装置310は、複数の磁気記録媒体230を備えてもよい。
【0125】
磁気記録媒体230に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ280は、図13に示すように、磁気抵抗効果素子10を備えた磁気ヘッド140がヘッドスライダ280に設けられる。ヘッドスライダ280は、Al/TiCなどからなり、磁気ディスクなどの磁気記録媒体230の上を、浮上又は接触しながら相対的に運動できるように設計されている。
【0126】
ヘッドスライダ280は薄膜状のサスペンション350の先端に取り付けられている。ヘッドスライダ280の先端付近には、磁気ヘッド140が設けられている。
【0127】
磁気記録媒体230が回転すると、サスペンション350により押し付け圧力とヘッドスライダ280の媒体対向面(ABS)で発生する圧力とがつりあう。ヘッドスライダ280の媒体対向面は、磁気記録媒体230の表面から所定の浮上量をもって保持される。ヘッドスライダ280が磁気記録媒体230と接触する「接触走行型」としてもよい。
【0128】
サスペンション350は、駆動コイル(図示せず)を保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム360の一端に接続されている。アクチュエータアーム360の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ370が設けられている。ボイスコイルモータ370は、アクチュエータアーム360のボビン部に巻き上げられた駆動コイル(図示せず)と、この駆動コイルを挟み込むように対向して設けられた永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路から構成することができる。
【0129】
アクチュエータアーム360は、軸受部380の上下2箇所に設けられたボールベアリング(図示せず)によって保持され、ボイスコイルモータ370により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気ヘッド140を磁気記録媒体230の任意の位置に移動可能となる。
【0130】
図14(a)は、実施形態に係る磁気記録再生装置310の一部を構成するヘッドスタックアセンブリ390を示す。
【0131】
図14(b)は、ヘッドスタックアセンブリ390の一部となる磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ(HGA))400を示す斜視図である。
【0132】
図14(a)に示すように、ヘッドスタックアセンブリ390は、軸受部380と、この軸受部380から延出したヘッドジンバルアセンブリ400と、軸受部380からヘッドジンバルアセンブリ400と反対方向に延出しているとともにボイスコイルモータのコイル410を支持した支持フレーム420を有する。
【0133】
図14(b)に示すように、ヘッドジンバルアセンブリ400は、軸受部380から延出したアクチュエータアーム360と、アクチュエータアーム360から延出したサスペンション350とを有する。
【0134】
サスペンション350の先端には、実施形態に係る磁気記録ヘッド140を有するヘッドスライダ280が設けられている。
【0135】
実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ(HGA))400は、実施形態に係る磁気記録ヘッド140と、磁気記録ヘッド140が設けられたヘッドスライダ280と、ヘッドスライダ280を一端に搭載するサスペンション350と、サスペンション350の他端に接続されたアクチュエータアーム360とを備える。
【0136】
サスペンション350は、信号の書き込み及び読み取り用、浮上量調整のためのヒータ用、STO10用のリード線(図示せず)を有し、このリード線とヘッドスライダ280に組み込まれた磁気記録ヘッド140の各電極とが電気的に接続される。電極パッド(図示せず)はヘッドジンバルアセンブリ400に設けられる。本実施形態では、電極パッドは8個設けられる。主磁極200のコイル用の電極パッドが2つ、磁気再生素子190用の電極パッドが2つ、DFH(ダイナミックフライングハイト)用の電極パッドが2つ、STO10用の電極パッドが2つ設けられている。
【0137】
信号処理部(図示せず)が、図12に示す磁気記録再生装置310の図面中の背面側に設けられる。信号処理部は、磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への信号の書き込みと読み出しを行う。信号処理部の入出力線は、ヘッドジンバルアセンブリ400の電極パッドに接続され、磁気記録ヘッド140と電気的に結合される。
【0138】
実施形態に係る磁気記録再生装置310は、磁気記録媒体230と、磁気記録ヘッド140と、磁気記録媒体230と磁気記録ヘッド140とを離間させ、又は、接触させた状態で対峙させながら相対的に移動可能とした可動部と、磁気記録ヘッド140を磁気記録媒体230の所定記録位置に位置あわせする位置制御部と、磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への書き込みと読み出しを行う信号処理部とを備える。
【0139】
上記の磁気記録媒体230として、磁気記録媒体230が用いられる。上記の可動部は、ヘッドスライダ280を含むことができる。上記の位置制御部は、ヘッドジンバルアセンブリ400を含むことができる。
【0140】
磁気記録再生装置310は、磁気記録媒体230と、ヘッドジンバルアセンブリ400と、ヘッドジンバルアセンブリ400に搭載された磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部とを備える。
【0141】
実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記録再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記録再生装置および磁気メモリも同様に本発明に係る磁気抵抗効果素子を用いることができる。
【0142】
実施形態では、ボトム型の磁気抵抗効果素子10について説明したが、ピン層14がスペーサ層16よりも上に形成されたトップ型の磁気抵抗効果素子10でも実施形態の効果を得ることができる。
【実施例】
【0143】
(実施例1)
実施形態に係る製造方法によって磁気抵抗効果素子を製造し、その性能を調べた。
【0144】
図2に示されるような磁気抵抗効果素子を製造した。すなわち、機能層21がスペーサ層16とフリー層18との間に設けられた磁気抵抗効果素子を製造した。各層の詳細は以下の通りである。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co75Fe25[4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
非磁性スペーサ層16:Cu[3nm]
機能層21:Zn−Fe50Co50−O[2nm]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]。
【0145】
磁気抵抗効果素子を、図1に示される方法にしたがって製造した。特に、機能層21の製造は次のように行った。第1工程として、機能層21の母材料としてFe50Co50[1nm]/Zn[0.6nm]を成膜した。次に、第2工程として、上記のFe50Co50[1nm]/Zn[0.6nm]層の表面を、イオンビーム酸化(IAO)、プラズマ酸化または自然酸化によって、Zn−Fe50Co50−O[2nm]に変換した。実施例では、この酸化処理の後に、Arのプラズマ、イオンまたはラジカルを還元性ガスとして用いた還元処理を行った。一方、比較例では、この還元処理を行わなかった。各処理の詳細は表中に示す。
【0146】
製造した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0147】
以下の表1−1から1−3に、製造した磁気抵抗効果素子およびそれぞれの測定結果をまとめる。
【表1−1】

【0148】
表1−1には、比較例1−1および実施例1−1から実施例1−3が示される。何れもIAOによる酸化を行い、実施例については、さらにArのプラズマ、イオンまたはラジカルによって還元を行った磁気抵抗効果素子である。なお、表中「REF」は、機能層を有さないスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す参照用サンプルである。
【0149】
表1−1に示されるとおり、Arによる還元処理まで行った場合は(実施例1−1から1−3)、機能層を設けない場合(REF)および還元処理を行わない場合(比較例1−1)と比較して、高いMR変化率を示した。なお、比較例1−1も、REFに比べて高いMR変化率を示した。しかしながら、REFに対するMR変化率の上昇の程度は、実施例1−1から1−3の方が大幅に大きかった。
【0150】
還元処理を行うことでMR変化率を大幅に上昇させることができる理由は、以下の通りと考えられる。実施例に係る機能層の形成と従来の形成との違いは、自然酸化、IAOまたはプラズマ酸化によって酸化した膜に対して還元性ガスの照射(Oxgen Reduction Treatment:ORT)を行う点である。従来の機能層の形成では、FeCoZn混合酸化物中に絶縁体価数である3価のα−(FeCoZn)またはγ−(FeCoZn)形成されてしまい、機能層の抵抗率を招いていた。機能層の抵抗の増大は機能層中のスピンフリップの発生を促してしまうため、スピンフィルタリング効果による十分なMR変化率の増大を得ることができない。これに対し、還元性ガスの照射を行うことにより、機能層中のα−(FeCoZn)およびγ−(FeCoZn)を減少させることができ、低い抵抗率のスピンフィルタリング層を形成することが出来る。結果として、実施例のように、スピンフリップの発生率を抑えて、スピンフィルタリング効果による高いMR変化率を有する磁気抵抗効果素子を得ることが出来る。
【0151】
より詳細な分析のため、比較例1−1および実施例1−1の磁気抵抗効果素子について、断面を撮像し微小構造を調べた。図15に断面TEMの分析結果を示す。図15(a)が比較例1−1の断面を示し、図15(b)が実施例1−1の断面を示す。機能層の膜厚は何れの場合もほぼ1.8nmであった。このことから、Arプラズマの照射による機能層のエッチングは生じていないことがわかる。以上より、機能層の膜厚が変わっていない場合でも、ORTによるMR変化率の増大が生じることがわかった。
【0152】
さらに、比較例1−1および実施例1−1の各層に含まれる元素を分析した。図16にそれぞれの3次元アトムプローブによる分析結果を示す。図16(a)が比較例1−1の結果を示し、図16(b)が実施例1−1の結果を示す。図16(a)より、比較例1−1の機能層における酸素の含有量は約20atom%であることがわかる。一方、図16(b)より、実施例1−1の機能層における酸素の含有量は約10atom%であることがわかる。すなわち、機能層の酸素含有量は、還元処理によって減少していることがわかる。図15に示した断面TEM像より、ORTによって機能層の膜厚は減少しないことがわかっているため、図16の3次元アトムプローブの結果とあわせて、ORTにより機能層の還元が行われていることが確認できた。
【0153】
さらに、比較例1−1および実施例1−1の機能層の結晶性を評価するために、以下のような機能層を30回積層したモデル膜を作製しX線回折測定を行った。
下地層:Ta[5nm]/Cu[5nm]
機能層:(Zn−Fe50Co50−O[2nm])×30層。
【0154】
上記のモデル膜としての機能層を、表1の比較例1−1および実施例1−1と同様の方法で2通り作製し、比較した。図17にそれぞれのX線回折の測定結果を示す。図17(a)が比較例1−1と同様の製造方法で作製した試料の結果を示し、図17(b)が実施例1−1と同様の製造方法で作製した試料の結果を示す。図17より、実施例1−1の2θ=36°付近のZn−Fe50Co50−O層に起因するスピネル講造の(311)回折ピーク強度が、比較例1−1のそれに比べて約3倍に増大していることが確認できる。この結果より、Arプラズマを用いた還元処理が、機能層21の酸化価数を調整する効果のみでなく、機能層21の結晶性を改善する効果があることが確認された。機能層21の結晶性の改善は、機能層21中の欠陥の減少をもたらし、電子伝導時のスピンに依存しない散乱を減らすことができるため、高いMR変化率を得る観点で好ましい。
【表1−2】

【0155】
表1−2には、比較例1−1から1−3並びに実施例1−1、1−4および1−5が示される。比較例1−1および実施例1−1はIAOにより酸化処理を行い、比較例1−2および実施例1−4はプラズマ酸化により酸化処理を行い、比較例1−3および実施例1−5は自然酸化により酸化処理を行った。実施例1−1、1−4および1−5については、酸化処理の後、Arプラズマによる還元処理を行った。なお、表中「REF」は、機能層を有さないスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す参照用サンプルである。
【0156】
表1−2に示されるとおり、酸化処理としてIAO、プラズマ酸化および自然酸化の何れを行った場合であっても、その後に還元処理を行うことで、MR変化率を大幅に増大できることがわかる。
【表1−3】

【0157】
表1−3には、比較例1−1並びに実施例1−1および実施例1−6から1−11が示される。比較例1−1は酸化処理を行った後、還元処理を行わない磁気抵抗効果素子である。実施例1−1および実施例1−6から1−11は、酸化処理後さらにArプラズマによる還元処理を行って作製した磁気抵抗効果素子であり、それぞれ、プラズマを生成する際の高周波バイアスを10Wから120Wの間で変えて作製した。なお、表中「REF」は、機能層を有さないスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す参照用サンプルである。
【0158】
表1−3に示されるとおり、還元処理を行う場合(実施例1−1および実施例1−6から1−11)は、REFおよび比較例1−1に対してMR変化率が増大するが、高周波バイアスを20W以上100W以下にする場合(実施例1−1および実施例1−7から1−10)にその増大が顕著であった。特に、高周波バイアスを40Wとした場合(実施例1−1)、最も高いMR変化率を示した。
【0159】
(実施例2)
実施形態に係る製造方法によって磁気抵抗効果素子を製造し、その性能を調べた。
【0160】
実施例1と同様に製造したが、還元処理にはArの代わりにHeを使用した。製造した磁気抵抗効果素子は実施例1と同様にMR変化率および面積抵抗RAを測定した。
【0161】
以下の表2に、製造した磁気抵抗効果素子およびそれぞれの測定結果をまとめる。
【表2】

【0162】
表2には、比較例2−1および実施例2−1から実施例2−3が示される。何れもIAOによる酸化を行い、実施例については、さらにHeのプラズマ、イオンまたはラジカルによって還元を行った磁気抵抗効果素子である。なお、表中「REF」は、機能層を有さないスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す参照用サンプルである。
【0163】
表2に示されるとおり、還元処理に使用する元素をHeに代えた場合であっても、実施例2−1から2−3は、REFおよび比較例2−1と比較して高いMR変化率を示すことがわかった。
【0164】
さらに、実施例2−1の製造において酸化処理をプラズマ酸化または自然酸化に代えた磁気抵抗効果素子も製造したが、それらは実施例2−1と同様に高いMR変化率を示した。
【0165】
(実施例3)
実施形態に係る製造方法によって磁気抵抗効果素子を製造し、その性能を調べた。
【0166】
実施例1と同様に製造したが、還元処理にはArの代わりにNeを使用した。製造した磁気抵抗効果素子は実施例1と同様にMR変化率および面積抵抗RAを測定した。
【0167】
以下の表3に、製造した磁気抵抗効果素子およびそれぞれの測定結果をまとめる。
【表3】

【0168】
表3には、比較例3−1および実施例3−1から実施例3−3が示される。何れもIAOによる酸化を行い、実施例については、さらにNeのプラズマ、イオンまたはラジカルによって還元を行った磁気抵抗効果素子である。なお、表中「REF」は、機能層を有さないスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す参照用サンプルである。
【0169】
表3に示されるとおり、還元処理に使用する元素をNeに代えた場合であっても、実施例3−1から3−3は、REFおよび比較例3−1と比較して高いMR変化率を示すことがわかった。
【0170】
さらに、実施例3−1の製造において酸化処理をプラズマ酸化または自然酸化に代えた磁気抵抗効果素子も製造したが、それらは実施例3−1と同様に高いMR変化率を示した。
【0171】
(実施例4)
実施形態に係る製造方法によって磁気抵抗効果素子を製造し、その性能を調べた。
【0172】
実施例1と同様に製造したが、還元処理にはArの代わりにKrを使用した。製造した磁気抵抗効果素子は実施例1と同様にMR変化率および面積抵抗RAを測定した。
【0173】
以下の表4に、製造した磁気抵抗効果素子およびそれぞれの測定結果をまとめる。
【表4】

【0174】
表4には、比較例4−1および実施例4−1から実施例4−3が示される。何れもIAOによる酸化を行い、実施例については、さらにKrのプラズマ、イオンまたはラジカルによって還元を行った磁気抵抗効果素子である。なお、表中「REF」は、機能層を有さないスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す参照用サンプルである。
【0175】
表4に示されるとおり、還元処理に使用する元素をKrに代えた場合であっても、実施例4−1から4−3は、REFおよび比較例4−1と比較して高いMR変化率を示すことがわかった。
【0176】
さらに、実施例4−1の製造において酸化処理をプラズマ酸化または自然酸化に代えた磁気抵抗効果素子も製造したが、それらは実施例4−1と同様に高いMR変化率を示した。
【0177】
(実施例5)
実施形態に係る製造方法によって磁気抵抗効果素子を製造し、その性能を調べた。
【0178】
実施例1と同様に製造したが、還元処理にはArの代わりにXeを使用した。製造した磁気抵抗効果素子は実施例1と同様にMR変化率および面積抵抗RAを測定した。
【0179】
以下の表5に、製造した磁気抵抗効果素子およびそれぞれの測定結果をまとめる。
【表5】

【0180】
表5には、比較例5−1および実施例5−1から実施例5−3が示される。何れもIAOによる酸化を行い、実施例については、さらにXeのプラズマ、イオンまたはラジカルによって還元を行った磁気抵抗効果素子である。なお、表中「REF」は、機能層を有さないスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す参照用サンプルである。
【0181】
表5に示されるとおり、還元処理に使用する元素をXeに代えた場合であっても、実施例5−1から5−3は、REFおよび比較例5−1と比較して高いMR変化率を示すことがわかった。
【0182】
さらに、実施例5−1の製造において酸化処理をプラズマ酸化または自然酸化に代えた磁気抵抗効果素子も製造したが、それらは実施例5−1と同様に高いMR変化率を示した。
【0183】
(実施例6)
実施形態に係る製造方法によって磁気抵抗効果素子を製造し、その性能を調べた。
【0184】
実施例1と同様に製造したが、還元処理にはArの代わりに水素を使用した。製造した磁気抵抗効果素子は実施例1と同様にMR変化率および面積抵抗RAを測定した。
【0185】
以下の表6に、製造した磁気抵抗効果素子およびそれぞれの測定結果をまとめる。
【表6】

【0186】
表6には、比較例6−1および実施例6−1から実施例6−4が示される。何れもIAOによる酸化を行い、実施例については、さらに水素の分子、プラズマ、イオンまたはラジカルによって還元を行った磁気抵抗効果素子である。なお、表中「REF」は、機能層を有さないスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す参照用サンプルである。
【0187】
表6に示されるとおり、還元処理に使用する元素を水素に代えた場合であっても、実施例6−1から6−4は、REFおよび比較例6−1と比較して高いMR変化率を示すことがわかった。
【0188】
さらに、実施例6−1の製造において酸化処理をプラズマ酸化または自然酸化に代えた磁気抵抗効果素子も製造したが、それらは実施例6−1と同様に高いMR変化率を示した。
【0189】
(実施例7)
実施形態に係る製造方法によって磁気抵抗効果素子を製造し、その性能を調べた。
【0190】
実施例1と同様に製造したが、還元処理にはArの代わりに窒素を使用した。製造した磁気抵抗効果素子は実施例1と同様にMR変化率および抵抗率を測定した。
【0191】
以下の表7に、製造した磁気抵抗効果素子およびそれぞれの測定結果をまとめる。
【表7】

【0192】
表7には、比較例7−1および実施例7−1から実施例7−4が示される。何れもIAOによる酸化を行い、実施例については、さらに窒素の分子、プラズマ、イオンまたはラジカルによって還元を行った磁気抵抗効果素子である。なお、表中「REF」は、機能層を有さないスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す参照用サンプルである。
【0193】
表7に示されるとおり、還元処理に使用する元素をNに代えた場合であっても、実施例7−1から7−4は、REFおよび比較例7−1と比較して高いMR変化率を示すことがわかった。
【0194】
さらに、実施例7−1の製造において酸化処理をプラズマ酸化または自然酸化に代えた磁気抵抗効果素子も製造したが、それらは実施例7−1と同様に高いMR変化率を示した。
【0195】
(実施例8)
実施形態に係る製造方法によって磁気抵抗効果素子を製造し、その性能を調べた。
【0196】
実施例1と同様に製造したが、還元処理にはArの代わりに水素を使用した。さらに、還元処理の後にArガスを用いた水除去工程を行った。製造した磁気抵抗効果素子は実施例1と同様にMR変化率および抵抗率を測定した。
【0197】
以下の表8に、製造した磁気抵抗効果素子およびそれぞれの測定結果をまとめる。
【表8】

【0198】
表8には、比較例8−1および実施例8−1から実施例8−4が示される。何れもIAOによる酸化を行い、実施例については、さらに水素のプラズマによって還元を行った磁気抵抗効果素子である。実施例8−2から8−4については、さらにArのイオン、プラズマまたはラジカルによる水除去処理を行った。なお、表中「REF」は、機能層を有さないスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す参照用サンプルである。
【0199】
表8に示されるとおり、還元処理後に水除去処理を施した場合であっても、実施例8−2から8−4は、REFおよび比較例8−1と比較して高いMR変化率を示すことがわかった。
【0200】
さらに、実施例8−2から8−4は水除去処理を行っていない実施例8−1に比べて高いMR変化率を示すことが確認された。
【0201】
(実施例9)
実施形態に係る製造方法によって磁気抵抗効果素子を製造し、その性能を調べた。
【0202】
実施例1と同様に製造したが、機能層の母材金属層として、Fe50Co50[1nm]/Zn[0.6nm]の代わりにFe[1nm]/Zn[0.6nm]を使用した。製造した磁気抵抗効果素子は実施例1と同様にMR変化率および抵抗率を測定した。
【0203】
以下の表9に、製造した磁気抵抗効果素子およびそれぞれの測定結果をまとめる。
【表9】

【0204】
表9には、比較例9−1および実施例9−1から実施例9−3が示される。何れもIAOによる酸化を行い、実施例については、さらにArのプラズマ、イオンまたはラジカルによって還元を行った磁気抵抗効果素子である。なお、表中「REF」は、機能層を有さないスピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子を示す参照用サンプルである。
【0205】
表9に示されるとおり、Arによる還元処理まで行った場合は(実施例9−1から9−3)、機能層を設けない場合(REF)および還元処理を行わない場合(比較例9−1)と比較して、高いMR変化率を示した。なお、比較例9−1も、REFに比べて高いMR変化率を示した。しかしながら、REFに対するMR変化率の上昇の程度は、実施例9−1から9−3の方が大幅に大きかった。
【0206】
本実施例より、機能層の母材金属層として、Fe50Co50[1nm]/Zn[0.6nm]の代わりにFe[1nm]/Zn[0.6nm]を用いた場合においても、還元処理を用いることによるMR変化率の向上を確認することができた。機能層の母金属層としては、上述したFe、CoおよびZnの組合せ以外に、Zn、In、SnおよびCdから選択される少なくとも1つの元素とFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1つの元素とを組み合わせた金属層を用いることができ、本実施例のように酸化処理および還元処理を用いて機能層を作製することでMR変化率の向上を得ることができる。
【0207】
(スペーサ層についての変形例)
スペーサ層としてCuの代わりに、その他の金属スペーサ層(AgまたはAu)およびトンネル絶縁スペーサ層(MgO、AlまたはTiO)を使用して、上記の各実施例と同様に磁気抵抗効果素子を製造し、同様にMR変化率および面積抵抗RAについて分析した。
【0208】
その結果、機能層を設けない場合および酸化処理のみを行い還元処理を行わない場合と比較して、大幅にMR変化率することを確認した。
【0209】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0210】
10…磁気抵抗効果素子、11…下電極、12…下地層、13…ピニング層、14…ピン層(磁化固着層)、16…トンネル絶縁スペーサ層、18…フリー層(磁化自由層)、18a…第1のフリー層、18b…第2のフリー層、19…キャップ層、20…上電極、21、22…機能層、41…バイアス磁界印加膜、42…絶縁膜、43…保護層、140…磁気ヘッド、141…下部ピン層、142…磁気結合層、143…上部ピン層、230…磁気記録媒体、270…媒体移動方向、280…ヘッドスライダ、290…空気流入側、300…空気流出側、310…磁気記録再生装置、330…スピンドルモータ、350…サスペンション、360…アクチュエータアーム、370…ボイスコイルモータ、380…軸受部、385…信号処理部、390…ヘッドスタックアセンブリ、400…磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ(HGA))、410…コイル、420…支持フレーム、15…下部金属層、17…上部金属層、23…電流狭窄層、24…電流パス、25…絶縁層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャップ層と、
磁化固着層と、
前記キャップ層と前記磁化固着層との間に設けられた磁化自由層と、
前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられたスペーサ層と、
前記磁化固着層中、前記磁化固着層と前記スペーサ層との間、前記スペーサ層と前記磁化自由層との間、前記磁化自由層中、および前記磁化自由層と前記キャップ層との間の何れかに設けられ、Zn、In、SnおよびCdから選択される少なくとも1つの元素並びにFe、CoおよびNiから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物を有する機能層と、
を備えた積層体と、
前記積層体の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極と
を備えた磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
前記機能層の母材料から成る膜を成膜し、
前記膜に、酸素の分子、イオン、プラズマおよびラジカルから成る群から選択される少なくとも1つを含むガスを用いた酸化処理を施し、
前記酸化処理が施された膜に対して還元性ガスを用いた還元処理を施す
ことを含む磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項2】
前記還元性ガスは、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンもしくはキセノンのイオン、プラズマもしくはラジカル、または水素もしくは窒素の分子、イオン、プラズマもしくはラジカルの少なくとも何れかを含むガスである請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項3】
前記還元性ガスは、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンもしくはキセノンのイオンもしくはプラズマ、または水素もしくは窒素のイオンもしくはプラズマの少なくとも何れかを含むガスである請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項4】
前記還元性ガスは、アルゴンのイオンまたはプラズマの少なくとも何れかを含むガスである請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】
前記還元工程によって前記機能層の結晶性が向上する請求項1から4の何れか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項6】
前記還元処理は前記膜を加熱しながら行う請求項1から5の何れか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項7】
前記還元処理後、前記膜に対して、アルゴンイオンの照射、アルゴンプラズマの照射および加熱から成る群から選択される少なくとも1つの水分除去処理を施すことをさらに含む請求項1から6の何れか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項8】
前記還元処理および前記水分除去処理を複数回繰り返す請求項7に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項9】
前記成膜、前記酸化処理、前記還元処理および前記水分除去処理を複数回繰り返す請求項7に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項10】
前記成膜、前記酸化処理および前記還元処理を複数回繰り返す請求項1から7の何れか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項11】
前記成膜および前記酸化処理を複数回繰り返す請求項1から8の何れか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項12】
前記酸化処理は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオンおよびクリプトンから成る群から選択される少なくとも1つを含むガスをイオン化またはプラズマ化して得た雰囲気中に、酸素ガスを供給して、前記機能層の母材料を酸化物に変換することを含む請求項1から11の何れか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項13】
前記還元処理において、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンまたはキセノンのイオンまたはプラズマを生成する際の高周波バイアスは20W以上100W以下である請求項2に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の製造方法によって製造される磁気抵抗効果素子。
【請求項15】
請求項14に記載の磁気抵抗効果素子を一端に搭載するサスペンションと、前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームとを備える磁気ヘッドアセンブリ。
【請求項16】
請求項15に記載の磁気ヘッドアセンブリと、前記磁気ヘッドアセンブリに搭載された前記磁気抵抗効果素子を用いて情報が記録される磁気記録媒体とを備える磁気記録装置。
【請求項17】
請求項16に記載の磁気抵抗効果素子はマトリクス状に配置される磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−54419(P2012−54419A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196049(P2010−196049)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】