説明

積層型セラミック電子部品

【課題】誘電体磁器組成物に含まれる成分の含有量にかかわらず、比誘電率および容量温度特性等の誘電特性を向上できる積層型セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】誘電体層2と内部電極層とが積層された素子本体を有する積層型セラミック電子部品であって、誘電体層は、一般式ABO(AはBa、CaおよびSrから選ばれる1つ以上、BはTi、ZrおよびHfから選ばれる1つ以上)で表され、ペロブスカイト型構造を有する化合物と、Mgの酸化物と、ScおよびYを含む希土類元素の酸化物と、Siを含む酸化物と、を含む誘電体磁器組成物から構成される。該誘電体磁器組成物は、誘電体粒子20と粒界22とを有しており、粒界におけるMgの含有割合をD(Mg)、Siの含有割合をD(Si)とすると、D(Mg)がMgO換算で0.2〜1.8重量%、D(Si)がSiO換算で0.4〜8.0重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型セラミック電子部品に関し、誘電体層を構成する誘電体磁器組成物に含まれる成分の含有量にかかわらず、誘電特性(特に、比誘電率および静電容量の温度特性)を向上できる積層型セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化および高性能化に対する要求は高く、これに伴い、たとえば積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が進んでいるが、さらなる特性の向上が求められている。
【0003】
このような要求に対し、たとえば、誘電体層を構成する誘電体磁器組成物において、粒界構造の制御や、主成分とは異なる相を存在させることで、特性の向上を図っている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、ABOを主成分とし、添加成分として、希土類元素、M(Ni、Co、Fe、CrおよびMn)およびSiを含有する誘電体セラミックであって、結晶粒界の分析点のうちの70%以上の分析点において、希土類元素、MおよびSiが含まれることが記載されている。この誘電体セラミックによれば、高温高電圧負荷時の寿命が長く、直流電圧印加下での静電容量の経時変化が小さいことが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、上記の元素の具体的な含有割合は記載されておらず、また、特許文献1の実施例の試料は、比較例の試料よりも比誘電率が低下しており、大容量化には対応できないという問題があった。
【0006】
また、特許文献2では、粒界の厚みを1nm以下である粒子の割合が30%以上95%以下である電子部品が記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3では、Mg−Si−Oを含む異相が存在する積層セラミックコンデンサが記載されている。また、特許文献4では、セラミック層と内部電極との間にBa−Ti−Si−Mgの酸化物を主成分とする界面層が形成された積層セラミックコンデンサが記載されている。また、特許文献5では、誘電体層と内部電極層との界面にMnが偏析している積層セラミックコンデンサが記載されている。
【0008】
また、上記とは異なるアプローチとして、特許文献6では、焼成時の熱処理条件を工夫することにより、比誘電率の向上を図ることが検討されている。具体的には、グリーン積層体を焼成する工程においては、例えば1×10−9 Pa以下の酸素分圧の還元性雰囲気下で、内部電極層の酸化を抑制しつつ1100〜1300℃で焼成し、その後に、1×10−7 Pa以上の酸素分圧にて1000〜300℃の熱処理を行い、誘電体層の再酸化処理を行っている。
【0009】
しかしながら、比誘電率は、誘電体磁器組成物の組成により異なると共に、誘電体層の厚みが薄くなるほど、比誘電率が低下してしまうという問題があった。
【0010】
すなわち、特許文献6では、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体磁器組成物において、誘電体層厚みが4μmにおいて、比誘電率を約4900とすることが限界であり、さらに誘電体層を薄層化した場合には、比誘電率がさらに低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−201065号公報
【特許文献2】特開2006−287045号公報
【特許文献3】特開2005−223313号公報
【特許文献4】特開2002−270458号公報
【特許文献5】特開平11−45617号公報
【特許文献6】特開2001−240467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、誘電体層を構成する誘電体磁器組成物に含まれる成分の含有量にかかわらず、誘電特性(特に、比誘電率および静電容量の温度特性)を向上できる積層型セラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る積層型セラミック電子部品は、
誘電体層と内部電極層とが積層された素子本体を有する積層型セラミック電子部品であって、
前記誘電体層が、一般式ABO(AはBa、CaおよびSrから選ばれる少なくとも1つであり、BはTi、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも1つである)で表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物と、
Mgの酸化物と、R元素の酸化物(R元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つ)と、Siを含む酸化物と、を含む誘電体磁器組成物から構成され、
前記誘電体磁器組成物が、複数の誘電体粒子と、隣り合う前記誘電体粒子間に存在する粒界と、を有しており、
前記粒界において、前記Mgの含有割合をD(Mg)とし、前記Siの含有割合をD(Si)とすると、前記D(Mg)がMgO換算で0.2〜1.8重量%であり、前記D(Si)がSiO換算で0.4〜8.0重量%であることを特徴とする。
【0014】
通常、焼成後の誘電体層には、誘電体粒子(主成分粒子)と、それらの間に形成される粒界と、が存在している。粒界には、焼成時に主成分粒子に固溶できなかった元素や固溶し難い元素が含まれている。内部電極層の層間(誘電体層)に、粒界に含まれるこのような元素(たとえば、SiやMg)が存在している場合には、誘電特性が低下してしまう傾向にある。
【0015】
そこで、本発明では、粒界に存在している場合に誘電特性に影響を与える元素の含有割合を上記の範囲に制御している。このようにすることで、誘電特性(特に比誘電率および静電容量の温度特性)を向上できる積層型セラミック電子部品が得られる。
【0016】
好ましくは、前記内部電極層がNiを含み、前記粒界における前記Niの含有割合をD(Ni)とすると、前記D(Ni)がNiO換算で0重量%より大きく、1.5重量%以下である。
【0017】
内部電極層に含まれるNiは、熱処理時に、誘電体層へ拡散する場合がある。誘電体層へ拡散したNiは、誘電体粒子にはほとんど拡散(固溶)しないため、その大部分が粒界に留まる傾向にある。しかしながら、粒界に留まるNiが多すぎると、粒界が劣化してしまい、高温加速寿命等の信頼性が低下してしまう。
【0018】
そこで、本発明では、粒界におけるNiの含有割合を上記の範囲に制御している。このようにすることで、信頼性が向上した積層型セラミック電子部品が得られる。
【0019】
好ましくは、前記D(Mg)と前記D(Si)とが、D(Si)>D(Mg)である関係を満足する。
【0020】
好ましくは、前記前記D(Mg)と前記D(Si)と前記D(Ni)とが、D(Si)>D(Mg)>D(Ni)である関係を満足する。
【0021】
好ましくは、前記粒界における前記R元素の含有割合をD(R)とすると、前記前記D(Mg)、前記D(Si)、前記D(Ni)および前記D(R)が、D(R)>D(Si)>D(Mg)>D(Ni)である関係を満足する。
【0022】
粒界における上記の元素の含有割合を上記のように制御することで、本発明の効果をより高めることができる。
【0023】
好ましくは、前記粒界の厚みの平均値が0.3〜0.9nmであり、前記粒界の厚みのばらつきがC.V.値で25以下である。
【0024】
好ましくは、前記誘電体層には、前記誘電体粒子とは組成が異なる偏析領域が存在しており、前記素子本体を誘電体層および内部電極層に対して垂直な面で切断した断面において、該断面の面積に対して前記偏析領域が占める面積の割合が0.1〜5.0%である。
【0025】
好ましくは、前記偏析領域が実質的に前記Mgと前記Siとの複合酸化物からなる。
【0026】
好ましくは、前記偏析領域のうち、前記内部電極層に接している偏析領域が、個数割合で、20〜100%である。
【0027】
好ましくは、前記素子本体は、前記内部電極層が形成されるべき領域に前記内部電極層が形成されていない電極不存在部を有しており、前記電極不存在部の少なくとも一部に、前記偏析領域が存在している。
【0028】
このようにすることで、本発明の効果をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は、図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図である。
【図3】図3は、図1に示す素子本体10の要部拡大断面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法における熱処理条件のグラフである。
【図5】図5は、図4に示す熱処理条件とは異なる熱処理条件のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0031】
<積層セラミックコンデンサ1>
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0032】
<誘電体層2>
誘電体層2は、誘電体磁器組成物から構成されている。該誘電体磁器組成物は、主成分として、一般式ABO(Aは、Ba、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、Bは、Ti、ZrおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1つである)で表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物を含有する。さらに、副成分として、Mgの酸化物と、R元素の酸化物と、Siを含む酸化物と、を含有する。なお、酸素(O)量は、上記式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0033】
該化合物は、本実施形態では、組成式(Ba1−x−yCaSr)TiOで表される。すなわち、Bサイト原子はTiで構成される。
【0034】
本実施形態では、Bサイト原子はTiのみであるが、不純物量程度であれば、Ti以外の元素(たとえばZrやHf)がBサイト原子に含まれていてもよい。この場合、Bサイト原子100原子%に対し、Ti以外の原子の含有量が0.3原子%以下であれば不純物量とみなすことができる。
【0035】
また、Aサイト原子(Ba、SrおよびCa)と、Bサイト原子(Ti)と、のモル比は、A/B比として表され、本実施形態では、A/B比は、0.98〜1.02であることが好ましい。なお、xおよびyは、いずれも任意の範囲であるが、以下の範囲であることが好ましい。
【0036】
本実施形態では、上記式中xは、好ましくは0≦x≦0.5である。xはCa原子数を表し、xを上記範囲とすることにより、容量温度係数や比誘電率を制御することができる。本実施形態においては、必ずしもCaを含まなくてもよい。
【0037】
本実施形態では、上記式中yは、好ましくは0≦y≦0.5である。yはSr原子数を表し、yを上記範囲とすることにより、室温での比誘電率を向上させることができる。本実施形態においては、必ずしもSrを含まなくてもよい。
【0038】
Mgの酸化物の含有量は、所望の特性に応じて決定すればよいが、ABO100モルに対して、MgO換算で、好ましくは0.2〜2.5モルである。該酸化物を含有させることで、所望の容量温度特性およびIR寿命が得られるという利点を有する。
【0039】
R元素の酸化物の含有量は、所望の特性に応じて決定すればよいが、ABO100モルに対して、R換算で、好ましくは0.2〜2.5モルである。該酸化物を含有させることで、IR寿命を向上させるという利点を有する。R元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、Y、Dy、GdおよびHoからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0040】
Siを含む酸化物の含有量は、所望の特性に応じて決定すればよいが、ABO100モルに対して、SiO換算で、好ましくは0.2〜3.0モルである。該酸化物を含有させることで、主に誘電体磁器組成物の焼結性を向上させる。なお、Siを含む酸化物としては、Siと他の金属元素(たとえば、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属)との複合酸化物等であってもよいが、本実施形態では、SiとBaおよびCaとの複合酸化物である(Ba,Ca)SiOが好ましい。
【0041】
また、誘電体磁器組成物に含まれるSiのモル数とMgのモル数との比(Si/Mg)が、0.5よりも小さいことが好ましい。
【0042】
本実施形態では、上記の誘電体磁器組成物は、さらに、所望の特性に応じて、その他の副成分を含有してもよい。
【0043】
たとえば、本実施形態に係る誘電体磁器組成物には、Mnおよび/またはCrの酸化物が含有されていてもよい。該酸化物の含有量は、ABO100モルに対して、各酸化物換算で、0.02〜0.30モルであることが好ましい。
【0044】
また、本実施形態に係る誘電体磁器組成物には、V、Ta、Nb、MoおよびWから選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物が含有されていてもよい。該酸化物の含有量は、ABO100モルに対して、各酸化物換算で、0.02〜0.30モルであることが好ましい。
【0045】
誘電体層2の厚みは、所望の特性や用途等に応じて適宜決定すればよいが、好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下、特に好ましくは1μm以下である。また、誘電体層2の積層数は、特に限定されないが、20以上であることが好ましく、より好ましくは50以上、特に好ましくは、100以上である。
【0046】
<誘電体粒子および粒界>
図2に示すように、誘電体層2は、誘電体粒子20と、隣接する複数の誘電体粒子20間に形成された粒界22と、を含む。本実施形態では、誘電体粒子20は、主成分粒子(ABO粒子)に対し、R元素、MgやSiなどの副成分元素が固溶(拡散)した粒子であってもよい。
【0047】
誘電体粒子20の結晶粒子径は、たとえば、以下のようにして測定される。すなわち、素子本体10を誘電体層2および内部電極層3の積層方向に切断し、その断面において誘電体粒子の平均面積を測定し、円相当径として直径を算出し1.27倍した値である。そして、結晶粒子径を200個以上の誘電体粒子について測定し、得られた結晶粒子径の累積度数分布から累積が50%となる値を平均結晶粒子径(単位:μm)とすればよい。なお、結晶粒子径は、誘電体層2の厚さなどに応じて決定すればよい。
【0048】
粒界22は、主として、誘電体層に含有される元素の酸化物から構成されているが、工程中に不純物として混入する元素の酸化物あるいは内部電極層を構成する元素の酸化物などが含まれていてもよい。また、粒界22は、通常、主としてアモルファス質で構成されているが結晶質で構成されていてもよい。
【0049】
本実施形態では、粒界22には少なくともMg、Siが特定の割合で含まれるように制御されており、さらにR元素およびNiが特定の割合で含まれるように制御されることが好ましい。
【0050】
具体的には、粒界22におけるSiの含有割合をD(Si)とすると、D(Si)は、SiO換算で、0.4〜8.0重量%、好ましくは1.0〜6.0重量%である。また、粒界22におけるMgの含有割合をD(Mg)とすると、D(Mg)は、MgO換算で、0.2〜1.8重量%、好ましくは0.2〜1.2重量%である。
【0051】
通常、Siは、誘電体粒子20内に拡散しにくく、粒界22に留まる傾向にあり、Mgは、Siと比較して誘電体粒子20内に拡散しやすい傾向にある。しかしながら、MgおよびSiは、粒界22に存在することで、たとえば比誘電率を低下させてしまう。また、Mgが誘電体粒子20に固溶しすぎると、たとえば温度特性が悪化してしまう。
【0052】
そこで、本実施形態では、D(Si)およびD(Mg)が上記の範囲を同時に満足するように、粒界22におけるSiとMgの存在状態を制御している。その結果、比誘電率が向上し、しかも良好な静電容量の温度特性が得られる。
【0053】
また、粒界22におけるNiの含有割合をD(Ni)とすると、D(Ni)は、NiO換算で、好ましくは0重量%より大きく、1.5重量%以下、より好ましくは0.1〜1.5重量%である。内部電極層3がNiを含む導電材から構成されている場合、熱処理工程等において、Niが誘電体層2に拡散する場合がある。しかしながら、この場合、Niは誘電体粒子20に固溶し難いため、粒界22に留まる傾向にある。また、副成分として、Niの酸化物が含まれている場合にも、Niは粒界22に留まる傾向にある。
【0054】
本実施形態では、粒界22におけるNiの存在状態を制御し、粒界22におけるNiの含有割合を上記の範囲としている。このようにすることで、誘電体磁器組成物の酸素欠陥が十分に補償され、しかもNiが粒界に多く存在することにより生じる粒界の劣化を防ぐことができる。その結果、積層型セラミック電子部品としての信頼性(IR寿命)を向上させることができる。
【0055】
さらに、粒界22におけるR元素の含有割合をD(R)とすると、D(R)>D(Si)>D(Mg)>D(Ni)である関係を満足することが好ましい。上記の各元素の含有割合の大小関係を上記のようにすることで、上述した効果をより高めることができる。なお、D(R)の上限値および下限値は、特に制限されず、所望の特性に応じ、上記の関係を満足する範囲において変化させればよいが、たとえば、R換算で、3.0重量%以上であることが好ましい。
【0056】
粒界22におけるMg、Si、NiおよびR元素の含有割合を測定する方法としては、特に制限されないが、たとえば、以下のようにして測定すればよい。
【0057】
本実施形態では、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて誘電体層2を観察することにより、誘電体粒子20と粒界22とを判別し、さらに、STEMに付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて、粒界22における点分析を行い、粒界22における各元素の含有割合を算出する。
【0058】
具体的には、誘電体層2の断面をSTEMにより撮影し、明視野(BF)像を得る。この明視野像において誘電体粒子20と誘電体粒子20との間に存在し、該誘電体粒子とは異なるコントラストを有する領域を粒界22とする。異なるコントラストを有するか否かの判断は、目視により行ってもよいし、画像処理を行うソフトウェア等により判断してもよい。
【0059】
続いて、EDSを用いて、粒界22であると判断した領域において点分析を行う。このとき、粒界以外の領域、たとえば誘電体粒子などに含まれる元素の情報が検出されないように、ビーム径、加速電圧、CL絞り等の測定条件を調整する。なお、測定点の数は特に制限されないが、10点以上であることが好ましい。
【0060】
たとえば、Mgの含有割合は、測定点において検出された全ての元素の含有比を酸化物に換算し、その合計を100重量%としたときに、MgO換算での重量割合と定義される。そして、各測定点におけるMgの含有割合の平均値を算出し、この値を粒界におけるMgの含有割合とする。他の元素についても同様である。
【0061】
本実施形態では、粒界22の厚みの測定値の平均値は、好ましくは0.3〜0.9nm、より好ましくは0.3〜0.7nmである。また、粒界22の厚みの平均値と粒界の厚みの標準偏差とから、粒界22の厚みのバラツキを示す指標であるC.V.値を算出したときに、C.V.値が好ましくは25以下、より好ましくは20以下である。なお、C.V.値は、下記に示す式より求められる。
C.V.値=(標準偏差/平均値)×100
【0062】
粒界22の厚みの平均値を上記の範囲とし、かつそのバラツキを抑制することで、信頼性をより高めることができる。
【0063】
粒界22の厚みを測定する方法としては、特に制限されないが、粒界22における元素の含有割合を測定する方法と同様の方法を採用することができる。すなわち、誘電体層の断面についてのSTEMの明視野(BF)像から、誘電体粒子20と誘電体粒子20との間に存在し、該誘電体粒子20とは異なるコントラストを有する領域を粒界22とし、その厚みを目視あるいは画像処理を行うソフトウェア等により測定すればよい。そして、各測定点における粒界の厚みの値から、平均値を求め、粒界の厚みの平均値とすればよい。なお、測定する粒界22の数は特に制限されないが、10点以上であることが好ましい。
【0064】
なお、本実施形態では、粒界は、2つの粒子の間に存在する境界領域と定義される。したがって、3つ以上の粒子の間に存在する領域23(3重点など)における元素の含有割合や厚みは、上述した粒界における元素の含有割合や厚みには考慮されない。
【0065】
<偏析領域>
本実施形態では、図3に示すように、誘電体層2には、誘電体粒子20および内部電極層3とは組成が異なる偏析領域28がさらに存在している。
【0066】
図3に示す偏析領域28を構成する成分としては特に制限されないが、本実施形態では、MgおよびSiが含まれていることが好ましい。この場合、MgおよびSiの含有量は、偏析領域28全体を100重量%とすると、酸化物換算で60重量%以上であることが好ましい。また、偏析領域28には、MgおよびSi以外の元素が含まれていてもよい。
【0067】
さらに、偏析領域28は、実質的にMg−Si−O系の複合酸化物からなることがより好ましい。該複合酸化物におけるMgOおよびSiOの含有割合はモル比で、MgO:SiO=0.8:1.2〜1.2:0.8であることが好ましい。また、MgOとSiOとはほぼ1:1で含有されることがより好ましい。
【0068】
また、素子本体10を誘電体層2および内部電極層3に対して垂直な面で切断した断面に関し、観察される偏析領域28の面積割合が、素子本体10の断面全体の断面積100%に対し、好ましくは0.1〜5.0%、より好ましくは0.15〜3.0%である。偏析領域28の面積割合を上記の範囲に制御することにより、誘電損失(tanδ)を良好にすることができる。
【0069】
なお、断面における偏析領域28の観察方法としては、素子本体10の断面全体において、偏析領域28が観察されていれば、特に制限されない。たとえば、複数の視野に分けて観察してもよいが、測定精度やばらつきを考慮すると、複数の視野、特に5視野以上に分けて観察することが好ましい。
【0070】
本実施形態では、偏析領域28の面積割合は、素子本体10の断面全体を倍率7000倍の倍率で5視野分測定した場合の平均値とする。このような倍率で5視野以上測定して得られる偏析領域28の面積割合は、素子本体10の断面全体を観察して得られる偏析領域28の面積割合とほぼ一致することが確認されている。
【0071】
また、倍率については、特に制限されず適宜設定すればよいが、1視野の範囲に少なくとも一対の内部電極が含まれるような倍率が好ましい。このような倍率とすることで、内部電極に接する形態で存在する粒子の割合を含めて観察できるからである。
【0072】
偏析領域28の面積割合を算出する方法としては、特に制限されないが、上記の視野において、誘電体層2および内部電極層3とは異なるコントラストを有する領域を偏析領域28とし、目視あるいは画像処理を行うソフトウェア等によりその面積割合を算出すればよい。
【0073】
なお、偏析領域28は、後述するように、粒界に含まれる元素(Mg、Si、その他の元素)が3重点に偏析して成長する領域であると考えられ、コントラストの違いによる判別では、粒界22と偏析領域28とを区別することは難しい。
【0074】
しかしながら、偏析領域28の面積割合を算出する場合には、7000倍の低倍率で観察するため、1ピクセルあたりの分解能は14.2nmと大きく厚みが1nmを下回る粒界22を視野中に認識することは不可能である。したがって、上記のようにして、偏析領域28の面積割合を算出しても、偏析領域28の面積割合に粒界22の面積が含まれることはない。
【0075】
また、偏析領域28の組成は、通常、粒界22の組成と異なっているが、同じであってもよい。
【0076】
本実施形態では、誘電体層2に存在する偏析領域28の数を100%とした場合に、内部電極層3に接している偏析領域28が、個数割合で、20〜100%、より好ましくは50〜100%である。図3に示すように、偏析領域28が内部電極層3に接していることで、内部電極層3と誘電体層2との界面の強度が向上する。その結果、内部電極層3に接している偏析領域28の数を上記の範囲とすることで、過酷な条件下(たとえば、高温加速寿命試験後)においてもクラックの発生を防止することができる。
【0077】
内部電極層に接している偏析領域の割合を算出する方法としては、偏析領域の面積割合を算出する際に用いる方法を採用することができる。すなわち、素子本体10を7000倍で観察した視野において、観察される偏析領域28の個数と、内部電極層3に接している偏析領域28の個数と、から算出すればよい。
【0078】
<内部電極層3>
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、本実施形態では、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0079】
内部電極層3を拡大すると、通常、図3に示すように、内部電極が形成されるべき部分に、実際には内部電極が形成されていない部分(電極不存在部30)が存在する。この電極不存在部30は、焼成時において、導電材粒子(主にNi粒子)が粒成長により球状化した結果、隣接していた導電材粒子との間隔が開き、導電材が存在しなくなった領域である。
【0080】
図3に示す断面においては、この電極不存在部30により、内部電極層3は不連続であるように見えるが、電極不存在部30は内部電極層3の主面に点在している。したがって、図3に示す断面では内部電極層3が不連続となっていても、他の断面においては連続しており、内部電極層3の導通は確保されている。
【0081】
本実施形態では、電極不存在部30の少なくとも一部に、偏析領域28が形成されていることが好ましい。
【0082】
偏析領域28に主成分とは異なる成分(たとえば、MgあるいはSi)が含まれている場合、該領域は、誘電体粒子が示す誘電特性(比誘電率など)よりも誘電特性が劣る傾向にある。そのため、偏析領域28が誘電体層2中(内部電極層3の層間)に存在していると、結果として、積層型セラミック電子部品としての誘電特性が低下する場合がある。
【0083】
そこで、内部電極層3の層間ではなく、内部電極層3と同一面上に存在する電極不存在部30に、偏析領域28を存在させている。このようにすることで、良好な誘電特性が得られる。
【0084】
なお、偏析領域28は、電極不存在部30を完全に覆うように形成されている必要はなく、内部電極層3と偏析領域28との間に隙間が存在していてもよい。
【0085】
<外部電極4>
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0086】
<積層セラミックコンデンサ1の製造方法>
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼き付けすることにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0087】
まず、誘電体層を形成するための誘電体原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0088】
誘電体原料として、まずABOの原料と、Mgの酸化物の原料と、Rの酸化物の原料と、Siを含む酸化物の原料と、を準備する。これらの原料としては、上記した成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物から適宜選択して用いることができ、これらを混合して用いることもできる。各種化合物としては、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0089】
なお、ABOの原料は、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができる。
【0090】
さらに、誘電体層に、上記の主成分および副成分以外の成分が含有される場合には、該成分の原料として、上記と同様に、それらの成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いることができる。
【0091】
誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上述した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。塗料化する前の状態で、誘電体原料の粒径は、通常、平均粒径0.1〜1μm程度である。
【0092】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0093】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。バインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法などに応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0094】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0095】
内部電極層用ペーストは、上記したNiやNi合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記したNiやNi合金となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製すればよい。また、内部電極層用ペーストには、共材が含まれていてもよい。共材としては特に制限されないが、主成分と同様の組成を有していることが好ましい。
【0096】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0097】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0098】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0099】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層し、所定形状に切断してグリーンチップとする。
【0100】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、脱バインダ処理における雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0101】
脱バインダ後、グリーンチップの焼成を行う。本実施形態では、図4に示すように、焼成工程は、第1熱処理工程S1と第2熱処理工程S2と第3熱処理工程S3とから構成されることが好ましい。第1熱処理工程S1では、昇温速度を好ましくは200℃/時間以上とする。第1熱処理工程S1時の第1保持温度T1は、好ましくは1100〜1300℃であり、その第1保持時間t1は、特に限定されず、きわめて短時間でも良いが、好ましくは0.1〜4時間、さらに好ましくは0.5〜2時間である。
【0102】
第1熱処理工程S1時の雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。また、第1熱処理工程S1時の第1酸素分圧(第1PO)は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、雰囲気中の第1POは、1.0×10−8〜1.0×10−2Paとすることが好ましい。降温速度は、好ましくは50℃/時間以上である。
【0103】
本実施形態では、第1熱処理工程S1後の素子本体に対し、第1熱処理時工程S1の第1保持温度T1よりも低い第2保持温度T2で、かつ第1POよりも低い第2酸素分圧(第2PO)において第2熱処理工程S2を行う。
【0104】
具体的には、第2熱処理工程S2における第2保持温度T2は、好ましくは1000℃より大きく1200℃以下であり、さらに好ましくは1010〜1200℃、特に好ましくは1030〜1150℃である。第2熱処理工程S2における第2保持時間t2は、特に限定されず、きわめて短時間でも良いが、好ましくは、第1保持時間t1よりも長いことが好ましく、さらに好ましくは、第1保持時間t1の二倍以上で、好ましくは5〜250時間である。第2熱処理工程S2における昇温速度は、好ましくは200℃/時間以上であり、降温速度は、50℃/時間以上である。
【0105】
また、第2熱処理工程S2時の雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。第2熱処理工程S2時の第2酸素分圧(第2PO)は、第1POよりも低く、10−10 〜10−7 Paとすることが好ましく、第1熱処理工程S1とは異なるNとHとの分圧条件、加湿条件などを選択することが好ましい。
【0106】
本実施形態では、第2熱処理工程S2後の素子本体に対し、第3熱処理工程S3を行う。第3熱処理工程における第3保持温度T3は、第2保持温度T2以下の温度であることが好ましく、好ましくは650〜1100℃、さらに好ましくは、760〜1100℃、特に好ましくは、810〜1060℃である。第3熱処理工程S3における第3保持時間t3は、好ましくは0.5〜4時間である。また、第3熱処理工程S3時の雰囲気は、加湿したNガスとすることが好ましく、第3酸素分圧(第3PO)は、第1POよりも高く、好ましくは、1.0×10−3 〜1.0Pa、さらに好ましくは、1.0×10−3 〜5×10−1 Paである。
【0107】
上記した脱バインダ処理、第1熱処理、第2熱処理および第3熱処理において、Nガスや混合ガス等を加湿する場合には、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0108】
脱バインダ処理、第1熱処理、第2熱処理および第3熱処理は、連続して行なっても、独立に行なってもよい。たとえば図4に示すように、第1熱処理工程S1と第2熱処理工程S2との間に、第1保持温度T1および第2保持温度T2よりも低い第4保持温度T4となる領域を設け、第4保持温度T4が900℃以下の温度と成るようにすることも好ましい。第4保持温度T4で保持される第4保持時間t4は、一瞬でも良く、特に限定されないが、好ましくは0.1〜1時間である。
【0109】
図4に示す熱処理工程では、第2熱処理工程S2と第3熱処理工程S3とを、別の炉で行うことなどにより、これらの間を分離している。また、図5に示すように、第1熱処理工程S1と第2熱処理工程S2と第3熱処理工程S3とを、別の炉で行うことなどにより、これらの間を分離しても良い。
【0110】
この他、図4に示す熱処理工程とは異なる例として、第1熱処理工程S1の降温過程の途中で、第2保持温度T2になった時点で、第1熱処理工程S1から第2熱処理工程S2に連続的に移行するように構成しても良い。また、図4に示す熱処理工程とは異なる例として、第2熱処理工程S2の降温過程の途中で、第3保持温度T3になった時点で、第2熱処理工程S2から第3熱処理工程S3に連続的に移行するように構成し、第1熱処理工程S1と第2熱処理工程S2と第3熱処理工程S3とを連続して行っても良い。
【0111】
あるいは、図5に示す熱処理工程とは異なる例として、第2熱処理工程S2の降温過程の途中で、第3保持温度T3になった時点で、第2熱処理工程S2から第3熱処理工程S3に連続的に移行するように構成しても良い。
【0112】
熱処理条件を上記のように制御することで、粒界における各元素の含有割合や粒界の厚み、偏析領域の存在状態を所望のものとすることが容易となる。その結果、誘電体磁器組成物におけるMg、Si、Rの酸化物などの含有量にかかわらず、良好な誘電特性を示す積層型セラミック電子部品を得ることができる。
【0113】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0114】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0115】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0116】
上述した実施形態では、本発明に係る積層型セラミック電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る積層型セラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成を有する電子部品であれば何でも良い。
【実施例】
【0117】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0118】
<実験例1>
まず、主成分であるABOの原料としてBaTiO粉末を準備した。また、副成分の原料としては、Mgの酸化物の原料としてMgCO粉末、R元素の酸化物の原料としてR粉末、Siを含む酸化物の原料として(Ba0.6Ca0.4)SiO(以下、BCGともいう)粉末、Mnの酸化物の原料としてMnO粉末、Vの酸化物の原料としてV粉末を、それぞれ準備した。なお、MgCOは、焼成後には、MgOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0119】
次に、上記で準備したBaTiO粉末(平均粒子径:0.3μm)と副成分の原料とをボールミルで15時間湿式粉砕し、乾燥して誘電体原料を得た。なお、各副成分の添加量は、焼成後の誘電体磁器組成物において主成分であるBaTiO100モルに対して、各酸化物換算で、MgOが2.0モル、Yが1.0モル、BCGが0.9モル、MnOが0.1モル、Vが0.1モルとなるようにした。
【0120】
次いで、得られた誘電体原料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0121】
また、Ni粉末:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0122】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0123】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、熱処理を下記条件にて行って、焼結体としての素子本体を得た。
【0124】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:15℃/時間、保持温度:280℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0125】
第1熱処理工程S1では、昇温速度:200〜2000℃/時間、第1保持温度T1:1200〜1300℃、第1保持時間t1:0.5〜2時間、降温速度:200〜2000℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス(第1酸素分圧(第1PO)が1.0×10−8〜1.0×10−2Pa)とした。
【0126】
第2熱処理工程S2では、昇温速度:200℃/時間、第2保持温度T2:1000〜1200℃、第2保持時間t2:100時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+Hガス(第2酸素分圧(第2PO):1.0×10−11〜1.0×10−6Pa)とした。
【0127】
第3熱処理工程S3では、昇温速度:200℃/時間、第3保持温度T3:1000℃、第3保持時間t3:2時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(第3酸素分圧(第3PO):1.0×10−3Pa)とした。
【0128】
なお、第1〜第3熱処理の際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0129】
次いで、得られた素子本体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてCuを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、1.0mm×0.5mm×0.5mmであり、誘電体層の厚みが1.0μm、内部電極層の厚みが1.0μmであった。また、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は200とした。
【0130】
得られたコンデンサ試料について、粒界におけるMgおよびSiの含有割合、比誘電率および静電容量の温度特性の測定を、それぞれ下記に示す方法により行った。
【0131】
<粒界におけるMgおよびSiの含有割合>
まず、コンデンサ試料を誘電体層に対して垂直な面で切断した。この切断面について、STEM観察を行い、誘電体粒子と粒界との判別を行った。次いで、任意に選択した10点の粒界において、STEMに付属のEDS装置を用いて、点分析を行った。測定により得られた特性X線を定量分析し、検出された元素の酸化物換算での重量からMgおよびSiの含有割合を算出した。各測定点で得られたMgおよびSiの含有割合の平均値を求めることで、粒界におけるMgおよびSiの含有割合を算出した。結果を表1に示す。
【0132】
<比誘電率ε>
比誘電率εは、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では4300以上を良好とし、5000以上であることがさらに好ましい。結果を表1に示す。
【0133】
<静電容量の温度特性>
コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で静電容量を測定し、続いて−55〜85℃における静電容量を測定し、25℃における静電容量に対し、静電容量の変化率ΔCを算出し、変化率ΔCが、±15%以内であるか否かを評価した。すなわち、X5R特性を満足するか否かを評価した。結果を表1に示す。表1では、X5R特性を満足するものを良「○」とし、満足しないものを不良「×」とした。
【0134】
【表1】

【0135】
表1より、粒界におけるMgおよびSiの含有割合が上述した範囲外である場合には(試料番号1、7、8および12)、比誘電率あるいは温度特性が悪化していることが確認できた。
【0136】
これに対し、粒界におけるMgおよびSiの含有割合が上述した範囲内である場合には(試料番号2〜6、9〜11)、比誘電率および温度特性が良好であることが確認できた。
【0137】
<実験例2>
第3熱処理での第3保持温度T3を650〜1100℃の範囲内で調整した以外は、試料番号4と同様にして、コンデンサ試料を作製し、実験例1と同様の評価を行い、さらに下記に示す高温加速寿命(HALT)の評価を行った。結果を表2に示す。なお、本実施例では、粒界におけるNiの含有割合についても、MgおよびSiの含有割合の測定と同様の測定を行った。
【0138】
<高温加速寿命(HALT)>
コンデンサ試料に対し、160℃にて、6.3V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、絶縁抵抗(IR)の経時変化を測定することにより、高温加速寿命を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が1桁下がるまでの時間を破壊時間とし、これをワイブル解析することにより平均故障時間を算出した。本実施例では、上記の評価を20個のコンデンサ試料について行い、平均故障時間の平均値を寿命(MTTF)とした。本実施例では、10時間以上を良好とした。結果を表2に示す。
【0139】
【表2】

【0140】
表2より、粒界におけるNiの含有割合が上述した範囲外である場合には(試料番号13および16)、良好なMTTFが得られないことが確認できた。
【0141】
これに対し、粒界におけるNiの含有割合が上述した範囲内である場合には(試料番号4、14および15)、良好なMTTFが得られることが確認できた。
【0142】
<実験例3>
R元素の酸化物として、Y、Dy、HoおよびGdから少なくとも1種以上を選択し、その含有量を0.2〜2.5モルの範囲で調整した以外は、試料番号2と同様にして、コンデンサ試料17〜21を作製し、実験例2と同様の評価を行った。なお、試料番号17では、Yの含有量を0.4モルとした。試料番号18では、Dyの含有量を2.0モルとした。試料番号19では、Yの含有量を1.5モル、Dyの含有量を1.0モルとした。試料番号20では、Yの含有量を1.5モル、Hoの含有量を0.5モルとした。試料番号21では、Yの含有量を1.5モル、Gdの含有量を0.2モルとした。結果を表3に示す。なお、本実施例では、粒界におけるR元素の含有割合についても、MgおよびSiの含有割合の測定と同様の測定を行った。
【0143】
【表3】

【0144】
表3より、粒界におけるMg、Si、NiおよびR元素の含有割合が上述した大小関係を満足する場合には(試料番号2、4、15、17〜21)、高い比誘電率および良好な温度特性を示し、かつ良好なMTTFが得られることが確認できた。
【0145】
<実験例4>
第2熱処理工程S2における第2酸素分圧(第2PO)を1.0×10−10〜1.0×10−7Paとし、保持時間を2.4〜240時間に調整した以外は、試料番号4と同様にして、コンデンサ試料を作製し、粒界の厚みを下記に示す方法により測定し、さらに上記の高温加速寿命の評価を行った。結果を表4に示す。なお、本実施例では、高温加速寿命の評価では、ワイブル係数(m値)も算出した。m値は、2.0以上であることが好ましい。
【0146】
<粒界の厚みの平均値およびそのC.V.値>
まず、コンデンサ試料を誘電体層に対して垂直な面で切断した。この切断面について、STEM観察を行い、誘電体粒子と粒界との判別を行った。次いで、誘電体粒子とは異なるコントラストを有する領域の厚みを画像処理により算出した。この測定を、40個の粒界について行い、各測定点における粒界の厚みの測定値から平均値を算出し、これを粒界の厚みの平均値とした。さらに粒界の厚みの測定値から標準偏差を求め、この標準偏差と平均値とから、下記に示す式を用いて、粒界の厚みのバラツキを示す指標となるC.V.値を算出した。
C.V.値=(標準偏差/平均値)×100
結果を表4に示す。
【0147】
【表4】

【0148】
表4より、粒界の厚みの平均値が上述した範囲外である場合には(試料番号24)、m値が悪化する傾向にあることが確認できた。
【0149】
これに対し、粒界の厚みの平均値および粒界の厚みについてのC.V.値が上述した範囲内である場合には(試料番号4、22、23、25〜27)、良好なm値が得られることが確認できた。
【0150】
<実験例5>
Mgの酸化物(MgO)の含有量をMgO換算で0.4〜2.5モルの範囲とし、SiOを含む酸化物(BCG)の含有量をSiO換算で0.2〜3.0モルの範囲とした以外は、試料番号4と同様にして、コンデンサ試料を作製した。なお、試料番号28では、MgO換算での含有量を0.4モル、SiO換算での含有量を0.2モルとした。試料番号29では、MgO換算での含有量を1.0モル、SiO換算での含有量を0.4モルとした。試料番号30では、MgO換算での含有量を2.5モル、SiO換算での含有量を0.5モルとした。試料番号31では、MgO換算での含有量を2.5モル、SiO換算での含有量を1.2モルとした。試料番号32では、MgO換算での含有量を1.25モル、SiO換算での含有量を3.0モルとした。
【0151】
得られたコンデンサ試料について、偏析領域の面積割合を下記に示す方法により測定し、実験例1と同様の評価を行い、さらに下記に示す誘電損失(tanδ)の評価を行った。結果を表5に示す。
【0152】
<偏析領域の面積割合>
まず、コンデンサ試料を誘電体層に対して垂直な面で切断した。この切断面について、SEMによる観察を倍率7000倍で5視野行った。次いで、5視野分の視野面積において、誘電体層と内部電極との両方と異なるコントラストを有する領域を偏析領域とし、コンデンサ試料の断面積に対する偏析領域が占める面積割合を算出した。結果を表5に示す。
【0153】
<誘電損失(tanδ)>
誘電損失(tanδ)は、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定した。誘電損失は低いほうが好ましく、本実施例では10%以下を良好とした。結果を表5に示す。
【0154】
【表5】

【0155】
表5より、偏析領域の面積割合を上述した範囲内とすることで(試料番号4、28〜32)、誘電損失は若干悪化するものの、比誘電率が向上することが確認できた。
【0156】
<実験例6>
試料番号33では第1熱処理工程S1において1200〜1000℃の範囲での降温速度を2℃/時間とし、試料番号34では第1熱処理での降温工程と第2熱処理の保持工程とを連続とし、試料番号35では、第1熱処理での降温工程において900℃以下まで降温し、その後第2熱処理での保持温度まで昇温した以外は、試料番号4と同様にして、コンデンサ試料を作製し、偏析領域が内部電極層に接している割合を下記に示す方法により測定し、さらに高温加速寿命試験後の試料について外観検査を行いクラックの有無について評価した。結果を表6に示す。
【0157】
<偏析領域が内部電極層に接している割合>
偏析領域の面積割合を算出したときと同様にして、コンデンサ試料の切断面について、SEMによる観察を倍率7000倍で5視野行った。次いで、5視野分の視野面積において、視野中に観察される偏析領域の個数および内部電極層に接している偏析領域の個数を、目視にてカウントし、偏析領域が内部電極層に接している割合を算出した。結果を表6に示す。
【0158】
<クラックの有無>
まず、偏析領域が内部電極層に接している割合を算出したコンデンサ試料に対し、上記の高温加速寿命試験を行った。試験後の試料に対して、外観検査を行いクラックの有無を観察した。20個の試料について外観検査を行った。本実施例では、クラックが観察されないことが好ましい。結果を表6に示す。
【0159】
【表6】

【0160】
表6より、偏析領域が内部電極層に接している割合が上述した範囲内である場合には(試料番号4、34、35)、クラックは観察されないことが確認できた。
【0161】
<実験例7>
実験例1と同様にしてグリーンチップを作製し、実験例1と同様の脱バインダ処理を行った。なお、誘電体磁器組成物の原料および組成は、実験例1と同じとした。脱バインダ処理後のグリーンチップについて、第1熱処理工程S1〜第3熱処理工程S3を下記条件にて行って、焼結体としての素子本体を得た。
【0162】
第1熱処理工程S1では、昇温速度:200〜2000℃/時間、第1保持温度T1:表7記載とし、第1保持時間t1を0.5〜2時間とし、降温速度:200〜2000℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガスとし、第1酸素分圧(第1PO)を表7記載の圧力とした。なお、表において、「m×E−n」とは、「m×10−n 」の意味である。他も同様である。
【0163】
第2熱処理工程S2では、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1000〜1200℃、第2保持時間t2:100時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+Hガスとし、第2酸素分圧(第2PO)を表7記載の圧力とした。第1熱処理工程S1と第2熱処理工程S2との間は、図5に示すように分離させた。
【0164】
第3熱処理工程S3は、図5に示すように、第1熱処理工程S1と第2熱処理工程S2との間と同様に分離させた。第3保持温度T3:表7記載、第3保持時間t3:2時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガスとし、第3酸素分圧(第3PO)を表7に記載の圧力とした。
【0165】
なお、第1熱処理工程S1から第3熱処理工程S3の際の雰囲気ガスの加湿には、実験例1と同様にウェッターを用いた。
【0166】
得られた素子本体について、実験例1と同様にして、外部電極を形成し、積層セラミックコンデンサ試料を得た。
【0167】
得られたコンデンサ試料51〜73について、実験例2と同様の評価を行い、さらに下記に示すIR不良の評価を行った。
【0168】
<IR不良>
コンデンサ試料に対し、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて、20℃においてDC10Vを、30個のコンデンサ試料に、30秒間印加し、絶縁抵抗IRを測定した。絶縁抵抗が、1.0×10−8 Ω未満の試料が5個以上見つかった場合に不良「×」と判定し、一桁以上落ちた試料が1〜4個見つかった場合に良「○」と判定し、0個である場合を特良「◎」と判定した。結果を表7に示す。
【0169】
【表7】

【0170】
表7に示すように、第2熱処理工程S2が無い試料番号51では、比誘電率εが低いと共に、高温加速寿命も低いことが判明した。第2熱処理工程S2が無い試料番号51では、副成分の拡散制御が不十分であるためと考えられる。また、第2POが高すぎる試料番号52では、比誘電率εが低いことが判明した。副成分の拡散制御が不十分であることなどが原因ではないかと考えられる。
【0171】
さらに、第3熱処理工程S3が無い試料番号53では、高温加速寿命が低すぎることが判明した。再酸化処理が不十分であるためと考えられる。さらにまた、第2保持温度T2が1200℃を超える試料番号54では、高温加速寿命が低いことが判明した。誘電体粒子の粒成長が進行することや、粒界厚みの過剰に薄い部分が生成するなどの理由によると考えられる。
【0172】
また、第2保持温度T2が1000℃以下と成る試料番号60では、比誘電率εが低いと共に、高温加速寿命が低いことが判明した。温度が低すぎる場合には、副成分の拡散制御が不十分と成るからではないかと考えられる。また、第2POが1×10−7 [Pa]より少し高い試料番号61では、高温加速寿命が低いことが判明した。試料番号52と同じ理由によると考えられる。また、第2POが1×10−10 [Pa]より低い試料番号64では、IR不良が多くなり、良くないことが判明した。第2POが低すぎると、誘電体粒子中の酸素欠陥を過剰に生成させるからではないかと考えられる。
【0173】
また、酸素分圧の調整として、第1PO、ウェッターの露点および雰囲気ガスの濃度をそのままとし、温度のみをT1からT2に低下させることで、第2POを表7に示す値とした試料番号61aは良好な特性が得られているが、試料番号57、62および63のように、第1POから第2POへ変化させる際には、酸素分圧そのものを調整する方が特性の面からは好ましい。
【0174】
さらに、第2POが1×10−10 [Pa]≦第2PO≦1×10−7 [Pa]の範囲内であっても、第1POよりも高い酸素分圧である試料番号67では、比誘電率εが低いと共に、高温加速寿命が低いことが判明した。副成分の拡散制御が不十分となることなどが原因ではないかと考えられる。
【0175】
第1熱処理工程S1〜第3熱処理工程S3の全てを有し、第2POを、第1POより低い酸素分圧に設定し、かつ、1×10−10 [Pa]≦第2PO≦1×10−7 [Pa]の範囲と設定し、第2保持温度(T2)を、第1保持温度(T1)よりも低い温度で、かつ1000[℃]<T2≦1200[℃]とし、第1POよりも高い第3POで製造した本実施例の試料番号55〜59、62、63、65、66、68〜73によれば、X5R特性を満足し、εが、4500以上、高温加速寿命が15時間以上、IR不良が少ない製品が得られることが確認できた。
【0176】
<実験例8>
第2熱処理工程S2における第2保持時間t2を、0.5時間、5時間、250時間とした以外は、試料番号63と同様にして、コンデンサ試料74,75,76を作製し、比誘電率および高温加速寿命に関して、実験例7と同様の評価を行った。結果を表8に示す。
【0177】
【表8】

【0178】
表8に示すように、第2保持時間t2を第1保持時間t1の二倍以上とすることで、比誘電率および高温加速寿命が、さらに向上することが確認できた。
【0179】
<実験例9>
誘電体層を構成する誘電体磁器組成物の組成において、Si/Mgのモル比が0.48および0.7となるように材料の組成を調整した以外は、試料番号63と同様にして、コンデンサ試料77,78を作製し、比誘電率および高温加速寿命に関して、実験例7と同様の評価を行った。結果を表9に示す。
【0180】
【表9】

【0181】
表9に示すように、Si/Mgのモル比を0.5以下とすることで、比誘電率が向上することが確認できた。
【0182】
<実験例10>
誘電体層を構成する誘電体磁器組成物の組成において、希土類RにおけるYまたはDyのモル数、MnOまたはCrのモル数、あるいはVのモル数を、表10に示すように変化させて組成を調整した以外は、試料番号63と同様にして、コンデンサ試料79〜85を作製し、比誘電率および高温加速寿命に関して、実験例7と同様の評価を行った。結果を表10に示す。なお、試料番号83a、83bおよび83cについては、Dyの代わりに、表10に示す希土類を表10に示すモル数で用いた。試料番号83bにおいて用いたTbのモル数はTb3.5換算でのモル数とした。
【0183】
【表10】

【0184】
表10に示すように、希土類Rの種類を変化させても、MnOまたはCrのモル数、あるいはVのモル数を変化させても、試料番号63と同様な結果が得られることが確認できた。特に、希土類として、YおよびDyの双方を含ませることで、比誘電率および高温加速寿命の双方が向上することが確認できた。さらに、Dyに代えて、Gd、Tb3.5およびHoを、Yと共に含ませても、Dyの場合と同様の結果が得られた。この実験結果から、誘電体磁器組成物の組成を変化させても、上述の製造方法によれば、同様な結果が得られることが予想できる。
【0185】
<実験例11>
図4に示す熱処理工程とは異なる熱処理工程として、第1熱処理工程S1と第2熱処理工程S2とを連続させて行い、あるいは、図4に示すように、第1熱処理工程S1と第2熱処理工程S2との間に第4保持温度T4の領域を設け、T4=900℃とした以外は、試料番号63と同様にして、コンデンサ試料86および87を作製し、比誘電率および高温加速寿命に関して、実験例7と同様の評価を行った。結果を表11に示す。
【0186】
【表11】

【0187】
表11に示すように、第1熱処理工程S1と第2熱処理工程S2との間に、900℃以下の降温工程を設けた場合に、特に、比誘電率および高温加速寿命の双方が向上することが確認できた。この実験から、熱処理のパターンを変化させても、上述の方法によれば同じ効果が期待できることが予想される。
【0188】
<実験例12>
主成分であるBaTiO粉末の平均粒子径が0.20μmのものを用い、BaTiO100モルに対して、各酸化物換算で、MgOが1.5モル、Yが1.0モル、BCGが0.7モル、MnOが0.1モル、Vが0.1モルとし、Si/Mg=0.47となるように組成を調整し、表12に示す条件とし、誘電体層の厚みが0.8μm、内部電極層の厚みが0.7μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は300とした以外は、実験例7と同様にして、コンデンサ試料88〜102を作製し、実験例7と同様の評価を行った。結果を表12に示す。
【0189】
【表12】

【0190】
表12に示すように、第2熱処理工程S2が無い試料番号88では、比誘電率εが低いと共に、高温加速寿命も低いことが判明した。副成分の拡散制御が不十分であるためと考えられる。また、第2保持温度T2を第1保持温度T1と同じに設定した試料番号89では、高温加速寿命が低いことが判明した。誘電体粒子の粒成長が進行することや、粒界厚みの過剰に薄い部分が生成することなどの理由によると考えられる。
【0191】
また、第2保持温度T2が1000℃以下と成る試料番号93では、比誘電率εが低いと共に、高温加速寿命が低いことが判明した。副成分の拡散制御が不十分であるためと考えられる。
【0192】
さらに、第2POを第1POと同じに設定した試料番号94では、比誘電率εが低いと共に、高温加速寿命が低いことが判明した。副成分の拡散制御が不十分となるためであると考えられる。また、第2POが1×10−10 [Pa]より低い試料番号96では、高温加速寿命が低いことが判明した。誘電体粒子中の酸素欠陥を過剰に生成させるためであると考えられる。
【0193】
また、酸素分圧の調整として、第1PO、ウェッターの露点および雰囲気ガスの濃度をそのままとし、温度のみをT1からT2に低下させることで、第2POを表12に示す値とした試料番号94aは良好な特性が得られているが、試料番号90および95のように、第1POから第2POへ変化させる際には、酸素分圧そのものを調整する方が特性の面からは好ましい。
【0194】
主成分であるBaTiO粉末の平均粒子径が実験例7よりも小さく、誘電体層が実験例7よりも薄い場合においても、第1熱処理工程S1〜第3熱処理工程S3の全てを有し、第2POを、第1POより低い酸素分圧に設定し、かつ、1×10−10 [Pa]≦第2PO≦1×10−7 [Pa]の範囲と設定し、第2保持温度(T2)を、第1保持温度(T1)よりも低い温度で、かつ1000[℃]<T2≦1200[℃]とし、第1POよりも高い第3POで製造した試料番号90〜92、95、97〜102によれば、X5R特性を満足し、εが、4400以上、高温加速寿命が12時間以上、IR不良が少ない製品が得られることが確認できた。すなわち、主成分であるBaTiO粉末の平均粒子径が実験例7よりも小さく、誘電体層が実験例7よりも薄い場合には、全体的には、比誘電率が下がるが、上述の方法を用いることで、同じような効果が得られることが確認できた。もちろん、上述の方法は、主成分であるBaTiO粉末の平均粒子径が大きい場合や、誘電体層の厚みが厚い場合にも効果的であることが予想される。
【0195】
<実験例13>
熱処理工程の順番を表13に示す順番とした以外は、実験例7と同様にして、コンデンサ試料103〜106を作製し、比誘電率および高温加速寿命に関して、実験例7と同様の評価を行った。結果を表13に示す。
【0196】
【表13】

【0197】
表13に示すように、第3熱処理を熱処理工程の最後に行わないと、高温加速寿命が低いことが判明した。誘電体層の再酸化ができなかったためだと考えられる。また、第3熱処理を複数回行うことで高温加速寿命が向上することが判明した。さらに、第1熱処理を熱処理工程の最初の1回以外に行うと、誘電体粒子が粒成長し、高温加速寿命が低下することが判明した。第2熱処理および第3熱処理を複数回行うことで、比誘電率および高温加速寿命の双方が向上することが判明した。熱処理工程の途中に第3熱処理を行うことで、長時間の還元によるチタン酸バリウムの酸素欠陥増加を緩和できることが判明した。
【0198】
<実験例14>
本実験例では、第2熱処理工程S2に着目し、実験例7〜12で評価した試料について、以下の2つの実験を行った。
【0199】
<密度変化>
第1熱処理工程S1後の試料について、誘電体層に対して、垂直な面で切断した。この切断面について、SEMによる観察を倍率5000倍で10視野行った。次いで、10視野分の視野面積において、誘電体層中の空隙部を抽出し、試料の断面積に対する空隙部が占める面積割合を算出した。その結果、実験例11を除く全ての実験例において、空隙率は0.05%未満であった。
【0200】
すなわち、第1熱処理工程S1終了時には、すでに十分に焼結しているため、第2熱処理工程S2においては、誘電体層の密度はほとんど変化しないと考えられる。
【0201】
<誘電体粒子の結晶粒子径の変化>
第1熱処理工程S1後の試料および第2熱処理工程S2後の試料について、誘電体層に対して、垂直な面で切断した。この切断面の試料中心部および誘電体層の最外層部において、誘電体粒子の平均面積を測定し、円相当径として直径を算出し、これを1.27倍した値を、誘電体粒子の結晶粒子径とした。そして、この結晶粒子径を、200個以上の誘電体粒子について測定し、得られた結晶粒子径の累積度数分布から累積が50%となる値を平均結晶粒子径(単位:μm)とした。
【0202】
試料中心部および誘電体層の最外層部における平均結晶粒子径を比較した結果、実験例11を除く全ての実験例において、誘電体粒子径の変化は見られなかった。なお、試料番号54および89については、第2熱処理工程S2後では、最外層部において、誘電体粒子の粒成長が確認された。
【0203】
以上より、第2熱処理工程S2では、誘電体層の密度を向上させることで比誘電率等を向上させているわけではないことが確認できた。また、第2熱処理工程S2における第2保持温度T2が高い場合には、誘電体粒子の粒成長を引き起こし、信頼性悪化の要因の1つとなることが確認できた。
【符号の説明】
【0204】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… 素子本体
2… 誘電体層
20… 誘電体粒子
22… 粒界
28… 偏析領域
3… 内部電極層
30… 電極不存在部
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と内部電極層とが積層された素子本体を有する積層型セラミック電子部品であって、
前記誘電体層が、一般式ABO(AはBa、CaおよびSrから選ばれる少なくとも1つであり、BはTi、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも1つである)で表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物と、
Mgの酸化物と、R元素の酸化物(R元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つ)と、Siを含む酸化物と、を含む誘電体磁器組成物から構成され、
前記誘電体磁器組成物が、複数の誘電体粒子と、隣り合う前記誘電体粒子間に存在する粒界と、を有しており、
前記粒界において、前記Mgの含有割合をD(Mg)とし、前記Siの含有割合をD(Si)とすると、前記D(Mg)がMgO換算で0.2〜1.8重量%であり、前記D(Si)がSiO換算で0.4〜8.0重量%であることを特徴とする積層型セラミック電子部品。
【請求項2】
前記内部電極層がNiを含み、前記粒界における前記Niの含有割合をD(Ni)とすると、前記D(Ni)がNiO換算で0重量%より大きく、1.5重量%以下である請求項1に記載の積層型セラミック電子部品。
【請求項3】
前記D(Mg)と前記D(Si)とが、D(Si)>D(Mg)である関係を満足する請求項1または2に記載の積層型セラミック電子部品。
【請求項4】
前記D(Mg)と前記D(Si)と前記D(Ni)とが、D(Si)>D(Mg)>D(Ni)である関係を満足する請求項3に記載の積層型セラミック電子部品。
【請求項5】
前記粒界における前記R元素の含有割合をD(R)とすると、前記前記D(Mg)、前記D(Si)、前記D(Ni)および前記D(R)が、D(R)>D(Si)>D(Mg)>D(Ni)である関係を満足する請求項3または4に記載の積層型セラミック電子部品。
【請求項6】
前記粒界の厚みの平均値が0.3〜0.9nmであり、前記粒界の厚みのばらつきがC.V.値で25以下である請求項1〜5のいずれかに記載の積層型セラミック電子部品。
【請求項7】
前記誘電体層には、前記誘電体粒子とは組成が異なる偏析領域が存在しており、前記素子本体を誘電体層および内部電極層に対して垂直な面で切断した断面において、該断面の面積に対して前記偏析領域が占める面積の割合が0.1〜5.0%である請求項1〜6のいずれかに記載の積層型セラミック電子部品。
【請求項8】
前記偏析領域が実質的に前記Mgと前記Siとの複合酸化物からなる請求項7に記載の積層型セラミック電子部品。
【請求項9】
前記偏析領域のうち、前記内部電極層に接している偏析領域が、個数割合で、20〜100%である請求項7または8に記載の積層型セラミック電子部品。
【請求項10】
前記素子本体は、前記内部電極層が形成されるべき領域に前記内部電極層が形成されていない電極不存在部を有しており、前記電極不存在部の少なくとも一部に、前記偏析領域が存在している請求項7〜9のいずれかに記載の積層型セラミック電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−129508(P2012−129508A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251975(P2011−251975)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】