説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】加硫工程中に発泡材料を発泡させて前記吸音具を成形する。
【解決手段】環状をなす生タイヤ成形用の中子12を用いて未加硫の生タイヤ30を形成する生タイヤ成形工程と、この生タイヤ30を加硫する加硫工程とを含む。前記中子12は、タイヤ周方向にのびる少なくとも1本の凹溝20が設けられるとともに、凹溝20内にタイヤ周方向にのびる未発泡状態の発泡材料10Gを配して生タイヤ30が成形される。加硫工程では、生タイヤ30を中子12とともに加硫することにより、発泡材料10Gを凹溝20の断面形状に発泡させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部のタイヤ内腔面側に発泡材料からなる吸音具が設けられた空気入りタイヤの製造方法に関し、詳しくは加硫工程中に発泡材料を発泡させて前記吸音具を成形しうる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレッド部のタイヤ内腔面側に、スポンジ等の発泡体からなる吸音具が設けられた空気入りタイヤが提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。このような空気入りタイヤは、タイヤとリムとが囲むタイヤ内腔で生じる空洞共鳴を前記吸音具が吸収することにより、走行中のロードノイズが低減される。
【0003】
【特許文献1】特開2003−285607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の空気入りタイヤは、未加硫の生タイヤの内腔面に未発泡の発泡材料を貼り付けし、これを金型及びその中で膨張するブラダーを用いて加熱・加圧することにより、生タイヤの加硫と同時に発泡材料を発泡させて製造される。しかしながら、この方法では、タイヤ内腔面に風船状のブラダーが密着するため、発泡材料が発泡するための十分な体積膨張空間が得られず、ひいては発泡が抑制されたり、発泡材料がいびつに膨張し、タイヤの形状を歪めるという欠点がある。
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、トレッド部のタイヤ内腔面を成形するトレッド成形面に、タイヤ周方向にのびる少なくとも1本の凹溝が設けられた中子を用いて生タイヤを成形するとともに、この生タイヤを前記中子とともに加硫することを基本として、発泡材料を凹溝の断面形状に発泡させることにより、期待した通りの吸音具を能率良く成形しうる空気入りタイヤの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、トレッド部のタイヤ内腔面側に、発泡体からなりかつタイヤ周方向にのびる吸音具が設けられた空気入りタイヤを製造する空気入りタイヤの製造方法であって、環状をなす生タイヤ成形用の中子を用いて未加硫の生タイヤを形成する生タイヤ成形工程と、この生タイヤを加硫する加硫工程とを含み、前記中子は、トレッド部のタイヤ内腔面を成形するトレッド成形面に、タイヤ周方向にのびる少なくとも1本の凹溝が設けられるとともに、前記生タイヤは、タイヤ周方向にのびる未発泡状態の発泡材料が、前記凹溝内に隙間を有して配されてなり、しかも前記加硫工程では、前記生タイヤを前記中子とともに加硫することにより、前記発泡材料を前記凹溝の断面形状に発泡させて前記吸音具を成形することを特徴とする。
【0007】
また請求項2記載の発明は、前記中子の前記凹溝は、タイヤ半径方向内外に移動可能な溝底部を具え、前記生タイヤ成形工程が、前記溝底部をタイヤ半径方向外側に位置させた浅溝状態で行われるとともに、前記加硫工程が、前記溝底部をタイヤ半径方向内側に位置させた深溝状態で行われる請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0008】
また請求項3記載の発明は、前記溝底部は、内部に流体が出入りすることによって膨張及び収縮しうる膨張具の外表面によって形成される請求項2記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、生タイヤ成形工程において、中子を用いて生タイヤが成形される。この際、生タイヤは、中子のトレッド成形面に設けられたタイヤ周方向にのびる1本の凹溝内にタイヤ周方向にのびる未発泡状態の発泡材料が配された状態で成形される。そして、加硫工程では、この生タイヤを中子とともに加硫することにより、発泡材料を前記凹溝の断面形状にほぼ一致するように発泡させて吸音具を成形しうる。従って、タイヤ内腔面側に、期待した断面形状の吸音具を容易に設けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。
図1には、本実施形態の空気入りタイヤの製造方法によって得られた空気入りタイヤ1の断面図を示す。該空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、その両側からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部3、3と、該サイドウォール部3の内方端に設けられかつ図示しないリムに装着されるビード部4、4とを含むトロイド状をなすとともに、タイヤ内腔面9に固着された発泡体からなる吸音具10を含んで構成される。
【0011】
前記空気入りタイヤ1は、慣例に従い、前記トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5の周りで巻上げられたカーカスプライ6Aからなるカーカス6と、その半径方向外側かつトレッド部2の内部に配置された少なくとも2枚のベルトプライ7A、7Bを含むベルト層7と、ビード部4に配されかつ前記ビードコア5からタイヤ半径方向外側にテーパ状でのびるビードエーペックス8といった補強部材を含んでいる。
【0012】
本実施形態において、吸音具10は、インナーライナーゴム11がなすタイヤ内腔面9に固着される。該吸音具10は、例えば、タイヤ軸方向に長い横長偏平であり、より詳しくはタイヤ半径方向内側に向かってタイヤ軸方向の幅が滑らかに減じる略台形状の断面でタイヤ周方向にのびている。このような吸音具10は、タイヤ周方向に連続する環状体でも良いし、また一部が途切れるものでも良い。ただし、重量アンバランスを防止するために、吸音具10は、タイヤ赤道Cに関して実質的に左右対称となる断面形状を有することが望ましい。
【0013】
また、吸音具10は、独立気泡及び/又は連続気泡を有する発泡体、好ましくは連続気泡を有する発泡体から形成される。該発泡体としては、ゴム又はエラストマーを発泡させたものが好適である。これらの詳細については後述する。
【0014】
発泡体からなる吸音具10は、空気入りタイヤ1とリムJとが囲むタイヤ内腔iで生じた共鳴による振動エネルギーを吸収し(熱エネルギーに変換し)、走行時の空洞共鳴を抑える。よって、走行中のロードノイズを低減しうる。また、吸音具10をトレッド部2のタイヤ内腔面9a側に設けることにより、走行時の遠心力が吸音具10を前記タイヤ内腔面9aに押し付け、その離脱等を効果的に防止しうる。なお、トレッド部2のタイヤ内腔面9aは、少なくとも前記ベルト層7が配されているタイヤ軸方向の領域BWを少なくとも含む。
【0015】
特に限定はされないが、吸音具10の体積は、前記タイヤ内腔iの全体積の1〜20%であるのが望ましい。ここで、吸音具10の体積は、その外形から定められる見かけの体積とし、内部の気泡の体積も含むものとする。また「タイヤ内腔の全体積」は、タイヤ1を正規リムJに装着しかつ正規内圧を充填した無負荷の状態において下記式(1)で近似的に求められる値Vとして定める。
V=A×{(Di−Dr)/2+Dr}×π …(1)
【0016】
ここで、上記式(1)において、”A”は前記正規状態のタイヤ内腔iをCTスキャニング等して得られるタイヤ内腔の断面積、”Di”は正規状態でのタイヤ内腔の最大外径、”Dr”はリム径、”π”は円周率とする。また、前記タイヤ内腔断面積A及びタイヤ内腔の最大外径Drは、いずれも吸音具10がない状態で測定される。
【0017】
また、前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim"とする。
【0018】
また、前記「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とする。ただし、タイヤが乗用車用の場合、前記正規内圧は、現実の使用頻度などを考慮して一律に200kPaとする。
【0019】
前記空気入りタイヤ1は、図2に示されるように、生タイヤ成形用の中子12を用いて未加硫の生タイヤ30を形成する生タイヤ成形工程と、この生タイヤ30を中子12とともに加硫する加硫工程とを含んで製造される。
【0020】
前記中子12は、例えば、タイヤ回転CLと同軸かつ環状のインナーリング15と、該インナーリング15に嵌め込まれる環状のミドルリング16と、該ミドルリング16に嵌め込まれかつタイヤ内腔面9を成形しうる成形面18を具えた環状のアウターリング17とを含むいわゆる組立中子として構成される。該アウターリング17は、その中央に配されるコアピース17Aと、該コアピース17Aを覆うようにその両側に配された左右一対の分割ピース17Bとから構成され、これらのピース17A及び17Bは、いずれもタイヤ周方向に分割された扇状のセグメントを連ねることにより、実質的にタイヤ周方向に連続して構成される。
【0021】
そして、中子12は、その外側にトロイド状の生タイヤ30(又は空気入りタイヤ1)が成形された後、前記インナーリング15及びミドルリング16を順次タイヤ軸方向に抜き去るとともに、コアピース17A及び分割ピース17Bを順次、タイヤ内腔から半径方向内方に抜き取ることにより容易に分解できる。
【0022】
また、前記アウターリング17は、例えば、タイヤ内腔面iを成形しうる成形面18と、この成形面18のビード側の各端部に連なりかつ軸方向の外側にフランジ状に張り出した一対のビード底成形面19とを含む。また、成形面18は、生タイヤ30のトレッド部のタイヤ内腔面9aを成形するトレッド成形面18aを含み、該トレッド成形面18aには、タイヤ周方向にのびる少なくとも1本の凹溝20が設けられる。
【0023】
前記凹溝20は、加硫後の吸音具10の断面形状(即ち、目的とする吸音具10の断面形状)に合わせて形成される。従って、本実施形態の凹溝20は、図1に示した吸音具10と実質的に一致する断面略台形状で形成される。また、凹溝20のタイヤ周方向の長さも、吸音具10のタイヤ周方向の長さに合わせて設定される。
【0024】
生タイヤ成形工程では、図3に示されるように、中子12の成形面18に、リムJとの接触部分に配されるクリンチ底部ゴム4G1と、インナーライナーゴム11Gと、カーカスプライ6Aとが順次貼り付けられる。前記各タイヤ部材に含まれるゴム部分は、未加硫の状態にある。ここで、「未加硫の状態」とは、完全な加硫に至っていない全ての態様を含むもので、いわゆる半加硫の状態は「未加硫の状態」に含まれる。
【0025】
本実施形態において、タイヤ内腔面9を形成する前記インナーライナーゴム11Gの内側には、未加硫の発泡材料10Gが貼り付けられている。該発泡材料10Gは、例えば、タイヤ軸方向に横長偏平をなす断面略矩形状でタイヤ周方向にのびる帯状で形成される。発泡材料10Gのタイヤ周方向長さは、目的とする吸音具10に応じて設定される。従って、タイヤ周方向に連続した環状体でも良いし、途切れ部を有するものでも良い。また、発泡材料10Gは、中子12に設けられた前記凹溝20内に配されるとともに、前記凹溝20よりも小さい断面積を有する(なお、発泡材料10Gの体積も、凹溝20の容積に比べて小さく形成される。)。これにより、発泡材料10Gは、そのタイヤ軸方向両側及びタイヤ半径方向内方に、隙間Sを有して凹溝20内に配される。
【0026】
本実施形態の発泡材料10Gには、生タイヤ30の加硫中の熱によって発泡しかつ体積膨張を生じるものであれば特に限定されることなく種々の材料を用い得る。このような発泡材料としては、ゴム、樹脂又はエラストマーといったポリマーに、各種添加剤や補強材の他、発泡を生じさせる発泡剤を配合した組成物が好ましく用いられる。
【0027】
前記ゴムポリマーとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム又はエチレンプロピレンゴムなどの1種又は2種以上をブレンドして用いることができる。
【0028】
また、前記樹脂ないしエラストマーとしては、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂又はポリカーボネート樹脂等が望ましい。
【0029】
また発泡剤としては、生タイヤの加硫時の熱によって発泡しうるものであれば特に限定されないが、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)又は4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)(OBSH)などを用いることができる。また、発泡剤の配合量などは、目的とする発泡倍率に応じて適宜調節することができるが、好ましくは2PHR以上、より好ましくは3PHR以上が望ましく、また上限に関しては、好ましくは15PHR以下、より好ましくは10PHR以下が望ましい。なお、発泡剤の分解挙動を適正にコントロールするために、発泡助剤などを配合することもできる。
【0030】
また、カーカスプライ6Aについては、例えば、図4(A)、(B)に示されるように、タイヤ軸方向bに対してタイヤ周方向長さaが小さい短冊状のプライ片6Pを、その側縁を突き合わせてタイヤ周方向に並べて中子12上に貼り付けることにより形成することができる。このような短冊状のプライ片6Pは、ビード部側において、プライ片同士を重ねることにより、トレッド部とビード部とのタイヤ周方向長さの差を吸収し、皺などを発生させることなくトロイド状のカーカスプライ6Aを見映え良く形成できる。
【0031】
また、図5(A)、(B)に示されるように、タイヤ軸方向bの両側縁に、該側縁からタイヤ軸方向内側にのびる小長さのスリットeが隔設されたプライ6Sを中子12に少なくとも1周巻き付けることにより、トロイド状のカーカスプライ6Aを形成することもできる。この実施形態においても、ビード部側において、スリットeで分断されたプライ部分を重ねることにより、皺などを発生させることなくトロイド状のカーカスプライ6Aを見映え良く形成できる。
【0032】
しかる後、図6に示されるように、環状のビードコア5をカーカスプライ6Aに嵌め込むとともに、ビードエーペックスゴム8Gを貼り付けて該カーカスプライ6Aをビードコア5の周りで巻上げる。しかる後、クリンチサイドゴム4G2、サイドウォールゴム3G、ベルト層7及びトレッドゴム2Gがそれらの外側に貼り付けされる。これにより、中子12の外側に生タイヤ30が成形される。
【0033】
次に、加硫工程が行われる。図7には、加硫工程中の断面図が示される。加硫金型Mは、例えば、タイヤ半径方向及びタイヤ軸方向に分割しうる分割型からなり、その内部には生タイヤ30及び中子12をともに挿入しうる空洞部CVを有する。加硫工程では、前記生タイヤ30及び中子12が、ともに加硫金型Mに投入され、該加硫金型Mが加熱される。これにより、生タイヤ30の各ゴム部は可塑化し、加硫金型Mの成形面32及び中子12の成形面18に沿って加硫成形される。このため、中子12は、加硫中の熱に耐えうるように、例えばアルミニウム合金等の金属材料で形成されることが望ましい。なお、生タイヤ30をタイヤ内腔面9側から積極的に加熱するために、前記中子12を加熱しても良いのは言うまでもない。
【0034】
また、加硫工程では、発泡材料10Gに、トレッドゴム2G等を介して加硫金型Mからの熱が伝えられる。そして、発泡材が所定の発泡温度に達することにより、発泡が開始される。この際、発泡材料10Gは、凹溝20内の前記隙間Sを埋めるように体積膨張するとともに、凹溝20の表面によって膨張変形が抑制され、ひいては、凹溝20の断面形状にほぼ等しく成形される。このような作用を有効に発揮させるために、発泡材料10Gは、凹溝20の容積Vgを超える膨張変形が可能、つまり発泡時に凹溝20を埋める膨張変形をなし得るよう、発泡剤等の配合量が設定されるのが望ましい。なお、同時に、発泡材料10Gとインナーライナーゴム11Gとが一体に加硫接着される。
【0035】
上記加硫工程が終了すると、加硫金型Mから中子12とともに空気入りタイヤ1が取り出され、その後、中子12を分解することにより、加硫済みの空気入りタイヤ1が得られる。
【0036】
特に限定はされないが、図8に示されるように、加硫工程後、吸音具10のタイヤ内腔iを向く外表面10Sを薄く除去することにより、その内部に形成された気泡pを表面に露出させる表面研磨工程を含むことが望ましい。これにより、吸音具10の気泡pとタイヤ内腔iの空気との接触機会が増加し、吸音効果をさらに向上させる。
【0037】
また、図9に示されるように、外周面に針状の突起35を多数有するローラRを吸音具10の表面に押圧して転動させる工程も好ましく行いうる。このような工程を行うことにより、突起35が、吸音具10の内部に形成された独立気泡を互いに連通させる貫通孔を形成し、それらを連続気泡へと変え、ひいては気泡pとタイヤ内腔iの空気との接触機会を増加させ得る点で好ましい。
【0038】
図10及び図11には、本発明の他の実施形態が示される。
この実施形態では、中子12の凹溝20は、タイヤ半径方向内外に移動可能な溝底部23を具えている。即ち、凹溝20は、前記トレッド成形面18aを凹ませた環状にのびる凹部21と、該凹部21に嵌め込まれた膨張具22とを含み、この膨張具22を膨張又は収縮させることにより、凹溝20の溝底部23を半径方向内外に移動させ得る。
【0039】
前記凹部21は、一対の側壁部24、24と、該側壁部24間を継ぐ底壁部25とを含む。また、底壁部25には、一端が該底壁部25に開口しかつ他端がコアピース17Aに達する例えば段付状の孔部27が設けられる。該孔部27には、コアピース17A、ミドルリング16及びインナーリング15に夫々設けられた透孔31、32及び33を介して空気圧調節具Pが接続される。なお必要により、適宜エアシール29が施される。
【0040】
前記膨張具22は、例えば偏平な断面形状を有しかつ伸縮自在なゴムからなるチューブ本体22aと、このチューブ本体22aから半径方向内方に突出しかつ該チューブ本体22aに空気を送給しうる空気送給口22bとを含む。前記チューブ本体22aの内周面は凹部21の底壁部25に密着するとともに、その外面は凹溝20の溝底部23を形成する。また、膨張具22の空気送給口22bは、前記孔部27に挿入され、コアピース17Aの透孔31に連通した状態で保持されている。
【0041】
以上のように構成された中子12は、前記空気圧調節具Pから高圧空気を送給することにより、透孔33、32、31及び空気送給口22bを経て膨張具22のチューブ本体22aを膨張させ得る。これにより、図11に示されように、チューブ本体22aの外表面がなす溝底部23をタイヤ半径方向外側に位置させることにより、溝深さdが小さい凹溝20の浅溝状態が得られる。他方、空気圧調節具Pにてチューブ本体22a内の空気を吸引することにより、図12に示されるように、チューブ本体22aを収縮させ、溝底部23をタイヤ半径方向内側に位置させることにより、溝深さdが大きい凹溝20の深溝状態が得られる。
【0042】
そして、本実施形態では、図13に示されるように、中子12の凹溝20を前記浅溝状態として生タイヤ成形工程が行われる一方、図14に示されるように、中子12を前記深溝状態として加硫工程が行われる。特に、生タイヤ成形工程において、凹溝20の溝深さdを発泡材料10Gの厚さと実質的に等しいかこれよりも僅かに小さく設定することにより、該発泡材料10Gの半径方向内方を膨張具22で確実に支えることができる。従って、発泡材料10Gが、インナーライナーゴム11Gから剥離する等の不具合を確実に防止できる。また、この実施形態では、発泡材料10Gを膨張しているチューブ本体22aの外表面がなす溝底部23に巻き付けてた後、インナーライナーゴム11Gを貼り付けることにより、両部材を貼り付けできる。従って、予め発泡材料10Gをインナーライナーゴム11Gに貼り付けておく必要がないので、製造時の汎用性が増す点で好ましい。
【0043】
また、加硫工程中では、図14に示されるように、チューブ本体22aを収縮させて凹溝20を深溝状態とすることにより、該凹溝20は、発泡材料10Gの周りに該発泡材料10Gが膨張するための隙間Sを提供できる。従って、発泡材料10Gを凹溝20の断面形状に応じて十分に発泡させることができる。
【0044】
なお、上記実施形態では、膨張及び収縮可能な膨張具22を用いて凹溝20の溝底部をタイヤ半径方向内外に移動させる例を示したが、例えば図15(A)、(B)に示されるように、アクチュエータ(図示省略)によってタイヤ半径方向に移動しうる複数のセグメント40等を用いて行うこともできる。
【実施例】
【0045】
図2に示した中子を用いて生タイヤを成形し、これを中子とともに加硫金型で加硫してサイズ195/65R15の空気入りタイヤを10本製造した(実施例1)。また、加硫後、吸音具の表面を約1mm削ることにより、表面に気泡を露出させた同サイズの空気入りタイヤ(実施例2)も10本製造した。加硫前の発泡材料及び中子の凹溝の仕様は次の通りである。
【0046】
発泡材料の幅:50mm
発泡材料の厚さ:10mm
発泡材料の体積:945000mm3
発泡材料の配合:表1の通り
(発泡材料は円周方向に連続して巻き付けられた。)
凹溝の最大溝幅:60mm
凹溝の最大深さ:20mm
凹溝の容積:2170000mm3
【0047】
【表1】

【0048】
各空気入りタイヤに形成された吸音具を肉眼で観察したところ、その断面形状は、中子の凹溝と実質的に一致しており見映えの良い吸音具が得られていることが確認できた。
【0049】
次に、実施例の空気入りタイヤをリムに装着し、排気量2000cm3 の国産FF乗用車の全輪に装着し、ロードノイズ計測路(アスファルト粗面路)を時速60km/hで走行させ、ドライバーの官能評価を行った。比較例の評価を100とする指数で評価した。数値が大きいほど良好である。
テストの結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
テストの結果、実施例のタイヤはロードノイズを低減していることが確認できた。また、実施例の中でも、吸音具の表面を削って気泡を露出させた実施例2は、実施例1に比べて優れたロードノイズ低減効果を発揮していることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明によって製造される空気入りタイヤの断面図である。
【図2】中子の断面図である。
【図3】その部分拡大図である。
【図4】(A)はカーカスプライを製造するためのプライ片の展開斜視図、(B)はその貼り付け方法を示す斜視図である。
【図5】(A)はカーカスプライを製造するためのカーカスプライの展開斜視図、(B)はその貼り付け方法を示す斜視図である。
【図6】生タイヤ成形工程を説明する断面図である。
【図7】加硫工程を説明する断面図である。
【図8】吸音具の拡大断面図である。
【図9】吸音具の独立気泡を連続気泡化する工程を説明する断面図である。
【図10】他の実施形態を示す中子の断面図である。
【図11】その浅溝状態の部分拡大図である。
【図12】その深溝状態の部分拡大図である。
【図13】他の実施形態の生タイヤ成形工程を説明する断面図である。
【図14】他の実施形態の加硫工程を説明する断面図である。
【図15】(A)、(B)は中子の他の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
9 タイヤ内腔面
10 吸音具
10G 発泡材料
11 インナーライナーゴム
12 中子
20 凹溝
30 生タイヤ
M 加硫金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部のタイヤ内腔面側に、発泡体からなりかつタイヤ周方向にのびる吸音具が設けられた空気入りタイヤを製造する空気入りタイヤの製造方法であって、
環状をなす生タイヤ成形用の中子を用いて未加硫の生タイヤを形成する生タイヤ成形工程と、この生タイヤを加硫する加硫工程とを含み、
前記中子は、トレッド部のタイヤ内腔面を成形するトレッド成形面に、タイヤ周方向にのびる少なくとも1本の凹溝が設けられるとともに、
前記生タイヤは、タイヤ周方向にのびる未発泡状態の発泡材料が、前記凹溝内に隙間を有して配されてなり、しかも
前記加硫工程では、前記生タイヤを前記中子とともに加硫することにより、前記発泡材料を前記凹溝の断面形状に発泡させて前記吸音具を成形することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記中子の前記凹溝は、タイヤ半径方向内外に移動可能な溝底部を具え、
前記生タイヤ成形工程が、前記溝底部をタイヤ半径方向外側に位置させた浅溝状態で行われるとともに、前記加硫工程が、前記溝底部をタイヤ半径方向内側に位置させた深溝状態で行われる請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記溝底部は、内部に流体が出入りすることによって膨張及び収縮しうる膨張具の外表面によって形成される請求項2記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−93953(P2008−93953A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277990(P2006−277990)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】