説明

窒化物半導体レーザ装置及びその製造方法

【課題】内部電流狭窄層を有する埋込型の窒化物半導体レーザ装置において、電気抵抗の上昇に伴う動作電圧の増大を抑制して、安定な動作特性が得られるようにする。
【解決手段】n型GaN基板100上に、n型AlGaNクラッド層102、n型GaN光ガイド層103、活性層104、p型GaN光ガイド層105、n型不純物を含むAlGaN第1電流狭窄層106、n型不純物を含むAlGaN第2電流狭窄層107、p型GaN第1再成長層108、及びp型AlGaN第2再成長層109が順次形成されている。第1電流狭窄層106はストライプ状の第1開口部111を有する。第2電流狭窄層107は、第1開口部111と接続し且つ活性層104から離れるに従って拡がっていく第2開口部112を有する。第1開口部111の側壁の基板主面に対する傾斜角は58°よりも大きく、第2開口部112の側壁の基板主面に対する傾斜角は58°以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlGaInN系混晶の窒化物半導体を材料とした内部電流狭窄層を持つ埋込型の窒化物半導体レーザ装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、DVD(Digital Versatile Disc)に代わる大容量の光記憶媒体としてBD(Blu−ray Disc)やHD DVD(High Definition DVD)が注目を集めている。また、その光源として、405nmの発振波長を持つAlGaInN系混晶の窒化物半導体を用いた青紫色半導体レーザ装置の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
内部電流狭窄層を有する埋込型の半導体レーザ装置は、横モード特性に影響を与えるInGaN活性層から電流狭窄層までの距離を精度良く制御できる点や、広いコンタクト電極面積を確保して素子の直列抵抗を低減できる点などから、リッジ構造型の半導体レーザ装置と比べて、性能及び信頼性の面で有利な点が多い。
【0004】
しかしながら、AlGaInN系混晶を用いた窒化物半導体レーザ装置では、低ダメージで安定してエッチングを行うことが困難である。一般的な加工方法としてドライエッチング技術が用いられているが、この場合、電流狭窄層に開口部を形成したときに、電流経路となる部分にガス種等に起因した欠陥が発生し、その結果、デバイス特性が劣化する。それに対して、電流狭窄層に低ダメージで開口部を形成することが可能なウェットエッチング技術が色々提案されている。
【0005】
図6は、特許文献1に開示されている、代表的な埋込型の窒化物半導体レーザ装置の断面図である。図6に示すように、サファイア等の異種基板10の上に、GaNからなるn側コンタクト層11、AlGaNからなるn側クラッド層12、GaNからなるn側光ガイド層13、Inを含む井戸層を有する多重量子井戸活性層14、GaNからなる第1p側光ガイド層15、蒸発阻止層16、再蒸発層17、電流狭窄層18、GaNからなる第2p側光ガイド層20、AlGaNからなるp側クラッド層21、及びGaNからなるp側コンタクト層22が形成されている。電流狭窄層18には開口部19が形成されており、当該開口部19を含む電流狭窄層18を覆うように第2p側光ガイド層20が形成されている。p側コンタクト層22、p側クラッド層21、第2p側光ガイド層20、蒸発阻止層16、第1p側光ガイド層15、活性層14、n側光ガイド層13、n側クラッド層12、及びn側コンタクト層11の上部は切り欠かれており、それにより露出したn側コンタクト層11の表面にはn電極23が形成されている。また、p側コンタクト層22の表面にはp電極24が形成されている。
【0006】
ここで、活性層14上の第1p側光ガイド層15と電流狭窄層18との間に、エッチング阻止層となる再蒸発層17と、過剰な再蒸発を防止する蒸発阻止層16とを形成することにより、第1p側光ガイド層15をエッチングすることなく電流狭窄層18に開口部19をその側壁が垂直になるように形成することができる。また、電流狭窄層18の開口部19に露出した再蒸発層17は、ウェットエッチングを用いて電流狭窄層18に開口部19を形成した後に、熱処理によって蒸発させられるため、再蒸発層17の材料としては、このように選択的に除去可能な材料が選ばれる。この再蒸発層17を蒸発させる工程は、MOCVD(metal organic chemical vapor deposition )装置内で行うことができる。このため、再蒸発層17を蒸発させたときに露出する下地の第1p側光ガイド層15を大気に曝すことなく、その表面を清浄な状態に維持した状態で、再蒸発層17の蒸発工程に引き続いて第2p側光ガイド層20の再成長形成を行うことができるので、結晶性の良い第2p側光ガイド層20を開口部19が埋まるように形成することができる。また、再蒸発層17下に蒸発阻止層16を設けることによって、過剰な再蒸発を防止し、それにより、光閉じ込め効果を低下させることなく安定したレーザ特性を得ることが可能となる。
【特許文献1】特開2005−19835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の従来例に係る埋込型の窒化物半導体レーザ装置においては、再蒸発層17を含む複数層によって電流狭窄層を構成することにより、開口部における過度のウェットエッチングや気相中のエッチバックに起因する発光部近傍へのダメージを低減させている。
【0008】
しかしながら、前述の従来例においては、電気抵抗が上昇して動作電圧が増大してしまい、安定な動作特性が得られないという問題がある。
【0009】
前記に鑑み、本発明は、内部電流狭窄層を有する埋込型の窒化物半導体レーザ装置において、電気抵抗の上昇に伴う動作電圧の増大を抑制して、安定な動作特性が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本願発明者らは、従来例に係る窒化物半導体レーザ装置、つまり、埋込型構造を持つ発振波長405nmの窒化物半導体レーザ装置において、電気抵抗が上昇して動作電圧が増大してしまう原因を検討した結果、以下のような知見を得るに至った。
【0011】
まず、n型不純物を添加した電流狭窄層を持つ構造において、ウェットエッチングによって電流狭窄層に開口部を形成した後に再成長層を形成すると、図6に示す従来構造のように電流狭窄層の開口部の側壁が垂直である場合には、当該側壁上に形成された再成長層部分に電気的に高抵抗な領域が形成されることが分かった。その結果、電流経路となる電流注入幅が開口部幅に比べて狭くなるため、電気抵抗が上昇して動作電圧が増大していたのである。
【0012】
図7(a)及び(b)は、電流狭窄層の開口部周辺の断面構成をSEM(scanning electron microscope)によって観察した結果を示しており、図7(a)は組成比較が可能な反射電子像を示しており、図7(b)は導電性比較が可能な2次電子像を示している。尚、図7(a)及び(b)に示す構成においては、下地半導体層27上に開口部を持つ電流狭窄層28が形成されていると共に当該開口部及び電流狭窄層28を覆うように再成長層29が形成されている。図7(a)及び(b)に示すように、反射電子像の開口幅31と比べて、2次電子像の電流注入幅32が狭くなっている。これは、電流狭窄層28の開口部側壁に電気的に高抵抗な領域33が形成されているためである。
【0013】
ところで、開口部を覆うよう再成長層を形成する工程においては、マストランスポートによる電流狭窄層形状の変化を抑制するために、電流狭窄層を形成する工程よりも低い温度(800〜900℃)で結晶成長を行う。通常、窒化物半導体を用いた半導体レーザ装置では、積層方向(基板主面に対して垂直な方向)をc軸とし、ストライプ形成方向(ストライプ状の開口部が延びる方向)をm軸としているので、電流狭窄層に側壁が垂直な開口部を形成すると、当該開口部側壁はa軸方向(側壁の法線方向)となる。このような垂直な側壁を有する開口部を覆うように再成長層を形成すると、その成長初期過程において、開口部形状が維持されることなく、積層方向よりも側壁の法線方向において成長が顕著に進み、その結果、当該領域では結晶欠陥が多く生じて良好な結晶性は得られなかった。同様に、基板主面に対して58°の角度をなす(11−22)面よりも大きい傾斜角を持つ開口部側壁上の再成長面は非極性面となりやすいため、結晶欠陥が多くなって良好な結晶を得にくいこと、一方、基板主面に対して(11−22)面と同等以下の傾斜角を持つ開口部側壁上においては、結晶欠陥の少ない良好な結晶が得られることが分かった。すなわち、マストランスポート抑制のために低温で再成長層形成を行う場合、開口部側壁の傾斜角が大きいと、当該側壁上に成長する再成長層の結晶性が低くなるので、結晶中の欠陥が増加して導電性が低下してしまうのである。
【0014】
また、従来例に係る窒化物半導体レーザ装置が高抵抗化する原因の1つとして、電流狭窄層に添加されているn型不純物であるSiが再成長層へと拡散してしまうことが考えられる。図8は、p−GaN光ガイド層41、電流狭窄層42、p−GaN再成長層43及びp−AlGaN再成長層44が順次積層された構造におけるn型不純物であるSiの積層方向の濃度プロファイルをSIMS(secondary ion mass spectrometer )解析により調べた結果を示している。図8に示すように、電流狭窄層42とp−GaN再成長層43との界面、及び、p−GaN再成長層43とAlを含むp−AlGaN再成長層44との界面において、SiのパイルアップがSi濃度プロファイル中に確認できる。すなわち、Siを添加せずに成長しているにも関わらず再成長層中にSi濃度のパイルアップを確認できることから、これは、電流狭窄層からのSiの拡散により混入したものであることが分かる。さらに、Al含むp−AlGaN再成長層44でSiの拡散が止まっていることから、Al組成の低い層では不純物がより拡散しやすいことが分かる。
【0015】
さらに、本願発明者らは、電流狭窄層の開口部の側壁が垂直である場合における当該開口部近傍の断面をTEM(transmission electron microscope)解析により詳細に観察した。図9は、そのようにして得られた開口部側壁付近のTEM像である。尚、図9に示す構成においては、下地半導体層56上に開口部を持つ電流狭窄層57が形成されていると共に当該開口部及び電流狭窄層57を覆うように再成長層58及び59が順次形成されている。図9に示すように、再成長層58は、傾斜を有する成長領域58Aを有している。この成長領域58Aは、基板主面に対して(11−22)面の58°よりも小さい37°程度で傾斜した面を有しているが、この傾斜面は、結晶成長の開始箇所である電流狭窄層57の開口部の形状によって決まるため、前述した、良好な結晶が得られる成長面が形成されているわけではない。この成長領域58Aは、図7(b)に示す高抵抗領域23とほぼ同様の形状を有していることから、この高抵抗領域23は、電流狭窄層開口部の垂直な側壁から成長した、結晶性が低く且つ意図せず拡散したSiを含有する初期成長層であると考えられる。
【0016】
本願発明者らは、以上に述べた知見に基づいて、内部電流狭窄層を有する埋込型の窒化物半導体レーザ装置において、再成長層の成長初期に電流狭窄層開口部近傍で高抵抗領域が形成されることを抑制することにより、動作電圧を低くして動作特性を安定させることを目的として、以下のような発明を想到した。
【0017】
すなわち、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置は、n型基板上に形成されており、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるn型半導体層と、前記n型半導体層上に形成された活性層と、前記活性層上に形成されており、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるp型第1半導体層と、前記p型第1半導体層上に形成されており、n型不純物を含むAlx Ga1-x N(0≦x≦1)混晶からなる第1電流狭窄層と、前記第1電流狭窄層上に形成されており、n型不純物を含むAly Ga1-y N(0≦y≦1)混晶からなる第2電流狭窄層と、前記第2電流狭窄層上に形成されており、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるp型第2半導体層とを備え、前記第1電流狭窄層はストライプ状の第1開口部を有する共に前記第1開口部の底部には前記第1電流狭窄層が残存しており、前記第2電流狭窄層は、前記第1開口部と接続し且つ前記活性層から離れるに従って拡がっていく第2開口部を有し、前記p型第2半導体層は前記第1開口部及び前記第2開口部を埋めるように形成されており、それによって前記第1開口部及び前記第2開口部を経由して前記活性層に電流が注入され、前記第1開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角は58°よりも大きく、前記第2開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角は58°以下である。
【0018】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置において、前記第1開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角は65°以上であり、前記第2開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角は55°以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置において、前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比をx、前記第1電流狭窄層の厚さをdx、前記第2電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比をy、前記第2電流狭窄層の厚さをdyとすると、前記比xは前記比yよりも大きく、前記厚さdxは前記厚さdyよりも小さく、前記厚さdxは5nm以上で且つ50nm以下であることが好ましい。
【0020】
尚、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置においては、電流狭窄層の開口部と再成長層であるp型第2半導体層との実屈折率差によって光導波路構造を形成しているため、開口部の形状は導波路の光閉じ込め効果に大きな影響を与える。特に、発光部に近い第1電流狭窄層の開口部の側壁が基板主面に対して垂直に形成されている場合、開口部における屈折率分布がより均一となるため、レーザ光の遠視野像の水平拡がり角が安定するという効果が得られる。しかし、開口部の側壁が垂直に形成されていると、前述のように、再成長層に高抵抗領域が形成されて動作電圧が増大するので、高抵抗領域を縮小するためには開口部の側壁の傾斜角を90°よりも低角度にする必要がある。
【0021】
図4は、この高抵抗領域とレーザ発振の閾値電流との関係を示している。尚、図4において、横軸は、開口部側壁に形成された高抵抗領域の幅(開口部側壁下部からの距離)をSEM観察により測定した結果を表し、縦軸は、レーザ発振の閾値電流を表している。図4に示すように、高抵抗領域の幅が0.1μm以下の場合、閾値電流は飽和していることが分かる。また、前述の図7(b)に示す高抵抗領域33のSEM像、及び図9に示す成長領域58AのTEM像から、第1電流狭窄層の厚さと開口部に形成された高抵抗領域の幅とはほぼ同程度であることが分かる。
【0022】
従って、高抵抗領域形成を抑制して水平拡がり角を安定化させるためには、第1電流狭窄層の開口部側壁の傾斜角は90°に近い角度であることが好ましく、また、第1電流狭窄層の厚さを100nmの半分程度以下にすれば、開口部に形成される高抵抗領域は動作電圧の上昇に実質的に寄与しなくなる。
【0023】
以上のように、第1電流狭窄層の厚さを50nm程度以下にすれば、開口部の側壁の傾斜角が58°より大きくても動作電圧が上昇することはない。また、水平拡がり角をさらに安定化させるためには、開口部の側壁の傾斜角を65°以上にすることが好ましい。
【0024】
一方、第2電流狭窄層の開口部の側壁の傾斜角については、基板主面に対して58°以下にすることにより、第2電流狭窄層の開口部の側壁が、結晶成長に対して安定な(11−22)面よりも緩やかな傾斜面となるため、当該側壁上に、欠陥が少なく結晶性の良い再成長層を形成することができ、低い動作電圧特性を得ることが可能になる。このため、第2電流狭窄層の厚さを第1電流狭窄層の厚さよりも大きくすることができるので、導波路の光分布を第2電流狭窄層の厚さによって調整することが可能になる。従って、第2電流狭窄層の開口部の側壁の傾斜角は、基板主面に対して58°以下であることが好ましい。また、この傾斜角が基板主面に対して55°以下であると、安定な結晶面である(11−22)面が形成されるように結晶成長が進むため、水平方向であるa軸方向の成長速度が遅くなる。その結果、第2電流狭窄層上から第1電流狭窄層の開口部上方へと低温成長する再成長層(例えばp−GaN層)を縮小させることができる。このため、結晶欠陥を含みやすい低温成長層領域が小さくなるため、開口部内の導電性をさらに向上させることができる。
【0025】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置において、前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は11%以上で且つ15%以下であることが好ましい。
【0026】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置において、前記第2電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は10%よりも小さいことが好ましい。
【0027】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置において、前記第2電流狭窄層は複数の層からなり、前記第2電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は、前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比よりも小さいことが好ましい。
【0028】
第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比(以下、Al組成という)が15%を超えると、蓄積された格子歪に起因してエピクラックが電流狭窄層内に発生して、ウェットエッチング異常やウェハ割れの原因となり、信頼性が劣化する。このため、第1電流狭窄層のAl組成を15%以下に設定することが好ましい。また、後述するウェットエッチングにおける電流狭窄層のAl組成と開口部側壁の傾斜角との関係から、第1電流狭窄層の開口部側壁の傾斜角を65°以上にするためには、第1電流狭窄層のAl組成を11%以上に設定することが好ましい。また、第2電流狭窄層の開口部側壁の傾斜角を55°以下にするためには、第2電流狭窄層のAl組成を10%よりも小さくすることが好ましい。さらに、第2電流狭窄層を複数層で構成し、そのAl組成を第1電流狭窄層よりも小さく設定することによって、さらに精度の高い実屈折率制御が可能となる。
【0029】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置において、前記p型第2半導体層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は、前記第1電流狭窄層及び前記第2電流狭窄層のそれぞれにおけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比よりも小さいことが好ましい。
【0030】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置において、前記p型第2半導体層は、前記第1開口部内に残存する前記第1電流狭窄層と接する部分を有しており、当該部分におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は、前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比よりも小さいことが好ましい。
【0031】
すなわち、p型第2半導体層の再成長工程においては、第1電流狭窄層に形成した開口部内の残膜(第1電流狭窄層の一部)をP型化するために、当該残膜に対してp型不純物を導入する。この結果、開口部付近の過剰なp型不純物に起因して光内部損失が増加するため、発光効率が低下して動作電流が増大してしまう。そこで、開口部を埋め込むp型第2半導体層のAl組成を、第1電流狭窄層及び第2電流狭窄層よりも小さくすることによって、導波路内の光分布を第1電流狭窄層側から活性層側へと遠ざけ、それにより、光内部損失を減少させて動作電流を低減し、信頼性の向上を図る。
【0032】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置の製造方法は、n型基板上に、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるn型半導体層、活性層、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるp型第1半導体層、n型不純物を含むAlx Ga1-x N(0≦x≦1)混晶からなる第1電流狭窄層、及び、n型不純物を含むAly Ga1-y N(0≦y≦1)混晶からなる第2電流狭窄層を順次形成する工程(a)と、前記第1電流狭窄層及び前記第2電流狭窄層に対してウェットエッチングを行うことによって、前記第1電流狭窄層にストライプ状の第1開口部を、当該第1開口部の底部に前記第1電流狭窄層が残存するように形成すると共に、前記第2電流狭窄層に、前記第1開口部と接続し且つ前記活性層から離れるに従って拡がっていく第2開口部を形成する工程(b)と、前記第2電流狭窄層上に、前記第1開口部及び前記第2開口部を埋めるように、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるp型第2半導体層を形成する工程(c)とを備え、前記工程(b)において、前記第1開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角を58°よりも大きくすると共に前記第2開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角を58°以下にする。
【0033】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、前述のように、前記工程(b)において、前記第1開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角を65°以上にすると共に前記第2開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角を55°以下にすることが好ましい。
【0034】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、前記工程(c)において、前記p型第2半導体層の形成温度を、前記工程(a)における前記第1電流狭窄層及び前記第2電流狭窄層のそれぞれの形成温度よりも低くすることが好ましい。このようにすると、電流狭窄層の形状変化を抑制することができる。
【0035】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、前述のように、前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比をx、前記第1電流狭窄層の厚さをdx、前記第2電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比をy、前記第2電流狭窄層の厚さをdyとすると、前記比xは前記比yよりも大きく、前記厚さdxは前記厚さdyよりも小さく、前記厚さdxは5nm以上で且つ50nm以下であることが好ましい。
【0036】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、前述のように、前記p型第2半導体層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は、前記第1電流狭窄層及び前記第2電流狭窄層のそれぞれにおけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比よりも小さいことが好ましい。
【0037】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、前述のように、前記p型第2半導体層は、前記第1開口部内に残存する前記第1電流狭窄層と接する部分を有しており、当該部分におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は、前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比よりも小さいことが好ましい。
【0038】
また、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、前記工程(b)において、前記第1電流狭窄層及び前記第2電流狭窄層に対して、当該各電流狭窄層を構成する窒化物半導体に吸収される波長帯の光を照射しながら、アルカリ溶液を用いて前記ウェットエッチングを行うことが好ましい。
【0039】
すなわち、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、第1及び第2電流狭窄層を形成した積層体を電解液に浸した状態で、外部から被エッチング領域である電流狭窄層へ、窒化物半導体が吸収する光を照射しながらウェットエッチングを行うことが好ましい。これは、光照射により窒化物半導体層表面に発生した正孔によって溶解反応が生じる光化学(PEC:Photoelectrochemical)エッチングと呼ばれるウェットエッチング方法である。この方法では、p型光ガイド層であるp型第1半導体層とn型電流狭窄層である第1電流狭窄層との界面に形成される空乏層を利用して、第1電流狭窄層の開口部の底部に第1電流狭窄層の一部分を厚さ数nm程度の残膜として残すことができる。その結果、電流狭窄層よりも下側の層がp型第2半導体層の再成長過程において蒸発して発光部にダメージが生じることを抑制することが可能になる。
【0040】
図3は、電流狭窄層のAl組成と、前述のPECエッチングによって電流狭窄層に形成された開口部の側壁の傾斜角との関係を示している。図3において、横軸は、電流狭窄層のAl組成を示しており、縦軸は、PECエッチングにより形成された開口部側壁の傾斜面が基板主面に対してなす傾斜角を示している。図3に示すように、電流狭窄層のAl組成が小さくなるに従って、電流狭窄層の開口部側壁の傾斜角が小さくなることが分かる。これは、低いAl組成のAlGaN層ではPECエッチングが等方的に進行しやすいのに対して、高いAl組成のAlGaN層では、光照射されたストライプ状部分のみに対してPECエッチングが進行するためである。すなわち、電流狭窄層のAl組成を高くすることによって、垂直性の高い(側壁の傾斜角が90°に近い)開口部を形成することが可能になる。以上のように、電流狭窄層のAl組成を調整してPECエッチングを行うことにより、電流狭窄層の開口部側壁の傾斜角を制御することが可能になる。
【0041】
従って、本発明に係る窒化物半導体レーザ装置の製造方法においては、第1電流狭窄層のAl組成は11%以上で且つ15%以下であることが好ましく、第2電流狭窄層のAl組成は10%よりも小さいことが好ましい。また、第2電流狭窄層が複数の層からなり、且つ第2電流狭窄層のAl組成が第1の電流狭窄層のAl組成よりも小さいことが好ましい。
【0042】
このように電流狭窄層のAl組成を設定すると、PECエッチングを用いて、第1電流狭窄層には、基板主面に対する側壁の傾斜角が65°以上である開口部を、第2電流狭窄層には、基板主面に対する側壁の傾斜角が55°以下であり且つ活性層から離れるに従って拡がっていく開口部を、それぞれ容易に形成することが可能になる。
【0043】
また、第1電流狭窄層のAl組成を前述の範囲に設定すると、指向性の高いエッチングによって、基板主面に対する側壁の傾斜角が65°以上である開口部を容易に形成することが可能になるため、ストライプ幅(開口部の幅)のプロセス制御精度が向上する。これにより、水平拡がり角及びしきい値電流のそれぞれのバラツキを低減して歩留まりを向上させることが可能になる。さらに、第1電流狭窄層のAl組成を高く設定することによって、第1電流狭窄層の開口部の側壁下部にエッチング残りが発生しなくなるため、水平拡がり角のバラツキをさらに低減することが可能になる。
【0044】
また、第2電流狭窄層のAl組成を前述の範囲に設定すると、等方的なエッチングによって、第2電流狭窄層に、基板主面に対する側壁の傾斜角が55°以下であり且つ活性層から離れるに従って拡がっていく開口部を形成することが可能になるため、結晶成長に対して安定な(11−22)面を開口部に形成することができる。これにより、開口部内に形成される再成長層に欠陥の多い高抵抗な領域が形成されることを防止できる。また、第2電流狭窄層のAl組成を低く設定することによって、第2電流狭窄層と再成長層との格子定数の差による歪に起因して発生する欠陥を低減できるという効果も得られる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、電流狭窄層をAl組成の異なる2層構造とし、各電流狭窄層の開口部形状を異なるようにすることによって、開口部側壁上が高抵抗化することを抑制できるため、動作電圧の増大を抑制でき、それにより、安定した動作特性を有する窒化物半導体レーザ装置を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
(実施形態)
以下、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置及びその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0047】
図1は本実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置の基本構造を示す断面図である。また、図2は、図1に示す窒化物半導体レーザ装置を構成する各層の厚さ、組成、不純物濃度の一例を表形式で示したものである。
【0048】
図1に示すように、本実施形態の窒化物半導体レーザ装置においては、n型GaN基板100の表面上に、n型GaNコンタクト層101、n型Al0.05Ga0.95Nクラッド層102、n型GaN光ガイド層103、活性層104、p型GaN光ガイド層105、n型不純物として例えばSiを含むAl0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106、n型不純物として例えばSiを含むAl0.08Ga0.92N第2電流狭窄層107、p型GaN第1再成長層108、p型Al0.05Ga0.95N第2再成長層109、及びp型GaNコンタクト層110が順次形成されている。n型GaN基板100の裏面上にはn側電極113が形成されていると共に、p型GaNコンタクト層110の表面上にはp側電極114が形成されている。第1電流狭窄層106はストライプ状の第1開口部111を有する共に、第2電流狭窄層107は、第1開口部111と接続し且つ活性層104から離れるに従って拡がっていく第2開口部112を有する。第1開口部111の側壁の基板主面に対する傾斜角は58°よりも大きく、第2開口部112の側壁の基板主面に対する傾斜角は58°以下である。第1再成長層108及び第2再成長層109は第1開口部111及び第2開口部112を埋めるように形成されている。
【0049】
尚、第1開口部111の底部には厚さ5nm程度の第1電流狭窄層106が残存している。その理由は以下の通りである。PECエッチングでは、窒化物半導体層とアルカリ溶液との界面近傍において、光照射により発生した正孔によって溶解反応が起こるが、p型GaN光ガイド層105とAl0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106との界面には空乏層が形成されるため、空乏層領域までPECエッチングが進むと、正孔がアルカリ溶液との界面から逃げてしまう。このため、p型GaN光ガイド層105とAl0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106との界面まではエッチングが進まない。その結果、第1電流狭窄層106の第1開口部111には厚さ5nm程度の第1電流狭窄層106が残る。前記空乏層幅については、p型GaN光ガイド層105のMg濃度及び厚さを調整することによって制御可能である。
【0050】
また、5.0×1018cm-3のSiをそれぞれ添加したAl0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106及びAl0.08Ga0.92N第2電流狭窄層107は、1.0×1019cm-3と高濃度のMgをそれぞれ添加したp−GaN光ガイド層105とp型GaN第1再成長層108及びp型Al0.05Ga0.95N第2再成長層109とによって挟まれている。従って、第1開口部111に残存する高々5nm程度の厚さを持つAl0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106においては、再成長層108及び109の結晶成長中に容易にSiとMgとの相互拡散が生じるため、第1電流狭窄層106の導電型はp型に反転する。
【0051】
従って、開口部111及び112を通して活性層104に容易に電流を注入できる。また、開口部111及び開口部112の形成領域を除いて、電流狭窄層106及び107の厚さは200nmであるため、前述の相互拡散が生じてAl0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106及びAl0.08Ga0.92N第2電流狭窄層107の一部分の導電型がp型に反転したとしても、電流狭窄層106及び107の全体として十分にn型電流狭窄領域として機能する。
【0052】
以上に説明した本実施形態の窒化物半導体レーザ装置は、活性層104よりもバンドギャップが大きいp型Al0.05Ga0.95N第2再成長層109からなるp型クラッド層と、当該p型クラッド層よりも屈折率が小さく且つ主にn型の導電性を示すようにSiドープしたAl0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106及びAl0.08Ga0.92N第2電流狭窄層107からなるn型電流狭窄領域とを備えている。従って、発振光の吸収がほとんど無い透明な電流狭窄領域を構成することができ、それにより、実屈折率導波構造を持つ半導体レーザ装置として動作する。
【0053】
ここで、Al0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106は、Siが添加されたAlGaN混晶により構成され、Si濃度は5.0×1018cm-3、Al組成は15%、厚さは50nmであることが好ましい。その理由は以下の通りである。
【0054】
図3は、電流狭窄層のAl組成と、前述のPECエッチングによって電流狭窄層に形成された開口部の側壁の傾斜角との関係を示している。図3において、横軸は、電流狭窄層のAl組成を示しており、縦軸は、PECエッチングにより形成された開口部側壁の傾斜面が基板主面に対してなす傾斜角を示している。図3に示すように、電流狭窄層のAl組成が15%であると、開口部側壁の傾斜角を85°程度にすることができる。このため、垂直性の高い開口部が得られると共に、開口部側壁下部に残留するエッチング残渣を解消できるという効果も得られる。その結果、エッチング残渣に起因する開口部形状の異常を解消できるので、光閉じ込め効果の変動が抑えられ、それにより、レーザ光の遠視野像の水平拡がり角が安定化する。
【0055】
図4は、再成長層に形成される高抵抗領域とレーザ発振の閾値電流との関係を示している。尚、図4において、横軸は、開口部側壁に形成された高抵抗領域の幅(開口部側壁下部からの距離)をSEM観察により測定した結果を表し、縦軸は、レーザ発振の閾値電流を表している。図4に示すように、閾値電流を抑制して動作電圧の上昇を防止するためには、高抵抗領域の形成幅を100nm以下に抑制する必要がある。また、第1電流狭窄層106のAl組成は比較的高いと共に、後述するように第1電流狭窄層106は高温で形成されているため、第1電流狭窄層106の結晶性は比較的良い。このため、マストランスポート抑制のための再成長層の低温形成では第1電流狭窄層106はほとんど昇華されない。従って、再成長過程の昇温時における発光部の昇華を防ぐためのエッチングストップ層として、第1電流狭窄層106は5nm以上の厚さを有してれば良い。
【0056】
図9は、本願発明者らが、電流狭窄層の開口部の側壁が垂直である場合における当該開口部近傍の断面をTEM解析により詳細に観察した様子を示している。尚、図9に示す構成においては、下地半導体層56上に開口部を持つ電流狭窄層57が形成されていると共に当該開口部及び電流狭窄層57を覆うように再成長層58及び59が順次形成されている。図9に示すように、再成長層58における開口部側壁に形成される成長領域58Aの形成幅は電流狭窄層57の厚さと同程度である。従って、本実施形態の第1電流狭窄層106の厚さを、閾値電流が飽和する高抵抗領域の幅以下に設定すれば、閾値電流及び動作電圧の増大を防止することができるので、本実施形態においては、第1電流狭窄層106の厚さを50nm以下に設定する。
【0057】
一方、Al0.08Ga0.92N第2電流狭窄層107は、Siが添加されたAlGaN混晶により構成され、Si濃度は5.0×1018cm-3、Al組成は8%、厚さは150nmであることが好ましい。その理由は以下の通りである。
【0058】
Al0.08Ga0.92N第2電流狭窄層107のAl組成は、実屈折率ガイド層として機能させるためにクラッド層となるp型Al0.05Ga0.95N第2再成長層109のAl組成よりも大きい必要があるので、5%以上であることが好ましい。また、図3に示すように、第2電流狭窄層107のAl組成が8%であると、第2電流狭窄層107の第2開口部112の傾斜角を40°程度にすることができる。その結果、第2開口部112の側壁に安定な結晶面が形成されるため、再成長層に高抵抗な領域が形成されない構造を実現できるので、低い動作電圧特性を持つ半導体レーザ装置を得ることができる。さらに、電流狭窄領域を、第1電流狭窄層106のみの単層構造ではなく、第2電流狭窄層107をも設けた複数層構造にすることによって、光導波路の実屈折率制御の設計自由度が増えるため、水平拡がり角の安定化がより容易となる。ここで、第2電流狭窄層107自体を複数層構造にしてもよいことは言うまでもない。
【0059】
以下、本実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図5(a)〜(d)は、本実施形態の窒化物半導体レーザ装置の製造方法の各工程を示す断面図である。
【0060】
まず、図5(a)に示すように、MOCVD法により、n型GaN基板100上に、n型GaNコンタクト層101、n型Al0.05Ga0.95Nクラッド層102、n型GaN光ガイド層103、活性層104、p型GaN光ガイド層105、n型不純物を含むAl0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106、及びn型不純物を含むAl0.08Ga0.92N第2電流狭窄層107を順次形成する。尚、Al0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106及びAl0.08Ga0.92N第2電流狭窄層107については、930℃程度の温度で成長させた。
【0061】
次に、図5(b)に示すように、前述のPECエッチングを適用することによって、Al0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106にストライプ状の第1開口部111を形成すると共に、Al0.08Ga0.92N第2電流狭窄層107に、第1開口部111と接続し且つ活性層104から離れるに従って拡がっていく第2開口部112を形成する。具体的には、第1開口部111を、その側壁の基板主面に対する傾斜角が58°よりも大きくなるように形成すると共に、第2開口部112を、その側壁の基板主面に対する傾斜角が58°以下になるように形成する。このとき、n型GaN基板100の裏面を薬液から保護するために、当該裏面上に酸化膜等からなる絶縁保護膜を形成しておく。また、p型GaN光ガイド層105とn型不純物を含むAl0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106との界面に空乏層が形成されるため、当該空乏層領域でPECエッチングが停止するので、第1開口部111の底部には厚さ5nm程度の第1電流狭窄層106が残存する。
【0062】
次に、図5(c)に示すように、第1開口部111及び第2開口部112を含むAl0.08Ga0.92N第2電流狭窄層107上に、p型GaN第1再成長層108、p型Al0.05Ga0.95N第2再成長層109、及びp型GaNコンタクト層110を順次形成する。ここで、p型GaN第1再成長層108については、マストランスポートによる電流狭窄層106及び107の形状変化を抑制するために、830℃程度の低温で結晶成長させる。また、例えばp型不純物であるMgを再成長層形成前から成長面へ供給することによって、第1開口部111内に残存するAl0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106をp型化する。これにより、電流経路の導電性の低下を防止することができる。また、第1開口部111内にAl0.15Ga0.85N第1電流狭窄層106を残存させているため、反応炉内における再成長層形成過程での温度上昇中に下層のp型GaN光ガイド層105が昇華することを防止できるので、p型GaN光ガイド層105にダメージが生じることがない。従って、欠陥の少ない低抵抗な再成長層108及び109を形成することができる。尚、再成長層形成過程の後、例えば窒素雰囲気中で780℃、60分の活性化アニールを行い、それによって、再成長層108及び109となるp型層を低抵抗化させる。
【0063】
次に、図5(d)に示すように、p型GaNコンタクト層110上にp側電極114を形成する。p側電極114の材料としては、例えばNi又はPdを含む多層膜が好ましい。続いて、n型GaN基板100の裏面側となるV族面側に対して研磨を行い、n型GaN基板100の厚さを薄くした後、当該研磨面上にn側電極113を形成する。n側電極113の材料としては、例えばTi又はVを含む多層膜が好ましい。
【0064】
以上に説明したように、本実施形態によると、電流狭窄領域をAl組成の異なる2層構造とし、各電流狭窄層106及び107の開口部形状を異なるようにすることによって、開口部側壁上が高抵抗化することを抑制できるため、動作電圧の増大を抑制でき、それにより、安定した動作特性を有する窒化物半導体レーザ装置を提供することが可能になる。また、発光部に対するエッチングダメージに起因する特性劣化を抑制できるので、高品質及び高信頼性を持つ窒化物半導体レーザ装置を提供することが可能になる。
【0065】
尚、本実施形態において、n型光ガイド層103、p型光ガイド層105及びp型第1再成長層108の材料としてGaNを、p型第2再成長層109の材料としてAl0.05Ga0.95Nを用いたが、これに限らず、n型光ガイド層103、p型光ガイド層105、p型第1再成長層108及びp型第2再成長層109に対して好適なエネルギーバンド構造を持つAlGaInN混晶に属する窒化物半導体材料(AlNやInN等を含む)を用いることができる。
【0066】
また、本実施形態において、第1電流狭窄層106の第1開口部111の側壁の基板主面に対する傾斜角を58°よりも大きくすると共に、第2電流狭窄層107の第2開口部112の側壁の基板主面に対する傾斜角を58°以下にしたが、第1開口部111の側壁の基板主面に対する傾斜角を65°以上にすると共に、第2開口部112の側壁の基板主面に対する傾斜角を55°以下にすることがさらに好ましい。
【0067】
また、本実施形態において、第1電流狭窄層106のAl組成を15%に設定したが、これに限られず、第1電流狭窄層106のAl組成を11%以上で且つ15%以下に設定しても良い。
【0068】
また、本実施形態において、第2電流狭窄層107のAl組成を8%に設定したが、これに限られず、第2電流狭窄層107のAl組成を10%よりも小さく設定しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、動作電圧の増大を抑制して安定なレーザ発振動作特性を有する窒化物半導体レーザ装置及びその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置の基本構造を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置を構成する各層の厚さ、組成、不純物濃度の一例を表形式で示したものである。
【図3】図3は、電流狭窄層のAl組成と、PECエッチングによって電流狭窄層に形成された開口部の側壁の傾斜角との関係を示した図である。
【図4】図4は、再成長層に形成される高抵抗領域と、レーザ発振の閾値電流との関係を示した図である。
【図5】図5(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体レーザ装置の製造方法の各工程を示す断面図である。
【図6】図6は、従来の埋込型の窒化物半導体レーザ装置の断面図である。
【図7】図7(a)及び(b)は、電流狭窄層の開口部周辺の断面構成をSEMによって観察した結果を示した図てあり、図7(a)は組成比較が可能な反射電子像であり、図7(b)は導電性比較が可能な2次電子像である。
【図8】図8は、電流狭窄層近傍のSi濃度プロファイルをSIMS解析により調べた結果を示した図である。
【図9】図9は、電流狭窄層の開口部の側壁が垂直である場合における当該開口部近傍の断面をTEM解析により詳細に観察した様子を示した図である。
【符号の説明】
【0071】
100 n型GaN基板
101 n型GaNコンタクト層
102 n型Al0.05Ga0.95Nクラッド層
103 n型GaN光ガイド層
104 活性層
105 p型GaN光ガイド層
106 Al0.15Ga0.85N第1電流狭窄層
107 Al0.08Ga0.92N第2電流狭窄層
108 p型GaN第1再成長層
109 p型Al0.05Ga0.95N第2再成長層
110 p型GaNコンタクト層
111 第1開口部
112 第2開口部
113 n側電極
114 p側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型基板上に形成されており、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるn型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成されており、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるp型第1半導体層と、
前記p型第1半導体層上に形成されており、n型不純物を含むAlx Ga1-x N(0≦x≦1)混晶からなる第1電流狭窄層と、
前記第1電流狭窄層上に形成されており、n型不純物を含むAly Ga1-y N(0≦y≦1)混晶からなる第2電流狭窄層と、
前記第2電流狭窄層上に形成されており、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるp型第2半導体層とを備え、
前記第1電流狭窄層はストライプ状の第1開口部を有する共に前記第1開口部の底部には前記第1電流狭窄層が残存しており、
前記第2電流狭窄層は、前記第1開口部と接続し且つ前記活性層から離れるに従って拡がっていく第2開口部を有し、
前記p型第2半導体層は前記第1開口部及び前記第2開口部を埋めるように形成されており、それによって前記第1開口部及び前記第2開口部を経由して前記活性層に電流が注入され、
前記第1開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角は58°よりも大きく、
前記第2開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角は58°以下であることを特徴とする窒化物半導体レーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化物半導体レーザ装置において、
前記第1開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角は65°以上であり、
前記第2開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角は55°以下であることを特徴とする窒化物半導体レーザ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の窒化物半導体レーザ装置において、
前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比をx、前記第1電流狭窄層の厚さをdx、前記第2電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比をy、前記第2電流狭窄層の厚さをdyとすると、前記比xは前記比yよりも大きく、前記厚さdxは前記厚さdyよりも小さく、前記厚さdxは5nm以上で且つ50nm以下であることを特徴とする窒化物半導体レーザ装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の窒化物半導体レーザ装置において、
前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は11%以上で且つ15%以下であることを特徴とする窒化物半導体レーザ装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の窒化物半導体レーザ装置において、
前記第2電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は10%よりも小さいことを特徴とする窒化物半導体レーザ装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の窒化物半導体レーザ装置において、
前記第2電流狭窄層は複数の層からなり、
前記第2電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は、前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比よりも小さいことを特徴とする窒化物半導体レーザ装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の窒化物半導体レーザ装置において、
前記p型第2半導体層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は、前記第1電流狭窄層及び前記第2電流狭窄層のそれぞれにおけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比よりも小さいことを特徴とする窒化物半導体レーザ装置。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の窒化物半導体レーザ装置において、
前記p型第2半導体層は、前記第1開口部内に残存する前記第1電流狭窄層と接する部分を有しており、当該部分におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は、前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比よりも小さいことを特徴とする窒化物半導体レーザ装置。
【請求項9】
n型基板上に、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるn型半導体層、活性層、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるp型第1半導体層、n型不純物を含むAlx Ga1-x N(0≦x≦1)混晶からなる第1電流狭窄層、及び、n型不純物を含むAly Ga1-y N(0≦y≦1)混晶からなる第2電流狭窄層を順次形成する工程(a)と、
前記第1電流狭窄層及び前記第2電流狭窄層に対してウェットエッチングを行うことによって、前記第1電流狭窄層にストライプ状の第1開口部を、当該第1開口部の底部に前記第1電流狭窄層が残存するように形成すると共に、前記第2電流狭窄層に、前記第1開口部と接続し且つ前記活性層から離れるに従って拡がっていく第2開口部を形成する工程(b)と、
前記第2電流狭窄層上に、前記第1開口部及び前記第2開口部を埋めるように、AlGaInN混晶の窒化物半導体からなるp型第2半導体層を形成する工程(c)とを備え、
前記工程(b)において、前記第1開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角を58°よりも大きくすると共に前記第2開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角を58°以下にすることを特徴とする窒化物半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、
前記工程(b)において、前記第1開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角を65°以上にすると共に前記第2開口部の側壁の前記n型基板の主面に対する傾斜角を55°以下にすることを特徴とする窒化物半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、
前記工程(c)において、前記p型第2半導体層の形成温度を、前記工程(a)における前記第1電流狭窄層及び前記第2電流狭窄層のそれぞれの形成温度よりも低くすることを特徴とする窒化物半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、
前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比をx、前記第1電流狭窄層の厚さをdx、前記第2電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比をy、前記第2電流狭窄層の厚さをdyとすると、前記比xは前記比yよりも大きく、前記厚さdxは前記厚さdyよりも小さく、前記厚さdxは5nm以上で且つ50nm以下であることを特徴とする窒化物半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、
前記p型第2半導体層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は、前記第1電流狭窄層及び前記第2電流狭窄層のそれぞれにおけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比よりも小さいことを特徴とする窒化物半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項14】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、
前記p型第2半導体層は、前記第1開口部内に残存する前記第1電流狭窄層と接する部分を有しており、当該部分におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比は、前記第1電流狭窄層におけるGa及びAlの合計組成に対するAl組成の比よりも小さいことを特徴とする窒化物半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1項に記載の窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、
前記工程(b)において、前記第1電流狭窄層及び前記第2電流狭窄層に対して、当該各電流狭窄層を構成する窒化物半導体に吸収される波長帯の光を照射しながら、アルカリ溶液を用いて前記ウェットエッチングを行うことを特徴とする窒化物半導体レーザ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−272531(P2009−272531A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123379(P2008−123379)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】