説明

窒化物系化合物半導体製造装置

【課題】結晶性と表面平坦性に優れ、大面積基板表面全面に渡って均一なInN系化合物半導体薄膜を得ることができる窒化物系化合物半導体製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】窒化物系化合物半導体薄膜を基板11上に成長させる分子線エピタキシー装置であって、窒素源として複数の窒素ラジカルセル13を備えることを特徴とする窒化物系化合物半導体製造装置10。複数の窒素ラジカルセル13は、基板11との間隔が変更でき、RFプラズマ励起窒素ラジカルセル、又はECRプラズマ励起窒素ラジカルセル、又はその双方からなる。窒化物系化合物半導体薄膜は、InN単結晶半導体、InNとGaNとの混晶半導体、InNとAlNとの混晶半導体、InNとGaNとAlNとの混晶半導体の内の何れかからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系化合物半導体製造装置に関し、特に結晶性と表面平坦性に優れたInN系半導体薄膜を大面積基板表面全面に渡って均一に得ることができる窒化物系化合物半導体製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、窒化物系化合物半導体は、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法や分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Expitaxy)法により、高品質な結晶薄膜を成長させることができる。近年、窒化物系化合物半導体を用いた青色発光ダイオードや青色レーザが実用化し、また、高周波電子デバイスの研究開発も活発である。これらには、窒化物系化合物半導体の中でもバンドギャップの広いAlN、GaN、及びAlGaN(AlNとGaNとの混晶半導体)が使われてきた。
【0003】
近年、InN単結晶半導体が近赤外光領域に吸収端を持つ狭いバンドギャップを有することが明らかにされ、InNは、GaNやAlNとの混晶半導体、すなわち、InGaN(InNとGaNとの混晶半導体)、InAlN(InNとAlNとの混晶半導体)及びAlGaInN(InNとGaNとAlNとの混晶半導体)を形成することにより、近赤外、可視、近紫外までの広範囲な光スペクトル領域に対応した半導体を形成することがわかった。これにより、全可視領域に渡る発光素子、太陽光スペクトルに完全に合致した太陽電池を、窒化物系化合物半導体だけで構成できることが分かった。また、窒化物半導体の高周波電子デバイスにInNを含む窒化物半導体層を組み込むと、より高性能な高周波デバイスの実現が可能となる。InN系化合物半導体(InN、InGaN、InAlN、及びAlGaInN)は、材料の解離温度が極めて低く、高温での成長が困難なため、比較的低い基板温度(成長温度)で結晶成長を行うことができる分子線エピタキシー法を用いて製造されてきた。その一般的な製造装置30は、例えば非特許文献1に開示されており、図3に示すように、成長用の基板31を取り付ける基板ホルダ32から離して、1個の窒素ラジカルセル33、及びIn、Ga、Al等の固体原料を装填した複数のクヌーセンセル34,35,36を配置している。窒素ラジカルセル33は、窒素源として用いられ、窒素ガスをRFプラズマ(Radio Frequency Plasma:高周波プラズマ)やECRプラズマ(Electron Cycrotron Resonance Plasma:電子サイクロトロン共鳴プラズマ)中で励起させる。この装置30を用いて、GaN、AlN、及びその混晶半導体を分子線エピタキシー法により成長する場合には、700℃から900℃の範囲の高い基板温度で膜を成長させることが可能であり、結晶性と表面平坦性の優れた成長膜を得ることができる。
【非特許文献1】Journal of Crystal Growth Vol. 175-176, pp. 100-106 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来装置30を用いて、InN系半導体を分子線エピタキシー法により成長させる場合は、高い基板温度では膜が解離分解し成長しないため、300℃から550℃の低い基板温度でしか成長膜を得ることができない。ところが、基板温度が低いため、原料元素が基板上で十分な移動と混合が行えないので、結晶品質が悪く表面の凹凸の激しい成長膜しか得ることができなかった。また、大面積基板表面全面に渡って均一な成長膜を得ることができなかった。
【0005】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであり、表面平坦性と結晶性に優れ、大面積基板表面全面に渡って均一なInN系化合物半導体薄膜を得ることができる窒化物系化合物半導体製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の窒化物系化合物半導体製造装置は、窒化物系化合物半導体薄膜を基板上に成長させる分子線エピタキシー装置であって、窒素源として複数の窒素ラジカルセルを備えることを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の窒化物系化合物半導体製造装置は、請求項1に記載の窒化物系化合物半導体製造装置において、前記複数の窒素ラジカルセルと前記基板との間隔が変更できることを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載の窒化物系化合物半導体製造装置は、請求項1又は2に記載の窒化物系化合物半導体製造装置において、前記窒素ラジカルセルが、RFプラズマ励起窒素ラジカルセル、又はECRプラズマ励起窒素ラジカルセル、又はその双方であることを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載の窒化物系化合物半導体製造装置は、請求項1から3の何れか1項に記載の窒化物系化合物半導体製造装置において、前記薄膜が、InN単結晶半導体、InNとGaNとの混晶半導体、InNとAlNとの混晶半導体、InNとGaNとAlNとの混晶半導体の内の何れかからなることを特徴としている。
【0010】
請求項5に記載の窒化物系化合物半導体製造装置は、請求項1から4の何れか1項に記載の窒化物系化合物半導体製造装置において、前記複数の窒素ラジカルセルが、前記基板に対して均等間隔で配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の窒化物系化合物半導体製造装置によれば、窒素源として複数の窒素ラジカルセルを備えるので、複数の窒素ラジカルセルから十分な窒素量を供給して基板上の窒素圧力を高めることにより、窒素ラジカルセルを1つのみ備える従来装置に比べて、高い基板温度における成長膜の解離による成長困難を回避することが可能になる。このため、従来装置を用いた場合には高い基板温度で膜が解離する窒化物系化合物半導体薄膜を膜の解離なく成長させることが可能となり、結晶性と表面平坦性の優れた窒化物系化合物半導体薄膜を大面積基板表面全面に渡って均一に得ることができる。
【0012】
請求項2に記載の窒化物系化合物半導体製造装置によれば、複数の窒素ラジカルセルと基板との間隔が変更できるので、この間隔を調整して薄膜成長時の基板上の窒素圧力を高めることにより、より結晶性と表面平坦性の優れた窒化物系化合物半導体薄膜を大面積基板表面全面に渡ってより均一に得ることができる。
【0013】
請求項3に記載の窒化物系化合物半導体製造装置によれば、窒素ラジカルセルが、RFプラズマ励起窒素ラジカルセル、又はECRプラズマ励起窒素ラジカルセル、又はその双方を備えているので、多流量のラジカル活性化した窒素ガスを安定して発生させることが可能となるため、より均質な窒化物系化合物半導体薄膜を得ることができる。
【0014】
請求項4に記載の窒化物系化合物半導体製造装置によれば、本装置により得られる薄膜が、InN単結晶半導体、InNとGaNとの混晶半導体、InNとAlNとの混晶半導体、InNとGaNとAlNとの混晶半導体の内の何れかからなっている。これらInN系化合物半導体は、上記従来装置では低い基板温度でしか成長しないが、本装置を用いることにより、高い基板温度で成長させることが可能になるので、結晶性と表面平坦性の優れたInN系化合物半導体薄膜を得ることができる。
【0015】
請求項5に記載の窒化物系化合物半導体製造装置によれば、複数の窒素ラジカルセルが基板に対して均等間隔で配置されているので、複数の窒素ラジカルセルから発生するラジカル活性化した窒素ガスが基板表面に均一に照射されるため、より均一な窒化物系化合物半導体薄膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の窒化物系化合物半導体製造装置は、窒化物系化合物半導体薄膜を基板上に成長させる分子線エピタキシー装置であって、窒素源として複数の窒素ラジカルセルを備える。これにより、十分な窒素量を供給して基板ホルダに設置される基板上の窒素圧力を高めることが可能となり、高い基板温度(成長温度)における成長膜の解離による成長困難を回避することができる。このため、上記従来装置30を用いた場合には高い基板温度で膜が解離する窒化物系化合物半導体薄膜を、600℃から900℃の範囲の高い基板温度でも膜の解離なく成長させることが可能となり、結晶性と表面平坦性の優れたInN系化合物半導体(InN単結晶半導体,InNとGaNとの混晶半導体、InNとAlNとの混晶半導体、及びInNとGaNとAlNとの混晶半導体)薄膜を大面積基板表面全面に渡って均一に得ることができる。また、本発明の窒化物系化合物半導体製造装置は、複数の窒素ラジカルセルと基板との間隔を変更できることが好ましい。これにより、必要に応じて、複数の窒素ラジカルセルと基板との間隔を調整することによって、成長時の基板上の窒素圧力をさらに高めることができる。このため、より結晶性と表面平坦性の優れた窒化物系化合物半導体薄膜を大面積基板表面全面に渡ってより均一に得ることができる。
【0017】
本発明の窒化物系化合物半導体製造装置は、In、Ga、Al等のIII族の固体原料をそれぞれ装填したクヌーセンセルの内、少なくとも1つをIII族源として備える。また、窒素ラジカルセルとして、窒素ガスをプラズマ中を通過させることでラジカル活性化するRFプラズマ励起ラジカルセルか、ECRプラズマ励起ラジカルセルを複数個備える。窒素ラジカルセルは、基板に対して均等間隔で配置されている。すなわち、各窒素ラジカルセルは、基板から等距離かつ互いに均等間隔を隔てて配置されている。さらに、本発明の窒化物系化合物半導体製造装置は、成長室内が1×10−9Torr(1×10−7Pa)から1×10−10Torr(1×10−8Pa)の超高真空に排気されるように、ターボポンプ、イオンポンプなどからなる真空排気系を備える。また、基板温度が200℃から900℃の範囲、より好ましくは300℃から800℃の範囲になるように加熱する加熱手段を備える。
【0018】
次に、本発明の窒化物系化合物半導体製造装置を用いてInN系化合物半導体薄膜を製造する方法について説明する。サファイアウェハ、Siウェハなどの成長用基板を基板ホルダに設置する。薄膜成長前の成長室内の真空度が1×10−9Torrから1×10−10Torrの範囲となるように排気する。基板温度が200℃から900℃の範囲、より好ましくは300℃から800℃の範囲となるように昇温する。各クヌーセンセル及び窒素ラジカルセルの分子線出射口の前の各シャッタを閉じた状態で、所望のIII族原料を装填したクヌーセンセルを加熱する。複数の窒素ラジカルセルに同時に窒素ガスを流し、RFプラズマ電源、あるいはECRプラズマ電源を動作状態にしてプラズマを発生させる。複数の窒素ラジカルセルのシャッタを同時に開き、窒素ラジカルビームが基板に到達した状態で、所望のIII族原料を装填したクヌーセンセルのシャッターを開け、InN系化合物半導体薄膜を所望の時間成長させる。薄膜成長時の成長室内の真空度が1×10−9Torr(1×10−7Pa)から1×10−3Torr(1×10−1Pa)の範囲、基板温度が200℃から900℃の範囲である。より好ましくは、薄膜成長時の成長室内の真空度が1×10−6Torr(1×10−4Pa)から1×10−4Torr(1×10−2Pa)の範囲、基板温度が300℃から800℃の範囲である。薄膜の成長速度は、0.1μm/hrから5μm/hrの範囲、より好ましくは0.5μm/hrから2μm/hrの範囲である。これにより、従来装置を用いた場合より高い基板温度で薄膜の成長が可能となり、結晶性と表面平坦性の優れたInN系化合物半導体薄膜を得ることができる。
【実施例1】
【0019】
以下に、本発明の具体的形態を実施例により説明するが、これら実施例により本発明は何ら制限を受けるものではない。
本実施例1で用いた窒化物系化合物半導体製造装置としての分子線エピタキシー装置10は、その概略図を図1(a)に示すように、成長用基板11を取り付ける基板ホルダ12、2台の米国SVT社製RFプラズマ励起窒素ラジカルセル13,13、Inを装填したInクヌーセンセル14、Alを装填したAlクヌーセンセル15、Gaを装填したGaクヌーセンセル16を備える。分子線エピタキシー装置10は、その上面配置略図を図1(b)に示すように、2台の窒素ラジカルセル13,13を、基板11に対してそれぞれが180度の位置になるように、すなわち上面視において基板11を挟み対称に配置している。また、図示しないが、装置10は、その成長室内全体を超高真空に排気するターボポンプとイオンポンプを備える。
【0020】
成長用基板11として1cm角の大きさのサファイア単結晶ウェハ(以下、サファイア基板という。)を用い、以下の成長プロセスでこのサファイア基板11上にInN膜の成長を行った。サファイア基板11は、有機溶剤で洗浄した後に基板ホルダー12に取り付け、10−10Torr台の超高真空に排気して800℃で10分間加熱し、表面を洗浄化した。次いで、基板温度を550℃とし、2台のラジカルセル13,13にそれぞれ毎秒1cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ300Wの入力を投入して、2本の窒素ラジカルビームを1時間サファイア基板11に照射することによって、サファイア基板11の表面を窒化した。次いで、基板温度を300℃として、2台のラジカルセル13,13にそれぞれ毎秒2cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ330Wの入力を投入して、2本の窒素ラジカルビームを発生させ、同時にInクヌーセンセル14を加熱してInビーム(ビーム圧力8.0×10−8Torr)を発生させ、InN低温成長バッファ層を10分間成長させた。その後、基板温度を550℃にした場合と700℃にした場合のそれぞれについて、2台の窒素ラジカルセル13,13にそれぞれ毎秒2cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ240Wの入力を投入して、2本の窒素ラジカルビームを発生させ、同時にInクヌーセンセル14を加熱してInビーム(ビーム圧力4.5×10−7Torr)を発生させ、1時間、InN膜の成長を行った。
【0021】
得られた薄膜の成長速度、結晶の完全性を示すX線回折ロッキングカーブ半値幅、及び表面平坦性を、1台のみの窒素ラジカルセルを備える従来装置30(図3参照)を用いて同一の成長条件にて薄膜を成長させた場合と比較して表1に示す。表1に示すように、550℃の基板温度では、2μm/hの成長速度、2arcminのX線回折ロッキングカーブ半値幅が得られ、700℃の基板温度では、0.5μm/hの成長速度、0.5arcminのX線回折ロッキングカーブ半値幅が得られた。いずれも結晶性に優れ表面が極めて平坦な単結晶膜であった。一方、従来装置30を用いた場合には、550℃の基板温度では、成長速度は0.5μm/hと遅く、X線回折ロッキングカーブ半値幅は10arcminと結晶性が悪く、表面に凹凸が観察された。700℃の基板温度では、膜は全く成長しなかった。このように、本実施例1の装置10を用いたことにより、700℃という高い基板温度で初めてInN単結晶膜を成長させることができ、かつ、単結晶性と表面平坦性の極めて優れたInN半導体薄膜を得ることができた。なお、本実施例1の装置は、窒素ラジカルセル13,13が可動して基板ホルダ12との間隔が可変であり、窒素ラジカルセル13,13とサファイア基板11との間隔の最適化を図ることによって、サファイア基板11表面の窒素圧力を調整した。
【表1】

【実施例2】
【0022】
成長用基板として1cm角の大きさのSi単結晶ウェハ(以下、Si基板という。)を用い、以下の成長プロセスでこのSi基板11上にInN膜の成長を行った。本実施例1で用いた分子線エピタキシー装置10は、前記実施例2で用いた装置10と同様である。Si基板11は、有機溶剤で洗浄した後にHF溶液で表面酸化膜を除去し、基板ホルダ12に取り付け、10−10Torr台の超高真空に排気した後、800℃で20分間加熱し、表面を洗浄化した。次いで、基板温度を800℃とし、2台のラジカルセル13,13にそれぞれ毎秒1cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ300Wの入力を投入して、2本の窒素ラジカルビームを3分間Si基板11に照射することによって、Si基板11の表面を極薄く窒化した。次いで、基板温度を800℃とし、2台のラジカルセル13,13にそれぞれ毎秒2cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ330Wの入力を投入して、2本の窒素ラジカルビームを発生させ、同時にAlクヌーセンセル15を加熱してAlビームを発生させ、Al薄層を20分間成長させた。次いで、基板温度を300℃として、2台のラジカルセル13,13にそれぞれ毎秒2cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ330Wの入力を投入して、2本の窒素ラジカルビームを発生させ、同時にInクヌーセンセル14を加熱してInビームを発生させ、InN低温成長バッファ層を10分間成長させた。その後、基板温度を700℃とし、2台の窒素ラジカルセル13,13にそれぞれ毎秒2cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ240Wの入力を投入して、2本の窒素ラジカルビームを発生させ、同時にInNクヌーセンセル14を加熱してInビームを発生させ、1時間、InN膜の成長を行った。
【0023】
得られた薄膜は、表2に示すように、0.5μm/hの成長速度、2arcminのX線回折ロッキングカーブ半値幅が得られ、結晶性に優れ表面が極めて平坦な単結晶膜であった。従来装置30を用いた場合には、700℃の基板温度で、膜は全く成長しなかった。このように、本実施例2の装置10を用いたことにより、700℃という高い基板温度でSi基板11上にInN単結晶膜を成長させることができ、かつ、単結晶性と表面平坦性の極めて優れたInN単結晶膜を得ることができた。なお、本実施例2においても、窒素ラジカルセル13,13とSi基板ホルダ12との間隔の最適化を図ることによって、Si基板11表面の窒素圧力を調整した。
【表2】

【実施例3】
【0024】
成長用基板として1cm角の大きさのサファイア単結晶ウェハ(以下、サファイア基板という。)を用い、以下の成長プロセスでこのサファイア基板11上にInNとGaNとの混晶膜の成長を行った。本実施例1で用いた分子線エピタキシー装置10は、前記実施例1で用いた装置10と同様である。サファイア基板11は、有機溶剤で洗浄した後に基板ホルダ12に取り付け、10−10Torr台の超高真空に排気して800℃で10分間加熱し、表面を洗浄化した。次いで、基板温度を550℃とし、2台のラジカルセル13,13にそれぞれ毎秒1cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ300Wの入力を投入して、2本の窒素ラジカルビームを1時間サファイア基板11に照射することによって、サファイア基板11の表面を窒化した。次いで、基板温度を300℃とし、2台のラジカルセル13,13にそれぞれ毎秒2cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ330Wの入力を投入して、2本の窒素ラジカルビームを発生させ、同時にInクヌーセンセル14を加熱してInビームを発生させ、InN低温成長バッファ層を10分間成長させた。その後、基板温度を700℃とし、2台の窒素ラジカルセル13,13にそれぞれ毎秒2cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ240Wの入力を投入して、2本の窒素ラジカルビームを発生させ、同時にInクヌーセンセル14とGaクヌーセンセル16を加熱してInビームとGaビームを発生させ、1時間、InNとGaNとの混晶膜の成長を行った。InビームとGaビームの合計ビーム圧を4.2×10−7Torrで一定とし、Gaビーム圧を0〜6.0×10−8Torrの範囲で成長毎に変えた。
【0025】
得られた薄膜は、表3に示すように、いずれも表面平坦な混晶膜であり、約0.5μm/hの成長速度で得られた。X線回折の結果、得られた薄膜In1−xGaNの組成xは、Gaビーム圧力0〜6.0×10−8Torrに対応して、x=0〜0.4であった。また、それに対応してX線回折ロッキングカーブ半値幅は、0.5〜10arcminが得られた。従来装置30を用いた場合には、700℃の基板温度では、凹凸の激しい多結晶膜が成長しただけであった。
【表3】

【実施例4】
【0026】
本実施例4で用いた分子線エピタキシー装置20は、図2に示すように、3台のRFプラズマ励起窒素ラジカルセル13,13,13を備え、その上面視において、各基板ラジカルセル13,13,13は、基板21に対してそれぞれ120度の位置になるように設置している。これ以外は、実施例1から実施例3に用いた装置10と同様である。
【0027】
成長用基板として2インチ径の大型サファイア単結晶ウェハ(以下、サファイア大基板という。)を用い、以下の成長プロセスでこのサファイア大基板21上にInN膜の成長を行った。サファイア大基板21は、有機溶剤で洗浄した後に基板ホルダ12に取り付け、10−10Torr台の超高真空に排気して800℃で10分間加熱し、表面を洗浄化した。次いで、基板温度を550℃とし、3台のラジカルセル13,13,13にそれぞれ毎秒1cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ300Wの入力を投入して、3本の窒素ラジカルビームを1時間サファイア大基板21に照射することによって、サファイア大基板21の表面を窒化した。次いで、基板温度を300℃とし、3台のラジカルセル13,13,13にそれぞれ毎秒2cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ330Wの入力を投入して、3本の窒素ラジカルビームを発生させ、同時にInクヌーセンセル14を加熱してInビーム(ビーム圧力1.0×10−7Torr)を発生させ、InN低温成長バッファ層を10分間成長させた。その後、基板温度を550℃にした場合と700℃にした場合のそれぞれについて、3台の窒素ラジカルセル13,13,13にそれぞれ毎秒2cmの流量で窒素ガスを流し、RFプラズマ電源にそれぞれ240Wの入力を投入して、3本の窒素ラジカルビームを発生させ、同時にInNクヌーセンセル14を加熱してInビーム(ビーム圧力6.0×10−7Torr)を発生させ、1時間、InN膜の成長を行った。
【0028】
得られた膜の成長速度、単結晶性(X線回折ロッキングカーブ半値幅)、表面平坦性を調べた。表4に示すように、550℃の基板温度では、3μm/hの成長速度、2arcminのX線回折ロッキングカーブ半値幅が得られ、700℃の基板温度では、1μm/hの成長速度、0.5arcminのX線回折ロッキングカーブ半値幅が得られた。いずれも2インチ径のサファイア大基板21表面全面に渡って結晶性に優れ表面が極めて平坦な単結晶膜であった。なお、以上の実施例1から実施例4においては、窒素ラジカルセルとして、RFプラズマ励起の窒素ラジカルセルを用いたが、ECRプラズマ励起の窒素プラズマセルを用いてもよい。
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例1に係る窒化物系化合物半導体製造装置10を示し、(a)は概略図であり、(b)は上面配置略図である。
【図2】本発明の実施例4に係る窒化物系化合物半導体製造装置20を示す上面配置略図である。
【図3】従来の窒化物系化合物半導体製造装置30を示し、(a)は概略図であり、(b)は上面配置略図である。
【符号の説明】
【0030】
10,20 分子線エピタキシー装置(窒化物系化合物半導体製造装置)
11, 21 基板
12 基板ホルダ
13 RFプラズマ励起窒素ラジカルセル(窒素ラジカルセル)
14 Inクヌーセンセル(クヌーセンセル)
15 Alクヌーセンセル(クヌーセンセル)
16 Gaクヌーセンセル(クヌーセンセル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物系化合物半導体薄膜を基板上に成長させる分子線エピタキシー装置であって、窒素源として複数の窒素ラジカルセルを備えることを特徴とする窒化物系化合物半導体製造装置。
【請求項2】
前記複数の窒素ラジカルセルと前記基板との間隔が変更できることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系化合物半導体製造装置。
【請求項3】
前記窒素ラジカルセルが、RFプラズマ励起窒素ラジカルセル、又はECRプラズマ励起窒素ラジカルセル、又はその双方であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物系化合物半導体製造装置。
【請求項4】
前記薄膜が、InN単結晶半導体、InNとGaNとの混晶半導体、InNとAlNとの混晶半導体、InNとGaNとAlNとの混晶半導体の内の何れかからなることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の窒化物系化合物半導体製造装置。
【請求項5】
前記複数の窒素ラジカルセルが、前記基板に対して均等間隔で配置されていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の窒化物系化合物半導体製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−140397(P2006−140397A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330562(P2004−330562)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】