説明

細線状抵抗体を備えた抵抗発熱体

細線状抵抗体30の各側にそれに沿って正電極10と負電極20を配置する。正電極10は、抵抗体30に沿って間隔を置いて配置された複数の枝部13、14によって接続点P2、P3で抵抗体30に接続される。負電極20は、抵抗体30に沿って間隔を置いて配置された枝部23、24によって接続点P1、P4で抵抗体30に接続された抵抗発熱体である。接続点P1〜P4は、抵抗体30に沿って互いにずれた位置にある。接続点P1とP2並びに接続点P3とP4の間にある抵抗体30の部分31と32は、抵抗体30の有効領域として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電流を流してジュール熱を発生させるために使用される抵抗発熱体に関し、特に、細線状の抵抗体の形状を変えることなく、見かけの(即ち、外部から見た)電気抵抗値を任意に調整可能な抵抗発熱体に関する。
【背景技術】
薄膜抵抗体に電流を流すことによってジュール熱を発生させる「抵抗発熱体」は、様々な分野で広く使用されているが、その一つにシリコンなどの半導体材料上や回路基板上に形成される微小サイズの抵抗発熱体がある。この種の抵抗発熱体については、微小サイズであることに起因する問題を解決するために多くの工夫がなされて来た。例えば、特開昭58−134764号公報、特開平3−164270号公報、特開昭61−219666号公報、特許第2811209号公報等を参照。これらの抵抗発熱体に関する技術は通常、ある特定の微小領域(数μm四方程度)を暖めるため、あるいは、搭載されている半導体素子を暖めるために、数mm四方から数cm四方といった比較的大面積の領域を加熱することを目的として使用される。
正方形領域あるいは縦横比が小さく正方形に近い長方形領域を加熱する場合、その領域内における抵抗発熱体の形状には、あまり制約はない。このため、当該領域内に所望の温度分布が実現できるように抵抗発熱体の形状を設定することにより、所望の目的を果たすことが容易である。また、抵抗発熱体の持つ電気抵抗値についても、特開昭58−134764号公報に開示されているように、シート状抵抗発熱体に多数の穴を開けることが可能であるから、その穴の大きさと数を調整することにより、所望の電気抵抗値を得ることも容易である。
このように、正方形領域あるいは正方形に近い長方形領域を加熱するための抵抗発熱体については、それが生成する温度分布および抵抗発熱体それ自身の電気抵抗値についても、抵抗発熱体の形状を調整することで対応が可能である。
尚、抵抗発熱体の持つ電気抵抗値は、外部に設けられる抵抗発熱体駆動回路の最大電圧値などの必要能力を決める重要な値である。抵抗値が大きいと駆動回路に極めて大きな電圧が必要となるため、温度調整などに使用する制御回路(通常、半導体で構成される)の電源電圧(5〜12V程度)を考えると、両回路で電源を共通化できない等の問題が生じる。このため、抵抗発熱体の持つ電気抵抗値の調整が必要となるのである。
他方、光通信分野で用いられる「熱光学位相シフタ」等の光学部品も、抵抗発熱体を含んでいる(例えば、特開平6−34926号公報参照)。この種光学部品の抵抗発熱体に内蔵された抵抗体は、その幅が数μmから数十μm程度であるのに対し、その長さが2〜5mm程度であってその幅に比べると非常に長い。つまり、この種光学部品に使用される抵抗発熱体では、上述した場合とは異なり、抵抗体が微細な細線状(微細なストライプ状)となっているのである。これは、例えば熱光学位相シフタについて言えば、その光導波路部分は、その幅が5μm程度、その長さが2〜5mm以上の細線状であるため、このような形状の光導波路部分のみを選択的に加熱するための抵抗発熱体では、抵抗体も同様の細線状であることが必要だからである。
この場合、細線状とした抵抗体の幅が数μm程度しかないことから、上述した場合のように抵抗体それ自体の形状を工夫することによってその電気抵抗値を任意に設定する、といった手法を採ることは困難である。そのような抵抗体の形状を実現するには非常に微細な加工が必要となるからである。
また、熱光学位相シフタの形成に使用する半導体プロセスに起因する理由により、抵抗体は、通常は数百nm程度にしか成膜することができない。このため、細線状抵抗体の厚みについても限界がある。細線状抵抗体を形成するための材料についても、光導波路部分を形成するガラス材料との密着性や加工性、安定性などを考慮すると、選択範囲はそれほど広くない。
以上述べたように、熱光学位相シフタ等の光学部品に使用する抵抗発熱体については、抵抗体の形状が細線状でなければならないという制約から、抵抗体それ自体の形状に工夫を加えることで所望の電気抵抗値特性を持った加熱素子(特に低い電気抵抗値を持つ加熱素子)を製作することは、非常に困難である。しかも、その製法上並びに材料上の制約から、必要に応じて抵抗発熱体の厚さを調整する、あるいは必要に応じて使用する材料を変更する、といった対応も容易ではない。
本発明に関連する他の従来技術としては、次のようなものがある。
特開平2001−301219号公報には、細線状抵抗体を使用したサーマルプリントヘッドが開示されている。このサーマルプリントヘッドは、その請求項1に記載されているように、「ライン状を成す抵抗体と、電源線、グランド線を有するとともに集積回路装置を搭載し、該集積回路装置が前記抵抗体を介して前記電源線に接続される第1電極とグランド線に接続される第2電極とを有するトランジスタを複数内蔵しており、前記トランジスタが導通することにより前記抵抗体に流れる電流によって前記抵抗体が発熱するサーマルプリントヘッドにおいて、前記集積回路装置は前記第2電極をグランド線に接続するパッドを複数個有していることを特徴とする」ものである。そして、このような構成とすることにより、「トランジスタの第2電極をパッドに接続する配線を可及的に短くすることができ、その分、配線抵抗が小さくなるとともに、各トランジスタ間の配線抵抗バラツキが少なくなる。その結果、無駄な電力消費が低減され、携帯型のサーマルプリントヘッドでは電池寿命が延びる。また、配線抵抗による電圧降下を小さくできるので、出力電圧の低い電池電源を使って駆動することもできる。さらに、各トランジスタ間の配線抵抗バラツキが少なくなり、抵抗体部分の発熱バラツキも改善されるので、サーマルプリントヘッドによって形成される画像の質も向上する」とされている。
特開平2001−301219号公報に開示されたサーマルプリントヘッドでは、前記抵抗体と前記電源線とは、間隔をおいて配置された複数の配線によって互いに接続されており、また、前記トランジスタの各々の第1電極は配線を介して前記抵抗体に接続されている。前記トランジスタの前記第1電極と前記第2電極は、例えばMOSトランジスタのドレインとソースをそれぞれ意味している。前記集積回路装置内の一つのトランジスタがONすると、前記抵抗体を介して前記電源線から前記グランド線に向かって当該トランジスタに電流が流れる。その電流は、前記電源線と前記抵抗体とを接続する2本の配線と、それら2本の配線で挟まれた前記抵抗体の部分を通過して流れるので、当該抵抗体のその部分のみを選択的に発熱させることができる。
さらに、特開平2002−008901号公報には、薄膜抵抗体、ハイブリッドIC及びMMIC(Microwave Monolithic Integrated Circuit)が開示されている。この薄膜抵抗体は、「薄膜抵抗に接続される第1電極と第2電極を、これら両電極の対向する方向に対して細長い凸凹形状にそれぞれ形成すると共に、前記第1電極の凸凹形状の電極片の側辺と前記第2電極の凸凹形状の電極片の側辺が所定の間隔となるようにし、さらに、互いに対向する前記側辺間にそれぞれ薄膜抵抗を形成する」というものである。即ち、この薄膜抵抗体は、前記第1電極の先端部を櫛形にして凸凹形状の電極片を形成すると共に、前記第2電極の先端部を櫛形にして凸凹形状の電極片を形成し、前記第1電極の櫛形電極片の間の隙間に前記第2電極の櫛形電極片をそれぞれ挿入して、両電極片を互いに係合させたものである。そして、係合せしめられた櫛形電極片の各々の間の隙間に分割して薄膜抵抗を配置している。
このような構成とすることにより、「当該薄膜抵抗体の全体形状が線路幅に近似した寸法に形成可能となり、その結果、薄膜抵抗体の形成部位においても所定の特性インピーダンスで形成できる」、とされている。
抵抗発熱体の動作安定性と信頼性を最も重視した場合に、抵抗体によく使用される材料は、窒化タンタル(TaN)である。TaNは、安定成膜領域での抵抗率が通常200〜300μΩ・cm程度と大きいから、半導体回路用の薄膜ヒーターとして使用した場合の電気抵抗値はかなり高くなる。例えば、TaN膜を厚さ200nm、幅10μm、長さ2mmの細線状に加工した場合、その電気抵抗値は2〜3kΩとなる。このような電気抵抗値を持つTaN製の細線状抵抗体を用いて300mWの発熱を得ようとすると、当該細線状抵抗体の駆動に必要な電源電圧は17〜30Vという非常に大きな値となってしまう。
よって、TaN製の細線状抵抗体を用いて小型で制御性に優れた発熱素子を製作しようとしても、駆動電源の大型化という問題が生じることから、その実現は不可能である。これは、TaNと同様の比較的大きい抵抗率を持つ窒化チタン(TiN)についても言えることである。
【発明の開示】
そこで、本発明の目的とするところは、窒化タンタルや窒化チタンのように抵抗率が比較的大きい材料を抵抗体に使用する場合であっても、その材料から得られる電気抵抗値よりも低い見かけの電気抵抗値(外部から見た当該抵抗発熱体の電気抵抗値)が得られる、細線状抵抗体を備えた抵抗発熱体と、その抵抗発熱体を備えた熱光学位相シフタを提供することにある。
本発明の他の目的は、見かけの電気抵抗値を任意の値に調整することが容易に行える、細線状抵抗体を備えた抵抗発熱体と、その抵抗発熱体を備えた熱光学位相シフタを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、簡便な電子回路により発熱量を制御することが可能な、細線状抵抗体を備えた抵抗発熱体と、その抵抗発熱体を備えた熱光学位相シフタを提供することにある。
尚、上記の特開平2001−301219号公報に開示されたサーマルプリントヘッドでは、前記電源線と細線状の前記抵抗体とを接続する2本の配線で挟まれた前記抵抗体の部分を通過して電流が流れ、それによって当該抵抗体のその部分のみを選択的に発熱させる技術も開示されているが、この技術では、「窒化タンタルや窒化チタンのように抵抗率が比較的大きい材料を抵抗体に使用する場合であっても、その材料から得られる電気抵抗値よりも低い見かけの電気抵抗値が得られる」ようにする、という本発明の目的を達成できない。よって、本発明に係る抵抗発熱体とは明らかに異なるものである。
また、上記の特開平2002−008901号公報に開示された薄膜抵抗体は、その形態が細線状ではないから、本発明のような「細線状抵抗体を備えた抵抗発熱体」とは言えない。また、その解決しようとする課題(目的)は、「線路幅に比べて前記第1電極と前記第2電極が大幅に広くなると、伝送線路として見たときに、所定の特性インピーダンス(例えば50Ω)からずれてしまい、ミスマッチングを生じて所望の動作が期待できなくなる」、というものであり、その効果は「当該薄膜抵抗体の全体形状が線路幅に近似した寸法に形成可能となり、その結果、薄膜抵抗体の形成部位においても所定の特性インピーダンスで形成できる」というものであるから、これらの点においても本発明に係る抵抗発熱体とは明らかに異なっている。
ここに明記しない本発明の他の目的は、以下の説明および添付図面から明らかになるであろう。
(1) 本発明の抵抗発熱体は、
細線状の抵抗体と、
前記抵抗体の片側に当該抵抗体に沿って配置された第1電極と、
前記抵抗体の前記第1電極とは反対の側に当該抵抗体に沿って配置された第2電極とを備え、
前記第1電極は、前記抵抗体に沿って間隔を置いて配置された複数の枝部によって複数の第1接続点で前記抵抗体に接続されており、
前記第2電極は、前記抵抗体に沿って間隔を置いて配置された複数の枝部によって複数の第2接続点で前記抵抗体に接続されており、
前記第2接続点の各々は、前記第1接続点に各々に対して、前記抵抗体の長手方向にずれた位置にあって、前記第1接続点の一つとその第1接続点に隣接する前記第2接続点との間にある前記抵抗体の部分が、当該抵抗体の有効領域として機能する、というものである。
(2) 本発明の抵抗発熱体では、細線状の抵抗体の片側に当該抵抗体に沿って配置された第1電極を設けると共に、前記抵抗体の前記第1電極とは反対の側に当該抵抗体に沿って配置された第2電極を設けている。前記第1電極は、前記抵抗体に沿って間隔を置いて配置された複数の枝部によって複数の第1接続点で前記抵抗体に接続されており、前記第2電極は、前記抵抗体に沿って間隔を置いて配置された複数の枝部によって複数の第2接続点で前記抵抗体に接続されている。そして、前記第2接続点の各々は、前記第1接続点に各々に対して、前記抵抗体の長手方向にずれた位置にあって、前記第1接続点の一つとその第1接続点に隣接する前記第2接続点との間にある前記抵抗体の部分の各々が、当該抵抗体の有効領域として機能するようになっている。
(3) 本発明の抵抗発熱体の好ましい例では、前記第1接続点と前記第2接続点が前記抵抗体の長手方向に交互に配置される。
(4) 本発明の熱光学位相シフタは、
光導波路と、
前記光導波路を加熱するために設けられた、上記(1)〜(3)に記載されたいずれかの前記抵抗発熱体とを備え、
前記抵抗発熱体の前記抵抗体は前記光導波路に沿って配置されている、というものである。
(5) 本発明の熱光学位相シフタでは、光導波路を加熱するために設けられた、上記(1)〜(3)に記載されたいずれかの前記抵抗発熱体とを備えており、前記抵抗発熱体の前記抵抗体は前記光導波路に沿って配置されている。
【図面の簡単な説明】
第1A図は、本発明の第1実施例に係る抵抗発熱体を示す平面図である。
第1B図は、第1A図の等価回路図である。
第2A図は、本発明の第2実施例に係る抵抗発熱体を示す平面図である。
第2B図は、第2A図の等価回路図である。
第3A図は、本発明の第3実施例に係る抵抗発熱体を示す平面図である。
第3B図は、第3A図の等価回路図である。
第4A図は、本発明の第4実施例に係る抵抗発熱体を示す平面図である。
第4B図は、第4A図の等価回路図である。
第5A図〜第5E図は、本発明の第4施形態に係る抵抗発熱体の製造方法をその工程順に示す要部概略断面図である。
第6図は、本発明の第5実施例に係る熱光学位相シフタの構成を示す平面図である。
第7A図は、従来の抵抗発熱体を示す平面図である。
第7B図は、第7A図の等価回路図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明に係る抵抗発熱体について説明する。
本発明によれば、細線状の前記抵抗体は、前記第1接続点と前記第2接続点によって、複数の前記有効領域とそれ以外の非有効領域に分割される。複数の前記有効領域は、前記第1電極と前記第2電極に対して並列に接続されるから、窒化タンタルや窒化チタンのように抵抗率が比較的大きい材料を前記抵抗体に使用する場合であっても、その材料から得られる電気抵抗値よりも低い見かけの電気抵抗値(外部から見た当該抵抗発熱体の電気抵抗値)が得られる。その結果、簡便な電子回路によって当該抵抗発熱体の発熱量を制御することが可能となる。
また、前記第1電極の枝の数と位置あるいは前記第2電極の枝の数と位置を変えることにより、前記有効領域の数と位置と長さを変えることができるから、当該抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値(外部から見た当該抵抗発熱体の電気抵抗値)を任意の値に調整することが容易に行える。
本発明の抵抗発熱体の好ましい例では、前記第1電極と前記第2電極つまり正負の電極が、前記抵抗体の長手方向に交互に並ぶことになるので、前記抵抗体のほぼ全体で発熱が生じる。よって、当該抵抗発熱体の長手方向の温度均一性が向上する、という利点が得られる。さらに、当該抵抗発熱体の長手方向の温度均一性の向上により、前記抵抗体それ自体の劣化を避けることが可能になるから、当該抵抗発熱体の長期信頼性が向上する、という利点も得られる。
本発明の抵抗発熱体の他の好ましい例では、前記有効領域の前記抵抗体の長手方向の長さが全て等しくなるように、前記第1接続点と前記第2接続点が配置される。この例では、前記有効領域のそれぞれで発生する熱量(発熱量)が同一となるため、当該抵抗発熱体の長手方向の温度均一性が向上し、前記抵抗体へのストレスも大幅に緩和することができる、という利点が得られる。加えて、前記第1電極と前記第2電極(例えば正電極と負電極)の間にある前記有効領域の電気抵抗値が全て同一となるため、設計や制御が簡便になって非常に扱いやすい、という利点もある。
本発明の抵抗発熱体のさらに他の好ましい例では、前記第1接続点および前記第2接続点の任意の二つが、前記抵抗体の両端にそれぞれ配置される。この例では、前記抵抗体の全体を有効利用することができるから、外部の駆動回路からみた抵抗発熱体の見かけの抵抗値R’は、その抵抗発熱体の有効領域数nだけで決定されることが分かる。これは、見かけの抵抗値R’が有効領域数nのみで設計できることを意味するから、設計の見通しが非常に良くなる、という利点も生じる。
本発明の抵抗発熱体のさらに他の好ましい例では、前記抵抗体が窒化チタンあるいは窒化タンタルを主成分とする材料から形成される。この例では、前記抵抗体用の材料の信頼性が向上すると共に、窒化チタン、窒化タンタルともに抵抗率が比較的大きいので、本発明の利点を最大限に利用することができる、という利点がある。
本発明の抵抗発熱体のさらに他の好ましい例では、前記第1電極および前記第2電極が、金、白金、クロム、チタン、銅、アルミ、窒化チタンおよび窒化タンタルからなる群から選ばれる少なくとも2つを含む材料から形成される。この例では、前記第1電極および前記第2電極の電気抵抗値を前記抵抗体の電気抵抗値に比べて十分低くすることができるから、前記抵抗体での発熱をより効率的に行うことが可能となる、という利点がある。
このため、上述した本発明の抵抗発熱体と同様の効果が得られる。また、本発明の抵抗発熱体から発生する熱を効率的に利用することができる、という利点もある。
以下、本発明に係る抵抗発熱体の好適な実施例について、添付図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施例)
第1A図および第1B図は、本発明の第1実施例に係る抵抗発熱体の構成を示す平面図と等価回路図である。
第1A図に示すように、本発明の第1実施例に係る抵抗発熱体は、絶縁性基板(図示せず)の上に形成されており、所定長さに設定された細線状の抵抗体30と、その抵抗体30の片側(第1A図では、上側)に当該抵抗体30に沿って配置された正電極10と、抵抗体30の正電極10とは反対の側(第1A図では、下側)に抵抗体30に沿って配置された負電極20とを備えている。
抵抗体30は基板上に直線状に形成されており、その幅は全長にわたって一様で例えば10μmである。抵抗体30の長さは例えば2mm、その厚さは例えば200nmである。ここでは、抵抗体30はTaNまたはTiNにより形成されている。
正電極10は抵抗体30に沿って延在しており、両者の間には隙間が設けられている。負電極20も抵抗体30に沿って延在しており、両者の間には隙間が設けられている。正電極10と負電極20はいずれも抵抗体30に対して平行である。正電極10と負電極20は、いずれも抵抗体30よりも抵抗率が十分小さい導電体から形成されている。ここでは、アルミニウム(Al)とチタン(Ti)と金(Au)の三層を積層してなる三層構造の導電体から形成されている。
正電極10は、接続部11と延長部12と2本の枝部13と14を有している。接続部11は、外部回路との接続に使用される、つまりボンディングパッドとして使用される。延長部12はストライプ状で、接続部11から抵抗体30に平行に延在している。延長部12は、抵抗体30との間に枝部13と14を配置するために使用される。枝部13と14は、延長部12よりはるかに細いストライプ状で、抵抗体30と延長部12に対して直交していると共に、抵抗体30に沿って間隔を置いて配置されている。枝部13は、接続点P2で抵抗体30に接続されている。枝部14は、接続点P3で抵抗体30に接続されている。正電極10の電気抵抗値は、抵抗体30のそれに比べて十分に低く設定されている。
同様に、負電極20は、接続部21と延長部22と2本の枝部23と24を有している。接続部21は、外部回路との接続に使用される、つまりボンディングパッドとして使用される。延長部22はストライプ状で、接続部21から抵抗体30に平行に延在している。延長部22は、抵抗体30との間に枝部23と24を配置するために使用される。枝部23と24は、延長部22よりはるかに細いストライプ状で、抵抗体30と延長部22に対して直交していると共に、抵抗体30に沿って間隔を置いて配置されている。枝部23は、接続点P1で抵抗体30に接続されている。枝部24は、接続点P4で抵抗体30に接続されている。負電極20の電気抵抗値も、抵抗体30のそれに比べて十分に低く設定されている。
正電極10の枝部13と14の接続点P2とP3は、抵抗体30の長手方向にずれた位置にある。負電極20の枝部23と24の接続点P1とP4も、抵抗体30の長手方向にずれた位置にある。負電極20の接続点P1はさらに、正電極10の接続点P2とP3に対して、抵抗体30の長手方向にそれぞれずれた位置にある。負電極20の接続点P4も、正電極10の接続点P2とP3に対して、抵抗体30の長手方向にそれぞれずれた位置にある。つまり、接続点P1〜P4はすべて異なった位置に設定されているのである。
接続点P1〜P4を以上のように設定した結果、本発明の第1実施例に係る抵抗発熱体(第1A図および第1B図参照)では、抵抗体30のうち、正電極10の接続点P2と負電極20のP1との間にある抵抗体30の部分31と、正電極40の接続点P3と負電極20のP4との間にある抵抗体30の部分32とが、有効領域として機能する。これらの有効領域31と32以外の部分は、「抵抗部」としては使用されない非有効領域である。
正電極10に所定の電源電圧を印加すると共に負電極20を接地電位にすると、正電極10から負電極20に向かって電流が流れる。その場合、正電極10の枝部13から抵抗体30の有効領域31を通って負電極20の枝部23に電流が流れ、同時に正電極10の枝部14から抵抗体30の有効領域32を通って負電極20の枝部24に電流が流れる。正電極10の枝部13と14の間には流れない。枝部13と14の電位は同じだからである。当然のことながら、抵抗体30の両端部、即ち負電極20の枝部23より左側の部分と負電極20の枝部24より右側の部分にも電流は流れない。
有効領域31の電気抵抗値をR1、有効領域32の電気抵抗値をR2とし、正電極10と負電極20の電気抵抗値を無視できるとすると、抵抗体30の等価回路図は第1B図のように表すことができる。即ち、本発明の第1実施例に係る抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値(外部から見た当該抵抗発熱体の電気抵抗値)は、二つの抵抗R1とR2を並列接続した値に等しい。よって、本発明の第1実施例に係る抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値を、抵抗体30の持つ抵抗率から期待される電気抵抗値に比べて大きく低下させることができる。
以上述べたように、本発明の第1実施例の抵抗発熱体(第1A図および第1B図参照)では、TaNやTiNのように抵抗率が比較的大きい材料を抵抗体30に使用する場合であっても、その材料から得られる電気抵抗値よりも低い見かけの電気抵抗値が得られる。その結果、簡便な電子回路によって当該抵抗発熱体の発熱量を制御することが可能となる。
また、正電極10の枝の数と位置あるいは負電極20の枝の数と位置を適宜変えることにより、抵抗体30の有効領域の数と位置と長さを任意に変えることができるから、当該抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値を任意の値に調整することが容易に行える。
よって、制御回路、駆動回路等と電源を共通化することにより、小型で使い勝手の良い発熱素子を作製することが可能である。
第7A図および第7B図は、比較例としての、従来の抵抗発熱体の構成を示す平面図と等価回路図である。第7A図の従来の抵抗発熱体は、細線状の抵抗体130の両端に正電極110と負電極120をそれぞれ接続したものである。したがって、その等価回路は第7B図のようになり、当該抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値は抵抗体130の持つ電気抵抗値Rに等しくなる。よって、いったん抵抗体130が形成されると、その後に当該抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値を調整することは不可能である。
本発明の第1実施例の抵抗発熱体の構成を一般化すると、次のようになる。
外部の駆動回路からみた抵抗発熱体の見かけの抵抗値をR’とし、その抵抗発熱体の各有効領域が細線状抵抗体の全体に占める割合をそれぞれm1、m2、・・・、mn(nは有効領域の数であり、n≠0)とすると、m、m、・・・、m<1である。この場合、次の数式(1)が成り立つ。
(1/R’)=(1/R)×{(1/m)+(1/m)+・・・+(1/m)} ・・・(1)
〜mはいずれも1より小であるから、R’<Rである。したがって、第7A図および第7B図に示す従来の抵抗発熱体よりも見かけの電気抵抗値を下げられることが分かる。
(第2実施例)
第2A図および第2B図は、本発明の第2実施例に係る抵抗発熱体の構成を示す平面図と等価回路図である。
第2A図に示すように、本発明の第2実施例に係る抵抗発熱体は、絶縁性基板(図示せず)の上に形成されており、所定長さに設定された細線状の抵抗体30Aと、その抵抗体30Aの片側(第2A図では、上側)に当該抵抗体30Aに沿って配置された正電極10Aと、抵抗体30Aの正電極10Aとは反対の側(第2A図では、下側)に抵抗体30Aに沿って配置された負電極20Aとを備えている。
抵抗体30Aのその他の構成は、第1実施例の抵抗体30と同じであるから、その説明は省略する。
正電極10Aは抵抗体30Aに沿って延在しており、両者の間には隙間が設けられている。負電極20Aも抵抗体30Aに沿って延在しており、両者の間には隙間が設けられている。正電極10Aと負電極20Aはいずれも抵抗体30Aに対して平行である。正電極10Aと負電極20Aは、いずれも抵抗体30Aよりも抵抗率が十分小さい導電体から形成されている。
正電極10Aは、接続部11Aと延長部12Aと3本の枝部13Aと14Aと15Aを有している。接続部11Aは、外部回路との接続に使用される。延長部12Aはストライプ状で、接続部11Aから抵抗体30Aに平行に延在している。延長部12Aは、抵抗体30Aとの間に枝部13Aと14Aと15Aを配置するために使用される。枝部13Aと14Aと15Aは、延長部12Aよりはるかに細いストライプ状で、抵抗体30Aと延長部12Aに対して直交していると共に、抵抗体30Aに沿って間隔を置いて配置されている。
枝部13Aは、接続点P11で抵抗体30Aに接続されている。枝部14Aは、接続点P13で抵抗体30Aに接続されている。枝部15Aは、接続点P15で抵抗体30Aに接続されている。正電極10Aの電気抵抗値は、抵抗体30Aのそれに比べて十分に低く設定されている。
同様に、負電極20Aは、接続部21Aと延長部22Aと3本の枝部23Aと24Aと25Aを有している。接続部21Aは、外部回路との接続に使用される。延長部22Aはストライプ状で、接続部21Aから抵抗体30Aに平行に延在している。延長部22Aは、抵抗体30Aとの間に枝部23Aと24Aと25Aを配置するために使用される。枝部23Aと24Aと25Aは、延長部22Aよりはるかに細いストライプ状で、抵抗体30Aと延長部22Aに対して直交していると共に、抵抗体30Aに沿って間隔を置いて配置されている。
枝部23Aは、接続点P12で抵抗体30Aに接続されている。枝部24Aは、接続点P14で抵抗体30Aに接続されている。枝部25Aは、接続点P16で抵抗体30Aに接続されている。負電極20Aの電気抵抗値も、抵抗体30Aのそれに比べて十分に低く設定されている。
正電極10Aの枝部13Aと14Aと15Aの接続点P11とP13とP15は、抵抗体30Aの長手方向にずれた位置にある。負電極20Aの枝部23Aと24Aと25Aの接続点P12とP14とP16も、抵抗体30Aの長手方向にずれた位置にある。負電極20Aの接続点P12はさらに、正電極10Aの接続点P11とP13とP15に対して、抵抗体30Aの長手方向にそれぞれずれた位置にある。負電極20Aの接続点P14も、正電極10Aの接続点P11とP13とP15に対して、抵抗体30Aの長手方向にそれぞれずれた位置にある。負電極20Aの接続点P16も、正電極10Aの接続点P11とP13とP15に対して、抵抗体30Aの長手方向にそれぞれずれた位置にある。つまり、接続点P11〜P16はすべて異なった位置に設定されているのである。
接続点P11〜P16を以上のように設定した結果、本発明の第2実施例に係る抵抗発熱体(第2A図および第2B図参照)では、抵抗体30Aのうち、部分31Aと、部分32Aと、部分33Aと、部分34Aと、部分35Aとが、有効領域として機能する。これら5つの有効領域31Aと32Aと33Aと34Aと35A以外の部分は、「抵抗部」としては使用されない非有効領域である。尚、部分31Aは、正電極10Aの接続点P11と負電極20AのP12との間にある抵抗体30Aの一部分である。部分32Aは、正電極10Aの接続点P13と負電極20AのP12との間にある抵抗体30Aの一部分である。部分33Aは、正電極10Aの接続点P13と負電極20AのP14との間にある抵抗体30Aの一部分である。部分34Aは、正電極10Aの接続点P15と負電極20AのP14との間にある抵抗体30Aの一部分である。そして、部分35Aは、正電極10Aの接続点P15と負電極20AのP16との間にある抵抗体30Aの一部分である。
正電極10Aに所定の電源電圧を印加すると共に負電極20Aを接地電位にすると、正電極10Aから負電極20Aに向かって電流が流れる。その場合、正電極10Aの枝部13Aから抵抗体30Aの有効領域31Aを通って負電極20Aの枝部23Aに電流が流れ、正電極10Aの枝部14Aから抵抗体30Aの有効領域32Aを通って負電極20Aの枝部23Aに電流が流れ、正電極10Aの枝部14Aから抵抗体30Aの有効領域33Aを通って負電極20Aの枝部24Aに電流が流れ、正電極10Aの枝部15Aから抵抗体30Aの有効領域34Aを通って負電極20Aの枝部24Aに電流が流れ、正電極10Aの枝部15Aから抵抗体30Aの有効領域35Aを通って負電極20Aの枝部25Aに電流が流れる。正電極10Aの枝部13A(接続点P11)より外側と負電極20Aの枝部25A(接続点P16)の外側には流れない。
有効領域31A〜35Aの電気抵抗値をそれぞれR1、R2、R3、R4、R5とし、正電極10Aと負電極20Aの電気抵抗値を無視できるとすると、抵抗体30Aの等価回路図は第2B図のように表すことができる。即ち、本発明の第2実施例に係る抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値R’は、5つの分割抵抗R1〜R5を並列接続した値に等しい。よって、本発明の第2実施例に係る抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値R’は、抵抗体30Aの持つ抵抗率から期待される電気抵抗値に比べて大きく低下する。
よって、本発明の第2実施例の抵抗発熱体では、本発明の第1実施例の抵抗発熱体の場合と同様の効果が得られる。また、抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値R’を第1実施例の抵抗発熱体のそれよりも低くすることができる効果がある。
さらに、本発明の第2実施例の抵抗発熱体では、正電極10Aの接続点P11とP13とP15と、負電極20Aの接続点P12とP14とP16とが、抵抗体30Aの長手方向に沿って交互に配置されているため、隣接する接続点に挟まれた抵抗体30Aの部分はすべて有効領域となる。よって、非有効領域は抵抗体30Aの両端部を除いて完全に消滅することになる。これは、抵抗体30Aの利用可能領域を最大限活用できることを意味する。したがって、抵抗体30Aのほぼ全ての領域で発熱させることができ、温度均一性が向上する。さらには、発熱作用を第1実施例よりも広い有効領域が負担するため、抵抗体30Aにかかる負荷が分散され、抵抗発熱体自体の劣化を避けることができる等の利点もある。
(第3実施例)
第3A図および第3B図は、本発明の第3実施例に係る抵抗発熱体の構成を示す平面図と等価回路図である。
第3A図に示すように、本発明の第3実施例に係る抵抗発熱体は、第1実施例と同様に、絶縁性基板(図示せず)の上に形成されており、所定長さに設定された細線状の抵抗体30Bと、その抵抗体30Bの片側(第3A図では、上側)に当該抵抗体30Bに沿って配置された正電極10Bと、抵抗体30Bの正電極10Bとは反対の側(第3A図では、下側)に抵抗体30Bに沿って配置された負電極20Bとを備えている。
抵抗体30Bのその他の構成は、第1実施例の抵抗体30と同じであるから、その説明は省略する。
正電極10Bの構成は、3本の枝部13B、14B、15Bを有していることを除き、第1実施例の正電極10と同じである。尚、11Bは接続部、12Bは延長部である。
正電極10Bの枝部13Bは、接続点P21で抵抗体30Bに接続されている。枝部14Bは、接続点P23で抵抗体30Bに接続されている。枝部15Bは、接続点P24で抵抗体30Bに接続されている。
負電極20Bの構成は、第1実施例の負電極20と同じである。尚、21Bは接続部、22Bは延長部、23Bと24Bは枝部である。
負電極20Bの枝部23Bは、接続点P22で抵抗体30Bに接続されている。枝部24Bは、接続点P25で抵抗体30Bに接続されている。
本実施例では、抵抗体30Bの接続点P21とP22の間に有効領域31Bが形成され、接続点P22とP23の間に有効領域32Bが形成され、接続点P24とP25の間に有効領域33Bが形成される。接続点P21〜P25の位置は、これらの三つの有効領域31B、32B、33Bの長さが互いに等しくなるように設定されている。このため、有効領域31B、32B、33Bの電気抵抗値が全て等しくなる。
有効領域31B〜33Bの電気抵抗値をそれぞれR1、R2、R3(ただし、R1=R2=R3)とし、正電極10Bと負電極20Bの電気抵抗値を無視できるとすると、抵抗体30Bの等価回路図は第3B図のように表すことができる。即ち、本発明の第3実施例に係る抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値R’は、3つの分割抵抗R1〜R3を並列接続した値に等しい。よって、その見かけの電気抵抗値R’は、抵抗体30Bの持つ抵抗率から期待される電気抵抗値に比べて大きく低下する。
このように、本発明の第3実施例の抵抗発熱体では、本発明の第1実施例の抵抗発熱体の場合と同様の効果が得られる。
さらに、外部の駆動回路からみた抵抗発熱体の見かけの抵抗値R’は、その抵抗発熱体の有効領域の数をn(n≠0)、各有効領域が細線状抵抗体の全体に占める割合をそれぞれm(m<1)とすると、次の数式(2)が成り立つ。
1/R’=(1/R)×(n/m) ・・・(2)
したがって、抵抗発熱体の見かけの抵抗値R’を、抵抗発熱体の有効領域の数nと、各有効領域が細線状抵抗体の全体に占める割合mとによって、容易に決定することができる、という利点もある。
(第4実施例)
第4A図および第4B図は、本発明の第4実施例に係る抵抗発熱体の構成を示す平面図と等価回路図である。
第4A図に示すように、本発明の第4実施例に係る抵抗発熱体は、第1実施例のそれと同様に、絶縁性基板(図示せず)の上に形成されており、所定長さに設定された細線状の抵抗体30Cと、その抵抗体30Cの片側(第4A図では、上側)に当該抵抗体30C沿って配置された正電極10Cと、抵抗体30Cの正電極10Cとは反対の側(第4A図では、下側)に抵抗体30Cに沿って配置された負電極20Cとを備えている。
抵抗体30Cのその他の構成は、接続点P31の外側部分と接続点P36の外側部分が除去されている、換言すれば、接続点P31と接続点P36が抵抗体30Cの両端にそれぞれ配置されていることを除いて、第2A図および第2B図の第2実施例の抵抗体30Aと同じであるから、その説明は省略する。
正電極10Cの構成は、3本の枝部13C、14C、15Cの位置が異なっている点を除き、第2実施例の正電極10Aと同じである。尚、11Cは接続部、12Cは延長部である。
正電極10Cの枝部13Cは、接続点P31で抵抗体30Cに接続されている。枝部14Cは、接続点P33で抵抗体30Cに接続されている。枝部15Cは、接続点P35で抵抗体30Cに接続されている。
負電極20Cの構成は、3本の枝部23C、24C、25Cの位置が異なっている点を除き、第2実施例の負電極20Aと同じである。尚、21Cは接続部、22Cは延長部である。
負電極20Cの枝部23Cは、接続点P32で抵抗体30Cに接続されている。枝部24Cは、接続点P34で抵抗体30Cに接続されている。枝部25Cは、接続点P36で抵抗体30Cに接続されている。
本実施例では、抵抗体30Cの接続点P31とP32の間に有効領域31Cが形成され、接続点P32とP33の間に有効領域32Cが形成され、接続点P33とP34の間に有効領域33Cが形成され、接続点P34とP35の間に有効領域34Cが形成され、接続点P35とP36の間に有効領域35Cが形成される。接続点P31〜P36の位置は、これらの5つの有効領域31C、32C、33C、34C、35Cの長さが互いに等しくなるように設定されている。このため、有効領域31C、32C、33C、34C、35Cの電気抵抗値が全て等しくなる。
有効領域31C〜35Cの電気抵抗値をそれぞれR1、R2、R3、R4、R5(ただし、R1=R2=R3=R4=R5)とし、正電極10Cと負電極20Cの電気抵抗値を無視できるとすると、抵抗体30Cの等価回路図は第4B図のように表すことができる。即ち、本発明の第4実施例に係る抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値R’は、5つの分割抵抗R1〜R5を並列接続した値に等しい。よって、その見かけの電気抵抗値R’は、抵抗体30Cの持つ抵抗率から期待される電気抵抗値に比べて大きく低下する。
このように、本発明の第4実施例の抵抗発熱体では、本発明の第1実施例の抵抗発熱体の場合と同様の効果が得られる。
また、外部の駆動回路からみた抵抗発熱体の見かけの抵抗値R’は、その抵抗発熱体の有効領域の数をn(n≠0)、各有効領域が細線状抵抗体の全体に占める割合をそれぞれm(m<1)とすると、上記数式(2)が成り立つ。そして、本発明の第4実施例の抵抗発熱体では、抵抗体30Cの両端に正電極10Cの枝13Cと負電極20Cの枝25Cがそれぞれ接続されているため、抵抗体30Cの全体を有効利用することができる。したがって、
m×n=1 ・・・(3)
が成り立つ。
数式(3)を数式(2)に代入すれば、次の数式(4)が得られる。
R’=R/(n) ・・・(4)
即ち、抵抗発熱体の見かけの抵抗値R’は、その抵抗発熱体の有効領域数nだけで決定されることが分かる。これは、見かけの抵抗値R’が有効領域数nのみを考慮して設計できることを意味するから、本発明の第4実施例に係る抵抗発熱体では、第3実施例で得られる効果に加えて設計の見通しが非常に良くなる、という利点も生じる。
次に、本発明の第4実施例に係る抵抗発熱体(第4A図および第4B図参照)の製造方法について説明する。
第5A図〜第5E図はその製造方法を工程順に示す要部断面図である。ここでは、抵抗体30Cの材料として抵抗率が200μΩ・cmのTiNを用いる。特開2000−294738号公報や特開平6−34925号公報に開示されているように、TiNは、TaNと同様に化学的に非常に安定であり、これを使用すると、優れた長期信頼性が得られる。
先ず最初に、第5A図に示すように、絶縁基板50の上に、スパッタリング法によってTiN層51(例えば厚さ200nm)、アルミニウム(Al)層52(例えば厚さ200nm)、チタン(Ti)層53(例えば厚さ100nm)、金(Au)層(例えば厚さ500nm)をこの順に積層形成する。絶縁基板50としては、ガラス基板、セラミック基板、シリコン基板上にシリカ膜を形成したもの等を使用できる。スパッタリング法に代えて、反応性スパッタリング法や電子ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法なども使用できる。ここではTiN層51が抵抗体30Cとして使用されるが、TaNあるいはそれ以外の材料でもよい。Al層52とTi層53とAu層54は、三層構造の導電層を形成し、パターン化した後に正電極10Cと負電極20Cとして使用される。Al層52とTi層53に代えて、銅(Cu)層、クロム(Cr)層、白金(Pt)層の三層構造としてもよいし、それ以外の導電層でもよい。
次に、第5B図に示すように、フォトリソグラフィ法を用いて、Au層54の上にパターン化されたフォトレジスト層60を形成する。このフォトレジスト層60は、正電極10Cと負電極20Cの持つ形状にAl層52とTi層53とAu層54をエッチングする際のマスクとして使用される。
そして、フォトレジスト層60をマスクとして、Au層54、Ti層53、Al層52の順にエッチングを行い、第5C図に示すように、これら三層よりなる正電極10Cと負電極20Cを形成する。この時のエッチングには、ウェットエッチング法や、ミリング、反応性イオンエッチング等のドライエッチング法を任意に使用できる。
フォトレジスト層60を除去し、正電極10Cと負電極20CやTiN層51の表面を洗浄してから、第5D図に示すように、フォトリソグラフィ法を用いて、TiN51の上にパターン化されたフォトレジスト層61を形成する。このフォトレジスト層61は、抵抗体30Cの持つ細線形状に窒化チタン層51をエッチングする際のマスクとして使用される。
そして、フォトレジスト層61をマスクとして、TiN層51のエッチングを行い、第5E図に示すように、TiN51よりなる抵抗体30Cを形成する。このエッチングの際には、ウェットエッチング法や、ミリング、反応性イオンエッチング等のドライエッチング法を任意に使用できる。こうして、第4A図および第4B図に示すような第4実施例の抵抗発熱体が完成する。
TiN51よりなる抵抗体30Cは、ここでは、幅が10μm、長さが2mm、厚さが200nmとしている。この場合、TiNの抵抗率が200μΩ・cmであるから、抵抗体30Cを用いて第7A図および第7B図に示す従来の抵抗発熱体の構成とした場合には、その電気抵抗値は2kΩとなる。この構成で300mWの発熱をさせようとすると、17V以上の電源電圧が必要となる。他方、電子回路の電源電圧は3V〜12V程度であるから、抵抗発熱体と電子回路とで電源の共通化を行うのは不可能である。抵抗発熱体専用の電源を設計することが必要となる。
しかし、TiN51よりなる抵抗体30Cを用いて第4A図および第4B図に示す第4実施例の抵抗発熱体のように構成すると、抵抗発熱体の有効領域数n=5であるから、上記数式(4)より、見かけの抵抗R’は、
R’=2kΩ/(5)=80Ω
となる。この場合に300mWの発熱をさせようとすると、必要な電源電圧は4.9Vである。よって、抵抗発熱体と電子回路とで電源の共通化を行うことは十分可能である。
仮に、抵抗発熱体の有効領域数n=8とすると、見かけの抵抗R’は、
R’=2kΩ/(8)=31.25Ω
となり、300mWの発熱を得るために必要な電源電圧は3.1V程度となる。よって、抵抗発熱体と電子回路とで電源の共通化を行うことがいっそう容易となることが分かる。
ここで、正電極10Cと負電極20C用の材料について説明する。正電極10Cと負電極20C用の材料としては、金、白金、クロム、チタン、銅、アルミ、窒化チタンおよび窒化タンタルからなる群から選ばれる少なくとも2つを含む材料を使用するのが好ましいが、これら以外の導電性材料も使用可能であることは言うまでもない。
本発明の抵抗発熱体では、正電極10Cと負電極20C用の材料の持つ比抵抗の値が重要である。即ち、極端な場合として、第7A図および第7B図に示した従来の抵抗発熱体の構成を採用し、正電極110と負電極120用の材料の持つ比抵抗値が、抵抗体130のそれと同一であったと仮定する。一般的に言えば、正電極と負電極の全長が、抵抗体130の全長と同じかそれ以上になることは珍しくない。そこで、正電極110と負電極120の全長が抵抗体130の長さに等しいと仮定すると、投入した電力の半分は正電極110と負電極120により消費されることになる。即ち、300mWの発熱を抵抗体130で得るために600mWの電力を投入しなければならなくなる。
同じ状況で第4A図および第4B図に示す第4実施例に係る抵抗発熱体の構成を採用すると、第7A図および第7B図の従来の抵抗発熱体よりも正電極10Cと負電極20Cの全長が長くなるため、抵抗体30Cの見掛けの電気抵抗値R’はその従来の抵抗発熱体よりも減少するが、正電極10Cと負電極20Cの合計電気抵抗値は増加することになる。したがって、抵抗体30Cによる発熱よりも正電極10Cと負電極20Cによる発熱の方が支配的になる、といった問題が生じることになる。このため、正電極10Cと負電極20Cの抵抗値は、抵抗体30Cのそれに比べて十分に低く設計する必要がある。
第4実施例で使用したAl層52とTi層53とAu層54の三層構造からなる正電極10Cと負電極20Cでは、正電極10Cの接続部(ボンディングパッド)11Cからその接続点P31、P33、P35までの電気抵抗値は1〜3Ω程度であり、負電極20Cの接続部(ボンディングパッド)21Cからその接続点P32、P34、P36までの電気抵抗値も1〜3Ω程度である。したがって、抵抗体30Cの有効領域数nが5の場合(第4A図および第4B図参照)には、正電極10Cと負電極20Cそれぞれの電気抵抗値を、抵抗体30Cの電気抵抗値の4%未満の値に抑えることが可能である。抵抗体30Cの有効領域数nを8とした場合であっても、抵抗体30Cの電気抵抗値の10%以下に抑えることができる。
(第5実施例)
第6図は、本発明の第5実施例に係る熱光学位相シフタの構成を示す平面図である。この熱光学位相シフタで使用されている抵抗発熱体は、本発明の第4実施例に係る抵抗発熱体と実質的に同一の構成を持つ。
本発明の第5実施例に係る熱光学位相シフタでは、絶縁性基板(図示せず)の中に当該基板に沿って延在する直線状の光導波路が形成されており、第6図にはその光導波路のコア70のみが概念的に示されている。光導波路コア70は、図示しないクラッド層によって囲まれている。
この熱光学位相シフタで使用されている抵抗発熱体は、所定長さに設定された細線状の抵抗体30Dと、その抵抗体30Dの片側(第6図では、上側)に当該抵抗体30Dに沿って配置された正電極10Dと、抵抗体30Dの正電極10Dとは反対の側(第6図では、下側)に抵抗体30Dに沿って配置された負電極20Dとを備えている。
抵抗体30Dの構成は、第4A図および第4B図の第4実施例の抵抗体30Cと同じである。抵抗体30Dは、光導波路コア70を囲むクラッド層の上に配置されており、光導波路コア70に平行に延在している。
正電極10Dは、接続部11DとL字状に形成された延長部12Dと3本の直線状の枝部13D、14D、15Dを備えている。枝部13Dは、一端にある接続点P41で抵抗体30Dに接続されている。枝部14Dは、接続点P43で抵抗体30Dに接続されている。枝部15Dは、接続点P45で抵抗体30Dに接続されている。
負電極20Dは、接続部21Dと直線状の延長部22Dと3本の直線状の枝部23D、24D、25Dを備えている。枝部23Dは、接続点P42で抵抗体30Dに接続されている。枝部24Dは、接続点P44で抵抗体30Dに接続されている。枝部25Dは、他端にある接続点P46で抵抗体30Dに接続されている。
抵抗体30Dの接続点P41とP42の間に有効領域31Dが形成され、接続点P42とP43の間に有効領域32Dが形成され、接続点P43とP44の間に有効領域33Dが形成され、接続点P44とP45の間に有効領域34Dが形成され、接続点P45とP46の間に有効領域35Dが形成される。接続点P41〜P46の位置は、これら5つの有効領域31D、32D、33D、34D、35Dの長さが互いに等しくなるように設定されている。このため、有効領域31D、32D、33D、34D、35Dの電気抵抗値が全て等しくなる。
有効領域31D〜35Dの電気抵抗値をそれぞれR1、R2、R3、R4、R5(ただし、R1=R2=R3=R4=R5)とし、正電極10Cと負電極20Cの電気抵抗値を無視できるとすると、抵抗体30Cの等価回路図は第4B図のように表すことができる。即ち、本発明の第5実施例に係る抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値R’は、5つの抵抗R1〜R5を並列接続した値に等しい。
本発明の第5実施例に係る熱光学位相シフタでは、抵抗発熱体に電流を流して抵抗体30Dにより熱を発生させ、生じた熱で光導波路コア70の温度を上げてその屈折率を変化させることにより、当該光導波路を伝播する光の位相を変化させることができる。
抵抗体30Dで消費される電力をなるべく抑えるには、光導波路コア70を効率よく加熱する必要がある。抵抗体30Dで生成される熱はガラス製のクラッド層を通して光導波路コア70に伝達されるため、光導波路コア70と発熱源である抵抗体30Dとの距離を光学特性に影響を与えない距離まで、可能な限り近づけて配置するのが好ましい。本実施例では、この点を考慮して、抵抗体30Dが光導波路コア70の近傍にそれ対して平行に形成・配置されているため、抵抗体30Dとコア70の距離を最短に保ち、抵抗体30Dで発生した熱を効率良くコア70に伝達することができる。また、コア70を加熱する領域において光導波方向における温度均一性が保たれるから、熱応力による光学特性の悪化を抑えることもできる。
(変形例)
上述した第1〜第5の実施例は本発明を具体化した例を示すものである。したがって、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を外れることなく種々の変形が可能であることは言うまでもない。例えば、正負両電極の接続部、延長部、枝部の数と位置と形状は、必要に応じて任意に変更が可能である。
以上詳述したように、本発明によれば、窒化タンタルや窒化チタンのように抵抗率が比較的大きい材料を抵抗体に使用する場合であっても、その材料から得られる電気抵抗値よりも低い見かけの電気抵抗値(外部から見た当該抵抗発熱体の電気抵抗値)が得られる。その結果、簡便な電子回路によって当該抵抗発熱体の発熱量を制御することが可能となる。また、当該抵抗発熱体の見かけの電気抵抗値を任意の値に調整することが容易に行える。このため、本発明は簡便な電子回路により制御可能な細線状の抵抗発熱体を実現する上で極めて有用である。





【図6】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
細線状の抵抗体と、
前記抵抗体の片側に当該抵抗体に沿って配置された第1電極と、
前記抵抗体の前記第1電極とは反対の側に当該抵抗体に沿って配置された第2電極とを備え、
前記第1電極は、前記抵抗体に沿って間隔を置いて配置された複数の枝部によって複数の第1接続点で前記抵抗体に接続されており、
前記第2電極は、前記抵抗体に沿って間隔を置いて配置された複数の枝部によって複数の第2接続点で前記抵抗体に接続されており、
前記第2接続点の各々は、前記第1接続点に各々に対して、前記抵抗体の長手方向にずれた位置にあって、前記第1接続点の一つとその第1接続点に隣接する前記第2接続点との間にある前記抵抗体の部分が、当該抵抗体の有効領域として機能する抵抗発熱体。
【請求項2】
前記第1接続点と前記第2接続点は、前記抵抗体の長手方向に交互に配置されている請求項1に記載の抵抗発熱体。
【請求項3】
前記第1接続点と前記第2接続点は、前記有効領域の前記抵抗体の長手方向の長さが全て等しくなるように、配置されている請求項1または2に記載の抵抗発熱体。
【請求項4】
前記第1接続点のうちの1つおよび前記第2接続点のうちの1つは、前記抵抗体の両端にそれぞれ配置されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の抵抗発熱体。
【請求項5】
前記抵抗体は、窒化チタンあるいは窒化タンタルを主成分とする材料から形成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の抵抗発熱体。
【請求項6】
前記第1電極および前記第2電極は、金、白金、クロム、チタン、銅、アルミ、窒化チタンおよび窒化タンタルからなる群から選ばれる少なくとも2つを含む材料から形成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の抵抗発熱体。
【請求項7】
光導波路と、
前記光導波路を加熱するために設けられた、請求項1〜6のいずれか1項に記載の前記抵抗発熱体とを備え、
前記抵抗発熱体の前記抵抗体は、前記光導波路に沿って配置されている熱光学位相シフタ。

【国際公開番号】WO2004/107813
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506566(P2005−506566)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007738
【国際出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】