説明

線維芽細胞の過剰増殖および分化状態の変化を含む皮膚疾患の治療ならびに予防のための、アミノペプチダーゼNおよび/またはジペプチジルペプチダーゼIVの活性を有する酵素の阻害剤の使用、ならびにそれらを含有する医薬調製品の使用

本発明は、それらの細胞により発現されるアラニルアミノペプチダーゼ(APN)およびジペプチジルペプチダーゼIV(DP IV)の阻害剤の単独効果または複合効果によって、ヒト線維芽細胞の(増殖に必須の)DNA合成を阻害する方法に関する。ヒト線維芽細胞のDNA合成(増殖)は、APNまたは/およびDP IVの阻害剤の投与によって、用量依存的に阻害される。本発明は、前記酵素を阻害する物質またはその組成物の適用およびその投与形態が、線維芽細胞の過剰増殖および線維芽細胞の分化状態の変化に関連した皮膚疾患の治療ならびに予防によく適していることを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノペプチダーゼN(APN, E.C. 3.4.11.2., CD13)または/およびジペプチジルペプチダーゼIV(DPIV, E.C. 3.4.14.5., CD26)の阻害剤の効果による、細胞増殖および分化に必須の線維芽細胞DNA合成の阻害について記載し、それは、アミノ酸誘導体、ペプチドもしくはペプチド誘導体に基づく、それぞれ特異的なそれらの酵素の阻害剤またはこれと同等の基質特異性(APNもしくは/およびDPIVと類似した酵素活性)を有する酵素の阻害剤の、個別の、同時の、または、時間的に速やかな連続的な適用によって起こり、それにより、線維芽細胞の増殖(DNA合成)および分化が抑制され、調節される。
【0002】
多くの皮膚疾患は、線維芽細胞の過剰増殖および分化状態の変化を伴う。それらの疾患は、散在性(筋)線維腫症(例えば、先天性散在性線維腫症)としても出現しうる良性の線維芽細胞過剰増殖状態(特に、感染後、炎症後、および外傷後の、肥厚性瘢痕、ケロイド、血管線維腫、皮膚線維腫、線維脂肪腫、潰瘍瘢痕)、ならびに、悪性の線維芽細胞過剰増殖状態(例えば、線維肉腫、異型線維黄色腫のような混合腫瘍、悪性線維性組織球腫、侵襲性血管粘液腫、腫瘍随伴病変)を含む。別のグループの疾患は、例えば、その異なる発現における局所性および全身性強皮症(限局性強皮症、全身性進行性強皮症、クレスト症候群)のような線維化自己免疫疾患、他の膠原病に伴って生じる皮膚硬化症、ならびに皮膚型の移植片対宿主病である。線維芽細胞の分化状態の変化は、現在のところ、大部分まだ明らかな病因論を持っていない、多数の繊維症の発現である。これらの疾患は、白斑(白点病、硬化性萎縮性苔癬)、および偽性強皮症の不均一なグループ(例えば、好酸球性/増殖性筋膜炎、例えば毒性オイル症候群、珪肺症、ポルフィリン症、好酸球増加筋痛症候群、丘疹性ムチン沈着症(粘液水腫性苔癬)またはボレリア菌関連線維症状態のような、外因性の要因によって生じる偽性強皮症など)を含む。加えて、例えば、慢性静脈不全または脂肪性リンパ浮腫に伴う鬱血性線維症の過程、男性型脱毛症(アンドロゲン性脱毛症)の線維化進行段階におけるような、二次的な硬化状態、ならびに稀な局所性線維芽細胞疾患(デュピュイトラン病、Ledderhose病、「ナックルパッド」、陰茎硬化(ペイロニー病、形成性陰茎硬化症))の発生がある。
【0003】
例えば、ジペプチジルペプチダーゼIVならびにアミノペプチダーゼNまたは同様の作用を持つ酵素のようなペプチダーゼは、それらの一部が、外酵素として細胞の原形質膜に局在し、他の細胞外構造物と相互作用し、酵素触媒性加水分解によって、ペプチド性伝達物質をそれぞれ活性化もしくは不活性化し、それにより細胞間連絡にとって重要であるので、細胞間の相互作用の制御および調節にとって特に興味深い(Yaron Aら: Proline-dependent structural and biological properties of peptides and proteins. Crit Rev Biochem Mol Biol 1993;28:31-81; Vanhoof Gら: Proline motifs in peptides and their biological processing. FASEB J 1995;9:736-744)。
【0004】
DP IVおよびAPNのような膜結合性ペプチダーゼは、免疫細胞、特にTリンパ球の活性化およびクローン性増殖の過程において重要な役割を果たすことが示された(Fleischer B: CD26 a surface protease involved in T-cell activation. Immunology Today 1994; 15:180-184; Lendeckel Uら: Role of alanyl aminopeptidase in growth and function of human T cells. International Journal of Molecular Medicine 1999; 4:17-27; Riemann Dら: CD13 - not just a marker in leukemia typing. Immunology Today 1999; 20: 83-88)。有糸分裂促進剤で刺激した単核球(MNZ)および濃縮したTリンパ球の、例えば、DNA合成、免疫刺激サイトカイン(IL-2, IL-6, IL-12, IFN-γ)の産生および分泌、ならびにB細胞のヘルパー機能(IgGおよびIgMの合成)などの多数の機能は、DP IVまたはAPNの特異的な阻害剤の存在下で阻害されうる(Schoen Eら: The dipeptidyl peptidase IV, a membrane enzyme involved in the proliferation of T lymphocytes. Biomed. Biochim. Acta 1985; 2: K9-K15; Schoen Eら: The role of dipeptidyl peptidase IV in human T lymphocyte activation. Inhibitors and antibodies against dipeptidyl peptidase IV suppress lymphocyte proliferation and immunoglobulin synthesis in vitro. Eur. J. Immunol. 1987; 17: 1821-1826; Reinhold Dら: Inhibitors of dipeptidyl peptidase IV induce secretion of transforming growth factorβ1 in PWM-stimulated PBMNC and T cells. Immunology 1997; 91: 354-360; Lendeckel Uら: Induction of the membrane alanyl aminopeptidase gene and surface expression in human T-cells by mitogenic activation. Biochem. J. 1996; 319: 817-823; Kaehne Tら: Dipeptidyl peptidase IV: A cell surface peptidase involved in regulating T cell growth (総説). Int. J. Mol. Med. 1999; 4: 3-15; Lendeckel Uら: Role of alanyl aminopeptidase in growth and function of human T cells (総説). Int. J. Mol. Med. 1999; 4: 17-27)。
【0005】
自己免疫疾患および移植片対宿主拒絶反応の治療は、合成阻害剤を用いた、免疫細胞に局在するジペプチジルペプチダーゼIVの阻害によって達成されうることが、既に知られている(例えば、EP-A 0 764 151; WO 95/29691, EP-A 0 731 789, EP-A 0 528 858参照)。
【0006】
本発明は、(線維芽細胞上もしくは線維芽細胞中で発現する)ジペプチジルペプチダーゼIV/DP IVすなわちCD26の阻害剤、またはこれと同等の基質特異性(DP IVと類似した酵素活性)を有する酵素の阻害剤、および、アミノペプチダーゼN/APNすなわちCD13の阻害剤、またはこれと同等の基質特異性(APNと類似した酵素活性)を有する酵素の阻害剤の、単独の作用あるいは同時の作用が、線維芽細胞の増殖(DNA合成)を阻害するという驚くべき発見に基づいている。
【0007】
本発明は、DP IVならびにAPNを阻害する物質またはこれと同等の基質特異性(APNもしくは/およびDP IVと類似した酵素活性)を有する酵素を阻害する物質の、単独適用または同時適用、あるいは対応する組成物の適用およびその投与形態が、それらの進行において線維芽細胞の増殖および線維芽細胞のDNA合成の分化した制御が中心的な役割を担う、線維芽細胞の過剰増殖および分化状態の変化に関連する皮膚疾患の治療ならびに予防によく適していることを示す。
【0008】
詳細には、本発明は、線維芽細胞のDNA合成が、ジペプチジルペプチダーゼIVの阻害剤もしくはこれと同等の基質特異性を有する酵素の阻害剤、または/および、アミノペプチダーゼNの阻害剤もしくはこれと同等の基質特異性を有する酵素の阻害剤の投与によって、有意に阻害されるという発見に基づいている。
【0009】
上述の疾患は、現在、免疫抑制剤、糖質コルチコステロイド、非特異的な抗炎症薬および皮膚軟化剤の投与により、局所的および/または全身的に治療されており、臨床的には物理療法により治療されている。特に全身性の投薬法に関連して、しばしば、望ましくない副作用、特にクッシング症候群、骨粗しょう症、感染症または糖尿病が生じている。局所療法に関しては、局所的な皮膚萎縮および皮膚の脆弱性の増加が一般的である。全身療法および局所的な免疫抑制療法に関しては、皮膚腫瘍が増殖しうる。
【0010】
上述の疾患、特にそれらの初期段階を考慮する場合、DP IVまたは/およびAPNの阻害剤の使用は、全く新しく、おそらく非常に効果的で、低コストと思われる治療形態であり、既存の治療方針の有用な代替要素になるであろう。
【0011】
本発明に使用される、ジペプチジルペプチダーゼIVの阻害剤もしくはこれと同等の基質特異性(DP IVと類似した酵素活性)を有する酵素の阻害剤、または/および、アミノペプチダーゼNの阻害剤もしくはこれと同等の基質特異性(APNと類似した酵素活性)を有する酵素の阻害剤は、阻害剤およびこのような酵素の抗体として作用する、阻害剤、基質、偽基質、ペプチドならびにペプチド誘導体として、製薬上適用可能な製剤複合体に使用されうる。本発明の阻害剤は、単独で、またはそれらのいくつかの組合せとして、好ましくはそれらの2つの組合せとして使用される。
【0012】
DP IVに対する好ましいエフェクターは、Xaa-Proジペプチド、それに相当する誘導体、好ましくはジペプチドホスホン酸ジアリールエステル、ジペプチドボロン酸(例えばPro-Boro-Pro)およびそれらの塩、Xaa-Xaa-(Trp)-Pro-(Xaa)nペプチド(n = 0〜10)、それに相当する誘導体およびそれらの塩、ならびにアミノ酸-(Xaa)アミド、それに相当する誘導体およびそれらの塩である。ここでXaaは、α-アミノ酸/-イミノ酸またはα-アミノ酸誘導体/-イミノ酸誘導体に相当し、好ましくはNε-4-ニトロベンジルオキシカルボニル-L-リジン、L-プロリン、L-トリプトファン、L-イソロイシン、L-バリン、ならびに環状アミン、例えば、ピロリジン、ピペリジン、チアゾリジンおよびアミド構造を示すそれらの誘導体を表す。このような化合物およびそれらの調製品は、先行特許に記載されている(K. Neubertら、DD 296,075 A5)。
【0013】
更に、トリプトファン-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸誘導体(TSL)および(2S, 2S’, 2S”)-2-[2’-[2”-アミノ-3”-(インドール-3’”-イル-) 1”-オキソプロリル-]1’, 2’, 3’, 4’-テトラヒドロ-6’, 8’-ジヒドロキシ-7-メトキシ-イソキノール-3-イル-カルボニルアミノ-]4-ヒドロキシメチル-5-ヒドロペンタン酸(TMC-2A)は、DP IVに対するエフェクターとして有利に使用されうる。有利に使用されうる模範的なDP IV阻害剤は、Lys[Z(NO2)] チアゾリジドであり、ここでLysはL-リジン残基を表し、Z(NO2)は4-ニトロベンジルオキシカルボニルを表す(DD-A 296,075も参照せよ)。
【0014】
本発明に係る、アラニルアミノペプチダーゼ(アミノペプチダーゼN、APN)の阻害剤と考えられるのは、例えば、アクチノニン、ロイヒスチン、フェベスチン、アマスタチン、ベスタチン、プロベスチン、β-アミノチオール、α-アミノホスフィン酸、α-アミノホスフィン酸誘導体、好ましくはD-Phe-ψ-[PO(OH)-CH2]-Phe-Pheおよびそれらの塩である。アラニルアミノペプチダーゼに対する好ましい阻害剤は、ベスタチン(Ubenimex)、アクチノニン、プロベスチン、フェベスチン、RB3014またはロイヒスチンである。
【0015】
阻害剤およびそれらを含有する医薬調製品は、既知の担体物質と同時に投与される。DP IVの阻害剤もしくはDP IVと類似した酵素活性を有する酵素の阻害剤、または/および、APNの阻害剤もしくはAPNと類似した酵素活性を有する酵素の阻害剤の、2つ以上を含む複数の医薬調製品であって、複合効果を目的として、同時に、または時間的に速やかに連続的に投与される、それ自体既知の担体、助剤および/または添加物と組み合わせてなる、空間的に別々の処方となったものもまた、本発明に含まれる。
【0016】
投与は、一方では、例えばクリーム、軟膏、ペースト、ゲル、溶液、スプレー、リポソームおよびナノソーム、混合可能なローション、「PEG化」製剤、分解性(すなわち、生理条件下で分解可能な)デポー基質、親水コロイドドレッシング、膏薬、マイクロスポンジ、プレポリマーおよび同様の新しい担体物質、ジェット式注射、ならびに点滴注入の適用を含む他の皮膚用基材/賦形剤の形での局所適用として行われる。他方では、経口、経皮、静脈内、皮下、皮内、筋肉内適用のために、適切な処方または適切な製剤形態として、全身適用として行われる。
【0017】
本発明に従った阻害剤、ならびに、上述の阻害剤の1つまたはいくつか、および、任意選択で、例えば更なる阻害剤および製薬上許容されうる添加物、助剤もしくは担体物質のような、更なる成分を含む調製品は、多くの皮膚疾患ならびに線維芽細胞の過剰増殖および分化状態の変化を伴う症状に、予防的または治療的に適用されうる。例としては、良性の線維症および硬化症(特に、感染後および外傷後の、肥厚性瘢痕、ケロイド、皮膚線維腫、線維脂肪腫、散在性(筋)線維腫症)、ならびに悪性の線維芽細胞過剰増殖状態(例えば、線維肉腫、異型線維黄色腫のような混合腫瘍、悪性線維性組織球腫、侵襲性血管粘液腫、腫瘍随伴病変)、例えば強皮症(限局性強皮症、全身性進行性強皮症、クレスト症候群)のような線維化自己免疫疾患、他の膠原病に伴う皮膚硬化症および移植片対宿主病、白斑(白点病、硬化性萎縮性苔癬)、ならびに偽性強皮症の不均一なグループ(例えば、好酸球性/増殖性筋膜炎、例えば毒性オイル症候群、珪肺症、ポルフィリン症、好酸球増加筋痛症候群、丘疹性ムチン沈着症(粘液水腫性苔癬)またはボレリア菌関連線維症状態のような外因性の要因によって生じる偽性強皮症など)、例えば慢性静脈不全または脂肪性リンパ浮腫に伴う鬱血性線維症の過程、男性型脱毛症(アンドロゲン性脱毛症)の線維化進行段階におけるような二次的な硬化状態、ならびに稀な局所性線維芽細胞疾患(デュピュイトラン病、Ledderhose病、「ナックルパッド」、陰茎硬化(ペイロニー病、形成性陰茎硬化症))、の予防ならびに治療が言及されうる。
【0018】
本発明はまた、線維芽細胞の過剰増殖および分化状態の変化を含む皮膚疾患の治療ならびに予防のための方法に関する。その方法は、上述の皮膚疾患の予防および/または治療のための処置を必要とする患者への、ジペプチジルペプチダーゼIV(DP IV)の阻害剤、およびこれと同等の基質特異性(DP IVと類似した酵素活性)を有する酵素の阻害剤、または/および、アラニルアミノペプチダーゼ(アミノペプチダーゼN、APN)の阻害剤、およびこれと同等の基質特異性(APNと類似した酵素活性)を有する酵素の阻害剤の投与を含む。
【0019】
本発明の特に好ましい実施形態では、上述の酵素の1つの阻害剤またはいくつかの阻害剤、あるいは、単独もしくは好ましくは組み合わせてそれらの阻害剤を含有する1つまたはいくつかの医薬調製品は、後に記載される1つもしくはいくつかの疾患を患っている患者、または後に記載される疾患のいずれかに対して予防を必要とする患者に投与される。前記阻害剤は、好ましくはDP IVの阻害剤から、特に好ましくはXaa-Pro-ジペプチド(Xaa =α-アミノ酸または側鎖保護誘導体)、それに相当する誘導体、より好ましくは、ジペプチドホスホン酸ジアリールエステル、ジペプチドボロン酸(例えばPro-Boro-Pro)およびそれらの塩、Xaa-Xaa-(Trp)-Pro-(Xaa)nペプチド(Xaa =α-アミノ酸、n = 0〜10)、それに相当する誘導体およびそれらの塩、アミノ酸(Xaa)アミド、それに相当する誘導体およびそれらの塩(ここでXaaは、α-アミノ酸または側鎖保護誘導体に相当する)、好ましくはNε-4-ニトロベンジルオキシカルボニル-L-リジン、L-プロリン、L-トリプトファン、L-イソロイシン、L-バリン、およびに環状アミン、例えば、ピロリジン、ピペリジン、チアゾリジンおよびアミド構造を示すそれらの誘導体、ならびに/あるいは、トリプトファン-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸誘導体(TSL)および(2S 2S’, 2S”)-2-[2’-[2”-アミノ-3”-(インドール-3’”-イル-) 1”-オキソプロリル-]1’, 2’, 3’, 4’-テトラヒドロ-6’, 8’-ジヒドロキシ-7-メトキシ-イソキノール-3-イル-カルボニルアミノ-]4-ヒドロキシメチル-5-ヒドロ-ペンタン酸(TMC-2A)から;ならびに、APNの阻害剤から、特に好ましくは、アクチノニン、ロイヒスチン、フェベスチン、アマスタチン、ベスタチン、プロベスチン、β-アミノチオール、α-アミノホスフィン酸、α-アミノホスフィン酸誘導体、好ましくはD-Phe-ψ-[PO(OH)-CH2]-Phe-Pheおよびそれらの塩から、選択される。
【0020】
本発明の更なる好ましい方法では、阻害剤および、任意選択でそれらの互いの組合せ、ならびに、それらの阻害剤またはその組合せを含有する医薬調製品は、線維芽細胞の過剰増殖および分化状態の変化を含む疾患および症状の予防ならびに治療に適用される。例としては、良性の線維症および硬化症(特に、感染後および外傷後の、肥厚性瘢痕、ケロイド、皮膚線維腫、線維脂肪腫、散在性(筋)線維腫症)、ならびに悪性の線維芽細胞過剰増殖状態(例えば、線維肉腫、異型線維黄色腫のような混合腫瘍、悪性線維性組織球腫、侵襲性血管粘液腫、腫瘍随伴病変)、例えば、強皮症(限局性強皮症、全身性進行性強皮症、クレスト症候群)のような、線維化自己免疫疾患、他の膠原病に伴う皮膚硬化症および移植片対宿主病、白斑(白点病、硬化性萎縮性苔癬)、ならびに偽性強皮症の不均一なグループ(例えば、好酸球性/増殖性筋膜炎、例えば毒性オイル症候群、珪肺症、ポルフィリン症、好酸球増加筋痛症候群、丘疹性ムチン沈着症(粘液水腫性苔癬)またはボレリア菌関連線維症状態のような外因性の要因によって生じる偽性強皮症など)、例えば、慢性静脈不全または脂肪性リンパ浮腫に伴う鬱血性線維症の過程、男性型脱毛症(アンドロゲン性脱毛症)の線維化進行段階におけるような二次的な硬化状態、ならびに稀な局所性線維芽細胞疾患(デュピュイトラン病、Ledderhose病、「ナックルパッド」、陰茎硬化(ペイロニー病、形成性陰茎硬化症))の予防ならびに治療が言及されうる。
【0021】
本発明に係る特に好ましい予防および/または治療方法では、上述の1つまたはいくつかのDP IVおよび/またはAPNの阻害剤は、DP IVの阻害剤もしくはDP IVと類似した酵素活性を有する酵素の阻害剤、または/および、APNの阻害剤もしくはAPNと類似した酵素活性を有する酵素の阻害剤の2つ以上が、それ自体既知の担体、助剤および/または添加物と組み合わせた、別々の分離した処方形態で、複合効果を目的として、同時にまたは時間的に速やかに連続的に投与されるような方法で適用される。投与は、それ自体既知の担体、助剤および/もしくは添加物とともに、経口、経皮(transdermal)、経皮(percutaneous)、静脈内、皮下、皮内、筋肉内、直腸、膣内、舌下適用するための全身適用の形態、ならびに/あるいは、クリーム、軟膏、ペースト、ゲル、溶液、スプレー、リポソームまたはナノソーム、「PEG化」製剤、分解性デポー基質、混合可能なローション、親水コロイドドレッシング、膏薬、マイクロスポンジ、プレポリマーおよび同様の新しい担体物質、ジェット式注射、ならびに点滴注入の適用を含む他の皮膚用基材/賦形剤の形態での局所適用として行われる。
【0022】
本発明は、以下の実施例によってより詳細に説明される。実施例は、本発明の好ましい実施形態を示す。しかし、本発明は、その好ましい実施形態に限定されない。
【実施例】
【0023】
実施例1
我々の研究は、ヒト線維芽細胞のDNA合成がDP IVの阻害剤(Lys[Z(NO2)] チアゾリジド)または/およびAPNの阻害剤(アクチノニン)の投与によって、用量依存的に阻害されることを示す。
【0024】
ヒト線維芽細胞はDP IVおよびAPNを強く発現している(図1)。生細胞でのDP IVの酵素活性は、57.3 ± 12.4 pkat/106細胞であり、APNの酵素活性は380.5 ± 48.2 pkat/106細胞である(n = 4)。これに対応するように、APNおよびDP IVのmRNAは、このような細胞において検出され得る(図2)。
【0025】
健康なドナーの線維芽細胞を上述の阻害剤とともに48時間培養し、続いてReiholdらによって記載されたような 3[H]-チミジン取り込みの測定によりDNA合成を測定した(Reinhold Dら: Inhibitors of dipeptidyl peptidase IV induce secretion of transforming growth factor β1 in PWM-stimulated PBMNC and T cells, Immunology 1997, 91: 354 - 360)。図3は、用量依存的なDNA合成の阻害を示す。
【0026】
ヒト線維芽細胞のDNA合成に対する、DP IVの阻害剤(Lys[Z(NO2)] チアゾリジド)およびアミノペプチダーゼNの阻害剤(アクチノニン)の用量依存的な効果を測定するために、表示された濃度の阻害剤とともに、細胞を48時間培養した。続いて、3[H]-メチルチミジンを培地に添加し、更に6時間後に、DNAに取り込まれた3[H]-チミジンの量を測定した。その結果を図3に示す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】線維芽細胞におけるAPN(CD13)およびDP IV(CD26)の発現のフローサイトメトリー測定。
【図2】RT-PCRを用いた線維芽細胞におけるDP IV(CD26)およびAPN(CD13)のmRNA発現の測定。
【図3】ヒト線維芽細胞のDNA合成に対する、DP IVの阻害剤(Lys[Z(NO2)] チアゾリジド)およびアミノペプチダーゼNの阻害剤(アクチノニン)の用量依存的な効果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト線維芽細胞の増殖(DNA合成)の阻害のための、
ジペプチジルペプチダーゼIV(DP IV)の阻害剤およびこれと同等の基質特異性(DP IVと類似した酵素活性)を有する酵素の阻害剤、または/および、
アラニルアミノペプチダーゼ(アミノペプチダーゼN、APN)の阻害剤およびこれと同等の基質特異性(APNと類似した酵素活性)を有する酵素の阻害剤、の使用。
【請求項2】
DP IVの阻害剤が、
Xaa-Pro-ジペプチド(Xaa = α-アミノ酸または側鎖保護誘導体)、それに相当する誘導体、より好ましくは、ジペプチドホスホン酸ジアリールエステル、ジペプチドボロン酸(例えばPro-Boro-Pro)およびそれらの塩、
Xaa-Xaa-(Trp)-Pro-(Xaa)nペプチド(Xaa =α-アミノ酸、n = 0〜10)、それに相当する誘導体およびそれらの塩、
アミノ酸(Xaa)アミド、それに相当する誘導体およびそれらの塩であって、
Xaaは、α-アミノ酸または側鎖保護誘導体をあらわし、好ましくは
Nε-4-ニトロベンジルオキシカルボニル-L-リジン、L-プロリン、L-トリプトファン、L-イソロイシン、L-バリン、および環状アミン、例えば、ピロリジン、ピペリジン、チアゾリジンおよびアミド構造を示すそれらの誘導体、および/または、
トリプトファン-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸誘導体(TSL)および(2S 2S’, 2S”)-2-[2’-[2”-アミノ-3”-(インドール-3’”-イル-) 1”-オキソプロリル-]1’, 2’, 3’, 4’-テトラヒドロ-6’, 8’-ジヒドロキシ-7-メトキシイソキノール-3-イル-カルボニルアミノ-]4-ヒドロキシメチル-5-ヒドロペンタン酸(TMC-2A)である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
DP IV阻害剤として、アミノ酸アミド、好ましくはNε-4-ニトロベンジルオキシカルボニル-L-リジン チアゾリジド、ピロリジドおよびピペリジド、ならびにそれらに相当する2-シアノチアゾリジド、2-シアノピロリジドおよび2-シアノピペリジド誘導体が使用される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
APNの阻害剤が、アクチノニン、ロイヒスチン、フェベスチン、アマスタチン、ベスタチン、プロベスチン、β-アミノチオール、α-アミノホスフィン酸、α-アミノホスフィン酸誘導体、好ましくはD-Phe-ψ-[PO(OH)-CH2]-Phe-Pheおよびそれらの塩である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
良性の線維症および硬化症(特に、感染後および外傷後の、肥厚性瘢痕、ケロイド、皮膚線維腫、線維脂肪腫、散在性(筋)線維腫症)、ならびに悪性の線維芽細胞過剰増殖状態(例えば、線維肉腫、異型線維黄色腫のような混合腫瘍、悪性線維性組織球腫、侵襲性血管粘液腫、腫瘍随伴病変)
例えば強皮症(限局性強皮症、全身性進行性強皮症、クレスト症候群)のような線維化自己免疫疾患、他の膠原病に伴う皮膚硬化症および移植片対宿主病、白斑(白点病、硬化性萎縮性苔癬)、ならびに偽性強皮症の不均一なグループ(例えば、好酸球性/増殖性筋膜炎、例えば毒性オイル症候群、珪肺症、ポルフィリン症、好酸球増加筋痛症候群、丘疹性ムチン沈着症(粘液水腫性苔癬)またはボレリア菌関連線維症状態のような外因性の要因によって生じる偽性強皮症など)
例えば慢性静脈不全または脂肪性リンパ浮腫に伴う鬱血性線維症の過程、男性型脱毛症(アンドロゲン性脱毛症)の線維化進行段階におけるような二次的な硬化状態、ならびに稀な局所性線維芽細胞疾患(デュピュイトラン病、Ledderhose病、「ナックルパッド」、陰茎硬化(ペイロニー病、形成性陰茎硬化症))
の予防ならびに治療のための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の阻害剤の組合せの使用。
【請求項6】
ジペプチジルペプチダーゼIV(DP IV)の阻害剤およびDP IVと類似した酵素活性を有する酵素の阻害剤、または/および、
アラニルアミノペプチダーゼ(アミノペプチダーゼN、APN)の阻害剤およびAPNと類似した酵素活性を有する酵素の阻害剤
を含み、それ自体既知の担体、添加物および/または助剤と組み合わせてなる医薬調製品。
【請求項7】
DP IV阻害剤として、
Xaa-Pro-ジペプチド(Xaa =α-アミノ酸または側鎖保護誘導体)、それに相当する誘導体、より好ましくは、ジペプチドホスホン酸ジアリールエステル、ジペプチドボロン酸(例えばPro-Boro-Pro)およびそれらの塩、
Xaa-Xaa-(Trp)-Pro-(Xaa)nペプチド(Xaa =α-アミノ酸、n = 0〜10)、それに相当する誘導体およびそれらの塩、アミノ酸(Xaa)アミド、それに相当する誘導体およびそれらの塩を含み、
Xaaは、α-アミノ酸または側鎖保護誘導体をあらわし、好ましくはNε-4-ニトロベンジルオキシカルボニル-L-リジン、L-プロリン、L-トリプトファン、L-イソロイシン、L-バリン、およびに環状アミン、例えば、ピロリジン、ピペリジン、チアゾリジンおよびアミド構造を示すそれらの誘導体である、請求項6に記載の医薬調製品。
【請求項8】
DP IV阻害剤として、好ましくはアミノ酸アミド、例えばNε-4-ニトロベンジルオキシカルボニル-L-リジンチアゾリジド、ピロリジドおよびピペリジド、ならびにそれに相当する2-シアノチアゾリジド、2-シアノピロリジドおよび2-シアノピペリジド誘導体を含む、請求項6に記載の医薬調製品。
【請求項9】
APN阻害剤として、アクチノニン、ロイヒスチン、フェベスチン、アマスタチン、ベスタチン、プロベスチン、β-アミノチオール、α-アミノホスフィン酸、α-アミノホスフィン酸誘導体、好ましくはD-Phe-ψ-[PO(OH)-CH2]-Phe-Pheおよびそれらの塩を含む、請求項6に記載の医薬調製品。
【請求項10】
それ自体既知の担体、助剤および/または添加物と組み合わせた、空間的に分かれた処方中に、
2つあるいはいくつかの、DP IVの阻害剤またはDP IVと類似した酵素活性を有する酵素の阻害剤、または/および、APNの阻害剤またはAPNと類似した酵素活性を有する酵素の阻害剤を含む、
複合効果を目的とした、同時投与、または時間的に速やかな連続的な投与のための、請求項6〜9のいずれか1項に記載の医薬調製品。
【請求項11】
それ自体既知の担体、助剤および/または添加物とともに、経口、経皮(transdermal)、経皮(percutaneous)、静脈内、皮下、皮内、筋肉内、直腸、膣内、舌下適用される、全身適用のための、請求項6〜9のいずれか1項に記載の医薬調製品。
【請求項12】
クリーム、軟膏、ペースト、ゲル、溶液、スプレー、リポソームまたはナノソーム、「PEG化」製剤、分解性デポー基質、混合可能なローション、親水コロイドドレッシング、膏薬、マイクロスポンジ、プレポリマー、または、点滴注入の適用を含む他の皮膚用基材/賦形剤の形態での局所適用のための、請求項6〜10のいずれか1項に記載の医薬調製品。
【請求項13】
ジペプチジルペプチダーゼIV(DP IV)の阻害剤およびこれと同等の基質特異性(DP IVと類似した酵素活性)を有する酵素の阻害剤、または/および、アラニルアミノペプチダーゼ(アミノペプチダーゼN、APN)の阻害剤およびこれと同等の基質特異性(APNと類似した酵素活性)を有する酵素の阻害剤の投与を含む、
線維芽細胞の過剰増殖および分化状態の変化を含む、皮膚疾患の治療ならびに予防のための方法。
【請求項14】
前記酵素の1つの阻害剤またはいくつかの阻害剤、あるいは、単独または好ましくは組み合わせてそれらの阻害剤を含有する1つまたはいくつかの調製品が患者に投与され、
前記阻害剤が、DP IVの阻害剤から、特に好ましくは
Xaa-Pro-ジペプチド(Xaa =α-アミノ酸または側鎖保護誘導体)、それに相当する誘導体から、より好ましくはジペプチドホスホン酸ジアリールエステル、ジペプチドボロン酸(例えばPro-Boro-Pro)およびそれらの塩、
Xaa-Xaa-(Trp)-Pro-(Xaa)nペプチド(Xaa =α-アミノ酸、n = 0〜10)、それに相当する誘導体およびそれらの塩、
アミノ酸(Xaa)アミド、それに相当する誘導体およびそれらの塩
から選択され、Xaaは、α-アミノ酸または側鎖保護誘導体をあらわし、好ましくは
Nε-4-ニトロベンジルオキシカルボニル-L-リジン、L-プロリン、L-トリプトファン、L-イソロイシン、L-バリン、および環状アミン、例えばピロリジン、ピペリジン、チアゾリジンおよびアミド構造を示すそれらの誘導体、および/または、
トリプトファン-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸誘導体(TSL)および(2S 2S’, 2S”)-2-[2’-[2”-アミノ-3”-(インドール-3’”-イル-)1”-オキソプロリル-]1’, 2’, 3’, 4’-テトラヒドロ-6’, 8’-ジヒドロキシ-7-メトキシ-イソキノール-3-イル-カルボニルアミノ-]4-ヒドロキシメチル-5-ヒドロ-ペンタン酸(TMC-2A)であり、
ならびに、APNの阻害剤から、特に好ましくは、アクチノニン、ロイヒスチン、フェベスチン、アマスタチン、ベスタチン、プロベスチン、β-アミノチオール、α-アミノホスフィン酸、α-アミノホスフィン酸誘導体、好ましくはD-Phe-ψ-[PO(OH)-CH2]-Phe-Pheおよびそれらの塩
から選択されていることを特徴とする、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−513520(P2009−513520A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518125(P2006−518125)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007377
【国際公開番号】WO2005/004906
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(505008187)イーエムテーエム ゲーエムベーハー (8)
【Fターム(参考)】