説明

繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法

【課題】厚み精度が高く、幅を広くしても表面が平滑な繊維強化プラスチック長尺シートを製造する方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含むシート2を、このシートの両表面を一対のベルト3で挟んだ状態で、ダイス4のスリットに連続的に引き込みながら加熱し、フェノール樹脂組成物を硬化するに繊維強化プラスチック長尺シート1の製造方法であって、ダイス4は、加熱装置を埋め込んだ一対の金属ブロックとその一対の金属ブロックの間にスリットを設けるスペーサーとからなり、さらにこのスペーサーがガス抜き孔を有している繊維強化プラスチック長尺シート1の製造方法で達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的な繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法に関するものである。本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法によれば、厚み精度が高く、幅を広くしても表面が平滑な繊維強化プラスチック長尺シートを製造することができる。
【背景技術】
【0002】
連続的な繊維強化プラスチック長尺シートは、例えば、炭素繊維紙を炭化樹脂で結着させてなる固体高分子型燃料電池用多孔質電極基材の中間材料として用いられる。
従来は、バッチ式の製造方法が主流であったが、連続的に加熱プレスと焼成を行うことにより、生産性が高く低コストで固体高分子型燃料電池用多孔質電極基材のような材料が成型できるようになった。
【0003】
連続的な繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法としては、補強繊維と熱硬化性樹脂を含むシートを、一対のベルトで挟んだ状態で、加熱装置およびスリットを有するダイスに連続的に引き込みながら加熱成型する方法が紹介されている。(特許文献1)加熱プレス時間が長いため厚み精度が高い繊維強化プラスチック長尺シートが得られるという特徴がある。
【0004】
加熱プレス時間が長い場合、熱硬化性樹脂の硬化に伴い発生するガスが、シート内部に閉じ込められる。そのため、ガスにより硬化途中の繊維強化プラスチックシートが変形し、しわや外観不良を引き起こしやすくなる。特にシート幅が広くなった場合、この問題がより顕著になる。また、ダイスに引き込まれる前にベルトに予熱を与えないため、ダイスの入り口で急激な熱変化があるためベルトが変形しやすくなり、製造しているうちに繊維強化プラスチック長尺シートの厚み精度が悪くなるなどの問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特開2006−264329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、厚み精度が高く、幅を広くしても表面が平滑な繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の通りである。
(1)炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含むシートを、このシートの両表面を一対のベルトで挟んだ状態で、ダイスのスリットに連続的に引き込みながら加熱し、フェノール樹脂組成物を硬化するに繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法であって、ダイスは、加熱装置を埋め込んだ一対の金属ブロックとその一対の金属ブロックの間にスリットを設けるスペーサーとからなり、さらにこのスペーサーがガス抜き孔を有している繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。(2)このシートの両表面を一対のベルトで挟んだ状態で、ダイスのスリットに連続的に引き込む前に、予熱装置であらかじめ加熱する、(1)の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、厚み精度が高く、幅を広くしても表面が平滑な繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態の一例について、図面により説明する。
図2は、本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造工程の一形態を説明するための装置の概略図であり、図1 は、一実施形態に係る繊維強化プラスチック長尺シート1 の製造工程の一形態を説明するための概略縦断面図であり、図2の部分拡大図である。
【0010】
繊維強化プラスチック長尺シート1 の製造方法は、図1 において、炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含むシート2 を、該シート2 の両表面を一対のベルト3 で挟んだ状態で、加熱装置およびスリット6を有するダイス4 に連続的に引き込みながら加熱し、フェノール樹脂を硬化するものである。
炭素繊維は、高い導電性と機械的強度を有する。固体高分子型燃料電池のガス拡散体の材料として多孔質炭素長尺シートを得るのに、炭素短繊維がより好ましい。炭素短繊維の繊維長は、好ましくは3〜20mmであり、更に好ましくは5〜15mmである。炭素短繊維の繊維長を上記範囲とすることにより、炭素短繊維を分散させ抄紙して炭素繊維シートを得る際に、炭素短繊維の分散性を向上させ、目付のばらつきを抑制することができる。
フェノール樹脂組成物は、不活性雰囲気下で加熱した際の炭化収率が高い。
【0011】
炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含むシート2は、例えば、炭素短繊維を抄造した炭素繊維紙や炭素繊維フェルトに、フェノール樹脂組成物を含浸することにより得られる。
【0012】
フェノール樹脂組成物の量は、炭素繊維100 質量部に対して10 〜 400 質量部が好ましく、より好ましくは30 〜 300 質量部であり、特に好ましくは50 〜 200質量部である。この範囲内であるとフェノール樹脂組成物による炭素繊維の結着力が十分であり、繊維強化プラスチック長尺シート1 の厚みのばらつきが小さいので好ましい。また、搾り出された樹脂が装置から流出することを防ぐことができる。
【0013】
本発明において、ダイスは、加熱装置を埋め込んだ一対の金属ブロックとその一対の金属ブロックの間にスリット6を設けるスペーサー12とからなっている。スペーサー12を設けることにより厚み精度の高い繊維強化プラスチック長尺シートが得られる。
図3 と図4 に示すように、ダイス4 のスリット6は、一対の金属ブロック11 で挟まれたスペーサー12 により設けられることが好ましい。スペーサー12 によりダイス4 のクリアランスを調整することができるため、繊維強化プラスチック長尺シート1 の求める厚み毎にダイス4 を用意する必要がない。また、ダイス4 の組立や分解ができるため、一対のエンドレスベルト7 を用いることが可能となる。
【0014】
炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含むシート2は、フェノール樹脂組成物の硬化によってダイス4 に固着しないために、一対のベルト3 の幅は該シート2 の幅よりも大きいことが好ましい。すなわち、該シート2 の全面が、常に一対のベルト3 に覆われた状態でダイス4 に連続的に引き込まれることが好ましい。
【0015】
第1の態様について説明する。
スペーサー12は、ガス抜き孔を有している。スペーサー12にガス抜き孔がない場合、加圧プレスの系内に大量の圧縮ガスが蓄えられることになる。特に加圧する幅・長さが長くなった場合、系内の圧力によりシートが変形し、外観不良を引き起こしてしまう。
また、外観不良を引き起こさないように変形されにくい丈夫なベルトを使用すると引き抜きに大きな負荷がかかってしまう。スペーサー12にガス抜き孔があると発生ガスが系外に放出できるため、シート幅が広い場合や長時間プレスする場合にも適応できる。
ガス抜き孔の形状は、特に限定されないが、例えば、図4または図5のようにシートの横から装置の外側まで貫通する穴が開いているものが好ましい。
【0016】
さらには、排気ファン等をガス抜き孔の外部に設置し、発生ガスの排出能力を高めると、より外観不良が生じにくくなるため好ましい。
【0017】
第2の態様について説明する。
炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含むシート2の両表面を一対のベルトで挟んだ状態で、加熱装置およびスリット6を有するダイスに連続的に引き込む前に、予熱装置であらかじめ加熱する。予熱装置で加熱せず直接、炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含むシート2をダイスに引きこんだ場合、ダイスに入る前後の温度差によりベルトが膨張したり、反ったりする。
ベルトが変形した状態で炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含むシート2をダイスに引き込むと、幅方向でシートにかかる圧力と熱のかかり方に差が生じ圧力ムラを引きおこしてしまう。
予熱装置で加熱することでベルトの変形が緩やかになるため、シートの幅方向の厚みムラを防ぐことができる。
【0018】
予熱装置は特に限定されないが、熱風発生装置や加熱ロールなどが挙げられる。ベルトにロールを接触させることなく加熱ができるという観点から、熱風発生装置が好ましい。
ベルトのダイスに入る前後の温度差は、100℃以下が好ましく、より好ましくは70℃である。また予熱装置内でのベルトの昇温は、1mあたり100℃以下が好ましく、より好ましくは、1mあたり70℃以下である。ベルトのダイスに入る前後の温度差、予熱装置内でのベルトの昇温いずれも緩やかであるほどベルトのひずみが小さくなる。
ダイスで成型する場合、ベルトの外側(エッジ)に近いほど外気の影響を受けやすくプレス時の温度が下がる傾向が高い。熱風の風量を多くしたり、外側の予熱温度を温度をあらかじめ高くしたりするなど幅方向で予熱温度を変えることでより厚み精度を高くすることが可能である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。
実施例・比較例の実施形態を表1に示した。
繊維強化プラスチック長尺シートの長手方向の厚みの標準偏差は、長尺シートの長手方向に5cm 間隔で100点以上の厚みデータを測定して算出する。また、幅方向の厚みの標準偏差は、長尺シートの幅方向に1cm 間隔で30点以上の厚みデータを測定して算出する。厚みデータは、マイクロメーターを用いて繊維強化プラスチック長尺シートの厚み方向に0.15MPa の面圧を付与して測定する。マイクロメーターの測定子の断面は、直径5mm の円形である。
【0020】
〔実施例1〕
平均繊維径が7μmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維の繊維束を切断し、平均繊維長が6mmの短繊維を得た。次にこの短繊維束100質量部に対し、十分に分散したところにバインダーであるポリビニルアルコール(PVA)の短繊維を20質量部となるように均一に分散させ、水を抄造媒体として連続的に抄造し、乾燥して、炭素繊維の目付が約32g/m の長尺の炭素繊維紙を得てロール状に巻き取った。
この炭素繊維紙にフェノール樹脂の25質量%メタノール溶液を連続的にコートし、90 ℃ の温度で3分間乾燥することにより炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含むシート2を得てロール状に巻き取った。
【0021】
炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含むシート2を、長さ100m 、幅35cm にトリミングして、一対のベルト2 としての両表面をPTFE によりフッ素コーティングした一対のステンレスベルトで挟んだ状態で、230 ℃ の温度に加熱したスリット6を有するダイス4 に0.6m /分の速度で連続的に引き込みながら加熱し、フェノール樹脂を硬化することにより、長さ100m 、幅35cm の繊維強化プラスチック長尺シート1 を得た。なお、スリット6を有するダイス4 として、ステンレス製の金属ブロック11 で、PTFE製のスペーサー12 を挟んだものを用い、一対のベルト3 として両表面をPTFEによりフッ素コーティングした一対のステンレス製エンドレスベルト7 を用いた。
【0022】
使用したエンドレスベルト7の厚みは200μm 、幅は40cm 、長さは10mであり、該ステンレスベルトにコーティングしたフッ素樹脂の層は20μm である。また、ダイス4 に設けたスリット6の幅は44cm 、ダイス4 の幅は50cm であり、長さは18cm である。
【0023】
エンドレスベルト7には、ダイス4 と接する面(エンドレスベルト7 の内側面)の両端に全周に渡って動力伝達部8 としてアタッチメント付きローラーチェーンを取り付けた。また、駆動部9として直径30cm のスプロケットから、ローラーチェーンを介して動力を伝達した。 金属ブロック11は、大きさがそれぞれ縦18cm、横50cm、高さ5cmであり、スリット6側の面の長辺をR 加工し、スリット6側の表面を鏡面加工したものであり、上記エンドレスベルト7に取り付けたローラーチェーンが通過するための溝を設けたものを用いた。PTFE製のスペーサー12 は、縦18cm 、横3cm、厚み620 μmであった。なお、スペーサー12は、図5のようにガス抜き孔を2箇所有していた。ガス抜き孔の大きさは、縦5cm、横3cm、高さ(厚み方向に)400μmで貫通していた。
得られた繊維強化プラスチック長尺シート1の評価結果を表2に示す。長手方向だけでなく、幅方向にも厚み精度が高くしかも外観不良がない状態であった。
【0024】
〔実施例2〕
ダイスの手前に図2−2に示すように予熱装置5を設置し、予熱装置5で加熱してから、ダイスに引き込んだ。予熱装置5は、ベルトに対して熱風を当てるものである。予熱装置5の大きさは、長さ1.2m、幅50cmで予熱装置入り口の温度が30℃であるのに対し、出口の温度は150℃であった。なお、ダイスで加熱成型するときの温度は、210℃であった以外は実施例1と同様の方法で繊維強化プラスチック長尺シート1を得た。評価結果を表2に示す。長手方向・幅方向の厚み精度が実施例1よりも高くしかも外観も申し分ないものであった。
【0025】
〔比較例1〕
スペーサーがガス抜き孔を有しないもの(図4および図5記載のスペーサー10)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で繊維強化プラスチック長尺シート1を得た。評価結果を表2に示す。長手方向の厚み精度は良いが、幅方向のムラは大きいものとなった。また、ガスの発泡によってできたへこみが、100mのシートのうち10カ所存在した。
【0026】
〔比較例2〕
一対のベルト3 として、中興化成工業株式会社製フッ素コーティング・ガラスクロスチューコーフロー(登録商標) ベルトBGF−500−6 ( 厚み125μm ) を用い、ダイス4 に設けたスリット6のクリアランスを390μm としたこと以外は、比較例1 と同様にして繊維強化プラスチック長尺シート1を得た。得られた繊維強化プラスチック長尺シート1評価結果を表2 に示す。
長手方向の厚み精度は良いが、幅方向のムラは大きいものとなった。ガスの発泡によってできたへこみが、100mのシートのうち15カ所存在した。なお、ベルトにも大きな弛みが生じた。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来技術および本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造工程の一形態を説明するための概略縦断面図である。
【図2】従来技術および本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造工程の一形態を示す概略縦断面図、および、繊維強化プラスチック長尺シートが受ける温度と圧力履歴の概略図である。
【図3】従来技術および本発明の繊維強化プラスチック長尺シートの製造工程の他の一形態を説明するための概略断面図である。
【図4】図3 のA − A ’ 面の部分断面図である。
【図5】本発明で用いられるスペーサーの一形態を説明するための概略断面図である。 (図4 の(イ)(ロ)の矢印方向に見た平面図)
【符号の説明】
【0030】
1 : 繊維強化プラスチック長尺シート
2 :(炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含む) シート
3 : 一対のベルト
4 : ダイス
5 :予熱装置
6:スリット
7 :一対のエンドレスベルト
8 :張力伝達部
9 :駆動部
10 :従来技術のスペーサー
11 :金属ブロック
12 :本発明のスペーサーの一例
13:本発明のスペーサーの一例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維とフェノール樹脂組成物とを含むシートを、このシートの両表面を一対のベルトで挟んだ状態で、ダイスのスリットに連続的に引き込みながら加熱し、フェノール樹脂組成物を硬化するに繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法であって、ダイスは、加熱装置を埋め込んだ一対の金属ブロックとその一対の金属ブロックの間にスリットを設けるスペーサーとからなり、さらにこのスペーサーがガス抜き孔を有している繊維強化プラスチック長尺シートの製造方法。
【請求項2】
このシートの両表面を一対のベルトで挟んだ状態で、ダイスのスリットに連続的に引き込む前に、予熱装置であらかじめ加熱する、請求項1記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−61607(P2009−61607A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229378(P2007−229378)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】