説明

繊維強化複合材料及びその製造方法

【課題】繊維強化樹脂とエラストマーからなるシートとで構成される繊維強化複合材料及びその製造方法に関し、特に、機械的強度に優れ且つ卓越した耐衝撃性を有する繊維強化樹脂とエラストマーからなるシートとで構成される繊維強化複合材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維とシクロオレフィンポリマーの架橋体を含む繊維強化樹脂表面の少なくとも一部分にエラストマーからなるシートが一体化されてなる繊維強化複合材料。炭素繊維の表面の少なくとも一部分に接触するようにエラストマーからなるシートを配置する積層工程、ならびに前記エラストマーからなるシート及び炭素繊維の存在下にシクロオレフィンモノマー、重合触媒及び架橋剤を含んでなる硬化性組成物を硬化させる硬化工程とを含む繊維強化複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、繊維強化樹脂とエラストマーからなるシートとで構成され、機械的強度に優れ且つ卓越した耐衝撃性を有する繊維強化複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維等の強化繊維とエラストマーからなるシートとで構成される複合体は、機械的強度と耐衝撃性に優れるため、従来のタイヤ、ベルト、ホースを始めとして自動車用材料、電気材料、及び住宅材料等の多岐にわたる分野での使用が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フッ素ゴム、シリコンゴム又はブチルゴムなどのエラストマーをガラス繊維や炭素繊維等の耐熱性の強化繊維に含浸し加熱成形された複合体がクッション材として好適であることが開示されている。また、特許文献2には、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム等のポリオレフィン系エラストマーからなるシート、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、及び有機過酸化物を含む樹脂組成物を溶融押出でシートをつくり、次いで該シートで強化繊維の両側から挟み圧縮成形した複合体がラジエターホース等のホース類に好適であることが開示されている。しかしながら、近年では、より卓越した耐衝撃性が要求される用途が広がっており、これら複合体では耐衝撃性が不十分であった。
【0004】
一方、特許文献3には、強化繊維表面にポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂を積層し、次いで、該熱可塑性樹脂を溶融し炭素繊維に被覆すると同時に炭素繊維中にエポキシ樹脂等の熱硬化樹脂を注入・硬化させることにより、熱可塑性樹脂と繊維強化樹脂とが一体化した複合材料を製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法で得られる複合材料でも耐衝撃性が不十分であった。
【特許文献1】特開平9−277295号公報
【特許文献2】特開2000−86903号公報
【特許文献3】特開2006−44261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、繊維強化樹脂とエラストマーからなるシートとで構成される繊維強化複合材料及びその製造方法に関し、特に、機械的強度に優れ且つ卓越した耐衝撃性を有する繊維強化樹脂とエラストマーからなるシートとで構成される繊維強化複合材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、炭素繊維とシクロオレフィンポリマーの架橋体を含む繊維強化樹脂の表面の少なくとも一部分に、シリコンゴム等のエラストマーからなるシートが一体化されてなる繊維強化複合材料は、機械的強度と耐衝撃性に優れていることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0007】
かくして本発明によれば、炭素繊維とシクロオレフィンポリマーの架橋体を含む繊維強化樹脂表面の少なくとも一部分にエラストマーからなるシートが一体化されてなる繊維強化複合材料が提供される。
【0008】
本発明によれば、炭素繊維とシクロオレフィンポリマーの架橋体を含む繊維強化樹脂表面の少なくとも一部分にシリコンゴムからなるシートが一体化されてなる繊維強化複合材料が提供される。
【0009】
本発明によれば、また、炭素繊維の表面の少なくとも一部分に接触するようにエラストマーからなるシートを配置する積層工程、ならびに前記エラストマーからなるシート及び炭素繊維の存在下にシクロオレフィンモノマー、重合触媒及び架橋剤を含んでなる硬化性組成物を硬化させる硬化工程とを含む繊維強化複合材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械的強度に優れ且つ卓越した耐衝撃性を有する繊維強化複合材料を容易に得ることができる。また、本発明の繊維強化複合材料は、機械的強度に優れ且つ卓越した耐衝撃性を有するので、自動車や航空機などの乗物用部材、及びスポーツ、土木、建築などの分野において好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の繊維強化複合材料は、繊維強化樹脂とエラストマーからなるシートとが一体化され、繊維強化樹脂がシクロオレフィンポリマーの架橋体と、炭素繊維を含むことを特徴とする。
【0012】
(炭素繊維)
繊維強化樹脂の強化繊維としては炭素繊維を用いる。炭素繊維の種類としては、格別な限定はなく、例えば、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系等の各種の従来公知の方法で製造される炭素繊維が使用できる。中でも、アクリル繊維(ポリアクリロニトリル繊維)を原料として製造される炭素繊維であるアクリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)が、シクロオレフィンポリマーの架橋体と炭素繊維との接着性に優れ、これらの間に空隙ができにくい。またシクロオレフィンモノマーを含む硬化性組成物との相溶性にも優れるため、得られる繊維強化複合材料の機械的強度や耐衝撃性等の特性を高度に付与でき好適である。
【0013】
本発明に使用される炭素繊維の強度特性は、格別な限定はなく使用目的に応じて適宜選択される。引張強度は、JIS R7601に従って測定されるストランド引張強度で、通常0.5〜50GPa、好ましくは1〜10GPa、より好ましくは2〜8GPaの範囲である。引張弾性率は、JIS R7601に従って測定されるストランド引張弾性率で、通常100〜1,000GPa、好ましくは200〜800GPa、より好ましくは300〜700GPaの範囲である。伸びは、JIS R7601に従って測定されるストランド引張伸びで、通常0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%、より好ましくは1〜3%の範囲である。炭素繊維の強度特性がこれらの範囲にあるときに、繊維強化複合材料の機械的強度及び耐衝撃性等の特性が高度にバランスされ好適である。
【0014】
本発明に使用される炭素繊維の断面形状は、格別な限定はなく、繊維強化複合材料の使用目的に応じて適宜選択すればよく、例えば、扁平、円形いずれの形状でもよい。例えば、断面形状が円形であると、硬化性組成物を含浸させる際、フィラメントの再配列が起こりやすくなり、繊維間への硬化性組成物の含浸が容易になり、また繊維束の厚みを薄くすることが可能となる等の利点がある。
【0015】
本発明に使用される炭素繊維の長さは、格別な限定無く使用目的に応じて適宜選択され、短繊維、長繊維のいずれをも用いることができるが、より高い繊維強化複合材料の機械的強度と強靭性を得たい場合は、繊維の長さが1mm以上、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上、もっとも好ましくは連続繊維とするのがよい。
【0016】
本発明に使用される炭素繊維の形態は、特に限定されず、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、一方向ストランド、ロービング、及びチョップド等から適宜選択できる。これらの中でも、機械的強度と耐衝撃性がより高い水準にある繊維強化複合材料を得るためには、繊維が織物、一方向ストランド、又はロービング等連続繊維の形態であるのが好ましい。織物形態としては、従来公知のものが利用でき、例えば、平織、繻子織、綾織、3軸織物などの繊維が交錯する織り構造の全てが利用できる。また、織物形態としては、2次元だけでなく、織物の厚み方向に繊維が補強されているステッチ織物、3次元織物等も利用できる。
【0017】
本発明に使用される炭素繊維は、織物、一方向ストランド、又はロービング等連続繊維で使用する場合は繊維束糸条とすることが好ましい。その場合の繊維束糸条1本中のフィラメント数は、格別な限定はないが、通常1,000〜100,000本、好ましくは2,000〜20,000本、より好ましくは5,000〜15,000の範囲である。
【0018】
これらの炭素繊維は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、繊維強化樹脂中の炭素繊維含有量が、通常10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲になるように選択される。
【0019】
(シクロオレフィンポリマーの架橋体)
繊維強化樹脂中のマトリックス樹脂としてはシクロオレフィンポリマーの架橋体を用いる。シクロオレフィンポリマーの架橋体としては、シクロオレフィンポリマーを架橋してなるものであれば格別な限定はない。シクロオレフィンポリマーは、シクロオレフィンモノマーの重合体である。シクロオレフィンポリマーとしては、具体的には、シクロオレフィンモノマーの開環重合体、シクロオレフィンモノマーの付加重合体、シクロオレフィンモノマーと鎖状オレフィンとの付加共重合体、及びこれらの水素化物が挙げられる。
【0020】
シクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有する化合物である。その例として、ノルボルネン系モノマー及び単環シクロオレフィンなどが挙げられ、ノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環を含むモノマーである。ノルボルネン系モノマーとしては、格別な限定はないが、例えば、2−ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、フェニルテトラシクロドデセンなどの四環体、トリシクロペンタジエンなどの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの 七環体、及びこれらのアルキル置換体(メチル、エチル、プロピル、ブチル置換体など)、アルキリデン置換体(例えば、エチリデン置換体)、アリール置換体(例えば、フェニル、トリル置換体)、並びにエポキシ基、メタクリル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン基、エーテル基、エステル結合含有基などの極性基を有する誘導体などが挙げられる。
【0021】
単環シクロオレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィン及び置換基を有するそれらの誘導体が挙げられる。これらのシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
シクロオレフィンポリマーの分子量は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定されるポリスチレン換算(ポリスチレン換算で測定できない場合は、ポリブタジエン換算)の重量平均分子量で、通常1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲である。
【0023】
本発明に使用される架橋されたシクロオレフィンポリマーは、上記シクロオレフィンポリマーを架橋したものであり、溶媒に溶解しないことで区別される。一方、未架橋のシクロオレフィンポリマーは、通常溶媒に溶解する。シクロオレフィンポリマーが溶媒に溶解するかどうかを判定する試験では、溶媒として、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、及びクロロホルムを用いる。シクロオレフィンポリマーが、これら全ての溶媒に溶解しない場合には架橋していると判断し、いずれか1つにでも溶解した場合には架橋していないと判断する。架橋の方法はラジカル架橋やイオン架橋などの公知の方法をいずれも採用することができ、限定されないが、ラジカル架橋が好ましい。
【0024】
(繊維強化樹脂)
本発明に使用される繊維強化樹脂は、上記強化繊維としての炭素繊維と、マトリックス樹脂としてのシクロオレフィンポリマーの架橋体を含み、マトリックス樹脂には必要に応じてその他の材料が添加されていてもよい。
【0025】
その他の材料としては、使用目的に応じて適宜選択されるが、充填剤、老化防止剤、難燃剤、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤、高分子改質剤などを挙げることができる。
【0026】
充填剤としては、工業的に一般に使用されるものであれば格別な限定はなく、無機系充填剤や有機系充填剤のいずれも用いることができるが、好適には無機系充填剤である。無機系充填剤としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属粒子;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素粒子;シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の無機酸化物粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩粒子;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩粒子;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩粒子;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩粒子、窒化アルミニウム、炭化ケイ素粒子やウィスカー等が挙げられる。有機系充填剤としては、例えば、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、塩化ビニル、廃プラスチック等の粒子化合物が挙げられる。
【0027】
また、上記の他にチョップストランド、ミルドファイバー等の短繊維状の炭素繊維以外の充填剤を用いることもできる。繊維の種類としては、ガラス繊維、金属繊維等の無機繊維、又はアラミド繊維、ナイロン繊維、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等の有機繊維が挙げられる。
【0028】
これらの充填剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができ、その添加量は、シクロオレフィンポリマー100重量部に対して、通常1〜1,000重量部、好ましくは10〜500重量部、より好ましくは50〜350重量部の範囲である。充填剤がこの範囲にあるときに繊維強化複合材料の機械的強度、耐熱性、耐薬品性等の特性を格段に向上させることができ好適である。
【0029】
老化防止剤としては、一般的に樹脂工業で使用されるものであれば格別な限定なく使うことができるが、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を用いることにより、得られる繊維強化複合材料の耐酸化劣化性を高度に向上させることができ好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤が特に好ましい。
【0030】
これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンポリマーの架橋体100重量部に対して、通常0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部の範囲である。
【0031】
難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の添加剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0032】
本発明に使用される繊維強化樹脂の厚みは、使用目的の応じて適宜選択されるが、通常0.001〜10mm、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.05〜0.5mmの範囲である。この範囲であるときに、繊維強化複合材料の機械的強度、耐衝撃強度の特性が高度にバランスされ好適である。
【0033】
(エラストマーからなるシート)
本発明に使用されるエラストマーとしては、使用目的に応じて適宜選択されるが、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロプレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などの共役ジエン系ゴム及びその水素添加物;エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのオレフィン系ゴム;シリコンゴム;フッ素ゴムなどのエラストマーを含む。これらの中でも特にシリコンゴムが好ましい。
【0034】
これらのエラストマーは、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。エラストマーの、エラストマーからなるシート中での割合は、重量比で、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0035】
本発明に使用されるエラストマーからなるシートには、機能性を高める観点で、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、発泡剤、制泡剤、カップリングなどの添加剤を添加することができる。これらの添加剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができ、その添加量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0036】
本発明に使用されるエラストマーからなるシートの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常0.0001〜100mm、好ましくは0.001〜50mm、より好ましくは0.01〜10mmの範囲である。また、該エラストマーからなるシートの層を、繊維強化樹脂の被覆層として、又は繊維強化樹脂と他部材との接着剤層として使用する場合の厚みは、通常0.0001〜1mm、好ましくは0.001〜0.1mmの範囲である。
【0037】
(繊維強化複合材料の製造方法)
本発明の繊維強化複合体は、上記繊維強化樹脂とエラストマーからなるシートが一体化されてなる。その製造方法について格別な限定はないが、例えば、前記炭素繊維の表面の少なくとも一部分に接触するように前記エラストマーからなるシートを配置する積層工程、ならびに前記エラストマーからなるシート、及びシクロオレフィンポリマー及び架橋剤を含んでなる硬化性組成物を炭素繊維に含浸し、硬化させる硬化工程とから容易に製造することができる。繊維強化樹脂を製造する方法としては、シクロオレフィンポリマーをトルエン、キシレン等の溶媒に溶解後、これと架橋剤、必要に応じてその他添加剤を含んでなる硬化性組成物を炭素繊維に含浸した後、乾燥する方法、又はシクロオレフィンモノマー、重合触媒及び架橋剤、必要に応じてその他添加剤を含んでなる硬化性組成物を炭素繊維に含浸した後、重合する方法が挙げられる。中でも、シクロオレフィンモノマー、重合触媒及び架橋剤を含んでなる硬化性組成物を炭素繊維に含浸した後、重合する方法が好ましい。ここで、前記積層工程は、エラストマーからなるシートと炭素繊維を融着させる工程であることが好ましい。融着とは、エラストマーからなるシートを、エラストマーの軟化点以上に加熱し、溶融させることにより、炭素繊維と接着させることである。本発明においては、エラストマーからなるシート及び炭素繊維の存在下で、シクロオレフィンポリマー及び架橋剤を含んでなる硬化性組成物を硬化させることにより、エラストマーからなるシート、炭素繊維、及びシクロオレフィンポリマーの架橋体が一体となった機械的強度に優れ且つ卓越した耐衝撃性を有する繊維強化複合材料を製造できるので好適である。
【0038】
エラストマーからなるシートを炭素繊維に積層する工程は、常法に従って行なえばよく、例えば、型内で硬化性組成物の硬化を行なう場合には、エラストマーからなるシートと炭素繊維が接触するようにこれらを型内に固定すればよい。また、エラストマーからなるシートと炭素繊維を融着させる場合には、炭素繊維を加熱し、エラストマーからなるシートをこれと接触するように設置してエラストマーからなるシートを溶融させ、0.01〜10MPa程度の圧力を付与することで、炭素繊維にエラストマーからなるシートが含浸し、且つ、炭素繊維表面にエラストマーの層を形成させることができる。
【0039】
本発明に使用することができる硬化性組成物は、前記シクロオレフィンモノマー、重合触媒及び架橋剤、又は前記シクロオレフィンポリマー、及び架橋剤を主成分とする。前記硬化性組成物には、必要に応じて、重合調整剤、連鎖移動剤、重合反応遅延剤、架橋助剤及びその他の添加剤を添加することができる。その他の添加剤としては、前記と同様の充填剤、老化防止剤、難燃剤、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤、高分子改質剤などを挙げることができる。
【0040】
本発明に使用される重合触媒としては、シクロオレフィンモノマーを重合できるものであれば格別な限定はないが、通常はメタセシス重合触媒が用いられる。メタセシス重合触媒は、シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合できるものであり、通常遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては例えばタンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えばモリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えばルテニウムやオスミウムが挙げられる。これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体をメタセシス重合触媒として用いることが好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性に優れるため、得られる繊維強化樹脂の未反応のモノマーに由来する臭気が少なく生産性に優れる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも生産が可能である。
【0041】
本発明においては、重合触媒としてヘテロ環構造を有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒を用いることが、得られる繊維強化複合材料の機械的強度と耐衝撃性が高度にバランスされ好適である。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子等が挙げられ、好ましくは窒素原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリンやイミダゾリジン構造が好ましく、かかるヘテロ環構造を有する化合物の具体例としては、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0042】
好ましいルテニウム触媒の例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子としてヘテロ環構造を有する化合物と中性の電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物が挙げられる。
【0043】
これらの重合触媒は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。重合触媒の使用量は、(重合触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0044】
重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;インデン、テトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、及び脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0045】
本発明に使用することができる架橋剤としては、シクロオレフィンポリマーを架橋できるものであれば格別な制限はないが、通常ラジカル発生剤が用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物や非極性ラジカル発生剤である。
【0046】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;などが挙げられる。中でも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド及びペルオキシケタール類が好ましい。
【0047】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0048】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0049】
本発明に使用される架橋剤がラジカル発生剤の場合の1分間半減期温度は、架橋の条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。例えば、ジ−t−ブチルペルオキシドでは186℃、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンでは194℃である。
【0050】
これらの架橋剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量は、シクロオレフィンポリマー100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0051】
本発明においては、架橋助剤を添加することで、硬化性組成物に多量の無機充填剤等を添加した場合も炭素繊維への含浸性に優れ、また、エラストマーからなるシートとの密着性も向上でき好適である。
【0052】
本発明で使用される架橋助剤としては、一般的に用いられるものを格別な限定なく使用でき、例えば、分子内に炭素−炭素不飽和結合を2つ有する2官能性架橋助剤、分子内に炭素−炭素不飽和結合を3つ以上有する多官能架橋助剤などを挙げることができる。
【0053】
本発明に使用される架橋助剤の構造は、格別な限定はないが、対称性の高い構造を有することが好ましい。特に、架橋助剤が、炭化水素で、対称性の高い構造を有するものであるときに硬化性組成物の炭素繊維への含浸性、及び硬化して得られる繊維強化複合材料の機械的強度、耐衝撃性及び耐熱性を高度に改善できるので好適である。
【0054】
かかる架橋助剤の具体例としては、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンなどの2官能架橋助剤、トリイソプロペニルベンゼン、トリメタアリルイソシアネートなどの3官能架橋助剤等が挙げられる。中でも、トリイソプロペニルベンゼン、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンが好ましく、m−ジイソプロペニルベンゼンがより好ましい。
【0055】
これらの架橋助剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋助剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対し、通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部、最も好ましくは5〜15重量部である。
【0056】
重合調整剤は、重合活性の制御、又は重合反応率の向上等の目的で用いられるものであり、具体例としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合調整剤の使用量は、(重合触媒中の金属原子:重合調整剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0057】
連鎖移動剤としては、通常は、置換基を有していてもよい鎖状のオレフィン類を用いることができる。その具体例としては、例えば、1−ヘキセン、2−ヘキセンなどの脂肪族オレフィン類;スチレン、ジビニルベンゼン、スチルベンなどの芳香族基を有するオレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素基を有するオレフィン類;エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;メチルビニルケトン、1,5−ヘキサジエン−3−オン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン−3−オン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸3−ブテン−1−イル、メタクリル酸3−ブテン−2−イル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、アクリル酸3−ブテン−1−イル、アクリル酸3−ブテン−2−イル、アクリル酸1−メチル−3−ブテン−2−イル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレート、アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、アリルアミン、2−(ジエチルアミノ)エタノールビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどが挙げられる。
【0058】
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができ、その添加量は、シクロオレフィンモノマー全体に対して、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。
【0059】
本発明に用いる硬化性組成物は、重合反応遅延剤を含有していると、その粘度増加を抑制でき、容易に炭素繊維に均一に硬化性組成物を含浸できるので、好ましい。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。
【0060】
本発明に使用される硬化性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、重合触媒を適当な溶媒に溶解又は分散させた液(触媒液)をシクロオレフィンモノマー、架橋剤及び必要に応じてその他の添加剤を含む液(モノマー液)に添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0061】
硬化性組成物の炭素繊維への含浸は、例えば、硬化性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により炭素繊維に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。
【0062】
含浸を型内で行う場合は、型内に炭素繊維とエラストマーからなるシートとをそれぞれが接触するように設置し、該型内に硬化性組成物を注ぎ込んで行う。この場合において、得られる繊維強化複合材料の表面の一部にエラストマーの層が露出するように、エラストマーからなるシートを型と接するように設置することが好ましい。この方法によれば、任意の形状の繊維強化複合材料を得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、多角柱状等が挙げられる。ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造すなわちコア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に硬化性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とする繊維強化複合材料の形状にあった空隙部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。また、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に硬化性組成物を注入し、該型内で硬化を行うことにより、シート状又はフィルム状の繊維強化複合材料を得ることができる。
【0063】
硬化性組成物は従来のエポキシ樹脂等と比較して低粘度であり、炭素繊維に対する含浸性に優れるので、重合で得られる樹脂を炭素繊維に均一に含浸させることができる。
【0064】
シクロオレフィンモノマーの重合と硬化は同時に行なうこともできるが、重合後に硬化(ポストキュアー)することもできる。硬化する方法としては、常法に従えばよく、例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて熱プレスを行なうことができる。加熱温度は、前記架橋剤の架橋の起こる温度であり、ラジカル発生剤を用いた場合は、1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度である。通常は、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜20分の範囲である。
【0065】
かくして得られる本発明の繊維強化複合材料は、エラストマーからなるシートと繊維強化樹脂とからなり、機械的強度に優れ且つ卓越した耐衝撃性を有するため、例えば、OAやAV機器、自動車や鉄道などの車両用構造体材、航空機内装部品などをはじめとして、ゴルフシャフトや釣竿等のスポーツ用途、その他一般産業用途に好適に用いられる。具体的の用途としては、例えば、釣竿、ゴルフクラブ用シャフト、テニスラケット、スキーストック等のスポーツ用途;ディスプレー、FDDキャリッジ、シャーシ、HDD、MO、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、ポータブルMD、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの電気・電子機器;電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、アイロン、ヘアドライヤー、炊飯器、電子レンジ、音響機器、掃除機、トイレタリー用品、レザーディスク、コンパクトディスク、照明、冷蔵庫、エアコン、タイプライター、ワードプロセッサーなどのオフィスオートメーション機器及び家電機器;アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ドライブシャフト、ホイール、ホイールカバー、フェンダー、ドアミラー、ルームミラー、フェシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、トランクフード、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スピラー及び各種モジュールなどの自動車部品;ランディングギアポッド、ウイングレッド、スポイラー、エッジ、ラダー、フェイリングなどの航空機部品及びパネルなどの建材などが挙げられる。これらの中でも、自動車や航空機などの乗物用部品材料として特に好適である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0067】
実施例及び比較例における各特性は、下記の方法に従い測定、評価した。
(1)耐衝撃性試験:成形品をコンクリート土台上に置き、1m上部から100gのステンレス球を3,000回落下を繰り返し試験をおこなった。
【0068】
(実施例1)
ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、ジシクロペンタジエン(DCP)100部、連鎖移動剤としてアリルメタクリレート0.74部、架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186℃)1.2部、フェノール系老化防止剤として3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール1.0部を加えたを混合してモノマー液を調製した。ここに上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mlの割合で加えて撹拌して硬化性組成物を調製した。
【0069】
一方、炭素繊維(繊維目付量:190g/m、繊維引張強度4,900MPa、繊維引張弾性率:294GPa、厚み0.1mm)を6枚積層したものを、キャビティー型で250×250×0.8mmのシート状に成形可能な金型内に置き、その最表面にシリコンゴムシート(厚み0.1mm、軟化点200℃)を炭素繊維と同様の大きさにカットしものを重ねて積層し、型締めを行なった。次いで、上記調製した硬化性組成物を金型内に注入し、200℃×15分間で硬化させて成形品(繊維強化複合材料)を得た。成形品の厚みは806μmであった。得られた成形品の耐衝撃試験を行なったが、壊れることも亀裂が入ることもなかった。
【0070】
(比較例1)
実施例1と同様にして、炭素繊維と3元共重合ポリアミド樹脂を金型内に重ねて積層し、型締めを行なった。次いで、金型温度を155℃に加温した後、エピコート1005F(2官能ビスフェノール型樹脂、エポキシ当量950〜1050)20部、エピコート828(2官能ビスフェノール型樹脂、エポキシ当量176〜180)80部、硬化剤としてのジシアンジアミド5部、及び硬化促進剤としての1,1”−4(メチル−m−フェニレン)ビス(3,3”ジメチルウレア))4.2部からなるエポキシ樹脂組成物を金型内に注入し、炭素繊維に含浸させ、155℃×2時間硬化させて成形品(繊維強化複合材料)を得た。成形品の厚みは802μmであった。得られた成形品の耐衝撃試験を行なうと砕けてしまった。
【0071】
(比較例2)
エチレン・オクテン共重合体70部、ポリプロピレン30部及び2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.3部の混合物を2軸押出機(シリンダー温度220℃)に導入し、溶融押し出しを行ない200μmのシート2枚を作製した。次いで得られたシート2枚でガラス繊維6枚(#2116;旭シュエーベル社製)の両側から挟み200℃のプレス成形機により成形品(繊維強化複合体)を得た。成形品の厚みは816μmであった。得られた成形品の耐衝撃試験を行うと砕けてしまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維とシクロオレフィンポリマーの架橋体を含む繊維強化樹脂の表面の少なくとも一部分にエラストマーからなるシートが一体化されてなる繊維強化複合材料。
【請求項2】
前記エラストマーが、シリコンゴムである請求項1記載の繊維強化複合材料。
【請求項3】
炭素繊維に接触するようにエラストマーからなるシートを配置する積層工程、ならびに前記エラストマーからなるシート及び前記炭素繊維の存在下に、シクロオレフィンモノマー、重合触媒及び架橋剤を含んでなる硬化性組成物を硬化させる硬化工程とを含む繊維強化複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2009−202514(P2009−202514A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49399(P2008−49399)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】