説明

繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法

【課題】板状の射出成形品の板面方向の特性の等方性を確保できると共に十分な特性を得ることのできる繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法を提案すること。
【解決手段】射出成形品1は四層の樹脂層2〜5が板厚方向に積層された断面構成となっており、各樹脂層2〜5ではそれぞれ繊維状フィラー6の配向方向2a〜5aが揃っており、各樹脂層2〜5の間ではそれぞれの配向方向2a〜5aが異なる方向となっている。各樹脂層に対応する個数のゲートから繊維状フィラー入り溶融樹脂を金型キャビティに注入して充填することで各樹脂層における繊維状フィラー入り溶融樹脂の流れ方向を制御して各樹脂層2〜5において繊維状フィラー6の配向方向2a〜5aを揃えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属繊維、炭素繊維等の繊維状フィラーを含む溶融樹脂を金型キャビティ内に注入・充填することにより、高強度で、導電性、電磁波シールド性などの機能を備えた板状の射出成形品を製造するのに適した製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度の板状の樹脂加工品は、テレビ、車載用電池ケースなどのような大型化および薄型化が求められる製品の部材、携帯電話、デジタルカメラ、ノートパソコンなどのような表示画面を備えた製品の部材、あるいは、歯車、シャーシー、スライド機構などの部品において多用されている。
【0003】
このような板状の樹脂加工品は一般に樹脂の射出成形品であり、高強度、その他の特性を付与するために、ガラス繊維、アロマティック繊維、金属繊維、炭素繊維などの繊維状フィラーを溶融樹脂に分散混合させた状態で射出成形機から射出し、金型キャビティ内に注入、充填して成形している。この場合、金型キャビティ内に注入した繊維状フィラー入り溶融樹脂の流れに沿って繊維状フィラーが配向され、この状態で樹脂が硬化して成形される。この結果、得られた射出成形品においては繊維状フィラーの配向方向が一方向に偏るので、強度、収縮率、導電性、磁気シールド性などの物理的特性に異方性が生じてしまう。また、射出成形機から射出されてゲートから金型キャビティ内に注入された繊維状フィラー入り溶融樹脂が、金型キャビティ内における狭い部位を通過する際にせん断してしまい、得られた射出成形品に十分な特性を付与できない場合がある。
【0004】
特許文献1に記載の射出成形装置においては、ゲート開閉手段の開閉の度合い、開閉のタイミングによりキャビティ内での樹脂の流れを制御して、繊維配向に起因して生じる製品の変形を防止している。すなわち、ゲートを中心としてキャビティ内において放射状に広がる溶融樹脂の流れを、複数のゲートの開閉制御を行うことによって調整して繊維配向方向を制御している。特許文献2に記載の繊維強化樹脂材料の成形方法では、金型内に樹脂材料の流れを制御する部材を配置して補強用繊維の方向をランダムにしている。特許文献3に記載の射出成形品の製造方法では、材料射出充填時に金型の一部を回転あるいは往復運動させて、射出材料の流れを制御して補強繊維の配向を制御している。
【0005】
一方、特許文献4に記載の樹脂成形体の成形方法では、長尺状の樹脂製成形体における一方の部分においてはその長手方向に繊維を配向し、他方の部分においては繊維をランダムに配向するようにしている。特許文献5に記載の方法では、二色成形により一方の層のフィラーを同一方向に配向し、他方の層のフィラーをランダムに配向するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−241879号公報
【特許文献2】特開平03−114811号公報
【特許文献3】特開2001−287239号公報
【特許文献4】特開2002−86493号公報
【特許文献5】特開2008−168622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来における繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法では、キャビティ内に注入した溶融樹脂の流れを制御して、繊維状フィラーの配向性をランダムあるいは長尺部材の長手方向などの一方向に揃えるようにしている。曲げ強度などの等方性を確保するためには繊維状フィラーの配向方向がランダムな状態を形成すればよいが、ランダム配向の場合には各方向の強度が均一化されるものの、全体として強度が低下してしまい、必要とされる強度が得られない場合がある。また、導電性、磁気シールド性などの特性を付与する場合にはランダム配向では十分な特性が得られないという問題点がある。
【0008】
繊維状フィラーの配向方向を製品の長手方向に揃えた場合には長手方向においては十分な導電性を確保できるが、それに直交する方向においては、導電性を確保できず、また、強度も大幅に低下してしまう。このように、従来における繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品においては、強度の等方性を確保し、かつ、これ以外の特性の等方性を同時に確保することが困難である。
【0009】
一方、従来においては、薄肉部分を備えた射出成形品の射出成形にあたり、当該薄肉部分に対応する幅の狭いキャビティ内の部分を溶融樹脂が通過する際に、そこに含まれている繊維状フィラーにせん断が発生して不具合が発生する点については着目されていない。このため、繊維状フィラーのせん断に起因して所期の特性が十分に得られないという問題点を解決するための対策については提案されていない。
【0010】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、板状の射出成形品の板面方向における強度、導電性などの特性の等方性を確保できると共に十分な特性を得ることのできる繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法を提案することにある。
【0011】
また、本発明の課題は、板状の射出成形品の板面方向における複数の特性の等方性を同時に確保することのできる繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法を提案することにある。
【0012】
さらに、本発明の課題は、薄肉部分を備えた板状の射出成形品の射出成形時に繊維状フィラーにせん断が生じないようにした繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、繊維状フィラー入り樹脂からなる板状の射出成形品の製造方法において、
前記射出成形品はその板厚方向に積層された複数の繊維状フィラー入り樹脂層を備え、各繊維状フィラー入り樹脂層内では、繊維状フィラーの配向方向が前記板厚方向に直交する板面方向において同一方向に揃っており、各繊維状フィラー入り樹脂層の間においては、繊維状フィラーの配向方向が相互に異なる方向となっており、
前記射出成形品を成形するための射出成形用金型の金型キャビティには、前記繊維状フィラー入り樹脂層のそれぞれに対応するキャビティ部分にゲートが配置されており、
前記ゲートのそれぞれは、前記キャビティ部分のそれぞれに注入した溶融樹脂の流れ方向が対応する樹脂層における繊維状フィラーの配向方向に一致するように、前記金型キャビティに対する配置位置および注入方向が設定されており、
前記金型キャビティ内に前記樹脂層の一つに対応するキャビティ部分を形成し、形成したキャビティ部分に、当該キャビティ部分に対応する前記ゲートから溶融樹脂を注入して前記樹脂層を形成する第1工程と、
前記金型キャビティ内において、形成された樹脂層に対して前記板厚方向に隣接する部分に当該樹脂層に積層される別の樹脂層を形成するためのキャビティ部分を形成し、形成したキャビティ部分に、当該キャビティ部分に対応する前記ゲートから溶融樹脂を注入して前記樹脂層を形成する第2工程とを含み、
前記第2工程を必要回数繰り返すことを特徴としている。
【0014】
本発明の製造方法により製造される射出成形品は、その板厚方向に積層された複数の樹脂層から形成され、各樹脂層内では繊維状フィラーの配向方向が一方向に揃っており、各樹脂層の間では相互に繊維状フィラーの配向方向が相違している。例えば、二層の樹脂層から形成されている場合には、各樹脂層内においては繊維状フィラーの配向方向がそれぞれ板面方向に揃っており、双方の樹脂層の間では、繊維状フィラーの配向方向が板面方向において相互に直交する方向とされる。また、四層の樹脂層から形成されている場合には、一つの樹脂層における繊維状フィラーの配向方向に対して、もう一つの樹脂層における繊維状フィラーの配向方向が直交する方向に設定され、残りの二つの樹脂層では、これらの直交する配向方向に対してそれぞれ逆方向に45度傾斜した配向方向とされる。
【0015】
このように、板状の射出成形品を、繊維状フィラーの配向方向を揃えた樹脂層が板厚方向に複数積層された状態となるように成形することにより、板面方向の各方向における繊維状フィラーによって得られる強度、およびその他の特性の等方性を確保できる。これと同時に、板面方向の各方向において繊維状フィラーの配向方向が揃っている樹脂層が形成されているので、全体的に繊維状フィラーの配向方向がランダムとなっている場合に比べて、各板面方向において繊維状フィラーによって得られる強度等の特性を高めることができる。
【0016】
特に、導電板、電磁波シールド板、アンテナ板等として用いられる板状の射出成形品の場合には、導電性の繊維状フィラーがランダム配向されている場合には全体として十分な導電性などの特性を確保できない。本発明によれば、板状の射出成形品の板面方向の異なる方向に配向した繊維状フィラーを備えた複数の樹脂層が形成されているので、特性の等方性を確保できると共に、各板面方向において十分な特性を得ることができる。
【0017】
よって、本発明の方法によれば、複数の特性が同時に要求されると共に、それらの等方性も同時に要求される場合、例えば、高強度と導電性とが同時に要求される場合に対応できる。
【0018】
一方、本発明は、繊維状フィラー入り樹脂からなる板状の射出成形品の製造方法において、
前記射出成形品を成形するための金型キャビティにおける前記射出成形品の板厚方向の厚さを当該射出成形品の板厚よりも厚くし、
この状態で、繊維状フィラー入り溶融樹脂を前記金型キャビティに注入して充填し、
充填後の溶融樹脂を前記板厚方向に圧縮して前記板厚と同一の厚さとすることにより、繊維状フィラー入り樹脂を金型キャビティに注入して充填する際における前記繊維状フィラーのせん断を抑制することを特徴としている。
【0019】
本発明の方法では、金型キャビティの厚さを実際の射出成形品の肉厚よりも厚くしておくことができるので、射出成形時における金型キャビティ内の溶融樹脂の流動性を改善できる。よって、射出成形品の薄肉部分に対応する金型キャビティ内の狭い隙間部分を通して溶融樹脂を流す必要がないので、そこに含まれている繊維状フィラーのせん断を抑制することができる。この結果、繊維状フィラーによって得られる効果を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した実施の形態1の方法によって得られた板状の射出成形品の断面構成を示す説明図である。
【図2】図1の射出成形品の製造に用いる射出成形金型の構成を示す概念図である。
【図3】本発明を適用した実施の形態2の方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明を適用した板状の射出成形品の製造方法を説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1は本発明の方法によって得られた繊維状フィラー入り樹脂からなる板状の射出成形品の断面構成例を示す説明図である。図示の板状の射出成形品1は、その板厚方向1aに積層された4つの第1〜第4の繊維状フィラー入り樹脂層2〜5を備えている。各繊維状フィラー入り樹脂層2〜5内では、繊維状フィラー6の配向方向2a〜5aが板厚方向1aに直交する板面方向1b、1cにおいて同一方向に揃っており、各繊維状フィラー入り樹脂層2〜5の間においては、繊維状フィラーの配向方向2a〜5aが相互に異なる方向となっている。
【0023】
例えば、第1の繊維状フィラー入り樹脂層2における繊維状フィラー6の配向方向2aは板面方向1cと平行な方向である。第2の繊維状フィラー入り樹脂層3における繊維状フィラー6の配向方向3aは配向方向2aに直交する方向(板面方向1b)である。第3の繊維状フィラー入り樹脂層4における繊維状フィラー6の配向方向4aは配向方向2aに対して45度傾斜した方向である。これに対して、第4の繊維状フィラー入り樹脂層5における繊維状フィラーの配向方向5aは、配向方向2aに対して45度傾斜し、かつ、配向方向4aに直交する方向である。
【0024】
図2は本例の射出成形品1の射出成形に用いる射出成形金型の構成を示す概念図である。射出成形金型10は、例えば、固定側の金型10aと可動側の金型10bを備え、型締め状態の金型10a、10bの間には射出成形品1に対応する内周面形状を備えた金型キャビティ11が形成される。また、金型キャビティ11には、繊維状フィラー入り樹脂層2〜5のそれぞれを形成するためのキャビティ部分12〜15に対応して4個のゲート22〜25が配置されている。ゲート22〜25は、各キャビティ部分12〜15において、射出成形品1の各繊維状フィラー入り樹脂層2〜5の端面に対応する部位に配置されていると共に、各配向方向2a〜5aに沿った方向に注入された繊維状フィラー入り溶融樹脂の流れ方向が形成されるように配置されている。
【0025】
本例では、各ゲート22〜25は、それぞれ、ホットランナーバルブ32〜35に連通している。ホットランナーバルブ32〜35を開閉することで、不図示の射出成形機の射出ノズルの側からスプルーを介して繊維状フィラー入り溶融樹脂が各ゲート22〜25に供給され、各ゲート22〜25から金型キャビティ11内に注入される。繊維状フィラー入り溶融樹脂を金型キャビティ11内に注入して充填する操作は、例えば次のように行う。
【0026】
まず、固定側の金型10aと可動側の金型10bの間に、最下層の第4の繊維状フィラー入り樹脂層5に対応するキャビティ部分15を形成する。この状態で、対応するホットランナーバルブ35を開き、ゲート25から繊維状フィラー入り溶融樹脂をキャビティ部分15に注入する。注入された繊維状フィラー入り溶融樹脂は、キャビティ部分15の端面から配向方向5aに沿った方向に流れて当該キャビティ部分15に充填される。この結果、得られた繊維状フィラー入り樹脂層5における繊維状フィラー6は溶融樹脂の流れに沿った方向、すなわち配向方向5aに揃う。
【0027】
この後は、可動側の金型10bを移動させて(コアバックあるいはコアスライドさせて)、第2層目の繊維状フィラー入り樹脂層4に対応するキャビティ部分14を形成する。そして、ホットランナーバルブ34を開きキャビティ部分14の端面に配置されているゲート24から当該キャビティ部分14に繊維状フィラー入り溶融樹脂を注入する。注入された繊維状フィラー入り溶融樹脂は配向方向4aに沿った方向に流れて当該キャビティ部分14に充填される。この結果、当該繊維状フィラー入り樹脂層4における繊維状フィラーの配向方向は配向方向4aになる。
【0028】
同様にして、キャビティ部分13、12を形成して、ホットランナーバルブ33、32を開いて当該キャビティ部分13、12に繊維状フィラー入り溶融樹脂を注入して充填する操作を行う。この結果、図1に示すように、繊維状フィラー6が配向方向2a〜5aに揃った状態で積層された繊維状フィラー入り樹脂層2〜5を備えた射出成形品1が得られる。
【0029】
ここで、繊維状フィラー入り樹脂の基材(樹脂)としては、各種の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂のうち、特に、ポリアミド、LCP、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポロフェニレンエーテルまたはポリフェニレンサルファイドを用いることが望ましい。熱硬化性樹脂を用いることも可能であり、この場合には、フェノール、ウレタン、エポキシまたはシリコーンを用いることが望ましい。
【0030】
本発明者は、ポリアミド、ポリカーボネイト等の樹脂を用いて図1に示す四層構成の板状の射出成形品を製造し、その曲げ弾性率を測定した。この結果、板面方向の各方向における曲げ弾性率が等方性を示し、また、15Gpa〜100Gpaの値が得られることも確認された。
【0031】
また、金属繊維、炭素繊維などの導電性の樹脂状フィラー入り樹脂を用いて板状の射出成形品を製造したところ、板面方向の各方向において強度および導電性の等方性が得られると共に、各方向において十分な強度および導電性が得られることが確認された。さらに、繊維状フィラー6の配向方向2a〜5aのうち、直交方向からバイアスさせた配向方向4a、5aは、本例では45度にしてあるが、45度以外の角度とすることも可能である。実用上支障のない等方性を得るためには、配向方向4a、5aを、配向方向2aに対して逆方向に30度から60度の範囲内の角度に設定しておけばよい。
【0032】
(実施の形態2)
図3は本発明を適用した実施の形態2に係る方法を示す説明図である。図3(a)に示すように、板状の射出成形品40はその板面方向の途中位置において薄肉部分41が備わっている。この断面形状の射出成形品40は、以下に述べるように、繊維状フィラー入り樹脂を用いて射出成形によって製造できる。
【0033】
まず、図3(b)に示すように、射出成形品40を成形するための射出成形型50の金型キャビティ51において、その厚さ51Dを射出成形品40の板厚40Dよりも僅かに厚くした型締め状態を形成する。したがって、射出成形品40の薄肉部分41に対応する狭い隙間部分52の幅52Dも薄肉部分41の厚さ41Dよりも僅かに広くなる。この状態で、繊維状フィラー入り溶融樹脂を金型キャビティ51に注入して充填する。
【0034】
繊維状フィラー入り溶融樹脂が金型キャビティ51に充填された後は、金型キャビティ51の厚さ51Dを射出成形品40の板厚40Dと同一となるように狭める。したがって、狭い隙間部分52の幅52Dも薄肉部分41の厚さ41Dと同一になる。この結果、充填された繊維状フィラー入り溶融樹脂が板厚方向に圧縮して、射出成形品40の板厚40Dと同一の厚さになる。
【0035】
このようにすれば、繊維状フィラー入り樹脂を金型キャビティ51に注入して充填する際に、金型キャビティ51の最も狭い隙間部分52の幅52Dを、ここを通過する繊維状フィラーがせん断しない寸法に広くしておくことができる。したがって、薄肉部分41を備えた射出成形品40を製造するに当たり、繊維状フィラー入り樹脂の注入、充填時に繊維状フィラーがせん断してしまい、射出成形品40に、強度、電気的特性などの特性が十分に付与されないという不具合を回避あるいは抑制できる。
【0036】
一般的には、金型キャビティ51の厚さを射出成形品40の板厚よりも0.01mm〜2.5mmの範囲内の値だけ厚くしておき、この状態で繊維状フィラー入り溶融樹脂を金型キャビティ51に注入して充填すればよい。なお、使用する繊維状フィラー入り樹脂の基材は実施の形態1において説明した場合と同様な熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0037】
本例では単一の層構成の射出成形品40について説明したが、実施の形態1におけるように多層構成の射出成形品1の製造方法にも本例の方法を適用できる。すなわち、射出成形品1の一部に薄肉部分があり、繊維状フィラー入り溶融樹脂の通過時に繊維状フィラーがせん断する可能性がある場合には、金型キャビティを厚めに設定しておき、溶融樹脂充填後に圧縮すればよい。
【符号の説明】
【0038】
1 射出成形品
1a 板厚方向
1b、1c 板面方向
2〜5 繊維状フィラー入り樹脂層
2a〜5a 配向方向
6 繊維状フィラー
10 射出成形金型
10a 固定側の金型
10b 可動側の金型
11 金型キャビティ
12〜15 キャビティ部分
22〜25 ゲート
32〜35 ホットランナーバルブ
40 射出成形品
40D 板厚
41 薄肉部分
41D 厚さ
50 射出成形型
51 金型キャビティ
51D 厚さ
52 狭い隙間部分
52D 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状フィラー入り樹脂からなる板状の射出成形品の製造方法であって、
前記射出成形品はその板厚方向に積層された複数の繊維状フィラー入り樹脂層を備え、各繊維状フィラー入り樹脂層内では、繊維状フィラーの配向方向が前記板厚方向に直交する板面方向において同一方向に揃っており、各繊維状フィラー入り樹脂層の間においては、繊維状フィラーの配向方向が相互に異なる方向となっており、
前記射出成形品を成形するための射出成形用金型の金型キャビティには、前記繊維状フィラー入り樹脂層のそれぞれに対応するキャビティ部分にゲートが配置されており、
前記ゲートのそれぞれは、前記キャビティ部分のそれぞれに注入した溶融樹脂の流れ方向が対応する樹脂層における繊維状フィラーの配向方向に一致するように、前記金型キャビティに対する配置位置および注入方向が設定されており、
前記金型キャビティ内に前記樹脂層の一つに対応するキャビティ部分を形成し、形成したキャビティ部分に、当該キャビティ部分に対応する前記ゲートから溶融樹脂を注入して前記樹脂層を形成する第1工程と、
前記金型キャビティ内において、形成された樹脂層に対して前記板厚方向に隣接する部分に当該樹脂層に積層される別の樹脂層を形成するためのキャビティ部分を形成し、形成したキャビティ部分に、当該キャビティ部分に対応する前記ゲートから溶融樹脂を注入して前記樹脂層を形成する第2工程とを含み、
前記第2工程を必要回数繰り返すことを特徴とする繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記射出成形品は、前記板厚方向に積層された第1〜第4の繊維状フィラー入り樹脂層を備えており、
前記第1の繊維状フィラー入り樹脂層における前記繊維状フィラーの配向方向は第1の方向であり、
前記第2の繊維状フィラー入り樹脂層における前記繊維状フィラーの配向方向は前記第1の方向に直交する第2の方向であり、
前記第3の繊維状フィラー入り樹脂層における前記繊維状フィラーの配向方向は前記第1の方向に対して、30度〜60度の範囲内の角度で傾斜した第3の方向であり、
前記第4の繊維状フィラー入り樹脂層における前記繊維状フィラーの配向方向は、前記第1の方向に対して、前記第3の方向とは逆回りに、30度〜60度の範囲内の角度で傾斜した第4の方向であることを特徴とする繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記第3の方向および前記第4の方向は、それぞれ、前記第1の方向に対して45度傾斜した方向であることを特徴とする繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記射出成形品の曲げ弾性率は前記板面方向において等方性を示し、
当該曲げ弾性率の範囲は、15Gpa〜100Gpaの範囲内の値であることを特徴とする繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項2ないし4のうちのいずれかの項において、
前記繊維状フィラーは導電性素材からなり、
前記射出成形品は前記板面方向における電気的特性が等方性を示すことを特徴とする繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれかの項において、
前記射出成形品を成形するための金型キャビティにおける前記射出成形品の板厚方向の厚さを当該射出成形品の板厚よりも厚くしておき、
この状態で、繊維状フィラー入り溶融樹脂を前記金型キャビティに注入して充填し、
充填後の溶融樹脂を前記板厚方向に圧縮して前記板厚と同一の厚さとすることにより、繊維状フィラー入り樹脂を金型キャビティに注入して充填する際における前記繊維状フィラーのせん断を抑制することを特徴とする繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちのいずれかの項に記載の製造方法によって製造された繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品であって、
板厚方向に積層された複数の繊維状フィラー入り樹脂層を備えており、
各繊維状フィラー入り樹脂層内では、繊維状フィラーの配向方向が前記板厚方向に直交する板面方向において同一方向に揃っており、
各繊維状フィラー入り樹脂層の間においては、繊維状フィラーの配向方向が相互に異なる方向となっていることを特徴とする繊維状フィラー入り樹脂からなる射出成形品。
【請求項8】
繊維状フィラー入り樹脂からなる板状の射出成形品の製造方法であって、
前記射出成形品を成形するための金型キャビティにおける前記射出成形品の板厚方向の厚さを当該射出成形品の板厚よりも厚くし、
この状態で、繊維状フィラー入り溶融樹脂を前記金型キャビティに注入して充填し、
充填後の溶融樹脂を前記板厚方向に圧縮して前記板厚と同一の厚さとすることにより、繊維状フィラー入り樹脂を金型キャビティに注入して充填する際における前記繊維状フィラーのせん断を抑制することを特徴とする繊維状フィラー入り樹脂からなる板状の射出成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項6または8において、
前記金型キャビティの厚さを前記射出成形品の板厚よりも0.01mm〜2.5mmの間の値だけ厚くし、この状態で前記繊維状フィラー入り溶融樹脂を前記金型キャビティに注入して充填することを特徴とする繊維状フィラー入り樹脂からなる板状の射出成形品の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のうちのいずれかの項において、
前記繊維状フィラー入り樹脂の基材は、熱可塑性樹脂である、ポリアミド、液晶ポリマ(LCP)、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテルおよびポリフェニレンサルファイドのうちのいずれか一つであることを特徴とする繊維状フィラー入り樹脂からなる板状の射出成形品の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし9のうちのいずれかの項において、
前記繊維状フィラー入り樹脂の基材は、熱硬化性樹脂である、フェノール、ウレタン、エポキシまたはシリコーンであることを特徴とする繊維状フィラー入り樹脂からなる板状の射出成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−240226(P2012−240226A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109335(P2011−109335)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(594062879)株式会社シンセイ (5)
【Fターム(参考)】