説明

耐熱樹脂組成物、強化繊維プリプレグ及び強化繊維複合材料

【課題】エポキシ樹脂並みの粘度調整能力を有して、ポリイミド系樹脂に近い耐熱性を有する樹脂組成物、並びに、この耐熱樹脂組成物をマトリクス樹脂として使用したプリプレグ及び強化繊維複合材料を提供する。
【解決手段】少なくとも主剤としてのエポキシ樹脂と硬化剤とを含む基材エポキシ樹脂の中に、融点が120〜220℃のマレイミド化合物の粉体を分散させた耐熱樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下にて用いられるロボット部材や、オーブン中で使用される耐熱性を要求されるロール、ハンダ耐熱性を要するプリント基盤、電線ケーブルのテンションメンバー用の耐熱ロッドなどの、耐熱性を要求される強化繊維複合材料用として有効な耐熱性を有する樹脂組成物、並びに、この耐熱樹脂組成物をマトリクス樹脂として使用した強化繊維プリプレグ、及び、耐熱性が要求される強化繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維複合材料用の樹脂(マトリクス樹脂)としては、一般的にエポキシ樹脂などが用いられている。エポキシ樹脂は低粘度液状のものから、固体状のものまで幅広い仕様があり、室温で含浸させるフィラメントワインディング法や引き抜き成形法などに、粘度を低く調整することも可能である。また、高温で含浸させて室温では半固形状態であるプリプレグ用に固体状のものと液状のものを最適な配合で混ぜ合わせて、好適な粘度に調整することも可能であり、強化繊維用の樹脂としては好適である。
【0003】
また、硬化剤と反応する官能基を3個以上有する多官能樹脂も存在して、耐熱性をある程度向上させることも可能である。
【0004】
しかし、様々な種類のエポキシ樹脂を組み合わせても、耐熱性としては、その目安となるガラス点移転温度(以下、「Tg」という。)は、高々220℃程度であり、常に200℃以上の環境下で用いられる炉内のロールや炉内ロボット、鉛を含まないハンダ耐熱に必要なTg250℃以上の樹脂を得ることが難しい。
【0005】
一方、耐熱性を重視してポリイミド系樹脂を用いることが行なわれている。一例を挙げると、ポリイミド系樹脂の原料の1つであるマレイミド化合物をジアミン化合物で変性してプリプレグ向けなどに好適な粘度に調整しているものなどがある(例えば、特許文献1参照)。しかし、変性反応のコントロールに手間がかかり、コスト的に高いものになる。
【0006】
また、トリアジンモノマーを用いて変性して、粘調の液状から固体状までの粘度に調整しているもの(三菱瓦斯化学株式会社製「BTレジン」:商品名)もあるが、エポキシ樹脂ほどの広範囲の粘度調整はできない。
【0007】
また、エポキシ樹脂の粘度調整能力とポリイミド系樹脂の耐熱性を兼ね備えた樹脂を得るべく、マレイミド化合物変性のエポキシ樹脂の開発も試みられている(例えば、特許文献2参照)。しかし、マレイミド化合物はエポキシ樹脂や溶剤などへの相溶性に乏しく、マレイミド化合物の添加量が一定以上に増やすことができずに、十分な耐熱性を得ることができていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−170950号公報
【特許文献2】特開平5−239426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、エポキシ樹脂並みの粘度調整能力を有して、ポリイミド系樹脂に近い耐熱性を有する樹脂組成物、並びに、この耐熱樹脂組成物をマトリクス樹脂として使用した強化繊維プリプレグ及び強化繊維複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は本発明に係る耐熱樹脂組成物、強化繊維プリプレグ及び強化繊維複合材料にて達成される。要約すれば、本発明の一態様によれば、少なくとも主剤としてのエポキシ樹脂と硬化剤とを含む基材エポキシ樹脂の中に、融点が120〜220℃のマレイミド化合物の粉体を分散させたことを特徴とする耐熱樹脂組成物が提供される。
【0011】
一実施態様によれば、前記マレイミド化合物の粉体として、#100メッシュ(篩の目開き0.154mm)での残留率が5wt%以下の粉体を用いる。好ましくは、#150メッシュ(篩の目開き0.109mm)での残留率が1wt%以下の粉体を用いる。
【0012】
他の実施態様によれば、前記主剤としてのエポキシ樹脂100重量部に対して、前記マレイミド化合物の添加量が5〜400重量部の範囲である。
【0013】
他の実施態様によれば、前記基材エポキシ樹脂中に熱可塑性樹脂を、前記主剤としてのエポキシ樹脂100重量部に対して5〜30重量部の範囲で添加する。前記熱可塑性樹脂は、フェノキシ樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリビニルフォルマールなどとすることができる。
【0014】
他の実施態様によれば、前記マレイミド化合物は、ビスマレイミドである。
【0015】
本発明の他の態様によれば、上記いずれかの構成の耐熱樹脂組成物を、強化繊維の一方向配列品、織物品、組みひも、又は、その組み合わせ品に含浸させてなることを特徴とする強化繊維プリプレグが提供される。
【0016】
本発明の他の態様によれば、上記いずれかの構成の耐熱樹脂組成物を、強化繊維の一方向配列品、織物品、組みひも、又は、その組み合わせ品に含浸させて加熱硬化させてなることを特徴とする強化繊維複合材料が提供される。前記加熱硬化は、前記マレイミド化合物の融点よりも高い温度で硬化させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エポキシ樹脂並みの粘度調整能力を有して、ポリイミド系樹脂に近い耐熱性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0018】
つまり、本発明の耐熱樹脂組成物をマトリクス樹脂として使用することにより、室温で含浸するフィラメントワインディングや引き抜き成形法などに適する液状樹脂から、プリプレグに用いる室温で半固形の樹脂まで、幅広い範囲で耐熱性の高い、強化繊維複合材料用の樹脂を得ることができる。
【0019】
また、本発明によれば、上記耐熱樹脂組成物をマトリクス樹脂として使用した耐熱性を有する強化繊維プリプレグ及び強化繊維複合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、再結晶した基材エポキシ樹脂中のビスマレイミドを示す写真である。
【図2】図2は、基材エポキシ樹脂中に均一にビスマレイミドが分散された樹脂組成物の薄膜状態の写真である。
【図3】未硬化樹脂のDSC測定結果を示すグラフである。
【図4】強化繊維プリプレグの作製工程を説明する図である。
【図5】強化繊維複合材料の概略構成を示す図である。
【図6】ストランド含浸工程を説明する図である。
【図7】ストランド高温強度測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る耐熱樹脂組成物、強化繊維プリプレグ及び強化繊維複合材料を更に詳しく説明する。
【0022】
本発明者は、多くの研究実験を行った結果、マレイミド化合物をエポキシ樹脂の中に相溶させるのではなく、粉末状態で分散させることで、エポキシ樹脂並みの粘度調整能力を有して、ポリイミド系樹脂に近い耐熱性を有する樹脂組成物、即ち、耐熱樹脂組成物を得ることができた。
【0023】
つまり、本発明に係る耐熱樹脂組成物は、エポキシ樹脂(主剤)及びその硬化剤(更には硬化助剤)を含む樹脂(以下、「基材エポキシ樹脂」という。)の中に、融点が120〜220℃のマレイミド化合物の粉体を分散させたことを特徴とする。
【0024】
ここで、マレイミド化合物の粉体としては、#100メッシュ(篩の目開き0.154mm)での残留率が5wt%以下の粉体を用いる。好ましくは、#150メッシュ(篩の目開き0.109mm)での残留率が1wt%以下の粉体を用いる。また、エポキシ樹脂(主剤)100重量部に対して、マレイミド化合物の添加量が5〜400重量部の範囲であるのが好ましい。
【0025】
更に説明すると、マレイミド化合物、特にビスマレイミド(以下、「BMI」という。)は、基材エポキシ樹脂への相溶性が低く、一度120℃以上の高温で相溶させても、室温に冷却するとBMIが再結晶してしまい、均一なものはできない。
【0026】
図1は、再結晶した基材エポキシ樹脂中のBMIを示す写真である。しかし、BMIを微粉にして基材エポキシ樹脂の中に分散させると、均一な状態となり、1液樹脂としての取り扱いが可能である。図2は、基材エポキシ樹脂中に均一にBMIが分散された樹脂組成物の薄膜状態の写真である。
【0027】
BMIは、固体として分散しているために、扱い上は分散媒体となっているエポキシ樹脂の粘度特性にて樹脂組成物の取り扱い性がコントロールできる。そのために、樹脂組成物は、液状のものからプリプレグ向けの半固形状のものまでエポキシ樹脂の配合によって調整することが可能となる。
【0028】
一方、加熱による硬化に当っては、結晶性のBMIの融点を超える温度となると、BMIは、一気に融解して主剤としてのエポキシ樹脂や、エポキシ樹脂の硬化剤と反応して、均一な状態となるため、BMIによる耐熱性の向上効果が得られる。
【0029】
使用するマレイミド化合物は、基材エポキシ樹脂中に均一に分散させるために、粉体とされ、粉体としては、#100メッシュ(篩の目開き0.154mm)での残留率が5wt%以下の粉体を用いる。好ましくは、#150メッシュ(篩の目開き0.109mm)での残留率が1wt%以下の粉体を用いる。このようなサイズの粉体を使用しない場合には、硬化した樹脂組成物がBMIリッチな部分とエポキシ樹脂リッチな部分に分かれ、樹脂としての性能が発揮されない。
【0030】
また、マレイミド化合物の添加量は、エポキシ樹脂(主剤)を100重量部として、5〜400重量部の範囲、好ましくは10〜200重量部の範囲が好適である。5重量部未満では、樹脂組成物の耐熱性の向上効果が小さい。また、400重量部を超えると、樹脂組成物の樹脂としての取り扱いが困難になる。
【0031】
使用するエポキシ樹脂(主剤)は、特に指定はないが以下のものが適用可能である。
【0032】
例えば、ビスフェノールA系エポキシ、ビスフェノールF系エポキシ、フェノールノボラック系エポキシ、クレゾールノボラック系エポキシ、ジアミノジフェニルメタン(DDM)系エポキシ、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなどの脂肪族系エポキシ、ポリグリコールジグリシジルエーテルなどの反応性希釈剤などである。
【0033】
使用する硬化剤は、エポキシ樹脂を固める硬化剤であれば何れも用いることが可能である。アミン系硬化剤としては、ジアミノジフェニルスルフォン(DDS)、メタキシリレンジアミンなどの芳香族ポリアミン、イソフォロンジアミンなどの環状脂肪族ポリアミン、テトラエチレントリアミンなどの脂肪族ポリアミンなどである。また、酸無水物系硬化剤としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸などの酸無水物やエタンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンカルボン酸二無水物などの酸二無水物などなどを用いることができる。硬化剤助剤としては、ジクロルジメチルウレア(DCMU)などを用いることができる。
【0034】
マレイミド化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、m−フェニレンビスマレイミド、ビスフェノール A ジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、1,6’−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサン、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’−ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−マレイミドフェノキシ)ベンゼンなどを用いることができる。
【0035】
本発明の耐熱樹脂組成物を構成する基材エポキシ樹脂の中には、硬化後の靭性改良や硬化中の樹脂フローの低減のために、フェノキシ樹脂などの熱可塑性樹脂を添加することは有効である。熱可塑性樹脂としては、フェノキシ樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリビニルフォルマールなどなどを好適に使用できる。
【0036】
また、耐熱樹脂組成物を硬化させる場合には、添加したBMIの融点よりも高い温度で硬化させることが必要である。融点よりも低い温度に長い時間放置すると、エポキシ樹脂(主剤)と硬化剤のみが反応して、その後に融点よりも高温にしてもBMI自体が融解して、独自に硬化しても事前に硬化したエポキシ樹脂部分の耐熱性に支配されてしまい、樹脂組成物は樹脂としての十分な性能が発揮されない。
【0037】
図3は、硬化剤としてジシアンジアミドと、硬化助剤としてDCMU(ジクロルジメチルウレア)を用いた場合の、未硬化樹脂のDSC測定@10℃/分の発熱曲線である。
【0038】
吸熱ピーク1は、BMIの融解熱と考えられる。それ以降の2つのピークは、エポキシ樹脂と硬化剤の反応熱と、BMIと生成アミン化合物との反応熱、BMI二重結合の反応熱などと推定される。
【0039】
実施例1〜6、比較例1〜4
本発明に係る耐熱樹脂組成物を、配合成分、配合割合を変えて種々調製し、耐熱性を測定した。その結果を下記表1に示す。
【0040】
(実施例1)
エポキシ樹脂(主剤)として、ビスフェノールA系エポキシ樹脂(東都化成製YD−128)、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(東都化成製YH−434)、を用いた。硬化剤としてジシアンジアミド(Dicy)、硬化助剤としてジクロルジメチルウレア(DCMU)を用いた。また、マレイミド化合物として、ジアミノジフェニルメタンビスマレイミドの粉体(大和化成製BMI1000H)を用いた。ここで使用した粉体(BMI1000H)は,#180メッシュ(篩の目開き0.091mm)での残留率が0.3wt%のものであった。
【0041】
これら各成分を、下記配合にて混合した。マレイミド化合物は、エポキシ樹脂(主剤)硬化剤、硬化助剤から成る基材エポキシ樹脂中に分散させた。
・エポキシ樹脂(主剤)
ビスフェノールA系エポキシ(東都化成YD−128):30g
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(東都化成製YH−434):70g
・硬化剤(硬化助剤)
ジシアンジアミド:8g
DCMU:8g
・マレイミド化合物
ビスマレイミド(大和化成製BMI1000H):60g
【0042】
得られた樹脂組成物は、室温で粘調液体の茶褐色濁り色のものであった。この樹脂組成物を170℃×30分の予備硬化後にオーブンの温度設定を変更して、210℃×2時間の硬化を行った。その後に取り出して冷却し、試験片に加工してからTMA測定を実施してTgを測定した。その結果、表1に示すように、Tg=255℃であった。
【0043】
(実施例2〜6)
実施例2〜6として、表1に示す配合及び配合割合で、実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
【0044】
なお、実施例3では、エポキシ樹脂(主剤)として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(東都化成製YH−434)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(東都化成製YH−300)を使用した。また、実施例4、5では、エポキシ樹脂(主剤)として、ビスフェノールA系エポキシ樹脂(東都化成製YD−128)、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(東都化成製YH−434)、の他に、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(東都化成製YH−300)をも使用した。
【0045】
実施例2〜6においても、実施例1と同様に、エポキシ樹脂(主剤)100重量部に対して硬化剤としてジシアンジアミド8重量部、硬化剤助剤としてDCMU8重量部を添加した。
【0046】
なお、実施例4では、マレイミド化合物として、メタキシリレンジアミン系ビスマレイミドの微粉体(大和化成製BMI3000H)を用いた。ここで使用した粉体(BMI3000H)は,#180メッシュ(篩の目開き0.091mm)での残留率が0.3wt%のものであった。また、実施例6では、添加剤としてフェノキシ樹脂(東都化成製YP−70)を、エポキシ樹脂(主剤)100重量部に対して15重量部添加した。
【0047】
得られた樹脂組成物を、実施例1と同様に、170℃×30分の予備硬化後にオーブンの温度設定を変更して、210℃×2時間の硬化を行った。その後に取り出して冷却し、試験片に加工してからTMA測定を実施してTgを測定した。試験方法などは、備考に特記がない限り同一である。
【0048】
その結果、表1に示すようなTg値を示した。
【0049】
(比較例1〜4)
比較例1〜4として、表1に示す配合成分及び配合割合で、実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
【0050】
なお、比較例2では、エポキシ樹脂(主剤)として、ビスフェノールA系エポキシ樹脂(東都化成製YD−128)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(東都化成製YH−300)を使用した。
【0051】
比較例1〜4においても、実施例1と同様に、エポキシ樹脂(主剤)100重量部に対して硬化剤としてジシアンジアミド8重量部、硬化剤助剤としてDCMU8重量部を添加した。
【0052】
なお、比較例3では、マレイミド化合物として、DDM系ビスマレイミドである2mm程度のフレーク状のBMI(ケイアイ化成製)を用いた。ここで使用したフレーク状のBMIは、#100メッシュでの残留率がほぼ100wt%であった。
【0053】
得られた樹脂組成物を、比較例1〜3では、実施例1〜6と同様に、170℃×30分の予備硬化後にオーブンの温度設定を変更して、210℃×2時間の硬化を行った。比較例4では、硬化条件を他の比較例1〜3及び実施例1〜6とは異なる硬化条件2とした。つまり、先ず、90℃×5時間の予備硬化後にオーブンの温度設定を変更して、210℃×2時間の硬化を行った。その後に取り出して冷却し、試験片に加工してからTMA測定を実施してTgを測定した。試験方法などは、備考に特記がない限り同一である。
【0054】
その結果、表1に示すようなTg値を示した。
【0055】
なお、比較例4は、明確な変曲点は不明だが、150℃近辺よりTMA曲線が乱れ始めた。
【0056】
【表1】

【0057】
上述にて理解されるように、本発明によれば、エポキシ樹脂並みの粘度調整能力を有して、ポリイミド系樹脂に近い耐熱性を有する樹脂組成物を得ることができた。
【0058】
実施例7(プリプレグ実施例)
本発明に係る耐熱樹脂組成物は、プリプレグのマトリクス樹脂として有効である。つまり、本発明の樹脂組成物は、強化繊維の一方向配列品、織物品、組みひも、又は、その組み合わせ品に含浸させることにより強化繊維プリプレグを作製することができる。
【0059】
強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維、その他種々の繊維を使用することができる。本発明の耐熱樹脂組成物は、プリプレグ全体に対する含有量は、20〜70体積%とすることができる。
【0060】
一実施例について説明すれば、実施例6の樹脂フォーミュレーションに従った樹脂組成物を調製した。ホットメルトの樹脂コーターを用いて、図4(a)、(b)、(c)に示すように、この樹脂組成物3を50cm幅の離型紙2上に37g/m2の樹脂目付け(約30μm厚み)で塗布し、30cm幅の樹脂フィルム3を作製した。この樹脂フィルム塗工紙1をドラムワインダーにセットして、三菱レイヨン株式会社製炭素繊維TR50(商品名)4を、繊維目付け150g/m2になるように巻きつけた後に、更に同一の樹脂フィルム塗工紙1をかぶせて、ホットプレスローラーを用いて含浸させて、一方向のプリプレグ10を作製した。
【0061】
こうして得られたプリプレグ10は、樹脂のタック性(粘着性)も良好であった。
【0062】
実施例8(複合材料実施例)
本発明に係る耐熱樹脂組成物は、強化繊維複合材料のマトリクス樹脂として有効である。つまり、本発明の樹脂組成物は、強化繊維の一方向配列品、織物品、組みひも、又は、その組み合わせ品に含浸させ、加熱硬化することにより強化繊維複合材料を作製することができる。
【0063】
強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維、その他種々の繊維を使用することができる。本発明の樹脂組成物は、プリプレグ全体に対する含有量は、20〜70体積%とすることができる。
【0064】
一実施例について説明すれば、図5に示すように、実施例7で作製したプリプレグ10を使用して、一方向に14層積層し、ヴァキュームバッグ成形にて2mm厚みの平板20を作製した。
【0065】
オーブン中での硬化条件は、室温から5℃/分の速度で昇温して、170℃で30分キープし、その後5℃/分の速度で210℃まで昇温して2時間キープした後に、自然放冷にて室温まで冷却した。
【0066】
出来上がった一方向のCFRP(炭素繊維強化複合材料)を、JIS K 7074に準拠した試験片寸法にカットして、室温と220℃環境下での曲げ試験を実施した。
【0067】
比較として、三菱レイヨン製耐熱プリプレグTR270G125SM(三菱レイヨンの炭素繊維TR50と耐熱樹脂を用いた、繊維目付け125g/m2のプリプレグ)を17層積層して、上記と同一条件にて2mm厚みの平板を作製して、同様の評価を行なった。
【0068】
曲げ強度と曲げ弾性係数について、得られた結果を下表に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
他の実施例として、実施例3の樹脂フォーミュレーションに従った樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を、炭素繊維のトウ(束)に含浸させて、加熱硬化させたストランドを用いて、JIS R 7608に準じてストランド強度の測定を実施した。用いた炭素繊維は三菱レイヨン株式会社製TR50S15L(商品名)であった。
【0071】
更に詳しくは、図6に示すように、40℃に加温した樹脂槽50に上記樹脂組成物を満たし、モーター駆動で一定速度で回転するローラー51を浸して、供給ロール41から送給される炭素繊維トウ4をロールコートにて樹脂を含浸させて鋼製のフレーム52に巻き取った。同フレーム52をそのままオーブンに入れて、170℃×30分+210℃×2時間の条件で硬化させた。
【0072】
硬化させたストランドは、樹脂の付着量が約48体積%であった。得られたストランドはタブ付けを行い、引張強度のみを評価した。
【0073】
図7に示すように、試験環境は室温と、ストランドSの中央部分約5cmの範囲にリボンヒーターHを巻きつけて、温度が200〜220℃の範囲になった時の強度も合わせて評価した。
【0074】
比較として用いたストランドは、以下の配合量でフォーミュレーションした一般的なエポキシ樹脂で、同様の工程でストランドの作製を行ない同様の評価を行なった。樹脂付着量は45体積%であった。
【0075】
<比較樹脂>
ビスフェノールA系エポキシ(東都化成製YD−128):100g
ジシアンジアミド(Dicy):4g
DCMU:4g
【0076】
試料片の数n=10での試験結果(平均値)を下表に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
上述にて理解されるように、本発明によれば、エポキシ樹脂並みの粘度調整能力を有して、ポリイミド系樹脂に近い耐熱性を有する樹脂組成物をマトリクス樹脂として使用することにより、室温で含浸するフィラメントワインディングや引き抜き成形法などに適する液状樹脂から、プリプレグに用いる室温で半固形の樹脂まで、幅広い範囲で耐熱性の高い、強化繊維複合材料用の樹脂を得ることができる。
【0079】
また、本発明によれば、上記耐熱樹脂組成物をマトリクス樹脂として使用した耐熱性を有する強化繊維プリプレグ及び強化繊維複合材料を提供することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 樹脂フィルム塗工紙
2 離型紙
3 樹脂フィルム
4 炭素繊維
10 プリプレグ
20 強化繊維複合材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも主剤としてのエポキシ樹脂と硬化剤とを含む基材エポキシ樹脂の中に、融点が120〜220℃のマレイミド化合物の粉体を分散させたことを特徴とする耐熱樹脂組成物。
【請求項2】
前記マレイミド化合物の粉体として、#100メッシュ(篩の目開き0.154mm)での残留率が5wt%以下の粉体を用いることを特徴とする請求項1に記載の耐熱樹脂組成物。
【請求項3】
前記マレイミド化合物の粉体として、#150メッシュ(篩の目開き0.109mm)での残留率が1wt%以下の粉体を用いることを特徴とする請求項1に記載の耐熱樹脂組成物。
【請求項4】
前記主剤としてのエポキシ樹脂100重量部に対して、前記マレイミド化合物の添加量が5〜400重量部の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の耐熱樹脂組成物。
【請求項5】
前記基材エポキシ樹脂中に熱可塑性樹脂を、前記主剤としてのエポキシ樹脂100重量部に対して5〜30重量部の範囲で添加することを特徴とする請求項1〜4に記載の耐熱樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、フェノキシ樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記マレイミド化合物は、ビスマレイミドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の耐熱樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの項に記載の耐熱樹脂組成物を、強化繊維の一方向配列品、織物品、組みひも、又は、その組み合わせ品に含浸させてなることを特徴とする強化繊維プリプレグ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかの項に記載の耐熱樹脂組成物を、強化繊維の一方向配列品、織物品、組みひも、又は、その組み合わせ品に含浸させて加熱硬化させてなることを特徴とする強化繊維複合材料。
【請求項10】
前記加熱硬化は、前記マレイミド化合物の融点よりも高い温度で硬化させたことを特徴とする請求項9に記載の強化繊維複合材料。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−270229(P2010−270229A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123553(P2009−123553)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】