説明

自動二輪車用ブレーキ装置および自動二輪車

【課題】ABS作動時にライダーがブレーキ操作が過剰であるブレーキ系統を認識できること。
【解決手段】前輪ブレーキ系統200の第1のマスターシリンダ4からの作動液を第1の主液路10を介して前輪6の第1の主ホイールシリンダ7に供給する。ブースタ88が、第1の主液路10の一部により構成されるパイロット室30内のパイロット圧を用いて液圧源12からの作動液を液圧調整して前輪6の副ホイールシリンダ29に供給するレギュレータ21を備える。ABS用のモジュレータ90が第1の主液路10の分岐部10cから分岐部10cよりも第1のマスターシリンダ4側にあってマスターシリンダ4に常時連通する帰還部10dへ作動液を還流するための還流路95を備える。アンチロック制御時の減圧状態で、還流路95のポンプ94が第1の主ホイールシリンダ7の作動液を吸引加圧し帰還部10dを介して第1のマスターシリンダ4側に還流させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用ブレーキ装置、およびこれを含む自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車では、例えば、手によるブレーキレバーの操作で前輪を制動し、足のブレーキペダルの操作で後輪を制動する場合がある。また、左右の手でそれぞれ対応するブレーキレバーを操作して前輪および後輪を制動する場合がある。
人間の手がブレーキレバーを握る力は、足先がブレーキペダルを踏む力と比較して非常に弱い。また、足によるブレーキ操作にしても、自動車では、脚全体の力でブレーキを操作できるのに対して、二輪車では、足首の力のみでブレーキを操作する。したがって、同じ足によるブレーキ操作であっても、二輪車ではあまり踏力を出せない。また、握力や脚力のない非力なライダーが操作する場合もある。
【0003】
少ない操作力で高い制動力を発生させるために、マスターシリンダのシリンダ径を小さくして入力に対して相対的に大きなブレーキ液圧を発生させる方法がある。しかし、ブレーキ作動に必要な吐出液量を確保するために、マスターシリンダのピストンのストロークを長くしなければならず、マスターシリンダの全長が伸びてレイアウトが困難になったり、ブレーキレバーやブレーキペダルのストロークが大きくなり過ぎて、レバーやペダルの操作が困難になったりするという問題がある。
【0004】
また、自動二輪車においても、多様な路面での走行を補助するために、車輪のロックを防止するアンチロック機能を装備する場合がある。
一方、アンチロック装置にハイドロブースタを接続したブレーキ液圧制御装置が提供されている(例えば、特許文献1)。
また、自動車用として、ブースト機能とアンチロックブレーキ機能を有するブレーキ装置が提供されている(例えば、特許文献2,3,4)。
【0005】
また、自動二輪車用として、キャリパの受けるブレーキ反力をブースト力として利用するとともにアンチロック用のモジュレータを設けるブレーキ装置が提供されている(例えば特許文献5)。
【特許文献1】特許第2740221号公報
【特許文献2】特開平9−24818号公報
【特許文献3】特開平9−24819号公報
【特許文献4】特開平9−30398号公報
【特許文献5】特許第2890215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1は、いわゆる直列式のブースタであるので、大きなブレーキ踏力が必要となる。このような大きな踏力をライダーの足首のみの力で得ることは困難である。
また、二輪車では、ホイールベースに対する重心高が乗用車などに対して高く、制動操作などで前後輪の接地力が変動しやすいうえに、前輪と後輪では、ブレーキ操作による車両姿勢の変動が異なるため、ブレーキ操作系統を前後で別々に持つ必要性がある。したがって、このような特殊性を有する二輪車に、入力系統が1系統である自動車用の特許文献2,3,4を適用することは困難である。
【0007】
また、特許文献2,3,4では、ABS制御時にマスターシリンダとブレーキ回路との連通を遮断するようにしており、その結果、当該マスターシリンダを操作するブレーキ操作部材に対してABS作動に伴うブレーキ液圧の変化が伝達されない。このため、ライダーは、前輪および後輪の何れのブレーキ系統に対するブレーキ操作が過剰になっているかを判断できない。
【0008】
ところで、従来より、前輪と後輪のブレーキを連動させるブレーキシステムが提案されている。このシステムでは、前輪および後輪のホイールシリンダの消費液量を、単一のマスターシリンダからの供給によってまかなうことになる。この場合、マスターシリンダにおいて必要な供給液量を確保するためには、ホイールシリンダの径に対するマスターシリンダの径の比率を増大することが必要である一方、必要な制動力を確保するためには、上記の比率を減少することが必要である。したがって、供給液量および制動力の確保を両立させることが困難である。
【0009】
一方、特許文献5においては、キャリパの装着されている車輪の近傍にブレーキ反力による加圧される反力受圧シリンダを設ける必要があり、ブレーキ装置のレイアウトの自由度が低い。また、バネ下重量が重くなり、乗り心地が悪くなったり、操縦安定性に影響を与えたりするおそれがある。さらに、ABS作動時にモジュレータのカットバルブによってマスターシリンダとホイールシリンダとの連通が断たれるようになっており、したがって、特許文献5でも、特許文献2,3,4と同様に、ライダーが何れのブレーキ系統のブレーキ操作が過剰になっているかを判断できない。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ABS作動時にライダーがブレーキ操作が過剰であるブレーキ系統を認識することができる自動二輪車用ブレーキ装置、およびこれを含む自動二輪車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、マスターシリンダから主液路を介して作動液が供給される主ホイールシリンダと、主ホイールシリンダの発生液圧に応じた液圧を発生するブースタと、ブースタから作動液が供給される副ホイールシリンダと、アンチロック用のモジュレータとを備え、上記ブースタは、液圧源と、主液路の一部をパイロット室として含みパイロット室内のパイロット圧を用いて液圧源からの作動液を液圧調整して副ホイールシリンダへ供給するためのレギュレータとを含み、上記モジュレータは、主液路においてマスターシリンダとパイロット室との間に設けられる分岐部からこの分岐部よりもマスターシリンダ側にあってマスターシリンダに常時連通する帰還部へ作動液を還流させるための還流路と、還流路に配置されアンチロック制御時に上記主ホイールシリンダから排出された作動液を吸引し帰還部を介して主液路に還流させるためのポンプとを含むことを特徴とする自動二輪車用ブレーキ装置を提供するものである。
【0012】
本発明によれば、ブレーキ操作によりマスターシリンダからの作動液が主ホイールシリンダに供給される一方、液圧源からの作動液がレギュレータを介して液圧調整されて副ホイールシリンダに供給される。マスターシリンダとしては主ホイールシリンダの消費液量を供給すれば足りるので、ブレーキ操作のストローク量を増大することなく少ない操作力で主ホイールシリンダおよび副ホイールシリンダを働かせて制動力を向上することができる。
【0013】
また、ABS作動時において、モジュレータのポンプの働きで主ホイールシリンダの作動液が還流路を介して主液路の帰還部に戻されると、この帰還部に連通するマスターシリンダの液圧変化が対応するブレーキ操作部材を介してライダーに与えられ、その結果、ライダーはABSの作動状態を感じとることができ、ひいては、そのブレーキ操作部材によるブレーキ操作が過剰であると判断することができる。
【0014】
また、本発明において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を互いに独立して備え、上記ブースタは前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統の少なくとも一方に設けられ、ブースタが設けられた側のブレーキ系統に当該ブースタに対応する副ホイールシリンダが設けられる場合がある(請求項2)。この場合、前輪ブレーキ系統のブレーキ操作の操作力や操作ストローク量を相対的に少なくして相対的に高い前輪の制動力を得ることができる。
【0015】
また、本発明において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、上記ブースタは前輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられ、上記前輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられたブースタに対応する副ホイールシリンダが前輪および後輪にそれぞれ配置される場合がある(請求項3)。この場合、前輪ブレーキ系統のブレーキ操作によって前後のブレーキを連動させて働かせることができる。また、ブースタを前後のブレーキ系統で兼用でき、構造の簡素化に好ましい。また、上記後輪に配置される副ホイールシリンダは、対応するブースタのレギュレータの出力ポートから圧力制御弁を介して作動液の供給を受けることが、前後の制動力の配分を調整するうえで好ましい(請求項4)。
【0016】
また、本発明において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、上記ブースタは前輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられ、上記前輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられたブースタに対応する副ホイールシリンダが前輪に配置され、後輪ブレーキ系統は主ホイールシリンダと別のホイールシリンダを含み、上記別のホイールシリンダは、前輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられたブースタのレギュレータのパイロット室を介して前輪ブレーキ系統のマスターシリンダから作動液の供給を受ける場合がある(請求項5)。この場合、前輪ブレーキ系統のブレーキ操作の操作力や操作ストローク量を相対的に少なくして相対的に高い前輪の制動力を得ることができ、しかも、前輪ブレーキ系統のブレーキ操作によって前後のブレーキを連動させて働かせることができる。また、上記前輪ブレーキ系統の主液路は、当該主液路に対応して設けられたブースタのレギュレータのパイロット室を前輪ブレーキ系統の主ホーイルシリンダに接続する部分を含み、この部分に設けられる分岐部を上記別のホイールシリンダに接続する接続路に、圧力制御弁が配置されることが、前後の制動力の配分を調整するうえで好ましい(請求項6)。
【0017】
また、本発明において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、上記ブースタは後輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられ、後輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられたブースタに対応する副ホイールシリンダが前輪に配置される場合がある(請求項7)。この場合、後輪ブレーキ系統のブレーキ操作によって前輪の主および副ホイールシリンダを働かせて、前輪の制動力を向上させることができる前後連動ブレーキを提供することができる。また、上記後輪ブレーキ系統の主液路は、当該主液路に対応して設けられたブースタのレギュレータのパイロット室を後輪ブレーキ系統の主ホイールシリンダに接続する部分を含み、この部分に圧力制御弁が配置されることが、前後の制動力の配分を調整するうえで好ましい(請求項8)。
【0018】
上記の自動二輪車用ブレーキ装置を含む自動二輪車であれば、ABS作動時にライダーがブレーキ操作が過剰であるブレーキ系統を認識することができて好ましい(請求項9)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
第1の実施の形態
全体構成
図1は本発明の第1の実施の形態の自動二輪車用ブレーキ装置1(以下では、単にブレーキ装置1ともいう)の模式図である。図1を参照して、本ブレーキ装置1は、第1のブレーキ操作部材としてのブレーキレバー2と、第2のブレーキ操作部材としてのブレーキペダル3と、ブレーキレバー2の操作によって第1の液圧を発生する第1のマスターシリンダ4と、ブレーキペダル3の操作によって第1の液圧を発生する第2のマスターシリンダ5と、第1輪としての前輪6に配置され第1のマスターシリンダ4から作動液の供給を受ける第1の主ホイールシリンダ7と、第2輪としての後輪8に配置され第2のマスターシリンダ5から作動液の供給を受ける第2の主ホイールシリンダ9とを備える。
【0020】
第1および第2の主ホイールシリンダ7,9はそれぞれ前輪6および後輪8に設けられた対応するキャリパ101,102に配置されている。また、前輪6に設けられたキャリパ103に、後述する副ホイールシリンダ29が配置されている。本実施の形態では、第1の主ホイールシリンダ7と副ホイールシリンダ29が互いに独立したキャリパ101,103に配置されているが、共通のキャリパに配置されるようにしても良い。
【0021】
第1のマスターシリンダ4から第1の主液路10を介して第1の主ホイールシリンダ7に作動液が供給される一方、第2のマスターシリンダ5から第2の主液路11を介して第2の主ホイールシリンダ9に作動液が供給されるようになっている。
本ブレーキ装置1は、第1のブレーキ系統としての前輪ブレーキ系統200、および第2のブレーキ系統としての後輪ブレーキ系統300を互いに独立した油圧系統として備える。
【0022】
すなわち、前輪ブレーキ系統200は、上記ブレーキレバー2と、第1のマスターシリンダ4と、第1の主液路10と、第1の主ホイールシリンダ7と、第1の主ホイールシリンダ7の発生液圧に応じた液圧を発生するブースタ88と、ブースタ88から作動液が供給される上記した副ホイールシリンダ29と、第1の主ホイールシリンダ7へのブレーキ液圧の減圧、保持又は加圧を行って制動力を制御するためのアンチロック用のモジュレータ90とを備える。
【0023】
後輪ブレーキ系統300は、上記ブレーキペダル3と、第2のマスターシリンダ5と、第2の主ホイールシリンダ9と、第2の主液路11と、第2の主ホイールシリンダ9へのブレーキ液圧の減圧、保持又は加圧を行って制動力を制御するためのアンチロック用のモジュレータ90Aとを備える。
ブースタ
上記ブースタ88は、ブレーキレバー2の操作とは無関係に上記の第1の液圧よりも高い第2の液圧を発生することのできる液圧源12と、作動液を貯蔵するためのリザーバ13とを備える。
【0024】
上記液圧源12は、リザーバ13から液路14を介して供給される作動液を加圧可能なポンプ装置15と、液路16を介してポンプ装置15に接続されポンプ装置15によって加圧された作動液の供給を受けてこれを蓄えることのできるアキュームレータ17とを備える。上記のポンプ装置15は例えば電動モータ18によって回転駆動される。液路14には、リザーバ13からポンプ装置15への作動液の流れのみを許容する逆止弁19が設けられており、液路16には、ポンプ装置15からアキュームレータ17への作動液の流れのみを許容する逆止弁20が設けられている。
【0025】
また、ブースタ88は、第1の主液路10の一部をパイロット室30として含み、パイロット室30内のパイロット圧を用いて液圧源12からの作動液を液圧調整して副ホイールシリンダ29へ供給するためのレギュレータ21を備える。
レギュレータ21は、入力ポート22、出力ポート23および排出ポート24を含み、また、パイロット室30に連通する第1パイロットポート25および第2パイロットポート26を含む。
【0026】
入力ポート22は、液路16において逆止弁20とアキュームレータ17との間に配置される分岐部16aに、液路27を介して接続されており、入力ポート22には液圧源12から第2の液圧が提供されている。排出ポート24は液路28を介してリザーバ13に接続されており、排出ポート24にはリザーバ13から大気圧に等しい液圧が供給されている。
【0027】
上記の第1の主液路10は、第1のマスターシリンダ4を第1のパイロットポート25に接続する第1の部分10aと、第2のパイロットポート26を第1の主ホイールシリンダ7に接続する第2の部分10bとを含む。
一方、レギュレータ21の出力ポート23が副ホイールシリンダ29に接続されている。レギュレータ21は、液圧源12から入力ポート22を介して入力される第2の液圧を第1のマスターシリンダ4の発生液圧に応じた第3の液圧に調整し、出力ポート23から液路81を介して副ホイールシリンダ29に提供する。
【0028】
すなわち、レギュレータ21は、第1のマスターシリンダ4からパイロット室30に導かれる第1の液圧をパイロット圧として用いて、上記第3の液圧を第1の液圧に対して所定の圧力差内の圧力に調整する機能を有する。具体的には、本実施の形態では、第3の液圧は第1の液圧と同等レベルに調整される。
モジュレータ
前輪ブレーキ系統200および後輪ブレーキ系統300の各モジュレータ90,90Aは同様の構成であるので、代表して、前輪ブレーキ系統200のモジュレータ90に則して説明する。
【0029】
モジュレータ90は、2位値切換弁をなすノーマリオープンの第1の電磁弁91と、同じく2位置切換弁をなすノーマリクローズドの第2の電磁弁92と、第1の主ホイールシリンダ7から減圧した作動液を一時的に貯蔵するためのバッファチャンバ93と、バッファチャンバ93に貯蔵された作動液を第1の主液路10に還流させるためのポンプ94とを備える。
【0030】
また、モジュレータ90は、上記第1の主液路10の第1の部分10aに設けられる分岐部10cから、この分岐部10cよりも第1のマスターシリンダ4側にあって第1のマスターシリンダ4に常時連通する帰還部10dへ作動液を還流させるための還流路95を備える。
第1の電磁弁91は、主液路10において分岐部10cと帰還部10dとの間に配置される。第1の電磁弁91と帰還部10dとの間には固定絞り89が配置される。また、上記第1の電磁弁91をバイパスして上記帰還部10dに至る還流路96が形成され、この還流路96には上記分岐部10cから帰還部10dへの液流のみを許容する逆止弁97が配置される。
【0031】
還流路95には、分岐部10cの側から第2の電磁弁92およびポンプ94がこの順で配置されており、還流路95において、第2の電磁弁92とポンプ94との間に形成される分岐部95aに上記バッファチャンバ93が接続されている。また、還流路95において、上記分岐部95aとポンプ94との間にはポンプ94側への液流のみを許容する逆止弁98が配置され、ポンプ94と帰還部10dとの間には、帰還部10d側への液流のみを許容する逆止弁99が配置されている。
【0032】
後輪ブレーキ系統300のモジュレータ90Aについては、その還流路95が第2の主液路11の分岐部11cから帰還部11dに至るように設けられる点を除いて、前輪ブレーキ系統200のモジュレータ90と同様の構成であるので、図に同一符号を付してその説明を省略する。なお、本実施の形態では、各モジュレータ90,90Aのポンプ94は、共通の電動モータ100により回転駆動されるが、各ポンプ94が個別の電動モータにより駆動されるものとしても良い。
レギュレータ
次いで、図2を参照して、レギュレータ21について説明する。レギュレータ21は、閉塞端31aおよび開放端31bを有する有底円筒状をなすハウジング31を備える。このハウジング31内には収容孔32が区画されており、この収容孔32は、ハウジング31の開放端31bにねじ込み固定されたプラグ33により閉塞されている。
【0033】
ハウジング31の胴部には、閉塞端31aに対応して上述の第1およひ第2のパイロットポート25,26がそれぞれ設けられている。その閉塞端31aから開放端31bに向かうにしたがって、上述の排出ポート24、出力ポート23および入力ポート22がこの順で並んで設けられている。各ポート22〜26はそれぞれハウジング31の径方向に延びるように形成された対応する連通孔を介して収容孔32内に連通している。
【0034】
また、収容孔32には、閉塞端31aに隣接して軸方向に摺動自在なスプール部材34が収容されている。このスプール部材34は、収容孔32の内部を閉塞端31a側の上述のパイロット室30と、これと反対側のレギュレータ室35とに互いに仕切っており、パイロット室30とレギュレータ室35の圧力を互いに均衡させるバランスピストンとして機能している。スプール部材34は閉塞端31a側の端部の外周に環状溝341を設けており、この環状溝341とハウジング31との間にパイロット室30の少なくとも一部が区画されている。
【0035】
スプール部材34は、軸方向に延びる液路36を有している。この液路36の一端は例えばプラグからなる閉塞部材37により閉塞されていると共に、他端は絞りとして機能するドレーンポート38を介してレギュレータ室35に開口している。
スプール部材34の軸方向の中間部の外周に形成される環状溝とハウジング31の内周とによって環状室39が区画されており、この環状室39は排出ポート24に連通している。スプール部材34は、上記の液路36の途中部を環状溝39に連通するために径方向に延びる1ないし複数の液路40を形成している。これにより、排出ポート24が液路40,36を介してドレーンポート38に連通している。
【0036】
スプール部材34の外周面には、環状溝39とパイロット室30とを互いに仕切るために互いに逆向きに指向して配置される一対のカップシール41,42が配置されている。各カップシール41,42は、スプール部材34の外周面に形成された対応する環状の保持溝に保持されている。
また、スプール部材34の外周面には、上記排出ポート24に連通する環状溝39とレギュレータ室35とを互いに仕切るシール部材43が配置され、対応する保持溝に保持されている。シール部材43としては、Oリングの外周に摺動性に優れた低摩擦係数の合成樹脂のリングを嵌めたものを例示することができる。
【0037】
また、収容孔32内において上記のスプール部材34とプラグ33との間には、レギュレータ室35と入力ポート22との間の連通/遮断を切り換えるためのバルブ機構44が設けられている。バルブ機構44は、ハウジング31内に嵌められて軸方向移動が規制された筒状のバルブボディ45を備える。
このバルブボディ45内には軸方向の中間部に配置された仕切り壁46により互いに仕切られる第1および第2の空洞45a,45bが形成され、スプール部材34側の第1の空洞45aはレギュレータ35に通じている。プラグ33側の第2の空洞45bの一部にはプラグ33の凸部33aが挿入されており、第2の空洞45bの残りの部分によって、液圧源12から第2の液圧の供給を受ける高圧室60が構成されている。凸部33aの外周面とバルブボディ45の内周面との間は例えばOリングからなるシール部材47によって封止されており、高圧室60の液密が確保されている。
【0038】
上記の仕切り壁46には両空洞45a,45b間を互いに連通させる弁孔48が形成され、この弁孔48は通常時はチェック弁49により閉塞されている。具体的には、弁孔48は高圧室45側の半部が拡径されて、弁座50を形成している。チェック弁49は弁座50に押し付けられて弁孔48を閉塞することのできる弁体としてのボール51と、プラグ33の凸部33aとボール51との間に介在しボール51を弁座50に付勢する圧縮コイルばねからなる付勢部材52とを含む。
【0039】
バルブボディ45の軸方向中間部の外周には、周方向に延びる環状溝53が形成され、この環状溝53は入力ポート22に連通している。また、バルブボディ45は、径方向に延びて環状溝53と上述の高圧室60とを連通する少なくとも1つの液路54を形成している。これにより、高圧室60に入力ポート22、環状溝53および液路54を介して液圧源12からの第2の液圧が導かれている。
【0040】
バルブボディ45の外周面には、上記の環状溝53を挟んだ両側に一対のシール部材55,56が装着され、これらのシール部材55,56がバルブボディ45の外周面とハウジング31の内周面との間を封止している。チェック弁49によって弁孔48が閉塞された状態でシール部材47,55,56によって高圧室60の液密が確保され、高圧室60が入力ポート22のみに連通する状態となっている。
【0041】
バルブボディ45とスプール部材34の互いに対向する端部の外周面にそれぞれ形成される環状溝によって、収容孔32内に、出力ポート23に液密的に連通する環状室57が区画されている。この環状室57は上述のレギュレータ室35の一部を構成する。環状室57内には、一端がバルブボディ45に係止する共に他端がスプール部材34に係止して、スプール部材34をパイロット室30側へ付勢する例えば圧縮コイルばねからなる付勢部材58が収容されている。
【0042】
バルブボディ45内の第1の空洞45aには、バルブボディ45の軸方向に移動可能な調圧弁59が収容されている。調圧弁59の一端には弁孔48内に一部が挿入された操作軸61が延びており、操作軸61の先端はチェック弁49のボール51と僅かな隙間を有して対向している。操作軸61は弁孔48内で液路を絞る絞り部材として機能する。
調圧弁59の他端は末拡がり状に拡径された拡径部62に構成されており、拡径部62の端面の中央部には弁体としてのボール63がかしめにより固定されている。このボール63は所要時に上述のドレーンポート38を閉塞することができるようにドレーンポート38に対向している。
【0043】
一方、第1の空洞45a内には筒状のガイド64が嵌め入れられており、このガイド64は上記の調圧弁59の外周を隙間を設けて取り囲んでおり、その隙間に、調圧弁59をスプール部材34側に付勢するための圧縮コイルばねからなる付勢部材65が収容されている。
調圧弁59は付勢部材65を介してガイド64によって支持されている。ガイド64の周囲にはシール部材66が装着されている。ガイド64の一端がバルブボディ45に固定された止め輪67に当接することで、ガイド64が所定位置に位置決めされ、この所定位置を超えてガイド64がスプール部材34側に移動することが規制されている。また、ガイド61の外周面とバルブボディ45の内周面との間はシール部材によって封止されている。
ブースト動作
次いで、上記のレギュレータ21の動作を中心としてブースト動作について図2,図3および図4に基づいて説明する。具体的には、第1のマスターシリンダ4の加圧状態によって、スプール弁34が図2に示す第1の位置、図3に示す第2の位置、および図4に示す第3の位置に変位することに応じて、レギュレータ21の状態が下記の第1、第2および第3の状態に切り換わるようになっている。
【0044】
まず、図2は第1のマスターシリンダ4が加圧されていない状態を示している。このとき、付勢部材58の働きでスプール弁34は最もパイロット室30寄りの第1の位置に変位しており、レギュレータ21は、入力ポート22とレギュレータ室35との連通を遮断し且つ出力ポート23を排出ポート24に連通する第1の状態となっている。
すなわち、この第1の状態では、ドレーンポート38が調圧弁59のボール63から離れているため、開放されたドレーンポート38を介してレギュレータ室35がリザーバ13に連通しており、レギュレータ35は大気圧に等しい圧力となっている。すなわち、第1のマスターシリンダ4、並びに第1の主ホイールシリンダ7および副ホイールシリンダ29は何れも大気圧と等しい圧力となっている。
【0045】
一方、液圧源12のアキュームレータ17には通常のブレーキに必要な圧力以上の高圧としての第2の液圧が蓄えられており、その第2の液圧は高圧室60に導かれているが、チェック弁49によって弁孔48を閉じられているので、高圧室60とレギュレータ室35との間は遮断されている。
次いで、図3はブレーキレバー2の操作により第1のマスターシリンダ4が加圧されて第1のマスターシリンダ4から作動液がノーマリオープンの第1の電磁弁91を配する第1の主液路10へと送出され始めた状態を示している。すなわち、第1のマスターシリンダ4からの第1の液圧P1の作動液がパイロット室30を経由して第1の主ホイールシリンダ7に導かれる。また、パイロット室30内に導かれた第1の液圧P1によってスプール部材34が第2の位置に変位し、レギュレータ21は、入力ポート22とレギュレータ室35との連通を遮断し且つ出力ポート23と排出ポート24との連通を遮断する第2の状態となる。
【0046】
すなわち、第1の位置よりもレギュレータ室35側の第2の位置へ変位したスプール部材34のドレーンポート38が、調圧弁59のボール63に当接して閉塞され、その結果、レギュレータ室35とリザーバ13との連通が遮断され、レギュレータ室35が密閉される。このとき、調圧弁59の操作軸61は未だチェック弁49のボール51に当接しておらず、高圧室60とレギュレータ室35との間は遮断されている。
【0047】
次いで、図4はブレーキレバー2の操作により第1のマスターシリンダ4からパイロット室30にさらに第1の液圧P1の作動液が供給された状態を示している。スプール部材34が第2の位置よりもさらにレギュレータ室35側の第3の位置に変位する。その結果、レギュレータ21が入力ポート22をレギュレータ室35に連通し且つ出力ポート23と排出ポート24との連通を遮断する第3の状態になる。
【0048】
すなわち、スプール部材34のさらなる変位により、スプール部材34が調圧弁59を押してチェック弁49側へ一体的に変位する。これに伴って、調圧弁59の操作軸61がチェック弁49のボール51を押して弁座50から離隔させることで、弁孔48を開放させる。これにより、高圧室60とレギュレータ室35とが弁孔48を介して連通する。その結果、液圧源12のアキュームレータ17に蓄えられている高圧としての第2の液圧P2の作動液が、図1に示す液路16の分岐部16a、液路27および入力ポート22を介して高圧室60に導入される。高圧室60に導入された作動液は、操作軸61によって断面積が絞られた弁孔48内を通過することで、圧力降下を受けて、第3の液圧P3に調整されてレギュレータ室35内に導入される。この第3の液圧P3の作動液が出力ポート23を介して副ホイールシリンダ29に導入されることになる。
【0049】
なお、弁孔48内の液路は操作軸61により狭められているので、弁孔48を通過する液の流れは比較的緩やかである。
そして、レギュレータ室35内の第3の液圧、すなわち副ホイールシリンダ29の圧力が、第1のマスターシリンダ4の第1の液圧P1、すなわち第1の主ホイールシリンダ7の圧力に等しくなると、スプール部材34は付勢部材58により第1の位置に押し戻される。その結果、レギュレータ21は第2の状態に戻り、ドレーンポート38が封鎖される。ここで第1のマスターシリンダ4の圧力が下がると、スプール部材34は更に押し戻されて第1の位置に変位し、ドレーンポート38が開放される。その結果、副ホイールシリンダ29の中に込められていた作動液は出力ポート23、レギュレータ室35、ドレーンポート38および排出ポート24を介してリザーバ13側に逃がされる。
【0050】
以上の動きを通じて、スプール部材34により互いに仕切られるパイロット室30とレギュレータ室35の圧力、すなわち第1の液圧P1と第3の液圧P3は、図5において実線で示すように、常に互いに同等レベルに調節されることになる。
本実施の形態によれば、ブレーキレバー2を操作すると、第1のマスターシリンダ4から第1の液路10を介して作動液の供給を受けた第1の主ホイールシリンダ7が作動し、前輪6を制動する。一方、アキュームレータ17からの作動液が第1の液路10と隔てられた液路を介し、この液路のレギュレータ21により圧力調整されて、前輪6の副ホイールシリンダ29に導かれ制動力が加勢される。
【0051】
副ホイールシリンダ29の消費液量はアキュームレータ17からの作動液の供給でまかなわれるので、第1のマスターシリンダ4としては第1の主ホイールシリンダ7への消費液量を供給すれば足りる。その結果、ブレーキ操作のストローク量を増大することなく少ない操作力で第1の主ホイールシリンダ7および副ホイールシリンダ29を働かせて制動力を向上することができる。
【0052】
また、所要の制動力を得るための第1のマスターシリンダ4の径を小型にすることも可能になる。
副ホイールシリンダ29に供給される第3の液圧を、第1のマスターシリンダ4の第1の液圧(本実施の形態ではパイロット圧に相当)、すなわち第1の主ホイールシリンダ7の液圧と同等になるように制御することができ、自動二輪車のブレーキ時の挙動を安定させることができる。
アンチロック動作
次いで、モジュレータ90の動作を中心としてアンチロック動作について、図6〜図8に基づいて説明する。
【0053】
所定のABS発生条件が満たされると、アンチロック制御が開始される。上記ABS発生条件としては、各ブレーキ系統200,300において、前後の車輪にそれぞれ配置される図示しない車輪速センサの検出値に基づいて演算されるスリップ率が所定の閾値を超える場合を例示することができる。また、上記の所定の閾値を車輪の減速度(車両の減速度に相当)に応じて可変するようにすること等、スリップ率と車輪の減速度の組合せにてアンチロック制御を実行するか否かを判断する場合を例示することができる。ABS発生条件が満たされた側のブレーキ系統200,300のモジュレータ90,90AがABS動作をする。
【0054】
アンチロック制御時には、第1の主ホイールシリンダ7へのブレーキ液圧を一旦保持し、次いで減圧することでロック傾向を回避し、その後、加圧(再加圧)と保持を繰り返す。
図6は、その保持の状態を示している。保持の状態では、ノーマリオープンの第1の電磁弁91のソレノドが励磁され、これにより、第1の電磁弁91が閉じ、第1の主液路10の第1の部分10aが閉じられる。その結果、第1の主ホイールシリンダ7へのブレーキ供給経路が閉じられ、第1の主ホイールシリンダ7のブレーキ液圧が保持される。
【0055】
また、第1のマスターシリンダ4とレギュレータ21のパイロット室30との間の連通が遮断されることから、レギュレータ21において、パイロット30とレギュレータ室35とが相等しい圧力となる。その結果、図4の第3の位置にあったスプール部材34が僅かに後退して第2の位置に変位し、これに応じてチェック弁49が閉じられ、液圧源12から副ホイールシリンダ29への作動液の供給が断たれる。すなわち、ブレーキブーストが解除される。
【0056】
なお、保持の段階で、電動モータ100が作動し始め、ポンプ94が作動を開始するが、第2の電磁弁92が閉じられているため、ポンプ94は空回りの状態にある。
次いで、図7は減圧の状態を示している。減圧の状態では、第1の電磁弁91のソレノイドの励磁に加えて、ノーマリクローズの第2の電磁弁92のソレノイドも励磁される。これにより、第1のマスターシリンダ4から第1の主ホイールシリンダ7への供給経路が閉じられた状態で、分岐部10cから帰還部10dに至る還流路95が開放される。
【0057】
その結果、第1の主ホイールシリンダ7の作動液はレギュレータ21のパイロット室30、第2の電磁弁92を介してバッファチャンバ93に一時的に貯蔵され、バッファチャンバ93に貯蔵された作動液は既に作動を開始しているポンプ94により吸引され還流路95を介して第1のマスターシリンダ4に還流される。
この状態では、レギュレータ21のパイロット30室の圧力は急降下するので、スプール部材34が図2に示す第1の位置に変位し、ドレーンポート38が開放する。その結果、副ホイールシリンダ29内の作動液が、レギュレータ21の出力ポート23、レギュレータ室35、ドレーンポート38および排出ポート24を介してリザーバ13に戻される。
【0058】
減圧によりロック傾向が回避されると、第2の電磁弁92のソレノイドの励磁が解除され、上記の保持の状態に戻る。保持の状態に戻ると、レギュレータ21のパイロット室30とレギュレータ室35との圧力が相等しくなるので、スプール部材34は再び第2の位置に変位し、ドレーンポート38を閉鎖する。
次いで、図8は保持に続く加圧の状態を示している。加圧の状態では、第2の電磁弁92のソレノイドの励磁を維持した状態で、第1の電磁弁91のソレノイドの励磁が解除され、第1の電磁弁91が第1の主液路10を開放する。その結果、第1のマスターシリンダ4からの作動液が第1の主液路10を介して第1の主ホイールシリンダ7に供給される。また、第1のマスターシリンダ4からの作動液の供給によりレギュレータ21のパイロット室30内に圧力がレギュレータ室35内の圧力よりも高くなるので、スプール部材34は第2の位置を経て第3の位置へ変位する。その結果、チェック弁49が開放され、液圧源12からの作動液が入力ポート22、高圧室60、レギュレータ室35および出力ポート23を介して副ホイールシリンダ29に導かれ、ブレーキブーストが復活する。
【0059】
保持および加圧は交互に繰り返されて、第1の主ホイールシリンダ7および副ホイールシリンダ29のブレーキ液圧を段階的に高めるようになっている。これにより制動力が高まり再びロック傾向になると、再び、保持の状態を経て減圧が行われることになる。
アンチロック制御中に、ライダーがブレーキ液圧の低下を望んでブレーキ操作力を緩めた場合、第1の電磁弁91と並列に配置された逆止弁97が開放し、第1の主ホイールシリンダ7内の作動液が還流路96を介して第1のマスターシリンダ4に戻される。このとき、レギュレータ21のスプール部材34は第1の位置へ押し戻され、これにより、ドレーンポート38が開放され、副ホイールシリンダ29の作動液は、出力ポート23および排出ポート24を介してリザーバ13に戻される。
【0060】
本実施の形態によれば、上述した如く、ブレーキレバー2の操作力や操作ストロークを増加させることなく、前輪6の複数のホイールシリンダ7,29に加圧して制動力を向上することができる。また、ABS作動時において、減圧状態で、モジュレータ90のポンプ94の働きで第1の主ホイールシリンダ7の作動液が還流路95を介して第1の主液路10の帰還部10dに戻される。すると、この帰還部10dに連通する第1のマスターシリンダ4の液圧変化が、ブレーキレバー2を介してライダーに与えられる。その結果、ライダーはABS作動を感じとることができ、ひいては、そのブレーキレバー2によるブレーキ操作が過剰であると判断することができる。
【0061】
なお、図示していないが、液圧源12のアキュームレータ17には、アキュームレータ17の圧力を検出する圧力センサが設けられている。この圧力センサの検出値が所定の下限値以下になると、電動モータ18が駆動されてポンプ装置15が作動し、作動したポンプ装置15によってリザーバ13の作動液をアキュームレータ17内に加圧供給して蓄える。一方、圧力センサの検出値が所定の上限値を超えると電動モータ18の駆動が停止されてポンプ装置15が停止する。これにより、アキュームレータ17内の圧力が下限値と上限値との間の範囲の圧力に保たれるようになっている。
【0062】
また、本実施の形態では、アンチロック制御時に、第1の主ホイールシリンダ7へのブレーキ液圧を一旦保持し、次いで減圧することでロック傾向を回避し、その後、加圧(再加圧)と保持を繰り返したが、これに限らない。例えば、上記の減圧の前段階としてブレーキ圧を一旦保持する工程を省略してもよい。
第2の実施の形態
次いで、図9は本発明の第2の実施形態としてレギュレータの変更形態を示している。図9を参照して、本実施の形態が図2の実施の形態と主に異なるのは、スプール部材34Aとして、いわゆる段付きピストン状のものを用いた点にある。すなわち、スプール部材34Aは、パイロット室30に臨む第1の受圧部68と、レギュレータ室35に臨む第2の受圧部69とを含んでいる。第1の受圧部68の径D1が第2の受圧部の径D2よりも大きくされることにより、第1の受圧部68の断面積が第2の受圧部69の断面積よりも大きくされている。
【0063】
これにより、図5において破線で示すように、レギュレータ室35の圧力としての第3の液圧P3をパイロット圧としての第1の液圧P1の所定倍の圧力として第1の液圧P1よりも高くすることができ、その結果、ブースト用の副ホイールシリンダ29の制動力を第1の主ホイールシリンダ7による制動力よりも高くすることができる。また、第1のマスターシリンダ4からの相対的に少ない供給液量で前輪6において相対的に高い制動力を得ることができる。
【0064】
実際には、第1および第2の受圧部68,69の断面積比を所定比とすると、第3の液圧P3は、第1の液圧P1に上記の所定比を乗じた圧力から、付勢部材58の付勢力により生ずる所定の圧力差を減じた圧力となる。しかるに、付勢部材58の付勢力により生ずる圧力差は殆ど無視できるレベルであるので、第3の液圧P3は第1の液圧P1の所定比倍の圧力であるとみなして差し支えない。すなわち、第3の液圧P3は第1の液圧P1に比例することになり、これによりABS制御との組み合わせが実質的に可能となる。
【0065】
スプール部材34の形状変更に応じて、レギュレータ室35の径をパイロット室30の径よりも小さくすることが必要であり、そのために、収容孔32の開放端31b側の半部が大径化され、この大径化された部分にスリーブ70が嵌め入れられている。このスリーブ70の内径がスプール部材34の第1の受圧部68の内径と等しくされ、スリーブ70の内周面に第1の受圧部68が嵌め合わされている。また、バルブ機構44のバルブボディ45の大部分がスリーブ70の内周面に嵌め合わされ、シール部材55,56はスリーブ70の内周面とバルブボディ45の外周面との間を封止するようになっている。
【0066】
また、スプール部材34を付勢するための付勢部材58の一端はスリーブ70の端面に係止している。スリーブ70の外周面70aには、入力ポート22に対応して環状溝71が形成されており、この環状溝71は、スリーブ70を径方向に貫通する液路72を介して、バルブボディ45の外周の環状溝53に連通している。これにより、入力ポート22が環状溝71、液路72、環状溝53および液路54を介して高圧室60に連通するようになっている。
【0067】
一方、スリーブ70の外周面70aには、出力ポート23に連通する環状溝73が形成され、この環状溝73は、スリーブ70を径方向に貫通する液路74を介してレギュレータ室35に連通している。これにより、出力ポート23は環状溝73および液路74を介してレギュレータ35に連通するようになっている。
また、スリーブ70の外周面70aには、上記の環状溝71、73を挟んだ両側に一対の例えばOリングからなるシール部材75,76が装着されており、これらのシール部材75,76はハウジング31の内周面とスリーブ70の外周面70aとの間を封止している。
【0068】
なお、他の構成については図2の実施の形態と同様であるので、図に同一符号を付してその説明を省略する。
第3の実施の形態
次いで、図10は本発明の第3の実施の形態を示している。本第3の実施の形態が図1の第1の実施の形態と異なるのは、第2輪としての後輪8に設けられたキャリパ104に、第2の主ホイールシリンダ9および前後連動用のホイールシリンダ77を配置した点と、第1の液路10の第2の部分10bの中途に設けられた分岐部78を上記前後連動用のホイールシリンダ77に接続する接続路79を設けた点と、上記の接続路79に例えば後述する図13に示すプロポーショニングバルブ(Pバルブ、液圧調整弁ともいう)140を用いた圧力制御弁80を配置した点にある。圧力制御弁80として、プロポーショニングバルブに代えて減圧バルブを用いることもできる。
【0069】
他の構成については第1の実施の形態と同様である。第2の主ホイールシリンダ9および前後連動用のホイールシリンダ77が後輪8に設けられた相異なるキャリパに配置されるようにしても良い。
本第3の実施の形態によれば、前側のブレーキレバー2の操作によって、前後のブレーキを連動させて働かせることができ、いわゆるフロント操作型の前後連動ブレーキを提供することができる。すなわち、前輪6に第1の主ホイールシリンダ7と副ホイールシリンダ29を配置して、ブレーキレバー2の相対的に少ない操作力および相対的に少ない操作ストロークにて前輪6の制動力を向上する。一方、第1の主ホイールシリンダ7に提供されている第1の液圧を圧力制御弁80により所定の液圧に調整し、この調整された液圧を後輪8に配置される上記前後連動用のホイールシリンダ77に供給することにより、後輪8の制動力も向上することができる。
【0070】
また、第1の主ホイールシリンダ7側の第1の液圧が入力される圧力制御弁80の機能としては、上記第1の液圧が所定値未満では第1の液圧に等しい液圧を出力し、第1の液圧が所定値を超えると、第1の液圧を比例的に減じた液圧を出力するものが好ましい。これにより、前後の制動力の配分特性を図11に実線で示すように設定することが可能である。
【0071】
すなわち、制動力の配分特性を図11に一点鎖線で示す1名乗車時の理想配分曲線および二点鎖線で示す2名乗車時の理想配分曲線を超えないように設定することで、フロントが先にロックするように設定することができる。具体的には、制動力の配分特性を1名乗車時の理想配分曲線を超えない範囲でこれに近似させることが好ましい。
前輪6にブースト力を付加するため、車両の減速度が非常に高まる結果、前輪6側へ偏った荷重配分へ移行し易い。その結果、後輪の接地荷重が減少する傾向にあるが、通常のフロントのブレーキ操作で、リヤ側にも制動力を配分することができるので、制動時の車両の安定に効果がある。また、非力なレバー操作でも高い減速度を得ることができる。
【0072】
第4の実施の形態
次いで、図12は本発明の第4の実施の形態を示している。本第4の実施の形態が図10の第3の実施の形態と異なるのは下記である。すなわち、第3の実施の形態では、第1の液路10の第2の部分10bを前後連動用のホイールシリンダ77に接続する構成を採用したが、本第4の実施の形態では、上記構成に代えて、レギュレータ21の出力ポート23を前輪6に配置される第1の副ホイールシリンダ29および後輪8に配置される第2の副ホイールシリンダ29Aに接続する構成を採用し、第2の副ホイールシリンダ29Aが前後連動用のホイールシリンダとして機能するようにした。
【0073】
換言すると、前輪ブレーキ系統200の第1の主液路10に対応して設けられたブースタ88から作動液の供給を受けるブースト用の副ホイールシリンダとして、複数の副ホイールシリンダ、すなわち第1および第2の副ホイールシリンダ29,29Aを設け、その第1の副ホイールシリンダ29を前輪6に配置すると共に、その第2の副ホイールシリンダ29Aを後輪8に配置した。ブースタ88は前輪ブレーキ系統200と後輪ブレーキ系統300とで兼用されることになる。
【0074】
具体的には、ブースタ88のレギュレータ21の出力ポート23と第1の副ホイールシリンダ29とを接続する液路81の中途に設けられた分岐部81aを後輪8に配置される第2の副ホイールシリンダ29Aに接続する接続路82を設け、この接続路82に上記の第3の実施の形態の圧力制御弁80と同様の構成の圧力制御弁83を配置するようにした。
【0075】
本第4の実施の形態においても、第3の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。特に、前後連動用の第2の副ホイールシリンダ29Aに対して液圧源12から作動液を供給するようにすることで、第1のマスターシリンダ4の供給液量を相対的により少なくした状態で前後の連動ブレーキを実現することができるという利点がある。
特に、後輪の分布荷重が相対的に大きいスクータ型の車両、車両後部への積載量の大きな業務用の車両、ツーリング用途などの車両に適用した場合、後輪にもブースト力を付加することで安定した制動を達成することができる。
【0076】
第5の実施の形態
次いで、図13は本発明の第5の実施の形態を示している。本第5の実施の形態が図1の第1の実施の形態と異なるのは、下記である。すなわち、第1の実施の形態では、前輪ブレーキ系統200の第1の主液路10の一部をパイロット室30として含むレギュレータ21を設けたが、本第5の実施の形態では、これに代えて、後輪ブレーキ系統300の第2の主液路11の一部をパイロット室30として含むレギュレータ21Aを設けた。
【0077】
第2の主液路11は、第2のマスターシリンダ5をレギュレータ21Aの第1のパイロットポート25に接続する第1の部分11aと、レギュレータ21Aの第2のパイロットポート26を第2の主ホイールシリンダ9に接続する第2の部分11bとを含む。第2の液路11の第2の部分11bには、上述の圧力制御弁80,83と同様の構成の圧力制御弁84が配置されている。レギュレータ21Aの出力ポート23は、液路81を介して、当該レギュレータ21Aに対応して前輪6に配置されたブースト用の副ホイールシリンダ29Bに接続されている。レギュレータ21Aの内部構成については、レギュレータ21と同様である。また、他の構成については、第1の実施の形態と同様であるので、図に同一符号を付してその説明を省略する。
【0078】
本実施の形態によれば、リヤ側のブレーキ操作部材としてのブレーキペダル3の操作により作動する第2のマスターシリンダ5からの供給液圧がパイロット圧としてレギュレータ21Aに導かれる。液圧源12からの作動液がレギュレータ21Aを介して第3の液圧に調整されて、前輪6に配置された副ホイールシリンダ29Bへ供給される。これにより、ブレーキペダル3の操作で、後輪8の第2の主ホイールシリンダ9に加えて、前輪6の副ホイールシリンダ29Bにも液圧を供給でき、いわゆるリヤ操作型の前後連動ブレーキを提供することができる。また、圧力制御弁84によって前、後輪6,8への制動力配分を調整することができる。
【0079】
いわゆるリヤ操作型の前後連動ブレーキにおいて、ブレーキペダル3の相対的に少ない操作力と操作ストローク量で、前後のホイールシリンダ9,29Bに作動液を供給でき、制動力を高めることができる。
また、レギュレータ21Aの第2のパイロットポート26と第2の主ホイールシリンダ9との間に介在する圧力制御弁84は、後輪ブレーキ系統300の第2の主ホイールシリンダ9への液圧を制限する機能を果たす。例えば、第2のマスターシリンダ5から供給される第1の液圧が所定値未満では第1の液圧に等しい液圧を出力し、第1の液圧が所定値を超えると、第1の液圧を比例的に減じた液圧として出力するものが好ましい。これにより、前後の制動力の配分特性を図14に実線で示すように設定することが可能である。
【0080】
すなわち、当該配分特性を図14に一点鎖線で示す1名乗車時の理想配分曲線および二点鎖線で示す2名乗車時の理想配分曲線よりも高く設定することにより、積載条件にかかわらず、後輪8が先にロックするように設定することができる。具体的には、2名乗車時の理想配分曲線を下回らない範囲でこれに近似させるように配分特性を設定することが好ましい。
【0081】
また、ABSの故障時やABS制御の禁止時にも、リヤが先にロックする特性を確保することで、車両の安定を維持することができる。
圧力制御弁の一例
図15は、上記の第3、第4および第5の実施の形態(すなわち、図7、図9および図10の実施の形態)において、圧力制御弁80,83,84として用いるプロポーショニングバルブ(Pバルブ)の一例を示す。
【0082】
図15を参照して、プロポーショニングバルブ140は、ボディ141と、ボディ141の内部に配置されたプランジャ142と、プランジャ142と共働作用を行うことで弁機構を得るための弾性弁座143と、プランジャ142の弁機構を開放方向へと付勢するための付勢部材としてのばね144とを備える。
ボディ141は、上記プランジャ142を摺動自在に収容する弁収容孔145と、弁収容孔145の一端を液密的に閉塞するプラグ146と、弁収容孔145の一端近傍に通ずる入口液路147と、弁収容孔145の他端に設けられる出口液路148とを備える。
【0083】
プランジャ142は、第1および第2の端部142a,142bと、第1および第2の端部142a,142b間の中間部で第1の端部142a寄りに設けられたピストン142cと、ばね144の一端を受けるばね座142dとを備える。
ばね144は、プランジャ142のばね座142dとプラグ146によって受けられたばね座149との間に介在する圧縮コイルばねからなる。また、ボディ141は、プランジャ142の第1および第2の端部142a,142bをそれぞれ摺動可能に支持するための第1および第2の受け部151,152を備える。
【0084】
このような構成のプロポーショニングバルブ140の入口液路147に付与された液圧は、弁収容孔145内においてピストン142cの上流側領域に伝達され、さらにばね144によって開放されている弁部153を通過して出口液路148へと伝えられる。このときは弁部153が開放されているので、入口液路147に加わったブレーキ液圧がほぼそのまま出口液路148へ伝えられる。
【0085】
一方、入口液路147からのブレーキ液圧がさらに上昇し、一定値に達すると、ピストン142cの下流側の液受圧面積A1(ピストン142cが弾性弁座143に当接するときの接触部直径面積)と、上流側の液受圧面積A2= A1×π/4×d2 (dはピストン142cの外径)との面積差によりピストン142cはばね144の付勢力に勝って図13の下方に移動し、弁部153が閉じられる。このポイントが折れ点である。
【0086】
さらに上流側液圧がΔPだけ上昇すると、上昇液圧ΔPによりピストン142cは上方へ僅かに移動し、弁は開く。
すなわち、上流側液圧の上昇液圧ΔPは下流側液受圧面積A1と上流側受圧面積A2との面積差によるピストン142cへの下方向への作用力ΔP×A2/A1がばね144の付勢力に達するまでの間、液の流れが許容されて、再び弁は閉じる。
【0087】
この様に弁の開閉動作は繰返し行われてプロポーショニングバルブ140は折れ点液圧以上の入力液圧に対してある一定の割合でブレーキ液圧を減圧させて、出力液路148側に接続されるホイールシリンダに伝達する作用を有する。
圧力制御弁の別の例
次いで、図16は、上記の第3、第4および第5の実施の形態(すなわち、図10、図12および図13の実施の形態)において、圧力制御弁80,83,84として用いる減圧ピストンを含む複合バルブ160の一例を示す。
【0088】
複合バルブ160は、プロポーショニングバルブ収容室161および減圧ピストン収容室162を有するボディ163と、プロポーショニングバルブ収容室161に収容されるプロポーショニングバルブ164と、減圧ピストン収容室162に収容される減圧ピストン165とを備える。
プロポーショニングバルブ収容室161は、第1室166、第2室167、第3室168および第4室169を順次に連ねて含む。第1室166および第2室167が弁室となっている。第4室169の端部はプラグ170により液密的に閉塞されている。
【0089】
また、減圧ピストン収容室162は、大径の第1ピストン収容室171と、小径の第2ピストン収容室172とを含む。第2ピストン収容室172は、後述する第2ピストン196の先端部と液密的に嵌め合わされるシリンダ部172aと、後述する第2ピストン196の残りの部分の回りを取り囲み第1ピストン収容室171に近づくにしたがって漸次拡径する液室172bとを有する。第1ピストン収容室171の端部はプラグ174によって液密的に塞がれている。
【0090】
ボディ163は入口ポート175および出口ポート176を含む。入口ポート175は、液路177、液室172bおよび液路178を順次に介して、プロポーショニングバルブ収容室161の弁室としての第2室167に連通している。出口ポート176は液路179を介して、プロポーショニングバルブ収容室161の弁室としての第1室166の端部に連通している。
【0091】
プロポーショニングバルブ164は、第1室166から第4室169までを挿通して摺動自在に配置されたプランジャ180と、プランジャ180と共働作用を行うことで弁機構を得るための弁座形成体181と、プランジャ180の弁機構を開放方向へ付勢するための付勢部材としてのばね182とを備える。
プランジャ180は、第1の端部180aと第2の端部180bとを有する。プランジャ180の第1の端部180aには、第1室166に摺動自在に嵌合された大径部183が形成されており、第2の端部180bは第4室169に摺動自在に嵌合されている。また、プランジャ180の第2の端部180bには、環状段部からなるばね座184が設けられている。上記のばね182は、ばね座184と第4室169の底との間に介在する圧縮コイルばねからなる。
【0092】
また、プランジャ180は上記大径部183に小径部185を介して連なる中径部186を有しており、中径部186は第2の端部180bまで延びている。小径部185は第1室166から第2室167に跨がり、中径部186は第2室167から第4室169に跨がるように配置されている。
大径部183の先端部を除く部分の外周の全周には、凹部183aが形成され、この凹部183aと第1室166の内周との間に、環状液室187が形成されている。この環状液室187は液路179を介して出口ポート176に連通している。
【0093】
一方、弁座形成体181は、第1室166に近い側の第2室167の端部に保持されている。具体的には、弁座形成体181の端面が第2室167の内端面に設けられるストッパ部167aに当接することで、弁座形成体181がホームポジションに位置決めされている。弁座形成体181は、プランジャ180の小径部185を所定の環状隙間を設けて挿通させる挿通孔188を有する環状体からなる。弁座形成体181の端面の一部が第1室166に面することで、弁座189を構成している。弁座形成体181の外周と第2室167の内周との間は、例えばOリングからなるシール部材190により封止されている。
【0094】
また、プランジャ180は、大径部183と小径部185との間に、上記弁座189に対向する環状段部191を形成しており、この環状段部191に、環状の弾性板からなる弁体192が貼り付けられている。
ばね182により付勢されたプランジャ180は、その大径部183の端面が第1室166の端部のストッパ部193に当接することで、弁体192と弁座189との間に所定の隙間が設けられる状態に位置決めされる。また、第3室168の内周とこれを挿通する中径部186の部分との間は、環状のシール部材194によって封止されている。シール部材194はプランジャ180の中径部186の摺動を許容する。
【0095】
次いで、減圧ピストン165は、第1ピストン収容室171に摺動自在に収容された大径の第1ピストン195と、第1ピストン195から同心状に延設され第2ピストン収容室172の液室172bを隙間を設けて挿通して第2ピストン収容室172のシリンダ部172aに摺動自在に収容された第2ピストン196とを備える。
第1ピストン195の外周に形成される周溝に例えばOリングからなるシール部材197が収容され、このシール部材197によって、第1ピストン195の外周と第1ピストン収容室171の内周との間が封止されている。
【0096】
また、第2ピストン196の先端部の外周に形成される周溝に例えばOリングからなるシール部材198が収容され、このシール部材198によって、第2ピストン196の先端部の外周と第2ピストン収容室172のシリンダ部172aとの間が封止されている。 第1ピストン195は、付勢部材としてのばね199によって、第1ピストン収容室171の一端に設けられるストッパ部171a側へ付勢され、ストッパ部200に当接することによって位置決めされる。
【0097】
このような構成の複合バルブ160を例えば図10の圧力制御弁80に適用した場合に則して説明すると、入口ポート175に付与された液圧は、液路177、液室172b、液路178および第2室167に伝達され、さらにばね182の働きで開放されている、弁体192と弁座189との間を通過し、さらに環状液室187および液路179を介して出口ポート176へと伝えられる。このときは、弁体192が開放されているので、入口ポート175に伝わったブレーキ液圧がほぼそのまま出口ポート176に伝えられ、後輪のホイールシリンダ77に伝達される。
【0098】
入口ポート175に伝えられるブレーキ液圧が増加し、後輪の制動力が図17のA点に達すると、弁体192が弁座189に接するときの液受圧面積(弁座189よりも下流側の液受圧面積)と、中径部の断面積から小径部の断面積を差し引いた液受圧面積(弁座189よりも上流側の液受圧面積)との面積差により、プランジャ180がばね182の付勢力に打ち勝って図16において下方に移動し、弁体192が弁座189に密接して弁部が閉じられる。
【0099】
その結果、入口ポート175と出口ポート176との連通が一時的に遮断されるが、入口ポート175に付与されるブレーキ液圧がさらに増加すると、第2室167の圧力が高まって、プランジャ180が押し上げられ、入口ポート175と出口ポート176とが再び連通する。
このようにして、入口ポート175に付与される液圧の増加に伴って、プランジャ180が上下に振動することにより、弁体192と弁座189との間の隙間が断続的に開閉され、出口ポート176に伝達されるブレーキ液圧の増加率が減少する。
【0100】
入口ポート175に付与されるブレーキ液圧がさらに増加し、後輪の制動力がB点に達すると、弁体192が弁座189に密接した状態で、プランジャ180および弁座形成体181が一体的に図16において下降する。これにより、大径部183の凹部183aと液路179との連通が遮断され、入口ポート175と出口ポート176の連通が完全に断たれるため、それ以後、入口ポート175に付与されるブレーキ液圧が増加しても、出口ポート176から後輪のホイールシリンダ77に伝達されるブレーキ液圧は一定に維持される。
【0101】
入口ポート175に付与されるブレーキ液圧がさらに増加し、後輪の制動力がC点に達すると、減圧ピストン165がばね199に抗して下降する。これにより、第2ピストン196の先端部が下降してシリンダ部172a内に液路179と連通する液室が形成されることになる。その結果、出口ポート176に伝達されるブレーキ液圧は減少する。このようにして、出口ポート176から出力されるブレーキ液圧が4段階に変化する。
【0102】
なお、本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、例えば、図10、図12および図13の実施の形態において、対応する圧力制御弁80,83,84をそれぞれ廃止することもできる。
また、図1、図10、図12および図13の各実施の形態において、前輪ブレーキ系統200と後輪ブレーキ系統300の構成を互いに入れ換えた構成を採用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る自動二輪車用ブレーキ装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】主にブースタのレギュレータの内部構成を示す模式的断面図であり、第1の状態にあるレギュレータを示している。
【図3】主にブースタのレギュレータの内部構成を示す模式的断面図であり、第2の状態にあるレギュレータを示している。
【図4】主にブースタのレギュレータの内部構成を示す模式的断面図であり、第3の状態にあるレギュレータを示している。
【図5】パイロット圧として用いられる第1の液圧とレギュレータにより調整された第3の液圧との関係を示すグラフ図である。
【図6】アンチロック制御時のブレーキ装置がブレーキ液圧を保持する状態を示す模式図である。
【図7】アンチロック制御時のブレーキ装置がブレーキ液圧を減圧する状態を示す模式図である。
【図8】アンチロック制御時のブレーキ装置がブレーキ液圧を加圧(再加圧)する状態を示す模式図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係るレギュレータの内部構成を示す断面図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態に係る自動二輪車用ブレーキ装置の概略構成を示す模式図である。
【図11】図10の実施の形態において、制動力配分特性と理想配分曲線との関係を示すグラフ図である。
【図12】本発明の第4の実施の形態に係る自動二輪車用ブレーキ装置の概略構成を示す模式図である。
【図13】本発明の第5の実施の形態に係る自動二輪車用ブレーキ装置の概略構成を示す模式図である。
【図14】図13の実施の形態において、制動力配分特性と理想配分曲線との関係を示すグラフ図である。
【図15】第3、第4および第5の実施の形態において、圧力制御弁として用いるプロポーショニングバルブ(Pバルブ)の断面図である。
【図16】第3、第4および第5の実施の形態において、圧力制御弁として用いる複合バルブの断面図である。
【図17】図16の複合バルブを図10の実施の形態に適用した場合の制動力配分特性と理想配分曲線との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0104】
1 自動二輪車用ブレーキ装置
2 ブレーキレバー
3 ブレーキペダル
4 第1のマスターシリンダ
5 第2のマスターシリンダ
6 前輪
7 第1の主ホイールシリンダ
8 後輪
9 第2の主ホイールシリンダ
10 第1の主液路
10a 第1の部分
10b 第2の部分
10c 分岐部
10d 帰還部
11 第2の主液路
11a 第1の部分
11b 第2の部分
11c 分岐部
11d 帰還部
12 液圧源
13 リザーバ
15 ポンプ装置
17 アキュームレータ
18 電動モータ
21,21A レギュレータ
22 入力ポート
23 出力ポート
24 排出ポート
25 第1のパイロットポート
26 第2のパイロットポート
29,29A,29B 副ホイールシリンダ
30 パイロット室
34 スプール部材
35 レギュレータ室
38 ドレーンポート
44 バルブ機構
45 バルブボディ
48 弁孔
49 チェック弁
50 弁座
51 ボール
52 付勢部材
58 付勢部材
59 調圧弁
60 高圧室
61 操作軸
63 ボール
68 第1の受圧部
69 第2の受圧部
70 スリーブ
77 前後連動用のホイールシリンダ(別のホイールシリンダ)
79 接続路
80 圧力制御弁
82 接続路
83 圧力制御弁
84 圧力制御弁
88 ブースタ
90,90A モジュレータ
91 第1の電磁弁
92 第2の電磁弁
93 バッファチャンバ
94 ポンプ
95 還流路
95a 分岐部
97,98,99 逆止弁
100 電動モータ
140 プロポーショニングバルブ(圧力制御弁)
160 複合バルブ(圧力制御弁)
200 前輪ブレーキ系統
300 後輪ブレーキ系統

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスターシリンダから主液路を介して作動液が供給される主ホイールシリンダと、
主ホイールシリンダの発生液圧に応じた液圧を発生するブースタと、
ブースタから作動液が供給される副ホイールシリンダと、
アンチロック用のモジュレータとを備え、
上記ブースタは、液圧源と、主液路の一部をパイロット室として含みパイロット室内のパイロット圧を用いて液圧源からの作動液を液圧調整して副ホイールシリンダへ供給するためのレギュレータとを含み、
上記モジュレータは、主液路においてマスターシリンダとパイロット室との間に設けられる分岐部からこの分岐部よりもマスターシリンダ側にあってマスタシリンダに常時連通する帰還部へ作動液を還流させるための還流路と、還流路に配置されアンチロック制御時に上記主ホイールシリンダから排出された作動液を吸引し帰還部を介して主液路に還流させるためのポンプとを含むことを特徴とする自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を互いに独立して備え、 上記ブースタは前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統の少なくとも一方に設けられ、ブースタが設けられた側のブレーキ系統に当該ブースタに対応する副ホイールシリンダが設けられる自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、
上記ブースタは前輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられ、上記前輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられたブースタに対応する副ホイールシリンダが前輪および後輪にそれぞれ配置される自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3において、上記後輪に配置される副ホイールシリンダは、対応するブースタのレギュレータの出力ポートから圧力制御弁を介して作動液の供給を受ける自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、
上記ブースタは前輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられ、上記前輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられたブースタに対応する副ホイールシリンダが前輪に配置され、
後輪ブレーキ系統は主ホイールシリンダと別のホイールシリンダを含み、
上記別のホイールシリンダは、前輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられたブースタのレギュレータのパイロット室を介して前輪ブレーキ系統のマスターシリンダから作動液の供給を受ける自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項5において、上記前輪ブレーキ系統の主液路は、当該主液路に対応して設けられたブースタのレギュレータのパイロット室を前輪ブレーキ系統の主ホーイルシリンダに接続する部分を含み、この部分に設けられる分岐部を上記別のホイールシリンダに接続する接続路に、圧力制御弁が配置される自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、
上記ブースタは後輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられ、後輪ブレーキ系統の主液路に対応して設けられたブースタに対応する副ホイールシリンダが前輪に配置される自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項7において、上記後輪ブレーキ系統の主液路は、当該主液路に対応して設けられたブースタのレギュレータのパイロット室を後輪ブレーキ系統の主ホイールシリンダに接続する部分を含み、この部分に圧力制御弁が配置される自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか1項に記載の自動二輪車用ブレーキ装置を含むことを特徴とする自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−69302(P2006−69302A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253261(P2004−253261)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】