説明

自動車における吸音内装材及びその製造方法

【課題】機械的物性を良好に維持しつつ、変色を抑制することができる自動車における吸音内装材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】自動車における吸音内装材としての吸音天井材10は、吸音天井材本体としてのポリウレタン発泡体マット11の両面に、バインダー層12を介して補強材としてのガラスマット13が設けられ、該ガラスマット13上に表皮材14が積層され、加熱プレス成形されて構成されている。この場合、表皮材14には、チオ硫酸塩水溶液の塗布、浸透によりチオ硫酸塩が含有されている。チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム等のチオ硫酸のアルカリ金属塩が好ましい。チオ硫酸塩の水溶液の濃度は、2〜5質量%であることが好ましく、チオ硫酸塩の水溶液の塗布量は、50〜100ml/mであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の吸音天井材等として用いられ、剛性等の機械的物性を維持しつつ、変色を抑制することができる自動車における吸音内装材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の吸音天井材は、ポリウレタン発泡体よりなる吸音天井材本体と、該吸音天井材本体の両面に配置されるガラスマット等からなる補強材と、該補強材上に配置される表皮材及び裏面材とから構成されている。この吸音天井材を製造する場合には、吸音材本体の両面にバインダーとしてイソシアネート成分を塗布した後水及び触媒を塗布し、その上に補強材を積層し、その表面にバインダー又は接着剤を塗布して表皮材又は裏面材を積層する。その後、ホットプレスを施すことにより、吸音天井材本体、補強材、表皮材及び裏面材が接着されて積層一体化される。
【0003】
従来、バインダーとしてポリイソシアネートとポリオールとを反応させたポリマーを用い、吸音内装材を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。具体的には、吸音材又は補強材に少なくともイソシアネートを含有するバインダーを付与し、該バインダーに水及び触媒を供給した後、吸音材又は補強材に表皮材を積層して加熱、加圧することにより吸音内装材を製造する方法である。この場合、吸音材又は補強材の表面にイソシアネート成分を層状に付与し、その上にポリオール成分と触媒とを付与し、加熱することにより、イソシアネート成分とポリオール成分とを反応させるようになっている。イソシアネート成分としては、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略称する)が用いられている。
【特許文献1】特開2004−142157号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているイソシアネート成分はMDI(モノメリックMDI)であり、粘度が低いことから、吸音材又は補強材に塗工した後に毛細管現象により表面側に移行し、表皮材中に拡散するものと考えられる。表皮材中に拡散されたMDIは空気に触れやすくなり、空気中に存在する酸素や窒素酸化物によって酸化され、着色物質が生成される。従って、この着色物質により吸音内装材は、黄変が生じやすかった。
【0005】
一方、自動車における吸音天井材等の用途においては、黄変などの変色を極力抑えるように配慮されている。このため、そのような用途においては、機械的物性を損なうことなく、変色を極力抑制することが求められている。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、機械的物性を良好に維持しつつ、変色を抑制することができる自動車における吸音内装材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の自動車における吸音内装材は、吸音内装材本体の少なくとも一方に補強材が設けられ、該補強材上に表皮材が積層されて構成され、前記吸音内装材本体及び補強材の少なくとも一方の上にバインダーを塗工し、表皮材を積層した後、加熱プレス成形してなる自動車における吸音内装材であって、前記表皮材には、チオ硫酸塩が含有されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2の自動車における吸音内装材は、請求項1の発明において、前記チオ硫酸塩はチオ硫酸のアルカリ金属塩である。
請求項3の自動車における吸音内装材の製造方法は、吸音内装材本体の少なくとも一方に補強材を設け、該補強材上に表皮材を積層し、前記吸音内装材本体及び補強材の少なくとも一方の上にバインダーを塗工し、表皮材を積層した後、加熱プレス成形する自動車における吸音内装材の製造方法であって、前記加熱プレス成形後にチオ硫酸塩の水溶液を表皮材の表面に塗布し、表皮材にチオ硫酸塩を含有させることを特徴とする。
【0009】
請求項4の自動車における吸音内装材の製造方法は、請求項3の発明において、前記チオ硫酸塩の水溶液の濃度は2〜5質量%であることを特徴とする。
請求項5の自動車における吸音内装材の製造方法は、請求項3又は請求項4の発明において、前記チオ硫酸塩の水溶液の塗布量は、50〜100ml/mであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1の吸音内装材においては、表皮材にはチオ硫酸塩が含有されていることから、その性質により還元作用を発現することができる。このため、空気中の酸素や窒素酸化物によりMDIが酸化されて着色物質を生ずることを抑えることができるものと考えられる。また、チオ硫酸塩の水溶液はほぼ中性を示し、安定性の良い物質であることから、吸音内装材の物性に悪影響を与えないものと考えられる。従って、吸音内装材の機械的物性を良好に維持しつつ、変色を抑制することができる。
【0011】
請求項2の吸音内装材では、チオ硫酸塩がチオ硫酸のアルカリ金属塩であることから、請求項1の効果に加え、還元剤としての機能を向上させることができる。
請求項3における吸音内装材の製造方法では、吸音内装材本体の少なくとも一方に補強材を設け、その補強材上に表皮材を積層し、吸音内装材本体及び補強材の少なくとも一方の上にバインダーを塗工し、表皮材を積層した後、加熱プレス成形することにより行われる。この場合、加熱プレス成形後にチオ硫酸塩の水溶液を表皮材の表面に塗布することにより、表皮材にはチオ硫酸塩が含有される。このため、機械的物性が良好に維持されつつ、変色が抑制された吸音内装材をチオ硫酸塩水溶液の塗布により容易に製造することができる。
【0012】
請求項4における吸音内装材の製造方法では、チオ硫酸塩の水溶液の濃度は2〜5質量%であることから、請求項3に係る発明の効果に加えて、低濃度で変色抑制効果を有効に発揮することができる。
【0013】
請求項5における吸音内装材の製造方法では、チオ硫酸塩の水溶液の塗布量は50〜100ml/mであることから、請求項3又は請求項4に係る発明の効果に加えて、チオ硫酸塩水溶液の表皮材中への浸透性及び外観を良好に維持しつつ、変色を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の自動車における吸音内装材では、吸音内装材本体の少なくとも一方に補強材が設けられ、該補強材上に表皮材が積層されて構成され、吸音内装材本体及び補強材の少なくとも一方の上にバインダーが塗工され、表皮材を積層した後、加熱プレス成形してなるものである。上記補強材は吸音内装材本体の両面又は片面に設けられ、バインダーは吸音内装材本体と補強材の双方又はいずれか一方の上に塗工される。この場合、表皮材中にチオ硫酸塩が含有されている点に特徴を有している。
【0015】
係る自動車の吸音内装材としては、広い面積を有する吸音天井材(成形天井材)がその代表例として挙げられる。例えば、図1に示すように、吸音天井材10においては、一般に吸音天井材本体としてのポリウレタン発泡体マット11の両面にバインダーが塗布されてバインダー層12が形成され、表面側には補強材としてのガラスマット13が接着され、そのガラスマット13上に表皮材14が積層される。ポリウレタン発泡体マット11の裏面側には、前記バインダー層12上にガラスマット13が接着され、その上にホットメルト接着剤による接着剤層15が形成され、その上に不織布よりなる裏面材16が積層される。このようにして得られる積層材料を加熱プレス成形することにより、目的とする積層体として吸音天井材10が製造される。各層の厚さは、例えばポリウレタン発泡体マット11が4〜6mm、ガラスマット13が0.2〜0.5mm及び表皮材14が2〜3mmである。この吸音天井材10を製造するに際しては、剛性等の機械的物性を維持しつつ、バインダーに基づく黄変を抑制することが求められている。
【0016】
前記吸音内装材本体は良好な吸音性を有し、吸音内装材の所要の剛性と弾力性とを保持するための主体となる材料で、ポリウレタン発泡体などのマットで構成される。係るポリウレタン発泡体としては、常法に従ってベルトコンベア上で大気圧下に反応及び発泡されるスラブ成形体又は金型を用いて型締めし、型内で反応及び発泡して成形されるモールド成形体のいずれも使用される。吸音内装材本体としては例えば、主として連続気泡構造を有する半硬質のポリウレタン発泡体が用いられる。補強材としては、ガラス繊維を接着剤によって接着して形成されるガラスマットが用いられる。
【0017】
表皮材14としては、目付量が100〜120g/mのポリエステル樹脂繊維などにより形成される不織布が用いられ、裏面材16としても同様の不織布などが用いられる。前記接着剤層15を形成する接着剤としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体等により形成されるホットメルト接着剤などが使用される。
【0018】
次に、前記バインダーとしては、MDI(モノメリックMDI、ピュアMDI)、ポリメリックMDI等のポリイソシアネートが好適に用いられる。ポリメリックMDIは、モノメリックMDIの重合体である。このバインダーとして、モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物は、バインダーの粘度を高めると共に、ポリメリックMDIによりセル膜を強化して発泡を抑えることができる。MDIは速やかにウレタン化反応、ヌレート化反応し、さらには水と反応する。
【0019】
このバインダーの塗布量は、不足するとバインダーの機能発現が不足して積層体の接着性や剛性の低下を招き、過剰になると表面に染み出すようになるため、40〜100g/mであることが好ましい。バインダーの塗布量が40g/mより少ない場合には、バインダーの機能が不足して積層体の接着性や機械的物性が低下する傾向を示す。その一方、100g/mより多い場合には、過剰なバインダーが積層体の表面に染み出す傾向を示して好ましくない。
【0020】
次に、バインダーを硬化させるための触媒としては、アミン系触媒、トリアジン系触媒等が使用される。この触媒は、通常水溶液として用いられる。トリアジン系触媒により、ヌレート化反応やMDIと水との反応が促進され、MDIの3量体、尿素化合物などが生成される。
【0021】
アミン系触媒として具体的には、トリエチレンジアミン、トリエチレンジアミンとポリプロピレングリコールとの混合物、N,N−ジメチルエタノールアミン、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノール、N,N,N´,N´−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N´,N´−テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N´,N″,N″−ペンタメチル−(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N,N´,N″,N″−ペンタメチルジプロピレントリアミン、N,N,N´,N´−テトラメチルグアニジン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、N,N,N´,N´−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N−メチル−N´−(2−ジメチルアミノエチル)ピペラジン等が挙げられる。トリアジン系触媒として具体的には、N,N,N−トリス(3−ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ―s―トリアジン等が挙げられる。
【0022】
触媒水溶液中における触媒の濃度は4〜6質量%であることが好ましい。この濃度が4質量%を下回る場合には、触媒の機能が十分に発現されず、吸音内装材の物性が低下して好ましくない。一方、6質量%を上回る場合には、過剰の触媒によって触媒作用が過度に働き、反応の進行が速く、副反応が生じたりして好ましくない。なお、触媒は水溶液として使用されるため、溶媒となる水がバインダー中のMDIと反応するようになっている。触媒水溶液の塗布量は、10〜40g/mであることが好ましい。この塗布量が10g/mより少ない場合、触媒の塗布量が不足し、十分な触媒機能を得ることができなくなる。一方、40g/mより多い場合、触媒水溶液が表皮材まで浸透したり、触媒機能が強く作用して反応が急激に進行したり、副反応が起きたりして好ましくない。バインダーの原料には上記各成分のほかに必要に応じて、安定剤、難燃剤、架橋剤、充填剤、整泡剤、可塑剤等が常法に従って配合される。
【0023】
次に、加熱プレス成形は、例えばポリウレタン発泡体マット11、ガラスマット13及び表皮材14の積層材料を一体化して積層体を得るために常法に従って行われる。すなわち、加熱プレス成形機を用い、例えば100〜150℃で20〜60秒間加熱すると共に、圧縮率(元の厚さに対する圧縮量の割合)が25〜75%となるように圧縮することにより行われる。これらの条件は、バインダーの組成、ポリウレタン発泡体マット11、ガラスマット13及び表皮材14の材質、目標とする吸音天井材10の厚さなどによって適宜設定される。この加熱プレス成形により、MDIがヌレート化反応してMDIの3量体が得られ、MDIが水と反応(泡化反応)して尿素化合物が得られ、さらにその尿素化合物がMDIと反応して架橋生成物などが得られる。従って、加熱プレス成形後に得られる積層体は、硬度や剛性に優れると同時に、弾力性に優れ、かつ接着性にも優れている。このようにして、目的とする吸音天井材10などの吸音内装材が製造される。
【0024】
次に、加熱プレス成形の後(直後)には、吸音天井材10の表皮材14にチオ硫酸塩の水溶液が塗布され、表皮材14中にチオ硫酸塩が分散され、含有される。このチオ硫酸塩は、その性質により還元性(酸化防止性)を有する化合物であり、MDIなどのバインダーが表皮材側へ染み出し、空気等に触れて酸化されるのを抑える役割を果たす。還元剤でも塩素系の還元剤は、塩素によってその水溶液が酸性になり、バインダーの黄変部が一層褐色に変色するため、不適当である。
【0025】
チオ硫酸塩としては、例えばチオ硫酸ナトリウム(Na)、チオ硫酸カリウム(K)、チオ硫酸リチウム(Li)等のチオ硫酸のアルカリ金属塩、チオ硫酸マグネシウム(MgS)、チオ硫酸カルシウム(CaS)、チオ硫酸ストロンチウム(SrS)、チオ硫酸バリウム(BaS)等のチオ硫酸のアルカリ土類金属塩、チオ硫酸マンガン(MnS)、チオ硫酸コバルト(CoS)、チオ硫酸鉄(FeS)、チオ硫酸アンモニウム〔(NH〕等が挙げられる。それらのうち、還元作用が良好で、水溶性が高く、水溶液のpHが中性を示す点から、チオ硫酸のアルカリ金属塩が好ましい。また、チオ硫酸のアルカリ金属塩の中では、水溶性がより高く、水溶液のpHが中性を示すと共に、入手が容易である点から、チオ硫酸ナトリウム又はチオ硫酸カリウムがより好ましい。
【0026】
チオ硫酸塩の水溶液の濃度は、結晶の析出がなく、塗布を良好に行うことができる観点から、2〜5質量%であることが好ましい。この濃度が2質量%を下回る場合には、チオ硫酸塩が表皮材14中に十分に浸透せず、チオ硫酸塩による還元作用が不足する傾向を示して好ましくない。その一方、5質量%を上回る場合には、チオ硫酸塩の水溶液からチオ硫酸塩の結晶が析出しやすくなる傾向を示し、その結晶が表皮材14の表面に浮き出てくるおそれがあり好ましくない。
【0027】
チオ硫酸塩の水溶液の塗布量は、40〜100ml/mであることが好ましい。この塗布量が40ml/mより少ない場合、表皮材14中に含まれるチオ硫酸塩の量が少なくなり、チオ硫酸塩に基づく還元作用が不足して黄変抑制の効果が低下する傾向を示す。一方、塗布量が100ml/mより多い場合、表皮材14中のチオ硫酸塩の含有量が過剰になり、過剰量のチオ硫酸塩が表皮材14の表面から析出し、白色の染みを生ずる傾向があって好ましくない。これらチオ硫酸塩の水溶液の濃度及びチオ硫酸塩の水溶液の塗布量から、表皮材14に含まれるチオ硫酸塩の含有量が算出され、その含有量は1〜5g/m程度となる。表皮材14中におけるチオ硫酸塩の含有量が1g/m未満の場合には、表皮材14中に含まれるチオ硫酸塩の含有量が不足し、チオ硫酸塩に基づく還元作用が弱くなる傾向を示して好ましくない。一方、チオ硫酸塩の含有量が5g/mを超える場合には、チオ硫酸塩の含有量が多く、チオ硫酸塩が結晶化して析出しやすくなり、表皮材14の表面に現れて白色の染みが形成される傾向を示す。
【0028】
チオ硫酸塩の水溶液を表皮材14に塗布する方法としては、スプレーガンを用いるスプレー塗布法、ローラを用いるロールコート法等いずれの方法も採用される。スプレー塗布法を採用する場合には、スプレー塗布後に表皮材14の表面を布などで押圧して表面のチオ硫酸塩を表皮材14中へ浸透させることが望ましい。チオ硫酸塩の水溶液は、表皮材14の厚さ方向の全域に浸透することが望ましいが、例えば厚さ2〜3mmの表皮材14の表面側に1mm程度浸透すれば、チオ硫酸塩に基づく還元作用を十分に発現でき、所望の黄変抑制効果を得ることができる。
【0029】
さて、本実施形態の作用について説明すると、例えば吸音天井材10を製造する場合には、吸音天井材本体であるポリウレタン発泡体マット11の両面にバインダーとしてのMDI及びアミン系触媒の水溶液を塗布する。続いて、その両面に補強材としてのガラスマット13を重ね合せる。次いで、その表面側に表皮材14を載せると共に、裏面側に不織布よりなる裏面材16を接着剤層15を介して載せ、積層材料を作製する。その後、積層材料を例えば120℃で30秒間加熱プレス成形を行い、所定厚さまで圧縮する。この加熱プレス成形直後に、表皮材14の上方からチオ硫酸塩の水溶液をスプレー塗布し、表皮材14中に浸透させる。このようにして、積層構造を有する吸音天井材10が製造される。
【0030】
吸音天井材10の表皮材14中にはチオ硫酸塩が分散状態で含有されていることから、そのチオ硫酸塩の性質によって還元作用が発現され、バインダーとしてのMDIが表皮材14側へ染み出して空気中の酸素や窒素酸化物に触れ、酸化されて着色物質を生ずることが抑えられるものと推測される。さらに、チオ硫酸塩の水溶液はほぼ中性を示し、安定性の良い物質であることから、ポリウレタン発泡体マット11やバインダーの劣化を抑えることができると共に、チオ硫酸塩からの副生成物(亜硫酸ガス等)の生成が抑えられるものと推測され、吸音天井材10の機械的物性が保持される。
【0031】
以上詳述した実施形態により発揮される効果を以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態における吸音天井材10では、表皮材14にチオ硫酸塩が含有されていることから、還元作用を発現することができると共に、安定した状態で存在することができる。従って、係るチオ硫酸塩の作用に基づいて吸音天井材10の変色を抑制することができると共に、吸音天井材10の機械的物性を良好に維持することができる。
【0032】
・ 上記のチオ硫酸塩がチオ硫酸のアルカリ金属塩であることにより、還元剤としての機能を向上させることができる。
・ 吸音天井材10の製造は、ポリウレタン発泡体マット11の少なくとも一方にガラスマット13を設け、そのガラスマット13上に表皮材14を積層し、ポリウレタン発泡体マット11及びガラスマット13の少なくとも一方の上にバインダーを塗工し、表皮材14を積層した後、加熱プレス成形することにより行われる。この場合、加熱プレス成形後にチオ硫酸塩の水溶液を表皮材14の表面に塗布することにより、表皮材14にはチオ硫酸塩が含有される。このため、機械的物性が良好に維持されつつ、変色が抑制された吸音天井材10を、チオ硫酸塩の水溶液を塗布するという簡単な操作で容易に製造することができる。
【0033】
・ 前記チオ硫酸塩の水溶液の濃度を2〜5質量%に設定することにより、低濃度で変色抑制効果を有効に発揮することができる。
・ さらに、チオ硫酸塩の水溶液の塗布量を50〜100ml/mに設定することにより、チオ硫酸塩水溶液の表皮材14中への浸透性及び外観を良好に維持しつつ、変色を抑制することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、参考例、実施例及び比較例を挙げて、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
(参考例1〜9)
吸音内装材としての吸音天井材10において、バインダーとしてのMDIの酸化を抑えると共に、吸音天井材10の外観を良好に保持するために、次のような観点で酸化防止剤を選定した。すなわち、そのような観点は、吸音天井材本体を構成するポリウレタン発泡体及びMDIが劣化しないようにできるだけ水溶液が中性に近いこと、さらに塗布後に副生成物としてガスの発生などがなく、安定していることである。
【0035】
そのため、各種酸化防止剤について、pH、性状などの観点に基づいて次の基準で使用適性を評価した。それらの結果を表1に示した。
○:使用適性が十分である。△:使用適性に若干の問題がある。×:使用適性がない。
【0036】
【表1】

表1に示したように、酸化防止剤として参考例1のチオ硫酸ナトリウム及び参考例2のチオ硫酸カリウムは共に水溶液が中性で、ガスの発生もなく、使用適性が十分であった。参考例3の無水亜硫酸ナトリウム、参考例4の亜硫酸水素ナトリウム及び参考例7のピロ亜硫酸ナトリウムは、放置しておくと亜硫酸ガスを発生し、吸音内装材の劣化や結晶析出のおそれがあるため好ましくない。参考例5の次亜硫酸ナトリウムは、亜硫酸ガスを発生する上に、潮解性があるため使用適性のないものであった。参考例6のスルホキシル酸ナトリウムは、ホルマリンを生成するため、使用適性のないものであった。参考例8の二酸化チオ尿素及び参考例9のシュウ酸は、熱、アルカリ、酸などの処理が必要で、十分な洗浄を要するため、使用適性のないものであった。従って、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム等のチオ硫酸塩、特にチオ硫酸のアルカリ金属塩が好ましいという結果であった。
(実施例1〜14及び比較例1)
吸音内装材としての吸音天井材10について試験を行った。吸音天井材本体としてのポリウレタン発泡体マット11の両面にバインダーとしてのMDI(ポリメリックMDI)をロールコータで塗布してバインダー層12を形成した。バインダーの塗布量は、ポリウレタン発泡体マット11の表面側が40〜60g/m、裏面側が40〜100g/mとなるように設定した。両バインダー層12上に触媒として6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノールの5質量%水溶液を、スプレーにて塗布量25g/mで吹き付けた。次いで、ポリウレタン発泡体マット11の表面側には、ガラス繊維より形成されたガラスマット13を重ねた後、表皮材14を積層した。一方、ポリウレタン発泡体マット11の裏面側には、ガラス繊維より形成されたガラスマット13を接着し、その上にホットメルト接着剤のフィルム(厚さ30μm)よりなる接着剤層15を形成し、さらにその上にポリエステル樹脂製の不織布よりなる裏面材16を積層した。
【0037】
上記ポリウレタン発泡体マット11は、主として連続気泡構造を有する半硬質のポリウレタン発泡体(見掛け密度34kg/m、セル数40〜70個/25mm、圧縮強度6〜12N/cm、伸び10〜20%、通気性1.1〜3cm/cm・sec)である。ガラスマット13は、ガラス繊維を束ねて接着剤で接着し、板状に形成したものである。表皮材14は、ポリエステル樹脂繊維より形成された不織布で、目付量が100g/mのものである。ホットメルト接着剤は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をフィルム状に形成したものである。
【0038】
このようにして得られたテストピース(積層材料)について、加熱プレス成形機を用い、120℃で30秒間加熱、圧縮し、厚さ約8mmの積層体として図1に示すような吸音天井材10を得た。すなわち、各層の厚さは、ポリウレタン発泡体マット11が約5mm、ガラスマット13が約0.3mm、表皮材14が約2.5mm及び裏面材が約0.2mmであった。
【0039】
続いて加熱プレス成形後に、チオ硫酸塩としてチオ硫酸ナトリウム又はチオ硫酸カリウムの水溶液を約25cmの距離でスプレーガンにて直径200mm程度の円状にスプレー塗布し、塗布部を布で押えつけてチオ硫酸塩の水溶液を表皮材中に浸透させた。そして、塗布後7日間放置し、浸透性評価、黄変性評価、塗布後の外観評価及び総合評価を以下に示す方法により測定した。
(浸透性評価)
表皮材14中へのチオ硫酸塩水溶液の浸透度合いを目視により次の基準で評価した。
【0040】
◎:表皮材14の厚さ方向全域にわたって浸透した。○:表皮材14の表面から1mm程度まで浸透した。×:表皮材14の表面が不均一に濡れていた。
(黄変性評価)
得られた積層体を、二酸化窒素(NO)ガスが20ppmの濃度で収容されている容器内に6時間放置し、次いで2時間空気を流通させた後、目視により黄変性を観察し、下記に示す判断基準で評価した。
【0041】
○:黄変なし。△:照明下で確認可能な黄変が認められるが、許容できるものである。×:明らかな黄変あり。
(塗布後の外観評価)
吸音天井材10の外観形状を目視により観察し、次に示す判断基準にて評価した。
【0042】
○:非常に良好である。△:白色の染みが若干認められるが、ほぼ良好である。
(総合評価)
前記浸透性評価、黄変性評価及び塗布後の外観評価に基づき、次の判断基準にて総合評価を行った。
【0043】
○:吸音天井材10として優れたものである。△:吸音天井材10として良好なものである。×:吸音天井材10として不適当である。
以上の試験結果を表2に示した。
【0044】
【表2】

表2に示したとおり、実施例1〜14においては、チオ硫酸塩水溶液のスプレー塗布により表皮材14にチオ硫酸ナトリウム又はチオ硫酸カリウムが含まれていることから、その還元作用によりMDIの酸化による着色物質の生成が抑制されたものと考えられる。従って、いずれも吸音天井材10として良好な結果が得られた。また、チオ硫酸塩水溶液の濃度と塗布量に関しては、チオ硫酸ナトリウム又はチオ硫酸カリウムの濃度が2.5質量%の場合には、塗布量が60ml/m又は90ml/mのとき最も良好な結果が得られた。チオ硫酸ナトリウム又はチオ硫酸カリウムの濃度が5.0質量%の場合には、塗布量が60ml/mのとき最も良好な結果が得られた。塗布量が90ml/mになると、チオ硫酸塩の結晶が表皮材14の表面に析出して薄い白色の染みを生ずる傾向が見られた。従って、チオ硫酸塩水溶液の濃度は2〜5質量%であることが望ましく、チオ硫酸塩水溶液の塗布量は50〜100ml/mであることが望ましいことが判明した。
【0045】
表皮材14中へのチオ硫酸塩水溶液の浸透性に関して、チオ硫酸塩水溶液の塗布量が90ml/mの場合には表皮材14の厚さ方向の全域に浸透して黄変抑制効果が発現され、チオ硫酸塩水溶液の塗布量が60ml/mの場合には表皮材14の表面側1mm程度の浸透であったが、十分な黄変抑制効果が得られた。なお、実施例1〜14で得られた吸音天井材10は、いずれも硬さ、剛性などの機械的物性は従来のものと同等で、良好であった。その一方、表皮材14にチオ硫酸塩が含まれていない比較例1においては、得られた積層体は黄変性が著しく、吸音天井材10として使用できないものであった。
【0046】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記補強材を吸音内装材本体の片面に設けたり、バインダー水溶液又は触媒水溶液を吸音内装材本体と補強材の双方に塗布したり、補強材のみに塗布したりすることもできる。
【0047】
・ 前記実施例において、バインダーとしてモノメリックMDI又はモノメリックMDIとポリメリックMDIの混合物を使用することもできる。
・ 実施例において、バインダーを硬化させるための触媒として第3級アミンとトリアジン系触媒との混合触媒などを使用することもできる。
【0048】
・ 吸音内装材の構成において、裏面側の補強材としてのガラスマットを省略したり、裏面材としての不織布を省略したりなどすることも可能である。また、各層の厚さを目的に応じて適宜変更することもできる。
【0049】
・ バインダーとして、MDI以外に、トリレンジイソシアネート(TDI)等を配合することもできる。
・ 自動車用の吸音内装材として、自動車の内装用のパネル、パッドなどに適用することができる。
【0050】
・ MDIの硬化物はウレタン結合の連鎖中に芳香環を有する構造をもち、紫外線の照射を受けたときにキノイド化反応が起きてアゾ化合物やキノンイミド化合物が生成し、黄変するため、表皮材にチオ硫酸塩に加えて紫外線吸収剤を含ませることもできる。
【0051】
・ 前記バインダーには、ポリオールとMDIとを反応させてなるプレポリマーを含有させ、吸音内装材の剛性や弾性などを高めるように構成することも可能である。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0052】
・ 前記自動車の吸音内装材は、吸音内装材本体の両面に補強材が設けられ、表面側の補強材上に表皮材が積層されて構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車における吸音内装材。このように構成した場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を有効に発揮させることができる。
【0053】
・ 前記自動車の吸音内装材は、吸音内装材本体の両面に補強材が設けられ、表面側の補強材上に表皮材が積層されると共に、裏面側の補強材上に裏面材が積層され、かつバインダーが吸音内装材本体の両面に塗工されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車における吸音内装材。このように構成した場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を十分に発揮させることができる。
【0054】
・ 前記自動車の吸音内装材は、自動車の吸音天井材であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吸音内装材。このように構成した場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を吸音天井材において最も有効に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施形態における吸音天井材を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
【0056】
10…吸音内装材としての吸音天井材、11…吸音天井材本体としてのポリウレタン発泡体マット、13…補強材としてのガラスマット、14…表皮材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸音内装材本体の少なくとも一方に補強材が設けられ、該補強材上に表皮材が積層されて構成され、前記吸音内装材本体及び補強材の少なくとも一方の上にバインダーを塗工し、表皮材を積層した後、加熱プレス成形してなる自動車における吸音内装材であって、
前記表皮材には、チオ硫酸塩が含有されていることを特徴とする自動車における吸音内装材。
【請求項2】
前記チオ硫酸塩は、チオ硫酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の自動車における吸音内装材。
【請求項3】
吸音内装材本体の少なくとも一方に補強材を設け、該補強材上に表皮材を積層し、前記吸音内装材本体及び補強材の少なくとも一方の上にバインダーを塗工し、表皮材を積層した後、加熱プレス成形する自動車における吸音内装材の製造方法であって、
前記加熱プレス成形後にチオ硫酸塩の水溶液を表皮材の表面に塗布し、表皮材にチオ硫酸塩を含有させることを特徴とする自動車における吸音内装材の製造方法。
【請求項4】
前記チオ硫酸塩の水溶液の濃度は、2〜5質量%であることを特徴とする請求項3に記載の自動車における吸音内装材の製造方法。
【請求項5】
前記チオ硫酸塩の水溶液の塗布量は、50〜100ml/mであることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の自動車における吸音内装材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−179315(P2008−179315A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15871(P2007−15871)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】