説明

自動車のドライブトレインの内燃機関を制御するための方法及び制御装置

【課題】 自動車のドライブトレインの内燃機関を制御するための方法及び制御装置を提供する。
【解決手段】 自動車のドライブトレイン(10)の内燃機関(12)を制御するための方法であって、ドライブトレイン(10)が、自動的にシフトできるトランスミッションを備え、トランスミッションのシフティングプロセス中に、内燃機関(12)が目標回転速度制御器を使用して初期回転速度(48)から目標回転速度(50)に調整される方法が提供される。本方法は、第1の時点において、絶対値に関して第1の時点に続く第2の時点におけるよりも大きな勾配を有する設定点回転速度プロファイル(46)が、目標回転速度制御器に予め設定されることを特徴とする。1つの独立請求項は、本方法を実施するために構成される制御装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドライブトレインの内燃機関を制御するための方法であって、ドライブトレインが、自動的にシフトできるトランスミッションを備え、トランスミッションのシフティングプロセス中に、内燃機関が目標回転速度制御器(コントローラー)を使用して初期回転速度から目標回転速度に調整される方法に関する。本発明はまた、その方法を実施するために構成される制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような方法及びこのような制御装置は、大量生産される自動車からそれぞれ知られている。
【0003】
自動的にシフトされることができるトランスミッションは、シフティングプロセスを可能な限り迅速かつ快適に実施できるべきである。特に、ごく短時間のギヤの変更時間でも、ギヤの変更を衝撃なしに実施できることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許DE10156940A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これを始点として、本発明は、迅速かつ快適なシフティングプロセスを可能にする、自動車のドライブトレインの内燃機関を制御するための方法及び制御装置を特定する目的に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法によって、及び請求項8の特徴を有する制御装置によって達成される。
【0007】
この関連で、第1の時点において、絶対値に関して、第1の時点に続く第2の時点におけるよりも大きな勾配を有する設定点回転速度プロファイル(profile)が、目標回転速度制御器(コントローラー)に予め設定される。
【0008】
トランスミッションのシフティングプロセス又はギヤ速度(変更)プロセスは、「同期時間Tsyn」とも称することができる時間内に実施される。この同期時間内に、内燃機関の回転速度は目標回転速度に調整される。この関連で、回転速度が同期時間Tsynの間に一定の勾配で変更される従来技術で公知のような線形関数又は階段関数(階段状に変化する関数)は、使用されない。その代わりに、第1の時点において、好ましくは同期時間の開始時に、回転速度の大きな変更をもたらすこと、及び、第2の時点において、好ましくは同期時間の終了時に、回転速度の小さな変更のみを実行すること、を可能にする設定点回転速度プロファイルが予め設定される。したがって、設定点回転速度プロファイルに従う内燃機関の回転速度を、比較的迅速に減少させるか又は増加させ、そして、目標回転速度に近づけることができる。特に、同期時間の終了時に、設定点回転速度の、漸近的プロファイル、もしくは、目標回転速度に接線方向で接近するプロファイル、を達成することができ、この場合、設定点回転速度プロファイルを、当該プロファイルの終わりにおいて、可能な限り平坦な勾配で目標回転速度に近づけることができる。
【0009】
理想的な場合、設定点回転速度プロファイルを、目標回転速度への移行期において連続的に変更(differentiate)することができる。この場合、したがって、目標回転速度の調整のために利用可能な時間の終了前に、設定点回転速度プロファイルは「ゼロ」の勾配に達する。
【0010】
本発明による設定点回転速度プロファイルにより、トランスミッションのシフティングプロセスの終了時に内燃機関の回転速度のオーバシュート及びアンダーシュートを回避することが可能である。これらの回転速度のオーバシュートは、車両の乗員によって特によく感じることができる。この理由は、この時点に、トランスミッションのクラッチ装置がすでに完全に又は少なくともほぼ完全に閉じられ、したがって、クラッチ装置を使用して、回転速度のオーバシュートを減衰できないか、あるいは限定的にのみ減衰できるに過ぎないからである。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、回転速度プロファイルは、少なくとも2つの隣接する異なる設定点回転速度関数によって予め設定される。これにより、設定点回転速度プロファイルを容易に予め設定することができる。
【0012】
設定点回転速度関数の少なくとも1つが線形関数である場合、設定点回転速度プロファイルを予め設定する特に容易な方法が獲得される。しかし、例えば、PT1関数の使用を提供することもできる。
【0013】
設定点回転速度プロファイルは、シフティングプロセスに利用可能な同期時間Tsynの関数として規定されることが好ましい。このようにして、トランスミッションのシフティングプロセスのために確保された時間を最適に使用することができる。
【0014】
さらに、シフティングプロセスがシフトアッププロセスであるか、それともシフトダウンプロセスであるかに応じて、設定点回転速度プロファイルが定義されることが、好ましい。
【0015】
シフトアッププロセス又はシフトダウンプロセスは、トランスミッションのギヤ速度の変更を意味すると理解される。シフトアップの場合、より高いギヤ速度へのギヤ速度の変更が起こり、例えば、自動車の同一の速度において、内燃機関の比較的高い回転速度の第3のギヤ速度から、内燃機関の比較的低い回転速度の第4のギヤ速度へ変更される。シフトダウンは、より高いギヤ速度からより低いギヤ速度へのギヤ速度の変更を意味すると理解される。
【0016】
シフトアップ又はシフトダウンは、特に、シフティングプロセスの実行の前後の、ギヤ速度の指定から差を形成することによって決定される値から検出することができ、その際、正の値はシフトアップに対応し、負の値はシフトダウンに対応する。
【0017】
本発明のさらなる実施形態によれば、設定点回転速度プロファイルは、シフティングプロセスが牽引シフト操作(a tractive shifting operation)か、それともオーバランシフト操作(an overrun shifting operation)であるかに応じて定義される。
【0018】
自動的にシフトできるトランスミッションが2つのクラッチ装置を有するダブルクラッチトランスミッションである場合、特定の利点が得られる。ダブルクラッチトランスミッションは、ダブルクラッチトランスミッションの第2のクラッチ装置が開くのと同時にダブルクラッチトランスミッションの第1のクラッチ装置が閉じるという事実によって、少なくとも大部分牽引力の遮断のないシフティングプロセス(ギヤ速度の変更)を可能にする。
【0019】
上述の利点は、本発明による制御装置に相応して得られる。
【0020】
当然、上述の特徴及びなお以下に説明する特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、それぞれ指定された組み合せにおいてのみでなく、他の組み合せにおいても、あるいは単独で利用できる。
【0021】
本発明の典型的な実施形態を図面に示し、次の説明においてより詳細に説明する。図面においては、それぞれ概略図で示す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】制御装置、内燃機関及び自動的にシフトできるトランスミッションを有する自動車のドライブトレインの典型的な実施形態の図面である。
【図2】トランスミッションのシフティングプロセス中の内燃機関の設定点回転速度プロファイルの図面である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
全体が10で示されている自動車のドライブトレインの典型的な実施形態が、図1に示されている。ドライブトレイン10は、内燃機関12と、自動的にシフトできるダブルクラッチトランスミッション14の形態のトランスミッションと、自動車の内燃機関12と被駆動輪16、18との間で出力を伝達するための別のトランスミッション及び/又はシャフトとを備える。
【0024】
ドライブトレイン10は、ダブルクラッチトランスミッション14とディファレンシャルトランスミッション22との間で出力を伝達するためのシャフト20を有する。さらに、ドライブトレイン10は、ディファレンシャルトランスミッション22と被駆動輪16、18との間で出力を伝達するための駆動シャフト24、26を有する。
【0025】
ダブルクラッチトランスミッション14は、第1の部分トランスミッションTG1と、第2の部分トランスミッションTG2とを有する。第1の部分トランスミッションTG1のインプットシャフト28と内燃機関12のクランクシャフト30との間のトルクの流れは、第1の制御可能なクラッチ装置K1を介して発生する。第2の部分トランスミッションTG2のインプットシャフト32と内燃機関12のクランクシャフト30との間のトルクの流れは、第2の制御可能なクラッチ装置K2を介して発生する。一実施形態において、第1の部分トランスミッションTG1は、第1のギヤ速度、第3のギヤ速度等のような奇数の変速段(ギヤ速度)を利用可能にし、一方、第2の部分トランスミッションTG2は、第2のギヤ速度、第4のギヤ速度等のような偶数の変速段(ギヤ速度)を利用可能にする。
【0026】
第1の部分トランスミッションTG1の主軸34及び第2の部分トランスミッションTG2の主軸36の両方は、シャフト20に回転不能に結合される。したがって、シャフト34と36は、被駆動輪16、18においてスリップのない自動車の直線走行の場合に、被駆動輪16、18の回転速度に線形的に応じた、したがって車両の速度vに線形的に応じた同一の回転速度で回転する。図1の概略図では、シャフト34と36のトルクがリンク38に加えられて、シャフト20で有効なトルクを形成する。
【0027】
図1の構成では、制御装置40は、ドライブトレイン10全体、すなわち、内燃機関12及びダブルクラッチトランスミッション14を制御する。
【0028】
ドライブトレイン10を制御するために、制御装置40は、ドライブトレイン10の動作パラメータがモデル化される複数のセンサからの信号を処理する。特に、ここでは次の動作パラメータが重要である。それらのパラメータは、運転者の要求センサ42によって提供されかつ運転者によるトルク要求がモデル化されるアクセルペダル角度wped、回転速度センサ43によって感知される内燃機関12のクランクシャフト30の回転速度nMot、及び速度センサ44によって感知される速度vである。速度センサ44は、一実施形態で、ダブルクラッチトランスミッション14の出力における回転速度、すなわちシャフト34、36又は20の内の1つの回転速度を感知する回転速度センサとして実装される。この代わりに又は追加して、例えばアンチロックブレーキシステムのセンサシステムを使用して、車輪16、18の1つ以上における回転速度信号が感知される。
【0029】
部分トランスミッションTG1とTG2にそれぞれ設定される変速比がわかると、第1の部分トランスミッションTG1のインプットシャフト28の回転速度nK1、及び第2の部分トランスミッションTG2のインプットシャフト32の回転速度nK2が、速度vの線形関数としてそれぞれ獲得される。
【0030】
制御装置40は、ドライブトレイン10のこれらの動作パラメータの関数として、および適切ならば、別の動作パラメータの関数として、特に内燃機関12の動作パラメータの関数として、作動信号S_Mot、S_K1、S_K2、S_TG1およびS_TG2を形成する。この関連で、作動信号S_Motは、内燃機関12のトルクを設定するために使用される。作動信号S_TG1は、第1の部分トランスミッションTG1のギヤ速度に関連し、したがってその変速比を設定するように働く。作動信号S_TG2は、同様の方法で第2の部分トランスミッションTG2の変速比を設定するために使用される。第1のクラッチ装置K1を介したトルクの流れは、作動信号S_K1で制御される。第2のクラッチ装置K2を介したトルクの流れは、同様の方法で作動信号S_K2で制御される。
【0031】
図2は、ダブルクラッチトランスミッション14の比較的低いギヤ速度から比較的高いギヤ速度へのシフトアッププロセスの例として、内燃機関12の設定点回転速度プロファイル46を示している。シフティングプロセス中、内燃機関12の初期回転速度48は、例えば、内燃機関に供給される空気量を変更することによって、及び/又は点火時間を変更し及び/又は内燃機関12の1つ以上のシリンダをシャットダウンすることによって、目標回転速度50に変更される。
【0032】
初期回転速度48から目標回転速度50への調整に利用可能な時間は、ダブルクラッチトランスミッション14によって予め設定され、また時間tにおけるシフティングプロセスの開始と時間tにおけるシフティングプロセスの終わりまでの間の時間に対応する同期時間Tsynによって図2に概略的に示されている。
【0033】
設定点回転速度プロファイル46は、図2の点線によって示される簡単な線形プロファイル52とは異なる。設定点回転速度プロファイル46は、同期時間Tsynの開始時に回転速度の大きな変更が行われ、同期時間Tsynの終了時に回転速度プロファイルの小さな変更のみが行われることを特徴とする。このようにして、いわば漸近させて、設定点回転速度プロファイル46を目標回転速度50に近づけることができる。
【0034】
設定点回転速度プロファイル46は、例えば、3つの隣接する設定点回転速度関数54、56、58から構成される。これらの関数は、それぞれ、連続する時間T、T、Tの間有効である。設定点回転速度関数54の勾配は、絶対値に関し設定点回転速度関数56の勾配よりも大きく、設定点回転速度関数56の勾配それ自体は、絶対値に関し設定点回転速度関数58の勾配よりも大きい。
【0035】
時間T、T、Tは、等しい長さであるか又は互いに異なってもよい。しかし、第1の時間Tが後続の時間T及び/又はTよりも短くすれば、この結果、可能な限り緩やかに目標回転速度50に近づくために、同期時間Tsynの比較的大きな(長い)部分が設定点回転速度プロファイル46に利用可能となって、好ましい。
【0036】
特に、PT1要素は、図2に示した回転速度制御の物理的な実装のために使用することができる。
【0037】
さらに、制御装置40は、本発明による方法又はその構成の1つを実施するように構成され、特にプログラミングされる。この関連で、実施とは、本明細書に記載した方法シーケンスの制御を意味すると理解される。
【符号の説明】
【0038】
10 ドライブトレイン
12 内燃機関
14 ダブルクラッチトランスミッション
46 設定点回転速度プロファイル
48 初期回転速度
50 目標回転速度
54 設定点回転速度関数
56 設定点回転速度関数
58 設定点回転速度関数
syn 同期時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のドライブトレイン(10)の内燃機関(12)を制御するための方法であって、前記ドライブトレイン(10)が、自動的にシフトできるトランスミッションを備え、前記トランスミッションのシフティングプロセス中に、前記内燃機関(12)が目標回転速度制御器を使用して初期回転速度(48)から目標回転速度(50)に調整される方法において、第1の時点において、絶対値に関して第1の時点に続く第2の時点におけるよりも大きな勾配を有する設定点回転速度プロファイル(46)が、前記目標回転速度制御器に予め設定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
合計同期時間、残りの同期時間及びエンジン制御ユニットからの回転速度差の関数として、自由に選択可能なパラメータによって、前記設定点回転速度プロファイル(46)をモデル化することができることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記設定点回転速度プロファイル(46)が、少なくとも2つの隣接する異なる設定点回転速度関数(54、56、58)によって予め設定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記設定点回転速度関数(54、56、58)の少なくとも1つが線形関数であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記設定点回転速度プロファイル(46)が、シフティングプロセスに利用可能な同期時間Tsynの関数として定義されることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記シフティングプロセスがシフトアッププロセス又はシフトダウンプロセスのいずれであるかに応じて、前記設定点回転速度プロファイル(46)が定義されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
自動的にシフトすることができる前記トランスミッションが、ダブルクラッチトランスミッション(14)であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
自動車のドライブトレイン(10)の内燃機関(12)を制御するための制御装置であって、前記ドライブトレイン(10)が、自動的にシフトできるトランスミッションを備え、前記トランスミッションのシフティングプロセス中に、前記内燃機関(12)が目標回転速度制御器を使用して初期回転速度(48)から目標回転速度(50)に調整される制御装置において、第1の時点において、絶対値に関して第1の時点に続く第2の時点におけるよりも大きな勾配を有する設定点回転速度プロファイル(46)を、前記目標回転速度制御器に予め設定することができることを特徴とする制御装置。
【請求項9】
前記制御装置が請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法を実施するように構成されることを特徴とする、請求項8に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−65680(P2010−65680A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187737(P2009−187737)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】