説明

自動車システムの制御装置

【課題】ハイブリッド車において、道路情報に基づいて自動車の速度制御を行う場合に、運転者のフィーリングに合致し、ドライバビリティを損なうことなく燃費の向上を図る。
【解決手段】自動車システムの制御装置は燃機関12と、回生制動を行うモータ・ジェネレータ15と、自車周辺の道路情報を検出する手段1と、検出された道路情報に基づいて目標速度を決定し、車両の速度を制御する車両速度制御手段5とを有する。車両速度制御手段5は運転者の好みに合わせた制御特性に基づいて車両の速度を制御するノーマルモード6と、バッテリの充電状態に基づいてモータ・ジェネレータによる回生エネルギーを効率的に回収するように車両の速度を制御するエコノミーモード7とを備える。ノーマルモード6とエコノミーモード7は運転者の手動操作により切換を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定速走行制御装置(Cruise Control、以下CCと称する)や車間距離制御型定速走行制御装置(Adaptive Cruise Control、以下ACCと称する)等の車両速度制御手段及びハイブリッド車の回生制御を行う装置等の自動車システムの制御装置に関し、特に自動車の走行する道路情報を検出してそれらを制御情報として用いることのできる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自車周辺の道路情報を検出しそれに基づき自動車の走行状態を電子的に制御することによって、運転者の運転操作を支援し運転操作量を低減するとともに、運転者の運転技術や感覚に関わらず安全な走行を可能とし、更に、燃費の向上や排ガスの削減を目的とした自動車の制御手法が提案されている。
【0003】
例えば、運転者が設定した設定速度を維持するように駆動力を制御する定速走行制御装置(クルーズ・コントロール、Cruise Control、CC)や、自車前方を走行する自動車(以下先行車と称する)と自車との車間距離を適切に維持する車間距離制御型定速走行制御装置(アダプティブ・クルーズ・コントロール、Adaptive Cruise Control、ACC)が開発されている。
【0004】
更に、上述のCCやACCに加えて、自動車の走行経路を案内する自動車用ナビゲーションシステムの地図情報に含まれた自車進路前方の道路情報に基づいて、運転者を支援する装置が開示されている。具体的には、特許文献1に開示された車両速度制御手段では、ナビゲーションシステムの地図情報にあらかじめ参照速度を記憶させておき、自動車の実車速がその参照速度に一致するようにACC機能を用いて駆動力を制御するものである。
【0005】
また、特許文献2に開示された車両用制御装置では、ナビゲーションシステムから自車進路前方の降坂路を検出し、降坂路においては回生制動を行う発電機の発電効率を他の道路状況が検出された場合よりも大きくするものである。
【0006】
【特許文献1】特開平9−288797号公報
【特許文献2】特開2000−217203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の従来技術では、ナビゲーションシステムの地図情報にあらかじめ参照速度を記憶させておき、自動車の実車速がその参照速度に一致するように速度制御を行う。しかし、この方法においては走行速度のパターンが一意に決まってしまい、万人の嗜好に対して満足させることは難しい。そこで、本発明のように運転者の嗜好を考慮して、運転者がモードを選択できる自動車システムの制御装置が求められている。
【0008】
また、特許文献2記載の従来技術では、ナビゲーションシステムから自車進路前方の降坂路を検出し、降坂路においては回生制動を行う発電機の発電効率を他の道路状況が検出された場合よりも大きくするものであり、発電効率を一定にした場合に比べて回生効率を向上させるものである。しかし、走行路の状況は多様に変化するのが通常であって、降坂路以外にも制動を必要とする状況は多々ある。例えばカーブの進入,高速道路における分岐路及び料金所付近,ACC機能使用中における先行車追従時や先行車追従時に割り込みをされた場合などである。このような場合においてもナビゲーションシステムの地図情報やカメラなどを用いて事前に上記のような状況を把握して自動車の速度制御を行う必要がある。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、ナビゲーションシステムやカメラ,レーダなどを用いて事前に自車前方の道路情報を取得して自動車の速度制御を行う場合に、運転者に違和感や不安感を与えずに、かつハイブリッド車の燃費を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、少なくとも道路形状に応じて車両の目標速度を設定し、内燃機関のトルクと、モータ・ジェネレータの発生トルクもしくは回生トルクと、制動装置の制動トルクとのいずれかのパラメータを変化させることにより前記車両の速度を制御する車両速度制御手段を有する自動車システムの制御装置において、前記車両速度制御手段は、予め設定された加速減速特性に基づいて前記車両の速度を制御するノーマルモードと、前記モータ・ジェネレータの発生トルクもしくは回生トルクが前記ノーマルモードのときよりも大きくなるように前記車両の速度を制御するエコノミーモードとを備え、前記車両の状態に応じて前記ノーマルモードと前記エコノミーモードの切換を行うモード切換手段を有することを特徴とする自動車システムの制御装置により解決される。
【0011】
好ましくは、前記車両速度制御手段は、前記モード切換手段により前記エコノミーモードが選択された場合には、前記モータ・ジェネレータの回生制動により発生した電力を蓄えるためのバッテリの充電量に応じて前記モータ・ジェネレータの回生トルクを変更することを特徴とする自動車システムの制御装置であればよい。
【0012】
好ましくは、前記車両速度制御手段は、前記モード切換手段により前記エコノミーモードが選択された場合には、前記モータ・ジェネレータの回生トルクから演算した目標減速度に基づいて、車両の速度を制御することを特徴とする自動車システムの制御装置であればよい。
【0013】
好ましくは、前記モード切換手段は、運転者の手動操作により、前記ノーマルモードと前記エコノミーモードとの切換を行うことを特徴とする自動車システムの制御装置であればよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ACC機能を有するハイブリッド車において、詳細な道路情報より得られる、自車前方の走行予定経路の道路形状に基づいて、その道路を走行する際のエネルギー収支が最適になるように内燃機関及びモータ・ジェネレータを制御することで目標速度を演算して自動車の速度制御を行う。これにより、燃費の向上効果及び運転者のアクセル操作やブレーキ操作無しに自動で自動車の速度を制御し、利便性向上の効果がある。
【0015】
更に、運転者の嗜好を考慮したモードを選択可能とすることで、運転者に違和感や不安感を与えることなく、運転者のフィーリングに合致した走行制御が可能な自動車システムの制御装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図を用いて本発明の一実施形態を説明する。図1において、1は自車の位置を検出する自車位置検出手段,2は道路属性情報や道路構造情報を含む地図情報を取得する地図情報取得手段,3は自車位置検出手段1の出力に基づいて地図情報取得手段2により自車周辺及び進路方向の道路情報を検出する道路情報検出手段である。4は道路情報検出手段3の出力とカメラやレーダ等を用いた環境認識により自車周辺及び進路方向の走行環境を認識する走行環境認識手段である。5は自車の速度を制御する車両速度制御手段で、6は予め記憶された制御特性に基づいて自車の速度を制御するノーマルモード,7はモータ・ジェネレータ15の回生出力に基づいて自車の速度を制御するエコノミーモード、8はノーマルモードとエコノミーモードとの切換を行うモード切換手段である。9は運転者が手動でノーマルモードとエコノミーモードの切換を行うモード入力手段、10は自車の速度を検出する車速検出手段10,11は車両速度制御手段5の出力に基づいて内燃機関12,制動装置13,インバータ14,変速機18などに分配する制駆動力を演算して実際に制駆動力を分配する手段を有する車両である。12は機関の内部で燃料を燃やすことにより動力を生み出す内燃機関,13は機械的な摩擦力により自動車の制動力を制御する制動装置,14はモータ・ジェネレータへ入出力する電流やその周波数を制御するためのインバータ,15は回生制動を行うモータ・ジェネレータである。16はモータ・ジェネレータの回生制動により発生した電力を蓄えるためのバッテリ,17はバッテリ16の充電状態を検出するバッテリ状態検出手段,18は自動変速機や手動変速機等の変速機を示す。
【0017】
自車位置検出手段1は、GPS(全地球測位システム:Global Positioning System)のような人工衛星による検出方法や、インフラストラクチャ等との通信により、自車位置を検出する方法がある。
【0018】
地図情報取得手段2は、それ自身に地図データベースを有していてもよいが、別個地図情報を記憶する記憶手段があってもよい。その記憶媒体としては、コンピュータが読み取り可能なCD−ROM,DVD,ハードディスク等である。また、地図データは、上記記憶媒体にデータベースとして車に搭載してもよいが、情報センタから通信によって入手する様態で実施してもよい。
【0019】
なお、上記自車位置検出手段1と地図情報取得手段2とを合わせた道路情報検出手段3として、例えば、目的地までの経路を乗員に報知するカーナビゲーションシステムを用いることができる。
【0020】
道路情報検出手段3において、自車位置検出手段1により自車位置情報が検出されると、この自車位置情報に対応する地図情報が地図情報取得手段2により取得される。つまり、自車周辺及び進路方向の所定距離内の道路情報が取得され、これを走行環境認識手段4に出力する。
【0021】
走行環境認識手段4は、道路情報検出手段3から出力された自車周辺及び進路方向の所定距離内の道路情報やカメラ,レーダ等の環境認識装置により検出した道路情報から、自動車の走行制御に必要な情報を抽出し整理した後、車両速度制御手段5に適した形式で情報を出力する。取得する道路情報は、例えば、自車の進行に影響を与える可能性のある区間において、過去の履歴を含めて天候(晴天,降雨,降雪,霧などの情報とその程度),視界,路面状態(路面の摩擦係数),気温,湿度などの自然条件である。また、カーブ路や勾配路に関する情報(カーブ半径,カーブ路の横断勾配,勾配傾斜角など),規制速度,速度規制実施情報(工事,事故などによる),渋滞情報である。また、料金所の有無,分岐・合流路の有無,季節,時刻などとともに、それらの位置(情報の種類によっては開始位置と終了位置又は区間長)に関する情報,カメラやレーダ等から得られる先行車との車間距離・相対速度などの情報から成る。
【0022】
ノーマルモード6は、自動車の走行状態を表すパラメータ、例えば、加速減速特性であるところの加速度,減速度,加速開始位置,減速開始位置,カーブ中での速度等をそれぞれ変更して、運転者の好みに合わせられるようになっている。エコノミーモード7は、バッテリ状態検出手段17により検出されたバッテリ16の充電量を監視しておき、モータ・ジェネレータ15による回生エネルギーを効率的に回収するように上記の自動車の走行状態を表すパラメータを変更して、燃費の向上を図る。
【0023】
モード入力手段9は、例えば、運転者が希望するモード(ノーマルモード6もしくはエコノミーモード7)をボタンやスイッチ,もしくはパネルなどの入力装置により選択する構成とすることができる。この入力結果に基づいて、モード切換手段8によりノーマルモード6とエコノミーモード7の切換を行う。
【0024】
車両速度制御手段5は、走行環境認識手段4と車速検出手段10とインバータ14との出力を、モード切換手段8により選択されているノーマルモード6もしくはエコノミーモード7のどちらか一方の制御特性に従って自動車の目標速度を演算し、車両11に出力する。
【0025】
車両11は、内燃機関12,制動装置13,モータ・ジェネレータ15,変速機18のそれぞれに制駆動力を分配し、自動車の速度を制御する手段を有し、更にモード入力手段9や車速検出手段10を含む構成となっている。
【0026】
道路情報検出手段3,走行環境認識手段4,車両速度制御手段5は、それぞれ例えば車載の演算処理装置で構成されるが、これらの二つ以上を一つの演算処理装置として構成することもできる。
【0027】
内燃機関12は、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等と、それらを制御するエンジンコントロールユニットなどで構成される。ただし、内燃機関12の詳細は本発明の本質ではないので、前記の構成を代表して内燃機関12とする。
【0028】
制動装置13は、機械的な摩擦力により自動車の制動力を制御する装置であり、例えば、液圧ブレーキや電動ブレーキ及びこれらを制御するブレーキコントロールユニットなどで構成される。
【0029】
モータ・ジェネレータ15は、一例として永久磁石式の三相同期モータ・ジェネレータであり、通電することでトルクを発生し、またロータを外力により回転させることで起電力を発生するような構成となっている。
【0030】
インバータ14は、モータ・ジェネレータ15に対して供給し、あるいはモータ・ジェネレータ15から出力する電流やその周波数を制御するために設けられており、インバータ14を介してモータ・ジェネレータ15にバッテリ16が接続されている。そして、車両11は、これらインバータ14及びバッテリ16を制御し、モータ・ジェネレータ15の駆動や回生を制御するための制御手段を含むものとする。
【0031】
変速機18は、入力回転数と出力回転数との比率を適宜に変更する装置であり、例えば、有段式の手動変速機や自動変速機,あるいは無断式のベルト式無断変速機やトロイダル式無断変速機及びこれらを制御する変速機コントロールユニットなどで構成される。
【0032】
本発明の自動車システムの制御装置における処理の基本手順を、図2を用いて説明する。初めに、S101で道路情報検出手段1により自車周辺及び進路方向の道路情報を検出し、S102で走行環境認識手段4によりS101で検出された道路情報に基づいて自動車の走行制御に必要な周辺情報を抽出する。S103ではモード切換手段8により選択されたモードを取得し、S104で車速検出手段10により自車の現在速度Voを検出する。
【0033】
次にS105では、S102で取得した自車周辺情報と、S103で取得したモードとに基づいて進路前方の所定位置における目標速度Vtを演算し、S106では車両速度制御手段5により、S104及びS105の各ステップでそれぞれ演算、検出した現在速度Voと目標速度Vtとを比較し、減速の要否を判断する。もし、S106で目標速度Vtが現在速度Voよりも小さかった場合、つまりVt<Voとなって肯定判断された場合は、後述するS200で減速処理を行う。一方、否定判断された場合は、減速が不要であるため本処理を一旦終了する。なお、このS101からS106までの一連の処理は、ノーマルモード6とエコノミーモード7に共通の処理であり、所定の間隔で繰り返し行われる。
【0034】
次に、目標速度Vtの演算方法について以下に具体例を挙げて説明する。基本的には、現在走行中の道路の規制速度を目標速度Vtとする。
【0035】
進路前方にカーブ路が検出され、自車周辺情報として前記カーブ路の曲率半径等が取得された場合には、自車が前記カーブ路を安全に通過することのできる目標速度を演算する。具体的な演算方法の一例として、自車周辺情報として前記カーブ路の曲率半径Rを取得した場合に、式(1)により演算した結果を目標速度Vtとすることが考えられる。
Vt=(GLt・R)1/2 …(1)
ここで、式(1)のGLtは前記カーブ路を走行する際に自車の進行方向に対して垂直方向に働く横加速度であり、前記カーブ路を安全に通過することのできる横加速度の最適値を予め設定しておくものとする。
【0036】
進路前方に分岐路が検出され、自車周辺情報として前記分岐路の曲率半径や規制速度等が取得された場合には、式(1)により求めた目標速度と規制速度のどちらか小さいほうを目標速度Vtとすることが考えられる。
【0037】
進路前方に合流路が検出され、自車周辺情報として前記合流路の規制速度等が取得された場合には、その規制速度を目標速度Vtとすることが考えられる。
【0038】
進路前方に料金所が検出され、自車周辺情報として前記料金所の種別やレーン情報等が取得され、自車がETC(Electronic Toll Collection System、自動料金収受システム)レーンに進入する場合には、そのETCレーンの制限速度を目標速度Vtとすることが考えられる。また、進路前方に料金所が検出され、自車周辺情報としてその料金所の種別やレーン情報等が取得され、自車が一般レーンに進入し、その料金所で一旦停止を必要とする場合には、目標速度Vtはゼロとすることが考えられる。
【0039】
進路前方に交差点が検出され、自車周辺情報として交差点の形状や種別,信号機の有無等が取得された場合には、状況に応じて、例えば一時停止を必要とする交差点であればその停止線での目標速度Vtをゼロとすればよい。また、交差点において右左折を行う場合は安全に走行できる速度を目標速度Vtとすることが考えられる。
【0040】
進路前方に踏切もしくは一時停止線が検出され、自車周辺情報として停止すべき位置までの距離等が取得された場合には、その停止すべき位置での目標速度Vtをゼロとすることが考えられる。その他、踏切もしくは一時停止線以外にも停止が必要とされる情報が取得された場合も同様に目標速度Vtはゼロとすることが考えられる。
【0041】
進路前方に規制速度変化位置が検出され、自車周辺情報として規制速度変化位置の前後における規制速度等が取得された場合には、変化後の規制速度を目標速度Vtとすることが考えられる。
【0042】
進路前方に速度規制実施区間が検出され、自車周辺情報として速度規制実施区間内の規制速度や区間長等が取得された場合には、その規制速度を目標速度Vtとすることが考えられる。
【0043】
進路前方に渋滞が検出され、自車周辺情報として渋滞の末尾車両の位置や速度,自車と末尾車両との車間距離等が取得された場合には、渋滞末尾車両の速度を目標速度Vtとすることが考えられる。このとき渋滞末尾車両との距離は所定値になるようにする。
【0044】
進路前方に先行車が検出され、自車周辺情報として先行車の速度や先行車と自車との車間距離が取得された場合、つまりACC機能を使用している場合には、先行車との車間距離が走行上安全と考えられる所定値になるように目標速度Vtを演算する。この演算方法はACC機能として公知であるので詳細は割愛する。また、先行車aを追従時に先行車aと自車との間に先行車bが割り込んできた場合の目標速度Vtの演算方法についても同様にACC機能として公知であるので詳細は割愛する。
【0045】
次に、図3と図4を用いて本発明の減速処理について説明する。図4は、自車が速度Voで走行中に、自車から所定値前方に速度Vtで安全に通過できる区間(以下速度制限区間と称する)が存在するとした場合に、本発明の自動車システムの制御装置を適用したときの速度変化と制動力の変化とバッテリ充電量の変化とを表した図である。図4において、横軸は現在の時刻を0としたときの時間T、縦軸は自車の走行速度V,制動力P及びバッテリ充電量Cを表す。
【0046】
この場合、前記車両速度制御手段5は後述するように、現在速度Voと目標速度Vtと現在のバッテリの充電量Coとモードとに基づいて目標減速度At,減速開始位置Xsを決定する。そして、自車がXsの位置に到達すると、目標減速度Atで減速を開始し、速度制限区間の開始点で目標速度Vtとなるように自車の速度を制御するように内燃機関12,制動装置13,モータ・ジェネレータ15,変速機18に指令を出力する。なお、図4においては、エコノミーモード(実線で示す)とノーマルモード(破線で示す)の二種類の例を挙げており、速度制限区間の開始点に到達するまでの時間をTc,エコノミーモードの減速開始位置に到達するまでの時間をTa,ノーマルモードの減速開始位置に到達するまでの時間をTbとしている。
【0047】
図4の動作を実現する減速処理の一例を図3のフローチャートに示す。図3は、図2の減速処理S200の詳細を示すものである。図3におけるエコノミーモードの処理の流れは、S201⇒S203⇒S204⇒S206⇒S207,もしくはS201⇒S203⇒S204⇒S206⇒S207⇒S209である。ノーマルモードの処理の流れは、S201⇒S205⇒S206⇒S207,もしくはS201⇒S205⇒S206⇒S207⇒S210である。
【0048】
まず、S201で前記S104で検出した現在速度Voと前記S105で求めた目標速度Vtとの速度差Vdを次式(2)により演算する。
Vd=Vo−Vt …(2)
次に、S202で現在のモードがエコノミーモード7であるか否かの判断を行う。ここで肯定判断されるとS203に進み、現在のバッテリ16の充電量Coを検出し、S204で目標減速度Ateを演算する。一方、否定判断されると(この例ではノーマルモード6である)S205に進み、目標減速度Atnを演算する。
【0049】
Ateの演算方法を以下に示す。まず、モータ・ジェネレータ15の回生時における発電効率が最も高い値を示すときの回転数をNmとすると、そのときのモータ・ジェネレータ15の回生トルクRmをモータ・ジェネレータ15の仕様により求めることができる。更にモータ・ジェネレータ15の回生トルクがRmであれば、そのときに車両に働く制動力Pmも同時に求めることができる。そこで、モータ・ジェネレータ15による回生エネルギーを効率良く回収するために、制動力がPm以内に収まるように目標減速度Ateを決定し、モータ・ジェネレータ15のみで所望の制動力を実現する。
【0050】
ただし、目標減速度Ateには最小値Atminを予め設定しておき、急な下り坂などでPmの制動力ではAtminの減速度が満足できない場合、Pm以上の制動力をモータ・ジェネレータ15もしくは制動装置13などで実現する。また、Atnは、ノーマルモードの場合であるので、減速開始位置や減速度が予め運転者の好みに設定されており、その減速度を目標減速度Atnとする。
【0051】
なお、図4におけるPnはノーマルモードにおいて必要な制動力であり、領域Aはモータ・ジェネレータ15の回生エネルギーを効率よく回収できる領域を、領域Bはモータ・ジェネレータ15のみの回生制動では回生エネルギーを全て回収できない領域を表す。
【0052】
更に、S206で減速開始位置Xsを演算する。減速開始位置Xsは、速度制限区間の開始位置(以下減速終了位置Xtと称する)に対して、目標減速度Atで現在速度Voから目標速度Vtまで減速する間に移動する距離だけ遠ざかる位置に設定する。
【0053】
続いて、S207で自車が減速開始位置Xsに到達したか否かの判断を行う。ここで否定判断されると、本処理を一旦終了する。一方、肯定判断されるとS208に進み、現在のモードがエコノミーモード7であるか否かの判断を行う。ここで肯定判断されるとS209に進み、目標減速度Ateで車両の減速を開始する。一方、否定判断されるとS210に進み、目標減速度Atnで車両の減速を開始する。
【0054】
なお、エコノミーモードにおける目標減速度Ateは一定の値である必要は無く、制動力がPmを越えない範囲で運転者の好みに合わせて設定することができる。例えば、減速開始時付近もしくは減速終了時付近の減速度の変化を滑らかにして変化位置での衝撃を和らげる。
【0055】
ここで、上記の減速処理を行う状況について説明する。図5は、進路前方にカーブ路が存在する場合である。自車KがXoの位置にあり、進路前方にカーブ路を検出し、そのカーブ路での目標速度Vtと現在速度Voを比較し、Vo>Vtが成立するときに減速処理を開始する。具体的には、減速終了位置Xtをカーブ路の進入口付近に設定すれば(Xtの位置は変更可能、以下同様)、減速開始位置XsをS206の処理により求めることができる。そして、自車Kが減速開始位置Xsに到達したら、S209もしくはS210の処理により車両の減速を開始する。その後、自車Kが減速終了位置Xtに到達すると、自車Kの速度が目標速度Vtに変化することになる。
【0056】
図6は、進路前方に規制速度の変化位置もしくは速度規制実施区間が存在する場合であり、両者ともに同様の状況が考えられるので一つの図面としている。この場合もVo>Vtが成立すれば図5のときと同様に減速処理を行う。なお、減速終了位置Xtは規制速度の変化位置もしくは速度規制実施区間の開始位置付近に設定するものとする。
【0057】
図7は、進路前方に分岐路が存在し、自車Kが本線から分岐路へと進入していく場合である。この場合もVo>Vtが成立すれば図5のときと同様に減速処理を行う。なお、減速終了位置Xtは分岐路の形状により判断し、設定するものとする。例えば、分岐路への進入口付近がカーブ路と同様に判断できる場合は図5と同様の処理を行い、分岐路に規制速度が設けてある場合は図6と同様の処理を行えばよく、どちらか一方の目標速度Vtが小さいほうを優先すればよい。
【0058】
図8は、前方に料金所が存在し、経路1,経路2に従ってそれぞれETCレーン,一般レーンに進入していく場合である。ETCレーンに進入する経路1の場合では、ETCレーンの制限速度を目標速度Vt1として、Vo>Vt1が成立すれば図6のときと同様に減速処理を行う。なお、減速終了位置Xt1はETCレーンの入口付近に設定するものとする。また、一般レーンに進入する経路2の場合では、一般レーンの料金所で一旦停止を行う必要があるので、目標速度Vt2はゼロに設定し図6のときと同様に減速処理を行う。なお、減速終了位置Xt2は料金所の形態にもよるが、料金所の内部の位置に設定するものとする。
【0059】
図9は、進路前方に交差点が存在する場合であり、一例として十字路に進入するとき、以下の(a)から(c)の条件を代表例として説明する。
(a)交差点手前の一時停止線で停止する場合
交差点に信号機が設置してあり、その信号機の信号色が赤色で、交差点手前の一時停止線で停止する必要がある場合である。このとき目標速度Vtはゼロに設定し、減速終了位置Xtを交差点手前の一時停止線付近に設定して図5と同様に減速処理を行う。
(b)交差点を右左折する場合
左折する場合は目標速度Vtを十分に旋回できる速度(徐行速度等)に設定し、減速終了位置Xtを交差点手前の一時停止線付近に設定して図5と同様に減速処理を行う。また、右折する場合、対向車等の自車の進路を妨害する車両が存在するときは目標速度Vtはゼロに設定し、減速終了位置Xtを交差点内等の所定の位置に設定して図5と同様に減速処理を行う。その他の場合は左折のときと同様に減速処理を行う。
(c)信号機のない交差点手前の一時停止線で停止する場合
交差点に信号機が設置してなく、一時停止の標識が存在し、交差点手前の一時停止線で停止する必要がある場合は、(a)のときと同様に減速処理を行う。
【0060】
上記の交差点においては様々な種類や状況が考えられ、その都度、状況に合わせて減速の必要性を判断し、適切な減速処理を行うものとする。
【0061】
図5から図9までに減速を行う状況とその処理について例を挙げて説明した。この他にも進路前方に踏切が存在する場合,一時停止線が存在する場合,横断歩道が存在する場合,駐車乃至停車している車両や歩行者などの障害物が存在する場合,先行車が存在する場合など、状況に合わせて減速を必要とする場合が多々ある。これらの時も、減速の必要性を判断し、適切な減速処理を行う必要がある。
【0062】
上記したように、自車が自車進路方向の状況に応じて運転者のブレーキ操作無しに減速を行う場合に、図4に示すようにエコノミーモードにおいてはバッテリ16の充電量を効率的にCoからCeまで引き上げることができるので、燃費が向上する。また、エコノミーモードとノーマルモードのどちらのモードにおいても、運転者の好みに合わせて減速開始位置や減速度等を変更することができるので、運転者のフィーリングに合致した走行制御を実現することができる。
【0063】
更に、式(2)で演算されるVdと図4における制動力Pmがわかれば、バッテリ16の充電量の変化も推定することが可能となるので、バッテリ16が十分に充電されている場合には、モータ・ジェネレータ15による回生制動は行わずに、制動装置13などで制動を行うことで、バッテリ16の過充電を予防できるといった効果も考えられる。
【0064】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は以下に示すような種々の様態で実施してもよい。
【0065】
例えば、前記実施形態の構成において、内燃機関12を含まないモータ・ジェネレータ15のみで車両を駆動する電気自動車のような構成としてもよい。この場合においても、モータ・ジェネレータの回生出力に基づいて車両の速度を制御することで、エネルギーを効率よく使用することが可能となる。
【0066】
また、前記実施形態では、運転者がノーマルモードとエコノミーモードの二つのモードから選択する構成となっているが、二つのモードの中間の特性を示すようなモードを新たに追加してもよい。更には、その中間の特性を示すモードをノーマルモードもしくはエコノミーモードのどちらかの方にずらしたモードを追加してもよく、モードのパターンや数は様々に考えることができる。なお、上記ではノーマルモードとエコノミーモードと称して説明を行ってきたが、名称の付け方はこの限りではなく、例えばノーマルモードは通常モード,エコノミーモードは省燃費モードとしてもよく、様々な名称の付け方が考えられる。
【0067】
前記実施形態の構成において、ノーマルモードはバッテリ16の充電状態を考慮していない。しかし、もしバッテリ16の充電状態が不足してきたらノーマルモードにて走行中でもエコノミーモードに遷移するような構成であってもよい。
【0068】
以上のように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の様態で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態をなす自動車システムの制御装置を示すブロック図。
【図2】本発明の自動車システムの制御装置の処理を示すフローチャート。
【図3】本発明の減速方法を実現する減速処理のフローチャート。
【図4】減速時の速度変化を示す特性図。
【図5】カーブ進入口における減速処理の一例を示す説明図。
【図6】規制速度の変化位置もしくは速度規制実施区間における減速処理の一例を示す説明図。
【図7】分岐路における減速処理の一例を示す説明図。
【図8】料金所における減速処理の一例を示す説明図。
【図9】交差点における減速処理の一例を示す説明図。
【符号の説明】
【0070】
1…自車位置検出手段、2…地図情報取得手段、3…道路情報検出手段、4…走行環境認識手段、5…車両速度制御手段、6…ノーマルモード、7…エコノミーモード、8…モード切換手段、9…モード入力手段、10…車速検出手段、11…車両、12…内燃機関、13…制動装置、14…インバータ、15…モータ・ジェネレータ、16…バッテリ、17…バッテリ状態検出手段、18…変速機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも道路形状に応じて車両の目標速度を設定し、内燃機関のトルクと、モータ・ジェネレータの発生トルクもしくは回生トルクと、制動装置の制動トルクとのいずれかのパラメータを変化させることにより前記車両の速度を制御する車両速度制御手段を有する自動車システムの制御装置において、
前記車両速度制御手段は、予め設定された加速減速特性に基づいて前記車両の速度を制御するノーマルモードと、前記モータ・ジェネレータの発生トルクもしくは回生トルクが前記ノーマルモードのときよりも大きくなるように前記車両の速度を制御するエコノミーモードとを備え、前記車両の状態に応じて前記ノーマルモードと前記エコノミーモードの切換を行うモード切換手段を有することを特徴とする自動車システムの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動車システムの制御装置において、
前記車両速度制御手段は、前記モード切換手段により前記エコノミーモードが選択された場合には、前記モータ・ジェネレータの回生制動により発生した電力を蓄えるためのバッテリの充電量に応じて前記モータ・ジェネレータの回生トルクを変更することを特徴とする自動車システムの制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の自動車システムの制御装置において、
前記車両速度制御手段は、前記モード切換手段により前記エコノミーモードが選択された場合には、前記モータ・ジェネレータの回生トルクから演算した目標減速度に基づいて、車両の速度を制御することを特徴とする自動車システムの制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項記載の自動車システムの制御装置において、
前記モード切換手段は、運転者の手動操作により、前記ノーマルモードと前記エコノミーモードとの切換を行うことを特徴とする自動車システムの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−285731(P2006−285731A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105931(P2005−105931)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(591132335)株式会社ザナヴィ・インフォマティクス (745)
【Fターム(参考)】