説明

自動車用モールディング部材

【課題】 低コストで切断端面部の耐食性に優れた自動車用モールディング部材を提供する。
【解決手段】 Al:4〜10質量%、Mg:1〜4質量%を含み、Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織のマトリックスに初晶Al相又は初晶Al相およびZn単層が混在しているZn−Al−Mgめっき層が形成された鋼板表面に、カルシウムシリケートおよび、もしくはリン酸化合物を含有するエポキシ樹脂からなる下塗り塗膜層を設け、さらに、最外層の樹脂層に相溶性を示す接着剤層を設け、該接着剤層を介して最外樹脂層を形成したことを特徴とする。Zn−Al−Mgめっき層が更にTi:0.002〜0.1質量%、B:0.001〜0.45質量%の1方または両方を含むことができる。接着剤と最外樹脂層は相溶性の高い組合せで選定され、接着剤層がアクリル樹脂とエポキシ樹脂の混合物からなるとき、最外樹脂層がポリ塩化ビニル樹脂からなる。接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂からなるとき、最外樹脂層がポリプロピレン樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた密着性、耐食性を有する自動車用モールディング部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルトモール、ウインドウモール、サイドモール、ピラー等の自動車用モールディング部材は、ステンレス鋼などの耐食性に優れた長尺金属材を芯材に使用し、複合押出成形法で最外層用樹脂をモールディング芯材に接合している。最外樹脂層には、押出成形性に優れたポリ塩化ビニル樹脂が使用されているが、環境負荷の大きなポリ塩化ビニル樹脂に代えてポリオレフィン樹脂も使用され始めている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−226202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
自動車モールディング芯材に、ステンレス鋼などの高耐食性金属材が使用されてきた理由は、切断端面部の腐食を抑制するためである。しかしながら、自動車用モールディング部材に占めるモールディング芯材の材料コストは高く、モールディング部材を全てプラスチックで成型する方法なども検討されたが、強度不足や耐候性低下などの面から従来材からの代替はなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、このような問題を解決すべく案出されたものであり、モールディング芯材として、切断端面部の耐食性に優れるZn−Al−Mg合金めっき鋼板を用いた低コストの自動車用モールディング部材を提供することを目的とする。
【0005】
本発明の自動車モールディング部材は、その目的を達成するため、Al:4〜10質量%、Mg:1〜4質量%を含み、Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織のマトリックスに初晶Al相又は初晶Al相およびZn単層が混在しているZn−Al−Mgめっき層が形成された鋼板表面に、カルシウムシリケートおよび、もしくはリン酸化合物を含有するエポキシ樹脂からなる下塗り層を設け、さらに、エポキシ樹脂および最外層の樹脂層に相溶性を示し、かつ、顔料を含まない接着剤層を設けて、該接着剤層を介して最外樹脂層を形成したことを特徴とする。Zn−Al−Mgめっき層がさらにTi:0.002〜0.1質量%、B:0.001〜0.45質量%の1方または両方を含むことができる。接着剤と最外樹脂層は相溶性の高い組合せで選定され、接着剤層がアクリル樹脂とエポキシ樹脂の混合物からなるとき、最外樹脂層がポリ塩化ビニル樹脂からなる。接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂からなるとき、最外樹脂層がポリプロピレン樹脂からなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明において、モールディング芯材として、Al:4〜10質量%、Mg:1〜4質量%を含み、Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織のマトリックスに初晶Al相又は初晶Al相およびZn単層が混在しているZn−Al−Mgめっき層が形成された鋼板を使用する。Zn−Al−Mg合金めっき鋼板は、めっき層に含まれるAl、Mgが緻密で難溶性の腐食生成物となり、めっき層表面を覆うため高耐食性を有する特徴がある。任意成分として添加されるTi、Bは、塗装後の表面外観や耐食性に悪影響を及ぼすZn11Mg相の晶出を抑制する作用を呈する。
【0007】
本発明のモールディング部材の切断端面部で腐食が起きた場合、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板と下塗り層との界面に前述の難溶性腐食生成物が生じる。ここで、下塗り層および接着剤を介して被覆された最外樹脂層は、ポリ塩化ビニル樹脂やポリプロピレン樹脂であり、一般的な塗料を塗装したプレコート鋼板の塗膜厚に比べて格段に厚い。一般的なプレコート鋼板の乾燥膜厚が数十μmであるのに対して本発明の最外樹脂層の乾燥膜厚は、平均厚さ0.5mm、最も厚い部位で1mmを越える。
【0008】
この最外樹脂層の厚さが、該樹脂層の力学的変形を起こりにくくし、接着剤層および下塗り層を介して腐食生成物の体積膨張、すなわち、腐食進行を抑制する作用として働く。ここで、接着剤層中に顔料を含まないことから、接着剤と最外樹脂層との接着がより緻密になり、界面接着力を増大して、最外樹脂層からの腐食進行抑制を高める。また、下塗り層がZn−Al−Mg合金めっき鋼板への接着性に優れたエポキシ樹脂からなり、カルシウムシリケートおよび、もしくはリン酸化合物を含有することにより、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板と下塗り層との界面での難溶性腐食生成物の成長を、さらに抑制することができる。また、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板と下塗り層との界面に生じるわずかな腐食生成物は該界面をを緻密に閉塞する作用を示し、外部から侵入してくる腐食性イオンの内部への進入を阻止し、切断端面部での腐食がその部位に留まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のモールディング芯材は、Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織のマトリックスに初晶Al相または初晶Al相およびZn単層が混在しているZn−Al−Mgめっき層が形成された鋼板を使用する。かかる組織のめっき層を形成するため、Al、Mg含有量をそれぞれ4〜10質量%、1〜4質量%に調整する。Zn−Al−Mg合金めっき鋼板に接着剤を塗布する前に、脱脂、表面調整、化成処理等の塗装前処理が施される。化成処理には、リン酸塩処理、チタン系、ジルコニウム系、シリカ系等の化成皮膜を形成する非クロメート系処理が適用できる。
【0010】
下塗り層には、カルシウムシリケートおよび、もしくはリン酸化合物を含有するエポキシ樹脂を用いる。カルシウムシリケートは変性シリカとも称され、Caイオンをイオン交換で結合させた多孔質シリカであり、Hイオン等の腐食性イオンをCaイオンで捕捉することにより、下地鋼板の非クロム系化成処理皮膜と相俟って、従来のクロム系防錆顔料を凌駕する腐食防止機能を呈する。リン酸化合物としては、ピロリン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム等のポリリン酸塩が用いられる。カルシウムシリケート、リン酸化合物はそれぞれ単独でも高い防食作用を示すが、併用することでさらに耐食性は向上する。
【0011】
接着剤層は、最外樹脂層との関連で樹脂種が選定される。ポリ塩化ビニル樹脂を最外樹脂層とする場合、アクリル樹脂とエポキシ樹脂の混合物が接着剤に適用される。アクリル樹脂がポリ塩化ビニル樹脂と高い相溶性を示し、エポキシ樹脂からなる下塗り層には当然エポキシ樹脂が強い密着性を呈する。アクリル樹脂には、メチル、エチル、イソブチル、n−ブチル等のアクリルまたはメタクリル酸エステルモノマーからなる単独重合体または共重合体が挙げられ、ポリエステル、ウレタン等で変性したアクリル樹脂も使用できる。エポキシ樹脂には、ビスフェノールA、FまたはAD型、ノボラック型、グリシジルアミン型、グリシジルエステル型、脂環式、鎖状型等の各種エポキシ樹脂が使用される。アクリル樹脂とエポキシ樹脂の配合割合は、アクリル樹脂/エポキシ樹脂の質量比として、5/95〜90/10が好ましく、この範囲を外れると、接着剤側か下地原板側の一方のどちらかとの結びつきが強くなり、密着性のバランスが保てない。
【0012】
ポリプロピレン樹脂を最外樹脂層とする場合、酸変性ポリオレフィン樹脂が好適な接着剤である。酸変性ポリオレフィン樹脂は、下地の塗装原板とポリプロピレン樹脂の双方に十分な相溶性、密着性を示す。酸変性ポリオレフィン樹脂には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂に、無水マレイン酸等のエチレン性不飽和基を有する酸無水物をグラフト重合した変性体や、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等のオレフィンとエチレン性不飽和基を有するカルボン酸との共重合体等を単独または混合体として使用する。
【0013】
接着剤層には、クロムフリー防錆顔料や体質顔料等の各種顔料を含まない樹脂層を適用する。接着剤層中に顔料を含まないことで、接着剤層と最外樹脂層との接着がより緻密となり、界面接着力が増大して、最外樹脂層による腐食進行抑制を高める効果がある。
【0014】
モールディング部材の製造に際しては、表面を清浄したZn−Al−Mg合金めっき鋼板に、ロールコート、スプレーコート、ダイコート、カーテンフローコート等で、下塗り塗料を塗布し、150〜250℃の焼付け乾燥にて下塗り塗膜層を設ける。下塗り塗料の塗布量は、下塗り塗膜層の乾燥膜厚が2〜20μmとなるように調整する。乾燥膜厚2μm以上で必要な耐食性と接着力を発現する。乾燥膜厚として20μmを越えても優れた耐食性と接着力を有するもののコストメリットがない。次いで、接着剤を塗布し、150〜250℃の焼付け乾燥にて接着剤層を設ける。接着剤の塗布量は、接着剤層の乾燥膜厚が2〜20μmとなるように調整する。乾燥膜厚2μm以上で必要な接着力を発現する。乾燥膜厚として20μmを越えても優れた接着力を有するもののコストメリットがない。
【0015】
下塗り塗膜層および接着剤層が設けられたZn−Al−Mg合金めっき鋼板は、ロールフォーミング、プレス加工等で所定のモールディング形状に加工される。下塗り塗膜層および接着剤層は、成形加工時に下地鋼板の塑性変形に追従し、均一な皮膜としてモールディング芯材の表面に存在する。下塗り塗膜層および接着剤層に多少の加工欠陥があっても、最外樹脂層を接合する複合押出成形工程で、接着剤層が最外層の樹脂層に相溶一体化されるので、加工欠陥は解消し、加えて、下塗り塗膜層のカルシウムシリケートおよび、もしくはリン酸化合物が加工欠陥由来の下地腐食を抑制する。
【0016】
所定形状に加工された成形体は、樹脂混錬成形機のダイスに導入される。ダイスに注入される最外層用樹脂とともに押し出す複合押出成形によって最外樹脂層として成形体を被覆する。複合押出成形時の受熱で接着剤層が150〜250℃程度に加熱され、接着剤層の表層が最外層用樹脂と融和し、接着剤層が最外樹脂層に相溶一体化する。最外樹脂層が接着剤層および下塗り塗膜層を介してモールディング芯材に接合されるため、高い接合力、密着力、高耐食性が得られる。これは、モールディング芯材の表面に均一な下塗り塗膜層および接着剤層を有することから、モールディング芯材/最外樹脂層の界面に非接合部が生じないことによる。
【0017】
モールディング部材の形状によっては、芯材の内側や側面に接着剤層が剥き出し状態になる。しかし、接着剤層の界面にはカルシウムシリケートおよび、もしくはリン酸化合物を含有するエポキシ樹脂からなる下塗り塗膜層が存在するため支障はなく、そのまま残存させてよい。すなわち、本来、下地が露出する内面や側面でも下塗り塗膜および接着剤層で被覆されるので、モールディング部材としての耐食性も格段に向上する。
【実施例】
【0018】
実施例1;
板厚:0.4mm、片面当りめっき付着量:120g/mのZn−Al−Mg合金めっき鋼板(Znめっき層の合金成分含有率;Al:6質量%、Mg:3質量%、Ti:0.02質量%、B:0.08質量%)をモールディング芯材に使用した。Zn−Al−Mg合金めっき鋼板をアルカリ脱脂し、チタン系の非クロメート処理によってTi換算付着量:15mg/mの化成皮膜を形成した後、カルシウムシリケートを10質量部、トリポリリン酸アルミニウムを20質量部配合したエポキシ樹脂からなる下塗り塗料を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、225℃の雰囲気中で1分間焼付け乾燥し、次いで、アクリル樹脂とエポキシ樹脂を6:4の質量比で配合した混合樹脂からなる接着剤を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、235℃の雰囲気中で1分間焼付け乾燥して、下塗り塗膜層および接着剤層を設けた。
【0019】
下塗り塗膜層および接着剤層を設けたZn−Al−Mg合金めっき鋼板を幅:50mmの短冊状切板に裁断し、短冊状切板をロールフォーミングで幅:15mm、高さ:25mmのほぼC型断面形状に成形した。次いで、樹脂混錬成形機のダイスに導入し、ポリ塩化ビニル樹脂をダイスに注入しながらC型断面成形体とともに押し出すことにより、膜厚2mmのポリ塩化ビニル樹脂層(最外樹脂層)が接合されたモールディング部材を得た。C型断面成形体は複合押出成形時に170〜220℃程度に加熱され、接着剤層はポリ塩化ビニル樹脂層(最外樹脂層)と完全に一体化されていた。
【0020】
実施例2;
下塗り塗料がトリポリリン酸アルミニウムを含有せず、接着剤が酸変性ポリオレフィン樹脂であり、また、最外層用樹脂がポリプロピレン樹脂で膜厚:2mmである以外は実施例1と同じ条件でモールディング部材を作製した。この場合の接着剤層もポリオレフィン樹脂層(最外樹脂層)と完全に一体化されていた。
【0021】
比較例1;
下塗り塗料がカルシウムシリケートおよびトリポリリン酸アルミニウムを含有せず、接着剤が混合樹脂に対してカルシウムシリケートを30質量部配合する以外は、実施例1と同じ条件でモールディング部材を作製した。この場合の接着剤層もポリ塩化ビニル樹脂層(最外樹脂層)と完全に一体化されていた。
【0022】
実施例1、実施例2および比較例1で製造されたモールディング部材を2000時間の塩水噴霧試験に供し、端面の樹脂フクレ幅を測定した。実施例1が0.5mmであり、実施例2が1mmであり、比較例1が5mmであった。なお、塩水噴霧試験後に各モールディング部材の端面から最外樹脂層を強制剥離し、剥離状態を調査した。その結果、いずれも密着性が良好であり最外樹脂層が材料破断した。
【産業上の利用可能性】
【0023】
従来からモールディング芯材として使用されてきたステンレス鋼と遜色ない切断端面部耐食性が得られ、密着性、耐食性の高いモールディング部材が低コストで得られる。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:4〜10質量%、Mg:1〜4質量%を含み、Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織のマトリックスに初晶Al相または初晶Al相およびZn単層が混在しているZn−Al−Mgめっき層が形成された鋼板表面に、カルシウムシリケートおよび、もしくはリン酸化合物を含有するエポキシ樹脂からなる下塗り層を設け、さらに、エポキシ樹脂および最外層の樹脂層に相溶性を示し、かつ、顔料を含まない接着剤を設けて、該接着剤層を介して最外樹脂層を形成したことを特徴とする自動車用モールディング部材。
【請求項2】
Zn−Al−Mgめっき層がさらにTi:0.002〜0.1質量%、B:0.001〜0.45質量%の1方または両方を含むことを特徴とする請求項1記載の自動車用モールディング部材。
【請求項3】
接着剤層がアクリル樹脂とエポキシ樹脂の混合物からなり、最外樹脂層がポリ塩化ビニル樹脂からなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の自動車モールディング部材。
【請求項4】
接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂からなり、最外樹脂層がポリプロピレン樹脂からなること特徴とする請求項1または請求項2記載の自動車モールディング部材。






























【公開番号】特開2006−290157(P2006−290157A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113504(P2005−113504)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】