説明

舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法

【課題】舗装道路のひび割れ検出は、現場を撮影した画像を検査所に持ち帰り、分析機器を使って分析・評価しているが、全長が何百キロメータ以上にも及ぶ道路のひび割れ検出には処理画像の量が膨大で人的作業に適さず、評価も技術者の経験による主観的判断によっているため、客観的かつ定量的に行うことが不可能である。
【解決手段】本発明に係る舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法は、遺伝的プログラミングによる並列型画像フィルタ自動生成システムにサイズ依存型交叉を導入して複数の実舗装画像からクラック(1)の抽出が困難と思われる箇所をフィルタ構築の訓練データに選定採用することで様々なタイプの画像からクラックの抽出用画像フィルタ(4)を自動的に構築する。そして、評価対象舗装領域の画像全体を格子状に分割した個々のブロック(6)に該抽出用画像フィルタ(4)を適用して評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造のクラック抽出のために木構造状フィルタを用いるようにした画像処理システムが提案されている(例えば非特許文献1)。
【非特許文献1】西川貴文、吉田純司、杉山俊幸、斎藤成彦、藤野陽三著、「木構造状フィルタを用いたコンクリート構造のクラック抽出のための画像処理システム」、土木学会論文集,2007,A,Vol.63, No.4, pp.599-616
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
舗装道路のひび割れ検出は、舗装道路を撮影した画像を検査所に持ち帰り、技術者による人的作業によりひび割れを検出し、損傷レベルを評価している。
【0004】
しかしながら、全長が何百キロメータ以上にも及ぶ道路のひび割れ検出には不適である。
その理由は、第一に、長距離にわたる場合、検査車で舗装路面を事前に撮影した後、検査に従事する技術者が一連の画像記録を一括して評価しているが、この評価は人的作業で行われるため、当該業務に関するコストが高く、作業能力にも限界があって、膨大な量の画像の検出には向かないこと、また第二に、評価結果は、技術者の経験による主観的判断によっているため、評価を客観的かつ定量的に行うことが不可能だからである。
【0005】
また、非特許文献1の画像処理システムは、コンクリート構造のクラック抽出に特化した画像フィルタ構築システムであり、表面の明るさ、汚れのタイプ、ひび割れの特徴などが舗装路面とは大きく異なるため、そのままでは精度の高いひび割れ抽出を行うことができない。また、舗装路面の健全度評価までを全自動で行うためには、それに特化したフィルタの開発に加え、フィルタを適用する範囲の特定、舗装種別の分類、ひび割れの評価方法の確立などの、各種機能を新たに開発し、システムに導入する必要がある。
【0006】
本発明は、これら一連の作業を自動化することにより大幅なコスト削減や作業能力向上が期待でき、加えて評価も客観的かつ定量的に行うことが可能な舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法を提供することを目的とする。また本発明は、この評価方法を実施する上で有効なアスファルト舗装とコンクリート舗装を判別する方法の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1)本発明に係る舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法は、遺伝的プログラミングによる並列型画像フィルタ自動生成システムにサイズ依存型交叉を導入して、道路の複数の実舗装画像からクラックが存在する画像をフィルタ構築の訓練データに選定採用することで様々なタイプの画像からクラックの抽出用画像フィルタを自動的に構築する。そして、評価対象舗装領域の画像全体を格子状に分割した個々のブロックに該画像フィルタを適用して評価する。
【0008】
一方で、通常のように、入力された画像を手作業で2値化処理し、目標画像を作成する。他方で、複数の画像フィルタを単純な画像フィルタの組み合わせと仮定し、評価式により、よりよい組み合わせを、遺伝的プログラミングを利用して探索し、入力画像をこのフィルタに通して出力画像を得る。この出力画像は目標画像と近似する。
【0009】
提案した交叉手法については、文献:「伊庭斉志:遺伝的プログラミング入門、東京大学出版会、2001」の187頁〜188頁に記載されているサイズ依存型の交叉に、部分木の選択方法としてサイズに依存する確率を導入したものである。
【0010】
(請求項2)該ブロックは方形領域となっており、該道路の幅員方向では複数個配列されていてもよい。
こうすると、照明による輝度の分布が小さいことから、精度良くクラックを抽出でき、かつ、計算時間も比較的少なくて済む。
【0011】
(請求項3)ブロックは相互にオーバーラップ部を有し、このオーバーラップ部での抽出結果を重ね合わせるようになっていてもよい。
こうすると、ブロックの端部で分断されたクラックの復元が可能となり、ブロック端部を跨いだクラックの抽出率が悪くなるという欠点を解決できる。
【0012】
(請求項4)該評価対象舗装領域の画像全体を格子状に分割する前に、該画像全体の該道路の横断方向の階調値を一定値に補正するようにしてもよい。
こうすると、舗装路面の撮影時点での照明からの距離の違いや、路面のわだちにより路面に角度がついていることにより生じる道路横断方向の明るさのばらつきを補正することができ、誤抽出を低減することができる。
【0013】
(請求項5)該評価対象舗装領域の画像の解像度を変化させ、それぞれに該抽出用画像フィルタを適用させた結果の重ね合わせ処理を行うようにしてもよい。
こうすると、微細なクラックがいくつかに分断されて抽出される現象を防止することができる。
【0014】
(請求項6)該抽出用画像フィルタを適用後に該評価対象舗装領域の画像内にある、所定の画素数未満の微小な黒画素を消去するようにしてもよい。
こうすると、道路横断方向の明るさを補正してもなお発生するノイズを消去することができ、誤抽出を低減することができる。
【0015】
(請求項7)該道路の路面走行方向に矩形領域を均等間隔で選定し、該矩形領域の輝度の平均値とSobel フィルタ型(水平方向微分)加重マトリクスを作用させた平均値の2つを特徴量として選択し、特徴空間において、アスファルト舗装とコンクリート舗装の判別を、該両舗装による該特徴量の区分け境界をマハラノビス距離により定めて、なすようにしてもよい。
こうすると、舗装路面はアスファルト舗装とコンクリート舗装に大別できることから、それぞれの舗装路面での画像からクラックを抽出するための画像処理を構築することにより、正確なクラックの検出が可能となる。
【0016】
(請求項8)該道路の舗装種別毎に最適な該抽出用画像フィルタを適用するようにしてもよい。
こうすると、アスファルト舗装とコンクリート舗装で画像の明るさや表面性状に関する特徴が異なるため、舗装路面の種別に応じた画像フィルタを適用して画像からクラックを抽出するための画像処理を構築することにより、正確なクラックの検出が可能となる。
【0017】
(請求項9)該評価対象舗装領域の画像に対する該抽出用画像フィルタの適用に際し、離散コサイン変換を適用して周波数領域で特定の成分を除去した後、逆変換することで、グルービングのみを画像から消すようにしてもよい。
こうすると、コンクリート舗装に一定間隔で入っている人工的な切れ込み、即ちグル―ビングをクラックと誤認することがなくなり、コンクリートの舗装面の健全度評価が正確となる。
【0018】
(請求項10)該評価対象舗装領域の画像に2値化処理をした後、車線を画定する一対のレーンマークの一方と他方で白と判定された画素を抽出し、それぞれについて最小二乗法により直線を推定し、該各直線と該各白画素との2乗平均誤差を計算して該各直線の切片を該誤差分だけ内側に移動させることにより、該評価対象範囲を限定するようにしてもよい。
実際の舗装画像には様々なパターンが存在する。この膨大な数の舗装画像を一括して処理し、健全度評価までを自動で行うためには、このフィルタを適用する領域を自動で認識する必要がある。
このように構成すると、舗装面の健全度評価を車両の走行範囲に限定して認識の自動化ができ、余計な評価を省けるので作業効率が上がる。
【0019】
(請求項11)該抽出用画像フィルタ適用時に用いた該ブロックの全数を対象として、まず各該ブロックに規定値以上のクラック領域が存在するか否かにより、「健全」あるいは「損傷」を判定し、次いで該損傷ブロックの該全数のブロックに対する割合を「概算ひび割れ率」として算出するようにしてもよい。
こうすると、舗装面の健全度評価を、専門技術者の経験的判断に頼らず、コンピュータによる処理に適合する客観的な判断基準を提供できる。
【0020】
(請求項12)該評価対象舗装領域の画像を入力する(連番の画像を順次、処理)と舗装種別を判別し、アスファルト舗装の場合、画像中の解析対象領域を認識し、クラック抽出のための画像処理を行って「ひび割れ率」を判定し、コンクリート舗装の場合、画像中の解析対象領域を認識し、グルービングのみを画像から消す処理をしてから、クラック抽出のための画像処理を行って「ひび割れ率」を判定し、クラックが規定値以上の損傷ブロックと以下の健全ブロックを、色分けした形で画像として出力するようになっていてもよい。
こうすると、従来、専門委員により手作業で行われていた舗装路面の健全度評価(クラックの抽出や、ひび割れ率の算定)を、一括して全自動で行え、処理能力の向上を図れる。
【発明の効果】
【0021】
(請求項1)本発明に係る舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法によれば、(1)遺伝的プログラミングによる並列型画像フィルタ自動生成システムにサイズ依存型交叉を導入しての画像の出力、(2)複数の実舗装画像からクラックが存在する画像をフィルタ構築の訓練データとして選定採用することで様々なタイプの画像からクラックを抽出できる画像フィルタの自動的な構築、(3)評価対象舗装領域の画像全体を格子状に分割した個々のブロックに該画像フィルタを適用しての評価、(4)複数の画像フィルタを単純な画像フィルタの組み合わせと仮定し、評価式により、よりよい組み合わせを、遺伝的プログラミングを利用して探索し、入力画像をこのフィルタに通して出力画像とする一連の作業を自動化でき、大幅なコスト削減や作業能力向上が期待でき、加えて評価も客観的かつ定量的に行うことが可能となる。
また、フィルタ構築が自動であることから、将来的にクラックが抽出困難な事例に遭遇した場合にも、それを訓練データに取り入れ、再度フィルタ構築を実施することで容易に対応できる。
【0022】
請求項2によれば、該ブロックは方形領域となっており、該道路の幅員方向では複数個配列されているので、照明による輝度の分布が小さく、精度良くクラックを抽出でき、かつ、計算時間も比較的少なくて済む。
【0023】
請求項3によれば、該ブロックは相互にオーバーラップ部を有し、このオーバーラップ部での抽出結果を重ね合わせるようになっているので、該ブロックの端部で分断されたクラックの復元が可能となり、該ブロック端部を跨いだクラックの抽出率が悪くなるという欠点を解決できる。
【0024】
請求項4によれば、該評価対象舗装領域の画像全体を格子状に分割する前に、該画像全体の該道路の横断方向の階調値を一定値に補正するようにしたので、舗装路面の撮影時点での照明からの距離の違いや、路面のわだちにより路面に角度がついていることにより生じる道路横断方向の明るさのばらつきを補正することができ、誤抽出を低減することができる。
【0025】
請求項5によれば、該評価対象舗装領域の画像の解像度を変化させ、それぞれに該抽出用画像フィルタを適用させた結果の重ね合わせ処理を行うようにしたので、微細なクラックがいくつかに分断されて抽出される現象を防止することができる。
【0026】
請求項6によれば、該抽出用画像フィルタを適用後に該評価対象舗装領域の画像内にある、所定の画素数未満の微小な黒画素を消去するようにしたので、道路横断方向の明るさを補正してもなお発生するノイズを消去することができ、誤抽出を低減することができる。
【0027】
請求項7によれば、該道路の路面走行方向に矩形領域を均等間隔で選定し、該矩形領域の輝度の平均値とSobel フィルタ型(水平方向微分)加重マトリクスを作用させた平均値の2つを特徴量として選択し、特徴空間において、アスファルト舗装とコンクリート舗装の判別を、該両舗装による該特徴量の区分け境界をマハラノビス距離により定めて、なすようにしたので、舗装路面はアスファルト舗装とコンクリート舗装に大別できることから、それぞれの舗装路面での画像からクラックを抽出するための画像処理を構築することにより、正確なクラックの検出が可能となる。
【0028】
請求項8によれば、該舗装路面の種別毎に最適な画像フィルタを適用するようにしたので、舗装路面の種別に応じた画像フィルタを適用して画像からクラックを抽出するための画像処理を構築することにより、正確なクラックの検出が可能となる。
【0029】
請求項9によれば、該評価対象舗装領域に対する該抽出用画像フィルタの適用に際し、離散コサイン変換を適用して周波数領域で特定の成分を除去した後、逆変換することで、グルービングのみを画像から消すようにしたので、コンクリート舗装に一定間隔で入っている人工的な切れ込み、即ちグル―ビングをクラックと誤認することがなくなり、コンクリートの舗装面の健全度評価が正確となる。
【0030】
請求項10によれば、該評価対象舗装領域の画像に2値化処理をした後、車線を画定する一対のレーンマークの一方と他方で白と判定された画素を抽出し、それぞれについて最小二乗法により直線を推定し、該各直線と該各白画素との2乗平均誤差を計算して該各直線の切片を該誤差分だけ内側に移動させるようにしたので、舗装面の健全度評価を車両の走行範囲に限定して認識の自動化ができ、余計な評価を省けるので作業効率が上がる。
【0031】
請求項11によれば、該抽出用画像フィルタ適用時に用いたブロックを対象として、まず該ブロックに規定値以上のクラック領域が存在するか否かにより「健全」あるいは「損傷」を判定し、次いで損傷ブロックの全ブロックに対する割合を「概算ひび割れ率」として算出するようにしたので、舗装面の健全度評価を、専門技術者の経験的判断に頼らず、コンピュータによる処理に適合する客観的な判断基準を提供できる。
【0032】
請求項12によれば、該評価対象舗装領域の画像を入力する(連番の画像を順次、処理)と該評価対象舗装領域の舗装種別を判別し、該評価対象舗装領域の画像がアスファルト舗装の場合は、画像中の解析対象領域を認識し、クラック抽出のための画像処理を行って「ひび割れ率」を判定し、該評価対象舗装領域の画像がコンクリート舗装の場合は、画像中の解析対象領域を認識し、グルービングのみを画像から消す処理をしてから、クラック抽出のための画像処理を行って「ひび割れ率」を判定し、クラックが規定値以上の損傷ブロックと以下の健全ブロックを、色分けした形で画像として出力するようになっているので、従来、専門員により手作業で行われていた舗装路面の健全度評価(クラックの抽出や、ひび割れ率の算定)を、一括して全自動で行え、処理能力の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】並列型画像フィルタ自動生成システムの概念図である。
【図2】正方ブロック領域にオーバーラップ部を許容して画像フィルタを適用した場合の概念図である。
【図3】道路横断方向の明るさのばらつきを一定値に補正する方法の概念図である。
【図4】舗装画像の解像度を変化させる処理方法の概念図である。
【図5】(a)は明るさ補正後の抽出結果の舗装画像を示し、(b)は(a)の画像の微小な黒画素(ノイズ)を消去した画像を示す。
【図6】アスファルト舗装8とコンクリート舗装9を判別する方法を示す図である。
【図7】コンクリート舗装におけるグル―ビングの除去処理工程の概念図である。
【図8】特徴空間におけるアスファルト舗装とコンクリート舗装の特徴量の分布と境界の概念図である。
【図9】フィルタ適用の対象となる車両走行領域の概念図である。
【図10】路面画像よりクラック抽出から健全度評価までを自動で行うシステムの概念図である。
【図11】(a)舗装路面の健全度評価(クラック1の抽出や、ひび割れ率の算定)を、一括して全自動で行うシステムを示し、(b)は入力画像の例を示し、(c)はフィルタの適用領域(評価領域)のうち、クラックと判定されたブロック6を灰色で表示し、健全なブロック6を白色で表示したものである。
【図12】交叉方法の違いによる世代数に対する総節点数の推移を示す図である。
【図13】(a)はフィルタ構築で用いるクラック抽出の困難な舗装画像で、(b)はその目標画像を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
(請求項1)図1で、アスファルト舗装及びコンクリート舗装の複数の実舗装画像からクラック1が存在する画像を選定して入力画像2とする。そして、一方で、これらの入力画像2を目視による手作業で2値化処理等により処理し、評価用の目標画像3を生成する。また、他方ではこれらの入力画像2と同じ入力画像2を画像フィルタ4に通し、出力画像5を得る。この画像フィルタ4は、単純な画像フィルタ4、4、4、…の組み合わせと仮定され、評価式を介し、よりよい組み合わせを遺伝的プログラミングの利用により自動的に探索して、構成される。この画像フィルタ4を通した出力画像5を目標画像3と対比し、両画像が近似するまで画像フィルタ4の最適探索処理を複数回行う。この並列型画像フィルタ自動生成システムにサイズ依存型交叉を導入することにより、遺伝的プログラミングによる探索性能を向上させている。
そして、道路7の評価対象舗装領域A(図2参照)の画像全体を格子状に分割した個々のブロック6に画像フィルタ4を適用して評価する。
【0035】
遺伝的プログラミングによる並列型画像フィルタ自動生成システムに、部分木のサイズに依存する交叉を導入してもよい。こうすることでイントロンの増大を抑え、最適化での計算効率を高めることができる。具体的には、2つの親木のうちサイズの小さい方からランダムに部分木を選択し、もう片方の親木から選択された部分木のサイズと近いものほど高い確率で選択される方式を提案した(通常のサイズ依存型交叉は、部分木のサイズを確立によっては選ばない。)図12は、提案した考査方法と、通常交叉の場合における最良個体での総節点数の推移を示しており、提案した方法により木のサイズ増大が抑えられていることがわかる。
【0036】
サイズ依存型交叉については、伊庭斉志著「遺伝的プログラミング入門」東京大学出版会、2001年発行の187頁〜188頁に、要約すると次段落[0037]に示すような記載がされている。
【0037】
サイズ依存型交叉では、交叉で変換する部分木のサイズをできるだけ等しくすることで、遺伝的プログラミングの探索過程でのフィルタ構築プログラムの長さを抑制し、計算効率を高めることができる。
【0038】
クラック1が存在する画像の選定は、図13に示すように、クラックの幅が太い、複数の方向の枝分かれする、円形のクラック等、クラックの抽出が困難と思われる箇所を選定してもよい。こうすることで、画像フィルタ4の構築が効率的になる。
【0039】
(請求項2)図2で、ブロック6は方形領域となっており、道路7の幅員方向の4個が路長方向に配列されている。
この場合、照明による輝度の分布が小さいことから、精度良くクラック1を抽出でき、かつ、計算時間も比較的少なくて済む。
【0040】
(請求項3)ブロック6は相互にオーバーラップ部6aを有し、このオーバーラップ部6aでの抽出結果を重ね合わせるようになっている。
この場合、ブロック6の端部で分断されたクラックの復元が可能となり、ブロック端部を跨いだクラックの抽出率が悪くなるという欠点を解決できる。
【0041】
(請求項4)図3で、評価対象舗装領域Aの画像全体を格子状に分割する前に、この画像全体の道路7の横断方向の階調値を一定値に補正するようにしている。
この場合、舗装路面の撮影時点での照明からの距離の違いや、路面のわだちにより路面に角度がついていることにより生じる道路横断方向の明るさのばらつきを補正することができ、誤抽出を低減することができる。
【0042】
(請求項5)図4で、評価対象舗装領域Aの画像の解像度を変化させ、それぞれに抽出用画像フィルタ4を適用させた結果の重ね合わせ処理を行っている。
この場合、微細なクラックがいくつかに分断されて抽出される現象を防止することができる。
【0043】
(請求項6)図5で、抽出用画像フィルタ4を適用後に評価対象舗装領域Aの画像内にある、所定の画素数未満の微小な黒画素を消去するようにしている。
この場合、道路横断方向の明るさを補正してもなお発生するノイズを消去することができ、誤抽出を低減することができる。
【0044】
(請求項7)図6及び8はアスファルト舗装8とコンクリート舗装9を判別する方法を示している。画像中のテクスチャ(模様)を利用するため、道路7の走行方向の面上に矩形領域10を均等間隔、例えば5mおき、で選定する。図8に示すように、この矩形領域10の階調値(輝度)の平均値を横軸にとり、数値拡大用にSobel フィルタ型(水平方向微分)加重マトリクスを作用させた平均値を縦軸にとって、これら2つの値を特徴量として選択する。そして、特徴空間11においてアスファルトとコンクリートの両舗装による特徴量の区分け境界12を、マハラノビス距離を用いて定めるようにしている。
【0045】
(請求項8)本発明では、道路7の舗装種別毎に最適な抽出用画像フィルタを適用するようにしている。
クラック1を抽出するための画像フィルタ4は、アスファルト舗装8とコンクリート舗装9の画像それぞれについて開発されている。アスファルト舗装8とコンクリート舗装9が混在した膨大な数の舗装画像を一括して処理し、健全度評価までを自動で行うためには、フィルタ適用前に舗装種別を判別す機能が必要であるが、アスファルト舗装8とコンクリート舗装9それぞれに画像フィルタ4を用意することにより、この要請に十分応えられる。
【0046】
(請求項9)図7は、コンクリート舗装を対象として、評価対象舗装領域Aの画像に対する抽出用画像フィルタ4の適用に際し、離散コサイン変換13を適用して周波数領域で特定の成分を除去した後、逆変換することで、グルービング14のみを画像から消すようにしてある。
この場合、コンクリート舗装8に一定間隔で入っている人工的な切れ込み、即ちグル―ビング14をクラック1と誤認することがなくなり、コンクリート舗装8の健全度評価が正確となる。
【0047】
(請求項10)図9は、車両の走行範囲に限定して舗装面の健全度評価を行う場合を示している。評価対象舗装領域Aの画像に2値化処理をした後、車両走行レーン15や16を画定する一対のレーンマークの一方17と他方18で白と判定された画素を抽出し、それぞれについて最小二乗法により直線を推定し、それらの直線と各白画素との2乗平均誤差δを計算して直線の切片をその誤差δ分だけ内側に移動させることにより、評価対象範囲を限定してある。
実際の舗装画像には様々なパターンが存在する。この膨大な数の舗装画像を一括して処理し、健全度評価までを自動で行うためには、画像フィルタを適用する領域を自動で認識する必要がある。
この場合、アスファルト舗装8やコンクリート舗装9の面の健全度評価を車両の走行範囲に限定して認識の自動化ができ、余計な評価を省けるので作業効率が上がる。
【0048】
(請求項11)図10は、抽出用画像フィルタ4の適用時に用いたブロック6の全数を対象として、まずこれらのブロック6に限定値以上のクラック領域が存在するか否かにより「健全:○」あるいは「損傷:×」を判定し、次いで損傷のブロックの全数のブロックに対する割合を「概算ひび割れ率」として算出する。
この場合、アスファルト舗装8やコンクリート舗装9の舗装面の健全度評価を、専門技術者の経験的判断に頼らず、コンピュータによる処理に適合する、客観的な判断基準を提供できる。
【0049】
(請求項12)図11(a)は、評価対象舗装路面の健全度評価(クラック1の抽出や、ひび割れ率の算定)を、一括して全自動で行うシステムを示している。評価対象舗装領域Aの画像を入力する(連番の画像を順次、処理)(ステップ1)と、この評価対象舗装領域Aの舗装種別がアスファルト舗装8かコンクリート舗装9かを判別する(ステップ2)。アスファルト舗装8と判定する(ステップ3)と、フィルタの適用領域の指定を行い(ステップ4)、画像フィルタの適用を行って(ステップ5)、ひび割れ率の算定をし(ステップ6)、画像を出力するとともに結果を表示する(ステップ7)。
【0050】
ステップ2でコンクリート舗装9と判定されると(ステップ8)、フィルタの適用領域の指定を行い(ステップ9)、グル―ビングの除去を行い(ステップ10)、画像フィルタの適用を行って(ステップ11)、以降はアスファルト舗装8の場合と同様に、ひび割れ率の算定をし(ステップ6)、画像を出力するとともに結果を表示する(ステップ7)。
【0051】
図11の(b)は入力画像の例を示してある。同(c)はフィルタの適用領域(評価領域)のうち、クラックと判定された損傷ブロック6を灰色で表示し、健全ブロック6を白色で表示したものである。
この場合、従来、専門員により手作業で行われていた舗装路面の健全度評価(クラックの抽出や、ひび割れ率の算定)を、一括して全自動で行え、処理能力の飛躍的向上を図れる。
【符号の説明】
【0052】
1 クラック
2 入力画像
3 目標画像
4 画像フィルタ
5 出力画像
6 ブロック
6a オーバーラップ部
損傷ブロック
健全ブロック
7 道路
8 アスファルト舗装
9 コンクリート舗装
10 矩形領域
11 特徴空間
12 区分け境界
13 離散コサイン変換
14 グルービング
15 走行レーン
16 走行レーン
17 一方
18 他方
δ 誤差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝的プログラミングによる並列型画像フィルタ自動生成システムにサイズ依存型交叉を導入して道路(7)の複数の実舗装画像からクラック(1)が存在する画像をフィルタ構築の訓練データに選定採用することで様々なタイプの画像からクラックの抽出用画像フィルタ(4)を自動的に構築し、
評価対象舗装領域(A)の画像全体を格子状に分割した個々のブロック(6)に該抽出用画像フィルタ(4)を適用して評価するようにした
ことを特徴とする舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。
【請求項2】
該ブロック(6)は方形領域となっており、該道路(7)の幅員方向では複数個配列されている請求項1に記載の舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。
【請求項3】
該ブロック(6)は相互にオーバーラップ部(6a)を有し、該オーバーラップ部(6a)での抽出結果を重ね合わせるようになっている請求項1又は2に記載の舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。
【請求項4】
該評価対象舗装領域(A)の画像全体を格子状に分割する前に、該画像全体の該道路(7)の横断方向の階調値を一定値に補正するようにした請求項1、2又は3に記載の舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。
【請求項5】
該評価対象舗装領域(A)の画像の解像度を変化させ、それぞれに該抽出用画像フィルタ(4)を適用させた結果の重ね合わせ処理を行うようにした請求項1、2、3又は4に記載の舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。
【請求項6】
該抽出用画像フィルタ(4)を適用後に該評価対象舗装領域(A)の画像内にある、所定の画素数未満の微小な黒画素を消去するようにした請求項1乃至5の一つの項に記載の舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。
【請求項7】
該道路(7)の路面走行方向に矩形領域(10)を均等間隔で選定し、該矩形領域(10)の階調値(輝度)の平均値とSobel フィルタ型(水平方向微分)加重マトリクスを作用させた平均値の2つを特徴量として選択し、特徴空間(11)において、アスファルト舗装(8)とコンクリート舗装(9)の判別を、該両舗装(8,9)による該特徴量の区分け境界(12)をマハラノビス距離により定めて、なすようにした請求項1乃至6の一つの項に記載の舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。
【請求項8】
該道路(7)の舗装種別毎に最適な該抽出用画像フィルタ(4)を適用するようにした請求項1乃至7の一つの項に記載の舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。
【請求項9】
該評価対象舗装領域(A)の画像に対する該抽出用画像フィルタ(4)の適用に際し、離散コサイン変換(13)を適用して周波数領域で特定の成分を除去した後、逆変換することで、グルービング(14)のみを画像から消すようにした請求項1乃至8の一つの項に記載の舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。
【請求項10】
該評価対象舗装領域(A)の画像に2値化処理をした後、車線を画定する一対のレーンマークの一方(17)と他方 (18)で白と判定された画素を抽出し、それぞれについて最小二乗法により直線を推定し、該各直線と該各白画素との2乗平均誤差(δ)を計算して該各直線の切片を該誤差(δ)分だけ内側に移動させることにより、評価対象範囲を限定するようにした請求項1乃至9の一つの項に記載の舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。
【請求項11】
該抽出用画像フィルタ(4)の適用時に用いた該ブロック(6)の全数を対象として、まず各該ブロック(6)に規定値以上のクラック領域が存在するか否かにより「健全」あるいは「損傷」を判定し、次いで損傷ブロックの該全数のブロックに対する割合を「概算ひび割れ率」として算出するようにした請求項1乃至10の一つの項に記載の舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。
【請求項12】
該評価対象舗装領域(A)の画像を入力する(連番の画像を順次、処理)と舗装種別を判別し、アスファルト舗装(8)の場合、画像中の解析対象領域を認識し、クラック(1)の抽出のための画像処理を行って「ひび割れ率」を判定し、コンクリート舗装(9)の場合、画像中の解析対象領域を認識し、グルービング(14)のみを画像から消す処理をしてから、クラック抽出のための画像処理を行って「ひび割れ率」を判定し、クラック(1)が規定値以上の損傷ブロック(61)と以下の健全ブロック(62)を、色分けした形で画像として出力するようになっている請求項1乃至11の一つの項に記載の舗装路面のクラックの抽出と損傷レベルの評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−179874(P2011−179874A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42247(P2010−42247)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(505398941)東日本高速道路株式会社 (66)
【出願人】(505398952)中日本高速道路株式会社 (94)
【出願人】(505398963)西日本高速道路株式会社 (105)
【出願人】(507194017)株式会社高速道路総合技術研究所 (33)
【Fターム(参考)】