説明

荷電粒子線装置及び荷電粒子線画像を安定に取得する方法

【課題】被検査試料の外周部と中心部とで帯電特性が異なることから、被検査試料外周部と中心部とで同等の検査感度を得ることができない。
【解決手段】被検査試料を載置する試料ホルダの外周部に試料カバーを設け、被検査試料の帯電特性にあわせて試料カバーの帯電特性を変更する。これにより、試料外周部と中心部とで均質な帯電状態を形成でき、試料外周部の検査・観察が従来よりも高感度に実現可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を試料に照射し、試料から二次的に発生する信号を検出して画像を得る荷電粒子線装置、及び画像に基づき試料の検査を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやウェハの検査装置として、真空試料室内に保持された試料に荷電粒子線を照射し、試料から二次的に発生する信号を検出して画像を得る荷電粒子線装置を用いた装置が広く用いられている。検査装置の検査対象である被検査試料に欠陥が存在すると、発生する二次電子の量あるいは状態が変化する。荷電粒子線を応用した検査装置においては、欠陥箇所を含む領域の画像を取得し、正常箇所の画像と比較検査することにより、欠陥箇所を特定している。二次電子信号による画像コントラストは、試料の表面電位に敏感であり、従って、荷電粒子線検査装置は、光学式検査装置では検出できない半導体ウェハの回路パターンに存在する電気特性に関わる欠陥、例えば、短絡,切断,ホールの開口不良といった欠陥(以下、電気的欠陥)を検出することができる。
【0003】
上記の欠陥検査は比較検査による検出方法であるため、欠陥を検出できるためには、欠陥画像と正常箇所の画像とで、画像コントラスト(以下、電位コントラストと呼ぶ)に差がついている必要がある。従って、電気的欠陥を感度よく検出するためには、観察前あるいは観察中に試料表面を帯電させて、欠陥箇所と正常箇所とで表面電位に差をつけておく必要がある。
【0004】
ウェハの帯電は一種の緩和現象として進行することが知られている。ウェハを帯電させる場合、ウェハ直上に設置された帯電制御電極と称される電極に正または負の電圧を印加し、その状態でウェハに荷電粒子線を照射する。ウェハから発生した二次電子は、制御電極に印加される電圧が正の場合は制御電極に吸収され、制御電極に印加される電圧が負の場合はウェハへ戻されるため、制御電極への印加電圧の極性に応じて、電子の欠乏状態あるいは電子が過剰な状態がウェハ上に形成される。その結果、帯電制御電極への印加電圧の極性に応じて、ウェハを正ないし負の所望の値に帯電させることができる。どちらの極性に帯電させる場合も、ウェハ表面電圧が帯電制御電極の電圧に近づく方向に帯電するため、制御電圧に概ね等しい電圧までウェハが帯電したところで入射電子とウェハから発生する電子とがバランスし、ウェハの表面電圧が安定する。
【0005】
被検査試料の帯電方法について各種の手法が開発されているが、基本的には上述の原理に基づいて帯電状態を形成している。例えば、特開2006−234789号公報(特許文献1)には、検査用ビームとは別の電子源(フラッドガン)から被検査試料に電子線を予備照射し、検査用ビームの照射前に試料を帯電させる発明が開示されている。
【0006】
半導体ウェハ上の回路パターンに存在する欠陥は、製造プロセスの都合上、ウェハの最外周から数10mmの範囲(以下、ウェハ外周部と呼ぶ)に集中する場合が多い。従って、このウェハ外周部を高精度に検査することが必要とされる。ところが、ウェハ端部は、ウェハと真空(あるいは大気)との境界面であり、境界面に電界(以下、周辺電界)が形成される。この周辺電界の歪みにより試料に照射される荷電粒子線が曲げられて画像のひずみや位置ずれが起こる。
【0007】
図19には、前記フラッドガンを用いる方法でウェハを帯電させた場合に発生するウェハ端部の周辺電界形成メカニズムを模式的に示した。図19(a)が正帯電、図19(b)が負帯電にそれぞれ対応する。荷電粒子線顕微鏡においては、ウェハ端部の保護のために、通常、ウェハホルダ1902の直径はウェハの直径よりも大きく設計される。よって、ウェハを帯電するために照射される照射電子線1901の一部はウェハ外側のウェハホルダ周縁部1907にも照射される。ところがウェハホルダは通常は金属製であるため、電位差が生じると電流が流れてしまい、ウェハホルダ周縁部には電位変動が起こらない。
【0008】
制御電極1904にウェハ1903に対して正の電圧1906が印加される場合(図19(a))、ウェハからは二次電子1905が発生して正極性に帯電する。一方、ウェハ外側のウェハホルダ周縁部1907は電位が変化しないため、ウェハホルダ周縁部1907は、正極性に帯電したウェハに対して相対的に負電位となる。その結果、ウェハホルダから発生する二次電子1908の一部がウェハ外周部1909へ供給され、外周部1909の正帯電は弱められる。
【0009】
制御電極1904に、ウェハ1903に対して負の電圧1910が印加される場合(図19(b))、ウェハから発生する二次電子1905がウェハ自身へ戻され、ウェハが負極性に帯電する。一方、ウェハホルダ周縁部1907は電位が変化しないため、ウェハホルダ周縁部1907は負極製に帯電したウェハに対して相対的に正電位となる。その結果、ウェハ外周部1909へ戻ってきた二次電子ないしウェハ外周部で発生した二次電子1911の一部がウェハホルダ周縁部1909へ供給され、ウェハ外周部1909の負帯電が弱められる。これらの結果から、ウェハ外周部の帯電電位は、ウェハ中心部の帯電電位と異なることになる。
【0010】
このような周辺電界の効果を抑制する方法として、特開2004−235149(特許文献2)には、ウェハを保持するウェハホルダの外側(以下、ウェハホルダ周縁部)にリング状の導電部材を配置し、検査ビームの照射中に導電部材に直流電圧を印加して、ウェハ外周部へ入射する電子ビームに対する電界ひずみの影響を低減する技術が開示されている。本文献に開示される発明は、帯電制御というよりはむしろ、ウェハ端部に形成される周辺電界の勾配をリング状導電部材に印加する電位で緩和し、検査ビームが試料表面にきちんと到達できるようにすることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−234789号公報
【特許文献2】特開2004−235149号公報(対応米国特許6903338号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
荷電粒子線検査装置においては、上記の通り、ウェハ端部の検査性能が重要である。このため、ウェハ端部に対してもウェハ中央部と同様な帯電状態を形成することが求められる。しかしながら、従来の予備帯電手法では、ウェハ全面を均一に帯電させることは困難である。例えば、特許文献2に記載されるような、ウェハの外側に配置した部材に直流電圧を印加するような手法を予備帯電に適用しても、均一な帯電を形成することは困難である。以下、図20(a)(b)を用いてその理由について説明する。
【0013】
今、図19(a)(b)に示されるウェハの外周部に、絶縁材2002を介して電極2001を配置し、帯電制御電極と同じ電位を印加すると考える。図20(a)には、正帯電の場合についてこれを示している。この場合、図19(a)に示されるようなウェハホルダ周辺部1907から発生する二次電子は、二次電子1908と1908′に分散してウェハ端部1909および電極2001にそれぞれ到達するため、図19(a)に示されるような正帯電が弱められる効果は抑制されると考えられる。同様に負帯電の場合も、電極2001に印加された負電位が形成する負の電界により、ウェハホルダ周辺部1907の正帯電が形成する正の電界は中和されるため、図19(b)に示されるような負帯電が弱められる効果は抑制されると考えられる。
【0014】
ところで、ウェハの帯電は、ウェハに発生した二次電子と帯電制御電極が形成する電界2003およびウェハの電気特性とが複雑に相互作用しながら進行する現象である。したがって、ウェハ中心部と外周部で均一な帯電状態を形成するためには、ウェハ中心部と周辺部とになるべく同じ帯電形成環境を形成することにより帯電状態を形成することが望ましい。ところが、図20(b)に示されるように、ウェハ外周部に配置した電極2001に最終的なウェハ電位にほぼ等しい電圧を印加すると、帯電初期はウェハの帯電量が少ないためにウェハ端部に形成される電界分布はウェハ中心部に形成される電界分布と異なり、従って、ウェハ中心部と外周部で同じ帯電状態を形成することが困難である。
【0015】
理論的には、電極2001への印加電圧を適当な値に制御すれば、ウェハ中心部の帯電電位と周辺部の帯電電位が同じになるように制御することも可能かもしれないが、ウェハ上に形成される電界分布自体、現在のウェハの帯電電位と制御電極への印加電圧とのバランスで決まるものであり、帯電の進行とともに時々刻々変動する。したがって、電極2001への最適な印加電圧は、帯電の進行に合わせて変動させる必要があり、このような複雑な印加電圧の波形を算出することは極めて困難である。
【0016】
加えて、帯電特性が異なるウェハを検査するという困難がある。検査装置の場合、半導体デバイスの製造ラインを流れてくる多種多様なウェハを検査する必要があり、これらのウェハは、基板上に形成された回路パターンや配線材料あるいは基板材料など、各種の原因により、微妙に帯電特性が異なっている。このような多種多様な帯電特性を持つウェハに対していちいち上記の印加電圧波形の最適値を算出することは煩雑であり、実質的に不可能と言わざるを得ない。
【0017】
そこで、本発明の目的は、ウェハ外周部とウェハ中心部を実質的に均一に帯電させることが可能な荷電粒子線検査装置を提供することにある。更にまた、ウェハの種類が変わっても、ウェハ外周部とウェハ中心部を実質的に均一に帯電させることが可能な荷電粒子線検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明においては、一次荷電粒子線を被検査試料に照射して、当該照射により発生する二次荷電粒子を検出して画像化し、当該画像を用いて被検査試料を検査する荷電粒子線装置において、当該被検査試料の周囲に、ウェハとほぼ同様の帯電特性を持つ部材を配置することにより、ウェハ周辺部とウェハ中央部とで実質的に同質の帯電形成環境を形成する。この帯電特性部材は、電気的にウェハホルダと同電位に置かれる。以降、本明細書では、上記の帯電特性部材を試料カバーと呼ぶことにする。
【0019】
更に、多種多様なウェハに対応するため、本発明においては、試料カバーの電気特性をウェハに応じて変更する点を特徴とする。これにより、ウェハの種類が変わっても、ウェハ外周部とウェハ中心部を実質的に均一に帯電させることが可能な荷電粒子線検査装置を提供することが可能となる。
【0020】
試料カバーの電気特性をウェハに応じて変更する機能を装置実装する方法は各種あるが、詳細は実施例で説明する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ウェハ外周部もウェハ中心部と同等の検査性能を持つ電子線ウェハ検査装置及びウェハ外周部もウェハ中心部と同等の検査性能を持つ電子線ウェハ検査方法を提供することができる。ウェハ外周部の検査可能領域が拡大することにより、半導体デバイス製造の歩留まり向上に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1の荷電粒子線検査装置の荷電粒子カラムおよび真空試料室内の内部構成を示す図。
【図2】実施例1の荷電粒子線検査装置の予備帯電装置の内部構成を示す図。
【図3】実施例1の荷電粒子線検査装置の全体構成を示す上面図。
【図4】ウェハホルダ上で試料カバーの配置を示す上面図。
【図5】実施例1の荷電粒子線検査装置の効果を示す図。
【図6】実施例1の荷電粒子線検査装置のウェハホルダ選択フローの構成例。
【図7】実施例1の荷電粒子線検査装置の試料ホルダを選択する操作画面の一例。
【図8】(a)(b)実施例1の荷電粒子線検査装置の帯電マップ表示画面の一例。
【図9】実施例1の荷電粒子線検査装置のウェハホルダ選択フローの構成例。
【図10】(a)(b)実施例1の荷電粒子線検査装置の吸収電流マップ表示画面の一例。
【図11】実施例2の荷電粒子線検査装置のウェハホルダ選択フローの構成例。
【図12】(a)(b)実施例2の荷電粒子線検査装置のコントラストマップ表示画面の一例。
【図13】実施例3の荷電粒子線検査装置の全体構成を示す上面図。
【図14】実施例3の荷電粒子線検査装置の試料ホルダ断面を示す模式図。
【図15】実施例3の荷電粒子線検査装置の試料カバーの電気特性調整フローの構成例。
【図16】(a)(b)試料カバーの電気特性を調整する操作画面の構成例。
【図17】実施例3の試料カバーの電気特性調整フローの別の構成例。
【図18】実施例3の試料カバーの電気特性調整フローの別の構成例。
【図19】(a)(b)従来の正帯電・負帯電の問題点を説明する模式図。
【図20】(a)(b)ウェハ外周電極による帯電形成方法の問題点を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づき、本発明の具体構成例について説明する。
【0024】
(実施例1)
実施例1では、試料カバーをウェハに応じて変更する機能を、ウェハに応じてウェハホルダを変更することで実現した荷電粒子線装置について説明する。本実施例の荷電粒子線装置は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた検査装置である。まず初めに、図1〜図3を用いて、本実施例の荷電粒子線装置のハードウェア構成について説明する。
【0025】
初めに、図1を用いて走査電子顕微鏡部の内部構成について説明する。図では、主要な構成のみ示しており、ステージ駆動部,真空排気系,予備排気室,操作部などは省略して示している。
【0026】
SEM用電子銃101より、1次電子線102が放出される。前記電子線は、ビーム制限絞り103及び1個あるいは複数個の集束レンズ104により集束される。前記1次電子線102は、対物レンズ105によりウェハ106上にフォーカスされ、偏向器107により第一の領域を走査される。その結果、ウェハから発生した二次電子と反射電子の両方あるいは一方からなる信号電子108は信号電子検出器109により検出される。前記1次電子線102は、必要に応じてブランカ110により偏向され、ウェハ上から退避する。この時、前記プローブはファラデーカップ111内に照射され、1次電子線102の電流量を計測することができる。前記信号電子検出器109は、検出した信号電子108の数あるいはエネルギーに応じた量の電気信号に変換し、信号処理部112へ伝送する。前記電気信号は信号処理部112にて第一の画像に変換され、第一の画像メモリ113に保存される。同様に第二の領域から発生した信号電子により、第二の画像が形成され、第二の画像メモリ114に保存される。比較演算部115にて第一の画像と第二の画像とが比較され、差画像が作られる。欠陥判定部116は前記差画像から、欠陥かそうでないかを判定する。予備帯電用電子源117は、SEM用電子銃101とは別に設けられ、前記電子源117とウェハ106の間に制御電極118を持つ。ウェハ106の表面電位は表面電位計119により計測する。ウェハ106はウェハホルダ120上に配置された静電吸着板121に保持され、移動ステージ122により移動する。移動の範囲は、前記ウェハ106内の全領域に前記1次電子線102が照射できるよう、さらに前記ウェハ106内の全領域に前記予備帯電用電子源117からの電子ビームが照射できるよう、かつ前記ウェハ106内の全領域または一部を表面電位計119が計測できるように定まる。電子線の通過する領域は真空容器123により封じられていて、真空排気系によって高真空が保たれている。以上で述べた走査電子顕微鏡部は、中央制御部124が指令を出し、制御電源125から供給される電気信号により行われる。図では1次電子線102と予備帯電用電子源117がそれぞれ異なる部分に電子を照射する構成を示しているが、同一の場所を照射する構成であっても本発明の効果に変わりはない。
【0027】
本実施例の荷電粒子線装置は、ウェハの試料室への搬送経路上に、ウェハを帯電させるための予備帯電機構を備えている。図2には、予備帯電機構の詳細を示す。ウェハ201の上方に配置された予備帯電用電子源202から、面状の電子ビーム203を取り出す。面状の電子ビームとなるのは、電子レンズによるフォーカス機構がないためであり、電子ビーム203はウェハ201上で10mm〜30mm程度の広がりをもつ。図2に示す電子源202は陰極204とグリッド205とを含み、カソード電源206から供給される陰極電圧が電子ビーム203の加速を定め、グリッド電源207から供給されるグリッド電圧が電子ビーム203の電流量を定める。ウェハ201上での電子ビーム203のエネルギー(以下、照射エネルギー)は、ウェハ201を保持する静電吸着板208を搭載したウェハホルダ209にウェハホルダ用電源210から印加されるホルダ電圧と陰極電圧との差分で定まる。照射エネルギーは0eV〜5keVの間で調節できる。予備帯電用電子源202とウェハ201の間には制御電極211が配置されている。制御電極211には、制御電極電源212から供給される制御電極電圧(以下、制御電圧)が印加される。制御電圧は、ウェハ201に対して正負両極性を取ることができ、その大きさも可変できる。ウェハ201に入射する電流量は吸収電流計213により計測される。
【0028】
図3には、本実施例の荷電粒子線装置の全体構成の上面図を示す。本実施例の荷電粒子線装置には検査対象のウェハ303が収められたウェハポッド304が取り付けられる。前記ウェハ303は、搬送アーム305によって前記ウェハポッド304から取り出され、予備排気室306へ搬入される。予備排気室306には複数個のウェハホルダが配置されている。図3には、第1の試料カバーを備えた第1の試料ホルダ(ウェハホルダA)307,第2の試料カバーを備えた第2の試料ホルダ(ウェハホルダB)308,第3の試料カバーを備えた第3の試料ホルダ(ウェハホルダC)309の3個のホルダを備える構成について示す。本実施例の荷電粒子線装置には、オペレータが各種の制御条件を入力するための操作画面301と操作キーボード302が設けられており、設定された条件に従って、装置がウェハホルダの一つ(ここでは307とする)を自動的に選択する機能を有する。詳細は後述する。
【0029】
ウェハの搬送先となるウェハホルダが決定されると、ウェハ303は搬送アーム305によりウェハホルダ307上に移送され、予備排気後に試料室311へ移動する。試料室311内では、ウェハ303はウェハホルダ307に保持され、ウェハホルダ307は試料ステージ310に保持される。試料室311上には、一次荷電粒子線を被検査試料に照射して、当該照射により発生する二次荷電粒子を二次荷電粒子信号として検出する機能を備えた荷電粒子カラム312が設けられている。本実施例においては、荷電粒子カラム312は、SEM鏡筒である。ウェハ303は荷電粒子カラム312の下で画像取得され、画像処理装置313により欠陥検査が行われる。画像処理装置313には、図1に示す比較演算部115と欠陥判定部116とが機能実装されており、ハードウェア実装(比較演算部用と欠陥判定部用のプロセッサを独立に設ける)される場合もあれば、ソフトウェア実装(汎用のプロセッサを設けて、比較演算部用のプログラムと欠陥判定部用のプログラムを汎用プロセッサに実行させる)場合もある。本荷電粒子線装置は、装置オペレータが操作画面301とキーボード302を介して中央制御部314に指示を送ることによりその動作が制御される。あるいは、中央制御部314が予め記憶しているプログラムに従い、装置を制御する。
【0030】
予備帯電が実行される場合の移動ステージの動きを図4に示す。図では、ウェハが移動せずに予備帯電ビームがウェハ上を移動するように示しているが、本実施例では、固定された予備帯電ビームに対し、ウェハが移動ステージにより移動するものと考える。ウェハ401はウェハホルダ402に保持され、予備帯電ビームの照射スポット403の下を矢印の順に移動する。部材404は試料カバーであり、図5で詳細に説明する。試料カバー404の大きさは、予備帯電ビームの照射スポット403の広がり程度あれば十分である。この部材が、予備帯電中にウェハと等価な役割を果たすため、ウェハ外周部の予備帯電はウェハ中心部と同等になる。
【0031】
図5に、ウェハの周辺部と中央部およびウェハホルダの断面を模式的に示す。ウェハホルダ501には静電吸着板502が固定され、静電吸着板502にウェハ503が保持される。ウェハ503の外側には適当な静電容量と電気抵抗を持つ試料カバー504が配置される。本実施例では、試料カバーの材料は、帯電特性がウェハとほぼ等しくなるように予めテストされたものが使用されているものとする。また、試料カバーの材料は、図3に示す試料ホルダ307〜309で異なっているものとする。試料カバーの材料としては何を用いてもよいが、ウェハの材料であるシリコンが使用される場合が多い。ただし、電気抵抗と静電容量をウェハにあわせて適当に調整するために、金属,酸化物あるいは窒化物などの不純物が添加されている。不純物元素を添加する以外に、シリコン上に適当な元素の膜を形成してもよい。あるいは、シリコン上にウェハと同様なライン&スペースやプラグなどのパターンが形成された部材を試料カバーとして使用してもよい。もちろん、目的とする帯電特性が得られる限り、シリコン単体を試料カバーの材料としてもよい。
【0032】
ウェハ外周部505を予備帯電する時は、前記試料カバー504にも予備帯電ビーム507が当たるように予備帯電する。図2に示したように、制御電極508には、制御電極用電源512が、ウェハホルダ501には、ウェハホルダ用電源511が接続されており、ウェハホルダと試料カバーは、電気的には同電位である。予備帯電ビーム507を照射した結果としてウェハホルダに流れ込む電流(吸収電流)は、吸収電流計510により計測される。試料カバー504の帯電特性がウェハとほぼ同等であり、かつ試料カバーに印加される電位がウェハホルダに印加される電位と等しいため、試料カバー504には、予備帯電ビーム507により、ウェハ503と同程度の帯電電圧が発生し、ウェハの帯電の進行に追随して変化する。これにより、ウェハ上に形成される電位分布509がウェハ外周部と中央部とでほぼ均質になり、よってウェハ外周部505とウェハ中心部506とで同じ帯電電圧を得ることができる。
【0033】
装置が備えておくべきウェハホルダの数は限定されないが、ウェハの材質や工程に対応できるだけ多く用意しておく。例えば、絶縁膜の厚みが厚いウェハや、表面に形成された回路パターンの導電性が低い工程のウェハでは、部材として抵抗値が大きいものを選び、絶縁膜の厚みが薄いウェハや、表面に形成された回路パターンの導電性が低い工程のウェハでは、部材として抵抗値が小さいものを選べばよい。
【0034】
次に、適当なウェハホルダの選択方法について述べる。この方法は、検査レシピの作成手順の中に含まれる。図6にそのフローを示す。検査するウェハの工程や材料に応じて用いるウェハホルダを適切に選び、選択の可否を帯電電位または吸収電流のウェハ面内ばらつきに基づき判定する。また、図3で説明したとおり、本実施例の荷電粒子線装置は複数種類のウェハホルダを備えており、本実施例では、ウェハホルダ選択の初期値がウェハホルダAに設定されるものとする。
【0035】
検査レシピの設定途上で、ウェハホルダの選択画面が呼び出されると、図6のステップ601に示されるウェハホルダの選択ステップが実行される。この作業は、通常は、レシピ設定画面で入力されたウェハ上のプラグや配線材料などの情報をもとに装置が自動設定するが、装置オペレータがマニュアル入力する場合もある。設定の結果、ウェハホルダAが選択されたとする。ステップ602では、ウェハホルダAにウェハがロードされる。ステップ603では、照射電流量,制御電圧,予備帯電範囲,ステージの連続移動速度,ステージの連続移動経路など、予備帯電条件が入力される。ステップ604にて予備帯電が実施される。ステップ602,603,604の指示及び入力は、装置オペレータにより操作画面301とキーボード302を介して行われるが、事前に定めたプログラムにより中央制御部314が自動で行う場合もある。
【0036】
予備帯電の終了後、ステップ605にて表面電位計を使用してウェハ内の帯電電圧分布を取得する。分布を取得する方法は、表面電位計119以外であってもウェハ表面の電圧を知る方法であれば制限はしない。また、ウェハ内の電圧分布は、ウェハ外周部を含んでいれば数点であっても良いし、ウェハ中心部の帯電電圧が既知であれば、ウェハ外周部の一点でも良い。この分布測定を行った結果、ウェハ外周部の帯電電圧がウェハ中心部と帯電電圧とのずれが別途定められた許容値よりも大きかったとする。この場合、中央制御部314は、ステップ606の判定においてウェハ外周部の帯電が最適でないと判断し、ステップ607でウェハを装置外へ搬出する。装置オペレータは、再度ステップ601にてウェハホルダを選択する。ここでは、ウェハホルダBを選択したとする。ステップ602、603,604,605を経て再度の予備帯電と再度の分布測定の結果、許容値以内にずれが収まったとすれば、ステップ606の判定においてウェハ外周部の帯電が最適であると判断し、ウェハホルダBが適切なホルダであると中央制御部314は判断する(ステップ608)。工程の異なるウェハを検査する場合、上記選択方法を実施した結果、ウェハホルダCが選択されることもある。どのウェハホルダも許容値以内に収まることができなかった場合は、中央制御部314はエラーと判断し、レシピ作成作業を終了する。
【0037】
ステップ601でウェハホルダをマニュアル設定する場合に、操作画面301に表示される画面の一例を図7に示す。オペレータは操作画面のウェハロードタブ701を選択したのちに、ホルダ種を定めるプルダウンメニュー702からウェハホルダAを選ぶ。検査するウェハ703をウェハポッド704内から選択し、ウェハ搬入ボタン705を押す。設定された情報は、図1の中央制御部124に送信される。
【0038】
図8(a)および(b)には、ステップ605の電位測定の実行時に操作画面301上に表示される画面の一例を示す。図8(a)はウェハ中心部と帯電電圧とのずれが許容値よりも大きかった場合をあらわし、図8(b)はウェハ中心部と帯電電圧とのずれが許容値よりも小さかった場合をあらわす。ステップ604の予備帯電実施後、操作画面は図8(a)ないし図8(b)に示される画面(帯電計測タブ801により示される画面)に遷移する。この時点では、帯電マップ805には何も表示されない。ホルダ自動判定の基準パラメータを設定するパラメータ設定手段804にて、電圧ばらつきを基準にすることを指定し、許容電圧を予め入力しておく。図8では3Vとしてある。次に、帯電計測の開始ボタン/中止ボタンから開始ボタン802を押し、ウェハ内の帯電電圧計測を開始する。
【0039】
計測終了後、結果表示ボタン803から電圧マップ表示ボタンを選んで押すと、左側のマップ805にウェハ内の帯電電圧を示す等電位線が表示される。図8(a)の場合、帯電電圧のウェハ面内ばらつきが設定した許容電圧3.0Vよりも大きいので、図6のステップ606でウェハホルダが不適切であると判定され、ウェハは搬出され別のウェハホルダが選択される。図8(b)のように許容電圧ばらつき以内に測定結果が収まった時には、ウェハホルダは適切であると判定され、ウェハホルダの選択フローは終了する。以上で本レシピでの使用ホルダが決定され、次のレシピ作成フローへ進む。
【0040】
次に、図6のステップ605で、ホルダ自動判定の基準パラメータとして吸収電流が設定された場合のフローについて説明する。
【0041】
検査レシピの設定途上でウェハホルダの選択画面が呼び出され、図9に示すウェハホルダ選択フローが呼び出されたものとする。ステップ901にて、ウェハホルダAを選択したとする。ウェハホルダ選択の方法は図7に従う。ウェハホルダAを使用しステップ902にてウェハをロードする。ステップ903にて照射電流量,制御電圧,予備帯電範囲,ステージの連続移動速度,ステージの連続移動経路など、予備帯電条件を入力する。ステップ904にて予備帯電を実施し、プリチャージ中の吸収電流値を記憶する。予備帯電の終了後、ステップ905にて測定した吸収電流のばらつきと、別途定められた許容値の大小を比較する。吸収電流のばらつきが許容値よりも大きかったとする。この場合、ステップ905の判定においてウェハ外周部の帯電が最適でないと判断し、ステップ906でウェハを装置外へ搬出し、再度ステップ901にてウェハホルダを選択する。ここでは、ウェハホルダBを選択したとする。ステップ902,903,904を経て再度判定の結果、許容値以内にばらつきが収まったとすれば、ステップ905の判定においてウェハ外周部の帯電が最適であると判断し、ウェハホルダBが適切なホルダであると決定する(ステップ907)。
【0042】
吸収電流ばらつきの判定を行う操作画面を図10に示す。図10(a)は吸収電流のばらつきが許容値よりも大きかった場合をあらわし、図10(b)は吸収電流のばらつきが許容値よりも小さかった場合をあらわす。予備帯電実施後、帯電計測タブ1001を選択する。ホルダ判定基準として、吸収電流ばらつきを基準にすることを1003にて指定し、許容電流ばらつきを予め入力しておく。図8中では1μAとしてある。電流マップ表示ボタン1002を押すと、左側のマップ1004にウェハ内の吸収電流分布を示す図が表示される。図10(a)のように許容電流ばらつき以上に測定結果がばらついた時には、ウェハホルダが不適切であるとして、ウェハを搬出して別のウェハホルダを選択する。図10(b)のように許容電流ばらつき以内に測定結果が収まった時には、ウェハホルダが適切であるとして本レシピでの使用ホルダを決定し、次のレシピ作成フローへ進む。
【0043】
吸収電流値は、ウェハ帯電そのものではなくあくまで帯電状態をある程度反映している量である。よって本来は、図8で述べた帯電電位を判定に用いる方法が望ましい。ただし、以下の2通りの利点がある。一つは帯電状態の経時緩和に左右されない計測ができる点である。予備帯電後の表面電位の経時緩和が大きいウェハの場合、ステップ605での帯電電位測定中に電圧が変動してしまい、正確な帯電マップが取得できない。吸収電流値は予備帯電している瞬間の値であり経時緩和に左右されないため、予備帯電時の帯電状態を反映した正確な帯電マップを取得することが可能である。二つ目には、帯電電圧を計測する場合に比べてウェハホルダ決定までの時間が短縮される点である。帯電電位を計測する場合、図6ないし図8のステップ605の実行に時間を要する。一方、吸収電流測定は予備帯電と同時に実行できるため、予備帯電ステップと帯電状態の計測ステップを分ける必要が無い。かつ、電流測定であるため計測時間も非常に短くてすむ。従って、ウェハホルダ決定までの時間が短縮される。本実施例の荷電粒子線装置は両方の判定手段を備えることで、正確さを重視したレシピ設定モード(帯電電位を計測することでウェハホルダ判定)と、帯電状態の経時変化が大きなウェハに対応できるレシピ設定モード(吸収電流を計測してウェハホルダ判定)の2つが使い分けられることが可能になる。
【0044】
以上の説明は、予備帯電機構を備えた荷電粒子線装置を用いて行ったが、試料カバーとウェハホルダは一体として試料室内に搬送されるため、本実施例の帯電制御機構は検査画像取得用の一次荷電粒子線を用いて帯電制御を行う荷電粒子線装置に対しても適用可能である。また、本実施例の帯電制御方法は、イオンビーム加工装置やヘリウムイオン顕微鏡を用いた検査装置についても適用可能である。更には、ウェハ検査装置のみならず、荷電粒子線顕微鏡を用いた測長装置や観測装置についても適用可能である。以上、本実施例の帯電制御機構により、ウェハ外周部もウェハ中心部と同等の検査性能ないし観測性能を持つ荷電粒子線装置が実現される。
【0045】
(実施例2)
実施例1では、帯電電位ないし吸収電流の実測値を用いてウェハホルダの適否を判定する荷電粒子線装置について説明したが、実施例2では、予備帯電後の荷電粒子線画像を用いてウェハホルダを判定する機能を備えた荷電粒子線装置について説明する。なお、本実施例の装置のハードウェハ構成は、実施例1で説明した構成とほぼ同様であるので説明は省略し、相違点のみを説明する。
【0046】
本実施例の荷電粒子線装置は、ウェハ中心部とウェハ外周部の画像コントラストを比較し、別途定められた許容値よりも違いが大きければ、ウェハホルダを変更する。図11にそのフローを示す。ステップ1101にて、ウェハホルダAを選択したとする。ウェハホルダ選択の方法は図7に従う。ウェハホルダA使用しステップ1102にてウェハをロードする。ステップ1103にて照射電流量,制御電圧,予備帯電範囲,ステージの連続移動速度,ステージの連続移動経路など、予備帯電条件を入力する。ステップ1104にて予備帯電を実施する。
【0047】
予備帯電の終了後、ステップ1105にてウェハ外周部から中心部に向かってウェハの半径方向に沿ってSEM画像を取得し、画像コントラストを算出する。画像コントラストは、取得した一枚のSEM画像に含まれる特徴的な第一の部位の平均輝度と、特徴的な第二の部位の平均輝度の差を計算することにより求められる。すなわち、画像コントラストとは、取得したSEM画像内の異なる二箇所の部分の輝度の差である。計算は、図1の中央制御部124により実施される。
【0048】
前記画像を取得する場所は、ウェハ外周部とウェハ中心部を含んでいれば数点であっても良いし、ウェハ中心部の画像が既知であれば、ウェハ外周部の一点でも良い。ステップ1106にて、上記数点で取得した画像の画像コントラストのばらつきを計算する。一点のみで画像取得する場合は、その点の画像コントラストと、既知のウェハ中心部画像のコントラストとの差を計算する。計算したコントラストのばらつきあるいは差を、別途定められたばらつき許容値と比較する。前記ばらつきあるいは差が許容値よりも大きかったとする。この場合、図1の中央制御部124は、ステップ1106の判定においてウェハ外周部の帯電が最適でないと判断し、ステップ1107でウェハを装置外へ搬出し、再度ステップ1101にてウェハホルダを選択する。
【0049】
ここでは、ウェハホルダBを選択したとする。ステップ1102,1103,1104,1105を経て再度判定の結果、許容値以内にばらつきが収まったとすれば、ステップ1106の判定においてウェハ外周部の帯電が最適である判断し、ウェハホルダBが適切なホルダであると決定する(ステップ1108)。画像に基づく判定基準は、コントラストの代わりに画像の明るさ(画像を構成する全画素の平均輝度)を使用しても良い。
【0050】
図11のステップ1105で操作画面301上に表示される画面を図12に示す。図12(a)はコントラストのばらつきが許容値よりも大きかった場合をあらわし、図12(b)はコントラストのばらつきが許容値よりも小さかった場合をあらわす。予備帯電実施後、明るさ校正タブ1201を選択する。ホルダ判定基準として、画像コントラストばらつきを基準にすることを1204にて指定し、許容コントラストばらつきを予め入力しておく。図12中では10%としてある。画像取得ボタン1202を押すと、ウェハ面内でSEM画像の取得が行われ、コントラストマップ表示ボタン1203を押すと左側のマップ1205にウェハ内のSEM画像コントラスト分布が表示される。図12(a)のように許容ばらつき以上に測定結果がばらついた時には、ウェハホルダが不適切であるとして、ウェハを搬出して別のウェハホルダを選択する。図12(b)のように許容ばらつき以内に測定結果が収まった時には、ウェハホルダが適切であるとして本レシピでの使用ホルダを決定し、次のレシピ作成フローへ進む。
【0051】
本実施例の荷電粒子線装置は、画像コントラストの代わりに画像明るさのばらつき(SEM画像を構成する全ピクセルの平均輝度のばらつき)を判定基準にすることも可能である。その場合は、1204部で許容明るさばらつきを指定し、許容値を入力しておく(図12では20階調)。本実施例のウェハホルダ選択フローの場合、ウェハ上の局所位置の画像を取得して画像処理を行う必要があり(図11のステップ1105)、この処理に時間を要するため、ウェハホルダ判定に要する時間自体は、実施例1のフローよりは長くなる。しかし、ホルダの選択の良否を画像で行う本実施例の判定フローは、「ウェハ外周部もウェハ中心部と同等の検査性能を持つ電子線ウェハ検査装置」を実現する点では、実施例1よりも直接的で精度が高い。
【0052】
(実施例3)
実施例1,2の荷電粒子線装置では、物理的に異なる試料カバーを複数備えた構成について説明したが、本実施例では、試料カバーの帯電特性を調節可能な荷電粒子線装置の構成例について説明する。なお、本実施例の荷電粒子線装置は、走査電子顕微鏡を用いたウェハ検査装置(SEM式ウェハ検査装置)であり、走査電子顕微鏡の構成自体は、実施例1および2の装置と同様であるので説明は省略する。
【0053】
図13には、本実施例の荷電粒子線装置の上面図を示す。操作画面1301と操作キーボード1302は、装置オペレータにより使用される操作手段であり、装置の制御に必要な情報やデータが入力される。ウェハポッド1304,搬送アーム1305,予備排気室1306,ウェハホルダ1307,試料室1309,SEM鏡筒1310および画像処理装置1311の構成および機能は、実施例1,2の構成(図3)と同じであるが、本実施例の構成では、予備排気室1306は1つのみ設けられている。これは、試料カバーを含むウェハホルダ自体に帯電特性を調整する機能が備わっているため、ウェハホルダ1307を複数用意する必要がないためである。詳細については後述する。
【0054】
図14に、ウェハホルダの詳細を示す。ウェハホルダ1401には静電吸着板1402が固定され、静電吸着板1402にウェハ1403が保持される。ウェハ1403の外側に、導電性の試料カバー1404が配置されている。前記試料カバー1404と前記ホルダ1401の間は絶縁材1405で絶縁されている。本実施例のウェハホルダは、試料カバー1404に加えて、試料カバーの静電容量と抵抗値を調整するための可変コンデンサ1407および可変抵抗器1406を備えている。前記可変コンデンサ1407と可変抵抗器1406は図2の210,212同様に制御回路の一部であり、図1の制御電源125内に搭載してある。
【0055】
可変抵抗体1406と可変コンデンサ1407は互いに並列接続されており、前記試料カバー1404と前記ホルダ1401に対して配線で接続されている。試料カバー1404は導電性材料により構成されるが、抵抗率や静電容量などの電気特性は検査対象であるウェハに近いほうがよいので、例えば、窒化シリコンなどが使用される。通常のシリコン上に窒化シリコンを製膜した材料を使用してもよい。あるいは、実施例1で説明したように、帯電特性を調整するための不純物元素が添加されたシリコンや、表面に配線パターンやプラグなどが形成されたシリコンを使用してもよい。
【0056】
ウェハ外周部1408を予備帯電する時は、前記部材1404にも予備帯電ビーム1410が当たるように予備帯電する。試料カバー1404の大きさは、図4を用いて述べた部材404と同様である。試料カバー1404の厚みは、予備帯電ビーム1410が貫通しないように十分厚くする。可変抵抗体1406と可変コンデンサ1407の設定値を適切に選ぶことで、予備帯電ビーム1410により、ウェハ1403と同程度に試料カバー1404にも電圧が発生し、ウェハ外周部1408はウェハ中心部1409と同じ帯電電圧を得ることができる。1411は制御電極である。
【0057】
図15には、可変抵抗体1506と可変コンデンサ1507の設定値(以下、RC値)の定め方を示すフローの一例を示す。まずステップ1501にてウェハをロードする。ステップ1502にて仮のRC値を入力し、ステップ1503にて照射電流量,制御電圧,予備帯電範囲,ステージの連続移動速度,ステージの連続移動経路など、予備帯電条件を入力する。ステップ1504にて予備帯電を実施する。予備帯電の終了後、ステップ1505にてウェハ内の帯電電圧分布を取得する。分布測定に関しては、図8を用いて述べた内容に従う。この分布測定を行った結果、ウェハ外周部の帯電電圧がウェハ中心部と帯電電圧とのずれが別途定められた許容値よりも大きかったとする。この場合、ステップ1506の判定においてウェハ外周部の帯電が最適でないと判断し、ステップ1507でRC値を変更し、ステップ1504へ戻る。許容値以内にずれが収まるまで、ステップ1504〜1506を繰り返す。許容値以内にずれが収まったとすれば、ステップ1506の判定においてウェハ外周部の帯電が最適であると判断し、検査に最適なRC値が決定する(ステップ1508)。RC値を試行錯誤で最適化するのは大変なので、実際には、ウェハの配線パターンや配線材料、あるいは配線や絶縁膜の厚みなど、ウェハの特性情報に対するRCの最適値がデータベース化され、画像処理装置1311内に格納されている。図15に示すフローの実行時には、当該データベースを参照してRCの初期値が設定され、ステップ1506の判定ステップを一度で通過するように構成される。
【0058】
ステップ1507でRC値を変更する場合、RC値の入力作業はオペレータが行う。その操作画面を図16に示す。図16(a)は、直接RC値を指定する場合の操作画面である。オペレータは操作画面の予備帯電タブ1601を選択したのちに、ホルダ条件として、抵抗値1603,容量値1604を設定する。予備帯電の条件を1602欄に入力し、予備帯電開始ボタン1605を押し、予備帯電を開始する。図16(b)は、検査するウェハの製造工程から間接的にRC値を指定する場合の操作画面である。オペレータは操作画面の予備帯電タブ1601を選択したのちに、プロセス条件を1606にて選択する。各プロセスにはRC値が予め決められている。予備帯電の条件を1602欄に入力し、予備帯電開始ボタン1605を押し、予備帯電を開始する。帯電測定結果の判定については、実施例1と同様に、図8に従う。
【0059】
RC値を決定する別の方法として、予備帯電実施中に、ウェハに流れる吸収電流を計測し、計測結果に基づいてRC値が適切か不適切か判断しても良い。図17にそのフローを示す。ステップ1701にてウェハをロードする。ステップ1702にて仮のRC値を入力し、ステップ1503にて照射電流量,制御電圧,予備帯電範囲,ステージの連続移動速度,ステージの連続移動経路なと、予備帯電条件を入力する。ステップ1704にて予備帯電を実施し、プリチャージ中の吸収電流値を記憶する。予備帯電の終了後、ステップ1705にて測定した吸収電流のばらつきと、別途定められた許容値の大小を比較する。吸収電流のばらつきが許容値よりも大きかったとする。この場合、ステップ1705の判定においてウェハ外周部の帯電が最適でないと判断し、ステップ1706でRC値を変更する。再度ステップ1704にて予備帯電を行い、ステップ1705の判定の結果、許容値以内にばらつきが収まったとすれば、ウェハ外周部の帯電が最適である判断し、RC値が決定する(ステップ1707)。吸収電流測定結果の判定については、実施例1と同様に、図10に従う。
【0060】
あるいはRC値を決定する別の方法として、予備帯電後に、ウェハ中心部とウェハ周縁部のSEM画像を取得する。ウェハ中心部とウェハ外周部の画像コントラストを比較し、別途定められた許容値よりも違いが大きければ、RC値を変更する。図18にそのフローを示す。ステップ1801にてウェハをロードする。ステップ1802にて仮のRC値を入力し、ステップ1803にて照射電流量,制御電圧,予備帯電範囲,ステージの連続移動速度,ステージの連続移動経路など、予備帯電条件を入力する。ステップ1804にて予備帯電を実施する。予備帯電の終了後、ステップ1805にてウェハ面内のある場所でSEM画像を取得する。前記画像を取得する場所は、ウェハ外周部を含んでいれば数点であっても良いし、ウェハ中心部の画像が既知であれば、ウェハ外周部の一点でも良い。ステップ1806にて、ウェハ外周部で取得した画像コントラストとウェハ中心部で取得した画像コントラストのずれと、別途定められたばらつき許容値の大小を比較する。ウェハ外周部とウェハ中心部のコントラストのずれが許容値よりも大きかったとする。この場合、ステップ1806の判定においてウェハ外周部の帯電が最適でないと判断し、ステップ1807でRC値を変更する。再度ステップ1804にて予備帯電を行い、ステップ1805の判定の結果、許容値以内にばらつきが収まったとすれば、ウェハ外周部の帯電が最適である判断し、RC値が決定する(ステップ1807)。画像に基づく判定基準は、コントラストの代わりに画像明るさを使用しても良い。
【0061】
実施例1,2で説明した荷電粒子線装置の構成は、物理的に複数の試料ホルダを用意するものであり、帯電特性のかけ離れたウェハを検査する上では実際には困難があったが、本実施例の荷電粒子線装置の場合は、帯電特性が全く異なるウェハであってもウェハ中心部から周辺部にわたり均質な帯電状態を形成することが可能である。また、予備真空排気室が一つですむため、装置の製造コストも低減されるという利点がある。また、RC値の決定はウェハ搬出を伴わず、かつ連続的に行えるため、実施例1,2と比較して短時間で高精度なウェハホルダ選定が可能となる。
【0062】
なお、実施例1,2と同様、本実施例の帯電制御機構は、予備帯電用の荷電粒子線源ではなく一次荷電粒子線を用いて帯電制御を行う荷電粒子線装置に対しても適用可能である。また、本実施例の帯電制御方法は、イオンビーム加工装置やヘリウムイオン顕微鏡を用いた検査装置についても適用可能である。更には、ウェハ検査装置のみならず、荷電粒子線顕微鏡を用いた測長装置や観測装置についても適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
101 SEM用電子銃
102 1次電子線
103 ビーム制限絞り
104 集束レンズ
105 対物レンズ
106,201,303,401,503,1303,1403 ウェハ
107 偏向器
108 信号電子
109 信号電子検出器
110 ブランカ
111 ファラデーカップ
112 信号処理部
113 第一の画像メモリ
114 第二の画像メモリ
115 比較演算部
116 欠陥判定部
117,202 予備帯電用電子源
118,211 制御電極
119 表面電位は表面電位計
120,209,402,501,1307,1401 ウェハホルダ
121,208,502,1402 静電吸着板
122 移動ステージ
123 真空容器
124,314,1312 中央制御部
125 制御電源
203 面状の電子ビーム
204 陰極
205 グリッド
206 カソード電源
207 グリッド電源
210,511 ウェハホルダ用電源
212,512 制御電極電源
213,510 吸収電流計
301,1301 操作画面
302,1302 操作キーボード
304,1304 ウェハポッド
305,1305 搬送アーム
306,1306 予備排気室
307 ウェハホルダA
308 ウェハホルダB
309 ウェハホルダC
310,1308 試料ステージ
311,1309 試料室
312 SEM鏡筒
313,1311 画像処理装置
403 予備帯電ビームの照射スポット
404,504,1404 試料カバー
505,1408 ウェハ外周部
506,1409 ウェハ中央部(内周部)
507,1410 予備帯電用荷電粒子線
508,1411 帯電制御電極
509 電位分布
1310 荷電粒子線カラム
1405 絶縁材
1406 可変抵抗
1407 可変コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次荷電粒子線を試料に照射して、当該照射により発生する二次荷電粒子を検出する機能を備えた荷電粒子カラムと、
前記荷電粒子カラムの下部に配置された真空試料室と、
前記試料を載置する試料ホルダを格納し、当該試料の載置された試料ホルダを前記真空試料室へ搬出するための第1の試料交換室と第2の試料交換室とを有し、
前記第1の試料交換室は、第1の試料ホルダを格納し、前記第2の試料交換室は、第2の試料ホルダを格納し、
前記第1の試料ホルダおよび第2の試料ホルダは、試料載置面の周囲に形成された試料カバーを有し、
当該試料カバーの材質は、前記第1の試料ホルダと第2の試料ホルダとで異なることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記試料の種類に応じて、前記第1の試料ホルダないし第2の試料ホルダのいずれを使用するか判定する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記試料を前記第1の試料交換室または第2の試料交換室に搬入するための搬入装置を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3に記載の荷電粒子線装置において、
前記試料の種類に応じて、前記第1の試料交換室または第2の試料交換室のいずれに前記試料を搬入するかを判定する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置において、
前記試料カバーが絶縁体により構成されたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
一次荷電粒子線を試料に照射して、当該照射により発生する二次荷電粒子を検出する機能を備えた荷電粒子カラムと、
前記荷電粒子カラムの下部に配置され、前記試料を載置する試料ホルダを格納する真空試料室とを有し、
前記試料ホルダは、試料載置面の周囲に形成された試料カバーを有し、
更に、前記試料カバーの電気特性を調整する手段を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6に記載の荷電粒子線装置において、
前記試料カバーの電気特性を調整することにより、前記試料周辺部の帯電特性を調整することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項6に記載の荷電粒子線装置において、
前記試料カバーの電気特性を調整する手段として、前記試料カバーに接続された抵抗器とコンデンサと、当該抵抗器とコンデンサに対して電圧を印加する手段とを備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項8に記載の荷電粒子線装置において、
前記抵抗器とコンデンサとは、可変抵抗器および可変容量コンデンサであり、
前記試料の帯電特性に応じて当該可変抵抗器および可変容量コンデンサの設定値を調整する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線装置の制御情報を設定するための画面表示手段を備え、
当該画面表示手段には、前記試料の種類を示す識別情報の入力要求と、前記試料に対して使用する試料ホルダの種類を示す識別情報の入力要求とが表示されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項4に記載の荷電粒子線装置において、
前記制御装置に対して情報を入力するための画面表示手段を備え、
当該画面表示手段には、前記試料の種類を示す識別情報の入力要求と、前記試料に対して使用する試料交換室の種類を示す識別情報の入力要求とが表示されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記第1の試料ホルダに対応した前記試料の帯電状態を示す第1の帯電マップと、前記第2の試料ホルダに対応した前記試料の帯電状態を示す第2の帯電マップとが表示される画面表示手段を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項8に記載の荷電粒子線装置において、
前記試料ホルダの電気特性に対応した前記試料の帯電状態を示す帯電マップが表示される画面表示手段を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2011−14414(P2011−14414A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158370(P2009−158370)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】