説明

薄板状ワークの研削方法及び両頭平面研削盤

【課題】ワークの両側面を研削する一対の研削砥石の切れ味の違いを極力解消でき、所定の研削精度を長期間にわたって安定的に維持できるようにする。
【解決手段】薄板状ワークWを保持する一対の静圧パッド1,2と、静圧パッド1,2間に保持されたワークWの両側面を研削する一対の研削砥石5,6と、研削中のワークWの両側面の位置を測定する一対の測定ヘッド9,10と、ワークWの両側面の基準値M1,M1と各測定ヘッド9,10の測定値M1,M1との減算により算出したワークWの両側面の位置を比較して両研削砥石5,6の切れ味差を求める切れ味比較手段26と、両研削砥石5,6に切れ味差があるときに、両研削砥石5,6の切れ味が同じになるように、研削砥石5,6の切れ味に関係する研削条件を切れ味差に応じて補正する研削条件補正手段27とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハ等の薄板状ワークを研削する際に使用する薄板状ワークの研削方法及び両頭平面研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
両頭平面研削盤を使用してシリコンウェーハ等の薄板状ワークの両側面を一対の研削砥石により研削する際には、一対の測定ヘッドを有する測定手段により研削中のワークの厚さを測定し、その測定値が研削基準値と一致するように制御して、所定の寸法精度に仕上げるインプロセス定寸研削が採用されている(特許文献1)。
【0003】
例えばマスタワークと同一厚さに研削する場合であれば、先ずマスタワークの研削時に測定手段によりマスタワークの厚さを測定して、このマスタワークの厚さをその研削環境下における研削基準値と決定してゼロイングする。そして、実際のワークの研削に当たっては研削中に同一の測定手段によりワークの厚さを測定し、その測定値がゼロイングされた研削基準値と一致したときのゼロ信号によりスパークアウトに移行し、そのスパークアウトを一定時間継続した後に、研削砥石を後退させて研削を終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−71713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなインプロセス定寸研削を採用すれば、マスタワークと同じ研削環境下でワークを研削できるため、ワークをマスタワークと同一厚さに仕上げることができる。しかし、両研削砥石の切れ味に差があれば、ワークの両側面の仕上がり状態に大きな違いが生じ、所定の研削精度を長期にわたって安定的に維持できない欠点がある。
【0006】
即ち、両頭平面研削盤において、一対の静圧パッドにより静圧的に保持されたワークを、一対の研削砥石により両側から研削するに際しては、図14に示すように粗研削、中研削及び仕上げ研削を経てワークを所定の研削精度に研削する。この場合、研削精度のより高精度化が求められる現在、ワークの研削中は一対の研削砥石の切れ味が常に同じであることが非常に重要である。
【0007】
一対の研削砥石の切れ味が等しいときには、各研削砥石によるワークの取り代は図14に実線で示すように同じである。しかし、実際の研削砥石には個々の砥石摩耗量にバラツキがあるため、研削砥石を長期間使用すれば、研削砥石の砥石摩耗量の違いによって研削砥石の切れ味に大きな差が発生する。
【0008】
砥石摩耗量の大きい研削砥石では、砥粒の自生作用が持続して切れ味が良いため、図14に一点鎖線で示すように取り代が多くなる。これに対して砥石摩耗量の小さい研削砥石では、砥粒間の目詰まり等により切れ味が悪いため、図14に二点鎖線で示すように取り代が少なくなる。その結果、ワークの仕上げ寸法が同じであっても、研削砥石の切れ味の差によってワークの両側面の仕上がり状態に大きな違いが生じる。
【0009】
切れ味の良い研削砥石で研削されたワークの表面は粗面状となり、切れ味の悪い研削砥石で研削されたワークの表面は研磨に近い鏡面状となる等、ワークの両側面の仕上がり状態に大きな違いが生じる。そして、このような研削状態のワークをそのまま放置すれば、ワークの粗面側と鏡面側との表面積の違いにより、表面積の大きい粗面側が外側となり表面積の小さい鏡面側が内側となるようにワークに反りが発生する惧れがある。
【0010】
また切れ味の違う研削砥石によってワークを研削した場合、ワーク自体が所定の仕上げ厚みであっても、そのワークの両側面に取り代の差に応じた応力が作用し、ワークの両側面が取り代の差に応じたダメージを受けるため、その応力やダメージが大きければ研削精度が基準値から外れて不良品となる等の問題もある。
【0011】
更に一対の静圧パッド間のワークは、通常、各静圧パッドの保持面側から供給される保持水によって左右均等に保持されるため、ワークの理想的な研削位置は静圧パッド間の中央であり、その位置を研削基準位置として研削したい。しかし、実際のシリコンウェーハ等のワークの素材形状をみた場合、側面に反りがある等必ずしも完全な平面ではなく、厚みも不揃いであるため、平坦度等の研削精度が基準値内に収まるときのワークの位置が、静圧パッド間の中央とならず、それが左右の研削砥石の切れ味に影響することもある。
【0012】
このように各研削砥石の砥石摩耗量の違いに起因する切れ味の良し悪しによってワークの研削精度に大きな影響が生じるにも拘わらず、実際には研削砥石の砥石摩耗の要因は多くあり、その多くの砥石摩耗の要因に則して両研削砥石の切れ味が常に同じになるように両研削砥石の研削条件を調整することは非常に困難である。そのため従来のシリコンウェーハ等の研削では、各研削砥石の砥石摩耗量の違いに起因する切れ味のバラツキによって多くの不良品が発生し、その結果、製品コストの増加、歩留りの悪化を招くという問題がある。
【0013】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、各研削砥石の砥石摩耗量の違いによる切れ味の違いを極力解消でき、所定の研削精度を長期間にわたって安定的に維持できる薄板状ワークの研削方法及び両頭平面研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る薄板状ワークの研削方法は、一対の静圧パッド間に保持された薄板状ワークの両側面を一対の研削砥石により研削するに際し、研削中のワークの両側面の位置を測定して両研削砥石の切れ味を判断し、両研削砥石間に切れ味差があるときに、両研削砥石の切れ味差がなくなるように、切れ味の変化に関係する研削条件を切れ味差に応じて補正するものである。
【0015】
研削中のワークの両側面の位置を比較してその差分により両研削砥石の砥石摩耗量の違いを算出し、この砥石摩耗量の違いに基づいて両研削砥石の切れ味差を判断しても良い。事前の研削においてワークの研削精度が基準精度内に収まったときのワークの両側面の位置を基準値とし、この基準値と研削中のワークの両側面の測定値との減算によりワークの両側面の位置を算出しても良い。
【0016】
研削中のワークの相対位置を算出し、この相対位置と静圧パッド間にワークが適正に保持されるべき研削基準位置とを比較しその差分により切れ味差を判断しても良い。当該ワークの研削中に研削砥石とワークとの間に供給される研削水の流量を切れ味差に応じて調整しても良い。当該ワークの研削において定寸装置からワークの定寸を示すゼロ信号を受信したときの研削砥石の切れ味差に応じて、当該ワークの研削後に研削砥石の回転数及び/又は切り込み速度を調整しても良い。
【0017】
本発明の係る両頭平面研削盤は、一対の静圧パッド間に保持された薄板状ワークの両側面を一対の研削砥石により研削する両頭平面研削盤において、研削中のワークの両側面の位置を測定する一対の測定ヘッドと、ワークの両側面の基準値と各測定ヘッドの測定値との減算により算出したワークの両側面の位置を比較して両研削砥石の切れ味差を求める切れ味比較手段と、両研削砥石に切れ味差があるときに両研削砥石の切れ味が同じになるように研削砥石の切れ味に関係する研削条件を切れ味差に応じて補正する研削条件補正手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、研削中のワークの両側面の位置を測定して両研削砥石の切れ味を判断し、両研削砥石間に切れ味差があるときに、両研削砥石の切れ味差がなくなるように、切れ味の変化に関係する研削条件を切れ味差に応じて補正するため、ワークの両側面を研削する一対の研削砥石の切れ味の違いを極力解消でき、所定の研削精度を長期間にわたって安定的に維持できる利点がある。従って、ワークの研削精度が向上すると共に、ワークの歩留りが向上する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す横型両頭平面研削盤の平面構成図である。
【図2】同側面図である。
【図3】同制御系のブロック図である。
【図4】同表示手段の説明図である。
【図5】同位置測定方法の説明図である。
【図6】同位置測定用の治具等の平面断面図である。
【図7】同位置測定用の治具等の側面図である。
【図8】同位置測定方法の説明図である。
【図9】同試研削時のフローチャート図である。
【図10】同本研削時のフローチャート図である。
【図11】同切れ味差の説明図である。
【図12】本発明の第2の実施形態を示すブロック図である。
【図13】同研削水の流量調整の説明図である。
【図14】研削砥石の切れ味の違いによる取り代差の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて詳述する。図1〜図11は本発明を採用した横型両頭平面研削盤を例示する。この横型両頭平面研削盤は、図1、図2に示すように、左右に相対向して配置され且つ薄板状ワークWを保持する左右一対の静圧パッド1,2と、各静圧パッド1,2の凹部3,4に対応して左右方向の軸心廻りに回転自在に配置され且つ静圧パッド1,2により保持されたワークWの左右の両側面を研削する左右一対の研削砥石5,6と、静圧パッド1,2により保持されたワークWを中心廻りに回転させるキャリア(図示省略)と、静圧パッド1,2の切り欠き部7,8に対応してワークWの左右両側に配置された左右一対の測定ヘッド9,10とを備えている。
【0021】
静圧パッド1,2はワークWを保持する前進位置とワークWから退避する退避位置との間で左右方向に移動自在であり、前進位置ではワークWと対向する保持面側に供給される保持水等の保持流体を介してワークWを静圧的に保持するようになっている。
【0022】
研削砥石5,6はカップ型等であって、軸受箱11,12により回転自在に支持された砥石軸13,14の先端に設けられ、砥石駆動モータ15,16により回転駆動される。軸受箱11,12は摺動案内機構(図示省略)を介して左右方向に移動自在に支持され、切り込み軸駆動モータ(図示省略)の駆動により、切り込み軸(図示省略)、摺動案内機構等を介して左右方向に移動し、研削砥石5,6を研削前進端と研削後退端との間で左右方向に移動させる。
【0023】
測定ヘッド9,10はワークWの両側面の位置を測定するものであって、枢支部9a,10aを介して固定側の支持部材17により揺動自在に支持され、先端の測定子9b,10bがワークWの側面に接触したときの測定ヘッド9,10の枢支部9a,10a廻りの角度変位に応じた電気信号を出力するようになっている。なお、測定ヘッド9,10は静圧パッド1,2に接触するワークWを介して静圧パッド1,2の位置を測定することも可能である。
【0024】
各測定ヘッド9,10はインプロセス定寸研削用の定寸装置18の一部を構成するものであって、その出力端側はアンプ19に接続されている。定寸装置18は研削制御装置20に接続されている。定寸装置18は研削中にワークWの研削精度が基準精度内に収まったとき(例えばワークWが所定の厚さになったとき)にゼロ信号を出力して、研削制御装置20の研削動作制御手段21の制御により、スパークアウトその他の所定の動作に移行させるようになっている。
【0025】
研削制御装置20は図3に示すように、ワークWの挿入から取り出しまでの一連の研削動作を制御する従来公知の研削動作制御手段21の他に、測定ヘッド9,10からの測定値M1,M2に基づいてリアルタイムでワークWの位置を演算する位置演算手段22と、ワークWの試研削等の事前の研削においてワークWの研削精度が基準精度内に収まったときのワークWの相対位置Xを本研削時の研削目標である研削基準位置X0と決定してゼロイング(記憶手段に記憶)する研削基準位置設定手段23と、各ワークWの本研削時に位置演算手段22により演算されたワークWの相対位置Xと既に記憶された研削基準位置X0とを比較して両者の差分(両者の位置ズレ)を求める位置比較手段24と、ワークWの相対位置Xと研削基準位置X0とに差分がある場合に、次の研削時に研削砥石5,6の研削前進端が一致(研削砥石5,6の研削前進端まで前進したときの各測定ヘッド9,10からの測定値M1,M2が研削基準位置X0を決定したときのワークWの両側面の基準値M1r,M2rと一致)するように、ワークWの研削の終了後にその差分に応じて研削砥石5,6の研削後退端を補正する後退端補正手段25と、測定ヘッド9,10からのワークWの両側面の測定値M1,M2と研削基準位置X0を決定したときのワークWの両側面の基準値M1r,M2rとを減算してワークWの両側面の位置R1,R2を算出し、その両側面の位置R1,R2をリアルタイムで比較して差分することにより両研削砥石5,6の砥石摩耗量の違いを算出して、その砥石摩耗量の違いに基づいて両研削砥石5,6の切れ味差を求める切れ味比較手段26と、両研削砥石5,6に切れ味差がある場合に、両研削砥石5,6の切れ味が同じになるように、研削砥石5,6の切れ味に関係する研削条件を両研削砥石5,6の切れ味差に応じて補正する研削条件補正手段27と、ワークWの研削基準位置X0に対する相対位置Xの変化、ワークWの両側面の位置R1,R2等を表示する表示手段28とを備え、ROM、RAM、CPU等を含むマイコン等により構成されている。
【0026】
なお、ワークWの両側面の位置R1,R2をリアルタイムで比較することによって、その両側面の位置R1,R2の差により両研削砥石5,6の砥石摩耗量の他に、両研削砥石5,6によるワークWの合計取り代を算出することもできる。
【0027】
表示手段28は図4に示すようにワークWの相対位置Xをバーグラフ表示する相対位置表示部29と、ワークWの左右両側面の位置R1,R2をバーグラフ表示するワーク位置表示部30,31とを有する。相対位置表示部29は左右方向に長い横長状であって、この相対位置表示部29にはゼロイングされた研削基準位置X0を中心に左右方向に所定の目盛が付され、その研削基準位置X0に対するワークWの相対位置Xの変化を指針等の指示部29aにより表示するようになっている。
【0028】
ワーク位置表示部30,31は上下方向に長い縦長状であって、ワークWの左右両側面に対応して左右に並べて配置されている。各ワーク位置表示部30,31には上下方向に所定の目盛が付され、ワークWの両側面の位置R1,R2を下から上(又は上から下)に伸びる指示部30a,31aにより表示するようになっている。なお、相対位置表示部29、ワーク位置表示部30,31の方向は任意であり、また相対位置表示部29、ワーク位置表示部30,31は相対位置X、ワークWの両側面の位置R1,R2を数値で表示するようにしても良い。また表示手段28は必要に応じて後述の各情報を表示する表示部(図示省略)を有する。
【0029】
両頭平面研削盤によりシリコンウェーハ等のワークWの研削中は、研削砥石5,6の砥石摩耗による僅かな砥粒の脱落、ワークWの僅かな形状の違い、ワークWと一対の静圧パッド1,2との間の水膜の微妙な変化等の影響、取り分け研削砥石5,6の砥石摩耗量のバラツキの影響を受けて両研削砥石5,6の切れ味、ワークWの相対位置X、ワークWの両側面の位置R1,R2が時々刻々と変化する。
【0030】
しかし、表示手段28に相対位置表示部29、ワーク位置表示部30,31を設けて、その相対位置表示部29によりワークWの相対位置Xを表示し、ワーク位置表示部30,31によりワークWの両側面の位置R1,R2を表示することにより、両研削砥石5,6の切れ味、ワークWの相対位置X、ワークWの両側面の位置R1,R2の変化を可視化することができる。
【0031】
位置演算手段22は砥石駆動モータ15,16の負荷電流の上昇、回転数の低下等から研削砥石5,6によるワークWの挟み込みを判定する挟み込み判定部34と、ワークWの挟み込みの確認後に各測定ヘッド9,10からの測定値M1,M2を取り込んで静圧パッド1,2間のワークWの相対位置X等を演算する位置演算部35とを有する。
【0032】
挟み込み判定部34はワークWの厚みTが既知であることを利用して、ワークWの位置監視のタイミングを研削条件に適宜設定して、研削サイクルの開始後にそのタイミングが到来することにより、研削砥石5,6によるワークWの挟み込みを判断するようにしても良い。位置演算部35は測定ヘッド9,10からの測定値M1,M2に基づいて、静圧パッド1,2間の中心位置に対するワークWの絶対的位置である絶対位置Xabs、静圧パッド1,2間にワークWが適正に保持されるべき研削基準位置X0、静圧パッド1,2間に保持されるワークWの相対位置Xを随時演算して記憶するようになっている。
【0033】
研削基準位置設定手段23は研削基準位置X0をゼロイングするゼロイング部36と、その研削基準位置X0が適正か否かを絶対位置Xabsの絶対値|Xabs|に基づいて判定する基準位置判定部37とを有する。
【0034】
ゼロイング部36は試研削等の事前の研削においてワークWの研削精度が基準精度内に収まったとき、例えば定寸装置18が出力するゼロ信号を受信したときに、その時点の各測定ヘッド9,10の測定値M1,M2に基づいて演算された相対位置Xを位置演算部35から読み出して、その相対位置Xを研削目標である研削基準位置X0としてゼロイングするようになっている。従って、相対位置表示部29は研削基準位置X0をゼロとして、この研削基準位置X0に対するワークWの研削中に相対位置Xの変化を指示部29aの左右方向の位置により表示する。
【0035】
基準位置判定部37は位置演算部35で演算された研削基準位置X0のゼロイング時のワークWの静圧パッド1,2間の絶対位置Xabsを読み出して、その絶対位置Xabsの絶対値|Xabs|が研削精度に応じて予め設定された閾値未満であるか否かを判定するようになっており、例えば絶対値|Xabs|が閾値未満であれば、表示手段28に研削基準位置設定範囲内であることを表示して研削基準位置X0のゼロイングを完了し、また絶対値|Xabs|が閾値以上であれば、表示手段28に研削基準位置設定範囲外であることを適宜表示して作業者に精度の確認と精度調整を促す。
【0036】
位置比較手段24は本研削の各研削毎にワークWの研削精度が基準精度内に収まったとき、例えば定寸装置18が出力するゼロ信号を受信したときに、その時点の各測定ヘッド9,10の測定値M1,M2に基づいて位置演算部で35で演算された相対位置Xを読み出して、この相対位置Xと研削基準位置X0とを比較して、相対位置Xの研削基準位置X0に対する差分(位置ズレ)の有無を判断するようになっている。なお、位置比較手段24は研削基準位置X0に対するワークWの相対位置Xのズレ方向及びズレ量を算出するようになっている。
【0037】
後退端補正手段25は位置比較手段24の演算によりワークWの相対位置Xと研削基準位置X0との間に差分がある場合に、ゼロ信号の受信から一定時間行われるスパークアウトの終了後に、次回の研削時に研削砥石5,6の研削前進端が研削基準位置X0におけるワークWの両側面の基準値M1r,M2rと一致するように、ワークWの相対位置Xのズレ方向及びズレ量に応じて切り込み軸の研削後退端、即ち研削砥石5,6の研削後退端を補正するようになっている。
【0038】
なお、スパークアウトの開始から終了までの一定時間は研削条件に応じて決められている。また研削基準位置X0におけるワークWの両側面の位置(基準値M1r,M2r)は研削砥石5,6の研削前進端を意味する。切り込み軸の研削後退端、即ち研削砥石5,6の研削後退端の補正は、研削砥石5,6の切れ味制御の一つとして機能するので、一対の研削砥石5,6の一方を基準に他方を補正しても良いし、両方を逆方向に補正しても良い。
【0039】
切れ味比較手段26は各測定ヘッド9,10からの測定値M1,M2と研削基準位置X0におけるワークWの両側面の基準値M1r,M2rとの減算によりワークWの両側面の位置R1,R2を算出するワーク位置演算部41と、ワークWの両側面の位置R1,R2を比較し差分することにより両研削砥石5,6の砥石摩耗量の違いを算出して、その砥石摩耗量の違いに基づいて切れ味差を判定する切れ味判定部42とを備えている。切れ味判定部42は両研削砥石5,6の切れ味の違いと補正方向を演算するようになっている。なお、ワーク位置演算部41で演算されたワークWの両側面の位置R1,R2は、ワーク位置表示部30,31の指示部30a,31aの変化として表示される。
【0040】
研削条件補正手段27は研削中に両研削砥石5,6の切れ味差がなくなるようにリアルタイムで研削条件を随時補正する随時補正部39と、当該ワークWの研削終了後に次回の研削に備えて両研削砥石5,6の切れ味の差がなくなるように研削条件を事後補正する事後補正部40と有する。
【0041】
随時補正部39は切れ味比較手段26によりリアルタイムで演算された両研削砥石5,6の切れ味差に応じて、両研削砥石5,6の切れ味差がなくなるように研削精度に影響のない研削条件、例えば研削砥石5,6の中央側から研削砥石5,6と静圧パッド1,2との間に供給される研削水(研削流体)の流量を制御すべく構成されている。
【0042】
事後補正部40は研削条件で決められたゼロ信号の受信から一定時間後に終了するスパークアウトの後に、ゼロ信号の受信時における両研削砥石5,6の切れ味差に応じて、両研削砥石5,6の切れ味の差がなくなるように研削条件を制御する。この場合の事後補正部40による研削条件の補正は、随時補正部39によるリアルタイムでの補正が研削精度に影響を与えない研削水の流量制御等であるのに対して、研削中に補正をすれば研削精度に影響を与えるような研削条件、例えば研削砥石5,6の回転数及び/又は研削砥石5,6の切り込み速度の制御である。なお、研削条件の補正は、各研削砥石5,6の切れ味の違い、補正方向に基づいて行う。
【0043】
次に図5(a)〜(c)を参照しながら、静圧パッド1,2間の隙間Dの算出、静圧パッド1,2間のワークWの位置認識について説明する。図5(a)に示すように左右の静圧パッド1,2間の隙間Dに挿入されたワークWがその隙間Dのどこに位置するかを判断する場合には、事前に測定ヘッド9,10により静圧パッド1,2の位置を測定して、その測定値A1,B2を記憶させておく。
【0044】
この場合、測定ヘッド9,10はその構造上、各静圧パッド1,2の位置を直接測定できないため、次のような方法で測定する。例えば既知の厚みTのワークWを図5(a)に示すように静圧パッド1,2間に配置して測定ヘッド9,10の測定値M1,M2を読み取る。次に図5(b)に示すようにワークWを左の静圧パッド1に接触させたときの測定ヘッド9,10の測定値A1,A2を読み取り、更に図5(c)に示すようにワークWを右の静圧パッド2に接触させたときの測定ヘッド9,10の測定値B1,B2を読み取って記憶させておく。
【0045】
左右の静圧パッド1,2の位置は、左右の一方の測定ヘッド9,10の測定値を把握できれば算出できる。例えば右の測定ヘッド10の測定値M2を基準とする場合には(以下、基準を右とする。)、図5(c)に示すようにワークWを右の静圧パッド2に接触させたときの測定ヘッド10の測定値をB2とし、次に図5(b)に示すようにワークWを左の静圧パッド1に接触させたときの右の測定ヘッド10の測定値をA2とすると、ワークWの厚みTが既知であるので、左の静圧パッド1の位置はA2−Tとなり、左右の静圧パッド1,2間の隙間Dは、演算式D=B2−(A2−T)により求めることができる。なお、この測定は機械の設置後や静圧パッド1,2の交換後に行えば良く、通常の研削毎に行う必要はない。
【0046】
ワークWを搬入・搬出する際に、静圧パッド1,2が真空引き手段によりワークWを吸着して受け渡すような場合には、その真空引手段を利用してワークWを静圧パッド1,2に吸着すれば良い。しかし、一対の静圧パッド1,2の内、例えば右の静圧パッド2には真空引き手段があるが、左の静圧パッド1に真空引き手段がないような場合には、図6、図7に示すような構成の治具43を用いて、厚みTが既知のプレート44を左の静圧パッド1に装着し、そのプレート44に測定ヘッド9,10の測定子9b,10bを接触させて測定すれば良い。
【0047】
この治具43は、静圧パッド1の切り欠き部7に径方向の外側から着脱自在に嵌合する板状の本体部45と、本体部45の内端側から左の静圧パッド1の背面側へと起立する起立部46と、本体部45の外端側から切り欠き部7の両側に突出する支持部47とを有する。
【0048】
本体部45には左の静圧パッド1の保持面1aに当接するプレート44が一対の取り付けネジ等の固定具48を介して着脱自在に固定されている。起立部46には当接部49が設けられ、その当接部49はバネ等により付勢されて左の静圧パッド1の背面側に弾性的に当接している。各支持部47は取り付けネジ等の固定具50を介して本体部45に着脱自在に固定されている。この支持部47の両端には、バネ等により付勢されて右の静圧パッド2に弾性的に当接する当接部51が設けられている。本体部45には測定子9b,10bがプレート44に接触するように開口52が設けられている。
【0049】
この治具43を介してプレート44を左の静圧パッド1に装着する場合には、プレート44の外周縁を左の静圧パッド1の保持面1aに当接又は近接するように、本体部45を左の静圧パッド1の切り欠き部7に挿入する。そして、起立部46の当接部49を静圧パッド1の背面に当接させて、その押圧力により治具43、プレート44を左の静圧パッド1に装着する。その後、両静圧パッド1,2を接近させると、支持部47の当接部51が右の静圧パッド2に押圧し、また両静圧パッド1,2がプレート44を挟むので、図6及び図7に示すようにプレート44の外周縁を左の静圧パッド1の保持面1aに沿って固定できる。
【0050】
このようにして左の静圧パッド1にプレート44を装着した後、図6に二点鎖線で示すようにプレート44の両側に測定子9b,10bを接触させて測定ヘッド9,10の測定値M1,M2を読み取れば、真空引き手段のない左の静圧パッド1についてもその位置を容易に測定できる。
【0051】
静圧パッド1,2間のワークWの位置認識は、次のようにして行う。静圧パッド1,2間に未研削のワークWを挿入した場合、そのワークWは例えば図8(a)に示すように静圧パッド1,2間に保持される。このときのワークWと右の静圧パッド2との間の右側隙間D2は、図8(a)のときのワークWの右側面の測定値M2と、図8(b)に示すようにワークWが右の静圧パッド2に当接したときの測定ヘッド10の測定値B2とから、演算式D2=B2−M2で求めることができる。
【0052】
ワークWと左の静圧パッド1との間の左側隙間D1も、同様にして図8(a)のときのワークWの左側面の測定値M1と、図8(c)に示すようにワークWが左の静圧パッド1に当接したときの測定ヘッド9の測定値A1とから、演算式D1=A1−M1で求めることができる。
【0053】
従って、ワークWから各静圧パッド1,2までの距離D1,D2が分かるので、各静圧パッド1,2間におけるワークWの位置、例えば絶対位置Xabs、相対位置Xを監視することができ、D1=D2であれば、ワークWは静圧パッド1,2間の中央に位置している。
【0054】
次に図9の流れ図を参照して研削目標である研削基準位置X0を決定し、その研削基準位置X0をゼロイングする方法を説明する。先ず試研削においてワークWを挿入し(ステップS1)、研削サイクルを開始する(ステップS2)。研削サイクルの開始により、各静圧パッド1,2が所定位置まで前進してワークWを静圧により保持した後に、各研削砥石5,6が前進してワークWの両側面を研削する。しかし、両研削砥石5,6がワークWを挟み込むまではワークWの位置が不安定であるため、位置演算手段22の挟み込み判定部34が研削砥石5,6によるワークWの挟み込みを確認した後に(ステップS3)、位置演算部35が各測定ヘッド9,10の測定値M1,M2を取り込んでワークWの位置監視を開始する(ステップS4)。
【0055】
ワークWの位置監視が始まると、先ず位置演算部35は静圧パッド1,2間の中心位置に対するワークWの絶対位置Xabsを演算し(ステップS5)、その絶対位置Xabsを表示手段28に表示する(ステップS6)。なお、ワークWの絶対位置Xabsは(D2−D1)/2により演算できる。また位置演算部35はワークWの相対位置Xを演算し(ステップS7)、以前にゼロイングされた基準値M1r,M2rがあれば(ステップS8)、その基準値M1r,M2rに対しての相対位置Xを演算して表示する(ステップS9)。この相対位置Xは演算式{(M1−M1r)−(M2−M2r)}/2により演算する。ゼロイングされた位置がない場合には、各測定ヘッド9,10の測定値M1,M2をそのまま表示する(ステップS8,S10)。
【0056】
試研削のワークWが所定厚さになれば、定寸装置18からゼロ信号があるので(ステップS11)、そのゼロ信号によりスパークアウトを開始する(ステップS12)。そして、スパークアウトを開始すれば、切り込み軸が停止し、各測定ヘッド9,10がワークWの両側面から退避する。一方、スパークアウトの開始と同時に、位置演算部35で演算されたゼロ信号の受信時点のワークWの相対位置Xを読み込んで(ステップS13)、ゼロイング部36がその相対位置Xを研削目標である研削基準位置X0としてゼロイングし(ステップS14)、また表示手段28に研削基準位置X0をゼロとして表示する。
【0057】
またスパークアウトの開始と同時に、基準位置判定部37が位置演算部35で演算されたゼロ信号の受信時(研削基準位置X0をゼロイングしたとき)の静圧パッド1,2間のワークWの絶対位置Xabsの絶対値|Xabs|を読み込んで、その絶対値|Xabs|と要求される研削精度に基づいて予め設定された閾値と比較して、研削基準位置X0がゼロイング位置として誤りがないか否かを判定する(ステップS15)。そして、ワークWの絶対位置Xabsが閾値未満であれば、研削基準位置設定範囲内として表示手段28に表示しゼロイングを完了する(ステップS16)。また絶対値|Xabs|が閾値以上であれば、研削基準位置設定範囲外として表示手段28に表示し(ステップS17)、作業者に精度の確認と精度調整とを促す。
【0058】
この研削基準位置X0のゼロイングはスパークアウト開始と同時に行われる。スパークアウトは研削条件に基づいて予め一定時間に設定されており、その一定時間が経過してスパークアウトが完了すると(ステップS18,S19)、切り込み軸が研削後退端へと移動し(ステップS20)、研削サイクルが終了するので(ステップS21)、試研削後のワークWを取り出し(ステップS22)、その研削後のワークWを人為的に測定し(ステップS23)、研削精度の判定を行う(ステップS24)。
【0059】
なお、研削精度の判定の結果、所定の研削精度が得られない場合、ゼロイングされた研削基準位置X0が研削基準位置範囲外であった場合には、所定の研削精度が得られるように精度調整を行った後、再度ワークWの挿入の作業からやり直し、適正な研削基準位置X0を決定しゼロイングする。
【0060】
次に図10の流れ図を参照しながら、本研削におけるワークWの位置監視と研削砥石5,6の切れ味制御について説明する。先ずワークWを挿入して(ステップS30)、研削サイクルを開始する(ステップS31)。そして、研削サイクルを開始すると、挟み込み判定部34が研削砥石5,6によるワークWの挟み込みを確認した後(ステップS32)、位置演算部35がリアルタイムで測定ヘッド9,10の測定値M1,M2を取り込みながらワークWの位置を監視する(ステップS33)。
【0061】
測定ヘッド9,10の測定値M1,M2を取り込むと、位置演算部35が測定値M1,M2に基づいて現在のワークWの相対位置Xを演算し(ステップS34)、ゼロイングされた研削基準位置X0に対する現在位置を指針等の指示部29aによりリアルタイムで表示する(ステップS35)。
【0062】
同時に切れ味比較手段26が両研削砥石5,6の切れ味の違いを判定する。即ち、記憶データの中から研削基準位置X0を決定したときのワークWの両側面の基準値M1r,M2rを読み込んで(ステップS36)、ワーク位置演算部41がその基準値M1r,M2rとその時点の測定値M1,M2とを減算することにより、基準値M1r,M2rに対するワークWの両側面の位置R1,R2を演算した後(ステップS37)、切れ味判定部42がその両側面の位置R1,R2を比較して両研削砥石5,6の砥石摩耗量の違いを算出し、その砥石摩耗量の違いに基づいて両研削砥石5,6の切れ味差の有無を判定する(ステップS38)。
【0063】
例えば、左の研削砥石5の砥石摩耗量が右の研削砥石6の砥石摩耗量に比較して少なく、左の研削砥石5の切れ味が右の研削砥石6の切れ味よりも悪い場合には、研削中のワークW2は、図11に示すように切れ味の悪い研削砥石5により右方向に押されて切れ味の良い研削砥石6側に移動した状態となっている。
【0064】
そこで、研削中のワークW2が研削基準位置X0の決定時のワークW1に対して図11に示すような位置関係になれば、そのワークW1の基準値M1r,M2rと、現時点のワークW2の測定値M1,M2とから、ワークW2の左の位置R1を演算式R1=M1−M1rにより、右の位置R2を演算式R2=M2−M2rにより夫々演算できる。
【0065】
そして、ワークWの両側面の位置R1,R2の左右差ΔR(=R1−R2)を求めることにより、両研削砥石5,6の切れ味の違いの大きさが判ると同時に、切れ味の悪い方の研削砥石5,6がどれであるかが判る。図11のような場合はΔR<0であり、左の研削砥石5が切れ味不良であることを示す。ΔR=0は両研削砥石5,6の切れ味が同等であることを示す。またΔR>0は図11と逆の場合であり、右の研削砥石6が切れ味不良であることを示す。
【0066】
切れ味の判定結果がΔR<0かΔR>0であれば(ステップS38)、研削中に両研削砥石5,6の切れ味の差がなくなるように、随時補正部39が研削精度に影響しない研削水の流量をリアルタイムで補正する(ステップS39)。この場合、左右差ΔR、補正方向(±)に応じて研削水の流量が変化する制御マップを予め作成しておき、その制御マップに基づいて左右差ΔRの大小、正負に対応して研削水の流量を変化させることが望ましい。なお、この研削水の流量の調整は、両研削砥石5,6の切れ味が一致するまで継続しても良いし、制御マップに基づいて制御するだけでも良い。
【0067】
表示手段28のワーク位置表示部30,31は、ワークWの研削中、研削基準位置X0でのワークWの両側面を基準に、そのときの両側面の位置R1,R2を表示する。左右の研削砥石5,6の切れ味が略同じであれば、表示手段28のワーク位置表示部30,31の表示は略同レベルを示し、両研削砥石5,6の切れ味が異なる場合には、図4に示すようにその切れ味差に応じたレベルを表示する。
【0068】
例えば図11に示すような場合には、両研削砥石5,6の切れ味の違いに応じて図4に示すようにワーク位置表示部30の指示部30aのレベルが低く、ワーク位置表示部31の指示部31aのレベルが高くなる。このためワーク位置表示部30,31の表示を見れば、研削中のワークWの両側面の位置R1,R2の変化として両研削砥石5,6の切れ味の違いを容易に把握することができる。
【0069】
図11に示すように左の研削砥石5の切れ味が悪い場合には、その切れ味の程度に応じて左の研削砥石5とワークWとの間に供給する研削水の流量を少なくする。これによって研削砥石5から脱落した砥粒の排出が遅くなり、研削砥石5とワークWとの間での砥粒の滞留時間が長くなるため、その砥粒が目立て砥石の役割をして砥石摩耗が促進するため切れ味が良くなる。これによって左右の両研削砥石5,6の切れ味の差を極力少なくすることができる。
【0070】
なお、切れ味の良い研削砥石5,6側の研削水の流量を一定にして、切れ味の悪い研削砥石5,6側の研削水の流量を少なくしても良いし、逆に切れ味の悪い研削砥石5,6側の研削水の流量を一定にして、切れ味の良い研削砥石5,6側の研削水の流量を多くしても良い。また切れ味の良い研削砥石5,6側の研削水の流量を多くしつつ、切れ味の悪い研削砥石5,6側の研削水の流量を少なくする等、両方の研削砥石5,6の研削水の流量を増減しても良い。
【0071】
ワークWが目標厚さになれば定寸装置18からのゼロ信号を受信し(ステップS40)、切り込み軸が停止し各測定ヘッド9,10が退避して、スパークアウトを開始する(ステップS41)。同時に位置比較手段24が位置演算手段22で演算されたゼロ信号の受信時点のワークWの相対位置Xを演算し(ステップS42)、これを研削目標である研削基準位置X0と比較して、研削基準位置X0に対するワークWのズレ量とズレ方向を求める(ステップS43)。また同時にゼロ信号の受信時の測定値M1,M2から、その時点でのワークWの両側面の位置R1,R2の左右差ΔRを演算し(ステップS44)、ワークWの研削終了後に切り込み軸の研削後退端の補正に備える。
【0072】
スパークアウトは研削条件に基づいて予め一定時間に設定されており、その一定時間が経過してスパークアウトが完了し(ステップS45,S46)、研削サイクルが終了してワークWの研削が終わると(ステップS47)、切り込み軸が研削後退端へと移動する(ステップS48)。
【0073】
ゼロ信号の受信時において、研削基準位置X0に対してワークWの相対位置Xがズレる位置ズレがあれば、研削砥石5,6の切れ味制御の一環として、次回研削時に研削前進端が研削基準位置X0に一致するように、後退端補正手段25が研削砥石5,6の研削後退端、即ち切り込み軸の研削後退端の位置を補正する。従って、次回のワークWの研削時には、ワークWの相対位置Xの位置ズレを吸収した状態で両研削砥石5,6がワークWを切り込むことになり、ワークWの両側面の位置R1,R2を研削基準位置X0に戻すことができる。
【0074】
同時にワークWの両側面に左右差ΔRがある場合には、事後補正部40が次回の研削に備えて研削砥石5,6の切れ味に影響を与える研削条件を補正し更新する(ステップS49)。ここでは研削中に変えることのできなかった研削条件、例えば研削砥石5,6の回転数及び/又は研削砥石5,6の切り込み速度を変えることができる。その補正は左右差ΔRの大きさと補正方向に基づいて行う。
【0075】
研削砥石5,6の回転数及び/又は研削砥石5,6の切り込み速度を補正すれば、研削砥石5,6の切れ味を調整できる。例えば研削砥石5,6の回転数を遅くするか、又は切り込み速度を速くすると、研削砥石5,6がワークWを研削する際の研削負荷が大きくなり、砥粒の脱落が進んで新しい砥粒が次々と現れるため、切れ味の悪い研削砥石5,6でもその砥石摩耗の進行によって切れ味を良くすることができる。
【0076】
またワークWの相対位置Xの位置ズレに基づいて研削砥石5,6の研削後退端を補正し、ワークWの両側面の位置差ΔRとに基づいて両研削砥石5,6の研削条件を補正することにより、研削砥石5,6の一方のみの研削条件を補正する場合に比較して、研削後のワークWのダメージ、反り等が少なくなり、ワークWの研削精度を更に向上させることができる。
【0077】
その後、ワークWを取り出して終了する(ステップS50)。
【0078】
このようにすれば、両研削砥石5,6の砥石摩耗量のバラツキに起因する切れ味のアンバランスを数値化して、それに基づいて両研削砥石5,6の切れ味が同じになるように自動的に制御することができる。なお、多数のワークWを続けて研削する場合には、同様の手順での操作、制御等を繰り返し行う。
【0079】
図12は本発明の第2の実施形態を例示する。この第2の実施形態は、研削中のワークWの相対位置Xと静圧パッド1,2にワークWが適正に保持されるべき研削基準位置X0とを比較して両者の差分により両研削砥石5,6の切れ味差をリアルタイムで演算する切れ味比較手段26と、両研削砥石5,6の切れ味差に基づいて両研削砥石5,6の切れ味が略一致するように、両研削砥石5,6とワークWとの間に供給される研削水の流量を制御する等、研削砥石5,6の研削条件を補正する研削条件補正手段27とを備えたものである。
【0080】
長期間の使用等によって研削砥石5,6に砥石摩耗量に違いが発生すれば、両研削砥石5,6の切り込み量が同じであっても、両研削砥石5,6の研削前進端が相違する。一方、砥石摩耗量の大きい側の研削砥石5,6では自生作用により切れ味が向上して取り代が大であるため、ワークWは砥石摩耗量の小さい側の研削砥石5,6により砥石摩耗量の大きい側の研削砥石5,6へと押されて、ワークWの相対位置Xは砥石摩耗量が大きく切れ味の良い研削砥石5,6側へとズレることになる。
【0081】
そこで、ワークWの研削中はリアルタイムでワークWの相対位置Xを求め、切れ味比較手段26において、相対位置Xと研削基準位置X0とを比較して両者の差分により両研削砥石5,6の切れ味差に伴うワークWの位置ズレの有無、位置ズレの大小、ズレ方向を演算する。
【0082】
そして、ワークWの相対位置Xの研削基準位置X0に対する位置ズレがあれば、研削条件補正手段27により、両研削砥石5,6の切れ味差に応じて、即ち位置ズレの大小、ズレ方向に応じて両研削砥石5,6とワークWとの間に供給される研削水の流量を制御する。これによって両研削砥石5,6の切れ味の違いを解消することができる。
【0083】
因みに相対位置Xの位置ズレの大小、ズレ方向に応じて両研削砥石5,6の研削水の流量を制御する場合、例えば研削条件等の諸要因を考慮しながら図13に示すような関係で制御すれば良い。
【0084】
以上、本発明の各実施形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば各実施形態は横型両頭平面研削盤について例示しているが、縦型の両頭平面研削盤でも同様に実施することができる。
【0085】
研削砥石5,6の切れ味差は研削中のワークWの両側面の位置R1,R2を算出し、この両側面の位置R1,R2を比較して両研削砥石5,6の砥石摩耗量の違いを算出して、その両研削砥石5,6の砥石摩耗量の違いに基づいて両研削砥石5,6の切れ味差を判断する方法と、研削中のワークWの相対位置Xを算出し、この相対位置Xと静圧パッド1,2間にワークWが適正に保持されるべき研削基準位置X0とを比較し、その両者の差分により両研削砥石5,6の切れ味差を判断する方法とがあるが、研削中のワークWの両側面の位置R1,R2を測定して、それに基づいて両研削砥石5,6の切れ味を判断する方法であれば、他の方法を採用しても良い。
【0086】
またワークWの両側面の位置R1,R2の左右差ΔRを算出して研削条件を制御する場合にも、左右差ΔRに基づいて研削砥石5,6の切れ味の違いを判定して、その切れ味が略同じとなるように制御しても良いし、左右差ΔRに基づいて研削砥石5,6の砥石摩耗量の違いを判定して、その砥石摩耗量が略同じとなるように制御しても良い。
【0087】
静圧パッド1,2間の隙間Dの測定において、例えば右の静圧パッド2にしか真空引き手段がなく、しかも治具43もない場合には、市販の隙間ゲージを用いて直接測定しても良い。またワークWの左位置D1は、右の静圧パッド2のパッド位置D2と、隙間ゲージで把握したバッド隙間Dと、既知のワークWの厚みTとにより、次の演算式D1=D−D2−Tで求めることもできる。そして、ワークWの左位置D1が分かれば、その値を元に左パッド位置A1を求め、この左パッド位置A1と左の測定ヘッド9の測定値M1,M2とから、左のパッド位置A1は次の演算式A1=D1+M1で求めることもできる。
【0088】
ゼロイングはワークWが仕上げ寸法になったときに研削基準位置X0に基づいて行うのが最良である。しかし、ワークWへの傷を避けるために、定寸装置18からゼロ信号を受け取って両測定ヘッド9,10がワークWから退避した後も、研削条件で設定されたスパークアウト時間だけワークWが研削されるので、仕上げ寸法でのゼロイングは困難である。従って、定寸装置18からゼロ信号を受け取ったタイミングで行うのが望ましい。
【0089】
研削中は静圧パッド1,2により保持された状態で回転するワークWを、回転する研削砥石5,6により両側から研削しながら、測定ヘッド9,10によりワークWの両側面をリアルタイムで測定するため、その両側面の測定値M1,M2には常に微少なバラツキがある。従って、ワークWの相対位置Xは、各測定ヘッド9,10の測定値M1,M2を移動平均処理により求めることが望ましい。
【0090】
また実施形態では定寸装置18の測定ヘッド9,10を利用すると共に、その定寸装置18からのゼロ信号を利用するようにしているが、測定ヘッド9,10を備えた専用の測定手段を用いてワークWの両側面を測定し、定寸装置18からのゼロ信号に代えて、ワークWが所定の研削精度になったときの信号を契機にゼロイング等を行うようにしても良い。
【0091】
測定ヘッド9,10はワークWの両側面に接触する接触式の他、レーザ変位式、静電容量式等の非接触式を使用することも可能であり、ワークWの両側面の位置を測定できるものであればその測定方式は問題ではない。
【0092】
測定ヘッド9,10、位置演算手段22によるワークWの位置監視を利用して、研削砥石5,6の交換後の研削位置合わせ作業の自動化を測るようにしても良い。これによって段取り等の時間を削減できると共に、人的要因による研削位置合わせミスの発生を防止できる。つまり、一対の静圧パッド1,2のアライメント調整をしない限り、研削砥石5,6の交換前と研削位置が殆ど変わらないので、静圧パッド1,2の位置合わせは研削砥石5,6の交換前の所定精度の基準値内のワークWの位置に合わせればよく、その位置は機械が記憶しているので、自動化を容易に図ることができる。
【符号の説明】
【0093】
W ワーク
M1,M2 測定値
X 相対位置
X0 研削基準位置
M1r,M2r 基準値
R1,R2 側面の位置
Xabs 絶対位置
1,2 静圧パッド
5,6 研削砥石
9,10 測定ヘッド
20 研削制御装置
22 位置演算手段
23 研削基準位置設定手段
24 位置比較手段
25 後退端補正手段
26 切れ味比較手段
27 研削条件補正手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の静圧パッド間に保持された薄板状ワークの両側面を一対の研削砥石により研削するに際し、研削中のワークの両側面の位置を測定して両研削砥石の切れ味を判断し、両研削砥石間に切れ味差があるときに、両研削砥石の切れ味差がなくなるように、切れ味の変化に関係する研削条件を切れ味差に応じて補正することを特徴とする薄板状ワークの研削方法。
【請求項2】
研削中のワークの両側面の位置を比較してその差分により両研削砥石の砥石摩耗量の違いを算出し、この砥石摩耗量の違いに基づいて両研削砥石の切れ味差を判断することを特徴とする請求項1に記載の薄板状ワークの研削方法。
【請求項3】
事前の研削においてワークの研削精度が基準精度内に収まったときのワークの両側面の位置を基準値とし、この基準値と研削中のワークの両側面の測定値との減算によりワークの両側面の位置を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の薄板状ワークの研削方法。
【請求項4】
研削中のワークの相対位置を算出し、この相対位置と静圧パッド間にワークが適正に保持されるべき研削基準位置とを比較しその差分により切れ味差を判断することを特徴とする請求項1に記載の薄板状ワークの研削方法。
【請求項5】
当該ワークの研削中に研削砥石とワークとの間に供給される研削水の流量を切れ味差に応じて調整することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の薄板状ワークの研削方法。
【請求項6】
当該ワークの研削において定寸装置からワークの定寸を示すゼロ信号を受信したときの研削砥石の切れ味差に応じて、当該ワークの研削後に研削砥石の回転数及び/又は切り込み速度を調整することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の薄板状ワークの研削方法。
【請求項7】
一対の静圧パッド間に保持された薄板状ワークの両側面を一対の研削砥石により研削する両頭平面研削盤において、研削中のワークの両側面の位置を測定する一対の測定ヘッドと、ワークの両側面の基準値と各測定ヘッドの測定値との減算により算出したワークの両側面の位置を比較して両研削砥石の切れ味差を求める切れ味比較手段と、両研削砥石に切れ味差があるときに、両研削砥石の切れ味が同じになるように、研削砥石の切れ味に関係する研削条件を切れ味差に応じて補正する研削条件補正手段とを備えたことを特徴とする両頭平面研削盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−210698(P2012−210698A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243138(P2011−243138)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000167222)光洋機械工業株式会社 (85)
【Fターム(参考)】