説明

薄膜の作製方法及び作製装置

【課題】スプレー製膜法を利用して、高い膜密度の薄膜を作製する方法の提供。
【解決手段】溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を噴霧して液滴を形成すること、液滴中の溶媒を揮発させ濃縮すること、濃縮された液滴を基板上もしくは基板上に設けられた薄膜の上に堆積させること、を順次含む薄膜の作製方法であって、基板に、液滴径が互いに異なる液滴を同時に堆積させることを特徴とする薄膜の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子、太陽電池等の種々のデバイス、及び反射板、偏光板等の種々の光学部材に利用可能な薄膜の作製方法、並びに薄膜の作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のネットワークの拡充や生活スタイルの多様化に伴い、フレキシブル性や大面積といった従来のSi半導体では実現困難な付加価値が電子デバイスに求められており、フィルム上に成膜可能な有機エレクトロニクスが注目されている。
有機電界発光素子、太陽電池等の種々の有機デバイスにおいて、性能向上には機能の異なる有機薄膜を積層成膜することが重要になる。薄膜の作製方法として、一般的に真空蒸着法等のドライプロセス、及びスピンコート法等のウェットプロセスが知られている。
前記ドライプロセスは、厚み一定の均一な有機薄膜を積層して成膜することが可能だが、成膜する材料に高エネルギーを加えるため熱的に不安定な有機材料には適用できず、かつ基材もガラスなどの耐熱性のある材料に限定されてしまうため、材料および基材に制約がある。また、多くか真空プロセスであることから生産性が悪いという問題があった。
【0003】
一方、ウェットプロセスは、フィルムのようなフレキシブル性のある基材上に簡易に成膜できるため、生産性や大面積化の観点では、ドライプロセスと比べ格段に優れている。例えば、有機溶剤を用いて調製された塗布液を使用する製膜方法として、非特許文献1等に記載のエクストルージョンコーティング法が知られている。当該方法によれば、積層膜の同時塗布も可能である。しかし、上記コーティング法では、塗布液にある程度の粘性が必要である。有機発光層の材料等は、溶剤に溶け難い材料が多く、粘度の高い高濃度の塗布液を調製するのは困難である。また、有機電子デバイスの各層中に、バインダー、増粘剤等を添加することは性能低下につながる場合もあるため、増粘効果のある添加剤の添加も適さない。よって、有機発光層の材料等については、固形分濃度が非常に低い希薄溶液しか調製できない場合が多い。この様な非常に低濃度の溶液を用いて、所望の特性の有機薄膜を形成するためには、当該溶液を厚く塗布する必要が生じるが、低粘度の溶液を厚く塗布するのは困難であり、結果として均一な塗膜が得られない。また、上記コーティング法で単層の薄膜を作製することはできたとしても、同様の方法で積層膜を作製しようとすると、上層の塗膜中の多量の溶媒によって、下層が溶解してしまい、積層膜の作製はさらに困難である。上層の形成時に、下層を溶解しない溶媒を使用することも考えられるが、溶媒の種類が限定されてしまう結果、その溶媒に溶解する材料しか積層成膜できないことになるため、積層成膜が可能な材料が限定されてしまうといった問題がある。
【0004】
また、スプレー法を利用した有機電界発光素子の作製法(例えば特許文献1)も提案されている。しかし、スプレー法を利用しても、積層膜を作製する際には、上層の溶媒が下層を溶解するという問題を回避するのは困難である。
また、原料液をエアロゾル化し、それを基板上に堆積することで有機薄膜を形成する方法も提案されている(例えば特許文献2)。この方法によれば、ウェットプロセスにもかかわらず、上層の溶媒によって下層を溶解しないで積層成膜が可能なため、ドライプロセス及びウェットプロセスの課題を解決できる可能性がある。上層の溶媒によって下層が溶解するのを回避するという観点では、基板到達時の液滴内に残留する溶剤の量は少ないほど好ましい。しかし、溶媒量を少なくすると、液滴の粘度は非常に高くなり、粒子形状を維持したまま基板上に堆積することになる。加えて、単一のスプレーノズルから噴霧した液滴径分布は、多少の広がりはあるもののほぼ同じ液滴径であるため、基板上に堆積した膜には空隙が生じる。有機電界発光素子などの場合、膜内に空隙が含まれると輝度ムラなどの素子性能の低下につながる。また、膜強度や密着性という点に関しても、膜の空隙部に内部応力が集中しやすくなる、あるいは下地との接触面積が小さくなることにより、膜強度や密着性が低下し、その後の電極接続、封止といった素子化のプロセス中に膜が破壊される原因になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−243421号公報
【特許文献2】特開2004−160388号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stephen F.Kistler、Petert M.Schwaizer著、“LIQUID FILM COATING”(CHAPMAN&HALL社刊 1997)、401頁〜426頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、スプレー製膜法によって形成される薄膜内に、残留溶媒による空隙が発生するという問題を解決することを課題とする。
より具体的には、本発明は、空隙のない均一な薄膜を、ウェットプロセスで作製可能な方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、ウェットプロセスにより作製される薄膜の密度を改善することを課題とする。
また、本発明は、膜密度及び下層との密着性が改善された薄膜及び積層薄膜を作製可能な方法、及び当該方法に利用される薄膜の作製装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が上記課題を解決するため鋭意検討した結果、それぞれ異なる固形分濃度の原料液を同時に噴霧する、あるいは異なるサイズの液滴径を同時に噴霧することで、大きい液滴の間に小さな液滴が入り込むことで空隙が減少し、膜密度が改善されるとの知見を得た。この知見に基づきさらに検討することにより、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を噴霧して液滴を形成すること、
液滴中の溶媒を揮発させ濃縮すること、
濃縮された液滴を基板上もしくは基板上に設けられた薄膜の上に堆積させること、
を順次含む薄膜の作製方法であって、
基板に、液滴径が互いに異なる液滴を同時に堆積させることを特徴とする薄膜の作製方法。
[2] 2以上のノズルのそれぞれから、固形分組成が同一であるが固形分濃度が互いに異なる原料液を同時に噴霧することを特徴とする[1]の方法。
[3] 固形分組成が同一であるが固形分濃度が互いに異なる原料液を、同一径の液滴として噴霧することを特徴とする[2]の方法。
[4] 2以上のノズルのそれぞれから、同一の原料液を、互いに異なる液滴径の液滴として同時に噴霧することを特徴とする[1]の方法。
[5] 噴霧される液滴が、2以上のピークを有する液滴径分布を示すことを特徴とする[4]の方法。
[6] 基板の材料もしくは基板上に設けられた薄膜の材料を溶解する溶媒の少なくとも一種を含む液滴を堆積させることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかの方法。
【0010】
[7] 原料液が、有機半導体、有機発光材料、有機電子輸送材料、及び有機正孔輸送材料から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする[1]〜[6]のいずれかの方法。
[8] 有機半導体層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、及び正孔注入層のいずれかを作製するための方法であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかの方法。
[9] [1]〜[8]のいずれかの方法により同一固形分組成の下層の単層薄膜を作製すること、
該下層の単層薄膜上に、当該下層の単層薄膜と固形分組成の一部もしくは全部が異なる上層の単層薄膜を、[1]〜[8]のいずれかの方法により作製すること、
を少なくとも含む積層薄膜の作製方法。
[10] [1]〜[9]のいずれかの方法に用いられる有機薄膜の作製装置であって、
溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を液滴化する、2以上のノズルを備えた液滴形成手段、
前記液滴形成手段に前記原料液を供給する原料液供給手段、
前記液滴形成手段にガスを供給するガス供給手段、
前記液滴形成手段に接続して設けられた液滴を加熱する液滴加熱手段、及び
基板を固定する基板ホルダ
を備えた薄膜の作製装置。
[11] 基板をホルダに接続して設けられた基板を加熱する基板加熱手段をさらに備えた[10]の装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スプレー製膜法によって形成される薄膜内に、残留溶媒による空隙が発生するという問題を解決することができる。
より具体的には、本発明によれば、下層の溶解を回避しつつ、空隙のない均一な薄膜を、ウェットプロセスで作製可能な方法を提供することができる。
また、本発明は、膜密度及び下層との密着性が改善された薄膜及び積層薄膜を作製可能な方法、及び当該方法に利用される薄膜の作製装置を提供することを課題とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の薄膜の作製装置の一例の模式図である。
【図2】本発明の方法において基板に堆積させる液滴の液滴分布の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、
溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を噴霧して液滴を形成すること、
液滴中の溶媒を揮発させ濃縮すること、
濃縮された液滴を基板上もしくは基板上に設けられた薄膜の上に堆積させること、
を順次含む薄膜の作製方法であって、
基板に、液滴径が互いに異なる液滴を同時に堆積させることを特徴とする薄膜の作製方法に関する。
本発明の薄膜の作製方法の特徴の一つは、基板到達時の液滴径分布に幅を持たせることにある。それによって、大きい液滴の間に小さな液滴が入り込むことが可能となり、空隙が減少し、膜密度が改善される。その結果、例えば、発光素子等の有機電界素子を構成する有機薄膜を作製する態様では、膜密度が改善されることで、輝度ムラなどが軽減され、発光性能等の素子性能が改善される。また、膜強度・密着性といった膜の物理的性能も向上させることが可能となる。
【0014】
なお、一般的に、スプレー製膜法では、堆積される液滴の液滴径は完全に均一ではなく、ある程度の分布はある。本発明では、堆積される液滴径に分布があるだけではなく、堆積される液滴が、複数のピークを有する液滴径分布を示しているのが好ましい。一例は、図2に示す液滴径分布である。
【0015】
以下、本発明の製造方法の各工程について、詳細に説明する。
(1)液滴形成工程
まず、有機材料を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を噴霧して液滴を形成する。前記原料液の調製に用いられる材料及び溶媒については特に制限はない。所望の物性の有機薄膜を形成するために、種々の材料から選択される。本発明の方法では、材料は過度に高温に曝されないので、耐熱性等について制限はない。高分子材料であっても低分子材料であってもよい。また、金属錯体等であってもよい。よって、材料との親和性等の観点で適するものを、溶媒から選択することができる。勿論、溶媒として水を利用してもよく、また水と有機溶媒との混合溶媒を利用してもよい。噴霧に適する溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、トルエン、メタノール、エタノール、ヘキサン、ベンゼン、アセトン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノン、クロロベンゼン、クロロホルム等が挙げられる。
【0016】
また、原料液の調製に用いられる溶媒として、液滴を堆積させる基板の材料もしくは基板上に設けられた薄膜の材料を溶解する溶媒を少なくとも一種用いることもできる。これは、基板及び下層の薄膜に到達する液滴の固形分濃度は、濃縮工程により高くなっていて、即ち基板到達時の液滴中の溶媒量が少ないので、基板等が液滴中の溶媒によってわずかしか溶解しないためである。加えて、この微量の溶媒による基板等の溶解は、形成される膜とその下の基板もしくは薄膜との結合を促すため、密着性が改善されるので好ましく、かつ特に有機エレクトロニクスにおいては、界面による電子・正孔の移動の障壁となる界面の影響が緩和されて性能が向上する。
【0017】
液滴形成工程では、原料液を噴霧し液滴を形成する。液滴化する方法について特に制限はなく、種々の方法を利用することができる。例えば、原料液を、所定のガス圧力及び流量のキャリアガスと混合することで、原料液をキャリアガス中に浮遊した液滴とすることができる。キャリアガスとしては、特に制限はない。空気を利用してもよい。また原料を変質させないためには、不活性ガスが好ましく、窒素、アルゴン、ヘリウム等を利用するのが好ましい。キャリアガスのガス圧及び流量は、レギュレータを利用して制御することができる。また、液滴化は、超音波振動などを利用して実施することもできる。
原料液を液滴形成手段に供給する方法について特に制限はなく、種々の方法を利用することが出来る。例えば脈動の少なく精密な送液が可能なシリンジポンプやタクタイルポンプなどを利用することが出来る。
液滴の粒径については特に制限はないが、一般的には、0.1〜100μm程度であるのが好ましく、1〜10μm程度であるのがより好ましい。
【0018】
噴霧する原料液の濃度に関し、0.00001質量%〜1質量%が望ましく、0.0001質量%〜0.01質量%がより好ましい。
【0019】
本発明では、後述する堆積工程において、液滴径が互いに異なる液滴を同時に基板上に堆積させるため、上記液滴形成工程において、2以上のノズルを用いるのが好ましい。2つ以上のノズルを用いて、濃度の異なる原料液を液滴化する、あるいは同じ原料液を異なる液滴径で噴霧することにより、液滴径の異なる液滴を同時に基板上に堆積させることができる。
本発明の一実施形態では、2以上のノズルのそれぞれから、固形分組成が同一であるが固形分濃度が互いに異なる原料液が、同時に噴霧される。この実施形態において、例えば、同一径の液滴として、それぞれのノズルから濃度が異なる原料液を噴霧させると、固形分濃度の高い原料液の液滴は、固形分濃度の低い原料液の同一径の液滴と比較して、より少ない溶媒量を含んでいる。後述する濃縮工程では、液滴から溶媒が除去されるが、固形分濃度の高い原料液の液滴から除去される溶媒量は、固形分濃度の低い原料液の同一径の液滴と比較して、より少なく、即ち、濃縮工程の前後で液滴径の変化は、より小さいと言える。その結果、基板到達時、即ち堆積時には、固形分濃度の高い原料液の液滴の液滴径は、固形分濃度の低い原料液の液滴の液滴径と比較して大きくなるので、液滴径が互いに異なる液滴を同時に基板上に堆積させることができる。
【0020】
上記実施形態では、各ノズルから噴霧される原料液の固形分濃度比が、1.5:1〜100:1(より好ましくは、2:1〜20:1)であると、2つのピークを有する液滴径分布を示す液滴を、基板上に堆積させることができる。上記濃度比の関係を満足する原料液を2以上準備し、各ノズルから同一液滴径の液滴として噴霧させることにより、2以上のピークを有する液滴径分布を示す液滴を、基板上に堆積させることができる。
【0021】
また、本発明の他の実施形態では、2以上のノズルのそれぞれから、同一の原料液が、互いに異なる液滴径の液滴として同時に噴霧される。この実施形態においては、同一の原料液を互いに異なる液滴径で噴霧しているので、各液滴の固形分濃度は同一であり、後述する濃縮工程を経て溶媒が除去されても、噴霧時の液滴径の径の違いを維持したまま、液滴は、基板に到達して、基板上に堆積する。その結果、液滴径が互いに異なる液滴を同時に基板に堆積させることができる。
【0022】
上記実施形態では、各ノズルから噴霧される液滴の液滴径の比が、1.1:1〜500:1(より好ましくは、1.2:1〜50:1)であると、2つのピークを有する液滴径分布を示す液滴を基板上に堆積させることができる。上記液滴径比の関係を満足する条件で、同一原料液を各ノズルから噴霧することにより、2以上のピークを有する液滴径分布を示す液滴を、基板上に堆積させることができる。
また、噴霧される液滴が、2以上のピークを有する液滴径分布を示していれば、濃縮工程で過剰に加熱されない限りは、その液滴径分布を維持したまま基板上に堆積されるので、2以上のピークを有する液滴径分布を示す液滴を、基板上に堆積させることができる。
【0023】
また、時間によって固形分濃度の異なる原料液を噴霧してもよい。例えば、所定の濃度の原料液を、2以上のノズルから互いに異なる液滴径として噴霧し、その後、異なる濃度の原料液を、2以上のノズルから互いに異なる液滴径として噴霧してもよい。その際、噴霧初期では0.0001〜1質量%の濃度で噴霧し、その後0.00001〜0.1質量%の濃度で噴霧するのが好ましい。
【0024】
なお、本明細書では、「固形分組成が同一」とは、薄膜を構成している材料が同一であり、材料が複数の場合には、その組成比も同一であることを意味する。「同一の原料液」とは、「固形分成分組成」及び「固形分濃度」のいずれも同一の原料液をいうものとする。
【0025】
噴霧する原料液の溶質として使用される材料は、例えば有機EL等の有機電子デバイスの各有機薄膜層の作製に利用される有機材料等から選択することができる。一例は、有機ELの発光層用の有機材料であり、発光材料及びホスト材料用の有機化合物である。有機EL素子の各有機薄膜用の材料であって、本発明の製造方法に、原料液の溶質として利用可能な種々の化合物についての詳細は、後述する。
【0026】
(2)濃縮工程
次に、前記液滴形成工程で形成された液滴を濃縮する。チャンバー等の仕切られた空間に発生させ、所定の形状のチャンバー開口部から基板方向に噴出させるのが好ましい。チャンバー開口部から液滴を基板方向に噴出する前に、液滴を加熱するのが好ましい。加熱することにより、液滴中の溶媒が除去され、固形分濃度の高い小粒径のミストとなる。加熱温度は、原料液の調製に用いた溶媒の沸点以下の温度とするのが好ましい。
【0027】
(3)堆積工程
次に、液滴を基板上に堆積させて薄膜を形成する。本発明では、堆積工程において、液滴径が互いに異なる液滴を同時に堆積させる。これにより、大きい液滴の間に小さな液滴が入り込むことが可能となり、空隙が減少し、膜密度が改善される。その結果、例えば、発光素子等の有機電界素子を構成する有機薄膜を作製する態様では、膜密度が改善されることで、輝度ムラなどが軽減され、発光性能等の素子性能が改善される。また、膜強度・密着性といった膜の物理的性能も向上させることができる。
【0028】
なお、前記堆積工程において、液滴径が互いに異なる液滴を同時に堆積させるのは、所定の時間内だけであってもよい。即ち、薄膜が作製されるまでの間の所定の時間のみ、堆積工程において、液滴径が互いに異なる液滴を同時に堆積させ、その他の時間において、均一な液滴径の液滴を堆積させてもよい。基板等の下層との密着性を良化するためには、堆積初期には、液滴径が互いに異なる液滴を同時に堆積させるのが好ましい。
また、本発明の効果である、膜密度の改善効果を得るためには、少なくとも、液滴径が互いに異なる液滴を同時に、1〜50nm程度堆積させるのが好ましい。その前後で、均一な液滴径の液滴を堆積させても、膜密度の改善効果が得られるであろう。
【0029】
(4)積層工程
また、本発明は、積層膜の作製方法にも有用である。上記(1)〜(3)工程をn(nは2以上の整数)回繰り返すことで、n層の積層薄膜を作製することができる。具体的には、上記(1)〜(3)工程により、表面平滑性の高い同一固形分組成からなる膜密度の高い単層薄膜(下層薄膜)を形成した後、この下層薄膜上で、固形分組成の異なる原料液を用いて、上記(1)〜(3)工程を繰り返すことで、上層の薄膜を形成し、積層膜を作製することができる。上層の薄膜も上記(1)〜(3)工程により作製しているので、上層の液滴中の溶媒による下層の溶解を回避することができ、及び膜密度の高い積層薄膜を作製することができる。上層の形成に用いる原料液は、下層の形成に用いる原料液と、固形分組成の少なくとも一部が異なっている。例えば、1種以上の材料が異なっていてもよいし、及び/又は材料の割合が異なっていてもよい。
【0030】
本発明の方法により形成される薄膜の厚みについては特に制限はないが、本発明の方法は、特に薄膜の形成に有利であり、特に、0.001〜10μm程度の薄膜の形成に適し、より好ましくは、0.01〜1μm、さらに好ましくは0.01〜0.1μmである。
【0031】
本発明では、ミスト発生方向と同一方向に、即ち基板方向にガスを流してもよい。ガスとして不活性ガスが好ましく、窒素、アルゴン、ヘリウムなどを利用するのが好ましい。ガスを流すことにより、製膜レートを改善することができる。
【0032】
また、本発明では、基板には部分的に又は全体に電位をかけてもよい。基板に電位をかけることで、液滴との間に電位差をもたせると、基板の液滴に対する吸引力が高まり、液滴が他の部分に付着するのを軽減でき、製膜レートを改善できる。また、基板に、電位を与えることで有機薄膜密度を調整することもできる。液滴が帯電している態様では、基板には、液滴と逆の電位を与えるのが好ましく、電位差を生じるように、具体的には、液滴が電位している電荷とは逆の電位を与えるのが好ましい。
なお、上記した通り、基板に、部分的に電位をかけて、所望のパターン状・画像状の有機薄膜を形成することもできる。
【0033】
液滴は基板表面に堆積し、有機薄膜となる。必要であればさらに乾燥してもよい。乾燥は、基板を支持する部材等から基板に対して熱を供給し、基板面をあらかじめ高温にしておくことによって実施することができる。また、温風を供給することによって乾燥してもよい。乾燥により、形成された膜内に残留する溶媒が除去されるので、好ましい。
【0034】
本発明の薄膜の作製方法を実施可能な製膜装置の一例の模式図を図1に示す。
図1の製膜装置は、2つの二流体ノズル12a、12bを備え、シリンジポンプ14a、14bから供給される原料液が、ガスボンベ18a、18bからレギュレータ16a、16bによって流量を制御されて供給されるガス(例えば、N2ガス)と、二流体ノズル12a、12bの内部でそれぞれ混合され、液滴として、チャンバー20内部にそれぞれ噴霧される。チャンバー20の内部は、例えば、その外側周囲に設けられたヒータや、その外側周囲の流路を熱水・熱風が通ることにより温度を制御可能に構成されている。ノズルから噴霧された液滴は、チャンバー20の内部で濃縮され、濃縮液滴が、基板ホルダ24によって支持された基板22の表面に堆積し、膜が形成される。
【0035】
本発明の一実施形態では、二流体ノズル12a、12bのそれぞれから、固形分濃度が互いに異なる原料液を、同一の液滴径の液滴として噴霧する。
また、他の態様では、二流体ノズル12a、12bのそれぞれから、同一の原料液を互いに異なる液滴径の液滴として噴霧する。この態様では、所望の液滴径を得るため、各々のノズルに原料液を供給するポンプ14a、14bの送液量、及び/又は各々のノズルにガスを供給するレギュレータ16a、16bの加圧量を制御する。
【0036】
さらに、基板22を加熱する手段を備えていると、残留溶媒がさらに除去され、形成される薄膜の密度がさらに向上するので好ましい。例えば、基板を支持する基板ホルダ24から基板に対して熱を供給し、基板面をあらかじめ高温にしておくことによって実施することができる。また、温風を供給することによって乾燥してもよい。
【0037】
但し、図1に示す製膜装置は一例であって、図1の構成に限定されるものではない。例えば、ノズルの数は2に限定されず、3以上備えていても勿論よい。また、図1に示す製膜装置は、基板に電位を与える電圧印加手段、チャンバー内部に噴霧方向に沿って不活性ガス等を送風する送風手段、チャンバー内部のガスを排出する排出口等を有していてもよい。
【0038】
本発明の方法において、液滴を堆積させる基板の材質についても特に制限はない。例えば、金属、金属酸化物、ガラス、シリコン等の無機材料からなる基板であっても、高分子材料等の有機材料からなる基板であってもよい。また、いずれも、無機材料及び/又は有機材料を含む層を有していてもよく、当該層上に液滴を堆積させて有機薄膜を形成してもよい。例えば、ITO薄膜等の無機薄膜上に堆積させてもよいし、PTPDES−2、PEDOT−PSS、TPD、及びNPD等からなる有機薄膜上に堆積させてもよい。
【0039】
本発明の作製方法は、蒸着のようなドライプロセスには適さない有機材料(有機分子を配位子として有する錯体も含む)の薄膜を形成するのに有用である。特に、有機半導体、有機発光材料、有機電子輸送材料、及び有機正孔輸送材料等の有機電子デバイス用の材料は、難溶性の有機化合物が多いので、それらの材料の薄膜を形成するのに有用である。また、本発明の方法は、高い表面平滑性が求められる、有機電子デバイスの有機半導体層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、及び正孔注入層の作製において、特に有用である。
例えば、本発明の方法を、有機ELの発光層の形成に利用する態様では、原料の溶質には、発光材料およびホスト材料用の有機化合物が用いられる。以下、有機EL素子の発光層用の材料を例に挙げて、原料液の溶質として利用可能な種々の化合物について説明する。
【0040】
(i) 発光材料
有機EL用の発光材料としては、蛍光発光材料及び燐光発光材料が知られている。本発明の作製方法では、いずれの発光材料も溶質として用いることができる。
(a) 燐光発光材料
燐光発光材料としては、一般に、遷移金属原子又はランタノイド原子を含む金属錯体を挙げることができる。
遷移金属原子としては、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、及び白金が挙げられ、より好ましくは、レニウム、イリジウム、及び白金であり、更に好ましくはイリジウム、白金である。
ランタノイド原子としては、例えばランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、およびルテシウムが挙げられる。これらのランタノイド原子の中でも、ネオジム、ユーロピウム、及びガドリニウムが好ましい。
【0041】
錯体の配位子としては、例えば、G.Wilkinson等著,Comprehensive Coordination Chemistry,Pergamon Press社1987年発行、H.Yersin著,「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」Springer−Verlag社1987年発行、山本明夫著「有機金属化学−基礎と応用−」裳華房社1982年発行等に記載の配位子などが挙げられる。
具体的な配位子としては、好ましくは、ハロゲン配位子(好ましくは塩素配位子)、芳香族炭素環配位子(例えば、シクロペンタジエニルアニオン、ベンゼンアニオン、またはナフチルアニオンなど)、含窒素ヘテロ環配位子(例えば、フェニルピリジン、ベンゾキノリン、キノリノール、ビピリジル、またはフェナントロリンなど)、ジケトン配位子(例えば、アセチルアセトンなど)、カルボン酸配位子(例えば、酢酸配位子など)、アルコラト配位子(例えば、フェノラト配位子など)、一酸化炭素配位子、イソニトリル配位子、シアノ配位子であり、より好ましくは、含窒素ヘテロ環配位子である。
上記金属錯体は、化合物中に遷移金属原子を一つ有してもよいし、また、2つ以上有するいわゆる複核錯体であってもよい。
異種の金属原子を同時に含有していてもよい。
【0042】
これらの中でも、発光材料の具体例としては、例えば、US6303238B1、US6097147、WO00/57676、WO00/70655、WO01/08230、WO01/39234A2、WO01/41512A1、WO02/02714A2、WO02/15645A1、WO02/44189A1、特開2001−247859、特開2002−302671、特開2002−117978、特開2002−225352、特開2002−235076、特開2003−123982、特開2002−170684、EP 1211257、特開2002−226495、特開2002−234894、特開2001−247859、特開2001−298470、特開2002−173674、特開2002−203678、特開2002−203679、特開2004−357791、特開2006−256999等の特許文献に記載の燐光発光化合物などが挙げられる。
【0043】
(b)蛍光発光材料
蛍光性の発光性ドーパントとしては、一般には、ベンゾオキサゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、スチリルベンゼン、ポリフェニル、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、ナフタルイミド、クマリン、ピラン、ペリノン、オキサジアゾール、アルダジン、ピラリジン、シクロペンタジエン、ビススチリルアントラセン、キナクリドン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、シクロペンタジエン、スチリルアミン、芳香族ジメチリディン化合物、縮合多環芳香族化合物(アントラセン、フェナントロリン、ピレン、ペリレン、ルブレン、又はペンタセンなど)、8−キノリノールの金属錯体、ピロメテン錯体や希土類錯体に代表される各種金属錯体、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物、有機シラン、およびこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0044】
(ii) ホスト材料
有機EL素子の発光層のホスト材料としては、正孔輸送性ホスト材料及び電子輸送性ホスト材料が知られている。本発明の作製方法では、いずれのホスト材料も溶質として用いることができる。
(a)電子輸送性ホスト材料
電子輸送性ホスト材料としては、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、電子親和力Eaが2.5eV以上3.5eV以下であることが好ましく、2.6eV以上3.4eV以下であることがより好ましく、2.8eV以上3.3eV以下であることが更に好ましい。
また、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、イオン化ポテンシャルIpが5.7eV以上7.5eV以下であることが好ましく、5.8eV以上7.0eV以下であることがより好ましく、5.9eV以上6.5eV以下であることが更に好ましい。
このような電子輸送性ホストとしては、具体的には、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾ−ル、オキサゾ−ル、オキサジアゾ−ル、フルオレノン、アントラキノジメタン、アントロン、ジフェニルキノン、チオピランジオキシド、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン、ジスチリルピラジン、フッ素置換芳香族化合物、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン、およびそれらの誘導体(他の環と縮合環を形成してもよい)、8−キノリノ−ル誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾ−ルやベンゾチアゾ−ルを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体等を挙げることができる。
【0045】
電子輸送性ホストとして好ましくは、金属錯体、アゾール誘導体(ベンズイミダゾール誘導体、イミダゾピリジン誘導体等)、アジン誘導体(ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体等)であり、中でも、耐久性の点から金属錯体化合物が好ましい。
金属錯体化合物は金属に配位する少なくとも1つの窒素原子または酸素原子または硫黄原子を有する配位子をもつ金属錯体がより好ましい。
金属錯体中の金属イオンは特に限定されないが、好ましくはベリリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、亜鉛イオン、インジウムイオン、錫イオン、白金イオン、またはパラジウムイオンであり、より好ましくはベリリウムイオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、亜鉛イオン、白金イオン、またはパラジウムイオンであり、更に好ましくはアルミニウムイオン、亜鉛イオン、白金イオン、またはパラジウムイオンである。
【0046】
前記金属錯体中に含まれる配位子としては種々の公知の配位子が有るが、例えば、「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」、Springer−Verlag社、H.Yersin著、1987年発行、「有機金属化学−基礎と応用−」、裳華房社、山本明夫著、1982年発行等に記載の配位子が挙げられる。
前記配位子として、好ましくは含窒素ヘテロ環配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数3〜15であり、単座配位子であっても2座以上の配位子であっても良い。
好ましくは2座以上6座以下の配位子である。
また、2座以上6座以下の配位子と単座の混合配位子も好ましい。
【0047】
配位子としては、例えばアジン配位子(例えば、ピリジン配位子、ビピリジル配位子、ターピリジン配位子などが挙げられる)、ヒドロキシフェニルアゾール配位子(例えば、ヒドロキシフェニルベンズイミダゾール配位子、ヒドロキシフェニルベンズオキサゾール配位子、ヒドロキシフェニルイミダゾール配位子、ヒドロキシフェニルイミダゾピリジン配位子などが挙げられる。)、アルコキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ、2,4,6−トリメチルフェニルオキシ、4−ビフェニルオキシなどが挙げられる。)、
【0048】
ヘテロアリールオキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、およびキノリルオキシなどが挙げられる。)、アルキルチオ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロアリールチオ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、および2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、シロキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数3〜25、特に好ましくは炭素数6〜20であり、例えば、トリフェニルシロキシ基、トリエトキシシロキシ基、およびトリイソプロピルシロキシ基などが挙げられる。)、芳香族炭化水素アニオン配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜25、特に好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニルアニオン、ナフチルアニオン、およびアントラニルアニオンなどが挙げられる。)、芳香族ヘテロ環アニオン配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数2〜25、特に好ましくは炭素数2〜20であり、例えばピロールアニオン、ピラゾールアニオン、ピラゾールアニオン、トリアゾールアニオン、オキサゾールアニオン、ベンゾオキサゾールアニオン、チアゾールアニオン、ベンゾチアゾールアニオン、チオフェンアニオン、およびベンゾチオフェンアニオンなどが挙げられる。)、インドレニンアニオン配位子などが挙げられ、好ましくは含窒素ヘテロ環配位子、アリールオキシ配位子、ヘテロアリールオキシ基、またはシロキシ配位子であり、更に好ましくは含窒素ヘテロ環配位子、アリールオキシ配位子、シロキシ配位子、芳香族炭化水素アニオン配位子、または芳香族ヘテロ環アニオン配位子である。
【0049】
金属錯体電子輸送性ホスト材料の例としては、例えば特開2002−235076、特開2004−214179、特開2004−221062、特開2004−221065、特開2004−221068、特開2004−327313等に記載の化合物が挙げられる。
【0050】
前記電子輸送性ホスト材料としては、具体的には、例えば、以下の材料を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
【化1】

【0052】
【化2】

【0053】
【化3】

【0054】
電子輸送層ホスト材料としては、E−1〜E−6、E−8、E−9、E−10、E−21、またはE−22が好ましく、E−3、E−4、E−6、E−8、E−9、E−10、E−21、またはE−22がより好ましく、E−3、E−4、E−8、E−9、E−21、またはE−22が更に好ましい。
【0055】
(b) 正孔輸送性ホスト材料
正孔輸送性ホスト材料としては、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、イオン化ポテンシャルIpが5.1eV以上6.4eV以下であることが好ましく、5.4eV以上6.2eV以下であることがより好ましく、5.6eV以上6.0eV以下であることが更に好ましい。
また、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、電子親和力Eaが1.2eV以上3.1eV以下であることが好ましく、1.4eV以上3.0eV以下であることがより好ましく、1.8eV以上2.8eV以下であることが更に好ましい。
【0056】
このような正孔輸送性ホスト材料としては、具体的には、例えば、以下の材料を挙げることができる。
ピロール、インドール、カルバゾール、アザインドール、アザカルバゾール、ピラゾール、イミダゾール、ポリアリールアルカン、ピラゾリン、ピラゾロン、フェニレンジアミン、アリールアミン、アミノ置換カルコン、スチリルアントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、シラザン、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマチオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、有機シラン、カーボン膜、及びそれらの誘導体等が挙げられる。
中でも、インドール誘導体、カルバゾール誘導体、アザインドール誘導体、アザカルバゾール誘導体、芳香族第三級アミン化合物、チオフェン誘導体が好ましく、特に分子内にインドール骨格、カルバゾール骨格、アザインドール骨格、アザカルバゾール骨格および/または芳香族第三級アミン骨格を複数個有するものが好ましい。
【0057】
前記正孔輸送性ホスト材料としての具体的化合物としては、例えば下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
【化4】

【0059】
【化5】

【0060】
【化6】

【0061】
【化7】

【0062】
本発明の薄膜の作製方法及び積層膜の作製方法は、有機EL素子等の有機電子デバイスの作製に利用可能である。以下、本発明の方法により作製可能な有機EL素子の一例の構成について、詳細に説明する(以下、本発明の有機EL素子と表現する)。
本発明の有機EL素子は基板上に陰極と陽極を有し、両電極の間に発光層を含む複数の有機化合物層を有する。更に発光層の両側には有機化合物層が隣接して構成される。
発光層に隣接している有機化合物層と電極の間には、更に有機化合物層を有していてもよい。
発光素子の性質上、陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は、透明であることが好ましい。
通常の場合、陽極が透明である。
本発明における有機化合物層の積層の態様としては、陽極側から、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の順に積層されている態様が好ましい。
更に、正孔輸送層と発光層との間、又は、発光層と電子輸送層との間には、電荷ブロック層等を有していてもよい。
本発明の有機電界発光素子における有機化合物層の好適な態様は、陽極側から順に、少なくとも、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、及び電子注入層、を有する態様である。
尚、発光層と電子輸送層との間に正孔ブロック層を有した場合には、発光層と隣接する有機化合物層は、陽極側が正孔輸送層になり、陰極側が正孔ブロック層となる。
また、陽極と正孔輸送層との間に、正孔注入層を有してもよく、陰極と電子輸送層との間には、電子注入層を有してもよい。
尚、各層は複数の二次層に分かれていてもよい。
【0063】
<基板>
有機EL素子の基板としては、発光層から発せられる光を散乱又は減衰させない基板であることが好ましい。その具体例としては、ジルコニア安定化イットリウム(YSZ)、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、およびポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の有機材料が挙げられる。
例えば、基板としてガラスを用いる場合、その材質については、ガラスからの溶出イオンを少なくするため、無アルカリガラスを用いることが好ましい。
また、ソーダライムガラスを用いる場合には、シリカなどのバリアコートを施したものを使用することが好ましい。
有機材料の場合には、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、及び加工性に優れていることが好ましい。
基板の形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、発光素子の用途、目的等に応じて適宜選択することができる。
【0064】
一般的には、基板の形状としては、板状であることが好ましい。
基板の構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、また、単一部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。
基板は、無色透明であっても、有色透明であってもよいが、有機発光層から発せられる光を散乱又は減衰等させることがない点で、無色透明であることが好ましい。
基板には、その表面又は裏面に透湿防止層(ガスバリア層)を設けることができる。
透湿防止層(ガスバリア層)の材料としては、窒化珪素、酸化珪素などの無機物が好適に用いられる。透湿防止層(ガスバリア層)は、例えば、高周波スパッタリング法などにより形成することができる。
熱可塑性基板を用いる場合には、更に必要に応じて、ハードコート層、アンダーコート層などを設けてもよい。
【0065】
<陽極>
陽極は、通常、有機化合物層に正孔を供給する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
前述のごとく、陽極は、通常透明陽極として設けられる。
陽極の材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、導電性化合物、又はこれらの混合物が好適に挙げられる。
陽極材料の具体例としては、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、及びこれらとITOとの積層物などが挙げられる。
この中で好ましいのは、導電性金属酸化物であり、特に、生産性、高導電性、透明性等の点からはITOが好ましい。
陽極は、例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式などの中から、陽極を構成する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って、前記基板上に形成することができる。
例えば、陽極の材料として、ITOを選択する場合には、陽極の形成は、直流又は高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等に従って行うことができる。
本発明の有機電界発光素子において、陽極の形成位置としては特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて適宜選択することができる。
この場合、陽極は、基板における一方の表面の全部に形成されていてもよく、その一部に形成されていてもよい。
なお、陽極を形成する際のパターニングとしては、フォトリソグラフィーなどによる化学的エッチングによって行ってもよいし、レーザーなどによる物理的エッチングによって行ってもよく、また、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法によって行ってもよい。
【0066】
陽極の厚みとしては、陽極を構成する材料により適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、通常、10nm〜50μm程度であり、50nm〜20μmが好ましい。
陽極の抵抗値としては、103Ω/□以下が好ましく、102Ω/□以下がより好ましい。
陽極が透明である場合は、無色透明であっても、有色透明であってもよい。
透明陽極側から発光を取り出すためには、その透過率としては、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。
なお、透明陽極については、沢田豊監修「透明電極膜の新展開」シーエムシー刊(1999)に詳述があり、ここに記載される事項を本発明に適用することができる。
耐熱性の低いプラスティック基材を用いる場合は、ITO又はIZOを使用し、150℃以下の低温で成膜した透明陽極が好ましい。
【0067】
<陰極>
陰極は、通常、有機化合物層に電子を注入する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
陰極を構成する材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物などが挙げられる。
具体例としてはアルカリ金属(たとえば、Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(たとえばMg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、およびイッテルビウム等の希土類金属などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させる観点からは、2種以上を好適に併用することができる。
これらの中でも、陰極を構成する材料としては、電子注入性の点で、アルカリ金属やアルカリ土類金属が好ましく、保存安定性に優れる点で、アルミニウムを主体とする材料が好ましい。
アルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、アルミニウムと0.01質量%〜10質量%のアルカリ金属又はアルカリ土類金属との合金若しくはこれらの混合物(例えば、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金など)をいう。
なお、陰極の材料については、特開平2−15595号公報、特開平5−121172号公報に詳述されており、これらの公報に記載の材料は、本発明においても適用することができる。
陰極の形成方法については、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。
例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式などの中から、前記した陰極を構成する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って形成することができる。
例えば、陰極の材料として、金属等を選択する場合には、その1種又は2種以上を同時又は順次にスパッタ法等に従って行うことができる。
陰極を形成するに際してのパターニングは、フォトリソグラフィーなどによる化学的エッチングによって行ってもよいし、レーザーなどによる物理的エッチングによって行ってもよく、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法によって行ってもよい。
本発明において、陰極形成位置は特に制限はなく、有機化合物層上の全部に形成されていてもよく、その一部に形成されていてもよい。
また、陰極と前記有機化合物層との間に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物、酸化物等による誘電体層を0.1nm〜5nmの厚みで挿入してもよい。
この誘電体層は、一種の電子注入層と見ることもできる。
誘電体層は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等により形成することができる。
陰極の厚みは、陰極を構成する材料により適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、通常10nm〜5μm程度であり、50nm〜1μmが好ましい。
また、陰極は、透明であってもよいし、不透明であってもよい。
なお、透明な陰極は、陰極の材料を1nm〜10nmの厚さに薄く成膜し、更にITOやIZO等の透明な導電性材料を積層することにより形成することができる。
【0068】
<有機化合物層>
本発明における有機化合物層について説明する。
本発明の有機EL素子は、発光層を含む少なくとも一層の有機化合物層を有しており、発光層以外の他の有機化合物層としては、正孔輸送層、電子輸送層、電荷ブロック層、正孔注入層、電子注入層等の各層が挙げられる。これらの有機化合物層のうち、一以上の層が、本発明の作製方法より作製される。
【0069】
−有機化合物層の形成−
本発明の有機電界発光素子において、有機化合物層を構成する各層は、本発明に示す装置以外にも、蒸着法やスパッタ法等の乾式製膜法、湿式塗布方式、転写法、印刷法、インクジェット方式等いずれによっても好適に形成することができる。本発明の作製方法により形成することが好ましい。
【0070】
−正孔注入層、正孔輸送層−
正孔注入層、正孔輸送層は、陽極又は陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。本発明の作製方法により形成することが好ましい。
本発明の正孔注入層、正孔輸送層に使用できる材料としては、特に限定はなく、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
具体的には、ピロール誘導体、カルバゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、チオフェン誘導体、有機シラン誘導体、カーボン、フェニルアゾール、フェニルアジンを配位子に有する金属錯体、等を含有する層であることが好ましい。
【0071】
本発明の有機EL素子の正孔注入層あるいは正孔輸送層には、電子受容性ドーパントを含有させることができる。
正孔注入層、あるいは正孔輸送層に導入する電子受容性ドーパントとしては、電子受容性で有機化合物を酸化する性質を有すれば、無機化合物でも有機化合物でも使用できる。
具体的には、無機化合物は塩化第二鉄や塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモンなどのハロゲン化金属、五酸化バナジウム、および三酸化モリブデンなどの金属酸化物などが挙げられる。
有機化合物の場合は、置換基としてニトロ基、ハロゲン、シアノ基、トリフルオロメチル基などを有する化合物、キノン系化合物、酸無水物系化合物、フラーレンなどを好適に用いることができる。
この他にも、特開平6−212153、特開平11−111463、特開平11−251067、特開2000−196140、特開2000−286054、特開2000−315580、特開2001−102175、特開2001−160493、特開2002−252085、特開2002−56985、特開2003−157981、特開2003−217862、特開2003−229278、特開2004−342614、特開2005−72012、特開2005−166637、特開2005−209643等に記載の化合物を好適に用いることが出来る。
これらの電子受容性ドーパントは、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
電子受容性ドーパントの使用量は、材料の種類によって異なるが、正孔輸送層材料に対して0.01質量%〜50質量%であることが好ましく、0.05質量%〜20質量%であることが更に好ましく、0.1質量%〜10質量%であることが特に好ましい。
【0072】
正孔注入層、正孔輸送層の厚さは、駆動電圧を下げるという観点から、各々500nm以下であることが好ましい。
正孔輸送層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜300nmであるのがより好ましく、10nm〜200nmであるのが更に好ましい。
また、正孔注入層の厚さとしては、0.1nm〜500nmであるのが好ましく、0.5nm〜300nmであるのがより好ましく、1nm〜200nmであるのが更に好ましい。
正孔注入層、正孔輸送層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0073】
−電子注入層、電子輸送層−
電子注入層、電子輸送層は、陰極又は陰極側から電子を受け取り陽極側に輸送する機能を有する層である。本発明の作製方法により形成することが好ましい。
電子注入層、電子輸送層に使用できる材料として特に限定は無く、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
具体的には、ピリジン誘導体、キノリン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、フタラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、トリアジン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、シロールに代表される有機シラン誘導体、等を含有する層であることが好ましい。
【0074】
本発明の有機EL素子の電子注入層あるいは電子輸送層には、電子供与性ドーパントを含有させることができる。
電子注入層、あるいは電子輸送層に導入される電子供与性ドーパントとしては、電子供与性で有機化合物を還元する性質を有していればよく、Liなどのアルカリ金属、Mgなどのアルカリ土類金属、希土類金属を含む遷移金属や還元性有機化合物などが好適に用いられる。
金属としては、特に仕事関数が4.2eV以下の金属が好適に使用でき、具体的には、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Cs、La、Sm、Gd、およびYbなどが挙げられる。
また、還元性有機化合物としては、例えば、含窒素化合物、含硫黄化合物、含リン化合物などが挙げられる。
この他にも、特開平6−212153、特開2000−196140、特開2003−68468、特開2003−229278、特開2004−342614等に記載の材料を用いることが出来る。
これらの電子供与性ドーパントは、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
電子供与性ドーパントの使用量は、材料の種類によって異なるが、電子輸送層材料に対して0.1質量%〜30質量%であることが好ましく、0.1質量%〜20質量%であることが更に好ましく、0.1質量%〜10質量%であることが特に好ましい。
【0075】
電子注入層、電子輸送層の厚さは、駆動電圧を下げるという観点から、各々500nm以下であることが好ましい。
電子輸送層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
また、電子注入層の厚さとしては、0.1nm〜200nmであるのが好ましく、0.2nm〜100nmであるのがより好ましく、0.5nm〜50nmであるのが更に好ましい。
電子注入層、電子輸送層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0076】
−ホールブロック層−
ホールブロック層は、陽極側から発光層に輸送された正孔が、陰極側に通りぬけることを防止する機能を有する層である。本発明の作製方法により形成することが好ましい。
発光層と陰極側で隣接する有機化合物層として、ホールブロック層を設けることができる。
ホールブロック層を構成する化合物の例としては、BAlq等のアルミニウム錯体、トリアゾール誘導体、BCP等のフェナントロリン誘導体、等が挙げられる。
ホールブロック層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
ホールブロック層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0077】
−電子ブロック層−
電子ブロック層は、陰極側から発光層に輸送された電子が、陽極側に通りぬけることを防止する機能を有する層である。本発明の作製方法により形成することが好ましい。
発光層と陽極側で隣接する有機化合物層として、電子ブロック層を設けることができる。
電子ブロック層を構成する化合物の例としては、例えば前述の正孔輸送材料として挙げたものが適用できる。
電子ブロック層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
ホールブロック層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0078】
<保護層>
本発明において、有機EL素子全体は、保護層によって保護されていてもよい。
保護層に含まれる材料としては、水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有しているものであればよい。
その具体例としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Ti、Ni等の金属、MgO、SiO、SiO2、Al23、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe23、Y23、TiO2等の金属酸化物、SiNx、SiNxy等の金属窒化物、MgF2、LiF、AlF3、CaF2等の金属フッ化物、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリウレア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとジクロロジフルオロエチレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させて得られる共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質等が挙げられる。
【0079】
保護層の形成方法については、特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシ)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法、コーティング法、印刷法、転写法を適用できる。また、保護層は、本発明の作製方法により形成してもよい。
【0080】
<封止>
さらに、本発明の有機電界発光素子は、封止容器を用いて素子全体を封止してもよい。
また、封止容器と発光素子の間の空間に水分吸収剤又は不活性液体を封入してもよい。
水分吸収剤としては、特に限定されることはないが、例えば、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、五酸化燐、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化銅、フッ化セシウム、フッ化ニオブ、臭化カルシウム、臭化バナジウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト、および酸化マグネシウム等を挙げることができる。
【0081】
不活性液体としては、特に限定されることはないが、例えば、パラフィン類、流動パラフィン類、パーフルオロアルカンやパーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等のフッ素系溶剤、塩素系溶剤、およびシリコーンオイル類が挙げられる。
【0082】
<駆動>
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜15ボルト)、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
本発明の有機電界発光素子の駆動方法については、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号の各公報、特許第2784615号、米国特許5828429号、同6023308号の各明細書、等に記載の駆動方法を適用することができる。
本発明の発光素子は、種々の公知の工夫により、光取り出し効率を向上させることができる。
例えば、基板表面形状を加工する(例えば微細な凹凸パターンを形成する)、基板・ITO層・有機層の屈折率を制御する、基板・ITO層・有機層の膜厚を制御すること等により、光の取り出し効率を向上させ、外部量子効率を向上させることが可能である。
本発明の発光素子は、陽極側から発光を取り出す、いわゆる、トップエミッション方式であってもよい。
【0083】
上記では、有機電界発光素子の構成について説明したが、本発明の方法は、有機太陽電池、有機電界効果型トランジスタ等の他の有機電子デバイスの薄膜の作製にも、勿論利用することができる。また、反射板、偏光板等の種々の光学部材用の薄膜の作製方法としても利用することができる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0085】
図1と同様の構成のスプレー成膜装置を用いて、2流体ノズル12a、12bで原料液を液滴化し、液滴をチャンバー20内で濃縮し、濃縮液滴を基板22上に堆積させることで成膜を行った。チャンバー20内部の温度は、チャンバー20の外側周囲に形成された流路を流れる水の温度によって制御されている。
基板として、ITOガラス(Aldrich製、30〜60Ω/□)を使用し、中性洗剤・純水でそれぞれ5分間ほど超音波洗浄を行った後、窒素ブロアーで基板に付着した水分を除去し、さらに加熱して乾燥した。その後、1質量%までシクロヘキサノンで希釈した、以下に示すPTPDES−2の溶解溶液を、2000rpmの回転数でスピンコートし、50nmの膜厚としたものを使用した。このPTPDES−2は正孔輸送層として機能し、THFに溶解する。
【0086】
【化8】

【0087】
次に、このガラス基板を図1に示した装置の基板ホルダ24にセットする。チャンバー20内及び基板ホルダ24に流れる水の温度を50℃に設定する。チャンバー20の開口部はφ10mmに設定し、開口部から基板22までの距離を10mmに設定する。
原料液は下記濃度までテトラヒドロフラン(THF)溶液で希釈した、以下に示すPoly[2−methoxy−5−(2−ethylhexyloxy)−1,4−phenylenevinylene](MEH−PPV、密度0.98g/cm3)溶液を使用した。各実施例及び比較例で用いた原料液の濃度は、表1中に示す。
【0088】
【化9】

【0089】
2流体ノズル12a、12bには、原料液及び窒素ガスを流入し、目的の液滴径になるように送液量を0〜10ml/min.の範囲、エア流量を0〜10L/min.の範囲で変化させた。なお、2流体ノズル12a、12bとしてAtomax社製AM−6を使用し、送液量を調整するシリンジポンプ14a、14bとしてHarvard社製シリンジポンプ、エア流量を調整するレギュレータ16a、16bとしてAtomax社製レギュレータを使用した。チャンバー内の溶剤ガス濃度は防爆の観点から20%LEL以下になるよう、吸排気のバランスを設定した。また、噴霧時間は5分に設定した。
【0090】
下記表に示す種々の条件で、有機薄膜を作製した。
実施例1では、ノズルを2つ設置し、それぞれ0.001質量%、0.0001質量%の原料液を噴霧した。また、噴霧時の平均液滴径はどちらも5μmに設定した。
実施例2では、ノズルを2つ設置し、それぞれ同じ0.001質量%という濃度の原料液を噴霧した。また、噴霧時の平均液滴径はそれぞれ5μm、3μmに設定した。
実施例3では、ノズルを3つ設置し、それぞれ同じ0.001質量%という濃度の原料液を噴霧した。また、噴霧時の平均液滴径はそれぞれ8μm、5μm、3μmに設定した。
比較例1〜3はそれぞれ1〜3本のノズルに対し、0.001質量%の同じ原料液を同じ平均液滴径で噴霧した。
【0091】
作製した各膜の発光ムラ、膜密度、及び下層との密着性をそれぞれ評価した。
各膜の発光ムラは、TOPCON社製蛍光検査灯Fi−51L(中心波長:350nm)をサンプルに照射し、フォトルミネッセンス(PL)評価からムラの有無を目視にて確認することで判断した(○:ムラなし、△:一部ムラ有り、×:全面にムラ有り)。
膜密度は、X線反射率測定装置により評価し、MEH−PPVの密度(0.98g/cm3)と比較することで判断した。
下層への密着性はテープによる剥ぎ取り試験から判断した(○:全く剥がれない、△:一部剥がれる、×:完全に剥がれる)。
結果を以下の表に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
上記結果から、比較例では膜密度が低く発光ムラが生じ、かつ基板との密着も悪いことが理解できる。一方、本発明の実施例では、高い膜密度の薄膜を作製できていて、その結果、発光ムラがなく、即ち素子特性も改善され、さらに下層との密着も向上したことが理解できる。
【符号の説明】
【0094】
12a、12b 二流体ノズル
14a、14b シリンジポンプ
16a、16b レギュレータ
18a、18b ガスボンベ
20 チャンバー
22 基板
24 基板ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を噴霧して液滴を形成すること、
液滴中の溶媒を揮発させ濃縮すること、
濃縮された液滴を基板上もしくは基板上に設けられた薄膜の上に堆積させること、
を順次含む薄膜の作製方法であって、
基板に、液滴径が互いに異なる液滴を同時に堆積させることを特徴とする薄膜の作製方法。
【請求項2】
2以上のノズルのそれぞれから、固形分組成が同一であるが固形分濃度が互いに異なる原料液を同時に噴霧することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固形分組成が同一であるが固形分濃度が互いに異なる原料液を、同一径の液滴として噴霧することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
2以上のノズルのそれぞれから、同一の原料液を、互いに異なる液滴径の液滴として同時に噴霧することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
噴霧される液滴が、2以上のピークを有する液滴径分布を示すことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
基板の材料もしくは基板上に設けられた薄膜の材料を溶解する溶媒の少なくとも一種を含む液滴を堆積させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
原料液が、有機半導体、有機発光材料、有機電子輸送材料、及び有機正孔輸送材料から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
有機半導体層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、及び正孔注入層のいずれかを作製するための方法であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法により同一固形分組成の下層の単層薄膜を作製すること、
該下層の単層薄膜上に、当該下層の単層薄膜と固形分組成の一部もしくは全部が異なる上層の単層薄膜を、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法により作製すること、
を少なくとも含む積層薄膜の作製方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法に用いられる有機薄膜の作製装置であって、
溶質を溶媒中に溶解及び/又は分散してなる原料液を液滴化する、2以上のノズルを備えた液滴形成手段、
前記液滴形成手段に前記原料液を供給する原料液供給手段、
前記液滴形成手段にガスを供給するガス供給手段、
前記液滴形成手段に接続して設けられた液滴を加熱する液滴加熱手段、及び
基板を固定する基板ホルダ
を備えた薄膜の作製装置。
【請求項11】
基板をホルダに接続して設けられた基板を加熱する基板加熱手段をさらに備えた請求項10に記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−218282(P2011−218282A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89319(P2010−89319)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】