薄膜バルク波共振器
【課題】積層共振体の信頼性を低下させることなく、封止時におけるキャビティ空間と外気との間の気圧差を低減できる薄膜バルク波共振器を提供する。
【解決手段】薄膜バルク波共振器10は、積層共振体30と、積層共振体30がその厚み方向に自由振動できる空間を提供するキャビティ22を有する素子基板20と、キャビティ22の開口部を閉塞する蓋基板60であって、キャビティ22を外気に連通させるための気体流路63を有する蓋基板60と、積層共振体30、素子基板20、及び蓋基板60を封止する封止部材80とを備える。キャビティ22は、気体流路63を介して外気に連通しているので、封止部材80による封止処理前後を通じてキャビティ空間と外気との間に気圧差は生じない。このため、キャビティ空間と外気との気圧差による積層共振体30の破損や周波数特性の劣化を抑制できる。
【解決手段】薄膜バルク波共振器10は、積層共振体30と、積層共振体30がその厚み方向に自由振動できる空間を提供するキャビティ22を有する素子基板20と、キャビティ22の開口部を閉塞する蓋基板60であって、キャビティ22を外気に連通させるための気体流路63を有する蓋基板60と、積層共振体30、素子基板20、及び蓋基板60を封止する封止部材80とを備える。キャビティ22は、気体流路63を介して外気に連通しているので、封止部材80による封止処理前後を通じてキャビティ空間と外気との間に気圧差は生じない。このため、キャビティ空間と外気との気圧差による積層共振体30の破損や周波数特性の劣化を抑制できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜バルク波共振器に関し、特に、薄膜バルク波共振器を実装基板に実装するための実装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
無線周波数資源の有効利用の観点から、高周波フィルタには、急峻なスカート特性が要求される。特に、通過帯域では、挿入損失が小さくて、帯域外の抑圧は大きく、理想的には、抑圧無限大で、矩形のフィルタ特性が望まれる。このようなフィルタ特性を実現するフィルタデバイスとして、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)が知られている。一般的に、FBARは、素子基板とその素子基板上に形成される積層共振体とを有する共振子である。積層共振体は、圧電体膜とその圧電体膜を上下から挟む一対の上部電極及び下部電極を有しており、上部電極と下部電極との間に高周波信号が印加されると、積層共振体の膜厚が1/2波長に等しくなる共振周波数にて厚み縦方向に励振する。
【0003】
積層共振体の厚み縦振動を確保するために、積層共振体の形成位置に対応して、振動空間を提供するキャビティを素子基板内部に形成する共振子構造が知られている。このようなキャビティ構造を有する薄膜バルク波共振器を実装基板に実装する場合には、中空に封止されたパッケージ構造をとる必要がある。ところが、上述のキャビティ構造を有する薄膜バルク波共振器では、素子基板にキャビティが形成されているので、積層共振体側のみを封止しても、キャビティに水分などが浸入し、下部電極や圧電体膜を酸化させる等して信頼性に影響を与えかねない。このため、キャビティ側も封止する必要がある。
【0004】
キャビティ側を完全に密閉すると、その後の実装時の高温環境下における製造プロセスの影響により、キャビティ内部の気体が膨張し、キャビティ空間と外気との間に気圧差が生じる場合がある。すると、この気圧差により積層共振体の橋梁部分に応力が発生することで、特性劣化が生じる場合がある。更に、温度変化が繰り返し生じる環境下では、橋梁部分でのクラック発生や破断などが生じ、長期信頼性を損なう原因になる。このような問題に鑑み、特開2006−101005号公報では、積層共振体を貫通してキャビティに連通するビアホールからなる気体流路を形成し、キャビティ空間と外気との間の気圧差をなくす共振器構造が提案されている。
【特許文献1】特開2006−101005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、積層共振体を貫通する気体流路を形成すると、その気体流路を起点として積層共振体に亀裂等が生じる可能性があり、積層共振体の信頼性が低下する虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、積層共振体の信頼性を低下させることなく、封止時におけるキャビティ空間と外気との間の気圧差を低減できる薄膜バルク波共振器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に係わる薄膜バルク波共振器は、積層共振体と、積層共振体がその厚み方向に自由振動できる空間を提供するキャビティを有する素子基板と、キャビティの開口部を閉塞する蓋基板であって、キャビティを外気に連通させるための気体流路を有する蓋基板と、積層共振体、素子基板、及び蓋基板を封止する封止部材とを備える。斯かる構造によれば、キャビティは、気体流路を介して外気に連通しているので、封止部材による封止処理前後を通じてキャビティ空間と外気との間に気圧差は生じない。このため、キャビティ空間と外気との気圧差による積層共振体の破損や周波数特性の劣化を抑制できる。
【0008】
ここで、気体流路は、蓋基板の主面に対して平行に形成されているのが好ましい。これにより、封止部材が気体流路を閉塞する可能性を著しく低下させることができ、封止処理の前後を通じて、キャビティ空間と外気との間の気圧差をなくすことができる。
【0009】
また、気体流路は、蓋基板のダイシングラインに沿って形成されているのが好ましい。これにより、ダイシングラインに沿って蓋基板及び素子基板をカットしたときに、切断面に気体流路の一部が露出するので、キャビティからの脱気を均一化できる。
【0010】
また、蓋基板の表裏を貫通するとともに気体流路に連通する複数の貫通孔がダイシングラインに沿って形成されているのが好ましい。これにより、貫通孔がダイシングカット時のマークになるという効果に加えて、キャビティと外気との間の通気性を向上できるという効果を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、積層共振体の信頼性を低下させることなく、封止時におけるキャビティ空間と外気との間の気圧差を低減できる薄膜バルク波共振器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、各図を参照しながら本発明に係わる実施例について説明する。同一符号のデバイスは、同一のデバイスを示すものとして、重複する説明を省略する。また、図面は、模式的なものであり、説明の便宜上、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率は、現実の共振子構造とは異なる。
【実施例1】
【0013】
図1は実施例1に係わる薄膜バルク波共振器10の断面図である。
薄膜バルク波共振器10は、第一の主面20A及び第二の主面20Bを有する素子基板20と、素子基板20の第一の主面20A上に形成される積層共振体30とを備える。素子基板20の材質としては、適度な機械的強度を有し、且つエッチングなどの微細加工に適した材質であれば、特に限定されるものではないが、例えば、シリコン単結晶基板、サファイア単結晶基板、セラミックス基板、石英、ガラス基板などが好適である。同図においては、素子基板20と圧電体膜31との間に、二酸化珪素膜(SiO2)などの絶縁膜から成る下地層21が形成される例が示されているが、必須ではない。
【0014】
積層共振体30は、下部電極41、圧電体膜31、及び上部電極42から成る積層構造を有する圧電共振子である。圧電体膜31の材質としては、電気機械結合係数が大きく、伝搬損失及びパワーフロー角が小さく、遅延時間温度係数が小さく、伝搬速度の周波数分散性が少ない圧電材料が望ましく、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)などが好適である。圧電体膜の成膜法としては、例えば、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、イオンプレーティング法、レーザー蒸着法、イオンビーム蒸着法、真空蒸着法、化学的気相成長法(CVD)、MOCVD法、溶射法、メッキ法、及びゾルゲル法等が好適である。上部電極41及び下部電極42の材質としては、圧電体膜31が適度な配向性を形成し得る伝導性材質、例えば、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ルテニウム(Ru)又はこれら何れか2種以上を含む合金などが好適である。上部電極41及び下部電極42の成膜法としては、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法等が好適である。
【0015】
素子基板20には、積層共振体30の形成位置に対応する箇所にキャビティ22が形成されており、積層共振体30が素子基板20に束縛されることなく、厚み方向に自由振動できるダイヤフラム構造となっている。キャビティ22を形成するには、例えば、反応性イオンエッチングなどの異方性エッチングにより第二の主面20Bに対して略垂直に深堀加工してもよく、或いは等方性エッチングにより断面台形状に形成してもよい。
【0016】
上部電極42及び下部電極41に高周波信号を印加すると、圧電体膜31の逆圧電効果により圧電体膜31はその厚み方向に振動し、電気的共振特性を示す。更に圧電体膜31に生じる弾性波又は振動は、圧電体膜31の圧電効果により電気信号に変換される。この弾性波は、圧電体膜31の厚み方向に主変位を有する厚み縦振動波であり、積層共振体30の膜厚が1/2波長に等しくなる共振周波数にて励振する。
【0017】
圧電体膜31は、キャビティ22上部に位置して自由振動可能な振動領域31Aと、素子基板20上に接する支持領域31Bとを含む。圧電体膜31の振動領域31A上に形成されている上部電極42の上には、積層共振体30の共振周波数を調整するための重石電極44が形成されている。圧電体膜31の支持領域31B上に形成されている上部電極42の上には、後述する実装基板に接続するための嵩上げ電極43が形成されている。
【0018】
圧電体膜31の固定領域上には薄膜バルク波共振器10を保護するための保護膜50が形成されている。保護膜50の材質としては、適度な耐久性、耐熱性、耐水性を有し、且つ、エッチング加工可能な材質が好ましく、例えば、二酸化珪素膜(SiO2),酸化アルミニウム膜(Al2O3),窒化珪素膜(Si3N4),酸化タンタル膜(Ta2O5)などの誘電体膜が好適である。
【0019】
積層共振体30の具体的な積層構造を以下に例示する。以下に示す具体的な材質やその膜厚は本実施例を実施する上での一例であり、本発明を限定するものではない。
圧電共振子の積層構造:下部電極(Pt:140nm)/圧電体膜(AlN:1450nm)/上部電極(Pt:140nm)/重石電極(Pt:20nm)
【0020】
なお、説明の便宜上、各デバイスの位置関係を明確にする観点から、各図において、XYZ直交座標系を定義している。素子基板20の第一の主面20A及び第二の主面20Bに平行な平面をXY平面とし、XY平面に垂直な方向をZ方向としている。
【0021】
図2は本実施形態に係わる蓋基板60の平面図を示し、図3は蓋基板60の断面図を示す。蓋基板60は、素子基板20の第二の主面20Bに接合することにより、キャビティ22の開口部を閉塞し、積層共振体30を保護するための基板である。蓋基板60は、適度な機械的強度を有する基板61と、基板61の表面及び裏面に形成される絶縁膜62とを備える。基板61の材質としては、素子基板20との接合に好適な材質であれば特に限定されるものではないが、例えば、シリコンやガラスなどが好適である。基板61の材質がシリコンの場合、絶縁膜62としては、所定の膜厚(例えば、膜厚5000Å)を有する二酸化珪素膜が好適である。この二酸化珪素膜は、熱酸化法、CVD法、或いはスパッタ法などの公知の成膜法により形成できる。蓋基板60の表面側(蓋基板60と素子基板20とを接合させたときに外気に露出する側の主面)には、蓋基板60と素子基板20とを正確に位置合わせするためのアライメントマーク64が形成されている。このアライメントマーク64は、公知のフォトリソグラフィ法により、絶縁膜62をエッチング加工することにより得られる。蓋基板60の裏面側(蓋基板60と素子基板20とを接合させたときにキャビティ21の開口部に面する側の主面)には、絶縁膜62が溝状にエッチング加工されることにより、キャビティ22内部と外気とを連通させるための気体流路63が形成されている。この気体流路63の形成位置は、基板61の両面を視認可能な両面露光機を用いてアライメントマーク64の位置を基準に正確に位置合わせされている。説明の便宜上、蓋基板60の裏面を流路形成面と称する。
【0022】
なお、絶縁膜62は必須ではなく、基板61自体を溝状にエッチング加工することにより、気体流路63を形成してもよいことを理解されたい。また、説明の便宜上、図2及び図3では、一つの薄膜バルク波共振器10に対応する一つの蓋基板60のみを示している点に留意されたい。
【0023】
図4は気体流路63の形成パターンとキャビティ形成位置400との関係を示す模式図である。この模式図は、蓋基板60を素子基板20に接合した状態において、Z軸方向にある所定の視点から気体流路63の形成パターンとキャビティ形成位置400とを抽出してXY平面に投影したものである。説明の便宜上、複数のダイシングライン200,300も付記してある。この例では、気体流路63は、キャビティ形成位置400を起点として、十字状に形成されており、四方向から外気に連通可能な構造を有している。気体流路63の形成パターンとしては、同図に示す例に限られるものではなく、例えば、少なくとも2方向からキャビティ22に連通するパターンや、キャビティ400の形成位置を中心として点対称であるようなパターンでもよい。
【0024】
なお、同図は、ダイシングカット前における、複数の蓋基板60が接続された状態を示している。複数のダイシングライン200,300に沿って蓋基板60を素子基板20とともにダイシングカットすることで、蓋基板60と素子基板20とが一体的に接合されてなる薄膜バルク波共振器10をチップ化することができる。
【0025】
図5は図4の5−5線断面図を示し、図6は図4の6−6線断面図を示す。蓋基板60と素子基板20との位置関係を正確にアライメントした上で、蓋基板60の流路形成面側を素子基板20の第二の主面20Bに接合させると、キャビティ22内部は、気体流路63を介して外気に連通する。蓋基板60と素子基板20とを接合する方法として、基板61の材質に応じて最適な方法を選択し得る。例えば、基板61の材質がシリコンである場合には、表面活性化接合法、常温接合法、フュージョン接合法などを用いることができる。表面活性化接合法では、蓋基板60の流路形成面及び素子基板20の第二の主面20Bのそれぞれの汚染物をプラズマ処理により活性化し、窒素、酸素、アルゴンなどのガスを用いて清浄化する。プラズマ処理によって清浄化された清浄面には、結合手が出現する。接合機を用いて、所定条件下(例えば、加圧500N、加熱300℃1時間)で、蓋基板60及び素子基板20を加圧及び加熱すると、結合手が出現した状態の清浄面同士の化学結合により、蓋基板60と素子基板20とが結合する。基板61がホウケイ酸ガラス板などのガラス基板である場合には、陽極接合法を用いることもできる。陽極接合法では、蓋基板60は、所定の圧力で素子基板20に配置され、数百度に加熱された上で、蓋基板60と素子基板20との間に電圧が印加される。これにより、蓋基板60に含まれるナトリウムが素子基板20に移動し、密封性の高い接合が得られる。
【0026】
図7は薄膜バルク波共振器10を実装基板70に接続し、封止部材80による封止処理を行った後の薄膜バルク波共振器10の断面構造を示す。実装基板70は、例えば、LTCC基板であり、その表面には配線73が形成されている。配線73は、貫通配線71及び接続電極72を介して嵩上げ電極43に接続する。キャビティ22内部は、気体流路63を介して外気に連通しているので、積層共振体30の上部電極42が露出している外気の気圧と、積層共振体30の下部電極41が露出しているキャビティ空間の気圧は、同じである。封止処理では、薄膜バルク波共振器10の周囲全体を封止部材80で被覆し、減圧処理により薄膜バルク波共振器10を包み込むように密閉する。封止部材80としては、例えば、熱硬化性樹脂などが好ましい。封止処理の前後を通じて、キャビティ空間と外気との間に気圧差は殆どなく、後の製造プロセスにより温度環境が変化したとしても、キャビティ空間と外気との間の気圧差に変化は生じない。よって、封止処理後のキャビティ空間と外気との気圧差に起因して積層共振体30が破損する虞はない。
【0027】
なお、気体流路63は、蓋基板60の流路形成面に沿って、流路形成面に対して平行な方向に形成されているので、封止部材80が気体流路63を閉塞する可能性は乏しく、封止処理の前後を通じて、キャビティ空間と外気との間の気圧差をなくすことができる。
【0028】
ところで、上述の説明では、蓋基板60の流路形成面に直線状の気体流路63を形成する例を示したが、キャビティ22内部を起点として、蛇行或いは屈曲しながら外部へ連通する気体流路(例えば、サーペインスタイン状の気体流路)を形成してもよい。気体流路63の形状をこのような形状に形成すると、ウォーターブレイドにより蓋基板60及び素子基板20をカットしたときに、水が気体流路63を介してキャビティ22へ流れ込む可能性を低減できる。
【0029】
本実施例によれば、キャビティ空間と外気との間の気圧差をなくすための気体流路63を蓋基板60に形成したので、積層共振体30の構造的信頼性に影響を与えることなく、封止時におけるキャビティ空間と外気との間の気圧差を低減できる構造を有する薄膜バルク波共振器10を提供できる。
【実施例2】
【0030】
次に、図8乃至図11を参照しながら実施例2に係わる蓋基板60について説明する。図8は気体流路63の形成パターンとキャビティ形成位置400との関係を示す模式図、図9は図8の9−9線断面図、図10は図8の10−10線断面図、図11は図8の11−11線断面図を示す。本実施例は、図8に示すように、ダイシングライン200,300に沿って気体流路63を形成している点を特徴としている。このようにダイシングライン200,300に沿って気体流路63を形成すると、ダイシングライン200,300に沿って蓋基板60及び素子基板20をカットしたときに、切断面に気体流路63の一部が露出するので、キャビティ22内部からの脱気を均一化できる。このような流路構造はプロセス要因(例えば、ダイシングカット時に発生する粉塵や異物)による気体流路63の閉塞を抑制できるという利点を有する。更に、蓋基板60の表裏を貫通するとともに気体流路63に連通する複数の貫通孔65をダイシングライン200,300に沿って離散的に形成することで、この貫通孔65がダイシングカット時のマークになるという効果に加えて、キャビティ22内部と外気との間の通気性を向上できるという効果を有する。なお、貫通孔65は必須ではなく、必要に応じて形成すればよい。
【0031】
本実施例における蓋基板60を素子基板20に接合する処理、薄膜バルク波共振器10を実装基板70に接続する処理、及び封止部材80による封止処理を実施する処理は、実施例1と同様であるため、これらの処理についての説明を省略する。
【0032】
本実施例によれば、ダイシングライン200,300に沿って、気体流路63を形成するので、プロセス要因による流路閉塞を抑制できるとともに、キャビティ22外部と外気との通気性を向上できる。
【実施例3】
【0033】
次に、実施例3に係わる蓋基板60について説明する。上述の実施例1及び実施例2では、蓋基板60の流路形成面に沿って、流路形成面に対して平行な方向に気体流路63を形成する例を示したが、キャビティ形成位置400に対応する位置において、蓋基板60の表裏を貫通する気体流路63を形成してもよい。
【0034】
上述の実施例1乃至3に係わる薄膜バルク波共振器10の周波数特性を図13に示し、従来の薄膜バルク波共振器の周波数特性を図12に示す。図12及び図13において、実線は、封止処理前の薄膜バルク波共振器の周波数特性(基準値)を示し、破線は、封止処理後の薄膜バルク波共振器の周波数特性を示す(但し、図13では、実線と破線とが重なっているので、実線のみ図示されている点に留意されたい。)。実施例1乃至実施例3に係わる薄膜バルク波共振器10では、図13に示すように、封止処理の前後を通じてその周波数特性に変化は見られない。一方、従来の薄膜バルク波共振器では、図12に示すように、封止処理の前後を通じてキャビティ空間と外気との間に気圧差が生じ、その周波数特性に変化が見られる。実施例1乃至実施例3に係わる薄膜バルク波共振器10によれば、封止処理によるキャビティ空間と外気との間の気圧差を原因とする周波数特性の変化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1に係わる薄膜バルク波共振器の断面図である。
【図2】実施例1に係わる蓋基板の平面図である。
【図3】実施例1に係わる蓋基板の断面図である。
【図4】実施例1に係わる気体流れ路の形成パターンとキャビティ形成位置との関係を示す模式図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】図4の6−6線断面図である。
【図7】実施例1に係わる薄膜バルク波共振器の断面図である。
【図8】実施例2に係わる気体流路の形成パターンとキャビティ形成位置との関係を示す模式図である
【図9】図8の9−9線断面図である。
【図10】図8の10−10線断面図である。
【図11】図8の11−11線断面図である。
【図12】従来の薄膜バルク波共振器の周波数特性を示すグラフである。
【図13】実施例1乃至実施例3に係わる薄膜バルク波共振器の周波数特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
10…薄膜バルク波共振器 20…素子基板 22…キャビティ 30…積層共振体 31…圧電体膜 31A…振動領域 31B…支持領域 41…下部電極 42…上部電極 43…嵩上げ電極 44…重石電極 50…保護膜 60…蓋基板 61…基板 62…絶縁膜 63…気体流路 64…アライメントマーク 65…貫通孔
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜バルク波共振器に関し、特に、薄膜バルク波共振器を実装基板に実装するための実装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
無線周波数資源の有効利用の観点から、高周波フィルタには、急峻なスカート特性が要求される。特に、通過帯域では、挿入損失が小さくて、帯域外の抑圧は大きく、理想的には、抑圧無限大で、矩形のフィルタ特性が望まれる。このようなフィルタ特性を実現するフィルタデバイスとして、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)が知られている。一般的に、FBARは、素子基板とその素子基板上に形成される積層共振体とを有する共振子である。積層共振体は、圧電体膜とその圧電体膜を上下から挟む一対の上部電極及び下部電極を有しており、上部電極と下部電極との間に高周波信号が印加されると、積層共振体の膜厚が1/2波長に等しくなる共振周波数にて厚み縦方向に励振する。
【0003】
積層共振体の厚み縦振動を確保するために、積層共振体の形成位置に対応して、振動空間を提供するキャビティを素子基板内部に形成する共振子構造が知られている。このようなキャビティ構造を有する薄膜バルク波共振器を実装基板に実装する場合には、中空に封止されたパッケージ構造をとる必要がある。ところが、上述のキャビティ構造を有する薄膜バルク波共振器では、素子基板にキャビティが形成されているので、積層共振体側のみを封止しても、キャビティに水分などが浸入し、下部電極や圧電体膜を酸化させる等して信頼性に影響を与えかねない。このため、キャビティ側も封止する必要がある。
【0004】
キャビティ側を完全に密閉すると、その後の実装時の高温環境下における製造プロセスの影響により、キャビティ内部の気体が膨張し、キャビティ空間と外気との間に気圧差が生じる場合がある。すると、この気圧差により積層共振体の橋梁部分に応力が発生することで、特性劣化が生じる場合がある。更に、温度変化が繰り返し生じる環境下では、橋梁部分でのクラック発生や破断などが生じ、長期信頼性を損なう原因になる。このような問題に鑑み、特開2006−101005号公報では、積層共振体を貫通してキャビティに連通するビアホールからなる気体流路を形成し、キャビティ空間と外気との間の気圧差をなくす共振器構造が提案されている。
【特許文献1】特開2006−101005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、積層共振体を貫通する気体流路を形成すると、その気体流路を起点として積層共振体に亀裂等が生じる可能性があり、積層共振体の信頼性が低下する虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、積層共振体の信頼性を低下させることなく、封止時におけるキャビティ空間と外気との間の気圧差を低減できる薄膜バルク波共振器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に係わる薄膜バルク波共振器は、積層共振体と、積層共振体がその厚み方向に自由振動できる空間を提供するキャビティを有する素子基板と、キャビティの開口部を閉塞する蓋基板であって、キャビティを外気に連通させるための気体流路を有する蓋基板と、積層共振体、素子基板、及び蓋基板を封止する封止部材とを備える。斯かる構造によれば、キャビティは、気体流路を介して外気に連通しているので、封止部材による封止処理前後を通じてキャビティ空間と外気との間に気圧差は生じない。このため、キャビティ空間と外気との気圧差による積層共振体の破損や周波数特性の劣化を抑制できる。
【0008】
ここで、気体流路は、蓋基板の主面に対して平行に形成されているのが好ましい。これにより、封止部材が気体流路を閉塞する可能性を著しく低下させることができ、封止処理の前後を通じて、キャビティ空間と外気との間の気圧差をなくすことができる。
【0009】
また、気体流路は、蓋基板のダイシングラインに沿って形成されているのが好ましい。これにより、ダイシングラインに沿って蓋基板及び素子基板をカットしたときに、切断面に気体流路の一部が露出するので、キャビティからの脱気を均一化できる。
【0010】
また、蓋基板の表裏を貫通するとともに気体流路に連通する複数の貫通孔がダイシングラインに沿って形成されているのが好ましい。これにより、貫通孔がダイシングカット時のマークになるという効果に加えて、キャビティと外気との間の通気性を向上できるという効果を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、積層共振体の信頼性を低下させることなく、封止時におけるキャビティ空間と外気との間の気圧差を低減できる薄膜バルク波共振器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、各図を参照しながら本発明に係わる実施例について説明する。同一符号のデバイスは、同一のデバイスを示すものとして、重複する説明を省略する。また、図面は、模式的なものであり、説明の便宜上、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率は、現実の共振子構造とは異なる。
【実施例1】
【0013】
図1は実施例1に係わる薄膜バルク波共振器10の断面図である。
薄膜バルク波共振器10は、第一の主面20A及び第二の主面20Bを有する素子基板20と、素子基板20の第一の主面20A上に形成される積層共振体30とを備える。素子基板20の材質としては、適度な機械的強度を有し、且つエッチングなどの微細加工に適した材質であれば、特に限定されるものではないが、例えば、シリコン単結晶基板、サファイア単結晶基板、セラミックス基板、石英、ガラス基板などが好適である。同図においては、素子基板20と圧電体膜31との間に、二酸化珪素膜(SiO2)などの絶縁膜から成る下地層21が形成される例が示されているが、必須ではない。
【0014】
積層共振体30は、下部電極41、圧電体膜31、及び上部電極42から成る積層構造を有する圧電共振子である。圧電体膜31の材質としては、電気機械結合係数が大きく、伝搬損失及びパワーフロー角が小さく、遅延時間温度係数が小さく、伝搬速度の周波数分散性が少ない圧電材料が望ましく、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)などが好適である。圧電体膜の成膜法としては、例えば、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、イオンプレーティング法、レーザー蒸着法、イオンビーム蒸着法、真空蒸着法、化学的気相成長法(CVD)、MOCVD法、溶射法、メッキ法、及びゾルゲル法等が好適である。上部電極41及び下部電極42の材質としては、圧電体膜31が適度な配向性を形成し得る伝導性材質、例えば、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ルテニウム(Ru)又はこれら何れか2種以上を含む合金などが好適である。上部電極41及び下部電極42の成膜法としては、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法等が好適である。
【0015】
素子基板20には、積層共振体30の形成位置に対応する箇所にキャビティ22が形成されており、積層共振体30が素子基板20に束縛されることなく、厚み方向に自由振動できるダイヤフラム構造となっている。キャビティ22を形成するには、例えば、反応性イオンエッチングなどの異方性エッチングにより第二の主面20Bに対して略垂直に深堀加工してもよく、或いは等方性エッチングにより断面台形状に形成してもよい。
【0016】
上部電極42及び下部電極41に高周波信号を印加すると、圧電体膜31の逆圧電効果により圧電体膜31はその厚み方向に振動し、電気的共振特性を示す。更に圧電体膜31に生じる弾性波又は振動は、圧電体膜31の圧電効果により電気信号に変換される。この弾性波は、圧電体膜31の厚み方向に主変位を有する厚み縦振動波であり、積層共振体30の膜厚が1/2波長に等しくなる共振周波数にて励振する。
【0017】
圧電体膜31は、キャビティ22上部に位置して自由振動可能な振動領域31Aと、素子基板20上に接する支持領域31Bとを含む。圧電体膜31の振動領域31A上に形成されている上部電極42の上には、積層共振体30の共振周波数を調整するための重石電極44が形成されている。圧電体膜31の支持領域31B上に形成されている上部電極42の上には、後述する実装基板に接続するための嵩上げ電極43が形成されている。
【0018】
圧電体膜31の固定領域上には薄膜バルク波共振器10を保護するための保護膜50が形成されている。保護膜50の材質としては、適度な耐久性、耐熱性、耐水性を有し、且つ、エッチング加工可能な材質が好ましく、例えば、二酸化珪素膜(SiO2),酸化アルミニウム膜(Al2O3),窒化珪素膜(Si3N4),酸化タンタル膜(Ta2O5)などの誘電体膜が好適である。
【0019】
積層共振体30の具体的な積層構造を以下に例示する。以下に示す具体的な材質やその膜厚は本実施例を実施する上での一例であり、本発明を限定するものではない。
圧電共振子の積層構造:下部電極(Pt:140nm)/圧電体膜(AlN:1450nm)/上部電極(Pt:140nm)/重石電極(Pt:20nm)
【0020】
なお、説明の便宜上、各デバイスの位置関係を明確にする観点から、各図において、XYZ直交座標系を定義している。素子基板20の第一の主面20A及び第二の主面20Bに平行な平面をXY平面とし、XY平面に垂直な方向をZ方向としている。
【0021】
図2は本実施形態に係わる蓋基板60の平面図を示し、図3は蓋基板60の断面図を示す。蓋基板60は、素子基板20の第二の主面20Bに接合することにより、キャビティ22の開口部を閉塞し、積層共振体30を保護するための基板である。蓋基板60は、適度な機械的強度を有する基板61と、基板61の表面及び裏面に形成される絶縁膜62とを備える。基板61の材質としては、素子基板20との接合に好適な材質であれば特に限定されるものではないが、例えば、シリコンやガラスなどが好適である。基板61の材質がシリコンの場合、絶縁膜62としては、所定の膜厚(例えば、膜厚5000Å)を有する二酸化珪素膜が好適である。この二酸化珪素膜は、熱酸化法、CVD法、或いはスパッタ法などの公知の成膜法により形成できる。蓋基板60の表面側(蓋基板60と素子基板20とを接合させたときに外気に露出する側の主面)には、蓋基板60と素子基板20とを正確に位置合わせするためのアライメントマーク64が形成されている。このアライメントマーク64は、公知のフォトリソグラフィ法により、絶縁膜62をエッチング加工することにより得られる。蓋基板60の裏面側(蓋基板60と素子基板20とを接合させたときにキャビティ21の開口部に面する側の主面)には、絶縁膜62が溝状にエッチング加工されることにより、キャビティ22内部と外気とを連通させるための気体流路63が形成されている。この気体流路63の形成位置は、基板61の両面を視認可能な両面露光機を用いてアライメントマーク64の位置を基準に正確に位置合わせされている。説明の便宜上、蓋基板60の裏面を流路形成面と称する。
【0022】
なお、絶縁膜62は必須ではなく、基板61自体を溝状にエッチング加工することにより、気体流路63を形成してもよいことを理解されたい。また、説明の便宜上、図2及び図3では、一つの薄膜バルク波共振器10に対応する一つの蓋基板60のみを示している点に留意されたい。
【0023】
図4は気体流路63の形成パターンとキャビティ形成位置400との関係を示す模式図である。この模式図は、蓋基板60を素子基板20に接合した状態において、Z軸方向にある所定の視点から気体流路63の形成パターンとキャビティ形成位置400とを抽出してXY平面に投影したものである。説明の便宜上、複数のダイシングライン200,300も付記してある。この例では、気体流路63は、キャビティ形成位置400を起点として、十字状に形成されており、四方向から外気に連通可能な構造を有している。気体流路63の形成パターンとしては、同図に示す例に限られるものではなく、例えば、少なくとも2方向からキャビティ22に連通するパターンや、キャビティ400の形成位置を中心として点対称であるようなパターンでもよい。
【0024】
なお、同図は、ダイシングカット前における、複数の蓋基板60が接続された状態を示している。複数のダイシングライン200,300に沿って蓋基板60を素子基板20とともにダイシングカットすることで、蓋基板60と素子基板20とが一体的に接合されてなる薄膜バルク波共振器10をチップ化することができる。
【0025】
図5は図4の5−5線断面図を示し、図6は図4の6−6線断面図を示す。蓋基板60と素子基板20との位置関係を正確にアライメントした上で、蓋基板60の流路形成面側を素子基板20の第二の主面20Bに接合させると、キャビティ22内部は、気体流路63を介して外気に連通する。蓋基板60と素子基板20とを接合する方法として、基板61の材質に応じて最適な方法を選択し得る。例えば、基板61の材質がシリコンである場合には、表面活性化接合法、常温接合法、フュージョン接合法などを用いることができる。表面活性化接合法では、蓋基板60の流路形成面及び素子基板20の第二の主面20Bのそれぞれの汚染物をプラズマ処理により活性化し、窒素、酸素、アルゴンなどのガスを用いて清浄化する。プラズマ処理によって清浄化された清浄面には、結合手が出現する。接合機を用いて、所定条件下(例えば、加圧500N、加熱300℃1時間)で、蓋基板60及び素子基板20を加圧及び加熱すると、結合手が出現した状態の清浄面同士の化学結合により、蓋基板60と素子基板20とが結合する。基板61がホウケイ酸ガラス板などのガラス基板である場合には、陽極接合法を用いることもできる。陽極接合法では、蓋基板60は、所定の圧力で素子基板20に配置され、数百度に加熱された上で、蓋基板60と素子基板20との間に電圧が印加される。これにより、蓋基板60に含まれるナトリウムが素子基板20に移動し、密封性の高い接合が得られる。
【0026】
図7は薄膜バルク波共振器10を実装基板70に接続し、封止部材80による封止処理を行った後の薄膜バルク波共振器10の断面構造を示す。実装基板70は、例えば、LTCC基板であり、その表面には配線73が形成されている。配線73は、貫通配線71及び接続電極72を介して嵩上げ電極43に接続する。キャビティ22内部は、気体流路63を介して外気に連通しているので、積層共振体30の上部電極42が露出している外気の気圧と、積層共振体30の下部電極41が露出しているキャビティ空間の気圧は、同じである。封止処理では、薄膜バルク波共振器10の周囲全体を封止部材80で被覆し、減圧処理により薄膜バルク波共振器10を包み込むように密閉する。封止部材80としては、例えば、熱硬化性樹脂などが好ましい。封止処理の前後を通じて、キャビティ空間と外気との間に気圧差は殆どなく、後の製造プロセスにより温度環境が変化したとしても、キャビティ空間と外気との間の気圧差に変化は生じない。よって、封止処理後のキャビティ空間と外気との気圧差に起因して積層共振体30が破損する虞はない。
【0027】
なお、気体流路63は、蓋基板60の流路形成面に沿って、流路形成面に対して平行な方向に形成されているので、封止部材80が気体流路63を閉塞する可能性は乏しく、封止処理の前後を通じて、キャビティ空間と外気との間の気圧差をなくすことができる。
【0028】
ところで、上述の説明では、蓋基板60の流路形成面に直線状の気体流路63を形成する例を示したが、キャビティ22内部を起点として、蛇行或いは屈曲しながら外部へ連通する気体流路(例えば、サーペインスタイン状の気体流路)を形成してもよい。気体流路63の形状をこのような形状に形成すると、ウォーターブレイドにより蓋基板60及び素子基板20をカットしたときに、水が気体流路63を介してキャビティ22へ流れ込む可能性を低減できる。
【0029】
本実施例によれば、キャビティ空間と外気との間の気圧差をなくすための気体流路63を蓋基板60に形成したので、積層共振体30の構造的信頼性に影響を与えることなく、封止時におけるキャビティ空間と外気との間の気圧差を低減できる構造を有する薄膜バルク波共振器10を提供できる。
【実施例2】
【0030】
次に、図8乃至図11を参照しながら実施例2に係わる蓋基板60について説明する。図8は気体流路63の形成パターンとキャビティ形成位置400との関係を示す模式図、図9は図8の9−9線断面図、図10は図8の10−10線断面図、図11は図8の11−11線断面図を示す。本実施例は、図8に示すように、ダイシングライン200,300に沿って気体流路63を形成している点を特徴としている。このようにダイシングライン200,300に沿って気体流路63を形成すると、ダイシングライン200,300に沿って蓋基板60及び素子基板20をカットしたときに、切断面に気体流路63の一部が露出するので、キャビティ22内部からの脱気を均一化できる。このような流路構造はプロセス要因(例えば、ダイシングカット時に発生する粉塵や異物)による気体流路63の閉塞を抑制できるという利点を有する。更に、蓋基板60の表裏を貫通するとともに気体流路63に連通する複数の貫通孔65をダイシングライン200,300に沿って離散的に形成することで、この貫通孔65がダイシングカット時のマークになるという効果に加えて、キャビティ22内部と外気との間の通気性を向上できるという効果を有する。なお、貫通孔65は必須ではなく、必要に応じて形成すればよい。
【0031】
本実施例における蓋基板60を素子基板20に接合する処理、薄膜バルク波共振器10を実装基板70に接続する処理、及び封止部材80による封止処理を実施する処理は、実施例1と同様であるため、これらの処理についての説明を省略する。
【0032】
本実施例によれば、ダイシングライン200,300に沿って、気体流路63を形成するので、プロセス要因による流路閉塞を抑制できるとともに、キャビティ22外部と外気との通気性を向上できる。
【実施例3】
【0033】
次に、実施例3に係わる蓋基板60について説明する。上述の実施例1及び実施例2では、蓋基板60の流路形成面に沿って、流路形成面に対して平行な方向に気体流路63を形成する例を示したが、キャビティ形成位置400に対応する位置において、蓋基板60の表裏を貫通する気体流路63を形成してもよい。
【0034】
上述の実施例1乃至3に係わる薄膜バルク波共振器10の周波数特性を図13に示し、従来の薄膜バルク波共振器の周波数特性を図12に示す。図12及び図13において、実線は、封止処理前の薄膜バルク波共振器の周波数特性(基準値)を示し、破線は、封止処理後の薄膜バルク波共振器の周波数特性を示す(但し、図13では、実線と破線とが重なっているので、実線のみ図示されている点に留意されたい。)。実施例1乃至実施例3に係わる薄膜バルク波共振器10では、図13に示すように、封止処理の前後を通じてその周波数特性に変化は見られない。一方、従来の薄膜バルク波共振器では、図12に示すように、封止処理の前後を通じてキャビティ空間と外気との間に気圧差が生じ、その周波数特性に変化が見られる。実施例1乃至実施例3に係わる薄膜バルク波共振器10によれば、封止処理によるキャビティ空間と外気との間の気圧差を原因とする周波数特性の変化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1に係わる薄膜バルク波共振器の断面図である。
【図2】実施例1に係わる蓋基板の平面図である。
【図3】実施例1に係わる蓋基板の断面図である。
【図4】実施例1に係わる気体流れ路の形成パターンとキャビティ形成位置との関係を示す模式図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】図4の6−6線断面図である。
【図7】実施例1に係わる薄膜バルク波共振器の断面図である。
【図8】実施例2に係わる気体流路の形成パターンとキャビティ形成位置との関係を示す模式図である
【図9】図8の9−9線断面図である。
【図10】図8の10−10線断面図である。
【図11】図8の11−11線断面図である。
【図12】従来の薄膜バルク波共振器の周波数特性を示すグラフである。
【図13】実施例1乃至実施例3に係わる薄膜バルク波共振器の周波数特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
10…薄膜バルク波共振器 20…素子基板 22…キャビティ 30…積層共振体 31…圧電体膜 31A…振動領域 31B…支持領域 41…下部電極 42…上部電極 43…嵩上げ電極 44…重石電極 50…保護膜 60…蓋基板 61…基板 62…絶縁膜 63…気体流路 64…アライメントマーク 65…貫通孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層共振体と、
前記積層共振体がその厚み方向に自由振動できる空間を提供するキャビティを有する素子基板と、
前記キャビティの開口部を閉塞する蓋基板であって、前記キャビティを外気に連通させるための気体流路を有する蓋基板と、
前記積層共振体、前記素子基板、及び前記蓋基板を封止する封止部材と、
を備える薄膜バルク波共振器。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜バルク波共振器であって、
前記気体流路は、前記蓋基板の主面に対して平行に形成されている、薄膜バルク波共振器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の薄膜バルク波共振器であって、
前記気体流路は、前記蓋基板のダイシングラインに沿って形成されている、薄膜バルク波共振器。
【請求項4】
請求項3に記載の薄膜バルク波共振器であって、
前記蓋基板の表裏を貫通するとともに前記気体流路に連通する複数の貫通孔が前記ダイシングラインに沿って形成されている、薄膜バルク波共振器。
【請求項1】
積層共振体と、
前記積層共振体がその厚み方向に自由振動できる空間を提供するキャビティを有する素子基板と、
前記キャビティの開口部を閉塞する蓋基板であって、前記キャビティを外気に連通させるための気体流路を有する蓋基板と、
前記積層共振体、前記素子基板、及び前記蓋基板を封止する封止部材と、
を備える薄膜バルク波共振器。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜バルク波共振器であって、
前記気体流路は、前記蓋基板の主面に対して平行に形成されている、薄膜バルク波共振器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の薄膜バルク波共振器であって、
前記気体流路は、前記蓋基板のダイシングラインに沿って形成されている、薄膜バルク波共振器。
【請求項4】
請求項3に記載の薄膜バルク波共振器であって、
前記蓋基板の表裏を貫通するとともに前記気体流路に連通する複数の貫通孔が前記ダイシングラインに沿って形成されている、薄膜バルク波共振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−62642(P2010−62642A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223602(P2008−223602)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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