説明

薄膜形成方法、薄膜形成装置、太陽電池パネルの製造方法および太陽電池パネルの製造装置

【課題】薄膜に微小凹凸部を形成するときに、エッチング液を用いることなく、且つ工程の簡略化を図ることを目的とする。
【解決手段】被処理体21に薄膜の材料の粒子を溶媒に分散ないしは溶解させたインクを噴射する噴射ノズル50を複数配列したインクジェットヘッド42から、被処理体21に形成される液膜に複数の気泡を巻き込むような噴射量および噴射速度でインクを多量且つ高速に噴射するようになし、また被処理体21を加熱して溶媒を気化させ、材料を被処理体21に熱硬化させるときに、溶媒の気化と並行して液膜に閉じ込められた気泡を膨張・破裂させるように急速加熱を行うようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小厚みの薄膜を形成するための薄膜形成方法、薄膜形成装置、太陽電池パネルの製造方法および太陽電池パネルの製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の1つである薄膜系シリコン太陽電池は、基板上に透明電極層、光変換層、背面電極層の順番に薄膜を積層した積層体の構造となっている。光変換層は、p層とn層との間にi層を挟んだ構造としており、この光変換層の基板側に透明電極層を形成し、背面側に背面電極層を形成している。太陽光は、基板表面から光変換層内部に進入し、光エネルギーが吸収されて正孔と電子とを発生し、起電力を発生する。光変換層は薄膜により形成されていることから、その厚みは極めて薄いものになり、入射した光のエネルギーは十分に光変換層で吸収されない。このため、積層体を構成する薄膜や基板に微小凹凸部を形成して、光を散乱させて光閉じ込め効果を発揮させている。光閉じ込め効果は、微小凹凸部で光を散乱させることにより光変換層での光路長を増加させて、高い光変換効率を得ている。
【0003】
太陽電池の各薄膜は、ナノオーダーの極めて膜厚の薄い膜であり、この薄膜に微小凹凸部を形成することは難しい。このため、凹凸形成処理を専用に行わなければならない。例えば、特許文献1では、微結晶などの結晶層を含むシリコン層では、エッチング速度が結晶層より非晶質層の方が速いことを利用して、光変換層の一部をエッチング処理することにより、微小凹凸部を形成している。
【特許文献1】特開2006−19481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術ではエッチング液を用いて処理を行っているが、近年では環境負荷の観点から、エッチング液の使用制限の要請が高い。また、特許文献1では、薄膜形成のためにCVD(気相成長法)を用いており、蒸着装置によりCVDを行っているため、微小凹凸部を形成するためには別途のエッチング装置を配備しなければならない。しかも、使用済みのエッチング液は排液処理機構を要することから、機構の複雑化・大型化を招来する。また、レーザ加工等を薄膜に施して微小凹凸部を形成する手法もあるが、レーザ加工を行うための専用の装置を、薄膜形成装置とは別に設けなくてはならず、またレーザ加工処理を行うための別途の処理工程を行うために、工程が複雑化するようになる。近年では、生産効率の向上が主要な課題となっているため、工程の簡略化を行い、生産時間を短縮するようにしなければならない。
【0005】
そこで、本発明は、薄膜に微小凹凸部を形成するときに、エッチング液を用いることなく、且つ工程の簡略化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1の薄膜形成方法は、薄膜の形成処理がされる被処理体に前記薄膜を形成する薄膜形成方法であって、前記薄膜の材料の粒子を溶媒に分散ないしは溶解させた液体を噴射する噴射ノズルを複数配列した噴射ヘッドから、この噴射ヘッドに対して相対的に移動される被処理体に前記液体を噴射して前記被処理体に液膜を形成するときに、前記液膜に複数の気泡を巻き込むような噴射量および噴射速度で前記液体を多量且つ高速に噴射する液体噴射工程と、前記被処理体を加熱して前記溶媒を気化させ、前記材料を前記被処理体に熱硬化させるときに、前記溶媒の気化と並行して前記液膜に閉じ込められた気泡を膨張・爆発させるように急速加熱する焼成工程と、を有すること、を特徴とする。
【0007】
この薄膜形成方法によれば、高速且つ多量に液体が噴射されて液膜が被処理体に形成されることから、液膜中に多数の微小な気泡が巻き込まれるようになり、巻き込まれた気泡を膨張・爆発させるように被処理体を急速加熱していることから、気泡の膨張・爆発と共に液膜が熱硬化されるようになる。これにより、気泡の周壁がその形状を保ったまま熱硬化するため、薄膜表面には複数の微小凹凸部が生じる。液体噴射による薄膜形成では、もともと液体噴射処理と焼成処理とはそれぞれ必要となることから、各処理が微小凹凸部を形成する処理を兼ねており、微小凹凸部を形成するための別途の工程を必要としなくなる。従って、工程の簡略化を図ることができ、且つエッチング液を使用することがないため、環境負荷の問題もなくなる。
【0008】
本発明の請求項2の薄膜形成方法は、請求項1記載の薄膜形成方法において、前記噴射ノズルに備えられる圧電素子に対する印加電圧を制御することにより、前記噴射量および前記噴射速度で前記液体を噴射すること、を特徴とする。
【0009】
この薄膜形成方法によれば、圧電素子に対する印加電圧のコントロールを行っている。圧電素子に対する印加電圧を高くすれば、噴射ノズル内に備えられるチャンバに充填されるインクの量を多くすることができ、さらにインクに高い圧力を作用させることができ、多量且つ高速にインクを噴射できるようになり、被処理体に形成される液膜に気泡を巻き込ませることができるようになる。
【0010】
本発明の請求項3の薄膜形成方法は、請求項1記載の薄膜形成方法において、前記噴射ヘッドに配列される各噴射ノズルの配列間隔を制御することにより、前記噴射量で前記液体を噴射すること、を特徴とする。
【0011】
この薄膜形成方法によれば、噴射ノズルの配列間隔を制御している。噴射ノズルの配列間隔を近接して配列すれば、多量のインクを被処理体に噴射することが可能になり、被処理体に形成される液膜に気泡を巻き込ませることができるようになる。
【0012】
本発明の請求項4の液膜形成方法は、請求項1記載の液膜形成方法において、前記相対的に移動する際の移動速度を制御することにより、前記噴射量で前記液体を噴射すること、を特徴とする。
【0013】
この薄膜形成方法によれば、噴射ヘッドと被処理体との相対的な移動速度を制御している。噴射ヘッドと被処理体との相対的な移動速度を低速にすれば、多量のインクを被処理体に噴射することが可能になり、被処理体に形成される液膜に気泡を含ませることができるようになる。
【0014】
本発明の請求項5の液膜形成方法は、請求項1記載の液膜形成方法において、前記焼成工程において、前記被処理体を加熱するときの1秒あたりの上昇温度が前記液体の沸点よりも高い温度で加熱すること、を特徴とする。
【0015】
この薄膜形成方法によれば、被処理体に形成されている液膜を急速加熱しているため、溶媒が気化すると共に液膜中に閉じ込められている気泡が膨張・爆発するようになる。これにより、気泡の周壁がその形状を保ったまま液膜が熱硬化するため、薄膜表面に複数の微小凹凸が発生するようになる。
【0016】
本発明の請求項6の薄膜形成方法は、請求項1記載の薄膜形成方法において、前記液体の前記噴射速度をVとしたときに4m/sec≦V≦12m/sec、前記液体の前記噴射量をQとしたときに7pl≦Q≦20pl、前記焼成工程における前記液膜の加熱温度の温度上昇率が1秒あたり180℃以上であること、を特徴とする。
【0017】
この薄膜形成方法によれば、液体の噴射速度と液体の噴射量と加熱時の単位時間当たりの上昇温度とを制御している。これにより、液膜中に気泡を巻き込むができ、また気泡を膨張・爆発させると共に液膜を熱硬化させることができる。従って、薄膜に微小凹凸部を形成することができるようになる。
【0018】
本発明の請求項7の薄膜形成装置は、薄膜の形成処理がされる被処理体に前記薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記薄膜の材料の粒子を溶媒に分散ないしは溶解させた液体を噴射する噴射ノズルを複数配列した噴射ヘッドと、この噴射ヘッドと前記被処理体とを相対的に移動させる移動手段と、を備え、前記被処理体に前記液体を散布して前記液体の液膜を形成する液体噴射手段と、前記被処理体を加熱して前記溶媒を気化させ、前記材料を前記被処理体に熱硬化させる加熱手段を備える焼成手段と、を備え、前記噴射ノズルは、この噴射ノズルに備えられるチャンバ内に充填されたインクを加圧するための圧電素子を備えており、前記液膜に多数の気泡を巻き込むような噴射量および噴射速度で前記液体を多量且つ高速に噴射するために、前記圧電素子の印加電圧を制御する印加電圧制御手段を設け、前記溶媒の気化と並行して前記液膜に巻き込まれた多数の気泡を膨張・爆発させるように前記液膜を急速加熱するために、前記加熱手段の単位時間当たりの上昇温度を制御する温度制御手段を設けたこと、を特徴とする。
【0019】
本発明の請求項8の薄膜形成装置は、請求項7記載の薄膜形成装置において、前記噴射量で前記液体を噴射するために、前記噴射ヘッドに配列される各噴射ノズルの配列間隔を制御すること、を特徴とする。
【0020】
本発明の請求項9の薄膜形成装置は、請求項7記載の薄膜形成装置において、前記噴射量で前記液体を噴射するために、前記移動手段の移動速度を制御する速度制御手段を設けたこと、を特徴とする。
【0021】
本発明の請求項10の薄膜形成装置は、請求項7記載の薄膜形成装置において、前記焼成手段は、1秒あたりの上昇温度が前記液体の沸点よりも高い温度で前記被処理体を加熱すること、を特徴とする。
【0022】
本発明の請求項11の薄膜形成装置は、請求項7記載の薄膜形成装置において、前記液体の前記噴射速度をVとしたときに4m/sec≦V≦12m/sec、前記液体の前記噴射量をQとしたときに7pl≦Q≦20pl、前記焼成手段による前記液膜の加熱温度の温度上昇率が1秒あたり180℃以上であること、を特徴とする。
【0023】
本発明の請求項12の太陽電池パネルの製造方法は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の薄膜形成方法を有すること、を特徴とする。また、本発明の請求項13記載の太陽電池パネルの製造装置は、請求項7乃至11の何れか1項に記載の薄膜形成装置を備えたこと、を特徴とする。
【0024】
前述してきた薄膜形成方法は太陽電池パネルの製造方法に適用でき、また薄膜形成装置は太陽電池パネルの製造装置に適用することができる。太陽電池パネルを構成する薄膜に微小凹凸部を形成することにより、入射した太陽光を散乱させることができ、光変換効率を向上させることができるようになる。また、太陽電池パネルの製造以外にも、前述してきた薄膜形成方法を適用することができる。例えば、有機ELディスプレイや無機ELディスプレイ、LED等の発光素子において、発光効率を向上させるために、反射膜等に微小凹凸を形成している。発光素子に使用される薄膜もナノオーダーの極めて薄い膜厚になるため、前述してきた薄膜形成方法が好適である。つまり、薄膜に対して微小凹凸を形成するものであれば、任意のものに適用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、噴射ヘッドから液体供給をして被処理体に液膜を形成するときに、被処理体の表面に付着している空気が液膜中に微小な気泡として分散するように、高速且つ多量に液体を噴射しているため、液膜中に気泡を巻き込むことができるようになる。そして、焼成処理を行うときに、液膜を急速加熱していることから、溶媒が気化すると同時に液膜中に閉じ込められていた気泡が膨張・爆発するため、形成される薄膜には微小凹凸部が生じる。液体の噴射処理と液膜の焼成処理とはもともと必要な処理であり、これらの処理と同時に微小凹凸部の形成処理が行なわれることになり、別途の微小凹凸部形成処理を必要としなくなる。このため、工程および機構の簡略化を図ることができ、しかもエッチング液を使用することがないため、環境に対して負荷を与えることもなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1に、薄膜系のシリコン型太陽電池(以下、単に太陽電池1とする)の一例を示している。この太陽電池1は、ガラス等を素材とした透明な基板2に順次薄膜を積層した積層体となっている。基板2から、透明電極層3、ボトムセル層4、トップセル層5、背面電極層6、反射層7の順番に各層が積層されている。各層には、複数の薄膜が積層されており、基板側から順番にSiO膜10、ZnOAl膜11は透明電極層3として、pα―Si膜12、iα―Si膜13、nα―Si膜14はボトムセル層4として、pα―Si膜15、iμC―Si膜16、nα―Si膜17はトップセル層5として、ZnOAl膜18は背面電極層6として、Ag膜19、Al膜20は反射層7として形成している。これらのうち、ボトムセル層4とトップセル層5とにより光変換層8を構成している。図1の例は、pin接合型の太陽電池を例示しているが、薄膜形成による太陽電池であれば、pin接合型以外の太陽電池に対しても適用できる。各層の薄膜は極めて薄い膜であり、その厚みはナノオーダーになる。例えば、Ag膜19は200nm程度の厚みを有しており、SiO膜10は80nm程度といった極めて薄い膜になる。
【0027】
基板2には、溶媒に薄膜の材料をナノ粒子として分散ないしは溶解させたインク(液体に相当)を散布してインクの液膜を形成した後に、溶媒を気化させて薄膜の材料を熱硬化させて薄膜を形成する。溶媒としては、エチレングリコールやIPA(イソプロピルアルコール)等の溶媒を用いている。基板2にはインクを液膜として極めて薄い厚みで形成し、その後に焼成することにより、薄膜が形成されていく。このインク散布処理と焼成処理とを繰り返して行うことにより、基板2には複数の薄膜が順次積層された積層体が形成される。ここで、インクを散布する対象となる対象物を被処理体21とする。基板2に薄膜が形成されていない状態であれば、被処理体21は基板2であり、基板2に薄膜が形成されている状態であれば、形成されている薄膜と基板2とを含むものが被処理体21になる。
【0028】
図2のインクジェット装置30の構成を説明する。インクジェット装置30は、ベース31の上に設置されており、移動テーブル32とリニアモータ手段33とX軸ガイド34とガントリ35とインクジェット機構36とを有して概略構成される。インクジェット機構36は、ヘッドブロック37とヘッドスライド機構38とヘッド上下機構39とヘッドシフト機構40とヘッド回転機構41とを備えて概略構成している。また、ヘッドブロック37には複数のインクジェットヘッド42(図2の例では、4つのインクジェットヘッド42A、42B、42C、42D)を装着している。
【0029】
被処理体21は移動テーブル32に搭載されて、真空吸着手段等で固定的に保持されている。移動テーブル32は、リニアモータ手段33により駆動されて、ガイドレールであるX軸ガイド34に沿って図中のX方向(基板の移動方向:主走査方向)に移動される。リニアモータ手段33は、固定子43と可動子44とにより構成される。固定子43は、超電導コイルにより構成されており、コイルに流れる電流により磁界を発生させる。固定子43は可動子44の移動方向、つまり図中のX方向に向けて直線的に延在されるように配置している。可動子44はエンコーダ付きのモータであり、超電導磁石を搭載している。固定子43に発生した磁界と可動子44の超電導磁石とにより、可動子44が推進されて、固定子43に沿って移動する。可動子44は、所定ピッチ間隔の間欠移動を行うように推進していく。これに伴い、移動テーブル32は間欠移動となり、間欠移動のタイミングに合わせてインクジェットヘッド42からインクを散布していく。ただし、間欠移動ではなく、連続移動であってもよい。
【0030】
ヘッドスライド機構38は、移動テーブル32を跨ぐように門型をしたガントリ35に装着されており、インクジェット機構36全体をY方向(X方向に直交する方向:副走査方向)に移動させるものである。ヘッド上下機構39は、Z方向(被処理体21に対して近接・離間する上下方向)にヘッドブロック37を昇降させる機構である。ヘッドシフト機構40は、X方向にヘッドブロック37を微小に移動させる機構であり、ヘッド回転機構41は、ヘッドブロック37を任意の角度で回転させる機構である。各機構によりインクジェット機構36の位置を、X方向とY方向とZ方向とθ方向(回転方向)とに任意に調整することができる。
【0031】
図3を参照して、インクジェットヘッド42の構成について説明する。インクジェットヘッド42には多数の噴射ノズル50を配列しており、各噴射ノズル50に対応してインクの噴射口となるノズル孔51が所定ピッチ間隔で配列されている。インクジェットヘッド42の各噴射ノズル50からは薄膜の材料となる粒子が混在されたインクを噴射するようになっており、噴射ノズル50から噴射されたインクが被処理体21に散布されていく。図中では、1つのインクジェットヘッド42に8個の噴射ノズル50が配列されているものを示しているが、実際にはさらに多くの噴射ノズル50、例えば128個の噴射ノズル50が1つのインクジェットヘッド42に配列されているものがある。
【0032】
図3(a)に示すように、各噴射ノズル50は2枚の圧電素子52により挟まれて区画形成されており、各区画はインクを充填するためのチャンバ53となっている。圧電素子52は非通電状態では平板状態を維持しているが、電圧の印加により変形を行う素子である。圧電素子52に負の電圧を印加すると、各圧電素子52は外向きに変形して、チャンバ53の容積が拡張する。チャンバ53には、図示しないインクタンクが接続されており、拡張した容積分のインクがインクタンクから吸い込まれる。その後、圧電素子52に正の電圧を印加すると、図3(b)のように、内向きに変形し、チャンバ53の容積が急激に減少する。これにより、インクに加圧力が作用してノズル孔51からインクが液滴として噴射されるようになる。なお、図3では、各噴射ノズル50が1列に並列して配列されているものを示しているが、複数列に配列されているものであってもよい。
【0033】
図2に戻って、リニアモータ手段33により移動テーブル32をX方向に移動している間に、上部に配置している各噴射ノズル50からインクを噴射するようにする。噴射ノズル50とリニアモータ手段33とは相対的に移動されることから、被処理体21の所定領域にインクが散布されていく。図2の例では、ヘッドブロック37の長さは被処理体21の半分の長さを有していることから、移動テーブル32を往復移動させ、且つインクジェット機構36をY方向に移動させることにより、被処理体21の全面にインクを形成することができるようになる。ここで、各ノズル孔51は極めて微小なサイズとなっており、噴射時には微小量のインクが所定の噴射圧をもって噴射されることから、被処理体21への密着性が良好なものになり、インクの液膜を極めて薄いものにすることができるようになる。
【0034】
ここで、被処理体21に形成されるインクの液膜に微小な気泡が巻き込まれるようにする。このインクの液膜の膜厚は極めて薄いものであることから、巻き込まれる気泡の泡径も極めて微小なものになる。このため、気泡のサイズをコントロールしつつ、インクの液膜に巻き込まれている気泡を閉じ込めるようにしなければならない。例えば、インクを予め攪拌等することにより、チャンバ53に充填されるインクに微小な気泡を巻き込んでおくようにしてもよいが、液膜中に巻き込まれた気泡は時間の経過とともに拡散するようになるため、インクの液膜が形成されたときに気泡を閉じ込めるようにすることが望ましい。
【0035】
このために、被処理体21にインクを衝撃的に着弾させることにより、微小な気泡を液膜に巻き込ませるようにする。着弾時の衝撃力により、液膜中には被処理体21の表面に付着している空気が多数の微小な気泡となって液膜中に巻き込まれるようになり、また衝撃力により多数の微小な気泡は満遍なく液膜中を分散するようになる。インクの液膜は極めて薄いものであることから、巻き込まれた微小な気泡はすぐに拡散しようとする。そこで、被処理体21に多量のインクを供給することで、液膜の厚みをある程度厚くすることにより、液膜中に巻き込まれた気泡を閉じ込めておくことができるようになる。ただし、インクの噴射速度を極端に高速にすると、着弾したインクが弾けてしまい、被処理体21に液膜を形成することができなくなり、またインクの噴射量を極端に多くすると、薄い膜厚の薄膜を形成することができなくなる。このため、被処理体21に着弾したインクが液膜を形成するような噴射速度で高速に噴射し、また薄膜を形成するような噴射量でインクを多量に噴射するようにする。
【0036】
噴射ノズル50から噴射されるインクの噴射速度をVとし、インクの噴射量をQとしたときに、4m/sec≦V≦12m/sec、7pl≦Q≦20pl、とすることが望ましい。例えば、インクの噴射速度Vが4m/sec未満のときには微小な粒径のインクが空気抵抗により垂直方向に落下しなくてなり、また12m/secよりも大きい場合には被処理体21に衝突したインクが弾けてしまうようになる。従って、以上のような条件を満たすように高速且つ多量のインクを噴射することで、被処理体21に形成された液膜中に多数の気泡を閉じ込めておくことができるようになる。ただし、これはあくまでも一例であり、インクジェットヘッド42の諸条件等によっては異なる値をとる場合もある。
【0037】
まず、噴射ノズル50によるインクの高速噴射について説明する。インクの噴射速度は、圧電素子52の印加電圧によって変化するため、高速にインクを噴射すべく、圧電素子52の印加電圧を高めに設定する。高い印加電圧が圧電素子52に与えられると、圧電素子52の電圧が瞬間的に大きく変化する(単位時間当たりの電圧の変化量が大きくなる)。圧電素子52に対する印加電圧を瞬間的に大きく変化させると(つまり、ある時刻における圧電素子52の電圧の変化量を大きくすると)、圧電素子52は急速に且つ大きく変形するようになる。これにより、チャンバ53内部のインクに高い圧力が作用するようになり、ノズル45から勢い良くインクが噴射するようになる。
【0038】
圧電素子52の印加電圧の制御を行うために、各インクジェットヘッド42に電圧制御手段54を設けるようにしている。この電圧制御手段54は、インクジェットヘッド42に配列される各噴射ノズル50の圧電素子52に接続されており、印加電圧の制御を行っている。電圧制御手段54の制御としては、インクを噴射するときに、印加電圧を急激に変化させるようにすべく、印加電圧の波形としては矩形波となるように制御している。
【0039】
電圧制御手段54は、インク噴射時に印加電圧を急激に変化させるために、例えば負の高い電圧値(−Vボルトとする)から正の高い電圧値(+Vボルトとする)に一気に電圧を急変化させるように制御する。これにより、インク噴射時には一気に2×Vボルト分の印加電圧の変化が与えられ、圧電素子51は外向きに大きく変形していたものが、急激に大きく内向きに変形するようになる。これにより、チャンバ53内部のインクに対して高圧が作用し、ノズル孔51から勢い良くインクが噴射されるようになる。従って、噴射されたインクの速度を高速にすることができるようになる。また、負の電圧値を制御することで、チャンバ53内部にインクタンクから吸い込むインクの量を制御することができる。
【0040】
次に、噴射ノズル50からのインクの多量噴射について説明する。ノズル孔51の配列間隔(つまり、噴射ノズル50の配列間隔)を詰めることにより、インクジェットヘッド42から噴射するインクの量を増やすことができ、被処理体21の表面に着弾するインクの量も多くなる。これは、Y方向(副走査方向)についてインクの量を多くする手法である。また、移動テーブル32の移動速度を低速にすれば、被処理体21の表面に着弾するインクの量を多くすることができる。移動テーブル32は、可動子44の駆動力により移動されているため、可動子44の駆動スピードを制御する図示しない速度制御手段を設けて、この速度制御手段により、移動テーブル32の移動速度を制御することができる。これは、X方向(主走査方向)についてインクの量を多くする手法である。
【0041】
インクの多量噴射を確保するために、噴射ノズル50の配列間隔と移動テーブル32の移動速度との何れかを制御しているが(両者を制御してもよい)、前述したように、インクの高速噴射のために、圧電素子51に高い電圧を印加しているため、インクの吐出量も多くなっている。従って、圧電素子51の印加電圧の制御だけで、必要なインク量を確保できる場合もある。
【0042】
以上により、インクを高速且つ多量に噴射することで、図4(a)のように、被処理体21の表面に形成され液膜61の中に微小な気泡62を分散して閉じ込めた状態を維持することができるようになる。次に、被処理体21に形成された液膜61の焼成を行う。このために、リニアモータ手段33により移動テーブル32をインクジェット装置30から、図4(b)に示すような焼成を行う焼成装置63に搬出するようにする。焼成装置63は、ホットプレート64と加熱ヒータ65とを備えた構成となっており、加熱ヒータ65の温度は温度制御手段66により制御される。移動テーブル32により移動された被処理体21は、図示しないフォーク手段等により、ホットプレート64に移載される。
【0043】
ホットプレート64は被処理体21を載置するためのプレートであり、加熱ヒータ65はホットプレート64を加熱するためのヒータである。温度制御手段66により加熱ヒータ65の温度制御がされるが、この温度制御手段66は加熱ヒータ65を急速加熱する制御を行う。加熱ヒータ65が1秒に200度以上の温度上昇をするような上昇率で急速加熱する制御を温度制御手段66が行う。そして、ホットプレート64に被処理体21を載置して、被処理体21の液膜を急速加熱する。加熱ヒータ65自身の温度上昇率は前記のようになっているが、液膜の温度上昇率としては、1秒あたりおおよそ180度程度になる。ここで、加熱ヒータ65の温度上昇率を極端に高くしないようにする。これは、被処理体21の耐久性の問題や、インクに分散ないしは溶解されている粒子の性質に変化を生じる問題等があるためである。例えば、銀の場合であれば1秒に260℃の温度上昇を上限にすることが望ましい。260℃以上に加熱すると、形成される薄膜は銀の性質を失うためである。
【0044】
被処理体21の液膜が加熱されると、インクのうち溶媒成分が気化し、インク中に分散ないしは溶解されていた粒子が結合して、薄膜の材料が被処理体21に熱硬化されて薄膜が形成される。インクには多数の微小な気泡62が閉じ込められており、液膜を急速加熱することにより、気泡62が一気に熱膨張して爆発する。また、極めて高い温度上昇で液膜が加熱されるため、溶媒成分も瞬時に気化するようになる。従って、気泡62の膨張・爆発と溶媒成分の気化とは瞬間的に且つ同時に起こるため、気泡の周壁がその形状を保ったまま硬化することになる。これにより、膨張・爆発した気泡62の痕跡を残しながら熱硬化して薄膜を形成するため、この薄膜にはクレータ状に多数の微小凹凸部を生じるようになる。しかも、液膜中には多数の気泡62が満遍なく分散されているため、微小凹凸部も薄膜の全ての領域に偏りなく形成されるようになる。
【0045】
以上により、被処理体21に形成される薄膜に微小凹凸部を形成することができるようになる。インクジェット装置30によるインク散布処理と加熱装置による焼成処理とは、もともとインクによる薄膜形成のために必要な処理であり、インク散布処理時に液膜61の中に多数の微小な気泡62を閉じ込めるようにしてインクを高速噴射し、焼成処理時に液膜61を急速加熱するだけで、薄膜に微小凹凸部が形成される。このため、エッチング液を用いた処理や別途のレーザ処理等を要することがなくなる。つまり、もともと必要な処理が微小凹凸部の形成処理を兼ねているため、専用の工程を要することがなくなり、生産効率の向上を図ることができる。しかも、エッチング液を用いていないため、環境負荷に対する問題を起こすこともない。
【0046】
微小凹凸部が形成される薄膜としては、図1の各薄膜の何れに対して適用するものであってもよいが、このうち、特に反射層7を構成するAg膜19に適用すると好適である。つまり、反射層7以外の薄膜は光を透過または吸収するためのものであるため、これらの薄膜に微小凹凸部を形成するよりも、光を反射するための反射層7に微小凹凸部を形成する方が、より高い光散乱効果が得られるためである。Ag膜19に形成される微小凹凸部はAl膜20側に形成されるが、Ag膜19全体とAl膜20全体とで光を反射させるため、Ag膜19の微小凹凸部で多くの光が反射し、高い光散乱効果が得られるようになる。
【0047】
次に、図5乃至図7を用いて、インクの噴射条件と薄膜の状態との関連の一例を説明する。図5乃至図7は、圧電素子52の印加電圧と移動テーブル32の移動速度とホットプレート64の上昇温度とを固定し、噴射ノズル50の配列間隔を変化させた場合の例について示している。つまり、インクの噴射量を変化させた場合の例について示している。図5乃至図7において、71は被処理体21上のインクの断面を示しており、図5の間隔L1、図6の間隔L2、図7の間隔L3は、それぞれY方向のインクの中心間の間隔を示している。各間隔L1〜L3は、インクの噴射ノズル50の間隔に対応しており、L1が最も広く、次にL2、最も狭いものがL3になる。これらのおおよその比率は、L2はL1のおおよそ80%程度であり、L3はL1のおおよそ65%程度である。また、72は液膜61を焼成して形成される薄膜を示している。
【0048】
図5(a)で示すように、間隔が最も広い場合(つまり、噴射ノズル50の配列間隔が最も広い場合)には、被処理体21の表面に着弾するインクの量が最も少なくなるため、インクの噴射速度を高速にしたとしても、液膜61の厚みが薄くなり、液膜中に閉じ込めた気泡62が簡単に抜けてしまう。このため、同図(b)で示すように、焼成処理時には液膜61の中に気泡62がなくなっているため、急速加熱したとしても、薄膜72に微小凹凸部が形成されることはない。一方、図6(a)で示すように、配列間隔を狭くした場合(噴射ノズル50の配列間隔が次に広い場合)には、被処理体21の表面に着弾するインクの量はある程度多くなるため、液膜61も厚いものになり、分散した気泡62はある程度液膜61の中に閉じ込めておくことができる。このため、同図(b)に示すように、焼成処理時には液膜61の中に気泡62が存在しているため、急加熱することにより気泡62が膨張・爆発して、薄膜72に微小凹凸部73が形成される。
【0049】
図7(a)は、配列間隔が最も狭いもの(噴射ノズル50の配列間隔が最も狭い場合)であり、被処理体21の表面に着弾するインクの量は最も多くなる。このため、最も厚い液膜61を被処理体21に形成することができ、衝撃により分散した気泡62を十分に液膜61の中に閉じ込めておくことができる。従って、同図(b)に示すように、焼成処理時には多くの気泡62が膨張・爆発して、薄膜72に微小凹凸部73が多数形成されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】薄膜系シリコン太陽電池の構成の一例を示した図である。
【図2】インクジェット装置の概略構成図である。
【図3】インクジェットヘッドに配列されるノズルの説明図である。
【図4】被処理体に形成された液膜を加熱するときの説明図である。
【図5】インクの間隔および被処理体の表面について説明した図である。
【図6】図5の他の例について説明した図である。
【図7】図5のさらに他の例について説明した図である。
【符号の説明】
【0051】
1 太陽電池 2 基板
21 被処理体 30 インクジェット装置
32 移動テーブル 42 インクジェットヘッド
50 噴射ノズル 51 ノズル孔
52 圧電素子 53 チャンバ
64 ホットプレート 65 加熱ヒータ
73 微小凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜の形成処理がされる被処理体に前記薄膜を形成する薄膜形成方法であって、
前記薄膜の材料の粒子を溶媒に分散ないしは溶解させた液体を噴射する噴射ノズルを複数配列した噴射ヘッドから、この噴射ヘッドに対して相対的に移動される被処理体に前記液体を噴射して前記被処理体に液膜を形成するときに、前記液膜に複数の気泡を巻き込むような噴射量および噴射速度で前記液体を多量且つ高速に噴射する液体噴射工程と、
前記被処理体を加熱して前記溶媒を気化させ、前記材料を前記被処理体に熱硬化させるときに、前記溶媒の気化と並行して前記液膜に閉じ込められた気泡を膨張・爆発させるように急速加熱する焼成工程と、
を有すること、を特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
前記噴射ノズルに備えられる圧電素子に対する印加電圧を制御することにより、前記噴射量および前記噴射速度で前記液体を噴射すること、を特徴とする請求項1記載の薄膜形成方法。
【請求項3】
前記噴射ヘッドに配列される各噴射ノズルの配列間隔を制御することにより、前記噴射量で前記液体を噴射すること、を特徴とする請求項1記載の薄膜形成方法。
【請求項4】
前記相対的に移動する際の移動速度を制御することにより、前記噴射量で前記液体を噴射すること、を特徴とする請求項1記載の薄膜形成方法。
【請求項5】
前記焼成工程において、前記被処理体を加熱するときの1秒あたりの上昇温度が前記液体の沸点よりも高い温度で加熱すること、を特徴とする請求項1記載の薄膜形成方法。
【請求項6】
前記液体の前記噴射速度をVとしたときに4m/sec≦V≦12m/sec、前記液体の前記噴射量をQとしたときに7pl≦Q≦20pl、前記焼成工程における前記液膜の加熱温度の温度上昇率が1秒あたり180℃以上であること、を特徴とする請求項1記載の薄膜形成方法。
【請求項7】
薄膜の形成処理がされる被処理体に前記薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
前記薄膜の材料の粒子を溶媒に分散ないしは溶解させた液体を噴射する噴射ノズルを複数配列した噴射ヘッドと、この噴射ヘッドと前記被処理体とを相対的に移動させる移動手段と、を備え、前記被処理体に前記液体を散布して前記液体の液膜を形成する液体噴射手段と、
前記被処理体を加熱して前記溶媒を気化させ、前記材料を前記被処理体に熱硬化させる加熱手段を備える焼成手段と、を備え、
前記噴射ノズルは、この噴射ノズルに備えられるチャンバ内に充填されたインクを加圧するための圧電素子を備えており、
前記液膜に多数の気泡を巻き込むような噴射量および噴射速度で前記液体を多量且つ高速に噴射するために、前記圧電素子の印加電圧を制御する印加電圧制御手段を設け、
前記溶媒の気化と並行して前記液膜に巻き込まれた多数の気泡を膨張・爆発させるように前記液膜を急速加熱するために、前記加熱手段の単位時間当たりの上昇温度を制御する温度制御手段を設けたこと、を特徴とする薄膜形成装置。
【請求項8】
前記噴射量で前記液体を噴射するために、前記噴射ヘッドに配列される各噴射ノズルの配列間隔を制御すること、を特徴とする請求項7記載の薄膜形成装置。
【請求項9】
前記噴射量で前記液体を噴射するために、前記移動手段の移動速度を制御する速度制御手段を設けたこと、を特徴とする請求項7記載の薄膜形成装置。
【請求項10】
前記焼成手段は、1秒あたりの上昇温度が前記液体の沸点よりも高い温度で前記被処理体を加熱すること、を特徴とする請求項7記載の薄膜形成装置。
【請求項11】
前記液体の前記噴射速度をVとしたときに4m/sec≦V≦12m/sec、前記液体の前記噴射量をQとしたときに7pl≦Q≦20pl、前記焼成手段による前記液膜の加熱温度の温度上昇率が1秒あたり180℃以上であること、を特徴とする請求項7記載の薄膜形成装置。
【請求項12】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の薄膜形成方法を有すること、を特徴とする太陽電池パネルの製造方法。
【請求項13】
請求項7乃至11の何れか1項に記載の薄膜形成装置を備えたこと、を特徴とする太陽電池パネルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−37582(P2010−37582A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199821(P2008−199821)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】