説明

表面処理済アルミニウム板およびその製造方法

【課題】 工程を煩雑なものとすることなく、かつ産業廃棄物として取扱いが煩雑なものとなる酸洗用の薬液等を使用することなく、本来は難めっき性の材質でありかつ難はんだ付け性の材質であるAlやAl合金からなる基材の表面に良好なはんだ濡れ性を付与してなる、表面処理済アルミニウム板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる金属基材1の表面上に、その金属基材1の表面側から順に、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)のいずれかを主成分とするバリア層2と、パラジウム(Pd)を主成分とするはんだ添加層3とを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる基材の表面における、はんだに対する濡れ性を向上させるための表面処理を施してなる表面処理済アルミニウム板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルミニウム(Al)は、はんだ付けが極めて困難な素材の典型的なものの一つであり、また難めっき材でもある。これは、例えばアルミニウム薄板などの最表面には、一般に、大気中の酸素と結びついて酸化被膜(自然酸化膜、自然酸化Al層などとも呼ばれる)が形成されるためである。
このような特質を有しているアルミニウム板などの表面に、良好なはんだ付け性(はんだ濡れ性)を付与するために、その表面に酸洗処理を施した後、錫(Sn)層またはニッケル(Ni)層等をめっき法などにより形成する、という手法が提案されている。
これは、より具体的には、図5にその概要を模式的に示したように、Alからなる金属基材100の表面に、脱脂・酸洗(図示省略)を施した後、亜鉛(Zn)を主成分とする第1下地層201を、Zn置換めっき法により形成する(5〜500mg/m)。その上に、水洗を施した後、Niを主成分とする第2下地層202を、めっき法により形成する(0.2〜50mg/m)。そしてさらにその上に、Snを主成分とするはんだ濡れ層203を、めっき法により形成する(0.2〜20mg/m)、というものである(以上、特許文献1,2)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−206945号公報
【特許文献2】特開2006−110769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の技術では、工程数が多くならざるを得ず、その製造プロセス全体が煩雑なものとなるという問題がある。そして延いては、製造コストが嵩むといった不都合等も生じることとなる。
また、上記のような従来の技術では、Al基材の表面の酸化被膜を除去するために酸洗を行うことが不可欠であり、かつ多種類のめっき液等の薬液を用いなければならないので、その各種薬液の品質管理や、廃液の処理等に手間や時間ならびにコストが掛かり極めて煩雑であるという問題があった。また、特に酸洗用の薬液をはじめ、その他各種めっき液は、使用後の廃液としては、いわゆる産業廃棄物となるので、環境工学的な観点からも、その使用は望ましくない。
また、良好なはんだ付けを実現するためには、Al基材の表面の酸化被膜を溶解させるほどに強力なフラックスを使用する、といった手法を用いることなども考えられるが、実際には、斯様に極めて強力なフラックスは、はんだ付け後の接合部分付近を著しく荒らして劣化させてしまう虞が極めて高くなるので、接合部位の耐久性や信頼性の観点から、望ましくないものと言わざるを得ない。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、工程を煩雑なものとすることなく、かつ産業廃棄物として取扱いが煩雑なものとなる酸洗用の薬液等を使用することなく、本来は難めっき性の材質でありかつ難はんだ付け性の材質であるAlやAl合金からなる基材の表面に、良好なはんだ濡れ性およびはんだ付けに対する接合強度を付与してなる、表面処理済アルミニウム板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために、AlまたはAl合金からなる基材の最表面層に酸化被膜(自然酸化Al層)を残したままでも、従って酸洗処理を全く施さなくとも、下記のような材質からなるバリア層およびはんだ添加層等からなる積層構造を、AlまたはAl合金からなる基材の表面上に形成することにより、本来は難めっき性の材質でありかつ難はんだ付け性の材質であるAlやAl合金からなる基材の表面に、良好なはんだ濡れ性およびはんだ付けに対する接合強度を付与することが可能となることを見出した。そして種々の実験等を行って、その手段が正しく効果を獲得することができるものであることを確認し、本発明を成すに到った。
【0007】
本発明に係る表面処理済アルミニウム板の第1の態様は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる基材の表面上に、当該基材の表面側から順に、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)のいずれかを主成分とするバリア層と、パラジウム(Pd)を主成分とするはんだ添加層とを形成してなることを特徴としている。
また第2の態様は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる基材の表面上に、当該基材の表面側から順に、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)のいずれかを主成分とするバリア層と、パラジウム(Pd)を主成分とする第1はんだ添加層と、錫(Sn)を主成分とするはんだ層と、パラジウム(Pd)を主成分とする第2はんだ添加層とを形成してなること特徴としている。
また第3の態様は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる基材の表面上に、当該基材の表面側から順に、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、クロム(Cr)のいずれかを主成分とするバリア層と、錫(Sn)を主成分とするはんだ層と、パラジウム(Pd)を主成分とするはんだ添加層とを形成してなることを特徴としている。
ここで、上記の表面処理済アルミニウム板において、前記バリア層の平均厚さが、20nm以上500nm以下であるようにすることは、望ましい数値的態様である。
また、最上層にある、はんだ添加層または第2はんだ添加層の表面上に、さらに、Snを主成分とするはんだ層を形成してなるものとすることは、望ましい積層構造的な一態様である。
また、はんだ添加層または第1はんだ添加層もしくは第2はんだ添加層の厚さが、0.5nm以上20nm以下であるようにすることは、望ましい数値的態様である。
本発明に係る表面処理済アルミニウム板の製造方法は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる基材の表面上に、当該基材の表面側から順に、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)のいずれかを主成分とするバリア層と、パラジウム(Pd)を主成分とするはんだ添加層とを、ドライコート法により、成膜する層の材質を切り替える際にも酸素分圧が1×10−4Pa以下の圧力に作業雰囲気を維持した同一チャンバ内で連続して形成する工程を含むことを特徴としている。
ここで、上記の製造方法において、さらに、Snを主成分とするはんだ層を、電気めっき法により、最上層に形成する工程を含むようにすることは、望ましい一態様である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、本来は難めっき性の材質であり、また難はんだ付け性の材質でもある、AlやAl合金からなる基材の表面に、工程を煩雑なものとすることなく、かつ産業廃棄物として取扱いが煩雑なものとなる酸洗用の薬液等を使用することなしに、良好なはんだ濡れ性およびはんだ付けに対する接合強度を付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る表面処理済アルミニウム板およびその製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る第1の表面処理済アルミニウム板の主要な構成を示す図、図2は、本発明の実施の形態に係る第2の表面処理済アルミニウム板の主要な構成を示す図、図3は、本発明の実施の形態に係る第3の表面処理済アルミニウム板の主要な構成を示す図、図4は、本発明の実施の形態に係る第4の表面処理済アルミニウム板の主要な構成を示す図である。
【0010】
本発明の実施の形態に係る第1の表面処理済アルミニウム板は、図1に示したように、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる金属基材1の表面上に、その金属基材1の表面側から順に、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)のいずれかを主成分とするバリア層2と、パラジウム(Pd)を主成分とするはんだ添加層3とを形成してなるものである。そして、このような構成(積層構造)により、この表面処理済アルミニウム板における表面処理済面側であるバリア層2およびはんだ添加層3がこの順で積層形成された側の表面は、良好なはんだ濡れ性およびはんだ付けに対する接合強度が付与されたものとなっている。
【0011】
本発明の実施の形態に係る第2の表面処理済アルミニウム板は、図2に示したように、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からな金属基材1の表面上に、その金属基材1の表面側から順に、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)のいずれかを主成分とするバリア層2と、パラジウム(Pd)を主成分とする第1はんだ添加層3aと、錫(Sn)を主成分とするはんだ層4と、パラジウム(Pd)を主成分とする第2はんだ添加層3bとを形成してなるものである。そして、このような構成(積層構造)により、この表面処理済アルミニウム板における表面処理済面側である、バリア層2、第1はんだ添加層3a、はんだ層4、第2はんだ添加層3bがこの順で積層形成された側の表面は、良好なはんだ濡れ性およびはんだ付けに対する接合強度が付与されたものとなっている。
【0012】
本発明の実施の形態に係る第3の表面処理済アルミニウム板は、図3に示したように、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる金属基材1の表面上に、その金属基材1の表面側から順に、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、クロム(Cr)のいずれかを主成分とするバリア層2と、錫(Sn)を主成分とするはんだ層4と、パラジウム(Pd)を主成分とするはんだ添加層3とを形成してなるものである。そして、このような構成(積層構造)により、この表面処理済アルミニウム板における表面処理済面側である、バリア層2、はんだ層4、はんだ添加層3がこの順で積層形成された側の表面は、良好なはんだ濡れ性およびはんだ付けに対する接合強度が付与されたものとなっている。
【0013】
本発明の実施の形態に係る第4の表面処理済アルミニウム板は、図4に示したように、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる金属基材1の表面上に、その金属基材1の表面側から順に、アルミニウム(Al)からなる第1バリア層2aと、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、クロム(Cr)のいずれかを主成分とする第2バリア層2bと、錫(Sn)を主成分とするはんだ層4またはパラジウム(Pd)を主成分とするはんだ添加層3とを形成してなるものである。そして、このような構成(積層構造)により、この表面処理済アルミニウム板における表面処理済面側である、第1バリア層2a、第2バリア層2b、はんだ層4またははんだ添加層3がこの順で積層形成された側の表面は、良好なはんだ濡れ性およびはんだ付けに対する接合強度が付与されたものとなっている。
【0014】
なお、図示は省略するが、最上層にある、はんだ添加層3または第2はんだ添加層3bの表面上に、さらに、Snを主成分とするはんだ層4を形成することなども可能である。
【0015】
金属基材1としては、純Alからなる薄板材や、JIS規格の1000系、2000系
、3000系、5000系、6000系、7000系の薄板材などを用いることが可能である。あるいは、それらのアルミニウム板材を表層とする、いわゆるアルミクラッド板材等を用いてもよい。この金属基材1の表面には、使用後に産業廃棄物となってその廃棄処理の煩雑さが伴うような酸洗薬液等を用いた酸洗処理は全く施されておらず、また表面処理プロセスに入る準備段階での前処理等としても、斯様な酸洗処理は敢えて全く施さない。但し、脱脂や洗浄等は施しても構わないことは言うまでもない。
【0016】
バリア層2(図1、図2、図3)、および第2バリア層2b(図4)は、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)のいずれかを主成分とする層で、その厚さは、平均厚さが20nm以上500nm以下の範囲内であることが望ましい。これは、厚さが500nm超であると、バリア層2の上下に設けられる各層との密着性が低下し、延いては、この表面処理済アルミニウム板の全体に対するはんだ付けの機械的な剥離等が生じやすくなる虞が高くなるからである。また、そのように徒らに膜厚を厚くすると、それに起因して生産コストが無駄に増加してしまうからである。また逆に、20nm未満であると、接合強度やはんだ濡れ性の少なくともいずれか一方が低下する虞が高くなるからである。
このバリア層2は、構成している金属である、AlまたはNbもしくはCrが、未酸化の状態では活性であることから、その活性な表面が、その後に形成されるはんだ添加層3(または図2に示した構成では第1はんだ添加層3a、もしくは図4に示した構成でははんだ層4)との密着性確保の点で、きわめて有効なものとなる。
しかも、後述するように、一連の成膜を一つのチャンバ内で低酸素・低圧の気密状態を維持しながら気相法等によって連続して行うようにすることで、各層の表面が酸化することを確実に回避して、良好な密着性を確保することが可能となる。但し、図2に示した構成では、第1はんだ添加層3aは、気相法ではなく、電気めっき法によって形成されたものである。しかし第1はんだ添加層3aの形成プロセスとしては、そのような電気めっき法のみには限定されず、気相法によることも可能であることは勿論である。
ここで、図示は省略したが、バリア層2は、特に図3、図4(但し第2バリア層2b)に示したような、はんだ層4が直上に形成される場合などには、上記のAlまたはNbもしくはCrのような金属の他にも、例えばTiを主成分として含有したものとすることなども可能である。
【0017】
はんだ添加層3、および第1はんだ添加層3a、第2はんだ添加層3bは、PdまたはPdを主成分とする合金からなるもので、その平均厚さは、0.5nm以上20nm以下の範囲内であることが望ましい。これは、後述する実施例に係る実験の結果に基づいて、厚さが0.5nm以上であれば十分に実用に供することができるからであり、また逆に、20nm超であると、徒にオーバークオリティとなって、主にPdの使用量に関しての材料コストを含んだ製造コストの無駄な高額化を招いてしまう虞が高いからである。
【0018】
はんだ層4は、SnまたはSnを主成分とする合金からなるもので、その厚さは、特に図3に示したような構成とする場合には、200nm以下とすることが望ましい。これは、厚さが200nm超になると、はんだ層4の上下に設けられる各層との密着性が低下し、延いては、この表面処理済アルミニウム板の全体に対するはんだ付けの機械的な接合強度が低下して、剥離等が生じやすくなる虞が高いからである。但し、このはんだ層4については、例えば図2に示したような、電気めっき法により積層形成してなる構成の場合や、その他にも各種使用形態の如何によっては、200nm超の厚さにしても構わない。また、そのようにしても、はんだ層4はスパッタ効率が比較的高く、めっき法による形成の場合も同様なので、製造コストやスループット等の観点からも、不都合が生じる虞が少ないからである。
このはんだ層4は、図1に示したように厚さを0にする(つまりこのはんだ層4を全く省略する)ことも可能であるが、このはんだ層4を設けることによって、上記のような密
着性をさらに高いものとすることができ、延いては、はんだ付けに関する接合強度のさらなる向上を達成可能となることが期待できるので、斯様なメリットを得たい場合には、上記のような適度な厚さで、このはんだ層4を形成することが望ましい。
【0019】
ここで、上記の各層のうち、金属基材1の表面を除く、バリア層2、第1バリア層2a、第2バリア層2b、はんだ添加層3、第1はんだ添加層3a、第2はんだ添加層3b、はんだ層4の、各層同士の界面には、その積層形成時に酸化Alやその他の酸化金属が存在することのないようにすることが望ましい。これは、各層同士の密着性を良好なものとすることで、はんだ付けに関する接合強度のさらなる向上を達成するためである。この観点から、上記の各層は、後述するような、ドライコート法によって、成膜する層の材質を切り替える際にも酸素分圧が1×10−4Pa以下の圧力に作業雰囲気を維持した同一チャンバ内で、連続して形成するようにすることが望ましいのである。
【0020】
図1に示した第1の表面処理済アルミニウム板の製造方法の主要な流れは、まず、処理対象の金属基材1を、酸洗処理は敢えて施さないままの状態で(つまり表面に自然酸化Al層が形成されたままの状態で;以下同様)、スパッタリング装置のような成膜装置のチャンバ内(図示省略;以下同様)に格納する。そして気相法により、バリア層2、はんだ添加層3の順番で成膜する。その成膜する材質をバリア層2からはんだ添加層3に切り替える際に、それらの界面に金属酸化物が発生することを回避して各層同士の密着性を良好なものとするために、チャンバ内の酸素分圧を1×10−4以下に維持する。このときの成膜プロセスとしては、具体的には、スパッタ法、真空蒸着法、またはイオンビームコート法などを用いることが可能である。
【0021】
図2に示した第2の表面処理済アルミニウム板の製造方法の主要な流れは、まず、処理対象の金属基材1を、酸洗処理は施さないままの状態で、スパッタリング装置のような成膜装置のチャンバ内に格納する。
そして気相法により、バリア層2、第1はんだ添加層3aの順番で成膜する。その成膜する材質をバリア層2から第1はんだ添加層3aに切り替える際に、それらの界面に金属酸化物が発生することを回避して各層同士の密着性を良好なものとするために、チャンバ内の酸素分圧を1×10−4以下に維持する。この成膜プロセスとしては、具体的には、スパッタ法、真空蒸着法、またはイオンビームコート法などを用いることが可能である。
続いて、第1はんだ添加層3aの表面上に、さらに、はんだ層4、第2はんだ添加層3bを、この順番で、例えば電気めっき法により形成する。但し、このときの成膜プロセスとしては、電気めっき法のみには限定されず、この他にも上記のバリア層2や第1はんだ添加層3a等の成膜プロセスと同様に、スパッタ法、真空蒸着法、またはイオンビームコート法などのような気相法を用いることも可能である。そしてその場合も、成膜する材質をはんだ層4から第2はんだ添加層3bへと切り替える際には、各層の界面に金属酸化物が発生することを回避して各層同士の密着性を良好なものとするために、チャンバ内の酸素分圧を1×10−4以下に維持することが望ましい。
【0022】
図3に示した第3の表面処理済アルミニウム板の製造方法の主要な流れは、まず、処理対象の金属基材1を、酸洗処理は施さないままの状態で、スパッタリング装置のような成膜装置のチャンバ内に格納する。
そして気相法により、バリア層2、はんだ層4、はんだ添加層3の順番で成膜する。その成膜する材質をバリア層2からはんだ層4に切り替える際、およびはんだ層4からはんだ添加層3に切り替える際に、それら各層同士の界面に金属酸化物が発生することを回避してそれら各層同士の密着性を良好なものとするために、チャンバ内の酸素分圧を1×10−4以下に維持する。このときの成膜プロセスとしては、具体的には、スパッタ法、真空蒸着法、またはイオンビームコート法などを用いることが可能である。
【0023】
図4に示した第4の表面処理済アルミニウム板の製造方法の主要な流れは、まず、処理対象の金属基材1を、酸洗処理は敢えて施さないままの状態で、スパッタリング装置のような成膜装置のチャンバ内に格納する。そして気相法により、Alからなる第1バリア層2a、続いてNb、Ti、Crのいずれかを主成分とする第2バリア層2b、そしてはんだ添加層3またははんだ層4、の順番で成膜する。その成膜する材質を第1バリア層2aから第2バリア層2bに切り替える際、および第2バリア層2bからはんだ添加層3またははんだ層4に切り替える際に、それらの界面に金属酸化物が発生することを回避して各層同士の密着性を良好なものとするために、チャンバ内の酸素分圧を1×10−4以下に維持する。このときの成膜プロセスとしては、具体的には、スパッタ法、真空蒸着法、またはイオンビームコート法などを用いることが可能である。
【0024】
ここで、処理対象の金属基材1をスパッタリング装置のような成膜装置のチャンバ内に格納した後であって、バリア層2や第1バリア層2a等を形成するプロセスに入る以前に、その金属基材1の表面に対してイオンボンバ処理を施すようにしてもよい。このようにすることにより、金属基材1の表面の洗浄、あるいはさらに、その金属基材1の表面の自然酸化膜の除去を、酸洗処理用の薬液等を全く用いることなしに、行うことができる。これにより、その後に続いて形成されるバリア層2等の密着性をさらに確実に向上せしめることが可能となる。しかも、このイオンボンバ処理は、その後に続くバリア層2や第1バリア層2a等を形成するプロセスを行うのと同じ一つのチャンバ内で行うことが可能であるから、このイオンボンバ処理を追加することは極めて簡易であり、従ってまた、製造コストの高額化等を招いてしまう虞がないというメリットもある。また、酸洗処理用の薬液等を全く用いなくとも済むので、その薬液の使用後の処理の煩わしさや環境工学的な不都合等からも解放ざれるというメリットもある。
但し、このイオンボンバ処理プロセスは、本発明の実施の形態に係る表面処理済アルミニウム板およびその製造方法における必須の工程と云うわけではなく、例えば処理対象の(処理前の)金属基材1の表面が油分やその他塵埃もしくは著しく酸化が進んでいるなどして洗浄や酸化膜の除去がどうしても必要であるといった場合に、斯様な必要性に応じて適宜に追加すればよい。
【0025】
また、はんだ層4は、さらに厚さが必要とされる場合もある。そこで、そのような場合には、図1、図3、図4に示したような積層構成を形成した後、さらにその最上層に、Snを主成分とするはんだ層(図示省略)を追加形成してもよい。このときのはんだ層の形成方法は、プロセスが煩雑でなく比較的安価かつ高スループットではんだ層を追加形成することが可能であるという観点から、電気めっき法、無電解めっき法、溶融めっき法等が好適である。但し、これらのみには限定されないことは言うまでもなく、その他にも、プロセスが煩雑でなく比較的安価かつ高スループットではんだ層を追加形成することができるような形成方法を採用することが可能である。
【0026】
このように、本発明の実施の形態に係る表面処理済アルミニウム板およびその製造方法によれば、表面に自然酸化膜が存在することに起因して本来は難めっき性の材質であり、また難はんだ付け性の材質でもある、AlやAl合金からなる金属基材1に、その表面の自然酸化膜を酸洗処理によって除去することなく、上記のような各層間の密着性およびはんだに対する密着性の高い、バリア層2、第1バリア層2a、第2バリア層2b、はんだ添加層3、はんだ添加層3a、はんだ添加層3b、はんだ層4等を、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属基材1の表面上に設けるようにしたので、その全体的な積層構造によって、本発明の実施の形態に係る表面処理済アルミニウム板の表面には、良好なはんだ濡れ性およびはんだ付けに対する接合強度を付与することが可能となる。また、酸洗用の薬液等が不要となるので、その産業廃棄物としての取扱いの煩雑さ等からも解放される。
しかも、そのような良好なはんだ濡れ性およびはんだ付けに対する接合強度を付与する
ための、バリア層2、第1バリア層2a、第2バリア層2b、はんだ添加層3、はんだ添加層3a、はんだ添加層3b、はんだ層4は、同一の成膜装置のチャンバ内で、連続して形成することができる。これにより、各層間の界面にそれらの形成プロセス中に酸化膜が生じることを回避して、高い密着性を確保し、延いてはこの表面処理を施してなる表面処理済アルミニウム板の材料としての信頼性を高いものとすることが可能となる。またそれと共に、その製造コストの低廉化をも達成することが可能となる。
【0027】
なお、本発明の実施の形態に係る表面処理済アルミニウム板およびその製造方法における積層構造としては、図1に示したような第1の構造が基本的なものである。そして、図2に示したような第2の構造とすることにより、接合強度がさらに向上する。図3に示した第3の構造については、はんだ層4の厚さの設定によって全体的な厚さや密着性の調節が可能となる。また、図4に示した第4の構造では、金属基材1の表面に対する密着性が良好であり、かつスパッタ成膜等により形成された段階では表面に酸化膜が形成されていない、Alからなる第1バリア層2aを有し、かつその上に第2バリア層2bを有するという積層構造としたことにより、それら各層の防食性が向上するというメリットが得られる。
また、はんだ添加層3、第1はんだ添加層3a、第2はんだ添加層3bについては、Pd、Pd−Snを主成分とする混合物またはPd合金とすることにより、特にPdの使用量を低減したことによる低コスト化、はんだ濡れ性の調節自由度の拡大等のメリットが得られるものと考えられる。
また、はんだ層4については、Snを主成分として含有する混合物とすることにより、低コスト化、はんだ接合温度の調節自由度の拡大、はんだ濡れ性の調節自由度の拡大等のメリットが得られるものと考えられる。
【実施例】
【0028】
上記の実施の形態で説明したような表面処理済アルミニウム板を、上記の製造方法によって、各種仕様を変更して多種類作製し、これを実施例に係る試料とした。また、それらとの比較のために、敢えて上記の実施の形態とは異なった仕様・製造方法による表面処理済アルミニウム板も別途に作製し、これを比較例に係る試料とした。そしてそれらの試料を用いて、それら各々についての、はんだ濡れ性および接合強度を、それぞれ評価した。
【0029】
金属基材1としては、Al合金であるAl3004からなる、板厚0.15mmのAl薄板材を用意し、実施の形態で説明した積層構造を備えた実施例に係る試料を作製した。またそれとは別途に、実施の形態で説明した積層構造とは敢えて異なる積層構造の比較例に係る試料を作製した。また、金属基材1の材質のバリエーションとして、板厚0.15mmの純アルミ(Al1100)からなるAl薄板材を用いた試料とした。
ここで、各試料に付した試料番号は、各試料の識別のために便宜上、付与したものであって、その順列や番号の数字自体等には、例えば優先順位等の何らかの意味を付与しているわけではないことは言うまでもない。但し、各実験で意図した目的に着目して、同じ目的のために作製されて評価された各試料については一つの群に纏めて、その試料番号の接頭数字にはその群の番号を付与してある。
スパッタ処理は、RFスパッタ装置(株式会社アルバック、型式:SH−350)を用いて行った。成膜時の雰囲気はアルゴン(Ar)で、圧力は7Paとし、RF出力は金属の種類に対応してより適宜に調整した。各層の厚み制御は、金属種ごとに、予め平均成膜速度を測定した上で、それぞれ成膜時間を調整することで行った。
また、各実施例に係る試料のスパッタ成膜は、成膜材を切り替える際も含めて、全サンプルについて、酸素分圧が1×10−4Pa以下である環境を維持したチャンバ内で行った。
また、これらの試料は全て、金属基材1の表面に自然酸化膜が形成された状態で(酸洗処理は全く施すことなく)、表面処理として上記のバリア層2やはんだ添加層3等を形成
した。
【0030】
はんだ濡れ性の評価を行うに当たっては、いわゆるPbフリーはんだとして一般に用いられているSn−3Ag−0.5Cu合金を用い、タムラ製作所製の装置(型式・製造番号2015)を用いて、メニスコグラフ法により行った。さらに具体的には、各試料から切り出した幅10mmの試片をフラックス(HOZANの型式H−728)に浸漬させ、その後、220℃に保持したはんだ浴に浸漬速度2mm/秒で2mmに亘って浸し、はんだで濡れるまでの時間(ゼロクロスタイム)を測定し、5秒未満なら◎、5秒以上〜7秒未満なら○、7秒以上〜10秒未満なら△、10秒以上なら×という基準で、ハンダ濡れ性を評価した。すなわち、この評価方法では、短時間であるほどハンダ濡れ性が良好であることを示している。
【0031】
また、はんだ接合強度の評価は、より実用的な評価方法として、各試料の表面にはんだ付けを行った後、そのはんだコートの剥離の有無で評価するものとした。具体的には、上記のはんだ濡れ性の評価のためにはんだ浴によってはんだコートが施された試料を用いて、曲げ半径10mmで繰り返し曲げ試験を行い、はんだコートが試料の表面から剥離するまでの曲げ回数を計数し、その数値に基づいて評価した。具体的な評価基準は、繰り返し曲げが5回でも剥離しなかった場合には◎、2〜4回で剥離が生じた場合には○、1回で剥離が生じた場合には△、曲げ試験を行う以前に既に剥離またははんだ接合が生じていた場合には×とした。
そして、はんだ濡れ性とはんだ接合強度との両方が○以上の評価のものを良好な性能レベルに達している実施例に係る試料と判定し、どちらか一方が△以下の評価のものを比較例に係る試料と判定した。
【0032】
表1〜表6の試料は、図1に示した第1の積層構造に関するものである。
表1は、Pdからなるはんだ添加層3の厚さを2nmで一定としつつ、Alからなるバリア層2の厚さを種々変更することで、それがはんだ濡れ性や接合強度にどのような影響を与えるかを確認するための試行結果を示したものである。
バリア層2の厚さが20nm以上500nm以下の範囲内にあるときには(試料103〜106)、はんだ濡れ性および接合強度の両方が○以上となっており、良好な結果となることが確認された。これとは対照的に、バリア層2の厚さが20nmよりも薄い場合、すなわち比較例に係る試料101、102の場合には、濡れ性および接合強度の両方が△以下となってしまうことが確認された。また逆に、厚さが500nm超になると(比較例に係る試料107の場合)、はんだ濡れ性は◎で良好なものとなったが、接合強度が△で低下することが確認された。
【0033】
【表1】

【0034】
表2は、Alからなるバリア層2の厚さを100nmで統一しつつ、Pdからなるはんだ添加層3の厚さを種々変更することで、それがはんだ濡れ性や接合強度にどのような影響を与えるかを確認する試行の結果を示したものである。
はんだ添加層3の厚さが0.5nm以上20nm以下の範囲内にある、試料202〜205は、いずれも、はんだ濡れ性および接合強度の両方が○以上となっており、良好な結果となることが確認された。他方、厚さがその範囲外の場合、すなわち比較例に係る試料201、206の場合には、接合強度が△以下で不足となってしまうことが確認された。また、はんだ添加層3の厚さは、0.5nm以上とすること、さらに望ましくは1nm以上とすることで、良好なはんだ濡れ性が得られることが確認された。
【0035】
【表2】

【0036】
表3は、はんだ添加層3の材質をPd−5wt%Snの混合物とし、その他の設定については、はんだ添加層3が純Pdの場合と同様とした場合の結果を示すものである。
この場合についても、はんだ添加層3の厚さが0.5nm以上20nm以下の範囲内にあれば、はんだ濡れ性および接合強度の両方が○以上となり、良好な結果となることが確認された。そして、厚さがその範囲外の場合には、接合強度が△以下で不足となってしまうことが確認された。
【0037】
【表3】

【0038】
表4の第4群の試料は、はんだ添加層3の材質をPd−5wt%Agの混合物とした場合であり、第5群の試料は、はんだ添加層3の材質をPd−5wt%Niの混合物とした場合であり、第6群試料は、はんだ添加層3の材質をPd−5wt%Cuの混合物とした場合である。
そのいずれも、はんだ添加層3の厚さを0.5nm以上20nm以下としたものは、はんだ濡れ性および接合強度の両方が○以上となっており、良好な結果となることが確認された。
この結果から、はんだ添加層3を形成するのに純Pdを使用しなくとも、Pdの混合物またはPd合金とすることによっても、濡れ性および接合強度の両方を○以上と良好なものにすることができることが確認された。そしてまた、この結果から、いわゆる貴金属であることに因って調達が困難な傾向がありまたそれ故に材料コスト等が高額化する虞の高いPdの使用量を、はんだ濡れ性および接合強度の低下を引き起こすことなしに削減することが可能であることが確認された。
【0039】
【表4】

【0040】
表5の試料は、バリア層2の材質としてNb、Ti、Crを用い、はんだ添加層3の材質としてPdを用いたものである。その結果は、表2に示したバリア層2をAlからなるものとした場合と同様に、良好なものとなった。
【0041】
【表5】

【0042】
表6に示した試料は、はんだ添加層3をPd−5wt%Niとし、バリア層2をNb(第10群)、Cr(第11群)としたものである。この場合も、純Pdからなるものとした場合と同様に結果は良好なものとなった。
【0043】
【表6】

【0044】
表7は、スパッタによる成膜を実施する直前に、そのスパッタリングを行うのと同一のチャンバ内で、金属基材1の表面にイオンボンバ処理を施した場合の結果を示したものである。第12群の試料は、バリア層2をAlとし、はんだ添加層3をPdとした場合であり、第13群の試料は、バリア層2をTiとし、はんだ添加層3をPd−5wt%Niとした場合である。
この実験結果から、バリア層2等の成膜を開始する以前に、金属基材1の表面に対してイオンボンバ処理を施すことにより、その表面の酸化膜等の残留被膜が除去され、あるいはさらに粗面化された状態となるため、例えば表1の結果と比較して、はんだ接合強度をさらに向上させることが可能となることが確認された。
【0045】
【表7】

【0046】
表8、表9、表10は、図1に示した第1の構造を有する試料(表1〜表6に掲載)を作製した後に、図1のはんだ添加層3を図2の第1はんだ添加層3aとして、その上に、スパッタ処理とは別途のプロセスである電気めっき法により、はんだ層4や第2はんだ添加層3bを形成することで、図2に示したような第2の構造とした試料の結果を示したものである。
【0047】
表8の試料は、バリア層2の材質をAlとしたものである。その結果は、表1〜表6に示した結果と同様に良好なものとなった。特に、接合強度のさらなる向上が達成できることが確認された。
また、バリア層2をAlからなるものとする場合、その厚さを20nm以上500nm以下とすることにより、良好な性能(はんだ濡れ性およびはんだ接合強度の両方;以下同
様)を得ることができることが確認された。これとは対照的に、比較例1401、1402に係る試料のように厚さが20nm未満の場合や、比較例1407に係る試料のように厚さが500nm超の場合には、良好な性能をえることが困難であった。
また、第1はんだ添加層3aは、Pdの代りに、Pd−5wt%Sn、Pd−5wt%Ag、Pd−5wt%Ni、Pd−5wt%Cuとすることが可能であることが確認された。
また、バリア層2の厚さを上記のような範囲内の値とした上で、第1はんだ添加層3aおよび第2はんだ添加層3bの厚さを0.5nm以上20nm以下の範囲内の厚さにすることで、良好な性能を得ることができることが確認された。
【0048】
【表8】

【0049】
表9の試料は、第1はんだ添加層3aおよび第2はんだ添加層3bの材質をPdに統一すると共にその膜厚をそれぞれ2nm、0.5nmとし、バリア層2の材質をNbまたはTiもしくはCrとしたものである。その結果は、表1〜表6に示した結果と同様に良好なものとなった。特に、接合強度のさらなる向上が達成できることが確認された。
また、バリア層2をAlの代りにNbまたはTiもしくはCrからなるものとした場合、その厚さを20nm以上500nm以下とすることにより、良好な性能(はんだ濡れ性およびはんだ接合強度の両方;以下同様)を得ることができることが確認された。
また、第1はんだ添加層3aは、Pdの代りに、Pd−5wt%Sn、Pd−5wt%
Ag、Pd−5wt%Ni、Pd−5wt%Cuとすることが可能であり、第2はんだ添加層3bは、Pdの代りにPd−5wt%とすることが可能であることが確認された。
【0050】
【表9】

【0051】
表10の試料は、バリア層2をCrからなるものとし、第2はんだ添加層3bの代りにはんだ層4を設けるようにしたものである。第1はんだ添加層3aはPd−5wt%Niからなるものとし、はんだ層4は、Pd(第23群)、またはPd−30wt%Cu(第24群)からなるものとした。
この場合も、いずれも表1〜表6に示した結果と同様に良好な結果となった。特に、表1〜表6の結果と比較して接合強度のさらなる向上が達成されることが確認された。
【0052】
【表10】

【0053】
表11、表12は、上記実施の形態で図3に示した第3の構造を有する試料の結果に関するものである。
表11の試料は、バリア層2の材質をAlとすると共にはんだ層4の材質をSnとし、
かつ第1はんだ添加層3aの材質および厚さを種々変更したものである。
その実施例に係る試料は、いずれも(比較例は除いて)、第1の構造の場合の実験結果と同様に、はんだ濡れ性および接合強度の両方が良好なものとなることが確認された。
また、第1のはんだ添加層3aの厚さが0.5nm以上20nm以下の範囲内にあれば、はんだ濡れ性および接合強度の両方が○以上となり、良好な結果となることが確認された。そして、厚さがその範囲外の場合には、接合強度が△以下で不足となることが確認された。
【0054】
【表11】

【0055】
表12は、バリア層2の材質をAlの代りにNb、Ti、Crとし、その厚さを種々変更したものとし、はんだ層4の材質をSnで統一し、第1はんだ添加層3aの材質をPdまたはPd−5wt%Niからなる厚さ2nmのものとした場合の結果を示したものである。
その実施例に係る試料は、いずれも(比較例は除いて)、第1の構造の場合の実験結果と同様に、はんだ濡れ性および接合強度の両方が良好なものとなることが確認された。
また、第1のはんだ添加層3aの厚さが0.5nm以上20nm以下の範囲内にあれば
、はんだ濡れ性および接合強度の両方が○以上となり、良好な結果となることが確認された。そして、厚さがその範囲外の場合には、接合強度が△以下で不足となることが確認された。
【0056】
【表12】

【0057】
表13の試料は、バリア層4の材質をAlとすると共にはんだ添加層3の材質をPdとし、はんだ層4をSnまたはSn−5wt%PdもしくはSn−5wt%Niとしたものである。
この結果から、はんだ層4の厚さを5nm以上250nm以下の範囲内にすれば、ほぼ良好な結果が得られることが確認されたが、さらに好ましくは、100nm以上200nm以下とするとよい。何故なら、そのようにすることにより、接合強度のさらなる向上を達成して、剥離が全く発生しないようにすることが可能となることを、この実験結果が示しているからである(はんだ層4の厚さが100nm以上200nm以下のときに、接合強度が◎となっている)。
【0058】
【表13】

【0059】
表14、表15、表16に掲げた実験結果は、上記実施の形態で図4に示した第4の構造に関するものである。
表14の試料は、第1バリア層2aを厚さ50nmの純Alからなるものとすると共に、はんだ添加層3をPdとしてその厚さを種々変更し、かつ第2バリア層2bを厚さ100nmのNbまたはTiもしくはCrとしたものである。
この結果から、はんだ添加層3の厚さを0.5nm以上20nm以下とした実施例に係る各試料はいずれも、表2に示した結果と同様に、はんだ濡れ性および接合強度の両方で、良好な結果を示すことが確認された。
【0060】
【表14】

【0061】
表15の試料は、はんだ添加層3をPdからなる厚さ2nmのものに統一し、第1バリア層2aをAlからなる種々の厚さのものとし、かつ第2バリア層2bをNbからなる種々の厚さのものとした場合の結果を示したものである。
この表15に示した第42群の試料では、第1バリア層2aと第2バリア層2bとの合計の厚さが500nm超となるものが含まれている(試料4212、4215、4219、4220、4221)。また逆に、第1バリア層2aと第2バリア層2bとの合計の厚さが20nm未満となるものが含まれている(試料4201)。
この表15に示した結果から、第1バリア層2aと第2バリア層2bとの合計の厚さが20nm以上500nm以下の範囲内に収まっている試料は、表2に示した結果と同様に、はんだ濡れ性および接合強度の両方で、良好な結果を示すことが確認された。他方、第1バリア層2aと第2バリア層2bとの合計の厚さが20nm未満または500nm超の場合には、特に接合強度の低下が見られた。このことから、第1バリア層2aと第2バリア層2bとの合計の厚さは20nm以上500nm以下の範囲内に設定することが望ましいということが確認された。
【0062】
【表15】

【0063】
表16に掲げた実験結果は、上記実施の形態で図4に示した第4の構造に関するものであるという点では表15の場合と同様であるが、最上層を、はんだ添加層3の代りに、Sn−5wt%Ni(第43群)またはSn−5wt%Cu(第44群)のはんだ層4とした場合について検討したものである。第43群の試料では、第2バリア層2bをNbからなるものとしている。また第44群の試料では、第2バリア層2bをCrからなるものとしている。
この実験結果から、最上層の材質を、純Pdの代りにSn−5wt%NiやSn−5wt%Cuのような材料コストが低廉な混合物からなるものに変更しても、表14や表15に掲げた純Pdとした場合と同様に、はんだ濡れ性および接合強度の両方で良好な結果が得られることが確認された。
【0064】
【表16】

【0065】
以上のような実験結果から、本発明の実施例に係る表面処理済アルミニウム板およびその製造方法によれば、はんだ濡れ性が良好でかつ接合強度の高い表面処理済アルミニウム
板を実現することが可能となることが確認できた。
また、純AlまたはAl合金からなる金属基材1の表面に、酸洗処理による自然酸化膜の除去を施さなくても、上記のような良好なはんだ濡れ性および接合強度を付与することができ、延いては製造プロセスの簡易化、低コスト化、耐環境特性の向上等を実現することが可能となることが確認できた。
また、はんだ添加層3、3a、3bを、Pdを主成分とする混合物またはPd合金からなる、0.5nm〜20nm程度の厚さのものとすることにより、はんだ濡れ性および接合強度の低下を引き起こすことなしに、Pdの使用量を低減化して、材料コストの低廉化やその製造プロセスの簡易化を達成することが可能となることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態に係る第1の表面処理済アルミニウム板の主要な構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る第2の表面処理済アルミニウム板の主要な構成を示すである。
【図3】本発明の実施の形態に係る第3の表面処理済アルミニウム板の主要な構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る第4の表面処理済アルミニウム板の主要な構成を示す図である。
【図5】従来の表面処理済アルミニウム板の主要な構成を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 金属基材
2 バリア層
2a 第1バリア層
2b 第2バリア層
3 はんだ添加層
3a 第1はんだ添加層
3b 第2はんだ添加層
4 はんだ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる基材の表面上に、当該基材の表面側から順に、
アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)のいずれかを主成分とするバリア層と、
パラジウム(Pd)を主成分とするはんだ添加層と
を形成してなることを特徴とする表面処理済アルミニウム板。
【請求項2】
アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる基材の表面上に、当該基材の表面側から順に、
アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)のいずれかを主成分とするバリア層と、
パラジウム(Pd)を主成分とする第1はんだ添加層と、
錫(Sn)を主成分とするはんだ層と、
パラジウム(Pd)を主成分とする第2はんだ添加層と
を形成してなることを特徴とする表面処理済アルミニウム板。
【請求項3】
アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる基材の表面上に、当該基材の表面側から順に、
アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、クロム(Cr)のいずれかを主成分とするバリア層と、
錫(Sn)を主成分とするはんだ層と、
パラジウム(Pd)を主成分とするはんだ添加層と
を形成してなることを特徴とする表面処理済アルミニウム板。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか1つの項に記載の表面処理済アルミニウム板において、
前記バリア層の平均厚さが、20nm以上500nm以下である
ことを特徴とする表面処理済アルミニウム板。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちいずれか1つの項に記載の表面処理済アルミニウム板において、
最上層にある、はんだ添加層または第2はんだ添加層の表面上に、さらに、Snを主成分とするはんだ層を形成してなる
ことを特徴とする表面処理済アルミニウム板。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちいずれか1つの項に記載の表面処理済アルミニウム板において、
はんだ添加層または第1はんだ添加層もしくは第2はんだ添加層の厚さが、0.5nm以上20nm以下である
ことを特徴とする表面処理済アルミニウム板。
【請求項7】
アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる基材の表面上に、当該基材の表面側から順に、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)のいずれかを主成分とするバリア層と、パラジウム(Pd)を主成分とするはんだ添加層とを、ドライコート法により、成膜する層の材質を切り替える際にも酸素分圧が1×10−4Pa以下の圧力に作業雰囲気を維持した同一チャンバ内で連続して形成する工程を含む
ことを特徴とする表面処理済アルミニウム板の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の表面処理済アルミニウム板の製造方法において、
さらに、Snを主成分とするはんだ層を、電気めっき法により、最上層に形成する工程を含む
ことを特徴とする表面処理済アルミニウム板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−131884(P2010−131884A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310602(P2008−310602)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】