説明

表面加工方法及び装置

【課題】被加工物の表面が目的のプロファイルになるように該表面をエッチングする表面加工方法を提供する。
【解決手段】被加工物表面の加工前のプロファイルを測定し、気体又は液体から成るエッチング剤を前記表面に向けて所定の流量で供給する供給手段を、該表面上の各点において前記目的プロファイルと前記加工前プロファイルの差から求めた加工深さにより定まる速度で、該表面に沿って移動させることにより、該表面をエッチングし、前記流量のエッチング剤を除去可能な量以上の吸引量で、前記表面付近の液体又は気体を吸引除去する。ここでエッチング剤が液体の場合には、液体と共に、該液体が気化した気体も吸引除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチングにより、ナノメートル単位の精度で被加工物の表面を加工する表面加工方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体リソグラフィーの分野では加工精度の高度化が進み、それに伴って、リソグラフィーに使用される反射鏡、透過鏡、レンズ、パターン投影用のマスク基板等の光学デバイスにも高い精度が求められている。特に、これらの光学デバイスでは、光が入射・出射・反射する表面を高精度に仕上げる必要がある。近い将来、リソグラフィーには波長10nm程度の極端紫外光が用いられるようになると予測されており、それにより光学デバイスの表面形状を1nm以下の誤差で仕上げる技術を開発する必要が生じている。一方、半導体デバイスの製造や液晶ディスプレイパネルの製造におけるフォトリソグラフィー工程で用いられるフォトマスク用ガラス基板においては、その表面を半導体デバイス用に関しては数十nm以下、液晶ディスプレイ用に関しては数μm以下の平坦度で仕上げることが求められている。
【0003】
また、電子機器の基準周波数を発生させるために用いられる水晶振動子や、振動と電気信号との間の変換を行うために用いられる弾性表面波デバイスでは、それらが有する振動体の厚さにより振動数が定まる。そのため、振動数の精度を高めるために、高精度に厚さを微調整する必要がある。特に、振動体の厚さにむらがあると振動数にばらつきが生じるため、この厚さを均一化することが重要である。
【0004】
従来、上述の光学デバイスでは、ポリシング等の機械研磨により表面の加工が行われていた。同様に、水晶振動子や弾性表面波デバイスにおいても、機械研磨を用いて振動体の表面を加工することにより膜厚の調整が行われていた。しかし、機械加工法では外部からの振動、工具や被加工物の熱膨張等の影響を受けるため、数nmや数μmという高い精度で加工を行うことは困難である。
【0005】
機械加工法に代わる表面加工方法として、プラズマやイオンビームを用いて表面をエッチングすることが検討されている。しかし、プラズマエッチング法は加工中に生じる熱により被加工物の温度が変動してエッチング速度が変化するため加工精度が低下する、という欠点を有する。また、イオンビームエッチング法はプラズマエッチング法等よりも加工速度が遅いうえ、高エネルギーイオンが衝突することにより被加工物が変質することがある、という欠点を有する。また、プラズマエッチング法、イオンビーム法ともに、真空チャンバー、ガス供給・排気装置、排ガス処理装置等の高価な装置を必要とするため、加工された製品のコストが上昇するという欠点を有する。
【0006】
これら機械加工法、プラズマエッチング法及びイオンビームエッチング法の有する欠点を解消する方法の一つに、ウエットエッチング法が挙げられる。しかし、ウエットエッチング法を用いた表面加工では、多くの場合、表面全体に一様にエッチング液を付着させるため、加工前の表面の凹凸をナノメートルの精度で解消することはできない。
【0007】
一方、特許文献1には、エッチング液をノズルから被加工物の表面の一部分にのみ供給しつつ、ノズルと被加工物の相対位置を変化させることにより被加工物をウエットエッチングする装置が記載されている。この装置によれば表面を局所的に加工することができるが、この文献には加工前の表面の凹凸をエッチングにより平坦化することは記載されていない。供給されたエッチング液は、ノズルと同軸に設けられたエッチャント排出用パイプにより吸引されることにより基板表面から除去される。
【0008】
しかし、特許文献1の装置では、被加工物の表面からのエッチング液の除去が不十分であれば、この表面に残留したエッチング液が気化し、その気体により、ノズルが通過した部分及びその周辺の被加工物表面がエッチングされてしまう。そのため、被加工物の表面が乱雑にエッチングされて凹凸が生じてしまう。特に、ノズルが通過した部分に隣接した部分には、被加工物の表面を面的に加工するために再度ノズルによりエッチング液が供給されるが、この時には既に、前記気体の影響により表面形状が最初に測定したものから変化してしまうため、この隣接部分を正確に加工することは困難である。
【0009】
特許文献2には、半導体基板の平坦化方法として、予め半導体基板から成る被加工物の表面の形状を測定しておき、その表面形状のデータから求めた速度でノズルを移動させながらこの表面にエッチング液を供給する装置が記載されている。また、この装置では、液温が臨界温度以上である時のみ活性である(被加工物をエッチングする)エッチング液を用い、臨界温度未満のエッチング液中に半導体基板を浸漬している。ノズルから供給されるエッチング液は、被加工物表面上のエッチングを行う領域に供給される時のみ臨界温度以上に加熱される。しかし、特許文献2の装置では、臨界温度以下では被加工物をエッチングしない、という特性を有する材料から成るエッチング液しか用いることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10-163153号公報([0028]〜[0033], [0071], 図1, 図11)
【特許文献2】特開平11-045872号公報([0022]〜[0026], 図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、従来は気化したエッチング剤による影響を受けることやエッチング剤が限定されることにより実現が困難であった、被加工物の表面を数nm〜数μmの精度で仕上げることができると共に様々な被加工物に対して適用することができ、且つコストが低いエッチング方法及びそれに用いる装置を提供することにある。また、この方法及び装置は、被加工物の表面の仕上加工ばかりでなく表面を数nm〜数μmの精度で所望の形状(プロファイル)に加工したり、被加工物の厚さを均一化することにも利用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る表面加工方法の第1の態様のものは、被加工物の表面が目的のプロファイルになるように該表面をエッチングする表面加工方法であって、
a) 前記表面の加工前のプロファイルを測定し、
b) 液体又は気体から成るエッチング剤を供給する供給手段を複数並べた供給手段集合体を所定の速度で前記表面に沿って移動させつつ、各供給手段毎に、対向する該表面上の各点において前記目的プロファイルと前記加工前プロファイルの差から求めた加工深さに応じて温度及び流量のいずれか一方又は両方を制御しつつエッチング剤を該表面に向けて供給することにより、該表面をエッチングし、
c) 前記被加工物表面付近の液体及び気体を吸引除去する、
ことを特徴とする。
【0013】
第1の態様において、供給手段は一定の速度で移動させてもよいし、前記表面上の各点における加工深さに応じて移動速度を制御してもよい。
【0014】
本発明に係る表面加工方法の第2の態様のものは、被加工物の表面が目的のプロファイルになるように該表面をエッチングする表面加工方法であって、
a) 前記被加工物の表面の加工前のプロファイルを測定し、
b) 液体又は気体から成るエッチング剤を前記被加工物の表面に向けて所定の流量で供給する供給手段を、被加工物表面上の各点において前記目的プロファイルと前記加工前プロファイルの差から求めた加工深さにより定まる速度で、該表面に沿って移動させることにより、該被加工物表面をエッチングし、
c) 前記流量のエッチング剤を除去可能な量以上の吸引量で、前記表面付近の液体及び気体を吸引除去する、
ことを特徴とする。
【0015】
上記移動操作においては、被加工物を固定して供給手段集合体(第1の態様の場合)又は供給手段(第2の態様の場合)を移動させてもよいし、供給手段集合体又は供給手段を固定して被加工物を移動させてもよい。更には、供給手段集合体又は供給手段と被加工物の双方を移動させてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る表面加工方法は、被加工物の表面が目的のプロファイルになるようにその表面をエッチングするものである。目的のプロファイルの例として、凹レンズ、凸レンズ、平面反射鏡、凹面反射鏡、位相光学素子等の各種光学素子に代表される機能性ガラス材、半導体基板、フォトマスク用ガラス基板の表面形状を挙げることができる。また、このような単純な形状ばかりではなく、複雑なプロファイルの形状の加工にももちろん利用することができる。
【0017】
まず、第1の態様の表面加工方法について説明する。
第1の態様の表面加工方法では、まず、被加工物の表面の加工前のプロファイルを測定する。この測定には、従来の表面形状測定装置や表面粗さ測定装置をそのまま用いることができる。この測定を行う装置は表面加工装置に組み込んでおいてもよいし、表面加工装置とは別体の装置を用いて測定を行うようにしてもよい。各点においてエッチングすべき加工深さは、各点における目的のプロファイルと測定した加工前プロファイルの差により求めることができる。
【0018】
次に、供給手段集合体の各供給手段からエッチング剤を被加工物表面に供給することにより、この表面をエッチングする。各供給手段毎に、エッチング剤の温度及び/又は流量を調整することにより、その供給手段からエッチング剤が供給された部分の被加工物表面のエッチング量を、前述のように定められた加工深さになるように制御する。ここで、エッチング剤の調整は流量を一定にして温度を変化させること、温度を一定にして流量を変化させること、温度と流量の双方を変化させること、のいずれの方法により行ってもよい。また、供給手段集合体の進行方向のエッチング量の変化は、各供給手段毎の温度及び/又は流量の調整により制御してもよいし、供給手段集合体の速度により制御してもよく、更には速度の調整と各供給手段毎の温度及び/又は流量の調整を併用してもよい。なお、本発明では液体のエッチング剤、気体のエッチング剤のいずれも用いることができ、また、液体のエッチング剤と気体のエッチング剤を混合して用いてもよい。
【0019】
温度や流量によりエッチング速度が変化するという特性はほとんどのエッチング剤が有するため、本発明の方法はエッチング剤の材料を問わず適用することができる。エッチング剤は、よく用いられている酸やアルカリに限られず、様々なものを用いることができる。
【0020】
また、第1の態様の表面加工方法によれば、供給手段の移動操作を1回行うだけで加工を行うことができる。
例えば特許文献1に記載の方法では、供給手段を1個のみ使用するため、被加工物表面上の各位置において、その周辺を繰り返し移動させる必要がある。その移動操作の度に、表面付近に残留したエッチング剤のガス(液体のエッチング剤が気化したものを含む)に起因した不所望のエッチングにより、その表面に凹凸が生じる。それに対して、第1の態様の表面加工方法では1回の移動操作で加工を行うため、そのような気体による不所望のエッチングを最小限に抑えることができる。
【0021】
更に、第1の態様において供給手段毎にエッチング剤の温度を調整する場合には、隣接する供給手段の境界付近では、2個の供給手段から供給されるエッチング剤が混じり合うため、供給手段間のエッチング剤の温度変化がなめらかになる。そのため、この境界においてはエッチング量もなめらかに変化するため、その位置で被加工物表面に段差ができる、といった問題は生じない。供給手段毎にエッチング剤の流量を調整する場合にも同様である。
【0022】
次に、第2の態様の表面加工方法について説明する。
まず、第1の態様と同様に、被加工物の表面の加工前のプロファイルを測定し、目的のプロファイルと測定した加工前プロファイルの差により、各点においてエッチングすべき加工深さを求める。
【0023】
次に、供給手段から被加工物の表面に向けて所定の流量でエッチング剤を供給しつつ、この供給手段を被加工物表面に沿って、後述の方法により定まる速度で移動させる。
供給手段の断面積は加工の空間分解能と加工の能率に応じて適宜定めるとよい。加工の空間分解能を高めるには断面積を小さくする方が望ましく、加工の能率を高めるには加工精度が維持できる範囲内で断面積を大きくする方が望ましい。
【0024】
供給手段の移動速度は次のように定める。所定の成分及び濃度を有するエッチング剤を所定の流量で供給する場合、被加工物がエッチングされる量(加工深さ)はエッチング剤に晒される時間に比例する。そして、供給手段を移動させている間に被加工物表面上の1点がエッチング剤に晒される時間は、その1点における供給手段の速度の逆数に比例する。それゆえ、その1点における加工深さも供給手段の速度の逆数に比例する。従って、この比例関係から各点において加工すべき深さに応じて供給手段の速度を定める。
【0025】
このように供給手段の速度を制御しながら被加工物表面にエッチング剤を供給することにより、被加工物の表面が目的のプロファイルになるようにエッチングすることができる。更に、本発明の表面加工方法は、プラズマエッチングのように熱によるダメージを被加工物に与えたり、温度の変動によりエッチング速度が変化して加工精度が低下することがない。また、イオンビームエッチングよりも加工速度を速くすることができるうえ、イオンビームエッチングのように高エネルギーイオンの衝突による被加工物の変質が生じることもない。
【0026】
エッチング工程において、被加工面に気体のエッチング剤を供給した場合にはその気体が、液体のエッチング剤を供給した場合にはその液体の一部が気化したものが、被加工面の近傍に残留する。この気体をそのまま放置すると、その気体が被加工物の表面に触れ、被加工物の表面が乱雑にエッチングされて凹凸が生じる。これを防ぐためには、被加工面の表面からエッチング液を回収するだけでは不十分であり、気化した気体等も回収する必要がある。
そこで、第2の態様では更に、エッチング液を供給した被加工物表面付近において、供給したエッチング液の供給量よりも多くの量の液体及び気体を吸引除去する。これにより、エッチング液のみならずエッチング液が気化した気体等を被加工物表面から十分に除去することができる。そのため、この気体による不所望のエッチングにより凹凸が生じることを防ぐことができる。このような操作は第1の態様の表面加工においても行うことが望ましい。
例えば略同軸の外側管と内側管から成る供給手段を用いることにより、内側管からエッチング液を被加工面に供給すると共に、外側管から被加工面付近の気体、液体、固体を吸引除去することができる。あるいは、供給手段とは別に吸引除去を行う吸引手段を設けてもよい。この場合、吸引手段は供給手段に後行させて吸引除去を行うとよい。吸引手段は第1の態様の表面加工においても適用することができる。
【0027】
上記吸引除去に加えて、残存エッチング液を洗浄液(リンス液)で洗い流してもよい。これにより更に確実に残存エッチング液による悪影響を防ぐことができる。リンス液は純水でもよいし、エッチング液を中和するために酸性又はアルカリ性の溶液を用いてもよい。リンス液は、前記供給手段が通過した後の被加工物表面に、前記供給手段とは別のリンス液供給手段を用いて供給することができる。
【0028】
更に加工精度を高めるためには、加工痕の形状を考慮することが望ましい。ここで、加工痕の形状は、供給手段を移動させずに固定した状態でエッチング液を単位時間だけ被加工物表面に供給した時に被加工物がエッチングされた部分の形状で定義する。典型的な加工痕51の形状を図1(a)に示す。
この加工痕の形状を考慮して加工精度を高める方法について検討する。ここでは簡単のため、図1(b)に示すように1次元系、即ち供給手段を直線状に移動させる場合を例にとって説明する。まず、供給手段を固定した状態で所定の流量で単位時間だけ被加工物をエッチングした時の加工痕の形状を、供給手段の中心を原点O'とする表面上の位置uの関数f(u)(単位加工痕関数)で表す。また、被加工物の表面上の座標系Xにおける原点O'の座標をsとする。座標系Xでの位置xにおいて、微小時間の間に被加工物がエッチングされる深さΔhは、
Δh(x)=f(x-s)dt (1)
となる。式(1)を時間積分することにより位置xにおけるエッチングの深さを表す関数h(x)が求められるが、その際、供給手段が速度v(s)=ds/dtで移動することから、h(x)は
【数1】

と表される。式(2)は関数f(x')と関数1/v(x')の畳み込み積分(コンボリューション)に該当する(図1(c))。この式(2)において単位加工痕関数f(u)及びエッチング深さ関数h(x)が既知であることから、速度関数v(x)を求めることができる。この速度関数v(x)に従って供給手段の速度を制御することにより、加工精度を更に高めることができる。
【0029】
エッチング時の温度が変動するとエッチング速度も変動するため、第2の態様においても、エッチング作業中にエッチング液及び/又は被加工物の温度を所定の範囲内になるように制御することが望ましい。この温度範囲は被加工物の材料、エッチング液の組成、目的とする加工精度等を定めたうえで、あらかじめ予備実験を行い決定することができる。被加工物の温度制御は、被加工物の全体に対して行ってもよいし、エッチングが行われている領域に対してのみ行ってもよい。
【0030】
第2の態様の供給手段は、2次元的に走査することにより、被加工物表面を面的に加工することができる。一方、被加工物の加工領域の幅と同じ又はそれよりも広い幅を持つ供給手段を用いた場合には、幅方向に垂直な方向に1次元的に移動させるだけで面的に加工することができる。また、被加工物の同一の加工領域に対して複数回、それぞれ異なる方向に1次元的に移動させることもできる。これにより、供給手段を1回移動させただけでは除去できない前記幅方向の凹凸も除去することができる。更に、供給手段の1次元的な移動と2次元的な走査を組み合わせてもよい。例えば、前記幅広供給手段を1次元的に移動させることにより大まかに加工した後で、幅広供給手段よりも径の小さい供給手段を用いて2次元走査を行うことにより細部の加工を行うことができる。あるいは、第1の態様による加工を行った後に、第2の態様における2次元走査を行うことにより細部の加工を行ってもよい。なお、ここでは供給手段を移動(走査)させると記載したが、前述のように、被加工物の方を移動させてもよいし、供給手段と被加工物の双方を移動させてもよい。
これら種々の移動方法を適宜使い分け、あるいは組み合わせることにより、平坦性の高い表面形状や、複雑な表面形状を得ることができる。
また、供給手段の形状は目的に応じて適宜定めることができる。例えば、移動方向に対して幅広の矩形ノズルを用いることにより、走査加工の重ね合わせによって生じる深さムラを少なくすることができる。
【0031】
第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、供給手段から被加工物表面の所望の位置にエッチング剤を供給することができる限り、供給手段から供給されるエッチング剤の流れ及び被加工物は任意の方向に向けることができる。エッチング剤の流れ及び/又は被加工物を所定の方向に向けるために、この流れの方向及び被加工物の方向のいずれか一方又は両方を変化させる手段を本発明の装置に設けることができる。その手段には、供給手段及び/又は被加工物を傾斜させるものや、供給手段及び/又は被加工物を所定の点を中心に回転させるもの等を用いることができる。
【0032】
板状の被加工物に対してエッチング処理を行う際には、被加工物を略水平に配置すると被加工物が撓み、正確な加工ができない場合がある。そのような場合には、被加工物を立設することにより、撓みを防ぎ正確に加工することができる。
【0033】
次に、エッチング剤について説明する。以下に述べるエッチング剤は第1の態様、及び第2の態様のいずれにも用いることができる。
エッチング剤は被加工物に応じて選択すればよい。例えば、被加工物がガラス材、石英、水晶等、SiO2を材料として含むものである場合には、エッチング剤にはフッ化水素酸又はフッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合溶液を用いることが望ましい。被加工物がSi半導体ウエハ等、Siを材料として含むものである場合には、エッチング剤にはフッ化水素酸と硝酸の混合溶液又はフッ化水素酸と硝酸と酢酸の混合溶液、又は水酸化カリウムを用いることが望ましい。また、被加工物がSi3N4、Al2O3又はGaNを材料とするものである場合には、エッチング剤には熱リン酸(H3PO4)を用いることができる。熱リン酸の温度は、例えばSi3N4に対しては150℃〜250℃、Al2O3に対しては250℃程度とすればよい。
エッチング剤は使い捨てにしてもよいが、一度エッチングに使用したエッチング剤を回収して再利用することが望ましい。その場合、エッチング剤を繰り返し使用するとその間に濃度が変動する可能性がある。そのため、例えば液体をエッチング剤に用いる場合には、溶液濃度を測定してその値が所定値よりも低くなれば溶質を追加することにより、溶液濃度が所定の範囲内になるように制御することが望ましい。気体をエッチング剤に用いる場合にも同様の制御をすることができる。前述の温度範囲と同様に、濃度範囲もあらかじめ予備実験を行い決定することができる。
また、一度使用したエッチング剤には被加工物の材料成分が混入するため、エッチング剤の再利用はその材料成分を除去してから行うとよい。但し、エッチング剤に材料成分が混入してもエッチング速度が低下しない場合には、このような除去を行う必要はない。例えば被加工物がSiO2を材料として含むものであってエッチング剤がフッ化水素酸(フッ酸)である場合には、SiO2はフッ化水素酸に十分によく溶解するため、通常は溶解したSiO2の成分を除去する必要はない。
【0034】
エッチング剤として電界が印加されている間のみ被加工物をエッチングすることができる電解液を用い、被加工物と供給手段の間に電界を印加しながら本発明の表面加工処理を行うこともできる。この場合、電界のON/OFFによりエッチングのON/OFFを制御を行うことができる。本発明のエッチング剤の温度、流量及び/又は供給手段の速度の制御と、電界によるエッチングのON/OFF制御とを組み合わせることにより、更に精密な加工を行うことができる。
【0035】
エッチング速度を高めると共に空間波長の短い粗さ成分を除去するために、液体のエッチング剤に研磨剤を含有させることができる。研磨剤には例えばアルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、炭化珪素(SiC)、ホウ化炭素(B4C)、ダイヤモンド、三酸化二クロム(Cr2O3)、二酸化セリウム(CeO2)、二酸化チタン(TiO2)、二酸化珪素(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化硼素(BN)から成る微粒子や、これら微粒子のうちの2種以上の混合物を用いることができる。また、白金(Pt)の微粒子は、エッチング液に浸食されないという点で、研磨剤として好適に用いることができる。
エッチング速度を高めるとために、被加工物のエッチングを促進する触媒をエッチング剤に添加したり、被加工物表面に光を照射したりこの表面を加熱したりすることもできる。
【0036】
本発明の第1及び第2の態様の表面加工方法は、高精度の研磨仕上げ面を要求される光学機器や通信機器あるいはOA機器等に使用される機能性ガラス材(例えば極端紫外光、X線、中性子線用の光学素子)、液晶ディスプレイやフォトマスク等に用いるガラス基板、あるいは半導体基板等の製造工程における表面の仕上げ加工に用いることができる。また、半導体デバイス、磁気ヘッド、ライトガイドその他の各種精密部品の製造工程における微細加工に用いることもできる。更に、レーザビームプリンタなどの情報機器等に用いられるf-θレンズ等の非軸対称非球面レンズや、光ピックアップレンズやVTRカメラ用レンズ等に使用される非球面反射鏡等の超精密加工にも用いることができる。
また、水晶振動子や弾性表面波デバイス等の製造工程において、振動体の厚さを均一化するために用いることができる。
【0037】
本発明の第1及び第2の態様の表面加工方法や、それを用いた各種素子や基板等の製造方法は、常温・常圧下で行うことができる。そのため、本発明の方法を用いることにより、使用する装置のコストをプラズマエッチングやイオンビームエッチング用の装置よりも抑えることができる。また、被加工物を真空チャンバに収容する必要がないため、大型の被加工物でも容易に取り扱うことができる。表1に、機械加工法、プラズマエッチング法及びイオンビーム法に対する本発明の方法の利点をまとめて示す。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】単位加工痕形状とエッチングすべき深さを表す関数から滞在時間分布関数を求める方法を示す図。
【図2】第1の態様の表面加工装置の一実施例を示す概略構成図。
【図3】ノズル集合体11の例を示す断面図。
【図4】エッチング液の温度と加工深さの関係を実験で求めた例を示すグラフ。
【図5】第1の態様の表面加工装置の変形例を示す概略構成図。
【図6】第2の態様の表面加工装置の一実施例を示す概略構成図。
【図7】ノズルの移動速度の逆数と加工深さの関係を実験で求めた例を示すグラフ。
【図8】本実施例の表面加工装置にリンス装置20を追設した例を示す概略構成図。
【図9】本実施例の表面加工装置のノズル21の代わりにエッチング液供給用のノズル21’と吸引用ノズル34を設けた例を示す概略構成図。
【図10】本実施例の表面加工装置にエッチング液の濃度コントローラ35を追設した例を示す概略構成図。
【図11】第2実施例の表面加工装置に被加工物温度コントローラ36を追設した例を示す概略構成図。
【図12】本実施例で用いるノズルの例を示す横断面図。
【図13】本実施例で用いるノズルの例を示す縦断面図。
【図14】本実施例で用いるノズルの例を示す縦断面図。
【図15】ノズルの移動操作の例を示す平面図。
【図16】ノズルの移動操作の例を示す縦断面図。
【実施例】
【0039】
(1)第1の態様の表面加工方法及び表面加工装置の実施例(第1実施例)
本発明に係る第1の態様の表面加工方法及び表面加工装置の実施例を図2〜図4を用いて説明する。図2は本実施例の表面加工装置10の概略構成図である。この装置10は被加工物1の表面を所定のプロファイルになるようにエッチングするためのものである。装置10は、エッチング液を被加工物1の表面に送出するノズル(供給手段)12を多数、1方向に配列したノズル集合体(供給手段集合体)11を有する。各ノズル12はそれぞれ、ヒータ131及び温度センサ132を有し、ノズル毎に送出されるエッチング液の温度を調整することができる。ノズル集合体11は被加工物1の表面に沿って、ノズル12の配列方向に垂直な方向に移動する。
なお、ノズル12を移動させる代わりに、ノズル12を固定して被加工物1を移動させてもよいし、ノズル12と被加工物1の双方を移動させてもよい。
【0040】
2種類のノズル集合体11の例を、図3の断面図を用いて説明する。(a)に示したノズル集合体11aは多数のノズル12aを1個の外周管111内に配設したものである。各ノズル12aから加工物1の表面に供給されたエッチング液は、外周管111内の各ノズル12aの間の隙間112を通って、後述のエッチング液循環装置15により回収される。一方、(b)に示したノズル集合体11bは、同軸状に配置した外側管121と内側管122から成るノズル12bを配列したものである。エッチング液は内側管122から加工物1の表面に供給され、外側管121から後述のエッチング液循環装置15により回収される。
【0041】
装置10はこのノズル集合体11及びヒータ131を制御する制御部14を有する。制御部14は、ノズル集合体11を平面内で移動させるアクチュエータ、加工前及び目標とする加工後の被加工物1の表面のプロファイルを記憶する記憶部、これら2つのプロファイル及びエッチング液の温度と加工深さの関係式から、各ノズル12でのエッチング液の温度及びノズル集合体11の移動速度を算出する演算部、その演算結果と温度センサ132からの信号に基づきエッチング液の温度を制御する温度制御部、及び演算結果に基づきノズル集合体11の移動速度を制御すると共にノズル12と被加工物1の距離を一定に保つようにアクチュエータを制御する移動制御部を有する。
【0042】
更に、装置10は、エッチング液を供給し、回収し、循環使用するためのエッチング液循環装置15を有する。エッチング液循環装置15は、エッチング液を各ノズル12に分岐させて送出する送出管151、エッチング液をノズル集合体11から回収する回収管152、エッチング液を貯留する貯留タンク153、貯留タンク153から送出管151へエッチング液を送出する送液ポンプ154、送出管151へ送出するエッチング液の流量を調節する流量調節バルブ155及び流量計156、並びに被加工物1の表面に付着したエッチング液を吸引して回収するための吸引ポンプ157を有する。これら各装置は、貯留タンク153、送液ポンプ154、流量調節バルブ155、流量計156、送出管151、(ノズル集合体11)、回収管152、の順に接続され、回収管152と貯留タンク153が接続されることにより、循環経路が形成されている。吸引ポンプ157は貯留タンク153内を減圧することにより、前述の外周管111又は外側管121からエッチング液を吸引する。送出管151及び回収管152には、ノズル集合体11の移動に追従可能なように可撓性があるものを用いる。また、エッチング液が接触する部分は全て、エッチング液により腐食することのない材料から成る。更に、エッチング液循環装置15は貯留タンク153内のエッチング液を一定の温度に保つための温度コントローラ158を有する。
【0043】
第1実施例の表面加工装置10の動作を説明する。
まず、表面加工装置10を使用する前に、予備実験として、被加工物1と同じ材料から成る試料を用いて、ノズル12から所定の一定流量のエッチング液を試料表面に送出した場合における、エッチング液の温度と試料がエッチングされる深さの関係を求めておく。この予備実験では試料は石英であり、濃度20重量%のフッ化水素酸から成るエッチング液を0.5リットル/分の流量で試料表面に供給した。測定結果の一例を図4に示す。この図では、2個の試料に関する測定データをそれぞれ丸印及び四角印で示し、この測定データを指数関数で近似した計算値を実線で示した。なお、この図には測定結果は温度が40℃以下の範囲のみ示したが、それ以上の温度でも、70℃程度までは計算値からのずれは無視できる程小さい。この計算値より、例えばエッチング液の温度を50℃から60℃に変化させることにより、1分間あたりの加工深さを約0.5μm変化させることができることがわかる。被加工物1上の各点におけるエッチングすべき加工深さが決まれば、この計算値で示された温度と加工深さの関係から、ノズル12からそれら各点に供給するエッチング液の温度を定めることができる。
また、このエッチング深さの温度変化の測定を、ノズル集合体を一定の速度で移動させながら行う。そしてこの測定を複数の速度で行うことにより、エッチング液の温度及びノズル集合体の移動速度とエッチング深さの関係を求めることができる。被加工物1上の各点におけるエッチングすべき加工深さが決まれば、ここで求めた温度及び移動速度と加工深さの関係から、ノズル12からそれら各点に供給するエッチング液の温度及びノズル集合体の移動速度を定めることができる。
【0044】
次に、被加工物1の表面の加工前のプロファイルを測定する。この測定は既存の表面形状測定装置や表面粗さ測定装置等を用いて行うことができる。得られた測定結果を制御部14の記憶部に記憶させる。
【0045】
次に、演算部は、記憶部に記憶された被加工物1の表面の加工前及び目標とする加工後の被加工物1の表面のプロファイルとの差から、被加工物1の表面上の各位置において加工すべき深さを算出する。演算部は更に、前述の温度及び移動速度と加工深さの関係から、各位置においてノズル12から送出するエッチング液の温度とノズル集合体の移動速度を算出する。
【0046】
送液ポンプ154を作動させて流量調節バルブ155を調節することにより、貯留タンク153からノズル12を通して、被加工物1の表面に所定の流量及び前述のように定めた温度でエッチング液を送出しつつ、前述のように定めた速度でノズル集合体を移動させる。それと共に、吸引ポンプ157を作動させて被加工物1の表面からエッチング液を貯留タンク153に吸引する。これにより、被加工物1の表面の各点において、前述の算出された加工すべき深さにエッチングがなされ、所望のプロファイルが得られる。
【0047】
図5に、第1実施例の変形例である表面加工装置10’を示す。この表面加工装置10’は、表面加工装置10におけるヒータ131及び温度センサ132の代わりに、各ノズル11にエッチング液の流量を調整するためのシャッター16を設けたものである。シャッター16の開閉は制御部14により制御される。それ以外の構成は表面加工装置10と同様である。表面加工装置10’では、ノズル毎にエッチング液の流量を調整すると共にノズル集合体12及び/又は被加工物1の移動速度を制御することにより、被加工物1の表面の加工深さを調整する。これにより、所望のプロファイルが得られる。
流量の調整は、シャッター16の開口面積を変化させることにより行ってもよいし、シャッター16を開閉してその開放時間と閉鎖時間の比を調整することにより行ってもよい。
【0048】
(2)第2の態様の表面加工方法及び表面加工装置の実施例(第2実施例)
本発明に係る第2の態様の表面加工方法及び表面加工装置の実施例を図6及び図7を用いて説明する。図6は本実施例の表面加工装置20の概略構成図である。装置20は、内側管211と外側管212が同軸状に配置されたノズル(供給手段)21を有する。内側管211はエッチング液を被加工物1の表面に送出し、外側管212は供給されたエッチング液を回収する。ノズル21は先端が上側になるように配置し、被加工物1は表面が下を向くように配置する。このような配置にする理由は、ノズル21の先端から送出したエッチング液を重力で落下させることにより、被加工物1の表面からより除去しやすくするためである。なお、本発明では後述のようにエッチング液の吸引除去を行うため、ノズル21の先端の向きを上側にすることは必須ではなく、それ以外の向きにしてもエッチング液を被加工物1の表面から除去することは可能である。ノズル21は被加工物1の表面に沿って移動することができる。なお、第1実施例と同様に、ノズル21を移動させる代わりに被加工物1を移動させてもよいし、ノズル21と被加工物1の双方を移動させてもよい。
【0049】
また、装置20はノズル21を被加工物1の表面に沿って移動させる移動制御部22を有する。移動制御部22は、ノズル21を平面内で移動させるアクチュエータ、加工前及び目標とする加工後の被加工物1の表面のプロファイルを記憶する記憶部、これら2つのプロファイル及びノズル21の速度と加工深さの関係式からノズル21の移動速度を算出する演算部、及びその演算結果に基づきアクチュエータ(ノズル21の移動速度)を制御するコントローラを有する。移動制御部22はノズル21と被加工物1の距離を一定に保つようにアクチュエータを制御する。
【0050】
更に、装置20はエッチング液循環装置15を有する。エッチング液循環装置15の構成は基本的には第1実施例のものと同様である。第2実施例では、吸引ポンプ157は、被加工物1表面付近の液体及び気体をエッチング液の供給量よりも十分に大きい量だけ吸引できるものを用いる。
【0051】
第2実施例の表面加工装置20の動作を説明する。
まず、予備実験として、被加工物1と同じ材料から成る試料を用いて、ノズル21から所定の一定流量のエッチング液を試料表面に送出した場合における、ノズル21の移動速度と試料がエッチングされる深さの関係を求めておく。測定結果の一例を図7に示す。この予備実験では試料は石英であり、濃度20重量%のフッ化水素酸から成るエッチング液を0.5リットル/分の流量で試料表面に供給した。また、実験は100mm/分、133mm/分、200mm/分、400mm/分の4種類の速度でそれぞれ被加工物を移動させることにより行った。図7の横軸は移動速度の逆数であり、縦軸は加工深さ(エッチング深さ)である。実験は各移動速度毎に2回ずつ行い(図中の丸印と四角印)、実験結果に再現性があることを確認した。図7から明らかなように、移動速度の逆数と加工深さには比例関係がある。この関係から、被加工物1上の各点におけるエッチングすべき加工深さが決まれば、それら各点におけるノズル21の移動速度を定めることができる。
【0052】
次に、第1実施例と同様に、被加工物1の表面の加工前のプロファイルを測定する。得られた測定結果を移動制御部22の記憶部に記憶させる。
【0053】
次に、演算部は、記憶部に記憶された被加工物1の表面の加工前及び目標とする加工後の被加工物1の表面のプロファイルとの差から、被加工物1の表面上の各点において加工すべき深さを算出する。演算部は更に、前述のノズルの移動速度の逆数と加工深さの関係から、各点におけるノズルの移動速度を算出する。
【0054】
送液ポンプ154を作動させて流量調節バルブ155を調節することにより、貯留タンク153からノズル21を通して、被加工物1の表面に所定の流量でエッチング液を送出する。それと共に、吸引ポンプ157を作動させて被加工物1の表面からエッチング液を貯留タンク153に吸引する。この状態において、移動制御部22のコントローラは、前述のように算出した速度に基づき、アクチュエータを用いてノズル21の移動速度を制御しつつ被加工物1の表面においてノズル21を移動させる。これにより、被加工物1の表面の各点において、前述の算出された加工すべき深さにエッチングがなされ、所望のプロファイルが得られる。第2実施例では、図7に示したように10-3μm、即ちナノメートル単位の精度で加工深さを調整することができる。
【0055】
エッチングに用いられたエッチング液は吸引ポンプ157を用いて吸引されることにより、外側管212を通して貯留タンク153に戻され、エッチングに再利用される。
【0056】
更に、本実施例の装置20は、吸引ポンプ157により被加工物1の表面付近にある気体も吸引する。この表面付近ではエッチング液が気化して発生した気体が被加工物1の表面を浸食する恐れがある。そのため、前述のように、エッチング液の供給量よりも十分に大きい吸引量で被加工物1表面付近の液体及び気体を吸引することにより、エッチング液が気化した気体による悪影響を防ぐことができる。
【0057】
(3)変形例
第1及び第2実施例の表面加工装置の変形例を図8〜図10に示す。
図8に、第2実施例の表面加工装置にリンス装置30を追設した表面加工装置を示す。リンス装置30はリンス液ノズル31、リンス液タンク32及びリンス液供給ポンプ33を有する。
本変形例においても、エッチング処理は図6の装置と同様の方法により行う。本変形例では、移動制御部22による制御を受けて、エッチング処理のために被加工物1の表面上を移動するノズル21を追尾するように、リンス液ノズル31が被加工物1の表面上を移動する。その際、リンス液を、リンス液供給ポンプ33によりリンス液タンク32からリンス液ノズル31に移送し、リンス液ノズル31から被加工物1の表面に供給する。これにより、もしエッチング処理の際にエッチング液が外側管212に吸引されずに被加工物1の表面に付着して残留していたとしても、その残留エッチング液をリンス液により洗い流すことができ、不要なエッチングの進行をより確実に止めることができる。
なお、ここでは第2実施例の装置にリンス装置30を追設した例を示したが、第1実施例でも同様にリンス装置30を追設することができる。
【0058】
図9に、第2実施例の表面加工装置において、ノズル21の代わりに1重の管から成りエッチング液を被加工物1の表面に供給するノズル21’を設け、このノズル21’とは別に、1重の管から成り吸引ポンプ157’の動作によりエッチング液を吸引する吸引用ノズル34を設けた例を示す。この吸引用ノズル34は、図8のリンス液ノズル31と同様に、ノズル21’に後行するように被加工物1の表面上を移動する。これにより、被加工物1の表面に付着して残留した残留エッチング液及びエッチング液が気化してこの表面付近に存在する気体を吸引して除去することができる。
なお、ここに示した吸引用ノズル34は、ノズル21’ではなくノズル21と共に用いることもできる。また、第1実施例でも同様に吸引用ノズルを追設することができる。
【0059】
図10に、第2実施例の表面加工装置の別の変形例を示す。この例では、図6の表面加工装置の貯留タンク153に濃度コントローラ35を追設する。この濃度コントローラ35は、貯留タンク153内のエッチング液の濃度を測定する濃度センサを有し、測定された濃度に基づき溶媒又は/及び溶質を貯留タンク153内に追加投入することにより溶液が所定の濃度になるように制御する。これにより、エッチング作業中におけるエッチング液の温度や濃度の変動が原因となってエッチング深さに誤差が生じることを防ぐことができる。
なお、濃度コントローラ35は第1実施例でも同様に追設することができる。また、図10にはフッ化水素酸をエッチング液として用いる場合の例を示したが、フッ化水素酸と硝酸及び/又は酢酸の混合液や水酸化ナトリウム等の他のエッチング液を用いる場合や、エッチングガスを用いる場合にも同様に濃度コントローラを設けることができる。
【0060】
図11に、第2実施例の表面加工装置の更に別の変形例を示す。この例では、図6の表面加工装置に、被加工物1の表面の温度を一定に保つための被加工物温度コントローラ36を有する。被加工物温度コントローラ36は被加工物1の表面の温度を測定する温度センサと被加工物1を加熱及び/又は冷却する加熱装置(電流で加熱するヒータ等)及び/又は冷却装置(冷却水による冷却ユニット等)を用いることができる。この被加工物温度コントローラ36を用いて被加工物1の表面の温度を一定に保つことにより、被加工物の表面温度の違いによりエッチング速度に誤差が生じることを防ぐことができる。
第1実施例においても同様に、被加工物温度コントローラ36を用いて被加工物1の表面の温度を制御することができる。エッチング剤の温度により加工深さを制御する場合には、被加工物温度コントローラ36により被加工物1表面全体の温度を一定に保ちつつ、エッチング剤の温度調整によりエッチング剤と接触する部分の温度のみが変化することにより、エッチング量を制御することができる。
【0061】
本実施例で用いるノズルの例を、図12及び図13を用いて説明する。
図12(a)〜(c)には、形状の異なる3種類のノズルを横断面(エッチング液の流れる方向に対して垂直な断面)図で示す。(a)に示したノズル41は図6に示したノズル21と同様に、外側管41aと内側管41bを1個ずつ有する。(b)に示したノズル42はノズル41と同様の外側管と内側管から成る単体ノズル42aを複数束ねたノズルである。ノズル42においては、各単体ノズル42aがいずれも、内側管からエッチング液を被加工物の表面に供給し、外側管からエッチング液及び気体を吸引する。個々の単体ノズル42aの径をノズル41よりも十分小さくしてノズル42全体でノズル41と同程度の大きさにすることができる。このように複数の単体ノズルを束ねることにより、エッチング液及び気体を吸引する外側管がノズル内に分散して配置されるため、効率よく吸引することができる。(c)に示したノズル43は、横断面の形状を矩形としたものである。この矩形の長辺をノズル41の径よりも十分に長くし、その長辺に垂直な方向43aにノズル43を移動させることにより、ノズル41を用いた場合よりは表面加工の空間分解能は低下するものの、被加工物の表面をより速い速度でエッチングすることができる。従って、被加工物の表面を、まずこのような長い辺を持つノズル43を用いて大まかに予備的エッチングを行った後、ノズル41を用いて精密に加工することにより、高精度のエッチングを効率よく行うことができる。
【0062】
図13に、内側管の肉厚が異なる2種類のノズル44及び45を縦断面図で示す。ノズル45の内側管45bの肉厚はノズル44の内側管44bの肉厚よりも厚い。ノズル44の外側管44aとノズル45の外側管45aは、内径及び肉厚が等しい。ノズル44、ノズル45のいずれを用いた場合にも、単位加工痕の面積は外側管の内径で定まるため等しいが、必要なエッチング液の量はノズル45の方が少ない。また、被加工物1と肉厚部との隙間に被加工物表面と平行な向きにせん断流が生じるため、研磨剤である微粒子を添加した場合において、微粒子を被加工物表面上で効果的に転動させることができ、それにより表面粗さの除去能率を向上させることができる。なお、第1実施例の各ノズル12においても、このような肉厚の調整を行うことにより第2実施例と同様の効果を得ることができる。
【0063】
図14に、多数の孔を有するシャワーヘッド463を内側管461の先端に設けたノズル46を縦断面図で示す。
例えばノズル41等では、外側管からエッチング液を吸引する力が強すぎると、内側管の内部まで吸引力が及び、それにより内側管から放出されるエッチング液の一部が被加工物1の表面に到達することなく外側管に吸引される恐れがある。それに対してノズル46では、シャワーヘッド463を設けることにより、外側管462が内側管461の内部にまで与える吸引力は十分に抑えることができるため、エッチング液を被加工物1の表面に確実に供給することができる。このようなシャワーヘッドを有するノズルは、ノズル42のように複数束ねることもできる。また、第1実施例のノズル12にも同様にシャワーヘッドを設けることができる。
【0064】
図15を用いて、ノズルの移動操作の例を説明する。(a)はノズル43を被加工物1に対して1次元的(1方向)に移動させる例を示したものであり、この移動操作は前述のように予備的エッチングを行う際に用いることができる。(b)〜(d)はノズル41を被加工物1に対して2次元的に走査する例を示したものである。(b)ではノズル41を被加工領域の端部まで直線状に移動させ、その走査の痕に接して平行に移動させることを繰り返すことにより、被加工領域の全体を走査する。(c)では、任意の位置にノズル41を移動させることにより、加工すべき部分のみをエッチングする。(d)では、被加工物1を回転させながらノズルを徐々に径方向に移動させることにより、被加工領域の全体を走査する。
(a)に示した操作により大まかに被加工物表面を加工した後で、この表面に残った凹凸を(b)〜(d)に示した操作により除去するという、2段階の操作をすることもできる。また、同一の加工領域に対して、(a)に示した移動操作をそれぞれ異なる移動方向で行うことにより、凹凸を小さくすることができる。
【0065】
被加工物を凸面状や凹面状等、平面以外の形状に加工する場合には、図16に示すように、ノズル41がエッチング液を噴出させる方向と被加工物1’の表面が略直交するように、ノズル41又は被加工物1’を傾斜させる。
本発明の加工方法によれば、非球面レンズや非球面反射鏡等の複雑な曲面形状を加工することも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…被加工物
10、10’、20…表面加工装置
11、11a、11b…ノズル集合体
111…外周管
112…隙間
12、12a、12b、21、41〜46…ノズル(供給手段)
121、211、41a、44a、45a、461…外側管
122、212、41b、44b、45b、462…内側管
131…ヒータ
132…温度センサ
14…制御部
15…エッチング液循環装置
151…送出管
152…回収管
153…貯留タンク
154…送液ポンプ
155…流量調節バルブ
156…流量計
157…吸引ポンプ
158…温度コントローラ
16…シャッター
22…移動制御部
30…リンス装置
31…リンス液ノズル
32…リンス液タンク
33…リンス液供給ポンプ
34…吸引用ノズル
35…濃度コントローラ
36…被加工物温度コントローラ
42a…単体ノズル
463…シャワーヘッド
51…加工痕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の表面が目的のプロファイルになるように該表面をエッチングする表面加工方法であって、
a) 前記表面の加工前のプロファイルを測定し、
b) 液体から成るエッチング剤を前記表面に向けて所定の流量で供給する供給手段を、該表面上の各点において前記目的プロファイルと前記加工前プロファイルの差から求めた加工深さにより定まる速度で、該表面に沿って移動させることにより、該表面をエッチングし、
c) 前記流量のエッチング剤を除去可能な量以上の吸引量で、前記表面付近の液体及び該液体が気化した気体を吸引除去する、
ことを特徴とする表面加工方法。
【請求項2】
被加工物の表面が目的のプロファイルになるように該表面をエッチングする表面加工方法であって、
a) 前記表面の加工前のプロファイルを測定し、
b) 気体から成るエッチング剤を前記表面に向けて所定の流量で供給する供給手段を、該表面上の各点において前記目的プロファイルと前記加工前プロファイルの差から求めた加工深さにより定まる速度で、該表面に沿って移動させることにより、該表面をエッチングし、
c) 前記流量のエッチング剤を除去可能な量以上の吸引量で、前記表面付近の気体を吸引除去する、
ことを特徴とする表面加工方法。
【請求項3】
内側管と外側管から成る前記供給手段を用いて、内側管から前記エッチング剤の供給を行い、外側管から前記吸引除去を行うことを特徴とする請求項==又は2に記載の表面加工方法。
【請求項4】
被加工物の表面上の各点における供給手段の移動速度を表す移動速度関数の逆数と、静止した供給手段から前記所定の流量で単位時間だけ被加工物をエッチングした時のエッチング形状を表す単位加工痕関数の畳み込み積分が、被加工物の表面上の各点におけるエッチングすべき深さを表す関数と一致するように該滞在時間分布関数を求めることにより、前記移動速度を定めることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面加工方法。
【請求項5】
前記エッチング剤及び前記被加工物のいずれか又は両方の温度が所定の範囲内になるように温度制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面加工方法。
【請求項6】
板状の被加工物を立設した状態で前記エッチング工程を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表面加工方法。
【請求項7】
前記被加工物がSiO2を材料として含むものであり、前記エッチング剤がフッ化水素酸又はフッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合溶液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の表面加工方法。
【請求項8】
前記被加工物がSiを材料として含むものであり、前記エッチング剤がフッ化水素酸と硝酸の混合溶液、フッ化水素酸と硝酸と酢酸の混合溶液又は水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の表面加工方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の表面加工方法を用いて表面仕上げを行うことを特徴とする機能性ガラス材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の表面加工方法を用いて表面仕上げを行うことを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の表面加工方法を用いて表面仕上げを行うことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の表面加工方法を用いて振動体の厚さを均一化する工程を有することを特徴とする水晶振動子の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載の表面加工方法を用いて振動体の厚さを均一化する工程を有することを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項14】
被加工物の表面が目的のプロファイルになるように該表面をエッチングする表面加工装置であって、
a) 前記被加工物表面に向けて所定の流量で液体から成るエッチング剤を供給する供給手段と、
b) 前記供給手段を、被加工物表面上の各点において前記目的プロファイルと予め測定された加工前の前記被加工物の表面のプロファイルの差から求めた加工深さにより定まる速度で、該表面に沿って移動させる移動制御手段と、
c) 前記流量のエッチング剤を除去可能な量以上の吸引量で、前記表面付近の液体及び該液体が気化した気体を吸引除去する吸引装置と、
を備えることを特徴とする表面加工装置。
【請求項15】
被加工物の表面が目的のプロファイルになるように該表面をエッチングする表面加工装置であって、
a) 前記被加工物表面に向けて所定の流量で気体から成るエッチング剤を供給する供給手段と、
b) 前記供給手段を、被加工物表面上の各点において前記目的プロファイルと予め測定された加工前の前記被加工物の表面のプロファイルの差から求めた加工深さにより定まる速度で、該表面に沿って移動させる移動制御手段と、
c) 前記流量のエッチング剤を除去可能な量以上の吸引量で、前記表面付近の気体を吸引除去する吸引装置と、
を備えることを特徴とする表面加工装置。
【請求項16】
前記供給手段が、前記エッチング剤の供給を行うための内側管と、前記吸引除去を行うための外側管から成ることを特徴とする請求項14又は15に記載の表面加工装置。
【請求項17】
エッチング剤及び前記被加工物のいずれか又は両方の温度が所定の範囲内になるように温度制御する温度制御手段を有することを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の表面加工装置。
【請求項18】
前記供給手段から供給されるエッチング剤の流れの向き及び前記被加工物の向きのいずれか一方又は両方を変化させる手段を備えることを特徴とする請求項14〜17のいずれかに記載の表面加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−64968(P2012−64968A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259902(P2011−259902)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【分割の表示】特願2006−14564(P2006−14564)の分割
【原出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(899000046)関西ティー・エル・オー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】