説明

被固定部材の据付け面への締結固定構造

【課題】簡単な操作でアンカボルトに対する部材の孔位置のずれを吸収(更には解消)することができ、しかも部材を据付け面に強固に固定することができる被固定部材の据付け面への締結固定構造を得る。
【解決手段】基礎又は土間コンクリートリ38からは埋め込みアンカボルト38が立設されている。床大梁18である分割梁34には梁カット部32が形成されており、その先端部の下フランジ34Cには過大逃げ孔40が形成されている。この過大逃げ孔40には、補助金具42の凸部42Bが回転可能に嵌合されている。また、補助金具42の基部42Aには埋め込みアンカボルト38が挿通される長孔44が形成されている。長孔44に埋め込みアンカボルト38が挿通された状態でナットが螺合されることにより、分割梁34の先端部が据付け面に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被固定部材の据付け面への締結固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、什器類の床面への据付け位置を調整できるようにした技術が開示されている。簡単に説明すると、この先行技術では、事務室や店舗などに設置される戸棚や作業台等の什器類を床面に据付け固定する際に、側面視でクランク状に屈曲された固定保持板と、円板状の安定板及びその軸芯部に立設されたシャフトから成る安定部材と、を使うようになっている。
【0003】
安定部材のシャフトの外周面には雄ねじが形成されており、什器の下面に予め形成されたねじ孔に螺合されるようになっている。一方、固定保持板の低位部には長孔が形成されており、この長孔内へアンカボルトを通して床面に形成されたボルト挿通孔に螺入させると、固定保持板が床面に固定される。さらに、固定保持板の高位部には平面視でU字状の切欠が形成されており、この切欠内に什器の下部に予め取り付けられた安定部材のシャフトを嵌入させることにより、両者が接続されるようになっている。
【0004】
上記構成によれば、耐震性を考慮して、什器据付け後に什器の床面に対する水平位置や高さを微調整したいと思った場合、安定部材の円板状の安定板を回転させることにより、シャフトのねじ孔への螺入量が変わるので、高さ調整ができる。また、アンカボルトを緩めて固定保持板の低位部の長孔内でアンカボルトの相対位置を変更することにより、水平位置を変更することができる、というものである。
【特許文献1】特開平9−201245号公報
【特許文献2】特開平11−229396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術による場合、什器の下面のねじ孔に螺合された安定部材のシャフトが、床面のボルト挿通孔に螺入されたアンカボルトに対して当初予定よりずれていた場合、固定保持板を回転及びスライドさせることにより、そのずれを吸収することができるが、構造が複雑であり、操作も煩雑である。
【0006】
また、安定部材のシャフトが固定保持部材の切欠に嵌入されることで安定部材と固定保持部材とが接続される構成であること、及び什器の床面への固定点が什器からオフセットしていることから、什器を床面に強固に固定することが難しく、什器に捩れ等の負荷がかかりやすい。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、簡単な操作でアンカボルトに対する部材の孔位置のずれを吸収(更には解消)することができ、しかも部材を据付け面に強固に固定することができる被固定部材の据付け面への締結固定構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造は、据付け面から立設された埋め込みアンカボルトと、この埋め込みアンカボルトが挿通されると共に開口面積が埋め込みアンカボルトの軸直角方向の断面積よりも大きい過大孔が形成された板状の固定部を備えた被固定部材と、平面形状が前記過大孔よりも大きく形成されると共に固定部に当接状態で配置され、更に埋め込みアンカボルトの貫通端部が挿通可能とされかつ当該貫通端部との相対的な位置を変更可能とする長孔が形成された締結補助部材と、埋め込みアンカボルトに被固定部材の過大孔及び締結補助部材の長孔を挿通させた状態で埋め込みアンカボルトの貫通端部に螺合されることにより、据付け面と締結補助部材との間に固定部を締結固定するナットと、を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造において、前記過大孔は円孔とされ、かつ前記締結補助部材には当該過大孔に回転可能に嵌合される凸部が形成されている、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造において、前記長孔は、前記凸部の回転中心を通り、かつ平面視で前記過大孔の外周近傍に至るように形成されている、ことを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造において、前記長孔は、始端と終端とがいずれも過大孔の外周上の離間した位置又はその近傍にある円弧状に形成されている、ことを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造において、前記締結補助部材の表面には、締結補助部材の回転調整時の操作を補助する突起状の操作部が設けられている、ことを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造において、前記被固定部材は、ユニット建物を構成する建物ユニットの構造材である、ことを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明は、請求項6記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造において、前記構造材は、一階部分に配置される建物ユニットの床梁でかつ長手方向の途中部位で切断して除去した梁カット部が設けられる床梁であり、かつ前記固定部は、当該床梁の下フランジである、ことを特徴とする。
【0015】
請求項1記載の本発明によれば、被固定部材の固定部に形成された過大孔は、据付け面から立設された埋め込みアンカボルトの軸直角方向の断面積よりも大きな孔とされているので、被固定部材の埋め込みアンカボルトに対する固定位置が正規位置からずれたとしても過大孔の範囲内であれば、埋め込みアンカボルトに過大孔を貫通させることができる。
【0016】
上記過大孔には、被固定部材の固定部に当接状態で配置されると共に平面形状が過大孔よりも大きく形成された締結補助部材が重ねられる。このとき、埋め込みアンカボルトに締結補助部材の長孔を貫通させる。これにより、埋め込みアンカボルトに対する被固定部材の位置ずれが吸収されたことになる。その後、被固定部材の過大孔及び締結補助部材の長孔を挿通させた状態で、埋め込みアンカボルトの貫通端部にナットを螺合させることにより、据付け面と締結補助部材との間に被固定部材の固定部を締結固定することができる。
【0017】
このように本発明では、長孔が形成された締結補助部材を使うだけで埋め込みアンカボルトと被取付部材の孔位置とのずれを吸収(更には解消)することができる。しかも、埋め込みアンカボルトとナットとによる締結力が締結補助部材を介して被固定部材の固定部にダイレクトに作用するので、固定部を強固に据付け面に固定することができる。
【0018】
請求項2記載の本発明によれば、過大孔は円孔とされており、かつ締結補助部材に形成された凸部が過大孔に回転可能に嵌合されるので、締結補助部材を回転させるだけで埋め込みアンカボルトと被固定部材の孔位置とのずれを吸収(更には解消)することができる。
【0019】
請求項3記載の本発明によれば、長孔は凸部の回転中心を通り、かつ平面視で過大孔の外周近傍に至るように形成されているので、締結補助部材を回転させることにより、埋め込みアンカボルトと孔位置とのずれを吸収(更には解消)できる位置を確実に探せる。
【0020】
請求項4記載の本発明によれば、長孔の始端と終端のいずれもが過大孔の外周上の離間した位置又はその近傍にある円弧状に形成されているため、締結補助部材を回転させることにより、長孔にガイドされながら被固定部材を埋め込みアンカボルトに対して相対移動させることができる。
【0021】
請求項5記載の本発明によれば、締結補助部材の回転調整をする際に、突起状の操作部に指をあてて回転させることができる。このため、締結補助部材を使った位置調整作業が容易になる。
【0022】
請求項6記載の本発明によれば、被固定部材がユニット建物を構成する建物ユニットの構造材とされているので、据付け面に先埋めされたアンカボルトと構造材との締結固定時にアンカボルトと孔位置とがずれていても、迅速に締結固定作業を行うことができる。
【0023】
請求項7記載の本発明によれば、一階部分に配置される建物ユニットの床梁でかつ長手方向の途中部位で切断して除去した梁カット部が設けられた床梁に対して本発明が適用される。
【0024】
従来、梁カット部が設けられた床梁をアンカ固定する際には、床梁の梁芯に対してオフセットした位置にドリルで孔をあけ、オールアンカ又はケミカルアンカを設置し、これと床梁とを複数の連結ブラケットで連結する手法を採っていたが、複数の連結ブラケットを用いると、床梁をアンカボルトにダイレクトに締結固定できない分、強固な固定ができず、又梁に捩れが生じ易い等の不利があったが、本発明によれば、床梁を埋め込みアンカボルトにダイレクトに締結固定することができるため、床梁を据付け面に強固に固定できると共に床梁に捩れが生じ難くなる。
【0025】
さらに、適用対象となる床梁が例えば土間等の床梁であった場合には、アンカボルトが土間タイル部に埋められた後に、居住者の歩行振動等により負荷がかかった際にモルタルやタイルにひび割れが生じ易いが、本発明によれば、床梁の下フランジに締結補助部材が設定されるので、居住者の歩行振動等の負荷が土間タイル部に加わっても、モルタルやタイルにひび割れが生じ難くなる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造は、簡単な操作でアンカボルトに対する部材の孔位置のずれを吸収(更には解消)することができ、しかも部材を据付け面に強固に固定することができるという優れた効果を有する。
【0027】
請求項2記載の本発明に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造は、作業性を向上させることができ、作業時間の短縮化を図ることができるという優れた効果を有する。
【0028】
請求項3記載の本発明に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造は、作業性をより向上させることができ、作業時間の更なる短縮化を図ることができるという優れた効果を有する。
【0029】
請求項4記載の本発明に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造は、被固定部材を埋め込みアンカボルトに対して相対移動させることにより、埋め込みアンカボルトと孔位置とのずれを解消することができるという優れた効果を有する。
【0030】
請求項5記載の本発明に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造は、作業性をより一層向上させることができ、作業時間をより一層短縮させることができるという優れた効果を有する。
【0031】
請求項6記載の本発明に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造は、建物ユニットの構造材の埋め込みアンカボルトへの締結固定作業を迅速に行うことができるという優れた効果を有する。
【0032】
請求項7記載の本発明に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造は、建物ユニットの床梁の据付け面への締結固定状態を強固にすることができると共に床梁に対する捩れ等の負荷を軽減することができ、更に土間等に適用された場合にはモルタルやタイルにひび割れが生じるのを抑制又は解消することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
〔第1実施形態〕
【0034】
以下、図1〜図7を用いて、本発明に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造の実施形態について説明する。
【0035】
図4には、ユニット建物としてのユニット住宅10の一階部分を構成する建物ユニット12の一部概略斜視図が示されている。この図に示されるように、この建物ユニット12は箱型ユニットとされており、四隅に立設された柱14と、柱14の下端部同士を繋ぎ床フレーム16を形成する長短二種類の床大梁18、20と、柱14の上端部同士を繋ぎ天井フレーム22を形成する長短二種類の天井大梁24、26と、を躯体フレームとして備えている。
【0036】
各柱14の下端部には、先付けアンカボルト28が鉛直下向きに突出されており、この先付けアンカボルト28が図示しない基礎に形成されたアンカホールに挿入され、グラウト材が注入されて基礎に固定されるようになっている。
【0037】
上述した建物ユニット12は、玄関土間部30を形成するべく、一方の長辺側の床大梁18における長手方向の途中部位に梁カット部32が形成されている。この梁カット部32が形成されたことにより、当該一方の長辺側の床大梁18は二分割されている。以下、この分割された部分を「分割梁34」と称す。
【0038】
図1及び図2に示されるように、被固定部材としての各分割梁34は溝形鋼とされており、屋外側に配置されたウェブ34Aと、上下一対の上フランジ34B及び固定部としての下フランジ34Cと、によって構成されている。分割梁34の自由端側(柱14に接合される側と反対側)の下フランジ34Cは、基礎又は土間コンクリート36に先埋めされた埋め込みアンカボルト38に締結固定されており、以下に詳細に説明する。なお、いずれの分割梁34の自由端側の固定構造も同様であるから、図4のA線矢視部側の分割梁34の自由端側の固定構造について説明することとする。
【0039】
図2に示されるように、分割梁34の自由端側の下フランジ34Cには、埋め込みアンカボルト38の外径に対して充分に大径(埋め込みボルト38の外径の4〜5倍程度)とされた過大孔としての過大逃げ孔40が形成されている。なお、過大逃げ孔40は円孔である。換言すれば、過大逃げ孔40の開口面積は、埋め込みアンカボルト38の軸直角方向の断面積よりも充分に大きく設定されている。
【0040】
図1〜図3に示されるように、上記過大逃げ孔40には、下フランジ34Cの上方側から締結補助部材としての補助金具42が装着されている。補助金具42は、過大逃げ孔40の内径よりも大径とされた円板状の基部42Aと、この基部42Aの下面側に一体に形成されると共に過大逃げ孔40に嵌合される円板状の凸部42Bと、によって構成されている。凸部42Bの厚さは、下フランジ34Cの板厚(過大逃げ孔40の軸方向寸法)以下に設定されている。また、基部42Aの外径は、凸部42Bを過大逃げ孔40に嵌合させた場合に基部42Aの外周がウェブ34Aと干渉しない程度(過大逃げ孔40の内径よりも15〜20mm大きい程度)に設定されている。
【0041】
また、上記補助金具42には、基部42A及び凸部42Bを貫通するストレートタイプの長孔44が形成されている。長孔44の始端部は基部42Aの軸芯部に一致しており、又長孔44の終端部は凸部42Bの外周近傍に設定されている。すなわち、長孔44は補助金具42の半径上(半径方向)に形成されている。また、長孔44の孔幅は、埋め込みアンカボルト38の軸径よりも僅かに大きく設定されている。
【0042】
上記補助金具42の長孔44内に埋め込みアンカボルト38が挿通されてナット48(図2参照)が螺合されることにより、分割梁34の下フランジ34Cが補助金具42と基礎又は土間コンクリート36との間に挟みこまれた状態で締結固定される構成である。
【0043】
(作用・効果)
【0044】
以下、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0045】
建物ユニット12の柱14の下端部から突出された先付けアンカボルト28は、従来通り、基礎に形成されたアンカホールに挿入される。そして、アンカホール内にグラウト材が注入され、硬化されることにより、柱14の下端部が基礎に固定される。
【0046】
先付けアンカボルト28の固定作業が終了したら、分割梁34の自由端側の固定作業が行われる。分割梁34の自由端側と緊結される埋め込みアンカボルト38は、基礎又は土間コンクリート36に先埋めされており、その位置を変えることはできない。一方、分割梁34の自由端側の下フランジ34Cに本来形成される筈のボルト挿通孔は、建物ユニット12の据付け時の組付誤差や建物ユニット12の組立誤差等の集積により、埋め込みアンカボルト38の位置からずれていることが多い。
【0047】
しかし、本実施形態の場合、分割梁34の自由端側の下フランジ34Cに埋め込みアンカボルト38の外径よりも充分に大径とされた過大逃げ孔40を形成したので、埋め込みアンカボルト38に対して本来形成される筈のボルト挿通孔の孔位置がずれていたとしても、埋め込みアンカボルト38を過大逃げ孔40内に挿通させることができる。
【0048】
そこで、先ず下フランジ34Cの過大逃げ孔40を埋め込みアンカボルト38に被せる(挿通させる)。この際、補助金具42の長孔44内に埋め込みアンカボルト38を挿通させながら、凸部42Bを過大逃げ孔40内へ嵌合させる。
【0049】
このように本実施形態では、長孔44が形成された補助金具42を使うだけで埋め込みアンカボルト38と分割梁34の自由端側の本来形成される筈のボルト挿通孔の孔位置とのずれを吸収することができる。しかも、埋め込みアンカボルト38とナット48とによる締結力が補助金具42を介して分割梁34の下フランジ34Cにダイレクトに作用するので、下フランジ34Cを基礎又は土間コンクリートリ36の上面に強固に固定することができる。その結果、本実施形態によれば、簡単な操作で埋め込みアンカボルト38に対する分割梁34の下フランジ34Cの孔位置のずれを吸収することができ、しかも下フランジ34Cを土間コンクリートリ36に立設された埋め込みアンカボルト38に強固に固定することができる。
【0050】
また、本実施形態では、過大逃げ孔40が円孔とされており、かつ補助金具42に形成された凸部42Bが過大逃げ孔40に回転可能に嵌合されるので、補助金具42の過大逃げ孔40への装着位置を周方向に相対的に回転させるだけで埋め込みアンカボルト38と分割梁34の下フランジ34Cの孔位置とのずれを吸収することができる(締結可能な位置を探すことができる)。その結果、本実施形態によれば、作業性を向上させることができ、作業時間の短縮化を図ることができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、長孔44が凸部42Bの回転中心を通り、かつ平面視で過大逃げ孔40の外周上の所定位置近傍に至るように形成されているので、図5に示されるように、補助金具42を相対的に回転させることにより、埋め込みアンカボルト38と孔位置とのずれを吸収できる位置を確実に探せる。その結果、本実施形態によれば、作業性をより向上させることができ、作業時間の更なる短縮化を図ることができる。
【0052】
また、本実施形態では、ユニット住宅10を構成する建物ユニット12の分割梁34の固定に本構造を用いたので、分割梁34に本来形成される筈のボルト挿通孔の形成位置が埋め込みアンカボルト38からずれていたとしても、迅速に分割梁34の締結固定作業を行うことができる。
【0053】
ここで、図6及び図7に示されるように、従来、梁カット部50が設けられた床大梁52をアンカ固定する際には、床大梁52の梁芯に対してオフセットした位置にドリルで孔54をあけ、オールアンカ(又はケミカルアンカ)56を設置し、これと床大梁52とを二種類の連結ブラケット58、59で連結する手法を採っていたが、連結ブラケット58、59を用いると、床大梁52をオールアンカ(又はケミカルアンカ)56にダイレクトに締結固定できない分、強固な固定ができず、又床大梁52に捩れが生じ易い等の不利があったが、本実施形態によれば、床梁18の分割梁34を埋め込みアンカボルト38にダイレクトに締結固定することができるため、分割梁34を据付け面に強固に固定できると共に床大梁52に捩れが生じ難くなる。
【0054】
さらに、適用対象となる床大梁52が例えば土間等の床大梁52であった場合には、アンカボルトが土間タイル部60に埋められた後に、居住者の歩行振動等により負荷がかかった際にモルタルやタイルにひび割れが生じ易いが、本実施形態によれば、分割梁34の下フランジ34Cに補助金具42が設定されるので、居住者の歩行振動等の負荷が加わっても、モルタルやタイルにひび割れが生じ難くなる。すなわち、本実施形態によれば、建物ユニット12の分割梁34の据付け面への締結固定状態を強固にすることができると共に分割梁34に対する捩れ等の負荷を軽減することができ、更に土間等に適用された場合にはモルタルやタイルにひび割れが生じるのを抑制又は解消することができる。
【0055】
〔第2実施形態〕
【0056】
以下、図8を用いて、本発明に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0057】
図8(A)に示されるように、この第2実施形態では、前述した分割梁34の下フランジ34Cに形成された過大逃げ孔40の周縁部に、所定間隔で鉤状(側面視で見た場合、上下逆向きのL字状)の止め具46が立設されている。これらの止め具46は、一例として過大逃げ孔40を形成する際に切り起こしにより形成することができる。また、止め具46は埋め込みアンカボルト38にナット48を螺合させるまでの間に補助金具42の凸部42Bが過大逃げ孔40から離脱するのを防止するための外れ止めとして機能し、そのため、凸部42Bが過大逃げ孔40に嵌合された状態が維持される限り、180度間隔で二箇所に設けるだけでもよいし、90度間隔で四箇所に設けてもよい。
【0058】
上記止め具46に対応して、補助金具42の基部42Aの外周部には、所定の間隔(本実施形態では、120度間隔)で、平面視で矩形状の切欠66が形成されている。この切欠66は、上記止め具46が上下方向に挿通可能な大きさに設定されている。
【0059】
(作用・効果)
【0060】
上記構成によれば、補助金具42を分割梁34の下フランジ34Cの過大逃げ孔40に装着させる際には、長孔44内に埋め込みアンカボルト38を挿通させてから、各切欠66を各止め具46に対応させ、基部42Aを上方から被せるように装着させる。そして、図8(B)に示されるように、凸部42Bを過大逃げ孔40内へ嵌合させた状態で補助金具42を回転させれば、止め具46に基部42Aの外周部が係合される。
【0061】
上記構成によっても、前述した第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。加えて、埋め込みアンカボルト38にナット48を螺合させるまでの間に、補助金具42の凸部42Bが過大逃げ孔40から離脱するのを防止することができる。
【0062】
なお、上記構成では、切欠66の切欠幅が止め具46の幅より若干広い程度に設定されていたが、長孔44内へ埋め込みアンカボルト38を挿通させた状態で三箇所の切欠66を三箇所の止め具46に挿通させる際の作業性を考慮すると、切欠66の切欠幅は止め具46の幅よりもある程度広めに設定する方が有利である。但し、切欠66の切欠幅をあまり広く設定すると、止め具46との掛かり代として利用できる基部42Aの外周部の範囲が減るので、利便性と係合代確保とのバランスを考慮して決めるのがよい。
【0063】
〔第3実施形態〕
【0064】
以下、図9及び図10を用いて、本発明に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造の第3実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態等と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0065】
図9及び図10に示されるように、この第3実施形態では、補助金具42にストレートタイプの長孔44に替えて湾曲した形状の長孔70を形成した点に特徴がある。長孔70は、補助金具42の中心を通り、両端部(始端部である一端部70A及び終端部である他端部70B)が凸部42Bの外周の内側近傍に至る円弧形状とされている。
【0066】
また、補助金具42の基部42Aには、長孔70を挟んだ両側に切り起こしによる操作部としての一対の突起72が形成されている。なお、一対の突起72を切り起こしで形成する場合には、基部42Aと凸部42Bとは別体で構成され、突起72形成後に基部42Aと凸部42Bとが一体化される。
【0067】
(作用・効果)
【0068】
上記構成によっても、前述した第1実施形態と同様に、埋め込みアンカボルト38が補助金具42の中心からずれていたとしても、長孔70内に埋め込みアンカボルト38を挿通させることにより、締結が可能となる。
【0069】
加えて、本実施形態によれば、長孔70が湾曲した形状に形成されているので、分割梁34の埋め込みアンカボルト38への締結位置を図10において左右方向に変位させて微調整(位置ずれを解消)することができる。
【0070】
例えば、図10(A)に示されるように、埋め込みアンカボルト38が分割梁34に対して図上左側(一端部70A側)にずれていたとすると、補助金具42の一対の突起72に指を当てて補助金具42を時計方向(図10(A)の矢印P1方向)へ回転させる。そうすると、埋め込みアンカボルト38が長孔70の内周面にガイドされて長孔70内を相対的に他端部70B側へ移動して、分割梁34は図上左側(図10(A)の矢印Q1方向)へ変位される。
【0071】
一方、図10(B)に示されるように、埋め込みアンカボルト38が分割梁34に対して図上右側(他端部70B側)にずれていたとすると、補助金具42の一対の突起72に指を当てて補助金具42を反時計方向(図10(B)の矢印P2方向)へ回転させる。そうすると、埋め込みアンカボルト38が長孔70の内周面にガイドされて長孔70内を相対的に一端部70A側へ移動して、分割梁34は図上右側(図10(B)の矢印Q2方向)へ変位される。
【0072】
なお、指の力では分割梁34を変位させることができないときは、突起72の形成時に形成される開口部を利用してバール等の治具を使って回転させればよい。
【0073】
このように本実施形態によれば、埋め込みアンカボルト38と分割梁34との締結位置のずれを減少させ又は解消することができる。なお、この第3実施形態において、図10(A)、(B)の図示位置のまま埋め込みボルト38にナット48を螺合させて固定させてもよい。この場合には、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、位置ずれを吸収した態様として補助金具42を用いたことになる。
【0074】
また、本実施形態では、補助金具42に一対の突起72を形成したので、当該突起72に指をあてて補助金具42を回転させることができる。このため、補助金具42を使った位置調整作業が容易になる。従って、作業性をより一層向上させることができ、作業時間をより一層短縮させることができる。
【0075】
〔実施形態の補足説明〕
【0076】
(1)上述した実施形態では、玄関土間部30を設ける建物ユニット12において梁カット部32を形成する床大梁18(分割梁34)を埋め込みアンカボルト38に固定する場合を例にして説明したが、本発明の適用対象はこれに限らず、梁カット部が形成されていない通常の梁の長手方向のいずれかの箇所に埋め込みアンカボルトが設定されていて、当該埋め込みアンカボルトに梁を固定する場合にも適用可能である。例えば、特定の建物ユニットにおいて、床大梁のみで矩形枠状の床フレームが構成され、床小梁が一部しか或いは全く設けられていないような構成を採る場合には、床大梁の支持強度を上げるために柱下の先付けアンカボルトによる緊結に加えて、埋め込みアンカボルトを設定して床大梁を固定することで、建物ユニットの支持強度を上げることができる。
【0077】
(2)上述した実施形態では、ユニット建物10に対して本発明を適用したが、これに限らず、ユニット工法以外の工法によって構築される建物に対して本発明を適用してもよい。さらに、建物の構造材とは全く異なる用途に供される被固定部材を、据付け面から立設されたアンカボルトに固定する際に本発明を適用してもよい。
【0078】
(3)上述した第3実施形態では、操作用の一対の突起72が形成されていたが、必ずしも突起72は必要ではなく、省略しても差し支えない。
【0079】
(4)上述した第1実施形態及び第2実施形態では、ストレートタイプの長孔44を用い、第3実施形態では、湾曲タイプの長孔70を用いたが、長孔の形状はこれらに限られることなく、種々の形状を採用可能である。
【0080】
(5)上述した実施形態では、補助金具42の基部42Aに凸部42Bが一体形成されていたが、これに限らず、凸部42Bを基部42Aと別部品にして両者を一体化してもよい。また、凸部は必ずしも中実である必要はなく、環状に形成されていてもよい。さらに、請求項1記載の本発明には、凸部が存在しないものも含まれる。この場合には、例えば、第2実施形態で説明した止め具46のような外れ防止手段を設定するのが好ましい。
【0081】
(6)上述した実施形態では、過大逃げ孔40に嵌合される凸部42Bを回転自在となるように平面視で円形に形成したが、必ずしも平面視で円形である必要はなく、平面視で円周を波形にしたものや円周上の所定角度ごとに半径方向外側に突出する突起が形成された形状でもよい。これらの場合でも、過大逃げ孔40の形状を円形から対応する波形円形状や略歯車形状にして、所定ピッチごとの嵌合を可能とした構成にすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1実施形態に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造の要部を拡大して示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造の要部を拡大して示す縦断面図(図4の2−2線断面図)である。
【図3】(A)は補助金具の平面図であり、(B)はその側面図であり、(C)は(A)のC−C線断面図である。
【図4】梁カット部を備えた建物ユニットの一部概略斜視図である。
【図5】第1実施形態に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造の作用効果を説明するための補助金具の平面図である。
【図6】対比例に係る梁固定構造を示す斜視図である。
【図7】図6に示される対比例に係る梁固定構造を示す縦断面図である。
【図8】第2実施形態に係る被固定部材の据付け面への締結固定構造の要部を拡大して示す平面図である。
【図9】第3実施形態に係り、(A)は補助金具の平面図であり、(B)はその側面図であり、(C)は(A)のC−C線断面図である。
【図10】図9に示される補助金具の使い方を示す説明図であり、(A)は梁芯に対して埋め込みアンカボルトが左側にずれていた場合を示す平面図、(B)は梁芯に対して埋め込みアンカボルトが右側にずれていた場合を示す平面図である。
【符号の説明】
【0083】
10 ユニット住宅(ユニット建物)
12 建物ユニット
18 床大梁(床梁、被固定部材、構造材)
32 梁カット部
34 分割梁(被固定部材、構造材)
34C 下フランジ(固定部)
36 基礎又は土間コンクリート(据付け面)
38 埋め込みアンカボルト
40 過大逃げ孔(過大孔)
42 補助金具(締結補助部材)
42B 凸部
44 長孔
48 ナット
70 長孔
70A 一端部
70B 他端部
72 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
据付け面から立設された埋め込みアンカボルトと、
この埋め込みアンカボルトが挿通されると共に開口面積が埋め込みアンカボルトの軸直角方向の断面積よりも大きい過大孔が形成された板状の固定部を備えた被固定部材と、
平面形状が前記過大孔よりも大きく形成されると共に固定部に当接状態で配置され、更に埋め込みアンカボルトの貫通端部が挿通可能とされかつ当該貫通端部との相対的な位置を変更可能とする長孔が形成された締結補助部材と、
埋め込みアンカボルトに被固定部材の過大孔及び締結補助部材の長孔を挿通させた状態で埋め込みアンカボルトの貫通端部に螺合されることにより、据付け面と締結補助部材との間に固定部を締結固定するナットと、
を有することを特徴とする被固定部材の据付け面への締結固定構造。
【請求項2】
前記過大孔は円孔とされ、かつ前記締結補助部材には当該過大孔に回転可能に嵌合される凸部が形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造。
【請求項3】
前記長孔は、前記凸部の回転中心を通り、かつ平面視で前記過大孔の外周近傍に至るように形成されている、
ことを特徴とする請求項2記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造。
【請求項4】
前記長孔は、始端と終端とがいずれも過大孔の外周上の離間した位置又はその近傍にある円弧状に形成されている、
ことを特徴とする請求項3記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造。
【請求項5】
前記締結補助部材の表面には、締結補助部材の回転調整時の操作を補助する突起状の操作部が設けられている、
ことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造。
【請求項6】
前記被固定部材は、ユニット建物を構成する建物ユニットの構造材である、
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造。
【請求項7】
前記構造材は、一階部分に配置される建物ユニットの床梁でかつ長手方向の途中部位で切断して除去した梁カット部が設けられる床梁であり、
かつ前記固定部は、当該床梁の下フランジである、
ことを特徴とする請求項6記載の被固定部材の据付け面への締結固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−209626(P2009−209626A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55324(P2008−55324)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】