説明

補強コンクリート打設用型枠及びそれに使用されるセパレータ装置、並びにコンクリートの打設方法

【課題】 既存のコンクリート造躯体の断面を増して耐震補強する上で、格別な設備を要さず、コンクリートを横方向に分散させながら、躯体とせき板間に密実に充填する。
【解決手段】 既存のコンクリート造の躯体11の表面との間の間隔を保持した状態で躯体表面を覆うように横方向と高さ方向に組み立てられるせき板2と、せき板2と躯体11との間隔を保持するセパレータ4と、せき板2を外側から保持するフォームタイ5及び端太材6から補強コンクリート打設用型枠1を構成し、高さ方向に配列する複数枚のせき板2を高さ方向に、コンクリートの打設区間の単位となる一つ、もしくは複数の区間に区分し、その打設区間においてコンクリートが上向きに圧入され、そのままコンクリートが下層側から上層側へ向けて充填されるよう、区分された区間毎の最下部位置に横方向に間隔を隔て、コンクリートを圧入するための圧入口3aを有する圧入口付きせき板3を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば既存の橋脚、柱、壁 擁壁等、既存のコンクリート造躯体の表面にコンクリートを増打ちすることにより断面を拡大し、躯体を耐震補強するために使用される補強コンクリート打設用型枠及びそれに使用されるセパレータ装置、並びにコンクリートの打設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既存のコンクリート造躯体の周囲等、表面に鉄筋を配筋し、コンクリートを増打ちすることにより躯体断面を拡大し、躯体を耐震補強する場合、躯体の表面側に型枠(せき板)を組み立て、型枠と躯体表面との間の間隔を保持した状態で型枠内にコンクリートを打設することが行われる(特許文献1、2参照)。
【0003】
コンクリートは通常、一部の型枠に形成した開口に、または型枠の最上部にコンクリート打設用の管を差し込み、コンクリートの自重を利用した落下打設により型枠内に打設されるが、生コンクリートを1.5m程度以上の高さから落下打設した場合には骨材が鉄筋等に衝突し、跳ね返されることにより混練状態が維持されずにコンクリートが分離し、硬化後の強度にばらつきが生ずる可能性がある。
【0004】
これに対し、コンクリートを下から上へ向かって打設する方法によれば、骨材が鉄筋等に跳ね返されることがないため、骨材の衝突に起因するコンクリートの分離とそれによる強度のばらつきを回避することができると考えられる(特許文献2参照)。
【0005】
また高さ方向に組み立てられたせき板に、高さ方向と横方向に間隔を隔ててモルタル注入孔やコンクリート打設用の開口を形成し、下方側のモルタル注入孔や開口からモルタル等を注入する方法によれば、躯体とせき板との間に下方側からモルタルやコンクリートを充填することができると考えられる(特許文献3、4参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−220031号公報(請求項1、2、4、段落0015〜0019、図1)
【特許文献2】特開平9−217319号公報(請求項1、段落0009〜0011、図2、図3)
【特許文献3】特開平10−8735号公報(請求項3、段落0017、0020、0028〜0029、図3、図4)
【特許文献2】特開昭59−42782号公報(公報第2欄第12行〜第3欄第6行、第1図、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2のようにグラウト、もしくはコンクリートを充填すべき区間の全高に亘って型枠を組んだ状態で、その最下部から最上部まで一括してグラウト等を充填する方法によれば、グラウト等の充填に高い圧力を必要とするため、圧入を補うために型枠内の圧力を低減させるための処理が必要になる。その際、圧力低減のための大掛かりな設備を必要とするため、既存の躯体周辺に設備を設置するための場所を確保しなければならず、施工コストも上昇する。
【0008】
また特許文献2のように型枠内の圧力を低減させた状態で、型枠の下方からグラウト等を圧入する方法では型枠の最上部でしか圧力を調整することができないことから、型枠の高さ方向のいずれの区間においても横方向、あるいは周方向に均等に圧力を調整することが難しいと考えられる。このため、グラウト等を横方向に分散させ、均等に充填させること、あるいは全高に亘って一様に充填させることは容易ではないと想像される。
【0009】
特許文献3では硬化材(セメントミルク)が注入孔から圧入されることがなく、型枠内の繊維を押し流すことがないよう、低圧で注入されるため(段落0020、0025、0028、0029)、上向きに圧入すること、すなわち骨材を含むコンクリートを充填することの概念がない。骨材を含むコンクリートを充填するには圧力を与えながら注入(圧入)することが必要であるところ、圧入をしなければ、せき板内に密実に充填する効果が得られるとは限らないため、せき板内に空隙を残す可能性がある。
【0010】
特許文献4はコンクリートの充填口である開口窓を型枠の高さ方向に間隔をおいて配置し、横方向にも間隔をおいて配置しているが(公報第2欄第10行〜第19行、同第34行〜第3欄第3行、第1図)、開口窓が、高さ方向に区分された区間毎の最下部になく、同一レベルで横方向に間隔を隔てて配置されていないことから、コンクリートが上向きに打設(圧入)されることはないため、特許文献3と同様にコンクリートをせき板内に密実に充填する効果が得られるとは限らない。
【0011】
本発明は上記背景より、既存のコンクリート造躯体の断面を増す上で、格別な設備を要することなく、コンクリートを横方向に分散させながら、密実に充填することを可能にする補強コンクリート打設用型枠とそれに使用されるセパレータ装置、並びにコンクリートの打設方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明では既存のコンクリート造の躯体の表面側に補強用のコンクリートを打設するための型枠において、躯体表面との間の間隔を保持した状態で躯体表面を覆うように横方向と高さ方向に組み立てられるせき板と、せき板と躯体との間隔を保持するセパレータと、せき板を外側から保持するフォームタイ及び端太材とを備え、前記高さ方向に配列する複数枚の前記せき板を高さ方向に、コンクリートの打設区間の単位となる一つ、もしくは複数の区間に区分し、その打設区間においてコンクリートが上向きに圧入されるよう、前記区分された区間毎の最下部位置に横方向に間隔を隔て、コンクリートを圧入するための圧入口を有する圧入口付きせき板を配置することにより、格別な設備を必要とせずにコンクリートの密実な充填を可能にする。躯体の表面側には基本的に鉄筋が配筋されるが、躯体の表面側を斫り、鉄筋を露出させてコンクリートを打設するような場合には新たに鉄筋が配筋されないこともある。
【0013】
せき板は図1、図2に示すように躯体の横方向と高さ方向に互いに連結されながら組み立てられ、高さ方向に配列するせき板の内、間隔を隔てた一部のせき板の最下部位置に、コンクリートを圧入するための圧入口付きせき板がせき板に代わって、またはせき板に組み込まれる形で配置される。せき板は一方向、もしくは二方向に整然と配列する上で、同一の高さと幅を持って製作されるが、圧入口付きせき板が配置される部分のせき板は例えば圧入口付きせき板の部分が切り欠かれた形をするか、圧入口付きせき板が一体化した形をする。
【0014】
高さ方向に配列する複数枚のせき板を高さ方向に一つ、もしくは複数の区間に区分し、その打設区間毎の最下部位置に圧入口付きせき板が配置され、圧入口付きせき板からコンクリートが打設されることで、一定の高さの打設区間においてコンクリートを上向きに打設する、すなわちコンクリートを圧入することになるため、下向きに打設する落下打設をする場合のようなコンクリートの分離はなくなるか、低減される。この結果、コンクリートは躯体とせき板間の空隙を埋め尽くすように充填されるため、躯体とせき板間へ密実に充填され、コンクリート強度のばらつきが回避される。
【0015】
また圧入口付きせき板が各打設区間の最下部位置で、横方向に間隔を隔てて配置されることで、躯体の横方向に分散させてコンクリートを打設することができるため、躯体とせき板間に横方向に均等に充填することが可能になる。コンクリートが躯体の周囲を周回して打設される場合には周方向に均等に打設される。
加えてコンクリートが圧入口付きせき板から圧入されることで、躯体とせき板間の圧力を低減させるための格別な設備を必要としないため、設備設置のための場所を確保する必要もなく、設備の付加に伴う施工コストの上昇も生じない。
【0016】
せき板が高さ方向に配列する場合、高さ方向に配列する複数枚のせき板は高さ方向に一つ、もしくは複数の区間に区分され、その区間毎の最下部位置に圧入口付きせき板が配置される。
高さ方向に配列する複数枚のせき板を高さ方向に複数の区間に区分し、その区間毎の最下部位置に圧入口付きせき板を配置することで、一定の高さ毎に下層側から上層側へ向けてコンクリートを充填することが可能になる。この場合、コンクリートは区分された区間(層)単位で高さ方向に密に充填されていくため、区間(層)毎のコンクリートの粗密の差がなくなる。
【0017】
躯体表面とせき板との間の距離が小さい場合のように、コンクリートを圧入することで、打設されたコンクリートが躯体表面に垂直に衝突し、反射したコンクリートがせき板に圧力を及ぼす場合には、コンクリートの打設時にせき板がコンクリートの打設圧力によって変形する可能性がある。また躯体表面に反射したコンクリートが圧入口を塞ぎ、コンクリートの圧入が阻害される可能性もある。
【0018】
これに対し、請求項2では既存のコンクリート造の躯体の表面側に補強用のコンクリートを打設するための型枠において、前記躯体表面との間の間隔を保持した状態で前記躯体表面を覆うように横方向と高さ方向に組み立てられるせき板と、前記せき板と前記躯体との間隔を保持するセパレータと、前記せき板を外側から保持するフォームタイ及び端太材とを備え、前記高さ方向に配列する複数枚の前記せき板が高さ方向に、コンクリートの打設区間の単位となる一つ、もしくは複数の区間に区分され、この区分された打設区間の内、最下部の打設区間の最下部位置に横方向に間隔を隔て、前記せき板の面に対し、平面上、交差する方向にコンクリートを圧入するための圧入口を有する圧入口付きせき板を配置することにより、コンクリートを圧入することに伴うせき板の変形を防止、あるいは抑制する。
【0019】
圧入口がせき板の面に対し、平面上、交差する方向を向くことで、圧入されるコンクリートは躯体表面に反射して圧入口から遠ざかる箇所へ導かれる。この結果、圧入されたコンクリートが躯体表面に垂直に衝突することがなくなり、反射したコンクリートからせき板に作用する圧力が低減されるため、せき板の変形が抑制されるか、防止される。またコンクリートが圧入口から遠ざかる箇所へ導かれることで、反射したコンクリートが圧入口を塞ぐ事態が発生しないため、コンクリートの圧入が阻害される事態が回避される。
【0020】
請求項2の場合、最下部の打設区間より上の打設区間においては、その直下の打設区間でのコンクリートが圧入口の下端のレベルまで圧入(充填)されていれば、圧入口が上向きであっても落下打設されることはないから、圧入口が上向きであるか、水平を向くかは問われないことになる。よって請求項2では最下部の打設区間より上の打設区間の圧入口は請求項1のようにコンクリートが上向きに圧入され、そのままコンクリートが下層側から上層側へ向けて充填されるような向きに調整される場合と、最下部の打設区間と同じく、平面上、交差する方向を向く場合がある。
【0021】
請求項2においても、圧入口付きせき板が各打設区間の最下部位置で、横方向に間隔を隔てて配置されることで、躯体の横方向に分散させてコンクリートを打設することができるため、躯体とせき板間に横方向に均等に充填することが可能になる。コンクリートが躯体の周囲を周回して打設される場合には周方向に均等に打設される。またコンクリートが圧入口付きせき板から圧入されることで、躯体とせき板間の圧力を低減させるための格別な設備を必要としないため、設備設置のための場所を確保する必要もなく、設備の付加に伴う施工コストの上昇も生じない。
【0022】
圧入口の表面側にはコンクリート圧送管等のコンクリート圧入用の管をコンクリートの打設中、保持するために、圧入用の管が接続されるための接続管が固定されることがあるが、請求項3に記載のように圧入口付きせき板の圧入口に、前記せき板の面に対し、平面上、交差する方向を向いて接続管を固定しておけば、コンクリートを圧入口から遠ざかる箇所へ導くコンクリートの圧入作業を確実に行うことが可能になる。
【0023】
またコンクリートを上向きに圧入するために接続管を上向きにして接続する場合、接続管は図6〜図8に示すようにせき板の表面側から背面側(躯体側)へかけて上向きの角度をなした状態で、圧入口の表面に接続されるため、圧入口の下端と地盤面との間には接続管の長さに応じた距離、具体的には数10mm程度の距離が確保されることになる。この結果、接続管が最下部の打設区間の最下部位置にあっても、接続管の長さに応じた距離の分だけ、コンクリートは地盤面に対して落下打設されることになる。
【0024】
そこで、請求項4に記載のように、最下部の打設区間の最下部位置に固定される接続管の軸を水平方向に向ければ、圧入口付きせき板の圧入口の下端を地盤面に極力接近させ、地盤面からのコンクリートの圧入をすることが可能になるため、コンクリートを圧入後に落下打設する事態を完全に防止することが可能になる。具体的には圧入口の下端と地盤面との間の距離を、せき板の周囲に形成される、隣接するせき板と連結されるためのフランジの肉厚に、接続管の肉厚を加えた程度の大きさ、数mm〜10数mmに抑えることが可能になるため、落下打設を回避することが可能になる。
【0025】
型枠を構成する支保工とせき板はコンクリートの硬化後に解体され、フォームタイもコーンと共に回収されるが、セパレータは通常、コンクリート中に埋め殺されるため、型枠を転用する際には新たなセパレータを用意することが必要になる。
【0026】
そこで、請求項5に記載の発明では前記躯体中に埋設されるアンカーと、このアンカーが接続される連結材と、前記せき板のコンクリート側の面に突き当たるコーンと、前記せき板の表面側からそのせき板と前記コーンを貫通し、前記連結材に螺合により着脱自在に連結されるフォームタイと、このフォームタイを包囲し、両端において前記連結材と前記コーンに突き当たる被覆材とを備え、前記フォームタイを前記コーンに螺合させ、セパレータの機能を兼ねさせることにより、フォームタイの回収により従来のセパレータをも回収することを可能にし、セパレータをコンクリート中に埋め殺す場合より仮設部品の使用に要するコストの削減を図る。請求項5に記載の発明は請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の補強コンクリート打設用型枠に使用されるセパレータ装置である。
【0027】
フォームタイはせき板とコーンを貫通して連結材に螺合により連結されるが、コーンにも螺合することで、端太材がクランプとナットによってせき板に固定されるときに圧縮力を負担することにより躯体表面とせき板との間隔を保持するセパレータの機能を持つ。フォームタイがセパレータの機能を持つことで、フォームタイの回収により従来のセパレータに相当する部品も同時に回収されることになる。また型枠の組み立てに当たっては仮設部品としてのセパレータを別途用意する必要がない。
【0028】
被覆材はフォームタイを包囲することによりコンクリートがフォームタイに付着しないよう、フォームタイを被覆し、フォームタイとコンクリートとの縁を切る働きをし、せき板の解体時にフォームタイを回収することを可能にする。せき板とフォームタイ、及びコーンを回収したときには被覆材のせき板側の端面がコンクリートの表面側に露出するため、被覆材も回収して転用することが可能となる。フォームタイと被覆材の回収によりコンクリート中には孔が明く形になるが、この孔は無収縮モルタル等の充填材を充填することにより埋めることができるため、連結材がコンクリート中に埋め殺されることによる発錆の問題は生じない。
【0029】
前記特許文献1、2のように躯体を周方向に包囲するように型枠(せき板)を組み立てる場合には、躯体を挟んでせき板が対になって配置されることから、あるせき板が負担すべき側圧をそれに対向するせき板に負担させることができる。このため、躯体のいずれかの面に対向するせき板と躯体との間隔を保持するセパレータを必ずしも躯体に固定する必要がなく、セパレータの一端を単に躯体表面に突き当てる、または躯体とせき板間にスペーサを介在させるだけでもよいことになる。
【0030】
しかしながら、躯体が例えば擁壁である場合のようにせき板が躯体を包囲することなく、躯体表面と対向して組み立てられ、せき板が互いに対向して配置されない場合には、せき板が負担すべき側圧を対向するせき板に負担させる余地がないため、セパレータの一端を単に躯体表面に突き当てるか、スペーサを挟むのみではせき板は側圧に対する抵抗力を持たないことになる。
【0031】
これに対し、請求項5ではセパレータに相当するフォームタイの躯体側の一端に連結材を介してアンカーを接続し、アンカーを躯体中に埋設させてフォームタイの一端を躯体に固定するため、せき板が躯体を挟んで対になって配置されない場合にも、せき板にコンクリート打設時の側圧に対する抵抗力を持たせることが可能になる。
【0032】
この場合、フォームタイに接続されたアンカーが躯体に定着されることで、フォームタイが引張力に対する抵抗力を持つため、せき板が躯体を周方向に包囲するように組み立てられる場合、すなわちせき板が躯体を挟んで対になって配置される場合の他、躯体を包囲することなく、躯体表面と対向して組み立てられる場合にもセパレータに相当するフォームタイがコンクリートの側圧に対する抵抗力を発揮する。フォームタイがコンクリートの側圧に対する抵抗力を有することで、フォームタイによって保持されるせき板も側圧に対する抵抗力を有することになる。
【0033】
前記特許文献2、3のようにせき板内に、骨材を含まないグラウトを充填する場合にはグラウト充填時にせき板が受ける圧力は骨材を含むコンクリートを打設する場合より小さいため、せき板自身は特に側圧による変形を生じない剛性を保有する必要がないが、コンクリートの場合にはせき板が受ける側圧が大きくなるため、せき板自身が変形を生じない剛性を保有している必要がある。
また特許文献1のようにコンクリートを落下打設する場合にはせき板が受ける側圧は打設後のコンクリートが流動性を有している間に生ずる大きさの圧力に留まるが、コンクリートを圧入する場合にせき板が受ける側圧には圧入時のコンクリートの圧力も加わるため、コンクリートを圧入する場合の側圧はグラウトを圧入する場合や、コンクリートを落下打設する場合より大きくなる。
【0034】
このコンクリートを圧入する場合の側圧に対しては、請求項5ではセパレータに相当するフォームタイのアンカーが躯体に固定されることで、ある程度の側圧をアンカーに負担させることができるが、フォームタイの配置位置以外の部分ではせき板が直接側圧に抵抗せざるを得ないため、曲げモーメントによるせき板の曲げ変形が過大になる可能性がある。
このような場合には、請求項5において端太材を、幅に対して成が大きい形にし、成方向の中心線がフォームタイの軸方向(架設方向)を向いた状態でせき板を保持させることにより、せき板に、変形に対する拘束効果を付与し、グラウトを充填する場合や、コンクリートを落下打設する場合より側圧が大きくなるコンクリート打設時の側圧に対するせき板の変形低減効果を上げる。
【0035】
この場合、端太材が幅に対して成(高さ)の大きい形をし、成方向(高さ方向)の中心線がフォームタイの軸方向を向いた状態で使用されることで、せき板が縦向きに配置されるか横向きに配置されるかに関係なく、端太材の強軸が曲げモーメントの作用方向に直交する方向を向くため、使用状態での端太材の断面2次モーメントが、幅と成が等しい鋼管や角形鋼管の断面2次モーメントより大きくなり、曲げ剛性が高くなる。この結果、端太材がせき板を保持したときのせき板の曲げ変形を拘束する効果が鋼管等を用いた場合より高く、端太材は単独で、またはフォームタイとアンカーと共にせき板の曲げ変形とずれを防止する働きをする。
【0036】
端太材はせき板の曲げ変形を拘束する役目を持つため、せき板の配置の向きによって横端太材として使用されるか、縦端太材として使用されるかが決まる。例えばせき板が幅寸法に対する高さ寸法が大きい長方形をする場合に、せき板が図1〜図3に示すように縦向きに配置される場合には端太材は横端太材として横向きに配置され、せき板が横向きに配置される場合には端太材は縦端太材として縦向きに配置される。いずれの場合も端太材は成方向の中心線がセパレータ、またはフォームタイの軸方向を向いた状態で配置され、強軸は曲げモーメントの作用方向に直交する方向を向く。
【0037】
圧入口付きせき板は例えば圧入口が形成されたせき板本体の、圧入口の表面側に、コンクリート圧送管等のコンクリート圧入用の管が接続されるための接続管が固定され、圧入口の背面側に、圧入口を開放状態、または閉鎖状態に維持する開閉板が接続された形をする。圧入口の表面側に接続管が固定されることで、コンクリート圧送管等の接続がし易くなり、コンクリートの打設時の作業性が向上する。また圧入口の背面側に開閉板が接続されることで、コンクリートの打設終了直後に圧入口を閉鎖でき、打設後のコンクリートの流出や逆流を阻止できるため、打設コンクリート中の空隙の発生を回避できる他、必要以上にコンクリートを打設することも回避できる。
【0038】
圧入口付きせき板の圧入口の背面側に接続される開閉板はコンクリートの充填時に圧入口を開放させ、非充填時に圧入口を閉鎖させる。開閉板は例えば開閉板、もしくは圧入口付きせき板本体に形成、あるいは突設されたストッパに係止することにより開放状態と閉鎖状態を維持できるが、コンクリート打設時の圧力により開閉板がずれる可能性がある場合には、例えば開閉板をせき板本体の背面に常に密着する向きに付勢することにより、開放状態と閉鎖状態での安定性を確保することができる。
この場合、開閉板はせき板本体の背面に常に密着した状態を維持するため、開放位置と閉鎖位置以外の任意の位置でも静止できるが、開放位置と閉鎖位置で確実に停止できるようにするには開閉板を停止させるストッパが併用される。
【0039】
また接続管を圧入口付きせき板の背面側(躯体側)から表面側へかけて下向きに傾斜させれば、コンクリート圧送管中のコンクリートの圧力を利用してコンクリートを充填することが可能になる。この場合、接続管にコンクリート圧送管を単に接続することのみによって、コンクリート圧送管から送られるコンクリートの圧力を利用し、コンクリートを誘導するような形でせき板内へコンクリートを上向きに打設することになるため、せき板内に充填されたコンクリートの充填性が向上する。コンクリート圧送管は接続管には直接、または間接的に接続される。
【0040】
請求項6に記載の発明は既存のコンクリート造の躯体の表面側に組み立てられた請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の補強コンクリート打設用型枠の最下部の打設区間の圧入口から、前記せき板の面に対し、平面上、交差する方向にコンクリートを打設することを構成要件とするコンクリートの打設方法である。
【0041】
この方法によれば、前記のようにコンクリートをせき板の垂直面に対して角度を付けて打設することができるため、せき板が受けるコンクリートによる圧力を軽減することができることに加え、コンクリートを躯体の表面に沿って周方向に圧入することができるため、躯体が柱状のように躯体表面が周回するような場合には、コンクリートを躯体の周方向に回り込むように躯体表面とせき板との間に充填することができる。
【0042】
その結果、コンクリートを躯体表面の周方向に分散させ、均等に充填することが可能になり、隅角部での空隙の発生を軽減、もしくは回避することが可能になる。またコンクリートを周方向に分散させながら躯体表面とせき板間に充填することができるため、コンクリートの充填効率が上昇し、工期の短縮を図ることが可能である。
【0043】
特に請求項7に記載のように、圧入口付きせき板に固定される接続管の軸を水平に向ける等により、コンクリートを水平に向けて打設することすれば、コンクリートは地盤面に平行に打設され、前記のようにコンクリートを落下打設することがなくなるため、落下打設によるコンクリートの充填不良の発生を回避することが可能になる。
【発明の効果】
【0044】
上記の通り、請求項1では高さ方向に配列する複数枚のせき板を高さ方向に一つ、もしくは複数の区間に区分し、その打設区間毎の最下部位置に、コンクリートを圧入するための圧入口を有する圧入口付きせき板を配置することで、一定の高さの打設区間においてコンクリートを上向きに打設し、コンクリートを圧入することができるため、躯体とせき板間の空隙を埋め尽くすように充填することができ、躯体とせき板間へ密実に充填することができる。
またコンクリートを圧入するため、圧力低減のための格別な設備を必要とせず、それに伴って設備設置のための場所を確保する必要はなく、施工コストの上昇もない。
【0045】
請求項2、3、6では高さ方向に配列する複数枚のせき板を高さ方向に、コンクリートの打設区間の単位となる一つ、もしくは複数の区間に区分し、この区分された打設区間の内、最下部の打設区間の最下部位置に、せき板の面に対し、平面上、交差する方向にコンクリートを圧入するための圧入口を有する圧入口付きせき板を配置するため、コンクリートを圧入することに伴うせき板の変形を防止、あるいは抑制することができる。
【0046】
請求項4、7ではコンクリートを水平に向けて打設することができるため、コンクリートを落下打設することがなくなり、落下打設によるコンクリートの充填不良の発生を回避することができる。
【0047】
請求項5では躯体中に埋設されるアンカーと、アンカーが接続される連結材と、せき板のコンクリート側の面に突き当たるコーンと、せき板とコーンを貫通し、連結材に螺合により着脱自在に連結されるフォームタイと、フォームタイを包囲し、連結材とコーンに突き当たる被覆材とを備え、フォームタイをコーンに螺合させてセパレータの機能を兼ねさせるため、フォームタイの回収により従来のセパレータをも回収することでき、セパレータをコンクリート中に埋め殺す場合より仮設部品の使用に要するコストの削減を図ることができる。またせき板とフォームタイ、及びコーンの回収により被覆材のせき板側の端面がコンクリートの表面側に露出するため、被覆材もフォームタイ及びコーンと共に回収し、繰り返して転用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0049】
請求項1に記載の発明は図1〜図3、図8に示すように既存のコンクリート造の躯体11の表面側に補強用のコンクリートを打設するための型枠であり、躯体11表面との間の間隔を保持した状態で躯体11の表面を覆うように横方向と高さ方向に組み立てられるせき板2と、せき板2と躯体11との間隔を保持するセパレータ4と、せき板2を外側から保持するフォームタイ5及び端太材6とを備える補強コンクリート打設用型枠1である。図8は躯体11の表面側に鉄筋12を配筋した場合を示しているが、鉄筋12を配筋しない場合もある。
【0050】
既存の躯体11は鉄筋コンクリート造、無筋コンクリート造の他、鉄骨鉄筋コンクリート造の場合もあり、プレキャストコンクリートも含む。図1〜図3では躯体11が橋脚の場合で、躯体11を包囲するように躯体11の回りを周回して補強コンクリート打設用型枠1を組み立てた場合を示しているが、躯体11のいずれかの表面に対向する位置にのみ補強コンクリート打設用型枠1を組み立てる場合もある。本発明が対象とする既存の躯体11の水平断面の形状は問われず、矩形、円形その他、任意の形があり、鉛直断面の形状も問われない。
【0051】
図1、図2に示すように横方向と高さ方向に配列するせき板2の内、高さ方向に間隔を隔てた一部のせき板2の最下部位置に、コンクリートを圧入するための圧入口3aを有する圧入口付きせき板3が、横方向に間隔を隔てて配置される。図1、図2中、圧入口付きせき板3の位置を×で示す。図12〜図14は従来使用されていた、落下打設を行うための型枠の組み立て例であり、図12、図13ではコンクリートを打設するためのせき板の位置を×で示している。
【0052】
図5〜図7に示すように圧入口付きせき板3の圧入口3aにはコンクリートを圧入するコンクリート圧送管14その他のコンクリート打設用の管が接続されるための接続管31が固定され、接続管31のコンクリート側に圧入口3aを開閉する開閉板32が接続される。接続管31には主としてコンクリート圧送管14が直接、または間接的に接続される。接続管31は圧入口付きせき板3本体に対しては溶接により、または圧入口3aへの嵌合等により固定される。開閉板32は例えば圧入口付きせき板3の本体に直交する軸の回りに回転自在に接続される。
【0053】
高さ方向に配列する複数枚のせき板2、すなわち補強コンクリート打設用型枠1は高さ方向に一つ、もしくは複数の区間に区分され、その区間毎の最下部の位置に、コンクリートを圧入するための圧入口付きせき板3が配置される。高さ方向に複数の区間に区分された場合には圧入口付きせき板3は図1、図2に示すように区間数分、配置される。図面では長方形のせき板2を縦向きに配置したことに対応し、その1枚のせき板2毎に、高さ方向に6区間に区分した場合を示すが、区分の仕方はこれに限られない。
【0054】
図5〜図7に示す例ではコンクリート圧送管14から送られるコンクリートの圧力を利用してせき板2内へコンクリートを上向きに打設し、せき板2内に充填されたコンクリートのせき板2外部への逆流を阻止できるよう、接続管31を圧入口付きせき板3の背面側(躯体側)から表面側へかけて下向きに傾斜させている。せき板2の幅寸法と高さ寸法が例えば300mm×1500mmの場合、圧入口付きせき板3本体の寸法はせき板2に組み込めるか連結によって連続するよう、300mm×300mmとなる。
【0055】
図5〜図7では圧入口付きせき板3を縦断面で見たときに、接続管31を圧入口付きせき板3の背面側から表面側へかけて水平に対し、45°前後程度下向きに傾斜させ、表面側から見たときに縦に接続管31を向けているが、コンクリートを上向きに打設する上では接続管31は圧入口付きせき板3の背面側から表面側へかけて下向きに傾斜していればよく、縦断面で見たときの水平に対する角度は任意であり、表面側から見たときの向きも任意である。
例えば表面側から見たときに、左右のいずれかの側に接続管31の軸を水平に対して45°前後程度傾斜させれば、打設されたコンクリートが円弧状、または放物線状の軌跡を描くようにコンクリートを打設し、振動を与えながら打設する場合と同様の効果をコンクリートに与えることができるため、コンクリートの充填性が一層向上する効果がある。
【0056】
接続管31はコンクリート圧送管14を直接、または間接的に接続できる長さを持つ一方、補強コンクリート打設用型枠1の最下部に配置された場合にもコンクリート圧送管14を接続できるよう、接続管31の先端が地盤面に触れない程度の長さに留まる。図面では接続管31の先端をその軸に直交する面で切断した形にしているが、必ずしもその必要はない。
【0057】
圧入口付きせき板3の開閉板32は圧入口付きせき板3本体の背面側に位置し、開放状態と閉鎖状態でずれないようにする場合には、例えば図7に示すように圧入口付きせき板3本体の背面に常に密着する向きに付勢される。
【0058】
圧入口付きせき板3本体の表面側には、開閉板32に一体化し、開閉板32を回転操作するための軸32aが圧入口付きせき板3本体を貫通して突出している。軸32aが貫通する部分には軸32aを支持するためのスリーブ3bが圧入口付きせき板3本体に一体化して形成される。軸32aはスリーブ3bを貫通し、圧入口付きせき板3本体の表面に突出した部分に操作用の摘み32bが一体化する。摘み32bは手で直接回転させられる他、ドライバ、レンチ等の工具を用いて回転させられる。図面では6角レンチでの回転が可能なように摘み32bを6角ナット状にしている。
【0059】
開閉板32を圧入口付きせき板3本体の背面に密着させる場合、軸32aの回りには開閉板32を圧入口付きせき板3本体の背面側から表面側へ付勢するコイルスプリング、皿ばね等のばね32cが配置される。コイルスプリングの場合、ばね32cは図7に示すように圧入口付きせき板3本体の背面側において開閉板32に固定されると共に、表面側においてスリーブ3bの先端に係止することで、開閉板32を圧入口付きせき板3本体の背面側から表面側へ付勢する。圧入口付きせき板3本体の背面側の、開閉板32の閉鎖位置と開放位置には開放状態から閉鎖する開閉板に係止するストッパ3cと、閉鎖状態から開放する開閉板32に係止するストッパ3cが必要により突設される。
【0060】
圧入口付きせき板3以外の全せき板2は基本的には前記のように同一の高さと幅を持ち、図示するように横方向と高さ方向に隣接するせき板2は互いに連結されることにより連続的に配列する。圧入口付きせき板3は図1に示すようにコンクリート圧送管14からのコンクリートの充填が行える程度の大きさであり、前記のように他のせき板2より高さが小さく、他のせき板2の一部に組み込まれる形で一体化するか、または他のせき板2の一部が切り欠かれた部分に配置され、せき板2に連続する。せき板2と圧入口付きせき板3には鋼板、波形鋼板、ラスその他の金属製、もしくは合成樹脂製の板が使用され、材料と形態は特に問われない。
【0061】
圧入口付きせき板3が他のせき板2の一部に組み込まれる形で一体化する場合は、横方向と高さ方向に隣接するせき板2、2が互いにずれないように連結される。他のせき板2の、圧入口付きせき板3の部分が切り欠かれる場合には、圧入口付きせき板3とそれに隣接するその切り欠かれたせき板2、及び他のせき板2とが互いにずれないように連結される。
【0062】
圧入口付きせき板3は横方向には、隣接する圧入口付きせき板3、3から打設されたコンクリート間に極端なレベル差が生じない程度に、打設直後のコンクリートが互いに連続して平坦な状態になるような間隔、例えば千数100〜数千mmを隔てた位置に配置され、コンクリートの水セメント比等の配合例、スランプ等によって決められる。図面では図1、図2に示すように横方向に3000〜3500mm程度の間隔で圧入口付きせき板3を配置しているが、この間隔は打設されるコンクリートの厚さ、横方向(周方向)の長さ、一区間の高さ等によって変動する。
【0063】
高さ方向に隣接する圧入口付きせき板3、3の間隔は上向きに打設されたコンクリートが横方向に隣接する圧入口付きせき板3から打設されたコンクリート側へ回り込み、横方向に隣接するコンクリートが互いに連続する状態となるような高さに設定され、コンクリートの配合例等によって決められる。図面ではせき板2の高さ寸法に対応し、1500mm程度の間隔で圧入口付きせき板3を配置している。
【0064】
最下部の圧入口付きせき板3は地表面付近に位置し、その直上の圧入口付きせき板3は最下部の圧入口付きせき板3の位置から数100〜千数100mm程度上の位置に配置される。図面では平面上、同一の位置に上記のように1500mm程度の間隔を隔てて圧入口付きせき板3を配置しているが、必ずしも同一平面上に位置している必要はなく、この間隔は打設されるコンクリートの厚さ、横方向(周方向)の長さ、一区間の高さ等によって変動する。
【0065】
補強コンクリート打設用型枠1の組み立てに際し、躯体11には図4に示すように表面側からドリル等により削孔11aが形成され、削孔11a内に例えば接着剤やグラウト等の充填材13が充填された後、アンカー7が挿入される。充填材13の硬化後、アンカー7にセパレータ(長ナット)4が螺合等により接続され、セパレータ4の表面側の先端にせき板2の背面が突き当てられることによりせき板2が、躯体11表面からせき板2までの一定の距離が確保された状態で配置される。図4に示すセパレータ4の先端にはコーンが接続される場合もある。アンカー7には上記の接着系アンカーの他、金属拡張系アンカーも使用される。
【0066】
せき板2と圧入口付きせき板3の縁には高さ方向及び横方向に隣接するせき板2、2との連結のためのフランジが形成されており、高さ方向と横方向に隣接するせき板2、2は双方のフランジを貫通するボルトやピンによって互いに連結されて組み立てられる。
【0067】
せき板2の表面側には高さ方向、もしくは横方向に間隔をおき、横向き、もしくは縦向きの状態で端太材6が配置される。図面ではせき板2を縦向きに配置していることから、高さ方向に間隔をおき、横向きに端太材6を配置している。端太材6は躯体11の横方向の距離に応じ、横方向には1本の状態で、または複数本連結されながら使用される。
【0068】
セパレータ4は図示するように例えばアンカー7側にナットやカプラーが一体化した形の筒状をし、このセパレータ4のアンカー7寄りの部分には、せき板2の表面側からセパレータ4を挿通してフォームタイ5が螺合等により接続される。フォームタイ5にはクランプ8が接続され、クランプ8はナット9によってせき板2の背面側へ締め付けられる。端太材6はクランプ8に保持され、ナット9の締め付けによってせき板2の表面側から背面側へ押されることによりせき板2に押さえ付けられ、せき板2の曲げ変形と変位を拘束する。フォームタイ5はセパレータ4を挿通してそのアンカー7寄りの部分に螺合した状態で、せき板2から突出した部分に端太材6が配置され、クランプ8及びナット9が接続できる長さを有する。
【0069】
端太材6は幅に対して成の大きいH形断面や溝形断面の鋼材、もしくはアルミニウム合金等の形材であり、せき板2を縦向きに配置した場合、図4に示すように横向きの状態でせき板2の表面に突き当たることによりせき板2を安定させた状態で保持する。図面では箱形断面の主材6a、6aを距離をおいて並列させ、その主材6a、6a間に同じく箱形断面のつなぎ材6bをラチス状、もしくは束状に架設し、双方に接合して端太材6を形成している。端太材6は幅より成が大きいことで、鋼管や角形鋼管より使用状態での変形に対する安定性が高く、せき板2の、コンクリートの圧入に伴う側圧による変形を拘束する効果が高い利点を有する。
【0070】
図4に示す場合、中空形材からなる端太材6は使用状態での倒れを防止し、安定性を高めるために、幅方向に対向するように2本で対になって使用され、2本の端太材6、6間に挟まれる形でフォームタイ5が配置される。フォームタイ5には端太材6、6の外側においてクランプ8が接続され、クランプ8の外側にナット9が螺合することにより端太材6、6がせき板2を保持する。1本の端太材6が単独で安定性を確保できる場合には必ずしも2本で対になる必要はない。
【0071】
2本で対になった端太材6、6はクランプ8とナット9によってせき板2に突き当たった状態を維持するが、必要により1本の端太材6毎に、または2本の端太材6、6毎に、せき板2と端太材6の双方に係止するフックボルト等の、図3に示す連結材15によってせき板2との一体性が補われる。
【0072】
図面ではまた、高さ方向に間隔を隔てて配列する端太材6にせき板2の面外方向に凹凸が生じず、端太材6が無秩序に配列しないよう、図4に示すように端太材6を構成する主材6a、6a間の空間に鉛直方向に通し材10を配置し、端太材6にせき板2の背面側から表面側へ係止させている。端太材6は通し材10に係止することで、せき板2の面外方向に位置決めされた状態でせき板2の外側に配置される。
【0073】
図1〜図3では躯体11の平面形状がトラック形であり、表面の一部の区間が湾曲していることから、湾曲した区間には直線状の端太材6をそのまま使用できないため、端太材6の代わりに曲げ加工し易いフラットバー等の鋼材を端太材6’として用いている。
【0074】
躯体11とせき板2との間へのコンクリートの打設は図8に示すように圧入口付きせき板3の接続管31にコンクリート圧送管14を接続して行われる。第一段階では最下部に位置する圧入口付きせき板3からコンクリートの打設が行われ、必要に応じて型枠バイブレータによりコンクリートに振動が与えられる。コンクリートが最下部の圧入口付きせき板3の直上に位置する圧入口付きせき板3付近まで充填されたところで、最下部の圧入口付きせき板3の圧入口3aが開閉板32によって閉鎖させられる。
【0075】
ある圧入口付きせき板3からのコンクリートの充填が終えた後には、横方向に隣接する圧入口付きせき板3からのコンクリートの充填が行われ、図示するように躯体11の周囲を包囲するようにコンクリートを打設する場合には周方向に連続的に行われる。
【0076】
続いて最下部の圧入口付きせき板3の直上に位置する圧入口付きせき板3の接続管31を通じて第二段階のコンクリートの打設が行われ、横方向に隣接する圧入口付きせき板3からのコンクリートの充填によりその直上に位置する圧入口付きせき板3付近まで充填されたところで、コンクリートの打設が行われていた圧入口付きせき板3の圧入口3aが開閉板32によって閉鎖させられる。
【0077】
引き続き、同様の要領で、最上部のせき板2の頂部、またはその付近までコンクリートの打設が完了したところで、コンクリートの打設作業が終了する。その後、コンクリートの強度発現を待って補強コンクリート打設用型枠1が解体される。
【0078】
図9−(a)は請求項5に記載のセパレータ装置40を躯体11とせき板2との間に設置したときの様子を、(b)は(a)の詳細を示す。このセパレータ装置40は躯体11中に埋設されるアンカー41と、このアンカー41が螺合等により接続されるナット、またはカプラー等の連結材42と、せき板2のコンクリート側の面に突き当たるコーン43と、せき板2の表面側からそのせき板2とコーン43を貫通し、連結材42に螺合により着脱自在に連結されるフォームタイ44と、フォームタイ44を包囲し、両端において連結材42とコーン43に突き当たる被覆材45から構成され、フォームタイ44はコーン43に螺合することによりセパレータの機能を兼ねる。
【0079】
アンカー41は図4の場合と同様、躯体11に穿設された削孔11a内に接着剤やグラウト等の充填材13により定着され、頭部が削孔11aから突出し、このアンカー41の突出部分に連結材42が螺合等により接続される。フォームタイ44はせき板2の解体時にせき板2と共に回収されるのに対し、連結材42はアンカー41と共に打設されたコンクリート中に残されることから、アンカー41と連結材42との接続方法は問われないが、フォームタイ44は連結材42から分離自在に連結されるよう、螺合によって連結材42に連結される。このために連結材42のフォームタイ44側には雌ねじが切られ、フォームタイ44の連結材42側の先端には雄ねじが切られる。
【0080】
連結材42とコーン43との間には、フォームタイ44を包囲することによりコンクリートがフォームタイ44に付着しないよう、フォームタイ44を被覆する中空の被覆材45が配置される。フォームタイ44はコーン43に螺合しながらこれを貫通し、被覆材45内を挿通して連結材42に螺合する。せき板2の解体時にはフォームタイ44はせき板2の表面側から回転させられることにより連結材42とコーン43から分離し、回収される。フォームタイ44は図4の場合と同様、被覆材45を挿通して連結材42に螺合した状態で、せき板2から突出した部分に端太材6が配置され、クランプ8及びナット9が接続できる長さを有する。フォームタイ44にはそれが螺合する連結材42とコーン43の部分にのみ、ねじが形成されればよいが、全長に形成されることもある。コーン43には全長に雌ねじが切られる。
【0081】
被覆材45はコンクリートの硬化後にフォームタイ44及びコーン43と共に回収されるよう、被覆材45にはコンクリートに付着しにくい、例えば塩化ビニル等、合成樹脂製の筒、例えばホース等が使用される。被覆材45の回収はコーン43の回収後、コンクリートの表面に露出した被覆材45の端部をペンチ等の工具で挟み込み、そのまま引き抜くことにより行われ、セパレータ装置40を構成するコーン43及びフォームタイ44と共に転用される。フォームタイ44と被覆材45の回収後、コンクリート中のそれらが抜けた孔には無収縮モルタルやセメントミルク等の充填材が充填される。
【0082】
図10は圧入り口付きせき板3の面に対し、平面上、交差する方向に向けて接続管31を固定した、特に軸を水平方向に向けて接続管31を固定した圧入口付きせき板3の形成例を示す。構成は図5に示す圧入口付きせき板3と同じであるが、ここに示す圧入口付きせき板3は高さ方向に区分されたコンクリートの打設区間の内、最下部の打設区間の最下部位置に配置され、圧入口付きせき板3の面に対して平面上、交差する方向、特に水平方向にコンクリートを打設する場合に使用される。
【0083】
図10では圧入口付きせき板3の下端に位置するフランジと圧入口3aの下縁との間に僅かに間隔が空いているが、この間隔は最小ではフランジの厚さ(2〜3mm程度)と接続管31の管厚(2〜4mm程度)の和に、圧入口3a回りと開閉板32の重なり代を加えた大きさ、10mm前後程度に抑えることが可能であり、圧入されるコンクリートを落下させることなく、圧入口付きせき板3の面に対して交差した水平方向に打設することができる。
【0084】
図11は図3に示す躯体11の回りに、圧入口付きせき板3の面に対して平面上、交差する方向、特に水平方向にコンクリートを打設する様子を示す。ここでは躯体11の回りを周回させてコンクリートを打設することから、図10に示す圧入口付きせき板3を躯体11の回りに4箇所配置し、打設方向を躯体11に対して同一の周回方向に向けているが、4箇所の各接続管31の向きは任意である。図11のように躯体11の回りを周回させてコンクリートを打設する場合に、コンクリートを圧入口付きせき板3の面に対して交差する方向に打設することを上方側へ繰り返すことで、コンクリートは躯体11の周方向に分散し、均等に下方から上方へ向けて充填されることになる。
【0085】
図11では特に、躯体11の中心に関して対称位置に配置された2箇所の圧入口付きせき板3の接続管31を同一の周回方向に向け、両接続管31に二股のコンクリート圧送管14を接続することにより、2箇所から同時にコンクリートを打設し、周方向に均等にコンクリートが行き渡るようにしている。躯体11の中心に関して対称位置に配置された2本の接続管31の向きは互いに逆になることもある。
【0086】
躯体11の断面形状が円形や方形の場合にも図11と同様に行うことができるが、方形の場合には補強コンクリート打設用型枠1の平面上の隅角部に圧入口付きせき板3を配置すれば、接続管31を圧入口付きせき板3の面に垂直に向けても、それに直交する方向のせき板2に平行に向け、打設すべきコンクリートの領域に向けることができ、コンクリートを躯体11の周方向に行き渡るように打設することが可能であるため、必ずしも接続管31を圧入口付きせき板3の面に対して交差する方向に向ける必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の補強コンクリート打設用型枠の組み立て例を示した立面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1の平面図である。
【図4】既存の躯体の外側にせき板を組み立て、せき板にセパレータとフォームタイ及び端太材を取り付けた様子を示した縦断面図である。
【図5】圧入口付きせき板の構成例を示した立面図である。
【図6】図5のx−x線断面図である。
【図7】図5のy−y線断面図である。
【図8】最下部の圧入口付きせき板の接続管にコンクリート圧送管を接続し、コンクリートを充填しているときの様子を示した縦断面図である。
【図9】セパレータ装置の設置例を示した縦断面図である。
【図10】接続管を水平に向けて固定した最下部の圧入口付きせき板を示した立面図である。
【図11】躯体の回りに圧入口付きせき板を4箇所配置してコンクリートを打設するときの様子を示した平面図である。
【図12】従来の型枠の組み立て例を示した立面図である。
【図13】図12の側面図である。
【図14】図12の平面図である。
【符号の説明】
【0088】
1………補強コンクリート打設用型枠
2………せき板
3………圧入口付きせき板
3a……圧入口
3b……スリーブ
3c……ストッパ
31……接続管
32……開閉板
32a…軸
32b…摘み
32c…ばね
4………セパレータ
5………フォームタイ
6………端太材
6a……主材
6b……つなぎ材
6’……端太材
7………アンカー
8………クランプ
9………ナット
10……通し材
11……躯体
11a…削孔
12……鉄筋
13……充填材
14……コンクリート圧送管
15……連結材
40……セパレータ装置
41……アンカー
42……連結材
43……コーン
44……フォームタイ
45……被覆材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存のコンクリート造の躯体の表面側に補強用のコンクリートを打設するための型枠であり、前記躯体表面との間の間隔を保持した状態で前記躯体表面を覆うように横方向と高さ方向に組み立てられるせき板と、前記せき板と前記躯体との間隔を保持するセパレータと、前記せき板を外側から保持するフォームタイ及び端太材とを備え、前記高さ方向に配列する複数枚の前記せき板は高さ方向に、コンクリートの打設区間の単位となる一つ、もしくは複数の区間に区分され、その各打設区間においてコンクリートが上向きに圧入されるよう、前記区分された各打設区間の最下部位置に横方向に間隔を隔て、コンクリートを圧入するための圧入口を有する圧入口付きせき板が配置されていることを特徴とする補強コンクリート打設用型枠。
【請求項2】
既存のコンクリート造の躯体の表面側に補強用のコンクリートを打設するための型枠であり、前記躯体表面との間の間隔を保持した状態で前記躯体表面を覆うように横方向と高さ方向に組み立てられるせき板と、前記せき板と前記躯体との間隔を保持するセパレータと、前記せき板を外側から保持するフォームタイ及び端太材とを備え、前記高さ方向に配列する複数枚の前記せき板は高さ方向に、コンクリートの打設区間の単位となる一つ、もしくは複数の区間に区分され、この区分された打設区間の内、最下部の打設区間の最下部位置に横方向に間隔を隔て、前記せき板の面に対し、平面上、交差する方向にコンクリートを圧入するための圧入口を有する圧入口付きせき板が配置されていることを特徴とする補強コンクリート打設用型枠。
【請求項3】
前記圧入口付きせき板の前記圧入口に、前記せき板の面に対し、平面上、交差する方向を向いて接続管が固定されていることを特徴とする請求項2に記載の補強コンクリート打設用型枠。
【請求項4】
前記接続管の軸は水平方向を向いていることを特徴とする請求項3に記載の補強コンクリート打設用型枠。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の補強コンクリート打設用型枠に使用されるセパレータ装置であり、前記躯体中に埋設されるアンカーと、このアンカーが接続される連結材と、前記せき板のコンクリート側の面に突き当たるコーンと、前記せき板の表面側からそのせき板と前記コーンを貫通し、前記連結材に螺合により着脱自在に連結されるフォームタイと、このフォームタイを包囲し、両端において前記連結材と前記コーンに突き当たる被覆材とを備え、前記フォームタイは前記コーンに螺合し、セパレータの機能を兼ねていることを特徴とするセパレータ装置。
【請求項6】
既存のコンクリート造の躯体の表面側に組み立てられた請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の補強コンクリート打設用型枠の最下部の打設区間の圧入口から、前記せき板の面に対し、平面上、交差する方向にコンクリートを打設することを特徴とするコンクリートの打設方法。
【請求項7】
コンクリートを水平に向けて打設することを特徴とする請求項6に記載のコンクリートの打設方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−283543(P2006−283543A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237319(P2005−237319)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(505088042)
【Fターム(参考)】