説明

複合体微粒子、その製造方法、並びにそれを用いた導電膜形成用組成物、及び導電膜の形成方法

【課題】 銅を主成分とする導電膜の形成において、樹脂を基材として利用可能な温度で導電膜の形成が可能であり、且つ配線等のパターン形成の際、加熱処理前後のパターン形状の変化が少ない導電膜形成用組成物、及び導電膜の形成方法を提供するとともに、銅を主成分とする導電膜形成用材料において、樹脂を基材として利用可能な温度で導電膜の形成が可能であり、且つ印刷法により配線等のパターン形成できる導電膜形成用組成物へ適応可能な複合体微粒子、及び複合体微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】 還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子を含有する導電膜形成用組成物を、基材に塗布し、非酸化性雰囲気下で加熱して、基板上に導電膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体微粒子、その製造方法、並びにそれを用いた導電膜形成用組成物、及び導電膜の形成方法に関する。
【0002】
本発明の複合体微粒子を用いた導電膜形成用組成物は、特にエレクトロニクス分野で配線基板の回路パターン形成用材料、回路パターン形成用材料として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0003】
近年、金属微粒子分散体をインクジェット印刷法や、スクリーン印刷法により所望のパターンを形成し、回路基板における配線等の導電膜を形成する技術が注目を集めている。金属微粒子の平均粒子径が数nm〜数10nm程度であるとき、バルクの金属よりも融点が著しく降下し、低い温度で粒子同士の融着が起こることを利用し、金属微粒子を低温で焼結させて導電膜を得るものである。現状、このような導電性パターン形成用組成物としては銀微粒子を含有するものが中心である。
【0004】
しかしながら、銀では、エレクトロマイグレーション(electromigration)が発生しやすいという問題や、銀自体が高価な金属であるといった問題がある。ここで、エレクトロマイグレーションとは、電界の影響で、金属成分(例えば、配線や電極に使用した金属)が非金属媒体(例えば、絶縁物)の上や中を横切って移動する現象である。
【0005】
そこで、低コスト化が可能で且つエレクトロマイグレーションが生じるおそれが少なく且つ、高い導電性をもつ銅を主成分とする配線を印刷法により形成可能な導電膜形成用材料が望まれている。
【0006】
銅の導電膜形成用材料としては、窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を分子構造内に有する有機化合物を金属銅表面に吸着させ、酸素や水との接触を妨げ酸化を防ぐと同時に、金属銅微粒子相互の凝集を抑制した、平均粒子径が数nm〜数100nm程度の銅微粒子を利用する方法が多数提案されている。例えば、酸化抑制剤として、アルキルアミンを利用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、この金属銅微粒子を利用した導電膜形成用材料は、金属銅微粒子を塗布後、導電膜とする工程で、金属銅微粒子表面を被覆する酸化抑制剤を除去し、金属銅微粒子同士を融着させるために一般的に、300℃程度といった高温での加熱が必要であり、適応できる基材が限られる問題がある。また、金属銅の酸化を抑制するために水素を含む還元雰囲気下での加熱が必要な場合が多いため、安全面にも大きな問題があった。
【0008】
そこで、金属銅微粒子を利用せず、水素を含まない非還元雰囲気下で、比較的低温度での加熱により、銅の導電膜を形成する導電膜形成用材料が検討されている。例えば、ギ酸銅(II)とアルコキシアルキルアミンとからなる混合生成物を、80〜200℃及び0.1〜5barで基材に接触させることで、基材上に銅層を析出する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この方法によれば、非還元雰囲気下において、180℃程度の比較的低温度での加熱により、銅膜又は金属膜が形成されるとされている。
【0009】
しかしながら、この方法では、ギ酸銅(II)をアルコキシアルキルアミンに完全に溶解させた溶液であるため、基板へ塗布した後の加熱処理時において粘度や表面張力が変化し、塗布時と加熱後の配線幅や配線形状の変化が大きいといった問題があり、工業的には利用できないおそれがあった。
【0010】
一方、金属銅微粒子以外の固体銅成分を用いて、固形分としての銅含有量を向上させた導電膜形成用材料も検討されている。例えば、銅酸化物微粒子と、銅酸化物微粒子に対して還元能を有する還元性有機ポリマーを含有する銅酸化物微粒子分散体を、成膜後、加熱処理することで、銅酸化物微粒子を還元させ銅薄膜を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0011】
この方法によれば、銅酸化物微粒子を用いることで、印刷用インクとして利用できる均一性を保持しながら、銅として40重量%程度の含有量を確保し、加熱処理前後の形状変化も少ないとされている。
【0012】
しかしながら、この方法では、成膜工程において、水素を含む還元雰囲気下での加熱は必要ないものの、銅酸化物微粒子の還元、還元性有機ポリマーの分解、揮発除去のために350℃といった高温での加熱が必要であり、銅微粒子を利用した場合と同様に適応できる基材が限られるおそれがあった。
【0013】
一方、銅を含有する複合体を導電膜形成用材料として利用する試みも行われており、例えば、基材とギ酸銅とを共存させ、減圧下又は非酸化性雰囲気中でギ酸銅を熱分解して銅膜の形成された基材を製造する方法において、パラジウムを共存させてギ酸銅の熱分解を行うことを特徴とする銅膜形成基材の製造法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0014】
この方法によれば、パラジウムをギ酸銅と併用することで、パラジウムが触媒として作用し、ギ酸銅本来の熱分解温度より低温であって、樹脂を基材として利用可能な温度である130〜140℃との温度で、銅膜を得ることができるとされている。
【0015】
しかしながら、この方法では、液相法により調製した粗大複合体粒子をそのまま利用しているため、印刷用インクとするのは均一性の面から困難であり、印刷法によるパターン形成が出来ないおそれがあった。また、成膜時には銅粉末が同時に生成し、材料効率が低いといった問題もあった。
【0016】
以上のように従来の方法は、いずれも十分なものとは言えず、工業的な実用化を図るために更なる検討が要望されていた。すなわち、銅を主成分とする導電膜形成用材料において、樹脂を基材として利用可能な温度で導電膜の形成が可能であり、且つ、印刷法により配線等のパターン形成できる導電膜形成用組成物へ適応可能な複合体微粒子及び複合体微粒子の製造方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2007−321215号公報
【特許文献2】特開2005−2471号公報
【特許文献3】特開2005−2418号公報
【特許文献4】特開平6−93455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記した背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、銅を主成分とする導電膜の形成において、樹脂を基材として利用可能な温度で導電膜の形成が可能であり、且つ配線等のパターン形成の際、加熱処理前後のパターン形状の変化が少ない導電膜形成用組成物、及び導電膜の形成方法を提供すること、並びに銅を主成分とする導電膜形成用材料において、樹脂を基材として利用可能な温度で導電膜の形成が可能であり、且つ印刷法により配線等のパターン形成できる導電膜形成用組成物へ適応可能な複合体微粒子、及び複合体微粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、例えば、a)還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子を製造する工程と、b)還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と触媒金属を複合化する工程を含む製造方法により得られる、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子を見い出した。そして、この複合体微粒子を含有する導電膜形成用組成物を用いることにより、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子が溶解していない状態であっても、加熱処理により、導電膜を形成可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりの複合体微粒子、その製造方法、並びにそれを用いた導電膜形成用組成物、及び導電膜の形成方法である。
【0021】
[1]還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と、触媒金属との複合体微粒子。
【0022】
[2]還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩が、ギ酸銅、ヒドロキシ酢酸銅、グリオキシル酸銅、乳酸銅、シュウ酸銅、酒石酸銅、リンゴ酸銅、及びクエン酸銅からなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする上記[1]に記載の複合体微粒子。
【0023】
[3]触媒金属が、金、銀、銅、白金、及びパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含むことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の複合体微粒子。
【0024】
[4]触媒金属の含有量が、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の重量に対して0.01〜100重量%の範囲であることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の複合体微粒子。
【0025】
[5]一次平均粒子径が、10nm〜5μmの範囲であることを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の複合体微粒子。
【0026】
[6]a)還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子を製造する工程と、b)還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と触媒金属を複合化する工程を含むことを特徴とする上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の複合体微粒子の製造方法。
【0027】
[7]還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子が、ギ酸銅微粒子、ヒドロキシ酢酸銅微粒子、グリオキシル酸銅微粒子、乳酸銅微粒子、シュウ酸銅微粒子、酒石酸銅微粒子、リンゴ酸銅微粒子、及びクエン酸銅微粒子からなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする上記[6]に記載の製造方法。
【0028】
[8]還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子の一次平均粒子径が、10nm以上、5μm未満の範囲であることを特徴とする上記[6]又は[7]に記載の製造方法。
【0029】
[9]触媒金属が、金、銀、銅、白金、及びパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含むことを特徴とする上記[6]乃至[8]のいずれかに記載の製造方法。
【0030】
[10]b)還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と触媒金属を複合化する工程が、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と、触媒金属前駆体を混合し、さらに還元剤を添加することで、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子上に触媒金属を還元析出させる方法により行われることを特徴とする上記[6]乃至[9]のいずれかに記載の製造方法。
【0031】
[11]触媒金属前駆体が、フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、酸化銀、亜硝酸銀、硝酸銀、ギ酸銀、酢酸銀、アセチルアセトナト銀、フッ化銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、酸化銅、亜硝酸銅、硝酸銅、硫酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、アセチルアセトナト銅、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、酸化パラジウム、水酸化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、及びアセチルアセトナトパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする上記[10]に記載の製造方法。
【0032】
[12]触媒金属前駆体の混合量が金属としての重量換算で、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子の重量に対して、0.01〜100重量%の範囲であることを特徴とする上記[10]又は[11]に記載の製造方法。
【0033】
[13]上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の複合体微粒子を含有することを特徴とする導電膜形成用組成物。
【0034】
[14]上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の複合体微粒子と、配位性化合物及び/又は分散媒を含有することを特徴とする導電膜形成用組成物。
【0035】
[15]配位性化合物が、アルカンチオール、脂肪族アミン、芳香族アミン、及び環状アミンからなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする上記[14]に記載の導電膜形成用組成物。
【0036】
[16]導電膜形成用組成物全量に対し、上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の複合体微粒子の濃度が1〜99重量%であり、かつ配位性化合物の濃度が1〜99重量%の範囲であることを特徴とする上記[14]又は[15]に記載の導電膜形成用組成物。
【0037】
[17]分散媒が、ヘキサノール、ターピネオール、メチル−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする上記[14]乃至[16]のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。
【0038】
[18]導電膜形成用組成物全量に対し、分散媒の濃度が0〜50重量%の範囲であることを特徴とする上記[14]乃至請求項[17]のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。
【0039】
[19]上記[13]乃至[18]のいずれかに記載の導電膜形成用組成物を、基材に塗布し、非酸化性雰囲気下で加熱して、基板上に導電膜を形成することを特徴とする導電膜の形成方法。
【0040】
[20]非酸化性雰囲気が、ヘリウム雰囲気、窒素雰囲気、及びアルゴン雰囲気からなる群より選択されることを特徴とする上記[19]に記載の導電膜の形成方法。
【0041】
[21]加熱の温度が60℃〜300℃の範囲であることを特徴とする上記[19]又は[20]に記載の導電膜の形成方法。
【発明の効果】
【0042】
本発明は以下に示す効果を奏する。
【0043】
本発明の複合体微粒子は、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩を主成分とし、銅が主金属成分であるため、銅の優れた特性を有する導電膜や、導電性パターンを形成可能である。
また、本発明の複合体微粒子は配位性化合物と混合することで、容易に導電膜形成用組成物とすることができ、コスト性、生産性に優れる。
【0044】
本発明の複合体微粒子の製造方法は、高温、高圧、低温、減圧等の特別な条件での操作が不要であり、省エネルギー、低コスト、低環境負荷を達成でき、安全性、操作性にも優れ、工業的に極めて有用である。
また、本発明の複合体微粒子の製造方法は、複合体微粒子の原料が低価格で入手、若しくは製造することができる、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩、及び触媒金属化合物であるため、コスト性、生産性に優れる。
【0045】
本発明の複合体微粒子を含む導電膜形成用組成物は、塗布、加熱といった簡便な方法で導電膜や、導電性パターンを形成することが可能であり、省エネルギー、低コスト、低環境負荷を達成でき、工業的に極めて有用である。
また、本発明の導電膜形成用組成物は、高価な金属微粒子を使用せず、原料は低価格で入手、若しくは製造することができる、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子、及び配位性化合物であるため、コスト性、生産性に優れる。
また、本発明の導電膜形成用組成物は、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩を含有し、銅が主金属成分であるため、銅の優れた特性を有する導電膜や、導電性パターンを形成可能である。
【0046】
さらに、本発明の導電膜形成用組成物は、固体として還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子を含有するため、膜厚を厚くするための塗り重ね回数を削減できるため作業効率に優れ、また塗布後加熱時の粘度変化、表面張力変化の影響が少ないため、塗布時と加熱後の配線幅や配線形状の変化が小さく寸法精度が優れる。
【0047】
本発明の導電膜の形成方法は、本発明の導電膜形成用組成物を用いることにより、導電膜形成工程において水素を含む還元雰囲気を必要とせず、窒素等の不活性雰囲気下での加熱で導電膜形成が可能であり、安全性に優れる。
また、本発明の導電膜の形成方法によれば、樹脂を基材として利用可能な温度で、導電膜の形成が可能であり、汎用性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
【0049】
まず、本発明の複合体微粒子について説明する。
【0050】
本発明の複合体微粒子は、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子である
本発明の複合体微粒子を加熱処理することにより、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩に含まれる銅イオンが、還元力を有するカルボン酸により還元され銅金属となり、導電膜が形成され、導電性が発現する。またこのとき、触媒金属は、銅イオンの還元を促す触媒の役割を果たす。
【0051】
本発明において、「還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩」とは、還元力を有するカルボン酸をアニオン種とし、かつ銅イオンをカチオン種とする化合物を意味する。このような銅塩としては、特に限定するものではないが、例えば、一価の銅イオン、二価の銅イオン、及び三価の銅イオンからなる群より選ばれる一種又は二種以上の銅イオンと、還元力を有するカルボン酸からなる銅塩が挙げられ、中でも、安定性、及び入手の容易さから、還元力を有するカルボン酸と二価の銅イオンからなる銅塩が好ましい。
【0052】
例えば、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩としては、具体的には、ギ酸銅、ヒドロキシ酢酸銅、グリオキシル酸銅、乳酸銅、シュウ酸銅、酒石酸銅、リンゴ酸銅、及びクエン酸銅からなる群より選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。これらの中でも、コストの面から、ギ酸銅、及び/又はシュウ酸銅が好ましい。
【0053】
本発明の複合体微粒子において、これら以外の還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩を使用しても差し支えないが、入手が困難であったり、高価であったりするため、工業的に不利となる場合がある。
【0054】
本発明の複合体微粒子において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の純度については特に限定するものではないが、あまりにも低純度であると導電性薄膜とした際に、導電性に悪影響を与えるおそれがあるため、95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0055】
本発明において、「触媒金属」とは、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩に含まれる銅イオンを、還元力を有するカルボン酸により還元して銅金属とする反応において、触媒機能(特に、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の反応温度を低下させる機能)を有する金属を意味する。このような金属としては、特に限定するものではないが、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含有するものが挙げられる。これらの金属種は、単体であってもその他の金属との合金であっても差し支えない。これらの中でも、コスト面、入手の容易さ、及び導電膜形成時の触媒能から、金、銀、銅、白金、及びパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含有するものであることが好ましく、銀、銅、及びパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含有するものであることが最も好ましい。上記した触媒機能を有するのであれば、これら以外の金属種を含有するものを使用しても差し支えないが、銅イオンにより金属が酸化を受けたり、触媒能が低下若しくは発現せず、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩から金属銅への還元析出速度が低下するおそれがあるため、上記した金属種を含有するものであることが好ましい。
【0056】
また、触媒金属の化学種としては、特に限定するものではないが、例えは、金属、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酸化物、水酸化物、亜硝酸塩、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩からなる群より選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。これらの中でも、触媒活性の点から金属であることが好ましい。
【0057】
本発明の複合体微粒子において、触媒金属の純度については特に限定するものではないが、低純度であると導電性薄膜とした際に、導電性に悪影響を与えるおそれがあるため、95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0058】
本発明において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子の一次平均粒子径は、特に限定するものではないが、10nm以上、5μm未満の範囲であることが好ましい。粒子径が10nm未満になると、粒子表面の活性が非常に高くなり、溶解するおそれがある。そして、複合体微粒子が溶解した場合、再析出した際に、他の微粒子を核として析出し、微粒子の粗大化を引起すおそれがある。また、5μm以上では、印刷法により配線等のパターン形成できる導電膜形成用組成物への適応が困難となるばかりでなく、導電膜を形成する際に、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子の内部まで完全に反応せず、金属銅への還元が不十分となり、形成された導電膜の導電性に悪影響を及ぼすおそれがある。よって、上記範囲内であることが望ましい。
【0059】
本発明において、「還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と、触媒金属との複合体微粒子」とは、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と、触媒金属とが、物理的及び/又は化学的な手法により複合化した複合体の微粒子を意味する。複合体としては、物理的な複合体であっても、化学的な複合体であっても、又はその両方が含まれても差し支えなく、特に限定されない。
【0060】
物理的な複合体としては、例えば、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩上へ、触媒金属を担持した複合体、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩上へ、触媒金属を吸着させた複合体、及び還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩上へ、触媒金属を析出させた複合体等からなる群より選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。また、化学的な複合体としては、例えば、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属を複合塩化した複合体、及び、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の一部を、触媒金属と合金化した複合体等からなる群より選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。これらの中でも、製造のコストや工程数を考慮すると、物理的な複合体である、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩上へ、触媒金属を析出させた複合体が好ましい。
【0061】
本発明の複合体微粒子において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子の粒子径の測定方法としては、一般的な粒子の測定方法を用いることができる。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM),電界放射型透過電子顕微鏡(FE−TEM),電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)等を適宜使用することができる。
【0062】
具体的には、上記装置を用いて複合体微粒子を観測し、観測された視野の中から、粒子径が比較的そろっている箇所を複数箇所(例えば、3箇所程度)選択し、粒径測定に最も適した倍率で撮影する。各々の写真から、一番多数存在すると思われる粒子を100個選択し、それらの直径をものさしで測り、測定倍率を除して粒子径を算出する。そして、これらの値を算術平均することにより、複合体微粒子の一次平均粒子径の値を求めることができる。
【0063】
本発明において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子中の、触媒金属の含有量は特に限定されない。例えば、触媒金属の含有量が、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の重量に対して、0.01〜100重量%の範囲であることが好ましく、5〜60重量%の範囲であることがさらに好ましい。触媒金属の含有量が0.01重量%未満であると、触媒能が発現しないおそれがあり、金属銅への還元が起こらないか、若しくは還元速度が著しく低下する場合がある。また、触媒金属の含有量を100重量%を超えて使用しても、入れただけの向上効果が得られないだけでなく、導電膜形成用組成物の単位重量当たりの金属銅の含有量が低下し、工業的に不利である。
【0064】
次に、本発明の複合体微粒子の製造方法について説明する。
【0065】
本発明の製造方法において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子を製造とする方法としては、特に限定するものではないが、例えば、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体を粉砕し微細化する方法、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合溶液から微細粒子を析出させる方法、及び予め微粒子化した還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩を触媒金属と複合化する方法等が挙げられる。これらの中でも、安定した生産性や、操作の簡便さを考慮すると、予め微粒子化した還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩を触媒金属と複合化する方法が好ましい。
【0066】
また、複合化の方法としては、物理的な複合化方法であっても、化学的な複合化方法であっても、又はその両方の方法を行っても差し支えなく、特に限定されない。物理的な複合化方法としては、例えば、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩上へ触媒金属を担持する方法、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩上へ触媒金属を吸着させる方法、及び還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩上へ触媒金属を析出させる方法等からなる群より選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。また、化学的な複合方法としては、例えば、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属を複合塩化する方法や、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の一部を、触媒金属と合金化する方法等が挙げられる。これらの中でも、製造のコストや工程数を考慮すると、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩上へ触媒金属を析出させる方法が好ましい。
【0067】
本発明の製造方法において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子を製造とする方法としては、具体的には、a)還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子を製造する工程(以下、「a工程」と称する。)と、b)還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と触媒金属を複合化する工程(以下、「b工程」と称する。)とを含むことが好ましい。
【0068】
本発明の製造方法において、a工程は、複合体微粒子の基材である、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子を製造する工程であり、特にスクリーン印刷や、インクジェット印刷等の印刷法により配線等のパターン形成できる導電膜形成用組成物へ適応可能な粒子径を有する、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子を製造する工程である。
【0069】
本発明の製造方法において、b工程は、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子に触媒金属を導入する工程である。
【0070】
本発明の製造方法において、それぞれの工程の順序としては、特に限定するものではないが、a工程、b工程の順に、それぞれの工程が個別に行われることが好ましい。例えば、a、b両工程を同時に行っても差し支えは無いが、触媒金属の存在下で還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子の製造を行った場合、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩が反応し、変質してしまうおそれがある。
【0071】
また、例えば、a工程を省略することもできるが、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩を微粒子としない場合には、印刷法により配線等のパターン形成できる導電膜形成用組成物へ適応できなくなる場合がある。
【0072】
本発明の製造方法において、a工程、b工程以外の工程を追加して実施しても一向に差し支えない。例えば、表面処理工程、洗浄工程、加熱工程、冷却工程、焼成工程、精製工程、濾過工程、分級工程、その他薬液で処理する工程等を適宜実施することができる。また、特に限定するものではないが、a工程、b工程、それぞれの工程後には、乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥工程は、特に限定するものではないが、0〜60℃の温度範囲で行うことが好ましい。温度が0℃未満であると、乾燥が進行しないおそれがあり、60℃を越えると意図せず複合体微粒子の反応が進行する場合がある。
【0073】
a工程において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子を製造する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の粉末を機械的粉砕により粉砕する方法、及び還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の溶液から、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子を析出させる方法等が挙げられる。これらの中でも、粒子サイズの再現性が良好なことや、大量の溶媒、及び大規模な設備が必要ないことから、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の粉末を機械的粉砕により粉砕する方法が好ましい。
【0074】
a工程で製造される、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子としては、特に限定するものではないが、例えば、ギ酸銅微粒子、ヒドロキシ酢酸銅微粒子、グリオキシル酸銅微粒子、乳酸銅微粒子、シュウ酸銅微粒子、酒石酸銅微粒子、リンゴ酸銅微粒子、及びクエン酸銅微粒子からなる群より選ばれる一種又は二種以上である。中でも、コスト面、及び入手の容易さから、ギ酸銅微粒子、及び/又はシュウ酸銅微粒子が好ましい。
【0075】
a工程で製造される、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子の一次平均粒子径は、特に限定するものではないが、10nm以上、5μm未満の範囲であることが好ましい。粒子径が10nm未満になると、粒子表面の活性が非常に高くなり、溶解するおそれがある。銅塩の微粒子が溶解した場合、再析出した際に、他の微粒子を核として析出し、微粒子の粗大化を引起すおそれがある。また、5μm以上では、b工程で製造される還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と触媒金属との複合体微粒子の一次平均粒子径も、5μm以上となるため、印刷法により配線等のパターン形成できる導電膜形成用組成物への適応が困難となるおそれがあるばかりでなく、導電膜を形成する際に、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子の内部まで完全に反応せず、金属銅への還元が不十分となり、形成された導電膜の導電性に悪影響を及ぼすおそれがある。よって、上記範囲内であることが望ましい。
【0076】
a工程で原料として使用される、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の粉末としては、特に限定するものではないが、例えば、ギ酸銅粉末、ヒドロキシ酢酸銅粉末、グリオキシル酸銅粉末、乳酸銅粉末、シュウ酸銅粉末、酒石酸銅粉末、リンゴ酸銅粉末、及びクエン酸銅粉末からなる群より選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。これらの中でも、コスト面、及び入手の容易さから、ギ酸銅粉末、及び/又はシュウ酸銅粉末が好ましい。
【0077】
a工程で原料として使用される、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の粉末の一次平均粒子径は、特に限定するものではないが、5μm以上、10mm以下の範囲であることが好ましい。粒子径が5μm未満であれば、必ずしも粉砕する必要が無く、そのままb工程の原料として利用できる。また、10mmを超えると、機械的粉砕を行う上で効率が低下するおそれがある。よって、上記範囲内であることが望ましい。還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の粉末の一次平均粒子径が10mmを超える場合は、予備粉砕を行い上記範囲内の一次平均粒子径とすることが好ましい。
【0078】
a工程で原料として使用される、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の粉末としては、市販のものでも、公知の方法により合成したものでも良く、何ら差し支えなく使用することができ、特に限定されない。また、純度については特に限定するものではないが、あまりにも低純度であると導電性薄膜とした際に、導電性に悪影響を与えるおそれがあるため、95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0079】
a工程で利用される機械的粉砕とは、例えば、乾式であっても、湿式であっても一向に差し支えなく、特に限定されない。具体的には、乾式ボールミル、湿式ボールミル、ビーズミル、サンドミル、乾式ジェットミル、湿式ジェットミル、カッターミル、コロイドミル、ローラーミル、乳鉢、及び石臼からなる群の一種又は二種以上を用いることができる。中でも微細粒子が効率的に得られることから、ビーズミルを用いることが好ましい。
【0080】
ここで、ビーズミルに用いるビーズのサイズとしては、特に限定するものではないが、例えば、10μm〜30mmのものが挙げられる。10nm以上、5μm未満の範囲の一次平均粒子径を有する、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子を効率的に得るためには、30μm〜500μmのビーズを用いることがより好ましい。ビーズのサイズが10μm未満であると、粉砕力が著しく低下し、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の粉末を粉砕できないおそれがある。また、ビーズのサイズが30mmを超えると、粉砕効率が低下し、10nm以上、5μm未満の範囲の一次平均粒子径を有する、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子を得るために、工業的でない程時間を要するおそれがある。
【0081】
ビーズミルに用いるビーズの素材としては、特に限定するものではないが、例えば、ジルコニア、アルミナ、ガラス、鉄、窒化珪素、又はチタニア等が挙げられる。これらの中でも、粉砕力及び強度の点からジルコニアのビーズを用いることが好ましい。
【0082】
また、ビーズミルを行う際に共存させる媒体としては、特に限定するものではないが、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩を溶解しないものが好ましい。
【0083】
具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、デカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、2−メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、1−クロロナフタレン、ヘキサフルオロイソプロパノール等のハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール等のアルコール系溶媒、N−メチル−2−ピロリジノン、N−エチル−2−ピロリジノン等のN−アルキルピロリジノン系溶媒、N−メチル−ε−カプロラクタム、N−エチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム系溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N、N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン等の極性溶媒、及びジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、及びジメトキシエタン等のエーテル系溶媒からなる群より選ばれる一種又は二種以上が例示される。これら中でも環境面、安全面からエタノールが最も好ましい。
【0084】
本発明の製造方法において、b工程で、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と触媒金属を複合化する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、具体的には、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と、触媒金属前駆体を混合し、さらに還元剤を添加することで、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子上に触媒金属を還元析出させる方法等が挙げられる。
【0085】
b工程で使用される触媒金属前駆体としては、特に限定するものではないが、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含有する金属化合物が挙げられる。これらの中でも触媒金属前駆体としては、コスト面、入手の容易さ、及び導電膜形成時の触媒能から、金、銀、銅、白金、及びパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含有する金属化合物であることが好ましく、銀、銅、及びパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含有する金属化合物であることが、最も好ましい。
【0086】
また、触媒金属前駆体の化学種としては、触媒金属のイオンを含有する化合物であればよく、特に限定するものではないが、例えば、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酸化物、水酸化物、亜硝酸塩、硝酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩、及びアセチルアセトン誘導体との錯塩からなる群より選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。
【0087】
具体的には、フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、酸化銀、亜硝酸銀、硝酸銀、ギ酸銀、酢酸銀、アセチルアセトナト銀、フッ化銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、酸化銅、亜硝酸銅、硝酸銅、硫酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、アセチルアセトナト銅、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、酸化パラジウム、水酸化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、及びアセチルアセトナトパラジウムからなる群の一種又は二種以上が例示される。これらの中でも価格面、安全面から硝酸銀、及び/又は硝酸パラジウムが最も好ましい。
【0088】
本発明の製造方法において、触媒金属前駆体としては、市販のものでも、公知の方法により合成したものでも良く、さらには、触媒金属イオンを含む化合物と無機アニオン種、及び/又は有機アニオン種を混合すること等により、系中で形成させたものでも何ら差し支えなく使用することができ、特に限定されない。
【0089】
また、触媒金属前駆体の純度については特に限定するものではないが、低純度であると触媒能に悪影響を与えるおそれがあるため、95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0090】
本発明の製造方法において、b工程で使用される還元剤としては、特に限定するものではなく、触媒金属イオンを金属まで還元できる還元力を有する化合物であればよく、特に限定するものではないが、例えば、水素ガス、水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物、ヒドラジン類、ジオール類、ヒロドキシルアミン類、α−ヒドロキシケトン類、ボラン化合物、還元力を有する金属塩類、アルデヒド類、還元力を有するカルボン酸類、ポリフェノール類、ヒドロキシラクトン類、及び還元糖類等からなる群より選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。
【0091】
具体的には、水素ガス、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、ヒドラジン、モノエタノールアミン、ヒドロキシルアミン、ジメチルアミンボラン、硫酸第一鉄七水和物、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ギ酸、グリオキシル酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、タンニン酸、アスコルビン酸、グルコース、及びフルクトースからなる群より選ばれる一種又は二種以上が例示される。これらの中でも還元力が比較的弱い、ヒドラジン、及び/又はホルムアルデヒドが最も好ましい。
【0092】
b工程で使用される還元剤としては、市販のものでも、公知の方法により合成したものでも良く、特に限定されない。
【0093】
また、還元剤の純度については特に限定するものではないが、低純度であると触媒金属の還元、及び/又は複合化の進行に悪影響を与えるおそれがあるため、95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0094】
b工程での触媒金属前駆体の混合量としては、特に限定するものではないが、例えば、触媒金属前駆体の混合量が、触媒金属としての重量換算で、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子の重量に対して、0.01〜100重量%の範囲であることが好ましく、5〜60重量%であることがさらに好ましい。触媒金属前駆体の混合量が0.01重量%未満であると、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子へ複合化される触媒金属量が少く触媒能が発現しないおそれがあり、金属銅への還元が起こらないか、若しくは還元速度が著しく低下する場合があり、100重量%を超えて使用しても、入れただけの向上効果は得られないだけでなく、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と触媒金属との複合体微粒子の単位重量当たりの金属銅の含有量が低下し、工業的に不利である。
【0095】
b工程で使用する還元剤の量としては、触媒金属前駆体を完全に金属銅まで還元できる量であればよく、特に限定するものではないが、例えば、触媒金属前駆体1モル当量に対し、還元剤の量が1〜10モル当量であることが好ましく、1〜3モル当量であることがさらに好ましい。還元剤の量が触媒金属前駆体のモル数に対し、1モル当量未満では触媒金属への還元が完全に進行しないおそれがあり、10モル当量を超えて使用しても、入れただけの向上効果は得られない。
【0096】
b工程は、通常、媒体中において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と、触媒金属前駆体を混合し、さらに還元剤を添加することにより行われる。ここで使用する媒体としては、特に限定するものではないが、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子の溶解度が低く、触媒金属前駆体の溶解度が高く、還元剤と混和可能な媒体であることが好ましい。
【0097】
具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類が例示される。これらの中でも、コスト、及び安全性の面から、メタノール、エタノール、i−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールからなる群から選ばれる一種又は二種以上を用いることが好ましい。
【0098】
b工程で使用される媒体としては、電子材料として使用されることを考慮すると、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子が、イオン性物質やパーティクル等を極力低減させたものであることが好ましい。
【0099】
本発明の製造方法において、b工程では還元反応を制御するために、pH調整を行っても良い。pH調整を行うため塩基としては、例えば、アンモニア水の他、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウム等の四級アンモニウム塩が挙げられる。これらは電子材料用に市販されている高純度のものを使用することができるが、工業的に流通しているものを使用しても良い。
【0100】
本発明の製造方法において、b工程の温度は還元剤が触媒金属前駆体を完全に金属まで還元できる温度であればよく、特に制限されるものではないが、通常−50〜100℃の範囲であり、0〜60℃の範囲が好ましい。−50℃未満では、還元反応が極めて遅くなるおそれがあり、100℃を超える温度では、還元剤が分解する場合があるため、現実的ではない。
【0101】
次に、本発明の導電膜形成用組成物について説明する。
【0102】
本発明の導電膜形成用組成物は、上記した本発明の複合体微粒子を含有することをその特徴とする。
【0103】
本発明の導電膜形成用組成物は、加熱処理することにより、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子に含まれる、銅イオンが、還元力を有するカルボン酸により還元され銅金属となり、導電膜が形成され導電性が発現する。またこのとき、触媒金属は、銅イオンの還元を促す触媒の役割を果たす。
【0104】
本発明の導電膜形成用組成物としては、本発明の複合体微粒子と、配位性化合物及び/又は分散媒とを含有するものがより好ましい。
【0105】
本発明の複合体微粒子を、配位性化合物及び/又は分散媒に分散させることにより、インク状若しくはペースト状の導電膜形成用組成物として好適に用いることができる。
【0106】
本発明の導電膜形成用組成物において、配位性化合物とは還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子の分散性向上、及び/又は導電膜形成時の銅イオンの還元反応を安定化させる機能を有する。
【0107】
本発明において、「配位性化合物」とは、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子に対して配位能を有する化合物を意味する。このような化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、例えば、チオール基、ニトリル基、アミノ基、ヒドロキシル基、及びヒドロキシカルボニル基からなる群より選ばれる一種又は二種以上の極性官能基を有する単分子化合物や、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群より選ばれる一種又は二種以上のヘテロ原子を分子構造内に有するポリマー等が挙げられる。このような単分子化合物としては、例えば、チオール類、アミン類、又は脂式カルボン酸類が挙げられ、ポリマーとしては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、及びポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0108】
これらの中でも、溶解性及び導電膜形成時の除去性を考慮すると、アルカンチオール、脂肪族アミン、芳香族アミン、及び環状アミンからなる群より選ばれる一種又は二種以上の化合物が好ましい。
【0109】
具体的には、アルカンチオールとしては、例えば、エタンチオール、n−プロパンチオール、i−プロパンチオール、n−ブタンチオール、i−ブタンチオール、t−ブタンチオール、n−ペンタンチオール、n−ヘキサンチオール、シクロヘキサンチオール、n−ヘプタンチオール、n−オクタンチオール、2−エチルヘキサンチオール等が挙げられる。
【0110】
脂肪族アミンとしては、例えば、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、t−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン、n−ウンデシルアミン、n−ドデシルアミン、n−トリデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、ベンジルアミン、N−メチルエチルアミン、N−メチル−n−プロピルアミン、N−メチル−i−プロピルアミン、N−メチル−n−ブチルアミン、N−メチル−i−ブチルアミン、N−メチル−t−ブチルアミン、N−メチル−n−ペンチルアミン、N−メチル−n−ヘキシルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−メチル−n−ヘプチルアミン、N−メチル−n−オクチルアミン、N−メチル−2−エチルヘキシルアミン、N−メチル−n−ノニルアミン、N−メチル−n−デシルアミン、N−メチル−n−ウンデシルアミン、N−メチル−n−ドデシルアミン、N−メチル−n−トリデシルアミン、N−メチル−n−テトラデシルアミン、N−メチル−n−ペンタデシルアミン、N−メチル−n−ヘキサデシルアミン、N−メチル−ベンジルアミン等が挙げられる。
【0111】
芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、p−トルイジン、4−エチルアニリン、N−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジン、N−メチル−4−エチルアニリン等が挙げられる。
【0112】
環状アミンとしては、例えば、ピロリジン、ピロール、ピペリジン、ピリジン、ヘキサメチレンイミン、イミダゾール、ピラゾール、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、ホモピペラジン等が挙げられる。
【0113】
本発明の導電膜形成用組成物において、配位性化合物は市販のものでもよいし、公知の方法により合成したものでもよい。
【0114】
本発明の導電膜形成用組成物において、配位性化合物の純度は、特に限定するものではないが、電子材料分野での使用を考慮すると、95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0115】
本発明の導電膜形成用組成物において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子と、配位性化合物との組成比は特に限定するものではないが、例えば、導電膜形成用組成物全量に対し、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子の濃度が1〜99重量%の範囲、配位性化合物の濃度が1〜99重量%の範囲であることが好ましい。
【0116】
還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子の濃度が0.1重量%未満では、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子から生じる金属銅の量が少なく、十分な膜厚を有する導電膜を形成できないおそれがある。また、99重量%を超えると、導電膜形成用組成物の粘度上昇又は固化が起こり、作業性が低下するおそれがある。一方、配位性化合物の濃度が1重量%未満では、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子が十分に分散しないおそれがある。また、99重量%を超えて使用しても入れただけの向上効果が得られないばかりではなく、導電膜形成用組成物全量における銅の濃度が低下し、所望する膜厚の導電膜を得るための導電膜形成用組成物の塗布量が増加し、工業的に不利となる。
【0117】
本発明の導電膜形成用組成物において、分散媒は、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子の分散性、及び流動性を確保させる機能を有する。
【0118】
本発明の導電膜形成用組成物において、分散媒としては、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子、及び/又は配位性化合物と反応しないものであれば、特に限定するものではないが、例えば、アルコール類、エーテル類、エステル類、脂肪族炭化水素類、及び芳香族炭化水素類からなる群より選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。
【0119】
具体的には、アルコール類としては、例えば、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ターピネオール等が挙げられる。
【0120】
エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジブチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
【0121】
エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0122】
脂肪族炭化水素類としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、シクロヘキサン、デカリン等が挙げられる。
【0123】
芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、i−プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。これらの中でもコスト、及び安全性の面から、ヘキサノール、ターピネオール、メチル−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。
【0124】
本発明の導電膜形成用組成物において、分散媒は市販のものでもよいし、公知の方法により合成したものでもよい。
【0125】
本発明の導電膜形成用組成物において、分散媒の純度は、特に限定するものではないが、電子材料分野での使用を考慮すると、95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0126】
本発明の導電膜形成用組成物において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子と、分散媒との組成比は特に限定するものではないが、例えば、導電膜形成用組成物全量に対し、分散媒の濃度が0〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【0127】
分散媒の濃度が50重量%を超えて使用しても入れただけの向上効果が得られないばかりではなく、導電膜形成用組成物全量における銅の濃度が低下し、所望する膜厚の導電膜を得るための導電膜形成用組成物の塗布量が増加し、工業的に不利となる。
【0128】
本発明の導電膜形成用組成物は、上記成分に加えて、導電膜平滑化剤、濃度調整剤、表面張力調整剤、粘度調整剤等の添加剤を含有しても一向に差し支えない。
【0129】
本発明の導電膜形成用組成物において、導電膜平滑化剤としては、特に限定するものではないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ペンタエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ペンタエチレングリコールジメチルエーテル等の含酸素化合物を挙げることができる。これらより選ばれる一種又は二種以上を用いることが好ましい。
【0130】
本発明の導電膜形成用組成物において、濃度調整剤、表面張力調整剤、粘度調整剤としては、特に限定するものではないが、例えば、各成分と反応しない有機溶媒が挙げられ、所望の濃度、表面張力、粘度となるように適宜添加すればよい。このような有機溶媒としては、例えば、アルコール類、グリコール類、エーテル類、エステル類、炭化水素類及び芳香族炭化水素類からなる群より選ばれる一種、又は相溶性のある二種以上の混合物が挙げられる。これらには、本発明の導電膜形成用組成物において、分散媒として機能するものも含まれる。
【0131】
具体的には、アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ターピネオール等が挙げられる。
【0132】
グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられ、エーテル類としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
【0133】
エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、γ−ブチロラクトン等が挙げられ、炭化水素類としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、シクロヘキサン、デカリン等が挙げられる。
【0134】
芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、i−プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。
【0135】
本発明の導電膜形成用組成物における、上記した添加剤の濃度としては、特に限定するものではないが、導電膜形成用組成物全量に対し、添加剤の濃度が0〜50重量%の範囲であることが好ましく、0〜20重量%の範囲とするのがさらに好ましい。添加剤の濃度が50重量%を超えて使用しても、入れただけの向上効果は得られないだけでなく、導電膜形成用組成物の単位重量当たりの金属銅の含有量が低下し、工業的に不利である。
【0136】
次に本発明の導電膜の形成方法について説明する。
【0137】
本発明の導電膜の形成方法においては、本発明の導電膜形成用組成物を基材上に塗布した後に、加熱することによって、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子を還元させると共に、配位性化合物は、揮発し除去され、当該基材上に導電膜を容易に形成することができる。
【0138】
本発明の導電膜形成法において、基材としては、公知のものを用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、樹脂、紙、金属、ガラス、木材等が挙げられ、具体的には、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂)、アクリル樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート)、ポリアセタール樹脂、セルロース誘導体等の樹脂基材、非塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙、塗工印刷用紙(アート紙、コート紙)、特殊印刷用紙、コピー用紙(PPC用紙)、未晒包装紙(重袋用両更クラフト紙、両更クラフト紙)、晒包装紙(晒クラフト紙、純白ロール紙)、コートボール、チップボール段ボール等の紙基材、銅板、鉄板、アルミ板等の金属基材、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、シリカガラス、石英ガラス等のガラス基材、アルミナ、サファイア、ジルコニア、チタニア、酸化イットリウム、ITO(インジウム錫オキサイド)等の基材等が挙げられる。
【0139】
本発明の導電膜形成法において、導電膜形成用組成物を基材に塗布する方法としては、公知の方法によって行うことができ、特に限定するものではないが、例えば、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、インクジェット法、ディスペンサーでの塗布法等が挙げられる。塗布膜の形状としては面状であっても、ドット状であっても、問題は無く、特に限定されない。導電膜形成用組成物を基材に塗布する塗布量としては、所望する導電膜の膜厚に応じて適宜調整すればよいが、乾燥後の導電膜形成用組成物の膜厚が、通常0.01〜5000μmの範囲、好ましくは0.1〜1000μmの範囲となるよう塗布すれば良い。
【0140】
本発明の導電膜の形成方法において、加熱は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン等が挙げられる。これらの中でも安価なことから、窒素を用いることが好ましい。また、不活性ガス中には、形成された導電膜の酸化に大きな影響を与えない程度ならば酸素を含んでいても良く、その濃度は、通常5000ppm以下であり、500ppm以下がさらに好ましい。
【0141】
本発明の導電膜の形成方法において、加熱温度は、銅酸化物微粒子が還元剤により還元され、有機物が分解、揮発する温度であれば、特に制限はないが、通常60〜300℃の範囲であり、80〜200℃の範囲がさらに好ましい。加熱温度が60℃未満であると、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子の還元が完全に進行せず、また配位性化合物の残存が顕著になる場合があり、200℃を超えると有機基材を利用できなくなるおそれがある。
【0142】
本発明の導電膜の形成方法において、加熱時間は、所望する導電性により適宜選択すればよいが、200℃程度の加熱温度を設定した場合には、通常10〜60分程度である。
【実施例】
【0143】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定して解釈されるものではない。
【0144】
なお、以下の実施例において、微粒子の一次平均粒子径は、以下のとおり測定した。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて微粒子を観測し、観測された視野の中から、粒子径が比較的そろっている箇所をランダムに3箇所選択し、50,000倍の倍率で撮影した。それぞれの写真から、粒子を100個選択し、それらの直径をものさしで測り、測定倍率を除して粒子径を算出した。そして、これらの値を算術平均することにより得た値をその微粒子の一次平均粒子径とした。
【0145】
また、以下の実施例において、SEMは、日本電子社製、商品名「JSM T220A」を使用した。
【0146】
実施例1 銀−ギ酸銅複合体微粒子の調製.
エタノール40gにギ酸銅粉末(一次平均粒子径:21μm)2.24g、及びジルコニア製ビーズ(ニッカトー社製、商品名「YZT ボール」、サイズ:Φ0.1mm)150gを添加し、攪拌用モーターに連結した攪拌羽を用い、周速10m/秒で、12時間攪拌し粉砕を行った。次にこのスラリー状の混合物を、目開き0.075mmの篩に通し、さらにエタノール160gで洗浄し、ジルコニア製ビーズを分離し、ギ酸銅微粒子分散体を得た。このギ酸銅微粒子分散体をSEMで観測し、一次平均粒子径を求めたところ、210nmであった。
【0147】
次に、このギ酸銅微粒子分散体239gに、硝酸銀0.2g、37%ホルマリン水溶液1.0gを加え、硝酸銀を完全に溶解させた後、攪拌しながら、1M−NaOHエタノール溶液12mlを滴下した。さらに30分室温で攪拌した後、メンブレンフィルターでろ過し、減圧下、60℃で1時間乾燥させることで、銀−ギ酸銅複合体微粒子の黒色粉末1.65gを得た。この銀−ギ酸銅複合体微粒子をSEMで観測し、一次平均粒子径を求めたところ、224nmであった。
【0148】
また、銀−ギ酸銅複合体微粒子の銀、及び銅の元素分布状態をEPMA(電子線マイクロアナライザー、堀場製作所社製、商品名「EMAX5770W」)により測定したところ、ギ酸銅微粒子上に銀が万遍なく存在しており、銀とギ酸銅が複合化していることが確認された。また、誘導結合プラズマ発光分析装置(京都光研社製、商品名「UOP−1 MK−II」)を用い、各金属の含有量の測定を行った結果、得られた銀−ギ酸銅複合体微粒子は7.4重量%の銀と、37.6重量%の銅が含まれていた。
【0149】
実施例2 パラジウム−シュウ酸銅複合体微粒子の調製.
エタノール40gにシュウ酸銅粉末(一次平均粒子径:17μm)1.61g、及びジルコニア製ビーズ(ニッカトー社製、商品名「YZT ボール」、サイズ:Φ0.1mm)150gを添加し、攪拌用モーターに連結した攪拌羽を用い、周速10m/秒で、12時間攪拌し粉砕を行った。次にこのスラリー状の混合物を、目開き0.075mmの篩に通し、さらにエタノール160gで洗浄し、ジルコニア製ビーズを分離し、シュウ酸銅微粒子分散体を得た。このシュウ酸銅微粒子分散体をSEMで観測し、一次平均粒子径を求めたところ、243nmであった。
【0150】
次に、このシュウ酸銅微粒子分散体234gに、酢酸パラジウム0.24g、37%ホルマリン水溶液2.0gを加え、酢酸パラジウムを完全に溶解させた後、攪拌しながら、1M−NaOHエタノール溶液12mlを滴下した。さらに30分室温で攪拌した後、メンブレンフィルターでろ過し、減圧下、60℃で1時間乾燥させることで、パラジウム−シュウ酸銅複合体微粒子の黒色粉末1.59gを得た。このパラジウム−シュウ酸銅複合体微粒子をSEMで観測し、一次平均粒子径を求めたところ、254nmであった。
【0151】
また、パラジウム−シュウ酸銅複合体微粒子のパラジウム、及び銅の元素分布状態をEPMAにより測定したところ、シュウ酸銅微粒子上にパラジウムが万遍なく存在しており、パラジウムとシュウ酸銅が複合化していることが確認された。また、誘導結合プラズマ発光分析の結果、得られたラジウム−シュウ酸銅複合体微粒子は7.5重量%のパラジウムと、37.0重量%の銅が含まれていた。
【0152】
実施例3 銅−ギ酸銅複合体微粒子の調製.
エタノール40gにギ酸銅粉末(一次平均粒子径:21μm)2.24g、及びジルコニア製ビーズ(ニッカトー社製、商品名「YZT ボール」、サイズ:Φ0.1mm)150gを添加し、攪拌用モーターに連結した攪拌羽を用い、周速10m/秒で、12時間攪拌し粉砕を行った。次にこのスラリー状の混合物を、目開き0.075mmの篩に通し、さらにエタノール160gで洗浄し、ジルコニア製ビーズを分離し、ギ酸銅微粒子分散体を得た。このギ酸銅微粒子分散体をSEMで観測し、一次平均粒子径を求めたところ、210nmであった。
【0153】
次に、このギ酸銅微粒子分散体239gに、硝酸銅0.19gを加え、硝酸銅を完全に溶解させた後、攪拌しながら、ヒドラジン1水和物0.025gを溶解させたエタノール溶液12mlを滴下した。さらに30分室温で攪拌した後、メンブレンフィルターでろ過し、減圧下、60℃で1時間乾燥させることで、銅−ギ酸銅複合体微粒子の濃緑色粉末1.63gを得た。この銅−ギ酸銅複合体微粒子をSEMで観測し、一次平均粒子径を求めたところ、294nmであった。
【0154】
誘導結合プラズマ発光分析装置(京都光研社製、商品名「UOP−1 MK−II」)を用い、金属含有量の測定を行った結果、得られた銅−ギ酸銅複合体微粒子は44.0重量%の銅が含まれていた。
【0155】
実施例4 銀−ギ酸銅複合体微粒子、ターピネオール、及びn−オクチルアミンを含有する導電膜形成用組成物の調製.
テトラヒドロフラン10gに銀−ギ酸銅複合体微粒子1.65g、ターピネオール2.24g、及びn−オクチルアミンを1.3g添加し、乳鉢で完全に分散状態になるまで十分に混練した。このスラリー状の混合物を、減圧条件で60℃を超えない温度で、テトラヒドロフランと余分な水分を留去することで、ペースト状の導電膜形成用組成物を調製した(以下、表記を簡潔にするため、ペーストAと称する)。このペーストは、1週間経過後も、完全な分散を保っていた。
【0156】
実施例5 パラジウム−シュウ酸銅複合体微粒子、ジエチレングリコールジメチルエーテル、及びN−エチルピペラジンを含有する導電膜形成用組成物の調製.
テトラヒドロフラン10gにパラジウム−シュウ酸銅複合体微粒子1.61g、ジエチレングリコールジメチルエーテル1.59g、及びN−エチルピペラジンを1.14g添加し、乳鉢で完全に分散状態になるまで十分に混練した。このスラリー状の混合物を、減圧条件で60℃を超えない温度で、テトラヒドロフランと余分な水分を留去することで、ペースト状の導電膜形成用組成物を調製した(以下、表記を簡潔にするため、ペーストBと称する)。このペーストは、1週間経過後も、完全な分散を保っていた。
【0157】
実施例6 銅−ギ酸銅複合体微粒子、及び2−エチルヘキシルアミンを含有する導電膜形成用組成物の調製.
テトラヒドロフラン10gに銅−ギ酸銅複合体微粒子1.63g、及び2−エチルヘキシルアミンを1.3g添加し、乳鉢で完全に分散状態になるまで十分に混練した。このスラリー状の混合物を、減圧条件で60℃を超えない温度で、テトラヒドロフランと余分な水分を留去することで、ペースト状の導電膜形成用組成物を調製した(以下、表記を簡潔にするため、ペーストCと称する)。このペーストは、1週間経過後も、完全な分散を保っていた。
【0158】
比較例1 銀−ギ酸銅複合体粉末の調製、並びに、銀−ギ酸銅複合体、ターピネオール、及びn−オクチルアミンを含有する導電膜形成用組成物の調製.
ギ酸銅粉末(一次平均粒子径:21μm)2.24gに、エタノール230g、硝酸銀0.2g、37%ホルマリン水溶液1.0gを加え、硝酸銀を完全に溶解させた後、攪拌しながら、1M−NaOHエタノール溶液12mlを滴下した。さらに30分室温で攪拌した後、メンブレンフィルターでろ過し、減圧下、60℃で1時間乾燥させることで、銀−ギ酸銅複合体粉末の黒色粉末1.72gを得た。この銀−ギ酸銅複合体をSEMで観測し、一次平均粒子径を求めたところ、20μmであった。
【0159】
また、銀−ギ酸銅複合体粉末の銀、及び銅の元素分布状態をEPMA(電子線マイクロアナライザー、堀場製作所社製、商品名「EMAX5770W」)により測定したところ、ギ酸銅粉末上に銀が万遍なく存在しており、銀とギ酸銅粉末が複合化していることが確認された。また、誘導結合プラズマ発光分析装置(京都光研社製、商品名UOP−1 MK−II)を用い、各金属の含有量の測定を行った結果、得られた銀−ギ酸銅複合体微粒子は7.5重量%の銀と、38.1重量%の銅が含まれていた。
【0160】
続いて、テトラヒドロフラン10gに、銀−ギ酸銅複合体粉末2.24g、ターピネオール2.24g、n−オクチルアミン1.3g順次添加し、乳鉢で完全に分散状態になるまで十分に混練した。このスラリー状の混合物を、減圧条件で60℃を超えない温度で、テトラヒドロフランと余分な水分を留去することで、ペースト状の導電膜形成用組成物を調製した(以下、表記を簡潔にするため、ペーストDと称する)。このペーストは、1週間経過後には、青色に着色しているが透明な上澄液と、黒色の沈殿物とに分離しており、均一性を長期間保持できなかった。
【0161】
実施例7〜実施例9、比較例2 導電性評価、及び断線評価.
実施例4〜実施例6、比較例1で調製したペーストA〜Dを、スクリーン印刷法(スクリーン仕様、メッシュ数:200、線径:40μm、織厚:115μm、目開き:87μm、空間率:46.9%、ペースト透過体積:53.94mg/cm)を用いてガラス基板上に塗布し、幅2mm×長さ30mm、膜厚54μmの均一な塗布膜とした。次に、窒素ガスを6L/分の流量で流通した加熱炉で、これらペーストを塗布したガラス基材を30分間、加熱処理を行い、導電膜を得た。加熱温度は、表1に示した。形成された各導電膜について、表面抵抗値を四探針抵抗測定機(三菱化学社製商品名、「ロレスタGP」)にて測定した。
【0162】
また、形成された各導電膜を切断し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、各導電膜の平均膜厚を評価した。すなわち、各導電膜について、走査型電子顕微鏡(SEM)で観測した視野の中から、ランダムに3箇所選択し、5000倍の倍率で撮影を行い、それぞれの写真において、導電膜の膜厚を計測し、これらの値を撮影倍率で除し、3箇所の膜厚を算術平均して得られた値を各導電膜の平均膜厚とした。
【0163】
導電性の評価は、各導電膜において、表面抵抗値と、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察結果から得られた平均膜厚から算出した体積抵抗値の比較により行った。
【0164】
また、断線評価については、目視で配線の断線を確認し、
断線が無い場合:○,
断線がある場合:×,
と評価した。
【0165】
これら評価の結果を表1に併せて示す。
【0166】
【表1】

表1から明らかなとおり、実施例7〜9において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子を含有する導電膜形成用組成物を用いて形成された配線は、いずれも良好な導電性を示し、また断線も全く見られなかった。
【0167】
これに対し、比較例2において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体粉末を含有する導電膜形成用組成物を用いて形成された配線は、導電性が低いばかりでなく、スクリーンメッシュの目詰まりに伴う印刷不良により、配線を均一に塗布できず、加熱処理後も断線が見られた。
【0168】
実施例10 銀−ギ酸銅複合体微粒子、ジエチレングリコールジメチルエーテル、及びn−オクチルアミンを含有する導電膜形成用組成物の調製.
テトラヒドロフラン10gに、銀−ギ酸銅複合体微粒子1.65g、ジエチレングリコールジメチルエーテル2.24g、及びn−オクチルアミンを1.3g添加し、乳鉢で完全に分散状態になるまで十分に混練した。このスラリー状の混合物を、減圧条件で60℃を超えない温度で、テトラヒドロフランと余分な水分を留去することで、ペースト状の導電膜形成用組成物を調製した(以下、表記を簡潔にするため、ペーストEと称する)。
【0169】
実施例11 パラジウム−シュウ酸銅複合体微粒子、ターピネオール、及びホモピペラジンを含有する導電膜形成用組成物の調製.
テトラヒドロフラン10gに、パラジウム−シュウ酸銅複合体微粒子1.61g、ターピネオール1.61g、及びN−エチルピペラジンを1.0g添加し、乳鉢で完全に分散状態になるまで十分に混練した。このスラリー状の混合物を、減圧条件で60℃を超えない温度で、テトラヒドロフランと余分な水分を留去することで、ペースト状の導電膜形成用組成物を調製した(以下、表記を簡潔にするため、ペーストFと称する)。
【0170】
実施例12 銅−ギ酸銅複合体微粒子、及びn−ブタンチオールを含有する導電膜形成用組成物の調製.
テトラヒドロフラン10gに、銅−ギ酸銅複合体微粒子1.63g、及びn−ブタンチオールを0.90g添加し、乳鉢で完全に分散状態になるまで十分に混練した。このスラリー状の混合物を、減圧条件で60℃を超えない温度で、テトラヒドロフランと余分な水分を留去することで、ペースト状の導電膜形成用組成物を調製した(以下、表記を簡潔にするため、ペーストGと称する)。
【0171】
比較例3 ギ酸銅、及びn−オクチルアミンを含有する導電膜形成用組成物の調製.
テトラヒドロフラン10gに、ギ酸銅2.24g、n−オクチルアミン5.2g順次添加した。室温で、完全に溶解するまで10分間攪拌し、均一な溶液とした。この溶液を、0.5μmメンブランフィルターで濾過した後、得られた濾液中のテトラヒドロフランを、減圧濃縮により脱溶剤して、導電膜形成用組成物を調製した(以下、表記を簡潔にするため、ペーストHと称する)。
【0172】
比較例4 ギ酸銅微粒子、及びn−オクチルアミンを含有する導電膜形成用組成物の調製.
テトラヒドロフラン10gにギ酸銅微粒子2.24g、n−オクチルアミン1.3g順次添加し、乳鉢で完全に分散状態になるまで十分に混練した。このスラリー状の混合物を、減圧条件で60℃を超えない温度で、テトラヒドロフランと余分な水分を留去することで、ペースト状の導電膜形成用組成物を調製した(以下、表記を簡潔にするため、ペーストIと称する)。
【0173】
実施例13〜実施例15、比較例5、比較例6 導電性評価、及び形状安定性評価.
実施例10〜実施例12、比較例3、比較例4で調製したペーストE〜Iを、ガラス基材上にバーコーターを用いて塗布し、2mm×30mm、膜厚90μmの均一な塗布膜とした。次に、窒素ガスを6L/分の流量で流通した加熱炉で、これら塗布液を塗布したガラス基材を30分間、加熱処理を行い、導電膜を得た。加熱温度は、表1に示した。形成された各導電膜について、表面抵抗値を四探針抵抗測定機(三菱化学社製、商品名「ロレスタGP」)にて測定した。
【0174】
また、形成された各導電膜を切断し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、各導電膜の平均膜厚を評価した。すなわち、各導電膜について、走査型電子顕微鏡(SEM)で観測した視野の中から、ランダムに3箇所選択し、5000倍の倍率で撮影を行い、それぞれの写真において、導電膜の膜厚を計測し、これらの値を撮影倍率で除し、3箇所の膜厚を算術平均して得られた値を各導電膜の平均膜厚とした。
【0175】
導電性の評価は、各導電膜において、表面抵抗値と、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察結果から得られた平均膜厚から算出した体積抵抗値の比較により行った。
【0176】
また、形状安定性については、各ペースト塗布時の塗布サイズからの加熱処理後の面積変化率を下式により求め、評価した。
【0177】
面積変化率(%)=[(加熱処理後面積/塗布時面積)−1]×100。
【0178】
これら評価の結果を表2に併せて示す。
【0179】
【表2】

表2から明らかなとおり、実施例13〜実施例15において、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と触媒金属との複合体微粒子、及び配位性化合物を含有する導電膜形成用組成物を用いて形成された導電膜は、いずれも良好な導電性を示し、また加熱処理前後の形状安定性も優れていた。
【0180】
これに対し、比較例5において、ギ酸銅を完全に溶解させた導電膜形成用組成物を用いて形成された導電膜は、導電性は大差ないものの、加熱処理前後の形状安定性が劣っていた。
【0181】
また、比較例6において、触媒金属と複合化していない、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と、配位性化合物を含有する導電膜形成用組成物を用いて形成された導電膜は、触媒金属が無いこと以外の条件は同一である実施例13と比較し、導電性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩と、触媒金属との複合体微粒子。
【請求項2】
還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩が、ギ酸銅、ヒドロキシ酢酸銅、グリオキシル酸銅、乳酸銅、シュウ酸銅、酒石酸銅、リンゴ酸銅、及びクエン酸銅からなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合体微粒子。
【請求項3】
触媒金属が、金、銀、銅、白金、及びパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合体微粒子。
【請求項4】
触媒金属の含有量が、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の重量に対して0.01〜100重量%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の複合体微粒子。
【請求項5】
一次平均粒子径が、10nm〜5μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の複合体微粒子。
【請求項6】
a)還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子を製造する工程と、b)還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と触媒金属を複合化する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合体微粒子の製造方法。
【請求項7】
還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子が、ギ酸銅微粒子、ヒドロキシ酢酸銅微粒子、グリオキシル酸銅微粒子、乳酸銅微粒子、シュウ酸銅微粒子、酒石酸銅微粒子、リンゴ酸銅微粒子、及びクエン酸銅微粒子からなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子の一次平均粒子径が、10nm以上、5μm未満の範囲であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
触媒金属が、金、銀、銅、白金、及びパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属種を含むことを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
b)還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と触媒金属を複合化する工程が、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子と、触媒金属前駆体を混合し、さらに還元剤を添加することで、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子上に触媒金属を還元析出させる方法により行われることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
触媒金属前駆体が、フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、酸化銀、亜硝酸銀、硝酸銀、ギ酸銀、酢酸銀、アセチルアセトナト銀、フッ化銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、酸化銅、亜硝酸銅、硝酸銅、硫酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、アセチルアセトナト銅、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、酸化パラジウム、水酸化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、及びアセチルアセトナトパラジウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
触媒金属前駆体の混合量が金属としての重量換算で、還元力を有するカルボン酸と銅イオンからなる銅塩の微粒子の重量に対して、0.01〜100重量%の範囲であることを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合体微粒子を含有することを特徴とする導電膜形成用組成物。
【請求項14】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合体微粒子と、配位性化合物及び/又は分散媒を含有することを特徴とする導電膜形成用組成物。
【請求項15】
配位性化合物が、アルカンチオール、脂肪族アミン、芳香族アミン、及び環状アミンからなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項14に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項16】
導電膜形成用組成物全量に対し、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の複合体微粒子の濃度が1〜99重量%であり、かつ配位性化合物の濃度が1〜99重量%の範囲であることを特徴とする請求項14又は請求項15に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項17】
分散媒が、ヘキサノール、ターピネオール、メチル−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項14乃至請求項16のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。
【請求項18】
導電膜形成用組成物全量に対し、分散媒の濃度が0〜50重量%の範囲であることを特徴とする請求項14乃至請求項17のいずれかに記載の導電膜形成用組成物。
【請求項19】
請求項13乃至請求項18のいずれかに記載の導電膜形成用組成物を、基材に塗布し、非酸化性雰囲気下で加熱して、基板上に導電膜を形成することを特徴とする導電膜の形成方法。
【請求項20】
非酸化性雰囲気が、ヘリウム雰囲気、窒素雰囲気、及びアルゴン雰囲気からなる群より選択されることを特徴とする請求項19に記載の導電膜の形成方法。
【請求項21】
加熱の温度が60℃〜300℃の範囲であることを特徴とする請求項19又は請求項20に記載の導電膜の形成方法。

【公開番号】特開2011−122177(P2011−122177A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278236(P2009−278236)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】