説明

複合分析装置及び複合分析方法

【課題】複数の試料について,同時にX線回折測定と熱分析測定を実施できるようにする。
【解決手段】集中法によるX線回折測定の際には,第1アーム20と第2アーム22を互いに逆方向に,同じ角速度で連動回転する。Z方向に細長いライン状のX線ビーム30について,入射側のソーラースリット26でZ方向の発散を制限してから,このX線ビーム30を粉末試料14,16に同時に照射する。試料14からの回折X線と,試料16からの回折X線を,受光側のソーラースリット32でZ方向の発散を制限してから,少なくともZ方向に位置感応型のX線検出器34で,区別して検出する。また,X線回折測定と同時に,二つの試料14,16について,熱分析測定を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の試料について同時にX線回折測定と熱分析測定を行う複合分析装置及び複合分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の試料について同時にX線回折測定を行うことについては,次の特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2000−338061号公報
【0003】
この特許文献1は,マトリックス状に配置された複数の試料の1列を同時にX線回折法で測定することを開示している。この特許文献1の図22は,ライン状のX線ビームを使った例を示しており,ライン状のX線ビームを湾曲結晶モノクロメータで反射させてから1列の複数の試料に照射し,複数の試料からの回折X線を,縦発散制限用のソーラースリットを通過させてから,2次元のX線検出器で検出している。このような光学系を採用することにより,複数の試料からの回折X線を,2次元のX線検出器上の異なる位置で別個に検出することができる。2次元のX線検出器としては,イメージングプレートやCCDカメラを例示している。
【0004】
また,本発明は,X線回折測定と熱分析測定を同時に実施することに関係しているが,この点については,次の特許文献2乃至特許文献4に開示されている。
【特許文献2】特開平10−19815号公報
【特許文献3】特開平11−132977号公報
【特許文献4】特開平11−295244号公報
【0005】
特許文献2と特許文献3はX線回折測定と熱分析測定(DTAやDSC)を同時に実施することを開示しており,特に,そのための試料ホルダーの構造を開示している。特許文献4はX線回折測定と熱分析測定(DTAやDSC)を同時に実施する際の測定データ表示方法を開示している。特許文献2乃至特許文献4に記載された技術においては,熱分析測定のために測定試料と標準試料とを用いているが,X線回折測定の対象となるのは測定試料だけであり,複数の試料を同時にX線回折法で測定することは開示していない。
【0006】
本発明は,さらに,位置感応型のX線検出器を用いて試料のX線回折測定を行うことに関係があるが,位置感応型のX線検出器,特に2次元CCDセンサ,を用いて回折X線を電子的に記録することは,次の特許文献5に開示されている。
【特許文献5】特開2005−91142号公報
【0007】
この特許文献5では,FFT(Full Frame Transfer/フルフレームトランスファー)型の2次元CCDセンサをTDI(Time Delay Integration)動作させることで,高速で高感度のX線回折測定を可能にしている。また,この特許文献5は,ブラッグ・ブレンタノの集中条件を満足した状態で粉末試料のX線回折測定を行うことも開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように,複数の試料を同時にX線回折法で測定することは公知であり,一方で,同一の試料に対してX線回折測定と熱分析測定を同時に実施することも公知である。しかしながら,複数の試料について,同時にX線回折測定と熱分析測定を実施することは知られておらず,そのための最適な装置構成を開発することが望まれている。
【0009】
そこで,この発明の目的は,複数の試料について,同時にX線回折測定と熱分析測定を実施することのできる最適な装置構成を備えた複合分析装置と,そのような装置を用いた複合分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の複合分析装置は次の(ア)乃至(ク)を備えている。(ア)X線の進行方向に垂直な断面形状が細長いライン状をしたX線ビームを発生するX線源。(イ)粉末状の第1試料を保持する第1保持部と,粉末状の第2試料を保持する第2保持部と基準温度部とを備えていて,前記第1保持部と前記第2保持部が前記X線ビームの断面の長手方向(以下,Z方向という)に区分けされていて,前記第1試料と前記第2試料に前記X線ビームが同時に照射されるような位置に前記第1保持部と前記第2保持部が配置されていて,前記第1試料の温度を検出する第1試料温度検出器と前記第2試料の温度を検出する第2試料温度検出器と前記基準温度部の温度を検出する基準温度検出器とが設けられている試料ホルダー。(ウ)前記第1試料と前記第2試料と前記基準温度部とを所望の温度に制御する温度制御手段。(エ)前記第1試料から出てくる第1回折X線と前記第2試料から出てくる第2回折X線を分離して検出できる,少なくともZ方向に位置感応型のX線検出器。(オ)前記第1試料及び前記第2試料と前記X線検出器との間に配置されて,Z方向のX線の発散を制限するZ方向発散制限装置。(カ)ブラッグ・ブレンタノの集中条件を満足するように,前記X線源と前記試料ホルダーと前記X線検出器の少なくとも二つを移動させるゴニオメータ制御装置。(キ)前記X線検出器の出力を受け取って,前記第1試料のX線回折データと前記第2試料のX線回折データを作成するX線回折データ処理部。(ク)前記第1試料温度検出器と前記第2試料温度検出器と前記基準温度検出器の出力を受け取って,前記第1試料の熱分析データと前記第2試料の熱分析データを作成する熱分析データ処理部。
【0011】
X線検出器は,少なくともZ方向に位置感応型の1次元または2次元のX線検出器であれば足りるが,好ましくはTDI動作をする2次元CCDセンサとすることができる。
【0012】
試料ホルダーは,熱分析用の粉末状の標準試料を保持する第3保持部を備えてもよく,その場合は,基準温度部は標準試料になる。標準試料を使わない場合は,試料ホルダーのホルダー本体部分(特に,第1保持部と第2保持部の間の部分)を基準温度部とすることができる。
【0013】
本発明の複合分析方法は次の(ア)乃至(オ)の段階を備えている。(ア)X線の進行方向に垂直な断面形状が細長いライン状をしたX線ビームを発生するX線源を準備する段階。(イ)粉末状の第1試料を保持する第1保持部と粉末状の第2試料を保持する第2保持部と基準温度部とを備えていて,前記第1保持部と前記第2保持部が前記X線ビームの断面の長手方向(以下,Z方向という)に区分けされていて,前記第1試料と前記第2試料に前記X線ビームが同時に照射されるような位置に前記第1保持部と前記第2保持部が配置されていて,前記第1試料の温度を検出する第1試料温度検出器と前記第2試料の温度を検出する第2試料温度検出器と前記基準温度部の温度を検出する基準温度検出器とが設けられている試料ホルダーを準備する段階。(ウ)前記第1試料から出てくる第1回折X線と前記第2試料から出てくる第2回折X線を分離して検出できる,少なくともZ方向に位置感応型のX線検出器を準備する段階。(エ)前記第1試料と前記第2試料を第1温度に設定した状態で,前記第1試料と前記第2試料に前記X線ビームを同時に照射して,ブラッグ・ブレンタノの集中条件を満足した状態で,前記X線検出器を用いて前記第1回折X線と前記第2回折X線を同時に検出し,かつ,前記第1試料温度検出器と前記第2試料温度検出器と前記基準温度検出器の出力を利用して,前記第1試料の熱分析データと前記第2試料の熱分析データを作成する段階。(オ)前記第1試料と前記第2試料を前記第1温度とは異なる第2温度に設定した状態で,前記第1試料と前記第2試料に前記X線ビームを同時に照射して,ブラッグ・ブレンタノの集中条件を満足した状態で,前記X線検出器を用いて前記第1回折X線と前記第2回折X線を同時に検出し,かつ,前記第1試料温度検出器と前記第2試料温度検出器と前記基準温度検出器の出力を利用して,前記第1試料の熱分析データと前記第2試料の熱分析データを作成する段階。
【0014】
入射側及び受光側のZ方向発散制限装置は,Z方向の発散角を狭く制限できるものであれば何でもよいが,例えば,その両方をソーラースリットとすることができる。これらのZ方向発散制限装置では,Z方向の発散角を例えば0.5度以下に制限することが好ましい。
【0015】
本発明における熱分析としては,例えば,DTA(示差熱分析)やDSC(示差走査熱量測定)とすることができる。DSCは,熱流束型DSC(定量DTA)でも熱補償型DSCでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,複数の試料について,同時にX線回折測定と熱分析測定を実施することができるので,異なる試料について同一の測定条件でX線回折データと熱分析データが同時に得られ,異なる試料間での測定結果の比較が容易かつ正確になる。また,異なる試料間の微妙な差異を明瞭に表すことができる。例えば,試料自体の微妙な差異(試料の水和の程度や,結晶性や配向性の程度の差異)が,外部条件(温度や湿度など)の変化に応じて,どのように応答するかを調べることができる。あるいは,同一の試料であっても,その試料に溶媒を滴下した場合と滴下しない場合とについて,外部条件に応じてどのような応答をするかを調べることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下,図面を参照して本発明の実施例を詳しく説明する。図1は,本発明の複合分析装置の一実施例の主要構成の斜視図であり,図2はその正面図である。ただし,図2において,試料ホルダー12の付近は試料14(16)を通る断面図となっている。
【0018】
図1と図2において,この複合分析装置は,試料ホルダー12に2種類の粉末試料14,16を別個に充填できるようになっていて,それらの2種類の粉末試料について,同時にX線回折測定と熱分析測定が可能になっている。この複合分析装置は,静止する中央部18と,回転可能な第1アーム20及び第2アーム22とを備えている。第1アーム20は水平な回転中心線24の周りに回転可能であり,第2アーム22も同じ回転中心線24の周りを回転可能である。集中法によるX線回折測定の際には,第1アーム20と第2アーム22は互いに逆方向に,同じ角速度で連動回転する。第1アーム20と第2アーム22を回転させる機構がゴニオメータである。
【0019】
第1アーム20にはX線管(X線焦点10だけを示す)と入射側ソーラースリット26と発散スリット28が搭載されている。この実施例では,X線管は回転対陰極X線管であり,ライン状のX線ビームを取り出せるように,ラインフォーカスのX線焦点10を用いている。X線焦点10からのX線ビーム30は,X線の進行方向に垂直な断面形状が細長いライン状をしている。X線焦点10の付近におけるX線ビーム30の断面寸法は,例えば,1mm×10mmである。
【0020】
入射側ソーラースリット26はX線焦点10と試料14,16との間に配置されている。この入射側ソーラースリット26はX線ビーム30の断面の長手方向(以下,Z方向という)の発散角(回折平面に垂直な方向の発散角,すなわち,縦発散の発散角)を小さい発散角に制限するもので,この実施例では,Z方向の発散角を0.5度以内に制限して,X線ビーム30のZ方向の平行化を図っている。
【0021】
発散スリット28は入射側ソーラースリット26と試料14,16の間に配置されている。この発散スリット28はX線ビーム30のZ方向に垂直な平面内での発散角(回折平面内の発散角,すなわち横発散の発散角)を所定の角度に制限するものである。例えば,横発散の発散角は2度程度に設定する。
【0022】
第2アーム22には受光側ソーラースリット32とX線検出器34が搭載されている。受光側ソーラースリット32は,試料14,16から出てくる回折X線36のZ方向の発散角を小さい発散角に制限するものであり,この実施例では,Z方向の発散角を0.5度以内に制限して,回折X線36のZ方向の平行化を図っている。
【0023】
静止部18には試料台38が固定されていて,この試料台38の上に試料ホルダー12を取り付けることができる。試料台38の上面は水平であり,試料ホルダー12も水平に配置される。図3に拡大して示すように,試料ホルダー12には,粉末状の第1試料14と粉末状の第2試料16と粉末状の標準試料40とを充填できる。第1試料14と第2試料16は,X線回折測定の対象であると同時に,熱分析測定の対象でもある。標準試料40はX線回折測定には関係がなく,第1試料14と第2試料16の熱分析測定のための基準温度を定めるための基準温度部として機能する。
【0024】
第1試料14と第2試料16はZ方向に区分けされていて,第1試料14と第2試料16に同時にライン状のX線ビーム30が照射されるような位置関係になっている。
【0025】
次に,試料ホルダー12の構造を詳しく説明する。図4は試料ホルダー12の平面図であり,図5は図4の5−5線断面図である。図4において,試料ホルダー12は粉末状の第1試料14と粉末状の第2試料16と粉末状の標準試料40を保持できる。各試料の平面寸法,すなわち,後述する凹部の平面寸法は,Z方向の幅Wが約5mmで,それに垂直な方向の長さLが約20mmである。
【0026】
図5において,この試料ホルダー12は,金属製で概略矩形の板状のホルダー本体42を備えている。このホルダー本体42に第1凹部44と第2凹部46と第3凹部48が形成されている。これらの凹部は試料容器をちょうど収納できる大きさになっている。粉末状の第1試料14を充填した第1容器50は第1凹部44に収納され,粉末状の第2試料16を充填した第2容器52は第2凹部46に収納され,粉末状の標準試料40を充填した第3容器54は第3凹部48に収納される。第1凹部44が本発明における第1保持部に相当し,第2凹部46が本発明における第2保持部に相当する。そして,標準試料40が基準温度部に相当する。ホルダー本体42の材質としては,比較的低温での使用(最高温度が600〜800℃程度まで)ならば,例えば,銅,銀またはアルミニウムを利用できる。最高温度が1100℃程度ならば,例えば,ニッケルを利用できる。最高温度が1200〜1500℃程度まで達するならば,例えば,白金または白金・ロジウム(90%Pt−10%Rh)を利用できる。また,金属と反応しやすい試料の場合には,石英ガラスを使うこともできる。
【0027】
第1凹部44の底部には第1感熱板56が固定されていて,第1感熱板56の上面に第1容器50の底面が接触する。同様に,第2凹部46の底部には第2感熱板58が固定されていて,第2感熱板58の上面に第2容器52の底面が接触し,第3凹部48の底部には第3感熱板60が固定されていて,第3感熱板60の上面に第3容器54の底面が接触する。第1感熱板56の裏側には第1熱電対62の接点が接着されていて,第1試料14の温度は第1容器50と第1感熱板56を介して第1熱電対62に伝わる。同様に,第2感熱板58の裏側には第2熱電対64の接点が接着されていて,第2試料16の温度は第2容器52と第2感熱板58を介して第2熱電対64に伝わる。第3感熱板60の裏側には第3熱電対66の接点が接着されていて,標準試料40の温度は第3容器54と第3感熱板60を介して第3熱電対66に伝わる。
【0028】
第1熱電対62と第2熱電対64と第3熱電対66の第1端子同士は互いに接続されている。第1熱電対62の第2端子と第3熱電対66の第2端子の間の熱起電力は,後述する熱分析データ処理部で測定され,この起電力が第1試料14と標準試料40との温度差ΔT1に相当する。同様に,第2熱電対64の第2端子と第3熱電対66の第2端子の間の熱起電力は,第2試料16と標準試料40との温度差ΔT2に相当する。
【0029】
試料ホルダーの変更例として,標準試料40を省略することもできる。図6は標準試料40を省略した試料ホルダー12aの平面図であり,図7は図6の7−7線断面図である。図6において,この試料ホルダー12aは第1試料14と第2試料16を保持することができるが,標準試料を保持する部分は存在しない。図7に示すように,試料ホルダー12aは,第1凹部44,第2凹部46,第1容器50,第2容器52,第1感熱板56,第2感熱板58,第1熱電対62,第2熱電対64については,図5に示す試料ホルダー12と同じである。図7の試料ホルダー12aに特徴的なことは,第1凹部44と第2凹部46の間において,ホルダー本体42aの部分68に,第3熱電対66の接点が接着されていることである。ホルダー本体42aの部分68が基準温度部として機能し,その温度が基準温度として第3熱電対66で検出される。このような標準試料省略型の試料ホルダーを用いて熱分析測定を実施すると,標準試料を用いた場合よりも,熱分析データの精度が若干劣ることが予想されるが,標準試料を使わない分だけ試料ホルダーを小型にできて,被加熱空間を縮小できる利点がある。
【0030】
図1と図2では,試料ホルダーの周囲に存在する加熱装置については図示を省略している。X線回折測定と熱分析測定を同時に実施できるタイプの試料加熱装置の構造については,例えば,上述の特許文献2または特許文献3に開示されており,本発明において,そのような試料加熱装置の構造を採用することができる。
【0031】
次に,図8〜図11を参照して,X線検出器34を説明する。このX線検出器34は,TDI動作が可能な2次元のCCDセンサである。図8は第1試料14及び第2試料16とX線検出器34との位置関係を示す斜視図である。X線回折測定の間,図2に示すように,X線焦点10は図2の時計方向にθ回転し,一方,X線検出器34は図2の反時計方向にθ回転する。そして,図2に示すように,試料14,16の比較的広い面積にわたって,Z方向に垂直な平面内で所定の発散角を有するX線ビーム30を入射角θで照射し,試料14,16からの回折X線36を,X線ビーム30に対して2θ方向に存在するX線検出器34で検出している。したがって,図2の複合分析装置は,X線回折法の部分についてはブラッグ・ブレンタノ(Bragg-Brentano)の集中法の光学系となっている。このような光学系により,試料14,16の粉末回折パターンをCCDセンサ34で記録できる。
【0032】
図8において,試料14と試料16の上に,Z方向に細長い領域70を考えると,この領域70から発生する回折X線36は,θ回転するCCDセンサ34の上下方向の中央付近でもっとも強度が強くなるが,そこを中心にして,上下方向に所定の強度分布を示す。TDI動作の2次元CCDセンサ34を用いると,そのような強度分布を同時に記録していくので(すなわち,通常の集中法では受光スリットで遮られて検出されない部分も記録していくので),高速で高感度の測定が可能になる。
【0033】
第1試料14から出てくる回折X線は,CCDセンサ34の左半分の領域72に含まれる画素で検出される。また,第2試料16から出てくる回折X線は,CCDセンサ34の右半分の領域74に含まれる画素で検出される。
【0034】
図9はCCDセンサ34の構成図である。このCCDセンサは,TDI動作が可能なフルフレームトランスファー(Full Frame Transfer:FFT)型のCCDセンサである。このCCDセンサは,N行×M列の画素を含んでいて,列横断方向がZ方向に一致するように配置される。この実施例では512行×512列の画素を含んでいる。各列では,第1行から第N行まで,受光部76が順番に並んでいる。各受光部76は,ひとつの画素を構成していて,電荷を蓄積するポテンシャルウェル(電子の井戸)となっている。そして,第1行から第N行までのN個の受光部が,アナログ式の垂直シフトレジスタを構成する。受光部76にX線が当たると,その受光部で信号電荷が発生し,そこに電荷が蓄積される。蓄積された電荷は,垂直転送クロック信号を受けるたびに,次の行に転送される。垂直転送クロック信号のパルス間隔が,TDI動作の転送周期に相当する。最終の第N行の電荷は,アナログ式の水平シフトレジスタ78に転送される。水平シフトレジスタ78は,第1列から第M列までのポテンシャルウェルで構成されている。水平シフトレジスタ78上の各列の電荷は,水平転送クロック信号を受けるたびに,次の列に転送される。そして,最後の第M列のポテンシャルウェルの電荷は,出力部80においてアナログ電圧信号に変換されて出力される。
【0035】
図2に示す複合分析装置において,CCDセンサ34をθ回転させながら,CCDセンサ34をTDI動作させて,回折パターンを記録するには,θ回転のスピードと,CCDセンサ34のTDI動作の転送周波数とを,所定の関係に設定しなければならない。そのためには,ゴニオメータ制御装置の側から,θ回転のスピードの制御に合わせた転送タイミング信号をCCDセンサに与えるのが好都合である。具体的には,TDI動作の転送周波数に,CCDセンサの画素の電荷転送方向(図8の行横断方向)のサイズを掛け算したものが,θ回転するCCDセンサの移動速度に等しくなるようにする。CCDセンサをTDI動作させて,θ回転するCCDセンサ上に回折パターンを記録するには,TDI動作の間は,CCDセンサは常に露光状態にしておく。
【0036】
図10は,図9の出力部80から出力された測定生データを一時的に記憶する記憶装置の記憶領域配列図である。測定生データを符号Sで表し,第1チャンネルの第1列の測定生データをS(1,1)と表現している。第1チャンネルの第1列から第M列までの測定生データS(1,1),S(1,2),S(1,3),……,S(1,M)は,第1チャンネル用のM個の記憶領域に格納される。同様に,第2チャンネル以降のデータも,それぞれの記憶領域に格納される。チャンネル番号が増加する方向が,θが増加する方向(すなわち,回折角2θが増加する方向)である。このように格納された2次元配列の測定生データを,そのまま表示装置等に表示すれば2次元の画像になる。また,第1列から第M列までのデータを合計して,T(1),T(2),……というように,ひとつのチャンネルに対してひとつのデータ(合計データ)を割り当てれば,1次元の測定結果になる。回折パターンを表示する場合には,横軸に回折角2θを,縦軸にその2θに対応するθのところのチャンネル番号の合計データをとればよい。TDI動作の2次元CCDセンサを用いたこのようなX線回折測定の詳細については上述の特許文献5に詳しく記載されている。
【0037】
この実施例では,図8に示すように,CCDセンサ34の多数の画素を左右の二つの領域72,74に分けて,そのそれぞれで別個に,列横断方向の記録値を合計している。図11は512行×512列の画素を,図8における左右二つの領域72,74に分けて(図11では上下に二つの領域に分けることに相当する),それぞれ別個に列横断方向の記録値を合計する様子を示す記憶領域配列図である。第1チャンネルについて説明すると,領域72に存在する第1列から第256列までの測定生データを合計したものがT(1,1)であり,領域74に存在する第257列から第512列までの測定生データを合計したものがT(1,2)である。領域72に含まれる複数の画素についての合計値T(1,1)は,第1試料14から出てくる回折X線の強度である。一方,領域74に含まれる複数の画素についての合計値T(1,2)は,第2試料16から出てくる回折X線の強度である。第2チャンネル以降も同様である。したがって,CCDセンサ34の領域72の記録データに基づいて回折パターンを表示すれば第1試料14の粉末回折パターンとなり,CCDセンサ34の領域74の記録データに基づいて回折パターンを表示すれば第2試料16の粉末回折パターンとなる。
【0038】
現実には,図8において,CCDセンサ34の領域72と領域74の境界付近の画素には,第1試料14からの回折X線と第2試料16からの回折X線が互いに多少混じって検出されることが考えられるので(Z方向の発散を完全にはゼロにはできないので),図11に示すような列横断方向の合計値をとるときに,上述の境界付近の画素のデータを列横断方向の合計値から除いてもよい。
【0039】
次に,図12を参照して,図1に示す複合分析装置の制御部と構造部の関係を説明する。X線管82は高圧電源84から電力が供給される。ゴニオメータ86は,図1の第1アーム20と第2アーム22を回転駆動するための機構であって,ゴニオメータ制御装置88によって制御される。X線検出器34の出力はX線回折データ処理部90に送られて,このX線回折データ処理部90で第1試料のX線回折データと第2試料のX線回折データが作成される。第1試料と第2試料と基準温度部は,所望の温度になるように加熱装置92で加熱される。加熱装置92は温度制御装置94によって制御される。第1試料と第2試料の熱分析データを得るには,通常は,所定の測定温度範囲における多くの温度について測定データを得ることになる。本発明は,第1試料と第2試料と基準温度部を,複数の温度(少なくとも,第1温度と第2温度)に設定して,熱分析データを取得する必要がある。温度制御装置94は,そのような複数の温度に設定する機能を有する。基準温度を所定のプログラム温度に沿って変化させるには,基準温度検出器66(図5の第3熱電対66に相当する)の出力を温度制御装置94にフィードバックして,基準温度部の温度をフィードバック制御すればよい。基準温度検出器66と,第1試料温度検出器62(図5の第1熱電対62に相当する)と,第2試料温度検出器64(図5の第2熱電対64に相当する)の出力は,熱分析データ処理部96に送られて,この熱分析データ処理部96で,図5に示すような第1の温度差ΔT1と第2の温度差ΔT2が求められて,それに基づいて第1試料の熱分析データと第2試料の熱分析データが作成される。
【0040】
図13は,図1に示す複合分析装置を用いて,二つの試料のX線回折測定と熱分析測定を同時に実施したときの測定結果を示すグラフである。第1試料は結晶質のテルフェナジン(Terfenadine)であり,第2試料はアモルファスのテルフェナジンである。試料ホルダーとしては図6と図7に示す標準物質省略型の試料ホルダー12aを使用した。図13において,左側が結晶質のテルフェナジンのDSC曲線のグラフとX線回折パターンのグラフである。X線回折パターンについては,DSC曲線の各温度に対応した位置に,そのときに得られたX線回折パターンを表示している。なお,X線回折パターンは,代表的な回折ピークだけを示している。また,各温度での回折パターンは適当に間引いて示してあり,特に,低角側の部分(回折ピークが現れている部分)については,,図面の煩雑さを避けるために,高角側の部分よりも少ない数(4分の1)の回折パターンだけを示している。X線回折の測定結果と熱分析の測定結果を図13のような形態で並べて表示することについては,上述の特許文献4に詳しく説明されている。
【0041】
図13の右側には,アモルファスのテルフェナジンのDSC曲線のグラフとX線回折パターンのグラフを示してある。このように,結晶質とアモルファスの二つの試料について,同時に,X線回折測定と熱分析測定を実施することで,単独の試料を別個に測定する場合と比較して,同一条件での異なる測定結果が得られて,試料の違いに基づくX線回折情報と熱分析情報の比較を正確に行うことができる。
【0042】
本発明は上述の実施例に限定されず,次のような変更が可能である。
(1)被測定試料は2種類に限定するものではなく,同時に3種類以上を測定できるようにしてもよい。
【0043】
(2)縦方向の発散を制限するために,ソーラースリットに代えて,その他の発散角制限手段を用いてもよい。例えば,ソーラースリットの代わりに分光器を配置することで,X線を単色化かつ平行化して,縦方向の発散を非常に小さくすることができる。
【0044】
(3)TDI動作の2次元CCDセンサの代わりに,少なくともZ方向に位置感応型の1次元または2次元の任意のX線検出器を用いることができる。本発明を実施するには,原理的には,θ方向(2θ方向)に位置感応型である必要はないので,Z方向だけに位置感応型であれば足りる。その場合,Z方向に多数の画素を備えたものであってもよいし,2種類の測定試料に合わせて2つの領域だけに区分けされた位置感応型であってもよい。
【0045】
(4)入射側ソーラースリットについては省略してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の複合分析装置の一実施例の主要構成の斜視図である。
【図2】図1の複合分析装置の正面図である。
【図3】試料ホルダーを拡大して示した斜視図である。
【図4】試料ホルダーの平面図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】試料ホルダーの変更例の平面図である。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【図8】試料とX線検出器との位置関係を示す斜視図である。
【図9】CCDセンサの構成図である。
【図10】図9の出力部から出力された測定生データを一時的に記憶する記憶装置の記憶領域配列図である。
【図11】512行×512列の画素を,図8における左右二つの領域に分けて,それぞれ別個に列横断方向の記録値を合計する様子を示す記憶領域配列図である。
【図12】図1の複合分析装置の制御部と構造部の関係を説明する説明図である。
【図13】測定結果のグラフである。
【符号の説明】
【0047】
10 X線焦点
12 試料ホルダー
14 第1試料
16 第2試料
24 回転中心線
26 入射側ソーラースリット
28 発散スリット
30 X線ビーム
32 受光側ソーラースリット
34 X線検出器
36 回折X線
38 試料台
40 標準試料
42 ホルダー本体
44 第1凹部
46 第2凹部
48 第3凹部
56 第1感熱板
58 第2感熱板
60 第3感熱板
62 第1熱電対
64 第2熱電対
66 第3熱電対
68 ホルダー本体の部分
82 X線管
84 高圧電源
86 ゴニオメータ
88 ゴニオメータ制御装置
90 X線回折データ処理部
92 加熱装置
94 温度制御装置
96 熱分析データ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のものを備える複合分析装置。
(ア)X線の進行方向に垂直な断面形状が細長いライン状をしたX線ビームを発生するX線源。
(イ)粉末状の第1試料を保持する第1保持部と粉末状の第2試料を保持する第2保持部と基準温度部とを備えていて,前記第1保持部と前記第2保持部が前記X線ビームの断面の長手方向(以下,Z方向という)に区分けされていて,前記第1試料と前記第2試料に前記X線ビームが同時に照射されるような位置に前記第1保持部と前記第2保持部が配置されていて,前記第1試料の温度を検出する第1試料温度検出器と前記第2試料の温度を検出する第2試料温度検出器と前記基準温度部の温度を検出する基準温度検出器とが設けられている試料ホルダー。
(ウ)前記第1試料と前記第2試料と前記基準温度部とを所望の温度に制御する温度制御手段。
(エ)前記第1試料から出てくる第1回折X線と前記第2試料から出てくる第2回折X線を分離して検出できる,少なくともZ方向に位置感応型のX線検出器。
(オ)前記第1試料及び前記第2試料と前記X線検出器との間に配置されて,Z方向のX線の発散を制限するZ方向発散制限装置。
(カ)ブラッグ・ブレンタノの集中条件を満足するように,前記X線源と前記試料ホルダーと前記X線検出器の少なくとも二つを移動させるゴニオメータ制御装置。
(キ)前記X線検出器の出力を受け取って,前記第1試料のX線回折データと前記第2試料のX線回折データを作成するX線回折データ処理部。
(ク)前記第1試料温度検出器と前記第2試料温度検出器と前記基準温度検出器の出力を受け取って,前記第1試料の熱分析データと前記第2試料の熱分析データを作成する熱分析データ処理部。
【請求項2】
請求項1に記載の複合分析装置において,前記X線検出器がTDI動作をする2次元CCDセンサであることを特徴とする複合分析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合分析装置において,前記試料ホルダーが,熱分析用の粉末状の標準試料を保持する第3保持部を備えていて,前記基準温度部は前記標準試料であることを特徴とする複合分析装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の複合分析装置において,前記試料ホルダーは板状のホルダー本体を備えていて,このホルダー本体に第1凹部と第2凹部が形成されていて,前記第1凹部が前記第1保持部を構成し,前記第2凹部が前記第2保持部を構成し,前記第1凹部と前記第2凹部の間のホルダー本体の部分が前記基準温度部であることを特徴とする複合分析装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の複合分析装置において,前記熱分析データ処理部は,前記第1試料温度検出器と前記第2試料温度検出器と前記基準温度検出器の出力を受け取って,前記第1試料の温度と前記基準温度部の温度との差分である第1の温度差と,前記第2試料の温度と前記基準温度部の温度との差分である第2の温度差とを求めて,前記第1の温度差に基づいて前記第1試料の熱分析データを作成し,前記第2の温度差に基づいて前記第2試料の熱分析データを作成することを特徴とする複合分析装置。
【請求項6】
次の段階を備える複合分析方法。
(ア)X線の進行方向に垂直な断面形状が細長いライン状をしたX線ビームを発生するX線源を準備する段階。
(イ)粉末状の第1試料を保持する第1保持部と粉末状の第2試料を保持する第2保持部と基準温度部とを備えていて,前記第1保持部と前記第2保持部が前記X線ビームの断面の長手方向(以下,Z方向という)に区分けされていて,前記第1試料と前記第2試料に前記X線ビームが同時に照射されるような位置に前記第1保持部と前記第2保持部が配置されていて,前記第1試料の温度を検出する第1試料温度検出器と前記第2試料の温度を検出する第2試料温度検出器と前記基準温度部の温度を検出する基準温度検出器とが設けられている試料ホルダーを準備する段階。
(ウ)前記第1試料から出てくる第1回折X線と前記第2試料から出てくる第2回折X線を分離して検出できる,少なくともZ方向に位置感応型のX線検出器を準備する段階。
(エ)前記第1試料と前記第2試料を第1温度に設定した状態で,前記第1試料と前記第2試料に前記X線ビームを同時に照射して,ブラッグ・ブレンタノの集中条件を満足した状態で,前記X線検出器を用いて前記第1回折X線と前記第2回折X線を同時に検出し,かつ,前記第1試料温度検出器と前記第2試料温度検出器と前記基準温度検出器の出力を利用して,前記第1試料の熱分析データと前記第2試料の熱分析データを作成する段階。
(オ)前記第1試料と前記第2試料を前記第1温度とは異なる第2温度に設定した状態で,前記第1試料と前記第2試料に前記X線ビームを同時に照射して,ブラッグ・ブレンタノの集中条件を満足した状態で,前記X線検出器を用いて前記第1回折X線と前記第2回折X線を同時に検出し,かつ,前記第1試料温度検出器と前記第2試料温度検出器と前記基準温度検出器の出力を利用して,前記第1試料の熱分析データと前記第2試料の熱分析データを作成する段階。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−17258(P2007−17258A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198622(P2005−198622)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】