説明

触媒劣化診断装置および触媒劣化診断方法

【課題】酸素センサの出力のずれにかかわらず、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定することができる触媒劣化診断装置および触媒劣化診断方法を提供する。
【解決手段】触媒劣化診断装置(80)は、内燃機関(10)の排気通路(30)に配置された触媒(60)の劣化を診断する装置であって、触媒に流入する排気ガスの空燃比を中心空燃比を境にリッチおよびリーンに交互に切替えるアクティブ制御を実行するアクティブ制御実行手段と、アクティブ制御の実行開始時における触媒の酸素吸蔵量である酸素吸蔵量初期値と、触媒の酸素吸蔵量が収束するまでアクティブ制御が継続されたときの触媒の酸素吸蔵量である酸素吸蔵量収束値と、を用いて、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定する硫黄濃度推定手段と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒劣化診断装置および触媒劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の排気通路に排気ガス浄化用の触媒を備える内燃機関システムが知られている。この触媒の中には酸素吸蔵能を有するものがある。酸素吸蔵能を有する触媒は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも大きくなる(すなわちリーンになる)と、排気ガスの過剰酸素を吸着保持し、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチになると吸着保持された酸素を放出する。したがって、酸素吸蔵能を有する触媒を使用することによって、運転条件によって実際の空燃比が理論空燃比から多少振れた場合であっても、三元触媒による酸素の吸蔵・放出作用によって空燃比のずれを吸収することができる。
【0003】
しかしながら、酸素吸蔵能を有する触媒が劣化した場合、触媒の浄化能力は低下してしまう。また、使用地域等によっては燃料中に硫黄(S)が比較的高濃度で含まれていることがある。このような燃料が供給された場合、排気ガスの硫黄成分が触媒に蓄積して、触媒の酸素吸着反応が妨げられる結果、触媒の酸素吸蔵能力が低下するおそれがある。
【0004】
しかしながら、この硫黄蓄積による触媒の性能低下は、一時的なものであることから、触媒の劣化診断においては、硫黄濃度による影響が排除されることが好ましい。そこで、特許文献1では、触媒の下流側に配置された酸素センサの出力に基づいて、排気ガスの硫黄濃度を推定する内燃機関の排気浄化装置が開示されている。この排気浄化装置は、触媒上流の空燃比をリーンからリッチへ切替えたときに、触媒下流に配置された酸素センサの出力電圧が規定出力へ到達しない場合に、排気ガスの硫黄濃度が高いと判定する。
【0005】
なお、本発明に関する他の先行技術文献として、特許文献2が挙げられる。特許文献2では、アクティブ制御、触媒劣化判定等に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−349250号公報
【特許文献2】特開2009−121414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、酸素センサに個体差がある場合、酸素センサの出力が当初の設計値とずれるおそれがある。また、排気ガスの影響によって酸素センサの出力が当初の設計値とずれるおそれもある。このように酸素センサの出力が当初の設計値とずれた場合、特許文献1に係る技術では、硫黄濃度推定の精度が悪化するおそれがある。
【0008】
本発明は、酸素センサの出力のずれにかかわらず、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定することができる触媒劣化診断装置および触媒劣化診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る触媒劣化診断装置は、内燃機関の排気通路に配置された触媒の劣化を診断する装置であって、前記触媒に流入する排気ガスの空燃比を中心空燃比を境にリッチおよびリーンに交互に切替えるアクティブ制御を実行するアクティブ制御実行手段と、前記アクティブ制御の実行開始時における前記触媒の酸素吸蔵量である酸素吸蔵量初期値と、前記触媒の酸素吸蔵量が収束するまで前記アクティブ制御が継続されたときの前記触媒の酸素吸蔵量である酸素吸蔵量収束値と、を用いて、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定する硫黄濃度推定手段と、を備えている。
【0010】
本発明に係る触媒劣化診断装置によれば、硫黄濃度推定手段が酸素吸蔵量初期値と酸素吸蔵量収束値とを用いて燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定することから、触媒下流に設けられた酸素センサの出力がずれた場合であっても、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定することができる。すなわち、触媒劣化診断装置によれば、酸素センサの出力のずれにかかわらず、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定することができる。
【0011】
上記構成は、前記触媒の酸素吸蔵量に基づいて、前記触媒の劣化状態を判定する劣化判定手段と、前記劣化判定手段の判定に用いられる前記触媒の酸素吸蔵量を、前記硫黄濃度推定手段の推定結果に基づいて補正する補正手段と、を備えていてもよい。この構成によれば、燃料または排気ガスの硫黄濃度が触媒の劣化判定に与える影響を少なくするまたは無くすことができる。それにより、触媒の劣化を精度よく診断することができる。
【0012】
本発明に係る触媒劣化診断方法は、内燃機関の排気通路に配置された触媒の劣化を診断する方法であって、前記触媒に流入する排気ガスの空燃比を中心空燃比を境にリッチおよびリーンに交互に切替えるアクティブ制御の実行開始時における前記触媒の酸素吸蔵量である酸素吸蔵量初期値と、前記触媒の酸素吸蔵量が収束するまで前記アクティブ制御が継続されたときの前記触媒の酸素吸蔵量である酸素吸蔵量収束値と、を用いて、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定する硫黄濃度推定ステップを含んでいる。
【0013】
本発明に係る触媒劣化診断方法によれば、硫黄濃度推定ステップにおいて酸素吸蔵量初期値と酸素吸蔵量収束値とを用いて燃料または排気ガスの硫黄濃度が推定されることから、触媒下流に設けられた酸素センサの出力がずれた場合であっても、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定することができる。すなわち、触媒劣化診断方法によれば、酸素センサの出力のずれにかかわらず、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定することができる。
【0014】
上記方法は、前記触媒の酸素吸蔵量に基づいて、前記触媒の劣化状態を判定する劣化判定ステップと、前記劣化判定ステップの判定に用いられる前記触媒の酸素吸蔵量を、前記硫黄濃度推定ステップの推定結果に基づいて補正する補正ステップと、を含んでいてもよい。この方法によれば、燃料または排気ガスの硫黄濃度が触媒の劣化判定に与える影響を少なくするまたは無くすことができる。それにより、触媒の劣化を精度よく診断することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸素センサの出力のずれにかかわらず、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定することができる触媒劣化診断装置および触媒劣化診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1に係るECU(触媒劣化診断装置)を備える内燃機関システムの構成を示す模式図である。
【図2】触媒のOSCと触媒の硫黄蓄積量との関係を示す図である。
【図3】アクティブ制御が行われたときの触媒のOSCの変化を示す図である。
【図4】ECUが劣化診断を行う際のフローチャートの一例を示す図である。
【図5】ECUが劣化診断を行う際のフローチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例1に係るECU80(触媒劣化診断装置)について説明する。図1は、ECU80を備える内燃機関システム5の構成を示す模式図である。内燃機関システム5は、内燃機関10、吸気通路20、排気通路30、インジェクタ40、スロットルバルブ50、第1触媒60、第2触媒65、各種検出手段(クランクポジションセンサ70、スロットルポジションセンサ71、エアフロメータ72、アクセルポジションセンサ73、空燃比センサ74および酸素センサ75)およびECU80を備えている。
【0019】
内燃機関10は、気筒内にピストン11を備えている。ピストン11はコンロッドを介してクランクシャフトに接続されている。クランクシャフトの近傍には、クランクポジションセンサ70が配置されている。クランクポジションセンサ70の出力はECU80に伝えられる。ECU80は、クランクポジションセンサ70の出力に基づいて、クランク角および内燃機関10の回転数を取得する。
【0020】
内燃機関10の吸気ポートには吸気通路20が接続されている。内燃機関10の排気ポートには排気通路30が接続されている。吸気通路20の上流には、インジェクタ40が配置されている。インジェクタ40は、ECU80に制御されて、燃料を噴射する。噴射された燃料は、吸気と共に内燃機関10の気筒内に供給される。
【0021】
吸気通路20のインジェクタ40より上流には、内燃機関10に供給される空気の量を調整するためのスロットルバルブ50が配置されている。スロットルバルブ50は、ECU80によって制御される。スロットルバルブ50の近傍には、スロットルポジションセンサ71が配置されている。スロットルポジションセンサ71の出力は、ECU80に伝えられる。
【0022】
吸気通路20のスロットルバルブ50より上流には、エアフロメータ72が配置されている。エアフロメータ72の出力は、ECU80に伝えられる。また、ECU80には、アクセル100の操作量を検出するためのアクセルポジションセンサ73の出力が伝えられる。ECU80は、クランクポジションセンサ70、スロットルポジションセンサ71、エアフロメータ72およびアクセルポジションセンサ73の出力に基づいて、適切なスロットル開度になるようにスロットルバルブ50を制御する。
【0023】
排気通路30の下流には、排気を浄化するための第1触媒60および第2触媒65が直列に配置されている。第1触媒60は第2触媒65よりも上流に配置されている。第1触媒60および第2触媒65として、酸素吸蔵能を有する三元触媒が用いられる。このような三元触媒として、例えば、二酸化セリウム、ジルコニア等の酸素吸蔵成分を含むコート材に、微粒子状の触媒成分(Pt、Pd等)が配置されたものを用いることができる。なお、酸素吸蔵能は、第1触媒60および第2触媒65が現状で吸蔵し得る最大酸素量である酸素吸蔵量(OSC;O Strage Capacity、単位はg)の大きさによって表される。
【0024】
排気通路30の第1触媒60より上流には、空燃比センサ74が配置されている。排気通路30の第1触媒60と第2触媒65との間には、酸素センサ75が配置されている。空燃比センサ74および酸素センサ75の出力は、ECU80に伝えられる。
【0025】
ここで、第1触媒60および第2触媒65は、流入する排気ガスの空燃比(A/F)が理論空燃比(ストイキ)のときに、排気浄化機能を最も発揮する。そこで、ECU80は、空燃比センサ74の出力が理論空燃比に一致するように、排気ガスの空燃比を制御する。具体的には、ECU80は、理論空燃比に近い目標空燃比を記憶しておく。ECU80は、空燃比センサ74の出力が目標空燃比に一致するように、インジェクタ40から噴射される燃料噴射量をフィードバック制御する。それにより、第1触媒60に流入する排気ガスの空燃比は理論空燃比近傍に保たれる。その結果、第1触媒60の排気浄化性能は、最大に発揮される。
【0026】
ECU80は、演算部としてのCPU81と、記憶部としてのROM82およびRAM83と、を備えるマイクロコンピュータである。ECU80は、ROM82に記憶されているプログラム等に基づいてRAM83を一時記憶メモリとして使用しながらCPU81が動作することによって、スロットルバルブ50およびインジェクタ40を制御する制御手段としての機能を有する。
【0027】
また、ECU80は、ROM82に記憶されているプログラム等に基づいてRAM83を一時記憶メモリとして使用しながらCPU81が動作することによって、第1触媒60の劣化を診断する触媒劣化診断装置としての機能も有している。
【0028】
続いて、ECU80による第1触媒60の劣化診断について説明する。これ以後の説明において、第1触媒60のことを、「触媒」と略称する。本実施例に係るECU80は、触媒の劣化状態を判定する劣化判定処理を行う。劣化判定処理において、ECU80は、触媒のOSCと基準値とを比較することによって、触媒の劣化状態を判定する。例えば触媒のOSCが基準値より大きい場合、ECU80は、触媒が正常であると判定する。触媒のOSCが基準値以下の場合、ECU80は、触媒が異常である(すなわち、劣化している)と判定する。
【0029】
しかしながら、触媒の劣化判定は、燃料および排気ガスの硫黄濃度によって影響を受けるおそれがある。図2は、触媒のOSCと触媒の硫黄蓄積量との関係を示す図である。縦軸はOSCを示し、横軸は触媒の硫黄蓄積量を示している。ライン200aは、硫黄濃度が所定値より低い通常燃料が用いられた場合のOSCを示している。ライン200bは、通常燃料より硫黄濃度が高い燃料が用いられた場合のOSCを示している。ライン200cは、ライン200bよりも硫黄濃度が高い燃料が用いられた場合のOSCを示している。
【0030】
図2から分るように、OSCと触媒の硫黄蓄積量とは、反比例の関係を有している。また、同一の硫黄蓄積量で比較した場合、燃料の硫黄濃度が高いほど、OSCは小さくなっている。燃料の硫黄濃度が高いほど排気ガスの硫黄濃度も高くなることから、触媒の硫黄蓄積量も多くなる。その結果、燃料の硫黄濃度が高いほど(または排気ガスの硫黄濃度が高いほど)、触媒のOSCは低下するのである。内燃機関10が長時間アイドリング運転された場合、低負荷で使用された場合等において、硫黄は触媒に蓄積しやすい。特に低温時において、触媒の硫黄蓄積量は多くなる傾向がある。
【0031】
このように、触媒のOSCは燃料の硫黄濃度および排気ガスの硫黄濃度によって影響を受けることから、触媒の劣化判定も燃料および排気ガスの硫黄濃度によって影響を受けるおそれがある。しかしながら、触媒の硫黄蓄積は、例えば、硫黄濃度の低い燃料が再度給油された場合等に、解消され得る。このように、硫黄被蓄積による触媒の性能低下(劣化)は一時的なものであることから、触媒の劣化判定においては、硫黄濃度による影響が排除されることが好ましい。
【0032】
そこで、本実施例に係るECU80は、燃料の硫黄濃度を推定する硫黄濃度推定処理を行う。ECU80は、この推定結果に基づいて、劣化判定処理で用いられる触媒のOSCを補正する補正処理を行う。ECU80は、補正処理で補正されたOSCを用いて、劣化判定処理を行う。すなわち、ECU80は、燃料の硫黄濃度を推定する硫黄濃度推定手段としての機能、触媒のOSCを補正する補正手段としての機能および触媒の劣化状態を判定する劣化判定手段としての機能を有している。
【0033】
ECU80による硫黄濃度推定処理の概要は、以下のとおりである。まず、ECU80は、触媒に流入する排気ガスの空燃比を中心空燃比を境にしてリッチおよびリーンに交互に切替えるアクティブ制御を行う。すなわち、ECU80は、アクティブ制御実行手段としての機能を有している。本実施例においては、中心空燃比として理論空燃比を用いる。アクティブ制御の具体的な実行手法については、特許文献2その他の公知のアクティブ制御に関する技術を用いることができるため、説明を省略する。
【0034】
図3は、アクティブ制御が行われたときの触媒のOSCの変化を示す図である。縦軸は触媒のOSCを示し、横軸はアクティブ制御実行開始からの経過時間を示している。ライン200dは、通常燃料が用いられた場合のOSCを示し、ライン200eおよびライン200fは、通常燃料より硫黄濃度が高い燃料が用いられた場合のOSCを示している。また、ライン200eは、ECU80が空燃比を中心空燃比よりリーン側に切替えた場合のOSCを示し、ライン200fは、ECU80が空燃比を中心空燃比よりリッチ側に切替えた場合のOSCを示している。
【0035】
図3から分るように、アクティブ制御実行開始からの経過時間が進行するにつれて、触媒のOSCは所定の値(A)に収束する。これは、触媒の硫黄蓄積量と硫黄放出量とのバランスが取れた状態になったことを意味している。この収束値(A)は、硫黄濃度と触媒の温度とによって一義的に定まる。
【0036】
そこで、ECU80は、アクティブ制御実行開始時における触媒のOSC(以下、OSC初期値と称する)と、アクティブ制御の実行が継続して触媒のOSCが収束した収束値(以下、OSC収束値と称する)と、に基づいて燃料の硫黄濃度を推定する。
【0037】
例えば、ECU80は、OSC初期値およびOSC収束値を算出し、両者の比(以下、OSC比と称する)を求める。ECU80は、このOSC比の大きさを用いて、燃料の硫黄濃度を推定する。例えば、燃料の硫黄濃度が低いほど、OSC初期値の値は小さくなる。よって、OSC初期値をOSC収束値で除したOSC比は、燃料の硫黄濃度が低いほど小さくなり、燃料の硫黄濃度が高いほど大きくなる。このように、OSC比に基づいて、燃料の硫黄濃度を推定することができる。例えば、ECU80は、OSC比から燃料の硫黄濃度を算出する際に参照するマップを事前に記憶部に記憶しておく。ECU80は、算出したOSC比に基づいてマップを参照することによって、燃料の硫黄濃度を推定することができる。
【0038】
なお、燃料の硫黄濃度を推定するために、ECU80はOSC初期値およびOSC収束値を算出する必要がある。続いて、ECU80によるOSC初期値およびOSC収束値の算出手法について説明する。
【0039】
OSC初期値については、ECU80は、アクティブ制御実行直前の触媒のOSCと、アクティブ制御実行開始直後のOSCと、に基づいて算出する。例えば、ECU80は、アクティブ制御実行直前の触媒のOSCとアクティブ制御実行開始直後のOSCとの差によって、OSC初期値を算出する。
【0040】
アクティブ制御実行直前の触媒のOSCは、例えば、アクティブ制御実行直前の触媒の温度に基づいて算出することができる。触媒の温度が低い程、触媒の硫黄蓄積量は多くなることから、触媒のOSCは低くなる。このように、触媒の温度と触媒のOSCとは相関関係を有していることから、触媒の温度に基づいて、アクティブ制御実行直前の触媒のOSCを算出することができるのである。すなわち、本実施例に係るECU80は、アクティブ制御実行直前の触媒の温度と、アクティブ制御実行開始直後のOSCと、に基づいて、OSC初期値を算出している。
【0041】
例えば、ECU80は、触媒の温度と触媒のOSCとの関係を示すマップを記憶部に記憶しておく。そしてECU80は、アクティブ制御実行直前の触媒の温度を取得し、この取得された温度に基づいてマップを参照することによって、アクティブ制御実行直前の触媒のOSCを算出する。
【0042】
なお、ECU80による触媒の温度の取得手法は、特に限定されない。ECU80は、触媒の温度を、例えば触媒に配置された温度センサの出力に基づいて取得してもよく、内燃機関10の運転状態から推定することによって取得してもよい。この触媒温度の推定手法は、例えば特許文献2その他の公知の触媒温度推定手法を用いることができるため、説明を省略する。
【0043】
一方、アクティブ制御実行直後の触媒のOSCは、アクティブ制御が1回実行されたときの空燃比変化量に基づいて算出される。なお、アクティブ制御が1回実行されたときとしては、空燃比がリーン側に1回切替えられたときおよび空燃比がリッチ側に1回切替えられたときのいずれか一方を用いることができる。
【0044】
具体的には、アクティブ制御実行直後の触媒のOSCは、下記式(1)を用いて算出する。なお、下記式(1)において空気量に代えて燃料噴射量を用いてもよい。
OSC=∫((空燃比センサ74の検出値−理論空燃比)×空気量)dt・・・(1)
【0045】
一方、硫黄濃度推定に用いられるOSC収束値については、ECU80は、アクティブ制御が最後に実行されたときにおける空燃比変化量に基づいて算出する。具体的には、ECU80は、上記式(1)を用いてアクティブ制御が最後に実行されたときにおけるOSCを求め、このOSCをOSC収束値として取得する。
【0046】
続いて、補正処理について説明する。ECU80は、燃料の硫黄濃度が触媒の劣化判定に及ぼす影響が少なくなるまたは無くなるように、触媒のOSCを補正する。例えば、補正処理において、ECU80は、硫黄蓄積によるOSC低下分を補えるようにOSCを増大させる。例えば、ECU80は、硫黄濃度推定処理で推定された硫黄濃度が高いほど、α×OSCの値が大きくなるようにαを算出し、算出されたαをOSCに乗じる。ECU80は、劣化判定処理において、補正後のOSCと劣化判定処理の基準値とを比較する。この場合、劣化判定処理で用いられるOSCが補正処理によって燃料の硫黄濃度の影響によるOSC低下分を補うように増大補正されていることから、燃料の硫黄濃度が触媒の劣化判定に及ぼす影響を少なくするまたは無くすことできる。
【0047】
図4および図5は、ECU80が劣化診断を行う際のフローチャートの一例を示す図である。なお、図4および図5は、一つのフローチャートを2つに分割して図示している。ECU80は、所定周期で図4および図5のフローチャートを繰り返し実行する。図4に示すように、ECU80は、触媒の劣化診断を開始するための開始条件が満たされたか否かを判定する(ステップS10)。開始条件は、特に限定されない。例えば、ECU80は、内燃機関10が定常運転状態であり、かつ触媒の温度が所定の活性温度域にある場合に、開始条件が満たされたと判定することができる。ECU80は、開始条件が満たされたと判定されるまで、ステップS10を繰り返し実行する。
【0048】
ステップS10において開始条件が満たされたと判定された場合、ECU80は、硫黄濃度推定完了フラグがクリアになっているか否かを判定する(ステップS20)。本実施例において、ECU80は、後述する硫黄濃度推定処理(ステップS110)が行われた場合に、硫黄濃度推定完了フラグを設定する。一方、ECU80は、内燃機関10が給油される毎に、硫黄濃度推定完了フラグをクリアにする。すなわち、本実施例において、硫黄濃度推定完了フラグがクリアになっているとは、硫黄濃度推定処理が給油後に未だ行われていないことを意味している。
【0049】
ステップS20において硫黄濃度推定完了フラグがクリアになっていると判定された場合、ECU80は、アクティブ制御延長要求フラグを設定する(ステップS30)。
【0050】
次いでECU80は、アクティブ制御を行う(ステップS40)。なお、ステップS20において硫黄濃度推定完了フラグがクリアになっていると判定されなかった場合(すなわち、既に硫黄濃度が推定されている場合)にも、ECU80は、ステップS40を行う。ステップS40のアクティブ制御は、OSC初期値の算出(ステップS50)のために行われるものである。本実施例に係るECU80は、ステップS40において空燃比がリッチ側またはリーン側に1回切替わるように、アクティブ制御を実行する。
【0051】
次いでECU80は、OSC初期値を算出し、算出結果をRAM83等の記憶部に記憶する(ステップS50)。
【0052】
次いでECU80は、図5に示すように、OSC初期値が所定の基準値(以下、第1基準値と称する)より小さいか否かを判定する(ステップS60)。第1基準値は、特に限定されない。本実施例においては、第1基準値以上であると判定された場合、補正処理(ステップS120)が行われることなく、劣化判定処理(ステップS130〜S150)が行われることになる。したがって、例えば、補正処理を行わなくても触媒の劣化判定を精度よく行えるような燃料の硫黄濃度に対応したOSC、すなわち燃料の硫黄濃度が触媒の劣化判定処理に及ぼす影響がほとんどないと考えられるような燃料の硫黄濃度に対応したOSCを、第1基準値に用いることができる。
【0053】
ステップS60においてOSC初期値が第1基準値より小さいと判定された場合、ECU80はアクティブ制御延長要求フラグが設定されているか否かを判定する(ステップS70)。
【0054】
ステップS70においてアクティブ延長要求フラグが設定されていると判定された場合、ECU80は、アクティブ制御を行う(ステップS80)。
【0055】
次いでECU80は、ステップS80のアクティブ制御実行開始から所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS90)。所定時間としては、触媒のOSCが収束する時間以上の時間であれば特に限定されない。所定時間は、例えばROM82等の記憶部が記憶しておけばよい。ステップS90において所定時間が経過したと判定されなかった場合、ECU80は、ステップS80を実行する。すなわち、ステップS80のアクティブ制御は、ステップS90の所定時間が経過したと判定されるまで、継続して実行される。
【0056】
ステップS90において所定時間が経過したと判定された場合、ECU80は、OSC収束値を算出し、算出結果をRAM83等の記憶部に記憶する(ステップS100)。
【0057】
次いでECU80は、硫黄濃度推定処理を行う(ステップS110)。具体的には、ECU80は、OSC比に基づいて、燃料の硫黄濃度を推定する。ECU80は、推定結果をRAM83等の記憶部に記憶する。なお、ECU80は、ステップS110を行った場合、硫黄濃度推定完了フラグを設定する。
【0058】
次いでECU80は、補正処理を行う(ステップS120)。具体的には、ECU80は、燃料の硫黄濃度が触媒の劣化判定に及ぼす影響を少なくするまたは無くすように、ステップS100で算出したOSC収束値を補正する。
【0059】
なお、ステップS70においてアクティブ制御延長要求フラグが設定されていないと判定された場合にも、ECU80は、ステップS120を行う。ここで、ステップS70においてアクティブ制御延長要求フラグが設定されていないと判定された場合は、ステップS20で硫黄濃度推定完了フラグが設定されていると判定された場合に対応している。したがって、この場合においても、既にステップS110が行われており、記憶部には、燃料の硫黄濃度およびOSC収束値が記憶されている。よって、ECU80はステップS120において、OSC収束値を補正することができる。
【0060】
次いでECU80は、劣化判定処理を行う(ステップS130〜S150)。具体的には、ECU80は、ステップS120が行われた後には、補正後のOSC収束値が所定の基準値(以下、第2基準値と称する)より大きいか否かを判定する(ステップS130)。補正後のOSC収束値が第2基準値より大きいと判定された場合、ECU80は、触媒は正常であると判定する(ステップS140)。補正後のOSC収束値が第2基準値より大きいと判定されなかった場合、ECU80は、触媒は異常である(つまり劣化している)と判定する(ステップS150)。なお、ECU80は、ステップS140の判定結果およびステップS150の判定結果を例えばディスプレイ等に表示させてもよい。
【0061】
また、ステップS60においてOSC初期値が第1基準値より小さいと判定されなかった場合にも、ECU80はステップS130を実行する。この場合、ステップS130において、ECU80は、OSC初期値が第2基準値より大きいか否かを判定する。OSC初期値が第2基準値より大きいと判定された場合、ECU80は、触媒は正常であると判定する(ステップS140)。OSC初期値が第2基準値より大きいと判定されなかった場合、ECU80は、触媒は異常であると判定する(ステップS150)。次いで、ECU80はフローチャートの実行を終了する。
【0062】
以上のように、本実施例に係るECU80によれば、硫黄濃度推定処理においてOSC初期値とOSC収束値とを用いて燃料の硫黄濃度を推定していることから、酸素センサ75の出力が当初の設計値からずれた場合であっても、硫黄濃度を推定することができる。すなわち、ECU80によれば、酸素センサ75の出力のずれにかかわらず、硫黄濃度を推定することができる。
【0063】
また、ECU80によれば、劣化判定処理において、硫黄濃度推定処理の推定結果に基づいて補正処理において補正されたOSCを用いて触媒の劣化状態を判定している。それにより、燃料の硫黄濃度が劣化判定処理における触媒の劣化判定に与える影響を少なくするまたは無くすことができる。その結果、触媒の劣化を精度よく診断することができる。
【0064】
なお、本実施例においてECU80は硫黄濃度推定処理において燃料の硫黄濃度を推定したが、これに限られない。ECU80は、硫黄濃度推定処理において排気ガスの硫黄濃度を推定してもよい。排気ガスの硫黄濃度推定処理は、燃料の硫黄濃度推定処理と同じ手法を用いることができる。よって、排気ガスの硫黄濃度推定処理の詳細な説明は省略する。ECU80が硫黄濃度推定処理において排気ガスの硫黄濃度を推定する場合、ECU80は、排気ガスの硫黄濃度を推定する硫黄濃度推定手段としての機能を有することになる。
【0065】
また、本実施例においてECU80は、第1触媒60について劣化診断を行っているが、これに限られない。ECU80は、第2触媒65の劣化を診断してもよい。第2触媒65の劣化診断手法は、第1触媒60の劣化診断手法を応用することができる。例えば、第2触媒65の上流および下流にそれぞれ空燃比センサ74および酸素センサ75が配置されることによって、ECU80は、第1触媒60の劣化診断手法と同様の手法で第2触媒65の劣化診断を行うことができる。
【0066】
なお、本発明に係る触媒劣化診断方法は、ECU80によって実現することができるため詳細な説明は省略する。具体的には、ECU80が行う硫黄濃度推定処理が、触媒劣化診断方法に係る硫黄濃度推定ステップに相当し、ECU80が行う補正処理が触媒劣化診断方法に係る補正ステップに相当し、ECU80が行う劣化判定処理が触媒劣化診断方法に係る劣化判定ステップに相当している。
【0067】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
5 内燃機関システム
10 内燃機関
20 吸気通路
30 排気通路
40 インジェクタ
50 スロットルバルブ
60 第1触媒
65 第2触媒
74 空燃比センサ
75 酸素センサ
80 ECU
100 アクセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置された触媒の劣化を診断する装置であって、
前記触媒に流入する排気ガスの空燃比を中心空燃比を境にリッチおよびリーンに交互に切替えるアクティブ制御を実行するアクティブ制御実行手段と、
前記アクティブ制御の実行開始時における前記触媒の酸素吸蔵量である酸素吸蔵量初期値と、前記触媒の酸素吸蔵量が収束するまで前記アクティブ制御が継続されたときの前記触媒の酸素吸蔵量である酸素吸蔵量収束値と、を用いて、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定する硫黄濃度推定手段と、を備える触媒劣化診断装置。
【請求項2】
前記触媒の酸素吸蔵量に基づいて、前記触媒の劣化状態を判定する劣化判定手段と、
前記劣化判定手段の判定に用いられる前記触媒の酸素吸蔵量を、前記硫黄濃度推定手段の推定結果に基づいて補正する補正手段と、を備える請求項1記載の触媒劣化診断装置。
【請求項3】
内燃機関の排気通路に配置された触媒の劣化を診断する方法であって、
前記触媒に流入する排気ガスの空燃比を中心空燃比を境にリッチおよびリーンに交互に切替えるアクティブ制御の実行開始時における前記触媒の酸素吸蔵量である酸素吸蔵量初期値と、前記触媒の酸素吸蔵量が収束するまで前記アクティブ制御が継続されたときの前記触媒の酸素吸蔵量である酸素吸蔵量収束値と、を用いて、燃料または排気ガスの硫黄濃度を推定する硫黄濃度推定ステップを含む触媒劣化診断方法。
【請求項4】
前記触媒の酸素吸蔵量に基づいて、前記触媒の劣化状態を判定する劣化判定ステップと、
前記劣化判定ステップの判定に用いられる前記触媒の酸素吸蔵量を、前記硫黄濃度推定ステップの推定結果に基づいて補正する補正ステップと、を含む請求項3記載の触媒劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−67636(P2012−67636A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211396(P2010−211396)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】