説明

試料分析装置および試料分析方法

【課題】透過電子顕微鏡をはじめとする試料分析装置において、観察しようとする試料に外部電圧を印加し、デバイスが動作状態のまま構造、組成、電子状態を分析するための、試料保持台、試料の前処理および試料ホルダに関する課題に対応する方法、および、当該試料の分析を行う方法を提供する。
【解決手段】試料の外部電圧印加箇所と接続可能な第1の配線構造を含む試料保持台(メッシュ)と、前記第1の配線構造と接続可能な第2の配線構造および電流導入端子を含む試料ホルダと、を設ける。そして、観察しようとする試料の外部電圧印加箇所に、第2の配線構造と、第1の配線構造とを介して、試料分析装置の外部から電圧を印加したり電流を流したりすることによって、デバイスが動作状態のまま構造、組成、電子状態を分析することのできる、試料保持台、試料の前処理方法、および、当該試料の分析を行う方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明は、透過電子顕微鏡をはじめとする試料分析装置に係わり、半導体デバイスをはじめとする各種試料の所望の外部電圧印加箇所に、外部から電圧または電流を印加することが可能な試料分析装置と、この試料分析装置による各種電子デバイスの試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡をはじめとする試料分析装置は空間分解能が高く、それに付随する様々な分析機能も開発されてきており、半導体デバイスなど各種電子デバイスの故障解析や特性評価のためのツールとして非常に有効である。試料分析装置の一例として、従来の透過電子顕微鏡の概略を、図2を用いて説明する。電子銃201にて発生した電子線111は、アノード202で電子レンズの方向に加速され、集束レンズ203で収束されたうえで試料101に照射される。試料101を透過した電子線111を、対物レンズ204、結像レンズ205で拡大し、これを蛍光板206上に投影することにより電子線111を可視化し、測定者は、蛍光板206上に現れる像を観察できる。試料101は、試料に照射した電子線111が試料を透過できる程度の厚さにあらかじめ薄膜化し、試料保持台(以下、これをメッシュ102と呼ぶ。)に取り付けておく。図2(b)では、試料押さえ治具207と試料押さえばね208を用いて、試料101をメッシュ102に固定している。そして、試料101を、メッシュ102ごと試料ホルダ106に固定する。
【0003】
通常、透過電子顕微鏡をはじめとする試料分析装置を用いて試料の測定を行う際、測定に先立ち、例えば特許文献1のような収束イオンビーム装置等の試料作製装置による試料作製方法、いわゆるマイクロサンプリング法などにより粒子線が透過できる程度の厚さに薄膜化した試料があらかじめ作製される。ここで、マイクロサンプリング法を図3を用いて説明する。マイクロサンプリング法とは、収束イオンビーム装置等の試料作製装置内において、デバイスチップや半導体ウェーハ等の試料301から、所望観察部分を含む数十マイクロメートル領域にイオンビームを照射して、試料より微小試料片302を分離し(図3(a))、当該微小試料片302をプローブ等のマニピュレータ303を用いて試料から摘出し(図3(b))、当該摘出した微小試料片302を試料保持手段304に載せ(図3(c))、前記試料保持手段304上の微小試料片302にイオンビームを照射して所望観察部305を含む薄膜試料を作製するものである(図3(d))。
【0004】
また、試料分析装置を用いたデバイス等の故障解析や特性評価の際には、試料に外部電圧を印加してデバイスを動作状態にしたうえで、デバイスに発生する現象を直接分析することが望ましいといえる。試料の所望の箇所と外部電圧の電源とを接続してデバイスに発生する現象を直接分析する方法として、特許文献2には、試料ホルダの一部である試料台に導電パターンをあらかじめ設けておき、電圧端子を有する半導体試料を、試料台上の導電パターンに合わせて設置する方法に関して記載されている。また、特許文献3には、試料そのものに電極を設け、それに対応した通電用端子を試料ホルダに設けておき、試料押さえを用いて試料を試料ホルダに押し付けて固定する方法に関して記載されている。また、特許文献4には薄膜化した試料に対して、チップまたは微細導線を直接取り付ける方法、さらに、特許文献5に記載されている、多数の探針を試料に接触させ、探針を介して試料に外部電圧を印加する方法等が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−108810号
【特許文献2】特開平06−310069号
【特許文献3】特開平10−185781号
【特許文献4】特開2003−35682号
【特許文献5】特開2005−91199号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、試料の所望の箇所に外部電圧の電源を接続して、デバイスを動作状態にしたうえで、デバイスに発生する現象を直接分析する方法については種々の検討がなされてきたが、特許文献2および特許文献3で示された技術では、測定しようとする試料の配線構造および形状を、試料ホルダに設けた通電用端子や、試料ホルダの一部である試料台に設けた導電パターンの形状に対応させなければならない。言い換えれば、前記通電用端子や、前記導電パターン等の形状に合わない試料は、仮に試料ホルダや試料台に設置できたとしても、該試料に外部電源を接続することができないという問題があった。さらに、試料ホルダや試料台のサイズと試料のサイズとの間に大きな差がある場合、試料ホルダや試料台に試料を設置する際、試料の位置合わせが難しいという問題もあった。
【0007】
また、特許文献4では、収束イオンビームを用いて、電子線をはじめとする粒子線が透過できる厚さの薄膜試料を摘出し、前記薄膜試料の表面に、微細導線あるいはチップを直接取り付けることにより、試料に外部電圧を直接印加することができ、デバイスの動的特性の分析・評価を可能としている。しかし、特許文献4で示された技術では、薄膜化した試料の表面に、微細導線あるいはチップを直接取り付けるため、微細導線あるいはチップが微小試料片から突き出ており、構造上、取り付け強度が弱い。また、微細導線やチップそのものがむき出しとなっており、試料分析装置の筐体への試料の出し入れ時などに、薄膜化した試料に加わる振動によって微細導線あるいはチップが外れたり切れたりして断線したり、振動により配線が動揺して短絡する可能性があるため、試料の交換が煩雑になるという問題もあった。さらに、マイクロサンプリング法により摘出、薄膜化した薄膜試料の寸法は、厚さ数百ナノメートル程度、長手方向の寸法約10マイクロメートル程度、が一般的であるから、薄膜試料に多数配線を施そうとすれば、狭い領域に多数の配線を施す必要が生じ、配線同士の接触により配線が短絡してしまう可能性もあった。
【0008】
さらに、特許文献5では、複数の電極を備える試料を走査透過電子顕微鏡内に設置し、該電極のおのおのに探針を接触させ、前記探針を介して試料に外部から電圧を印加することにより、電子素子の性能を評価しながら、デバイスの内部構造を観察することを可能にしている。しかし、特許文献5で示された技術では、探針と試料の電気的な接続を取るために、探針を試料に押し付ける必要があるため、試料に機械的な力をかける必要があった。透過電子顕微鏡をはじめとする試料分析装置で試料測定を行うにあたっては、測定に先立ち、粒子線が透過できる程度の厚さに試料をあらかじめ薄膜化しておくのが一般的であるが、薄膜化した試料に探針を直接接触させることにより試料に外部から応力を加えると、それが弱い力であっても、試料がたいへん薄いがために試料そのものにひずみが生じ、該試料に含まれるデバイスの特性に影響を及ぼしたり、あるいは、試料が破損したりする可能性があった。
【0009】
上記の課題にかんがみ、本発明の第一の目的は、試料の外部電圧印加箇所に外部電圧を直接印加できる機能を有する試料分析装置において、(1)試料台の形状によらず様々なサイズの試料、特に微小な試料を簡単かつ確実に試料ホルダに設置できること、また、(2)試料の交換が容易であること、また、(3)試料への配線引き回しや配線設置の自由度が高く、配線強度を十分に確保できること、さらに、(4)試料に機械的な力をかけることなく試料上の所望の位置に外部電圧の印加が可能であること、を特徴とする試料分析装置を提供することにある。
【0010】
また、本発明の第二の目的は、上記試料分析装置を用いて、観察しようとする試料の外部電圧印加箇所に外部電圧を印加して、前記試料が動作状態のまま分析できることを特徴とする試料分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記、本発明の目的は、以下に示す手段により解決される。
透過電子顕微鏡をはじめとする試料分析装置において、観察しようとする試料の外部電圧印加箇所と接続可能な第1の配線構造を含むメッシュと、第1の配線構造と接続可能な第2の配線構造および電流導入端子を含む試料ホルダと、を設ける。
【0012】
そして、観察しようとする試料の外部電圧印加箇所と第1の配線構造とを接続し、第1の配線構造と第2の配線構造とを接続し、観察しようとする試料の外部電圧印加箇所に、第2の配線構造と、第1の配線構造とを介して、試料分析装置の外部から電圧を印加したり電流を流したりする。これにより、観察しようとする試料に含まれるデバイスが動作状態のまま、デバイスの構造、組成、電子状態などを測定可能となる。
【発明の効果】
【0013】
透過電子顕微鏡をはじめとする試料分析装置において、観察しようとする試料に外部電圧を印加し、デバイスが動作状態のまま構造、組成、電子状態を測定可能となる。
【実施例1】
【0014】
図1は、試料分析装置等に用いる試料ホルダの一例を示す図である。
メッシュ102は、観察しようとする試料の外部電圧印加箇所と接続可能な、単一または複数の配線構造(以下、当該配線構造を、第1の配線構造103と呼ぶ。)を持つ。前記、第1の配線構造103を有するメッシュ構造の詳細は、実施例2で詳しく述べることとする。
【0015】
あらかじめ、電子線をはじめとする粒子線が透過できる厚さに薄膜化した試料101をメッシュ102に取り付け、次に、メッシュ102ごと試料ホルダ106に載せる。または、あらかじめ、メッシュ102を試料ホルダ106に載せ、次に、薄膜化した試料101を前記メッシュ102に取り付けてもよい。
【0016】
一方、試料ホルダ106は、第1の配線構造103と接続可能な、単一または多数の配線構造(以下、当該配線構造を、第2の配線構造105と呼ぶ。)を備える。試料ホルダ106にメッシュ102を載せることにより、第1の配線構造103と第2の配線構造105との接続を行うことができる。ここで、図1にように、試料ホルダ106にメッシュ102をはさみこみ固定する機能(このような機能を有する試料ホルダの一部分を、特に、ソケット104と呼ぶ。)をあらかじめ設けておくとよい。この場合、ソケット104に、メッシュ102を挿入すれば、メッシュ102をソケット104に固定でき、同時に、第1の配線構造103と第2の配線構造105との接続を行うことができる。このとき、ソケット104や試料台受け台107にも配線構造を設けておき、これを第2の配線構造105と接続すれば、ソケット104や試料台受け台107上で自由に配線を引き回すことが可能となる。これは、ナノメートルオーダーまたはマイクロメートルオーダーの大きさをもつデバイス試料と、ミリメートルオーダーの大きさをもつメッシュとの間を接続するのに都合が良く、特に、配線の系統数が増大した場合に便利である。
【0017】
メッシュ102を試料ホルダ106の所望の位置に正確に取り付けることは、第1の配線構造103と第2の配線構造105との接続をより確実なものとするという点においても重要である。このために、例えば、メッシュ102に凹凸形状をあらかじめ設け、試料ホルダ106にも前記メッシュに設けた凹凸形状に対応する形状を設け、そして、両者を組み付けることにより、メッシュ102を試料ホルダ106に固定するとよい。図1では、メッシュ102に凹型ガイド形状109を、試料ホルダ106の一部分であるソケット104に凸型ガイド形状108をそれぞれ設け、両者が互いにかみ合うよう、メッシュ102をソケット104にスライドさせながら挿入することにより、メッシュ102をソケット104の所望の位置に正確に取り付けている。
試料交換を行う際は、メッシュ102を試料ホルダから取り外し、新しいメッシュを試料ホルダに固定すれば、試料交換のプロセスはそれで終わりであり、したがって、簡便かつ短時間のうちに試料を交換できる。このとき、メッシュ102を試料ホルダ106に取り付けた後、両者をしっかりと密着、固定することにより、第1の配線構造103と第2の配線構造105との接続をより確実なものとすることができ、かつ、振動などでメッシュ102が試料ホルダ106から脱落することを防ぐことができる。図4は、図1の断面を示す図である。図4(a)では、メッシュ102を試料ホルダ106に固定する一つの方法として、メッシュ押さえ112と試料ホルダ106との間にメッシュ102を配置し、メッシュ押さえ固定ネジ113を用いて、メッシュ押さえ112を試料ホルダ106に直接ねじ止めしている。この方法では、着脱時にメッシュ押さえ固定ネジ113を回す必要があり、着脱に手間と時間が必要となるが、着脱時の振動によってメッシュ102が試料ホルダ106より脱落する可能性を減らすことができる。図4(b)では、メッシュ102を試料ホルダ106に固定するもう一つの方法として、メッシュ押さえ112と試料ホルダ106との間にメッシュ102を配置し、試料押さえばね208によって試料押さえ治具207を保持している。この方法では「ばね」で試料を保持しているため、振動によりメッシュ102が試料ホルダ106より脱落する可能性が残ってはいるが、図4(a)で示した「ねじ」で試料を保持する方法に比べると、比較的容易かつ短時間のうちにメッシュ102をソケット104に固定できる。なお、図4(a)、(b)のいずれの場合でも、第1の配線構造103と第2の配線構造105との接続をより確かなものとするため、その両方または片方に、配線接触用ばね401を設けてもよい。図4において、配線接触用ばね401は一例として板ばねを描いたが、もちろん板ばねに限られるものではなく、皿ばね、コイルばねなど他の種類のばねをも用いることができる。
【0018】
本出願の試料分析装置では、試料ホルダと試料との間に、中間媒体として、第1の配線構造を設けたメッシュを介在させることにより、試料ホルダや試料ホルダの一部である試料台の上に試料を直接設置する必要がなくなるため、メッシュに設ける第一の配線構造を適切に選ぶことにより、どのようなサイズの試料でも試料台や試料ホルダに設置でき、かつ、外部電源を接続することが可能となる。
【実施例2】
【0019】
本実施例では、実施例1におけるメッシュの構造の詳細を述べる。
図5は、メッシュ102の実施例を示す図である。図5(a)のように、メッシュ102は、試料ホルダに着脱自由な形状を有するものとし、円形または楕円形に限らず多角形とすることができ、円形や楕円形に多角形を組み合わせた形状としても良い。また、図5(b)のように、メッシュ102に持ち手501を設ければ、操作者がメッシュ102を試料ホルダに着脱する際などに便利である。
【0020】
メッシュ102は、単一または多数の、第1の配線構造103を持つ。メッシュ102に第1の配線構造103をあらかじめつくりこむことにより、観察しようとする試料はメッシュ102上に固定して一体とできる。したがって、微細導線あるいはチップなどが試料から突き出るような構造をとらずに済むことから、試料配線の取り付け強度を確保できる。また、メッシュに振動が加わっても配線が動揺して接触、短絡することはないため、構造上、振動に強くなる。さらに、特許文献4のように空中配線にて配線を行う手法に比べ、試料上の配線引き回しの自由度が高まる。このことは、特に微小な試料に対して多数の配線を行う際に非常に有効である。
【0021】
第1の配線構造103の形状は、例えば、長方形や正方形に限らず多角形にすることができる。また、第1の配線構造103に、単一または多数のパッド502を含めれば、測定しようとする試料の任意の箇所と第1の配線構造103との配線がとりやすくなる。さらに、第1の配線構造103の一部に微細な配線構造503を設ければ、ナノメートルオーダーまたはマイクロメートルオーダーの大きさをもつデバイス試料と、ミリメートルオーダーの大きさをもつメッシュ102との間を接続するのに都合が良くなり、また、配線の系統数が増大した場合に便利である。
【0022】
ここで、メッシュの表面および裏面を以下のように定義する。すなわち、試料分析装置内部において、荷電粒子の発生源(電子顕微鏡においては、電子銃。)に対向する面を表面とし、その逆側の面を裏面とする。第1の配線構造103(以下、本実施例においては、第1の配線構造103には、パッド502、微細な配線構造503を含めても差し支えないものとする。)は、メッシュ102の表面または裏面のどちらか片面のみに設けてもよいし、表面および裏面の両面に設けてもよい。なお、第1の配線構造103がメッシュの表側にむき出しになっていると、評価・分析時に荷電粒子による帯電等の影響を受ける可能性があるため、第1の配線構造103に荷電粒子が直接当たらないようにするための対策が必要となる。例えば、第1の配線構造103は、おのおの、その一部または全部をメッシュ102の内部に埋め込むこととしてもよいし、メッシュに電子線遮蔽用導電膜等(電子線遮蔽用導電膜等に関する詳細は、実施例7にて述べる。)を設けることとしてもよい。
【0023】
図5(c)、(d)、(e)、(f)、(g)は、メッシュ102の断面の一例を示す図である。第1の配線構造103は、メッシュ102本体とは電気的に独立し、メッシュ102に多数の第1の配線構造103を設置する場合、前記第1の配線構造103は各々電気的に独立する必要がある。そこで、図5(c)、(d)のように、導電性を有するメッシュ102の表面の一部または全部を絶縁膜505で覆い、前記絶縁膜の一部または全部の上に導電膜504を形成し、これを第1の配線構造103とするとよい。このとき、絶縁膜としてボロンナイトライドをCVD法にて形成し、導電膜としてカーボン膜のパターンを作製してもよい。または、図5(e)のように、絶縁膜505をさらに形成して導電膜504の一部または全部を包み込んだり、図5(f)のように、導電膜504の一部または全部を2枚のメッシュ102にて挟み込んだりする構造を設け、これを第1の配線構造103とすれば、構造上、導電膜や第1の配線構造が外部にむき出しになることを防ぐことができ、外部からの磨耗や荷電粒子線による帯電の影響を防ぐことができる。さらに、図5(g)のように、絶縁性を有するメッシュの表面に導電膜504を直接備えたり、絶縁性を有するメッシュの内部に導電膜504を備えたりして、これを第1の配線構造103とすれば、簡単な構造となる。
以上の方法などを用いて、各々が電気的に独立した第1の配線構造103を、以降、第1の独立配線構造103’と呼ぶこととする。
【実施例3】
【0024】
本実施例では、「半導体ウェーハ等から薄膜化した試料を摘出する方法」および「薄膜化した試料をメッシュに固定する方法」に関して述べる。「半導体ウェーハ等から薄膜化した試料を摘出する方法」としては、ダイサーや研磨などによる機械加工により薄膜化した試料を摘出してもよいし、収束イオンビームを用いた加工により薄膜化した試料を摘出してもよい。このうち、特に後者の収束イオンビームを用いた加工においては、以下に述べる「マイクロサンプリング法」を用いてもよく、当該方法を用いることにより、デバイスチップや半導体ウェーハ等から薄膜化した試料を摘出し、当該試料をメッシュに固定するまでの一連のプロセスを、一台の、試料作製装置で行うことが可能になる。ここでは、試料作製装置に関して、図6を用いて説明するとともに、マイクロサンプリング法を利用した薄膜試料作製方法の詳細に関して、図7および図8を用いて説明する。
【0025】
まず、図6は、試料作製装置の構成例を示す図である。試料作製装置は、デバイスチップや半導体ウェーハ601等の試料基板を載置する可動の試料台602と、ウェーハ601の観察、加工位置を特定するため試料台602の位置を制御する試料位置制御装置603と、ウェーハ601にイオンビーム604を照射して加工を行うイオンビーム光学系605と、ウェーハ601からの2次電子を検出する二次電子検出器606を有する。イオンビーム光学系605はイオンビーム光学系制御装置607により、二次電子検出器606は二次電子検出器制御装置608により制御される。また、デポジションガス源654を有し、これは、デポジションガス源制御装置により制御される。例えば、タングステンカルボニル(W(CO))をデポジションガス材料655として使用しているが、材料はこれに限定するものではない。また、試料片摘出用のプローブ651を有する。このプローブは先端径がサブミクロンの微細な先端を有する。また、摘出した試料片を固定するためのサンプルキャリアを載置するためのサンプルキャリア支持部656を有する。試料位置制御装置603、イオンビーム光学系制御装置607、二次電子検出器制御装置608、デポジションガス源制御装置655等は、中央処理装置611により制御される。試料台602、イオンビーム光学系605、二次電子検出器606、試料片摘出用のプローブ651、デポジションガス源654、サンプルキャリア支持部656等は真空容器612内に配置される。ここでは試料としてウェーハの場合であり、ウェーハごと観察できることは、観察所望位置のアドレス管理の容易さ、また検査装置からそのまま移送できる点で有利である。
【0026】
図7は、薄膜試料加工手順の一例を示す図である。
(a、b)はじめに、所望断面の周りの3辺方向に収束イオンビーム701で3つの矩形穴702、703、704加工を行う。
(c)次に試料台を傾斜させ、溝705加工を行うことにより、支持部706のみで元試料に支持された試料片707を作製することができる。
(d)次に試料台傾斜を元に戻し、プローブ駆動機構652によりプローブ651先端を試料片707に接触させる。次にデポジションガス源654からデポジションガス708を供給しながらプローブ先端を含む領域に収束イオンビーム701照射を行うことにより、
(e)デポジション膜709を形成することができ、試料片707とプローブ651を固定することができる。この後に支持部706を収束イオンビーム加工で除去することにより元試料から試料片を分離することができる。
(f、g)分離された試料片707をメッシュ102に接触させるとき、試料片707を上下さかさまにしたうえで接触させる。これにより、試料片の基板側が上向きに、反対側がメッシュ102に接触した状態となる。
(h)そこで、接触部に上記と同様の方法で収束イオンビーム701照射を行い、デポジション膜711を形成することで、試料片707とメッシュ102とを固定する。
(i)その後にプローブ先端を収束イオンビーム加工しプローブを分離することで、試料片1007を独立にすることが可能となる。
【0027】
図8は、薄膜試料断面顕在化手順の一例を示す図である。
(a、b)所望断面に平行に収束イオンビーム701を照射し所望断面801が露出するように加工する。
(c、d)引き続き、上記手順を試料の逆側からも行う。得られた試料の断面図を(d)に併せて示す。図7(g)にて、試料片707を上下さかさまにしてメッシュ102に設置したことにより、得られた試料と、メッシュ102との間の接触面積を増やすことができる。これにより、両者間の接続強度が増大して剛性が高まり、振動や衝撃などが加わっても、試料片がメッシュから脱落する可能性が大幅に低減される。
【0028】
ここで、上述した薄膜試料作製プロセスを行うに当たっては、試料作製装置にメッシュのみを導入し、試料作製装置の内部で、薄膜化した試料101をメッシュ102に取り付け、その後、試料作製装置の内部もしくは外部で、試料101をメッシュ102ごと試料ホルダ106に載置することとしてもよいし、または、あらかじめメッシュ102を試料ホルダ106に載置しておき、試料分析装置と共用のサイドエントリ式試料ホルダとして試料作製装置に導入し、試料作製装置の内部で、薄膜化した試料101を前記メッシュ102に取り付けることとしてもよい。
【0029】
一方、本発明による試料分析方法により、実際に試料の分析・評価を行うにあたって、測定しようとする試料が、大気をはじめとする気体や液体、あるいは蒸気等に触れると、試料表面の酸化や汚染が起こる可能性がある。そこで、試料作製装置、および試料分析装置の両方の機能を一台の装置にもたせれば、試料作製プロセスから試料の分析・評価までの一連の工程を、一台の装置内で連続して行うことができる。このことは、例えば、他の実施例で記載している透過電子顕微鏡や走査透過電子顕微鏡をはじめとする電子顕微鏡と、収束イオンビーム装置とを組み合わせることによって実現しても差し支えない。このようにすれば、試料作製や、試料の外部電圧印加箇所と外部電源との接続や、試料の分析・評価を一台の装置で平行して進めることが可能となるため、試料分析にかかる時間の短縮につながる。また、装置内部を真空に保つことにより試料表面の酸化や汚染を防ぐことができるようになるため、試料の分析・評価をより正確に行うことが可能となる。
【0030】
なお、観察しようとする試料は、図9(a)に示すような薄膜化した観察試料901に限らず、例えば、図9(b)に示すような、突起状の形状を有する観察試料902としても差し支えない。このとき、図9(b)では突起状の形状として、簡単のために一例として角柱型を記載したが、もちろんその形状に限るものではない。このような、前記突起状の形状を有する観察試料902を用いると、薄膜化した試料901とは異なり、試料の垂直方向903に加えて、試料の垂直方向以外の方向904から電子線をはじめとする荷電粒子線を当てることにより、そこから得られる情報も分析・評価に用いることができるようになる。
【実施例4】
【0031】
本実施例では、試料の外部電圧印加箇所と試料保持台に含まれる第1の配線構造との接続方法について、図10を用いて述べる。
まず、試料として電界効果トランジスタ薄膜試料1001(以下、単に、MOS薄膜試料1001と表記する。)を例にして、測定しようとする試料の外部電圧印加箇所を試料表面に露出させるための方法を二種類示す。
【0032】
一つ目の手法として、外部電圧印加箇所の周辺構造物にイオンビームを照射することにより、該周辺構造物に穴を開け、該外部電圧印加箇所もしくはMOS薄膜試料に含まれる配線構造を試料表面に露出させる方法がある。あらかじめ、マイクロサンプル法により加工したMOS薄膜試料1001を、図10(a)、(b)のように、配線構造を有するメッシュ102に固定したうえで、収束イオンビームを当てて微細加工するなどして、前記MOS薄膜試料1001に含まれる配線構造、すなわち、プラグ1002を露出させる。
【0033】
二つ目の方法として、図8(c)、(d)のように、MOS薄膜試料1001をメッシュ102からずらして設置する方法がある。あらかじめ、マイクロサンプル法により加工したMOS薄膜試料1001に含まれる配線構造、すなわち、プラグ1002を、MOS薄膜試料1001の表面に露出させておく。続いて、得られたMOS薄膜試料1001をメッシュ102に固定する。このとき、試料表面に露出したプラグ1002がメッシュの端から外側に来るように取り付ければ、試料をメッシュ102に固定しても、プラグ1002はメッシュ102に覆われることなく表面に露出したままとなり、測定しようとする試料の外部電圧印加箇所が試料表面に露出したままとなる。
【0034】
このように、測定しようとする試料の外部電圧印加箇所を試料表面に露出させた後、露出した外部電圧印加箇所と第1の配線構造とを接続する。このとき、外部電圧印加箇所は、半導体デバイスにおける配線、電極、プラグ、基板を含むことができる。以下、二種類の手法を述べる。
【0035】
一つ目の手法として、収束イオンビームを用いて、プラグ1002と第1の配線構造103との間にデポジション膜1003を形成して、両者を図10(a)、(c)のように接続する方法がある。このとき、デポジション膜1003としてタングステンを堆積させてよい。デポジションガス源からデポジションガスを供給しながら、デポジション膜を形成しようとする領域に収束イオンビームを照射することにより、デポジション膜1003を設けることができる。このとき、収束イオンビームを照射すると、同時に2次イオン像も取得できることから、試料の加工状態を観察、確認しながら、特定の部位にデポジション膜を形成できる。デポジション膜を形成することにより、広い面積で確実に電気的な接続を取ることができ、プラグ1002と第1の配線構造103との間に、比較的大きな電流を流すことができる。また、観察試料作製と配線接続を一つの装置内で一貫して行えることも、本手法のメリットである。
【0036】
二つ目の手法として、図10(b)、(d)のように、プラグ1002と第1の配線構造103とを空中配線1004にて接続する方法がある。空中配線1004としては、カーボンナノチューブや、メタルボンディングを使ってもよい。カーボンナノチューブを用いるとメタルボンディングに比べてより細い配線が形成できるが、流すことが許容される電流は小さくなる。メタルボンディングを用いるとカーボンナノチューブに比べて配線は太くなるが、より多くの電流を流すことができる。したがって、測定の目的に応じて配線を使い分ければよい。なお、空中配線1004を施すにあたって、配線がやりやすいよう、表面に露出したプラグ1002に配線修正を施すと便利である。例えば、タングステンを堆積することによって、デポジション膜1003を設けることとしてもよい。
【0037】
なお、観察しようとする試料(図10では、MOS薄膜試料1001が、これに該当する。)をメッシュ102に設置するにあたり、もしメッシュが導電性を有する材料でできている場合は、観察しようとする試料とメッシュ102との間に絶縁体114を設け、観察しようとする試料をメッシュから電気的に切り離すことが望ましい。また、実施例2でも述べたとおり、第1の配線構造103は、メッシュ本体とは電気的に独立している必要があるため、第1の配線構造103とメッシュ102との間に絶縁体114を設け、観察しようとする試料をメッシュから電気的に切り離すことが望ましい。なお、絶縁物でできているメッシュを用いる場合は、メッシュと観察しようとする試料、また、メッシュと第1の配線構造103はそれぞれ電気的に切り離されているため、絶縁体114を設けなくとも差し支えない。
【実施例5】
【0038】
図11にて、電子顕微鏡で用いる試料ホルダの実施例を、図12にて荷電粒子線装置のひとつである電子顕微鏡での実施例を説明する。なお、ここでは一例として電子顕微鏡の一つである走査透過電子顕微鏡における実施例を説明するが、必ずしも、対象は走査透過電子顕微鏡に限るものではなく、透過電子顕微鏡、走査電子顕微鏡などをはじめとする電子顕微鏡や、荷電粒子線装置を対象とすることができる。
【0039】
まず、図11は、電子顕微鏡で用いる試料ホルダの一実施例を示す図である。図11(a)は、観察しようとする試料と、メッシュおよび試料ホルダを電子顕微鏡の光軸方向から見た図(蛍光板側から電子銃側を見た図)であり、図11(b)は、電子顕微鏡の光軸の垂直方向から見た図(横から見た図)である。
【0040】
図11において、観察しようとする試料を、第一の配線構造を設けたメッシュに固定する。そして、これを試料ホルダ106に設置する。このとき、試料ホルダや試料台の上に試料を直接設置するのではなく、試料ホルダと試料との間に、中間媒体として、第1の配線構造を設けたメッシュを介在させることにより、「試料台や試料ホルダと、試料との間」のサイズ変換を「試料台や試料ホルダとメッシュとの間」および「メッシュと試料との間」の2回に分けて行うことができる。これにより、試料ホルダや試料台では「メッシュ」を正確な位置に設置すればよいため、当該試料ホルダや試料台で微小な「試料」の位置決めを行うに比べ、試料ホルダ上での1回あたりのサイズ変換の桁数を小さくすることができる。したがって、当該試料ホルダ上での位置決めが容易となる。
【0041】
メッシュはソケットへの脱着が容易な形状を有するものとし、以後、このようなメッシュを、特に、カートリッジ1101と呼ぶ。試料交換を行う際は、カートリッジ1101を試料ホルダ106から取り外し、新しいカートリッジ1101を試料ホルダ106に固定すれば、試料交換のプロセスはそれで終わりであり、簡便かつ短時間のうちに試料を交換できる。
【0042】
ここで、試料ホルダ106には、回転ピボット1102を設置する。また、試料ホルダ106の先端には傾斜ピボット1103が設置される。すなわち、カートリッジ1101は2つのピボットを回転中心として2軸に回転・傾斜される。2つのピボットを用いて、観察しようとする試料を回転・傾斜させることにより、電子線をはじめとする荷電粒子線を所望の入射角度で試料に当てることができるようになる。
【0043】
次に、試料ホルダに設けた接触部材1104を用いて、第1の配線構造103と、第2の配線構造105とを電気的に接続する。第2の配線構造103は電流導入端子1105に接続されているので、これにより、電流導入端子1105と試料の外部電圧印加箇所とが電気的に接続される。本実施例ではこれらは4式ずつ独立して設置され、観察しようとする試料の外部電圧印加箇所の各々に、それぞれ独立して外部から電圧を印加することができる構造となっている。
【0044】
さらに、カートリッジ1101がソケット104から脱落しないように、カートリッジ1101をソケット104に固定するなどの措置を講じても良い。本実施例では、一例として、メッシュ押さえ固定ネジ113を用いて、メッシュ押さえ112を試料ホルダ106に直接ねじ止めしている。
【0045】
本手法では、メッシュや試料ホルダに設けた配線構造を介して試料に外部電圧を印加する方法をとっている。したがって、試料表面に多数の探針を接触させたうえで外部電圧を印加する手法に比べ、試料上で探針の三次元的形状を考慮しなくてもよくなるため、試料への配線設置の自由度が高まる。このことは、特に微小な試料に対して多数の配線を行う際に有効である。また、試料に探針を接触させる必要がないから、試料に機械的な力が加わることはない。したがって、測定により、試料そのものにひずみが生じてデバイスの特性に影響を及ぼしたり、あるいは試料が破損したりする可能性がなくなり、ハンドリングが容易となる。
【0046】
図12は、走査透過電子顕微鏡で観察する実施例を示す図である。電子銃201から放射された1次電子線1202は、アノード202、照射レンズ1203、コンデンサ絞り1205、軸ずれ補正用偏向器1207、収差補正器1209、イメージシフト用偏向器1211と対物レンズ1215等の照射光学系により、観察しようとする試料に収束、照射される。また照射光学系の制御は、電子銃制御回路1201、照射レンズ制御回路1204、コンデンサ絞り制御回路1206、軸ずれ補正用偏向器制御回路1208、収差補正器制御回路1210、イメージシフト用偏向器制御回路1212、対物レンズ制御回路1216等の制御系により制御されている。
【0047】
1次電子線は走査用偏向器1213にて試料面上で2次元的に走査されることから、透過電子線の強度を電子検出器1220で検出し、電子検出器制御回路1221、中央処理装置1222を介し、走査位置と同期を取って表示装置1223に画像表示することにより、試料構造や組成、電子状態に対応したコントラストを有する透過電子線像を表示装置1223に示すことが可能である。メッシュは2つのピボットを回転中心として2軸に回転・傾斜される。さらに、電流導入端子付き試料ホルダ駆動機構1217は、電流導入端子付き試料ホルダ駆動機構制御回路1218を介して中央処理装置1222にて制御される。操作者は、情報入力手段1224を用いて、試料の分析・評価にあたって有用な様々なパラメータを入力できる。前記情報入力手段には、例えば、タッチパネル、キーボード、マウス、などを含めてもよく、パラメータには、例えば、試料の位置(x軸方向、y軸方向およびz軸方向)、試料の回転・傾斜角度、試料への印加電圧値、試料へ流し込む電流値、などを含めてもよい。情報入力手段1224により入力されたパラメータは、中央処理装置1222にて制御され、その状況は表示装置1223にて、逐次、表示を行ったり、記録装置1225にて記録することが可能となっている。
【実施例6】
【0048】
ここでは、図12および図13を用いて、実施例5で述べた試料分析装置において、表示装置1223にて提供される、外部電源印加のための、操作画面および操作方法の一実施例を示す。図13に、外部電圧・電流印加システム1301(以下、単にシステムと述べることとする。)の一例を示す。前記システムには、各種パラメータを設定するための「設定画面」を設けてもよい。前記設定画面においては、各種パラメータを入力する手段を配置でき、前記、各種パラメータは、試料分析装置を作動させ、また、外部電源の電圧や電流値を決定するために必要な情報であって、例えば、ビーム電流、焦点、露出計、ビーム電流の電流計、倍率、使用するカメラの種類、励磁条件、試料の位置(x軸方向、y軸方向およびz軸方向)、試料の回転・傾斜角度、試料への印加電圧値、試料へ流し込む電流値、の一部または全部を含めて差し支えない。また、前記、パラメータを入力する手段としては、つまみやボタン、計器、あるいは設定値を直接入力するための入力スペース、あるいはプルダウンなどを用いることとして差し支えない。図13では、4系統の直流の外部電源を独立して操作できるようになっているが、系統数は4系統に限らなくともよいし、外部電源として交流電源、あるいは、直流電源と交流電源を重畳したうえで試料に接続できるようにしてもよい。
【0049】
操作者は、情報入力手段1224を用いて、前記システムに設けたパラメータ入力手段を操作することにより、前記各種パラメータを設定したり、変更したりすることができる。設定されたり変更されたりした各種パラメータは、中央処理装置1222にて制御されて試料分析装置における分析・評価の条件として用いられる。
【0050】
ここで、前記システムにおいて、「設定画面」に加えて、試料の分析・評価結果を表示する「結果画面」も併せて表示できるようにすると、操作者はパラメータ設定および分析・評価結果の検討を一つの画面上で行うことができて便利である。前記「結果画面」は、分析・評価作業を通じて撮影した像や収得したスペクトルをはじめとして、記録装置1225により記憶されている過去のデータなど様々なデータを表示できることとして差し支えない。前記システムにおいて提供される画面には、「設定画面」と「結果画面」を同時に表示してもよいし、また必要に応じて、このうちの任意の画面が表示されるよう構成してもよい。
【0051】
ここで、メッシュや試料ホルダに設けた配線構造を介して、試料に印加する電圧値や、試料に流れ込む電流値が増大すると、メッシュや試料ホルダに設けた配線構造や、試料そのものなどが破壊する恐れがある。そこで、前記「設定画面」にて入力、設定、または変更されるパラメータ(試料への印加電圧値、試料へ流し込む電流値)を監視し、ある一定以上の印加電圧値や電流値を設定しようとしたとき、当該電圧値や電流値を強制的に零にしたり、または、ある一定の値以下に書き換えたりする機能を有する「誤入力防止機能」を設けても差し支えない。また、前記、実際に試料に印加する電圧値や、実際に試料に流れ込む電流値を監視し、ある電圧設定値以上の電圧が試料に印加されたり、ある電流設定値以上の電流が試料に流れ込んだりしたとき、試料と外部電源との接続を切ったり、または、電圧値や電流値を前記電圧設定値や前記電流設定値以下に落としたりする機能を有する「電圧電流制限機能」を設けても差し支えない。
【実施例7】
【0052】
本実施例では、荷電粒子線装置のひとつである電子顕微鏡による分析において、電子線照射による帯電を抑制する方法を説明する。本発明では、観察しようとする試料に外部電圧を印加するために、測定しようとする試料の外部電圧印加箇所と試料ホルダの電流導入端子との間とに、第1の配線構造や第2の配線構造などの配線回路を設けて電気的に接続している。透過電子顕微鏡による分析を行うためには、薄膜化した試料に電子線を透過させる必要があるが、分析・評価に関係のない場所(例えば、試料のうち分析・評価を行わない部分、前記試料に含まれる配線構造、第1の配線構造、第2の配線構造などが挙げられる。)への直接の電子線照射を避けることが望ましい。
【0053】
分析・評価に関係のない場所への直接の電子線照射を避ける実施例の一例として、実施例2において、第1の配線構造への直接の電子線照射を避けるために、絶縁膜を用いて導電膜の一部または全部を包み込んだり、導電膜の一部または全部を2枚のメッシュにて挟み込んだりする構造を設け、これを第1の配線構造とすることにより、メッシュに設置した第1の配線構造が外部にむき出しになることを防ぐ方法を述べたが、本実施例においては、電子線遮蔽用の導電膜などをメッシュなどに設置する方法について述べる。以下、図14、図15および図16を用いて、電子線照射による帯電を抑制するための実施例を三種類示す。なお、ここでは一例として透過電子顕微鏡における実施例を説明するが、必ずしも、対象は透過電子顕微鏡に限らない。
【0054】
一種類目として、電子線遮蔽用導電膜1403をメッシュ基板1401に設ける方法を図14に示す。図14(a)は、メッシュを表側から見た図である。まず、メッシュ基板1401の上にメッシュ絶縁膜1402および電子線遮蔽用導電膜1403を新たに設けるため、導電性の低い、もしくは、導電性のない接着剤を用いて金属板をメッシュ基板1401にはりあわせば、金属板が電子線遮蔽用導電膜1403となり、金属板とメッシュとの間の接着層が、メッシュ絶縁膜1402となる。もしメッシュ基板1401が絶縁物でできている場合は、電子線遮蔽用導電膜1403はメッシュ基板1401からすでに電気的に切り離されており、メッシュ絶縁膜1402を設けなくとも差し支えないため、作製が一層容易となる。
【0055】
このとき、第1の独立配線構造103’を、図14(b)のように、メッシュの裏面のみに設ける。そして、図14(c)のように、電子線遮蔽用導電膜1403を接地するため、電子線遮蔽用導電膜を接続するための配線構造1404をソケット内部に新たに設ける。そのうえで、電子線遮蔽用導電膜を接続するための配線構造1404を接地する。例えば、電子線遮蔽用導電膜を接続するための配線構造1404と第2の配線構造105のひとつとを電気的に接続しておき、前記第2の配線構造を、試料ホルダ上の電流導入端子を介して顕微鏡筐体に接続しておいたうえで、メッシュをソケット104に矢印方向に組み込めば、電子線遮蔽用導電膜1403は、電子線遮蔽用導電膜を接続するための配線構造1404と、第2の配線構造105、および電流導入端子を介して容易に接地できる。
【0056】
そして、電子顕微鏡の中で、電子線遮蔽用導電膜1403で覆われた面は電子銃に対向する向きに、第1の独立配線構造103’はその逆向きとなるように、メッシュを組み込むこととすれば、図14(c)のように、分析中にメッシュに照射される電子線は電子線遮蔽用導電膜にて遮蔽される。
【0057】
二種類目としては、一種類目の方法をベースとして、電子線遮蔽用導電膜1403に、観察しようとする試料の形状に対応した凹凸形状をさらに設けた例を図15に示す。このようにすると、試料分析中にメッシュに照射される電子線は電子線遮蔽用導電膜1403によって遮蔽できる。また、電子線遮蔽用導電膜の凹凸形状や、試料の取り付け位置を適切に選べば、図15(c)のように、試料上の分析不要な箇所に照射される電子線も電子線遮蔽用導電膜1403によって遮蔽される。
【0058】
三種類目として、電子線遮蔽用導電膜1403に、試料遮蔽カバー1601をさらに設けた例を図16に示す。試料遮蔽カバー1601は電子線を遮蔽する機能を設けるため、前述した一種類目、二種類目の方法と同様に、試料遮蔽カバー表面の一部または全部に導電膜を設け、かつ前記導電膜を接地しておく。試料遮蔽カバー1601は、金属板を切り出すことにより作製してもよく、マイクロサンプル法により試料遮蔽カバーをウェーハやチップ試料から取り出し、これにデポジション膜を形成して導電膜を設けたりすることができる。そのうえで、試料遮蔽カバー1601をメッシュに設置する。このとき、試料遮蔽カバーに備えた導電膜と、メッシュに設けた電子線遮蔽用導電膜1403とを電気的に接続する。そして、一種類目の手順と同様の方法にて、図16(c)のように、メッシュを試料ホルダに組み込み、同時に、電子線遮蔽用導電膜を接続するための配線構造1404を介して試料遮蔽カバーの導電膜を接地すればよい。これにより、試料分析中にメッシュに照射される電子線は電子線遮蔽用導電膜によって遮蔽されるし、試料遮蔽カバーの形状および取り付け位置を適切に選べば、試料上の分析不要な箇所に照射される電子線も試料遮蔽カバー1601によって遮蔽することが可能となる。
【実施例8】
【0059】
本実施例では、実際のデバイス測定における、デバイス試料とメッシュの接続方法の一例を述べる。ここでは、試料としては、デバイスチップや半導体ウェーハなどから切り出し薄膜化した電界効果トランジスタ1701を、あくまでも一例として説明に用いることとする。薄膜化に際しては、例えば実施例3に述べた方法で、外部電圧印加箇所若しくは前記試料に含まれる配線構造をあらかじめ試料表面に露出させておくものとする。
【0060】
図17は、試料評価の一実施例を示す図である。表面に配線構造を有するC字型メッシュ1702に、試料を固定する。他の実施例では、マイクロサンプリング法による試料作製時に、試料の向きを逆さまにしたうえで、該試料の基板側の反対側がメッシュに接触するように固定していたが、本実施例では、薄膜化した試料の「側面」をC字型メッシュ1702に固定する。そのうえで、観察しようとする試料に含まれる配線構造の外部電圧印加箇所、すなわち、ソース1703、ドレイン1704、ゲート1705およびグランド1706と、第1の独立配線構造103’とを、各々、空中配線1707にて接続する。空中配線110としては、カーボンナノチューブまたはワイヤボンディングを用いてもよい。なお、ここではメッシュとして、C字型メッシュ1702を用いたが、メッシュの形状はC字型に限るものではない。また、配線構造は4系統としているが、系統数は4系統に限るものではなく、測定の目的に応じて適切な系統数を選ぶとよい。
【0061】
ここで、観察しようとする試料をメッシュに設置するとき、もしメッシュが導電性を有する材料でできている場合は、観察しようとする試料とメッシュとの間に絶縁体114を設け、観察しようとする試料をメッシュから電気的に切り離すとよい。例えば、電気伝導の低い、もしくは絶縁性を有する接着剤を用いて、観察しようとする試料をメッシュに固定するとよい。他の方法としては、メッシュの表面に十分厚い酸化膜を形成し、前記酸化膜上に観察しようとする試料を固定することとしてもよい。なお、絶縁物でできているメッシュを用いる場合は、観察しようとする試料はメッシュからすでに電気的に切り離されているため、観察しようとする試料とメッシュとの間に絶縁体114を設けなくとも差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
半導体デバイスの分析などの半導体産業、電子顕微鏡・イオンビーム装置をはじめとする試料分析装置などの計測装置産業に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本出願の試料分析装置の一実施例を示す図。
【図2】従来の透過型電子顕微鏡の構成を示す図。
【図3】従来の観察試料加工手順の一実施例を示す図。
【図4】本出願の試料分析装置の一実施例の断面を示す図。
【図5】試料保持台の一実施例を示す図。
【図6】観察試料断面顕在化を行う試料作製装置の構成の一実施例を示す図。
【図7】観察試料加工手順の一実施例を示す図。
【図8】観察試料断面顕在化手順の一実施例を示す図。
【図9】観察試料形状の一実施例を示す図。
【図10】試料保持台に備えた配線構造と試料とを電気的に接続する方法の一実施例を示す図。
【図11】電子顕微鏡用試料ホルダの一実施例を示す図。
【図12】評価のための電子顕微鏡の一実施例を示す図。
【図13】表示装置にて提供される操作画面の一実施例を示す図。
【図14】電子線照射による帯電を抑制する方法の一実施例を示す図。
【図15】電子線照射による帯電を抑制する方法の一実施例を示す図。
【図16】電子線照射による帯電を抑制する方法の一実施例を示す図。
【図17】試料評価の一実施例を示す図。
【符号の説明】
【0064】
101:試料、102:メッシュ、103:第1の配線構造、103‘:第1の独立配線構造、104:ソケット、105:第2の配線構造、106:試料ホルダ、107:試料台受け台、108:凹型ガイド形状、109:凸型ガイド形状、110:配線部材、111:電子線、112:メッシュ押さえ、113:メッシュ押さえ固定ネジ、114:絶縁膜、
201:電子銃、202:アノード、203:集束レンズ、204:対物レンズ、205:結像レンズ、206:蛍光板、207:試料押さえ治具、208:試料押さえばね、
301:試料、302:微小試料片、303:マニピュレータ、304:試料保持手段、305:所望観察部、
401:配線接触用ばね、
501:持ち手、502:パッド、503:微細配線構造、504:導電膜、505:絶縁膜、506:試料保持台、507:絶縁体から成る試料保持台
601:半導体ウェーハ(または、デバイスチップ)、602:試料台、603:試料位置制御装置、604:イオンビーム、605:イオンビーム光学系、606:二次電子検出器、607:イオンビーム光学系制御装置、608:二次電子検出器制御装置、611:中央処理装置、612:真空容器、651:プローブ、652:プローブ駆動機構、653:プローブ制御装置、654:デポジションガス源、655:デポジションガス源制御装置、656:サンプルキャリア支持部、
701:収束イオンビーム、702、703、704:矩形穴、705:溝、706:支持部、707:試料片、708:デポジションガス、709:デポジション膜、710:試料保持台、711:デポジション膜、
801:所望断面、
901:薄膜化した観察試料、902:突起状の形状を有する観察試料、903:試料の垂直方向、904:試料の垂直方向以外の方向の一例、
1001:電界効果トランジスタの薄膜試料、1002:プラグ、1003:タングステンデポジション膜、1004:空中配線、
1101:カートリッジ、1102:傾斜ピボット、1103:回転ピボット、1104:接触部材、1105:電流導入端子、
1201:電子銃制御回路、1202:1次電子線、1203:照射レンズ、1204:照射レンズ制御回路、1205:コンデンサ絞り、1206:コンデンサ絞り制御回路、1207:軸ずれ補正用偏向器、1208:軸ずれ補正用偏向器制御回路、1209:収差補正器、1210:収差補正器制御回路、1211:イメージシフト用偏向器、1212:イメージシフト用偏向器制御回路、1213:走査用偏向器、1214:走査用偏向器制御回路、1215:対物レンズ、1216:対物レンズ制御回路、1217:電流導入端子付き試料ホルダ駆動機構、1218:電流導入端子付き試料ホルダ駆動機構制御回路、1219:透過電子線、1220:電子検出器、1221:電子検出器制御回路、1222:中央処理装置、1223:表示装置、1224:情報入力手段、
1301:外部電圧・電流印加システム、
1401:メッシュ基板、1402:メッシュ絶縁膜、1403:電子線遮蔽用導電膜、1404:電子線遮蔽用導電膜を接続するための配線構造、
1601:試料遮蔽カバー、
1701:薄膜化した電界効果トランジスタ、1702:C字型メッシュ、1703:ソース、1704:ドレイン、1705:ゲート、1706:グランド、1707:空中配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を搭載する試料ホルダと、
前記試料に荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射光学系と、
前記荷電粒子線の照射により生じる二次的な荷電粒子線を検出する検出器を少なくとも備える試料分析装置において、
前記試料ホルダは、前記試料を搭載し前記試料と電気的に接続可能な第一の配線構造を有する試料保持台と、当該試料保持台を搭載し前記第一の配線構造と接続可能な第二の配線構造とを備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
試料を搭載する試料ホルダと、
前記試料に電子線を照射する電子線照射光学系と、
前記電子線の照射により前記試料を透過した電子を検出する検出器を少なくとも備える試料分析装置において、
前記試料ホルダは、前記試料を搭載し前記試料と電気的に接続可能な第一の配線構造を有する試料保持台と、当該試料保持台を搭載し前記第一の配線構造と接続可能な第二の配線構造とを備え、
前記第二の配線構造及び第一の配線構造を介して前記試料に電圧もしくは電流を供給する手段を備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の試料分析装置において、
前記試料保持台は単一または複数の配線を有することを特徴とする試料分析装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の試料分析装置において、
前記試料保持台と前記試料との間に絶縁物を備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の試料分析装置において、
前記試料保持台と前記第一の配線構造の間に絶縁物を有することを特徴とする試料分析装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の試料分析装置において、
前記試料保持台及び前記試料ホルダを組み付けるための凹凸部をそれぞれ備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の試料分析装置において、
前記試料保持台の表面に接地された導電膜を有することを特徴とする試料分析装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の試料分析装置において、
前記試料保持台の表面に、接地された導電性を有するカバーを備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項9】
請求項7に記載の試料分析装置において、
前記導電膜と前記試料保持台との間に絶縁物を備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項10】
請求項8に記載の試料分析装置において、
前記カバーと前記試料保持台との間に絶縁物を備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項11】
請求項1に記載の試料分析装置において、
前記第二の配線構造及び前記第一の配線構造を介して前記試料に電圧を印加する手段を備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項12】
請求項1または2に記載の試料分析装置において、
前記検出器で検出した信号を画像化する手段を備え、
当該画像を表示する表示手段を備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項13】
請求項1または2に記載の試料分析装置において、
前記試料ホルダは、前記試料を作製するための試料作製装置と共通使用可能なサイドエントリ式の試料ホルダであることを特徴とする試料分析装置。
【請求項14】
請求項1,2に記載の試料分析装置において、
前記試料保持台は、前記試料を作製するための試料作製装置と共通使用可能であることを特徴とする試料分析装置。
【請求項15】
試料分析装置に用いる試料ホルダであって、
試料を搭載し前記試料と電気的に接続可能な第一の配線構造を有する試料保持台と、当該試料保持台を搭載し前記第一の配線構造と接続可能な第二の配線構造とを備えることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項16】
請求項15に記載の試料ホルダにおいて、
前記第一の配線構造と前記第二の配線構造を接続するための案内手段を備えることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項17】
請求項16に記載の試料ホルダにおいて、
前記案内手段はソケットであることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項18】
請求項15に記載の試料ホルダにおいて、
当該試料ホルダは、サイドエントリ式であることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項19】
請求項18に記載の試料ホルダにおいて、
前記サイドエントリ式の試料ホルダは前記試料分析装置用の試料を作製するための試料作製装置と共通使用可能であることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項20】
請求項15に記載の試料ホルダにおいて、
前記試料保持台は前記試料分析装置用の試料を作製するための試料作製装置と共通使用可能であることを特徴とする試料ホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−303946(P2007−303946A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132084(P2006−132084)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】