説明

誘電体ペースト、誘電体およびキャパシタ

【要約書】
【課題】 高誘電率かつ印刷精度に優れた誘電体ペーストおよび高誘電率かつ低誘電正接かつ表面平滑性の良いキャパシタを提供する。
【解決手段】 バインダー樹脂と高誘電体粒子とを含み、誘電体層を構成する誘電体ペーストであって、前記高誘電体粒子の粒径は、前記誘電体層の厚さの5%以上40%以下であることを特徴とする誘電体ペーストにより達成される。前記バインダー樹脂としては、環状オレフィン系樹脂を用いることができ、前記環状オレフィン系樹脂としては、ノルボルネン系樹脂を含むものを用いることができる。本発明の誘電体は、前記誘電体ペーストで構成されることを特徴とする。本発明のキャパシタは、前記誘電体ペーストで構成される誘電体と導体とより構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体ペースト、誘電体およびキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化や回路の高速化に対応するため、従来、電子基板に搭載されていたキャパシタは、高性能化され、電子基板に内蔵される構造となってきている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
キャパシタを電子基板に内蔵する方法としては、例えば、基板の電極上に高誘電体フィラーを含有した樹脂組成物をペーストとして印刷し、その上にもう1つの電極を形成して内蔵する構造を得る方法がある。
【0004】
前記ペーストには高誘電体フィラーとしてセラミックを用いられるのが、一般的であり、これをできるだけ多く含有させることにより非常に誘電率の高い誘電体ペーストを得ることができる(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−367858号公報
【特許文献2】特開平8−125302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、キャパシタの構成要素である前記ペーストで構成される樹脂層において、その厚みに対して、前記ペーストに必要以上に粒径の小さい高誘電体フィラーを充填した場合には、該フィラー同士の間に、誘電率の低いバインダー樹脂が介在する点が多くなり、高誘電率の連続体が少なくなって、前記樹脂層において、高誘電体フィラーの効果が発現されずに誘電率が低下する。逆に、樹脂膜の厚みに対して、必要以上に粒径の大きいフィラーを充填させた場合には、フィラーによる凹凸が、樹脂膜の表面に影響を与えてしまい、表面平滑性が低下する。
【0007】
また、誘電率の高い樹脂層を得るために高誘電体フィラーを高充填するが、充填量が多すぎると、樹脂層の表面平滑性、ペーストの印刷性、樹脂層と下部電極との密着性、が低下する。逆に、高誘電体フィラーの充填量が少なすぎると、樹脂層の誘電率が低下する。
【0008】
また、高誘電体フィラーを高充填した場合、樹脂層の誘電率の増加に伴い誘電正接の低下が問題となる。そのため高誘電体フィラーを高充填するのには限界がある。
以上のように、高誘電体フィラーとバインダー樹脂とを用いて高誘電率かつ印刷精度に優れた誘電体ペーストを形成することは事実上困難であった。
【0009】
本発明の目的は高誘電率かつ印刷精度に優れた誘電体ペーストを提供することである。
また、本発明の目的は、表面平滑性に優れた誘電体を提供することである。
また、本発明の目的は、高誘電率かつ低誘電正接のキャパシタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)〜(12)記載の本発明により達成される。
(1) バインダー樹脂と高誘電体粒子とを含み、誘電体層を構成する誘電体ペーストであって、前記高誘電体粒子の粒径は、前記誘電体層の厚さの5%以上40%以下であることを特徴とする誘電体ペースト。
(2) 前記高誘電体粒子は、誘電体セラミックスである第(1)項に記載の誘電体ペースト。
(3) 前記高誘電体粒子の粒径は、5nm以上25μm以下である第(1)項または第(2)項に記載の誘電体ペースト。
(4) 前記バインダー樹脂は、環状オレフィン系樹脂である第(1)項乃至第(3)項のいずれかに記載の誘電体ペースト。
(5) 前記環状オレフィン系樹脂が、ノルボルネン系樹脂を含むものである第(4)項に記載の誘電体ペースト。
(6) 前記ノルボルネン系樹脂は、下記一般式(1)で表される繰返し単位を有するものである、第(5)項に記載の誘電体ペースト。
【0011】
【化1】

(式(1)中のXは、−CH−、−CHCH−または−O−を示し、R、R、R、およびRはそれぞれ、水素、または、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シリル基、エポキシ基およびこれらの官能基を含む有機基から選ばれた1種以上の基を示し、少なくとも1つは官能基または該官能基を含む有機基を示す。nは0〜5の整数を示し、その繰り返しは異なっていても良い。)
【0012】
(7) 前記ノルボルネン系樹脂は、ノルボルネン型モノマーの付加重合体である第(5)項または第(6)項に記載の誘電体ペースト。
(8) 前記ノルボルネン系樹脂は、重合可能な官能基を有するノルボルネン型モノマーと下記一般式(2)で表されるモノマーを含むノルボルネン型モノマーの付加共重合体である第(5)項乃至第(7)項のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【0013】
【化2】

(式(2)中のXは、−CH−、−CHCH−または−O−を示し、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ビニル基、アリル基、アラルキル基、環状脂肪族基またはアリール基から選ばれた1種以上の置換基を示す。nは0〜5の整数を示し、その繰り返しは異なっていても良い。)
【0014】
(9) 誘電体ペーストの粘度が、0.1Pa・s以上100Pa・s以下である第(1)項乃至第(8)項のいずれかに記載の誘電体ペースト。
(10) 前記誘電体ペーストは、30〜1000の誘電率を有するものである第(1)項乃至第(9)項のいずれかに記載の誘電体ペースト。
(11) 第(1)項乃至第(10)項のいずれかに記載の誘電体ペーストで構成されることを特徴とする誘電体。
(12) 第(1)項乃至第(10)項のいずれかに記載の誘電体ペーストで構成される誘電体と導体とより構成されることを特徴とするキャパシタ。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高誘電率かつ印刷精度に優れた誘電体ペーストを得ることができる。
また、本発明によれば表面平滑性に優れた誘電体を得ることができる。
また、本発明によれば高誘電率かつ低誘電正接のキャパシタを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、バインダー樹脂と高誘電体粒子とを含み、誘電体層を構成する誘電体ペーストであって、前記高誘電体粒子の粒径は、前記誘電体層の厚さの5%以上40%以下であることを特徴とする誘電体ペーストである。これにより、印刷精度および作業性に優れた誘電体ペーストが得られる。また、このような誘電体ペーストを用いて得られるキャパシタは、高い誘電率低い誘電正接・高い表面平滑性・電極との高密着性が得られるものである。
【0017】
本発明の誘電体ペーストに用いる高誘電体粒子としては、例えば、誘電率が100〜30000であるものを選ぶことができ、金属化合物や、炭化ケイ素など誘電体セラミックスなどが挙げられ、前記金属化合物の具体例としては、BaTiO成分のうち、BaとTiとを、Pd、Bi、Nd、Ca、Fe、Nb、W、Cu、Mg、Al、Zn、Zr、TaおよびSrなどで置換したペロブカイト構造の誘電体や、鉛ペロブカイト系の誘電体をガラスで固結化したもの、を挙げることができる。これら金属化合物の誘電体セラミックスとしては、チタン酸バリウム系セラミック、チタン酸鉛系セラミック、チタン酸カルシウム系セラミック、チタン酸マグネシウム系セラミック、チタン酸ビスマス系セラミックおよびチタン酸ストロンチウム系セラミックなどのチタン酸金属系セラミック、ジルコン酸鉛系セラミックおよびジルコン酸バリウム系セラミックなどのジルコン酸金属系セラミック、さらには鉛複合酸化物系セラミックなどが挙げられる。
これらの中でも、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムが好ましい。これにより、高い誘電率を有するキャパシタを得ることができる。
【0018】
前記高誘電体粒子の粒径は、誘電体ペーストで構成される誘電体層の厚さの5%以上、40%以下であるが、特に10〜30%が好ましい。また、前記高誘電体粒子の粒径は、5nm以上25μm以下であることが好ましい。粒径が前記範囲内であることにより、硬化物の誘電率と表面平滑性と電極との密着性が向上する。
前記高誘電体粒子の含有量は、前記樹脂組成物全体の20〜90体積%が好ましく、特に50〜80体積%が好ましい。含有量が前記範囲内であると、硬化物の誘電率と表面平滑性と電極との密着性が向上する。
【0019】
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂としては、例えば、シクロヘキセン、シクロオクテン等の単環体、ノルボルネン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、トリシクロペンタジエン、ジヒドロトリシクロペンタジエン、テトラシクロペンタジエン、ジヒドロテトラシクロペンタジエン等の多環体、これらのモノマーに官能基が結合した置換体の重合体を挙げることができる。
【0020】
このような環状オレフィンモノマーの重合体には、例えば、環状オレフィンモノマーの(共)重合体、環状オレフィンモノマ−とα−オレフィン類等の共重合可能な他のモノマ−との共重合体、およびこれらの共重合体の水素添加物等が挙げられる。これらの公知の重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体等が挙げられる。これら環状オレフィン系樹脂は、公知の重合法により製造することが可能であり、その重合方法には付加重合法と開環重合法とが挙げられる。前記環状オレフィン系樹脂の中でも、一般に、ノルボルネン系樹脂は、その主鎖骨格が脂環構造であるため低吸湿性を有する。
【0021】
環状オレフィン系樹脂の付加重合体としては、例えば、(1)ノルボルネン型モノマーを付加(共)重合して得られるノルボルネン型モノマーの付加(共)重合体、(2)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との付加共重合体、(3)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、および必要に応じて他のモノマーとの付加共重合体が挙げられる。これらの樹脂は公知のすべての重合方法で得ることができる。このうち、ノルボルネン型モノマーを重合(特に、付加(共)重合)することによって得られたポリマーが好ましいが、本発明はなんらこれに限定されるものではない。
【0022】
このような環状オレフィン系樹脂の付加重合体は、金属触媒による配位重合またはラジカル重合によって得られる。このうち、配位重合においては、モノマーを、遷移金属触媒存在下、溶液中で重合することによってポリマーが得られる(NiCOLE R. GROVE et al. Journal of Polymer Science:part B,Polymer Physics, Vol.37, 3003−3010(1999))。
配位重合に用いる金属触媒として代表的なニッケルと白金触媒は、PCT WO 9733198とPCT WO 00/20472に述べられている。配位重合用金属触媒の例としては、(トルエン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、(メシレン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、(ベンゼン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、ビス(テトラヒドロ)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、ビス(エチルアセテート)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、ビス(ジオキサン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル等の公知の金属触媒が挙げられる。
【0023】
また、ラジカル重合技術については、Encyclopedia of Polymer Science, John Wiley & Sons,13,708(1998)に述べられている。
一般的にはラジカル重合はラジカル開始剤の存在下、温度を50℃〜150℃に上げ、モノマーを溶液中で反応させる。ラジカル開始剤としてはアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル、アゾビスイソカプトロニトリル、アゾビスイソレロニトリル、t−ブチル過酸化水素等である。
【0024】
環状オレフィン系樹脂の開環重合体としては、例えば、(4)ノルボルネン型モノマーの開環(共)重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(5)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(6)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、または他のモノマーとの開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂が挙げられる。これらの樹脂は公知のすべての重合方法で得ることができる。
【0025】
このような環状オレフィン系樹脂の開環重合体は、公知の開環重合法により、チタンやタングステン化合物を触媒として、少なくとも一種以上のノルボルネン型モノマ−を開環(共)重合して開環(共)重合体を製造し、次いで、必要に応じて、通常の水素添加方法により、前記開環(共)重合体中の炭素−炭素二重結合を水素添加して、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を製造することによって得られる。
【0026】
前記付加重合および開環重合に用いる重合溶媒としては、炭化水素や芳香族溶媒が挙げられる。炭化水素溶媒の例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、やシクロヘキサンなどであるがこれに限定されない。芳香族溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンやメシチレンなどであるがこれに限定されない。ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチルアセテート、エステル、ラクトン、ケトン、アミドも使用できる。これら溶剤を単独や混合しても重合溶媒として使用できる。
【0027】
本発明の環状オレフィン系樹脂の分子量は、開始剤とモノマーの比を変えたり、重合時間を変えたりすることにより制御することができる。上記の配位重合が用いられる場合、米国特許No.6,136,499に開示されるように、分子量を連鎖移動触媒の使用により制御することができる。この発明においては、エチレン、プロピレン、1−ヘキサン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン、などα−オレフィンが分子量制御するのに適当である。
【0028】
前記環状オレフィン系樹脂は、側鎖に重合可能な官能基を有しているものを用いることができ、これにより、前記誘電体ペーストから樹脂層を形成した場合に基材との密着性や耐熱性などの特性を向上することができる。
前記官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シリル基、エポキシ基(グリシジルエーテル基)等が挙げられる。前記側鎖に重合可能な官能基を有している環状オレフィン系樹脂は、下記に記載の側鎖に重合可能な官能基を有する環状オレフィンモノマーの重合体、またはそれと他の環状オレフィンモノマーとの共重合体であっても良い。
前記側鎖に重合可能な官能基を有する環状オレフィンとしては、具体的に、5−ノルボルネン−2−メタノール、酢酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、プロピオン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、酪酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、吉草酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、カプロン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、カプリル酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、カプリン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、ラウリン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、ステアリン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、オレイン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、リノレン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸t−ブチルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸i−ブチルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリメチルシリルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリエチルシリルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸イソボニルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸2−ヒドロキシエチルエステル、5−ノルボルネン−2−メチル−2−カルボン酸メチルエステル、ケイ皮酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、5−ノルボルネン−2−メチルエチルカルボネ−ト、5−ノルボルネン−2−メチルn−ブチルカルボネ−ト、5−ノルボルネン−2−メチルt−ブチルカルボネ−ト、5−メトキシ−2−ノルボルネン、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−エチルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−n−ブチルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−n−プロピルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−i−ブチルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−i−プロピルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−ヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−オクチルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−デシルエステル、5−トリメトキシシリル−2−ノルボルネン、5−トリエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−(2−トリメトキシシリルエチル)−2−ノルボルネン、5−(2−トリエトキシシリルエチル)−2−ノルボルネン、5−(3−トリメトキシプロピル)−2−ノルボルネン、5−(4−トリメトキシブチル)−2−ノルボルネン、5−トリメチルシリルメチルエーテル−2−ノルボルネン、5−メチルグリシジルエーテル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。これらの環状オレフィンモノマーを重合した付加重合体、およびこれらの環状オレフィンモノマーと他の環状オレフィンモノマーとの付加共重合体が最も好ましい。これにより、より耐熱性に優れることができる。
【0029】
前記重合可能な官能基の置換量は、特に限定されないが、前記環状オレフィン系樹脂全体の3〜70モル%が好ましく、特に5〜40モル%が好ましい。置換量が前記範囲内であると、特に誘電率に優れる。また、このような側鎖に重合可能な官能基を有する環状オレフィン系樹脂は、例えば、1)前記環状オレフィン系樹脂に重合開始可能な官能基を有する化合物を変性反応により導入することによって、2)重合開始可能な官能基を有する単量体を重合することによって、3)重合開始可能な官能基を有する単量体を共重合体成分として他の成分と共重合することによって、または4)エステル基等の重合可能な官能基を有する単量体を共重合成分として共重合した後、エステル基を加水分解することによって得ることができる。
【0030】
さらに、環状オレフィンモノマーと共重合可能な不飽和モノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等の炭素数2〜20のエチレン又はα−オレフィン、1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等の非共役ジエン等が挙げられる。
【0031】
次に、ノルボルネン系樹脂の付加(共)重合体について説明する。
前記側鎖に重合可能な官能基を有しているノルボルネン系樹脂は、具体的には下記式(1)で表される繰り返し単位を有していることが好ましい。
【0032】
【化1】

式(1)中のXは、それぞれ独立して−CH−、−CHCH−または−O−を示す。R〜Rは、それぞれ独立して水素、または、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シリル基、エポキシ基およびこれらの官能基を含む有機基から選ばれた1種以上の基を示し、少なくとも1つは官能基または該官能基を含む有機基を示す。nは0〜5の整数を示し、その繰り返しは異なっていても良い。上記官能基を含む有機基としては、前記官能基と、アルキル基、エーテル基、エステル基などの基で構成される基が挙げられる。
【0033】
また、前記側鎖に重合可能な官能基を有しているノルボルネン系樹脂は、さらに、側鎖に重合可能な官能基を有するノルボルネン型モノマーと、下記式(2)で表されるモノマーとの付加共重合体であることが好ましい。これにより、密着性と電気特性とのバランスが特に優れる樹脂層を得ることができる。
【0034】
【化2】

式(2)中のXは、それぞれ独立して−CH−、−CHCH−または−O−を示す。R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ビニル基、アリル基、アラルキル基、環状脂肪族基またはアリール基から選ばれた1種以上の置換基を示す。nは0〜5の整数を示し、その繰り返しは異なっていても良い。
【0035】
前記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられ、アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブチニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、アルキニル基の具体例としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基等が挙げられ、前記環状脂肪族基の具体例としては、シクロヘキシル基、シクロペンチル基およびメチルシクロヘキシル基等が挙げられ、アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、アラルキル基の具体例としてはベンジル基、フェネチル基等が挙げられるが、本発明は何らこれらに限定されない。
【0036】
前記環状オレフィン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、1,000〜1,000,000が好ましく、特に5,000〜500,000が好ましく、最も10,000〜250,000が好ましい。重量平均分子量(Mw)が前記範囲内であると、耐熱性、成形物表面の平滑性等の特性がバランスに優れる。
前記重量平均分子量は、例えば、シクロヘキサン又はトルエンを有機溶剤とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算で評価することができる。
【0037】
前記環状オレフィン系樹脂の分子量分布[重量平均分子量:Mwと、数平均分子量:Mnとの比(Mw/Mn)]は、特に限定されないが、5以下が好ましく、特に4以下が好ましく、特に1〜3が好ましい。分子量分布が前記範囲内であると、電気特性に特に優れる。
前記分子量分布を測定する方法としては、例えば、シクロヘキサンまたはトルエンを有機溶剤とするGPCで測定することができる。
また、上記方法で、重量平均分子量や分子量分布が測定できない環状オレフィン系樹脂の場合には、通常の溶融加工法により、樹脂層を形成し得る程度の溶融粘度や重合度を有するものを使用することができる。前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択できるが、通常50℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは125℃以上である。
【0038】
前記一般式(1)で表される構造を有するノルボルネン系樹脂において、置換基R、R、R、およびRは、目的に応じて、その置換基の種類と該置換基を有する繰り返し単位の割合を調整することにより、特性を好ましいものとすることができる。例えば、前記一般式(1)において、Xは−CH−とし、RおよびRは水素とし、nは0の場合、RおよびRとして、例えば、前記アルキル基を導入した場合、可とう性に優れるポリノルボルネン樹脂フィルムを得ることができるので好ましい。また、トリメトキシシリル基、またはトリエトキシシリル基を導入した場合、銅などの金属との密着性が向上するので好ましい。ただし、トリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基の割合が多い場合、ポリノルボルネン樹脂の誘電正接が大きくなることがあるため、トリエトキシシリル基および/またはトリメトキシシリル基を有するノルボルネンの繰り返し単位は、一般式(1)で表されるノルボルネン1分子において、5〜80mol%の範囲にすることが好ましい。さらに好ましくは5〜50mol%である。
【0039】
中でも、特に、可とう性、密着性および誘電特性が良好な樹脂フィルムを得る上で、一般式(1)において、n−ブチル基を有するノルボルネン90mol%とトリエトシキシシリル基を有するノルボルネン10mol%からなるポリノルボルネン、未置換(置換基が水素原子)ノルボルネン90mol%とトリエトシシリル基を有するノルボルネン10mol%からなるポリノルボルネン、および未置換ノルボルネン75mol%とn−ヘキシル基を有するノルボルネン25mol%からなるポリノルボルネンが好ましい。
【0040】
また、前記側鎖にトリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基の替わりにエポキシ基を有するノルボルネン5〜95モル%、好ましくは、20〜80モル%、さらに好ましくは30〜70%の割合で使用する場合、基材との密着性を向上することができる。
【0041】
本発明の誘電体ペーストにおいて、上記以外の成分として、架橋剤、カップリング剤、希釈剤、難燃剤等を含んでいてもよい。本発明に用いる架橋剤としては、ビスアジド、パーオキサイド、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、酸無水物、ジカルボン酸、多価フェノール、ポリアミド等が挙げられ、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサンノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチル−シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタンおよび2,2’−ジアジドスチルベンなどのビスアジド;α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドおよび2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキサイド)ヘキシン−3などのパーオキサイド;ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミンおよびテトラエチレンペンタミンなどの脂肪族ポリアミン;ジアミノシクロヘキサン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5,2,1,02,6〕デカン、1,3−(ジアミノメチル)シクロヘキサン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンおよびビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンなどの脂環族ポリアミン;4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォンおよびメタフェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン類;無水フタル酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ナジック酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、無水マレイン酸変性ポリプロピレンおよび無水マレイン酸変性環状オレフィン系樹脂等の酸無水物類;フマル酸、フタル酸、マレイン酸、トリメリット酸およびハイミック酸等のジカルボン酸類;フェノ−ルノボラック樹脂およびクレゾ−ルノボラック樹脂等の多価フェノ−ル類;ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−11、ナイロン−612、ナイロン−12、ナイロン−46、メトキシメチル化ポリアミド、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミドおよびポリヘキサメチレンイソフタルアミド等のポリアミド類;等が挙げられる。これらは、一種でも、二種以上の混合物として使用しても良い。特に、ビスアジド類を用いると環状オレフィンとの相溶性の点で好ましい。また、必要に応じて、硬化助剤を配合して、架橋反応の効率を高めることも可能である。
前記硬化剤の含有量としては、とくに制限はないが、架橋反応を効率良く反応させ、かつ、得られる架橋物の電気特性、耐水性および耐湿性などの特性の上で、環状オレフィン系樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部が好ましく、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。
【0042】
また、前記環状オレフィン系樹脂においては、重合開始剤を含むことができ、これにより、側鎖に重合可能な環状オレフィン系樹脂を架橋反応させることができる。
前記重合開始剤としては、加熱により重合を開始する重合開始剤、光により重合を開始する重合開始剤、熱および光のいずれでも重合を開始する重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、加熱により重合を開始する重合開始剤が好ましい。
【0043】
このような重合開始剤としては、例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、クミルパーオキサイド、過硫酸カリウムおよび過酸化水素等の過酸化物、アゾビス(イソブチロニトリル)およびアゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等の公知な熱ラジカル重合開始剤等を使用することができる。また、光により重合を開始する重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2、6−ジメトキシベンゾイル)−2、4、4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2、4、6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5−2、4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2、6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム等が挙げられる。また、熱および光のいずれでも重合を開始する重合開始剤としては、トリアリールスルフォニウム塩、ジアリ−ルヨードニウム塩、スルフォン酸塩エステル、ハロゲン化物等が挙げられる。
【0044】
前記重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、前記環状オレフィン系樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、特に0.5〜5重量部が好ましい。含有量が前記範囲内であると、特に耐熱性に優れる。
なお、重合開始温度を調整するために、前記重合開始剤を複数種混合して用いることも可能である。
【0045】
本発明に用いるカップリング剤としては、1分子中に、アルコキシシリル基と、アルキル基、エポキシ基、ビニル基およびフェニル基等の有機官能基とを有するシラン化合物全般が挙げられ、例えば、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシランおよびブチルトリエトキシシランなどのアルキル基を有するシラン化合物、フェニルトリエトキシシラン、ベンジルトリエトキシシランおよびフェネチルトリエトキシシランなどのフェニル基を有するシラン化合物;、ブテニルトリエトキシシラン、プロペニルトリエトキシシランおよびビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシラン化合物;、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン等のメタクリル基を有するシラン化合物;、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランおよびγ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシラン化合物;、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよびβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基を有するシラン化合物;、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシラン化合物;等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、これらは単独でも混合して用いても良い。
前記カップリング剤の含有量としては、特に限定されないが、高誘電体フィラー100重量部に対し0.01〜30重量部が好ましく、より好ましくは0.05〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜5.0重量%が好ましい。
【0046】
本発明に用いる希釈剤としては、例えば、メチルエチルケトンおよびシクロヘキサノンなどのケトン類;、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素類;、メタノール、イソプロパノールおよびシクロヘキサノールなどのアルコール類;、シクロヘキサンおよびメチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;、石油エーテルおよび石油ナフサなどの石油系溶剤;、セロソルブおよびブチルセロソルブなどのセロソルブ類;、カルビトール、メチルカルビトールおよびブチルカルビトールなどのカルビトール類;、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテートおよびブチルカルビトールアセテートなどの酢酸エステル類;、などを挙げることができる。
これらの中でも、カルビトール類、酢酸エステル類の中から選ばれる1種以上が好ましい。これにより、誘電体ペーストの印刷性・硬化物の表面平滑性を向上することができる。
前記希釈剤の含有量は、特に限定されないが、前記樹脂組成物全体の1体積%〜80体積%が好ましく、特に20〜60体積%が好ましい。含有量が前記範囲内であると、特に表面平滑性に優れたキャパシタを得ることができる。
【0047】
本発明の誘電体ペーストの製造方法としては、例えば、高誘電体粒子以外の上記各種成分および適当な量の希釈剤を、混合容器に入れ、均一なワニスになるまで、十分にかき混ぜて、次いで、高誘電体粒子を加えて、これを混合し、樹脂組成物として、更に、該樹脂組成物を、高圧衝突式分散方式、ロールミル方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、および自転公転式分散方式などの分散方式を用いて、分散させて製造する方法が挙げられるが、これらの方法に限定されない。
【0048】
ここで得られる誘電体ペーストとしては、粘度が0.1Pa・sから100Pa・sであることが好ましく、これにより、誘電体層を作製する際に、種々の方法を用いることができる。本発明における粘度としては、E型粘度計で測定する、通常のズリ粘度で測定することができる。
また、上記誘電体ペーストは、硬化物として、1kHzの周波数において、30以上1000以下の誘電率および0.001以上0.5以下の誘電正接を有するものであることが、キャパシタなどの誘電体として用いる上で、好ましい。
【0049】
本発明のキャパシタとしては、前記誘電体ペーストで構成される誘電体と、導体とから、構成されるものであり、例えば、上記で得た誘電体ペーストよりなる誘電体層を、1対の導体層で挟持した構造を有するものが挙げられる(図1(c))。
このとき、誘電体層の厚みとしては、例えば、後述するキャパシタを内蔵した多層配線板などにおいては、一般的に、1〜100μmとすることができ、さらには10〜50μmとすることができる。
【0050】
キャパシタの製造方法としては、例えば、まず、基板104に形成された下部銅電極101上に、本発明の誘電体ペーストを用いて印刷形成し、その後、160℃で3時間硬化させ、誘電体層102を形成させる(図1(a),(b))。誘電体層の形成方法としては、例えば、スクリーンおよびステンシルなどにより印刷する方法、スピンコート、インクジェットおよびスプレーなどにより塗布する方法、バーコートなどにより製膜する方法などを挙げることができる。
上記の誘電体層は、薄い方がキャパシタの電気容量が向上するため、単層が好ましいが、キャパシタのその他の特性を向上させるために、複数層重ねることが可能である。例えば、誘電体層の中にピンホールが存在すると、電極形成時に、ピンホール中に導電物質が入り、両電極間でショートがおこる場合があり、この場合、キャパシタとしての特性が発現しなくなる。また、前記ピンホールが気泡となって、誘電体層の中に残ると、気泡の部分の誘電率は1であるため、キャパシタ特性に著しく悪影響を及ぼす場合があり、誘電体層を複数層重ねることにより、これらの現象を防止することが容易になる。
【0051】
次に、上記で形成した誘電体層102の上に、上部電極として導体層103を形成して、本発明のキャパシタを得ることができる(図1(c))。導体層の形成方法としては、例えば、銀ペーストなどの導電性ペーストを印刷して形成する方法、金および銅などの金属を蒸着して形成する方法、銅などの金属をメッキにより形成する方法などが挙げられる。
以上のようにして、誘電体層の両側に導電層を有する本発明のキャパシタが作製できる。
【0052】
上記で得た本発明のキャパシタについて、誘電体層中のフィラーの分散性については、キャパシタの断面を、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡の測定で得られた画像を処理することにより、それぞれの体積比およびフィラー間の距離を定量化することが可能である。また、キャパシタの電気容量の測定は、LCRメーターで測定することができる。
【0053】
次に、本発明のキャパシタを内蔵した多層配線板の製造方法について説明する。図2は、本発明の実施形態である多層配線板の製造方法の一例を説明するための図で、図2(e)は得られる多層配線板の構造を示す断面図である。
【0054】
まず、コア基板として、FR−4の両面金属箔(銅箔)付き絶縁基板203に、ドリル機で開孔して、開孔部202を設けた後、無電解めっきにより、開孔部202にめっきを行い、前記絶縁基板203の両面の金属箔間の導通を図り、次いで、前記金属箔をエッチングすることにより導体回路層201を形成して導体回路形成両面基板208を得る(図2(a))。導体回路層201の材質としては、この製造方法に適するものであれば、どのようなものでも良いが、導体回路の形成において、エッチングや剥離などの方法により除去可能である材質であることが好ましく、前記エッチングにおいては、これに使用される薬液などに耐性を有するものが好ましい。そのような導体回路層201の材質としては、例えば、銅、銅合金、42合金およびニッケル等が挙げられる。特に、銅箔、銅板および銅合金板は、電解めっき品や圧延品を選択できるだけでなく、様々な厚みのものを容易に入手できるため、導体回路層201として使用するのに好ましい。
【0055】
次に、導体回路層201に形成された電極(キャパシタ下部電極)上に、上記誘電体ペーストを印刷し、誘電体層204を形成する(図2(b))。誘電体層の形成方法としては、スクリーン・ステンシルなどの印刷方法や、ディスペンサー・インクジェット・スプレー塗布方法などが挙げられる。
【0056】
次に、導体回路層201および誘電体層204上に、絶縁層用樹脂組成物を用いて、絶縁層205を形成する(図2(c))。絶縁層205を形成する方法としては、塗布法やフィルム積層法などが挙げられ、前記塗布法としては、例えば、カーテンコータ、バーコータ、コンマコータ、ナイフコータ、グラビアコータ、ダイコータ、スピンコータ、印刷機、真空印刷機およびディスペンサーなどの装置を用いて、絶縁層用樹脂組成物を、絶縁層を形成する面に塗布して、塗膜を形成し、該塗膜を、乾燥機、窒素乾燥機および真空乾燥機などを用いて、乾燥・硬化して、絶縁層を形成する方法が挙げられる。前記フィルム積層方法としては、絶縁層用樹脂組成物を用いて、ポリエステルフィルムなどの基材の上に、上記同様にして塗膜を形成し、これを、乾燥して支持基材付きフィルム(絶縁膜)を作製し、これを、絶縁層を形成する面に、真空プレス、常圧ラミネーター、真空ラミネータ−およびベクレル式積層装置等を用いてフィルムを積層して絶縁層を形成する方法が挙げられ、また、ポリエステルフィルムなどの樹脂基材に替えて、金属基材の上に、上記同様にして絶縁膜を形成し、金属層付きフィルム(絶縁膜)を作製し、これを積層して絶縁層を形成する方法などが挙げられる。前記金属層付きフィルムにおいては、該金属層を導体回路として加工することができる。前記絶縁層用樹脂組成物としては、配線板の絶縁層に用いられものでよく、例えば、上記環状オレフィン系樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂などの絶縁樹脂を含むものが挙げられ、要求される特性に応じて適宜選択されるが、例えば、耐熱性、誘電率などの特性を要求される場合、上記ノルボルネン系樹脂の付加(共)重合体が好ましい。
【0057】
上記絶縁層は加熱硬化するが、その温度は、150℃〜300℃の範囲が好ましい。特に、150℃〜250℃が好ましい。また、一層目の絶縁層を、加熱して、半硬化させ、前記絶縁層上に、一層ないし複数の絶縁層を形成し、半硬化の絶縁層を、実用上問題ない程度に、再度加熱硬化させることにより、絶縁層間および絶縁層と導体回路間の密着力を向上させることができる。この場合の半硬化の温度は、150℃〜250℃が好ましく、150℃〜200℃が、より好ましい。
また、前記絶縁層を形成後に、絶縁層の表面にプラズマ処理を施すことで、絶縁層間および絶縁層と導体回路間の密着力を向上させることができる。プラズマ処理のガスとして、酸素、アルゴン、フッ素、フッ化炭素および窒素などを、一種もしくは複数種混合して用いることができる。また、プラズマ処理は複数回実施しても良い。
【0058】
次に、絶縁層205に、レーザーを照射して、ビアホール206を形成する(図2(d))。前記レーザーとしては、エキシマレーザー、UVレーザーおよび炭酸ガスレーザーなどが使用でき、前記レーザーによるビアホールの開孔においては、絶縁層の材質が感光性・非感光性に関係なく、微細なビアホールを容易に形成することができるので、微細加工が必要とされる場合に、特に好ましい。また、ビアホール205の形成方法としては、上記レーザーを照射する方法以外に、レーザーおよびプラズマなどによるドライエッチング、ケミカルエッチング等を用いることができる。また、絶縁層205を感光性の樹脂により作製した場合には、絶縁層205を選択的に感光し、現像することでビアホール206を形成することもできる。
【0059】
次に、第二の導体回路層(キャパシタ上部電極)207を形成する(図2(e))。第二の導体回路層207の形成方法としては、公知の方法であるセミアディティブ法などで形成することができる。これらの方法により、多層配線板を製造することができる。
【0060】
本発明のキャパシタは電子基板上に作成することが可能であり、例えば、該電子基板を作製するビルドアップ工程の中で、内層基板に、本発明のキャパシタを作成することにより電子基板内に埋め込むことも可能である。
【0061】
(実施例)
以下、本発明を実施例および比較例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでは無い。
【実施例1】
【0062】
[樹脂組成物の作製]
室温で、チタン酸バリウム200g(平均粒径7.5μm、66体積%)を、ポリノルボルネン20g(プロメラス社製、アバトレル(ブチルノルボルネン90mol%とトリエトキシシランノルボルネン10mol%の共重合体))とジエチレングリコールモノメチルエーテル20gの混合溶液に投入し、遊星回転式混練装置によりプレ攪拌を行った。攪拌終了後、3本ロールミルにて十分に混練を行い、目的とする高誘電体フィラーを含む誘電体ペーストを得た。
【0063】
[誘電率・誘電正接評価用キャパシタの作製]
FR−4の両面金属箔(銅箔)付き絶縁基板(ELC4765、住友ベークライト株式会社製)に、感光性レジストフィルム(AUS308、太陽インク製造株式会社製)をラミネートし、測定のための端子および電極を形成したマスクをかけ、露光機により露光した。
露光後現像し、余分なレジストを取り除いた。その後、エッチングを行い、銅箔を取り除き、更にレジストを取り除くことにより、測定のための端子および電極(1cm角)を形成した基板を得た。
【0064】
上記誘電体ペーストを、スクリーン印刷機で、上記基板の電極と一致するように印刷し、180℃で3時間加熱することにより、誘電体ペーストの樹脂を硬化し、誘電体層の片側に、導電体層がある誘電体付き基板を得た。このとき、誘電率を後から算出できるように、誘電体層の厚みを、厚み計で測定した。本実施例の場合、厚みは30μmであった。
【0065】
上記誘電体付き基板の上に、スクリーン印刷機で、誘電体層と測定のための端子に重なるように、銀ペーストを印刷し、150℃で1時間硬化させ、上部電極を形成した。
このようにして、基板上に本発明のキャパシタを作製した。
【実施例2】
【0066】
実施例1においてチタン酸バリウムの体積%が、80体積%となるように樹脂組成物を調整した以外は、実施例1と同様にした。
【実施例3】
【0067】
実施例1においてチタン酸バリウムの体積%が、30体積%となるように樹脂組成物を調整した以外は、実施例1と同様にした。
【実施例4】
【0068】
実施例1において平均粒径が10.5μmであるチタン酸バリウムを使用した以外は、実施例1と同様にした。
【実施例5】
【0069】
実施例1において平均粒径が3μmであるチタン酸バリウムを使用した以外は、実施例1と同様にした。
【0070】
(比較例1)
実施例1においてチタン酸バリウムの体積%が、95体積%となるように樹脂組成物を調整した以外は、実施例1と同様にした。
【0071】
(比較例2)
実施例1においてチタン酸バリウムの体積%が、10体積%となるように樹脂組成物を調整した以外は、実施例1と同様にした。
【0072】
(比較例3)
実施例1において平均粒径が15μmであるチタン酸バリウムを使用した以外は、実施例1と同様にした。
【0073】
(比較例4)
実施例1において平均粒径が0.3μmであるチタン酸バリウムを使用した以外は、実施例1と同様にした。
【0074】
各実施例および比較例で得られたキャパシタについて、以下の評価を行った。評価項目を内容と共に示す。得られた結果を表1に示す。
[誘電率、誘電正接の測定]
プレシジョンLCRメーター 4284A(ヒューレット・パッカード社製)を用い、測定周波数1000Hzで、電気容量と誘電正接を測定し、エッチングで作製した電極の面積、誘電体層の厚みを併用して、誘電率を算出した。
【0075】
[表面粗さの測定]
前記キャパシタ作製工程中の、上部電極を形成する前の誘電体樹脂層が露出しているサンプルを用いて、樹脂層の表面粗さを測定した。測定には、表面粗さ測定装置(ACCRETECH社製 SURFCOM 1400D)を用いて、算術平均粗さRaを測定した。
【0076】
[密着性の測定]
銅箔との密着性に関しては、12μm厚みの銅箔粗化面に、誘電体ペーストを30μm厚みで塗布し、180℃3時間、加熱して硬化後、1cm×10cmの短冊状の誘電体付き銅箔を作成し、銅箔引き剥がし強度を測定した。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に示すように、実施例1〜5において、本発明のキャパシタは、高い誘電率と低い誘電正接、良好な表面平滑性・密着強度を示した。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、高誘電率かつ印刷精度に優れた誘電体ペーストは得られ、更に、これを用いて、高誘電率かつ低誘電正接かつ表面平滑性の良いキャパシタが作製できることから、電子機器の小型化や回路の高速化に対応する高性能化なキャパシタを内蔵する電子基板などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明のキャパシタを製造する方法の例について説明するための断面図である。
【図2】本発明の実施形態である多層配線板の製造方法の一例を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0081】
101 下部電極
102 誘電体層
103 導体層(上部電極)
104 基板
201 導体回路層
202 開孔部
203 両面金属箔(銅箔)付き絶縁基板
204 誘電体層
205 絶縁層
206 ビアホール
207 第二の導体回路層
208 導体回路形成両面基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と高誘電体粒子とを含み、誘電体層を構成する誘電体ペーストであって、前記高誘電体粒子の粒径は、前記誘電体層の厚さの5%以上40%以下であることを特徴とする誘電体ペースト。
【請求項2】
前記高誘電体粒子は、誘電体セラミックスである請求項1に記載の誘電体ペースト。
【請求項3】
前記高誘電体粒子の粒径は、5nm以上25μm以下である請求項1または2に記載の誘電体ペースト。
【請求項4】
前記バインダー樹脂は、環状オレフィン系樹脂である請求項1乃至3のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【請求項5】
前記環状オレフィン系樹脂が、ノルボルネン系樹脂を含むものである請求項4に記載の誘電体ペースト。
【請求項6】
前記ノルボルネン系樹脂は、下記一般式(1)で表される繰返し単位を有するものである、請求項5に記載の誘電体ペースト。
【化1】

(式(1)中のXは、−CH−、−CHCH−または−O−を示し、R、R、R、およびRはそれぞれ、水素、または、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シリル基、エポキシ基およびこれらの官能基を含む有機基から選ばれた1種以上の基を示し、少なくとも1つは官能基または該官能基を含む有機基を示す。nは0〜5の整数を示し、その繰り返しは異なっていても良い。)
【請求項7】
前記ノルボルネン系樹脂は、ノルボルネン型モノマーの付加重合体である請求項5または6に記載の誘電体ペースト。
【請求項8】
前記ノルボルネン系樹脂は、重合可能な官能基を有するノルボルネン型モノマーと下記一般式(2)で表されるモノマーを含むノルボルネン型モノマーの付加共重合体である請求項5乃至7のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【化2】

(式(2)中のXは、−CH−、−CHCH−または−O−を示し、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ビニル基、アリル基、アラルキル基、環状脂肪族基またはアリール基から選ばれた1種以上の置換基を示す。nは0〜5の整数を示し、その繰り返しは異なっていても良い。)
【請求項9】
誘電体ペーストの粘度が、0.1Pa・s以上100Pa・s以下である請求項1乃至8のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【請求項10】
前記誘電体ペーストは、30〜1000の誘電率を有するものである請求項1乃至9のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の誘電体ペーストで構成されることを特徴とする誘電体。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれかに記載の誘電体ペーストで構成される誘電体と導体とより構成されることを特徴とするキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−120326(P2006−120326A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303752(P2004−303752)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】