説明

誘電体磁器組成物、積層複合電子部品、積層コモンモードフィルタ、積層セラミックコイルおよび積層セラミックコンデンサ

【課題】ガラス成分の含有量を比較的に減らしつつ、低温(たとえば950℃以下)での焼結を可能とし、しかも良好な特性(比誘電率、f・Q値、絶縁抵抗)を示し、異材質同時焼成をも可能とする誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】主成分として、Znの酸化物単独ならびにMgの酸化物およびZnの酸化物から選ばれる1つと、Cuの酸化物と、Siの酸化物と、副成分として、Siの酸化物、Znの酸化物、Baの酸化物、Caの酸化物、Srの酸化物およびLiの酸化物から選ばれる少なくとも1つと、Bの酸化物と、を含み、ガラス軟化点が750℃以下であるガラス成分と、を含有し、前記ガラス成分の含有量が、前記主成分100重量%に対して、1.5〜15重量%である誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼結が可能であり、かつ低比誘電率である誘電体磁器組成物と、この誘電体磁器組成物を適用した積層複合電子部品、積層コモンモードフィルタ、積層セラミックコイルおよび積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの通信分野に使用される電子部品の小型化、高性能化、高周波化に伴い、高周波で高減衰特性を有するLC複合電子部品、コモンモードフィルタなどの需要が急速に高まっている。
【0003】
現在、LC複合電子部品におけるコイル部あるいはコモンモードフィルタのコイル部には、磁性体であるNi−Cu−Zn系フェライトまたは非磁性体であるCu−Zn系フェライトを用いているが、比誘電率が約15と比較的に高いため、浮遊容量の影響を受けやすい。そのため、高周波化に対応するには限界があり、さらに比誘電率の低い材料が求められている。また、さらなる高性能化のためには、f・Q値、絶縁抵抗の高い材料が求められている。
【0004】
このようなLC複合電子部品、コモンモードフィルタ、コモンモードを有する積層型LC複合部品などは、異材質(たとえば、コンデンサ部とコイル部)を同時焼成することにより形成される。そのため、異材質同士の線膨張係数をできるだけ一致させる必要がある。また、導電材のコスト削減や直流抵抗を低くするために、Agを含む導電材を用いることが好ましく、Agの融点以下の低温(たとえば950℃以下)での焼結が可能な材料であることも求められる。
【0005】
たとえば、特許文献1には、MgO・SiO(MgO/SiO:モル比=1.0〜2.0)100重量部に対して、低温焼成用添加物として、CuOを1〜30重量部、Mn酸化物をMnO換算で0.6〜5重量部添加して母材とし、この母材100重量部に対してガラスを5〜200重量部添加した誘電体磁器材料が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、添加されているガラスは主としてPbO系ガラスであり、近年の環境負荷の問題からは、その使用は推奨されない傾向にある。
【0007】
また、特許文献2〜4には、比誘電率が比較的に低く、比較的にQ値が高い誘電体磁器組成物が開示されている。しかしながら、特許文献2〜4において開示されている誘電体磁器組成物に含有されるガラス成分が多いため、信頼性に欠けるという問題があった。また、特許文献2〜4における具体的な実施例では、焼成温度が1000℃以上となっている試料が多く、低温(たとえば950℃以下)での焼結を可能にするには不十分である。さらには、実施例の試料の線膨張係数は10ppm/℃程度であり、種々の線膨張係数を有する材質との同時焼成ができないという問題があった。
【0008】
特許文献5には、比誘電率が比較的に低く、焼成温度が比較的に低い誘電体磁器組成物が開示されている。しかしながら、特許文献5において開示されている誘電体磁器組成物はガラス成分を30質量%以上含有しているため、信頼性に欠けるという問題があった。また、実施例の試料の線膨張係数は開示されておらず、種々の線膨張係数を有する材質との同時焼成に対応可能であるか否かが不明であった。
【0009】
特許文献6では、フォルステライトとチタン酸カルシウム等とに対して、ホウケイ酸ガラスを添加した誘電体磁器材料が開示されている。しかしながら、特許文献6では、実施例の試料の線膨張係数は開示されておらず、種々の線膨張係数を有する材質との同時焼成に対応可能であるか否かが不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3030557号公報
【特許文献2】特開2001−247359号公報
【特許文献3】特開2002−29826号公報
【特許文献4】特開2002−29827号公報
【特許文献5】特開2003−95746号公報
【特許文献6】国際公開第2005/082806号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、ガラス成分の含有量を比較的に減らしつつ、低温(たとえば950℃以下)での焼結を可能とし、しかも良好な特性(比誘電率、f・Q値、絶縁抵抗)を示し、異材質同時焼成をも可能とする誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、この誘電体磁器組成物から構成されている非磁性層を有する積層コモンモードフィルタ、積層型フィルタなどの積層複合電子部品、積層セラミックコイル、積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
主成分として、Znの酸化物単独ならびにMgの酸化物およびZnの酸化物から選ばれる1つと、Cuの酸化物と、Siの酸化物と、
副成分として、Siの酸化物、Baの酸化物、Caの酸化物、Srの酸化物、Liの酸化物およびZnの酸化物から選ばれる少なくとも1つと、Bの酸化物と、を含み、ガラス軟化点が750℃以下であるガラス成分と、を含有し、
前記ガラス成分の含有量が、前記主成分100重量%に対して、1.5〜15重量%であることを特徴とする。
【0013】
本発明においては、上記の主成分に対して、ガラス軟化点が750℃以下であって上記の組成を有するガラス成分を上記の範囲で含有させている。このようにすることで、低温での焼結を可能とし、しかも良好な特性(低比誘電率、高f・Q値、高絶縁抵抗)を実現できる誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0014】
好ましくは、結晶相として、フォルステライト型結晶相および/またはウィレマイト型結晶相を含むことを特徴とする。主成分を構成する酸化物がフォルステライト型結晶相(MgSiO)および/またはウィレマイト型結晶相(ZnSiO)として存在しており、さらにCuがこれらの結晶相に固溶していることで、上述の効果をより向上させることができる。
【0015】
好ましくは、前記主成分を、一般式a(bMgO・cZnO・dCuO)・SiOで表したときに、aが1.5〜2.4、cが0.10〜0.98、dが0.02〜0.18(ただし、b+c+d=1.00)である。
【0016】
上記の一般式中におけるa、b、c、dを上記の範囲内とすることで、上述の効果をさらに向上することができる。特に、aとbとcとの比を変化させることで、フォルステライト型結晶相とウィレマイト型結晶相とを生成させ、線膨張係数が約40×10−7/℃であるZnSiOと、線膨張係数が約120×10−7/℃であるMgSiOとの存在割合を変化させることができる。したがって、得られる誘電体磁器組成物の線膨張係数を、たとえば、40〜120×10−7/℃の範囲において、任意に変化させることができる。その結果、種々の線膨張係数を有する材質との同時焼成を可能とすることができる。
【0017】
本発明に係る積層複合電子部品は、
コイル導体および非磁性体層で構成されるコイル部と、
内部電極層および誘電体層で構成されるコンデンサ部と、を有し、
前記コイル導体および/または前記内部電極層が、導電材としてAgを含んでおり、
前記非磁性体層が、上記のいずれかの誘電体磁器組成物で構成されている。
【0018】
本発明に係る積層コモンモードフィルタは、
コイル導体および非磁性体層で構成されるフィルタ部と、
磁性体層で構成される外層部と、を有し、
前記コイル導体が、導電材としてAgを含んでおり、
前記非磁性体層が、上記のいずれかの誘電体磁器組成物で構成されている。
【0019】
本発明に係る積層複合電子部品は、
内部電極層および誘電体層で構成されるコンデンサ部と、
コイル導体および非磁性体層を有するコモンモードフィルタ部と、
磁性体層で構成される外層部と、を有し、
前記コイル導体および/または前記内部電極層が、導電材としてAgを含み、
前記非磁性体層が、上記のいずれかの誘電体磁器組成物で構成されている。
【0020】
本発明に係る積層セラミックコイルは、
コイル導体および非磁性体層が積層されて構成されるコイル部を有する積層セラミックコイルであって、
前記コイル導体が、導電材としてAgを含んでおり、
前記非磁性体層が、上記のいずれかの誘電体磁器組成物で構成されている。
【0021】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、
内部電極層と、誘電体層と、が交互に積層してある素子本体を有する積層セラミックコンデンサであって、
前記内部電極層が、導電材としてAgを含んでおり、
前記誘電体層が、上記のいずれかの誘電体磁器組成物で構成されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、上記の主成分に対して、上記の酸化物を含むガラス成分の含有量を比較的に減らし、特定の範囲とすることで、信頼性を欠くことなく、良好な特性(比誘電率、損失Q値、絶縁抵抗など)を示す誘電体磁器組成物を得ることができる。しかも、ガラス成分のガラス軟化点が750℃以下であるため、低温(たとえば、950℃以下)での焼成が可能となる。
【0023】
さらに、Mgの酸化物とZnの酸化物との含有割合を制御することで、線膨張係数が約40×10−7/℃であるZnSiOと、線膨張係数が約120×10−7/℃であるMgSiOとの存在割合を変化させることができる。したがって、良好な特性を維持しつつ、誘電体磁器組成物の線膨張係数を、たとえば、40〜120×10−7/℃の範囲において、任意に変化させることができる。その結果、所望の線膨張係数を得ることができる。
【0024】
このような誘電体磁器組成物を非磁性層や誘電体層などに適用することで、これらの層と対向する材料の線膨張係数にほぼ一致させることができる。したがって、上記の良好な特性を示しつつ、種々の線膨張係数を有する材料との同時焼成が可能となる。しかも、低温(たとえば、950℃以下)での焼成が可能であるため、導電材として、直流抵抗の低いAgを採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るLC複合電子部品の斜視図である。
【図2】図2は図1に示すII−II線に沿うLC複合電子部品の断面図である。
【図3】図3は本発明の一実施形態に係るLC複合電子部品の積層構造を示す分解斜視図である。
【図4】図4(A)はL型の回路の回路図、図4(B)はπ型の回路の回路図、図4(C)はT型の回路の回路図である。
【図5】図5は本発明のその他の実施形態に係るコモンモードフィルタの斜視図である。
【図6】図6は本発明のその他の実施形態に係るコモンモードフィルタの積層構造を示す分解斜視図である。
【図7】図7は本発明のその他の実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図8】図8は本発明の実施例についてのX線回折チャートである。
【図9】図9はMgSiOおよびZnSiOについてのX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0027】
LC複合電子部品1
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層複合電子部品としてのLC複合電子部品1は、本体積層部11を主要部とし、図示上の左側面に外部電極21、22、23、24、図示上の右側面に外部電極25、26、27、28、図示上の手前側側面に外部電極20、図示上の背面側側面に外部電極29を有している。LC複合電子部品1の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよいが、通常、(0.8〜3.2mm)×(0.6〜1.6mm)×(0.3〜1.0mm)程度である。まず、本実施形態に係るLC複合電子部品の構造について説明する。
【0028】
図2は、図1に示すII−II線に沿うLC複合電子部品1の断面図である。本実施形態に係るLC複合電子部品1は、下層部にコンデンサ部30(C)を有し、上層部にコイル部40(L)を有する。コンデンサ部30は、複数の内部電極31の間に複数の誘電体層32が形成されており、多層のコンデンサとなっている。一方、コイル部40は、非磁性体層42中に所定パターンを有するコイル導体41が形成されている。
コンデンサ部30を構成する誘電体層32および/またはコイル部40を構成する非磁性体層42は、本発明に係る誘電体磁器組成物を含有する。ただし、好ましくは、非磁性体層42が、本発明の誘電体磁器組成物で構成してあり、コンデンサ部30を構成する誘電体層32は、比較的誘電率が高い酸化チタン系の誘電体磁器組成物で構成してある。
【0029】
本発明の誘電体磁器組成物は、主成分として、Znの酸化物単独ならびにMgの酸化物およびZnの酸化物から選ばれる1つと、Cuの酸化物と、Siの酸化物と、を含有している。
【0030】
主成分として含有される上記の酸化物は、本実施形態では、一般式を用いて、a(bMgO・cZnO・dCuO)・SiOと表すことができる。この一般式中におけるaは、Aサイト原子として表されるMg、ZnおよびCuと、Bサイト原子として表されるSiと、のモル比A/Bを示している。本実施形態では、aは、好ましくは1.5〜2.4、より好ましくは1.6〜2.0である。aが小さすぎると、低温での焼結が不十分となるとともに、絶縁抵抗やf・Q値が悪化する傾向にある。逆に、aが大きすぎると、絶縁抵抗やf・Q値が悪化する傾向にある。
【0031】
上記一般式中におけるb、cおよびdは、Aサイト原子の酸化物全体に対して、それぞれ、MgO、ZnOおよびCuOが占める割合(モル比)を示している。したがって、b+c+d=1.00である。
【0032】
本実施形態では、cは、好ましくは0.10〜0.92、より好ましくは0.15〜0.92である。また、dは、好ましくは0.02〜0.18、より好ましくは0.04〜0.14である。
なお、bは、1.00−c−dの範囲内となる。したがって、bが0の場合、すなわち、MgOが含有されない場合もあり得るが、以下の理由により、bは0より大きいことが好ましい。
【0033】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、フォルステライト型結晶構造を有するMgSiOと、ウィレマイト型結晶構造を有するZnSiOとが、共存しているコンポジット構造を有している。
【0034】
通常、MgSiOおよびZnSiOは、どちらも融点が高く、低温(たとえば、950℃以下)では焼結しない。
【0035】
しかしながら、本実施形態では、主成分として含有されるCuが、MgSiO(フォルステライト)およびZnSiO(ウィレマイト)の一方あるいは双方に固溶している。また、MgおよびZnの含有量によっては、MgがZnSiOに固溶している場合、あるいは、ZnがMgSiOに固溶している場合がある。
【0036】
このように他の原子が固溶すると、MgSiOおよびZnSiOの生成温度が低くなるため、ガラス成分の含有量を低減させた場合であっても、低温(たとえば、950℃以下)で焼結しやすくすることができる。
【0037】
また、本実施形態の誘電体磁器組成物は、上記一般式中におけるa、bおよびcを制御してフォルステライト型結晶相および/またはウィレマイト型結晶相を生成させている。そのため、本実施形態の誘電体磁器組成物の線膨張係数は、MgSiOおよびZnSiOの含有割合に比例した値となる。すなわち、b(MgO)およびc(ZnO)の含有割合により線膨張係数が決まる。なお、本実施形態の誘電体磁器組成物は、フォルステライト結晶相およびウィレマイト型結晶相以外の結晶相を含んでもよいが、たとえば、エンスタタイト型結晶相(MgSi)などは好ましくない。
【0038】
したがって、b(MgO)およびc(ZnO)の含有割合を制御することで、a(bMgO・cZnO・dCuO)・SiOの線膨張係数を任意に変化させることができる。
【0039】
ここで、ZnSiO単独での線膨張係数は、MgSiO単独での線膨張係数より小さく、約1/3程度である。具体的には、MgSiOの線膨張係数は約120×10−7/℃、ZnSiOの線膨張係数は、約40×10−7/℃であるため、本実施形態の誘電体磁器組成物は、約40〜120×10−7/℃の範囲において、線膨張係数を任意に変化させることができる。
【0040】
本実施形態では、cが小さすぎると、低温での焼結が不十分となるとともに、f・Q値が悪化する傾向にある。
【0041】
また、本実施形態では、dが小さすぎると、低温での焼結が不十分となるとともに、絶縁抵抗やf・Q値が悪化する傾向にある。逆に、dが大きすぎると、絶縁抵抗やf・Q値が悪化する傾向にある。
【0042】
また、本発明の誘電体磁器組成物は、上記主成分以外に、副成分として、Siの酸化物、Znの酸化物、Baの酸化物、Caの酸化物、Srの酸化物およびLiの酸化物から選ばれる少なくとも1つと、Bの酸化物と、を含むガラス成分を含有する。このガラス成分は、ガラス軟化点が750℃以下の低融点ガラスである。なお、ガラス軟化点は、JIS−R−3103により測定される。
【0043】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、ガラス軟化点が750℃以下である低融点ガラス成分を有しているため、たとえば、950℃以下での低温焼成が可能となり、内部電極31を直流抵抗の低いAgで構成した電子部品に適用することができる。
【0044】
このガラス成分としては、Siの酸化物、Znの酸化物、Baの酸化物、Caの酸化物、Srの酸化物およびLiの酸化物から選ばれる少なくとも1つと、Bの酸化物と、を含み、ガラス軟化点が750℃以下であれば、特に制限されない。このようなガラス成分としては、たとえば、B−SiO−BaO−CaO系ガラス、B−SiO−BaO系ガラス、B−SiO−CaO系ガラス、B−SiO−SrO系ガラス、B−SiO−LiO系ガラス、B−ZnO−BaO系ガラス、B−ZnO−LiO系ガラス、B−SiO−ZnO−BaO系ガラス、B−SiO−ZnO−BaO−CaO系ガラスなどが挙げられる。これらの中でも、B−SiO−BaO−CaO系ガラス、B−SiO−SrO系ガラスが好ましい。
【0045】
ガラス成分の含有量は、主成分100重量%に対して、1.5〜15重量%、好ましくは3〜5重量%である。
【0046】
ガラス成分の含有量が少なすぎると、低温(たとえば、950℃以下)において十分な焼結性が得られない傾向にある。一方、多すぎると、f・Q積が低下する傾向にあり好ましくなく、電子部品としても信頼性に欠ける傾向にある。
【0047】
誘電体層32が、本発明の誘電体磁器組成物を含有しない場合には、誘電体層32を構成する誘電体材料としては、950℃以下で焼成可能な酸化チタン系の誘電体磁器組成物が好ましい。酸化チタン系の誘電体磁器組成物としては、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛、チタン酸ニッケル等を主成分とし、副成分としてCuの酸化物、Mnの酸化物、Bの酸化物を含んだガラス軟化点750℃以下のガラス等を1種以上含んだ材料が挙げられる。
【0048】
誘電体層32を構成する焼結後の誘電体結晶粒子の平均結晶粒子径は、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下である。平均結晶粒子径の下限については、特に限定されないが、通常0.5μm程度である。誘電体結晶粒子の平均結晶粒子径が、大き過ぎると絶縁抵抗が劣化する傾向にある。
【0049】
誘電体結晶粒子の平均結晶粒子径は、たとえば、誘電体層32を切断し、切断面をSEM観察して、所定数の誘電体結晶粒子の結晶粒子径を測定し、その測定結果を基に算出することができる。なお、各誘電体結晶粒子の結晶粒子径は、たとえば、各結晶粒子を球と仮定したコード法により求めることができる。また、平均結晶粒子径の算出の際に、結晶粒子径の測定を行う粒子の数は、通常100個以上とする。
【0050】
一対の内部電極31に挟まれている部分における誘電体層32の厚み(g)は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0051】
内部電極31の厚みは、特に限定されず、誘電体層32の厚みに応じて適宜決定すればよい。
【0052】
本実施形態では、非磁性体層42は、本発明の誘電体磁器組成物を含有する。含有しない場合には、非磁性体層42を構成する非磁性体材料としては、たとえば非磁性であるCu−Zn系フェライト、ガラス材料などが挙げられる。
【0053】
コンデンサ部30を構成する内部電極31またはコイル部40を構成するコイル導体41に含有される導電材は特に限定されないが、本発明の誘電体磁器組成物は、低温(たとえば、950℃以下)での焼成が可能なので、本実施形態では、導電材として直流抵抗の低い銀を用いることができる。また、誘電体層32を構成する誘電体材料と非磁性体層42を構成する非磁性体材料とを混合し、その混合材料をコンデンサ部30とコイル部40との中間部として用いることができる。中間部の厚みは10〜100μmである。中間部を設けることでコンデンサ部とコイル部との界面接合性を向上させることができる。
【0054】
外部電極20〜29は特に限定されないが、銀を含む導電材が使用でき、この電極は、Cu−Ni−Sn、Ni−Sn、Ni−Au、Ni−Ag等でめっきされていることが好ましい。
【0055】
LC複合電子部品1の製造方法
本実施形態のLC複合電子部品は、従来のLC複合電子部品と同様に、非磁性体グリーンシートおよび誘電体グリーンシートを作製し、これらのグリーンシートを積層し、グリーン状態の本体積層部11を形成し、これを焼成した後、外部電極20〜29を形成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0056】
非磁性体グリーンシートの製造
まず、非磁性体層42を構成することとなる非磁性材料の原料を準備する。本実施形態では、非磁性体材料の原料として、本発明の誘電体磁器組成物の原料を用いる。
【0057】
本発明の誘電体磁器組成物の主成分の原料としては、Mgの酸化物、Znの酸化物、Cuの酸化物およびSiの酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0058】
また、本発明の誘電体磁器組成物の副成分であるガラス成分の原料としては、上述のガラス成分を構成する酸化物やその混合物、複合酸化物、その他、焼成により該ガラス成分を構成する酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いることができる。
ガラス成分は、該ガラス成分を構成する酸化物等の原料を混合して、焼成し、その後急冷し、ガラス化させることで得られる。
【0059】
本実施形態では、各主成分原料を混合する。また、必要に応じて、主成分原料にガラス成分以外の副成分原料を添加して混合してもよい。混合を行う方法としては、特に限定されないが、たとえば、原料粉末を粉体状態で乾式混合により行っても良いし、原料粉末に水や有機溶媒や分散剤などを添加し、ボールミル等を使用し、湿式混合により行っても良い。
【0060】
次に、混合した粉体について予備焼成を行う。予備焼成は、保持温度を好ましくは850〜1100℃、温度保持時間を好ましくは1〜15時間とする。この予備焼成は、大気中で行っても良く、また大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気または純酸素雰囲気で行っても良い。
【0061】
次に、予備焼成にて得られた粉体を粉砕し、これに副成分原料としてのガラス成分原料を加え、混合し、焼成前粉体を調製する。調製する方法としては、特に限定されないが、たとえば、予備焼成により得られた粉体に、水や有機溶媒や分散剤などを添加し、ボールミル等を使用し、湿式混合により行うことができる。そして、得られた焼成前粉体を塗料化して、非磁性体層用ペーストを調整する。
【0062】
非磁性体層用ペーストは、焼成前粉体と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0063】
コイル導体用ペーストは、たとえば銀などの導電材と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0064】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、例えば、焼成前粉体100重量%に対して、バインダは5〜15重量%程度、溶剤は50〜150重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0065】
次に、非磁性体層用ペーストをドクターブレード法などによりシート化し、非磁性体グリーンシートを形成する。
【0066】
次に、上記にて作製した非磁性体グリーンシート上に、コイル導体を形成する。コイル導体の形成は、コイル導体用ペーストをスクリーン印刷等の方法によって、非磁性体グリーンシート上に形成する。なお、コイル導体の形成パターンは、製造するLC複合電子部品の回路構成等に応じて適宜選択すればよいが、本実施形態においては、後述する各パターンとする。
【0067】
次に、非磁性体グリーンシート上のコイル導体にスルーホールを形成する。スルーホールの形成方法としては、特に限定されないが、たとえばレーザー加工などにより行うことができる。なお、スルーホールの形成位置は、コイル導体上であれば特に限定されないが、コイル導体の端部に形成することが好ましく、本実施形態においては、後述する各位置とする。
【0068】
誘電体グリーンシートの製造
まず、誘電体層32を構成することとなる誘電体材料の主成分原料を塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。誘電体層用ペーストは、上記の非磁性体層用ペーストと同様に調製すればよい。
【0069】
主成分原料としては、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛、チタン酸ニッケル等を用いることができる。また、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。また、誘電体材料の原料として、上記主成分以外にも必要に応じて副成分の出発原料を含有してもよい。
【0070】
なお、誘電体材料は、誘電体層用ペーストとする前に、誘電体材料を構成する各出発原料の混合粉体を予備焼成し、その後、粉体の粉砕を行ってもよい。
【0071】
内部電極用ペーストは、導電材としての銀と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0072】
そして、誘電体層用ペーストをドクターブレード法などによりシート化し、誘電体グリーンシートを形成する。また、必要に応じて、誘電体グリーンシート上に内部電極を形成する。内部電極は、内部電極用ペーストをスクリーン印刷等の方法によって、形成すればよい。
【0073】
グリーンシートの積層
次に、上記にて作製した各非磁性体グリーンシートおよび誘電体グリーンシートを、順に積層し、グリーン状態の本体積層部11を形成する。
【0074】
本実施形態においては、グリーン状態の本体積層部11は、図3に示すように、コンデンサ部を構成する内部電極が形成された誘電体グリーンシートを複数枚積層し、その上に、コイル部を構成するコイル導体が形成された非磁性体グリーンシートを複数枚積層して製造される。
【0075】
以下、グリーンシートの積層工程を詳述する。
【0076】
まず、最下層に内部電極を形成していない誘電体グリーンシート32fを配置し、その上に誘電体グリーンシートの長手方向Yの手前側および奥側の側部から、誘電体グリーンシートの端部に突出する一対の導出部20aおよび29aを有する内部電極31aが形成された誘電体グリーンシート32aを積層する。
【0077】
次に、内部電極31aが形成された誘電体グリーンシート32aの上に、誘電体グリーンシートの短手方向Xの奥側の側部から、誘電体層の端部に突出する導出部25aを有する内部電極31bが形成された誘電体グリーンシート32bを積層する。
【0078】
次に、内部電極31aが形成された誘電体グリーンシート32aを積層し、その上に、誘電体グリーンシートの短手方向Xの奥側の側部から、誘電体層の端部に突出する導出部26aを有する内部電極31cが形成された誘電体グリーンシート32cを積層する。なお、導出部26aは、導出部25aより誘電体グリーンシートの長手方向Yに沿って奥側に配置してある。
【0079】
次に、内部電極31aが形成された誘電体グリーンシート32aを積層し、その上に、導出部が26aより誘電体グリーンシートの長手方向Yに沿って奥側に配置された導出部27aを有する内部電極31dが形成された誘電体グリーンシート32dを積層する。
【0080】
次に、内部電極31aが形成された誘電体グリーンシート32aを積層し、その上に、導出部が27aより誘電体グリーンシートの長手方向Yに沿って奥側に配置された導出部28aを有する内部電極31eが形成された誘電体グリーンシート32eを積層する。
【0081】
最後に、内部電極31aが形成された誘電体グリーンシート32aを積層し、それぞれの導出部が誘電体グリーンシートの長手方向Yに沿って異なる位置に形成されたグリーン状態の単層のコンデンサ30a〜30eが形成される。
【0082】
次に、上記にて積層により形成されたグリーン状態のコンデンサ部の上に、コイル部を形成する。
【0083】
まず、コンデンサ部の上に、コイル導体が形成されていない非磁性体グリーンシート42gを積層し、その上に、一端が非磁性体グリーンシートの短手方向Xの奥側から端部に突出する導出部25b、26b、27b、28bをそれぞれ有する4つのコイル導体41aが形成された非磁性体グリーンシート42aを積層する。
【0084】
次に、その上に、略U字形の4つのコイル導体41bが形成された非磁性体グリーンシート42bを積層する。なお、略U字形のコイル導体41bは、曲部が非磁性体グリーンシートの短手方向Xの手前側となるように配置されている。なお、コイル導体41bには、図3に示すように、コイル導体41bの一端にスルーホール51bが形成されており、このスルーホール51bを介して、導体ペーストを使用し、コイル導体41aとコイル導体41bとを接合する。
【0085】
次に、その上に、略C字形の4つのコイル導体41cが形成された非磁性体グリーンシート42cを積層する。なお、略C字形のコイル導体41cは、曲部が非磁性体グリーンシートの長手方向Yの手前側となるように配置されている。なお、コイル導体41cには、図3に示すように、コイル導体41cの一端にスルーホール51cが形成されており、このスルーホール51cを介して、導体ペーストを使用し、コイル導体41bとコイル導体41cとを接合する。
【0086】
次に、その上に、略C字形の4つのコイル導体41dが形成された非磁性体グリーンシート42dを積層する。なお、略C字形のコイル導体41dは、曲部が非磁性体グリーンシートの長手方向Yの手前側となるように配置されている。なお、コイル導体41dには、図3に示すように、コイル導体41dの一端にスルーホール51dが形成されており、このスルーホール51dを介して、導体ペーストを使用し、コイル導体41cとコイル導体41dとを接合する。
【0087】
次に、その上に、略U字形の4つのコイル導体41eが形成された非磁性体グリーンシート42eを積層する。なお、略U字形のコイル導体41eは、曲部が非磁性体グリーンシートの短手方向Xの奥側となるように配置されている。なお、コイル導体41eには、図3に示すように、コイル導体41eの一端にスルーホール51eが形成されており、このスルーホール51eを介して、導体ペーストを使用し、コイル導体41dとコイル導体41eとを接合する。
【0088】
次に、その上に、一端が非磁性体グリーンシートの短手方向Xの手前側から端部に突出する導出部21b、22b、23b、24bをそれぞれ有する4つのコイル導体41fが形成された非磁性体グリーンシート42fを積層する。なお、コイル導体41fの導出部の一端には、スルーホール51fが形成されており、このスルーホール51fを介して、導体ペーストを使用し、コイル導体41eとコイル導体41fとを接合する。
【0089】
最後に、コイル導体41fが形成された非磁性体グリーンシート42fの上に、コイル導体が形成されていない非磁性体グリーンシート42hを積層する。
【0090】
上記のように、各スルーホールを介して、各非磁性体グリーンシート上のコイル導体を接合することにより、コイルが形成される。
【0091】
本体積層部の焼成および外部電極の形成
次に、誘電体グリーンシートおよび非磁性体グリーンシートを順次積層することにより作製したグリーン状態の本体積層部を焼成する。焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、さらに好ましくは200〜300℃/時間、保持温度を好ましくは840〜900℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、さらに好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、さらに好ましくは200〜300℃/時間とする。
【0092】
次に、焼成を行った本体積層部に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、本体積層部の両側面に外部電極用ペーストを塗布・乾燥した後、焼き付けする。外部電極用ペーストは、たとえば銀などの導電材と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製することができる。なお、このようにして形成した外部電極20〜29上には、Cu−Ni−Sn、Ni−Sn、Ni−Au、Ni−Ag等で電気めっきを行うことが好ましい。
【0093】
外部電極を形成する際に、外部電極21〜24は、コイル部の各導出部21a〜24aと接続し、入出力端子とする。外部電極25〜28は、コンデンサ部の各導出部25a〜28aおよびコイル部の各導出部25b〜28bに接続し、コンデンサ部とコイル部を接続する入出力端子とする。外部電極20および29は、それぞれコンデンサ部の各導出部20aおよび29aに接続し、接地端子とする。
【0094】
上記のように、本体積層部11に各外部電極20〜29を形成することにより、本実施形態のLC複合電子部品は、図4(A)に示すL型の回路が4つ形成されていることになる。
【0095】
このようにして製造された本実施形態のLC複合電子部品は、はんだ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0096】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0097】
たとえば、上述した実施形態では、L型の回路が4つ形成されたLC複合電子部品を例示したが、他の集中定数回路が形成されたLC複合電子部品とすることも可能である。たとえば、他の集中定数回路としては、図4(B)に示すπ型や、図4(C)に示すT型や、二つのπ型の回路により形成されるダブルπ型としても良い。
【0098】
上述した実施形態では、本発明に係る積層複合電子部品としてLC複合電子部品を例示したが、本発明に係る積層複合電子部品としては、積層型フィルタに限定されない。また、本発明の誘電体磁器組成物を、積層複合電子部品以外、たとえば、図5および6に示すような積層コモンモードフィルタ100に適用することも可能である。すなわち、コイル導体および非磁性体層で構成されるフィルタ部と、磁性体層で構成される外層部と、を有する積層コモンモードフィルタ100において、非磁性体層を、本発明の誘電体磁器組成物で構成することができる。このようにすることで、コイル導体を直流抵抗の低いAgで構成することができる。
【0099】
本実施形態に係るコモンモードフィルタは、上述した実施形態と同様にして、非磁性体グリーンシートおよび磁性体グリーンシートを作製し、積層して製造すればよい。
【0100】
コモンモードフィルタは、図5に示すように、本体積層部101に、外部電極102〜109が形成されている。この本体積層部101は、図6に示すように、構成されている。すなわち、まず、コイル導体111〜114が、フィルタ部の非磁性体層122〜125に、コイル導体131〜134が、フィルタ部の非磁性体層142〜145に巻回されて形成されている。そして、コイル導体111〜114が形成された非磁性体層122〜125と、コイル導体131〜134が形成された非磁性体層142〜145とが、中間層140、141を介して、磁性体層120、121と、磁性体層146〜148とに挟まれるように形成されている。
【0101】
コイル導体111および112は、スルーホール電極115を介して接合され、コイル151を形成している。また、コイル導体113および114は、スルーホール電極116を介して接合され、コイル152を形成している。そして、このコイル151と152とは互いに磁気結合している。
【0102】
同様に、コイル161および162は、図6に示すように、コイル導体131〜134およびスルーホール電極135、136により形成され、互いに磁気結合している。
【0103】
そして、上記のコイル導体の各導出部111a〜114aおよび131a〜134aは、それぞれ、外部電極102〜109に接続され、入出力端子を形成することとなる。
【0104】
また、本発明の誘電体磁器組成物は、コイル導体および非磁性体層が積層して構成されるコイル部を有する積層セラミックコイルにおける非磁性体層に適用してもよい。この場合には、コイル導体としてAgを導電体とすることが好ましい。さらには、図7に示すように、本発明に係る誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層202と、内部電極層203と、が交互に積層された素子本体210を有し、その両端部に外部電極204が形成された積層セラミックコンデンサ201としてもよい。この場合にも、内部電極層はAgを導電体とすることが好ましい。
【0105】
さらに、本発明の誘電体磁器組成物は、図6に示すコモンモードフィルタと、図7に示す積層セラミックコンデンサとが、複合化されて積層された積層複合電子部品の非磁性体層に適用してもよい。この場合には、コイル導体111〜114,131〜134または内部電極層203として、Agを導電体とすることが好ましい。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0107】
実施例1
まず、本発明に係る誘電体磁器組成物原料を構成する主成分原料として、MgO、ZnO、CuO、SiOを準備した。また、副成分原料として、B−SiO−BaO−CaO系ガラスを準備した。なお、B−SiO−BaO−CaO系ガラスとしては、市販のガラスを用いた。このガラスのガラス軟化点は、700℃であった。
【0108】
そして、主成分の原料を、焼結後に一般式a(bMgO・cZnO・dCuO)・SiO中のa、b、c、dが表1に示す値となるように秤量配合し、ボールミルにより24時間湿式混合した。湿式混合後、得られたスラリーを乾燥機にて乾燥させ、さらに、乾燥させた混合粉体をバッチ炉にて1000℃で仮焼きして、仮焼き粉を得た。この仮焼き粉に対し、副成分の原料であるB−SiO−BaO−CaO系ガラスを添加し、ボールミルにより16時間湿式混合し、得られたスラリーを乾燥機にて、乾燥させ、本発明に係る誘電体磁器組成物の原料とした。
【0109】
次いで、この誘電体磁器組成物原料に、溶剤で希釈したアクリル樹脂を有機バインダとして加え、顆粒とした後、加圧成形し、直径12mm、厚み6mmの円板状成形体を得た。この成形体を、空気中で900℃−2hの条件で焼成して、焼結体を得た。
【0110】
得られた焼結体について、焼成後の焼結体の寸法および重量から、焼結体密度を算出し、理論密度に対する焼結体密度を相対密度として算出した。相対密度は90%以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0111】
比誘電率εr
得られた焼結体に対し、ネットワークアナライザー(HEWLETT PACKARD社製8510C)を使用して、共振法(JIS R 1627)により、比誘電率(単位なし)を算出した。評価基準は、7.50以下を良好とした。結果を表1に示す。
【0112】
f・Q値
比誘電率の測定条件と同条件下で、Q値を算出し、これに共振周波数frを掛けて、f・Q値(GHz)を求めた。f・Q値は、高い方が好ましい。評価基準は、10000GHz以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0113】
絶縁抵抗(ρ)
まず、電極を形成した焼結体に対し、絶縁抵抗計(HEWLETT PACKARD社製4329A)を使用して、25℃においてDC25Vを30秒間印加した後の抵抗値を測定した。そして、この測定値と、焼結体の電極面積および厚みとから、絶縁抵抗ρ(Ω・m)を算出した。本実施例では、20個の試料について測定を行い、その平均を求めることにより評価した。評価基準は、1.0×1010Ω・m以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0114】
線膨張係数(α)
得られた焼結体に対し、熱膨張計(BRUKER AXS社製TD5000SA)を使用して、室温から700℃までの熱膨張を測定し、熱膨張係数α(10−7/℃)を算出した。結果を表1に示す。
【0115】
X線回折
得られた焼結体に対し、X線回折装置(スペクトリス社製PANalytical−MPD)を使用してX線回折を行った。X線源としてCu−Kα線を用い、測定条件は、電圧45kV、電流40mAで、2θ=20°〜60°の範囲を、ステップ幅0.033°、計数時間0.20secとした。
【0116】
【表1】

【0117】
表1より、副成分としてのガラス成分の含有量が本発明の範囲よりも少ない場合には(試料1、2)、900℃における焼結が不十分となり、その結果、絶縁抵抗およびf・Q値について所望の特性が得られないことが確認できる。また、ガラス成分の含有量が本発明の範囲よりも多い場合には(試料9、10)、焼結性は良好であるものの、f・Q値が悪化していることが確認できる。
これに対して、ガラス成分の含有量が本発明の範囲内である場合には(試料3〜8)、十分に焼結し、かつ、良好な特性を示していることが確認できる。
【0118】
なお、X線回折測定では、全ての試料(試料1〜10)について、MgSiO結晶相およびZnSiO結晶相が確認された。また、ガラス成分は結晶相として確認できず、非結晶な粒界相を形成していると考えられる。
【0119】
実施例2
ガラス成分の組成および含有量を表2に示す組成または値とし、上記の一般式におけるa、b、c、dを表2に示す値とした以外は、試料1と同様にして、誘電体磁器組成物を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。なお、各ガラス成分のガラス軟化点は表2に示す温度であった。
【0120】
【表2】

【0121】
表2より、ガラス成分の組成が本発明の組成ではない、あるいはガラス軟化点が本発明の範囲外である場合には(試料20、21)、900℃における焼結が不十分となり、その結果、絶縁抵抗およびf・Q値について所望の特性が得られないことが確認できる。
これに対し、ガラス成分の組成が本発明の組成であり、かつガラス軟化点が本発明の範囲内である場合には(試料11〜19)、十分に焼結し、かつ、良好な特性を示していることが確認できる。
【0122】
なお、X線回折測定では、全ての試料(試料11〜21)について、MgSiO結晶相およびZnSiO結晶相が確認された。
【0123】
実施例3
上記の一般式中におけるa、c、dを表3〜5に示す値とした以外は、実施例1と同様にして、誘電体磁器組成物を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表3〜5に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
【表5】

【0127】
表3より、上記の一般式中におけるaの値が、本発明の好ましい範囲よりも小さい場合には(試料22、23)、900℃における焼結が不十分となり、その結果、絶縁抵抗およびf・Q値について所望の特性が得られないことが確認できる。また、aの値が、本発明の好ましい範囲よりも大きい場合には(試料29、30)、焼結性は良好であるものの、f・Q値が悪化していることが確認できる。
これに対し、aの値が本発明の好ましい範囲内である場合には(試料24〜28)、十分に焼結し、かつ、良好な特性を示していることが確認できる。
【0128】
なお、X線回折測定では、試料22について、ZnSiO結晶相およびMgSi結晶相が確認された。また、試料23について、MgSiO結晶相、ZnSiO結晶相およびMgSi結晶相が確認された。試料24〜28については、MgSiO結晶相およびZnSiO結晶相が確認された。さらに、試料29および30については、MgSiO結晶相およびZnSiO結晶相に加え、ZnOの残存が確認された。
【0129】
表4より、上記の一般式中におけるcの値が、本発明の好ましい範囲よりも小さい場合には(試料31〜33)、900℃における焼結が不十分となり、その結果、絶縁抵抗およびf・Q値について所望の特性が得られないことが確認できる。
これに対し、cの値が本発明の好ましい範囲内である場合には(試料34〜40)、十分に焼結し、かつ、良好な特性を示していることが確認できる。また、表4においては、b(MgO量)とc(ZnO量)との比を変化させている。このようにすることで、比誘電率、絶縁抵抗およびf・Q値の特性を良好に維持しつつ、線膨張係数を40〜120×10−7/℃の範囲で任意に設定できることが確認できる。これは、以下のX線回折の結果からも説明される。
【0130】
図8に、試料34、37および40のX線回折チャートを示す。また、図9に、MgSiO(フォルステライト)およびZnSiO(ウィレマイト)のX線回折チャートを示す。図8と図9とを比較することで、試料34ではMgSiO結晶相のみが観察され、試料37ではMgSiO結晶相およびZnSiO結晶相が観察され、試料40ではZnSiO結晶相のみが観察されていることが確認できる。
【0131】
すなわち、試料34、37および40では、900℃という低温で焼結しているにもかかわらず、MgSiO結晶相およびZnSiO結晶相の一方あるいは双方が生成していることが確認できる。なお、試料34のX線回折チャートより、試料34では、ZnがMgSiOに固溶していることが確認できる。
【0132】
また、試料31〜33については、MgSiO結晶相のみが確認され、試料35、36、38、39については、MgSiO結晶相およびZnSiO結晶相が確認された。
【0133】
以上より、b(MgO量)とc(ZnO量)との比を変化させることにより、MgSiO結晶相およびZnSiO結晶相の存在割合を制御できる。その結果、誘電体磁器組成物としての線膨張係数を40〜120×10−7/℃の範囲で任意に設定できる。
【0134】
表5より、上記の一般式中におけるdの値が、本発明の好ましい範囲よりも小さい場合には(試料41、42)、900℃における焼結が不十分となり、その結果、絶縁抵抗およびf・Q値について所望の特性が得られないことが確認できる。また、dの値が、本発明の好ましい範囲よりも大きい場合には(試料49)、焼結性は良好であるものの、f・Q値が悪化していることが確認できる。
これに対し、dの値が本発明の好ましい範囲内である場合には(試料43〜48)、十分に焼結し、かつ、良好な特性を示していることが確認できる。
【0135】
なお、X線回折測定では、全ての試料(試料41〜49)について、MgSiO結晶相およびZnSiO結晶相が確認された。
【0136】
以上説明してきたように、本発明によれば、比誘電率、絶縁抵抗およびf・Q値のいずれもが良好である誘電体磁器組成物が得られる。さらに、900℃での焼成であっても、十分に焼結させることができる。しかも、MgO量とZnO量との比を変化させることで、フォルステライト結晶相およびウィレマイト結晶相の存在割合を制御できる。その結果、比誘電率、絶縁抵抗およびf・Q値を良好に維持しつつ、線膨張係数を約40〜120×10−7/℃の範囲で任意に設定できる。
【0137】
したがって、本発明に係る誘電体磁器組成物を、積層複合電子部品に適用した場合であっても、コンデンサ部を構成する誘電体層の線膨張係数に合わせることにより、誘電体層との同時焼成が可能となり、上記した良好な特性を示す非磁性体層を有する積層複合電子部品を提供することができる。しかも、本発明に係る誘電体磁器組成物は、900℃でも十分な焼結性を示しているため、本発明に係る積層複合電子部品において、導電材としてAgを用いることができる。
【0138】
また、本発明の誘電体磁器組成物は、導電材がAgで構成された、本発明に係る積層コモンモードフィルタ、積層セラミックコイル、積層セラミックコンデンサなどにも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0139】
1… LC複合電子部品
11… 本体積層部
20〜29… 外部電極
30… コンデンサ部
31… 内部電極
32… 誘電体層
40… コイル部
41… コイル導体
42… 非磁性体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、Znの酸化物単独ならびにMgの酸化物およびZnの酸化物から選ばれる1つと、Cuの酸化物と、Siの酸化物と、
副成分として、Siの酸化物、Baの酸化物、Caの酸化物、Srの酸化物 Liの酸化物およびZnの酸化物から選ばれる少なくとも1つと、Bの酸化物と、を含み、ガラス軟化点が750℃以下であるガラス成分と、を含有し、
前記ガラス成分の含有量が、前記主成分100重量%に対して、1.5〜15重量%であることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
結晶相として、フォルステライト型結晶相および/またはウィレマイト型結晶相を含むことを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記主成分を、一般式a(bMgO・cZnO・dCuO)・SiOで表したときに、aが1.5〜2.4、cが0.10〜0.98、dが0.02〜0.18(ただし、b+c+d=1.00)であることを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
コイル導体および非磁性体層で構成されるコイル部と、
内部電極層および誘電体層で構成されるコンデンサ部と、を有し、
前記コイル導体および/または前記内部電極層が、導電材としてAgを含んでおり、前記非磁性体層が、請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成されている積層複合電子部品。
【請求項5】
コイル導体および非磁性体層で構成されるフィルタ部と、
磁性体層で構成される外層部と、を有し、
前記コイル導体が、導電材としてAgを含んでおり、
前記非磁性体層が、請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成されている積層コモンモードフィルタ。
【請求項6】
内部電極層および誘電体層で構成されるコンデンサ部と、
コイル導体および非磁性体層を有するコモンモードフィルタ部と、
磁性体層で構成される外層部と、を有し、
前記コイル導体および/または前記内部電極層が、導電材としてAgを含み、
前記非磁性体層が、請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成されている積層複合電子部品。
【請求項7】
コイル導体および非磁性体層が積層されて構成されるコイル部を有する積層セラミックコイルであって、
前記コイル導体が、導電材としてAgを含んでおり、
前記非磁性体層が、請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成されている積層セラミックコイル。
【請求項8】
内部電極層と、誘電体層と、が交互に積層してある素子本体を有する積層セラミックコンデンサであって、
前記内部電極層が、導電材としてAgを含んでおり、
前記誘電体層が、請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成されている積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−298684(P2009−298684A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102315(P2009−102315)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】