説明

調芯機能付軸受ユニット及びステアリングコラム用軸受装置

【課題】 滑らかなステアリング操作を実現できるとともに、ステアリングシャフトに発生するラジアル荷重を十分に支持できる調芯機能付軸受ユニットを提供する。
【解決手段】 アウタスリーブ32とインナスリーブ33との間に転がり軸受が介装されるとともに、調芯機能を備えた調芯機能付軸受ユニット30であって、前記転がり軸受として、内輪36が2列の軌道面35a,35bを有し、外輪38が凹球面状の軌道面37を有する自動調芯玉軸受34を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のステアリング等の回転支持部に用いられる調芯機能付軸受ユニット及びステアリングコラム用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、自動車のステアリングコラム用軸受装置の一例を示したものである。
このステアリングコラム用軸受装置は、車両のレイアウトの関係から、ステアリングシャフト1が、上端にステアリングホイール2を装着したアッパーステアリングシャフト1aと、該アッパーステアリングシャフト1aの下端に自在継手3を介して連結された中間ステアリングシャフト1bとに分割されている。
【0003】
中間ステアリングシャフト1bは車室4とエンジンルーム5を区画するトーボード(又はダッシュパネル)6を貫通してエンジンルーム5内に延在しており、その下端がエンジンルーム5内に配設されたステアリングギヤボックス7の入力部に自在継手8を介して連結されている。
ところで、中間ステアリングシャフト1bがトーボード6を貫通する部分(以下、回転支持部という)Aには、ステアリングシャフト1の操舵機能上、自己の軸線周りの円滑な回転変位が確保されること、及び軸振れ(揺動)を吸収して快適な操舵を実現することができる軸受ユニットを用いることが必要である。
【0004】
従来のこの種の軸受ユニットとしては、例えば、図7に示すように、前記回転支持部Aに転がり軸受9を配置し、該転がり軸受9の外輪10に外嵌されたゴム等の可撓性材料からなる防塵ブーツ11をトーボード6に固定した例(例えば特許文献1参照)や、図8に示すように、転がり軸受9の外輪10の外周部に調芯機能を有する凸状の球面部12を一体に設け、ケーシング13に凸球面部12に対応する凹球面部14を一体に設けた自動調芯機能付軸受ユニットを前記回転支持部Aに配置した例(例えば特許文献2参照)が開示されている。
【特許文献1】特開平8−198122号公報
【特許文献2】特開昭62−56614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1においては、転がり軸受9をゴム等の可撓性材料からなる防塵ブーツ11を介してトーボード6に固定する構造であるため、ステアリングシャフト1の回転トルク及び揺動トルクは低く抑えることができるものの、ステアリングシャフト1に作用するラジアル荷重に対する剛性が低く、該ラジアル荷重を十分に支持することができないという問題がある。
【0006】
一方、上記特許文献2では、転がり軸受と球面すべり軸受とを用いているため、ステアリングシャフト1の回転トルクは低く抑えることができるものの、転がり軸受の他に球面すべり軸受の凸球面部12の分だけ部品点数が増え、組立に時間を要してしまう。
また、凸球面部12がケーシング13側の凹球面部14を摺動する際の摩擦抵抗が大きいため、ステアリングシャフト1の揺動トルクが大きくなり、滑らかなステアリング操作を実現することが難しいという問題がある。
【0007】
本発明はこのような不都合を解消するためになされたものであり、ステアリングシャフトの揺動トルクを小さくして、滑らかなステアリング操作を実現することができるとともに、部品点数を削減して組立の容易化を図ることができ、更に、ステアリングシャフトに発生するラジアル荷重を十分に支持することができる調芯機能付軸受ユニット及びステアリングコラム用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、少なくとも転がり軸受を備えた調芯機能付軸受ユニットであって、
前記転がり軸受として、外輪及び内輪のうちのいずれか一方が2列の軌道面を有し、他方が球面の軌道面を有する自動調芯玉軸受を用いることを特徴とする。
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記内輪が2列の軌道面を有するとともに、前記外輪が凹球面状の軌道面を有することを特徴とする。
請求項3に係る発明は、調芯機能付軸受ユニットを備えたステアリングコラム用軸受装置であって、
前記調芯機能付軸受ユニットとして、請求項1又は2に記載の調芯機能付軸受ユニットを用い、該調芯機能付軸受ユニットの外周側にハウジングを配置するとともに、内周側にステアリングシャフトを配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、調芯機能付軸受ユニットの転がり軸受として、外輪及び内輪のうちのいずれか一方が2列の軌道面を有し、他方が球面の軌道面を有する自動調芯玉軸受を用いているので、ステアリングシャフトの揺動時には、転動体としての玉が球面軌道面を転動し、その際の抵抗が大幅に減少する。これにより、ステアリングシャフトの揺動トルクを小さくすることができ、滑らかなステアリング操作を実現することができる。
また、転がり軸受の他に球面すべり軸受を必要としないため、部品点数が削減されて、組立の容易化を図ることができる。
更に、ラジアル荷重が負荷された際には、自動調芯玉軸受が有する許容定格荷重により、ラジアル荷重を十分に支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態であるステアリングコラム用軸受装置を説明するための要部断面図、図2は図1のA−A線断面図、図3〜図5は本発明の他の実施の形態であるステアリングコラム用軸受装置を説明するための要部断面図である。なお、この実施の形態では、既に図6で説明した自動車のステアリングコラム用軸受装置に対して、ステアリングシャフトの回転支持部に用いられる調芯機能付軸受ユニットが相違するだけであるため、相違点についてのみ説明し、重複又は相当する部分については各図に同一符号を付して、その説明を省略する。
【0011】
本発明の第1の実施の形態であるステアリングコラム用軸受装置20は、図1に示すように、調芯機能付軸受ユニット30の外周側にハウジング31が配置され、該ハウジング31がトーボード6に固定されている。
調芯機能付軸受ユニット30は、アウタスリーブ32とインナスリーブ33との間に自動調芯玉軸受34が介装されており、アウタスリーブ32は、軸方向の一端がハウジング31の内周部に設けられた突起31aに当接した状態で、軸方向の他端がC型止め輪35等によって固定されている。
【0012】
インナスリーブ33の内周部は、図2に示すように、径方向に互いに対向する2つの平面部33aを有する略小判形状をしている。そして、中間ステアリングシャフト1bの外周部に設けられた2つの平面部(図示せず)がインナスリーブ33の内周部に嵌合されて、該インナスリーブ33がステアリングシャフト1と一体に回転するようになっている。 なお、インナスリーブ33及びアウタスリーブ32に使用される樹脂材料は、例えば6ナイロン、66ナイロン、46ナイロン、芳香族ナイロン等のナイロン樹脂や、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が耐熱性、耐グリース性の点から好ましい。また、負荷される荷重により、ガラス繊維、カーボン繊維、ウィスカーなどの強化繊維を充填した材料を使用することが好ましい。
【0013】
自動調芯玉軸受34は、この実施の形態では、外径面に2列の内輪軌道面35a,35bを有する内輪36と、内径面に凹球面状の外輪軌道面37を有する外輪38と、2列の内輪軌道面35a,35bと凹球面状の外輪軌道面37との間に円周方向に転動可能に配設された2列の玉39とを備えている。
外輪軌道面37の凹球面の曲率半径Rの曲率中心Oは、自動調芯玉軸受34の幅方向の中心線とステアリングシャフト1の中心軸線とが交わる点とされている。なお、自動調芯玉軸受34の軸方向の少なくとも一端側に密封装置を設けるようにしてもよい。
【0014】
そして、自動調芯玉軸受34の外輪38は、軸方向の一端がアウタスリーブ32の内周部に設けられた突起40に当接した状態で、軸方向の他端がC型止め輪41等によって固定され、内輪36については、軸方向の一端がインナスリーブ33の外周部に設けられた突起42に当接した状態で、軸方向の他端がC型止め輪43等によって固定されている。 かかる固定状態においては、自動調芯玉軸受34の外輪38はアウタスリーブ32の内周部に適度な締め代をもってタイトに係合している。
【0015】
このように、この実施の形態では、アウタスリーブ32とインナスリーブ33との間に介装される転がり軸受として、内輪36が2列の内輪軌道面35a,35bを有し、外輪38が凹球面状の外輪軌道面37を有する自動調芯玉軸受34を用いているので、ステアリングシャフト1の揺動時に、転動体としての玉39が外輪38の凹球面状の軌道面37を転動し、その際の抵抗が大幅に減少する。
【0016】
これにより、ステアリングシャフト1の揺動トルクを小さくすることができ、滑らかなステアリング操作を実現することができる。
また、転がり軸受の他に球面すべり軸受を必要としないため、部品点数を削減することができ、しかも、自動調芯玉軸受34の外輪38及び内輪36をそれぞれ単体でアウタスリーブ32及びインナスリーブ33に組み込むことができるので、組立の容易化を図ることができる。
【0017】
更に、ラジアル荷重が負荷された際には、自動調芯玉軸受34が有する許容定格荷重により、ラジアル荷重を十分に支持することができる。
更に、自動調芯玉軸受34の外輪38はアウタスリーブ32の内周部に適度な締め代をもってタイトに係合しているため、アウタスリーブ32がステアリング操作時のステアリングシャフト1の振動に合わせて弾性変形して、その振動を吸収し、これにより、がたつきや打音の発生を防止することができる。
【0018】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記実施の形態では、中間ステアリングシャフト1bの回転支持部に本発明を適用した場合を例示したが、これに代えて、アッパーステアリングシャフト1aの回転支持部に本発明を適用してもよい。
【0019】
また、図3に示すように、アウタスリーブ32の軸方向の少なくとも一方の端部(図3では、両端部)に、シール部材50を装着してもよい(第2の実施の形態)。
シール部材50は、断面略L字形状の芯金51と、該芯金51に一体に設けられたゴム等の弾性部52とを備えており、芯金51の外周側の弾性部52がアウタスリーブ32の内周部に圧入等により嵌合されている。また、シール部材50は、ステアリングシャフト1が揺動して軸受ユニット30が傾いても干渉しないことと、シール面の浮き上がりを防止するため、軸方向の外方に膨らむ形状とされ、内径側のシールリップ部53がインナスリーブ33の外周面に摺接している。この場合、シールリップ部53とインナスリーブ33との摺接部にはグリース等の潤滑剤を塗布することが好ましい。
【0020】
更に、上記実施の形態では、転がり軸受として、内輪36が2列の内輪軌道面35a,35bを有し、外輪38が凹球面状の外輪軌道面37を有する自動調芯玉軸受34を例示したが、これに代えて、図4に示すように、転がり軸受として、外輪38が2列の外輪軌道面37a,37bを有し、内輪36が凸球面状の内輪軌道面35を有する自動調芯玉軸受60を用いてもよい(第3の実施の形態)。
【0021】
また、図5に示すように、2列の外輪軌道面37a,37bを有する外輪38を軸方向の中央部で分割して、2つの分割外輪38a,38bとしてもよい(第4の実施の形態)。外輪38は、軸方向の一端がアウタスリーブ32の内周部に設けられた突起40に当接した状態で、軸方向の他端がC型止め輪41等によって固定されている。なお、図4及び図5のいずれの場合も、内輪軌道面35の凸球面の曲率半径Rの曲率中心Oは、自動調芯玉軸受の幅方向の中心線とステアリングシャフト1の中心軸線とが交わる点とされている。
【0022】
更に、上記各実施の形態において、内輪36の内周部にインナスリーブ33を射出形成等により一体に形成してもよく、また、アウタスリーブ32を省略して、外輪38をハウジング31の内周面に直接嵌め込むようにしてもよい。
更に、上記各実施の形態では、玉39を転動可能に保持する保持器を省略しているが、保持器はあってもなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態であるステアリングコラム用軸受装置を説明するための要部断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態であるステアリングコラム用軸受装置を説明するための要部断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態であるステアリングコラム用軸受装置を説明するための要部断面図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態であるステアリングコラム用軸受装置を説明するための要部断面図である。
【図6】自動車のステアリングコラム用軸受装置の一例を説明するための斜視図である。
【図7】従来の軸受ユニットを説明するための要部断面図である。
【図8】従来の軸受ユニットを説明するための要部断面図である。
【符号の説明】
【0024】
20 ステアリングコラム用軸受装置
30 調芯機能付軸受ユニット
31 ハウジング
32 アウタスリーブ
33 インナスリーブ
34 自動調芯玉軸受
35a,35b 内輪軌道面(2列の軌道面)
36 内輪
37 外輪軌道面(球面軌道面)
38 外輪
39 玉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも転がり軸受を備えた調芯機能付軸受ユニットであって、
前記転がり軸受として、外輪及び内輪のうちのいずれか一方が2列の軌道面を有し、他方が球面の軌道面を有する自動調芯玉軸受を用いることを特徴とする調芯機能付軸受ユニット。
【請求項2】
前記内輪が2列の軌道面を有するとともに、前記外輪が凹球面状の軌道面を有することを特徴とする請求項1に記載の調芯機能付軸受ユニット。
【請求項3】
調芯機能付軸受ユニットを備えたステアリングコラム用軸受装置であって、
前記調芯機能付軸受ユニットとして、請求項1又は2に記載の調芯機能付軸受ユニットを用い、該調芯機能付軸受ユニットの外周側にハウジングを配置するとともに、内周側にステアリングシャフトを配置したことを特徴とするステアリングコラム用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−316820(P2006−316820A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137448(P2005−137448)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】