説明

赤外線分析装置

【課題】拡散性を抑制する光学系を用いて低水分から高水分にわたって高精度の測定が可能な水分計を提供する。
【解決手段】光源から出射した光を斜め方向から被測定物に照射し、該被測定物を透過した透過光をなだらかな曲率を有するミラーで反射させて集束し、再度前記被測定物を透過させて赤外線に感度のある検出器に入射させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を利用して被測定対象の物理的特性を分析する赤外線分析装置に関し、詳しくは紙の水分や厚さを測定する赤外線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3(a〜c)は紙などのシート状物質の物理的特性(水分含有量)を測定する従来の赤外線分析装置である。これらの図において、内面が鏡面加工された半球状の凹面反射体36、38が紙10を挾んで対向配置され、紙10の幅方向に往復走行される走査ヘッドに搭載されている。半球状の凹面反射体36の真下には、白色光源ランプ20と一対のフィルタ24、26が取付けられたチョッパ円板22を有し、凹面反射体36は赤外線源20からの赤外線を紙10に投射する光管32を有している。一方、鏡面の凹面反射体38には赤外線検出器(以下、検出器という)42が取付けられている。
【0003】
凹面反射体36と38とは球状のキャビティを形成し、光管32はこのキャビティの中心に向け赤外線を投射する。検出器42は光管32の光軸に対し角度φだけずらされて配置されている。54、56は凹面反射体が紙粉で汚れるのを防止する為のガラスである。このような構成で、赤外線源20のチョッパ―円板22を回転させると、この円板に設けた一対のフィルタによって紙10の水分によって吸収を受ける測定光と水分によって吸収を受けない比較光とを交互に発生する。
【0004】
これらの光は光管32を通しキャビティ内に導かれ紙10上にスポットを投射する。検出器42は紙10を透過した赤外線と、凹面反射体36、38で反射され紙10を繰返し透過した赤外線の両方を検出する。図では省略するが検出器42で検出された測定光信号Mと比較光信号Rとはそれぞれ別々に検出され、これらの比R/Mが演算され水分率を表わす信号として出力される。このような装置の場合、中心に投射された赤外線が紙10によって散乱するが凹面反射体36、38によって反射され再び中心に集められるため測定を効率よく行える利点がある。
【0005】
更に、検出器42の取付け角度φを変えることによって紙10を透過して直接検出器42に達する赤外線成分と、凹面反射体36、38で反射され検出器42に達する赤外線成分との割合を変えることが出来る。角度φを小さくすれば前者の成分が増大し、角度φを大きくすれば後者の成分が増大する。このため、ティッシュペ―パ―のような薄い紙の場合、水分による赤外線吸収量が少なく検出感度は低下するが、このような場合に検出器42の取付け角度φを大きくし紙10を繰返し透過した赤外線成分が多く入射されるようにすれば検出感度を上げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭61−10773
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のような従来の赤外線分析装置においては紙を1回透過した光が一番強く、凹面反射体で反射し再び紙を透過して凹面反射体で反射し、更に紙を透過した光は感度は高いが光量の減衰度が著しい。そのため、検出器を光軸に対して所定の取付角度φを有して取付けることにより一回透過光の光強度を弱め複数透過光との光強度の差を少なくなるようにしている。
【0008】
しかしながら、球面体の内部に入射する赤外光は所定の径を有しており、紙の反射面は散乱体であるため紙で反射又は散乱した光は必ずしも球面体の中心に返らずやや離れた所に戻って来る。そして、やや離れた所に戻った光が更に紙に反射した場合は更に離れた所に戻るので測定面積はぼやけてしまい、球面全体が測定面積となる。
【0009】
一般に紙の水分をオンラインで測定する場合、紙の測定スポットは小さい方が望ましい。その理由は、検出した水分に基づいて施される後工程での水分制御のためのヒータの温度管理等を容易にするためである。
【0010】
光源を数十ワット(比較的大出力)のハロゲンランプとし、バンドパスフィルタを組み合わせた光源であれば所望の波長で潤沢な光量を得ることが出来、光学系によって十分拡散していても構わないが、数mW(低出力)の赤外線LEDを光源に採用して小型、低コストを図る場合では、拡散性を抑えて信号出力を大きくする必要がある。
【0011】
従って本発明は、比較的低出力の赤外線LEDを用いた水分計であっても、拡散性を抑制する光学系を用いて低水分から高水分にわたって高精度の測定が可能な水分計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を達成するために、本発明の赤外線分析装置は、請求項1においては、
光源から出射した光を斜め方向から被測定物に照射し、該被測定物を透過した透過光をなだらかな曲率を有するミラーで反射させて集束し、再度前記被測定物を透過させて赤外線に感度のある検出器に入射させるように構成したことを特徴とする。
【0013】
請求項2においては請求項1に記載の赤外線分析装置において、
前記なだらかな曲率を有するミラーは軸外し楕円鏡であることを特徴とする。
【0014】
請求項3においては請求項1に記載の赤外線分析装置において、
前記光源として赤外線LEDを用いたことを特徴とする。
【0015】
請求項4においては請求項1に記載の赤外線分析装置において、
前記赤外線に感度のある検出器はPbS素子、Ge素子、InGaAs素子を含むことを特徴とする。
【0016】
請求項5においては請求項2に記載の赤外線分析装置において、
前記軸外し楕円鏡はガラス製品、機械加工品、板金プレス品に金、アルミニウムを含む高反射率の金属蒸着膜やメッキを施した反射鏡、無機質蒸着物質を膜厚を用いて構成した反射鏡であることを特徴とする。
【0017】
請求項6においては請求項1に記載の赤外線分析装置において、
前記光源と検出器は1方の測定ヘッドに搭載し、被測定物を挟んで対向して配置された他方の測定ヘッドには反射鏡を搭載したことを特徴とする。
【0018】
請求項7においては請求項6に記載の赤外線分析装置において、
前記一方及び他方の測定ヘッドは同方向に同期駆動され、前記被測定物の流れ方向に対して略直行して走査されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1,2,5によれば、
光源から出射した光が軸外し楕円鏡で反射して検出器に入射するまでの間に集光レンズやミラーなどの光学系が不要なので構成を簡素化することができる。
【0020】
また、光源から出射した光を被測定物に対して斜めに入射させるので、紙面に垂直に入射した場合に対して、30度入射であれば、1.15倍、45度であれば1.4倍の距離で紙を透過することとなり、水分量の検出感度を上げることが可能となる。
光は被測定物を透過し、楕円鏡で反射して再び被測定物を透過するので検出感度が大きくなり、特定波長の水分吸収を十分高められ、高精度測定が可能となる。
【0021】
軸外し楕円鏡は、紙面に対して垂直入射に近い形状も作ることが可能なため、垂直入射が好適である場合においても、軸外し楕円鏡は有用である。
【0022】
請求項3,4によれば、光源として赤外線LEDを用い、検出器としてPbS素子、Ge素子、InGaAs素子を用いているので小型で安価な光学系を実現することができる。
また、検出素子は高感度検出が可能なため、低出力のLEDでも測定が可能である。
更に、光学系を小型にすることができるので光路長を短くし、大気中の湿度(水分量)変化の影響を軽減することができる。
【0023】
請求項6,7によれば、光源、検出器を1方の測定ヘッドに搭載し、他方の測定ヘッドとともに2つの測定ヘッドを同期して駆動させているので、測定の安定性向上をはかるとともに、温度調節手段を1つに集約することが出来、構成を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す赤外線分析装置の概略構成図(a)、上下ヘッドの拡大断面図(b)、軸外し楕円鏡と第1、第2焦点の関係を示す図(c)である。
【図2】LEDを3個用いた場合の配置例を示す斜視図である。
【図3】従来の赤外線分析装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1(a〜c)は本発明の実施形態の一例を示すもので、赤外線分析装置を水分計とした場合の概略構成図である。
図1(a)において、水分計1はフレーム80、上ヘッド81及び下ヘッド82を備えており、例えば製紙工場に設置された抄紙機に取り付けられ、赤外光を用いて抄紙機で製造された被測定物(紙)10に含まれる水分の測定を行うものである。
【0026】
フレーム80は開口部OPを有する略四角環状の部材であって上ヘッド81及び下ヘッド82を長手方向に往復運動可能に支持している。このフレーム80は長手方向が紙10の幅方向に沿う方向に設定され、短手方向が鉛直方向に沿う方向に設定され紙10が開口部OPの略中央を通過するように配置されている。
【0027】
上下ヘッド81、82は紙10の上下面に沿って紙幅方向に往復可能にフレーム80に支持されており、紙の幅方向に往復運動することにより測定ラインMに示すようにジグザグ状の軌跡を描いて紙に含まれる水分が測定される。
【0028】
図1(b)は水分測定器を構成する上下ヘッド81,82の拡大断面図である。上ヘッド81には赤外線LED83が保持金具84に固定されている。赤外線LEDは少なくとも1本、好適には3本であって、夫々の赤外線LEDは波長が異なる別の種類のLEDである。3本の内1つの赤外線LEDは水分によって吸収を受けない比較波長λ1(1.32μmまたは1.8μm)で参照光として用いる。更に別の赤外線LEDは水分によって吸収特性を示す測定波長λ2(1.43μmまたは1.94μm)、残りの赤外線LEDは、セルロースに感度のある比較波長λ3(2.1μm)の3種類である。
【0029】
赤外線LED83の夫々の光軸は略1点に一致するように配置され、極力隣接するようにLED保持金具84によって支持されている。LED保持金具84は、金属製または電熱性の良い樹脂製で上ヘッド81に配置されたベースプレート85に固定されている。3本の赤外線LEDの光軸の交点は軸外し楕円鏡86の略中央部に向けられている。
【0030】
赤外線LED83は総じて発光素子を被う形態でプラスチックモールドされた集光レンズ一体型であったり、集光レンズをカンパッケージで保持している形態のもので、赤外線LED83でも前方にある程度集光性を持たせている。このLED隣接の重心(集合体の中心)は軸外し楕円鏡86の第1焦点F1に一致するように配置されている。
【0031】
また、ベースプレート85には基板87が固定されており、この基板には赤外線に感度のある検出器88が固定されている。赤外線に感度のある検出器88は、軸外し楕円鏡86の第2焦点F2に一致するように配置されている。検出器88としては、PbS素子や、Ge素子、InGaAs素子などが用いられる。
【0032】
一方、下ヘッド82には軸外し楕円鏡86が概ね水平に固定されている。上下ヘッド81,82は測定される紙が接触しないで通過できる空間を確保するとともに位置変動が無いようにフレーム80(図1a参照)に保持されており紙幅に直交するように走査される。
【0033】
図1(c)は軸外し楕円鏡86の集光原理を説明するものである。楕円鏡の焦点の一方に全方位に発光する点光源を置くとすれば、点光源から発した光線は楕円鏡面で反射して、他方の焦点に集光する。可逆的でありどちらの焦点に点光源を持ってきても構わない。このようにLED83から発した光束は光束を広げながら適当なスポット光で紙を通過し、軸外し楕円鏡86で捉えられ、再び集束しながら検出器88上で焦点を結ぶ。
【0034】
ここで、発光する点光源は複数の集合体であり、集合体の重心といった広い焦点を扱うため、軸外し楕円鏡86は比較的寸法精度の悪い製法であっても構わない。そのため、ガラス製品のような寸法精度の良い製法でなくても、機械切削品にメッキや蒸着であっても良いし、金型による板金の押し出し加工であっても良い(板金内面にメッキもしくは蒸着により高反射にする)。このように他の部材を用いれば、軸外し楕円鏡のコストを低く抑えることが可能で、形状の制約も無く設計の自由度を広げることができる。
【0035】
図2(a,b)は3本のLEDの配置に関する説明図で、図2(a)に示すように平面状に構成したり、もしくは図2(b)に示すように立体的(俵の積み上げ状)にしても良いが、いずれにしても夫々のLED素子を近接するのが良い。4本、5本を用いる場合にも極力密着させて配置すればよい。
89は上ヘッド81及び下ヘッド82の紙面側に取り付けたカバーガラス(透明部材)であり、赤外線の通過特性を阻害せず、紙粉などの汚れから素子を保護する機能を有している。
【0036】
このようにして検出器88で検出した信号は、増幅器(図示省略)により増幅され、信号分離して各波長λ1、λ2、λ3に対応した信号R1、S、R2が取り出され、演算手段(図示省略)により所定のS/R1、S/R2、または2S/(R1+R2)等の2色、または3色の比率演算を行い、水分測定信号を取り出すことができる。あるいはR1/R2の比率の関数等の所定の補正関数を乗じて補正してもよい。なお、演算は、マイクロコンピュータ等を用いたデジタル演算で実施するようにしてもよい。
【0037】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。例えば実施例では、光源として赤外線LEDを用いたが、レーザーダイオード(LD)であっても構わない。また、実施例では、水分計として説明したが、厚さ計としての応用も可能である。即ち、シート状であって赤外線の吸収特性があれば、その透過吸収量からシート材の厚さを検出することができる。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0038】
10 被測定物(紙)
80 フレーム
81 上ヘッド
82 下ヘッド
83 LED
84 保持金具
85 ベースプレート
86 軸外し楕円鏡
87 基板
88 検出器(フォトダイオード)
89 透明部材(ガラス)
OP 開口部
F1 第1焦点
F2 第2焦点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射した光を斜め方向から被測定物に照射し、該被測定物を透過した透過光をなだらかな曲率を有するミラーで反射させて集束し、再度前記被測定物を透過させて赤外線に感度のある検出器に入射させるように構成したことを特徴とする赤外線分析装置。
【請求項2】
前記なだらかな曲率を有するミラーは軸外し楕円鏡であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線分析装置。
【請求項3】
前記光源として赤外線LEDを用いたことを特徴とする請求項1に記載の赤外線分析装置。
【請求項4】
前記赤外線に感度のある検出器はPbS素子、Ge素子、InGaAs素子を含むことを特徴とする請求項1に記載の赤外線分析装置。
【請求項5】
前記軸外し楕円鏡はガラス製品、機械加工品、板金プレス品に金、アルミニウムを含む高反射率の金属蒸着膜やメッキを施した反射鏡、無機質蒸着物質を膜厚を用いて構成した反射鏡であることを特徴とする請求項2に記載の赤外線分析装置。
【請求項6】
前記光源と検出器は1方の測定ヘッドに搭載し、被測定物を挟んで対向して配置された他方の測定ヘッドには反射鏡を搭載したことを特徴とする請求項1に記載の赤外線分析装置。
【請求項7】
前記一方及び他方の測定ヘッドは同方向に同期駆動され、前記被測定物の流れ方向に対して略直行して走査されることを特徴とする請求項6に記載の赤外線分析装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−237317(P2011−237317A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110074(P2010−110074)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】