説明

走行支援装置

【課題】死角がある場合に適切な適正車速を設定する走行支援装置を提供することを課題とする。
【解決手段】車両に搭載される走行支援装置であって、車両前方の死角領域を検出する死角領域検出手段と、死角領域検出手段で検出した死角領域を減少する走行領域を検出する走行領域検出手段と、走行領域検出手段で検出した走行領域での適正車速を設定する適正車速設定手段を備えることを特徴とし、適正車速設定手段は、周辺環境に応じて適正車速を変更すると好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が安全に走行するための様々な走行支援装置が開発されている。例えば、車両が走行しているときに前方の駐車車両等によって運転者からの死角ができる場合、その死角に対応した適正車速を設定し、適正車速で走行するための支援を行う。特許文献1に記載の装置では、車両前方の死角を検出し、死角からの歩行者の飛び出しに対する潜在的危険度を推定し、その潜在的危険度に応じて安全に走行できる適正車速を運転者に教示・警報する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007―257338号公報
【特許文献2】特開2004−157910号公報
【特許文献3】特開2006−293530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の装置では、死角を減少させるようなことはしていないので、常に同じ適正車速を設定する。そのため、死角を減少させることがでるきような状況でも、低い適正車速が設定され、運転者の運転感覚に合わない場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、死角がある場合に適切な適正車速を設定する走行支援装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る走行支援装置は、車両に搭載される走行支援装置であって、車両前方の死角領域を検出する死角領域検出手段と、死角領域検出手段で検出した死角領域を減少する走行領域を検出する走行領域検出手段と、走行領域検出手段で検出した走行領域での適正車速を設定する適正車速設定手段を備えることを特徴とする。
【0007】
この走行支援装置では、死角領域検出手段により車両前方の死角領域を検出する。そして、走行支援装置では、走行領域検出手段により死角領域を減少させることができる走行領域を検出する。さらに、走行支援装置では、適正車速設定手段によりその走行領域に車両が移動した場合の適正車速を設定する。このように、走行支援装置では、死角領域を減少するような走行領域を検出した上で適正車速を設定するので、死角領域を減少でき、死角領域を減少させない場合よりも高い適正車速(より適切な適正車速)を設定することができる。その結果、運転者の運転感覚に合った走行が可能となり、運転者が直視できる領域を広げることによって安全性を向上できる。
【0008】
本発明の上記走行支援装置では、走行領域検出手段は、周辺車両の状態に応じて死角領域を減少する走行領域を検出すると好適である。
【0009】
道路上では、周辺車両によって死角が発生することが非常に多い。そこで、走行支援装置の走行領域検出手段では、周辺車両の状態(例えば、駐車車両の場合には駐車位置及び駐車車両の大きさ、走行車両の場合には現在位置や未来の予測位置及び走行車両の大きさ)に応じて死角を減少できる走行領域を検出する。
【0010】
本発明の上記走行支援装置では、適正車速設定手段は、周辺環境に応じて適正車速を変更すると好適である。
【0011】
同じような死角領域でも、周辺環境によって死角から歩行者や自転車等が出てくる頻度が異なる。例えば、学校や店舗等が存在する場合あるいは横断歩道が有る場合、死角から歩行者や自転車等が出てくる確率が高くなる。そのような環境では、適正車速を低下させることが望ましい。そこで、走行支援装置の適正車速設定手段では、周辺環境に応じて適正車速を変更する。これによって、走行支援装置では、より安全性の高い適正車速を設定することができ、運転者の運転感覚に合った走行が可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、死角領域を減少するような走行領域を検出した上で適正車速を設定するので、死角領域を減少でき、死角領域を減少させない場合よりも高い適正車速(より適切な適正車速)を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態に係る走行支援装置の構成図である。
【図2】自車両の前方の駐車車両によって死角ができる例であり、(a)が自車両が横方向に移動しない場合であり、(b)が自車両が横方向に移動する場合である。
【図3】自車両の前方に駐車車両及び対向車両が存在する場合の車両関係の例である。
【図4】移動可能幅と移動余裕幅の例を示す表である。
【図5】移動可能幅と移動余裕幅の他の例を示す表である。
【図6】移動余裕幅が0の場合、図4の例の移動余裕幅の場合、図5の例の移動余裕幅の場合の各適正車速に応じた車速の時間変化を示すグラフである。
【図7】自車両の前方の駐車車両によって死角ができ、周辺環境が異なる例であり、(a)が周辺環境がない場合であり、(b)が周辺環境として学校が有る場合であり、(c)が周辺環境として横断歩道が有る場合である。
【図8】周辺環境情報のGainの例を示す表である。
【図9】周辺環境情報の組み合わせに応じたGainの例を示す表である。
【図10】周辺環境がない場合、図9の3つの異なる周辺環境がある場合の各適正車速に応じた車速の時間変化を示すグラフである。
【図11】従来の適正車速、移動余裕幅分移動した場合の適正車速、周辺環境がある場合の適正車速に応じた車速の時間変化を示すグラフである。
【図12】図1のECUにおける制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る走行支援装置の実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
本実施の形態では、本発明を、車両に搭載される走行支援装置に適用する。本実施の形態に係る走行支援装置は、前方に障害物を検出した場合(ひいては、死角を検出した場合)に死角を減少させるための横方向の移動量及び適正車速を設定し、その横方向の移動量分移動するように操舵制御を行うとともに適正車速になるように加減速制御(特に、減速制御)を行う。
【0016】
図1〜図11を参照して、本実施の形態に係る走行支援装置1について説明する。図1は、本実施の形態に係る走行支援装置の構成図である。図2は、自車両の前方の駐車車両によって死角ができる例である。図3は、自車両の前方に駐車車両及び対向車両が存在する場合の車両関係の例である。図4及び図5は、移動可能幅と移動余裕幅の例を示す表である。図6は、移動余裕幅が0の場合、図4の例の移動余裕幅の場合、図5の例の移動余裕幅の場合の各適正車速に応じた車速の時間変化を示すグラフである。図7は、自車両の前方の駐車車両によって死角ができ、周辺環境が異なる例である。図8は、周辺環境情報のGainの例を示す表である。図9は、周辺環境情報の組み合わせに応じたGainの例を示す表である。図10は、周辺環境がない場合、図9の3つの異なる周辺環境がある場合の各適正車速に応じた車速の時間変化を示すグラフである。図11は、従来の適正車速、移動余裕幅分移動した場合の適正車速、周辺環境がある場合の適正車速に応じた車速の時間変化を示すグラフである。
【0017】
走行支援装置1では、運転者が直視できない死角となる領域を検出し、その死角領域に対して安全性を考慮した適正車速を設定する。特に、走行支援装置1では、自車両が横方向に移動可能な場合には死角領域を減少させるための横方向の移動量(移動余裕幅)を求め、その移動余裕幅分移動した場合の適正車速を設定する。さらに、走行支援装置1では、自車両の車速に影響を与えるような周辺環境がある場合にはその周辺環境情報に応じて適正車速を補正する。
【0018】
走行支援装置1は、障害物検出装置10、周辺環境認識装置11、自車両移動量検出装置12、車速検出装置13、スロットルアクチュエータ20、ブレーキアクチュエータ21、操舵アクチュエータ22及びECU[Electronic Control Unit]30(適正車速決定部31、加減速制御部32、操舵制御部33)を備えている。なお、本実施の形態では、ECU30の適正車速決定部31での各処理が特許請求の範囲に記載する死角領域検出手段、走行領域検出手段、適正車速設定手段に相当する。
【0019】
障害物検出装置10は、運転者からの死角を発生させるような自車両前方の障害物(例えば、車両(駐車車両、走行車両)、路側物、落下物、道路工事関連)を検出する各種装置である。障害物検出装置10としては、例えば、ミリ波等を用いたレーダ装置、カメラ等の撮像装置がある。レーダ装置の場合、ミリ波等の送受信データに基づいて障害物を検出する。撮像装置の場合、カメラ等で撮像した画像に基づいて障害物を検出する。特に、撮像装置の場合、画像に基づいて車線を検出し、自車両と車線との相対的な位置関係(例えば、車線の右端又は左端からの横位置)、障害物と車線との相対的な位置関係(例えば、車線の右端又は左端からの横位置)を算出する。障害物の情報としては、例えば、障害物の種類、障害物の位置情報(自車両との相対的な位置関係、車線との相対的な位置関係)、障害物の大きさや形状である。障害物の位置としては、図3に示すように、例えば、左端の車線からはみ出している車線内位置X2を検出する。障害物検出装置10では、一定時間毎に、障害物を検出し、障害物を検出できた場合にはその障害物の情報を障害物情報信号としてECU30に送信する。
【0020】
周辺環境認識装置11は、自車両の車速に影響を与えるような自車両周辺の環境(例えば、人の行き来が多いと予測される学校やデパート等の店舗、歩行者や自転車が優先となる横断歩道)を認識する装置である。周辺環境認識装置11としては、例えば、カーナビゲーション装置、撮像装置がある。周辺環境の情報としては、例えば、周辺環境の種類、周辺環境の位置情報(自車両との相対的な位置関係)である。周辺環境認識装置11では、一定時間毎に、周辺環境を認識し、周辺環境を認識できた場合にはその認識した情報を周辺環境情報信号としてECU30に送信する。
【0021】
自車両移動量検出装置12は、自車両の横方向の移動量(横方向の位置でもよい)を検出する装置である。自車両移動量検出装置12としては、例えば、撮像装置を利用する。自車両移動量検出装置12では、一定時間毎に、撮像装置による画像に基づいて車線を検出し、その車線に対する自車両の相対的な横位置(例えば、車線の右端又は左端からの横位置)を算出し、その情報を移動量信号としてECU30に送信する。
【0022】
車速検出装置13は、自車両の車速を検出する装置である。車速検出装置13では、一定時間毎に、車速を検出し、その車速を車速信号としてECU30に送信する。
【0023】
スロットルアクチュエータ20は、エンジンのスロットルバルブの開度を調整するアクチュエータである。スロットルアクチュエータ20では、ECU30からのエンジン制御信号を受信すると、エンジン制御信号に示される目標開度に応じて作動し、スロットルバルブの開度を調整する。
【0024】
ブレーキアクチュエータ21は、各車輪のホイールシリンダのブレーキ油圧を調整するアクチュエータである。ブレーキアクチュエータ21では、ECU30からのブレーキ制御信号を受信すると、ブレーキ制御信号の示される目標ブレーキ油圧に応じて作動し、ホイールシリンダのブレーキ油圧を調整する。
【0025】
操舵アクチュエータ22は、モータによる回転駆動力を減速機構を介してステアリング機構(ラック、ピニオン、コラム等)に伝達し、ステアリング機構に操舵トルクを付与するためのアクチュエータである。操舵アクチュエータ22では、ECU30から操舵制御信号を受信すると、操舵制御信号に示される目標操舵トルクに応じてモータを作動し、モータを回転駆動して操舵トルクを発生させる。
【0026】
ECU[Electronic Control Unit]30は、CPU[CentralProcessing Unit]や各種メモリ等からなり、走行支援装置1を統括制御する。ECU30では、メモリに格納されている各アプリケーションプログラムをロードし、CPUで実行することによって適正車速決定部31、加減速制御部32、操舵制御部33が構成される。ECU30では、障害物検出装置10からの障害物情報信号、周辺環境認識装置11からの周辺環境情報信号、自車両移動量検出装置12からの移動量信号、車速検出装置13からの車速信号をそれぞれ受信する。そして、ECU30では、受信したこれらの各信号に基づいて各部31、32、33での処理を行い、必要に応じてエンジン制御信号をスロットルアクチュエータ20に送信し、ブレーキ制御信号をブレーキアクチュエータ21に送信し、操舵制御信号を操舵アクチュエータ22に送信する。
【0027】
適正車速決定部31では、障害物検出装置10からの障害物情報信号に基づいて自車両前方に障害物を検知した場合、その障害物の位置及び大きさや形状に基づいて、運転者から死角となる領域を算出する。この死角領域の算出方法としては、従来の方法を適用する。
【0028】
図2(a)に示す例の場合、自車両がMV11の位置の場合には駐車車両PVによってできる死角領域は破線LN11と駐車車両PVとの間に形成される領域であり、自車両がMV12の位置の場合には死角領域は破線LN12と駐車車両PVとの間に形成される領域であり、自車両がMV13の位置の場合には死角領域は破線LN13と駐車車両PVとの間に形成される領域である。自車両が位置MV11、MV12では、自転車BYが死角領域の中に入り、運転者から見えない。自車両が位置MV13では、運転者から自転車BYが見え始める。そのため、自車両が位置MV13に到達するまでは、自転車BY等が死角から道路に出てくる可能性があるので、車速を低下させる必要がある。
【0029】
そこで、適正車速決定部31では、死角領域に対応した適正車速(Vp)を算出する。この適正車速(Vp)の算出方法としては、障害物による死角領域、自車両と障害物との相対距離や相対時間及び相対的な位置関係等を考慮し、従来の方法を適用する。
【0030】
適正車速決定部31では、障害物が存在する車線において自車両が移動可能な移動可能幅(Xp)を算出する。移動可能幅(Xp)は、走行路の車線幅(X1)、障害物の車線内位置(X2)の相互関係に加えて、障害物PVからの安全マージンXm1や対向車線を走行する対向車両OVからの安全マージンXm2を考慮して算出される(図3参照)。さらに、適正車速決定部31では、検出した死角領域を減少させるために、死角から遠ざかる方向への横方向の移動量(移動余裕幅(Xd))を算出する。移動余裕幅(Xd)は、移動可能幅(Xp)の範囲内であり、走行路の車線幅(X1)、障害物の車線内位置(X2)、自車両の横幅(X3)の相互関係に加えて対向車線を走行する対向車両OVを考慮して算出される(図2、図3参照)。
【0031】
そして、適正車速決定部31では、移動余裕幅(Xd)が0より大きいか否かを判定する。移動余裕幅(Xd)が0より大きくない場合、自車両を移動余裕幅(Xd)分横方向に移動する必要はないので、横方向への操舵制御は行わない。一方、移動余裕幅(Xd)が0より大きい場合、適正車速決定部31では、自車両を移動余裕幅(Xd)分横方向に移動させる操舵制御を行うために、操舵制御部33に移動余裕幅(Xd)を出力する。
【0032】
図2(b)の例は、自車両がMV21の位置から移動余裕幅(Xd)分右方向に移動する場合である。自車両がMV21の位置の場合には駐車車両PVによってできる死角領域は破線LN21と駐車車両PVとの間に形成される領域であり、自車両がMV22の位置の場合には死角領域は破線LN22と駐車車両PVとの間に形成される領域であり、自車両がMV23の位置の場合には死角領域は破線LN23と駐車車両PVとの間に形成される領域である。この場合、自車両が位置MV22になると運転者から自転車BYが見え始め、図2(a)に示す自車両が移動余裕幅(Xd)分右方向に移動しない場合よりも、距離L分(時間として(t2−t1)分)早く自転車BYを確認できる。このように、自車両が死角から遠ざかる方向に移動することによって、死角領域が減少し、障害物に隠れた自転車BY等を早く直視できる。そのため、自車両が移動余裕幅Xd分右方向に移動させた場合、自車両が移動余裕幅(Xd)分右方向に移動しない場合よりも、適正車速を高くすることができる。
【0033】
そこで、適正車速決定部31では、移動余裕幅(Xd)、移動可能幅(Xp)、適正車速(Vp)、車速検出装置13からの車速信号に示される自車両の現在車速(Vn)を用いて、式(1)により、自車両が移動余裕幅(Xd)分横方向に移動しない場合の適性車速(Vp’)を算出する。この式(1)において(移動余裕幅(Xd)/移動可能幅(Xp))×(適正車速(Vp)/現在車速(Vn))が、死角領域が減少することによって(運転者による直視領域が増加することによって)高くできる車速量である。ちなみに、自車両を移動余裕幅(Xd)分横方向に移動させなかった場合、適正車速(Vp)のままである。
【数1】

【0034】
図4〜図6には、自車両が車速Vn=60km/hで駐車車両を追い越し始めるときに、自車両を移動余裕幅(Xd)分移動させない場合(従来技術)と自車両を移動余裕幅(Xd)分移動させた場合の各適正車速まで減速させたときの車速の時間変化のシミュレーション結果を示している。この例では、従来技術による適正車速(Vp)は30km/hとし、車線幅(X1)は4.0mであり、自車両横幅(X3)は2.0mであり、説明を判り易くするために、移動可能幅(Xp)=車線幅(X1)−障害物車線内位置(X2)として算出し、移動余裕幅(Xd)=車線幅(X1)−障害物車線内位置(X2)−自車両横幅(X3)として算出している。図4の例11の場合、障害物車線内位置(X2)は1.0mなので、移動可能幅(Xp)は3.0mとなり、移動余裕幅(Xd)は1.0mとなり、式(1)によって算出される適正車速(Vp’)は35km/hとなる。図4の例12の場合、障害物車線内位置(X2)は1.5mなので、移動可能幅(Xp)は2.5mとなり、移動余裕幅(Xd)は0.5mとなり、式(1)によって算出される適正車速(Vp’)は33km/hとなる。図6に示すように、従来技術の場合(移動余裕幅(Xd)=0mの場合)には自車両の車速は60km/hから30km/hまで徐々に低下し、例11の場合(移動余裕幅(Xd)=1.0mの場合)には自車両の車速は60km/hから35km/hまで徐々に低下し、例12の場合(移動余裕幅(Xd)=0.5mの場合)には自車両の車速は60km/hから33km/hまで徐々に低下する。この例でも判るように、自車両を死角から遠ざけたほど(大きな移動余裕幅(Xd)で横方向に移動させるほど)、適正車速を高くでき、自車両をより高い車速で走行させることができる。
【0035】
図7には、駐車車両PVによって自車両MVの運転者からの死角ができる場合の周辺環境の例を示している。図7(b)のように駐車車両PVの前方に学校SCを認識した情報や図7(c)のように駐車車両PVの前方の横断歩道PDを認識した情報がある場合、図7(a)のように周辺環境がない場合よりも、駐車車両PVによる死角領域に自転車BYや歩行者等が存在する確率が高くなる。そのような場合、安全性を考慮して、適正車速を低くする必要がある。
【0036】
そこで、適正車速決定部31では、周辺環境認識装置11からの周辺環境情報信号に基づいて周辺環境を認識している場合、認識した周辺環境に対してGain(ゲイン)をそれぞれ設定する。そして、適正車速決定部31では、複数の周辺環境が存在する場合、周辺環境の各Gainを乗算し、統合したGainを算出する。周辺環境が1個の場合、そのGainをそのまま用いる。さらに、適正車速決定部31では、適正車速(Vp又はVp’)を最終的に決定されたGainで除算し、最終的な適正車速(Vp’’)を決定する。適正車速決定部31では、周辺環境認識装置11からの周辺環境情報信号に基づいて周辺環境を認識していない場合、適正車速(Vp又はVp’)をそのまま最終的な適正車速(Vp’’)として決定する。そして、適正車速決定部31では、最終的に決定した適正車速(VP’’)を加減速制御部32に出力する。
【0037】
図8〜図10には、自車両が車速Vn=60km/hで駐車車両を追い越し始めるときに、周辺環境がない場合と周辺環境(学校や通学路、横断歩道、歩行車信号)がある場合の各適正車速(VP’’)まで減速したときの車速の時間変化のシミュレーション結果を示している。この例では、従来技術による適正車速(Vp)は30km/hとし、説明を判り易くするために、この適正車速(Vp)を基準として周辺環境を考慮した適正車速(VP’’)を算出している。図8に示すように、学校や通学路の場合には無いときにはGainは1.0であるが、有るときには1.1であり、横断歩道の場合には無いときにはGainは1.0であるが、有るときには1.2であり、歩行者信号の場合には有るときにはGainは1.0であるが、無いときには1.3である。図9に示すように、例21の場合、学校や通学路が有り、横断歩道が無く、歩行者信号が有るので、統合されたGain=1.1×1.0×1.0となり、この周辺環境を加味した適正車速(VP’’)=30/(1.1×1.0×1.0)=27.3km/hとなる。例22の場合、学校や通学路が無く、横断歩道が有り、歩行者信号が有るので、統合されたGain=1.0×1.2×1.0となり、この周辺環境を加味した適正車速(VP’’)=30/(1.0×1.2×1.0)=25.0km/hとなる。例23の場合、学校や通学路が有り、横断歩道が有り、歩行者信号が無いので、統合されたGain=1.1×1.2×1.3となり、この周辺環境を加味した適正車速(VP’’)=30/(1.1×1.2×1.3)=17.5km/hとなる。なお、ここでは、説明を判り易くするために、移動余裕幅(Xd)分横方向に移動しないことを前提として、従来の適正車速(Vp)に周辺環境を加味した適正車速(VP’’)を求めているので、全ての例で従来技術による適正車速(Vp)=30km/hよりも低い適正車速となっているが、移動余裕幅(Xd)分横方向に移動した上で算出された適正車速(Vp’)に周辺環境を加味した適正車速(Vp’’)については従来技術による適正車速(Vp)=30km/hよりも高い適正車速となる場合もある。
【0038】
図10に示すように、従来技術の場合(適正車速(Vp)=30km/hの場合)には自車両の車速は60km/hから30km/hまで徐々に低下し、例21の場合(適正車速(Vp’’)=27.3km/hの場合)には自車両の車速は60km/hから27.3km/hまで徐々に低下し、例22の場合(適正車速(Vp’’)=25.0km/hの場合)には自車両の車速は60km/hから25.0km/hまで徐々に低下し、例23の場合(適正車速(Vp’’)=17.5km/hの場合)には自車両の車速は60km/hから17.5km/hまで徐々に低下する。この例でも判るように、死角領域に自転車や歩行者等が存在する確率が高くなる周辺環境ほど、安全性を考慮して、適正車速を低くする必要があり、自車両をより低い車速で走行させる。
【0039】
図11には、従来の適正車速、移動余裕幅(Xd)分右方向に移動した場合の適正車速、周辺環境がある場合の適正車速に応じた車速の時間変化の例を示している。従来技術のように、駐車車両PVを追い越すために、車速(Vn)で自車両が位置MV31から右方向に移動せずに位置MV32まで走行する場合、適正車速はVpであったとすると、車速はVnからVpまで低下する。しかし、車速(Vn)で自車両が位置MV31から移動余裕幅(Xd)分右方向に移動した位置MV33まで走行する場合、適正車速はVpよりも高いVp’となり、車速はVnからVp’まで低下する。また、周辺環境の横断歩道PDを考慮し、車速(Vn)で自車両が位置MV31から右方向に移動せずに位置MV32まで走行する場合、適正車速はVpよりも低いVp’’となり、車速はVnからVp’’まで低下する。このように、死角領域を減らすために移動余裕幅(Xd)分移動した場合の適正車速や周辺環境を考慮した適正車速を設定することにより、運転者の普段の運転感覚と同じような、より汎用性のある適性車速とすることができる。ちなみに、周辺環境を考慮した適正車速(VP’’)は従来技術の適正車速(Vp)よりも低くなっているが、移動余裕幅(Xd)分移動した上で周辺環境を考慮した場合には適正車速(Vp’’)は従来技術の適正車速Vpよりも高くなる場合もある。
【0040】
加減速制御部32では、適正車速決定部31で決定した適正車速(Vp’’)と車速検出装置13からの車速信号に示される自車両の現在車速との差に基づいて、自車両の車速が適正車速になるために必要な目標加減速度を算出する。目標加減速度がプラス値の場合、加減速制御部32では、目標加速度を設定し、その目標加速度となるために必要なスロットルバルブの目標開度を設定し、その目標開度をエンジン制御信号としてスロットルアクチュエータ20に送信する。目標加減速度がマイナス値の場合、加減速制御部32では、目標減速度を設定し、その目標減速度になるために必要な各輪のホイールシリンダの目標ブレーキ油圧を設定し、その目標ブレーキ油圧をブレーキ制御信号としてブレーキアクチュエータ21に送信する。
【0041】
操舵制御部33では、自車両移動量検出装置12からの移動量信号に示される自車両の移動量に基づいて、適正車速決定部31で設定した移動余裕幅(Xd)分移動するために必要な目標操舵トルクを設定し、その目標操舵トルクを操舵制御信号として操舵アクチュエータ22に送信する。
【0042】
図1を参照して、走行支援装置1における動作について説明する。特に、ECU30における制御について図12のフローチャートに沿って説明する。図12は、図1のECUにおける制御の流れを示すフローチャートである。
【0043】
障害物検出装置10では、一定時間毎に、自車両前方の障害物を検出し、障害物情報信号をECU30に送信している。周辺環境認識装置11では、一定時間毎に、自車両周辺の周辺環境を認識し、周辺環境情報信号をECU30に送信している。自車両移動量検出装置12では、一定時間毎に、自車両の横方向の移動量を検出し、移動量信号をECU30に送信している。車速検出装置13では、一定時間毎に、自車両の車速を検出し、車速信号をECU30に送信している。ECU30では、これらの各信号を受信する。
【0044】
ECU30では、障害物情報信号に基づいて自車両前方に障害物を検知できた場合、適正車速制御を開始する。まず、ECU30では、障害物の情報に基づいて、その障害物による死角領域を検出する(S1)。そして、ECU30では、自車両と障害物との相対距離や相対時間及び相対的な位置関係等を考慮し、その死角領域に対応した適正車速(Vp)を算出する(S2)。
【0045】
また、ECU30では、撮像装置によって検出された自車線幅(X1)を取得する(S3)。また、ECU30では、レーダ装置によって検出された障害物の車線内位置(X2)を取得する(S4)。そして、ECU30では、自車線幅(X1)と障害物の車線内位置(X2)を用いて、障害物や対向車両との安全マージンを確保した移動可能幅(Xp)を算出する(S5)。さらに、ECU30では、移動可能幅(Xp)の範囲内で、自車線幅(X1)と障害物の車線内位置(X2)及び自車両横幅(X3)を用いて、死角領域を減少させるための移動余裕幅(Xd)を算出する(S6)。
【0046】
ECU30では、移動余裕幅(Xd)が0より大きいか否かを判定する(S7)。S7にて移動余裕幅(Xd)が0より大きくないと判定した場合、移動余裕幅(Xd)に基づく操舵制御及び移動余裕幅(Xd)分横方向に移動した場合の適正車速(Vp’)の算出を行わない。
【0047】
S7にて移動余裕幅(Xd)が0より大きいと判定した場合、ECU30では、移動余裕幅(Xd)分移動するために必要な目標操舵トルクを設定し、その目標操舵トルクを操舵制御信号として操舵アクチュエータ22に送信する(S8)。この操舵制御信号を受信すると、操舵アクチュエータ22では、操舵制御信号に示される目標操舵トルクに応じてモータを作動し、モータを回転駆動して操舵トルクを発生させる。この操舵トルクに応じて、転舵輪が回転し、自車両が進行方向を変える。そして、ECU30では、この操舵制御を自車両が移動余裕幅(Xd)分横方向に移動するまで行う(S8)。また、ECU30では、移動余裕幅(Xd)、移動可能幅(Xp)、適正車速(Vp)、現在車速(Vn)を用いて、式(1)により、移動余裕幅(Xd)分横方向に移動して死角領域を減少した場合の適正車速(Vp’)を算出する(S9)。
【0048】
さらに、ECU30では、周辺環境情報信号に基づいて自車両の車速に影響を与えるような周辺環境があるか否かを判定する(S10)。S10にてそのような周辺環境がないと判定した場合、周辺環境を考慮した適正車速の算出を行わず、ECU30では、適正車速(Vp又はVp’)をそのまま最終的な適正車速(Vp’’)として決定する。
【0049】
S10にてそのような周辺環境があると判定した場合、ECU30では、周辺環境毎にGainを設定し、全ての周辺環境のGainに基づいて適正車速(Vp又はVp’)を更新し、最終的な適正車速(Vp’’)を決定する(11)。
【0050】
そして、ECU30では、適正車速(Vp’’)と現在車速(Vn)との差に基づいて目標減速度を算出し、その目標減速度になるために必要な各輪のホイールシリンダの目標ブレーキ油圧を設定し、その目標ブレーキ油圧をブレーキ制御信号としてブレーキアクチュエータ21に送信する(S12)。このブレーキ制御信号を受信すると、ブレーキアクチュエータ21では、ブレーキ制御信号の示される目標ブレーキ油圧に応じて作動し、ホイールシリンダのブレーキ油圧を調整する。これによって、ブレーキが作動し、自車両の車速が低下してゆく。そして、ECU30では、この減速制御を自車両の車速が適正車速(Vp’’)まで低下するまで継続して行う(S12)。
【0051】
そして、ECU30では、障害物情報信号に基づいて自車両前方に障害物を検知できなくなった場合(障害物を通過した場合)、適正車速制御を終了する。
【0052】
この走行支援装置1によれば、死角領域を減少するための移動余裕幅を求めた上で適正車速を求めるので、死角領域を減少させない場合(従来の適正車速)よりも高い適正車速(より適切な適正車速)を決定することができる。この適正車速に基づく減速制御により、運転者の運転感覚に合った走行が可能となる。また、この移動余裕幅に基づく操舵制御により、死角領域を減少でき(運転者が直視できる領域を広げることができ)、安全性を向上できる。
【0053】
さらに、走行支援装置1によれば、周辺環境情報に応じて適正車速を補正することにより、より適正な適正車速を決定することができる。この適正車速に基づく減速制御により、より安全性を向上させることができるとともに運転者の運転感覚に合った走行が可能となる。
【0054】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0055】
例えば、本実施の形態では適正車速や移動余裕幅を算出し、適正車速に基づく減速制御や移動余裕幅に基づく操舵制御を行う走行支援装置に適用したが、単に適正車速や移動余裕幅を算出するだけの装置としてもよいし、あるいは、適正車速や移動余裕幅を算出し、適正車速や移動余裕幅を運転者に対して情報提供するような装置でもよい。このような情報提供を行う場合、運転者の操作によって、減速や横方向への移動を行う。
【0056】
また、本実施の形態では駐車中の他車両で死角できる場合を例に挙げて説明したが、走行中の他車両で死角ができる場合、車両以外の路側分や道路上での工事等で死角ができる場合、見通しの悪い交差点で死角ができる場合のように死角ができる様々な状況に適用できる。
【0057】
また、本実施の形態では自車両の車速に影響を与える周辺環境情報に応じて適正車速を補正する構成としたが、このような補正がなくてもよい。
【0058】
また、本実施の形態では死角領域を減少させるための走行領域として移動余裕幅を求める構成としたが、2次元位置等の他のパラメータによる死角領域を減少させるための走行領域としてもよい。
【0059】
また、本実施の形態では自車両が移動余裕幅分横方向に移動した場合の適正車速(Vp’)を式(1)によって求める方法を示したが、自車両が移動余裕幅分横方向に移動した場合の適正車速(Vp’)を求める方法としては他の方法としてもよい。
【0060】
また、本実施の形態では周辺環境情報について各Gainを設定し、統合したGainを用いて適正車速(Vp’’)を求める方法を示したが、周辺環境情報を基づいて適正車速(Vp’’)を補正する方法としては他の方法としてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…走行支援装置、10…障害物検出装置、11…周辺環境認識装置、12…自車両移動量検出装置、13…車速検出装置、20…スロットルアクチュエータ、21…ブレーキアクチュエータ、22…操舵アクチュエータ、30…ECU、31…適正車速決定部、32…加減速制御部、33…操舵制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される走行支援装置であって、
車両前方の死角領域を検出する死角領域検出手段と、
前記死角領域検出手段で検出した死角領域を減少する走行領域を検出する走行領域検出手段と、
前記走行領域検出手段で検出した走行領域での適正車速を設定する適正車速設定手段
を備えることを特徴とする走行支援装置。
【請求項2】
前記走行領域検出手段は、周辺車両の状態に応じて死角領域を減少する走行領域を検出することを特徴とする請求項1に記載する走行支援装置。
【請求項3】
前記適正車速設定手段は、周辺環境に応じて適正車速を変更することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載する走行支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−108016(P2011−108016A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262838(P2009−262838)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】