説明

超電導モータの制御システム

【課題】超電導モータが適用される自動車等の装置において、偏流による不要な交流損失の発生を防止して、超電導モータの効率を高めることができる、超電導モータの制御システムを提供する。
【解決手段】超電導モータ1の制御システムSであって、上記超電導モータは、複数の巻線が並列接続されて巻き回されたコイル、または並列接続された複数のコイルを備えるとともに、上記超電導モータの空転を検出する空転検出手段S1,S2,S3,S5と、上記空転検出手段の出力に応じて上記超電導モータ1を駆動する電流値を制御できる制御手段4とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、超電導モータの制御システムに関する。詳しくは、複数の巻線が並列接続されて巻き回されたコイル、または並列接続された複数のコイルを備える超電導モータにおいて、交流損失を低減させて効率を高めることのできる、超電導モータの制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルを備える超電導モータは、コイルの電気抵抗が極めて小さいため、エネルギ効率が高く、また、大きな電流を流して大きなトルクを得ることができる。また、従来の銅線に比べてコイルの断面積を小さくすることが可能となるため、モータの小型化を図ることができる。このため、自動車駆動用のモータのみならず、産業機械用の動力源として種々の用途が開拓されている。
【0003】
上記超電導コイルにおいて超電導状態を実現するには、コイルの温度を少なくとも超電導臨界温度以下に冷却する必要がある。上記超電導コイルを冷却して超電導状態が実現できた場合であっても、コイルに交流電流を流した場合には、変動磁場に起因する交流損失は生じる。上記交流損失は、モータの効率を低下させ、さらに、コイルの温度を上昇させて、コイルの超電導状態を阻害する恐れもある。上記交流損失を低減させるため、種々の手法が提案されている。
【0004】
また、超電導コイルを使用する場合の問題として、並列接続された複数の巻線を巻き回してコイルを構成した場合、これら巻線に均一に電流が流れない偏流現象が生じやすい。特に、超電導コイルでは大電流を流す場合が多く、偏流が大きくなってコイルの温度が局部的に上昇し、大きな損失につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−180552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
交流損失は、磁束変化によるヒステリシス損失と線材内部フィラメント間の金属部分に流れる誘導電流による損失(結合損失)とを加えたものである。しかも、上記ヒステリシス損失の割合が大きく、このヒステリシス損失は、ほぼ磁束密度の二乗に比例して生じるものであり、上記磁束密度はコイルに流れる電流値に比例する。したがって、電流値の増大そのものが大きな交流損失につながる。
【0007】
また、複数の巻線が並列接続されて巻き回されたコイル、または並列接続された複数のコイルを備える超電導モータでは、各巻線あるいは各コイルの有するインダクタンスの違いにより、各並列巻線間あるいは各並列コイル間で、流れる電流値が大きく偏る偏流の発生が知られている。無負荷の空転状態でモータを駆動すると、逆起電圧が生じて電流はあまり流れず、消費電力も大きくない。しかし、無負荷状態では並列巻線間あるいは並列コイル間に偏流が生じ、この電流によって交流損失が増大し、超電導モータとしての効率を低下させる。例えば、自動車駆動用モータにおいては、無負荷に相当する空転時に上記損失が生じる問題があった。
【0008】
また、自動車においては、車輪をモータによって所望の回転数で駆動した場合においても、地面の状況等によって駆動輪から地面に伝達される駆動力が変化する。たとえば、凍結路面において発進する場合車輪にスリップが生じるが、スリップが生じている車輪から路面に駆動力はほとんど伝達されていない。すなわち、車輪にスリップが生じると無負荷の状態で車輪が空転する。このため、自動車の駆動源に、複数の巻線が並列接続されて巻き回されたコイル、または並列接続された複数のコイルを備える超電導モータを採用した場合、車輪のスリップが生じるとコイルに駆動力とならない偏った電流が流れることになる。したがって、モータの効率を大きく低下させるばかりでなく、電池に蓄えたエネルギを不必要に消耗させることになる。
【0009】
本願発明は、超電導モータが適用される自動車等の装置において、偏流による不要な交流損失の発生を防止して、超電導モータの効率を高めることができる、超電導モータの制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に記載した発明は、超電導モータの制御システムであって、
上記超電導モータは、複数の巻線が並列接続されて巻き回されたコイル、または並列接続された複数のコイルを備えるとともに、上記超電導モータの空転を検出する空転検出手段と、上記空転検出手段の出力に応じて上記超電導モータを駆動する電流値を制御できる制御手段とを備えて構成される。
【0011】
本願発明は、超電導モータに駆動力にならない回転、すなわち、空転が生じるのを防止することにより、大きな偏流が生じることによる不要な交流損失を低減させるものである。上記偏流は、一つの鉄心(ティース部)に複数の巻線が並列接続されて巻き回されることにより構成されるコイルを備える場合、並列接続された上記各巻線間において生じる。また、複数の鉄心(ティース部)に設けられたコイルが並列接続された場合、すなわち、同相に設定されたコイル間においても生じる。
【0012】
本願発明では、超電導モータの空転を検出する空転検出手段を設ける。上記空転とは、本願発明に係る超電導モータが適用される機械装置等における所要の適正出力がなされず、高速でモータが回転している状態をいう。
【0013】
所定の駆動力を必要とする製造機械等において、ワークが存在しないにもかかわらず装置が作動させられる場合がある。たとえば、鍛造機械においてワークが存在しないにもかかわらず、ハンマーが作動させられている場合が考えられる。このような場合は、超電導モータが負荷なしに回転していることになり、不要な交流損失のみ増加することになる。
【0014】
また、電気自動車において、凍結路面でアクセルを踏み込み、車輪がスリップする場合も、駆動力が発生することはなく、モータが空転状態にあるといえる。この場合、ドライバーはアクセルを踏み込むことにより、モータに流れる電流値を高めて速度を増加させようとする一方、車輪がスリップ(空転)しているため無負荷の状態で回転することになり、不要な交流損失のみ増加する。このため、超電導モータの効率が大きく低下することになる。
【0015】
本願発明では、上記のような超電導モータの空転状態を検出する空転検出手段を設ける。そして、上記制御手段によって、空転の有無あるいは程度に応じて上記超電導モータに流れる電流値を制御する。具体的には、上記のような空転が生じた場合には、制御手段によって電流値を低下させ、あるいは電流を止める。特に、自動車の場合、上記制御装置を用いて、空転率(スリップ率)に応じて、超電導モータに流れる電流値を低下させて車輪の回転速度を低下させる。車輪の回転速度を低下させると、車輪と地面との摩擦力が増加し、空転現象が解消するとともに、不要な交流損失が低減することになる。
【0016】
上記空転検出手段は、超電導モータの適用される機械装置に応じて種々の手段を採用することができる。
【0017】
自動車に超電導モータを適用する場合、種々の手法を用いて空転を検出することができる。
【0018】
たとえば、車体速度を検出する車体速度検出センサと、駆動輪の回転速度検出センサを設けて、上記車体速度と車輪速度を検出し、これらの差から空転を検出することができる。
【0019】
また、請求項2に記載した発明のように、本願発明を自動車駆動用のモータに適用する場合、上記空転率検出手段を、駆動輪と従動輪とにそれぞれ設けた回転速度検出センサを備えて構成し、駆動輪と従動輪の回転速度の差から空転を求めることができる。
【0020】
さらに、請求項3に記載した発明のように、上記空転検出手段を、駆動輪に設けた回転速度検出センサと、上記駆動輪に作用するトルクを検出するトルク検出センサとを備えて構成することができる。
【0021】
たとえば、車輪が所定の回転数で回転しているにも係わらず、発生するトルクが小さい場合あるいはトルクが生じていない場合には、スリップ等が生じて車輪が空転していると判断できる。
【0022】
請求項4に記載した発明は、上記空転検出手段を、上記超電導モータを駆動する駆動電力供給手段(インバータ等)の電流変化と電圧変化の位相差を検出する位相差検出装置を備えて構成したものである。
【0023】
機械装置から超電導モータに負荷が作用している場合、駆動電力供給手段であるインバータ出力としての電流と電圧に位相差が生じる。一方、位相差が生じていない場合、負荷が作用していない状態で超電導モータが駆動されていることになり、空転が発生していることになる。
【0024】
上記位相差を検出し、位相差がない場合あるいは所定の値より小さい場合に、超電導モータに流す電流値を小さくしあるいは電流を止めることにより、交流損失を低減させることができる。
【0025】
産業機械において、たとえば鍛造ラインにおいて、ワークが存在しないのにハンマーが作動していると、超電導モータが空転していることになり、必要以上の電流が流れて不要な交流損失が増加し、コイルの温度が所定温度以上に高まる。このような場合に、ワークの有無を検出して、超電導モータに流れる電流値を低下させ、あるいは電流を流すのを停止することにより、交流損失を大幅に低減させることができる。
【0026】
請求項5に記載した発明は、上記制御手段が、上記空転検出手段からの出力に基づいて、上記冷却手段の出力を制御するように構成したものである。
【0027】
上述したように、空転が生じて不要な交流損失が増大するとコイルの発熱量も大きくなり、コイルの超電導状態を阻害する恐れもある。特に、超電導モータが空転している状態は、大きな交流損失が生じており、コイルの発熱量も大きい。
【0028】
本願発明では、空転検出手段の出力から発熱量を予測演算し、上記冷却手段の出力を制御する。すなわち、空転を検出することにより、装置の異常発熱を早期に検出することが可能となる。上記発熱を検出して、上記冷却手段の出力を制御することにより、コイルの異常な温度上昇を未然に防止することも可能となる。
【0029】
なお、上記制御手段は、コイルあるいは冷媒の温度を検出する温度検出手段の出力を加味して、上記冷却手段の出力を制御するように構成することもできる。また、他の空転検出手段からの出力と合わせて上記冷却手段を制御し、コイルの温度上昇を防止することもできる。
【発明の効果】
【0030】
超電導モータにおける不要な交流損失の発生を防止して、モータの効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本願発明に係る超電導モータ制御システムの第1の実施形態に係るブロック図である。
【図2】本願発明の超電導モータ制御システムを電気自動車に適用した場合のブロック図である。
【図3】図2に示す制御システムで行われる制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本願発明の実施形態を図に基づいて具体的に説明する。図1に本願発明に係る超電導モータ駆動システムを一般機械に適用した場合のブロック図の一例を示す。
【0033】
図1に示すように、本実施形態に係る超電導モータの制御システム100は、超電導モータ1と、この超電導モータ1によって駆動させられる機械装置(負荷)2と、上記超電導モータ1に所定の電流を流すモータ駆動電力供給手段3と、このモータ駆動電力供給手段3を制御する制御手段4と、上記超電導モータ1を冷却するための冷却手段5とを備える。
【0034】
上記超電導モータ1として、交流電流によって駆動される種々の形態のものを採用することができる。たとえば、同期モータ等を採用できる。
【0035】
上記超電導モータ1を構成する超電導コイルとして、種々の超電導材料から形成されたものを採用できる。たとえば、Bi(ビスマス)系や、Y(イットリウム)系の酸化物超電導材料から形成されたコイルを備える超電導モータを採用することができる。
【0036】
上記コイルの構成も特に限定されることはなく、たとえば、並列接続された複数の巻線を巻き回して構成されたコイルを備える超電導モータを採用することができる。また、複数の鉄心(ティース部)に設けられたコイルが並列接続されて構成される超電導モータを採用することができる。
【0037】
上記超電導モータ1には、空転検出手段を構成するセンサS1が設けられる。上記超電導モータ1に設けられるセンサS1として、超電導モータの回転数を検出する回転速度センサを採用できる。
【0038】
本願発明に係る上記機械装置2は、特に限定されることはない。たとえば、工作機械等の産業機械の駆動機構、電気自動車の駆動機構等を採用できる。
【0039】
上記機械装置2にも、空転検出手段を構成するセンサS2を設けることができる。センサS2として、負荷を検出するトルクセンサや、回転速度センサを採用することができる。
【0040】
上記モータ駆動電力供給手段3は、図示しない電源から供給される電力をモータ駆動用の電力に変換するものであり、たとえば、電池等の直流電源を利用する場合には、インバータが用いられる。インバータは、電池を備えて構成される直流電源から超電導モータを駆動する交流電流を発生させるものであり、種々の構成のものを採用できる。
【0041】
上記モータ駆動電力供給手段3にも空転検出手段を構成する検出装置S3を設けることができる。たとえば、上記モータ駆動電力供給手段3としてインバータを採用する場合、インバータの出力側に、超電導モータ1に作用させる電圧と電流の位相差を検出する位相差検出装置を設けることができる。機械装置2から超電導モータ1に負荷が作用している場合、上記インバータの出力としての電流と電圧に位相差が生じる。一方、位相差が生じていない場合は、負荷が作用していない状態で超電導モータが駆動されていることになる。したがって、上記位相差を検出する検出装置S3を設けることにより超電導モータ1の空転を検出することができる。
【0042】
上記制御手段4は、上記モータ駆動電力供給手段3の出力を制御するためのものであり、上記モータ駆動電力供給手段3から超電導モータ1に供給される電圧値、電流値、周波数等を制御して、超電導モータ1の回転数や出力トルクを必要に応じて制御する。上記制御手段4として、マイクロコンピュータを含む半導体制御回路を採用することができる。上記制御手段4を用いて超電導モータ1の空転を防止して最適な運転状態となるように制御が行われる。
【0043】
上記冷却手段5は、上記超電導モータ1のコイルを超電導状態に保持するためのものであり、例えば、冷媒としての液体窒素と、上記冷媒を冷却する冷凍機等を備えて構成される。上記冷却手段には、冷媒の温度センサS4が設けられ、冷媒温度を監視するのが好ましい。
【0044】
本願発明では、上記超電導モータ1の空転を検出するための空転検出関連装置6を採用することができる。たとえば、工作機械等では、超伝導モータを採用した加工工程の前工程に係る機械装置を空転検出関連装置6として採用できる。上記機械装置で行われる工程の前工程を行う機械装置を空転検出関連装置6として採用し、この空転検出関連装置6においてワークの有無を検出するセンサS5を空転検出手段として採用できる。ワークが前工程において存在しないことを検出することにより、上記超電導モータ1の空転が生じることを前もって検出することができる。
【0045】
上記操作手段7は、超電導モータ1を始動する場合や、モータ出力を変更する場合等に用いられる。たとえば、自動車に適用する場合には、アクセルペダルがこれにあたる。
【0046】
本実施形態では、従来のモータ制御に加えて上記超電導モータ1の空転を検出して、主として電流値を制御するように構成される。なお、上記センサあるいは検出装置S1〜S5は、適用される機械装置に応じて種々のものを採用することができる。また、上記センサS1〜S3あるいは検出装置S5は、単独であるいは複数を組み合わせることによって上記空転検出手段を構成することができる。
【0047】
上記空転検出手段は、上記機械装置2から生じる所定の出力に対して、上記超伝導モータから適正な出力が発生しているか否かを検出するものである。工作機械等では、空転の有無のみ検出して、空転が生じた場合に電流を流さないように制御することができる。また、電気自動車等では、超電導モータの回転出力に対して空転の有無を検出し、上記超電導モータに流れる電流値を増減させるのが好ましい。
【0048】
図2に本願発明に係る超電導モータの制御システムを電気自動車に適用した場合のブロック図を示す。
【0049】
電気自動車における制御システム200は、超電導モータ1と、この超電導モータ1によって駆動される駆動輪2と、上記超電導モータ1に駆動電力を供給するモータ駆動電力供給手段3と、このモータ駆動電力供給手段3に電力を供給する二次電池8と、上記超電導モータ1を冷却するための冷却手段としての冷凍機5と、上記二次電池を電源として上記冷凍機5に駆動電力を供給する冷凍機駆動電力供給手段9とを備える。上記モータ駆動電力供給手段3としてインバータが採用される。
【0050】
本実施形態では、空転を検出するための空転検出手段として、駆動輪の回転速度検出センサS2と、上記モータ駆動電力供給手段3を構成するインバータの出力側電流と電圧の位相差を検出するA/V位相差検出装置S3と、従動輪の回転速度検出センサS5が用いられる。
【0051】
従動輪は車体の速度に応じて回転させられるため、上記従動輪の回転速度検出センサS5によって、車体の走行速度を検出することができる。したがって、駆動輪2の回転速度検出センサS2と、従動輪6の回転速度検出センサS5の出力から得られる回転速度の比較値を求めることにより、空転の有無及び程度を検出することができる。
【0052】
さらに、電気自動車では、入力手段7としてのアクセルペダル7から入力される情報を超電導モータの制御に反映させるのが望ましい。すなわち、自動車では、ドライバーが路面状況等に応じてスピードを変更しようとする。一方、スリップが生じている状態では、モータの回転数を増加させても駆動力とはならず、交流損失が増大するのみである。このような場合、ドライバーの入力情報(アクセルペダルによる加速指示)に反して、超電導モータに流れる電流値を低下させて、車輪の回転速度を低下させるように制御を行うのが好ましい。
【0053】
上記制御手段4は、上記各センサからの情報に基づいて、上記モータ駆動電力供給手段3及び上記冷凍機駆動電力供給手段9を制御し、超電導モータ1及び冷凍機5の出力等を制御する。
【0054】
以下、図3に基づいて、上記図2に示す電気自動車における超電導モータの制御システム200における制御手順を説明する。
【0055】
イグニッションスイッチをONにすると(IG ON)、まず冷凍機5が始動させられる(S101)。そして、コイル温度センサS1によって、超電導モータ1のコイル温度が測定され(S102)、コイルが超電導臨界温度以下であるかどうかが判断される(S103)。コイル温度が超電導臨界温度より高い場合には(S103でNO)、上記制御手段4によって冷凍機5の出力が増加させられて(S104)、コイルが超電導臨界温度以下になるまで冷却される。
【0056】
コイル温度が超電導臨界温度以下である場合(S103でYES)、上記アクセルペダル7等からの出力指令によって(S105)、モータ駆動電流が出力される(S106)。超電導モータ1が始動した後、上述した空転検出手段を構成する各種センサS1,S2,S3,S5の出力が検出される(S107)。
【0057】
上記各センサ出力に基づいて空転の有無が演算される(S108)。たとえば、電気自動車においては、駆動輪の回転速度センサS2と従動輪の回転速度センサS5とによって空転検出手段を構成し、これらセンサの出力から空転率(スリップ率)を演算して求めることができる(S108)。
【0058】
次に、上記空転の有無によって、超電導モータ1に供給される電流値を変更するか否かが判断される(S109)。上記判断を行うために、たとえば、上記制御手段4に、所定の負荷が作用した場合の適正な回転数差を記憶させておき、演算された回転数差を上記適正な回転数差と比較して、超電導モータに流れる電流値を変更するか否かの判断を行うように構成できる。
【0059】
電流値を変更する必要があると判断された場合(S109でYES)、上記制御手段4は、上記モータ駆動電力供給手段3から発生させる電流値を増減させて超電導モータ1の駆動電流を増減する。求められた回転数差が適正値より大きい場合は、超伝導モータ1に流す電流値が低減させられ、あるいは電力の供給が停止される。これにより、不必要な交流損失がなくなり、超電導モータ1の効率が向上する。また、電気自動車においては、二次電池8の無用な消耗を防止できる。
【0060】
一方、電流値を変更する必要がないと判断された場合(S109でNO)、再度各種センサ出力が検出されて、空転の有無が求められ、駆動電流の変更の要否が判断され、駆動電流が変更される。上記制御工程のループは、超電導モータ1の駆動が停止されるか否かを判断し(S111)、装置の駆動が停止されない限り(S111でNO)所定の時間間隔で行うのが好ましい。(S102〜S110)。
【0061】
本実施形態では、上記超電導モータ1の電流値を増減する制御の他に、上記超電導モータ1を冷却する冷凍機5の制御を行うように構成している。
【0062】
すなわち、上記空転有無の演算(S108)と、コイルに印加される電流、電圧、モータ回転数によって、交流損失の値を求め、コイルの発熱量が予測される(S121)。
【0063】
上記発熱量が適正値の範囲からずれて、冷凍機5の出力を変更する必要があると判断された場合(S122でYES)には、冷凍機5の出力が変更される(S123)。たとえば、求められた発熱量が上記適正範囲より大きくなる場合には、冷凍機5の出力を増加するように制御が行われる。これにより、コイルの異常な温度上昇が防止される。すなわち、コイルの異常発熱を早期に検出しあるいは予測することが可能となり、無用な交流損失の増加を未然に防止することが可能となる。
【0064】
一方、冷凍機5の出力を変更する必要がないと判断された場合(S122でNO)、上述したモータの駆動電流の制御と同様に、再度各種センサ出力が検出されて(S107)、空転の有無が演算され(S108)、発熱量が予測演算され(S121)、冷凍機5の出力変更の要否が判断され(S122)、必要に応じて冷却装置出力が変更される(S123)。上記制御工程のループも、所定の時間間隔で行うのが好ましい。
【0065】
なお、本実施形態では、超電導モータ1のコイルの温度を温度センサで直接測定するように構成したが、冷凍機の冷媒の温度を測定するように構成することもできる。
【0066】
また、空転検出手段として、駆動輪2の回転速度センサS2と従動輪6の回転速度センサS5とを採用したが、従動輪の回転速度センサの代わりに駆動輪のトルクセンサを設け、駆動輪2が回転しているにもかかわらず、トルクが生じていない場合に空転が生じていると判断するように構成することもできる。
【0067】
本願発明の範囲は、上述の実施形態に限定されることはない。今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものでないと考えられるべきである。本願発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
超電導モータにおける不要な交流損失を低減させ、効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0069】
100 制御システム
1 超電導モータ
2 機械装置
S1 空転検出手段(コイル温度検出センサ)
S2 空転検出手段(駆動輪回転速度検出センサ)
S3 空転検出手段(電力/電圧位相差検出装置)
S5 空転検出手段(従動輪回転速度検出センサ)
4 制御手段
5 冷却手段(冷凍機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導モータの制御システムであって、
上記超電導モータは、複数の巻線が並列接続されて巻き回されたコイル、または並列接続された複数のコイルを備えるとともに、
上記超電導モータの空転を検出する空転検出手段と、
上記空転検出手段の出力に応じて上記超電導モータを駆動する電流値を制御できる制御手段とを備える、超電導モータの制御システム。
【請求項2】
上記超電導モータが、自動車駆動用モータであって、
上記空転検出手段が、駆動輪と従動輪とにそれぞれ設けた回転速度検出センサを備えて構成される、請求項1に記載の超電導モータの制御システム。
【請求項3】
上記超電導モータが、自動車駆動用モータであって、
上記空転検出手段が、駆動輪に設けた回転速度検出センサと、上記駆動輪に作用するトルクを検出するトルク検出センサを備えて構成されている、請求項1に記載の超電導モータの制御システム。
【請求項4】
上記空転検出手段は、上記超電導モータを駆動する駆動電力供給手段の電流変化と電圧変化の位相差を検出する位相差検出装置を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超電導モータの制御システム。
【請求項5】
冷媒を循環させて上記コイルを冷却する冷却手段を備えるとともに、
上記制御手段は、上記空転検出手段からの出力に基づいて、上記冷却手段の出力を制御する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超電導モータの制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−217480(P2011−217480A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81967(P2010−81967)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】