説明

超音波発振器及び超音波洗浄装置

【課題】従来の超音波発振器に比べて部品数が低減され、それによって小型化され、またコストが安価となった超音波発振器及びそれを備えた超音波振動装置を提供する。
【解決手段】超音波振動子に高周波電力を出力する超音波発振器であって、少なくとも、高周波信号を発振する主発振ユニットと、該主発振ユニットの発振する高周波信号を入力し、高周波電力として出力する出力ユニットと、該高周波電力を変圧する出力トランスと、該変圧した高周波電力の周波数を調整して超音波振動子に出力するマッチング調整回路と、交流電源から入力した電力を直流として前記出力ユニットに供給する電源ユニットとを具備し、前記出力トランスとマッチング調整回路が一体となっているものであることを特徴とする超音波発振器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、液晶ガラス基板、磁気ディスク等の精密基板(以下被洗浄物とも記載)を洗浄するための超音波洗浄装置の超音波発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体基板、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の精密基板の洗浄には、超音波洗浄装置が用いられている。この超音波洗浄装置とは、超音波発振器で発生させた高周波電流を、超音波振動子より超音波振動として洗浄液に与えて、被洗浄物を洗浄するものである。
【0003】
このような超音波洗浄装置には、洗浄槽の底部に超音波振動子を設置し、超音波発振器で発生した高周波電流を、超音波振動子により超音波振動として洗浄液に与えて、洗浄液中に浸漬した被洗浄物を洗浄するものと、ノズルに超音波振動子を接着し、超音波発振器で発生した高周波電流を、超音波振動子により超音波振動としてノズル内に供給した洗浄液に与えて、被洗浄物へ洗浄液を噴射して洗浄するものがある。
【0004】
超音波洗浄装置に設けられた超音波発振器30の内部構成は、図3に示すように、主発振ユニット31、出力ユニット32、出力トランス33、電源ユニット35及びマッチング調整回路34に分けられる。
このうち電源ユニット35は、商用電源AC100Vまたは200Vが入力され、必要な電圧に変換した後、直流電圧に変換し、各部に電圧を供給するものである。
そして、主発振ユニット31では、超音波振動子12を駆動するための中心周波数が主発振部31aによって作り出され、ドライバー回路31bを通して出力ユニット32に供給される。そして出力ユニット32ではスイッチング回路によって電力増幅され、出力トランス33を介して補正回路34より出力として取り出される。そしてこの出力を、出力ケーブル36にて負荷である超音波振動子12に伝達し、超音波振動子を駆動するものである。
【0005】
この出力トランスの二次側に挿入する補正回路は、超音波振動子を最も効率よく振動させるために必要な回路で、マッチング調整回路(補正コイルとも記載)とも呼ばれている。
そしてこの補正回路は、超音波振動子がボルト締めランジュバン型振動子のような容量性の時には、誘導性のコイルを直列に挿入して直列共振させてマッチングを取ることが一般的である。
従って、従来は出力を決めるための出力トランスと周波数の位相を合わせるための補正コイルを単独で各々用意して超音波発振器の内部に取り付けていた(例えば特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−248050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の超音波発振器に比べて部品数が低減され、それによって小型化され、またコストが安価となった超音波発振器及びそれを備えた超音波振動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、超音波振動子に高周波電力を出力する超音波発振器であって、少なくとも、高周波信号を発振する主発振ユニットと、該主発振ユニットの発振する高周波信号を入力し、高周波電力として出力する出力ユニットと、該高周波電力を変圧する出力トランスと、該変圧した高周波電力の周波数を調整して超音波振動子に出力するマッチング調整回路と、交流電源から入力した電力を直流として前記出力ユニットに供給する電源ユニットとを具備し、前記出力トランスとマッチング調整回路が一体となっているものであることを特徴とする超音波発振器を提供する。
【0009】
このように、超音波発振器において、出力トランスとマッチング調整回路(補正コイル)が一体となっていることによって、従来別途に取り付けていたマッチング調整回路を別途組み込む必要がなくなり、従来の超音波発振器に比べて部品数を少なくすることができる。このため、従来に比べて小型化され、また安価な超音波発振器とすることができる。
【0010】
ここで、前記出力トランスは、前記高周波電力を出力する二次側のリーケージインダクタンスが前記マッチング調整回路のインダクタンスと等しくなるように調整されたことによって前記マッチング調整回路が一体となっているものであることが好ましい。
このように、高周波電力を出力する二次側のリーケージインダクタンスがマッチング調整回路のインダクタンスと等しくなるように調整された出力トランスであれば、より容易に出力トランスとマッチング調整回路が一体となっているものとなり、より容易かつ簡易に小型化され、また安価な超音波発振器とすることができる。
【0011】
また、本発明では、超音波洗浄装置であって、少なくとも、被洗浄物を洗浄するための洗浄液に超音波振動を与える超音波振動子と、該超音波振動子を振動させるための超音波発振器とを具備し、前記超音波発振器として、本発明に係る超音波発振器を具備するものであることを特徴とする超音波洗浄装置を提供する。
【0012】
上述のように、本発明の超音波発振器は、従来の超音波発振器に比べて部品数が少なく、小型化され、また安価なものである。よってこのような本発明の超音波発振器を備えた超音波洗浄装置も、従来に比べて小型化され、また安価なものである。
【0013】
ここで、前記超音波振動子として、ボルト締めランジュバン型振動子が用いられたものであることが好ましい。
このように、超音波振動子として、ボルト締めランジュバン型振動子が用いられたものであることによって、容量性を有する超音波振動子として一般的であるため、より安価な超音波洗浄装置とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、従来の超音波発振器に比べて部品数が低減され、それによって小型化され、またコストが安価となった超音波発振器及びそれを備えた超音波振動装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る超音波洗浄装置の一実施形態の概略を示す図である。
【図2】本発明に係る超音波発振器と超音波振動子との接続の一部の概略を示すブロック図である。
【図3】一般的な従来の超音波発振器と超音波振動子との接続の一部の概略を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、従来の超音波発振器に対して部品数が低減され、それによって小型化及びコストが安価となった超音波発振器及びそれを備えた超音波振動装置の開発が待たれていた。
【0017】
従来、出力トランスの一次側には出力トランジスターがあり、矩形波によるスイッチング電力増幅をしている。また出力トランスの二次側には、タップが設けられており、必要な出力値になるようにタップを選定している。
ところで、出力トランスの二次側に挿入される補正用コイル(マッチング調整回路)と超音波振動子は、通常直列に接続されるため、これらで構成される回路は直列共振回路となる。
ここで、直列共振回路における共振条件は
f=1/(2π(LC)1/2
となる(fは振動子を駆動させるための発振周波数、Cは超音波振動子のキャパシタンス)。
【0018】
そして、本発明者らは、このL(インダクタンス値)を出力トランス二次側に作ってやれば、出力トランス兼補正コイル(マッチング調整回路)とすることができ、補正コイル(マッチング調整回路)を挿入することなく共振させることができ、よって超音波振動子を駆動できるのでは、と考えた。
【0019】
従来型の出力トランスは、一次側(入力側)と二次側(出力側)の結合度を良くするために結合係数を上げて作製していた。つまり一次側の矩形波形を崩さないで二次側に伝達させていた。
そして出力トランスの二次側に補正コイル(マッチング調整回路)を直列に入れ、直列共振することによって振動子両端の波形を正弦波としていた。
【0020】
これに対し、例えば出力トランスの一次側と二次側の結合係数を下げて巻き線する(一次巻き線と二次巻き線を疎に巻く)ことによって二次側に正弦波が現れるようにし、更に一次側と二次側の巻き線比率を保ちながら二次側のリーケージインダクタンスLを必要とされる補正コイル(マッチング調整回路)のインダクタンスと等しくすることによって出力トランス兼補正コイルが得られ、従来のように単独で補正コイル(マッチング調整回路)を用いることなく超音波発振器を作製できるのでは、と発想した。
そしてこの発想を基に本発明を完成させた。
【0021】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。先ず、図1は、本発明に係る超音波発振器を備える超音波洗浄装置の一実施形態の概略図である。
この超音波洗浄装置10には、被洗浄物を洗浄するための洗浄液15が洗浄槽14に満たされている。そして、洗浄槽14の底面には超音波振動を洗浄液に与えるための超音波振動子12が設置されており、更に超音波振動子12を振動させるための超音波発振器13を有しているものである。
【0022】
そして、図2に示すように、本発明の超音波発振器13は、少なくとも、高周波信号を発振するための主発振ユニット21と、その主発振ユニット21の発振する高周波信号を入力して、高周波電力として出力するための出力ユニット22と、出力トランス23aとマッチング調整回路23bと、交流電源から入力した電力を直流として出力ユニット22等に供給するための電源ユニット25とを具備するものである。
そして、出力ユニット22からの高周波電力を変圧するための出力トランス23aと、該変圧した高周波電力の周波数を調整して超音波振動子12に出力するためのマッチング調整回路23bとが一体となっている出力トランス兼マッチング調整回路23を有するものである。
【0023】
なお、本発明の超音波洗浄装置は、図1に示すような洗浄槽タイプに限られない。
例えば、ノズルに超音波振動子を接着し、超音波発振器で発生した高周波電流を、超音波振動子により超音波振動としてノズル内に供給した洗浄液に与えて、被洗浄物へ洗浄液を噴射して洗浄するノズルタイプの超音波洗浄装置であってもかまわない。
【0024】
このように、本発明の超音波発振器やそれを備える超音波洗浄装置は、出力トランスとマッチング調整回路(補正コイル)が一体型となっているため、従来のように出力トランスと補正コイル(マッチング調整回路)の2個分のスペースは必要でなく、そのため装置を構成する材料も少なくでき、また経済的で、更に小型化されるという利点を有するものである。
【0025】
ここで、超音波発振器13と超音波振動子12の接続については、従来と同様のものを用いることができる。
例えば図2のブロック図に示すように、超音波振動子12を駆動するための中心周波数を主発振ユニット21の主発振部21aによって作り出し、ドライバー回路21bを通して出力ユニット22に供給する。そして出力ユニット22で電力増幅し、出力トランス兼補正コイル(マッチング調整回路)23より出力として取り出す。そしてさらに出力ケーブル26から超音波振動子12へと流れるようなものとすることができる。
【0026】
ここで、出力トランス23aは、高周波電力を出力する二次側のリーケージインダクタンスがマッチング調整回路23bのインダクタンスと等しくなるように調整されたものであり、これによってマッチング調整回路23bと一体となっているものとすることができる。
このように、高周波電力を出力する出力トランスの二次側のリーケージインダクタンスがマッチング調整回路のインダクタンスと等しくなるように調整されたことによって、より容易かつ簡易に出力トランスとマッチング調整回路が一体となっているものとなり、より容易に小型化され、また安価となった超音波発振器やそれを備えた超音波洗浄装置が得られる。
【0027】
ここで、出力トランス23aの二次側のリーケージインダクタンスを補正コイル(マッチング調整回路)と等しくするための具体的な方法としては、出力トランス23aの一次側と二次側の結合係数を下げて巻き線し、また一次巻き線と二次巻き線を疎結合に巻く方法がある。
より具体的には、出力トランスのコアーのギャップを広げることや、一次巻き線と二次巻き線の巻き枠を離すことによって疎にすることができる。なお、コアーのギャップを広げると実効透磁率が変化するため、その点に留意する。
【0028】
なお、上記の超音波振動子として、ボルト締めランジュバン型振動子が用いられたものとすることができる。
ボルト締めランジュバン型振動子は、超音波振動子として一般的であるため、より安価な超音波洗浄装置とすることができる。また、本発明の超音波発振器はボルト締めランジュバン型振動子のような容量性を示す場合により好適なものであるため、好適に用いられる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
振動周波数40kHz用のボルト締めランジュバン型振動子15本を準備した。そしてこれを電気的に並列に接続したところ、キャパシタンスCoは38.6nFとなった。
そして、この超音波振動子を発振させるためには、計算によると共振条件f=1/(2π(LC)1/2)よりインダクタンスLは0.41mHとなる。
つまり、出力トランス二次側の後ろにインダクタンスが0.41mH前後のコイルを超音波振動子と直列に挿入することによって直列共振回路が形成され、超音波が発生することになる。
【0030】
そこで、出力トランス一次側のインダクタンスを575μH、磁束密度を42Tとし、また出力トランス二次側のインダクタンスを1.14mH、磁束密度を59Tとして、二次側のリーケージインダクタンスLgを440μHとなるように、トランスの設計・製作を行った。この時の1次側と2次側の結合係数kは、Lg=(1−k)×L2の関係より、結合係数k=0.61とした(L2:二次側インダクタンス)。
【0031】
そしてこのように作製した出力トランスを備えた超音波発振器を用いて実際に高周波電流を印加して先の15本並列の超音波振動子を駆動させたところ、動作周波数f=40.4kHz、出力電流値IDC=3.3A、出力P=800Wで超音波振動子を駆動することができた。
【0032】
(比較例)
実施例と同じボルト締めランジュバン型振動子15本を電気的に並列に接続したものを準備し、出力トランス二次側の後ろにインダクタンス0.47mHの補正コイル(マッチング調整回路)を超音波振動子に対して直列に挿入した。
【0033】
この場合、出力トランス一次側インダクタンスは2.5mH、磁束密度を19T、出力トランス二次側インダクタンスは2.0mH、磁束密度を17T、二次側のリーケージインダクタンスLgは18μHとなるように、トランスの設計・製作を行った。この時の1次側と2次側の結合係数kは、Lg=(1−k)×L2の関係より、結合係数k=0.991となった。
【0034】
そしてこのように作製した出力トランスを備えた超音波発振器を用いて実際に高周波電流を印加して先の15本並列の超音波振動子を駆動させたところ、動作周波数f=40.5kHz、出力電流値IDC=3.2A、出力P=800Wで超音波振動子を駆動することができた。
【0035】
このように、実施例,比較例ともにボルト締めランジュバン型振動子をほぼ同様の条件で駆動することができたが、比較例では補正コイル(マッチング調整回路)を挿入しているのに対し、実施例では補正コイル(マッチング調整回路)は挿入していない。
このように、出力トランス二次側のリーケージインダクタンスLgを補正コイル(マッチング調整回路)と一致させる(トランスの結合度は従来に比べ疎にする)等の対策を取ることによって、補正コイル(マッチング調整回路)を使用することなく超音波振動子を駆動でき、用いる部品数の低減とそれによる装置の小型化及び低価格化を図ることができることが判った。
【0036】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0037】
10…超音波洗浄装置、 12…超音波振動子、 13…超音波発振器、 14…洗浄槽、 15…洗浄液、
21,31…主発振ユニット、 21a,31a…主発振部、 21b,31b…ドライバー回路、 22,32…出力ユニット、 23…出力トランス兼マッチング調整回路、 23a…出力トランス、 23b…マッチング調整回路(補正コイル)、 25,35…電源ユニット、 26,36…出力ケーブル、
30…超音波発振器、 33…出力トランス、 34…マッチング調整回路(補正コイル)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子に高周波電力を出力する超音波発振器であって、
少なくとも、高周波信号を発振する主発振ユニットと、該主発振ユニットの発振する高周波信号を入力し、高周波電力として出力する出力ユニットと、該高周波電力を変圧する出力トランスと、該変圧した高周波電力の周波数を調整して超音波振動子に出力するマッチング調整回路と、交流電源から入力した電力を直流として前記出力ユニットに供給する電源ユニットとを具備し、
前記出力トランスとマッチング調整回路が一体となっているものであることを特徴とする超音波発振器。
【請求項2】
前記出力トランスは、前記高周波電力を出力する二次側のリーケージインダクタンスが前記マッチング調整回路のインダクタンスと等しくなるように調整されたことによって前記マッチング調整回路が一体となっているものであることを特徴とする請求項1に記載の超音波発振器。
【請求項3】
超音波洗浄装置であって、
少なくとも、被洗浄物を洗浄するための洗浄液に超音波振動を与える超音波振動子と、該超音波振動子を振動させるための超音波発振器とを具備し、
前記超音波発振器として、請求項1または請求項2に記載の超音波発振器を具備するものであることを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項4】
前記超音波振動子として、ボルト締めランジュバン型振動子が用いられたものであることを特徴とする請求項3に記載の超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−86135(P2012−86135A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234144(P2010−234144)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(504289738)株式会社ピーティーシーエンジニアリング (7)
【Fターム(参考)】