車両の制御装置
【課題】 エンジンとモータとを断接する締結要素の可動子の位置を制御しつつ、締結要素の摩耗等が発生したときでも制御の精度を維持し、エンジン始動の応答性を高めることができる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】 エンジンEと、モータ(モータジェネレータMG)と、エンジンEと上記モータとの間に介装され、可動子(ピストン35)の位置に応じて伝達トルク容量TCL1を変更可能な締結要素(第1クラッチCL1)と、伝達トルク容量TCL1の発生を開始する可動子(ピストン35)の位置である締結開始位置x2にスタンバイ位置を設定する待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)と、可動子(ピストン35)の位置をスタンバイ位置に制御する位置制御手段(第1クラッチ制御部430)と、伝達トルク容量TCL1と相関する変数(エンジン回転数Ne等)の変化に基づき、締結開始位置x2とスタンバイ位置とが一致するように、スタンバイ位置を補正する待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)と、を有することとした。
【解決手段】 エンジンEと、モータ(モータジェネレータMG)と、エンジンEと上記モータとの間に介装され、可動子(ピストン35)の位置に応じて伝達トルク容量TCL1を変更可能な締結要素(第1クラッチCL1)と、伝達トルク容量TCL1の発生を開始する可動子(ピストン35)の位置である締結開始位置x2にスタンバイ位置を設定する待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)と、可動子(ピストン35)の位置をスタンバイ位置に制御する位置制御手段(第1クラッチ制御部430)と、伝達トルク容量TCL1と相関する変数(エンジン回転数Ne等)の変化に基づき、締結開始位置x2とスタンバイ位置とが一致するように、スタンバイ位置を補正する待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)と、を有することとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源としてエンジンとモータを備えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動力源としてエンジンとモータを備えた車両の制御装置として特許文献1の技術(以下、従来例という)が開示されている。このハイブリッド車両は、エンジンとモータとを断接する入力クラッチと、モータと駆動輪との間に介装された自動変速機と、を備え、走行モードとして、モータのみを動力源として走行するモータ走行モードと、エンジンを動力源に含みながら走行するエンジン走行モードとを有し、走行状態に応じてこれらの走行モードを自動的に切り替えることで、燃費の向上を図っている。
【特許文献1】特開平11−82260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来例にあっては、入力クラッチの係合圧を制御し、モータ走行領域とエンジン走行領域との間に設定したスタンバイ制御領域において、入力クラッチの摩擦部材間の距離を予め詰めておくスタンバイ制御を行う。すなわち、エンジン走行モードに移行する直前、入力クラッチの伝達トルク容量を僅かに発生させつつ、入力クラッチをすぐに完全締結できるぎりぎりの位置に、入力クラッチ油圧サーボのシリンダ内ピストンを待機させておく。これにより、モータ走行モードからエンジン走行モードに切り替えるべく、モータによりエンジンを始動する際、入力クラッチの締結指令から実際に完全締結されるまでの時間を短くして、エンジン始動の応答性を高めている。
【0004】
しかし、この従来例では、ピストン(可動子)に作用する油圧を制御対象とすることで、クラッチの摩擦部材同士の押し付け力を制御するのみであり、ピストンの位置、および(ピストン位置により決定される)摩擦部材の位置を制御対象としない。このため、摩擦部材間の距離を微妙に制御することができない。例えば、伝達トルク容量をゼロとしつつ、伝達トルク容量が発生し始めるぎりぎりの締結開始位置にピストン(摩擦部材)を待機させることができない。
【0005】
よって、エンジンとモータとを断接するクラッチにつき、締結力ではなく、ピストンの位置、および(ピストン位置により決定される)摩擦部材の位置を制御対象とすることが考えられる(以下、比較例とする)。この比較例では、ピストンの位置を直接の制御対象とするため、所望の位置に摩擦部材を待機させることができ、エンジン始動時のクラッチの制御精度を従来例よりも向上できる。
【0006】
しかし、この比較例では、摩擦部材間の距離を実際に検知してピストンの位置を制御するわけではない。このため、摩擦部材が摩耗した等の場合には、目標の待機位置にピストンが位置するように制御指令を出しても、実現される摩擦部材間の距離がばらつくことがある。このばらつきが、エンジン始動時のクラッチ伝達トルクの精度に影響し、エンジン始動時間が不安定となる、という問題があった。
【0007】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、エンジンとモータとを断接するクラッチ(締結要素)の可動子(ピストン)の位置を制御しつつ、摩耗等が発生したときでも、クラッチ制御の精度を維持し、エンジン始動の応答性を高めることができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の車両の制御装置は、エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間に介装され、可動子(ピストン)の位置に応じて伝達トルク容量を変更可能な締結要素(クラッチ)と、前記伝達トルク容量の発生を開始する前記可動子の位置である締結開始位置に待機位置を設定する待機位置設定手段と、前記可動子の位置を前記待機位置に制御する位置制御手段と、前記伝達トルク容量と相関する変数の変化に基づき、前記締結開始位置と前記待機位置とが一致するように、前記待機位置を補正する待機位置補正手段と、を有することとした。
【発明の効果】
【0009】
よって、本発明の車両の制御装置にあっては、可動子(ピストン)の待機位置を補正する待機位置補正手段を有するため、摩耗等が発生したときでも待機位置を適正に制御して、クラッチ制御の精度およびエンジン始動の応答性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
(駆動系の構成)
まず、実施例1における車両の駆動系の構成を説明する。
図1は、実施例1の車両の制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。このハイブリッド車両の駆動系は、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有している。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0012】
エンジンEは、ガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブの開度等が制御される。なお、エンジン出力軸A1にはフライホイールFWが設けられている。
【0013】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装された締結要素であり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧(第1クラッチ圧)により、その締結および解放が制御される。
【0014】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、ダンパを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0015】
(第2クラッチ)
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装された締結要素であり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、その締結および解放が制御される。第2クラッチCL2は、ハイブリッド車両専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の締結要素のうち、いくつかの締結要素を流用している。第2クラッチCL2には、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いているが、他の構成としてもよい。
【0016】
(自動変速機)
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を、車速VSPやアクセル開度APO等に応じて、予めATコントローラ7に記憶された所定の変速マップに従って自動的に切り替える変速機である。自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0017】
(走行モード)
このハイブリッド車両の駆動系は、第1クラッチCL1の締結・解放状態に応じた2つの走行モードを有している。第1の走行モードは、発進時を含む低負荷走行時に、第1クラッチCL1の解放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」)である。
【0018】
第2の走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」)である。例えば急加速時等の高負荷走行時には、車両の要求駆動力が大きく、駆動力としてエンジントルクが必要となる。このため、要求駆動力が所定値以上となった場合等に、第1クラッチCL1を締結してエンジンEを始動し、HEV走行モードに移行する。
【0019】
上記HEV走行モードは、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」の3つの走行モードを有している。「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪RR,RLを動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0020】
上記走行発電モードは、定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させ、発電した電力をバッテリ4の充電のために使用する。また、減速運転時には、制動エネルギーを利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させ、制動エネルギーを回生する。
【0021】
(第1クラッチの構成)
図2は、第1クラッチCL1の軸方向断面を示す。第1クラッチCL1は、手動変速機に用いられるクラッチと同様の乾式単板の摩擦クラッチであり、フライホイールFWに一体結合されたクラッチカバー31内に、クラッチディスク32と、プレッシャプレート33と、皿バネ(ダイヤフラム)34と、を有し、また、(レリーズレバーの機能も果たす)皿バネ34を弾性変形させるレリーズベアリング37と、レリーズベアリング37を軸方向に往復移動させるピストン35と、ピストンを35収容するスリーブシリンダ36と、を有している。
【0022】
クラッチディスク32は、クラッチプレート32aと、クラッチプレート32aの外周側でプレート面に設けられた摩擦部材であるクラッチフェーシング32b、32cと、振動吸収用のトーションスプリング32eを介してクラッチプレート32aに接続されたクラッチハブ32dと、を有している。クラッチハブ32dは、上記ロータに接続したモータ出力軸A2にスプライン結合され、軸方向に摺動可能に設けられている。
【0023】
リング状のスリーブシリンダ36は、そのピストン収容孔36bがエンジンE側に開口するように固定設置されている。スリーブシリンダ36の軸孔36aには、モータ出力軸A2が回転可能に設けられている。リング状のピストン35は、スリーブシリンダ36のピストン収容孔36b内に軸方向に摺動可能に収容されている。収容孔36bの内周面とピストン35のモータジェネレータMG側の端面との間で、油圧室Rが形成されている。第1クラッチ油圧ユニット6(自動変速機ATの油圧コントロールバルブ内)から油圧室Rに作動油が供給されることで、第1クラッチ圧が発生する。作動油が供給・排出され、第1クラッチ圧が制御されることで、ピストン35が軸方向に往復移動する。
【0024】
ピストン35と皿バネ34との間には、スラスト玉軸受けであるレリーズベアリング37が設けられている。レリーズベアリング37は、ピストン35のエンジンE側の端面に対して軸方向で対向配置されたリング状のレリーズベアリング当接部37bと、レリーズベアリング当接部37bとピストン35のエンジンE側の端面との間に転動可能に設置された複数のボール37aと、を有している。レリーズベアリング当接部37bは、ピストン35およびスリーブシリンダ36に対して軸周り方向に回転可能に設けられている。
【0025】
ピストン35の外周面に対向して、ピストン35の軸方向位置、すなわちストローク位置xを検出するストロークセンサ15が設けられている。
【0026】
(第1クラッチの作用)
図2中、中心軸の上側は第1クラッチCL1の完全締結状態を示し、下側は完全解放状態を示す。図3は、ピストン35のストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を示すグラフである。任意の2つのストローク位置xの間の距離が、ピストン35のストローク量である。
【0027】
(完全締結状態)
油圧室Rから作動油が排出され、第1クラッチ圧がゼロのとき、ピストン35は最小ストローク位置にある。ストローク位置xが最小ストローク位置から解放開始位置x1までの完全締結領域にあるとき、第1クラッチCL1の伝達トルク容量TCL1が所定の最大値TCL1maxとなり、完全締結状態となる。このように第1クラッチCL1は、クラッチ圧がゼロに近いときに完全締結される常閉式クラッチである。HEV走行モードでは完全締結状態となり、フライホイールFW(=エンジン出力軸A1)とクラッチディスク32(=モータ出力軸A2)とが一体に回転する。
【0028】
(完全締結状態→完全解放状態)
油圧室Rに作動油が供給されると、第1クラッチ圧によりピストン35が最小ストローク位置からエンジンE側の軸方向に移動する。第1クラッチ圧が一定以上になると、ピストン35と一体に移動するレリーズベアリング当接部37bが皿バネ34の内周側に接触し、エンジンE側に押し付ける。これにより皿バネ34がクラッチカバー31との接触部34aを支点として弾性変形する。よって、皿バネ34がフライホイール30とクラッチフェーシング32bとを押し付ける力が減少し始め、伝達トルク容量TCL1が減少し始める。このときのピストン35のストローク位置xが解放開始位置x1である。以下、最小ストローク位置=解放開始位置x1とみなして説明する。
【0029】
ピストン35が解放開始位置x1よりも解放側、かつ締結開始位置x2よりも締結側のストローク位置にあるとき、第1クラッチCL1が半締結(半クラッチ)状態となる。このストローク領域を半締結領域という。半締結領域では、伝達トルク容量TCL1はゼロから最大値TCL1maxまでの間の値をとり、ストローク位置xに応じて皿バネ34の特性に従って変化する。半締結領域では、所定の伝達トルク容量TCL1が与えられると、それに応じた所定のストローク位置xが一義的に決定される。尚、図3では伝達トルク容量TCL1の増大に応じてストローク位置xが締結側に遷移する線形のグラフを示したが、非線形の特性であってもよい。
【0030】
(完全解放状態)
ピストン35が締結開始位置x2よりも解放側に移動すると、皿バネ34の外周側がモータジェネレータMG側に移動し、皿バネ34の外周側とフライホイールFWとの間の軸方向距離が広がって、両者の間に挟まれたクラッチディスク32およびプレッシャプレート33を軸方向に移動可能とする。よって、クラッチフェーシング32bとフライホイールFWとの間に軸方向隙間ができ、第1クラッチCL1が完全解放される。このようにストローク位置xが締結開始位置x2よりも解放側の完全解放領域にあるとき、第1クラッチCL1の伝達トルク容量TCL1が最小値=ゼロとなり、完全解放状態となる。EV走行モードでは完全解放状態となり、フライホイールFW(=エンジン出力軸A1)とクラッチディスク32(=モータ出力軸A2)とが切り離されて独立回転する。
【0031】
(完全解放状態→完全締結状態)
油圧室Rから作動油が排出され、第1クラッチ圧が低下すると、ピストン35がモータジェネレータMG側の軸方向にストロークする。レリーズベアリング当接部37bに接触した皿バネ34の内周側がモータジェネレータMG側に移動するため、皿バネ34がクラッチカバー31との接触部34aを支点として弾性変形し、皿バネ34の外周側がエンジンE側に移動する。皿バネ34の弾性力により、皿バネ34の外周側がプレッシャプレート33をエンジンE側に押し付ける。
【0032】
プレッシャプレート33が、クラッチディスク32をフライホイールFWに押し付けると、プレッシャプレート33とクラッチフェーシング32cとの間、およびクラッチフェーシング32bとフライホイールFWとの間に摩擦力が発生する。これにより第1クラッチCL1の伝達トルク容量TCL1が発生する。伝達トルク容量TCL1が発生し始めるピストン35のストローク位置が締結開始位置x2である。伝達トルク容量TCL1が発生し始めると、エンジン出力軸A1とモータ出力軸A2との間で伝達トルク容量TCL1を上限とするトルクを伝達可能になる。
【0033】
ストローク位置xが締結開始位置x2よりも締結側の半締結領域にあるとき、半締結状態となり、ストローク位置xに応じたトルク、言い換えれば皿バネ34がフライホイール30とクラッチフェーシング32bとを押し付ける力に応じたトルクが伝達されるようになる。すなわち、伝達トルク容量TCL1は、ピストン35のストローク位置xにより決定され、制御される。
【0034】
(制御系の構成)
次に、実施例1におけるハイブリッド車両の制御系を説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両の制御系は、後述する各種センサおよびスイッチの他、エンジンコントローラ1、モータコントローラ2、インバータ3、バッテリ4、第1クラッチコントローラ5、第1クラッチ油圧ユニット6、ATコントローラ7、第2クラッチ油圧ユニット8、ブレーキコントローラ9、および統合コントローラ10を有している。第1クラッチ油圧ユニット6および第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに備えられた油圧コントロールバルブ内に設けられている。
【0035】
尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、情報交換が可能なCAN通信線11を介して互いに接続されている。
【0036】
各種センサおよびスイッチは、エンジン回転数センサ12、レゾルバ13、第1クラッチ油圧センサ14、ストロークセンサ15、アクセル開度センサ16、車速センサ17、第2クラッチ油圧センサ18、車輪速センサ19、ブレーキストロークセンサ20、モータ回転数センサ21、第2クラッチ出力回転数センサ22、ブレーキ油圧センサ24、およびバッテリ電力センサ25を有している。
【0037】
(エンジンコントローラ)
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12が検出したエンジン回転数Neや統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令Te*等の情報に基づき、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、例えばスロットルバルブアクチュエータへ出力する。エンジン回転数Neの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。尚、エンジン回転数センサ12は、エンジン出力軸A1(クランクシャフト)の回転角度を検出するクランク角センサであり、点火時期や燃料噴射時期の制御に用いられる。検出された上記回転角度からエンジン回転数Ne(回転角速度)を検出可能に設けられている。
【0038】
(モータコントローラ)
モータコントローラ2は、レゾルバ13が検出したモータジェネレータMGのロータ回転位置、および統合コントローラ10からの目標モータトルク指令Tm*等に基づき、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。
【0039】
また、モータジェネレータMGに流れる電流値(電流値の正負によって駆動トルクと回生トルクを区別している)に基づいて、モータジェネレータトルク(以下、モータトルクTmという)を推定するモータトルク推定部2aが設けられている。この推定されたモータトルクTmの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0040】
(第1クラッチコントローラ)
第1クラッチコントローラ5は、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令(目標ストローク位置x*)に基づき、第1クラッチCL1の締結・解放を制御する指令(目標ストローク位置x*を実現する第1クラッチ圧指令値)を演算し、これを第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。また、ストロークセンサ15が検出したストローク位置xと目標ストローク位置x*との偏差に基づき、第1クラッチ圧指令値を補正する。検出したストローク位置xの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10に入力される。
【0041】
(ATコントローラ)
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16が検出したアクセル開度APO、車速センサ(AT出力回転数センサ)17が検出した車速VSP、第2クラッチ油圧センサ18が検出した第2クラッチ圧、および統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令(目標伝達トルク容量TCL2*)等に基づき、第2クラッチCL2の締結・解放を制御する指令を第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。なお、アクセル開度APO、および車速VSPの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10に入力される。
【0042】
(ブレーキコントローラ)
ブレーキコントローラ9は、車輪速センサ19が検出した4輪FR,FL,RR,RLの各車輪速、ブレーキストロークセンサ20が検出したブレーキストロークBS、および統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づき、回生協調ブレーキ制御を行う。例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから算出される要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦制動力)で補うように制御する。
【0043】
(統合コントローラ)
統合コントローラ10は、主に、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせる機能を有している。統合コントローラ10は、モータ回転数センサ21が検出したモータ回転数Nm、第2クラッチ出力回転数センサ22が検出した第2クラッチ出力回転数N2out、ブレーキ油圧センサ24が検出したブレーキ圧、バッテリ電力センサ25が検出したバッテリ4の使用可能な電力容量(以下、バッテリSOC)、およびCAN通信線11を介して得られた各情報、すなわちエンジン回転数Ne、第1クラッチCL1のストローク位置x、第1、第2クラッチ圧、アクセル開度APO、車速VSP、およびブレーキストロークBS等の入力を受ける。
【0044】
(統合コントローラ10の制御内容)
以下に、図4に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有している。
【0045】
(目標駆動力演算)
目標駆動力演算部100では、所定の目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
【0046】
(目標走行モード演算)
モード選択部200では、図5に示すEV-HEV選択マップを用いて、走行状態(アクセルペダル開度APOおよび車速VSP)から、目標走行モードを演算する。但し、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」を目標走行モードとする。
【0047】
(目標充放電演算)
目標充放電演算部300では、所定の目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。
【0048】
動作点指令部400は、エンジン制御部410と、モータ制御部420と、第1クラッチ制御部430と、第2クラッチ制御部440と、エンジン始動制御部450と、を有している。
【0049】
(エンジン制御)
エンジン制御部410は、目標駆動力tFoO等に基づき目標エンジントルクTe*を演算し、これをエンジンコントローラ1に出力して、エンジンEの動作を制御する。
【0050】
(モータ制御)
モータ制御部420は、目標駆動力tFoO等に基づき目標モータ回転数Nm*および目標モータトルクTm*を演算し、これらをモータコントローラ2に出力して、モータジェネレータMGの動作を制御する。
【0051】
(第1クラッチ制御)
第1クラッチ制御部430は、ピストン35の目標ストローク位置x*を演算して第1クラッチコントローラ5に出力する。これにより第1クラッチCL1の締結および解放を制御して、EV走行モードとHEV走行モードを切り換える。また、EV走行モード時には、第1クラッチCL1の締結の準備として、ピストン35をスタンバイ位置に待機させる。
【0052】
(第2クラッチ制御)
第2クラッチ制御部440は、目標駆動力tFoOに基づいて第2クラッチCL2の目標伝達トルク容量TCL2*を演算し、これを変速制御部500に出力して、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2を制御する。
【0053】
(エンジン始動制御)
エンジン始動制御部450は、目標走行モードがEV走行モードからHEV走行モードに切り換わってエンジン始動要求がなされると、エンジンEの始動制御を行う。以下、エンジン始動制御部450の制御内容について説明する。
【0054】
エンジン始動制御部450は、エンジン始動要求がなされると、モータジェネレータMGのトルクをエンジンEに伝達してエンジンEの回転数を引き上げるべく、第1クラッチ制御部430に制御指令を出力して、第1クラッチCL1のスリップ制御を行う。具体的には、半締結領域内で目標伝達トルク容量TCL1*に応じた所定値に目標ストローク位置x*を設定させる。目標伝達トルク容量TCL1*を一定割合で最大値TCL1maxまで上昇させることにより、目標ストローク位置x*を解放開始位置x1まで変化させ、第1クラッチCL1を完全締結状態とする。
【0055】
ここで、エンジンEが自立回転せずに第1クラッチCL1から伝達されるトルクTCL1により回されている状態、または回され始めた状態で、上記伝達トルクTCL1からエンジンEの慣性モーメント(イナーシャ)によるトルク分を除いた、エンジン部品の摩擦抵抗によるトルクをエンジンフリクショントルクTfとする。また、エンジンフリクショントルクTfに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるピストン35のストローク量を、エンジンフリクション相当ストロークxfとする。エンジンフリクション相当ストロークxfは、図3のトルク−ストロークマップ432に設定されたストローク位置x(ストローク量)と伝達トルク容量TCL1の相関特性に基づき、エンジンフリクショントルクTfから求める。
【0056】
エンジンフリクショントルクTfは、以下の方法で求めることができる。モータジェネレータMGが出力するトルクの回転方向を正としたとき、エンジンEが自立回転せずに伝達トルクTCL1により回され、かつ第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2がゼロの状態では、エンジンEおよびモータジェネレータMGについての運動方程式は、それぞれ(1)Ie・dNe/dt=TCL1−Tf、(2)Im・dNm/dt=Tm−TCL1、である。(1)式および(2)式から、(3)Tf=(Tm−Ie・dNe/dt−Im・dNm/dt)となる。ここで、IeおよびImは、それぞれエンジンEおよびモータジェネレータMGのイナーシャであり、予め設定されている。dNe/dtおよびdNm/dtは、それぞれエンジンEおよびモータジェネレータMGの回転角加速度であり、エンジン回転数Neおよびモータ回転数Nmから求められる。
【0057】
変速シフトがP(駐車)レンジの時には、第2クラッチCL2は完全解放状態となり伝達トルク容量TCL2がゼロとなる。よって、例えば暖機のためにPレンジでエンジンEを始動する際、モータトルクTm、Ie・dNe/dt、およびIm・dNm/dtを検出することで、上記(3)式を用いてエンジンフリクショントルクTfを算出できる。尚、dNe/dtおよびdNm/dtがゼロのとき、すなわちエンジン回転数Neとモータ回転数Nmがそれぞれ一定となったとき、Tf=Tmとなり、エンジンフリクショントルクTfはモータトルクTmから算出できる。算出されたエンジンフリクショントルクTfは定数となる。
【0058】
実際の締結開始位置x2から目標ストローク位置x*(=実ストローク位置x)までのストローク量が、エンジンフリクション相当ストロークxfを超えると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfを超える。このエンジンフリクショントルクTfを超えた分の伝達トルク(=TCL1−Tf)によりエンジン出力軸A1が回されてエンジン回転数Neがゼロから上昇する。すなわち、エンジンEのクランキングが行われる。
【0059】
エンジン回転数Neが所定値以上になるとエンジン点火が行われ、エンジンEが自立回転を始める(燃料の供給・燃焼によりエンジンEが作動状態となる)。エンジン回転数Neが自立回転を示す所定値になったことを確認すると、エンジン始動を完了する。
【0060】
また、第1クラッチCL1が完全締結されるまでは、第2クラッチ制御部440に制御指令を出力して、第2クラッチCL2をスリップ制御する。具体的には、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2を目標駆動力tFoOに基づき制御させる。よって、駆動トルクに加えてエンジン始動分のトルクをモータジェネレータMGに発生させても、目標駆動力tFoOを達成しつつ、駆動輪RR,RL側には伝達トルク容量TCL2以上のトルクが出力されることが防止され、安定した走行または滑らかな発進が達成される。エンジン始動が完了すると、第2クラッチCL2を完全締結する。
【0061】
(エンジン停止制御)
エンジン始動制御部450は、目標走行モードがHEV走行モードからEV走行モードに切り換わってエンジン停止要求がなされると、エンジンEの停止制御を行う。具体的には、エンジン停止要求がなされるとエンジン制御部410に制御指令を出力して、エンジンEへの燃料供給を停止させる。また、第1クラッチ制御部430に制御指令を出力して、目標伝達トルク容量TCL1*を一定割合で最小値ゼロまで低下させる。これにより目標ストローク位置x*を締結開始位置x2まで変化させ、第1クラッチCL1を完全解放状態として、エンジン停止を完了する。尚、エンジン始動制御と同様、第2クラッチCL2をスリップ制御する。
【0062】
(変速制御)
動作点指令部400は、シフトスケジュールに沿って目標変速段(目標ATシフト)を自動的に設定し、変速制御部500に出力する。変速制御部500は、この目標変速段を達成するように、自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御し、自動変速機AT内の各クラッチの伝達トルクを制御する。尚、このシフトスケジュールは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものであり、アップシフト線、ダウンシフト線等が設定されている。
【0063】
(第1クラッチ制御の詳細)
図4に示すように、第1クラッチ制御部430は、目標伝達トルク容量演算部431と、トルク−ストロークマップ432と、目標ストローク位置演算部433と、スタンバイ位置補正部434と、を有している。
【0064】
目標伝達トルク容量演算部431は、エンジン回転数Neやモータ回転数Nm等に基づき、第1クラッチCLの伝達トルク容量TCL1の目標値、すなわち目標伝達トルク容量TCL1*を演算する。
【0065】
トルク−ストロークマップ432は、図3のグラフと同様の、ピストン35のストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を示すマップである。この相関特性(以下、トルク−ストローク特性という)は、予め設計値としてトルク−ストロークマップ432に規定されている。
【0066】
目標ストローク位置演算部433は、目標走行モードや目標伝達トルク容量TCL1*に基づき、トルク−ストロークマップ432を用いて、ストローク位置xの目標値である目標ストローク位置x*を演算する。EV走行モード時には、目標ストローク位置x*を締結開始位置x2に設定し、ピストン35を締結開始位置x2に待機させる。HEV走行モード時には、目標ストローク位置x*を解放開始位置x1(最小ストローク位置)に設定し、第1クラッチCL1を完全締結させる。EV走行モードとHEV走行モードの切り換え時には、半締結領域内で目標伝達トルク容量TCL1*に応じた所定値に目標ストローク位置x*を設定し、第1クラッチCL1のスリップ制御を行う。
【0067】
スタンバイ位置補正部434は、トルク−ストロークマップ432に設定された締結開始位置x2を学習補正する。具体的には、各制御周期で、EV走行モードからHEV走行モードへの移行時、またはHEV走行モードからEV走行モードへの移行時に、伝達トルク容量TCL1と相関する変数の変化を検出することに基づき実際の締結開始位置x2を算出し、この算出値により、上記設定された締結開始位置x2を補正する。次回以降の第1クラッチCL1の制御において、補正後の締結開始位置x2をスタンバイ位置として用いる。
【0068】
スタンバイ位置補正部434は、走行距離計測部435と摩耗量推定部436を有している。走行距離計測部435は、締結開始位置x2の補正を前回実行した時点から現時点までの車両の走行距離Lを計測する。摩耗量推定部436は、締結開始位置x2の補正を前回実行した時点から現時点までのエンジンEの始動回数、言い換えれば第1クラッチCL1の締結回数を検出し、この回数に基づき、上記2時点間における第1クラッチCL1の摩耗量Sを推定する。
【0069】
(スタンバイ位置の補正制御)
EV走行中、第1クラッチCL1のプレッシャプレート33は、伝達トルク容量TCL1を発生せず、かつエンジン始動要求後は速やかに伝達トルク容量TCL1を発生可能な位置(スタンバイ位置)に待機させることが望ましい。以下、ピストン35のスタンバイ位置をプレッシャプレート33のスタンバイ位置とみなして説明する。図3のマップに示すように、EV走行中のピストン35のスタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に制御されていれば、伝達トルク容量TCL1がゼロであり、かつ速やかに伝達トルク容量TCL1を発生可能である。
【0070】
しかし、スタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に対して解放側に離れたストローク位置x2' に制御されている場合、エンジン始動要求が出た後、実際に伝達トルク容量TCL1が発生するまでの間、ピストン35が|x2''−x2'|だけストロークする必要がある。このストローク量に対応した距離だけプレッシャプレート33やクラッチディスク32が移動する必要があり、この移動に要する時間だけエンジン始動時間が長くなる。よって、エンジン始動の応答性が低下する。
【0071】
一方、スタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に対して締結側に離れたストローク位置x2'' に制御されている場合、EV走行中の目標伝達トルク容量TCL1はゼロであるにもかかわらず、実際には伝達トルク容量TCL1'' が発生しており、モータジェネレータMGからエンジンEに対してトルクが伝達されている。このため、EV走行中に、モータジェネレータMGにはエンジンフリクション等に起因する負荷トルクが作用し、無駄なバッテリ電力を消費することでEV走行時間が短くなって、燃費が悪化する。さらに、摩擦部材(クラッチフェーシング32b等)の無駄な摩耗や発熱が増加し、第1クラッチCL1の特性(摩擦部材間の滑り速度に対する摩擦力の特性を示すμ−ν特性)や耐久性が悪化する。
【0072】
このように、目標のスタンバイ位置となる締結開始位置x2にピストン35が位置するように制御指令を出しても、制御されるストローク位置xが実際の締結開始位置x2に対して解放側や締結側に離れた位置となる場合がある。これは、第1クラッチCL1の組み付け時に摩擦部材(クラッチフェーシング32b等)間のクリアランス等に個体差があり、そのため実際の締結開始位置x2(初期位置)にも個体差があるからである。また、摩擦部材が摩耗すると、実際の締結開始位置x2も経時変化により変動するからである。
【0073】
よって、本発明の制御装置は、目標スタンバイ位置としてトルク−ストロークマップ432に設定された締結開始位置x2の補正制御を行う。以下、スタンバイ位置補正部434による制御内容を、図6のフローチャート、および図7〜図9のトルク−ストロークマップ432に基づき説明する。
【0074】
図6は、スタンバイ位置の学習補正の流れを示す。まず、補正の開始条件が成立したか否かを判定する。開始条件が成立したときは制御を開始し、開始条件が不成立であるときは前回のスタンバイ位置(トルク−ストロークマップ432に設定された締結開始位置x2)を保持する。上記開始条件は、上記計測した走行距離Lが所定の閾値以上となったこと、または上記推定した摩耗量Sが所定の閾値以上となったことである。尚、これら2条件がともに成立したことを開始条件としてもよいし、第1クラッチCL1の摩耗を示す他の変数を用いて開始条件を設定してもよい。
【0075】
ステップS1では、目標走行モードがEV走行モードであるか否かを判定する。EV走行中であるときはステップS2に進み、それ以外のときはステップS7に進む。
【0076】
(締結側オフセット時)
ステップS2では、エンジン引きずりトルクTdが発生しているか否かを判定する。エンジン引きずりトルクTdが発生していればステップS3に進み、発生していなければステップS4に進む。
【0077】
ここで、エンジン引きずりトルクTdとは、エンジン停止制御の終了時にスタンバイ位置、すなわち(トルク−ストロークマップ432に設定された)締結開始位置x2まで目標ストローク位置x*(=実ストローク位置x)を変化させたときに発生している伝達トルク容量TCL1をいう。エンジン引きずりトルクTdは、エンジン停止制御終了時のエンジン回転数Neおよび上記(1)式を用いて、(4)TCL1=(Ie・dNe/dt+Tf)により算出される。(4)式により算出されたTCL1=Tdがゼロより大きいときは、エンジン引きずりトルクが発生していると判断する。
【0078】
また、エンジン引きずりトルクTdに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるピストン35のストローク量を、エンジン引きずり相当ストロークxdとする。エンジン引きずり相当ストロークxdは、図7に示すように、トルク−ストロークマップ432に設定されたストローク位置x(ストローク量)と伝達トルク容量TCL1の相関特性に基づき、エンジン引きずりトルクTdから求める。
【0079】
ステップS3では、スタンバイ位置(エンジン停止制御終了時のストローク位置x)とエンジン引きずりトルク相当ストローク量xdとに基づき、実際の締結開始位置x2を算出する。具体的には、図7に示すように、スタンバイ位置からエンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側にオフセットさせた位置を、実際の締結開始位置x2として算出する。
【0080】
また、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性は、図7の点線のように締結側にオフセットしていると考えられるため、このトルク−ストローク特性を、エンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側にオフセットさせて補正する(図7の実線)。尚、本実施例1では、トルク−ストローク特性において、ストローク量と伝達トルク容量TCL1との関係(グラフの傾き)は変化しないものと仮定する。その後、ステップS10に移る。
【0081】
ステップS4では、目標モードがEV走行モードからHEV走行モードへ移ったか、すなわちエンジン始動要求がなされたか否かを判定する。エンジン始動要求がなされたときはステップS5に移り、それ以外のときはステップS4を繰り返す。
【0082】
(解放側オフセット時)
ステップS5では、エンジン回転数Neがゼロ以上か否か、すなわちエンジン回転が発生したか否かを判定する。エンジン回転を検出したときはステップS6に移り、検出しないときはステップS5を繰り返す。
【0083】
ステップS6では、その時点のストローク位置xを読み込み、読み込んだ位置とエンジンフリクション相当ストロークxfとに基づき、実際の締結開始位置x2を算出する。具体的には、図8に示すように、読み込んだストローク位置からエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側にオフセットさせた位置を、実際の締結開始位置x2として算出する。その後、ステップS10に移る。
【0084】
また、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性に基づきエンジン回転の発生を予想していたストローク位置が、実際のエンジン回転発生時に読み込んだストローク位置に対して、例えば所定のストローク量αだけ解放側にオフセットしていた場合、設定されたトルク−ストローク特性は、実際の特性に対して、図8の点線のようにストローク量αだけ解放側にオフセットしていると考えられる。
【0085】
ストローク量と伝達トルク容量TCL1との関係(グラフの傾き)は変化しないとみなせるため、設定していたトルク−ストローク特性を、検出したストローク量αだけ締結側にオフセットさせて補正する(図8の実線)。その後、ステップS10に移る。尚、補正後のトルク−ストローク特性に基づいて、実際の締結開始位置x2を算出してもよい。
【0086】
ステップS7では、目標モードがHEV走行モードからEV走行モードへ移ったか、すなわちエンジン停止要求がなされたか否かを判定する。エンジン停止要求がなされたときはステップS5に移り、それ以外のときはステップS7を繰り返す。
【0087】
ステップS8では、エンジン回転数Neとモータ回転数Nmの差がゼロ以上か否か、すなわち差回転が発生したか否かを判定する。差回転を検出したときはステップS9に移り、検出しないときはステップS8を繰り返す。
【0088】
ステップS9では、その時点のストローク位置xを読み込み、読み込んだ値とエンジンフリクション相当ストロークxfとに基づき、実際の締結開始位置x2を算出する。具体的には、図9に示すように、読み込んだストローク位置からエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側にオフセットさせた位置を、実際の締結開始位置x2として算出する。
【0089】
また、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性に基づき差回転の発生を予想していたストローク位置が、実際の差回転発生時に読み込んだストローク位置に対して、例えば所定のストローク量βだけ解放側にオフセットしていた場合、設定されたトルク−ストローク特性は、実際の特性に対して、図9の点線のようにストローク量βだけ解放側にオフセットしていると考えられる。
【0090】
ストローク量と伝達トルク容量TCL1との関係(グラフの傾き)は変化しないとみなせるため、設定していたトルク−ストローク特性を、検出したストローク量βだけ締結側にオフセットさせて補正する(図9の実線)。その後、ステップS10に移る。尚、補正後のトルク−ストローク特性に基づいて、実際の締結開始位置x2を算出してもよい。
【0091】
ステップS10では、算出した実際の締結開始位置x2により、設定されていた締結開始位置x2を更新し、更新した締結開始位置x2を、次回以降のEV走行においてスタンバイ位置として用いる。また、補正したトルク−ストローク特性により、設定されていたトルク−ストローク特性を更新し、更新したトルク−ストローク特性(トルク−ストロークマップ432)を、次回以降のクラッチ制御に用いる。
【0092】
(タイムチャート)
図10〜図12は、ストローク位置x、伝達トルク容量TCL1、およびエンジン回転数Ne(およびモータ回転数Nm)のタイムチャートである。締結開始位置x2の補正制御前を点線で示し、補正制御後を実線で示す。
【0093】
(締結側オフセット時)
図10は、補正制御前に、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性が締結側にオフセットしていた場合を示す。HEV走行モードからEV走行モードに切り替わり、第1クラッチCL1を解放してエンジン停止制御を実行する際のタイムチャートである。
【0094】
(補正前)
時刻t0までは、HEV走行中である。ストローク位置は完全締結位置x0にあり、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxである。また、エンジン回転数はNe1で一定であり、エンジンEの回転加速度dNe/dtはゼロである。
【0095】
時刻t0で、目標モードがHEV走行モードからEV走行モードへ移り、エンジン停止要求がなされる。時刻t0以後、エンジン停止制御が実行され、エンジンEへの燃料供給が停止される。これによりエンジンEが自立回転をやめる。また、時刻t0以後、ストローク位置xが一定割合で解放側に変化する。
【0096】
時刻t1で、ストローク位置xが解放開始位置x1となり、時刻t1以後、伝達トルク容量TCL1が一定割合で低下する。
【0097】
時刻t2で、実際の締結開始位置x2からのストローク量がエンジンフリクション相当ストロークxfになると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfまで低下する。時刻t2以後、TCL1<Tfとなるため、上記(1)式(Ie・dNe/dt=TCL1−Tf)より、dNe/dt<0となる。すなわち、エンジン回転数Neが低下する。
【0098】
時刻t3で、スタンバイ位置、すなわちトルク−ストロークマップ432に設定された締結開始位置x2までストローク位置が変化する。これにより、エンジン停止制御を終了し、EV走行への切り替えを完了する。このとき、上記スタンバイ位置は、実際の締結開始位置x2よりもエンジン引きずり相当ストロークxdだけ締結側にオフセットしており、伝達トルク容量TCL1(エンジン引きずりトルクTd)が発生している。エンジン引きずりトルクTdは、時刻t3におけるdNe/dt(<0)と、予め算出したエンジンフリクショントルクTfとを用いて、上記(4)式(Td=Ie・dNe/dt+Tf)により算出される。
【0099】
時刻t3以後、ストローク位置xは上記スタンバイ位置に設定されるため、一定の伝達トルク容量TCL1(=エンジン引きずりトルクTd)が発生し続ける。上記(1)式から、dNe/dt=(Td−Tf)/Ieとなり、このdNe/dtに応じた割合でエンジン回転数Neが低下する。時刻t6で、エンジン回転数Neがゼロまで低下する。
【0100】
(補正時)
尚、所定の条件(ステップS1,S2)が成立したときには、時刻t3で、補正制御を実行する。すなわち、時刻t3で読み込んだストローク位置xからエンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側にオフセットさせて、実際の締結開始位置x2を算出する。算出した締結開始位置x2を、補正後のスタンバイ位置に設定する。また、トルク−ストロークマップ432(トルク−ストローク特性)を、エンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側にオフセットさせて補正する。
【0101】
(補正後)
時刻t1までは、HEV走行中である。ストローク位置は解放開始位置x1にあり、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxである。時刻t1で、目標モードがHEV走行モードからEV走行モードへ移り、エンジン停止要求がなされる。時刻t1以後、エンジン停止制御が実行され、エンジンEへの燃料供給が停止される。これによりエンジンEが自立回転をやめる。また、時刻t1以後、ストローク位置xが一定割合で解放側に変化し、伝達トルク容量TCL1が一定割合で低下する。
【0102】
時刻t1から時刻t3までは、補正前と同様である。補正によりスタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に再設定されている。このため、時刻t3以後も、ストローク位置xは解放側に変化し続ける。
【0103】
時刻t4で、設定された締結開始位置x2までストローク位置xが変化する。これにより、エンジン停止制御を終了し、EV走行への切り替えを完了する。このとき、上記スタンバイ位置は、実際の締結開始位置x2と一致しているため、エンジン引きずりトルクTdは発生せず、伝達トルク容量TCL1はゼロである。
【0104】
時刻t4以後、ストローク位置xは上記スタンバイ位置に設定されるため、伝達トルク容量TCL1はゼロに維持される。上記(1)式から、dNe/dt=(−Tf)/Ieとなり、このdNe/dtに応じた割合でエンジン回転数Neが低下する。時刻t5で、エンジン回転数Neがゼロまで低下する。
【0105】
(解放側オフセット時…第1クラッチを締結する場合)
図11は、補正制御前に、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性が所定のストローク量αだけ解放側にオフセットしていた場合を示す。EV走行モードからHEV走行モードに切り替わり、第1クラッチCL1を締結してエンジン始動制御を実行する際のタイムチャートである。
【0106】
(補正前)
時刻t0までは、EV走行中である。ストローク位置xは、実際の締結開始位置x2よりもストローク量αだけ解放側のスタンバイ位置にあり、伝達トルク容量TCL1はゼロである。また、エンジン回転数Neはゼロである。
【0107】
時刻t0で、目標モードがEV走行モードからHEV走行モードへ移り、エンジン始動要求がなされる。時刻t0以後、エンジン始動制御が実行され、ストローク位置xが一定割合で締結側に変化する。
【0108】
時刻t1で、ストローク位置xが実際の締結開始位置x2になると、伝達トルク容量TCL1が発生し、第1クラッチCL1が締結され始める。時刻t1以後、伝達トルク容量TCL1が一定割合で増大する。
【0109】
時刻t2で、実際の締結開始位置x2からのストローク量がエンジンフリクション相当ストロークxfになると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfまで増大する。時刻t2以後、TCL1>Tfとなるため、上記(1)式(Ie・dNe/dt=TCL1−Tf)より、dNe/dt>0となる。よって、時刻t2で、エンジン回転数Neが発生し、上昇し始める。すなわち、時刻t2以後、エンジンEのクランキングが行われる。
【0110】
時刻t3で、トルク−ストロークマップ432に設定された解放開始位置x1'までストローク位置が変化し、伝達トルク容量TCL1はTCL1max'まで増大する。解放開始位置x1'は、実際の解放開始位置x1よりもストローク量αだけ解放側に設定されている。時刻t3以後、ストローク位置xは解放開始位置x1'に維持されるとともに、伝達トルク容量TCL1はTCL1max'に維持される。尚、TCL1max'=TCL1maxであり、完全締結状態が実現されるものとする。
【0111】
時刻t5で、エンジン回転数Neが所定値Ne0となる。エンジン回転数NeがNe0以上になると、エンジン点火および燃料供給が行われ、これによりエンジンEが自立回転を始める。
【0112】
時刻t6で、エンジン回転数Neが自立回転を示す所定値Ne1になる。これによりエンジン始動制御を終了し、HEV走行への切り替えを完了する。
【0113】
(補正時)
尚、所定の条件(ステップS4,S5)が成立したときには、時刻t2で、補正制御を実行する。すなわち、時刻t2で読み込んだストローク位置xからエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側にオフセットさせて、実際の締結開始位置x2を算出する。算出した締結開始位置x2を、補正後のスタンバイ位置に設定する。また、トルク−ストロークマップ432(トルク−ストローク特性)を、検出したストローク量αだけ締結側にオフセットさせて補正する。
【0114】
(補正後)
時刻t1までは、EV走行中である。補正によりスタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に再設定されている。よって、ストローク位置は実際の締結開始位置x2にあり、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxである。時刻t1で、目標モードがEV走行モードからHEV走行モードへ移り、エンジン始動要求がなされる。時刻t1以後、エンジン始動制御が実行され、ストローク位置xが一定割合で締結側に変化する。
時刻t1から時刻t3までは補正前と同様である。
【0115】
補正によりトルク−ストロークマップ432の解放開始位置x1が実際の解放開始位置x1に再設定されている。このため、再設定された解放開始位置x1までストローク位置xが変化する(時刻t4)。このとき、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxまで増大する。時刻t4以後、ストローク位置xは解放開始位置x1に維持されるとともに、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxに維持される。
時刻t4から時刻t6までは補正前と同様である。
【0116】
(解放側オフセット時…第1クラッチを解放する場合)
図12は、補正制御前に、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性が所定のストローク量βだけ解放側にオフセットしていた場合を示す。HEV走行モードからEV走行モードに切り替わり、第1クラッチCL1を解放してエンジン停止制御を実行する際のタイムチャートである。
【0117】
(補正前)
時刻t1までは、HEV走行中である。ストローク位置は、解放開始位置x1よりもストローク量βだけ解放側のx1' にあり、伝達トルク容量TCL1はTCL1max'である。尚、TCL1max'=TCL1maxであり、完全締結状態が保たれ、エンジン回転数Neとモータ回転数Nmは一致しているものとする。また、エンジン回転数およびモータ回転数はNe1=Nm1で一定であり、エンジンEの回転加速度dNe/dtはゼロである。
【0118】
時刻t1で、目標モードがHEV走行モードからEV走行モードへ移り、エンジン停止要求がなされる。時刻t1以後、エンジン停止制御が実行され、エンジンEへの燃料供給が停止される。これによりエンジンEが自立回転をやめる。また、時刻t1以後、ストローク位置xが解放側に変化し、伝達トルク容量TCL1が一定割合で低下する。
【0119】
時刻t2で、実際の締結開始位置x2からのストローク量がエンジンフリクション相当ストロークxfになると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfまで低下する。時刻t2以後、TCL1<Tfとなるため、上記(1)式(Ie・dNe/dt=TCL1−Tf)より、dNe/dt<0となる。よって、時刻t2で、エンジン回転数Neが低下し始める。一方、モータ回転数Nmは一定値Nm1に維持される。したがって、時刻t2で、エンジン回転数Neとモータ回転数Nmとの差がゼロ以上となり、差回転が発生する。
【0120】
時刻t3で、実際の締結開始位置x2までストローク位置が変化し、伝達トルク容量TCL1はゼロまで低下する。時刻t3以後、伝達トルク容量TCL1はゼロに維持される。
【0121】
時刻t4で、スタンバイ位置、すなわちトルク−ストロークマップ432に設定された締結開始位置x2までストローク位置が変化する。これにより、エンジン停止制御を終了し、EV走行への切り替えを完了する。上記スタンバイ位置は、実際の締結開始位置x2よりもストローク量βだけ解放側にオフセットしている。
【0122】
(補正時)
尚、所定の条件(ステップS7,S8)が成立したときには、時刻t2で、補正制御を実行する。すなわち、時刻t2で読み込んだストローク位置xからエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側にオフセットさせて、実際の締結開始位置x2を算出する。算出した締結開始位置x2を、補正後のスタンバイ位置に設定する。また、トルク−ストロークマップ432(トルク−ストローク特性)を、検出したストローク量βだけ締結側にオフセットさせて補正する。
【0123】
(補正後)
時刻t0までは、HEV走行中である。ストローク位置は解放開始位置x1にあり、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxである。時刻t0で、目標モードがHEV走行モードからEV走行モードへ移り、エンジン停止要求がなされる。時刻t0以後、エンジン停止制御が実行され、エンジンEへの燃料供給が停止される。これによりエンジンEが自立回転をやめる。また、時刻t0以後、ストローク位置xが一定割合で解放側に変化し、伝達トルク容量TCL1が一定割合で低下する。
【0124】
時刻t1から時刻t3までは、補正前と同様である。補正によりスタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に再設定されている。
【0125】
時刻t3で、再設定された締結開始位置x2までストローク位置xが変化する。これにより、エンジン停止制御を終了し、EV走行への切り替えを完了する。このとき、上記スタンバイ位置は、実際の締結開始位置x2と一致しているため、スタンバイ位置の解放側へのオフセットは発生せず、かつ伝達トルク容量TCL1はゼロである。
【0126】
時刻t3以後、ストローク位置xは上記スタンバイ位置に設定されるため、伝達トルク容量TCL1はゼロに維持される。上記(1)式から、dNe/dt=(−Tf)/Ieとなり、このdNe/dtに応じた割合でエンジン回転数Neが低下する。時刻t5で、エンジン回転数Neがゼロまで低下する。
【0127】
[実施例1の作用効果]
以下、実施例1から把握される、本発明の車両の制御装置が有する作用効果を列挙する。
【0128】
(1)本発明の車両の制御装置は、エンジンEと、モータ(モータジェネレータMG)と、エンジンEと上記モータとの間に介装され、可動子(ピストン35)の位置に応じて伝達トルク容量TCL1を変更可能な締結要素(第1クラッチCL1)と、伝達トルク容量TCL1の発生を開始する可動子(ピストン35)の位置である締結開始位置x2にスタンバイ位置を設定する待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)と、可動子(ピストン35)の位置をスタンバイ位置に制御する位置制御手段(第1クラッチ制御部430)と、伝達トルク容量TCL1と相関する変数(エンジン回転数Ne等)の変化に基づき、締結開始位置x2とスタンバイ位置とが一致するように、スタンバイ位置を補正する待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)と、を有することとした。
【0129】
よって、ピストン35を締結開始位置x2に待機させることで、第1クラッチCL1の締結指令から実際に伝達トルク容量TCL1が発生してエンジンEが始動されるまでの時間が著しく短縮され、エンジン始動の応答性を向上できる。特に、第1クラッチCL1を解放しモータジェネレータMGの駆動力のみで走行するEV走行モードと、第1クラッチCL1を締結しエンジンEの駆動力を用いて走行するHEV走行モードと、を切り替え可能な車両に適用した場合、EV走行モード時にピストン35を締結開始位置x2に待機させることにより、EV走行中に伝達トルク容量TCL1をゼロとしつつ、HEV走行モードに切り換える際、速やかに伝達トルク容量TCL1を発生できる。
【0130】
また、仮にクラッチの摩擦部材同士の押し付け力(締結力)のみを制御する構成とすると、ピストンの位置を直接の制御対象としないため、伝達トルク容量をゼロとしつつ速やかに締結可能な微妙な位置にピストンを制御できない。これに対し、本発明はピストン35のストローク位置xを直接の制御対象とするピストン位置制御手段(第1クラッチ制御部430)を有しているため、所望の位置にピストン35を待機させることができ、エンジン始動時の第1クラッチCL1の制御精度を向上できる。
【0131】
さらに、スタンバイ位置を学習補正する待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)を有する。このため、第1クラッチCL1が摩耗したり、個体差(組み付けクリアランス)によりバラツキが生じたりして、設定値(スタンバイ位置)が実際の締結開始位置x2に対してズレたときでも、設定値(スタンバイ位置)を適正に補正できる。よって、第1クラッチCL1の耐久性や特性を維持し、かつ燃費の悪化を防止しつつ、クラッチ制御の精度を維持して、エンジン始動の応答性を確実に向上できる、という効果を有する。
【0132】
(2)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の締結から解放への移行時、または解放から締結への移行時に、実際の締結開始位置x2を算出することとした。
【0133】
すなわち、第1クラッチCL1の締結から解放への移行時、または解放から締結への移行時には、伝達トルク容量TCL1と相関する変数(エンジン回転数Ne等)の変化が発生する。よって、HEV走行モードからEV走行モードへの切り替え時であっても、またEV走行モードからHEV走行モードへの切り替え時であっても、上記変化を検出することで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(1)の効果を得ることができる。
【0134】
(3)待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)は、ストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を予め設定し、上記設定された相関特性に基づき締結開始位置x2を算出することとした。
【0135】
このようにトルク−ストロークマップ432を有することで、EV走行中にトルク−ストロークマップ432に基づきピストン35をスタンバイ位置に制御できるだけでなく、エンジン始動等の際、トルク−ストロークマップ432に基づきストローク位置xを制御して所望の伝達トルク容量TCL1を得ることができ(第1クラッチCL1の半締結制御)、上記(1)(2)の効果を得ることができる。
【0136】
(4)ストローク位置xを検出するピストン位置検出手段(ストロークセンサ15)を備え、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の解放から締結への移行時、または締結から解放への移行時に上記変数(エンジン回転数Ne等)の変化を検出し、上記変化を検出したときのストローク位置xと、上記設定された相関特性により上記変数の変化が予測されるストローク位置xとの差の分だけ、上記設定された相関特性を締結側にずらして補正し、補正後の相関特性に基づき締結開始位置x2を算出することとした。
【0137】
すなわち、ストロークセンサ15の検出値に基づきスタンバイ位置を適正化できる。また、検出したストローク位置xに基づきトルク−ストロークマップ432を補正することで、第1クラッチCL1の摩耗等により締結開始位置x2がズレたときでも、トルク−ストロークマップ432の特性を適正化できる。よって、実際の締結開始位置x2が変化した場合であっても、スタンバイ位置を適正化してエンジン始動の応答性を向上できるだけでなく、トルク−ストロークマップ432の特性を適正化して半締結制御におけるクラッチ制御性を向上できる、という効果を有する。
【0138】
(5)上記変数はエンジン回転数Neであり、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の解放から締結への移行時に、エンジン回転数Neの発生を検出し、また、上記設定された相関特性によりエンジン回転数Neの発生が予測されるピストン35のストローク位置xを同定することとした。
【0139】
例えばEV走行モードからHEV走行モードへの切り替え時には、エンジン回転数Neの発生を検出したときのストローク位置xと、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性によりエンジン回転数Neの発生が予測されるストローク位置xと、の差αの分だけ、上記設定されたトルク−ストローク特性は解放側にオフセットしている(図8)。よって、このトルク−ストローク特性を締結側に全体的にストローク量αだけずらして補正し、補正後のトルク−ストローク特性に基づき締結開始位置x2を算出することで、上記(4)の効果を得ることができる。
【0140】
(6)上記変数はエンジン回転数Neとモータ回転数Nmとの差であり、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の締結から解放への移行時に、上記差回転の発生を検出し、また、上記設定された相関特性により上記差回転の発生が予測されるピストン35のストローク位置xを同定することとした。
【0141】
また、HEV走行モードからEV走行モードへの切り替え時には、エンジン回転数Neとモータ回転数Nmとの差の発生を検出したときのストローク位置xと、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性により上記差回転の発生が予測されるストローク位置xと、の差βの分だけ、上記設定されたトルク−ストローク特性は解放側にオフセットしている(図9)。よって、このトルク−ストローク特性を締結側に全体的にストローク量βだけずらして補正し、補正後のトルク−ストローク特性に基づき締結開始位置x2を算出することで、上記(4)(5)の効果を得ることができる。
【0142】
(7)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、エンジンEが自立回転せずに第1クラッチCL1から伝達されるトルクTCL1により回されている状態、または回され始めた状態で、上記伝達トルクTCL1からエンジンEの慣性モーメントIeによるトルク分を除いた、エンジンEの摩擦抵抗によるトルクであるエンジンフリクショントルクTfを算出し、エンジンフリクショントルクTfに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるストローク量xであるエンジンフリクション相当ストロークxfを算出し、エンジンフリクション相当ストロークxfを用いて、実際の締結開始位置x2を算出することとした。
【0143】
すなわち、実際の締結開始位置x2から締結側の目標ストローク位置x*(=実ストローク位置x)までのストローク量が、エンジンフリクション相当ストロークxfを超えると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfを超える。このエンジンフリクショントルクTfを超えた分の伝達トルク(=TCL1−Tf)によりエンジン出力軸A1が回される。よって、上記変数(エンジン回転数Ne等)の変化が発生するストローク位置xとエンジンフリクション相当ストロークxfとを用いて、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(1)〜(6)の効果を得ることができる。
【0144】
(8)モータトルクTmを検出するモータトルク検出手段(モータトルク推定部2a)を備え、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、モータトルクTmに基づきエンジンフリクショントルクTfを算出することとした。
【0145】
すなわち、所定の条件下で、エンジンEおよびモータジェネレータMGについての運動方程式は、それぞれ(1)Ie・dNe/dt=TCL1−Tf、(2)Im・dNm/dt=Tm−TCL1、である。(1)式および(2)式から、(3)Tf=(Tm−Ie・dNe/dt−Im・dNm/dt)となる。よって、例えばPレンジでエンジンEを始動する際、モータトルクTm、Ie・dNe/dt、およびIm・dNm/dtを検出することで、上記(3)式を用いてエンジンフリクショントルクTfを算出できる。また、dNe/dtおよびdNm/dtがゼロのとき、すなわちエンジン回転数Neとモータ回転数Nmがそれぞれ一定となったとき、Tf=Tmとなり、エンジンフリクショントルクTfはモータトルクTmから算出でき、上記(7)の効果を得ることができる。
【0146】
(9)待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)は、ストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を予め設定し、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、エンジンフリクショントルクTfと上記設定された相関特性とに基づきエンジンフリクション相当ストロークxfを算出することとした。
【0147】
すなわち、エンジンフリクショントルクTfに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるピストン35のストローク量がエンジンフリクション相当ストロークxfである。このため、エンジンフリクション相当ストロークxfは、トルク−ストロークマップ432に設定されたストローク位置x(ストローク量)と伝達トルク容量TCL1との相関特性に基づき、エンジンフリクショントルクTfから求めることができ、上記(7)(8)の効果を得ることができる。
【0148】
(10)ストローク位置xを検出するピストン位置検出手段(ストロークセンサ15)を備え、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の解放から締結への移行時、または締結から解放への移行時に上記変数(エンジン回転数Ne等)の変化を検出し、上記変化を検出したときのストローク位置xをエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出することとした。
【0149】
すなわち、実際の締結開始位置x2から締結側の目標ストローク位置x*(=実ストローク位置x)までのストローク量が、エンジンフリクション相当ストロークxfを超えると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfを超える。このエンジンフリクショントルクTfを超えた分の伝達トルク(=TCL1−Tf)によりエンジン出力軸A1が回され、上記変数(エンジン回転数Ne等)の変化が発生する。よって、EV走行モードからHEV走行モードへの切り替え時、またはHEV走行モードからEV走行モードへの切り替え時に、上記変数(エンジン回転数Ne等)の変化が発生した時点のストローク位置xは、実際の締結開始位置x2からエンジンフリクション相当ストロークxfだけ締結側に変位していることになる。したがって、上記変化を検出したときのストローク位置xをエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(7)〜(9)の効果を得ることができる。
【0150】
(11)上記変数はエンジン回転数Neであり、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の解放から締結への移行時に、エンジン回転数Neの発生を検出することとした。
【0151】
例えばEV走行モードからHEV走行モードへの切り替え時には、エンジン回転数Neの発生を検出したときのストローク位置xが、エンジンフリクション相当ストロークxfだけ実際の締結開始位置x2から締結側に変位していることになる。したがって、エンジン回転数Neの発生を検出したときのストローク位置xをエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(10)の効果を得ることができる。
【0152】
(12)上記変数はエンジン回転数Neとモータ回転数Nmとの差であり、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の締結から解放への移行時に、上記差回転の発生を検出することとした。
【0153】
また、HEV走行モードからEV走行モードへの切り替え時には、エンジン回転数Neとモータ回転数Nmとの差回転を検出したときのストローク位置xが、エンジンフリクション相当ストロークxfだけ実際の締結開始位置x2から締結側に変位していることになる。したがって、上記差回転の発生を検出したときのストローク位置xをエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(10)(11)の効果を得ることができる。
【0154】
(13)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、ピストン35がスタンバイ位置にあるときに発生している伝達トルク容量TCL1であるエンジン引きずりトルクTdを算出し、エンジン引きずりトルクTdに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるピストン35のストローク量であるエンジン引きずり相当ストロークxdを算出し、エンジン引きずり相当ストロークxdを用いて、実際の締結開始位置x2を算出することとした。
【0155】
すなわち、スタンバイ位置が実際の締結開始位置x2よりも締結側にオフセットしているとき、伝達トルク容量TCL1(エンジン引きずりトルクTd)が発生する。よって、上記変数(エンジン引きずりトルクTd)が発生するストローク位置x(スタンバイ位置)とエンジン引きずり相当ストロークxfとを用いて、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(1)〜(12)の効果を得ることができる。
【0156】
(14)待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)は、ストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を予め設定し、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、エンジン引きずりトルクTdと上記設定された相関特性とに基づきエンジン引きずり相当ストロークxdを算出することとした。
【0157】
すなわち、エンジン引きずりトルクTdに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるピストン35のストローク量がエンジン引きずり相当ストロークxdである。このため、エンジン引きずり相当ストロークxdは、トルク−ストロークマップ432に設定されたストローク位置x(ストローク量)と伝達トルク容量TCL1との相関特性に基づき、エンジン引きずりトルクTdから求めることができ、上記(13)の効果を得ることができる。
【0158】
(15)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、エンジンEが自立回転せずに第1クラッチCL1から伝達されるトルクTCL1により回されている状態、または回され始めた状態で、上記伝達トルクTCL1からエンジンEの慣性モーメントIeによるトルク分を除いた、エンジンEの摩擦抵抗によるトルクであるエンジンフリクショントルクTfを算出し、エンジンフリクショントルクTfとエンジン回転数Neの変化率dNe/dtとに基づきエンジン引きずりトルクTdを算出することとした。
【0159】
すなわち、エンジン引きずりトルクTdは、エンジン停止制御終了時のエンジン回転数Neおよび上記(1)式を用いて、(4)TCL1=(Ie・dNe/dt+Tf)により算出され、これにより、上記(13)(14)の効果を得ることができる。
【0160】
(16)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、スタンバイ位置をエンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出することとした。
【0161】
すなわち、スタンバイ位置が実際の締結開始位置x2よりも締結側にオフセットしているとき、伝達トルク容量TCL1(エンジン引きずりトルクTd)が発生する。よって、EV走行中に、上記変数(エンジン引きずりトルクTd)が発生するストローク位置x(スタンバイ位置)は、実際の締結開始位置x2からエンジン引きずり相当ストロークxdだけ締結側に変位していることになる。したがって、上記スタンバイ位置をエンジン引きずり相当ストロークxfだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(13)〜(15)の効果を得ることができる。
【0162】
(17)上記変数はエンジン引きずりトルクTdであり、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の解放から締結への移行時にピストン35がスタンバイ位置まで移動したとき、エンジン引きずりトルクTdの発生を検出することとした。
【0163】
すなわち、エンジン引きずりトルクTdは、HEV走行モードからEV走行モードへの切り替え時に、エンジン停止制御を終了し、スタンバイ位置までのストロークを完了した時点のdNe/dt(<0)を用いて、上記(4)式(Td=Ie・dNe/dt+Tf)により算出される。(4)式により算出された値がゼロより大きいときは、エンジン引きずりトルクTdが発生していると判断する。このとき、スタンバイ位置xをエンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(13)〜(16)の効果を得ることができる。
【0164】
(18)車両の走行距離Lを計測する走行距離計測部435を有し、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、前回の補正を実行した後の走行距離Lが所定値以上となったときに今回の補正を実行することとした。
【0165】
すなわち、走行中に頻繁に上記スタンバイ位置の補正を行うと、車両挙動に影響することも考えられる。よって、走行距離Lが所定値以上となり、現実的に締結開始位置x2にズレが発生することが予想される時点で、上記補正を実行することとした。よって、効果的にスタンバイ位置を適正化できる一方、補正実行回数を制限することで車両挙動を確実に安定化できる、という効果を有する。
【0166】
(19)第1クラッチCL1の摩耗量Sを推定する摩耗量推定手段を有し、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、前回の補正を実行した後の摩耗量Sが所定値以上となったときに今回の補正を実行することとした。具体的には、エンジンEの始動回数に基づき摩耗量Sを推定することとした。
【0167】
このように摩耗量Sが所定値以上となり、現実的に締結開始位置x2にズレが発生することが予想される時点で、上記補正を実行することとした。よって、効果的にスタンバイ位置を適正化できる一方、補正実行回数を制限することで車両挙動を確実に安定化できる、という効果を有する。
【0168】
(20)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、2以上の走行モード移行時にそれぞれ算出した2以上の締結開始位置x2の平均を算出し、この平均位置と一致するように、スタンバイ位置を補正することとしてもよい。
【0169】
すなわち実施例1では、各制御周期で、EV走行モードからHEV走行モードへの移行時、またはHEV走行モードからEV走行モードへの移行時に、実際の締結開始位置x2を算出し、この算出値により、スタンバイ位置(設定された締結開始位置x2)を補正することとした。これに対し、複数の制御周期にわたって学習補正を実行することとしてもよい。すなわち、2以上の上記移行時にそれぞれ算出した締結開始位置x2の平均を算出し、この平均位置と一致するように、上記スタンバイ位置を補正することとしてもよい。この場合、算出の機会が増加するため締結開始位置x2が正確な値となり、伝達トルクCL1の制御精度を向上できる。
【0170】
(21)第1クラッチCL1は乾式の摩擦クラッチであることとした。
【0171】
一般に乾式クラッチは、摩擦板同士が潤滑されないため、締結・解放の動作による摩耗の度合いが激しい。このため、ピストンストローク位置やトルク−ストローク特性の経時変化が、湿式クラッチに比べて大きい。よって、乾式の摩擦クラッチに本発明を適用した場合、上記(1)〜(20)の効果をより効果的に得ることができる。
【0172】
(22)エンジンE側およびモータ(モータジェネレータMG)側の回転部材(フライホイールFW、クラッチディスク32)同士を弾性力により押し付けまたは離間させる弾性部材(皿バネ34)が設けられ、ピストン35は、往復移動することにより弾性部材(皿バネ34)を弾性変形させて、ストローク位置xに応じた伝達トルク容量TCL1を発生させることとした。
【0173】
すなわち弾性部材の弾性変形量と伝達トルク容量TCL1は相関を有している。言い換えれば、弾性部材の変形量と弾性力との相関特性に応じて、ピストン35のストローク位置と伝達トルク容量TCL1との相関特性が決定される。よって、ピストン35のストローク位置xを制御することで所望の伝達トルク容量TCL1を発生させることができる。このようにトルク−ストローク特性を予め明確に把握できるため、これを利用した上記スタンバイ位置の制御や半締結制御が正確かつ確実である、という効果を有する。
【0174】
(23)待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)は、ストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を、上記弾性部材のヒステリシスに応じて、ピストン35の締結側移動時と解放側移動時とでそれぞれ設定し、設定された相関特性に基づき締結開始位置x2を算出することとしてもよい。
【0175】
すなわち実施例1では、ピストン35の締結側ストローク時と解放側ストローク時とで同一のトルク−ストローク特性を設定したが、第1クラッチCL1の弾性部材のヒステリシスに応じて、ストローク方向で異なるトルク−ストローク特性を設定してもよい。このようなトルク−ストロークマップ432を用いた場合、制御の精度を向上できる。具体的には、ピストンストローク量がゼロの時に完全解放される常開式のクラッチでも、完全締結される常閉式のクラッチでも、どちらの形式のクラッチに本発明を適用しても同様に、上記作用効果が得られる、というメリットがある。
【0176】
(24)上記弾性部材は皿バネ34であることとした。
【0177】
一般に、クラッチに用いられる皿バネはレリーズレバーの機能を併せ持っており、皿バネの内周側を押すと、皿バネの中間部を支点として外周側が変位する構成となっている。よって、皿バネ34の内周側34bと、支点となる接触部34aとの間の距離に対して、接触部34aと外周側34cとの間の距離を小さく設定すれば(レリーズレバー比を大きくとれば)、皿バネ34の変形量に対して発生する弾性力の変化量を小さくできる。よって、皿バネ34を用いたとき、上記トルク−ストローク特性においても、ストローク量の変化に対して伝達トルク容量TCL1の変化の割合を小さくできる。これは、トルク−ストローク特性を用いて制御する際、ストローク位置xに応じて伝達トルク容量TCL1をより細かく制御できる自由度が高いことを意味する。したがって、他の弾性部材(例えばコイルバネ)を用いた場合よりも、上記(23)の作用効果を効果的に得ることができる。尚、上記支点となる接触部34aとして、ピボットリング等の部材を新たに設けてもよい。
【0178】
(25)モータ(モータジェネレータMG)と駆動輪RR,RLとの間に介装され、モータ(モータジェネレータMG)と駆動輪RR,RLとを断接する第2クラッチCL2を備えた車両の制御装置であることとした。
【0179】
よって、この形式の車両に本願発明を適用した場合、上記作用効果を得ることができる。
【0180】
(26)モータは発電機能を有するモータジェネレータMGであることとした。
【0181】
よって、この形式の車両に本願発明を適用した場合、上記作用効果を得ることができる。
【0182】
以上、本発明の車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は本発明に含まれる。
【0183】
例えば、実施例1では第1クラッチCL1として単板クラッチを用いたが、多板クラッチを用いることとしてもよい。また、湿式クラッチを用いることとしてもよい。
【0184】
実施例1では、エンジンE側およびモータジェネレータMG側の回転部材(フライホイールFW、クラッチディスク32)同士を弾性力により押し付けまたは離間させる弾性部材として皿バネ34を用いたが、コイルバネ等、他の弾性部材を用いることとしてもよい。
【0185】
実施例1では、第1クラッチCL1として、ピストン35が最小ストローク位置にありストローク量がゼロの時に最大伝達トルク容量TCL1maxとなり完全締結される常閉式のものを用いたが、上記ストローク量がゼロの時に伝達トルク容量TCL1がゼロとなり完全解放される常開式のクラッチを用いることとしてもよい。
【0186】
実施例1では、油圧により移動(ストローク)するピストンを可動子として用いたクラッチに本発明を適用したが、電磁的な吸引力により移動する部材を可動子として用いた電磁クラッチや、アクチュエータ(モータ)により回転駆動されるネジのピッチ量に応じて移動する部材を可動子として用いた、いわゆるEMB(Electric Motor Brake)に本発明を適用することとしてもよい。
【0187】
実施例1では、第2クラッチCL2として自動変速機ATに内蔵されたクラッチを利用する例を示したが、モータジェネレータと変速機との間に第2クラッチCL2を追加して介装したり、または、変速機と駆動輪との間に第2クラッチCL2を追加して介装したりしてもよい。さらには、第1クラッチCL1のみを持つハイブリッド車両にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】実施例1の制御装置が適用された車両を示す全体システム図である。
【図2】第1クラッチの軸方向断面図である。
【図3】第1クラッチの伝達トルク容量とピストンストローク位置との相関を示す特性マップ(トルク−ストロークマップ)である。
【図4】実施例1の制御装置における統合コントローラの制御ブロック図である。
【図5】走行モード選択マップである。
【図6】スタンバイ位置の補正制御を表すフローチャートである。
【図7】トルク−ストロークマップである(締結側オフセット)。
【図8】トルク−ストロークマップである(解放側オフセット:第1クラッチを締結する場合)。
【図9】トルク−ストロークマップである(解放側オフセット:第1クラッチを解放する場合)。
【図10】締結側オフセット時のタイムチャートである。
【図11】解放側オフセット時のタイムチャートである(第1クラッチを締結する場合)。
【図12】解放側オフセット時のタイムチャートである(第1クラッチを解放する場合)。
【符号の説明】
【0189】
E エンジン
A1 エンジン出力軸
FW フライホイール
CL1 第1クラッチ
A2 モータ出力軸
MG モータジェネレータ
CL2 第2クラッチ
AT 自動変速機
RL 左後輪(駆動輪)
RR 右後輪(駆動輪)
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
10 統合コントローラ
12 エンジン回転数センサ
15 ストロークセンサ
21 モータ回転数センサ
32 クラッチディスク
32b クラッチフェーシング
34 皿バネ
35 ピストン
37 レリーズベアリング
430 第1クラッチ制御部
431 目標伝達トルク容量演算部
432 トルク−ストロークマップ
433 目標ストローク位置演算部
434 スタンバイ位置補正部
435 走行距離計測部
436 摩耗量推定部
450 エンジン始動制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源としてエンジンとモータを備えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動力源としてエンジンとモータを備えた車両の制御装置として特許文献1の技術(以下、従来例という)が開示されている。このハイブリッド車両は、エンジンとモータとを断接する入力クラッチと、モータと駆動輪との間に介装された自動変速機と、を備え、走行モードとして、モータのみを動力源として走行するモータ走行モードと、エンジンを動力源に含みながら走行するエンジン走行モードとを有し、走行状態に応じてこれらの走行モードを自動的に切り替えることで、燃費の向上を図っている。
【特許文献1】特開平11−82260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来例にあっては、入力クラッチの係合圧を制御し、モータ走行領域とエンジン走行領域との間に設定したスタンバイ制御領域において、入力クラッチの摩擦部材間の距離を予め詰めておくスタンバイ制御を行う。すなわち、エンジン走行モードに移行する直前、入力クラッチの伝達トルク容量を僅かに発生させつつ、入力クラッチをすぐに完全締結できるぎりぎりの位置に、入力クラッチ油圧サーボのシリンダ内ピストンを待機させておく。これにより、モータ走行モードからエンジン走行モードに切り替えるべく、モータによりエンジンを始動する際、入力クラッチの締結指令から実際に完全締結されるまでの時間を短くして、エンジン始動の応答性を高めている。
【0004】
しかし、この従来例では、ピストン(可動子)に作用する油圧を制御対象とすることで、クラッチの摩擦部材同士の押し付け力を制御するのみであり、ピストンの位置、および(ピストン位置により決定される)摩擦部材の位置を制御対象としない。このため、摩擦部材間の距離を微妙に制御することができない。例えば、伝達トルク容量をゼロとしつつ、伝達トルク容量が発生し始めるぎりぎりの締結開始位置にピストン(摩擦部材)を待機させることができない。
【0005】
よって、エンジンとモータとを断接するクラッチにつき、締結力ではなく、ピストンの位置、および(ピストン位置により決定される)摩擦部材の位置を制御対象とすることが考えられる(以下、比較例とする)。この比較例では、ピストンの位置を直接の制御対象とするため、所望の位置に摩擦部材を待機させることができ、エンジン始動時のクラッチの制御精度を従来例よりも向上できる。
【0006】
しかし、この比較例では、摩擦部材間の距離を実際に検知してピストンの位置を制御するわけではない。このため、摩擦部材が摩耗した等の場合には、目標の待機位置にピストンが位置するように制御指令を出しても、実現される摩擦部材間の距離がばらつくことがある。このばらつきが、エンジン始動時のクラッチ伝達トルクの精度に影響し、エンジン始動時間が不安定となる、という問題があった。
【0007】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、エンジンとモータとを断接するクラッチ(締結要素)の可動子(ピストン)の位置を制御しつつ、摩耗等が発生したときでも、クラッチ制御の精度を維持し、エンジン始動の応答性を高めることができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の車両の制御装置は、エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間に介装され、可動子(ピストン)の位置に応じて伝達トルク容量を変更可能な締結要素(クラッチ)と、前記伝達トルク容量の発生を開始する前記可動子の位置である締結開始位置に待機位置を設定する待機位置設定手段と、前記可動子の位置を前記待機位置に制御する位置制御手段と、前記伝達トルク容量と相関する変数の変化に基づき、前記締結開始位置と前記待機位置とが一致するように、前記待機位置を補正する待機位置補正手段と、を有することとした。
【発明の効果】
【0009】
よって、本発明の車両の制御装置にあっては、可動子(ピストン)の待機位置を補正する待機位置補正手段を有するため、摩耗等が発生したときでも待機位置を適正に制御して、クラッチ制御の精度およびエンジン始動の応答性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
(駆動系の構成)
まず、実施例1における車両の駆動系の構成を説明する。
図1は、実施例1の車両の制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。このハイブリッド車両の駆動系は、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有している。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0012】
エンジンEは、ガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブの開度等が制御される。なお、エンジン出力軸A1にはフライホイールFWが設けられている。
【0013】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装された締結要素であり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧(第1クラッチ圧)により、その締結および解放が制御される。
【0014】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、ダンパを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0015】
(第2クラッチ)
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装された締結要素であり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、その締結および解放が制御される。第2クラッチCL2は、ハイブリッド車両専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の締結要素のうち、いくつかの締結要素を流用している。第2クラッチCL2には、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いているが、他の構成としてもよい。
【0016】
(自動変速機)
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を、車速VSPやアクセル開度APO等に応じて、予めATコントローラ7に記憶された所定の変速マップに従って自動的に切り替える変速機である。自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0017】
(走行モード)
このハイブリッド車両の駆動系は、第1クラッチCL1の締結・解放状態に応じた2つの走行モードを有している。第1の走行モードは、発進時を含む低負荷走行時に、第1クラッチCL1の解放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」)である。
【0018】
第2の走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」)である。例えば急加速時等の高負荷走行時には、車両の要求駆動力が大きく、駆動力としてエンジントルクが必要となる。このため、要求駆動力が所定値以上となった場合等に、第1クラッチCL1を締結してエンジンEを始動し、HEV走行モードに移行する。
【0019】
上記HEV走行モードは、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」の3つの走行モードを有している。「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪RR,RLを動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0020】
上記走行発電モードは、定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させ、発電した電力をバッテリ4の充電のために使用する。また、減速運転時には、制動エネルギーを利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させ、制動エネルギーを回生する。
【0021】
(第1クラッチの構成)
図2は、第1クラッチCL1の軸方向断面を示す。第1クラッチCL1は、手動変速機に用いられるクラッチと同様の乾式単板の摩擦クラッチであり、フライホイールFWに一体結合されたクラッチカバー31内に、クラッチディスク32と、プレッシャプレート33と、皿バネ(ダイヤフラム)34と、を有し、また、(レリーズレバーの機能も果たす)皿バネ34を弾性変形させるレリーズベアリング37と、レリーズベアリング37を軸方向に往復移動させるピストン35と、ピストンを35収容するスリーブシリンダ36と、を有している。
【0022】
クラッチディスク32は、クラッチプレート32aと、クラッチプレート32aの外周側でプレート面に設けられた摩擦部材であるクラッチフェーシング32b、32cと、振動吸収用のトーションスプリング32eを介してクラッチプレート32aに接続されたクラッチハブ32dと、を有している。クラッチハブ32dは、上記ロータに接続したモータ出力軸A2にスプライン結合され、軸方向に摺動可能に設けられている。
【0023】
リング状のスリーブシリンダ36は、そのピストン収容孔36bがエンジンE側に開口するように固定設置されている。スリーブシリンダ36の軸孔36aには、モータ出力軸A2が回転可能に設けられている。リング状のピストン35は、スリーブシリンダ36のピストン収容孔36b内に軸方向に摺動可能に収容されている。収容孔36bの内周面とピストン35のモータジェネレータMG側の端面との間で、油圧室Rが形成されている。第1クラッチ油圧ユニット6(自動変速機ATの油圧コントロールバルブ内)から油圧室Rに作動油が供給されることで、第1クラッチ圧が発生する。作動油が供給・排出され、第1クラッチ圧が制御されることで、ピストン35が軸方向に往復移動する。
【0024】
ピストン35と皿バネ34との間には、スラスト玉軸受けであるレリーズベアリング37が設けられている。レリーズベアリング37は、ピストン35のエンジンE側の端面に対して軸方向で対向配置されたリング状のレリーズベアリング当接部37bと、レリーズベアリング当接部37bとピストン35のエンジンE側の端面との間に転動可能に設置された複数のボール37aと、を有している。レリーズベアリング当接部37bは、ピストン35およびスリーブシリンダ36に対して軸周り方向に回転可能に設けられている。
【0025】
ピストン35の外周面に対向して、ピストン35の軸方向位置、すなわちストローク位置xを検出するストロークセンサ15が設けられている。
【0026】
(第1クラッチの作用)
図2中、中心軸の上側は第1クラッチCL1の完全締結状態を示し、下側は完全解放状態を示す。図3は、ピストン35のストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を示すグラフである。任意の2つのストローク位置xの間の距離が、ピストン35のストローク量である。
【0027】
(完全締結状態)
油圧室Rから作動油が排出され、第1クラッチ圧がゼロのとき、ピストン35は最小ストローク位置にある。ストローク位置xが最小ストローク位置から解放開始位置x1までの完全締結領域にあるとき、第1クラッチCL1の伝達トルク容量TCL1が所定の最大値TCL1maxとなり、完全締結状態となる。このように第1クラッチCL1は、クラッチ圧がゼロに近いときに完全締結される常閉式クラッチである。HEV走行モードでは完全締結状態となり、フライホイールFW(=エンジン出力軸A1)とクラッチディスク32(=モータ出力軸A2)とが一体に回転する。
【0028】
(完全締結状態→完全解放状態)
油圧室Rに作動油が供給されると、第1クラッチ圧によりピストン35が最小ストローク位置からエンジンE側の軸方向に移動する。第1クラッチ圧が一定以上になると、ピストン35と一体に移動するレリーズベアリング当接部37bが皿バネ34の内周側に接触し、エンジンE側に押し付ける。これにより皿バネ34がクラッチカバー31との接触部34aを支点として弾性変形する。よって、皿バネ34がフライホイール30とクラッチフェーシング32bとを押し付ける力が減少し始め、伝達トルク容量TCL1が減少し始める。このときのピストン35のストローク位置xが解放開始位置x1である。以下、最小ストローク位置=解放開始位置x1とみなして説明する。
【0029】
ピストン35が解放開始位置x1よりも解放側、かつ締結開始位置x2よりも締結側のストローク位置にあるとき、第1クラッチCL1が半締結(半クラッチ)状態となる。このストローク領域を半締結領域という。半締結領域では、伝達トルク容量TCL1はゼロから最大値TCL1maxまでの間の値をとり、ストローク位置xに応じて皿バネ34の特性に従って変化する。半締結領域では、所定の伝達トルク容量TCL1が与えられると、それに応じた所定のストローク位置xが一義的に決定される。尚、図3では伝達トルク容量TCL1の増大に応じてストローク位置xが締結側に遷移する線形のグラフを示したが、非線形の特性であってもよい。
【0030】
(完全解放状態)
ピストン35が締結開始位置x2よりも解放側に移動すると、皿バネ34の外周側がモータジェネレータMG側に移動し、皿バネ34の外周側とフライホイールFWとの間の軸方向距離が広がって、両者の間に挟まれたクラッチディスク32およびプレッシャプレート33を軸方向に移動可能とする。よって、クラッチフェーシング32bとフライホイールFWとの間に軸方向隙間ができ、第1クラッチCL1が完全解放される。このようにストローク位置xが締結開始位置x2よりも解放側の完全解放領域にあるとき、第1クラッチCL1の伝達トルク容量TCL1が最小値=ゼロとなり、完全解放状態となる。EV走行モードでは完全解放状態となり、フライホイールFW(=エンジン出力軸A1)とクラッチディスク32(=モータ出力軸A2)とが切り離されて独立回転する。
【0031】
(完全解放状態→完全締結状態)
油圧室Rから作動油が排出され、第1クラッチ圧が低下すると、ピストン35がモータジェネレータMG側の軸方向にストロークする。レリーズベアリング当接部37bに接触した皿バネ34の内周側がモータジェネレータMG側に移動するため、皿バネ34がクラッチカバー31との接触部34aを支点として弾性変形し、皿バネ34の外周側がエンジンE側に移動する。皿バネ34の弾性力により、皿バネ34の外周側がプレッシャプレート33をエンジンE側に押し付ける。
【0032】
プレッシャプレート33が、クラッチディスク32をフライホイールFWに押し付けると、プレッシャプレート33とクラッチフェーシング32cとの間、およびクラッチフェーシング32bとフライホイールFWとの間に摩擦力が発生する。これにより第1クラッチCL1の伝達トルク容量TCL1が発生する。伝達トルク容量TCL1が発生し始めるピストン35のストローク位置が締結開始位置x2である。伝達トルク容量TCL1が発生し始めると、エンジン出力軸A1とモータ出力軸A2との間で伝達トルク容量TCL1を上限とするトルクを伝達可能になる。
【0033】
ストローク位置xが締結開始位置x2よりも締結側の半締結領域にあるとき、半締結状態となり、ストローク位置xに応じたトルク、言い換えれば皿バネ34がフライホイール30とクラッチフェーシング32bとを押し付ける力に応じたトルクが伝達されるようになる。すなわち、伝達トルク容量TCL1は、ピストン35のストローク位置xにより決定され、制御される。
【0034】
(制御系の構成)
次に、実施例1におけるハイブリッド車両の制御系を説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両の制御系は、後述する各種センサおよびスイッチの他、エンジンコントローラ1、モータコントローラ2、インバータ3、バッテリ4、第1クラッチコントローラ5、第1クラッチ油圧ユニット6、ATコントローラ7、第2クラッチ油圧ユニット8、ブレーキコントローラ9、および統合コントローラ10を有している。第1クラッチ油圧ユニット6および第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに備えられた油圧コントロールバルブ内に設けられている。
【0035】
尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、情報交換が可能なCAN通信線11を介して互いに接続されている。
【0036】
各種センサおよびスイッチは、エンジン回転数センサ12、レゾルバ13、第1クラッチ油圧センサ14、ストロークセンサ15、アクセル開度センサ16、車速センサ17、第2クラッチ油圧センサ18、車輪速センサ19、ブレーキストロークセンサ20、モータ回転数センサ21、第2クラッチ出力回転数センサ22、ブレーキ油圧センサ24、およびバッテリ電力センサ25を有している。
【0037】
(エンジンコントローラ)
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12が検出したエンジン回転数Neや統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令Te*等の情報に基づき、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、例えばスロットルバルブアクチュエータへ出力する。エンジン回転数Neの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。尚、エンジン回転数センサ12は、エンジン出力軸A1(クランクシャフト)の回転角度を検出するクランク角センサであり、点火時期や燃料噴射時期の制御に用いられる。検出された上記回転角度からエンジン回転数Ne(回転角速度)を検出可能に設けられている。
【0038】
(モータコントローラ)
モータコントローラ2は、レゾルバ13が検出したモータジェネレータMGのロータ回転位置、および統合コントローラ10からの目標モータトルク指令Tm*等に基づき、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。
【0039】
また、モータジェネレータMGに流れる電流値(電流値の正負によって駆動トルクと回生トルクを区別している)に基づいて、モータジェネレータトルク(以下、モータトルクTmという)を推定するモータトルク推定部2aが設けられている。この推定されたモータトルクTmの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0040】
(第1クラッチコントローラ)
第1クラッチコントローラ5は、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令(目標ストローク位置x*)に基づき、第1クラッチCL1の締結・解放を制御する指令(目標ストローク位置x*を実現する第1クラッチ圧指令値)を演算し、これを第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。また、ストロークセンサ15が検出したストローク位置xと目標ストローク位置x*との偏差に基づき、第1クラッチ圧指令値を補正する。検出したストローク位置xの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10に入力される。
【0041】
(ATコントローラ)
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16が検出したアクセル開度APO、車速センサ(AT出力回転数センサ)17が検出した車速VSP、第2クラッチ油圧センサ18が検出した第2クラッチ圧、および統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令(目標伝達トルク容量TCL2*)等に基づき、第2クラッチCL2の締結・解放を制御する指令を第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。なお、アクセル開度APO、および車速VSPの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10に入力される。
【0042】
(ブレーキコントローラ)
ブレーキコントローラ9は、車輪速センサ19が検出した4輪FR,FL,RR,RLの各車輪速、ブレーキストロークセンサ20が検出したブレーキストロークBS、および統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づき、回生協調ブレーキ制御を行う。例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから算出される要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦制動力)で補うように制御する。
【0043】
(統合コントローラ)
統合コントローラ10は、主に、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせる機能を有している。統合コントローラ10は、モータ回転数センサ21が検出したモータ回転数Nm、第2クラッチ出力回転数センサ22が検出した第2クラッチ出力回転数N2out、ブレーキ油圧センサ24が検出したブレーキ圧、バッテリ電力センサ25が検出したバッテリ4の使用可能な電力容量(以下、バッテリSOC)、およびCAN通信線11を介して得られた各情報、すなわちエンジン回転数Ne、第1クラッチCL1のストローク位置x、第1、第2クラッチ圧、アクセル開度APO、車速VSP、およびブレーキストロークBS等の入力を受ける。
【0044】
(統合コントローラ10の制御内容)
以下に、図4に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有している。
【0045】
(目標駆動力演算)
目標駆動力演算部100では、所定の目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
【0046】
(目標走行モード演算)
モード選択部200では、図5に示すEV-HEV選択マップを用いて、走行状態(アクセルペダル開度APOおよび車速VSP)から、目標走行モードを演算する。但し、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」を目標走行モードとする。
【0047】
(目標充放電演算)
目標充放電演算部300では、所定の目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。
【0048】
動作点指令部400は、エンジン制御部410と、モータ制御部420と、第1クラッチ制御部430と、第2クラッチ制御部440と、エンジン始動制御部450と、を有している。
【0049】
(エンジン制御)
エンジン制御部410は、目標駆動力tFoO等に基づき目標エンジントルクTe*を演算し、これをエンジンコントローラ1に出力して、エンジンEの動作を制御する。
【0050】
(モータ制御)
モータ制御部420は、目標駆動力tFoO等に基づき目標モータ回転数Nm*および目標モータトルクTm*を演算し、これらをモータコントローラ2に出力して、モータジェネレータMGの動作を制御する。
【0051】
(第1クラッチ制御)
第1クラッチ制御部430は、ピストン35の目標ストローク位置x*を演算して第1クラッチコントローラ5に出力する。これにより第1クラッチCL1の締結および解放を制御して、EV走行モードとHEV走行モードを切り換える。また、EV走行モード時には、第1クラッチCL1の締結の準備として、ピストン35をスタンバイ位置に待機させる。
【0052】
(第2クラッチ制御)
第2クラッチ制御部440は、目標駆動力tFoOに基づいて第2クラッチCL2の目標伝達トルク容量TCL2*を演算し、これを変速制御部500に出力して、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2を制御する。
【0053】
(エンジン始動制御)
エンジン始動制御部450は、目標走行モードがEV走行モードからHEV走行モードに切り換わってエンジン始動要求がなされると、エンジンEの始動制御を行う。以下、エンジン始動制御部450の制御内容について説明する。
【0054】
エンジン始動制御部450は、エンジン始動要求がなされると、モータジェネレータMGのトルクをエンジンEに伝達してエンジンEの回転数を引き上げるべく、第1クラッチ制御部430に制御指令を出力して、第1クラッチCL1のスリップ制御を行う。具体的には、半締結領域内で目標伝達トルク容量TCL1*に応じた所定値に目標ストローク位置x*を設定させる。目標伝達トルク容量TCL1*を一定割合で最大値TCL1maxまで上昇させることにより、目標ストローク位置x*を解放開始位置x1まで変化させ、第1クラッチCL1を完全締結状態とする。
【0055】
ここで、エンジンEが自立回転せずに第1クラッチCL1から伝達されるトルクTCL1により回されている状態、または回され始めた状態で、上記伝達トルクTCL1からエンジンEの慣性モーメント(イナーシャ)によるトルク分を除いた、エンジン部品の摩擦抵抗によるトルクをエンジンフリクショントルクTfとする。また、エンジンフリクショントルクTfに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるピストン35のストローク量を、エンジンフリクション相当ストロークxfとする。エンジンフリクション相当ストロークxfは、図3のトルク−ストロークマップ432に設定されたストローク位置x(ストローク量)と伝達トルク容量TCL1の相関特性に基づき、エンジンフリクショントルクTfから求める。
【0056】
エンジンフリクショントルクTfは、以下の方法で求めることができる。モータジェネレータMGが出力するトルクの回転方向を正としたとき、エンジンEが自立回転せずに伝達トルクTCL1により回され、かつ第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2がゼロの状態では、エンジンEおよびモータジェネレータMGについての運動方程式は、それぞれ(1)Ie・dNe/dt=TCL1−Tf、(2)Im・dNm/dt=Tm−TCL1、である。(1)式および(2)式から、(3)Tf=(Tm−Ie・dNe/dt−Im・dNm/dt)となる。ここで、IeおよびImは、それぞれエンジンEおよびモータジェネレータMGのイナーシャであり、予め設定されている。dNe/dtおよびdNm/dtは、それぞれエンジンEおよびモータジェネレータMGの回転角加速度であり、エンジン回転数Neおよびモータ回転数Nmから求められる。
【0057】
変速シフトがP(駐車)レンジの時には、第2クラッチCL2は完全解放状態となり伝達トルク容量TCL2がゼロとなる。よって、例えば暖機のためにPレンジでエンジンEを始動する際、モータトルクTm、Ie・dNe/dt、およびIm・dNm/dtを検出することで、上記(3)式を用いてエンジンフリクショントルクTfを算出できる。尚、dNe/dtおよびdNm/dtがゼロのとき、すなわちエンジン回転数Neとモータ回転数Nmがそれぞれ一定となったとき、Tf=Tmとなり、エンジンフリクショントルクTfはモータトルクTmから算出できる。算出されたエンジンフリクショントルクTfは定数となる。
【0058】
実際の締結開始位置x2から目標ストローク位置x*(=実ストローク位置x)までのストローク量が、エンジンフリクション相当ストロークxfを超えると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfを超える。このエンジンフリクショントルクTfを超えた分の伝達トルク(=TCL1−Tf)によりエンジン出力軸A1が回されてエンジン回転数Neがゼロから上昇する。すなわち、エンジンEのクランキングが行われる。
【0059】
エンジン回転数Neが所定値以上になるとエンジン点火が行われ、エンジンEが自立回転を始める(燃料の供給・燃焼によりエンジンEが作動状態となる)。エンジン回転数Neが自立回転を示す所定値になったことを確認すると、エンジン始動を完了する。
【0060】
また、第1クラッチCL1が完全締結されるまでは、第2クラッチ制御部440に制御指令を出力して、第2クラッチCL2をスリップ制御する。具体的には、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2を目標駆動力tFoOに基づき制御させる。よって、駆動トルクに加えてエンジン始動分のトルクをモータジェネレータMGに発生させても、目標駆動力tFoOを達成しつつ、駆動輪RR,RL側には伝達トルク容量TCL2以上のトルクが出力されることが防止され、安定した走行または滑らかな発進が達成される。エンジン始動が完了すると、第2クラッチCL2を完全締結する。
【0061】
(エンジン停止制御)
エンジン始動制御部450は、目標走行モードがHEV走行モードからEV走行モードに切り換わってエンジン停止要求がなされると、エンジンEの停止制御を行う。具体的には、エンジン停止要求がなされるとエンジン制御部410に制御指令を出力して、エンジンEへの燃料供給を停止させる。また、第1クラッチ制御部430に制御指令を出力して、目標伝達トルク容量TCL1*を一定割合で最小値ゼロまで低下させる。これにより目標ストローク位置x*を締結開始位置x2まで変化させ、第1クラッチCL1を完全解放状態として、エンジン停止を完了する。尚、エンジン始動制御と同様、第2クラッチCL2をスリップ制御する。
【0062】
(変速制御)
動作点指令部400は、シフトスケジュールに沿って目標変速段(目標ATシフト)を自動的に設定し、変速制御部500に出力する。変速制御部500は、この目標変速段を達成するように、自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御し、自動変速機AT内の各クラッチの伝達トルクを制御する。尚、このシフトスケジュールは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものであり、アップシフト線、ダウンシフト線等が設定されている。
【0063】
(第1クラッチ制御の詳細)
図4に示すように、第1クラッチ制御部430は、目標伝達トルク容量演算部431と、トルク−ストロークマップ432と、目標ストローク位置演算部433と、スタンバイ位置補正部434と、を有している。
【0064】
目標伝達トルク容量演算部431は、エンジン回転数Neやモータ回転数Nm等に基づき、第1クラッチCLの伝達トルク容量TCL1の目標値、すなわち目標伝達トルク容量TCL1*を演算する。
【0065】
トルク−ストロークマップ432は、図3のグラフと同様の、ピストン35のストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を示すマップである。この相関特性(以下、トルク−ストローク特性という)は、予め設計値としてトルク−ストロークマップ432に規定されている。
【0066】
目標ストローク位置演算部433は、目標走行モードや目標伝達トルク容量TCL1*に基づき、トルク−ストロークマップ432を用いて、ストローク位置xの目標値である目標ストローク位置x*を演算する。EV走行モード時には、目標ストローク位置x*を締結開始位置x2に設定し、ピストン35を締結開始位置x2に待機させる。HEV走行モード時には、目標ストローク位置x*を解放開始位置x1(最小ストローク位置)に設定し、第1クラッチCL1を完全締結させる。EV走行モードとHEV走行モードの切り換え時には、半締結領域内で目標伝達トルク容量TCL1*に応じた所定値に目標ストローク位置x*を設定し、第1クラッチCL1のスリップ制御を行う。
【0067】
スタンバイ位置補正部434は、トルク−ストロークマップ432に設定された締結開始位置x2を学習補正する。具体的には、各制御周期で、EV走行モードからHEV走行モードへの移行時、またはHEV走行モードからEV走行モードへの移行時に、伝達トルク容量TCL1と相関する変数の変化を検出することに基づき実際の締結開始位置x2を算出し、この算出値により、上記設定された締結開始位置x2を補正する。次回以降の第1クラッチCL1の制御において、補正後の締結開始位置x2をスタンバイ位置として用いる。
【0068】
スタンバイ位置補正部434は、走行距離計測部435と摩耗量推定部436を有している。走行距離計測部435は、締結開始位置x2の補正を前回実行した時点から現時点までの車両の走行距離Lを計測する。摩耗量推定部436は、締結開始位置x2の補正を前回実行した時点から現時点までのエンジンEの始動回数、言い換えれば第1クラッチCL1の締結回数を検出し、この回数に基づき、上記2時点間における第1クラッチCL1の摩耗量Sを推定する。
【0069】
(スタンバイ位置の補正制御)
EV走行中、第1クラッチCL1のプレッシャプレート33は、伝達トルク容量TCL1を発生せず、かつエンジン始動要求後は速やかに伝達トルク容量TCL1を発生可能な位置(スタンバイ位置)に待機させることが望ましい。以下、ピストン35のスタンバイ位置をプレッシャプレート33のスタンバイ位置とみなして説明する。図3のマップに示すように、EV走行中のピストン35のスタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に制御されていれば、伝達トルク容量TCL1がゼロであり、かつ速やかに伝達トルク容量TCL1を発生可能である。
【0070】
しかし、スタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に対して解放側に離れたストローク位置x2' に制御されている場合、エンジン始動要求が出た後、実際に伝達トルク容量TCL1が発生するまでの間、ピストン35が|x2''−x2'|だけストロークする必要がある。このストローク量に対応した距離だけプレッシャプレート33やクラッチディスク32が移動する必要があり、この移動に要する時間だけエンジン始動時間が長くなる。よって、エンジン始動の応答性が低下する。
【0071】
一方、スタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に対して締結側に離れたストローク位置x2'' に制御されている場合、EV走行中の目標伝達トルク容量TCL1はゼロであるにもかかわらず、実際には伝達トルク容量TCL1'' が発生しており、モータジェネレータMGからエンジンEに対してトルクが伝達されている。このため、EV走行中に、モータジェネレータMGにはエンジンフリクション等に起因する負荷トルクが作用し、無駄なバッテリ電力を消費することでEV走行時間が短くなって、燃費が悪化する。さらに、摩擦部材(クラッチフェーシング32b等)の無駄な摩耗や発熱が増加し、第1クラッチCL1の特性(摩擦部材間の滑り速度に対する摩擦力の特性を示すμ−ν特性)や耐久性が悪化する。
【0072】
このように、目標のスタンバイ位置となる締結開始位置x2にピストン35が位置するように制御指令を出しても、制御されるストローク位置xが実際の締結開始位置x2に対して解放側や締結側に離れた位置となる場合がある。これは、第1クラッチCL1の組み付け時に摩擦部材(クラッチフェーシング32b等)間のクリアランス等に個体差があり、そのため実際の締結開始位置x2(初期位置)にも個体差があるからである。また、摩擦部材が摩耗すると、実際の締結開始位置x2も経時変化により変動するからである。
【0073】
よって、本発明の制御装置は、目標スタンバイ位置としてトルク−ストロークマップ432に設定された締結開始位置x2の補正制御を行う。以下、スタンバイ位置補正部434による制御内容を、図6のフローチャート、および図7〜図9のトルク−ストロークマップ432に基づき説明する。
【0074】
図6は、スタンバイ位置の学習補正の流れを示す。まず、補正の開始条件が成立したか否かを判定する。開始条件が成立したときは制御を開始し、開始条件が不成立であるときは前回のスタンバイ位置(トルク−ストロークマップ432に設定された締結開始位置x2)を保持する。上記開始条件は、上記計測した走行距離Lが所定の閾値以上となったこと、または上記推定した摩耗量Sが所定の閾値以上となったことである。尚、これら2条件がともに成立したことを開始条件としてもよいし、第1クラッチCL1の摩耗を示す他の変数を用いて開始条件を設定してもよい。
【0075】
ステップS1では、目標走行モードがEV走行モードであるか否かを判定する。EV走行中であるときはステップS2に進み、それ以外のときはステップS7に進む。
【0076】
(締結側オフセット時)
ステップS2では、エンジン引きずりトルクTdが発生しているか否かを判定する。エンジン引きずりトルクTdが発生していればステップS3に進み、発生していなければステップS4に進む。
【0077】
ここで、エンジン引きずりトルクTdとは、エンジン停止制御の終了時にスタンバイ位置、すなわち(トルク−ストロークマップ432に設定された)締結開始位置x2まで目標ストローク位置x*(=実ストローク位置x)を変化させたときに発生している伝達トルク容量TCL1をいう。エンジン引きずりトルクTdは、エンジン停止制御終了時のエンジン回転数Neおよび上記(1)式を用いて、(4)TCL1=(Ie・dNe/dt+Tf)により算出される。(4)式により算出されたTCL1=Tdがゼロより大きいときは、エンジン引きずりトルクが発生していると判断する。
【0078】
また、エンジン引きずりトルクTdに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるピストン35のストローク量を、エンジン引きずり相当ストロークxdとする。エンジン引きずり相当ストロークxdは、図7に示すように、トルク−ストロークマップ432に設定されたストローク位置x(ストローク量)と伝達トルク容量TCL1の相関特性に基づき、エンジン引きずりトルクTdから求める。
【0079】
ステップS3では、スタンバイ位置(エンジン停止制御終了時のストローク位置x)とエンジン引きずりトルク相当ストローク量xdとに基づき、実際の締結開始位置x2を算出する。具体的には、図7に示すように、スタンバイ位置からエンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側にオフセットさせた位置を、実際の締結開始位置x2として算出する。
【0080】
また、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性は、図7の点線のように締結側にオフセットしていると考えられるため、このトルク−ストローク特性を、エンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側にオフセットさせて補正する(図7の実線)。尚、本実施例1では、トルク−ストローク特性において、ストローク量と伝達トルク容量TCL1との関係(グラフの傾き)は変化しないものと仮定する。その後、ステップS10に移る。
【0081】
ステップS4では、目標モードがEV走行モードからHEV走行モードへ移ったか、すなわちエンジン始動要求がなされたか否かを判定する。エンジン始動要求がなされたときはステップS5に移り、それ以外のときはステップS4を繰り返す。
【0082】
(解放側オフセット時)
ステップS5では、エンジン回転数Neがゼロ以上か否か、すなわちエンジン回転が発生したか否かを判定する。エンジン回転を検出したときはステップS6に移り、検出しないときはステップS5を繰り返す。
【0083】
ステップS6では、その時点のストローク位置xを読み込み、読み込んだ位置とエンジンフリクション相当ストロークxfとに基づき、実際の締結開始位置x2を算出する。具体的には、図8に示すように、読み込んだストローク位置からエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側にオフセットさせた位置を、実際の締結開始位置x2として算出する。その後、ステップS10に移る。
【0084】
また、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性に基づきエンジン回転の発生を予想していたストローク位置が、実際のエンジン回転発生時に読み込んだストローク位置に対して、例えば所定のストローク量αだけ解放側にオフセットしていた場合、設定されたトルク−ストローク特性は、実際の特性に対して、図8の点線のようにストローク量αだけ解放側にオフセットしていると考えられる。
【0085】
ストローク量と伝達トルク容量TCL1との関係(グラフの傾き)は変化しないとみなせるため、設定していたトルク−ストローク特性を、検出したストローク量αだけ締結側にオフセットさせて補正する(図8の実線)。その後、ステップS10に移る。尚、補正後のトルク−ストローク特性に基づいて、実際の締結開始位置x2を算出してもよい。
【0086】
ステップS7では、目標モードがHEV走行モードからEV走行モードへ移ったか、すなわちエンジン停止要求がなされたか否かを判定する。エンジン停止要求がなされたときはステップS5に移り、それ以外のときはステップS7を繰り返す。
【0087】
ステップS8では、エンジン回転数Neとモータ回転数Nmの差がゼロ以上か否か、すなわち差回転が発生したか否かを判定する。差回転を検出したときはステップS9に移り、検出しないときはステップS8を繰り返す。
【0088】
ステップS9では、その時点のストローク位置xを読み込み、読み込んだ値とエンジンフリクション相当ストロークxfとに基づき、実際の締結開始位置x2を算出する。具体的には、図9に示すように、読み込んだストローク位置からエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側にオフセットさせた位置を、実際の締結開始位置x2として算出する。
【0089】
また、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性に基づき差回転の発生を予想していたストローク位置が、実際の差回転発生時に読み込んだストローク位置に対して、例えば所定のストローク量βだけ解放側にオフセットしていた場合、設定されたトルク−ストローク特性は、実際の特性に対して、図9の点線のようにストローク量βだけ解放側にオフセットしていると考えられる。
【0090】
ストローク量と伝達トルク容量TCL1との関係(グラフの傾き)は変化しないとみなせるため、設定していたトルク−ストローク特性を、検出したストローク量βだけ締結側にオフセットさせて補正する(図9の実線)。その後、ステップS10に移る。尚、補正後のトルク−ストローク特性に基づいて、実際の締結開始位置x2を算出してもよい。
【0091】
ステップS10では、算出した実際の締結開始位置x2により、設定されていた締結開始位置x2を更新し、更新した締結開始位置x2を、次回以降のEV走行においてスタンバイ位置として用いる。また、補正したトルク−ストローク特性により、設定されていたトルク−ストローク特性を更新し、更新したトルク−ストローク特性(トルク−ストロークマップ432)を、次回以降のクラッチ制御に用いる。
【0092】
(タイムチャート)
図10〜図12は、ストローク位置x、伝達トルク容量TCL1、およびエンジン回転数Ne(およびモータ回転数Nm)のタイムチャートである。締結開始位置x2の補正制御前を点線で示し、補正制御後を実線で示す。
【0093】
(締結側オフセット時)
図10は、補正制御前に、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性が締結側にオフセットしていた場合を示す。HEV走行モードからEV走行モードに切り替わり、第1クラッチCL1を解放してエンジン停止制御を実行する際のタイムチャートである。
【0094】
(補正前)
時刻t0までは、HEV走行中である。ストローク位置は完全締結位置x0にあり、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxである。また、エンジン回転数はNe1で一定であり、エンジンEの回転加速度dNe/dtはゼロである。
【0095】
時刻t0で、目標モードがHEV走行モードからEV走行モードへ移り、エンジン停止要求がなされる。時刻t0以後、エンジン停止制御が実行され、エンジンEへの燃料供給が停止される。これによりエンジンEが自立回転をやめる。また、時刻t0以後、ストローク位置xが一定割合で解放側に変化する。
【0096】
時刻t1で、ストローク位置xが解放開始位置x1となり、時刻t1以後、伝達トルク容量TCL1が一定割合で低下する。
【0097】
時刻t2で、実際の締結開始位置x2からのストローク量がエンジンフリクション相当ストロークxfになると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfまで低下する。時刻t2以後、TCL1<Tfとなるため、上記(1)式(Ie・dNe/dt=TCL1−Tf)より、dNe/dt<0となる。すなわち、エンジン回転数Neが低下する。
【0098】
時刻t3で、スタンバイ位置、すなわちトルク−ストロークマップ432に設定された締結開始位置x2までストローク位置が変化する。これにより、エンジン停止制御を終了し、EV走行への切り替えを完了する。このとき、上記スタンバイ位置は、実際の締結開始位置x2よりもエンジン引きずり相当ストロークxdだけ締結側にオフセットしており、伝達トルク容量TCL1(エンジン引きずりトルクTd)が発生している。エンジン引きずりトルクTdは、時刻t3におけるdNe/dt(<0)と、予め算出したエンジンフリクショントルクTfとを用いて、上記(4)式(Td=Ie・dNe/dt+Tf)により算出される。
【0099】
時刻t3以後、ストローク位置xは上記スタンバイ位置に設定されるため、一定の伝達トルク容量TCL1(=エンジン引きずりトルクTd)が発生し続ける。上記(1)式から、dNe/dt=(Td−Tf)/Ieとなり、このdNe/dtに応じた割合でエンジン回転数Neが低下する。時刻t6で、エンジン回転数Neがゼロまで低下する。
【0100】
(補正時)
尚、所定の条件(ステップS1,S2)が成立したときには、時刻t3で、補正制御を実行する。すなわち、時刻t3で読み込んだストローク位置xからエンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側にオフセットさせて、実際の締結開始位置x2を算出する。算出した締結開始位置x2を、補正後のスタンバイ位置に設定する。また、トルク−ストロークマップ432(トルク−ストローク特性)を、エンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側にオフセットさせて補正する。
【0101】
(補正後)
時刻t1までは、HEV走行中である。ストローク位置は解放開始位置x1にあり、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxである。時刻t1で、目標モードがHEV走行モードからEV走行モードへ移り、エンジン停止要求がなされる。時刻t1以後、エンジン停止制御が実行され、エンジンEへの燃料供給が停止される。これによりエンジンEが自立回転をやめる。また、時刻t1以後、ストローク位置xが一定割合で解放側に変化し、伝達トルク容量TCL1が一定割合で低下する。
【0102】
時刻t1から時刻t3までは、補正前と同様である。補正によりスタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に再設定されている。このため、時刻t3以後も、ストローク位置xは解放側に変化し続ける。
【0103】
時刻t4で、設定された締結開始位置x2までストローク位置xが変化する。これにより、エンジン停止制御を終了し、EV走行への切り替えを完了する。このとき、上記スタンバイ位置は、実際の締結開始位置x2と一致しているため、エンジン引きずりトルクTdは発生せず、伝達トルク容量TCL1はゼロである。
【0104】
時刻t4以後、ストローク位置xは上記スタンバイ位置に設定されるため、伝達トルク容量TCL1はゼロに維持される。上記(1)式から、dNe/dt=(−Tf)/Ieとなり、このdNe/dtに応じた割合でエンジン回転数Neが低下する。時刻t5で、エンジン回転数Neがゼロまで低下する。
【0105】
(解放側オフセット時…第1クラッチを締結する場合)
図11は、補正制御前に、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性が所定のストローク量αだけ解放側にオフセットしていた場合を示す。EV走行モードからHEV走行モードに切り替わり、第1クラッチCL1を締結してエンジン始動制御を実行する際のタイムチャートである。
【0106】
(補正前)
時刻t0までは、EV走行中である。ストローク位置xは、実際の締結開始位置x2よりもストローク量αだけ解放側のスタンバイ位置にあり、伝達トルク容量TCL1はゼロである。また、エンジン回転数Neはゼロである。
【0107】
時刻t0で、目標モードがEV走行モードからHEV走行モードへ移り、エンジン始動要求がなされる。時刻t0以後、エンジン始動制御が実行され、ストローク位置xが一定割合で締結側に変化する。
【0108】
時刻t1で、ストローク位置xが実際の締結開始位置x2になると、伝達トルク容量TCL1が発生し、第1クラッチCL1が締結され始める。時刻t1以後、伝達トルク容量TCL1が一定割合で増大する。
【0109】
時刻t2で、実際の締結開始位置x2からのストローク量がエンジンフリクション相当ストロークxfになると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfまで増大する。時刻t2以後、TCL1>Tfとなるため、上記(1)式(Ie・dNe/dt=TCL1−Tf)より、dNe/dt>0となる。よって、時刻t2で、エンジン回転数Neが発生し、上昇し始める。すなわち、時刻t2以後、エンジンEのクランキングが行われる。
【0110】
時刻t3で、トルク−ストロークマップ432に設定された解放開始位置x1'までストローク位置が変化し、伝達トルク容量TCL1はTCL1max'まで増大する。解放開始位置x1'は、実際の解放開始位置x1よりもストローク量αだけ解放側に設定されている。時刻t3以後、ストローク位置xは解放開始位置x1'に維持されるとともに、伝達トルク容量TCL1はTCL1max'に維持される。尚、TCL1max'=TCL1maxであり、完全締結状態が実現されるものとする。
【0111】
時刻t5で、エンジン回転数Neが所定値Ne0となる。エンジン回転数NeがNe0以上になると、エンジン点火および燃料供給が行われ、これによりエンジンEが自立回転を始める。
【0112】
時刻t6で、エンジン回転数Neが自立回転を示す所定値Ne1になる。これによりエンジン始動制御を終了し、HEV走行への切り替えを完了する。
【0113】
(補正時)
尚、所定の条件(ステップS4,S5)が成立したときには、時刻t2で、補正制御を実行する。すなわち、時刻t2で読み込んだストローク位置xからエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側にオフセットさせて、実際の締結開始位置x2を算出する。算出した締結開始位置x2を、補正後のスタンバイ位置に設定する。また、トルク−ストロークマップ432(トルク−ストローク特性)を、検出したストローク量αだけ締結側にオフセットさせて補正する。
【0114】
(補正後)
時刻t1までは、EV走行中である。補正によりスタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に再設定されている。よって、ストローク位置は実際の締結開始位置x2にあり、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxである。時刻t1で、目標モードがEV走行モードからHEV走行モードへ移り、エンジン始動要求がなされる。時刻t1以後、エンジン始動制御が実行され、ストローク位置xが一定割合で締結側に変化する。
時刻t1から時刻t3までは補正前と同様である。
【0115】
補正によりトルク−ストロークマップ432の解放開始位置x1が実際の解放開始位置x1に再設定されている。このため、再設定された解放開始位置x1までストローク位置xが変化する(時刻t4)。このとき、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxまで増大する。時刻t4以後、ストローク位置xは解放開始位置x1に維持されるとともに、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxに維持される。
時刻t4から時刻t6までは補正前と同様である。
【0116】
(解放側オフセット時…第1クラッチを解放する場合)
図12は、補正制御前に、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性が所定のストローク量βだけ解放側にオフセットしていた場合を示す。HEV走行モードからEV走行モードに切り替わり、第1クラッチCL1を解放してエンジン停止制御を実行する際のタイムチャートである。
【0117】
(補正前)
時刻t1までは、HEV走行中である。ストローク位置は、解放開始位置x1よりもストローク量βだけ解放側のx1' にあり、伝達トルク容量TCL1はTCL1max'である。尚、TCL1max'=TCL1maxであり、完全締結状態が保たれ、エンジン回転数Neとモータ回転数Nmは一致しているものとする。また、エンジン回転数およびモータ回転数はNe1=Nm1で一定であり、エンジンEの回転加速度dNe/dtはゼロである。
【0118】
時刻t1で、目標モードがHEV走行モードからEV走行モードへ移り、エンジン停止要求がなされる。時刻t1以後、エンジン停止制御が実行され、エンジンEへの燃料供給が停止される。これによりエンジンEが自立回転をやめる。また、時刻t1以後、ストローク位置xが解放側に変化し、伝達トルク容量TCL1が一定割合で低下する。
【0119】
時刻t2で、実際の締結開始位置x2からのストローク量がエンジンフリクション相当ストロークxfになると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfまで低下する。時刻t2以後、TCL1<Tfとなるため、上記(1)式(Ie・dNe/dt=TCL1−Tf)より、dNe/dt<0となる。よって、時刻t2で、エンジン回転数Neが低下し始める。一方、モータ回転数Nmは一定値Nm1に維持される。したがって、時刻t2で、エンジン回転数Neとモータ回転数Nmとの差がゼロ以上となり、差回転が発生する。
【0120】
時刻t3で、実際の締結開始位置x2までストローク位置が変化し、伝達トルク容量TCL1はゼロまで低下する。時刻t3以後、伝達トルク容量TCL1はゼロに維持される。
【0121】
時刻t4で、スタンバイ位置、すなわちトルク−ストロークマップ432に設定された締結開始位置x2までストローク位置が変化する。これにより、エンジン停止制御を終了し、EV走行への切り替えを完了する。上記スタンバイ位置は、実際の締結開始位置x2よりもストローク量βだけ解放側にオフセットしている。
【0122】
(補正時)
尚、所定の条件(ステップS7,S8)が成立したときには、時刻t2で、補正制御を実行する。すなわち、時刻t2で読み込んだストローク位置xからエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側にオフセットさせて、実際の締結開始位置x2を算出する。算出した締結開始位置x2を、補正後のスタンバイ位置に設定する。また、トルク−ストロークマップ432(トルク−ストローク特性)を、検出したストローク量βだけ締結側にオフセットさせて補正する。
【0123】
(補正後)
時刻t0までは、HEV走行中である。ストローク位置は解放開始位置x1にあり、伝達トルク容量TCL1はTCL1maxである。時刻t0で、目標モードがHEV走行モードからEV走行モードへ移り、エンジン停止要求がなされる。時刻t0以後、エンジン停止制御が実行され、エンジンEへの燃料供給が停止される。これによりエンジンEが自立回転をやめる。また、時刻t0以後、ストローク位置xが一定割合で解放側に変化し、伝達トルク容量TCL1が一定割合で低下する。
【0124】
時刻t1から時刻t3までは、補正前と同様である。補正によりスタンバイ位置が実際の締結開始位置x2に再設定されている。
【0125】
時刻t3で、再設定された締結開始位置x2までストローク位置xが変化する。これにより、エンジン停止制御を終了し、EV走行への切り替えを完了する。このとき、上記スタンバイ位置は、実際の締結開始位置x2と一致しているため、スタンバイ位置の解放側へのオフセットは発生せず、かつ伝達トルク容量TCL1はゼロである。
【0126】
時刻t3以後、ストローク位置xは上記スタンバイ位置に設定されるため、伝達トルク容量TCL1はゼロに維持される。上記(1)式から、dNe/dt=(−Tf)/Ieとなり、このdNe/dtに応じた割合でエンジン回転数Neが低下する。時刻t5で、エンジン回転数Neがゼロまで低下する。
【0127】
[実施例1の作用効果]
以下、実施例1から把握される、本発明の車両の制御装置が有する作用効果を列挙する。
【0128】
(1)本発明の車両の制御装置は、エンジンEと、モータ(モータジェネレータMG)と、エンジンEと上記モータとの間に介装され、可動子(ピストン35)の位置に応じて伝達トルク容量TCL1を変更可能な締結要素(第1クラッチCL1)と、伝達トルク容量TCL1の発生を開始する可動子(ピストン35)の位置である締結開始位置x2にスタンバイ位置を設定する待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)と、可動子(ピストン35)の位置をスタンバイ位置に制御する位置制御手段(第1クラッチ制御部430)と、伝達トルク容量TCL1と相関する変数(エンジン回転数Ne等)の変化に基づき、締結開始位置x2とスタンバイ位置とが一致するように、スタンバイ位置を補正する待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)と、を有することとした。
【0129】
よって、ピストン35を締結開始位置x2に待機させることで、第1クラッチCL1の締結指令から実際に伝達トルク容量TCL1が発生してエンジンEが始動されるまでの時間が著しく短縮され、エンジン始動の応答性を向上できる。特に、第1クラッチCL1を解放しモータジェネレータMGの駆動力のみで走行するEV走行モードと、第1クラッチCL1を締結しエンジンEの駆動力を用いて走行するHEV走行モードと、を切り替え可能な車両に適用した場合、EV走行モード時にピストン35を締結開始位置x2に待機させることにより、EV走行中に伝達トルク容量TCL1をゼロとしつつ、HEV走行モードに切り換える際、速やかに伝達トルク容量TCL1を発生できる。
【0130】
また、仮にクラッチの摩擦部材同士の押し付け力(締結力)のみを制御する構成とすると、ピストンの位置を直接の制御対象としないため、伝達トルク容量をゼロとしつつ速やかに締結可能な微妙な位置にピストンを制御できない。これに対し、本発明はピストン35のストローク位置xを直接の制御対象とするピストン位置制御手段(第1クラッチ制御部430)を有しているため、所望の位置にピストン35を待機させることができ、エンジン始動時の第1クラッチCL1の制御精度を向上できる。
【0131】
さらに、スタンバイ位置を学習補正する待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)を有する。このため、第1クラッチCL1が摩耗したり、個体差(組み付けクリアランス)によりバラツキが生じたりして、設定値(スタンバイ位置)が実際の締結開始位置x2に対してズレたときでも、設定値(スタンバイ位置)を適正に補正できる。よって、第1クラッチCL1の耐久性や特性を維持し、かつ燃費の悪化を防止しつつ、クラッチ制御の精度を維持して、エンジン始動の応答性を確実に向上できる、という効果を有する。
【0132】
(2)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の締結から解放への移行時、または解放から締結への移行時に、実際の締結開始位置x2を算出することとした。
【0133】
すなわち、第1クラッチCL1の締結から解放への移行時、または解放から締結への移行時には、伝達トルク容量TCL1と相関する変数(エンジン回転数Ne等)の変化が発生する。よって、HEV走行モードからEV走行モードへの切り替え時であっても、またEV走行モードからHEV走行モードへの切り替え時であっても、上記変化を検出することで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(1)の効果を得ることができる。
【0134】
(3)待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)は、ストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を予め設定し、上記設定された相関特性に基づき締結開始位置x2を算出することとした。
【0135】
このようにトルク−ストロークマップ432を有することで、EV走行中にトルク−ストロークマップ432に基づきピストン35をスタンバイ位置に制御できるだけでなく、エンジン始動等の際、トルク−ストロークマップ432に基づきストローク位置xを制御して所望の伝達トルク容量TCL1を得ることができ(第1クラッチCL1の半締結制御)、上記(1)(2)の効果を得ることができる。
【0136】
(4)ストローク位置xを検出するピストン位置検出手段(ストロークセンサ15)を備え、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の解放から締結への移行時、または締結から解放への移行時に上記変数(エンジン回転数Ne等)の変化を検出し、上記変化を検出したときのストローク位置xと、上記設定された相関特性により上記変数の変化が予測されるストローク位置xとの差の分だけ、上記設定された相関特性を締結側にずらして補正し、補正後の相関特性に基づき締結開始位置x2を算出することとした。
【0137】
すなわち、ストロークセンサ15の検出値に基づきスタンバイ位置を適正化できる。また、検出したストローク位置xに基づきトルク−ストロークマップ432を補正することで、第1クラッチCL1の摩耗等により締結開始位置x2がズレたときでも、トルク−ストロークマップ432の特性を適正化できる。よって、実際の締結開始位置x2が変化した場合であっても、スタンバイ位置を適正化してエンジン始動の応答性を向上できるだけでなく、トルク−ストロークマップ432の特性を適正化して半締結制御におけるクラッチ制御性を向上できる、という効果を有する。
【0138】
(5)上記変数はエンジン回転数Neであり、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の解放から締結への移行時に、エンジン回転数Neの発生を検出し、また、上記設定された相関特性によりエンジン回転数Neの発生が予測されるピストン35のストローク位置xを同定することとした。
【0139】
例えばEV走行モードからHEV走行モードへの切り替え時には、エンジン回転数Neの発生を検出したときのストローク位置xと、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性によりエンジン回転数Neの発生が予測されるストローク位置xと、の差αの分だけ、上記設定されたトルク−ストローク特性は解放側にオフセットしている(図8)。よって、このトルク−ストローク特性を締結側に全体的にストローク量αだけずらして補正し、補正後のトルク−ストローク特性に基づき締結開始位置x2を算出することで、上記(4)の効果を得ることができる。
【0140】
(6)上記変数はエンジン回転数Neとモータ回転数Nmとの差であり、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の締結から解放への移行時に、上記差回転の発生を検出し、また、上記設定された相関特性により上記差回転の発生が予測されるピストン35のストローク位置xを同定することとした。
【0141】
また、HEV走行モードからEV走行モードへの切り替え時には、エンジン回転数Neとモータ回転数Nmとの差の発生を検出したときのストローク位置xと、トルク−ストロークマップ432に設定されたトルク−ストローク特性により上記差回転の発生が予測されるストローク位置xと、の差βの分だけ、上記設定されたトルク−ストローク特性は解放側にオフセットしている(図9)。よって、このトルク−ストローク特性を締結側に全体的にストローク量βだけずらして補正し、補正後のトルク−ストローク特性に基づき締結開始位置x2を算出することで、上記(4)(5)の効果を得ることができる。
【0142】
(7)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、エンジンEが自立回転せずに第1クラッチCL1から伝達されるトルクTCL1により回されている状態、または回され始めた状態で、上記伝達トルクTCL1からエンジンEの慣性モーメントIeによるトルク分を除いた、エンジンEの摩擦抵抗によるトルクであるエンジンフリクショントルクTfを算出し、エンジンフリクショントルクTfに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるストローク量xであるエンジンフリクション相当ストロークxfを算出し、エンジンフリクション相当ストロークxfを用いて、実際の締結開始位置x2を算出することとした。
【0143】
すなわち、実際の締結開始位置x2から締結側の目標ストローク位置x*(=実ストローク位置x)までのストローク量が、エンジンフリクション相当ストロークxfを超えると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfを超える。このエンジンフリクショントルクTfを超えた分の伝達トルク(=TCL1−Tf)によりエンジン出力軸A1が回される。よって、上記変数(エンジン回転数Ne等)の変化が発生するストローク位置xとエンジンフリクション相当ストロークxfとを用いて、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(1)〜(6)の効果を得ることができる。
【0144】
(8)モータトルクTmを検出するモータトルク検出手段(モータトルク推定部2a)を備え、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、モータトルクTmに基づきエンジンフリクショントルクTfを算出することとした。
【0145】
すなわち、所定の条件下で、エンジンEおよびモータジェネレータMGについての運動方程式は、それぞれ(1)Ie・dNe/dt=TCL1−Tf、(2)Im・dNm/dt=Tm−TCL1、である。(1)式および(2)式から、(3)Tf=(Tm−Ie・dNe/dt−Im・dNm/dt)となる。よって、例えばPレンジでエンジンEを始動する際、モータトルクTm、Ie・dNe/dt、およびIm・dNm/dtを検出することで、上記(3)式を用いてエンジンフリクショントルクTfを算出できる。また、dNe/dtおよびdNm/dtがゼロのとき、すなわちエンジン回転数Neとモータ回転数Nmがそれぞれ一定となったとき、Tf=Tmとなり、エンジンフリクショントルクTfはモータトルクTmから算出でき、上記(7)の効果を得ることができる。
【0146】
(9)待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)は、ストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を予め設定し、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、エンジンフリクショントルクTfと上記設定された相関特性とに基づきエンジンフリクション相当ストロークxfを算出することとした。
【0147】
すなわち、エンジンフリクショントルクTfに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるピストン35のストローク量がエンジンフリクション相当ストロークxfである。このため、エンジンフリクション相当ストロークxfは、トルク−ストロークマップ432に設定されたストローク位置x(ストローク量)と伝達トルク容量TCL1との相関特性に基づき、エンジンフリクショントルクTfから求めることができ、上記(7)(8)の効果を得ることができる。
【0148】
(10)ストローク位置xを検出するピストン位置検出手段(ストロークセンサ15)を備え、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の解放から締結への移行時、または締結から解放への移行時に上記変数(エンジン回転数Ne等)の変化を検出し、上記変化を検出したときのストローク位置xをエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出することとした。
【0149】
すなわち、実際の締結開始位置x2から締結側の目標ストローク位置x*(=実ストローク位置x)までのストローク量が、エンジンフリクション相当ストロークxfを超えると、伝達トルク容量TCL1がエンジンフリクショントルクTfを超える。このエンジンフリクショントルクTfを超えた分の伝達トルク(=TCL1−Tf)によりエンジン出力軸A1が回され、上記変数(エンジン回転数Ne等)の変化が発生する。よって、EV走行モードからHEV走行モードへの切り替え時、またはHEV走行モードからEV走行モードへの切り替え時に、上記変数(エンジン回転数Ne等)の変化が発生した時点のストローク位置xは、実際の締結開始位置x2からエンジンフリクション相当ストロークxfだけ締結側に変位していることになる。したがって、上記変化を検出したときのストローク位置xをエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(7)〜(9)の効果を得ることができる。
【0150】
(11)上記変数はエンジン回転数Neであり、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の解放から締結への移行時に、エンジン回転数Neの発生を検出することとした。
【0151】
例えばEV走行モードからHEV走行モードへの切り替え時には、エンジン回転数Neの発生を検出したときのストローク位置xが、エンジンフリクション相当ストロークxfだけ実際の締結開始位置x2から締結側に変位していることになる。したがって、エンジン回転数Neの発生を検出したときのストローク位置xをエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(10)の効果を得ることができる。
【0152】
(12)上記変数はエンジン回転数Neとモータ回転数Nmとの差であり、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の締結から解放への移行時に、上記差回転の発生を検出することとした。
【0153】
また、HEV走行モードからEV走行モードへの切り替え時には、エンジン回転数Neとモータ回転数Nmとの差回転を検出したときのストローク位置xが、エンジンフリクション相当ストロークxfだけ実際の締結開始位置x2から締結側に変位していることになる。したがって、上記差回転の発生を検出したときのストローク位置xをエンジンフリクション相当ストロークxfだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(10)(11)の効果を得ることができる。
【0154】
(13)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、ピストン35がスタンバイ位置にあるときに発生している伝達トルク容量TCL1であるエンジン引きずりトルクTdを算出し、エンジン引きずりトルクTdに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるピストン35のストローク量であるエンジン引きずり相当ストロークxdを算出し、エンジン引きずり相当ストロークxdを用いて、実際の締結開始位置x2を算出することとした。
【0155】
すなわち、スタンバイ位置が実際の締結開始位置x2よりも締結側にオフセットしているとき、伝達トルク容量TCL1(エンジン引きずりトルクTd)が発生する。よって、上記変数(エンジン引きずりトルクTd)が発生するストローク位置x(スタンバイ位置)とエンジン引きずり相当ストロークxfとを用いて、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(1)〜(12)の効果を得ることができる。
【0156】
(14)待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)は、ストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を予め設定し、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、エンジン引きずりトルクTdと上記設定された相関特性とに基づきエンジン引きずり相当ストロークxdを算出することとした。
【0157】
すなわち、エンジン引きずりトルクTdに相当する伝達トルク容量TCL1を発生させるピストン35のストローク量がエンジン引きずり相当ストロークxdである。このため、エンジン引きずり相当ストロークxdは、トルク−ストロークマップ432に設定されたストローク位置x(ストローク量)と伝達トルク容量TCL1との相関特性に基づき、エンジン引きずりトルクTdから求めることができ、上記(13)の効果を得ることができる。
【0158】
(15)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、エンジンEが自立回転せずに第1クラッチCL1から伝達されるトルクTCL1により回されている状態、または回され始めた状態で、上記伝達トルクTCL1からエンジンEの慣性モーメントIeによるトルク分を除いた、エンジンEの摩擦抵抗によるトルクであるエンジンフリクショントルクTfを算出し、エンジンフリクショントルクTfとエンジン回転数Neの変化率dNe/dtとに基づきエンジン引きずりトルクTdを算出することとした。
【0159】
すなわち、エンジン引きずりトルクTdは、エンジン停止制御終了時のエンジン回転数Neおよび上記(1)式を用いて、(4)TCL1=(Ie・dNe/dt+Tf)により算出され、これにより、上記(13)(14)の効果を得ることができる。
【0160】
(16)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、スタンバイ位置をエンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出することとした。
【0161】
すなわち、スタンバイ位置が実際の締結開始位置x2よりも締結側にオフセットしているとき、伝達トルク容量TCL1(エンジン引きずりトルクTd)が発生する。よって、EV走行中に、上記変数(エンジン引きずりトルクTd)が発生するストローク位置x(スタンバイ位置)は、実際の締結開始位置x2からエンジン引きずり相当ストロークxdだけ締結側に変位していることになる。したがって、上記スタンバイ位置をエンジン引きずり相当ストロークxfだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(13)〜(15)の効果を得ることができる。
【0162】
(17)上記変数はエンジン引きずりトルクTdであり、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、第1クラッチCL1の解放から締結への移行時にピストン35がスタンバイ位置まで移動したとき、エンジン引きずりトルクTdの発生を検出することとした。
【0163】
すなわち、エンジン引きずりトルクTdは、HEV走行モードからEV走行モードへの切り替え時に、エンジン停止制御を終了し、スタンバイ位置までのストロークを完了した時点のdNe/dt(<0)を用いて、上記(4)式(Td=Ie・dNe/dt+Tf)により算出される。(4)式により算出された値がゼロより大きいときは、エンジン引きずりトルクTdが発生していると判断する。このとき、スタンバイ位置xをエンジン引きずり相当ストロークxdだけ解放側に変位させることで、実際の締結開始位置x2を算出でき、上記(13)〜(16)の効果を得ることができる。
【0164】
(18)車両の走行距離Lを計測する走行距離計測部435を有し、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、前回の補正を実行した後の走行距離Lが所定値以上となったときに今回の補正を実行することとした。
【0165】
すなわち、走行中に頻繁に上記スタンバイ位置の補正を行うと、車両挙動に影響することも考えられる。よって、走行距離Lが所定値以上となり、現実的に締結開始位置x2にズレが発生することが予想される時点で、上記補正を実行することとした。よって、効果的にスタンバイ位置を適正化できる一方、補正実行回数を制限することで車両挙動を確実に安定化できる、という効果を有する。
【0166】
(19)第1クラッチCL1の摩耗量Sを推定する摩耗量推定手段を有し、待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、前回の補正を実行した後の摩耗量Sが所定値以上となったときに今回の補正を実行することとした。具体的には、エンジンEの始動回数に基づき摩耗量Sを推定することとした。
【0167】
このように摩耗量Sが所定値以上となり、現実的に締結開始位置x2にズレが発生することが予想される時点で、上記補正を実行することとした。よって、効果的にスタンバイ位置を適正化できる一方、補正実行回数を制限することで車両挙動を確実に安定化できる、という効果を有する。
【0168】
(20)待機位置補正手段(スタンバイ位置補正部434)は、2以上の走行モード移行時にそれぞれ算出した2以上の締結開始位置x2の平均を算出し、この平均位置と一致するように、スタンバイ位置を補正することとしてもよい。
【0169】
すなわち実施例1では、各制御周期で、EV走行モードからHEV走行モードへの移行時、またはHEV走行モードからEV走行モードへの移行時に、実際の締結開始位置x2を算出し、この算出値により、スタンバイ位置(設定された締結開始位置x2)を補正することとした。これに対し、複数の制御周期にわたって学習補正を実行することとしてもよい。すなわち、2以上の上記移行時にそれぞれ算出した締結開始位置x2の平均を算出し、この平均位置と一致するように、上記スタンバイ位置を補正することとしてもよい。この場合、算出の機会が増加するため締結開始位置x2が正確な値となり、伝達トルクCL1の制御精度を向上できる。
【0170】
(21)第1クラッチCL1は乾式の摩擦クラッチであることとした。
【0171】
一般に乾式クラッチは、摩擦板同士が潤滑されないため、締結・解放の動作による摩耗の度合いが激しい。このため、ピストンストローク位置やトルク−ストローク特性の経時変化が、湿式クラッチに比べて大きい。よって、乾式の摩擦クラッチに本発明を適用した場合、上記(1)〜(20)の効果をより効果的に得ることができる。
【0172】
(22)エンジンE側およびモータ(モータジェネレータMG)側の回転部材(フライホイールFW、クラッチディスク32)同士を弾性力により押し付けまたは離間させる弾性部材(皿バネ34)が設けられ、ピストン35は、往復移動することにより弾性部材(皿バネ34)を弾性変形させて、ストローク位置xに応じた伝達トルク容量TCL1を発生させることとした。
【0173】
すなわち弾性部材の弾性変形量と伝達トルク容量TCL1は相関を有している。言い換えれば、弾性部材の変形量と弾性力との相関特性に応じて、ピストン35のストローク位置と伝達トルク容量TCL1との相関特性が決定される。よって、ピストン35のストローク位置xを制御することで所望の伝達トルク容量TCL1を発生させることができる。このようにトルク−ストローク特性を予め明確に把握できるため、これを利用した上記スタンバイ位置の制御や半締結制御が正確かつ確実である、という効果を有する。
【0174】
(23)待機位置設定手段(トルク−ストロークマップ432、目標ストローク位置演算部433)は、ストローク位置xと伝達トルク容量TCL1との相関特性を、上記弾性部材のヒステリシスに応じて、ピストン35の締結側移動時と解放側移動時とでそれぞれ設定し、設定された相関特性に基づき締結開始位置x2を算出することとしてもよい。
【0175】
すなわち実施例1では、ピストン35の締結側ストローク時と解放側ストローク時とで同一のトルク−ストローク特性を設定したが、第1クラッチCL1の弾性部材のヒステリシスに応じて、ストローク方向で異なるトルク−ストローク特性を設定してもよい。このようなトルク−ストロークマップ432を用いた場合、制御の精度を向上できる。具体的には、ピストンストローク量がゼロの時に完全解放される常開式のクラッチでも、完全締結される常閉式のクラッチでも、どちらの形式のクラッチに本発明を適用しても同様に、上記作用効果が得られる、というメリットがある。
【0176】
(24)上記弾性部材は皿バネ34であることとした。
【0177】
一般に、クラッチに用いられる皿バネはレリーズレバーの機能を併せ持っており、皿バネの内周側を押すと、皿バネの中間部を支点として外周側が変位する構成となっている。よって、皿バネ34の内周側34bと、支点となる接触部34aとの間の距離に対して、接触部34aと外周側34cとの間の距離を小さく設定すれば(レリーズレバー比を大きくとれば)、皿バネ34の変形量に対して発生する弾性力の変化量を小さくできる。よって、皿バネ34を用いたとき、上記トルク−ストローク特性においても、ストローク量の変化に対して伝達トルク容量TCL1の変化の割合を小さくできる。これは、トルク−ストローク特性を用いて制御する際、ストローク位置xに応じて伝達トルク容量TCL1をより細かく制御できる自由度が高いことを意味する。したがって、他の弾性部材(例えばコイルバネ)を用いた場合よりも、上記(23)の作用効果を効果的に得ることができる。尚、上記支点となる接触部34aとして、ピボットリング等の部材を新たに設けてもよい。
【0178】
(25)モータ(モータジェネレータMG)と駆動輪RR,RLとの間に介装され、モータ(モータジェネレータMG)と駆動輪RR,RLとを断接する第2クラッチCL2を備えた車両の制御装置であることとした。
【0179】
よって、この形式の車両に本願発明を適用した場合、上記作用効果を得ることができる。
【0180】
(26)モータは発電機能を有するモータジェネレータMGであることとした。
【0181】
よって、この形式の車両に本願発明を適用した場合、上記作用効果を得ることができる。
【0182】
以上、本発明の車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は本発明に含まれる。
【0183】
例えば、実施例1では第1クラッチCL1として単板クラッチを用いたが、多板クラッチを用いることとしてもよい。また、湿式クラッチを用いることとしてもよい。
【0184】
実施例1では、エンジンE側およびモータジェネレータMG側の回転部材(フライホイールFW、クラッチディスク32)同士を弾性力により押し付けまたは離間させる弾性部材として皿バネ34を用いたが、コイルバネ等、他の弾性部材を用いることとしてもよい。
【0185】
実施例1では、第1クラッチCL1として、ピストン35が最小ストローク位置にありストローク量がゼロの時に最大伝達トルク容量TCL1maxとなり完全締結される常閉式のものを用いたが、上記ストローク量がゼロの時に伝達トルク容量TCL1がゼロとなり完全解放される常開式のクラッチを用いることとしてもよい。
【0186】
実施例1では、油圧により移動(ストローク)するピストンを可動子として用いたクラッチに本発明を適用したが、電磁的な吸引力により移動する部材を可動子として用いた電磁クラッチや、アクチュエータ(モータ)により回転駆動されるネジのピッチ量に応じて移動する部材を可動子として用いた、いわゆるEMB(Electric Motor Brake)に本発明を適用することとしてもよい。
【0187】
実施例1では、第2クラッチCL2として自動変速機ATに内蔵されたクラッチを利用する例を示したが、モータジェネレータと変速機との間に第2クラッチCL2を追加して介装したり、または、変速機と駆動輪との間に第2クラッチCL2を追加して介装したりしてもよい。さらには、第1クラッチCL1のみを持つハイブリッド車両にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】実施例1の制御装置が適用された車両を示す全体システム図である。
【図2】第1クラッチの軸方向断面図である。
【図3】第1クラッチの伝達トルク容量とピストンストローク位置との相関を示す特性マップ(トルク−ストロークマップ)である。
【図4】実施例1の制御装置における統合コントローラの制御ブロック図である。
【図5】走行モード選択マップである。
【図6】スタンバイ位置の補正制御を表すフローチャートである。
【図7】トルク−ストロークマップである(締結側オフセット)。
【図8】トルク−ストロークマップである(解放側オフセット:第1クラッチを締結する場合)。
【図9】トルク−ストロークマップである(解放側オフセット:第1クラッチを解放する場合)。
【図10】締結側オフセット時のタイムチャートである。
【図11】解放側オフセット時のタイムチャートである(第1クラッチを締結する場合)。
【図12】解放側オフセット時のタイムチャートである(第1クラッチを解放する場合)。
【符号の説明】
【0189】
E エンジン
A1 エンジン出力軸
FW フライホイール
CL1 第1クラッチ
A2 モータ出力軸
MG モータジェネレータ
CL2 第2クラッチ
AT 自動変速機
RL 左後輪(駆動輪)
RR 右後輪(駆動輪)
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
10 統合コントローラ
12 エンジン回転数センサ
15 ストロークセンサ
21 モータ回転数センサ
32 クラッチディスク
32b クラッチフェーシング
34 皿バネ
35 ピストン
37 レリーズベアリング
430 第1クラッチ制御部
431 目標伝達トルク容量演算部
432 トルク−ストロークマップ
433 目標ストローク位置演算部
434 スタンバイ位置補正部
435 走行距離計測部
436 摩耗量推定部
450 エンジン始動制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
モータと、
前記エンジンと前記モータとの間に介装され、可動子の位置に応じて伝達トルク容量を変更可能な締結要素と、
前記伝達トルク容量の発生を開始する前記可動子の位置である締結開始位置に待機位置を設定する待機位置設定手段と、
前記可動子の位置を前記待機位置に制御する位置制御手段と、
前記伝達トルク容量と相関する変数の変化に基づき、前記締結開始位置と前記待機位置とが一致するように、前記待機位置を補正する待機位置補正手段と、
を有する車両の制御装置。
【請求項2】
前記待機位置補正手段は、前記締結要素の締結から解放への移行時、または解放から締結への移行時に、実際の前記締結開始位置を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記可動子の位置を検出する位置検出手段を備え、
前記待機位置設定手段は、前記可動子の位置と前記伝達トルク容量との相関特性を予め設定し、前記設定された相関特性に基づき前記締結開始位置を算出し、
前記待機位置補正手段は、
前記締結要素の締結から解放への移行時、または解放から締結への移行時に、前記変数の変化を検出し、
前記変化を検出したときの前記可動子の位置と、前記設定された相関特性により前記変数の変化が予測される前記可動子の位置との差の分だけ、前記設定された相関特性を締結側にずらして補正し、
前記補正後の相関特性に基づき前記締結開始位置を算出すること
を特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記可動子の位置を検出する位置検出手段を備え、
前記待機位置補正手段は、
前記エンジンが自立回転せずに前記締結要素から伝達されるトルクにより回されている状態、または回され始めた状態で、前記伝達トルクから前記エンジンの慣性モーメントによるトルク分を除いた、前記エンジンの摩擦抵抗によるトルクであるエンジンフリクショントルクを算出し、
前記エンジンフリクショントルクに相当する前記伝達トルク容量を発生させる前記可動子の移動量であるエンジンフリクション相当移動量を算出し、
前記エンジンフリクション相当移動量を用いて、実際の前記締結開始位置を算出し、
前記締結要素の締結から解放への移行時、または解放から締結への移行時に、前記変数の変化を検出し、前記変化を検出したときの前記可動子の位置を前記エンジンフリクション相当移動量だけ解放側に変位させることで、実際の前記締結開始位置を算出すること
を特徴とする請求項2または3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記待機位置補正手段は、
前記可動子が前記待機位置にあるときに発生している前記伝達トルク容量であるエンジン引きずりトルクを算出し、
前記エンジン引きずりトルクに相当する前記伝達トルク容量を発生させる前記可動子の移動量であるエンジン引きずり相当移動量を算出し、
前記エンジン引きずり相当移動量を用いて、実際の前記締結開始位置を算出し、
前記待機位置を前記エンジン引きずり相当移動量だけ解放側に変位させることで、実際の前記締結開始位置を算出すること
を特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記待機位置補正手段は、前記締結要素の解放から締結への移行時に前記可動子が前記待機位置まで移動したとき、前記エンジン引きずりトルクの発生を検出することを特徴とする請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記待機位置補正手段は、2以上の前記移行時にそれぞれ算出した2以上の前記締結開始位置の平均を算出し、前記平均位置と一致するように、前記待機位置を補正することを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記締結要素は乾式の摩擦締結要素であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記エンジン側および前記モータ側の回転部材同士を弾性力により押し付けまたは離間させる弾性部材が設けられ、
前記可動子は、移動することにより前記弾性部材を弾性変形させて、前記可動子の位置に応じた前記伝達トルク容量を発生させること
を特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項10】
前記弾性部材は皿バネであることを特徴とする請求項9に記載の車両の制御装置。
【請求項1】
エンジンと、
モータと、
前記エンジンと前記モータとの間に介装され、可動子の位置に応じて伝達トルク容量を変更可能な締結要素と、
前記伝達トルク容量の発生を開始する前記可動子の位置である締結開始位置に待機位置を設定する待機位置設定手段と、
前記可動子の位置を前記待機位置に制御する位置制御手段と、
前記伝達トルク容量と相関する変数の変化に基づき、前記締結開始位置と前記待機位置とが一致するように、前記待機位置を補正する待機位置補正手段と、
を有する車両の制御装置。
【請求項2】
前記待機位置補正手段は、前記締結要素の締結から解放への移行時、または解放から締結への移行時に、実際の前記締結開始位置を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記可動子の位置を検出する位置検出手段を備え、
前記待機位置設定手段は、前記可動子の位置と前記伝達トルク容量との相関特性を予め設定し、前記設定された相関特性に基づき前記締結開始位置を算出し、
前記待機位置補正手段は、
前記締結要素の締結から解放への移行時、または解放から締結への移行時に、前記変数の変化を検出し、
前記変化を検出したときの前記可動子の位置と、前記設定された相関特性により前記変数の変化が予測される前記可動子の位置との差の分だけ、前記設定された相関特性を締結側にずらして補正し、
前記補正後の相関特性に基づき前記締結開始位置を算出すること
を特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記可動子の位置を検出する位置検出手段を備え、
前記待機位置補正手段は、
前記エンジンが自立回転せずに前記締結要素から伝達されるトルクにより回されている状態、または回され始めた状態で、前記伝達トルクから前記エンジンの慣性モーメントによるトルク分を除いた、前記エンジンの摩擦抵抗によるトルクであるエンジンフリクショントルクを算出し、
前記エンジンフリクショントルクに相当する前記伝達トルク容量を発生させる前記可動子の移動量であるエンジンフリクション相当移動量を算出し、
前記エンジンフリクション相当移動量を用いて、実際の前記締結開始位置を算出し、
前記締結要素の締結から解放への移行時、または解放から締結への移行時に、前記変数の変化を検出し、前記変化を検出したときの前記可動子の位置を前記エンジンフリクション相当移動量だけ解放側に変位させることで、実際の前記締結開始位置を算出すること
を特徴とする請求項2または3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記待機位置補正手段は、
前記可動子が前記待機位置にあるときに発生している前記伝達トルク容量であるエンジン引きずりトルクを算出し、
前記エンジン引きずりトルクに相当する前記伝達トルク容量を発生させる前記可動子の移動量であるエンジン引きずり相当移動量を算出し、
前記エンジン引きずり相当移動量を用いて、実際の前記締結開始位置を算出し、
前記待機位置を前記エンジン引きずり相当移動量だけ解放側に変位させることで、実際の前記締結開始位置を算出すること
を特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記待機位置補正手段は、前記締結要素の解放から締結への移行時に前記可動子が前記待機位置まで移動したとき、前記エンジン引きずりトルクの発生を検出することを特徴とする請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記待機位置補正手段は、2以上の前記移行時にそれぞれ算出した2以上の前記締結開始位置の平均を算出し、前記平均位置と一致するように、前記待機位置を補正することを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記締結要素は乾式の摩擦締結要素であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記エンジン側および前記モータ側の回転部材同士を弾性力により押し付けまたは離間させる弾性部材が設けられ、
前記可動子は、移動することにより前記弾性部材を弾性変形させて、前記可動子の位置に応じた前記伝達トルク容量を発生させること
を特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項10】
前記弾性部材は皿バネであることを特徴とする請求項9に記載の車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−6782(P2009−6782A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168538(P2007−168538)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]