説明

車両の制御装置

【課題】ディーゼルエンジン及び自動変速機を備えた車両において変速品質の悪化を好適に抑制する車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジン30と、油圧制御により係合状態が切り替えられる複数の係合要素を介して変速を行う自動変速機10とを、備えた車両の制御装置であって、その自動変速機10の変速中において、車両の加減速要求に応じてディーゼルエンジン30のトルクを変更する場合には、予め定められた関係から自動変速機10の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに基づいてそのトルクを制御するものであることから、自動変速機10の係合要素に係る油圧応答にディーゼルエンジン30の応答性を追従させることで、変速ショックやエンジンの吹き等の発生を好適に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン及び自動変速機を備えた車両の制御装置に関し、特に、自動変速機の変速に際して変速品質の悪化を抑制するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動力源であるエンジンと、油圧制御により係合状態が切り替えられる複数の係合要素を介して変速を行う自動変速機とを、備えた車両の制御装置が各種車両に適用されている。斯かる車両の制御装置の一例として、自動変速機の変速中に変速品質の悪化を抑制するための制御を行うものが知られている。例えば、特許文献1に記載された車両の変速時制御装置がそれである。この技術によれば、自動変速機のクラッチ・トゥ・クラッチ変速中に加速操作があったときは、変速進行度に合わせてエンジントルクを制御することで、変速品質の悪化を防止することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−248728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般にディーゼルエンジンでは気筒内の空気量に対し、任意に燃料噴射量を設定できることから、アクセル操作時におけるエンジントルクの応答性がガソリンエンジン等より優れていることが知られている。しかし、斯かるディーゼルエンジンを駆動力源として備えた車両に上述したような従来の技術が適用された場合、ディーゼルエンジンの高い応答性に対して自動変速機の油圧制御が追いつかず、変速ショックやエンジンの吹き等が発生して変速品質が悪化するおそれがあった。このため、ディーゼルエンジン及び自動変速機を備えた車両において変速品質の悪化を好適に抑制する車両の制御装置の開発が求められていた。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、ディーゼルエンジン及び自動変速機を備えた車両において変速品質の悪化を好適に抑制する車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、ディーゼルエンジンと、油圧制御により係合状態が切り替えられる複数の係合要素を介して変速を行う自動変速機とを、備えた車両の制御装置であって、その自動変速機の変速中において、車両の加減速要求に応じて前記ディーゼルエンジンのトルクを変更する場合には、予め定められた関係から前記自動変速機の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに基づいてそのトルクを制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、ディーゼルエンジンと、油圧制御により係合状態が切り替えられる複数の係合要素を介して変速を行う自動変速機とを、備えた車両の制御装置であって、その自動変速機の変速中において、車両の加減速要求に応じて前記ディーゼルエンジンのトルクを変更する場合には、予め定められた関係から前記自動変速機の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに基づいてそのトルクを制御するものであることから、自動変速機の係合要素に係る油圧応答にディーゼルエンジンの応答性を追従させることで、変速ショックやエンジンの吹き等の発生を好適に防止できる。すなわち、ディーゼルエンジン及び自動変速機を備えた車両において変速品質の悪化を好適に抑制する車両の制御装置を提供することができる。
【0008】
また、好適には、前記関係は、前記ディーゼルエンジンのトルクが増加するように変更させられる場合において、前記自動変速機の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに応じてそのトルクの増加が緩やかになるように定められたものである。このようにすれば、目標エンジントルク増加時におけるエンジンの吹き等の発生を好適に防止することができる。
【0009】
また、好適には、前記関係は、前記ディーゼルエンジンのトルクが減少するように変更させられる場合において、前記自動変速機の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに応じてそのトルクの減少が緩やかになるように定められたものである。このようにすれば、目標エンジントルク減少時における変速ショック等の発生を好適に防止することができる。
【0010】
また、好適には、前記自動変速機の係合要素に係る油圧応答を伝達関数に近似し、その伝達関数に基づいて前記ディーゼルエンジンのトルクを制御するものである。このようにすれば、変速ショックやエンジンの吹き等の発生を実用的な態様で好適に防止することができる。
【0011】
また、好適には、前記自動変速機の変速中でない場合には、その自動変速機の係合要素の油圧応答遅れを基準とすることなく前記ディーゼルエンジンのトルクを制御するものである。このようにすれば、前記自動変速機の変速中でない場合には、ディーゼルエンジンの応答性を敢えて低下させず、本来の応答性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明が好適に適用される車両用自動変速機10(以下、単に自動変速機10という)の骨子図であり、図2は、その自動変速機10において複数の変速段を選択的に成立させる際の摩擦係合要素すなわち摩擦係合装置の作動状態を説明する作動表である。この図1に示す自動変速機10は、例えばFF型車両においてその車両の左右方向(横置き)に搭載されて用いられるものであり、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース26(以下、単にケース26という)内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置16及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部20とを共通の軸心C上に有し、入力軸22の回転を変速して出力回転部材24から出力する形式の有段式変速機である。この入力軸22は入力部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるディーゼルエンジン30(以下、単にエンジン30という)によって回転駆動される流体式伝動装置としてのトルクコンバータ32のタービン軸である。また、上記出力回転部材24は、上記自動変速機10の出力部材に相当するものであり、図3に示す差動歯車装置40に動力を伝達するためにそのデフドリブンギヤ(大径歯車)42と噛み合う出力歯車すなわちデフドライブギヤとして機能している。上記エンジン30の出力は、上記トルクコンバータ32、自動変速機10、差動歯車装置40、及び一対の車軸44を経て一対の駆動輪46へ伝達されるようになっている(図3を参照)。なお、この自動変速機10やトルクコンバータ32は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその中心線Cの下半分が省略されている。
【0014】
上記エンジン30は、図3に示す燃料噴射ノズル84により気筒に連通した渦流室(副室)内に噴射される軽油等の燃料を圧縮点火することにより駆動力を発生させる渦流室式のディーゼルエンジンである。また、図3に示す電子制御装置90からの指令に応じてその燃料噴射ノズル84からの燃料の噴射を制御するための燃料噴射制御装置86が設けられている。また、上記トルクコンバータ32は、上記エンジン30の動力を流体を介することなく上記入力軸22に直接伝達するロックアップクラッチ34を備えている。このロックアップクラッチ34は、係合側油室36内の油圧と解放側油室38内の油圧との差圧ΔPにより摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチであり、それが完全係合(ロックアップON)させられることにより、エンジン30の動力が入力軸22に直接伝達される。また、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPすなわちトルク容量がフィードバック制御されることにより、例えば50rpm程度の所定のスリップ量でタービン軸(入力軸22)をエンジン30の出力回転部材(クランク軸)に対して追従回転させる。また、上記トルクコンバータ32のポンプ翼車には、上記自動変速機10の変速制御等に用いられる油圧の元圧を発生させる油圧ポンプ28が備えられている。
【0015】
自動変速機10は、第1変速部14及び第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)の連結状態に応じて第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の6つの前進ギヤ段が成立させられるとともに、後進ギヤ段「R」が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1とブレーキB2との係合により第1速ギヤ段「1st」が、クラッチC1とブレーキB1との係合により第2速ギヤ段「2nd」が、クラッチC1とブレーキB3との係合により第3速ギヤ段「3rd」が、クラッチC1とクラッチC2との係合により第4速ギヤ段「4th」が、クラッチC2とブレーキB3との係合により第5速ギヤ段「5th」が、クラッチC2とブレーキB1との係合により第6速ギヤ段「6th」が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3との係合により後進ギヤ段「R」が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれも解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
【0016】
図2の作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。第1速ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)にはクラッチC1のみを係合させ、エンジンブレーキを作用させるときにはクラッチC1とブレーキB2とを係合させる。また、各ギヤ段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、及び第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
【0017】
このように本実施例の自動変速機10は、複数の係合装置すなわちクラッチC1、C2、及びブレーキB1、B2、B3を選択的に係合させることにより変速比が異なる複数のギヤ段を成立させるものであり、図2の作動表から明らかなように、クラッチC1、C2、及びブレーキB1、B2、B3の何れか2つを掴み替える所謂クラッチ・トゥ・クラッチにより連続するギヤ段の変速を行うことができる。これ等のクラッチC1、C2、及びブレーキB1、B2、B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキ等、油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路50(図3を参照)のリニアソレノイド弁SL1〜SL5の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧等が制御される。
【0018】
図3は、図1の自動変速機10等を制御するために車両に設けられた制御系統の要部、及び前記エンジン30から駆動輪46までの動力伝達系の概略構成を説明するブロック線図である。この電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記エンジン30の出力制御、前記自動変速機10の変速制御、及び前記ロックアップクラッチ34のON・OFF制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用やリニアソレノイド弁SL1〜SL5を制御する変速制御用、油圧制御回路50のリニアソレノイド弁SLU及びソレノイド弁SLを制御するロックアップクラッチ制御用等に分けて構成される。また、この電子制御装置90には、後述する各種関係(マップ等)を記憶するための記憶装置88が備えられている(図4を参照)。
【0019】
上記電子制御装置90には、アクセル開度センサ54により検出されたアクセルペダル52の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、エンジン回転速度センサ56により検出された前記エンジン30の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、冷却水温センサ58により検出された前記エンジン30の冷却水温TW を表す信号、吸入空気量センサ60により検出された前記エンジン30の吸入空気量Qを表す信号、吸入空気温度センサ62により検出された吸入空気の温度TA を表す信号、スロットル弁開度センサ64により検出された電子スロットル弁の開度θTHを表すスロットル弁開度信号、車速センサ66により検出された前記出力回転部材24の回転速度NOUTすなわち車速Vに対応する車速信号、ブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキ(ホイールブレーキ)の作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル68の操作(オン)BONを表す信号、レバーポジションセンサ74により検出されたシフトレバー72のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号、タービン回転速度センサ76により検出されたタービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度NIN)を表す信号、AT油温センサ78により検出された前記油圧制御回路50内の作動油の温度であるAT油温TOIL を表す信号、アップシフトスイッチ80によって検出される変速レンジのアップシフト指令RUPを表す信号、ダウンシフトスイッチ82によって検出される変速レンジのダウンシフト指令RDNを表す信号等がそれぞれ供給される。
【0020】
また、前記電子制御装置90からは、前記燃料噴射ノズル84により前記エンジン30の渦流室内に噴射される燃料の噴射量(燃料供給量)を制御する燃料噴射量信号が前記燃料噴射制御装置86に出力される。また、図示しないシフトインジケータを作動させるためのレバーポジションPSH表示信号、前記自動変速機10のギヤ段を切り換えるために前記油圧制御回路50内のシフト弁を駆動するシフトソレノイドを制御する信号及びライン圧を制御するリニアソレノイド弁を駆動するための指令信号、前記ロックアップクラッチ34の係合、解放、スリップ量を制御するリニアソレノイド弁を駆動するための指令信号等がそれぞれ出力される。
【0021】
前記シフトレバー72は、例えば運転席の近傍に配設され、図3に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、又は「S」へ手動操作されるようになっている。この「P」ポジションは、前記自動変速機10内の動力伝達経路を解放、すなわちその自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし、且つメカニカルパーキング機構によって機械的に前記出力回転部材24の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)である。また、「R」ポジションは前記自動変速機10を前記後進ギヤ段「R」として後進走行するための後進走行ポジション(位置)である。また、「N」ポジションは前記自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)である。また、「D」ポジションは前記自動変速機10の全変速範囲である第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて変速制御を行う自動変速モード(Dレンジ)を成立させる前進走行ポジション(位置)である。また、「S」ポジションは前進ギヤ段の変速範囲を制限した複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能なシーケンシャルモード(以下、Sモードという)を成立させる前進走行ポジション(位置)である。この「S」ポジションには、前記シフトレバー72の操作毎に変速レンジをアップ側にシフトさせるためのアップシフト位置「+」、そのシフトレバー72の操作毎に変速レンジをダウン側にシフトさせるためのダウンシフト位置「−」が備えられており、それ等の操作が前記アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82によって検出される。アップシフト位置「+」及びダウンシフト位置「−」は何れも不安定で、前記シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により自動的に「S」ポジションへ戻されるようになっており、アップシフト位置「+」又はダウンシフト位置「−」への操作回数或いは保持時間等に応じて変速レンジが変更される。上記Sモードは、手動変速モードに相当する
【0022】
図4は、前記電子制御装置90に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図4に示す変速制御手段92は、前記自動変速機10の変速動作を制御する。すなわち、予め定められて前記記憶装置88等に記憶された関係(変速マップ等)から、前記レバーポジションセンサ74により検出される前記シフトレバー72のレバーポジション、前記アクセル開度センサ54により検出される前記アクセルペダル52の操作量(アクセル開度Acc)、及び前記車速センサ66により検出される車速V等に基づいて、前記自動変速機10において前述した第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」或いは後進変速段「R」のうち何れの変速段が成立させられるべきかを判断し、その判断された変速段が成立させられるように前記油圧制御回路50を介して前記クラッチC及びブレーキBの係合乃至解放を制御する。
【0023】
目標エンジントルク算出手段94は、前記エンジン30から出力されるトルクの目標値である目標エンジントルクを算出する。例えば、予め定められて前記記憶装置88に記憶された関係から、前記アクセル開度センサ54により検出される前記アクセルペダル52の操作量(アクセル開度Acc)等に基づいてその目標エンジントルクを算出する。
【0024】
エンジントルク制御手段96は、前記エンジン30から出力されるトルクを制御する。具体的には、予め定められて前記記憶装置88に記憶された関係から、上記目標エンジントルク算出手段94により算出された目標エンジントルクに基づいて、すなわち基本的にはその目標エンジントルクが達成されるように前記燃料噴射制御装置86を介して前記燃料噴射ノズル84から前記エンジン30の渦流室内に噴射される燃料の噴射量(燃料供給量)を制御することによりそのエンジン30から出力されるトルクを制御する。
【0025】
ここで、上記エンジントルク制御手段96は、前記自動変速機10の変速中すなわちその自動変速機10の変速動作開始から変速動作終了までの間において、車両の加減速要求に応じて前記エンジン30のトルクを変更する場合には、予め定められて前記記憶装置88に記憶された関係から前記自動変速機10の係合要素すなわちクラッチC、ブレーキBに係る油圧制御の応答遅れに基づいてそのトルクを制御する。また、上記エンジントルク制御手段96は、好適には、通常時すなわち前記自動変速機10の変速中でない場合には、その自動変速機10の係合要素の油圧応答遅れを基準とすることなく前記エンジン30のトルクを制御する。
【0026】
図5は、前記自動変速機10の変速に際して解放される係合要素について、前記電子制御装置90から出力される油圧指令値と実際の油圧(油圧変化)との関係を示すタイムチャートであり、図6は、前記自動変速機10の変速に際して係合される係合要素について、前記電子制御装置90から出力される油圧指令値と実際の油圧との関係を示すタイムチャートである。これらの図に示すように、前記自動変速機10に備えられた油圧式摩擦係合装置では、一般にその解放乃至係合に係る実際の油圧(油圧変化)は、前記電子制御装置90から出力される指令値から若干の遅れをもって変化する。一方、ディーゼルエンジンである前記エンジン30では、気筒内の空気量に対して任意に燃料噴射量を設定できることから、車両の加減速要求に応じてのトルク変化の応答性は一般に優れており、前記電子制御装置90から出力される指令値に追従して比較的速やかに変化するものである。
【0027】
前記エンジントルク制御手段96は、好適には、前記自動変速機10の変速中において、車両の加速要求に応じて前記エンジン30のトルクを増加の方向に変化させる場合には、前記自動変速機10の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに応じてそのトルクの増加(単位時間あたりの増加率)を通常時すなわち前記自動変速機10の変速中でない場合よりも緩やかなものとする。換言すれば、前記記憶装置88に記憶された前記エンジン30のトルクを制御するための関係は、そのエンジン30のトルクが増加するように変更させられる場合において、前記自動変速機10の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに応じてそのトルクの増加が緩やかになるように定められたものである。
【0028】
また、前記エンジントルク制御手段96は、好適には、前記自動変速機10の変速中において、車両の減速要求に応じて前記エンジン30のトルクを減少の方向に変化させる場合には、前記自動変速機10の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに応じてそのトルクの減少(単位時間あたりの減少率)を通常時すなわち前記自動変速機10の変速中でない場合よりも緩やかなものとする。換言すれば、前記記憶装置88に記憶された前記エンジン30のトルクを制御するための関係は、そのエンジン30のトルクが減少するように変更させられる場合において、前記自動変速機10の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに応じてそのトルクの減少が緩やかになるように定められたものである。
【0029】
また、前記エンジントルク制御手段96は、好適には、前記自動変速機10の係合要素に係る油圧応答を伝達関数に近似し、その伝達関数に基づいて前記エンジン30のトルクを制御するものである。換言すれば、前記記憶装置88に記憶された前記エンジン30のトルクを制御するための関係は、前記自動変速機10の係合要素に係る油圧応答を近似した伝達関数に基づいて定められたものである。図7は、図5に示す前記自動変速機10の変速に際して解放される係合要素の油圧応答を線形近似した伝達関数を示す図であり、前記エンジントルク制御手段96は、好適には、前記目標エンジントルクが減少するように変化させる場合、この図7に示すような伝達関数に基づいて斯かる目標エンジントルクの制御を実行する。例えば、その時点におけるエンジントルクから目標エンジントルクに移行するまでの変化率(時間変化率)を、図7に示すような伝達関数に基づいて制御する。また、図8は、図6に示す前記自動変速機10の変速に際して係合される係合要素の油圧応答を線形近似した伝達関数を示す図であり、前記エンジントルク制御手段96は、好適には、前記目標エンジントルクが増加するように変化させる場合、この図8に示すような伝達関数に基づいて斯かる目標エンジントルクの制御を実行する。例えば、その時点におけるエンジントルクから目標エンジントルクに移行するまでの変化率(時間変化率)を、図8に示すような伝達関数に基づいて制御する。
【0030】
図9は、前記電子制御装置90により実行されるエンジントルク制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0031】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記自動変速機10の変速中であるか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、前記アクセルペダル52の操作量が変化する等して目標エンジントルクが変化したか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S2の判断が肯定される場合には、前記エンジントルク制御手段96の動作に対応するS3において、予め定められて前記記憶装置88に記憶された関係から前記自動変速機10の係合要素すなわちクラッチC、ブレーキBに係る油圧制御の応答遅れに基づいてそのトルクが制御された後、本ルーチンが終了させられる。
【0032】
このように、本実施例によれば、前記ディーゼルエンジン30と、油圧制御により係合状態が切り替えられる複数の係合要素を介して変速を行う自動変速機10とを、備えた車両の制御装置であって、その自動変速機10の変速中において、車両の加減速要求に応じて前記ディーゼルエンジン30のトルクを変更する場合には、予め定められた関係から前記自動変速機10の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに基づいてそのトルクを制御するものであることから、自動変速機10の係合要素に係る油圧応答にディーゼルエンジン30の応答性を追従させることで、変速ショックやエンジンの吹き等の発生を好適に防止できる。すなわち、ディーゼルエンジン30及び自動変速機10を備えた車両において変速品質の悪化を好適に抑制する車両の制御装置を提供することができる。
【0033】
また、前記関係は、前記ディーゼルエンジン30のトルクが増加するように変更させられる場合において、前記自動変速機10の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに応じてそのトルクの増加が緩やかになるように定められたものであるため、目標エンジントルク増加時におけるエンジンの吹き等の発生を好適に防止することができる。
【0034】
また、前記関係は、前記ディーゼルエンジン30のトルクが減少するように変更させられる場合において、前記自動変速機10の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに応じてそのトルクの減少が緩やかになるように定められたものであるため、目標エンジントルク減少時における変速ショック等の発生を好適に防止することができる。
【0035】
また、前記自動変速機10の係合要素に係る油圧応答を伝達関数に近似し、その伝達関数に基づいて前記ディーゼルエンジン30のトルクを制御するものであるため、変速ショックやエンジンの吹き等の発生を実用的な態様で好適に防止することができる。
【0036】
また、前記自動変速機10の変速中でない場合には、その自動変速機10の係合要素の油圧応答遅れを基準とすることなく前記ディーゼルエンジン30のトルクを制御するものであるため、前記自動変速機10の変速中でない場合には、ディーゼルエンジン30の応答性を敢えて低下させず、本来の応答性を得ることができる。
【0037】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0038】
例えば、前述の実施例において、前記エンジントルク制御手段96は、図7及び図8に示すように、前記自動変速機10の変速に際して解放乃至係合される係合要素の油圧応答を線形近似した伝達関数に基づいて前記エンジン30のトルクを制御するものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、前記自動変速機10の変速に際して解放乃至係合される係合要素の油圧応答を一次遅れの関数で近似した伝達関数に基づいて前記エンジン30のトルクを制御するものであってもよい。
【0039】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明が好適に適用される車両用自動変速機の骨子図である。
【図2】図1の自動変速機において複数の変速段を選択的に成立させる際の摩擦係合要素の作動状態を説明する作動表である。
【図3】図1の自動変速機等を制御するために車両に設けられた制御系統の要部、及びエンジンから駆動輪までの動力伝達系の概略構成を説明するブロック線図である。
【図4】図3の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図1の自動変速機の変速に際して解放される係合要素について、図3の電子制御装置から出力される油圧指令値と実際の油圧との関係を示すタイムチャートである。
【図6】図1の自動変速機の変速に際して係合される係合要素について、図3の電子制御装置から出力される油圧指令値と実際の油圧との関係を示すタイムチャートである。
【図7】図5に示す自動変速機の変速に際して解放される係合要素の油圧応答を線形近似した伝達関数を示す図である。
【図8】図6に示す自動変速機の変速に際して係合される係合要素の油圧応答を線形近似した伝達関数を示す図である。
【図9】図3の電子制御装置により実行されるエンジントルク制御の要部を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0041】
10:車両用自動変速機
30:ディーゼルエンジン
B:ブレーキ(係合要素)
C:クラッチ(係合要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンと、油圧制御により係合状態が切り替えられる複数の係合要素を介して変速を行う自動変速機とを、備えた車両の制御装置であって、
該自動変速機の変速中において、車両の加減速要求に応じて前記ディーゼルエンジンのトルクを変更する場合には、予め定められた関係から前記自動変速機の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに基づいて該トルクを制御するものであることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記関係は、前記ディーゼルエンジンのトルクが増加するように変更させられる場合において、前記自動変速機の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに応じて該トルクの増加が緩やかになるように定められたものである請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記関係は、前記ディーゼルエンジンのトルクが減少するように変更させられる場合において、前記自動変速機の係合要素に係る油圧制御の応答遅れに応じて該トルクの減少が緩やかになるように定められたものである請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記自動変速機の係合要素に係る油圧応答を伝達関数に近似し、該伝達関数に基づいて前記ディーゼルエンジンのトルクを制御するものである請求項1から3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記自動変速機の変速中でない場合には、該自動変速機の係合要素の油圧応答遅れを基準とすることなく前記ディーゼルエンジンのトルクを制御するものである請求項1から4の何れか1項に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−43584(P2010−43584A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207311(P2008−207311)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】