説明

車両の制御装置

【課題】減速走行状態にあるときにロックアップクラッチを確実に締結させて減速フューエルカットを行わせるようにした車両の制御装置を提供する。
【解決手段】減速走行状態に移行したと判定されるとき、エンジン回転数NEを目標エンジン回転数NEDに制御してアクセル開度APATから決定される値を超えるように前記エンジンの出力トルク(エンジントルク)を増加させる増加制御を実行すると共に、ロックアップクラッチの締結を指令し、ロックアップクラッチの締結が指令されてから所定時間(0.6sec)が経過したとき、エンジンの出力トルクを増加させる増加制御を終了し、エンジンの出力トルクをアクセル開度から決定される値に制御すると共に、エンジンへのフューエルカットを許可する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両の制御装置に関し、より具体的には減速走行状態にあるときもトルクコンバータのロックアップクラッチを確実に締結させて減速フューエルカットを行わせるようにした装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと自動変速機の間にロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを備えると共に、減速走行状態にあるときにロックアップクラッチを締結する技術は知られており、その例としては下記の特許文献1記載の技術を挙げることができる。
【0003】
特許文献1記載の技術にあっては、減速走行状態に移行したと判断される場合、エンジンへの供給燃料を増量してエンジン回転数の低下を抑制し、エンジン回転数とそれよりも低い変速機入力軸回転数の差が所定値以下になったとき、エンジン回転数の低下の抑制を終了してロックアップクラッチを締結させるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2927153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の技術にあっては、上記のように構成することで、ロックアップクラッチを確実に締結させることを意図しているが、エンジン回転数の低下を抑制してエンジンと変速機入力軸回転数との差回転が基準値以下となったときに制御を終了させるだけでは、ロックアップクラッチの締結とエンジントルクの増加終了時点を一致させるのは困難である。
【0006】
即ち、吸気温変化などに因るエンジントルクのばらつきあるいはエンジンや変速機の劣化などに因るフリクションのばらつきがあるため、差回転を監視するだけでは、クラッチの締結とトルクの増加終了時点を完全に一致させるのは困難である。それを予想して制御終了判断用の差回転の基準値を多めに設定すると、締結過程でショックを生じてしまう。
【0007】
また、差回転が減少するときも、それがロックアップクラッチの締結の進行によるのか、締結していないがエンジントルクの増加量が少ないことによるのか判断できず、エンジン回転数低下が進んで確実に締結できない場合が生じ得る。燃費の向上にはロックアップクラッチを確実に締結させて減速フューエルカットを可能にする必要がある。
【0008】
この発明の目的は上記した課題を解決し、減速走行状態にあるときにロックアップクラッチを確実に締結させて減速フューエルカットを行わせるようにした車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、搭載されるエンジンの出力を変速して駆動輪に伝達する自動変速機と、前記エンジンと前記自動変速機の間に配置されるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、減速走行状態にあるとき、前記ロックアップクラッチの締結を指令するロックアップクラッチ締結指令手段とを備える車両において、前記減速走行状態に移行したと判定されるとき、エンジン回転数を目標エンジン回転数に制御してアクセル開度から決定される値を超えるように前記エンジンの出力トルクを増加させる増加制御を実行すると共に、前記ロックアップクラッチ締結指令手段に前記ロックアップクラッチの締結を指令させるエンジントルク制御手段と、前記ロックアップクラッチの締結が指令されてから所定時間が経過したとき、前記エンジンの出力トルクを増加させる増加制御を終了し、前記エンジンの出力トルクを前記アクセル開度から決定される値に制御すると共に、前記エンジンへのフューエルカットを許可するフューエルカット許可手段とを備える如く構成した。
【0010】
請求項2に係る車両の制御装置にあっては、前記エンジントルク制御手段は、前記目標エンジン回転数を前記自動変速機の変速後の入力軸回転数に基づいて設定する如く構成した。
【0011】
請求項3に係る車両の制御装置にあっては、前記エンジントルク制御手段は、前記減速走行状態に移行したと判定されるとき、前記ロックアップクラッチが開放されていると共に、変速過渡時である場合、前記エンジンの出力トルクを増加させる増加制御を実行する如く構成した。
【0012】
尚、この明細書においてロックアップクラッチの「締結」はロックアップクラッチが完全に係合、即ち、滑りなく係合、換言すれば直結されるか、あるいは若干のスリップ状態にあることを意味する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る車両の制御装置にあっては、減速走行状態に移行したと判定されるとき、エンジン回転数を目標エンジン回転数に制御してアクセル開度から決定される値を超えるようにエンジンの出力トルクを増加させると共に、ロックアップクラッチの締結を指令し、指令から所定時間が経過したとき、エンジンの出力トルクの増加制御を終了し、エンジンの出力トルクをアクセル開度から決定される値に制御すると共に、フューエルカットを許可する如く構成したので、減速走行状態においてロックアップクラッチを確実に締結させて減速フューエルカットを行わせることができ、燃費を向上させることができる。
【0014】
即ち、エンジンと変速機入力軸回転数との差回転が基準値以下となったときに制御を終了するのではなく、減速走行状態に移行したときにとりあえずエンジンの出力トルクを増加させ、次いでロックアップクラッチの締結を指令させ、締結指令から所定時間が経過したときに出力トルクの増加制御を終了してフューエルカットを許可する如く構成したので、吸気温変化などに因るエンジントルクのばらつきあるいはエンジンや変速機の劣化などに因るフリクションのばらつきが生じたとしても、締結指令から所定時間経過するまでエンジントルク増加制御を継続する(終了しない)ことで、エンジン回転数が落ち込むことがないため、減速走行状態においてロックアップクラッチを確実に締結させることができると共に、締結時のショックも抑制することができる。
【0015】
請求項2に係る車両の制御装置にあっては、目標エンジン回転数を自動変速機の変速後の入力軸回転数に基づいて設定する如く構成したので、自動変速機の変速状態に応じて目標エンジン回転数を設定することができ、ロックアップクラッチの締結時のショックを一層良く抑制することができる。
【0016】
請求項3に係る車両の制御装置にあっては、減速走行状態に移行したと判定されるとき、ロックアップクラッチが開放されていると共に、変速過渡時である場合、エンジンの出力トルクを増加させる増加制御を実行する如く構成したので、エンジンの出力トルクを増加させ、次いでロックアップクラッチの締結を指令させ、締結指令から所定時間が経過したときに出力トルクの増加制御を終了してフューエルカットを許可することが可能となり、よって減速フューエルカットを確実に行わせることができ、燃費を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施例に係る車両の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示すTM/ECUが行う変速制御で用いられるシフトマップの特性を示す説明図である。
【図3】図1に示す車両の制御装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図4】図3フロー・チャートの減速LC協調制御実施判定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図5】図1に示す車両の制御装置の動作を説明するタイム・チャートである。
【図6】図3フロー・チャートの目標エンジン回転数設定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図7】図3フロー・チャートの目標エンジントルク出力処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る車両の制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0019】
図1は、この発明の実施例に係る車両の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0020】
図1を参照して以下説明すると、符号TMは自動変速機を示す。自動変速機TMは車両(図示せず)用の変速機であり、前進5速および後進1速の変速段を有すると共に、例えばガソリンを燃料とする火花点火式のエンジン(内燃機関(原動機))ENGに接続される。
【0021】
即ち、自動変速機TMは、エンジンENGのクランク軸に接続される駆動軸10にトルクコンバータ(流体継手)12を介して接続される第1入力軸14と、第1入力軸14と平行に配置される第2入力軸16と、第1、第2入力軸14,16と平行に配置される出力軸(カウンタ軸)20とを備える。
【0022】
第1、第2入力軸14,16の間にはアイドル軸22が平行に配置される。トルクコンバータ12はポンプインペラ12aとタービンランナ12bとロックアップクラッチ12cを備え、ポンプインペラ12aは駆動軸10、タービンランナ12bは第1入力軸14に接続される。
【0023】
第1入力軸14には、4速ドライブギヤ24aと、4速クラッチ24bと、5速ドライブギヤ26aと、5速クラッチ26bと、4速ドライブギヤ24aと一体に連結されたリバース(後進)ドライブギヤ30aが相対回転自在に配置される。
【0024】
第2入力軸16には、1速(LOW)ドライブギヤ32aと、1速クラッチ32bと、2速ドライブギヤ34aと、2速クラッチ34bと、3速ドライブギヤ36aと、3速クラッチ36bが相対回転自在に配置される。
【0025】
出力軸20には、1速ドライブギヤ32aと噛合する1速ドリブンギヤ32cと、2速ドライブギヤ34aと噛合する2速ドリブンギヤ34cと、3速ドライブギヤ36aと噛合する3速ドリブンギヤ36cと、5速ドライブギヤ26aと噛合する5速ドリブンギヤ26cと、ファイナルドライブギヤ40が相対回転不能に固定される。
【0026】
また出力軸20には、4速ドライブギヤ24aと噛合する4速ドリブンギヤ24cとリバースドライブギヤ30aと噛合するリバースドリブンギヤ30cが相対回転可能に配置されると共に、ドグクラッチ42が相対回転不能でかつ軸方向に移動自在に配置される。
【0027】
第1入力軸14には連結ギヤ44a、第2入力軸16には連結ギヤ44bが固定されると共に、アイドル軸22には連結ギヤ44aと噛合する連結ギヤ44cと、連結ギヤ44bと噛合する連結ギヤ44dが固定される。
【0028】
第1、第2入力軸14,16と出力軸20はアイドル軸22と連結ギヤ44(44a,44b,44c,44d)を介して連結される。第1、第2入力軸14,16、出力軸20とアイドル軸22は、自動変速機TMのケース(図示せず)内にベアリング46を介して回転自在に支承される。
【0029】
このように自動変速機TMは平行軸式からなると共に、前進5速、後進(リバース)1速の(それぞれドライブギヤとドリブンギヤからなる)変速段ギヤ32,34,36,24,26(および30)を有する。
【0030】
ファイナルドライブギヤ40はファイナルドリブンギヤ(図示せず)などを介してディファレンシャル機構50に接続される。ディファレンシャル機構50はドライブ軸52を介して駆動輪(車輪)54に接続される。
【0031】
1速、2速、3速、4速、5速クラッチ32b、34b、36b、24b、26bは全て多板式の油圧クラッチ(摩擦係合要素)からなり、油圧供給機構56からリターンスプリングが作用する油室に油圧(作動油ATFの圧力)を供給されるとき、対向配置されたディスクをプレートに押圧することで対応するギヤを第1、第2入力軸14,16または出力軸20に係合(固定)して相応する変速段を確立する。
【0032】
変速段の確立について説明すると、1速クラッチ32bに油圧を供給して1速ドライブギヤ32aを係合(即ち、1速ドライブギヤ32aを第2入力軸16に係合)すると、トルクコンバータ12を介して第1入力軸14に入力された回転駆動力(入力トルク)はアイドル軸22と連結ギヤ44を介して第2入力軸16に伝達され、そこに係合された1速ドライブギヤ32aを回転させる。
【0033】
1速ドライブギヤ32aの回転はそれに噛合する1速ドリブンギヤ32cに伝えられて出力軸20を回転させることで1速が確立される。出力軸20の回転はファイナルドライブギヤ40からファイナルドリブンギヤなどを介してディファレンシャル機構50に伝えられ、さらには駆動輪54に伝えられて車両を1速で前進走行させる。
【0034】
2速クラッチ34bに油圧を供給して2速ドライブギヤ34aを第2入力軸16に係合すると、同様に第1入力軸14の回転駆動力はアイドル軸22と連結ギヤ44を介して第2入力軸16に伝達され、2速ドライブギヤ34aを回転させる。2速ドライブギヤ34aの回転は2速ドリブンギヤ34cに伝えられて出力軸20を回転させることで2速が確立される。
【0035】
3速クラッチ36bに油圧を供給して3速ドライブギヤ36aを第2入力軸16に係合すると、同様に第1入力軸14の回転駆動力はアイドル軸22と連結ギヤ44を介して第2入力軸16に伝達され、3速ドライブギヤ36aを回転させる。3速ドライブギヤ36aの回転は3速ドリブンギヤ36cに伝えられて出力軸20を回転させることで3速が確立される。
【0036】
4速クラッチ24bに油圧を供給して4速ドライブギヤ24aを第1入力軸14に係合すると、第1入力軸14の回転駆動力は4速ドライブギヤ24aを回転させる。ドグクラッチ42によって4速ドリブンギヤ24cが出力軸20に係合されると、4速ドライブギヤ24aの回転は4速ドリブンギヤ24cを介して出力軸20に伝えられ、出力軸20を回転させることで4速が確立される。
【0037】
5速クラッチ26bに油圧を供給して5速ドライブギヤ26aを第1入力軸14に係合すると、第1入力軸14の回転駆動力は5速ドライブギヤ26aを回転させ、その回転は5速ドリブンギヤ26cに伝えられて出力軸20を回転させることで5速が確立される。
【0038】
4速クラッチ24bに油圧を供給してリバースドライブギヤ30aを第1入力軸14に係合して回転させると共に、ドグクラッチ42によってリバースドリブンギヤ30cが出力軸20に係合されると、リバースドライブギヤ30aの回転はリバースアイドルギヤ(図示せず)を介してリバースドリブンギヤ30cに伝えられ、出力軸20を反対方向に回転させることで後進1速が確立される。
【0039】
自動変速機TMはマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニット(ECU。以下「TM/ECU」という)60を備える。エンジンENGの動作を制御するために同様にマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニット(以下「ENG/ECU」という)62が設けられる。
【0040】
エンジンENGにあってアクセルペダルは吸気管に配置されたスロットルバルブとの機械的な連結が断たれ、スロットルバルブを電動モータなどのアクチュエータで開閉するDBW(Drive By Wire)機構64が設けられる。
【0041】
エンジンENGにおいて、DBW機構64にはスロットル開度センサ66が設けられてアクチュエータの動作量からスロットルバルブの開度(スロットル開度TH)を示す出力を生じると共に、アクセルペダルの付近にはアクセル開度センサ70が設けられてアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)APATに応じた出力を生じる。
【0042】
また、エンジンENGのクランク軸の付近にはクランク角センサ72が設けられてピストンのクランク角度を示す出力を生じると共に、吸気管においてスロットルバルブの下流には絶対圧センサ74が設けられて吸気管内絶対圧(エンジン負荷)を示す出力を生じる。
【0043】
ENG/ECU62はクランク角センサ72の出力間隔をカウントしてエンジン回転数NEを検出し、検出されたエンジン回転数NEとアクセル開度センサ70から検出されたアクセル開度APATとエンジン回転数NEからエンジンENGで要求される要求トルクPMCMDを算出し、算出された要求トルクPMCMDとエンジン回転数NEから燃料噴射量と点火時期を制御する。
【0044】
TM/ECU60とENG/ECU62は相互に通信自在に接続され、ENG/ECU62からエンジン回転数NE、スロットル開度TH、アクセル開度APATなどの情報を取得する。
【0045】
さらに、自動変速機TMの第1入力軸14の付近には第1の回転数センサ80が配置され、自動変速機TMの入力軸回転数(入力回転数)NMを示す信号を出力すると共に、出力軸20には第2の回転数センサ82が配置され、自動変速機TMの出力軸回転数(出力回転数)NCを示す信号を出力する。
【0046】
またドライブ軸52の付近には第3の回転数センサ84が配置されてドライブ軸52の所定回転当たりに出力を生じ、油圧供給機構56のリザーバ(図示せず)の内部には温度センサ86が配置されて作動油ATFの温度(油温TATF)を示す信号を出力すると共に、レンジセレクタ(図示せず)の付近にはセレクタ位置センサ90が配置され、運転者によって選択されたP,N,D,Rなどのレンジを示す出力を生じる。
【0047】
これらセンサの出力もTM/ECU60に入力される。TM/ECU60は第3の回転数センサ84の出力の間隔をカウントして車速VLVHを検出し、検出された車速VLVHと前記したセンサの出力とENG/ECU62から通信される情報に基づき、変速制御を行う。
【0048】
図2は変速制御で用いられるシフトマップの特性を示す説明図である。
【0049】
図2を参照して変速制御について説明すると、TM/ECU60は、Dなどの前進走行レンジが選択されて車両が走行しているとき、検出されたスロットル開度THと車速VLVHから同図に示すシフトマップを検索し、現在の変速段(n速)からシフトアップ(あるいはシフトダウン)すべきか否か判断し、肯定されるとき油圧供給機構の油圧制御バルブ群のリニアソレノイドバルブなどを励磁・消磁してアップ(あるいはダウン)すべき変速段を確立する。
【0050】
尚、図2(a)はシフトアップ、(b)シフトダウンのときのシフト線を示す。図2(a)(b)においてハッチングで示される領域がロックアップON領域、即ち、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ12cが締結、即ち、完全に係合、換言すれば直結されるか、あるいは若干のスリップ状態にある領域である。
【0051】
図3はこの実施例に係る車両の制御装置の動作を示すフロー・チャートである。これはENG/ECU62によって行われる。この動作で実施される制御を減速LC協調制御という。減速LC協調制御は、減速走行状態においてロックアップクラッチ12cの締結とエンジントルクを増加させる制御を協調させる制御を意味する。図示のプログラムは規定時間ごとに実行される。
【0052】
以下説明すると、S(ステップ)10において上記した減速LC協調制御実施判定、即ち、この制御を実施すべきか否かを判定する。
【0053】
図4はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0054】
まずS100においてアクセルペダルOFF(離された)か否か、具体的には減速走行状態に移行したか、より具体的にはアクセルペダルが加速あるいは車速維持に必要な踏み込み量以上踏まれている状態からアクセル開度が零になった状態か否か判断する。
【0055】
S100で否定されるときはS102に進み、減速LC協調フラグセットフラグのビットを0にリセットし、S104に進み、減速LC協調フラグと初回判断フラグのビットを0にリセットする。
【0056】
一方、S100で肯定されるときはS106に進み、初回判断フラグのビットが0にリセットされているか判断し、肯定されるときはS108に進み、ロックアップクラッチ12cがOFF(開放)状態にあり、かつ変速過渡中か否か判断する。
【0057】
S108で否定されるときはS104に進む一方、肯定されるときはS110に進み、上記した初回判断フラグのビットを1にセットする。尚、S106で否定されるときはS108とS110の処理をスキップする。
【0058】
このように初回判断フラグは、S100で肯定される場合に減速LC協調制御に入り、その減速LC協調制御を再び加速されるまでに1回のみ行うために設けられる。
【0059】
次いでS112に進み、ロックアップON領域、即ち、ロックアップクラッチ12cが締結されるべき領域にあるか否か判断する。これはTM/ECU60に照会して判断する。
【0060】
S112で否定されるときはS104に進む一方、肯定されるときはS114に進み、減速FC可能領域か、即ち、検出された車速VLVHなどから車両が減速走行状態にあってFC(フューエルカット(エンジンENGへの燃料供給停止))が可能な領域にあるか否か判断する。
【0061】
ここで、「減速FC可能領域」は車速VLVHが減少する減速走行状態にあると共に、エンジン回転数NEが一定値以上であってフューエルカットを行ってもエンジンENGがストールしない領域を意味する。
【0062】
S114で否定されるときはS104に進む一方、肯定されるときはS116に進み、減速LC協調フラグのビットが0にリセットされ、かつ減速LC協調フラグセットフラグのビットが1にセットされているか否か判断する。S116で肯定されるときはS104に進む一方、否定されるときはS118に進み、減速LC協調フラグのビットが1にセットされているか否か判断する。
【0063】
図4フロー・チャートを初めてループするときはS118の判断は通例否定されてS120に進み、減速LC協調フラグのビットを1にセットし、S122に進み、減速LC協調タイマ(ダウンカウンタ。後述)に所定の値をセット(時間計測を開始)し、S124に進み、前記減速LC協調フラグセットフラグのビットを1にセットする。
【0064】
このように減速LC協調制御の実施条件が成立した時点で減速LC協調フラグセットフラグのビットが1にセットすると共に、そのフラグのビットをアクセルペダルが踏まれるまで0にリセットしないことで、減速中に再度減速LC協調制御を行うことを禁止する。
【0065】
図5はこの実施例に係る装置の動作を説明するタイム・チャートである。
【0066】
図示の如く、時刻t1でアクセル開度がOFF(零)になって減速走行状態になったとすると、減速LC協調フラグのビットが1にセットされ、減速LC協調タイマに所定の値(例えば0.6sec)がセットされる。この実施例では時刻t1で変速指示されて変速過渡中、例えばシフトアップへの変速過渡中の走行状態を前提とする。
【0067】
図4フロー・チャートの説明に戻ると、次回以降のプログラムループにおいてS118の判断で肯定されるとS126に進み、ロックアップクラッチ12cへのON油圧指令中か、即ち、TM/ECU60に通信してTM/ECU60からロックアップクラッチ12cの締結が指令されているか否か判断する。
【0068】
図5タイム・チャートに示す如く、時刻t2でロックアップクラッチ制御圧ON、即ち、ロックアップクラッチ12cにON油圧指令(ロックアップクラッチ12cの締結指令)されるとすると、時刻t2より前ではS126の判断は否定され続け、S128に進んで減速LC協調タイマを所定の値をセット(時間計測を開始)し続ける。
【0069】
他方、時刻t2になるとS126の判断は肯定され、S130に進み、減速LC協調タイマから規定値を減算し、S132に進み、タイマ値が零に達したか否か判断する。
【0070】
S132で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS134に進み、F/C(フューエルカット)ディレータイマ(ダウンカウンタ)に所定値をセットし、S136に進み、そのタイマから規定値を減算する。
【0071】
次いでS138に進み、F/Cディレータイマ値が零に達したか否か判断し、否定されるときはS136に戻る一方、肯定されるときはS140に進み、フューエルカットを許可し、減速LC協調制御フラグと初回判断フラグのビットを0にリセットする。
【0072】
図3フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS12に進み、目標エンジン回転数を設定する。
【0073】
図6はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0074】
先ず、S200において前記した減速LC協調フラグのビットが1にセットされているか否か判断し、肯定されるときはS202に進み、変速指示(シフト指示)ありか、即ち、変速の指示をされたか否か判断し、肯定されるときはS204に進み、目標エンジン回転数NEDを変速終了後の変速機入力軸回転数NMに基づいて設定する。
【0075】
他方、S202で否定されるときはS206に進み、目標エンジン回転数NEDを現在段の変速機入力軸回転数NMに基づいて設定する。尚、S200で否定されるときはS208に進み、目標エンジン回転数NEDを零とする。
【0076】
図3フロー・チャートに戻ると、次いでS14に進み、目標エンジントルク出力処理を実行する。
【0077】
図7はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0078】
まずS300で減速LC協調フラグのビットが1にセットされているか否か判断し、肯定されるときはS302に進み、通常時トルクに目標回転必要トルクを加算して得た和を目標エンジントルクとする一方、否定されるときはS304に進み、通常時トルクを目標エンジントルクとする。
【0079】
ここで、通常時トルクは、アクセル開度APAT(とエンジン回転数NE)から決定されるトルク(前記した要求トルクPMCMD)であり、アクセル開度が零であれば、エンジンENGがアイドル回転を維持する程度のエンジントルク(アイドルトルク)を意味する。
【0080】
再び図5を参照してこの実施例に係る車両の制御装置の動作を説明すると、時刻t1で車両が減速走行状態に移行したと判定されるとき、エンジン回転数NEを目標エンジン回転数NEDに制御してアクセル開度から決定される値を超えるようにスロットル開度THを増加してエンジントルク(エンジンENGの出力トルク)を目標回転必要トルクだけ増加させる。
【0081】
次いで時刻t2においてTM/ECU60に通信して油圧供給機構56の油圧制御バルブのリニアソレノイドなどを励磁させてロックアップクラッチ12cの締結を指令(ロックアップクラッチ12cに制御圧(油圧)供給)する。
【0082】
次いで指令してから所定時間(0.6sec)が経過した時刻t4においてスロットル開度THの増加分を零にしてエンジントルク(エンジンENGの出力トルク)の増加制御を終了する。次いで時刻t5においてフューエルカットを許可する。
【0083】
これにより、減速走行状態においてロックアップクラッチ12cを確実に締結させて減速フューエルカットを行わせることができ、エンジンENGの燃費を向上させることができる。
【0084】
即ち、従来技術のようにエンジンENGと変速機入力軸回転数NMとの差回転が基準値以下となったときに制御を終了するのではなく、減速走行状態に移行したと判定されるときにとりあえずエンジントルクを増加させると共に、ロックアップクラッチ12cの締結を指令し、指令から所定時間が経過したときにエンジントルクの増加制御を終了してフューエルカットを許可する如く構成したので、吸気温変化などに因るエンジントルクのばらつきあるいはエンジンENGや変速機TMの劣化などに因るフリクションのばらつきが生じたとしても、締結指令から所定時間(0.6sec)スロットル開度THを増加させてエンジントルク増加制御を継続することで、破線で示すようなエンジン回転数NEの時刻t3などでの落ち込みが生じないことから、減速走行状態でロックアップクラッチ12cを確実に締結させることができると共に、締結時のショックも抑制することができる。
【0085】
また、減速走行状態に移行したと判定されるとき、ロックアップクラッチ12cが開放されていると共に、変速過渡時である場合、エンジンENGの出力トルクを増加させる増加制御を実行する如く構成したので、エンジンENGの出力トルクを増加させ、次いでロックアップクラッチ12cの締結を指令させ、締結指令から所定時間が経過したときに出力トルクの増加制御を終了してフューエルカットを許可することが可能となり、よって例えば加速から移行した直後のエンジン回転数NEDと変速機入力軸回転数NMの差回転が大きいといった、ロックアップクラッチ12cが締結し難い減速走行状態においてもロックアップクラッチ12cを確実に締結させて減速フューエルカットを行わせることができ、燃費を一層向上させることができる。
【0086】
また、変速されたとき、自動変速機TMの変速(終了)後の入力軸回転数NMを目標エンジン回転数とする如く構成したので、自動変速機TMの変速状態に応じて目標エンジン回転数NEDを設定することができ、ロックアップクラッチ12cの締結時のショックを一層良く抑制することができる。
【0087】
上記した如く、この実施例にあっては、搭載されるエンジンENGの出力を変速して駆動輪54に伝達する自動変速機TMと前記エンジンENGと前記自動変速機TMの間に配置されるロックアップクラッチ12c付きのトルクコンバータ12と、減速走行状態にあるとき、前記ロックアップクラッチ12cの締結を指令するロックアップクラッチ締結指令手段(TM/ECU60)とを備える車両において、前記減速走行状態に移行したと判定されるとき、エンジン回転数NEを目標エンジン回転数NEDに制御してアクセル開度APATから決定される値を超えるように前記エンジンの出力トルク(エンジントルク)を増加させる増加制御を実行すると共に、前記ロックアップクラッチ締結指令手段に前記ロックアップクラッチの締結を指令させるエンジントルク制御手段(ENG/ECU62,S10,S100からS132,S12,S200からS208,S14,S300からS304)と、前記ロックアップクラッチの締結が指令されてから所定時間が経過したとき、前記エンジンの出力トルクを増加させる増加制御を終了し、前記エンジンの出力トルクを前記アクセル開度から決定される値に制御すると共に、前記エンジンへのフューエルカットを許可するフューエルカット許可手段(ENG/ECU62,S14,S134からS140,S300からS304)とを備える如く構成した。
【0088】
また、前記エンジントルク制御手段は、前記目標エンジン回転数NEDを前記自動変速機TMの変速(終了後)後の入力軸回転数に基づいて設定する如く構成した(S200,S202,S204)。
【0089】
また、前記フューエルカット許可手段は、前記減速走行状態にあると判定されるとき(S100)、前記ロックアップクラッチ12cが開放(OFF)されていると共に、変速過渡時である場合(S108からS120)、前記エンジンENGの出力トルクを増加させる増加制御を実行する(S14,S300からS304)如く構成した。
【0090】
尚、上記において、有段式の自動変速機の例として平行軸方式の自動変速機を示したが、この発明はそれに限定されるものではなく、ツインクラッチ型の自動変速機であっても良い。
【0091】
また、原動機としてガソリンを燃料とする火花点火式のエンジン(内燃機関)を示したが、この発明はそれに限定されるものではなく、軽油を燃料とする圧縮着火式のディーゼルエンジンであっても良く、あるいは電動機など他の原動機であっても良い。
【符号の説明】
【0092】
TM 自動変速機、ENG エンジン(内燃機関(原動機))、CLn クラッチ、10 駆動軸、12 トルクコンバータ、14 第1入力軸、16 第2入力軸、20 出力(カウンタ)軸、22 アイドル軸、24a 4速ドライブギヤ、24b 4速クラッチ(油圧クラッチ)、24c 4速ドリブンギヤ、26a 5速ドライブギヤ、26b 5速クラッチ(油圧クラッチ)、26c 5速ドリブンギヤ、30a リバースドライブギヤ、30c リバースドリブンギヤ、32a 1速ドライブギヤ、32b 1速クラッチ(油圧クラッチ)、32c 1速ドリブンギヤ、34a 2速ドライブギヤ、34b 2速クラッチ(油圧クラッチ)、34c 2速ドリブンギヤ、36a 3速ドライブギヤ、36b 3速クラッチ(油圧クラッチ)、36c 3速ドリブンギヤ、40 ファイナルドライブギヤ、44 連結ギヤ、46 ベアリング、50 ディファレンシャル機構、54 駆動輪、56 油圧供給機構、60 TM/ECU、62 ENG/ECU、64 DBW機構、66 スロットル開度センサ、70 アクセル開度センサ、80 第1の回転数センサ、82 第2の回転数センサ、84 第3の回転数センサ、86 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭載されるエンジンの出力を変速して駆動輪に伝達する自動変速機と、前記エンジンと前記自動変速機の間に配置されるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、減速走行状態にあるとき、前記ロックアップクラッチの締結を指令するロックアップクラッチ締結指令手段とを備える車両において、前記減速走行状態に移行したと判定されるとき、エンジン回転数を目標エンジン回転数に制御してアクセル開度から決定される値を超えるように前記エンジンの出力トルクを増加させる増加制御を実行すると共に、前記ロックアップクラッチ締結指令手段に前記ロックアップクラッチの締結を指令させるエンジントルク制御手段と、前記ロックアップクラッチの締結が指令されてから所定時間が経過したとき、前記エンジンの出力トルクを増加させる増加制御を終了し、前記エンジンの出力トルクを前記アクセル開度から決定される値に制御すると共に、前記エンジンへのフューエルカットを許可するフューエルカット許可手段とを備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記エンジントルク制御手段は、前記目標エンジン回転数を前記自動変速機の変速後の入力軸回転数に基づいて設定することを特徴とする請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記エンジントルク制御手段は、前記減速走行状態に移行したと判定されるとき、前記ロックアップクラッチが開放されていると共に、変速過渡時である場合、前記エンジンの出力トルクを増加させる増加制御を実行することを特徴とする請求項1または2記載の車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−166596(P2012−166596A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27018(P2011−27018)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】